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2021年2月28日日曜日

Black Op -バンド・デシネ エスピオナージュ大作-

またしても結構久し振りになってしまったコミックの方なのですが、まだまだやります。今回はフランス発エスピオナージュ作品のバンド・デシネ、『Black Op』の登場です!

フランスのバンド・デシネのパブリッシャーでは多分そこそこは大手だと思われるDargaudより2005年に発行。そして2015年にはEurope Comicsより英訳版が発行され、Comixologyにて販売中。今回は画像もComixologyから。 バンド・デシネのサイズである約50ページで、全8巻が刊行されています。バンド・デシネに対して、この「巻」という言い方が適当なのかは不明なのだけど、とりあえずあちらではよほど特別な作品でない限り 更にこれらを合わせた単行本というような形式の物が発行されることはなく、基本的にはこの50ページほどの物が最終形態となってるようなので、こちらではそいつを「一巻」という単位で記述しておきます。 ちなみにアメリカのコミックについては、日本では第○○号という感じで「号」が単位とされるのが通例であり、25ページぐらいの一話が表紙を付けた形で販売されているので、その呼び方が適当だと思うのですが、 マーベル、DCなどのシリーズ物以外をTPB単位ぐらいで説明するときにはなんかしっくりこないんで、その辺はアバウトに一話、二話という形で書いたりしております。
ストーリーはStephen Desberg、作画はHugues Labiano。とりあえずこの辺はあんまりよくわかんないまま書き写してるだけだが、 後ほど出来る限りは探って行きますので。

まず始めに説明しといたほうがいいのは、とりあえず全8巻と紹介しましたが、うち前半6巻が無印『Black Op』、後半2巻が『Black Op Season2』に分かれています。 おそらくは全6巻『Black Op』が好評で、続いて発行されたのが『Season2』なのだろうと思われますが、実は両者のストーリーは連続していたりするものではありません。 とりあえずは別々にストーリーを紹介して行きます。

【Black Op】

2003年 アメリカ フロリダに一人の老人が現れる。金髪の青年を相棒に従えた彼は、近年に行われた大統領選挙における不可解な票の動きについて調査している。 的確で手段を問わない彼の調査は、それを画策した法律事務所を探り当て、更にその背後に潜むロシアン・マフィアの息がかかった不動産会社をあぶり出す。
ロシアン・マフィアが何故アメリカの地で大統領選の票操作に加担する?
だが、その疑問が浮かぶと同時に敵も彼らの動きを察知し、組織の者を送り込んでくる。
相棒と二手に分かれ、銃を持った追跡者をやり過ごした老人。だが、更にその成り行きを物陰から観察していた男が、老人に銃を突きつける。
「動くな!CIA管轄下の極秘任務として、あらゆる介入を阻止すべく命じられている…」
だが、老人はそう告げる男の腕をひねりあげ、難なく銃を奪い取る。
シグ・ザウアー。CIA、FBIの官給品か。そして老人は路上に跪くCIAエージェントに告げる。
「お前らのボスに伝えろ。Floyd Whitmanが戻ったと。」

Floyd Whitman。死んだはずの男が帰ってきた。

1945年6月。ヨーロッパ戦線で戦った父の帰還を待つFloyd Whitman少年の家の前に、一台の軍事車両が停まる。だが、それに乗っていたのは父ではなく、無情な報せを告げる軍からの使者だった。
「君の父を殺したのはナチではない。君の父は裏切り者の共産主義者による最初の犠牲者となった。これから奴らとの闘いが始まる。そして我々はその闘いに必ず勝利する!」
こうして、少年Floyd Whitmanの胸にはこの国が迎えた新しい戦争への思いが深く刻まれることとなる。成長し、優秀な成績で大学を卒業したWhitmanはCIAへとその歩みを進める。

Whitmanには少年時代から共に育った親友がいた。Trent Jackell。Whitmanと共に同じ大学へ進学し、同じくCIAへと進む。
学業の成績、スポーツなどにおいて常にWhitmanに一歩遅れ、隠れたコンプレックスを抱きながら友情を育んできたTrent。だがCIAでは、裕福な権力者の家系に育ったTrentが本部局員となる一方、 Whitmanは現場の情報員へと道が分かれる。

1965年、Whitmanはインド ニューデリーにて初の海外任務に就く。同地で彼はKGBとつながりを持つと目されるロシア人Valden Nechkovとの接触に成功する。 相手もWhitmanの素性を察知しており、何度かの接触の後に取引を持ち掛けてくる。
Nechkovは政治信条より自身の利益-金-を優先する男だ。
Nechkovとの関係を深めるうちに、Whitmanはソ連邦内のロシアン・マフィアへの足掛かりを掴んで行く。 やがてその道はWhitmanと親友Trentを東西冷戦下におけるCIAのひとつのブラック・オペレーションへと導いて行くことになる…。

Whitmanは何故「死んだ」のか?
そして、2003年の現在何故戻ってきたのか?

やがて、Whitmanの前には様々に形を変えた「過去」が姿を現して来る。
かつての友、共謀者、そしてかつて愛した女…。

1945年東西冷戦の幕開けから、20世紀末の終結、そして21世紀までにわたる愛憎のエスピオナージュ大作!

