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2021年12月21日火曜日

バンド・デシネ Humanoidsの異色クライムコミック

今回はバンドデシネ Humanoidsの異色クライム作品2本立てでお送りします。Humanoidsと言えば、メビウス作画による『アンカル』などのアレハンドロ・ホドロフスキーによるメタバロンユニヴァース、 またはホドヴァースなどが有名で、今は休眠中のようだが、しばらく前はユマノイドとして日本でも独自にホドヴァース作品などを出版していたところ。あれ?ホドヴァース検索してみたけど見つからんぞ? Jodoverseって英語のウィキ見たら書いてあったんで、てっきり日本でも流通してるのかと思ったのだけど。読み方これでいいのかな?どうもワシそっちの事情に疎くて『アンカル』もずっと『インカル』だと 思い込んでたぐらいだし。それも最初の日本語版人に借りて読んだきりだし。まあ個人的にコミックの翻訳版どうも苦手でしかも高かったりもするんで、Comixologyで英語版セールの時に集めてちまちま 読み始めたぐらいなんだが。そもそもフランス語ので日本語訳と英訳とどちらがよくできてるのかも不明だけど、まあそっちの方が安いからね。で、とにかくJodoverseっていうそうです。まだあんまり広まってないなら ホドヴァースでもホドバースでもいいからみんなで広めてくださいね。なんか微妙にダサくて気に入ってるので。
なんか出だしから話ずれて関節はずれかけてるみたいだけど、とにかくそのホドヴァースで知られるHumanoidsの異色クライム作品です。Humanoidsももちろんのことホドヴァース以外にも色々な作品を出していて、 その中でクライム作品がどのくらいの割合を占めるのかもよくわからんのだけど、なんかボーっと時々見ていると割とSFやファンタジー傾向の作品が多そうにも見えるのだけど。まあそん中のクライム作品。 結構前のHumanoidsのクライムセールで読んでみようと思って適当に引っつかんで買って、もたもたしているうちにまた最近にクライムセールが来たので見たら、また同じの売ってたのでそれほどは無いのかもしれん。 多かろうが少なかろうが、とにかく面白ければいいんで読んでみた。で、どちらもこれやっぱりバンドデシネならではだよなあ、というちょっと変わった面白さがあったので、今回はこれで2本立てで やってみることにしました。

【Dark Rage】

原題は『Colère Noire』。オリジナルフランス語版の発行は1990年。シナリオはThierry Smolderen、作画はPhilippe Marcelé。約50ページの一般的なバンドデシネサイズで、全3巻。

ある日、シングルマザーMarielleは、ティーンエイジャーの息子と共に近くの大型スーパーマーケットへ買い物に出かける。退屈な買い物に付き合うのを嫌がり、持参したスケートボードで遊ぶ息子を駐車場に残し、 一人で店内に入るMarielle。店内に広がるのは当たり前のような日常風景。苦情をつぶやく年配の女性。いちゃつくイタリア人らしきカップル。
だが、そんなありきたりの風景は一瞬で破られる。
「全員、その場を動くな!」
奇矯な動物などのマスクを被り、銃を構えた男たちが叫びながら店内に駆け込んでくる。強盗だ!
強盗団はレジから金を奪いながら、威嚇に応じないと見た人々を次々と射殺して行く。店長。年配の女性。そして崩れた商品の下敷きとなった恋人を助けようとしたイタリア人カップルの男性。
そして、強盗団が去った後、店の外によろめき出たMarielleが見たものは、逃走中邪魔な車を排除しようと強盗団が銃を乱射した巻き添えとなった、愛する息子の遺体だった…。

凶悪な犯行ながら、警察は犯人の手掛かりを一切掴めず捜査は難航する。愛する者を失った悲しみに打ちひしがれるMarielle。そしてイタリア人カップルの女性Stella。同じ痛みに苦しむ二人は、 心を通わせるようになり、絶望のあまりともに断崖絶壁からの自殺を図るが果たせずに泣き崩れる。
そんな中、息子を失った痛みにさほど感情を動かされる様子すらない元夫に、半ば義務的に連れ出され外出したMarielle。後続車の乱暴な運転に事故を起こしそうになり、怒り車を降り相手の車に詰め寄る元夫。 その車から出てきた粗暴な雰囲気の男が、からかうように元夫をあしらいながら発した言葉、声、口調。それはMarielleがスーパーの犯罪現場で耳にしたものと酷似していた。
この男に間違いない!そう確信したMarielleは、ただちに車のナンバーを書き止め、警察へ向かう。
警察はただちに男の身元を突き止める。Harld Gregon。開業医。犯歴は無し。だが…。
彼女がいくら確信をもって訴えても、その主張だけでは警察は犯歴もない人間の捜査に乗り出すことはない…。
Marielleは空港に駆けつけ、帰国の途に就こうとしていたStellaに追いすがり、訴える。
「犯人を見つけた!Harld Gregonという男よ!お願い、私を信じて!」
Stellaは搭乗機をキャンセルし、Marielleと共にGregonの自宅を見張り、調査を始める。
だが、その数日後、警察がMarielleの家を訪れ、Stellaの写真を見せ、こう告げる。
「彼女は国際指名手配されているイタリアのテロリストだ。」

愛する者を失い、絶望と悲しみと怒りで結びついた二人の女の愛と友情の復讐行!その道は必ずや憎むべき仇にたどり着く!

[Comixology 『Dark Rage #1: An Afternoon Full of Lead』 プレビューより]

この物語は実は現実の事件からインスパイアされたものである。ブラバント連続殺人事件とでもいうのか。ベルギー、ワロン地方の同地で80年代に起こった未解決の連続強盗殺人事件ということだ。 1982年から85年の間に散発的にこの物語のようなスーパーマーケットなどへの武装強盗事件を引き起こし、合計28人もの死者を出している。あちらでは有名な事件らしいし、というか日本だってこんなの起こったら 歴史に残る何大事件に数えられるようなものだろうし、色々の憶測も立てられ、この事件についての小説や映像作品なんかも作られてそうだが、日本に入ってきてるのかどうかはちょっとわからなかった。
この作品に関しては、おそらくは真相を推理するとかいうより、インスパイアされたぐらいのものだと思うのだけど、なんとなくウィキに書いてある推測されている説などとも同様の部分があったりで、 実際のところどのくらいまでのものかもちょっとわからない。

で、私が何をもってこの作品を「異色」クライム作品と言っているかというと、既にComixologyのプレビューから紹介したこの独特の作画である。いかにもな感じのカバー画は英訳版の英語圏向けのもので、 オリジナルフランス語版のカバーはこちらの作画Philippe Marceléによるものになっている。どれを読んでみるかな、と色々選んでいるときにプレビューでこの画を見てこれに決めた。ちょっと少なくとも 自分の認識内のクライムやアクションといったジャンルとは違っている、いかにもフランス方面の癖のあるタッチにパステルカラーの美しい彩色。ところどころで床や壁面にアート的な パターンを取り込んだ構図なども見られる。しかし、あくまでもバンドデシネをそれほどは目にしていない日本人の目から見た印象で、先にいかにもフランス的、と書いたように、もしかするとそちらの目で 見れば、フランス-ベルギーでは伝統的ぐらいな技法・表現が多く使われ、このような画でクライムジャンルが描かれることはそれ程珍しくなく、「異色」という表現は少し強引なのかもしれない。
ただね、そこで思い出したのがずいぶん昔、始めたばかりの頃に書いた米国の『Chew』のことだ。あー、アレも結局まだ全部は読み終わってはいない体たらくなんだが、もう既に殿堂入りぐらいの名作人気作で、 最近は続編かスピンオフかなんかも出てる。あっ、そういや『The Boys』のそういうのもあったし…。とうっかりいつもの色々読めてなくて焦りモードに入ってしまったが話を戻すと、以前『Chew』について 書いた時、結構アメリカのコミックで伝統的に使われてきたような表現もベースにあるのでは的なことを書いたと思う。多分、米国のギャグ・ユーモア的な作品の流れや、アンダーグラウンド系などが 頭にあったと思うのだが、その後ずいぶん多くの様々な作品を見てきた後でも、というかそうしてきたからこそこの作画をどこかのカテゴリーに分類するよりも、そこに見られる個性・オリジナリティを 高く評価すべきという気持ちは高まっている。それを踏まえて、バンドデシネについてはまだまだでも、日本のマンガを数多く、米国英国あたりのコミックを少々は見てきた目で、敢えてこの作品を 異色クライム作品と評価したいと私は思うのである。

作者チームについて。シナリオThierry Smolderenは1954年生まれのベルギーのシナリオライター。代表作は近未来SF『Gipsy』。これはかなり有名な作品らしく、英語のウィキもある。Europe Comicsから 英語版もComixologyで販売されているので、いずれ読んでみなくては。短いながら本人の英語版のウィキも作られていて、フランス語版を見ると80年代からかなりの作品を著している。エッセイストとしても 知られるほか、アートスクールの先生として生徒と共にアニメーションのウェブジンに精力的に取り組み(現在は終了していると思われる。)、アイズナー賞にもノミネートされたコミックの研究書の著作もある。 また、えー加減に掴んで読んできたものの、結構大物作家だったらしいな。これはまた一つ名前を憶えとくべき作家だろう。こうやって自分的にバンドデシネも拡げて行くのだよね。
作画Philippe Marceléについては、残念ながら英語のウィキはないのだが、フランス語のウィキを読めないながらも見てみると1970年代から作品を発表し始めているからかなりのベテランというところだろう。 この『Dark Rage』のプリント版を米国で出版しているのだろうと思われるSimon & Schusterのホームページに辛うじて短い作者紹介が見つかったのだが、それをフランス語のウィキと照らし合わせて部分的な解読を 試みると、1943年フランスのボルドー生まれ。代表作は80年代の『Les Capahuchos』という作品だということらしい。で、これなんか情報ないかと検索してみたのだが、やはり英語で自分が理解できそうなのは 見つからず、画像検索を見てみると、おおっ!、この『Dark Rage』の流麗な線ながら少しあっさりした感じの画風とはちょっと違う、線やベタを重ねたダークなタッチ。こっちの方が自分的には好みか。 何気にこの画に惹かれてこの作品読んでみた私の鑑識眼なかなかのもんじゃないの、と自画自賛してみたりな。 だがこちら残念ながらComixologyでは英語版はおろかオリジナルフランス語版も販売されていない。というかそもそもPhilippe Marcelé作品、今んとここの『Dark Rage』のみなのだよね。 前にエンキ・ビラルとかも英Titan Comicsから出て、結構バンドデシネの主だったところComixologyで読めるんじゃないか、ぐらいのところ言ったけど、こうしてみるとやっぱり氷山の一角ぐらいなんだなあ、 と改めて思ったりもするよ。


【Bad Break】

原題『Pas de Chance』。こちらはストーリー・画ともPhilippe Richeによる単独作品。約100ページの全2巻。

市街地より遠く離れたと思われる周りを草原に囲まれた道。停車した救急車から一人の男が降り立つ。顔面を包帯に包まれ、救急隊員の服から自前のものに着替える様子から、その男が治療を受けていた病院から 隊員を装い救急車を盗み出し、ここまでやって来たのだろうということが窺われる。
男は顔から包帯をむしり取り、救急車を放置し、傍らの草原を下り始める。
やがて目の前に現れたのは、スクラップ車がうずたかく積まれた廃車置き場。車両パーツの中古販売を行っていることが看板から読み取れる。
男は懐から出した、何かから破り取って来たらしいその廃車置き場の広告と、看板を照らし合わせ、それが目的の場所であることを確認する。

