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2018年6月9日土曜日

Hellblazer -Garth Ennis編 第2回-

またこれも随分と久しぶりになってしまったのだが、『Hellblazer』また続けて行きます。今回はガース・エニス編 第2回ということで、完全版TPB第6巻『Hellblazer:Bloodline』です。まだ第6巻かよ、トホホ…。まあ、結構昔の作品であり、もう語られつくしているのかもしれないが、自分で読めばそれなりに発見もあるもので、特にこの第6巻私的にはかなり重要でこれについては絶対に語らねば、ということもあったりするのである。そしてそれが、前回のWilliam Simpson実はかなりいいアーティスト、をこの6巻で気付いたように、7巻を読んでそうだったのか、と気付いて形になったものだったりもするので、なおさらちゃんと進めていかなければと思ったりもするところなのですが。まあかなりブランクが空いてしまったことへの言い訳も半分で曖昧なことをいつまでもダラダラ言っとらんで進めて行くと致しましょう。

【The Pub Where I Was Born/Love Kills】(47~48号)

別々のタイトルになっているのだが、こちらは2話続きのストーリー。
ノーサンプトンのコンスタンティンなじみの落ち着いたオールドファッションなパブ。FreddieとLauraの夫婦で永年切り盛りされてきたが、数年前Freddieは亡くなる。悲しみに暮れるLauraだったが、Freddieの”絶対に君を独りにはしないよ”という言葉を支えに、その後も一人でパブの経営を続ける。そして、その言葉通り、死後もFreddieはLauraを見守り続けていた。だが、そのパブの土地を狙う開発業者と結託したギャングが店に火を放ち、Lauraも命を落とす…。

前半はちょっとロマンチックでもあるゴースト・ストーリーだが、後半、事件に不審なものを感じ、調査に動くコンスタンティンが巻き込まれて行く事件はかなり陰惨な様相を呈して行く。
前編のペンシラーは引き続きWill Simpsonだが、後編はゲストとして以前17号を描いたMike Hoffmanが再登場しています。Delanoの【Fear Machine】のコンスタンティンが乗った列車がパニックになる回。(Hellblazer -Jamie Delano編 第3回-)インカーは両方Stan Wochという人で、前半Will Simpsonには合っていたようで結構いい雰囲気で仕上がっているのだが、後半Mike Hoffmanとは相性が悪かったようでちょっといまいちの感じに。Hoffmanはかなり硬い一本調子にも見える線を使う人で、それが独特の雰囲気を作り上げているのだが、Wochのシャープな感じの線と相殺されかなり中途半端な印象になってしまっている。ちょっとペンシラー/インカーの難しさが見える回になっています。
この6巻では表のそれぞれのストーリーと並行し、前の【Dangerous Habit】後半から登場している亡くなった友人Brendanの元妻Kitとの関係が深まって行く過程が描かれています。

【Lord Of The Dance】(49号)

クリスマス、街でコンスタンティンは憂鬱な顔でさ迷うゴーストと出会う。彼は遥か昔、キリスト教から異教として駆逐された神、ロード・オブ・ザ・ダンスだった…。

もはやこの世界に自分の居所は亡くなったと思っていたダンスの王様を、Chasら親しい友人たちとの酔っ払いバカ騒ぎに連れ出し、その力を取り戻させるというクリスマス・スペシャルという感じの心温まるストーリーというところでしょうか。多分そうなのだろうと思ってたけど、ロード・オブ・ザ・ダンスというのもアイルランドからのもののようで、ダンスの王様が元々のものとは違ってしまっていると言ってた同名の歌も調べればすぐに出てくるのだけど、それについては元を全く知らないのでさっぱりでした。ごめんなさい。とりあえず良い心温まるお話でした。
作画は2016年に大変惜しまれつつこの世を去ったイギリス・コミックの大巨匠Steve Dillon。この人については後ほど。いや、面倒なのであとでまとめてなどという意図ではない。何を隠そう実は今回は主にこのSteve Dillonについて語るためにやっているのである。

【Remarkable Lives】(50号)

通算50回記念の大増40ページスペシャル号です。
深夜、洗面台に置かれた鳥の死骸と鏡に血で書かれたメッセージを見たコンスタンティンは、Kitをベッドに残し、外出する。異形の者たちが見え隠れする森を、動く屍に導かれて進んだ先で待っていたのは、人類の歴史よりも長く生き続ける吸血鬼の王だった。彼はコンスタンティンを自らの配下に加えるべく説得を始めるが…。

メインのストーリーと並行し、それぞれ1ページを使って描かれたコンスタンティンと吸血鬼の王の過去から現在までが数回にわたって挟まれるという構成。コンスタンティンについては、Delano編の第2シーズンになる【The Devil You Know】で描かれる若き日の経験不足なままうかつに手を出して悪魔祓いに失敗し悲惨な結果を招いたニューキャッスル事件以後のことが主に語られ、その後精神療養施設に収容されていたというようなエピソードも描かれます。ジョン・コンスタンティンという人のDelanoが書いた過去については、母の胎内で自分より優れた人間になるはずだった双子を結果的に殺すことで産まれてきた、というのや、連続殺人鬼と関わり合いになったせいで父親が殺害され、自らの手で決着をつけるというのもありますが、こちらのニューキャッスルの方が選ばれたのは、エニスがこのエピソードを今後の展開に生かそうと思ったのか、それともシリーズの流れということで編集者と相談して決めたのかとか少し気になってみたりもします。以前いくつか見つけた日本でジョン・コンスタンティンというキャラクターについて書かれたものの中で、どこでもニューキャッスルについては書かれていたのだけど、一人の人間の人生としてはある意味それより重要かもしれない例に挙げたエピソードなどについては書かれていなかったところも多かったように思うので、結局キャラクターの「経歴」というようなものはどこかの時点で意識的に選択されたものになるのだろうな、と思ったり。
そして前回Garth Ennis編 第1回で言ってたWill Simpsonのアーティストとしての本当の実力がやっと見える作品です。まあ、どうやったってこの線の再現は難しいよな。

【Counting To Ten】(51号)

こちらも50号記念のスペシャル企画なのだろうと思うのだけど、エニスは1回休みで、ゲストにこちらも英国コミックを代表するライターJohn Smith(2000AD『Indigo Prime』など)と、まあ日本でももう紹介の必要もないだろう作画ショーン・フィリップスを迎えたワンショットです。

ちょっとした身近な厄介事を避け、気分転換に洗濯物をもってコインランドリーを訪れたコンスタンティン。一見平和に見えるコインランドリー、日常風景…。だが…。

淡々と、という感じで静かに話が進むにつれ、徐々にずれや歪みが拡大して行くように、日常風景の下に隠れていた不条理的な恐怖が姿を現して来る。この世界のあらゆる場所に恐怖は潜んでいてどこにも逃げ場はない…。
John Smithという人については自分もまだ最近の『Indigo Prime』を少しというぐらいで全然知らないレベルなのですが、活動はほとんど英国内に限られているものの、『Indigo Prime』や『Devlin Waugh』といった作品を中心に「The Smithiverse」というものも形作られているような作家らしい。ちょっと事情は分からんのだけど最近はあまり作家活動をしていないようで、2014年から3年ぶりに2017年秋期に2000ADで『Indigo Prime』が始まったのだが、なぜか3回目以降はKek-Wとライターを交代している。ウィキペディアを見ると、ウィリアム・バロウズからの影響などといったことも書かれていてかなり気になる作家であります。ちなみに前述の最新『Indigo Prime』にはそのバロウズも登場。しかしこのウィキペディアのJohn Smithと『Indigo Prime』書いた人かなりSmith氏に入れ込んでるようだな。そういう読者を作ってしまうような作家なのだろう。私もかなり気になってきているのでなるべく早く『Indigo Prime』あたりから手を付けてみるつもりです。
一方Delano時代から時々登場しているショーン・フィリップスだが、その時にも書いたけど、今とかなりタッチが違う。まあそれでも圧倒的に上手いのは変わらないし、こっちはこっちで好きなのだけど、どういう過程を経て今の画になったのかちゃんと追っていかなければと思うアーティストです。

【Royal Blood】(52~55号)

政財界の黒幕的立場であり、秘密地下クラブを経営するSir Peter Marstonがコンスタンティンに助けを求めてくる。彼のクラブの客のさる重要人物が、クラブ内で遊び半分に召喚した悪魔に取りつかれてしまい、行方の分からないその人物は今も残虐に人を殺し、その肉を貪っているという。
そして、その重要人物とは、ロイヤル・ファミリーの一員だった…。

降霊会で悪魔を呼び出し、名を聞き出して正体を突き止めたり、魔方陣を作ったりと、このシリーズをよく知らない人が思い浮かべる「魔法探偵」とかぅてこんな感じなのかもしれない。しかしそういうのについて回るなんとなくスタイリッシュみたいな要素は全くなく、コンスタンティン、悪魔、黒幕のどのサイドもひたすらダーティーなのがいいですね。でもそれが「スタイリッシュ」的なイメージがあるのは日本だけなのかな?オカルト探偵ということでは結構ハードボイルド寄りらしいドレスデン・ファイルとかもずっと読んでみようとは思ってるのだけど。いやもう何年も。Comixologyで買ったDynamiteのコミック版のシリーズもあるし。
ガース・エニスの『Hellblazer』は旧来からのホラー/オカルトストーリーに見られるような形の超常的な悪魔などの世界観が使われていて、そういう意味ではDelanoのものよりもシンプルでわかりやすい部分もあるのだけど、その一方でそこに関わってくる人間の底知れない残虐さといったものはエニスならではの恐ろしさがあり、このあたりからその辺が顕著に見えてくるようになってきます。それは「結局一番怖いのは人間だね」というような底の浅い教訓的なものではなく、悪魔などの異世界の「悪」は想像を超える程に恐ろしいものとして描かれる一方で、モラルが磨滅し、様々なロジックの混乱する中で悪とも考えず悪を行う人間の「悪」はその空虚さゆえに時にはオカルト的な暗黒より恐ろしいものとして現れる。やっぱりこういうものを書ける人だからこそ、あの悪意のみの「ゾンビ」、『Crossed』を創り出せたのだな、と改めてかなり後付け的に思ったりもします。
そういったガース・エニスのバイオレンス・シーンには、かなり色々なの見てる私でも時々は「度を越した」ぐらいに言いたくなるものもあるのだが、この全4話ではWill Simpsonがインカーまで一人でこなし、その辺をかなり迫力のある作画で見せてくれます。Simpson『Hellblazer』を代表する作品ということになるでしょう。あとストーリーの方では、この作品から、Kitとの同棲生活が始まります。

