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2024年2月20日火曜日

2024 スプラッタパンク・アワード ノミネート作品発表!

さて、第7回となる本年2024年のスプラッタパンクアワードです。いや、さぼってたわけではないから。例年何周年が終わると、すでに発表されているもんで、今年もアップ直後ぐらいに見てみたらまだだった。ちょっと不安になってもっとよく検索してみたら、 Brian KeeneがXで「ノミネート発表になるのは週末になるよん」と言ってるのを発見。そんなわけで週末まで待って発表を確認してからとなりました。
昨年、長編以外の各部門が5作品となり、色々ジャンル全体的に苦しそうな時期だったので、それゆえのスケールダウンかと言ってたのですが、今年は長編も5作品。なんかそういう事情ではなく、もっとちゃんと絞って行こうという話なのかも。 今年は、発表はKeeneのホームページではなく、キラーコンのホームページ内に設けられたアワード専用ページでの発表になってたりと、色々変わってきているのかもしれません。まあ、このまま萎んで行って欲しくないというこちらの願望は大きいんだろうけど、 キラーコンの重要なイベントとして押し出したいという印象はあるし、今年に関してはあまりマイナス要素や傾向も見えないのだけどね。
とりあえずはここからまた頑張って欲しい、第7回を迎えた2024年のスプラッタパンクアワード、以下が各部門のノミネート作品です。

2024 Splatterpunk Award ノミネート作品


【長編部門】

  • The Night Mother by John Everson (Dark Arts Books)
  • Maeve Fly by C. J. Leede (Tor Nightfire)
  • Pedo Island Bloodbath by Duncan Ralston (Shadow Work Publishing)
  • Dead End House by Bryan Smith (Grindhouse Press)
  • Along the River of Flesh by Kristopher Triana (Bad Dream Books)

【中編部門】

  • The Bighead’s Junk by Edward Lee (Evil Cookie Publishing)
  • Smokey Elvis and Danzick Battle Swamp Ass by Lance Loot (Independently Published)
  • Snow Angels by Lucas Mangum (D&T Publishing)
  • Sirens and Seaweed by Candace Nola (Uncomfortably Dark Horror)
  • Bowery by Matthew Vaughn (Independently Published)

【短編部門】

  • “My Octopus Master” by Stephen Kozeniewski (from Dead and Bloated, Evil Cookie Publishing)
  • “Unfound Footage” by Patrick Lacey (from Splatterpunk’s Basement of Horror, Splatterpunk Zine)
  • “Hide/Invert: A Saga In Ten Reels” by David J. Schow (from The Drive-In: Multiplex, Pandi Press)
  • “The Night People” by Bryan Smith (from The Gauntlet, Grindhouse Press)
  • “Blood Harmony” by Chet Williamson (from The Drive-In: Multiplex, Pandi Press)

【短編集部門】

  • Something Very Wrong by Jonathan Butcher (Independently Published)
  • Transcendental Mutilation by Ryan Harding (Death’s Head Press)
  • Woe To Those Who Dwell On Earth by John Lynch (High Explosive Horror)
  • Gush: Tales of Vaginal Horror by Gina Ranalli (Madness Heart Press)
  • Beautiful Darkness by Jay Wilburn (Madness Heart Press)

【アンソロジー部門】

  • Splatterpunk’s Basement of Horror edited by Jack Bantry (Splatterpunk Zine)
  • Blood and Blasphemy edited by Gerri R. Gray (Hellbound Books)
  • We're Here: An Anthology of LGBTQ+ Horror edited by Angelique Jordonna and James G. Carlson (Gloom House Publishing)
  • Dark Disasters edited by Candace Nola (Uncomfortably Dark)
  • Dead and Bloated edited by K Trap Jones (Evil Cookie Publishing)

【J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD】

  • Ray Garton
  • Craig Spector


以上、2024年スプラッタパンクアワード各部門賞ノミネート作品。だったわけだが、うむ、なるほど。まだ詳しく調べたわけではないので、曖昧な全体的な感触ぐらいなんだが、なんとなくこのジャンル少し成長したとか、そういう印象。
うーん、どうもあまりうまく言えてない気もするんだが、例えば成熟だの安定だのが正しいなどと言うのは、所詮幼稚園児向けのお弁当箱ぐらいのキャパで自分が完成したと満足し、あとは後続を傲慢に踏みつけにするばかりのような俗物の戯言で、 そういった方向での「成長」みたいなことを言っているわけではないのだが。
スプラッタパンクアワードを、まあとりあえずでもその最初から見てきた者としての印象では、とにかくこれを俺たちが盛り上げるぞ!すげー怖いのをを書いてやるぞ!って感じの俺出版社や自費出版で猪突猛進で進んできたのだが、ちょっとここに来て ジャンルというものが形になり、地に足を付けた感じで創作活動をやって行こうという作家や出版社が増えてきたように思われる。
もしかすると、業界全体的に苦しく自費出版など多かった昨年と比較した印象なのかもしれないし、もっと詳しく調べて行けば実態それほど変わってないのかもしれないが。ざっと見た曖昧なところからは、わー怖そー、どんなんだか読んでみたい、というものから もう少し腰を落ち着けて読んでみたいというような作品が増えてる印象。
バカや勢いみたいなエネルギーは絶対に否定すべきものではないが、そういう成長も必要なものだろうとは思う。

まず長編部門ではBryan Smith、Kristopher Trianaというようなお馴染みの常連メンバーも頼もしく並んでいるのだが、個人的に注目はC. J. Leedeの『Maeve Fly』か。えーと下にある目玉のカバーのやつ。なんか結構表紙買いの部分あるかもしれんけど。 ちょっと調べてみたら、この人女性だった。とりあえずノミネートされたオリジナルのTor Nightfire版にリンクしてあるけど、英国Titan Books版の方が安い。まあ英国版が別にあるという時点で期待値・注目度の高い作品ということだろうけど。John Eversonはブラムストーカー賞候補にもなった作家で、『The Night Mother』は NightWhereシリーズの第3作。Duncan Ralstonはこれまでにもどっかの部門で登場してるんじゃないかと思うんだが、いかにもこのジャンル王道(?)傾向の作家。
中編部門には今年も大御所エドワード・リーがノミネート。『The Bighead’s Junk』は過去作『The Bighead』と関連する作品。『White Trash Gothic』から自作の誰も絶対住みたくないリーユニバースのの統合にかかっている大御所だが、これもその方向の 作品とみられる。エドワード・リーに関しては、この誰も住みたくないリーユニバースを含め、日本布教への任を任されていると勝手に思い込んでいる私だが、いまいち洗脳が緩く全く進んでなくて申し訳ない。この度の修正でもリー作品多すぎてアマゾンリンクの 修正後回しにしてるし…。ここは『White Trash Gothic』の序盤で精神科女医に大興奮してたリー先生にあやかり、爆乳ナース効果で押し進めるべし!と思う今日この頃。その他中編部門では、アンソロジー『Dark Disasters』の編集もやった、女性作家 Candace Nolaの『Sirens and Seaweed』あたりも注目か。
短編、短篇集部門はどうも把握しにくくて申し訳ないんだが、アンソロジーでも名前をよく見るあたりが上がってきている印象。その中で短篇集『Something Very Wrong』のJonathan Butcherは知らなかったかも。短編部門ではアンソロジー『The Drive-In: Multiplex』 から2作がノミネートされているが、これ実はジョー・R・ランズデールの全3作からなる『The Drive-In』シリーズ(日本では第1作『モンスター・ドライヴイン』のみ翻訳)に連なるアンソロジー。あのS・A・コスビーなんかも参加してる豪華アンソロジー なんだがこちらではノミネートに入ってはいない。まあスプラッタパンク作品ばかりではなさそうだしな。出版しているのは娘のカントリーシンガーとしても有名なケーシー・ランズデールの経営しているPandi Press。お父さんの初期作品などを復刻している。 『The Drive-In: Multiplex』かなり気になるんだが、今のところアマゾンKindleなどなく、販売はPandi Press直のみ。もう少し様子見かな。
アンソロジー部門については、まず一番怖そうなカバーという理由でトップ画像にも使った『Splatterpunk’s Basement of Horro』。こちらはジャンルのクラシック作品などを集めたものということで、J.F.Gonzalezの作品なども収録。割と新しめの作家の名も あるので旧作ばかりではないのかもしれんが。『Blood and Blasphemy』は冒涜ホラーアンソロジーという趣旨のもので、画像小さくてわからんと思うが、十字架にかけられているのはダッチワイフ。『We're Here: An Anthology of LGBTQ+ Horror』。うーむ、 LGBTQか。いや、LGBTQって基本的に真面目に訴える人達が使う用語じゃなかったのか?なんでもありのスプラッタパンク、エクストリームホラージャンルで、あえてLGBTQを訴えるというのがいかなることになってるのか興味あるかも。『Dark Disasters』は、 前述の通り女性作家Candace Nolaの編集によるアンソロジー。女性作家限定ではないが、近年よく名前を見かけるその辺が名を連ねてる感じ。『Dead and Bloated』は、水辺、水死体ホラーアンソロジー。かなり偏った感じに見えるが、それなりにいい作家 揃えてる印象。

以上、2024年スプラッタパンクアワード各部門賞ノミネートでした。もしかしたら、後から見ればここらがターニングポイントになったということになるのかもしれない、なかなかに興味深いラインナップ。あれもこれも読んでみたいと思うけど、まあそうは いかんものだろうな。なんか適当な斜め読みを「速読」などとカッコつけるようなバカ手段以外に早く沢山読める方法ないかねえ。まあ新書みたいなもんならそれで足りるのかもしれんけど。
最近の修正で発見したスプラッタウェスタン作品一つぐらい入ってないかと思ったけど、なかったのは残念。そちらとあとエドワード・リー先生については何とか個人的には頑張れればと思う。いや、今度こそちゃんとやるぞい。
スプラッタパンクアワード各部門受賞作発表は、本年8月9-11日、テキサス州オースティンで開催されるキラーコンにて。発表の際にはまたこちらでもなるべく早期にお伝えする予定であります。


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2024年2月14日水曜日

こんなブログが10周年かよ…。

いやまあホントに。こんなものが10年続くとは、当の本人も思わなかったよ。そういや、なんか始めた頃に他の人のブログで10周年と言ってるのを見つけて、まあ世の中まめで根気のある人いるんだな、と思い、もし自分があんまり変わんない状態で 10年もこれ続けてたらちょっとやだな、と思ったの思い出した。10年経ってなんか色々変化した部分はあるけど、自分のこういうところ10年続いてたらやだな、と思った部分はそのままだったよ…。そんな10周年です。

まあなんにしても10周年です。こんなに続いたのもひとえに、まあ時々でもこいつまだ生きててまたなんかわめき散らしてるかな、と見に来て下さってた皆さんのお陰です。いや、もちろん8割社交辞令ですが。2割ぐらい思ってたんだと知って驚いてる人もいるかと 思いますが、そのくらいは本気です。その他に思いつく要因としては、他になーんもやることない準引きこもりみたいなもんだったからだな、ということですかな。人付き合いもろくにないし。彼女もいねーし。まあ昨年からは仕事もしてなくて完全引きこもりっぽくなって いますが、さすがに10年経つとそれなりに年も取って足腰心配になってきて2日に一度ぐらいは買い物に出ています。主にいなげや。
まあさすがにこんなもんに10年付き合ってくれてる人がいるとは思えないけど、なんかもし5年以上とかいう人いるとしたら、なんかホントにごめん。4年でもごめん。3年でもごめん。2年以下ならさすがに謝んなくてもいいかな?まあ人間って3年とか 付き合ってるとその間色々あってそいつの馬鹿さ加減の底ぐらいまで見えて来るよね。まあ大抵はもっと早いだろうけど。私もボーントゥビー迷走ぐらいに、迷走しかしてないボンクラ迷走体質やしな。なんか色々申し訳ないしか言いようがないよ。