無数の猫が徘徊する廃車の山の間を抜け、トレーラーハウスの事務所へとたどり着く。中にいたのは廃車置き場のオーナーの盲目の老人と、従業員の男。オーナーの狂った老人は廃車置き場に群がる猫を 殺すことに躍起になり、毒団子を作り続けている。
「昨日こちらに運ばれてきた事故車のメルセデスを見せてもらいたいんだが。」
従業員の男が彼を事故車が積まれているところへ案内する。
「ずいぶんひどい事故だったようだな。運転していた者はお陀仏だったろう。」
「…。」
「すまん…。あんたの家族だったか?」
「いや、運転していたのは俺さ。」
男は事故車のトランクを開け、中に残っていたブリーフケースを取り出す。そして、その中に仕舞われていた拳銃を取り出し、懐へ収める。
「俺の用事はこれだけだ。ついては帰りの足にまだ動く車を買いたいんだが。」
「うちは廃車しか扱ってない。そもそも車を売るための書類も作れないしな。良かったら俺が近くの鉄道の駅まで乗せて行ってやるよ。」
「それは助かるな…。」

従業員の男は呼び止める狂ったオーナーを放置し、男を自分の車に乗せ、最寄りの鉄道駅へと向かう。
「ところでそのブリーフケース、一体何が入ってるんだ?」
「実を言うと俺にもよくわかっていない。」
「どういう意味だ?」
「つまりこれは…、俺が解こうとしている謎だ。そしてこいつがやってきてからというもの、俺にやってくるのはトラブルばかりだ。」
「…?」
「実のところ、俺はずっとつけられている。首狩り共に。」
「あんた俺をおちょくってるのかい?」
「そんなつもりはない。もしあんたが誰かにこのスーツケースのことを訊かれたら、見たことも、俺に会ったことも黙っていてくれ」
そして、男は数枚の紙幣を差し出す。

駅に到着すると、一日一本きりの列車がちょうど到着したところだ。ツイてるな。
だがそう思ったのも束の間、列車から顔に異様な化粧を施した外国人の男たちの一団が降り立ち、奇妙な武器を振りかざし、男に襲いかかってくる!
殴打され倒れた男の救援に駆けつけた廃車場の男は、男が取り落とした銃を拾い上げ襲撃者に向かって発射する。
「なんてこった!俺、人を殺しちまったぞ!」
「構うな!逃げるんだ!運転を頼む!」
車に戻り、廃車場の男の運転でその場を逃れる二人。だが安心した次の瞬間、男は血を吐いて意識を失う。
「なんてこった!こいつも死んじまったぞ…。」

途方に暮れた廃車場の男は、車をポルノ女優のポスターが張り巡らされた広告看板のバラックの中に隠す。男が後生大事に抱えていたブリーフケースを開けてみる。中には表紙に薔薇のデザインが描かれた古い本が 入っていた。本を開いてみると、それは東南アジアの海へと向かった宣教師の船に水夫として乗り込んだ刺青師の男の手記だった。

男の乗った船はとある島に立ち寄り、海岸に現れた原住民に積み荷のマリア像と食料の交換を持ち掛ける。手にした武器でマリア像を打ち砕く原住民に恐れをなし、船に引き返そうとした一行だったが、 原住民の長と思われる男が、刺青師が自らの胸に彫った刺青に興味を示し、それを自分に彫るように身振りで訴えかけてくる。懐柔のきっかけになるかと、それを受諾し、刺青師は長の小屋で背中に 刺青を彫り始める…。
だが、その結果語り手である刺青師は、その原住民の長を殺し、部族に受け継がれたてきたある秘密の力を盗み出すことになる…。

「お前もその馬鹿げた代物を読んでしまったか。そしてそれに憑りつかれることになるんだよ。」
そこまで読み進めたところで、死んだと思っていた男が起き上がり、声を掛けてくる。あんた死んだと思ったよ…。
「俺はそう簡単には死なん。」
そしてバラックの中を見回し、ポルノ女優のポスターに目を止める。
「パリに戻るぞ。俺はこの女に会わなければならん。」

[Comixology 『Bad Break Vol. 1』 プレビューより]

要約すると、これは19世紀末~20世紀初頭頃にある刺青師によって盗み出された南洋の島の部族の秘密の宝と、それを探し求める男の物語である。うっかり巻き込まれた廃車場の男は、この後も謎の男と共に宝探しの 旅に同行することになる。そしてこの謎の男の正体は、このしばらく後に明かされるのだが、パリに住む死にまつわる遺物、ミイラやドクロなどの収集・販売を商売とする人物。何気にいわくありげだが、実は 何か秘密の力で不死身とかいうわけではなく、なんかちょっと身体が丈夫なだけのようだ。
男が「首狩り」と呼ぶ追跡者の外国人集団は、その宝を取り戻すべく南洋の島からやって来た部族の子孫である。
男が会わなければならないと言っていたポルノ女優には、実は下腹に本の表紙に描かれていたものと同じデザインの刺青があり、そこから彼女の祖母が刺青師の物語に深く関わる人物であったことがわかり、 彼女も加えた三人で謎の宝を探索する物語として展開して行く。

さて、この作品の「異色」たるゆえんだが、その独特のスタイルにある。ここまで紹介したストーリー(Vol.1の約半分、50ページぐらい)の中でも、何かこれは後にもう少し詳しく説明されるのだろうか、 と思わせるような部分がいくつもあると思うのだが、それらについて後のフォローはほとんどない。例を挙げれば前述の、この男が何か超自然的な力かなにかで不死身なのかと思わせるようなところがあるのだが、 特にそんなことはないというようなところだったり。後半、話が進むにつれその度合いは大きくなり、何か行き当たりばったりのロードムービー的な展開になってくる。カバーの画像、小さくてちょっとわかりにくいかとは 思うのだが、これはVol.2前半ぐらいのあるシーンを描いたもので、夜道に停めた車のヘッドライトの中、三人が全裸で立っているところ。ある事情で大雨の夜に墓荒らしに行き、その後雨に濡れ泥で汚れた服を車内に干し、 全裸で車の外に出てきたというシーンなのだが、その後襲撃に遭い、服ごと車を盗まれ、しばらくは三人とも裸のまま草原を横切り、見つけたボートで川を下るというような珍妙な展開になってくる。
なんか廃車場の男、とかいう感じで説明してきたのだが、こいつら別に名前がないわけではなく、説明したストーリーの少し後ぐらいに名前も出てくる。それにしても名前がないとやっぱわかりにくいかと思うんで付けた みたいな感じだったりして、とりあえずここまでは出てこないし、まあいいかみたいな感じでそのまま書きました。まあ、そのくらいに考えちゃうくらいなんかゆるいテイストもあったり。
だがこれらは作者のストーリーテリングの不手際というわけではなく、明らかにその感じを狙ったものだろう。 Comixologyの紹介文でも「noir tropes and dark humor」というような言葉が使われていたり、オフビートな、という表現もあったりもした。
個人的な感想では、例えばゴダール初期の『気狂いピエロ』なんかで、最初ストーリーがちゃんと語られるのだけど、だんだんグダグダになって行くのと似たようなテイストが感じられて結構楽しかった。 なんかフランス映画とかもっと多く見てる人だともう少し的確なことも言えるんかもな。いや、いつもながら映画言いたがりなんてお呼びじゃねーけど。まあ、直線的に結末へ向かって行くクライムストーリーとは ちょっと違った、色々遊びがあったり、意図的にグダグダにしてみたりなどのなかなか楽しい異色クライムコミックでした。

作者Philippe Richeについては、Humanoidsのホームページの著者紹介ぐらいしか自分がわかるのは見つからなかったのだが、それによると1971年生まれで、アニメーションのストーリーボーダーとして 『アーサーとミニモイの不思議な国』や『CODE リョーコ』などの作品に携わった後、2003年に出版されたこの『Bad Break』がバンドデシネ作家としてのデビュー作となるそうだ。ちなみにこの作品、 まあ英訳されてるぐらいだから結構好評だったのだろうけど、その後2016年にこの三人組が再登場する『The Alliance of the Curious』という続編も描かれている。こちらも既に英訳されている。 こちらはComixologyではコメディのジャンルも付けられている。これ以外にどのくらいの作品があるのかはよくわからないのだが、ComixologyではGlénatからの『Les Mystères de la Cinquième République』というシリーズが 販売されている。こちらはライターとしてで、英訳はなくフランス語オリジナル版のみ。ジャンルはアクション/クライム/ヒストリカルというところで、シリアスな作品のようだ。 71年生まれというともう50歳になるところだが、なんかまだ面白そうな作品を書いてくれそうな感じじゃない。続編の方もいずれ読もうっと。

というわけで、今回はHumanoidsの異色クライムコミック2本立てでお送りしました。なんかよくわからないまま適当に掴んだものでも、色々調べてみるとそれなりにバンドデシネや作家の一端が見えてくるものですね。 例えばバンドデシネも読んだのを全部書いてるわけじゃなくてそん中で気に入ったのについてだけよく調べて書いてるわけだけど、自分的にいまいちかなあ、と思ったものでも詳しく調べてみるとバンドデシネの中での 位置とかがそれなりに見えてきたりして得るところもあるのかなあとか思ったり。しかしまあ、なんか下手にいくらかわかってこれ読まなきゃ、みたいに固まってしまうより、なんか適当にこれ面白いかなあ、 と引っ掴んで色々読めるのが続いた方がいいのかなあ、とも思ったりします。と言いつつ次は某有名作を準備中だったりするのですが。
なんかやたらと「日本のマンガとは違います」が強調されるバンドデシネですが、例えばキャラクターシリーズ物がメインのアメリカと比べれば、基本的に日本同様作家によるオリジナル作品であったりと 日本のマンガと同じ感覚で手に取りやすいのがバンドデシネだったりするので、そんな感じで適当に掴んで読む人が増えるといいんだけどね、と思います。


あーもう年末かよ…。またなんか随分長く中断してしまったよ。まあ毎度おなじみ、昨年はコロナで中止となった法事など色々言い訳はあるんだが、もう少し頑張れよ…。なんか週末少し休んで気力が回復 してくると、なんでこんなに書けないんだろうとか思っちゃうけど、まあ平日の日々に関しては今日は力でないんでしょうがないや、の繰り返し。なんかさあ、自分だけの感じかもしれないけど、今年気温の下がり方 極端じゃない?ここまでレベル1だけどここからレベル上がって急に強くなるみたいな感じで。先週末辺り結構最後近くまで書いてて、これならあと少し平日ちょこまか書いて週末までにアップできるぞ、 と思っていたはずなんだが、なんか寒さに対応できなくてへこたれて、ほとんど書けなくてまた週末送りになってたり。何とかお正月休みでそこんところリセット的に回復できるといいんですが。 しばらくぶりになってしまいましたが、まだ全然やめてないんでまた頑張りますです。ばいちゃ。

こちらがもたもたしている間にまた戸梶圭太先生の新作が出てしまいました。詳しくはまた次回小説の方で。何かいつもの感じでバンドデシネ物はKindleじゃ無理だろうな、と思っていたのですが、さすがHumanoids!どちらの作品もちゃんと見つかりました。しかもKindle unlimited会員なら無料で読めます。Europe Comicsとかも日本でも販売してくれるともっとお手軽になるのにね。