【This Is The Diary Of Danny Drake】(56号)

「俺は娼婦を買った!」突如地下鉄で自らの暗い秘密をわめき始める男にコンスタンティンは出会う。だがその言葉の中に魔術書グリモワールの名を聞きとがめ、男の後を追う。そしてその男Dannyがかつて悪魔と契約し、追い詰められていることを知るのだが…。

『Hellblazer』では以前25、26号のグラント・モリスンのを描いた『V for Vendetta』のDavid Lloydをゲストアーティストに迎えてのワンショット。カラーも含め、様々なテクニックを駆使した作画は本当に素晴らしい。このくらい自分のスタイルを持ってる人が途中で入ってくると、描き手によって読者とキャラクターの距離まで変わって見えるものができるというのが如実に見えてくる例でもあったり。バイオレンス要素は少なめのストーリーだが、やはり先に書いたようなガース・エニスの一つのテーマでもあるのだろう人間の暗黒が現れてくる作品です。

【Mortal Clay/Body And Soul】(57~58号)

Chasの叔父さんが急死。葬儀の後、墓地を散歩していたコンスタンティンとChasは埋葬されたはずの棺を掘り返し、遺体を運び去ろうとしている一団を目撃する。阻止すべく挑んだ二人だったが多勢に無勢で敵わず、遺体はいずこかへ盗み出されてしまう。車の行き先を突き止め、向かったコンスタンティンとChas。そこは政府委託の兵器メーカーの研究施設で、盗み出された遺体は兵器の人体に対する効果のテストのために使われていた…。

ここで再びSteve Dillonが作画担当として登場。49号ではゲストアーティストのクレジットがあったが、ここでは外されており、この少し後、DillonはSimpsonと交代し、エニス『Hellblazer』のメインアーティストを担当し、このコンビはその後あの『Preacher』を産み出すことになる。(私的にはまだ未読。すんません…。)
ではまずSteve Dillonとは何者なのか?1962年ロンドンに生まれる。コミックの仕事を始めたのは、16歳からという早熟の天才。結構初期、1981年頃のJudge Dreddを読んだのだが、まあDillonの名前は知っていて上手くても当然ぐらいに読んでいたのだが、この時まだ19歳ぐらいか。すでにかなり完成度の高い画を描いていて、当時メインのアーティストだったBrian BollandやRon Smithと完全に肩を並べるくらいのレベルである。1988年にBrett Ewins(Bad Company)らとアンダーグラウンド・コミック誌「Deadline」を創刊。その後のイギリスのそのシーンを牽引し、かの『Tank Girl』もこちらに掲載されたそうである。ガース・エニスとの出会いは1989年で、熱くコミックについて語り合い、それがのちの『Hellblazer』や『Preacher』につながることになる。えーっと、「Deadline」を始め自分ではまだ目にしていない部分も多くWikiからの部分が多いのだけど、経歴としてはこういったところです。
そしてこの作品。実際私はここに至るまでのDillonの作品の多くはまだ目にしておらず、かなり推測になってしまうのだが、この時期の彼の仕事はこの『Hellblazer』だけであり、少ないながらもいくらか見ている作品などから考えて書いてみるのだけど、私の考えではSteve Dillonの作風はこの作品をきっかけに変わる。そこんところについて語る前に、まずこのストーリーの続きを。申し訳ないのだがこれに関してはネタバレしちゃいます。

その研究所の所長は狂った男。研究のためという名目でいつの間にか破壊される人体を眺めることに喜びを感じていた。コンスタンティンとChasは捕縛され、その研究所の中で死者の魂が苦悶し、消滅するのを目撃する。離れた肉体が安らかにねむることを妨げられたため、その魂は次のステージへと向かうことができなくなってしまったのだ。

先に書いたようにDillonの画はかなり早い時期である種完成した画力の域に達していた。そして少し前の【Lord Of The Dance】でも以前に見たのと同様のタッチが見られる。だが、この2連作はそれまでのものと少しタッチでが変わっている。ベタによる陰影表現が減り、全体的には少し白っぽく見え、以前に比べるとスピードを殺したような線で形をとって行くように描かれている。最初はこれはまた何回か書いているペンシラー/インカーの齟齬だろうかと思ったのだが、ここではSteve Dillon:Artistのみのクレジットで、インカーは使われていない。推測されるのは、これは今回のストーリーに沿った少し実験的でもあるタッチなのではないかということ。
このストーリーではDillonは3つのタイプの人間の様相を描き分ける必要があった。まず、生きている人間、肉体を離れた魂としての人間、そして魂が去った後の物体と化した人間。この中で一番難しいのは、生きている人間と魂の去った後の死体を描き分けることであろう。Dillonが死体から描き始めたというわけではないだろうけど、描いていくうちにでもいかに魂が抜けて物体となった人間を描くかについては試行錯誤したものと思う。その結果、線のスピード感を殺し、ベタの陰影による立体感を減らし、動きの少ない構図を取るというような手法が使われたのだろう。しかし、そこまでタッチの違うものを死体にだけ適用したのでは全体的にはそこだけ浮いたアンバランスな画になってしまう。そこで、当然ながら全体にそのタッチを適用する。ここでひとつの逆転現象が発生する。そもそもは生きている人間をベースに物体となった死んでいる人間を描き分ける作業として始まったものが、物体である人間の身体をベースにそれに魂の入った生きている人間として描き分けるという形に変化して行くのである。では物体に魂の入った人間はいかにして生きている人間になるのか?それは身体の各部分における力や運動という形で表現されるものになるだろう。そしてそれを描き分けるという作業も常に人間の身体の構造を考えながらというものになる。その過程でDillonはある認識に至ったと私は考える。それは人間というものは骨格の上に、筋肉諸々を含んだうえでの皮膚が乗った構造物であるということ。ただね、これは特別に新しい認識ではない。おおよそ画を描く人間ならば、そして特にマンガ/コミックやアニメーションなんかもそうだろうけど、様々なシチュエーション、構図やアングルで人間の動きを連続して描く必要のある者なら、どこかの時点で必然的にたどり着くひとつの認識であり、ましてDillonほどの天才ならかなり昔に一旦は気付いているはずの事実であろう。だがDillonはそこに新たな意味を見出す。このガース・エニスによって書かれたストーリーの中で。
この二連作には何かうまく言えないのだけど、何かしら不安感というようなものを感じる。人間の肉体には魂が宿っていて、死ねば魂は肉体から離れ、別の世界へと昇って行くというのは太古から続く宗教とかを越えた一つの考え方である。だがここでは常にその考えの中で感じられた人智を越えた世界の無限な広がりは否定されているように感じる。骨格としての構造として描かれた人間は、そのまま世界の構造としての骨格を表象する。世界はお前に見えているよりはるかに広いけど、それは無限ではなく、行き止まる。何かずっと無限だと信じてた空が実は世界がそこまでのドーム型の天井で、その世界の果てが閉じられちゃったような不安感。これって実存的恐怖感ってやつじゃない?つまりこの天才アーティストSteve Dillonは物質であり構造であるという極めて実存的な「形」で人間-世界を描くことでオカルト・ストーリーの中に誰も見たことのない新たな世界を作り上げたのではないかというのが私の考えなのである。

そしてそのストーリーを語るのはガース・エニスである。物語の最後、その研究所で行われていることを知ったコンスタンティンは、壁に血で門を作り、研究所を取り巻く苛まれた魂をそこから導き入れ、施設内にソウルストームを引き起こす。嵐の過ぎた後には魂を抜かれたように立ち尽くす者ばかりが残される。兵士の一人から銃をもぎ取ったChasが所長の元へ向かうと、完全に正気を失った所長は自らの手で両目を潰し笑みを浮かべて感謝の言葉を繰り替えしながら立ち尽くしている。一旦は銃口を向けたChasだったが、思い直しその銃床を所長に向けて振り下ろす。繰り返し。血みどろになり壊れて行く銃床のみが描かれる。ここでは何が描かれているのか?Chasはその怒りで所長の肉体を魂もろとも破壊しているのだ!これがガース・エニスだ!