まあなんだかんだ言っても10周年です。10周年と言えば節目の年。これを機にこれまでの10年を振り返ってみました。…いや、強引に振り返らせられました…。アマゾンアフィリエイトの仕様変更で画像とリンク全部なくなって…。
そんなわけで、今までもうリンクとか画像とかなくなってるかもしれんな、と思いつつ知らんぷりしていたずーーーっと下の方まで、どの辺からやったらいいかなどとも考えながら、見て行ったわけですね。 で、これを始めるぐらいのとき、どんな感じだったか、みたいなことも思い出してみたわけですな。

まあそこから少し遡るぐらいになると、自身の読書生活というような部分で、海外のハードボイルド小説の翻訳がどんどん減少の一途をたどっている状況に、大抵起こるようなこうなったらもうちょっと読書の範囲をミステリ全般ぐらいに広げてみるかな、 まあそもそももっと広い謎解き的なところから入ってきて未読のもんも色々あるしな、ぐらいの感じになり読み始め、んまー悪いんだけどそこで決定的になったのがジェフリー・ディーヴァーだったな。今一番面白いぐらいでランキングのトップ、 または上位の常連ぐらいのもんで、その頃は幾らかでもそういうものも信用してた部分もあったし、という感じで読んでみたわけ。いや、まあそれなりに面白いよ。でもこれが今一番?となると、今海外でもあんまり面白いもん出てないのかもしれんな、 ハードボイルドもないしな、ぐらいの感じになって、それまで自身の読書傾向で最上位だったミステリジャンルが、次点以降だったSFや海外文学の下に下がったわけだ。ほら、翻訳ミステリ1ポイント右肩下がったね。

そんな頃、自分はコミックからだったんだけど、電子書籍というものに出会えた。色々と海外のコミックを掘り進んでいるうちに見つけて最初ぐらいにかなりハマったのが、第1回(自己紹介は自分的には第0回)にやった『Zombo』。これのストーリーを 担当しているAl Ewingという人が小説も書いてるというので調べてみて、そこで海外の電子書籍の小説というのがこのくらいの値段でこんなに簡単に読めるのだ、と知ったわけだ。ちなみにそれが第2回の『I, Zombie (Tomes of the Dead)』。
そこから元々のハードボイルド馬鹿っぷりが蘇生し、まずは翻訳終っちまったシリーズの続きとか読めるかも、って感じで探し始め、一時期はホントアメリカのAmazon.comのハードボイルドジャンルカテゴリを毎日かなり長時間ぐらいに眺めていた。 ちなみに最初は日本のアマゾンの洋書ハードボイルドジャンルとかも見てみたけど、『初秋』が一位になってたりして二度と見るかと思った。
で、最初はわーあれの続きがある~、いつか読むぞ、みたいな感じで見ていて、ちなみに最初に、というか『I, Zombie』で洋書電子書籍に気付いた日ぐらいに見つけて買ったのが、デストロイヤーの第1巻で、読んだのそっちが先だったぐらいだけど。 そんなことをしているうちに、続きはともかく新しくハードボイルド書こうって作家はいないのか?何とかそういうの見つけられないもんか、という考えが強くなり、その辺見てる視点も変わって来る。そんな経緯で かの『Thuglit』やら、Snubnose Press、Blasted Heathといったところを見つけてくることになる。なんだよ、ハードボイルドやる気満々なやついっぱいいるじゃないかよ、なんでこれを誰も伝えないんだよ。
まあコミックについては読んでる人も多かったし、そういうサイトをやってる人も今より多かったと思うけど、どうしたってアメリカ、ビッグ2がメインで、英国のコミックなんて読んでる人いるのかわかんないぐらいの状況で、だって当時日本の ジャッジ・ドレッドの映画のwikiに、原作イギリスのSF小説って書かれてたぐらいだぜ、今さすがにそこは直ってるけど。そんな状況でイギリスのコミックなんて伝える人がいるとは思えない、こんな面白いのに!ましてその作者が書いた小説が 日本に伝わる可能性なんてほぼないに等しい。
そしてハードボイルドの方だって、日本じゃあんまり出ないマイナージャンルの上、インディーのパブリッシャー。こんなもん日本で日の目を見る可能性なんて絶対ない。でも右肩下げてる1ポイントの中には、私の様にこういうものを読みたがってる人も 必ずいるはずだろう。
誰かが伝えんと。んー…、じゃオレやるか?なーんかそういうのに向いてる奴とは思えんけど…。でも他にたぶんいないだろしな。まあやってみてうまく行かなかったらやめるか。
みたいな感じで始まったわけですね。うーん、考えてみると決してうまく行ってるとは思えないし、でもまあやめようと思うほどのことにはなってないし、自分以外誰もやらないだろうな、ぐらいの状況ってあんまり変わんないわけで、そういう思い込みの 責任感みたいなもので10年続いたんだろね。
いやホント10周年でこんなこと言ってる奴に絶対向いてないだろ。

10年もたつと、まあそれなりに世の中も変わるもんで、いや世間的なメジャーの世の中の変化とか常にスルーだけど、考えてみると10年前とかその近辺ってそこらの野良レビューみたいなもんがホントひどかった時期なんじゃないかと思う。当時の欠点 あげつらって批判してりゃ通に見えるなんて風潮、今じゃマンガのレビューあたりでお子様がやってるぐらいだろ。今時の人から見ると、こいつなんでこんなに吠えてんだろ、ぐらいなのかもと時々思ったりする。まあわしらそーゆーのが最底辺レベルの 時代を生きてきたもんでね。
実は最初の頃、コミック関連をどの程度やるかは悩んでたぐらいなんだけど、その頃ってなんか前世代のアメコミファンの悪影響なのか、「馬鹿っぽく語るのが俺たちのアメリカンスタイル!」みたいな勘違いがあって、たまたま日本のアマゾンとかに レビュー見つかってもかなりひどいのが多くて、こんなんじゃいかんだろ、もう少しまともな意見を出して行かんと、みたいな考えも少しあって頑張った部分もあった。
このブログじゃ一番見てくれる人多くて、これやったから続いたんかもと思うガース・エニスの『The Boys』にしても、DC系列Wildstormで出版拒否にあったヒーロー狩りコミック、ぐらいで投げ捨てられていて、それじゃダメだろ、これはすごく内容も 深くて面白いコミックなんだよ、ってところを何としても伝えねば、みたいな気持ちでやったんだよな。あー、長年画像やリンクなくなってるかもとビクビクしながら知らんぷりしてきましたが、先日ちゃんと修復しましたんで…。10年経つと変わるってことで いえば、その時は『The Boys』が日本でもこれほど知名度が上がる日が来るとは思わなかったしな。一矢報いてやるー、ぐらいの気持ちだったな。
でも、最近じゃコミック関連でもそこまでひどいと思うようなバカっぽいレビューも見当たらない。長い目で見りゃ、結局バカなんて自然淘汰されるもんなんかな、みたいなことも思ったりするのだが、当事者としてはホントうんざりするんで、昔翻訳出て ホントに喜んでるハードボイルド作品に投げつけられたクソレビューの定番みたいなのをいまだに引き摺ってて、毒舌吐いたりするのは勘弁してやってよ。

でもさあ、結局一時期だったのかもしれないけど、ミステリ野良レビューみたいな世間にそういうものが蔓延した元、みたいなものを考えれば、それは明らかに今もミステリ評論家なんぞを名乗ってふんぞり返ってる連中だろう。
例えば、よく引き合いに出すホント呆れた「純文学ノリといちゃもんをつける」ってやつ。誰が見たって仮にも「評論家」を名乗ってる奴の言葉とは到底思えない幼稚の極みじゃない。同業だってみんな見るようなこういうところで、平然とこういう ことが言えるってのは、周りの連中も同レベルで普段からこのレベルで話してるってことだよ。そんな連中がミステリ言論引っ張ってりゃ、そりゃ野良レビューだって最底辺痴呆レベルまで劣化するわなあ、って話。
そんな状況で起こったのが杉江オフザケ解説事件な。全体的に救いようがないが、やっぱ世間的にも一番ひどかったのがマッキンティの作家廃業騒動について。あんなもんちゃんと見りゃ、誰だって出版社、あるいはエージェントっていうあたりとの ゴタゴタなんだろうなってわかるもんなんだろうが、杉江の下種はマッキンティがウーバーの運転手をしてたみたいのを見て、これウケる~と適当な面白がりで雑に書いた。まあそんなことすりゃ、マッキンティが作家をやめたのは本当なのか、ぐらいの問い合わせ きっと編集部にも来たんだろ。そもそもちゃんと原稿段階でチェックしろよ。お前仕事してんの?って話なんだが。そこで多分だけど、それが過去の話だって辻褄合わせておいてくれって、翻訳の人に頼んだんだろ。それでその翻訳あとがきってところで、 過去に困窮し云々みたいなのが書かれた。しょーがねえなあと思いつつ、もうそれでいいだろ、ぐらいに思ってたら、なーんか野良レビューで必要もないのにわざわざそれ書いてる人がいるって始末。なんかさあ、一応みんな行儀よく書こうって時代には なってるようだけど、結局ゴシップ好き面白がり体質残ってて、野良レビュー劣化時代と変わんない上から下へ的な伝言システム残ってんだなってがっかりしたよ。
出版社側としてはセンシティブな問題だし、どうせ版権移行して高くなる前に買ったぐらいの事情もあるんだろうから、杉江がサブカル時代からの半笑いヘラヘラしてれば何でも許される感覚のオフザケで適当に書いてる時点できちんとチェックして止めとかなかった 編集部の責任。その上にごまかし被せ、最後には法月綸太郎みたいなもんを出してきて、大御所だから誰も文句言わないだろう、いや言う権利なし。大先生が言ってるんだからこれが正解と、杉江の筆が走りすぎ与太まで併せて一括辻褄合わさせ、もう続きも 出す気もないから「安定と成熟」なんて先行きあんまり魅力ない方向でフェイドアウトさせておしまい。あ~マッキンティ ショーン・ダフィは無能編集部により「不幸な形で紹介」をされたとしか言いようがないねえ。
マッキンティ ショーン・ダフィ最新作『The Detective Up Late』は版元の可能な限り高く売りたいという意向の元、いまだにハードカバー及びオーディオ版のみで、ペーパーバック版の発売はやっと今年6月。いやー「困窮して作家活動を断念した」 先生なんだからいくら高く売られても勘弁してやれよ。どうせ版権高くて無理だろうが、以上述べた理由により早川書房からは絶対に出て欲しくないね。とりあえずペーパーバック版予約したし、年内には読んでなんか書けると思います。