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■Dark Rage



■Bad Break



■The Alliance of the Curious



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2021年10月24日日曜日

Ray Banks / No More Heroes -Cal Innesシリーズ第3作!マンチェスターのチンピラ探偵疾る!-

お待たせしました。誰も待ってなくても勝手に待ってたことにします。マンチェスターのCal Innesアニキ第3作『No More Heroes』です!
なんだかなかなか進まない言い訳も色々あるけど、今回はなるべく早くサクサク進めることを優先するよう努力します。つーのはこれは3作目で、次に最終第4作が控えておるから。そして最終作ともなるとそれまで以上に 書くことが増えるというのが経験上分かってきてしまったからです。「経験上」というのは、以前のストックホルム三部作のことでもあるのですが、直近では既に読み終わっているマッキンティ Dead三部作!これは相当あれこれ言いたいことがあると、読み終わる以前の途上から考えさせられるものでありました。まあそちらの方は近日登場で乞うご期待というところですが、とにかくまずは こっち、Cal Innes四部作の第3作『No More Heroes』。別に何部作の何作目だろうが、常に一作ごとは重要であることに変わりはなく、決して結末へ至る過程などとして軽く扱ったりしていいものではないのですが、 それでも全部終わってから見ると、また違った見方も出てきたり、新たな考えを追加したりということも多くなるもので、そういう意味でもきちんと早く最終作に至るためにも、あんまり寄り道せずに、 一旦はスッキリまとめておかなければ、ということです。あー、念のために言っとくけど、これは肉体LOVE♡北上次郎がよくやらかしていたクソ尊大な「○○シリーズは完結してから語る!」みたいな クソ批評ぶりっ子モードではないからね。これはこれで読んで思ったことはきちんと書くし、その先で間違ってたりわかってないことがあってもそれはそれで、その時点の感想をその位置で書くのが シリーズの読者の務めであり、その作者に対する正当なスタンスだというのが私の意見っすから。いや、まあこういうのが寄り道なんだよな。さっさと行くよ!

本編に行く前に、まずは前作『Sucker Punch』の続きから。といっても前作のInnesが世話になってるPauloのボクシングジムの練習生Liamの付き添いでアメリカ、L.A.のボクシングトーナメントに行っての顛末は、 わざわざネタバレしなくてもこっちを読むのに問題ないんで、前作からつながるところだけ。
アメリカで厄介事に巻き込まれているうちに、途中からInnesが何度電話してみてもPauloと連絡が取れなくなる。何とかそっちの事件から解放されて心配しながらマンチェスターに戻ると、Pauloのジムがなくなっていた…。 火災により全焼。証拠もなく警察による訴追もないが、犯人は明らかにMoだ!Innesはその足でMoの行きつけの店に乗り込み、怒りに任せ徹底的にぶちのめす。そして、最後に作中序盤から、 仕事をしつこく頼んできたDon Plummerに電話をかけ、依頼を引き受けることを告げる。
前作『Sucker Punch』のストーリー紹介の中で、自分でもちょっとバランス悪いな、と思いながらも主な展開であるアメリカでのボクシングトーナメントの方にあまり関係ない、序盤のMoとのいざこざを わりと長めに書かなきゃならなかったのは、実はこういう事情があったからなのでした。こうして居場所も失い、嫌々ながら元の稼業に戻ったCal Innesアニキのその後は?というところから 第3作『No More Heroes』は始まります。

【No More Heroes】

さて、「元の稼業に戻った」とは書いたが、実は正確には探偵稼業に戻ったわけではない。以前から探偵業務の一部として請け負っていた立ち退き状の配達という仕事にのみ復帰しただけで、 探偵としての調査・捜査といった仕事は受けてはいない。第1作『Saturday's Child』でもこの仕事をやっていたInnesだが、英国では家主が店子に立ち退きを要請するためには、 正式に作成された書状を直接本人に手渡すことが義務付けられているというのだと思う。すんません、ちゃんと調べてないのだが。
そしてInnesにこの仕事を依頼しているDon Plummerは、マンチェスターの各地に不動産を持つ人物なのだが、はっきり言って悪徳家主。あちこちに劣悪な不動産を持ち、問題があったり、不満があったりする店子を 数多く抱え、この手の立ち退き状の配達が度々必要となる家主である。
そして今作で、待望(?)の間抜けな相棒が登場!残念ながら弟分ってわけじゃないのだが。その名もDaft Frankと、既に通り名に”マヌケ”が入っちゃってる筋金入りだ。Innesと同じくPlummerに雇われている立ち退き状の送達要員。そもそもはそれほどのマヌケでは なかったそうなのだが、かつて銀行を襲撃し、奪取した現金を抱えて徒歩で逃走、なんとか追手を振り切ったと思い、一息ついて路上に金の入ったバッグを下ろしたところ、そこで中に仕込まれていた 防犯用のカラーボールが破裂!頭からペイントをかぶって逮捕されることとなる。どうもそのペイントがまずかったらしく、刑務所に収監されているうちに少し頭の方が悪くなり、以来Daft Frankと 呼ばれるようになったということ。基本的にガタイはいいのだが、いざとなるとあたふたして役に立たないタイプ。刑務所に入っている間に精神のみならず、健康にも支障をきたしたと主張し、 夏場に車の中でもジャケットを首までボタンを掛けて着こみ、車中でInnesが煙草を吸おうとすると大袈裟にせき込む。こうしてInnesは前作に続き喫煙難に苦しめられることになる。基本的には全く 役に立たないのだが、中盤辺りで、例の弟分ぐらいにちょっと活躍し、結果ひどい目に遭ったりする。
ところでInnesにしてもこのFrankにしてもそれほど危険人物ではないが、一応前科者なわけで、英国の決まりらしい立ち退き状を渡す手続きにしても、とりあえず渡せばよいだけで、渡す人の資格などは 必要ないのだろうね。
そして前作『Sucker Punch』では、第1作『Saturday's Child』での怪我から鎮静剤が手放せなくなり、周りからややヤク中気味と見られていたInnesなのだが、今作ではその依存症状はさらに悪化。 遂には友人のディーラーを頼って薬を入手するまでに至っている。一人称の物語において、常に自己弁護が繰り返されるが、周囲から見れば完全にヤク中と化している。

物語は、InnesとFrankが車中で立ち退き状を渡す借り手が家に戻ってくるのを待っているところから始まる。前述の通りFrankの「健康上の問題」から車中でタバコが吸えず、なかなか姿を現さない 借り手へのInnesの苛立ちはつのるばかり。やっとマンチェスター大学の学生である借り手が、友人数名と共に帰ってくる。とっとと立ち退き状を渡して帰りたいところだが、やはりそう簡単にはいかない。 血の気の多い体育会系の友人数名が一緒にいたこともあり、状況はヒートアップしもみ合いになり、Innesは車のフロントウィンドウを割られながらやっとのことで逃げ出す。当然ながら、 Frankは全く役に立たない…。

もうあんな奴の仕事を二度と引き受けるものか!と思うInnesだったが、なんだかんだで結局また翌日もFrankとともに立ち退き状の配達に向かっている。今度の物件も他のものと同様に、 外見の体裁は整えてあるが、中身はいかがなものか?玄関に向かい、チャイムを押すが、応答は無し。だが、2階の窓のカーテンが少し動いたような…?何度かチャイムを押した後、今度はドアの 郵便受けをガチャガチャ言わせ、そしてそこから屋内を覗いてみる。その時、Innesは異変に気が付く。
「おい、ヤバいぞ、Frank!中で何か燃えてるぞ!火事だ!ドアをけ破れ!」
「え?え?で、でも誰もいないんだろう?」
「お前も見ただろ、カーテンが動いたのを。誰かいるんだよ。俺は背中を痛めてるからこんなドアを蹴れないんだ!こっちが壊れちまう!だからお前がこのドアを壊すんだよ!」
「ま、待てよ、まず消防に通報だ!ああっ、この携帯なんでこんなにボタンが小さいんだよ!子供用かよ!」
あたふたするばかりで埒が明かないFrankを置いて、Innesは自力で入れそうな入り口を求めて裏に回る。裏へ回れば一層火事だということがはっきりとする。割れた窓ガラスから煙が立ち昇っている。 放火だ。犯人はこの窓を割って火元になるものを放り込み、既に逃走しているようだ。裏口のガラスを割り、ドアを開ける。煙と熱気が押し寄せてくる。ああ、俺はこんなことをする柄じゃないのに。
「誰かいるのか!?」
Innesの呼びかけに答えるように、二階から足音が響く。畜生、やるしかない。

二階にいたのは言葉も通じないこの家に住む移民の子供。やっと成功したらしいFrankの通報に応えて消防も到着し、Innesはなんとか子供を救出する。

この救出劇がマンチェスターの地元紙に大きく取り上げられ、Innesは一躍英雄に祭り上げられる。そんなもん柄じゃないと思いつつも、せっかくなら宣伝に貢献したいと、まもなく再オープンされる Pauloのジムの前で新聞用の写真を撮影されるInnes。

だがその一方。家主Don Plummerは最低の防火設備も整わない劣悪な不動産により暴利を貪る悪徳家主として、マスコミから糾弾、集中砲火を浴びせられることとなる。

そんな中、マスコミに追われ、行方も知れなかった渦中のPlummerからInnesに電話がかかる。
「おい、Innes、助けてくれ、お前探偵だろう。俺ははめられたんだ。火を付けた奴を、証拠を見つけてくれ。」
俺はもう探偵はやめたんだ、他を当たってくれ。だが、しつこく食い下がるPlummerに、ちょっと高めの料金を吹っ掛ける。
悪態をつきながら、それでも金を用意してくるPlummer。こうなったらやるしかない。
かくしてInnesは探偵稼業に復帰する。

Plummerによると、最近脅迫めいた文書が送られてきており、その相手もわかっているということだ。要はそいつらが放火犯人だという、警察にも持っていける証拠を見つけ出せばいい。
送り主はMoss Sideなる市民団体。Plummerのいうところによれば、ネオナチ。移民排斥などを強硬に訴えるグループだ。劣悪ながら家賃は低めなPlummerの不動産には、移民が多く居住している。
グループのリーダーはCollins Motorsという自動車修理工場を経営するPhil Collins。(ああ、フィル・コリンズなら知ってるよ。なんかチャリティ活動の一環でやってるのか?違う、そのフィル・コリンズじゃない。)

Innesは先日フロントウィンドウを割られたばかりの車をもってCollinc Motorsを訪れる。図らずも格好の敵情視察の口実ができたわけだ。
件のオーナーPhil Collinsは、愛想よく対応するが、いかにも腹に一物ありそうな男だ。全員が団体の活動員だという従業員たちも目つきの悪い連中が揃っている。
とりあえずはパンフレットなど受け取り、車を任せてその場は帰る。

そしてPlummerの地所についても調べておこうと、最寄りの不動産屋に向かったInnesは、Plummerへの抗議活動として店を取り囲む学生グループとも遭遇する。
折しも市長選が近づき、徐々に政治的にもヒートアップし始めるマンチェスター。
嫌々ながら探偵稼業に一時的に復帰したCal Innesは放火犯人を突き止めることができるのか?