[Comixology 『Black Op』#2 プレビューより]

ちょっとわかりやすいように整理して説明してきたのだが、実はこの物語、現在である2003年と、1945年から始まるFloyd Whitmanの人生が短い数ページのエピソードで交互に語られるという形で進行して行く。 こういうのを見たことあるだろう。そう、アレだ。セルジオ・レオーネ監督、デ・ニーロ、ジェームズ・ウッズ、エリザベス・マクガヴァン 出演の1984年映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』 である。別に私の思い込み推測とかではなく、この作品は明らかにあの映画を意識して作られている。エスピオナージュ版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』である。
主人公Floyd Whitmanは2003年の現在では、ほぼ70歳近い老人。しかし、あらすじ内にも書いたように、現在でもCIAの下っ端エージェントぐらいなら軽くいなせる力を残している。 そして更に元ネタである『ワンス・アポン~』と違っているところは、そちらの主人公が理由もわからず過去に呼び戻されたのに対して、この物語の主人公Whitmanは自らの意思で戻ってきた という所だ。死んだはずの男が戻ってきた、と言えば、まあ大抵の人はもう察しているように、その目的は復讐である。 現在と過去が交互に語られるストーリーを読み進めて行くうちに、彼の目的とその理由も次第に明らかになってくる。
東西冷戦下にもしかしたらあったのかもしれないCIAのブラック・オペレーションをめぐる、読み応えのあるエスピオナージュ大作である。

【Black Op Season2】

前述の通り、こちらはSeason2となってはいますが、先の『Black Op』とは全く関連のないストーリーで、そちらと共通するキャラクターなども一切登場しません。 唯一共通するのが、CIAによるブラック・オペレーションを描いたストーリーだということ。おそらくは『Black Op』が好評で、続編となるものは作れないけれど、 同じようなテイストを持ったものでシリーズとして続行できないかという意図により作られた作品だと思います。

『Black Op Season2』の舞台となるのは、世界にオイルショックをもたらすことになる第四次中東戦争前夜のイラク。一組の夫婦を装ったCIAエージェントがオイル・カンパニーの取締役という肩書を偽装し、 テヘランへやってくる。
夫はSol。CIAの任務でベトナム戦争の地上部隊に同行し、情報収集の任に当たっていたが、泥沼の戦場の中で自らの職務に対しても疑問を抱き始めている。
妻はJanine。ヒッピー・コミュニティーに潜入して情報収集活動に当たっていたが、FBIの潜入捜査官に正体を勘付かれ、違法行為であるCIAの国内での活動を隠ぺいするため、捜査官を 殺害するという失態を犯した直後の任務。
噛み合わず、反目しながら任務にあたる2人だったが、当地で動くうちにある計画が進行中なのではないかという疑いを抱き始める。だがその報告は、担当指揮官の段階で一蹴され、本国まで届くことはない。
また一方で、様々な失敗から無能の烙印を押され、モサドから放逐されたが、返り咲きのチャンスを求めイラク内で独自に情報収集を行っていた元工作員Mosesも同様の動きを察知し始めるが、 情報局内で完全に信用を失っている彼の言葉にとり合う者はいない。
CIA局員Solのなかでも、曖昧な疑いは確信に近付いて行くが、一向に本国まで報告が届く様子のない状況に焦りは強まってくる。そしてそのうちに、この動きは意図的なものであり、 この情報がアメリカ本国に伝わることを望まない勢力が存在するのではないかという疑いを抱き始める。
そしてその間も、世界を震撼させることになる事態勃発の時は、刻一刻と近付いてくる…。

[Comixology 『Black Op』#8 プレビューより]

アメリカ、イスラエルが政治・軍事的な視点から起ることを予期していなかった侵攻が実行された裏には、このような動きがあったというのは、なんか色々な説や、もしかしたらそれを題材にした 小説作品などもあったりしそうだが、生憎当方はそっちの方はあんまり明るくないんで知りません。そこんとこで話拡がらないのは申し訳ない。ル・カレぐらいはなるべく全部ぐらい読みたいとは 思ってんだけど…。
こちらは無印と違い時間的にも短いスパンの中での物語なのだが、同様に短いページでキャラクター・場面転換があり、少し複雑で説明過多になりそうなストーリーをテンポよく読ませます。 結末は、多分小説作品などで書かれたとしても米英や日本ではこうならず、この辺がフランス味かな、と思ったりもしました。

フランスには、かつて日本でも創元推理文庫から60作が翻訳されたSAS/マルコ・リンゲ・シリーズ(仏本国では2013年に全200作をもって完結)があるように、エスピオナージュ、スパイアクション・サスペンス物は 人気のジャンルなのでしょう。Comixologyでバンド・デシネ作品を眺めていても、結構それに属すると思われる作品が多く見られます。まだまだそっちの方手つかずで言うのもなんだけど、 その手の中でも結構硬派に属する作品ではないかと思われ、その辺が高く評価されたのではないかと思います。

作者チームについてですが、まずストーリーのStephen Desbergについては、英語のウィキペディアもありました。2010年にはフランスのコミック界のベストセラー作者10位にランクされたたそうで、 BD界では英語圏でもウィキペディアが作られるレベルの著名な作家なのでしょう。1954年ベルギー、ブリュッセルでアメリカ人の弁護士の父とフランス人の母の間に産まれまる。 父がMGMのベルギー、ルクセンブルグ、オランダへの配給責任者となった関係もあるのか、子供の頃はアメリカ映画で育った。大学では法律を学んだが、コミックの道へと進むことになる。 えーと、この辺からがちょっと自分の方にBDの知識がなさ過ぎて、出版社などの説明が不可能…。申し訳ない。かなりスローペースですが勉強中です。子供の頃親しんだコミック雑誌として Spirouという名前があり、こちらは英語のウィキもあり、ちょっと見てみたのだが、週刊誌なのだけど、8ページとかで内容もショートストーリーやギャグ物ということで、 日本ともアメリカとも随分違う環境だったように思われます。DesbergもこのSpirouからキャリアを始めているので、やっぱり初期の頃のはショートコミックだったのでしょう。 デビューが1978年で、その後子供向けの物からグラフィックノベルという方向で進んで行くようなのだが、この辺でもやっぱりこの時期のBDの変遷みたいな知識がないとちゃんと説明できなそうです。 すんません。Spirouを出しているDupuisという出版社とはDesbergも付き合いが長く、色々な作品を出版しているようです。Dupuisという所も、そちらの薄い週刊誌の他にも多くの グラフィックノベルを出版しており、Comixologyでも多数販売されています。そちらも英語のウィキがあるし、その辺をBDの歴史みたいのと照らし合わせて行ったりすれば、もっと BD知識付くんじゃないかなあ。まあワシの勉強法なんてそんなもんなので。今回はとりあえず、ベルギーの子供は少なくとも60~70年代頃はアメリカのより薄い週刊のマンガを読んでたらしい、 というあいまいな知識が付きましたね。そんでStephen Desbergさんは70年代後半ぐらいから活躍してるBDの著名なライターということです。
[Comixology 『Black Op』#3 プレビューより]