この後、続くSimpsonよる3作の後、『Hellblazer』のメインアーティストはSteve Dillonへと交代される。そこでもここで変化したタッチが引き継がれ、一旦はかなり細くした線を太くしながらスピードを殺し、世界の骨格構造の見取り図を正確に示すような水平垂直の構図を多用して行く。Dillonの画にベタによる陰影が戻るのは、続くTPB7巻の後半、おそらくは新しいタッチを完全にものにしたと確信した時点からになる。そしてここから始まったこのコンビによる「実存的オカルト世界」(仮称:この考えで正しいのかまだ確信がない)は続くTPB7巻にて恐るべき問題作【Fear And Loathing】へと到達する。そして『Hellblazer』のさらにその先には『Preacher』が?うー、まだまだほんの入り口に立っただけだよ。さらなる努力研鑽を続けねば。
と、説得力あるのかないのかぐらいなことを延々と書き続けてきたわけだけど、私もこの2作を読んだ時点でこれらのことが見えていたわけではなく、何か漠然とした違和感と不安感みたいな印象程度のことで、その【Fear And Loathing】にたどり着いたところで、うわ、Dillonがやってたのはこういうことだったのか、と気付いたぐらいのものである。やっぱり画というのは1作二十数ページぐらいでは見えにくいものなのかもしれない。そして、これらが私の個人的な推測であることを置いといても、おそらくはDillonはこんな形の理屈によって画を作っていったのではないと思う。別にDillonがこういった言葉上の理屈を組み立てられなかったというようなことを言っているのではない。画というのは常に描き手の目と手を軸とした身体で作られ、それはこんなくどくどした小理屈より遥かに高速で一つの結論を作り上げ、それはそれについての言葉が構成されるよりも遥かに早く次の結論を導き出し、更に上へと組みあがって行くものなのだよ。つまりマンガ/コミックというのは極めて身体性に近いという意味で一つのライブパフォーマンスであり、またそれぞれが別の人間の手によるものであっても、常にアーティストの手を通して完成されるという形で画とストーリーというものは不可分のものなのである。
うぐぐ…、書かねばならんと思ってたこととはいえ少々このパートが長くなりすぎたか…。まだ続きあります。

【Guys & Dolls】(60~61号)/【She's Buying A Stairway To Heaven】(62号)

こちらは前回の【Dangerous Habit】の続きとなるストーリーで、コンスタンティンはまた地獄の王と相まみえることになるのだが、その前にあるキャラクターのことを確認しておかなければならないのだけど、前回のを見てみたらやっぱり書いてなかったか…。実は43号で、天使ガブリエルに助けてもらおうと会いに行くところの前に、コンスタンティンは黒髪のEllieと呼ぶ女性と会って、地獄の様子を聞いているシーンがある。こいつは最後に恐ろし気な笑みを浮かべたりして、明らかに魔族関係者らしいのだが、あれー?こんな人以前に出てきたっけ?と正体がわからず、読んでいるときも保留という感じで、前回はそこのところも省略してしまっていたのだが、やっぱり以前に出てて私が忘れていたわけではなく、ここでやっと正体が明らかになるわけだったのである。こちらガース・エニス『Hellblazer』のメインストーリーの続きで、書いとかないとあと説明しにくくなるので、またしてもネタバレしちゃいますのでよろしく。

彼女は地獄の片隅のわびしい自分の庭園で花を摘む。そしてそこに地獄の王が現れる。遂に彼女とコンスタンティンの関係がばれてしまったのだ。大急ぎで行く先も確かめず現世へと脱出した彼女は、テムズ川の底へと落下して行く…。

Ellie-Chantinelleは魔女Triskele配下のサキュバス。地獄の王はTriskeleにChantinelleを捜すよう言いつける。だが、TriskeleにもChantinelleの行方はわからず、彼女もChantinelleとコンスタンティンがどういう関係なのかはわからない。
一方、地上ではコンスタンティンが逃亡して隠れているChantinelleを見つける。経緯を聞いたコンスタンティンは自分に考えがあると言う…。(60号)

ちなみにTriskeleは【This Is The Diary Of Danny Drake】でDannyが契約した悪魔。美女の頭に脊椎の蛇のような胴体の化け物。そして続く61号では過去のコンスタンティンとChantinelleの関係が語られる。

1984年のクリスマスの近づくある夜、コンスタンティンの住むアパートのドアがノックされる。そこに立っていたのは一組のカップル。女の方は臨月で大きな腹を抱えている。「ジョン・コンスタンティン、あんたの助けが欲しい…」
そして二人は人間の装いを捨てて真の姿を現す。二人の背には翼。白い羽を背負う男は天使のTali。そして彼女、サキュバスのChantinelleの背には黒い翼。
天使を誘惑しようとしたChantinelleだったが、Taliの純粋さに心を奪われ、二人は禁断の恋に落ちてしまう。そして今、Chantinelleの腹の中にはTaliの子供が宿っている。天にも地にも逃げ場を失った二人はコンスタンティンのうわさを聞きつけ助けを求めに来たのだ。こんな状況を面白がって手を出して来るのは奴ぐらいだと。
コンスタンティンは廃屋に二人を匿い、印を刻み彼らを隠す。そして地獄の情勢を探りに行くのだが、二人を追っている気配もない。何かがおかしい。彼らは何に追われているのか?そして二人を隠した廃屋に戻ってみると、Chantinelleは出産が近づき苦しんでいた。
その時、廃屋の荒れ果てた庭に天使の一団が現れる。
彼らを追っていたのは地獄からの追手ではなく、天使たちだったのだ。コンスタンティンの印は悪魔から彼らを隠すことはできたが、天使には効き目はない…。天使たちの矢はTaliを一瞬で焼き尽くし、そしてChantinelleの産み落とした赤子は彼らの手でいずこかへ連れ去られる…。
だが、それらはすべてコンスタンティンの印により地獄からは隠されていた。そしてChantinelleは地獄に戻り、コンスタンティンとの関係も知られることなく過ごしてきた。今日までは…。地獄の王はコンスタンティンを捕えるため、Chantinelleの居所を捜し、残された時間はもうわずかしかない。そしてコンスタンティンは計画を実行に移す…。(61号)

地獄。王とTriskeleは亡者の腹に作り出した鏡でChantinelleの行方を探る。そして遂にその居所が映し出され、二人は地上へ向かう…。
廃屋の中には大量の血痕が残されている。既にChantinelleの姿は無く、シャツを血に染めたコンスタンティンは少し憔悴した様子で外に出て煙草をくわえる。
そこに地獄の王とTriskeleが現れる。
だが、彼らもChantinelleの居所を掴めない。問い詰める地獄の王にコンスタンティンは答える。
彼女の魂に印を刻んだ。もうお前らにはどうすることもできない。そして彼はさらに続ける。
俺はこれで3回あんたをやり込めた。ハット・トリックだ。これでもうあんたは俺に手出しできないんだ。
地獄の王は怒りにたぎる眼でコンスタンティンを睨みつけ、そして去って行く…。

Chantinelleの身体からはもう傷は消えている。だが、魂には確実に印が刻まれ、これで彼女はもう地獄へは戻れず、地上で暮らし続けるしかない。コンスタンティン、この借りはどう返したらいいの?
「ああ、俺には計画がある。」
そしてその計画を聞いたChantinelleは悪魔の笑みを浮かべる。あんた狂ってるよ…。

かくして【Dangerous Habit】で起きた地獄の王との諍いは一応の決着を見る。しかし人間コンスタンティンにここまで馬鹿にされ、このまま引き下がるとは到底思えないわけで、いずれまた何らかの展開があるのでしょう。最後に出てきた今は明かされないコンスタンティンの計画については、続くTPB7巻で。ちなみに3回負かされたら手が出せなくなるというらしいルールについては、申し訳ないのだがよくわからない。相変わらずオカルト関係には弱いもので。まあ、そう言うんだからそうなってるのでしょう。
作画はWill Simpsonに戻るのだが、今回はペンシラーのみで、インカーはMike BarreiroとKim De Mulderという二人の名前がクレジットされている。Simpsonも【Dangerous Habit】の頃と比べると、随分インカー前提の作画に慣れたようだけど、やはりどうしても【Royal Blood】に比べると迫力に欠ける画になってしまっている。だがこの二人のインカーが悪いと言っているわけではない。それなりに実力はある人たちなんだろうけど、ペンシラーSimpsonとの相性があまりよくなかったというだけのことなのだろう。Will Simpsonという人はなかなか自分に合ったインカーを見つけられず、この『Hellblazer』ではいまいち実力を発揮できなかった人なのだろう。これ以降はSteve Dillonと交代となり、結果的には前述の【Royal Blood】が『Hellblazer』における代表作ということになるのだろうが、繰り返し言うが、同作はかなりのグロテスクな迫力に満ちた素晴らしい作画であり、Will Simpsonというのは大変優れたアーティストであると私は思っております。

いやはや、Garth Ennis編 第2回TPB第6巻『Hellblazer:Bloodline』もこれで何とかやり遂げたわけでありますが、しかしこれずいぶんバランスの悪いことになっちまったな…。とにかくSteve Dillonのアレについては書いておかなければ、と思い延々語ってしまったのだが、普通に読めばこの第6巻はSimpson画による【Royal Blood】、【Guys & Dolls】がメインとなっている本なのだよね。個人的なこだわりで本全体の印象を間違って伝えてしまったのではないかと心配しとるのだが、まあそういうものがあるからこそこんなことを続けているのだ、ということで勘弁してやってください。Dillonについても本当は本格的に活躍する次巻で書いた方が良かったのかなと思ったりもするのだが。とにかくチラッと予告した通り続く第7巻ではエニス-Dillonによる衝撃作【Fear And Loathing】も登場するので、今度こそあまり間が空きすぎないうちに次回Garth Ennis編 第3回をお届けする所存であります。