タイトルの『No More Heroes』は、言わずと知れたぐらいの70年代後半に登場した英国パンクロックの重鎮、ザ・ストラングラーズの初期代表曲。ベースがブンブン鳴る太いサウンドをバックに、 太い脅迫ボイスで”ヒーロー共がどうなったか知ってるか?もう英雄なんて沢山だぜ!”と脅しをかける。
ただ、言わずと知れたぐらいにゃ言ってみたけど、ちょっと正確な歌詞調べようかとネットで検索してみたら、まず出たのはゲームのやつだったな。まあネットだとそんなもんか。カートゥーンタイプのグラフィックの 格好よさげなやつだけど、生憎やってない。見て久しぶりに思い出した。『3』まで出てるんやね。
しかし明らかに英国パンクロックを聴いて育ったスコットランド野郎Ray Banksなら、間違いなくストラングラーズの方が元ネタだろう。色々音楽も好きそうで作中でも言及多いしね。あ、そういえば 書くの忘れてたけど、前作『Sucker Punch』じゃジャズをくそみそに貶してたな。個人的にはジャズも嫌いじゃないけど、なーんか日本のハードボイルドといえばジャズみてえに気取ったの散々見せられて、 ちょっとウンザリしてる身としてはなかなか痛快でしたよーん。HAHAHA。
例えば、Cal Innesはパンクロックのハードボイルドだ。金も腕力もなく、知性もなければ人生経験も都合のいいコネもない街のチンピラレベルの自称探偵だ。あっちこっち痛めた挙句にちょっと体を動かせば 息が切れ、鎮痛剤に頼るヨレヨレの半ばドラッグ中毒だ。だからどうした?だが、奴にはいつだって弱っている奴、困っている奴には手を差し伸べずにはいられないハートがあり、不正に対してはどこが 痛かろうが拳を振り上げずにはいられないガッツがある。見栄えが悪かろうがテクニックが無かろうが関係ねえ!薄汚れた街の薄汚れたチンピラレベルで俺は俺だ!と叫ぶパンクロックのハードボイルドなのだ! ハードボイルドは、人生経験を積んだつもりのちょいわる親爺の格言ぶった格好つけセリフ集なんかじゃねえ!これが今読むべきハードボイルドだ!ああ、オレはCal Innesアニキに会えて本当に良かったよ。 日本じゃ翻訳される可能性はまずない、21世紀初頭の珠玉のハードボイルド、英国マンチェスターのチンピラ探偵Cal Innesシリーズ!必ず読むべし!

さて、今作では後半に差し掛かるぐらいのところで、ちょっとした作者Ray Banksによる遊びがある。一人称記述の物語は、基本的に語り手が後に手記などの何らかの形で書いたものであることが装われているものだが、 その場合なら絶対に起こりえないような展開がある。例えば語り手が最後に死亡してしまうというケースはよくあるが、こんなのはちょっと珍しいだろう。まあ見ている側とスクリーンに映し出される場面の 同時発生を装える映画などでは、この状況において当たり前に見られる展開なのだけどね。まあ作者Ray Banksとしては明らかに確信犯的で、逆にこんな奴があとで手記とか書くと思ってんの?といわんばかりでも あったり。どんなシーンかは読んでのお楽しみなので、必ず読むようにね。

今作では、結構序盤あたりでInnesの家族、父と兄についての記述があり、それで今回はそっちの方の展開になるのかな、と思ったがその後は無かったので、続く第4作、4部作最終作はInnes自身の家族に関わる 物語となることが予想されたりする。また、第2作の最後でPauloのジムに放火し、Innesに徹底的にボコられた後、マンチェスターから姿を消した宿敵Moも、今作では登場しなかったが、次作では何らかの形で 復活してくるのもほぼ確実だろう。あと、あんまり頼れないが愛すべき「相棒」、Daft Frankも引き続き登場がほぼ確定!ああ、次で最後か。名残惜しいし、もったいないけどこのまま進むぜ!
4部作をすべて読み終えれば、作者が意図したまた別の形が見えてくるのだろうし、こちらの思い込みや誤解で訂正するべきところも出てくるのかもしれない。だがたとえどうなろうが、私自身のこのシリーズへの 思いは絶対に揺らぐことはないと確信している。また、すべてを読み終えた最後には同様のことを書くのは確実だが、今一度ここで繰り返しておこう。
これが今読むべきハードボイルドだ!ああ、オレはCal Innesアニキに会えて本当に良かったよ。 日本じゃ翻訳される可能性はまずない、21世紀初頭の珠玉のハードボイルド、英国マンチェスターのチンピラ探偵Cal Innesシリーズ!必ず読むべし!


さてさて、国内的には待望のだらデカ3部作最終作『スリープウォーカー』が発売されたわけだが、なんだい、あのクソ帯!「ついにノワールの謎解きが本格ミステリーの謎を超えた!」???またぞろガラミス見当違いの 上から目線の、「ネオハードボイルドはリューインとプロンジーニのみミステリとして評価する」みてえなクソゴーマンの繰り返しかい!いい加減にしやがれ!ってとこだが、今回は色々書かねばならんことも多いので、 いずれまたの機会に極めて口汚く罵ってやるかんな!憶えてやがれ!あー、だらデカ第2作『笑う死体』は1年遅れでやっと最近読みましたが、やっぱ奴上手くなってたな。新潮文庫ハードボイルド都市伝説が かなりまぐれ当たり的に翻訳した近年の英国ノワールの大収穫やね。あー、このペースだと『スリープウォーカー』読むの来年か…?

で、今回何より強く訴えなければならんのはこれだ!遂に出た!現代最強のノワール作家にして無冠の帝王Anthony Neil Smith先生最新作!昨年出た『Slow Bear』に続く新作『The Butcher's Prayer』が、英Fahrenheit 13より遂に出版されました!
なんかさ、秋の予定のはずだったマッキンティ ショーン・ダフィがまた来年まで延びちゃったりしてたのもあって、Smith先生のも延期なんじゃないかと心配してたんだが、しっかり予告通り秋に出してくれましたがな。 ありがとう、Fahrenheit 13!
さて、Smith先生のここに至るまでの近況なのだが、少し遡った今年7月、突如ツィッターのアカウントが消滅!?まあ、この先生基本的には優しい大変ユーモアもある方なのだが、作家的にはとんがっているので 時々こういうことが起こる。以前にも色々ブチ切れてブログをかなり破滅的にやめてしまったりな。いやまあ、かなり長く大学でも教鞭をとっている人でもあり、人格的にも社会性的にも問題があるわけではないのだが、 とにかく作家的にとんがっているのでな。今回何が起こったのかは不明なのだが、まあこれまでの色々を知っている一ファンとしては、ああ、またやってしまったか…、うーん、何らかの形で早く 戻ってきてくれるといいのだが、と思いつつ現行のホームページなどを時々のぞいていると、9月初めごろにめでたくツィッターアイコンが復活。まあ色々あるけどさあ、インディーで出版してる作家としちゃあ これくらいしか宣伝の方法ないからなあ、ということです。折しもFahrenheitからは100部限定の短編作品『Trash Pandas』が出版され、この『The Butcher's Prayer』の発売も迫っており、自著宣伝をしなくては、 と戻ってこられたということでしょう。いやもう全然ありでしょう。世の中しれっとした顔して下品な宣伝垂れ流してるクズ山ほどおりますからな。とにかくお帰りなさい。先生の発言いつも楽しみにしとりますんで。
で、その近著の方だが、先の『Trash Pandas』はFahrenheitが出してるプリント版限定のシリーズの一冊。価格も確か100円ぐらいと安いんだが、Fahrenheitのショップ限定販売で、英国から日本への送料となると、 本体の何倍とかになっちまうんで、欲しかったんだけど買えませんでした。英国インディーのコミックとかでも結構気になってもその送料の敷居が高すぎて諦めること多い。もう完売してしまいましたが、 いつか読める機会もあるかと気長に待ちましょう。
そして今月になって発売されたのが件の『The Butcher's Prayer』!いや、前に予告あったし完全にあの『Slow Bear』の続編か、と思ってたんだが別の作品らしい。いや、別にいいんだが。Smith先生の本なら もれなく読むつもりだし。まだ読めてないのも色々あるけど…。ただまあ、Smith先生の作品も読めてないのはあっても、とにかく新しいものが出たらすぐ読んで現在進行形の先生をきちんと追って行こうというのが 現在の私の方針である。これはなるべく早い機会に読んで今度こそちゃんと書く予定ですから。日本に私以外いるのかは不明のイマジナリーAnthony Neil Smithファンの皆さんお楽しみに!

そしてこちらが前々から書かなくてはと思っていたスコットランドからのノワールの新しい動き。その辺の新スコットランドノワール一派とでもいう連中を結集した最新アンソロジーが、先月‎Bristol Noirから 出た『TAINTED HEARTS & DIRTY HELLHOUNDS: Bristol Noir Anthology 1』『SAVAGE MINDS & RAGING BULLS: Bristol Noir Anthology 2』の2冊。
おもにスコットランド出身のここから新しいノワールを撃ち出してやるぜ、という気概を持った新進作家達が横のつながりで一派的なものを形成し始めている。よし、もうワシが『新スコットランドノワール一派』と 勝手に認定する。その辺の中心となっているのがJohn BowieとStephen J. Goldsの二人だと思う。
John Bowieはこのアンソロジーを出版したBristol Noirの主催者。Bristol Noirはこの界隈ではおなじみのショートストーリーを掲載するウェブジンから、 最近出版にも手を伸ばしたところで、このアンソロジーが最初の出版となる。ダーティーリアリズムによるダークフィクションが主軸で、ブコウスキーに深く傾倒しているとのことである。
Stephen J. Goldsは今年に立ち上げられたウエブジンPunk Noir Magazineの主催者。Bristol Noirのようなショートストーリーの他、作家インタビューや 周辺カルチャーについての情報なども掲載されている。
この辺の動きについては少し前から気になりつつもなかなか書けなかったんだけど、ちょうどカタログ的なものも出たところなのでこのタイミングで良かったかな。ちなみにアンソロジーには、常々スコットランドを 心の故郷と呼ぶAnthony Neil Smith先生や、前世代のってことになっちまうけど、英国インディーノワールのオーガナイザーPaul D. Brazil大将なども参加しております。この辺の注目作家については、 アンソロジーと一緒に下のアマゾンへのリストの方に並べときますので、興味のある人はそっちから。あー、つってもそのうち日本で出版されますとか、そういう類いのことではないからね。「本格ミステリー を超えた謎解き」とかいった時代遅れで偏狭な馬鹿馬鹿しいお題目をお求めの方は他を当たってくんな。まあ今んとこはなかなか読めなくて外から見てるばっかだけど、このムーブメントについてはいずれもっと 詳しく書きますんで。うーん、とりあえずこっちのアンソロジーだけでも早く読もうと思ってるのだけど。