作画のHugues Labianoについては、フランス語のウィキしかなかったのですが、Europe Comicsのホームページの方に英語の紹介ページがありました。 1963年フランス、バイヨンヌ生まれ。1992年より活動を始めているということで、こちらもなかなかのベテラン。フランス出身ではあるのだけど、デビューはスペインだったそうです。 なんか日本からだとごっちゃにしがちだけど、スペインのコミックは、フランス・ベルギーなどを中心とするBDとはちょっと別の系列らしい。この辺についてはまだ勉強中。 まあ根本的に怠け者なのがいかんのだが、この辺勉強することホント多いなあ。その後フランスに戻り、97年にJean Dufauxとのコンビで『Dixie Road』を作画。 この作品で受賞歴もあるので、こちらが代表作ということになるのかな。こちらは現在Europe Comicsからの英語版も出ていて、Comixologyで読めます。 その後はフランスにて様々なジャンルの作品で活躍ということ。
画風は、ご覧の通り、シャープな線で人物、情景をリアルで緻密、正確に描き出して行くというもの。これまでまだ読んだものは少ないが、一般的にはBDは日本のマンガと比べ 1ページ内の情報量がかなり多い。具体的にどう多いかというと、文字量も多いのだが、根本的にコマ割りが小さい。例えば日本のマンガではページによって違っても 平均6~7分割がベースだとすると、BDのベースは9かそれ以上という感じ。今回書いていてフランスやベルギーでは8ページの週刊漫画誌を読んでいるというのを知って、 今、その流れからくるものなのかもと気付いたりしたのだけど。で、この作品も日本の感覚からすると、かなり小さくコマを割っているのだけど、 その一つ一つが非常に緻密に描かれている。おそらくこれは手描きなのだろうけど結構拡大してみても線の粗は見えなかったので、そもそもがBDの原稿というのが かなり大きいのだろうな、ということも想像できたのだけど、それでもやっぱり結構小さい画も緻密に描かれているなあ、と感心して読んでいました。 まあデジタル時代の昨今「元の画の大きさ」みたいなのはあまり意味は無くなってきているのだろうけどね。
かなり個人的な感想だけど、その正確で緻密なタッチから、『サムライ・ノングラータ』の 谷口ジローによる作画を思い出していました(原作:矢作俊彦)。フランスのコミックから深い影響を受け、ペンネームもジャン・ジローから付けた谷口ジローの作画が、 BD作品と共通点があるなんていうのは当たり前かもしれないけど、なんか自分的には一回りして逆側からつながったという気がしたんすよね。
『サムライ・ノングラータ』は1991年の矢作俊彦-谷口ジローの黄金コンビによる傑作。矢作作品のカバーを多く手掛けている谷口なのだけど、マンガとしての合作は この一作きりという大変貴重な作品。永らく絶版でしたが、現在は電子書籍版がフリースタイルより出版されています。ただこれ、発行日が2016年になっているのだが、 2018年に引っ越した際埋もれていたプリント版を発掘し、これちゃんと電子書籍出てんのかなあと思って検索してみた時には見つからなかったのだけど? 時々電子書籍の発行年月日ってよくわからないよね。

最後に版元であるDargaudについて、また英語のウィキを見てかなり手探りで書いときます。まあワシ的には今後のBD学習に役立つと思うので。 Dargaudを創立したのはGeorges Dargaudという人。元は広告代理店のブローカーだったということだが、なんかとりあえず今の日本から見るとものすごくろくでもなくいかがわしい仕事してた人に見えるな。 そういうわけじゃないんだろうけど。奥さんと一緒に1936年にDargaudを設立。43年にはコミックの出版を始める。1948年、Dargaudはベルギーで有名なTintinを発行するRaymond Leblancと接触。 LeblancはフランスにTintinを売り込むべく、様々なパブリッシャーと接触していたのだが、The Adventures of Tintinの作者Hergéが戦争中ナチスが関わる新聞でTintinを描いていたことから 協力者とみなされ、ことごとく断られていたというところ。Dargaudはそんなの関係ねえ!とフランスでのTintinの発行を敢行。その後のDargaud躍進の礎を築いたのであった。[つづく]

いやつづくじゃないだろ。だがまあかなり情報盛りだくさんでこっちがお腹いっぱいになっちゃったんで、今回はこのくらいでいいじゃろ。とりあえず今回はいつもComixologyで 見てたDupuisやDargaudが随分歴史のあるパブリッシャーだったんだな、と初めて知ったりもした。その辺からいっぱい出てるんでまた続きを勉強する機会もあるからさ。 ちなみに後半名前の出てきたTintinというのは日本でもお馴染みの『タンタンの冒険』シリーズのあの永遠の変な寝ぐせ野郎ね。初登場が1929年ということで、日本の子供が のらくろや鳥獣戯画を読んでる頃、ベルギーの子供はあーゆーの読んでたんだね。いや、鳥獣戯画は違うんじゃないか?1929年といえば、ダシール・ハメットの『血の収穫』が 出た年でもあるね。いや、これはチャンスがあったらいつでも言いたいだけなのだけど。今回調べてみて、実は日本でこの『タンタン』シリーズが絵本という体裁で 全巻翻訳されているのを初めて知ったよ。\すげえ/

結構前にバンド・デシネについてもやりまーす、と言って、何とかここでやっと一回というところなんですが、まあなんかこんな感じで適当に面白げなのをひっつかんで語り、 ゆる~くバンド・デシネ知識なんかも深めて行ければなあ、と思っております。Comixologyでは、この辺が抜けてるんだよなあと思っていたエンキ・ビラルやフィリップ・ドリュイエ なども英Titan Comicsよりそれぞれのライブラリーという形で英訳版の刊行も進み、バンド・デシネについても新旧かなりの作品がいくらかお手頃な英訳版で読めるようになってきております。 これはなんとしても片っ端から読まんとなあ。そういえば英訳バンド・デシネのCinebookも英国のパブリッシャーだし、バンド・デシネについては米国より英国の方が関心も高いのだろうね。 私のバンド・デシネ学習については完全にそっち頼みの英語版のウィキなんかも主に英国の人が作ってくれてるのかもね。とにかくこういうのは回数を重ねているうちに何とか形になってくる ものなので、米英のコミック同様にバンド・デシネについてもできるだけ頑張って行きたいと思いますので。[つづく]