なんかまたしてもえらく遅れてしまったのだが、今回は実は5月GW終盤ぐらいに引っ越しのタイミングが悪くて延々遅れていた部屋へのエアコンの取り付けがやっと完了し、それに伴いしばらく中断していた片付けを再開していたりしたためだったのでした。にゃんか今日こそは書かなければと開いてはおくのだけど、なんだかんだで時間も体力も尽きて果たせず、みたいな日が2週間ぐらい続いてしまったのですよ。申し訳ない。まあまだ完全には終わっていないのだけど、とりあえずやっと部屋のドアも閉められるようになりひと段落というところです。早く次にかからねば、というところなのだけど、まあ遅れついでというところでちょっと気になってることを書いておきます。
つーのはあのティリー・ウォルデンさんのこと。日本版『スピン』が出たのってこっちが引っ越しでバタバタしてた頃なのかな。えらくそこのページビューが増えた時があったのでその辺なんでしょう。ともかくこの素晴らしい才能が、日本の状況からすると比較的早くぐらいに紹介されたのは喜ぶべきことなのだが、ちょいと気になることもあったり。いや、何もアマゾンとかで見た感想とかにケチを付けようとか言うことではないよ。まあうっかり深く探ってくと文句言いたくなるのも見つかりそうで怖くて2,3チラッと見ただけだけど、まじめに読んで自分の思ったことをきちんと書いてる人に文句を言うつもりなどはない。こちらもそこまで頭おかしくないから。ただこれがLGBTの女性が自分のことを書いたバイオグラフィのマンガという部分でしか紹介されて読まれていないように思うのが少し心配なのだよ。なんか世の中には「よいマンガ」と「悪いマンガ」があるみたいなことを言い出す本当に迷惑な人も多くて、そんな類いの人がよく「文学性」みたいなことを言い出すのだけど、まあその「文学」っちゅうのがほとんど私小説のことでトマス・ピンチョンのことすら入ってない場合も多くて、またそんな私小説至上主義から進化しない文学観のその一方で、実話をもとにした、みたいなのをさしたる考えもなく構築されたフィクションよりも上位に置く「現実とフィクションの見分けがつかない人」も多い日本の現状でしょう。うが、また罵倒モードに入りかけてるか?いやさ、『スピン』を優れたバイオグラフィ方向の作品として読むのが間違ってるとは言わない。しかし今また私が拳を振り上げそうになって頭を掻いてごまかした風で書いたような日本の「よい本」を取り巻く現状で、そういう読まれ方に偏ってしまうのはこの優れた才能の日本での受け止められ方を狭めてしまうのではないだろうか、つーこと。ティリー・ウォルデンはもっと広くマンガを読む人に読まれるべきであるということ。例えばさ、ティリー・ウォルデンっていうのは多分90年代ぐらいだかに少女マンガが女性マンガへと分化する辺りで双方から失われたか引き継ぐ才能が現れなかった少女マンガのある可能性だって表現できてるかもしれない作家なんだぜ。しかもそれは彼女の才能から見れば、日本のマンガ好きがいくらかなぞれた一部分で、彼女がこれからどれほどのものを表現できるのか計り知れない。日本も海外もよいも悪いもカンケーねえ、オラは優れたマンガがあれば必ずそこに行くのじゃい!という正しいマンガ愛を持つ人はどうかティリー・ウォルデンを読んでおくれよ!あと、ティリー・ウォルデンも時々というかよく使う手法でマンガ/コミックでよくみられるやつで、なんか画を描かない人の多くが勘違いしてるのをよく見かけるので一言言っとく。あれ。ページを均等にコマ割りし、同じ構図を続ける奴。なんか単純なコマ割りだとか言ったり、中にはカメラを動かしたりアングルを変えたり見たいなカット割りができないからやってると思ってたり、ひどいのになると手抜きだとか言い出したりするんだけどさあ、まず基本。別にちゃんと画なんか描けなくたっていいからおんなじ大きさの四角を二つ並べて、一方に丸に手足棒でいいから、頭から足まで入った人間描いて、もう一方に同じ人間描いてみ。頭の大きさから手足胴体のバランスまできちんと一致させるの結構面倒なのわかるだろ?もっと画が描ける人間だって同じことなんだよ。一つ絵描いて、隣のコマは全く別の構図を描いた方がはるかに楽で、作業時間も短くて済む。だからな、これは自分の狙った効果を出すためにわざわざ手間暇かけてやってることなんだよ。そのくらいわかれよ!ティリー・ウォルデンはその手法でミニマル的に物語を進めつつ、その後ろでは静かなメロディーが低く流れ続けていてそれがコマが大きくなるにつれ徐々に大きくなって行ったり、一気に響き渡ったり、あるいは突然ミュートされブレイクが入ったり。音楽的な比喩で言えば、ティリーさんの文章は歌詞というよりもむしろメロディーのようにも感じられる。そしてそれが遥かな天空の高見にまで登って行く美しさにはもう涙せずにはいられないよ。でもさあなーんかティリーさんに関してはこーやって技法的に解読しようとしちゃったりするのが却ってその世界を限定して狭めちゃってるような気もするんだよな。あと同じ大きさ構図のコマが並ぶテクニックについては、ティリーさんについてはミニマル的って方向の使い方だけど必ずしもそれだけではなく、例えばかの天才アラン・ムーアについては、作品を完全に自分の組み立てたリズムで読ませるための手段としても使っており、最近では同じテクニックをよく使うトム・キングなんかもその方向かと思う。こー並べて書くとトム・キングがムーアみたいな恐ろしい人に見えてしまうかもしれないけど、もう少し温厚な人だよね。多分。まあとにかくせっかく翻訳されたこの新しい素晴らしい才能を独りでも多く読んでくださいということでで延々と書いてきたわけだが(え?そんな真っ当なことを言ってるようには見えない?)、私的には以前に書いたように原書TPBを発売日に予約して買ってしまったので、日本版については持っていない。だからおめー何言ってんだよ、んなこと本の解説やあとがきでもっと理路整然と上品に書いてあるよバカ、ってことになってたらごめん。まあいつものもったいないで少し手を出さないでいるうちに引っ越しもあったりとバタバタして、ようやく最近読み始めまだ4分の1ぐらいというところなのだけど、まあティリーさんの「もしもし?お姉ちゃんの買い物メモ読めないんだけど…。コーフって何?豆腐を買えばいいの?それとも高野豆腐の略とか?え?コーラなの?これコーラって書いてあるの?」的な手書き文字を時々は「解読」しながらぐらいののんびりペースで読むのはいい感じでやんす。まあさ、以前はこんなすげーのがあるのに日本で誰も何も言ってないのはまずいじゃん!ってことで準備もないまま勢いでティリー・ウォルデンのことを書いたわけだけど、こうしてちゃんと翻訳出るってことは、どういう形にしろ読んでるところは読んでるってことでしょ。例えばさ、昨年最大の話題作といえば今年のアイズナー賞にもノミネート中の、恐るべきテクニックを駆使しつつ罫線の入ったノートにボールペンでというマンガ/コミックの初期衝動のような形で作られたEmil Ferrisの『My Favorite Thing is Monsters』だなんてことは世界のコミック・ファンの常識だけど、日本じゃ一向にせいぜいサム・メンデスが映画化権取得を交渉中(あれをホントに映画化する自信あるのだろうか?)みてーな2次情報ぐらいしか見つからんのだけど、まあ読むとこじゃ読んでてもしかしたらひょっこり翻訳も出るのかもね。あれはデザイン的に相当難易度高そうだが。しかし本当に素晴らしい作品なのだけどテキスト量とかも多くてまだしばらく読むのにかかりそうだよな。Fantagraphicsものじゃまずの『Love & Rockets』だってまだ兄弟それぞれの最初のを半分ぐらいだしなあ。色々読み散らかしてんのが悪いのもわかってっけど読むのが遅いからこうするしかないんだよう。とまたぼやきモードに入ったところで、本当はお引っ越しで発掘し一気読み再読(所要時間約2か月だが…)した池上遼一『男組』のことも書くつもりだったのだが、案の定ティリー・ウォルデンのことで相当長くなってしまったので次の機会に。いや、いらんと言ってもいつか必ず書くからな!ということで、ではまた。
書き終わってプレビュー見てみたらコミックの事書いてんのに延々と字ばかりで、さすがにまずいと思って『スピン』足してみたけど焼け石に水だな…。もうちょっと考えるっすよ、スマン。
あと『Hellblazer』のリストは多くなりすぎて面倒なので私担当の旧作だけにしました。ごめんねー。


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■Hellblazer

Hellblazer -Jamie Delano編 第1回-

Hellblazer -Jamie Delano編 第2回-

Hellblazer -Jamie Delano編 第3回-

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●John Constantine, Hellblazer