そして最近のおなじみPaperback Warrior師匠の話なんですが、ホント最近なんだけどこれ取り上げてるの見てびっくりした。エド・ブルベイカー/ショーン・フィリップスによる現在最注目のクライムコミック 『Reckless』!師匠のところでは最近割とゆるい感じで週ごとにテーマを決めた企画みたいのをやってたりやってなかったりするのだが、それで新しい作品について語るというような週がありその中で選ばれた ひとつがコレ。ぐぅー、師匠に先越されたッス。悔しい…。まあこれについては少し前にやった『Kill or Be Killed』のところで少し書いたんで、そっちを見てもらえばいいのだが、作品については 師匠も高評価でおススメ!まあコミックとか読まん人でもこのジャンル好きならブルベイカー/フィリップス作品は読んで絶対損しないよ。遅ればせながらやっとかの『Criminal』も読み始めたんだが、 やっぱもうこのコンビの作品はすべて必読やね。
そしてその翌日、今度はこれ来ててまたへこんだわ。Jon Bassoff『Corrosion』!あー、この人のことすっかり忘れてたわ…。結構カルト作家ぐらいのポジションの作家で、数年前ぐらいの 頃だけどDown&Outが、鳴り物入りぐらいの感じでこの人の旧作数点を一挙リリースして、気にはなったのだけど今よりもっと原書を読むスピードも遅くて、とりあえずホラー系かな?ということで後回しにしているうちに すっかり忘れてしまっていたよ…。あーもう到底忘れていいような作家ではないのに!師匠のお陰で思い出すことができましたよ。今度こそはちゃんと読もうっと。

その他、最近買ったちょっといいおススメ本とかも紹介します。前回のでブラック・リザードの流れでバリー・ギフォードの名前が出てきて、そういやちゃんと調べてなかったな、と思ってアマゾンで検索してみたら これを見つけました。『Sailor & Lula: The Complete Novels』。映画化もされた『ワイルド・アット・ハート』から始まり、二人のその後を描いた続編の、そのまた続編やらの長篇中編、確か7つぐらい入った合本です。最初見た時2400円ぐらい だったかで、どうすっかなと思ってたら2~3日後に1500円に下がってたんで即買いました。そのうち元の値段に戻るかもしれないんで欲しい人はお早めに。これ1500円は相当お買い得じゃない?あー、 念のために言っとくけど「映画の続きを知りたいと思い…」みたいな人はお呼びでないからね。全然別ものやし。いるんだよなあ、有名監督が撮ってるとあたかもそっちが原典だと思って原作の方を批判し始める 迷惑な映画言いたがり。
こいつは、今回のRay Banksが最近付き合いあるのそこだけみたいだし、なんか新作出ないかなあと思って以前にも書いたNeo Textのサイトを見に行って見つけました。おい!Eduardo Rissoやん!前回の『Moonshine』の レジェンドチームの作画担当Eduardo Rissoが挿絵を担当しているGerry Brown作『Hole』。Gerry Brownという人はアマゾンで検索するとマーベルとかでコミックのライターをやっている人が出てくるけど、その人なのかはちょっと不明。 まあでもRissoが描いてるんなら絵本だってすぐ買っちゃうよなあ。現在112円と大変お得価格だけど、いずれもうちょい高くなるかもしれんので興味のある人はお早めに。

というわけで、最後やっと戸梶圭太先生にたどり着きました。こっちがバテたりサボったりしている間に新作が2作も登場!8月2日発売の『みなさまのキルスイッチ』は、先生が半年かけた力作ということ。 まあ作品を創る時間は人それぞれだが、戸梶先生的には半年というのは相当かかったということになるようだ。 そして続いて8月16日に発売されたのが『半グレVSノーマスクカルト コロナ日本の内戦2021』。これは4日で書いたそうな。これはタイトルにもあるように、昨年出た問題作『コロナ日本の内戦』に連なる作品 ということである。あっち読んだんだからまずこれから早く読まんとなあ、というところなのだが、なんだか毎度並べるばっかりでさっぱり読めてなくて本当に申し訳ないっす。戸梶先生もSmith先生同様、 現在進行形で追って行かなければいけない作家だと思っているので、読めてないの多いけど、なるべく新しいのから読んでくつもりです。あー?こいつなかなか読めないで積まれてるのを知らんぷりする 新しい言い訳思い付いたんじゃない?いや、読むよ!絶対読むかんね!まあもう少しで色々区切りが付いて戸梶先生のもまた読めるから!なんかさあ未読の翻訳のとか溜まっちゃって少し整理してたからさあ。 自分内では翻訳も「にほんごのほん」というカテゴリで一緒にしてるからなかなか戸梶先生のも進まんのだよなあ。もうすぐホントに読みますからね!ごめん。


なんか後半今年のまとめみたいな感じになっちゃってるんだけど、並べたものはここ1~2か月ぐらいのものです。今回はSmith先生と戸梶先生の新作について、なんとしても書かねばと思っていて、あーついでにあれもこれもとやってたらこんなになっちゃいました。そのくらいのスパンでこんなに貯めちまうのでいくら時間があっても足りません。バカなのでしょうか? バカなのですね。ああそういえばここのところやっていた今年のまとめ的なことは、今年はやらないと思います。いっつも年末のクソランキングとかでどうせ誰も入れなくてなかったことにされるんだろうから、 何とかここで拾っとかんと、というのでやってたのだけど、今年は特にそういうのも見つかんないからなあ。もうあんなランキングどーでもいいし。どうせアレかアレでしょ。大体あの出版社だって、そもそも 海外作品出してるわけでもないし、そっちの方なんてどうでもいいんでしょ。もー国産物だけでやれば?どうせかなりの部分というか、へたすりゃほとんどぐらいが国産物のみ目当てで読んでんだからさ。どうせもーホントはそっちだけやりたいんでしょ。 でもその一方で投票者は海外物の方が人数多かったりさ。まあ日本のミステリ論評がいかに古臭い老害人脈で構成されてるかよくわかるよね。だからって国産物を選ぶそこそこ若い層を無理矢理増やそうとしたら、 しょーもねえ映画ライターみたいの引っ張り出してきたり、あと書店員か?それでも足んなきゃタレントアイドルとかまで連れてきて、んーまあみんな喜ぶすんばらしいランキングができるんじゃないすかね。 本屋大賞やらなんやらとかと二冠三冠続出とか?やれやれ。ホント果てしなくどーでもいいわ。
そんなもんは放っといてこっちは読みたいもん読むだけですわ。これ書いたんでやっとCal Innes4部作最終作も読めるしな。その後は色々片付いてから心置きなくゆっくり読もうととっておいたAdam Howe君だ! Howe君の作品が面白くないことなんてありえないしな。もう爆笑間違いなしや!それからSmith先生と、あースプラッタウェスタンもどんどん読まねば。あーDestroyerも全然終わってないからね。書けてないのが 3冊溜まっちゃってどうしようかでちょっと止まってるけど。あ、それからトラヴィス・マッギー!!!いや、ちまちまもたもたと読んでるんだが、なんかやっぱ読み進めているうちにこれはやっぱり ハードボイルドにおいてマイク・ハマーと並ぶほどのターニングポイントだったんだな、とひしひしと感じてきてもっと読むペース上げなきゃと思ってるところ。マッギー以前と以後って感じか。 まーどーせ「本格ミステリーを超えた謎解き」をお求めの向きにはカンケーねえだろがね。くそ、トラヴィス・マッギーいずれ必ず書くぞ!ってところでこれ以上読みたい本の話しててもきりないんでこの辺で終わりますわよ。


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■Ray Banks
●Cal Innes四部作

●Farrell & Cobbシリーズ

■Anthony Neil Smith:Fahrenheit 13作品

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2021年9月24日金曜日

Moonshine -『100 Bullets』のレジェンドチーム最新作!-

なんかアメリカのコミックについて書く時には、ここんとこ毎回こんなこと言ってる気もするのだが、今回もレジェンドコンビによる作品の登場である。誰もが知ってるあの伝説作品 『100 Bullets』のBrian Azzarello、Eduardo Rissoによる最新現在進行中作品『Moonshine』!
いや、なんというかさ、しばらく前のエド・ブルりんのときに書いたように、貧乏性克服で結構とっといたいいの優先で読んでるとこもあるのだが、アメリカのコミックが 電子書籍化と映画・映像配信等方面のバブルからの後退で勢いが低下している状況となると、日本にもいまいち情報とか伝わりにくくなってるという感じもあるのかと思い、 そうなるとやっぱり有名作家の現行作や近年の作品を取り上げることで、まあワシ程度のところでも少し現状の大枠を伝えられて、先に続く道になるのではと思ってやってるところもあるのだよね。 とかくこういう状況の時は、特にちょっと縁遠い日本からだと、次に動きがあった時へのつながりとかが失われやすいんで、その辺見失わないようにしっかり見て伝えて行ければな、とあんまり柄にもなく思っていたりするのです。まあワシのペースではどの程度役に立つか…というところなのだが…。
そんなわけで今回の『Moonshine』。発行はまたしてもなのだけどImage Comics。開始が2016年10月と結構前なのだが、現在までに26話、TPBが4巻まで発行中とかなりスローペースながら 現在も進行中のシリーズで、Comixologyでは続く28号までが発行予定となっている。とりあえず自分が読んでるのはTPB2巻までなのだが、シリーズの方向性などを伝えるにはそのくらいまで 書いた方がいいかなと思うので、今回ちょっとネタバレありかもという感じで進めて行きます。あんまり知りたくないという人はご注意を。

【Moonshine】
1929年 ウェストヴァージニア Spine Ridge。
深夜、ランタンの明かりを頼りに森を抜けて行く三人のスーツ姿の男達。ショットガンと手斧で武装した彼らは、禁酒法時代のアメリカの密造酒醸造所を捜索する政府の捜査官だ。
「午後にこのあたりから煙が上がっているのを見た。間違いなくこの近くにあるはずだ。」
そして彼らは森の中に小さな小屋を見つける。小屋の中にある醸造用の設備用具をランタンが照らし出す。
「思った通りだ、Holtの道具だな。」
設備を破壊すべく手斧が降りあげられると同時に、野獣の唸り声が響き渡る。慌てて銃を構える男達!だが、目にもとまらぬ動きの黒い影に男たちは成す術もなく、あたりに血しぶきが吹き上がる…。

「Pirloさん、電話があったよ。長距離の。」
ニューヨークからこの地を訪れているLou Pirloに宿の娘が声を掛ける。伊達男Louは、ニューヨークのギャングJoe "The Boss" Masseriaの配下。ボスの命令でこの地で作られている極上の酒の買い付けに 来ている。ボスが何としても渡りをつけたいと望んでいるその酒の作り手の名はHiram Holt。電話はもちろんボスからの催促だ。
「なあ、ボス、もうちょっと待ってくださいよ。ここは全くひでえとこなんだ。おまけにHoltはこの先の山ん中に住んでいて、こっちには降りて来もしねえ。ああ、わかりましたよ。今日には Holtに会いに行きますんで。」
山に登る前に腹ごしらえだ。Louは宿に近くの食堂に寄る。いい女を見つけたがやけにツンケンしてやがる。Holt?ひょっとして奴の娘か何かか?