過去10年というと半ばぐらいからだと思うが、こういう連中もずいぶんぶっ叩いてきて、そのうちにもう叩けなくなっちゃたのとか出てきたりな。でも、基本的にはそういうことやりたくないんだよな。いや、この先生にはこういう功績があるんだから けしからん、みたいなクソ説教の類いに配慮なんてことじゃなくてさ、ホント時間のクソ無駄じゃん。こっちだってなけなしの時間使って、楽しく読んだいい本について広めたいと頑張って書いてるのにさ。なんかこれからゲームやろうとか、 エロいやつ見ようとか、ワクワクしてるときに部屋にゴキブリ入ってくるようなもんよ。退治しなきゃ平和が保たれないんだから。
そういう意図だから入ってきたもんは叩くが、外をうろうろしてるゴキブリまで叩きに行きません。そんなわけで、もう例の年末ランキングにしてもここ数年は一切買ってなくて、本屋に貼ってあるランキング見て、時間あったら今年の新刊予定コーナーだけ チラ見するぐらい。そこで去年末の、見た目は子供!中身は老害!って感じのランキング。おめーらホントひでーことするよな。
あんな毎年ホロヴィッツじゃまずいからみたいな空気読み出来レースみたいなランキングでコスビー一位になって喜んでると思った?なんかよお、上にそれ乗せてあるだけでその下相変わらずの紅白クイズ合戦じゃん。古のエロ本購入スタイルかよ。 そんなもんにコスビーみたい優れたまともな本使われんのメーワクなんですけどねえ。やめてくれますう。いっそクソランキングごと。

通常運転時でも同じだろうけど、何周年ごとに全方位的に罵倒をまき散らして、こいつ高血圧でくたばるんじゃないかとお思いの方もいるでしょうが、病院で測る度にナース様よりいつもこのぐらい低いのですか?と訊かれる低血圧体質なんで、別の理由で 死ぬと思います。え?ナースは様に決まってるだろう。貴様は女王様を女王と呼ぶのか!どこのレジスタンスだ!?パンがなければお肉を食べればコレステロール値が更に上昇しますのよ。
今回罵倒コーナーはこのくらいなんでご安心ください。さて10年を振り返る、というより修正のため数年ぐらいを割と詳しめに振り返ったところ、なーんかいっつもオレ読めねえ書けねえとぼやいてるけど、意外に数年前ぐらいのスパンで騒いでたりしたの とりあえず読めたり書けたりできてるじゃん、と気付きました。いや、我有言実行の者也!とか誇っているわけじゃなくてさ。なんかもっと騒げばもっといろいろ進むのかも!と気付いたわけ。結局は自分で自分を急かすようなことで、心理学的にはあれこれ言われて 自分の性癖とか言い当てられちゃうやつだろ。えっ?なんスか長身爆乳のぴちぴちナース服って?自分を追い詰めるは違うな。それをやると丸々1か月イギリス出身の色々狂ったスキンヘッドが書いた話の説明に没頭、みたいなことするからコイツ。
そんなわけで、爆乳ナース様…じゃなくて、自分を鼓舞するため、できようができまいが当てがあろうがなかろうが関係なく、ここから今後の予定・やりたいことを騒ぎます。

まず中断してるやつ。グレッグ・ルッカの『Queen & Country』の続きをやります!いつまでたっても続きを書かないんで、最後の『The Last Run』いまだに読んでません!
それからデストロイヤー!あのあと3冊読んでるんだけど、書かないんで続きを読めません!
そして新規。
あ、よく考えたら昔から言っててさほど新規じゃないんだけど、Shotgun Honey!最近Down & Out傘下を離れ、独立独歩で勢いを増しているインディーパブリッシャー。なんかここのやつ早く読む!Down & Out、やっぱ最近少しきついようで、作家が思うように 出版活動できないというところで、Shotgun Honeyや、Eric Beetnerとか離れて行ってるんだろうな。
で、そのEric Beetnerが移籍したRough Edges Press!少しよく見てみたらウェスタン作品を多く出版してるWolfpack Publishingの系列なんだな。なんか私立探偵ものやスパイアクション、ミリタリーみたいなジャンルに跨り、自費出版含めかなり作品多いような 現代のパルプ作家みたいなのを集めてきているところで、こういうのを読まなきゃ!と思ってる。
それからこっちも前からずいぶん言ってるんだが、たぶん英国のだと思うNeo Text!Eduardo RissoやBenjamin Marraといったアーティストとのコラボレーションなど、独自路線を進んでいる感じの早く絶対読まねばならんパブリッシャー。
そして個人出版では警察小説509シリーズのColin Conway。どういう人かも作品内容も不明なんだが、自分の作ったその509っていうのを舞台に、Joe Clifford、Tom Pitts、 Paul Garth、Hector Acostaみたいなそこそこ名の知れた作家集めてアンソロジー 作ったとか、やっぱ要チェックだろう。
All Due RespectやClose To The Boneといった米英のインディー・パブリッシャーからいくつかの出版があるPaul Heatley。元CIAエージェントのTom Rollinsシリーズは最初個人出版だったと思うんだが、現在はInkubator Booksというところから出てる。 そのうち読まなきゃと思ってたんだが、結構すごい勢いで出しててもう10巻まで。Inkubator Booksもちょっと特殊なとこみたいなんでよく調べておかねば。
Rough Edges PressやらPaul HeatleyのTom Rollinsとか書いてたら、もっとアクション寄りのやつも読まなきゃと思ってたの思い出し、そこで出てきたのが前から気になってたBrash Booksのちょい旧作再版の『The Oswald Trilogy』!
もしかしたらBrashまた知らないの出てるかも、と気になり見に行ったら、大体新作ぐらいのTony KnightonのThe Nameless Thiefシリーズとか、Keith Brutonの自転車ヒットマンPatrick Callenシリーズみたいな気になるの見つけちまったり!
いかん!!並べ過ぎた!このままでは爆乳ナース様効果が薄れてしまう!とりあえずNeo Textぐらいまでを重点的に騒いでいこう…。
まあ、私こういうクレイジー読みたい本自動探索マシーンなんで、いつでもなんか見つけてきますんで。

この辺で、例のアマゾンアフィリエート仕様変更後、色々まずいことになってるサイトのあちこちの修正について。10周年とか期限中にやらなければというもののため、若干中断していますが、とりあえず必要と思われる記事については全面的に修正して行きます。
まあ不要なものというと、最近のものでは、ここ数年色々書けないものが多くて、年末近くに主に翻訳書中心に色々書いたやつとか。結構めんどくさいし、必要なもんなら後でも書いたからもういいだろということで。あと期間的なセールのお知らせとか。 なんかまだタイムリーな気持ちでやってた頃はそんなのもやったがね。ああ、あと坐骨神経痛とかな。あれももういいだろ。そんなところだと思うけど。
前回も書いたけど、アマゾンで販売が終了しちゃったものでも、おまけ的に書いたんでまあいいか、というもの以外は可能な限りリンクなしの画像だけでも修正して行きます。今までやったところでは、あのハップ&レナード短篇集絶版になっちまってたな。 電子書籍で持ってるもんは画像も何とかなるけど、あれプリント版のみでアマゾンの古書販売のやつもう~ん、って感じで自分で作ったよ。あと、スプラッタパンクアワードとかもプリント版のみとかなくなっちゃったのもちらほら、という感じで特に最初にそれ 知るきっかけになったアンソロジーの『VS:X: US vs UK Extreme Horror』とかなくなっちゃったのは残念。
ただ嬉しい発見もあり、前回も書いたけど、もう終わったかと思っていたスプラッタウェスタンが復活!シリーズ的に並べて販売されていたのが一気になくなり、その後ぽつりぽつりと復活したものもあったけどぐらいのを見たのが最後で、今回の修正で いくつかそういうのを拾えればというつもりで検索したところ、全作復活の上昨年からは新作も結構出ているのを発見し、大変喜んだ。Wile E. Young / The Magpie Coffinの記事のところで全部並べといたけど、いずれもう少し詳しくやれるかな?というか スプラッタウェスタン3作目まで読んでるんだから書けだし、他のも早く読め。
その他にもスプラッタパンク系で、2021年に他のものとは一風変わったデザインのカバーで気になっていたのだけど、受賞作発表以前に無くなってしまっていたRoss Jeffery作品が復活。今度こそこのシリーズ読まねばと思っているところ。
こういう個人の作品は場合によっては自費出版で復活できる時代なのだけど、アンソロジーとかは難しいので、なるべく早めに手に入れておかんとな。
ちょっと現時点で後回しになってるコミック関連の記事も、なるべく早期に修正します。現時点ではこっちは小説関連の記事がメインになり、手前で進めて行くものとの関連で優先させなければならないぐらいの事情で。あとコミック関連の中には、続きを書く 都合などでそっちのサイトに転載すること考えてるのもあるので、いくらか余裕があって考えられるようなときにやろうかと思ってたりなど。コミックの方のサイトでは、現在最初にそれを始めるにあたって書いたページを削除してあります。なんだかその時の 状況や精神状態で、とにかく勢いで立ち上げようぐらいで色々混乱してたり、本来何故別のサイトまで立ち上げてやろうと思ったかがきちんと説明されてなかったり、など諸々で。あと、やっぱサラリーマン的思考みたいのに縛られてるような部分があり、 継続可能なプロジェクト的に示さなければならないというような考えが、自分がこれで食ってくというような形に見えてしまったりなど。もう少しでそっちも1周年なんで、その時に仕切り直すつもりです。

あと、こんなところで書くとちょっと大袈裟になり過ぎて申し訳ないかと思うのだが、一応書いといた方がいいと思うのでここで書くが、これまで下の方に載せてた戸梶圭太先生の作品の宣伝の方は、現時点では一旦中断します。先生は現在小説の方の創作活動は 中断し、アニメ制作に専念されているということなので。別にそれはそれで読まれるべき作品だし、いま書いてなくても読者を増やす助けになればぐらいで載せられるときは載せとこうかぐらいに考えていたのだけど、あれは正月動けないようなときだったか、 Xで先生が犯罪小説を書くのは人の一生の仕事ではない、というようなことを言ってるのを見てしまったりして。なんかさあ、余計な事言うやつ多かったりで面倒になったんだろうね。もう日本のミステリジャンルというようなところでほとんどこちらが 惹かれるようなものがない現在の状況では、先生は本当に貴重な存在であるのだが、本人が別のことをやりたくそれに集中したいのなら仕方ない。なんか自分がこういうことをやってるのが余計なことを誘発する可能性もあるかもしれないならやめといた方が いいだろということ。今までやったものに関してはこっちの話の流れもあるんで修正して戻しておきましたが、今後は中止ということにしました。戸梶先生のセンスは全面的に好きなので、アニメの方も観たいとは思っているのですが、なんか自分もう 毎日書かねば読まねばみたいになってしまっていて、なかなか何もせずモニター見ているようなことができないなんか動いてないと死ぬ魚みたくなっていたりなので。とりあえずそのうちぼちぼち観て、応援でもできればと思っています。それも余計か。 ともかく今はでも、今後ずっとでも自分の創作活動としてそれをやりたいなら、それで頑張って下さい。あーオレみたいな捻じれ曲がり切った奴が言ってもまともに聞こえんかね?すいません…。