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2018年4月29日日曜日

Fahrenheit 13特集! -新たなる英国ノワールの牙城に注目せよ!-

今回は英国ノワールの新たな牙城として、本年2月にFahrenheit Press内に立ち上げられたばかりのFahrenheit 13の特集である!さてFahrenheit 13とはいったい何者なのか?ここに至る流れはちょこまかあっちこっちで書いてきているのだけど、今一度ここでまとめておこう。
まず初めに、Number Thirteen Pressから始めよう。これは2014年に英国で立ち上げられた画期的なパブリッシャーで、その年の11月より毎月13日にそれぞれ異なる犯罪小説作家の中編作を1冊ずつ、全13冊出版するというプロジェクトを実施。翌2015年12月に予告通り全13冊の出版を終え、その後はパブリッシャーとしては休眠状態にあった。そしてもう一方に英国Fahrenheit Press。パンク・パブリッシャーを標榜し、それ以前より多くのミステリ、ノワール・ジャンルの作品を出版してきたが、近年世界のノワール・ファンから最も注目を浴びたのは、昨年春、数多くの優れたノワール作品を出版しながら力尽きた280 Stepsの突如絶版状態となってしまった作家作品の救済復刊活動であろう。えーと、280 Stepsについては多分調べても日本語で書いてるのワシだけじゃないかと思うけど、とにかくいい本をいっぱい出してたんだよ!それでFahrenheitの他にもDown & OutとかPolis Booksとか現在のシーンを牽引するパブリッシャーからもかなりの作品が復刊されているのである。その辺については去年結構下のお知らせの方で書いてるのでそっちを見てくれよ。そして今年2月、そのFahrenheit PressにNumber Thirteen Pressが合流するという形でFahrenheit 13が立ち上げられたことが電撃的に発表されたのである。そのFahrenheit 13を率いるのはNumber Thirteen Pressの仕掛け人Chris Black。Number Thirteenの最後にはかのPaul D. BrazillやRichard Godwinも登場させた実力の持ち主である。新生Fahrenheit 13のラインナップには280 Steps残党作品も多く含まれているところから、その段取りを付けたのもこの男の人脈ではないかとも察せられる。またしても現代ノワール界に要注目人物登場である。Chris Black。こいつを忘れるべからず!と延々と書いてきたところで、いかにこのFahrenheit 13が注目すべきレーベルなのかはご理解いただけたであろう。このFahrenheit 13の現在のラインナップについては最後にすべてリストアップするが、発足間もない現時点では前述の280 Steps残党の他に元々のFahrenheit Pressからの移行組、そしてNumber Thirteenの再刊が数点というところ。しかし相手はこのChris Black!Number Thirteenの伝統にしたがい毎月13日に刊行されるこれからの新刊には今後のノワール界の中心となる新たな才能も続々登場してくることだろう。さあFahrenheit 13から目を離すべからず!今回はそんな大注目のFahrenheit 13のラインナップであり、かつもはや伝説のNumber Thirteen Pressの作品3作を紹介いたしまするのだ!

と、鼻息荒く始めてみたのだが、本当のところを言ってしまうと、この3作はNumber Thirteen Press特集第1弾として去年のうちぐらいにやるはずだったのだが、昨年来の甚だしい遅れにより延々と引っ張っているうちに、遂に大元のNumber Thirteen Pressの方がこのように進化を遂げてしまい以前のままでやることはできなくなってしまったという始末…。書く方が遅れているから読む方もストップしているというなんとも情けない、本来ならFahrenheit 13に合わす顔がないというところなのだが、何とかここで仕切り直し、今後のFahrenheit 13をきちんと追っていけるよう今回は頑張ってみますのだ!というところなのです。では行くぞ!

Of Blondes And Bullets/Michael Young

まず最初はMichael Young作『Of Blondes And Bullets』。こちらはNumber Thirteen Press第1弾として発行され、Fahrenheit 13になった後も第1弾として再刊されております。

■あらすじ
失業中の建築家Frankは、いつものように眠れぬ夜を過ごし、明け方海岸にドライブに出かける。夜明けの海の波間に見え隠れする銀色の浮遊物。あれは人だ!冷たい海に飛び込み、必死で銀色のショート・ドレスをまとったブロンドの女を岸に引き揚げる。命を取り留めた女は、病院も警察も無用だと言う。放っておくわけにもいかず、現在暮らす交際中の女性が出勤した後の家へ連れ帰り、乾いた衣服を与えた後、住居まで送ろう、と告げるFrankに、女はどうしても急いでいかなければならない場所がある、連れて行って欲しいと頼み込んでくる。
そしてそこからFrankは予想すらしなかった暗黒へと巻き込まれて行くことになる…。

うーん…、この書き方で良かったのだろうか、とちょっと悩んでしまった。つーのは、この作品独特の書かれ方をしていて、それが作品の独特の雰囲気を作り上げているのである。読後だったか、どこかで誰かのレビューでハメット的という書き方をしててなるほどと思ったりもしたのだが。昔、小鷹信光先生がハメットの作風を三人称単数として、『マルタの鷹』でスペードが夜中にかかってきた電話を取るシーンだったかを例に説明してたのを思い出した。この作品も自分の思うところではそんな感じで書かれていて、あらすじで書いてみた部分でも、主人公は最初延々と彼と書かれていて、女を助けて名前を告げたところからやっとFrankとなる。うーん、でもあらすじとして説明しようとすると、やっぱりそれはひとつの記述方法としての手法で、主人公の名前などを隠しておくためのものではないからこういう形になってしまうのだよね。何とかあらすじでも作品の雰囲気を伝えるようにとは心掛けているのだけど難しいものですね。この作品その後も例えばシーンの最初がカメラを移動したり引いたりというようのと通じるような手法で徐々に状況が見えてくるような形だったりという風に、三人称単数的で書かれていて、それが時代設定などは現代のままクラシック・ノワール的というような雰囲気を作り上げているのです。この作品実はその前にプロローグ的な、どこかに監禁されている男が見張りをぶちのめして脱出しようとしているという場面が描かれているのだが、これまで書いた手法の中で、話が進まないうちにはよくわからないシーンそのままで書くしか思いつかなかったので、省略いたしました。話としては巻き込まれ型というもので、独特の雰囲気で読ませる秀作です。

作者Michael Youngはこの作品以前に自費出版による書籍が2冊。うち1冊は私立探偵Harry Veeシリーズの中編作で、ホームページを見ると第2作も準備中とのことなのですが、現在までのところ続きは出ていないようです。経歴としては、しばらく東アジアで暮らしていて、煙草を吸い、スコッチを飲み、黒い服を好み、UFOを信じない人ということです。前述のHarry Veeシリーズを含め2014年以降は新作もホームページの更新もないので近況については不明ですが、さすがにNumber Thirteenでトップを飾っただけの実力ある作家なので、また頑張ってほしいところです。

Michael Youngホームページ

Down Among The Dead/Steve Finbow

Number Thirteen第2弾のこちらの作品も、既にFahrenheit 13から発売中。

■あらすじ
-ロンドン、キルバーン 2008年3月-
部屋まであと一歩のところで胸が苦しくなってきた。昨日の帰りに買い物をすましときゃよかったんだが、結局今朝出る羽目になりこの始末だ。まったくこの年になると身体が言うことを聞かない。バスに乗りゃあ良かったんだがたった2停留所だからな。何とか部屋に戻る。Coopersに行く前に何か食っとかなきゃな。買って来たパンとサーディンでサンドイッチをを作る。ロンドンに住んで3年になる。ハマースミスを出てからずいぶんあっちこっちへ行った。一つ所に落ち着ければいいがなかなかそういうわけにもいかない。
新聞を買い忘れちまった。Coopersへ行く途中に買わなきゃな。賭け屋に行く前に目を通しとかなきゃならない。それにしても昨日の晩だ。店で2人の男が話を聞かせてくれ、と言って来た。身なりのいいやつらだ。その後は酔っちまって何を話したか憶えてない。店を出た時のことも、どう帰ったのかも…。

-北アイルランド、ベルファスト 1988年2月-
その週末、俺は釣りに行くか、サッカーを観に行くかぐらいの予定だったんだ。だが奴から電話がかかってきてこう言うんだ、ちょいとスペインまで行って一仕事してきてくれないか?それが始まりさ…。

現在時制である2008年の老人の一人称の語りと、そこから20年遡る過去の回想が交互に綴られるという形でストーリーが進んで行く。その回想の方は、老人の語りに出てくる2人組に語られているもののようである。老人の語りということで、かなりくだけた感じの口調でダラダラと割と重要でない日常的なことが延々と書かれ、その中に不意に重要なことが混ざってくるような、ちょっと意図的に読み難い形で書かれていたり。話が進むにつれ、実はこの語り手の老人はかつてIRAの末端の細胞として動いていて、回想で語られる20年前のある出来事により、以来素性を隠し逃亡生活を送っているらしいことが見えてくる。ちょっとネタバレになってしまうのだが、敢えて書かせてもらうと、物語の最後になってもこの男は一体自分が何に関わり、どういうことが起こったためにそれだけの長い年月を経て人生の黄昏まで孤独な逃亡生活を送らなければならなかったのか、全くわかっていない。そしてそれが意味があったのかすらもわからない歴史の中で押しつぶされた一人の男の悲しみを滲み出させる、ちょっと異色のノワール作品なのである。

作者Steve FinbowはかのSnubnose Pressからの著作もあった人ですが、『ネクロフィリアの文化史』みたいなノンフィクションらしきものや、アレン・ギンズバーグの評伝といった本も出している、ミステリジャンルというよりはもう少し広い周辺的なところからの作家のようです。中でも米Amazonの著者ページに出てくる『Love Hotel City -12 authors/12 vision of Japan-』という彼が参加しているアンソロジーが気になるのですが、版元Future Fiction Londonがもうなくなってしまっているようで詳細がさっぱりわからず、12 authorsのメンバーすら不明になってしまっている。日本の作家もいたのでしょうか?
というわけで、1,2作共に結構異色作感のあるNumber Thirteen Press。続いて第3弾です。

The Mistake/Grant Nicol

Number Thirteen第3弾となる作品ですが、現在のところFahrenheitからはKindle版は未発売。まあいずれ何らかの形で出ることは確かなのだが、その辺の事情については後述いたします。

■あらすじ
雪のアイスランド、レイキャヴィーク郊外で事故に遭った車両が発見される。シートベルトを着用していなかった女性がフロントガラスを破り投げ出され死亡。逆さになった車内で発見された男性は、辛うじて一命をとりとめる。
そして9年後…。

仕事に出かけるべく支度をしていたGunnar Atliは、いつものように頭痛に悩まされる。そして、次に気が付いた時は、アパートの入り口の雪の路上に倒れていた。すぐには動けず、辺りをそのまま見渡す。ゴミ缶が動かされている。明らかに後ろの何かを隠すように不自然に。後ろに見えるのは、足?マネキンじゃない、人間のだ!そこには全身のいたるところを切り刻まれ、痛めつけられた全裸の少女の死体が捨てられていた。そして、パトカーが到着する…。