※今回の下のリスト『Black Op』に関しましては、アマゾンの方で販売されていないため、Comixologyから画像を借りてきて並べました。ビジュアル的な一覧にはこだわる厄介者なので。


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■Black Op


Black Op Vol. 1

Black Op Vol. 2

Black Op Vol. 3

Black Op Vol. 4

Black Op Vol. 5

Black Op Vol. 6

Black Op Vol. 7

Black Op Vol. 8


■サムライノングラータ (矢作俊彦/谷口ジロー)



■タンタンの冒険



■戸梶圭太最新作!KIndleにて絶賛発売中!



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2021年2月22日月曜日

2021 スプラッタパンク・アワード ノミネート作品発表!

今年もやって参りました!スプラッタパンクアワードです!第4回!もしかしたら1回とか2回とかで終わっちゃうかも、と思っていましたが、さすがに4回となると順調に定着し、 このちょっとアレなジャンルの中心となってきているようです。本年2月14日に自薦・他薦の応募が締め切られ、3日後2月17日主催者Brian Keeneのホームページにて発表された各部門 ノミネート作品について、えー、私としては最大限急いだ感じでややいち早くお伝えいたします。
とは言ってみたものの、前回の7周年でぼやいていた通り、当方ではなかなかホラー関連まで手が回らず、去年に至ってはホラー方面は全く読めていないという情けない事態…。 なんでかなあ、ワシ去年何読んでたんだろうと、Kindleを見てみると、まあこちらに書けていないだけでそれなりにずいぶんいいのも読めてるんだけど、ああそうか、結構大作の ストックホルム三部作読んでたしわ寄せで、アレコレ読まなきゃが溜まってしまってたんだろうな、と思ったり。そんな中で、ああこれあったじゃんと思い出したのが、10th Ruleの Bodie Myersによるバイオレンス・ホラー『The Walking Funeral: Hell - Book 1』!ああ、これ面白かったなあ。なんか思いつきで勢いで手に取って読み、本当に楽しませてくれた こういう作品のことを忘れず、もっと正体不明の怪しげなやつを勢いで読んで行かなければなあ、と冒頭から反省している次第です。
まあそんな相変わらず紹介者として適任とは思えない私ですが、第1回からのお付き合いもありますので、今回も何とかわかる限りご案内して行きたいと思っております。


2021 Splatterpunk Award ノミネート作品

【長編部門】

  • Pandemonium by Ryan Harding and Lucas Mangum (Death’s Head Press)
  • Tome by Ross Jeffery (The Writing Collective)
  • Dust by Chris Miller (Death’s Head Press)
  • Slaughter Box by Carver Pike (Self-Published)
  • Gone To See The River Man by Kristopher Triana (Cemetery Dance Publications)
  • They All Died Screaming by Kristopher Triana (Blood Bound Books)
  • The Magpie Coffin by Wile E. Young (Death’s Head Press)

【中編部門】

  • The Slob by Aron Beauregard (Self-Published)
  • Bella’s Boys by Thomas R. Clark (Stitched Smile Publications)
  • Juniper by Ross Jeffery (The Writing Collective)
  • Red Station by Kenzie Jennings (Death’s Head Press)
  • True Crime by Samantha Kolesnik (Grindhouse Press)
  • The Night Silver River Run Red by Christine Morgan (Death’s Head Press)
  • How Much 2 by Matt Shaw (Self-Published)

【短編部門】

  • “The Incident at Barrow Farm” by M. Ennenbach (from Cerberus Rising, Self-Published)
  • “Full Moon Shindig” by Patrick C. Harrison III (from Visceral: Collected Flesh, Death’s Head Press)
  • “Phylum” by Tom Over (from The Comfort Zone and Other Safe Spaces, NihilismRevised)
  • “Footsteps” by Janine Pipe (from Diabolica Britannica, Keith Anthony Baird)
  • “Next In Line” by Susan Snyder (from Devour the Earth, Madness Heart Press)
  • “My Body” by Wesley Southard (from Midnight In the Pentagram, Silver Shamrock Publishing)
  • “The God In The Hills” by Jon Steffens (from The God In the Hills, Filthy Loot Press)

【短編集部門】

  • War of Dictates by John Baltisberger (Death’s Head Press)
  • Cerberus Rising by M. Ennenbach, Chris Miller and Patrick C. Harrison III (Self-Published)
  • The Essential Sick Stuff by Ronald Kelly (Silver Shamrock Publishing)
  • Rhapsody In Red by Peter Molnar (Stitched Smile Publications)
  • Visceral: Collected Flesh by Christine Morgan and Patrick C. Harrison III (Death’s Head Press)
  • The Comfort Zone and Other Safe Spaces by Tom Over (NihilismRevised)
  • Blood Relations by Kristopher Triana (Grindhouse Press)

【アンソロジー部門】

  • Chew On This edited by Robert Essig (Blood Bound Books)
  • Brewtality edited by K. Trap Jones (The Evil Cookie Publishing)
  • Welcome To the Splatter Club edited by K. Trap Jones (Blood Bound Books)
  • Worst Laid Plans edited by Samantha Kolesnik (Grindhouse Press)
  • Crash Code edited by Quinn Parker (Blood Bound Books)
  • If I Die Before I Wake Vol. 3: Tales of Deadly Women and Retribution edited by R.E. Sargent and Steven Pajak (Sinister Smile Press)
  • Psi-Wars: Classified Cases of Psychic Phenomena edited by Joshua Viola (Hex Publishers)