過去10年を振り返って今と変わったことみたいなのを、まあ強制的に振り返らせられたりして考えてみると、10年前ぐらいは自分が推してるような本もいつか翻訳の機会を得て、日本にも広まればいいというような気持があったけど、今はそういう気持ちが 全くなくなっているというようなことかな、と思ったりする。
単純にいいものがあるから知らせたいと思っていたものが、やってるうちに日本で出ているこれはなんでこんな言われ方をするのか、なんでこんなことになってるのか、これが日本で出たならどう評価されるのか、などなど必然的に考えさせられ続けて いるうちに出てきたのがそういう結論なんだろ。
「ハードボイルド精神解釈」などという思い込み、考え方から、それに合致したものしか見ず、その考えに疑問を持ち他の考え方を模索する者すらいないまま、間違いに間違いを積み重ねてセニョール・ピンクへ行き止まった日本のハードボイルドに今更 先があると思う?
翻訳ミステリなどというものが終わるのも時間の問題だろ。何がそうさせたかと言えば、Jミスにないものを求めていたのが翻訳ミステリ読者だったのに、売り上げを伸ばすために「日本人の好みに合った」Jミスに合わせるような方向でランキングを作り、 海外ミステリを捻じ曲げて来た結果だろう。後は老人向けクイズ作品が細々と続き、残った読者に呼応するようにご臨終となるだろう。
既に翻訳というものに期待できる時代も終わり、海外の作品を読みたければ原書で読む以外方法はなくなってるんじゃない?
結局歴史的に見たって、外国から入って来た全然違う考え方・発想のものが色々なものを進化させてきたのだろうけど、もう今の日本じゃ小手先の「売れる/売れない」に阻まれて、残ってる僅かな部分を食いつぶして行くだけでしょ。
そんな望みのない国で面白いものが読みたいと思ってる人に、今後もいくらかでも面白いものを知らせられ続ければと思います。
って行儀良くまとめようとしてみたけど、ここまで書いたの読み返してみると、結局今でも一矢報いてやるー、でやってんのかもなと思った。そんなもんかもね。それで考えれば、また10年経てば状況好転してる可能性あるのかも?全然信じてないけど。またいくらか経って振り返って見れればいいのかもしれませんね。さすがに20周年とはいかんだろうけど、15周年ぐらいまでは頑張れるかもね。

本当はやっと立て直しというところで、なーんか10周年とか感慨にふけってる場合じゃないんだよな、と思い出したり。まあそこまで一所懸命頑張った10年でもないしな。
結構目の前ぐらいにも、それについて早く書かなければならない本が溜まってきているのですよ。早く次へ進まんと。
まあそんな感じで、有難うございました。つづく。

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2024年2月1日木曜日

Joe Clifford / December Boys -ニューハンプシャーのルーザー探偵(?)Jay Porterシリーズ第2作!-

えーと、なんかあけましておめでとうございます。そんな新年の挨拶があるか…。当方の甚だしい無計画行き当たりばったりの結果、著しく間が空き、気が付けば年を越す事態となっておりました。申し訳ありません。その辺の言い訳については、最後に少々 書きますが、その他にも年の瀬になって救急車で搬送されるというような、えーかわいそーぐらいのこともあったわけですが、まあそれについても後ほどということで。
そんなわけで、今回はJoe Clifford『December Boys』。2015年に出版されたJay Porterシリーズの第2作です。

とにかくまず、第2作からになってしまって申し訳ない。これは私自身の怠慢であります。冒頭からお前謝ってばかりやんけ…。謝罪の嵐。
Jay Porterシリーズ第1作『Lamentation』(2014)については、しばらく前に読み、これはこれで大変注目すべき作品であったのだが、まあ当時個人的事情でなかなか書くことができずそのままになってしまい、しかしこれは2010年代後半のハードボイルド シーンにおける最重要ぐらいのシリーズであることは明らかであり、このまま遅れ続けるよりは早く第2作を読んで、そこから始めるべきというのが考えで、こうなってしまったという次第。
そもそもそういういい加減な扱いがよろしくないというだけでなく、実はこの第2作、第1作からの続きの部分が大変多い作品であり、さらに言えばここから第5作まで続いて行くシリーズ総てが、継続して行くストーリーになることも予想されるため、 この第2作について書く前に、第1作のストーリーを把握しておくことが必要となって来る。
実際のところは、この第2作、第1作の事件についての言及も多く、ここから読み始めることもできるとは思われるのだけど、先も考えるとここでいったん戻り、第1作について少し詳しく説明してから始めるのがベストと思う。
そんなわけで、まーた前置き部分が長くなってしまうのだけど、シリーズ第1作『Lamentation』の紹介から始めます。結局のところ、そっちの経緯、結末ぐらいまで書かないと2作目へ進めないんで、完全にネタバレと なってしまうので、ご注意を。まあご注意どころではないのだがな…。