捜査に当たるのはレイキャヴィーク警察のGrimur Karlsson。少女の遺体とともに発見された男Gunnar Atliは9年前の事故で一命をとりとめたものの、長い治療生活からやっと社会復帰したばかりで頭部への障害の後遺症で現在も医師の監視下にある人物である。遺体の身元である家出少女とは面識がないと言っていたが、捜査を進めるうち、2人には何らかの関係があったことも見えてくる。知らせを受け到着した少女の父親はAtliに向け憎悪を燃やす。果たしてAtliは少女殺害の犯人なのか?
タイトルが示すように、この作品のテーマはミステイク。一つのミステイクが一人の男の人生を破滅させ、彼はそれに苛まれ続ける。そして、また新たなミステイクが悲惨な結末をむかえる。
結構前にちょっとブツブツ言ってたのがこの作品。この作品舞台がアイスランドと人気の北欧系だったり、ひとつ問題点があったりで、妙な奴に読まれて勘違いの「酷評」をされるんではないかと心配してたのである。で、その問題点。この作品Fahrenheitから他に3作発行されているGrimur Karlssonシリーズの第2作となっているのだが、実はこの作品ではGrimur Karlssonは捜査には携わるものの、そのキャラクターについてはあまり書かれておらず、その人物像を表すような背景や私生活といったようなものも全くと言っていいほど書かれていない。しかし、その辺の理由については割と簡単に推測でき、つまりそれはこの作品そもそもはGrimurシリーズとして構想されたものではなかったが、せっかく新たに立ち上げた自分のシリーズキャラクターのプロモーションにもなるし、ということで物語の展開上不不可欠な捜査を担当する警察官にこのGrimur Karlssonを当てはめたという事情なのだろう。そもそもメインシリーズとは別のパブリッシャーから出ているものだし、ちょっとしたカメオ出演に近いものと考えその辺は割り引いて、Grimur Karlssonについてはいずれメインのシリーズを読んでみればいいか、というのが真っ当な読書人の取るべき行動であろう。しかし世の中にはいつまでたっても辛口気取りがミステリ通に見えるという幼稚な考えから離れられず、とにかく欠点をひとつでも見つけたらそこに固執した「酷評」で「どうだい、オレって見る目あんだろー。」という顔をすることしか考えない馬鹿者もまことに多い。大体さあ、いくらか読書ってもんに慣れれば色々な本のそれぞれの欠点なんてものは見えるようになってくるんだよ。それをボクも「批評」ができるようになったと思い込むのが幼稚な証拠!他人の本に関するレビューを見る人は、世に隠れたミステリ通さんなんかを捜しているのではなく、この本にはどんな読みどころがあるのか、自分の読みたいような本なのかを知りたいんだよ。そういうものも見つけられないようならそんな駄レビュー垂れ流す資格はないし、それが自分に見つからない本ならわざわざレビューする必要も無し、ということ。この作品に戻り、その辺の上手くいってない要素も見分けつつ、ミステイクの連鎖がもたらす悲しい結末という中心テーマをきちんと見据えれば、このGrant Nicolが読む価値のある優れた作家であることもちゃんと見えてくるのですよ。
作者Grant Nicolは実は元々はアイスランドの人ではなく、ニュージーランド出身。こんな赤ちゃんばかりの国はウンザリだとニュージーランドを飛び出し…、あっこのネタは以前にも使ったか…。とにかく子供の頃お父さんの転勤で無理やり連れていかれたわけでもなく、自ら進んでそんな寒そうな国に移り住みここを生涯を過ごす地に決めたという大変な変人。…いや、アイスランドのことを悪く言うつもりはないのだが、何度も言ってるように私寒いのが大変苦手なのだもの…。そして、2014年よりアイスランドを舞台とするこのGrimur Karlssonシリーズを開始し、現在第4作まで刊行中。で、現在はKindle版品切れになっているこの作品についてですが(画像はペーパーバック版より)、そもそもはNumber Thirteenから発行の際にはNumber Thirteenの共通スタイルに合わせたカバーで出ていたのだが、途中からシリーズ物の一作であることをわかりやすくしたいとの作者の意図により、Fahrenheitのものに合わせたカバーに変更されたという形で、もうほとんどそちらに組み込まれていたようなものなので、現在が一時的な品切れ状態でいずれはFahrenheitからの再発行のあることは明らか。ただ、Fahrenheit 13立ち上げの際、Grimur Karlssonシリーズはおそらくはすでに獲得している読者の傾向などからも考えてだろうと思うのだが、ノワール色の強いのFahrenheit 13には移らずそのままFahrenheit Pressからの発行となっている。そんなわけでこの『The Mistake』はFahrenheit 13ではなくFahrenheit Pressの出版スケジュールの方に組み込まれていて、現在一時的な品切れ状態となっているのでしょう。とかごちゃごちゃ考えていたら、とりあえずFahrenheitの本体のショップの方ではもう販売されてたり。多分アマゾンでもいずれ販売されると思うのだが、どうなのでしょうか。だんだん頼りなくなってきたり…。トホホ。ニュージーランド出身ではあるが、やはり当地の空気がそうさせるのか、完全に北欧物というテイストの作風で、オリジナルを作者自身の言語で読みやすいシリーズとして、北欧物ファンは手に取ってみてはいかがですかな。おお、珍しくきれいにまとまったじゃん。やればできるじゃないか、オレ。
※ちょっとGrimur Karlssonシリーズについてはよく把握してなくて少し雑に調べては何度も書き直していたのですが、最後の最後にまた出てきてもう文章修正してつなげるのが面倒になったので別に書きますが、現在Kindle版で発行中の第5作となっている『Tales From The Ice House: An Anthology』はよく見たらシリーズ1~4の合本だそうです。これから読もうという人にはとりあえずこちらがお得。こっちに入ってるから『The Mistake』のKindle版出てなかったんだね。

Grant Nicolホームページ

以上3作が初期Number Thirteen Pressのラインナップ、いずれ劣らぬ個性的な作品ばかりで、イギリスのこのシーンの層の厚さを感じさせるものでありました。…ってホントは去年ぐらいに言ってなきゃなんなかったんだよな、まったく…。まあ、かくしてNumber Thirteen Press作品という形で追っていくことはできなくなってしまったわけですが、もちろん言うまでもなくこれはステップアップの進化である。つーわけでこれで何とかちょっとだけでも借りを返せたということにして、今後はこれまでのNumber Thirteen作品をも含む新生Fahrenheit 13の進撃を深く注目して行くものであります。

というわけで何とかかんとか片を付けたところで、最初にお約束しました現行Fahrenheit 13のラインナップについて軽く解説。現在2018年4月時点でFahrenheit 13作品は全21作。Number Thirteenからの作品が9作、280 Steps残党組が5作、残り7作がFahrenheit PressからFahrenheit 13への移行組という内訳となっております。まあ今の時点ぐらいしか意味はない区分けだが、自分的にはどれから読もうかなー、という目安にはなったり。とりあえずこの順番で改行ぐらいの区分けはしときます。まあどれも早く読みたいのには変わりはないが、以前その数の多さゆえに手をこまねいていたFahrenheit Pressものが少し手が付けやすくなったか。まずはJo Perryの犬の表紙のやつとか読みたいっすね。しかし、こうして自分の好みのノワール系がFahrenheit 13へまとまったからといって、Fahrenheit Press本体を無視してよいわけではない!280 Steps残党ながら13へは移行しなかったSeth Lynch作品もあるし、今年になって出版された公募作品によるアンソロジー『Noirville』もかなり気になる。そもそも今回登場のGrant Nicol、Grimur Karlssonシリーズだってまだ読まねばならんしね!立ち上げよりほぼ3か月、毎月13日の発行でここまでは3冊ずつNumber Thirteenタイトルを再発し、このペースだと来月でGrant Nicol『The Mistake』を除く全12タイトルがそろうわけなのだが、さてそこからが見物!一体このChris Blackが何を出して来るのか?とりあえずは期待しつつ見守りたいところです。英国ノワールの新たな動きに注目すべし!

さてさて、如何かね?一昨年の秋ごろにはかの『Thuglit』が終了し、昨年春からはBlasted Heath、280 Stepsの相次ぐ撤退をお伝えし、その度に奴らが倒れても新たに彼らの遺志を継ぐ者は現れるのだ、と言い続けてきたものだが、「そうは言っても実際にはちょっと盛り上がってた小パブリッシャーのノワールなんて終わるんじゃねーの?」とか思っていたのでは?ならば見よ!英国ノワールのこの快進撃!ああ、Near To the Knuckleについても早く語らねば!そして昨年秋の登場より気を吐き続ける『Switchblade』は早くも第5号を発行!アンソロジー戦線には新勢力『EconoClash Review』も参戦!更に、Down & Out傘下になり息を吹き返した我らがAll Due Respectからは本年の出版予定が発表され、そこにはその辺のシーンで頭角を現してきたやつらの名前がずらりと並ぶ!(All Due Respect;ADR’s 2018 Schedule)世にノワールの血を受け継ぐ者があり、ノワールを求める声がある限り、ノワールは絶対に終わらんのだ!今後も当方もふんどしやら紐ビキニやらを締め直し、奴らの闘いをお伝えし続けるものでありますよ!