そしてLouは山道を車で登り、Hiram Holtの住居を訪れる。山の中のあばら家の前には、銃を持った男たちがたむろし、威嚇するように見知らぬ来訪者を睨みつける。 中にはまだ少年と思われる者も。Holtの家族か?
「何の用だ?」その中の年嵩の男が口を開く。
「ニューヨークのJoe Masseriaの使いで来た。ここで作られてる酒についてHiram Holtと話したい。」
「ここで待ってろ。」男はLouをそこに残し、家の中へ入って行く。

家の前で待つLouは、近くの森の中から全裸の男がよろめき出てくるのを目にする。血まみれ…だが奴の血ではなさそうだが?
家の中から出てきた女がよろめくその男を抱きとめる。食堂で見た女だ。家の前にいた少年も気付き、彼女を助け男を家の中へ連れて行く。
まったく。都会に暮らしてると忘れちまうが、田舎っていうのはわけがわからず、業が深い…。

「よう、待たせたな。」先ほどの男が家から出てきて、Louに声を掛ける。
「俺がHiram Holtだ。」まったく、食えない野郎だ。
ようやく家へ招き入れられたLou。だが、Hiramは敵対する様子はないが、Louの申し出に乗り気でもない。要するにニューヨークのギャングの配下として酒を造るつもりはないということだ。
「親父、丘の醸造所が厄介なことになった。」会談の途中に家の外から声が掛かる。

家屋から離れたところに隠してある醸造所へ向かうHiramと家族の男たちに、Louも同行して山道を登る。
「まあ、せっかく来たんだ。俺の醸造所も見てってくれや。」
そして到着したのは、冒頭のシーンで登場した山の中の密造酒醸造のための小屋。中は血まみれで手足、胴体を引きちぎられた男たちの遺体が散乱している。あまりの凄惨さに声も出ないLou。 「ここはお前らの街じゃない。山だ。俺の山だ。」そしてHiramは散乱した遺体の中から何かを拾い上げる。血まみれのバッジ。FBI。
「ニューヨークにはこれを持って帰れ。そして俺の商売に手を出せばどうなるかをお前のボスに話すんだ。」

すっかり日も暮れ、夜の山道を逃げるように車を走らせるLou。道も定かではない闇の中でタイヤがパンク。立ち往生する。
途方に暮れているところにどこかから音楽が聞こえてくる。音をたどって木々の間を抜けて行くと、黒人たちが住居の前で焚火を囲み宴を開いていた。
中で踊る美しい一人の女に目を奪われるLou。そして黒人たちもLouに気付く。
「何の用だい?だんな。」
「まずは酒をくれ。」

[Comixology 『Moonshine』#1 プレビューより]

というところまでが『Moonshine』第1話のあらすじです。ちなみにComixology及びアマゾンKindleでは、この第1話は現在無料で読めます。
で、ここからはちょいとネタバレになりますので、ここまで聞いたら後は自分で読みたいという人は続きは読まず、本編の方へ。 かなり大雑把ではあるけどTPB2巻前半ぐらいまでの展開は紹介しちまいますので。

まず『Moonshine』というタイトルから。
まあ知ってる人も多いとは思うけど、ムーンシャインというのはアメリカの禁酒法時代の密造酒に関する隠語。月の光しかない夜闇の山道、裏道に隠れて運搬したことから、主にその運搬を 指すのに使われていたが、密造酒そのものを呼ぶというケースもある。
都市ニューヨークから遠く離れた山奥で作られる密造酒をめぐる物語に、もっともなタイトルである。
だがこの作品の『Moonshine』にはもう一つ別な意味が隠されている。
ムーンシャイン-月の輝き、光。そこから連想されるよく知られるまた別の物語とは、月の光で変身する人狼の物語だ。
ちょっと文章だけのあらすじでは気付かなかったかもしれないけど、画像の方と併せてみればこの辺を察した人も多いだろう。

第1話後半で出てくる血まみれの全裸の男が、人狼に変身し密造酒の取り締まりに来たFBI捜査官を惨殺したのだ、ということは言うまでもあるまい、というところなんだが、うーん、 やっぱこれ書いたらネタバレかなとも思ったんで、一応注意しておきました。
つまり、この密造酒を作っているHolt一家というのは、その商売を護るための武器として、身内に人狼を隠していたのだ。
ニューヨークのギャングから交渉役として派遣された伊達男、Louは、それを探索するというよりは様々な状況に巻き込まれ、翻弄されているうちにその秘密へ近づいて行くことになる。
また一方で、Louのもたつきに業を煮やしたニューヨークのボスは、武力行使・脅迫のためのチームを派遣。それらはただちに返り討ちにされ、という形でHolt一家とギャングとの争いは激化して行く。

主人公Louの前には、まあノワール的に言えばファム・ファタールというべき二人の女が現れる。
一人はHolt一家の謎の金髪美女Tempest。人狼に変身する男Enosの姉としてとりわけ弟を気遣う彼女には、人狼にまつわるある秘密がある。
そしてLouが第一話の最後で出会う美しい黒人の娘Delia。呪術的な力で見た予知夢から、Louにこの先に恐るべき運命が待っていると告げる。
Louにはかつて妹がいたが、少年時代ある過失から川で溺れさせて死なせてしまう。常に心のどこかにその罪悪感を抱えるLou。そしてその妹は、幻覚として度々幼い姿のままでLouの前に現れ、 あるときは彼を導いて行きもする。

そして、Louを待っていた恐るべき運命。
主人公Louは、TPB第1巻の後半、終盤辺りである方法で彼自身が人狼に変えられてしまう。人狼となってしまうと通常の意識思考が吹っ飛び、Louは彼自身の味方であるはずのニューヨークからの ギャングの増援に牙を向けることとなる。
ここまで書いちゃうとさすがにネタバレしすぎかとも思うんだけど、やっぱこの物語は主人公が人狼となってしまうところからが本編じゃないかと思うのだよね。うーん、色々やってみて最近は特にコミックの あらすじ紹介は小説より難しいと感じることが多い。画と一体となったコミックではストーリーの進め方や展開がより複雑になり、分量的にこの辺かな、というような判断が付けにくいのだよね。 ちょっとバラされ過ぎたと思った人いたならごめん。

自らの意思に反し人狼にされてしまったLou。TPB第2巻では抗争の場である田舎町から貨車に隠れて逃亡する。だが、列車が停車し、貨車から降りたところで警官に捕まり、刑務所へ送られることになる。
また一方のSpine Ridgeでは、更にニューヨークからの増援が送り込まれ、人狼に対抗しうる凶悪狡猾なギャングが現れる。
そして、Holt一家の側でも徐々に人狼の秘密が明かされて行く…。

しばらく前のエド・ブルベイカー-ショーン・フィリップスと並ぶ、現代アメリカン・コミックのレジェンド・チーム、Brian Azzarello-Eduardo Rissoによる謎が謎を呼ぶホラー・ノワールコミック。
要チェック、つーかもうこれ必読でしょう!

[Comixology 『Moonshine』#3 プレビューより]

ではこのレジェンド作者チームについて。Brian Azzarelloに関しては、以前Aftershock Comicsの『American Monster』について書いたのだが、見返してみたら経歴とかは全然書いてないので、ここで改めて。
1962年オハイオ州クリーブランド生まれ。子供時代にはモンスターや戦争物のコミックを読んで育ち、ヒーロー物はあまり好きでなかったそうだ。クリーブランドのアートスクールで学び、卒業後はいくつかの ブルーカラー仕事を転々とした後、1989年、27歳か?シカゴへ移り住む。そこでかのブラックリザードの出版物に強く惹かれることとなる。

えーっと、ハードボイルド/ノワール方面では一般常識ぐらいなんだが、コミック方面では知らない人も多いかと思うんで、ブラックリザードについてちょっと説明しとこう。
1984年、映画化された『ワイルド・アット・ハート』などで知られる作家バリー・ギフォードによって設立され、主に50~60年代のジム・トンプスン、デイヴィッド・グーディスらの忘れられた ペーパーバックオリジナルの名作を数多く発掘し現代によみがえらせたハードボイルド/ノワールの伝説的パブリッシャーである。
その後、1990年にブラックリザードは米大手ランダムハウス傘下に入り、ヴィンテージ・クライム/ブラックリザードと名前も変わる。この辺どのような事情があったのかはよく知らんが、まあアメリカの インディー・パブリッシャーというのは、そのまま力尽きるかこういう形になるよね。ヴィンテージ・クライム/ブラックリザードになって以後は、そういった過去の忘れられた名作の発掘というよりは、 クラシック・クライムというようなブランドに方向転換し、ハメット、チャンドラーなどの作品も加わり、出版形態も初期のマスマーケット・ペーパーバックからトレード・ペーパーバックへと変わる。 日本的に言ってみれば、文庫・新書からソフトカバー・ムックというような変化ね。その後、ヴィンテージ・クライム/ブラックリザードはクラシック作品だけではなく、現行の作品にも手を拡げ、 ランズデール、ヴァクスらハードボイルド/ノワールの実力派人気作家の作品を数多く出版し、一時期は新旧合わせたハードボイルド/ノワールの頂点に君臨することとなる。しかし、なんか事情は知らんが 近年になり急に衰退し、ホント一時期はあーもうこりゃ終わるな、という感じだったのだが何とか生き延びなんかかなり細々といった感じで続いているようだ。まあこの辺の流れでウィンズロウの 『犬の力』『ザ・カルテル』に続く3部作が最終作に至ってハーパーに移籍となり、日本でも出版社が角川からハーパーに変わったわけね。なんかこの辺の事情というのも単純に出版物が売れなくなったとかじゃなく、 多分上のまた上の大手ニューヨークのビッグ5とやらの方針や事情とかでめんどくさい。まあ将来についてはわからんけど、現時点ではあのイェンス・ラピドゥスのストックホルム三部作の翻訳刊行が 最後の輝きだったように思われたりする。
ブラックリザードについては初期のバリー・ギフォード時代について思い入れの深いファンがアメリカにも多く、その後のヴィンテージ・クライム/ブラックリザードと分けて語られることも多く、 Wikiも別に作られていたりもする。ブラックリザードというのは、ハードボイルドジャンルに留まらない広くミステリ全体にとって一つの事件、そして伝説であり、その意思を受け継ぐ動きはその後も 続いている。その中でも有名なものが2004年に設立され、現在は英国大手タイタンブックスの傘下となっているハードケイスクライム。50~60年代のペーパーバックを思わせるペインティングのカバーで 数々の新旧作品を送り出し続けている。有名どころではスティーブン・キング、ローレンス・ブロック、マックス・アラン・コリンズなどなど。あー、ハードケイスクライムについてはもっと読んで 語らねばならんもんが山ほどあるんだが…。しかし旧作の発掘という面では現在はスタークハウスの方が注目か。また一方ではかのゴールドコンビによるブラッシュブックスがラルフ・デニス、ディック・ロクティ といった70~90年代の絶版名作シリーズを次々と発掘…、あっ、つい長々と書いてしまったが今回コミックの方じゃん、Brian Azzarelloの。つーかAzzarelloまだコミックのライターにすら成ってないし。 いや、ワシハードボイルドの話始めたらパンツでも見せない限り一生話し続けるからね。そもそもAzzarelloがブラックリザードなんかに話を振るから。みんなAzzarelloが悪いんだからね!あとシャミ子。

えーと、この時期に出会ったブラックリザードからの作品群はAzzarelloに大きな衝撃を与えたようで、後にも影響を受けた作家としてトンプソン、グーディスの名を挙げている。なんかヘラヘラ評論家の間じゃ こういうのを○○ショックとか適当にぬかすのが流行ってるようなんで、ブラックリザードショックとか言っとこうかね。
そしてこの時期、後に結婚してまた離婚することになる、コミックのライターのみならず 児童書、映画やテレビの脚本などマルチな活動を展開する作家Jill Thompsonと出会い、それがきっかけでDC傘下Vertigoでコミックのライターとしての活動を始めることとなる。実際にはVertigo以前の 作品もあるようなのだが、その前年、前々年に数作程度なのでほとんどVertigoからキャリアを始めたというところなのではないかと思う。