【Lamentation】


ニューハンプシャーの田舎町Ashtonで、地元の不動産屋Tomに雇われ、身寄りもないまま亡くなった人の家の片付けを仕事としているJay Porter。元恋人Jennyとの間に息子Aidenがいるが、現在は別居中で、彼女は別の男と暮らしている。
一日の作業が終わったところで連絡が来る。兄のChrisが逮捕された。
兄弟二人の両親は、20年前に交通事故で亡くなり、以来お互いが唯一の身内。ハイスクール時代には有望なレスリング選手で、年の離れた弟Jayの憧れだったChrisだったが、その後はドラッグに溺れ、両親が亡くなる直前頃には家庭内での諍いも 絶えなかった。ブレーキの故障による両親の事故も、Chrisが仕組んだものではないかと一時は疑われたほどだった。その後もジャンキーである兄は度々問題を起こし、今日のように警察に呼ばれることもJayの人生で日常茶飯事となっていた。
警察署にやって来たJayは、そこで兄が友人と共にPC関連機器の回収処理という事業をやっていたことを、現在は保安官補となっているかつてのクラスメイトRob Turleyの口から初めて聞かされる。兄の拘留理由は、現在行方不明のそのビジネスパートナーの 失踪に関与しているのではないか、という疑いによるものだった。兄は友人の失踪直前に、激しく口論し、脅迫的言辞も発しているところが目撃されていた。
何とか兄Chrisを警察より引き取り、自身のアパートに連れ帰る。そこで兄の仕事について話しを聞くと、PC関連機器の回収業は実際にやっているが、その隠れた目的はそこに残った個人情報の引き出しという悪徳業者。そしてそこからすごい情報を 見つけた、と興奮気味に話すChrisだったが、大して聞く気も起きずに寝てしまい、翌朝にはアパートから彼の姿は消えていた。
兄の問題を抱える一方で、元恋人Jennyからは、現在交際中の男が新しい仕事が見つかり、息子Aidenと共にAshtonを出ると告げられる。親友Charlie Finnの家に行き、愚痴を垂れるJayだったが、そこで見覚えのない番号から携帯に電話が来る。 聞き覚えのない男の声は「コンピューターを間違って廃棄してしまった。取り返す必要がある。金は払う」と言って来るが、なぜ自分の携帯にかかって来たのかすら分からず、困惑するJay。通話の最中に着信があり、一旦保留にして切り替えると、 それは警察からだった。Turleyは行方不明だったChrisのパートナーPete Naginisが、死体で見つかったと告げる。
証拠はないが成り行きから、Chrisは第一容疑者と目される。近くの都市コンコードからも捜査のため刑事が来ている、とTurleyは話す。何故、ジャンキーの殺害事件に都市の刑事が?
JayはCharlieと共に、兄Chrisがパートナーとやっていた回収処理業の所在地を訪ねてみる。そこにはもちろん、Chrisの姿はなく、ジャンキーとバイカーのたまり場となっていた。
途方に暮れるJay。親友Charlieは、彼の友人で保険会社の調査員をやっているFisherを、事件調査のため呼び寄せる。Charlieに呼ばれ、行きつけのパブDublinerで三人で話した後、帰宅するとJayのアパートは何者かに徹底的に荒らされていた。 兄が何かを見つけたと話し、それの取り戻しを図っている何者かの仕業か?困惑するJayを、逃げ遅れポーチに潜んでいた犯人が襲撃し、Jayは意識を失う。
家主の通報でやって来た警察により、Jayは意識を取り戻す。兄の犯罪容疑に関わるPCからの情報抜き取りについては、Turleyに話してはいないし、関係があると思われる前の不審な電話についても伝えてはいない。部屋を荒らした襲撃犯については 心当たりもないというしかない。同行したコンコードからの刑事McGreevyについては不審な印象が感じられる。
翌日、またかかって来たTurleyからの電話で、JayはChrisがGerry Lombardiの家に押し入ったところを目撃されたことを知る。Gerryの留守中、彼の書斎に忍び込み、机を探っているところを、彼の妻が見つけ、Chrisは直ちに逃げ出し、依然行方知れず ということだ。Lombardiは地元の名家で、Gerry Lombardiは現在の家長。そして、Chrisのハイスクール時代からの続くレスリング部のコーチを勤めている。Chrisの目的は何だったのか?
Chrisの行方を捜すJayは、数年前兄のガールフレンドとして紹介された女性Kittyを思い出し、何らかの手掛かりを得られないか連絡をつける。そして彼女から、Chrisが地元のトラックステーションで、ドラッグ代や生活費を得るため、身体を売っていたことを知る。 Jayは親友Charlieの手を借り、兄を捜しトラックステーションへと向かう。
雪のトラックステーションで、JayとCharlieは二手に分かれ、Chrisの手掛かりを探す。CharlieがChrisを知っているというドラッグ中毒を見つけ、振り回されている間、Jayは隣接するモーテルで暮らす中毒者の娼婦の少女と話すが、双方ともChrisに関する 手がかりは掴めない。その一方で、Lombardi家の息子が経営する建設会社により、トラックステーションが近い将来閉鎖され、何らかの再開発が進行中であること、またその下準備のためか強面の連中がうろついているなどの噂を聞きつける。
その後の状況について聞くためTurleyに電話したJayは、話の中でコンコードから刑事が来ている理由として、州議会議員であるLombardi家の長男、Michael Lombardiの再選が近づいているため、治安の悪化が好ましくないからという理由も聞く。 あちこちから聞こえてくるLombardi家がらみの話は、偶然か?
そして翌日、Charlieを送って行ったところで、保安官であるPat Sumnerが現れ、Chrisが今度はLombardi建設の建築現場に忍び込んだところを、監視カメラに発見されたと伝えてくる。そして続けて、経営者である次男のAdam Lombardiが、Jayに 会いたがっているとも。
Patと共にその建設現場に向かうJay。Adam Lombardiが二人を迎え、監視カメラの映像を見せる。Chrisとは同級生で、同じくレスリング部に所属していたAdamは、当面告訴するつもりはないと伝える。しかし、Jayと二人きりになったところで、Chrisが 持っているものを返して欲しいと持ち掛けてくる。そこでJayは、一連の騒動の中心となっているChrisが手に入れたものが、Lombardiのハードディスクであることを知る。
無能な社員による手違いにより、Chris達のショップに流れてしまったハードディスクだが、重要なデータも多く含まれており、何とか回収したいとJayに訴えるAdam。その時通りがかったトラックから降りてきた男を、Adamはセキュリティ担当として 紹介する。Erik Bowmanと紹介された首に星形の入れ墨のある男は、Chrisのショップにいたバイカー達の中の一人だった。
その後Jayは、地元パブでCharlieとFisherと合流。Fisherの調査により、トラックステーションの再開発は、州議会議員であるLombardi家の長男Michaelの開発会社が関わり、そこからAdamの経営する建設会社へと受注されていることが判明する。 公共事業がそのような形で身内間で受注されるのは違法だ。現在は巧妙に隠されてはいるが、その事実を明確にする証拠が、Chrisが手に入れたハードディスクに隠されていたのか?そしてAdamは何のためにバイク・ギャングをセキュリティに 雇っているのか?
疑問を抱えたまま、Jayは息子Aidenの顔を見るためにJennyのアパートへ。Aidenを寝かしつけた後、Jennyと二人きりになり、衝動的に愛し合い、関係を取り戻せないかと説得しているところで、同居している男Brodyが帰宅して来る。JayとJemmyの 様子を察し、一触即発となったところでドアにノック。Jennyが玄関を開けると、そこにいたのはChrisだった。
あっけにとられる一同。Jayに「お前と話さなきゃならなかったんだが、お前のアパートは見張られてて近づけなかった。ドアの外で聞き耳を立てていたんだ」と話すChris。Jennyに向かい、こんな屑とは別れてJayと一緒になれよ、と話す。怒り掴みかかる Brody。体格的にも劣り、ドラッグでやせ細ったChrisだったが、かつてのレスリングの腕は残っており、Brodyを簡単にいなし腕を折る。
Jennyに救急車を呼ぶように告げ、Chrisをアパートから連れ出すJay。車に乗せ、安全な場所としてLamentation山中へと向かう。車を停め、これまでの経緯について問い質す。Jayは友人たちの力を借り、調べた自分の考えを話す。あのハードディスクに入って いたのはLombardi兄弟の公共事業不正受注の証拠なんだろう?
だがChrisの答えは違っていた。自身のバックパックからケースに収められたCDを出し、Jayに話す。これは例のハードディスクからコピーしたものだ。これの中にはまだ幼い少年たちがレイプされている画像が入っている。やっているのはGerry Lombardiだ。 だがこれだけではそれを証明できない。もっと確実な証拠を手に入れるためにLombardiの地所に侵入したが、見つからなかった。とにかくこれを見てくれ。
にわかには信じがたい話に戸惑いながら、兄Chrisと押し問答するJay。とにかくここから離れようと、車を動かそうとしたとき、サイレンを鳴らしながら警察車の一群が道を上って来る。
ここに警察を手引きしたのはJayだった。Jennyのアパートを出る際、Chrisに悟られないよう彼女に耳打ちしたのだ。Chrisもそれを察し、諦め顔でバックパックを残したまま、車から降り、おとなしく警察に捕縛される。そこに新たに一台の車が現れる。 降りてきたのはAdam LombardiとセキュリティのErik Bowmanだった。
AdamはChrisのことをずいぶん心配していてな、と保安官Patは警察からの連絡で彼がここに現れた理由を話す。Adamは建築現場でJayに話したのと同様の、取り繕った表向きの事情を話し、Chrisがハードディスクかコピーを所持している可能性があるとして、 保安官からChrisのバックパックを調べる許可を得る。Bowmanはバックパックを探り、CDの入ったケースを見つける。保安官の了承を得て、それはAdamによって持ち去られる。
町に戻ったJayは、パブDublinerでCharlieを見つけ、コンピュータが必要だと言い、隠しておいたCDを見せる。実は事前にすり替えておき、Adamが持って行ったものは車内にあった音楽の入ったCDだった。彼らはCharlieの自宅へ行き、Fisherの到着を待ち、 CDに入っていたファイルを開く。中に入っていたのは大量の幼い少年がレイプされているあまりにも陰惨な写真。だが、Chrisが話していたように、行為者の顔は加工され隠されており、Gerry Lombardiをよく知るJayにはそうらしいと分かるが、人物を 公に特定できる証拠とはならない…。
現在の状況を話し合う三人。とりあえずChrisは警察にいればAdam Lombardiからは安全だろう。だが、話の中でコンコードからの刑事McGreevyの名前が出た時、Fisherの顔色が変わる。「それは死んだ男だ」Fisherの勤める保険会社の顧客で、つい数週前に亡くなり、 調査の対象となっていたのが、そのMcGreevy刑事だった。死んだ刑事のバッジを持った偽物?
慌てて警察署へ電話を掛けるJay。だがその時既に、McGreevy刑事を名乗る者により、Chrisはコンコードへの搬送のため車に乗せられ出発したところだった。
電話を放り出したまま走り、自身のピックアップトラックを発車させるJay。町から出るルートを様々に思考する。その時、相手がまずChrisを誰にも見られず始末する可能性を思いつき、山へ向かうルートを選択する。
しかし、いくら走っても車の影も見当たらない。もう別のルートで手の届かないところまで行ってしまったのではないか?絶望しかけた時、曲がりくねった山道の前方にテールライト!そして後部座席で手錠に繋がれたChrsの姿を見つける。
追い越し、前方に回り込み車の停止を試みる。衝突!偽刑事の運転する車は、Chrisを乗せたまま道を外れ、道路沿いの斜面を転落して行く。
斜面を降り、慎重に事故車に近付くJay。運転席の偽刑事は首を折り既に死亡していた。後部座席のChrisからは、うめき声が聞こえる。Jayは男の死体を探り、手錠の鍵と彼が持っていた銃を取り、Chrisを救い出す。
Jayが一時的な避難先として思いついたのは、仕事として請け負っていた持ち主が死亡した家。怪我と寒冷で低体温となったChrisのため、急いでで暖炉を燃やす。
やっと落ち着いたChrisだったが、全ての試みが潰え、無気力捨て鉢になるばかり。そしてChrisがJayに向かって言う。
「あれは俺がやった」一瞬、兄が何を言っているのか分からず戸惑うJay。パートナーだったPete Naginisのことか?そんなはずは…?
「俺がブレーキに細工した。どこを通るかもわかっていたんだ」そしてJayは、兄が話しているのは両親の交通事故のことだと気付く。
「嘘だ。なんでそんなことを…?」
「お袋だってずっと知っていたんだ。俺は親父が俺にやったことをお前にやらせないために…」
「嘘だ!」Chrisに殴りかかるJay。ChrisはJayの拳から身を守ることすらしない。
「Lombardiだったんだろう?奴がやったんだろう?だからあんたは奴を嫌ってたんだ。これはみんなそのためだったんだろう?」
「親父がそんなことするはずがない!嘘だって言ってくれ!そんなことはなかったと言ってくれ!」
「俺はずいぶん沢山ホラ話を並べてきたよ」Chrisは言う。「もうどれが本当だか分からなくなっちまった」
その時、室内は窓からの強い光に照らされ、ラウドスピーカーからの声が響く。「手を頭の上に置き出てこい」
いつの間にか、家は到着した警察隊に包囲されていた。
窓から外の様子を窺うJay。そして突然の衝撃が襲い、彼は床に倒れる。
彼の横を走り抜け、ドアへと向かうChris。そして銃声が響き渡り、Jayは意識を失う。
Jayが脳震盪から目覚めたのは、全てが終わった後の病院のベッドの上だった。彼はそこで、兄Chrisが彼を殴り意識を失わせた後、拳銃を振り回しながらドアから飛び出し、取り囲んだ警官隊からの複数の銃弾により死亡したことを知る。事実上の自殺だった。
偽警官を追った一連の行動でのJayの行為は、罪に問われることはなかった。Chrisに腕を折られた後、Brodyは戻ることはなく、JayはJennyとよりを戻し、Fisherの紹介により保険会社の調査員の職を得て、息子Aidenと家族三人でAshtonの町を出ることが語られ、 物語は終わる。

ずいぶん長くなってしまったが、全部書けば長くなるのは当たり前か。もっと短くまとめられたのではとも思うが、続きを書く上でこの出来事は重要、とかこの人間関係を詳しく書いておかなければ、などで長くなってしまった。でも結局は私自身のこの作品への 思い入れかなどとも思ったり。何とか少しでも短くコンパクトに、と思うばかり行間も詰めたままで、結構読みにくくなってしまったなら申し訳ない。
この作品についても言うべきことは多々あるのだが、とにかくは今回メインの第2作『December Boys』に進むです。


【December Boys】


Jayは初春の冷たい雨の中、車の中から目の前の工事が中断された建設現場を見つめていた。看板には"Lombardi Consutruction"の文字。
だが、彼は何かの目的をもってここにやって来たわけではない。現在就いている保険会社の調査の仕事で、ある家を訪問するはずが、道に迷い続けここにたどり着いてしまっただけの話だ。
最悪だった昨年の冬を思い出させるような、最も来たくない場所。

Jayは車を回し道を戻り、目的地への探索に戻る。目的のOlisky家が見つかったのは、それからさらに一時間後。
修理の途中で放り出した様子もうかがわれるあまり経済的に恵まれていなそうな家で、彼を迎えたのは一人の少年。保険契約者Donna Oliskyの16歳の息子、Brian Oliskyだ。
道に迷い時間も遅くなっているため、Jayは仕事で不在の母親に代わり、事故当時車に同乗していたBrianで確認程度の手続きを済ませようと考える。
渋っていたBrianだが、同意しJayを家に迎え入れる。
事故状況は、学校を早退し検診に向かう息子Brianを、Donnaが車で送る途中、電柱に衝突したというもの。
記入状況を確認するぐらいのやり取りの間、Brianのやたら落ち着かない様子が気になったが、Olisky家の窮乏状況も目に入り過ぎていたJayは、多少のことには目を瞑ろうと思いつつ手続きを終える。

帰ろうと立ち上がった時、マントルピースの上に飾られた写真やトロフィーが目に映る。写真のBrianと見える少年はレスリングの選手のようだ。
かつては優秀なレスリング選手だった兄、Chrisのことが頭をよぎる。
「君はレスリグをやるのかい?」
「いえ、それは兄のCraigです」
「よく似てる。双子みたいだね」
「双子でした。でした、と言うのは…」
「双子だったのかい?」JayはBrianの言いかけた意味をよく考えずに応える。
「彼は死にました」
Craigの写真を手にしたJayの手が止まる。「すまない…」

「鎮痛剤とアルコールで」感情を交えずに言うBrian。
「父はその後家を出て行った。父さんにとって息子はCraigだけだったんだ。そして僕と母さんだけが残った」
「母さんは外れくじを引かされたんだろうって時々思うよ」
「スーパースターとじゃ比べ物にならないよな」

自分と兄との関係にも重なるところもあり、声も出ないJay。その時、Brianがぽつりと言う。
「僕がやったんだ」
「何だって?」
「事故だよ。僕が運転してた。母さんは仕事だったんだ」

保険契約者は母親であり、Brianが運転して事故を起こしたのならもちろん保険金は支払われない。そしてこの件自体が不正請求に当たる。だが、彼らの生活状況から見て、保険金もなければ車の修理費すら重圧となるだろう…。
半ば思考停止のまま、帰宅するJay。
第1作の事件の後、よりを戻したJayとJennyは結婚し、勤める保険会社の支社に近いPlastervilleに家を借り、息子Aidenと三人で暮らしている。
だが、現在彼らの関係はあまりうまく行っていない。
携帯を忘れたまま出掛け、連絡が取れなかったことに文句を言うJennyに始まり、言い争いはエスカレートして行く。
Jay自身の現在の仕事への様々な不満。彼が前年冬の兄の事件にこだわり続け、Lombardi一族を憎み続けていること。その件で通い始めた精神分析医のセラピーにもっと行くべきだ。煙草をやめるべきだ、等々…。

定職に就き健康保険に加入できたため、Jayは精神分析医のセラピーを受けるようになり、パニック障害の診断を受けている。
だが、セラピーでも兄の事件の真相-兄が最後に語ったこと、Gerry Lombardiの少年への性的虐待については話してはいない。そして当のGerry LombardiもChrisの死後、心臓発作により亡くなっている。