Fahrenheit Press/Fahrenheit 13

【その他おしらせの類】
いや、何つったってまずはこれしかないだろう。遂に出ました!エイドリアン・マッキンティ、ショーン・ダフィ第1作『コールド・コールド・グラウンド』!!まずとにかくは、早川書房が目を覚まし、小手先の瞬間的な効果しかないばかりか場合によっては誤解により無意味にシリーズ全体の評判を落としかねない情報に頼るような売り方をやめてくれたことには本当に安堵しているよ。ちょっとあんまり言い過ぎたんで誤解している人がいるといけないから言っとくけど、その情報自体が悪いと言ってるわけではないし、今までもそんなことは一言も言っとらん。私は最初から、あまりその作家の情報も得ないまま、その作家の作風とはちょっと異質な情報ばかりが独り歩きしているのを真に受けた、上にも書いたようなケチをつけることしか考えていない低劣な輩が無意味に作品を貶めることにより、やっと翻訳が出た本当に優れた作家の作品の今後の出版継続が阻害されることを危惧しているだけなのである。とにかくまずは何より。私もオビもきちんとつけたまま読んでおります。まあとにかく書店で見つけた日にすぐに購入してはあるのだが、読みかけのを先に片づけたりで、まだやっと読み始めたばかりで感想の方は、次々回にというところなのだけどね。しかしそろそろ感想とか出てるところもあんのかな?まあ当方としては変なもん見ちまうとなんかもう物理的にぐらいに健康に悪影響を及ぼしかねないんで、一切見る気もないし、この画像のアマゾンのリンクもそれ取りに行ってうっかりなんか見ちまわないようにかなり早めに持ってきてるしね。次々回はこれをコピーすればよし。しかしまだまだ序盤ながら、のっけからのマッキンティ節にマッキンティノリにもううっとりだよ。ちょっと読み始めた人なら気になってるだろうアレについてだけは言っとくか。序盤から会話の中でちょくちょく出てくる返事の「あい」ってやつ。これはもう英国方面のものを読んでりゃおなじみの「Aya」ってやつなんだろうな、と思いながら、アマゾンでKindle版のプレビューをダウンロードして照らし合わせてみたところ、やっぱりそう。実際のところかなりよく目にするやつだし、なんだか正確には思い出せなかったりするのだけど、多分アイルランド限定ではなくてもう少し英国近辺で広く使われていると思うのだけど。何とか辛うじてきちんと思い出せるところでは『ザ・ボーイズ』のスコットランド出身であるウィー・ヒューイもよく使ってたはず。アイルランド限定じゃないけど、源流というとこなんだろうかなと思う。まあその辺詳しい人もいるんでしょうね。もしものために、とりあえず推測で適当に言ってごめん、とは言っとく。会話の中で独特のリズムという感じになってるものだけど、そんなに意味はなくて、わざわざこんな感じの違和感のあるのを作らなくてもその場に応じて「ああ」とか「うん」とかいくらでもやりようはあるところ。だが、私は敢えてこれを評価するよ。これは全く違う文化環境の全く違う言語で書かれた作品なのだよ。そこには独特のリズムもありそしてそれゆえに美しい文章なのだが、それをそのまま日本語に変換しようなんていうのは土台不可能。だが多くの誠実な翻訳者は、それをなるべくオリジナルに近づけたいと努力する。そしてこれはその誠実な努力の一つである。多少違和感はあっても、まあちょっと変わった挨拶をしてるところなんだろうな、と思ってればすぐに慣れる。だが、なんかこれを翻訳ケチ付けポイントとしてチェックして「最後まで気になった」ことにしようとしてる奴いそうだよねえ。あーやだやだ。意味だけ抜き出して日本語で書けば翻訳が出来上がるなんて思ってる奴は結局本をあらすじレベルでしか読めない連中とたいして変わらないんだよ。しかし、ワシもなんだかいつもこんな言い方ばかりするから角が立つのかと思うので、今回はちょいとよくあるお笑い風にやってみようか。翻訳ミステリレビューあるあるー。なんか海外の友人だかあの世の達人だかに勧められたとか言って始めて、さも俺は英語がわかるからって感じで翻訳だけこき下ろし、ろくな感想も書かず尊大に何か言ったような顔してる奴ー。どおー?笑えましたー?
それからちょっと読んだあたりでダフィが新聞でヨークシャー・リッパーの記事を読んでるシーンがあったのだが、なんだか日本限定タイムリーな感じで先日CrimeReadsってところにマッキンティのデイヴィッド・ピースのヨークシャー四部作についての評が掲載されました。ちょっとあっちこっちバタバタしててまだちゃんと読めてないのだけど、興味のある人はこちらからどうぞ。(CrimeReads:The Grim, Potent World of David Peace)

続きましてコイツ。何か新しい情報見つけたらとにかく知らせる作家のひとりドゥエイン・スウィアジンスキー情報です。遂にスウィアジンスキーの作品があのHard Case Crimeから!と言っても前にもお知らせしたTitan ComicsでやってるHard Case Crimeブランドのコミックス・シリーズの一つなのだけど、文句のあるやつはいないよな?もはや脅迫口調…。タイトルは『Breakneck』!今年8月から刊行開始とのこと。そして第1号のカバーはなんとあの数々のHard Case Crime作品の素晴らしいカバーを描くFay Daltonのこれです!大変楽しみですよね。ねっ!
そしてスウィアジンスキー関連でもうひとネタ。こちらはまた世界のジェイムズ・パタやんのwith作品。子供向けのお笑いなのかな?かなり強烈なユーモアセンスのスウィアジンスキーだが、お笑いメインのものは読んだことないので、これはこれで楽しみ。これはいつものBookshotsではないようだけど、同様にパタやん自身による出版のようです。しかしこのくらいになると自費出版ではなくオレ様出版社っすね。

とか何とかまたモタモタとボンクラなこと並べているうちに、ついさっき遂に奴がエドガーとっちまったじゃん!ジョーダン・ハーパー!去年ぐらいからずっと読もうと思ってたのに、また遅れを取った…。とりあえずはまた一昨年のクリス・ホルムみたいに電撃的に翻訳が出る場合もあるからもう少し様子見るか。こいつは前からワシが目ぇかけてる奴だからいい加減に出したり雑に毎度おなじみ○○の一つ覚えを始める奴がいたら承知せんからなっ!なんかまだマッキンティについては言っとかなきゃならんこともあるような気もするのだが、またちょっと遅れ気味だし、早く次もやらなきゃならんし、読まなきゃならんものも山積みなのだしで、今回はこの辺で終わるっす。ではまたね。


●Fahrenheit 13





●Grant Nicol/Grimur Karlssonシリーズ




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2018年4月10日火曜日

巨匠パット・ミルズ未来史シリーズ 第1回 -Invasion!-

以前よりやるやると言い続けてきたイギリスコミックの巨匠パット・ミルズの未来史シリーズ!遂に始まりました!その第1回『Invasion!』であります!

まず、パット・ミルズとは何者なのか?とりあえずこの国ではそこからはじめにゃならんだろう。最近創刊41周年を迎えた英国コミックを代表する週刊コミック誌2000ADの初代編集長にしてライター、そして41年を経た今でもメインライターのひとりとしていくつもの人気シリーズを持って活躍するコミック・レジェンドである!代表作には神話世界の混在する原始の地の無敵の”歪み”能力を持つ戦士の物語『Slaine』、食糧危機に陥いりタイムゲートを使い原始の恐竜を食料に供給し始めた未来社会が舞台の恐竜ウエスタン『Flesh』、さらに最近のものでは17世紀の魔術が横行する架空のロンドンを舞台に元水平派の闘士がゾンビと闘う『Defo』など、まだまだ私も届いていない名作・代表作も数知れず。しかし、その優れた作品の数々が日本では翻訳はおろかろくに紹介すらされていない現状。これでいいのか?日本はマンガの国ではないのか?ならばもっと広く様々な国のすぐれたマンガ=コミックについて知るべきではないのか?
そして今、巨匠パット・ミルズはその最も知られる代表作である『ABC Warriors』を中心に様々な作品の統合・再構成に取り組んでいるのである。これは、それらをパット・ミルズ未来史とみなし、それらを構成する膨大な作品群を読み、語ることにより、このパット・ミルズ後進国である日本に巨匠の偉大な業績を知らしめようという遠大な試みである。覚悟せよ!

ではまずこの未来史の現在進行中の概要についてから始めよう。まず、Volgan戦争である。ABC Warriorsの物語は21世紀末、長く続いたこの戦争の末期から始まる。ABC Warriorsのロボットたちはこの戦争の過程で作られた者たちなのである。ABC Warriorsの物語はそこから未来に向かって語られて行くわけだが、もう一方でそこから遡るVolgan戦争についての物語がある。それがVolganと闘う戦士Bill Savageを主人公とした『Savage』。現在の2000ADでは過去について語られながら進行して行く『ABC Warriors』と『Savage』が交互に1年おきに四半期12~3回の1シリーズずつ書かれている。自分も結局まだ2000ADを読み始めて日が浅いので、現在進行中の両者の関係を完全に把握して説明できるところまでは至っていないのだけど、『Savage』では『ABC Warriors』に至るまでのVolgan戦争について語られ、現行『ABC Warriors』ではその始まりから物語の現在時点に至るまでの語られてこなかった関係などを整理統合しながら物語が進んでいる、というような考え方で多分大丈夫だと思う。まあ、自分もそこのところをちゃんとわかるようになろうということでこれをやっているというところなのだけど。そしてそれら全ての物語が始まるのが、1999年のVolganによるイギリス侵略。そしてそれを描いたのが今回の『Invasion!』というわけなのであります。