いくつかの単発作品の後、1998年にEduardo Rissoとのタッグによる4話のミニシリーズ『Jonny Double』を経て、1999年より伝説の『100 Bullets』を開始。この伝説作品は2009年までにタイトル通りという感じで 100話、100発の銃弾を放って終わる。
言わずと知れた『100 Bullets』ってとこなのだけど、結局のところ日本では翻訳も出ていない有様で、一般常識ぐらいに思っている層とさっぱりわからない層とのギャップは大きい。で、ネットで情報を 探してみようと思っても、日本語で書かれたものはなかなか見つからない状況。ないなら自分で何とかしなくてはと思っても、なんかまた貧乏性をこじらせて途中まで読んで放置してしまっている時間が あまりに長くいずれ最初から読み直そうと思っているぐらいの始末でいまいちちゃんと説明できなかったり。まあ自分ぐらいじゃすぐに見つかるというほどにはなかなか成れんけど、それでも日本の 海外のコミックを読む層の拡大のために、何とかそういう情報をきちんと増やしていかんとなあ、と思う。そういう時に、まあこのくらい一般常識だと思ってる人日本でも結構いるんだろうからなあ、 とか考えずにやること!ほら、一般常識だと思ってるアンタも言われればそう思うっしょ。ほら、昔やったウォーレン・エリスの『Transmetropolitan』みたいにさあ。あ、そういやアイツもうさすがに 再起不能かな?人格はともかくとして語らねばならん作品いっぱいあるのにな…。まあ日本だと旧作も各社発売中止だろうけど、アメリカだとどこでもちゃんと売ってるけどな。
なんかさあウィキペディアとかにちゃんと情報ページを作るのが最善なのだろうけど、あんまり向いてないしなあ。適当に話逸れてパンツ見せないとやめないとか開き直れないじゃん。とにかくいくらかでも 情報のある者はなるべく色んな人が見やすいところに出す義務があるくらいに思っているのだよ。海外コミック読者の拡大振興のために。えーと、何を長々と書いてるんだか、と思うんだが、要するに 『100 Bullets』あんまりちゃんと説明できなくてごめん…。ホントに好きなんだけど…。

『100 Bullets』を書いてる10年間、Azzarelloは主にDCのメインストリームの方にも手を拡げ、そちらでもいくつかのシリーズで語り継がれるような作品を創る。そっちに関しても放っといていいものでもないんだが、いい加減長くなってるんで機会があればいずれまた。どっちにしても『100 Bullets』のAzzarelloっていうのがまず正しい認識。ちなみにマーベルの方でもいくらか作品はあるが、そっちメインストリーム方面ではDCでの活躍が主になる。
『100 Bullets』進行中のオリジナル作品としてはVertigoの『Loveless』(2005-2008)というウェスタン作品があり、こちらは以前にBrian Woodとの『Starve』について書いたDanijel Žeželjも作画に参加している。 Žeželjとはそれ以前にVertigoからのミニシリーズ全4話の『El Diablo』(2001)でもタッグを組んでいる。こちらもオリジナル作品かと思ったらDCのキャラらしい。この辺何故かComixologyのDCのショップでは 単行本形式にまとめられずバラ売りしかしてなくてどうも見落としがちになるんだよね。『Loveless』なんて24話もあるのに。

『100 Bullets』以後には、まずVertigoでは同じくRissoとのSFミニシリーズ『Spaceman』(2011-2012)。そして『100 Bullets』のスピンオフ作品『100 Bullets: Brother Lono』(2013-2014)全8話を同じくRissoと。
Image Comicsでは2016年からのこの『Moonshine』と同時期に始まった2016~17年のミニシリーズ『3 Floyds: Alpha King』というファンタジー作品らしきものもあるのだが、現在Comixologyで販売されておらず、 詳細はいまいちわからん。かの2000ADのレジェンド的アーティストSimon Bisleyも作画に参加してるのだが。ところでSimon Bisleyのウィキをちょっとついでに見てみたら、アメリカで書かれたものらしく 2000AD時代のことがあんまり書かれていなかったり。BisleyのSláine「The Horned God」なんていつか絶対読まなきゃと思ってるレジェンド作品なのに!
そして同じく2016年から以前に書いた『American Monster』をAfterShock Comicsから。2016年からのが多いのはDCとの契約が終わったとかなのだろうか?で、『American Monster』なのだが、実は以前に書いたあたりで ストップしており現在に至るまで進展はない…。これ多分AfterShockの方が色々出資関連が手を引いたりとかでAzzarelloにギャラが払えなくなったとかなんだろうな。まあ推測だけど。結構バブルの勢いに乗って 登場した感じだったしね。やはり以前ほどの勢いはなくなってるのだけど、まだ出版は続いているので頑張ってくださいね。『American Monster』の続きもいつか何らかの形で見られるといいのだけどね。
そして、これが今回調べるまで気付かなかったんだが、Boom! Studiosより2019年と2020年に『Faithless』、『Faithless II』という作品がそれぞれ全6話で出ていた。ちょっと見に行ってみたらオカルトジャンルの ようだが、作画のMaría LlovetやカバーのPaul Popeとかもかなり気になるんで今回は保留。なるべく早期にちゃんと読んだり調べたりしたい。あー、なんかまだ知らない読むべき作家やアーティスト山ほどおるな。 ホント。Paul Popeの方なんて以前気になっていくらか作品も入手しといたのにすっかり忘れとるし…。とりあえずAzzarelloのオリジナル作品はこれくらいか。

Azzarelloがずいぶん長くなってしまったのですが、ここからやっと作画Eduardo Rissoです。まーどこから始めるか。とにかく素晴らしい作画。強弱はあまり強調されないが、なんだかどこまでも伸びて行くような 生きた線。それが人物のみならず風景や小物までに生き生きとした表情を与える。そして独特の人物のポーズにそれが収まる構図。それは一つのコマ=パネルに限定されず、常にページ全体でデザインされる。 そして一つ目立つ特徴として挙げられることの多い影=ベタと線の組み合わせ。どちらかといえばイラスト的な手法で、場合によってはシーンをストップさせてしまう画法だが、Rissoの手にかかると 省略による加速の効果さえ生まれる。いやもうこんな素晴らしい画、一枚前においてこことここがすごいとか言い始めたらもうパンツでも見せなきゃ止まんないよう!
Eduardo Rissoは1959年生まれのアルゼンチンのコミック・アーティスト。やっぱ日本からだと全然わからないけどアルゼンチンにもちゃんと独自のコミックのシーンがあるようだ。1981年、22歳からアーティストとしての キャリアを始める。彼の作画は、自国以外ではまずイタリア、スペイン、フランスなどのヨーロッパのコミックシーンで注目を集め始める。1988年からは地元アルゼンチンを代表するぐらいのライター、 Carlos Trilloとのコンビで様々な作品を発表し、ヨーロッパ各国でも数多く出版される。Carlos Trilloというのは、自分は未見なのだけど日本とカナダの合同製作として主に日本のトムス・エンタテインメントの スタッフによって製作されたテレビアニメ『サイバーシックス』の原作者でもある(原作コミックの作画はCarlos Meglia)。そして1997年にはアメリカ上陸。Dark Horse ComicsやHeavy Metalでいくつかの仕事をした後、 1999年Azzarelloとの『100 Bullets』が開始される。
以前にもヨーロッパからの優れたアーティストについては色々書いたのだけど、アメリカ上陸前の作品については入手困難というのがほとんど。しかしEduardo Rissoについては1作のみだがComixologyからでも 入手することができる。1996年に前述のCarlos Trilloとのコンビの『Borderline』という作品が、かの『ザ・ボーイズ』や現行ヴァンピレラを出版しているDynamite Entertainmentから全4巻で英訳出版されている。

[Comixology 『Borderline』#1 プレビューより]

ジャンルはディストピアSFアクションという感じか。ずいぶん前に買ったけど、いまだに読んでなかったり。今回これを書くためにもったいないけど最初の方少しだけパラパラ見てみた。あーもったいない。 1999年に開始となる『100 Bullets』とそれほど開きのある初期作品というわけではないが、若干丸みが少なくスピードのある線で描かれている。またページ全体を使った構成というのもあまり見られないが、 空間を活かした構図・画面構成は秀逸。これらはもしかするとカラーと白黒作品の違いなのかもしれないけど。そして特徴の一つである影=ベタの使い方は既に完成の域にある。ヨーロッパやその他の国々からの 優れたアーティストのアメリカへの進出は大変多く、こういう形で過去作品に手軽に触れられるのは非常に有り難い。もっと増えるといいんだけどねえ。Comixologyでは常時販売中だが、他はどうなのだろうか と思って見たところKindle版も販売されており、プリント版TPBも現在はそれほど法外な価格にもならず入手できるようである。

この『Moonshine』については個人的な感想かもしれんけど、結構早く読める気がした。やっぱり結構長い付き合いになってるAzzarelloとRissoゆえどのように表現されるかもツーカーでわかっており、 Rissoの作画に任される部分も多く、より動きで表現される読みやすい作品になってるのかもな、と思ったりした。
さてこのシリーズだが、モタモタ書いているうちに書き始めた時はプレオーダーだった最新の27話もすでに販売されていたり。現在28話までの発行がアナウンス中とか書いたが、その後その28話までを収めた TPB第5巻にて完結という情報も伝わって来た。まったくしっかりしろよ…。今後の動向もまた注目されるこのレジェンドチームだが、とりあえず私同様結構長編の『100 Bullets』にもたついてる人も、全5巻と 比較的お手頃めなこの新必読シリーズを先に読んでみるのもいいんじゃないすか。