Jennyとの言い争いの末、家を飛び出したJayは、現在の住所Plastervilleから西へ50マイルほどの、古巣Ashtonへ向かう。お馴染み行きつけのパブDublinerに親友Charlieを見つける。
近況やJennyとの諍いなどに愚痴を垂れ、したたかに酔い、帰路現在は保安官となったRob Turleyに車を停められたりしながら、Charlieの家へ行き、その晩は彼の家のソファで眠る。

翌朝、自宅へ戻った時、家にはJennyの姿はなかった。土曜でもあり買い物に出かけているのだろうと思い、また一方で気にかかっているBrian Oliskyの件なども週明けまでは保留としようと考える。
その時、テーブルの上にJennyからの書置きを見つける。JennyはAidenを連れ家を出て、彼女の母親の許へ行っていた。
裕福な家庭の出身であるJennyの母親は、以前からJayのことをよく思ってはおらず、結婚にも反対していた。

電話でJennyとAidenと話し、感情的にならずいくらか落ち着いて話せたことで、自分を安心させるJay。
コーヒーを手にガレージへ向かう。その片隅のキャビネットに、新聞からの切り抜きなど、兄Chrisの事件に関係する書類を集めたバインダーが収められている。
眠れぬ夜などに、ここにこもってそれらを見つめることも多い。だが、いつまでもそこから離れられないことが、自身の精神状態からも多く起因する現在のJennyとの不和などを招いているのではないか?
Jayはそれらを処分し、忘れることを考える。

月曜の朝、保険会社に出社すると、Jayは同僚からのちょっとした祝福、好意賛同を持って迎えられる。仕事で大きな成果を果たしたかのような印象。
考えられることとしては、Olisky家の不正請求の発見だが、Jayはまだその報告すらしていない…?
その後、上司Andy DeSouzaに呼ばれたJayは、金曜の午後Jayが戻らなかったことから彼自身がOlisky家に電話をし、既にJayに告白したBrianから事故の真相、その件が不正請求であることを聞いていたことを知る。
不正請求の発見は、Jayによる大きな成果であり、これはこの支社のあるPlastervilleより大都市、コンコードへの昇進転勤へとつながるとほめたたえるDeSouza。
窮乏からの出来心であり、根本的には悪い人間ではないOliskyへの罪悪感は払えないが、コンコードへの昇進は現在家を出ているjennyとの不和解消のための大きな材料となると、自分を納得させるJay。
だが、自身のデスクにJayが戻った時、彼に向けて外線からの電話がかかる。

涙声で電話をしてきたのは、Brianの母親であり、不正請求の当事者であるDonna Oliskyだった。
困惑し周囲の様子を窺いながら電話を受けるJayに、Donnaは泣きながら言う。
「今朝、私の息子が逮捕されたんです」

オフィス内で話すことを躊躇い、いったん外に出て自身の携帯から掛け直すことにするJay。何があったかわからない。ああいった不正請求ぐらいのことで、警察が直ちにティーンエイジャーの少年を逮捕するとは思えない。
だがDonnaの話では、今朝朝食中に警察がやってきて、その件でBrianを逮捕したとのこと。更にその後、警察に問い合わせたところ、午前中に裁判所で罪状認否が行われるということだ。
そんなはずはないだろう。警察の手続きがそんなの早く進むはずはない。Donnaの勘違いではないかと思い、電話を切った後、自身で警察に問い合わせてみる。だが、警察の受付の話ではそれで間違いがないようだ。裁判所にも掛けてみるが、 こちらは自動音声案内でらちが明かない。Jayは、報告書を仕上げる前に調べたいことがあるという口実で、自身で裁判所に向かう。

Jayが裁判所に到着したのはランチタイムに近い時間。Brianに関する件がどこで進行中なのか把握することもできない。
途方に暮れてあたりを見まわし、片隅の受付ブースに気付く。座っているのは鼻や口にピアスをつけた、あまり裁判所らしくない若い女性。おそらく法律学校関係のインターンだろう。
Jayは彼女にBrianの件を話し、何かわからないか尋ねる。事情を訊き、そんなに早く手続きが進むはずがないが、と言いつつ手元の資料を調べていた彼女は、そこにBrianの名前を発見する。
Jayに興味を持った様子で、勤務が終わった後で一杯おごってくれるなら少し調べてあげる、という女性。
彼女のお遊び気分に付き合うべきではないと思いつつ、電話番号を交換する。彼女の名はNicki。

これ以上裁判所をうろついていても有益な情報を得られそうにない。その一方で、ここからJennyの母親の住むコンドミニアムはそれほど遠くない。昇進、大都市への転勤の可能性はjennyとの関係改善に有効な話だ。
Jayは昼食に食べたもののせいで体調を崩したと連絡し、午後の仕事を休み、Jnnyの母親の許へ向かう。
到着するとJennyとAidenは留守で、彼女の母親が迎える。うわべだけは親しげにJayにjennyはコンドミニアムに住む自分の友人と昼食に出かけ、もうすぐ帰ってくると告げる。
少しの後、Aidenを連れて戻って来たjennyは、投資銀行に勤めるという男と一緒だった。
男の態度が気に食わず、俺の家族に近付くなと詰め寄るJay。感情的になり、しまったと思ったときは既に遅く、それによりjennyとの関係改善は遠のいてしまう。

当てもなく裁判所へ戻る道すがら、全て母親が仕組んでいたことで、Jayの最悪なタイミングでの登場にほくそ笑んでいるだろうと気付き、落ち込むJay。
携帯が鳴り、またDonnaからかと思いつつ表示を見ると、それは昼に裁判所で出会った女性Nickiからだった。Jennyとの失敗で気乗りしないまま、指定された裁判所近くのバーに向かうJay。
そこでNickiはJayに、Brian OliskyはRoberts判事により、矯正施設に送られることになったと伝える。
そんな馬鹿な話があるか?どう見たってBrianは危険な不良少年タイプじゃない。そもそもそういった施設への入所には両親の承諾が必要であり、今日のDonnaの様子ではそんなに簡単にサインするとは思えない。
そんなことが通るはずはない、何かの間違いだと一笑に付し、何事か言いたげなNickiを残しバーを出るJay。

そのまま帰路に就いたJayは、突然背後に現れたパトカーに停車を命ぜられる。
特に心当たりもなく、車検証を探すJayを、二人の制服警官は引きずり出し、いきなりの暴行を加える。そしてJayの身元を確認し、逮捕もなくそのまま立ち去る。
途中に警官の一人の口から発せられたNickiの名?彼女の交際相手からの逆恨みか?

全く理解できないまま、その夜もAshtonへ行き、Charlieと飲んで、翌朝出社する。
直ちに上司DeSouzaに呼ばれる。その口からNickiの名が出て、昨日の会合について詰問される。
彼女は、彼女には権限のない裁判所の書類を不正に閲覧したことで解雇の上追及されており、その件により警察から照会があったとのこと。
司法に関わる問題を起こしたことで、Jayは自宅待機を命じられる。

釈然としないまま帰宅したJay。玄関のブザーの音にJennyが戻ったかとドアを開けると、そこにいたのはNickiだった。
家に入ったNickiは、自分は裁判所内で起こっている不審な事態を調べているところを見つかり、解雇されたという。その事態とはBrianの件をも含むことだと。
Brian同様、微罪にも当たらない程度のティーンエイジャーが、同じRoberts判事により次々と同じ施設へと送られている。何らかの不正が行われているのは確かだ。
だけど私一人ではこれ以上どうもならない。調査に協力してほしい。あんたは善人でしょう?あたしにはわかる。
だが俺は今は自分の生活を立て直すだけで精一杯だ。協力などできない。
そうしてキッチンテーブルの前で押し問答しているところに、Jennyが帰宅し、Jayは更に厄介な立場へと追い込まれて行く…。


兄を救えなかった後悔と、自分と重なるところの多い少年を救いたいという思い、その一方でJennyとAidenとの生活を守るため職を維持する必要との間で板挟みになりながら、次第に事件に巻き込まれて行くJay。
野次馬的に調査に加わって来るCharlie、Fisherの協力をも得て、徐々に明らかになって来る青少年矯正施設をめぐる疑惑。精神的に追い詰められ、パニック障害に苛まれるJayに、脅迫的に迫る影。
そして調査を進めるJayの前に、仇敵Lombardiの名が再び浮かび上がってくる…。

第2作の序盤では、会話やら回想の形で第1作の事件への言及が多く、まあもしかしたらそちらを読んでいなくてもそれほど苦労なくストーリーに入り込めるのかもしれない、と改めて思ったりしたのだが、やっぱ第1作を読んでいる奴の言うことなので、 どうとも言えない。結局のところ、ちゃんと第1作についてやっとかなかったのが悪いというところに至ってしまうのだが…。
いずれにせよ、次作ではリセットされ新たな事件へという旧タイプのシリーズものではなく、前作のストーリーを大きく引継ぎ、続き物というような形になり、主人公=探偵が事件の当事者ぐらいの立場で深くかかわって行く現代のハードボイルド・シリーズの 傾向に属するもので、もはや「第何作が最高傑作」みたいな三流評論家知ったかぶりかっこつけは全く通用しない時代なんで。

第1作では定職のない田舎町のルーザーとして、緩い感じの仲間と事件に関わった主人公Jay Porterだったが、第2作では保険会社の調査員として、事件に巻き込まれて行くことになる。が、ルーザー、社会にあまりうまく適応できない気質はそれほど変わらず、 ちょくちょく地元Ashtonへ帰り、親友Charlieに近況の愚痴を垂れながら飲んでいるうちに、Fisherを加えた中年探偵団が動き出す展開。
ややネタバレになるが、まあこの辺まで読んで大抵の人は想像つくだろうが、保険会社の調査員という職も続かない。あ、この展開なら当然そうだろぐらいで言っちゃったが、実は立場上厳しい対応が多かったが上司は人情家で陰で主人公のため 奔走し、最後にはそれもわかってこの会社で頑張りますが、日本のサラリーマンストーリーのパターンか?