【J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD】

  • John Skipp


ちょっと冒頭部分で書き損なってしまったのだけど、今回もタイトル画像は、アンソロジー部門から一番エグイ画像を。ということだったのですが、下のリストをご覧いただけばわかるように、 一時期のどうかしちゃってるヤバいカバーアートは、今回に関しては少し抑えめの傾向で、そんな中でこれかなあという感じで選らんだのがBlood Bound Booksの『Chew On This』。 まあ内容に関してはボルテージが下がっているわけではないだろうから、ちょっと一時的な傾向でまた「グヘへ、どうだ怖くて手に取る気も起るまい!」というのが並んでくれるのを期待しております。
そして、今回の主催Brian Keeneの覚書では、スプラッタパンクシーンはますますの隆盛を見せ、自薦、他薦の応募が前回にもまして熱くなり、今回からは各部門ノミネート作品を7作までアップした ことが告げられています。そして前回に引き続き、さらに女性の作者・読者が増加の傾向を見せていること、そして今後の発展を期待されるニュージャンルとしてスプラッタウェスタンの登場などについて 言及されています。
うーん、スプラッタウェスタン!すげー読みてー!実はこのスプラッタウェスタン、昨年登場し、今年さらに勢いを増しているDeath’s Head Press発の新ジャンルで、 同社では「Splatter Western Book」と銘打ったシリーズを昨年中に8作も出版しており、うち4作が長編・中編部門にもノミネートされております。詳しく知りたい人は、とりあえず長編部門の Wile E. Young『The Magpie Coffin』がシリーズBook 1として発行されており、リンクからアマゾンのKindle版販売ページに進めば、シリーズ一覧が見れます。ワシもこれは早急に絶対読むよん!
個人的な注目は、まずそのスプラッタウェスタンなんですが、他にまずパブリッシャーとしては昨年登場のDeath’s Head Pressの躍進。ちょっとその陰に隠れちゃってるかもしれないけど、 Blood Bound Booksもじわじわと勢力を増してきている感じです。C. V. Hunt姐さんのGrindhouse Pressもすっかりこのシーンの一つの極として定着してきた感じです。
その一方で、 これまでこのシーンの中心だったDeadite Pressの名前がないのは少し寂しいところ。まだ完全に終わったわけではないようだけど、昨年あたりはほとんどリリースもなかったようです。 そちらから『White Trash Gothic 2』を持って独立したSection 31 Productionも、その後は停滞したままの感じ。ちなみに『White Trash Gothic 3』は昨年末Necro Publicationsより 発行されています。2、3とも早く読まねばとワシのiPhone Kindleでずっと待機中なんだが…。
作家としては第2回にマッドJK血みどろホラー『Full Brutal』で長編部門を制したKristopher Trianaが 長編2作、短編集1作がノミネート。今このジャンルで一番勢いのある人なんでしょう。
女性作家ではGrindhouse Pressからの中編とアンソロジーの編者としてノミネートされたSamantha Kolesnik。 Grindhouse Pressはこの辺の女性作家からもちょっと毛色の変わったものを出してくれそう。
あと個人的にちょっと気になってるのが、今回初登場で長編、中編部門にノミネートされているRoss Jeffery。 ミニマルテクノのアルバムジャケット風のカバーも気になる。内容はディストピアホラーということで、同じ設定のシリーズの一部で、先行する作品が中編部門の『Juniper』になるらしい。 なんかこういう直感は少なくとも個人的には当たったりするので、何とか読んでみたいもんだけど、と思う。
あと、J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARDは日本でも翻訳のあるジョン・スキップ。こちらのスプラッタパンク功労賞は、辛うじて日本でも翻訳のあったりするジャンルの重鎮が続いているのだけど、 もう日本では長らくこのジャンルの作品が翻訳されていなかったりするので、そろそろ日本的には種切れになっちゃうかも。そもそもが主催のBrian Keene自体からして無かったりするからなあ。 どうよ、竹書房とか。でも竹書房の翻訳文庫も最近は北欧物や、イスラエルのSFアンソロジーとか出して、もう「背表紙までハッタリ臭い文庫」とは言わせない!ぐらいの感じになってきてるからねえ。 え?そんな呼び方してたのワシだけ?いや、なかなか読めないんだけど基本的には結構注目してますから、竹書房さん。竹書房背表紙までハッタリ臭い文庫は、全国書店、創元文庫の外れの 余りスペースなどで絶賛発売中!
ということでちょっと見回しただけでも面白そうな期待作満載の2021年度 第4回スプラッタパンクアワードノミネート作品発表でした。各受賞作の発表は例年通り、 8月にテキサス州オースティンで開催されるキラーコンにての予定ですが、昨年に引き続き開催不可となってしまった場合には、昨年と同じくオンラインでの発表となるそうです。 現在のこの状況から、今後はぬるい応援ソングや本当にあったりなかったりする泣ける良い話ばかりが大手を振って歩くウンザリ環境が続くと想定される昨今、 良心のかけらもない極悪ホラー作品であなたもスカッとしませんかい?


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2021年2月14日日曜日

ブログ7周年 ! \\すげえ// \\やべえ//

ブログ7周年です!7周年を記念してパクりました!いや、リスペクトっす。\\すげえ//、\\やべえ//といえば『はるみねーしょん』!大好きっす!全8巻持ってます。 大沖先生ありがとう!