なんだか諸般の事情で中断ぐらいの感じで遅れまくっている今回なのだが、ちょこまか言ってる最近の米コミックのバブル後の状況などについてこっちから見えるぐらいのところを少しまとめておこうかと思います。
なんか文章の端々では書いてるんだが、アメリカのコミック界の昨今のデジタル書籍化や映画・映像関連のバブルからの落ち込みはかなり大きなものになってきているようですね。 まあここで何々が何パーセント下落的なことでも書くと説得力もあるんだろうが、そもそも柄じゃないし、それ調べるのに長い時間費やして自分の読みたいもん読む時間減らすのももったいないしなんで そういうデータは無いんですが。まあそういうのはそれやってお金がもらえる人がやればいいんじゃないかな。今どきそんな人がいればだけど。
なんかもはやこっちの視点がずれすぎていて日本国内の一般的な見方の方がよくわかんなくなってきているのだけど、色々映画とかは入ってくるんでマーベルやDCは安泰とか思ってる人もいるのかもしれないけど、 ああいうのそもそもがもっと調子のいい時代に企画されたもんやしね。大きなところでは、今年になりDCのアプリショップが遂に撤退。これでComixology系のアプリはちょっと他と違ってシステムのみ使い 自社経営のマーベルのみになってしまったわけです。そしてそれより少し前には、かなり多くのパブリッシャーのコミックを扱っていた Madefireも結構急激にぐらいの感じで撤退。そちらでアプリショップをやってたIDWとArchieはかなり困った様子だったり。IDWはしばらくたって別のを何とか立ち上げたけどArchieはどうもなんないみたいだし。
実際Comixologyでの全体的なリリースも減っているんだろうけど、やっぱ顕著に目立ってしまうのはマーベル、DCの方だろう。もうしばらく色んなシリーズを統合したような大きなコミックイベントっつーのか? そういうのやってないし。ほら、マーベルのインフィニティとかDCのマルチヴァースみたいなやつ。別に毎週の出版が途切れるようなことはないのだろうが、今目玉的にこれやってますよー、みたいのが いまいち見えにくくなってきていたり。
そんな中で最近の大きいのか地味なのかよくわかんないけどのニュースとして、かのブライアン・マイケル・ベンディスのオリジナル作品レーベル的なものであるJinxworldがDCからDark Horseへ移籍という のがあった。元のマーベルからDCへ、そしてDark Horseへと移って来たJinxworldなのだが、これは結構現在のアメリカのコミックの状況を表してるのかもしれない。 マーベルのIconがなくなり、オリジナル作品の発表の場がなくなり、DCへ移籍したベンディスだが、ここに来てDCもVertigoなどの伝統はあってももはやオリジナル作品に注力する余裕がなくなり、 その結果としてのDark Horseへの移籍ということなのだろう。もちろんこのそもそものベンディスのDCへの移籍がビッグ2を含むコミック全体の落ち込みからの影響であり、またちょっとうがった推測をすれば、 現在苦しい状況にあるビッグ2でもベンディスクラスの大物に以前のようなギャラを払えなくなってきており、それならばここはちゃんと自分のものとして残るオリジナル作品に注力したいというのが ベンディスの考えなのかもしれない。
実際このくらいになるともはや単なる大手出版社でないビッグ2ともなると、シーンにおける出資者としての役割も大きく、それだけにこのバブル以後の状況は単なる自社出版物の売り上げ落ち込み以上の 打撃となっているのだろう。拡大時には集めた金やらも色々あるだろうしな。現在は両社とも既存のメイン出版物のシリーズのみの出版に撤退し立て直しに専念し、オリジナル作品にかまけている余裕など 無いというところだろう。DCのアプリショップからの撤退もそういう縮小再編の動きの一つなのだろう。 そんな中でちょっと意外ぐらいに思ったKurt Busiekの『Astro City』のシリーズ丸ごとのDCからImageへの移籍も、やはりこういった流れの中の一つなのだろう。 また今回のAzzarello-RissoでもDCからの『Spaceman』が現在Comixologyで販売されてなくて、これも今後の移籍の過程かとも思われたり。 現在は『Batman』や『Vision』で一躍メインストリームのトップライターのTom Kingにしても、2015-16年のオリジナル作『Sheriff of Babylon』が終了後、『Sheriff of ???』という続編が アナウンスされていながらVertigoの改編などで棚上げとなったままの状況が続いていたりで、いずれは何らかの動きがあるのかもしれない。
まあ実際のところ、これでアメリカのコミックが潰れてしまうなどというわけもないし、投資してるわけでもないんでどこが沈むなんてどうでもいいし、ましてやどこの景気が悪いだの ビジネス観測じみた話で格好つける気もないんだが、やっぱ少しはそんな視点もあった方が今後又あるかもしれない色々な動きにも理解しやすいんだろうってとこ。 バブル後の落ち込みはあっても電子書籍化で市場は広がってるんだし、未来は明るいんじゃない?まあ自分なんぞはひたすら良い作品が 読みたいだけが目的なんで、最前線の動きが少なめな現状は、山ほどある過去の必読作品を少しでも減らすいい機会かもしれない。とかのんびりしたこと言ってられるのもただ読んでる一方でのことで、 きっといるのだろうこれでチャンスを失い足踏みになっちゃってるクリエイター諸氏には本当に気の毒なところなのだけど。
最前線いま一番動いていると言えば、やっぱりJeff Lemire君か。かのJockとの組み合わせで驚いた進行中のComixology Originaiの『Snow Angels』も注目なのだが、今月になりあの『Gideon Falls』の Andrea Sorrentinoとのチームで全6話のミニシリーズ『Primordial』がImageで始まり、Dark Horseでは作画もLemireによる『Mazebook』が開始している。『Black Hammmer』ワールドも拡大の一途を たどっている感じで早く追いつかねばと思うばかり。読むべき作品は次々に作られており、またこっちの目の行き届かないところで新たな作家・アーティストが台頭してきているんではないかと不安になるばかりだよ。

ここでちょっと日本の方に目を向けてみれば、まあ最前から言っとるように日本の状況には疎い私でも、翻訳コミックに関しては、結局一昔前のマーベルDC作品のみが出るぐらいの状態に戻っているんだろうなというのはわかる。なんかShoProのホームページとか久しぶりに見に行ってみたりすると、まあ毎月何点かの出版はあるようだけど、映画とかの方も今後減って行くようならさらに先細りの一昔前の前ぐらいに戻っちまうのかも。なんか日本で出るのをメインに楽しみにして買い支えている人たちに、水を差すようなこと言うの悪いかも、とも思うけど、やっぱ日本もバブル後の収縮過程というところなんじゃないんでしょうか。
日本でいかにすれば海外のコミックが広まるか、というのは過去どこかでも度々言われてきたことだと思う。まあ、美少女が出てくれば、とかいう笑いも取れない与太は別にしてさ。 日本のマンガ及びアニメーションというのは日本で作られるものの中でほぼ唯一といっていいぐらい、突出した個人が例外的に国際的に活躍するという形ではなく、国内で商業的にも成功しているものがかなりの部分でそのまま海外で通用しているクオリティのものである。価格的にも流通量的にも海外からの作品がこれら国内産のマンガとまともに勝負するのはほぼ不可能といってよい状況だろう。国産のTVドラマがひどすぎて観る気も起こらないので 海外ドラマに流れるのと同様のケースを期待するのも無理な話。日本では海外のコミックは「売れない」と断言する向きも多いだろう。
だが、このあたかも作品の価値を規定しているようにさえ使われる「売れない」という言葉は常に出版社の利益になるかという意味でしかない。そして海外のコミックはこの「売れない」と作品のクオリティとの不一致を表す最も顕著な例といえるだろう。なんで出版社の儲けのために作品の価値下げられなきゃならんの、ぐらいの話じゃないの?もう日本で翻訳されるのを待ってたって海外のいい作品なんて絶対出会えないんだよ。「売れない」から。
だが売れようが売れなかろうが良い作品は良いのだ。ましてこれらのものは日本以外じゃ高く評価され、米国以外でも翻訳も数多く出ている。だが日本国内で利益を出せないものについては、翻訳はおろかまとまった情報すらも見つけるのが困難な現状だ。そこでこういった一文にもならなくてもいい作品・作家について伝えたいというような少々頭のおかしい奴が頑張らねばならんのだよ。お金儲けようと思ってる人はこんな「売れない」もんに絶対手を出さんからねえ。なんだかさあ、基本的には海外でもベストセラーでもない偏ったジャンルでこれが面白いんだよ!読みやがれ!と小説の方でやってる一方で、コミックの方で単に日本の状況的に出版されないだけのこんなに当たり前ぐらいの人気作品のことをやってるとこれで大丈夫なん?といつも思ってしまうぐらいではあるのだが…。
実際Comixologyのデジタル版なら、常時やってるセールで待てばアメリカのTPBだって日本のマンガの単行本とさして変わらない7~800円前後で買えるんだぞ。価格的にだって問題ないだろう。 国内的にも海外的にもバブルが弾けても、あれもこれも買ったのにいつまで経っても読めんぐらいに積み重なり、日々発見され山に追加されてこちとらの頭の中は常時バブル状態だよ。 別にさあ、オレ英語読めマス恰好いいっしょ文脈でやってるわけじゃないんだよ。こんなんちょっと最初頑張れば誰でも読めるようになるんだって。当たり前にいいのを当たり前に紹介している只の親切な変人なんだよ。 これからだっていくらでもいいの教えてやるよ。オレは世界中の面白いマンガを全部集めてマンガ海賊王になる男だからな!絶対読めよ!まずはこの『Moonshine』からだ!

とかテンション上げて終わってみたものの、この遅れ、この体たらく…。なんかね、今回基本夏バテなんだが、ワクチン接種とかもあったしね。一回目は自主的に安静にゴロゴロしてて結局腕痛くなっただけだったけど、 二回目油断してたらリンパ腺腫れて体中の悪いところが全部痛くなって仕事3日休んだり。それ以外にもなんかちょこちょこ市役所の休日窓口に行かなきゃならない用事が続いたり、そんで最後にはスマホの機種変更とかも あったりな。なんか日常あるあるぐらいのものだけど、時間なし体力なしの身からすると結構大イベントになっちまうのだよね。それらの間に夏バテでへばってでこの遅れという次第です。トホホ…。 こんなんで日本の海外コミック読者の増加に貢献するなどとはとても言えないペースなんだが、まあやらないよりはいいんじゃない、ぐらいでできるだけ頑張っているのだよ。しかしな、ホントにこんなに優れたものが山ほどみたいないい方では足りないぐらいにいくらでもあるのに、このマンガの国である日本の読者にほとんど届かないという状況はどうしても色々考えてしまって、いつものように余計な事書いて面倒くさくなって書き直したり、なんかこのまま書いてると果てしなく長くなりそうで途中で捨てたりと、また最後で余計な時間を喰っちまったな。なんか少しでも役に立った人がいるなら、んーまあどうでもいいか。
なんか少しずつしか進まん中で あれやっとかなきゃこれやっとかなきゃでImage Comicsものばかり続いてしまったんだが、次アメリカのコミックについて書く時には結構今はオリジナル作品のもう一つの極となっているDark Horse作品について 今度こそやらなければとも思ったりしております。あとマンガ海賊王への道の一環として、昨日Kindle版『ワル【完全版】』セールになってんの見つけて全巻買ったな。入手困難だった続編の「新書」「正伝」「最終章」 まで初めて一つにまとめたやつやろ?まあいつ読めるかわからんけど…。あ、古いのばかりじゃなくて新しいのも読んどるよ。一番最近買ったのは『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』かな。 いや、しょーもないボクの最近買ったマンガ報告しとる場合じゃない!次やらねばならんことが山積みなのに!今回はこれで終わり!
あ、またこちらが著しく停滞している間に、戸梶圭太先生の作品が2作も出てしまいました…。それについては次回に。

■Brian Azzarello オリジナル作品著作リスト (※作画担当が空白のものはEduardo Risso)
  • Jonny Double #1–4 1998年 Vertigo
  • 100 Bullets #1-100 1998-2009年 Vertigo
  • Loveless (作画:Marcelo Frusin、Danijel Žeželj、他)#1-24 2005-08年 Vertigo
  • Spaceman #1–9 2011-12年 Vertigo
  • 100 Bullets: Brother Lono #1–8 2013-14年 Vertigo
  • American Monster #1–6 (作画:Juan Doe) 2016-17年 Aftershock
  • 3 Floyds: Alpha King #1–5 (Nick Floydと共作 作画:Simon Bisley) 2016-17年 Image Comics
  • Moonshine #1-28 2016-21年 Image Comics
  • Faithless #1–6 (作画:María Llovet) 2019年 Boom! Studios
  • Faithless II #1–6 (作画:María Llovet) 2020年 Boom! Studios


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