そういうわけで、第1作のラストで調査の仕事に就くというところが言及され、てっきりここから探偵Jay Porterシリーズが始まるかと思ったのだが、どうもこのシリーズそうならない様子。
第1作『Lamentation』でシリーズが開始されたのが2014年で、この時期は電子書籍の勃興期で、増大したアメリカの読者方面からの需要により、多くのシリーズ作品が出版されていた印象がある。Joe Cliffordもその流れに乗る感じでこのシリーズを始めたが、 そもそもそういう形のシリーズを書く意図はなく、ちょっと引っ掛け的にやったのか、こちらがそう思い込んだだけの話か?あるいはそういう方向を一旦は考えたが、うまく行かず路線変更したという場合もあるのかも。まあこの辺本人しかわかんないとこだろうけど。
いずれにしてもこのシリーズは、主人公Jay Porterが依頼などの形で関わる様々な事件を解決して行くという方向ではなく、パーソナルに自己を巻き込んで行く状況と闘うというものになって行くようだ。もちろんそれならその方向で、読み続けJoy Porterと いう人物を追い続けて行かなければならない大変魅力的なシリーズなのだがね。まあこの国でもちょっと前ぐらいは、例えばこの第1作『Lamentation』を読んで「公共事業をめぐる陰謀だと思って読んでいたら、個人的なトラウマというような方向にスケールダウンして がっかりした」みたいなこと言いだしかねない、スケール小さいクレーマーみたいな頭の悪いお利口が大手を振って闊歩してて、今でもそのレベル多く潜伏しとるんやろけどね。

現在はやや電子書籍の勢いも落ち着いたか、出版状況も変わりシリーズ物よりも単発物が求められている感じ。これ読者のニーズ的方向で分析的に話す奴いるけど、結局出版社側の事情でしょ。シリーズで長期的にやってくより、単発一本釣りでリスク軽減したいみたいな。そういう事情か、そっち方向で作家活動をしたいのかは不明だが、Joe CliffordはJay Porter5作の後は、単発作品が続いている。
まあ何度も言うとるが、こういう業界観測分析的なことは大嫌いな私なんで、話の流れとは言え、なんか余計なこと書いて時間使っちまったか。

兄がドラッグ中毒という設定は、Ray BanksのCal Inns四部作とも共通するものだが、近年の英米方面では割と聞く話なのではないかと思う。と言ってすぐに出てくるのは、コミックの方でなかなか書けてないんだがバイオグラフィー的作風の、アメリカの Julia Wertzの作品でも兄がドラッグ中毒で施設を出たり入ったりしているということが度々語られているとかだけど。例えば親戚や友人ぐらいまで広げれば、大抵の人が家族にドラッグの問題を抱えている人を知っているぐらいのことになってるのかもしれない。
これは欧米はドラッグの問題が深刻、みたいな言い方で他人事で片付けられるものではないのかもしれない。例えば同じぐらいの割合で、自分の知人範囲内に引きこもりであったり、あるいは鬱病の家族がいて悩んでいる家庭があるのが日本の現状なのではないか。
少年時代の性的虐待が引き金になり破滅して行くChrisは、実はこういう人達とそれほどかけ離れているものではないのではないか。
なんか社会問題について真剣に語るガラでもないとか思ってしまうのだが、「社会的弱者」という分類も雑で傲慢かと思うが、そういう人達がそういった縁にいてその向こうになだれ落ち始めているのかも。「ツレがヤク中になりまして」なんてのがベストセラーに なる日も遠くないのかもね。
ハードボイルド/クライムジャンルは、こういった様々な形で、単に「病んだアメリカ」に留まらない現代社会の歪を描き出して行く小説ジャンルである。アメリカの話で、日本は「警察呼べ」で万事解決と思ってる人にゃカンケーないかね。

第2作である今作『December Boys』は、書いたとこまでだとややネタバレかもしれないが、過剰に少年犯罪に脅える社会状況に付けこみ、そこから利権を得ようと企む動きにJayが巻き込まれて行く。だが、実際にそこで追い込まれて行くのは微罪で社会に害を 及ぼすとも思えないBrianのような少年少女達。
一方で理想的で美化された子供論に基づき安直に表現を弾圧し、その一方で過剰に若者世代の行動に怯えるこの国でもありえない事態ではないのかもしれない。あー念のため言っとくと、日本以外のハードボイルドには「若造いびり」なんて悪習ないからね。
そして主人公Jay Porterはそもそもそれに対する社会的義憤といったものに立ち上がるような力も余裕もないまま、よりパーソナルな形で巻き込まれて行く。
ハードボイルドの歴史すらきちんと整理すらされていない状況で、ハメット、チャンドラーと強引に比較するような論評には全く意味がない。日本国内的思い込みイメージの「ハードボイルド」からのアンチぐらいの出鱈目な解釈が横行している、1970年代ネオハードボイルドなんて ものと安直に結びつけることも害悪でしかない。
本当に数少なく翻訳されているジャンルの良作、S・A・コスビー作品やジョーダン・ハーパー、ジョニー・ショーの『負け犬たち』、ビル・ビバリーの『東の果て、夜へ』といったところを読めば、Joe Clifford/Jay Porterがどんなアメリカに向かい合っているかが 見えて来るだろう。
Joe Clifford/Jay Porterシリーズはそれらの作品と同様に、すでに一世紀近くに及び培われてきたスタイル・視点を継承しつつ、現代アメリカをそこで暮らす者として描いた、現代ハードボイルドの最も注目すべき作品なのだよ。

作者Joe Cliffordは、生年などについては不明なのだが、1970年代半ばぐらいの生まれと思われる。コネチカット州出身。1992年に大学を辞め、音楽で身を立てるためサンフランシスコへ行くが、そこでの生活でヘロイン中毒となり、荒んだ生活を送ることとなる。 そこから約10年を経て立ち直り、フロリダ国際大学で創作を学び、作家の道を志す。ウェブジンの編集者などという形でも、現在のこのジャンルに長く関わって来た人でもある。
デビュー作は2013年の『Junkie Love』。自身のドラッグ中毒とそこからの復帰の経験に基づいた作品ということ。このJay Porterシリーズも、その経験と深くかかわるシリーズである。
何度も書いてるが、かつてウェブジン「Out Of Gutter」の編集に携わっていたころには、自身の紹介に「オレもずいぶん捕まったりしたが、ムショまでは行ってないよ」と書かれていた、いかにもな全身の入れ墨パーセンテージの高いオッサンだが、 どこか優し気な容貌などは、Jay Porterってこんな感じのやつなんだろうな、といつも思わせる。
以前初期の作品『Wake the Undertaker』について書いた時、作者の経歴などからもっと文学方向の重いものをイメージしていたら、意外とハメット『ガラスの鍵』的な設定を現代でやったようなエンタテインメント性も高い作品だったりもしたのだが、 このシリーズでもテーマの重さにもかかわらず、主人公Jay Porterの一人称語りには親友Charlieとのやり取りも含め、ユーモアも多く、またJennyとの関係では、それこそスラップスティック的なぐらいにまずい状況を作れるような、多彩なテクニックも 持ち合わせた実力派の作家である。

第2作のタイトル『December Boys』は、Two Cow Garageのアルバム『Sweet Saint Me』に収録されている「Jackson, Don't You Worry」という曲の歌詞から。曲の最初の部分である「Decenber Boys」を含む数行が、作品の冒頭に引用されている。
自身を取り巻く世界が崩壊し、絶望しかけている青年、あるいは少年に、大丈夫だ、立ち直れ、君は勇敢な祖先たちの末裔だろう、と歌いかける。日本でお馴染み応援ソングみたいな感じではなく、アルバム内でもこの曲だけ違う感じの、切々とした 曲調で歌われ心にしみる感じの楽曲。
Two Cow Garageはアメリカのオルタナティブカントリー・ジャンルに属するバンドで、2001年頃より活動を始め、『Sweet Saint Me』は2010年にリリースされた5枚目のアルバム。メンバーの脱退などで2017年頃以降は活動を停止している模様。
オルタナティブカントリーというのは、1990年代ごろから始まった音楽ジャンルで、大雑把に言うとカントリーミュージックとパンクロックの融合というような方向で始まったもの。ウィスキータウン、ルシンダ・ウィリアムズ、スティーブ・アール、 Uncle Tupeloといったところがジャンルを代表するところ。
以前から書いているように、現在のアメリカのハードボイルド/クライムジャンルは、カントリーノワールに顕著なように、地方、田舎方向への動きが活発。このニューハンプシャー近くの山間の田舎町Ashtonを主な舞台とする、Jay Porterシリーズも その流れに属するものなんだが、その辺の作品では作中でもカントリーミュージックへの言及も多い。前回のトム・ボウマン/ヘンリー・ファレルなんて親友とバンド組んでたぐらいだし、Anthony Neil Smith先生も、好きな音楽として以前色々挙げてたのは こっち方面。
実はあんまりきっかけがないぐらいの理由で、オルタナティブ以前にカントリーミュージックに馴染みがなかった当方なのだが、やっぱこの辺の作家たちのルーツに当たる部分なのかな、と思い始めこの作品を機にApple Musicを使って色々と聞き始めている。 他の音楽配信サービスとかには不案内なんだけど、多分プレイリストみたいなの何処でもあるんでしょ?そのへんのからオルタナティブカントリーとかアウトローカントリーみたいなのを流しとくぐらいの感じで聞き始めるのがいいかと。なんだかんだ言っても 例えばアメリカの映画のエンディングとかに流れて、いい曲だなと思ってもそのまま深く掘り下げず忘れちゃってるようなのにカントリーが多いわけで、聞き始めると割とすぐに馴染めるようになっている感じ。
別にこういうものが必須とか言うつもりは毛頭ないけど、アメリカのこの辺の作品を読む上で理解に役立つもんじゃないかと思います。