で、7周年です。なんかやってるうちに7年経ちました。えーっと、そのぐらいです…。まあ所詮はそんなもんですね。
ただまあ、こういうのもいくらかでも読んでくれる人がいるからこそで、やっぱりそういう人達にちゃんとお礼を言わなければ、というのが今回の趣旨なので。
7周年です!どうも有難う!
終わりです。

いやまあ、挨拶なんてそんなもんですよね。なーんか自分過去に書いたものほとんど読まないし、7年を回顧してみても、多分色々無駄に反省して、無駄にへこんで、 そのうち各方面への罵倒呪詛になってって無駄な時間使うだけになっちまいそうだし…。どーすっかな、と思ってるうちに、あーそういやあの事書いてないな、 と思いついたのがこちら。

■日本のパルプについて考えてみる
なんか常々考えていることなのですが、なかなか書く機会というか、余裕が無かったりしてこれまで書くことが出来なかった「日本のパルプについての私の考え」というのを 7周年のこの機会にちょっと書いてみようと思います。
こういうことを書く時には、まずパルプとはなんぞやというところから始めるのが常道だと思う人もいるでしょうが、常々言っとるように私はそういうクソ定義というのが何より嫌いな 人間ですので、ほら~パルプっつったらアレだよアレ、大体わかんだろ、ぐらいのアバウトなところで始めたいと思います。所詮そんな評論家みたいな連中が言い立てる「定義」なんてもんは ジャンルを変な形に縛って足枷にして身動き取れなくしたり、見当違いの方向に向かわせたりするだけのクソ迷惑なだけの代物なんだよ、ぐらいの悪態付きで。

まあ一般的にイメージされるアレのパルプの、日本における偉大なる先人と言えば、まず大藪春彦でしょう。正義やモラルなど、あらゆる価値観・思想に縛られず戦闘機械として尖鋭された 個人こそが最強であるという、ある種の超人思想を軸とした大量の作品群で、ただ一人の手により日本の犯罪小説のプロトタイプともいえるものを構築した、日本のハードボイルド、ノワールジャンルにおける 最も偉大なる先駆者であります。その内容、そして量の両面で、大藪春彦作品はアメリカにおけるパルプに相当するものと言って間違いないでしょう。
そうやって偉大な先駆者によりひとつのジャンルが打ち立てられ、そこに続く同じ傾向だったり、模倣だったりする作品群により日本のパルプジャンルと呼ばれるものが形成されて行くのです。 しかし…。確かに大藪春彦により「大藪春彦的」とも呼ばれるようなひとつのジャンルは確立されたのですが、はっきり言ってしまえばそこに読むべき作品というのはほとんど存在しないというのが 私の意見です…。
個々の作品や、作家の作品傾向について批判するというのは自分の好まないところなので、ここで書くつもりもありませんが、要約すれば「単なる粗悪作品」としか言いようのないものがみつかるばかり…。
パルプ作品を読むというのは、そういう大量の粗悪作品の中から評価すべきものを発見することです。パルプ的なものにこだわりを持つ私ゆえ、その考えで過去に何度も日本のパルプジャンルの中から 宝石を見出すべくそこに挑んで行ったのですが、最後まできちんと読む気になれるものすら少なく、なんとか半ばぐらいまでは読んだもののさすがに耐え切れず、後半は15分ぐらいでナナメ読みして 読了と同時に手近のゴミ箱に叩き込むというのを何度繰り返したことか…。
いくつかの作品を読み、もうこういう奴らの書いたもんは二度と読まん!と思うのですが、しばらくするとまたそういう考えが 持ち上がってきて、またいくつか読んで心底落胆する、というのを定期的に何度も繰り返し、最後が電子書籍により手軽になった米英原書を多く読み始める前夜ぐらいで、その時にはもう日本のこのジャンルには 希望は持てないのだろうと完全に諦めの気持ちを持ちました…。

日本で出版される犯罪小説が全て大藪春彦的傾向の物であるとまでは言うつもりはありませんが、やはりその多くの部分をを占めるのがその傾向の作品だと思います。 そして何故大藪春彦に匹敵する作品がなかなか生まれないのかというのは、前述した通り大藪作品というのはある種の超人思想を軸としており、 それは作者大藪自身の思想・哲学にも相当する強固なものであり、そういったもの、あるいはそれに代わる強固なものを持たない作家がただ形式だけを真似してみても 単なる粗悪作品しか生まれないのではないか、というのが私なりに考えた個人的な意見です。大藪春彦的なジャンルで、彼に匹敵する作家が現れることはないとまでは言いませんが、 少なくともこれまでは本当にそういう資質を待った作家によってそういう作品は書かれていないと思います。大藪春彦作品については言いたいことも山ほどあるのだが、 書き始めたらそれだけで終わってしまいそうなので、それはまた別の機会に。今回の趣旨は大藪作品についてではないし、ましてやそれを模倣した粗悪作品を批判するような時間の無駄でもないんで。

日本の犯罪小説でパルプ的とカテゴライズできるものの中にも、大藪春彦とは毛色の違った作風で評価できる作家もいなくはない。だが、そういうものを加えても今度はパルプのもう一つの側面である 「量」というものは実現できない。というか全体の中でそういうものの割合があまりにも低いのだろう。実際のところ、結構根気があるのは私の数少ないスキルだし、いくらかでも道筋のようなものが 見えるなら、多少の劣悪作品を読む事も厭わない。しかし、やはり日本のこのシーンでは、唯一の大藪春彦を除けば、残念ながらパルプというものは存在しない、というのが私の意見です。

ただまあ、あんまりダメばかり言っていても仕方ないので、少し付け加えるなら、近年のこのシーンで唯一質量的にもパルプ的なものに近付けたのが、あの戸梶圭太なのでしょう。まだまだ戸梶先生には 余力はあるのでKindleダイレクトにて今後も頑張ってほしいものです。
深町秋生というのもシリーズ物だったりという形でそういうシーンで頑張ってる作家なので、それくらいはその辺のダメ群から よけといてあげんとなあ、とか時々思うけど、まあワシが心配することでもないか。
以前に名前を挙げた深見真も、結構大藪にも近いかというジャンルでいい作品を書いていたのだけど、今はそういう所から 少し離れているようなのが残念。また戻ってきてくれるのかな。まあ私はきらファンの第2部のストーリーの方も楽しみにしとりますんで。

しかしながら、周辺でそれら極少数の読むべき作品が見つかるとしても、実際のところはあまりにひどいの読まされすぎてもうなかなか日本のそのジャンルには手を出す気が起きないのが現状。 なにしろこの国で売れてるなんてのは全く読む理由にはならんし、コイツがホメてるから、なんて指針はもう存在しないし、ましてや映像化なんてのはまったく価値判断基準にもならない。 なんかさあ、大藪春彦新人賞受賞なんていうのも怖くてなかなか手を出す気になれないぐらいなんよ。もしガッカリ作品だったとしたら、もう…。
ただねえ、その一方で私が尊敬し絶対の信頼を抱くPaperback Warrior師匠が、マック・ボランスピンオフ作品やデス・マーチャントシリーズなんかにも果敢に挑み、その中から評価できる作品を 見出してきたりするのを見ると、あーオレって惰弱やなあ、と反省したりもするのだけどね。