ところでハードボイルドと音楽ということでは近年で腹立ちが収まらんのが、ショーン・ダフィ『ポリス・アット・ザ・ステーション』のケツに擦り付けられた最低の汚物こと、法月綸太郎こじつけ「解説」…。あまりにひどすぎ読者の誤読をも誘発しかねないと いうところから、今一度厳しく糾弾しておくものであります。
まずは法月がこういうのでインテリジェンスを示せる~、と目をつけたアルヴォ・ペルト。そっち方向の承認欲求丸出しで得々と解説してみせ、「効果的に使われている」とかぬかす。
これについて言えば、参考のため来てもらったブルガリアの領事が帰れなくなって困っていたので、ダフィが奥さん実家に帰ってるし泊めてやるよ、と自宅に連れてきてペルトのレコードかけてあんたホモなのか、といわれるところ。まあ今日会ったばかりの 男が泊めてやると言って家に連れてきて、こんなのかけたらホモで誘ってると思われるよなあ、というかっこ悪いシーン。もしかしたらその前車のラジオで聞くところから仕込んでいたのかも。
続いてローソンの音楽の好みがガキっぽいとかぬかしてるところなんだが、これはローソンがヘッドフォンをしてるのを見て、ダフィが「何聴いてんだ?レッド・ツェッペリンか」ぐらいの感じで話すところ。
これは今時の日本でいえば、中年に差し掛かってるぐらいの先輩社員が若手後輩がヘッドフォンしてるのを見て、「何聴いてんだ?B'Zか?」とか言って苦笑される感じ。ダフィがオッサンぶりを晒すかっこ悪いシーン。まあローソンよりやや年下の マッキンティは70年代ロックを聴いて来た世代にこんな感じで話されること多かったんやろね、と思う。
つまり全編にわたりぐらい随所で音楽的こだわりをまき散らすダフィなんだが、その思い込みがスカるユーモラスなシーンというわけ。法月がそのへんちゃんと読めてないのは明らかだろう。どーせダフィとローソンの会話の内容なんて一方的にガキっぽいとか 言ってる時点でろくに理解できてないだろうしな。
まあこんな誤読をする法月の音楽観がどんなものか、誰でもわかるよなあ。要するに大学生かその少し上ぐらいで、ポピュラー・ミュージック全般ぐらいをガキ向けとして、周囲を見下しているうちにそのまま音楽的感性のほとんどを死滅させちまった インテリ気どりポンコツボーイの成れの果て。ガキ向けの音楽は「卒業」して、大人向けのものを聞いているボク大人。そもそもその発想がガキっぽいの極みなんだよ。 ちょっと前よくいた「自分が松田聖子を評価するのは歌が上手いからだ」とか言って音楽分かってる顔してたジジイ連中と大して変わんないよ。世の中で 言われてる「大人向け」の99%が、自分は安定成熟した完成品で、新しいものを受け入れたり成長する必要なんてないと思ってる俗物・愚物向けの「高級品」だろ。全く思いつかないが、まだ見ぬ1%のまともなものがあるかもと思ってるオレって謙虚だよなあ。 現代音楽最前線が使い捨てダンスミュージックぐらいに思われてるテクノから派生したエレクトロニカ、IDMみたいな部分と限りなく接近してる時代に、音楽に上下高級低俗大人向けガキ向けなんてものがあると本気で思ってんの? 伝統とか、歴史とか言ってみても、結局突き詰めていけば、財力の差みたいなことにしかならんだろ。まあ自分をインテリエリート上級層だと思ってる法月みたいなやつの価値観なんてそんなもんなんだろうな。
ついでに言っとくと、杉江松恋の噴飯物の「筆が走りすぎ」につじつまを合わせてこじつけたテレビドラマへの言及なんかにしても、本当に話にならん。単に自分によくわからなかったり「インテリエリート上級層」の観点から自分が気に入らない 俗っぽ過ぎると思うものを叩いてみてるだけ。
ハードボイルドジャンルは、常にその時代をリアルに描くために、その時代の風景・カルチャーを描くことをスタイルとしてきたわけで、結構アメリカからのものがかっこいいと思ってきた世代のダフィが『マイアミ・バイス』について話したところで、 若い世代のローソンが自国産の『宇宙船レッド・ドワーフ号』に夢中になってたなんてのはいかにもその時代の英国を描いた気の利いた描写だろ。
結局さあ、法月がダフィ一人称で書かれてる、ぺルトの件やローソンの話を表面そのままに誤読したなんてのは、日本の国産ハードボイルドに見られる一人称=私小説=主人公俺的な考えに基づく、自己陶酔型俺のこだわり全面的正義ゴリ押しみたいなもんしか 読んでこなかくてハードボイルドがそういうものと思い込んでたってのも原因の一つなんだろな。ホントそーゆーのも日本のハードボイルド思い込み誤解の一例なんだけどさ。
こんな「インテリエリート上級層」老人会でしか通用しないような狭量な法月のカルチャー観からの誤読を「解説」などという形で読者に押し付けるのは暴挙としか言いようがない。その他完全に終わった古臭いミステリー的思考の型に無理やり押し込んだ 形での分析や、バカバカしいにもほどがある「迷宮と鏡」こじつけなど、法月綸太郎などというものが現代最新最前線のハードボイルドを語るには全く不適格な人物であることは明白だろう。そもそもがさ、他人の本に属する「解説」なんてところで、 小娘、ガキっぽい、承認欲求など、読者を不快にさせる可能性もある言葉を平気で並べ立てるなんて、私が引っ越す前に近所に住んでた誰彼構わず乳揉んでくるボケジジイと変わんねえんじゃないの。もう外に出さない方がいいんじゃない?
『ポリス・アット・ザ・ステーション』の法月解説というのは、読書のプロ暗黒時代に甘やかされ続けてきたミステリ評論家層がいかに劣化したかを表す見本といえるだろう。翻訳書における「解説」というのは、そもそも日本人にはなじみが薄い 海外の作家や作品について詳しく説明しておくためのものだったのだろうが、長い年月と読書のプロ暗黒時代を経て、どうせ本人読まないんだろうから何書いても許されるミステリ評論家のためのフリースペースへと劣化した。本来の目的に戻り 精々4ページぐらいでまとめろよか、廃止されるのが望ましいというのが私の意見である。
なーんかね、法月についてはしつこいと思ってる人もいるんだろうが、これは近年最大とも言えるミステリ災害なのだ。しかもこの災害、一過性のものではなく、今も作品の後にコバンザメの様に張り付き、あたかもこの作品に対する出版社の正統な評価・評論 のような面をして新たな読者に向け、新たな災害を起こし続けているのだ。この時代の重要作として残り続けるこの作品に、長き未来に亘ってこの汚物は張り付き続けるのだ!ホントふざけんなよ!これがこの法月被害の実態なのだ! 災害は忘れた頃にやって来る。悲惨な法月「解説」のような災害をミステリで二度と起こさないためにも、訴え続け、語り継がれて行かねばならない。法月災害を忘れるな。

「法月災害を忘れるな」をミニ番組か長めのCMぐらいで挟むつもりが思ったより長くなった。早口で読んでね。『てーきゅう』みたいに。こうやってアニメとかサブカルみたいなもんに楽屋落ちで言及すんのが、承認欲求で「筆が走りすぎ」なんだってさ。笑うわww
途中で書いてた、現在シリーズ物が出にくくなっている状況についてなのだが、まあ業界観測駄話は置いといても、少しシリーズ物が見つけにくくなっている状況はある。ただ、作家自体にはそういうものを書きたいという欲求はあり、現在は自費出版でも 電子書籍で簡単に手に入る時代でもあり、そういった方向にも広げて新しい動きも探して行かなければな、とも考えている。その他、最近Down & Out傘下を離れたShotgun Honeyからも、Nick Kolakowskiらのシリーズ物がいくつか出てたりとか、そういった インディーであったりという方向にも多く目を向けて行くべきかとも考える。Eric Beetnerが移籍したRough Edges Pressとかもまだよく見てないしな。
一方で、ミステリ=謎解きという時代遅れの考えが、探偵など主人公のいるシリーズものばかり重視し犯罪小説を軽視するという形でジャンルの全体像を歪めてきたという結果を現在まで引き摺っていると言う考えから、その辺を区別せず等しく読むべきだ とも考えるのだが、やはりシリーズキャラクター物がその時代を強く描き出すという考えもあり、そこのところはできるだけこだわって行きたいとも思うのである。あー、とにかく力の限り読め。布団でゴロゴロして読んでるとよく寝ちゃうけど。

最後に最近の翻訳注目作を二つ。ハヤカワポケミス12月刊行のイーライ・クレイナー『傷を抱えて闇を走れ』。しばらく前一部で注目されてた作品で、一昨年ぐらいかにセールになってるの見かけて買っといたやつが、思いがけなく翻訳出た。持ってるので 多分買わないと思うけど、なんか読むもの捜してる人いたら一応おススメ。そんな悪くないと思うよ。多分だけど。

意外にもこんなのが出た。ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』。マッコイが日本で出ることなど二度とないと思っていたので、ちょっと嬉しい。まーなんか新潮文庫ノワール原理主義路線みたいな匂いもするけど。昨日本屋行って見つけたばかり。 喜んで買ってから一応解説確認したら杉江…。わざわざ先に読む気もせんけど、災害になってないといいけどねえ。あんたの感想とか、お馴染み○○を連想させるとか果てしなくいらんから。必要な情報だけまとめて真面目にやってくれよなと思うばかり。


最後の最後に言い訳コーナーです。なんだかんだで、えー?3か月も空いちまったよ…。まあ、順を追って言い訳すると、まず最初は自分のしょーもない無計画性ですな。コミックの方で、かなり入れ込んでてこれ絶対にやらねばならんと思っていた グラント・モリソン『The Invisibles』に遂に、ぐらいに取り掛かったのだが、まあ時間かかるなと思ってたけどホント途方もなく終わんなくてという感じで、一か月それにかかり切りになってしまったこと。
時間がかかり過ぎるなんていうのはやらない理由にならんし、『The Invisibles』は取り掛かったばかりなんだからこれからも続けて行くもんだが、時間がかかるんならもうちょっと計画的に進めて行かなければいかん。まあそれをどうやって行くかは コミックの方の話なんで、そっちのサイトで考えを書くつもりだが。問題はこっちの本店。新たにコミックのサイトを始めた時、あまりにも雑でどんぶり勘定だった。当面これまで仕事して来た時間をそっちにつぎ込むわけだから、こっちもまあそれなりに やれるだろう、ぐらいで行き当たりばったりが過ぎた…。これからはきちんと一日の時間割考えて、バランス的にはコミックサイト寄りになるだろうけど、毎日こっちも必ず書いて進めて行くことにしよう。
と思ったのがそっちが終わった12月の半ば頃か。まあもう年末時期ともなると、自宅警備員でも何かと用事があったり。そういう方針で始めたものの、ちょこまかと外出しなければならなかったりでなかなか集中できん。もう年末近くになり、やあやっとこれで 後は集中できるぞ、と思って帰宅し、ちょっと疲れたんで少し休んでから頑張ろう、とか思ったら、ウィルス性胃腸炎を発症…。前にも罹ったことあったけど、なんだか今回いきなり激症化し、救急車で搬送される事態に…。
そんなわけで年末~正月ぐらいは起き上がれんぐらいで、年越しそばも雑煮おせちも食えんかった。まあイベント要素もグルメ要素も限りなく低い奴なんでそれはいいんですが。今年の正月なんてそれどころじゃない人いっぱいいたんだから、激お腹壊した ぐらいで不幸面してる場合じゃなかったしな。そこからなんとかお粥ぐらい食べられるぐらいまで回復し、少しずつ起きれる時間にはこっちもやり始め、よし、今日からは本格的に頑張るぞい、と思いPCを立ち上げ、サイトを開いた1月5日の朝。アマゾンへの 画像とリンクが全部消えてた…。
まあ、アマゾンアフィリエイトの仕様変更で、画像リンク、画像+リンクの作成フォームなくなります、っていうのは昨秋ぐらいからわかってたし、なくなったらこんな感じにすりゃいいかぐらいは考えてたんだけど、その辺までの主に自分の不手際による 遅延から立て直しに必死になっていたところで、今まで作ったのもなくなるのかな?なくならないといいんだけどな、ぐらいの願望思考停止で考えないようにしてたんだけど、やっぱなくなりましたな…。
さすがにそのまま知らんぷりはできない状態なんで、そこからはサイトの修正。二つもやってる馬鹿なんで、今日は本店、明日はコミックサイトみたいに一日おきに進め、コミックの方は昨年始めたばかりなんでとりあえず全部できたけど、こっち本店の方は まだかなり残ってるが…、なんだけど新しい記事も書かねばならんからでやっと再開したのが23日とかだったか。そこからヘロヘロと頑張り、やっとここまでたどり着いたという次第です。
こちら本店の修正については、次回10周年となるんでそこで詳しく書きますが、とりあえず少しずつでも全部やってくつもりです。進行状況としては、とりあえず遡って3年分ぐらい進め、そこからはコミック関連は後回しとして、小説関連の記事から 進めているというところ。なんかもうこれいいかという感じで捨てちゃったものもありますが、重要と思うものについては販売が終了してしまっていても、リンクなし見つけてきた画像のみで直して行っているところです。詳細については次回ということに なりますが、やってて一つ嬉しい発見として、結構期待してたんだけど終わってしまったと思っていたスプラッタウェスタンが、既刊全作復活し昨年より新作も刊行されていたこと。詳しくはWile E. Young / The Magpie Coffinの記事にというところだけど、 次回10周年、その次今年のスプラッタパンクアワードノミネートというスケジュールになるんで、当分騒いでいるかも。
そんなこんなのドタバタ連鎖で長期にわたり中断となってしまいましたが、ここからは以前書いてたような新しい作品やらジャンルの動きを中心という方向で、ぼちぼち頑張ってゆく所存です。いや、ぼちぼちじゃなくそこそこ気合い入れて。 まー3か月も中断すると書かなきゃなんないもんもそこそこ溜まって来るし、過去に中断したあれやこれも再開しなければ、というのもあったりで、ここから本気とかで頑張らねばと思っております。病み上がりかけ状態からそこそこ必死でろくに 休みもなくやってきて、さすがに少々疲れも出てきた感じなんでこの辺で終わります。シレンは力尽きた。


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