さてここで、一旦は少し視点を変え内容的な部分を考えず、出版供給と消費の部分から日本のパルプというものを考えてみよう。すると、な~んかね、結局日本における出版流通みたいな部分で見た パルプ的なものって、実は赤川次郎とか森村誠一みたいなんじゃないのという気がしてくる。それに対応するようなTVのサスペンスドラマみたいの考えると、ますますその辺の確信は強まる。 結局日本でいつまで経っても自称「本格」が幅を利かせてるのもそういう下支えがあってのことなんかねえ。

結論:日本におけるパルプは「ナゾトキ」である。

…だがそれでいいのか?本当に日本にはアメリカに見られるようなハードボイルド、ノワール、ホラー、メンズアクションアドベンチャー、SF、ウェスタンへと広がるバイオレンスと暗黒の エンターテインメントは存在しないのか?そういった作品への欲求や、創作への希求はあのレベルのものでしかないのか? 大量に作られるパルプというものの必然性である多数の粗悪作品の中から宝石が見つかる確率は、日米の人口や国土の面積比率から換算すれば、これほどの低確率になってもやむを得ないのか? この国に本物のパルプ文化を見出すのは不可能なのか?

…いや、待て。アレがある。日本にはアレがあるぞ!
さいとうたかを、佐藤まさあきらによって劇画として始まり、70年代~80年代にかけ、小池一夫、梶原一騎らを筆頭に確立・拡大され大量の作品群が産み出された大人向けマンガ! あれこそが日本の真のパルプなのではないのか?アメリカのコミック界では様々な試みはあっても存在し得ず、日本のみに確立され、そしてアメリカにおけるパルプと同じ読者層を ターゲットにしたこの作品群こそが日本のパルプだ!というのが私の考えである。

この考えで言えば、日本ではより訴求力のあるマンガという手段が発展したために、小説としてのパルプへと向かう才能がマンガへ流れ、それゆえにそちらに優良作品が少なくなってしまった ということも想像できる。
そしてまた一方で、なんか日本にもあるように見える小説のそのジャンルも、大藪春彦という存在がなければ、ほぼ見向きもされないチョイ足しエロ小説と、 社会派推理小説みたいのを変形したミステリにくっついたフジツボみたいなもんに分かれてそもそも存在すらしていなかったのかもという考えも浮かんできたり。やっぱ大藪先生は偉大やねえ。
まあ昔のマンガ原作者の中には小説家に成れなくてその道に進んだ人もいるようだが、結果としてそのせいでエンターテインメント方向に開花し、「作家」として名を残せた、なんてケースも 多いんじゃないのと思うがね。

さてこのパルプとしてのマンガ。なんかこの書き方だと、70~80年代のなつマン発掘ー、みたいなのを提唱しているように見えるかもしれんが、もちろんそんなわけではない。モチのロン。
続く福本伸行の『カイジ』『アカギ』、そして『嘘喰い』から『賭ケグルイ』、更には現在私が注目する村田真哉、山口ミコト、宮月新といった作家による作品群へ、という形でこのパルプ精神は引き継がれ、 その流れは続いて行っているのである。
あっいや、そんなに空手チョップや昇竜拳でツッコまなくてもこのマップにかなりヌケが多いのは知ってるよ。ギャンブル物に偏り過ぎだし…。 このヌケを埋め日本のマンガパルプの系譜を明らかにして行くのが、私のいっぱいある目標のうちの一つである!
繰り返すが、日本のマンガとしてのパルプは、既に過去となった作品だけではない。 ここに挙げたほかにもまだ私が読めていない優れた作品は山ほどあるはずであり、そしてこれからも作られて行くものなのだ。

ここで一つ注意しておこう。マンガの一つの流れをパルプとみなし、その系列に小池一夫と村田真哉を置いた時、それは例えば村田真哉最新作の『ブラトデア』のどこそこに小池一夫のこういう影響が 見られるとかいうことを意味するものではない。それはマーク・グリーニー/グレイマンが、マイク・ハマーからマック・ボランへの流れの末裔であることは明かであっても、それが グレイマンがハマーやボランからインスパイアされたということではないし、またグリーニーがそれらを全く読んでいなくともその事実に変わりないということと同じである。 全ての作品は、先人が道を拓き、フィールドを造り上げた上に現れるのだ。その意味で小池一夫、梶原一騎と村田真哉は連続し続けているのだ。

最後に少し、パルプというものの存在位置ということについて考察してみよう。
パルプの対極にあるものは何か。日本の文壇とか的な考えで行くと、パルプというものを「大衆文学」とみなし、その対極にあるものは「純文学」ということになるだろう。
だが、それは全くの間違いである。
パルプの対極にあるもの、パルプが対峙するものは常にそういった作品ではなく、そういう優劣を作り上げるシステムだ。 道徳や教育的価値、果ては社会規範や小手先の常識とやらまで、場合によってはそれらの持つ意味すら熟考せず、ただ世の中のルールとしてそれらのチェック項目を満たしたもののみ 認定する良識とやらぬかすシステム。そしてそれに従っていれば自らの世界が護られると信じる追随者たち。
いつの時代も奴らはそのシステムへの反逆者だ。奴らの闘争手段は武力ではなく、アジテーションや理論武装でもない。その豊かな物語により、硬直した価値観を蹴飛ばし、嘲笑うのだ。 パルプこそが常に状況への反逆者なのだ。
だがモラルの境界周辺を進む彼らの道は常に綱渡りだ。そしてその道では心根の卑しい下衆はすぐにその正体を露呈する。読者が喜ぶサービスだと思い込んでる、ただ陰惨なだけの SMまがいの凌辱シーン。都合のいい「弱肉強食」や「現実主義」。そんな物を粗悪品と呼び読後ただちにゴミ箱へ叩き込むことには一切の痛痒を感じない。
だが常にその中に、良識が決して認定も許容もしない新しい物語、心躍らせる物語が潜んでいることを私は知っている。そう、知っているのだ! そしてまた、性懲りもなく、そのクラゲだらけのヤバい海へと、浮き輪に掴まってパシャパシャと泳ぎ出して行くのである。おお~い、そこ遊泳禁止だぞ~。


ということで7周年記念に普段なかなか余裕もなくて書けなかった、私の日本のパルプについての考えを、熱く語ったり、ほのぼのと終わってみたりしました。
なんか他にも色々と思いついたりしたこともあったり、細かいところであれはあーだ、こーじゃない、など結構あったけど、ちょっと間に合わんかもとか、長くなりすぎんようにと あちこちで捨てて、まあこのくらいがいいのかな。これでも充分長いけど。
随所に肉体LOVE♡北上次郎や読書のプロや団塊、サブカルなど各方面への無差別罵倒ルートもあったが、それやり始めると途方もなく長くなるので、なるべく横道にそれずに進んだ。 なんか攻略本にも推奨されるような最短最速ルートで初めて完走したような気分ですね。
ただその勢いでどっかでやっとかなきゃと思っていた、B級映画のB級というのはそういう意味じゃなくて製作費とかのことなんだよね、とかチャンスを見れば得意になって言い出す お勉強系解説小者が、パルプというのはそもそもがこの辺の時代にこういう形で出版されたもののことで…とか吹き始めるのを牽制するのも忘れちまってたので、ここでやっとこう。 うるせえよ。ナンカ知恵袋でも行ってやってろ。
しかしまあ、ちょいと熱く語っては見たものの私自身の現状は…。本来まずやらねばならない、日本には翻訳されず、また翻訳されてもまともに語られる場もなく、やる気もない 読書のプロどものお小遣い稼ぎ駄解説を付けて出版されるハードボイルド、ノワール作品についてや、こんなにいいものが沢山あるのにこちらもやはりほとんど語られる場もない、 いや、この質と量に関してこりゃいかんだろ、ぐらいの海外のコミックについてすら遅れに遅れて息も絶え絶えぐらいなので、まあこのブログでこっちまで拡げて行く余裕はないな…。
実際のところ、読む方でもやっぱりそっちの海外物が優先されちゃって、その少ない時間のなかでもとりあえず先へ進むための新しいものが優先されて、なかなかクラシックパルプの方は 進まんというのが現状。そういうのって特に今ではマンガKINGやらマンガ図書館Zとか行けば無料で読みまくれたりさえするのになあ…。なんとか今年こそはあの『カラテ地獄変』三部作を『ボディーガード牙』から 完全通読し、『人間兇器』へと進みたいとか、川崎三枝子もとか、ああゴルゴ大山脈とかもう果てはないよ。あっ、ゴルゴって言ったらゴルゴ勝手にどっかへスピンオフの村上和彦『日本極道史~昭和編~』も 止まったままや、と思い出しちまったり…。
まあそんな感じで、7周年記念ということであんまりブログ本体には反映できなそうな個人的な趣味のお話をしました。あれだな、なんか堅いことやってるブログの人が、何周年記念なので 今回は趣向を変えて僕が個人的にはまっている家庭菜園の話をしまーす。というような感じで読んでもらえりゃいいかな。で、いつもは日本で出てるのなんて誰でもすぐ見つけられるから いーだろって感じで省略してるけど、今回は個人的に期待する未来へ進む日本のパルプを代表し、村田真哉『アラクニド』シリーズ、山口ミコト『デッドチューブ』、宮月新『虐殺ハッピーエンド』をアマゾンの リストの方に並べてみました。家庭菜園おススメ野菜の種とかぐらいの感じでほほうと眺めてみてください。

というわけでブログ7周年でした。この辺で締めてとっとと逃げます。
しかしなあ、7周年とか言ってみてもワシがこんな虚弱な怠け者じゃなきゃ、せいぜい2~3年で充分書けるもんじゃないの、とへこんでみたり。
なんか7周年直前のつい先週も一時的にほぼやる気なくしたりしたしなあ。いやさあ、そろそろ7周年まとめなきゃとか思ってPCに向かったんだけど、なんか先に思い付いたことあって色々調べていたら、 気が付くとモニターにアマゾンのことごとく未読の北欧ミステリリストがずらっと並んでてさあ。時々なんかの流れでおススメにひとつ二つ浮かんでもあーそれちゃんと持ってるから!いつか読むんだから! とスルー出来るんだが、それだけ大挙して現れられると…。わー、これも読めてねえ!これも!なんでこんなに読めないんだよう?そーかブログなんてやってるからだよ!もーやめるー!…みたいな。 まあ単なる夏休み最終日小学生モードなんやけどね。
実際書くことないとかいうことじゃなくて、もーこれ絶対書かなきゃという予定が5~6回先まで決まってるような状態なのだけど。 何とかこれの前にと思って書いてたけど、こっち間に合わなくなりそうで中断してるあと少しで書き上がるのもあるんだよ。 なんかそんな小学生モードを時々暴発させてへこたれながらも、これからも続けて行きます。7年間有難うございました。たぶんまだ続きますので今後も時々見に来てやってください。
あ、そういや今年のスプラッタパンクアワード、ノミネートそろそろ発表かな?あっ、今日募集締め切りならもうすぐ発表されちゃうじゃん。あー来週あたりまた急いでやんなきゃならなそうだな。 そういや第2回の長編賞のやつ読んだのにいまだに書けてないし…。第3回に至ってはまだ読めてもないし!なんでこう上手くいかんかなあ?あーこんなことやってるからだよう。 もうブログやめるー!ぷー!


■DEAD Tube ~デッドチューブ~ (原作:山口ミコト/作画:北河トウタ)

■虐殺ハッピーエンド~蒼の章~ (原作:宮月新/作画:向浦宏和)

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