この『Invasion!』という作品は、かの2000ADのまさに創刊号から約1年にわたって掲載されたのですが、ではこの作品はいかにして始まったのか?それについて、巨匠パット・ミルズがこのTPB版『Invasion!』まえがきにおいて詳しく語ってくれています。これはそもそもは2000AD創刊時のパブリッシャーIPCのジョン・サンダースという人の発案だとのこと。「ミルズ君、イギリスがソ連に侵略されちゃうって話をやろうよ!24時間の電撃的侵略で、空港とか制圧されてサッチャーも殺されちゃってさー!」「えー?なんでソ連がイギリスを侵略するんですか?」「石油だよ!奴らは我が国の油田を狙ってくるんだ!」ふーむ、なるほど。しかしイギリスが侵略されちゃうって話はなかなか読者にも受けそうで面白そうじゃないか。そして最初の数エピソードに英国屈指のアーティストJesus Blascoを起用し、着々と製作は進行して行くところで、サンダースからバッド・ニュース。「ごめん、ミルズ君。ソ連ダメだって…。」まあ、今の目から見ればそりゃそうだろ、もっと早く気づけよ、ってとこですが、1977年当時はそれでいけると思えた時代だったんだろうね。2000ADではジャッジ・ドレッドでも敵対勢力は東側SOVということだし、この時期のイギリスの国際情勢・国民感情とか研究するとちょっとした論文ぐらいになりそうだが、まあそれは置いといて、そういうことでそのつもりで進行していた侵略してくる「敵国」が使えなくなってしまったという事態である。そこで急遽作られたのが架空の敵国Volgan共和国!前にVolgan帝国とか書いちゃったけど、正しくは共和国です。だってVolgan Empireとか言ってるしさあ。場所はアジアの奥深くのどっか!おいっ!とまあアジアの一員である我々としてはツッコミも入れたくなるが、逆に考えればそんな謎の国が出てくるところ他に考え付かなかったんだろう。しかしまあそんなわけでVolganの兵士や将軍やらはアジアっぽい顔で出てくるのだが、それは最初のうちだけ。悪いやつの名前とかもモロにロシア風になってくるし、お金の単位がヴォルガマルクとか、アジアで侵略してくる国がそんな通貨単位使わんだろ。ともあれ、かくして誰もがこれ本当はソ連と思ってる架空の悪の国家Volganが創り上げられたのであった。さてこのVolgan、本当に悪い国である。何しろ国のマークがドクロ!俺たちは悪いことをする怖い国だぞ、と威嚇しているようなものである。1999年、20世紀の終わりに侵略してきたこんな悪い国を誰が止めるのか?結構前置きが長くなっちゃったけど、それではいよいよ『Invasion!』の始まりです!

1999年1月1日、アジアの奥深くからヨーロッパを侵攻してきたVolgan共和国が、電撃的にイギリスを侵略する!イングランド中部地方に撃ち込まれた5メガトン核ミサイル!そして続いて飛来した降下部隊により瞬く間にヒースロー空港は制圧。要人は次々と殺害され、英国王室はカナダへと避難、そしてVolgan共和国によりイギリスの征服が宣言される!
仕事で北部へ向かっていたトラックドライバーBill Savageは、この事態にロンドンストリートの自宅で待つ妻と我が子の元へと急ぎ帰宅する。だが、そこで彼が見たものはVolgan軍の無差別爆撃により崩壊した我が家だった。瓦礫の中から唯一無事だったショットガンを拾い上げるSavage。「俺に残されたのはこれだけか。」そこに現れたVolgan兵をただちにそのショットガンで射殺!おい!Savage、気でも違ったか?もう戦争は終わったんだ。イギリスは降伏したんだぞ!「ならここから再開させるまでだぜ!俺の戦争は今始まったんだからな!」

かくしてわれらがヒーローBill Savageは登場する。粗野で武骨、不作法、冷笑的だが人情、友情には篤い大変格好いい男である。あっちはアイルランドでごっちゃにしちゃうと失礼なのだろうが、かの『ザ・ボーイズ』ビリー・ブッチャーにも似たテイストがあったり、あとマイケル・ケインの映画は名作だけど、原作小説だけ読んでる時点では『ゲット・カーター』のジャック・カーターもこんな感じの人をイメージしてたりもしたのだが、まあ英国方面の男の中の男典型という感じなのかもしれませんね。高倉健より菅原文太だね。あと、話の流れで言うのが後になってしまったのだけど、巨匠パット・ミルズ未来史第1回って始めたけど、実はこの作品巨匠は編集長業も忙しく原案のみで、実際のライターはあの『Rogue Trooper』のGerry Finley-Dayだったりします。あと、今更だけど今回は多分最後まで書いちゃってネタバレすることになると思うので気を付けてね。一応ちゃんと全部書かないと先わかりにくくなるだろうからさ。なんか今回は色々と段取りが悪くて申し訳ない。

こうしてワンマンアーミーとしてVolganへの戦争を開始したSavageだったが、その腕と機転を見込んで、地下に潜ってレジスタンスとして動き始めた英国正規軍が接触を図ってくる。決まりだらけで上品な軍隊のやり方でVolganと闘えるか!まあレジスタンスにゃあ参加するが、俺は俺のやり方でやらせてもらうぜ。SavageをリクルートしたSilk中尉は、少し線の細いところはあるのだが、Savageには絶対の信頼を置くようになり、彼の相棒として活躍して行く。更にSavageは、港湾労働者、炭鉱夫らタフな労働者階級の猛者たちによる独立愚連隊Mad Dogsを率い、各地でVolgan相手の戦争を繰り広げて行くことになる。

序盤から中盤くらいまでは主に1話~2話構成でSavageとMad Dogsの活躍が描かれて行くという展開。まあとにかく独立愚連隊ものというのは燃えるし、実は実際には無い国の実際には無い侵略で、実際に起こったわけではないイギリス国民への暴虐に怒り、Savageの報復に快哉を叫ぶという、よく考えるとうむ?な状況ながらもテンションの高い話は大変楽しく読めるのだが、それゆえ1話当たりの熱量も高く4~5ページにもかかわらず割と1話読むとおなか一杯になっちゃって、という感じでなかなか進まなかったりしていたのだが、先は長いのだしこのままではいかん!とペースを上げ始めた中盤、スコットランドの構築された壁で囲まれた収容所になった町での戦い辺りから、基本的には1話完結ではあるけど、少し話が続いていく感じで読みやすくなってくる。と、書いてて今気付いたのだけど、こっちがあまりにイギリスの地理に不案内でわからなかっただけで、もしかしたら物語は最初から後半の地点まで移動して行く形で進んでいたのかもしれない。うむむ、こういうのって結構難しいよね。例えば『ドラゴンヘッド』とかも日本に住んでない人から見ると関東-東京に向かって移動して行く感じあまりわからないのかもしれないし、水戸黄門の1シーズンのここからここへの旅感もなかなか伝わらないのではないかと思ったり。いや、自分の失態を一般化してごまかそうとか言う意図ではないのだが。

そして物語は、Savageも危機に陥る恐るべきVolgaska大佐との闘い、頼りになるネッシー姐さんの登場などを経て高地地方にたどり着き、そこから終盤への展開が始まる。カナダに避難中の英国王室からレジスタンスへの支援物資を密かに運ぶ潜水艦に王子が同乗していたのだが、艦が撃沈、王子はカナダへと戻る手段を失い、あとはSavageらが王子を護衛しながらカナダへと戻す手段を模索して行くという展開になって行く。
そして最後は洋上の闘いで相棒Silkは命を落とし、さらに続く死闘の末、Savageは海を渡り無事に王子をカナダへと戻す。そして、その闘いの中、公海上でVolganの乗った船がアメリカの艦船を攻撃したことから、この戦争にアメリカの参戦が決定されたことが告げられ、物語は終わる。

なんかまた今現在の目から見ると、もっと早くアメリカが介入してきそうに思われるけど、1977年当時はこういう形になるだろうと思えたのか、それともあんまり早くアメリカが出てくると占領された国で侵略者と戦うという話になりにくいと思ってのストーリー展開なのかは、また今になってしまうとよくわかりにくかったり。なんか安全保障とかのことを考えると、後者で、第2次大戦ぐらいの感じでやりたかったということのような気もするけど。まあ基本的にはあんまり「今の目」とかでよく考えないでツッコミ入れて利口ぶるのは無粋ってことですね。
こういう国が侵略占領されちゃうっていうようなコミックって他にあるのかな、とちょっと考えてみたところ、我が国の第2次大戦中の実話を基にした沖縄の話のとか思いついて、ちょっとうーん…と思ったり。実際この『Invasion!』もイギリスではそういう方面から批判もあったというようなことも巨匠のまえがきにも記されています。でも戦争というのはひとつの極限状態での人間ドラマでフィクションとしては常に大変魅力のあるジャンルなのだよね。戦争についての物語を書く人は大抵はそれを通じて人間の勇気や誇りといったものを書きたい人で、戦争をしたがっている人ではないでしょう。まあ時には本気で戦争をしたがっているヤバいタカ派の人の本が世に出てしまうこともあるのだけどね。前のスプラッタパンクの時も言ったけど、こういうのを頭ごなしに批判して、自分が「悪」だと思ったものを自らの「正義」を振りかざし徹底的に攻撃し、撲滅しようなどと考える人たちこそが、実際には間接的にせよ戦争って言うようなものを引き起こしてるんだよ、っていうのが私の意見です。子供が見たら悪影響を、とか言うんだったら、自国が負けちゃったら競技の続きを一切放送しないオリンピック中継みたいなのだってスポーツの楽しさより歪んだ愛国心植え付けちゃうんじゃねーの、ぐらいの悪態はつかせてもらいましょうか。まあでもこの辺のジャンルは特にコミック/マンガではどんどんやりにくくなって、今はSF方面に舞台を移してるというところなのでしょうね。あと世界が侵略されちゃうみたいなテーマはもしかしたらゾンビものといった方向にシフトしてるのかも。ついでに言っとくと、この度の引っ越しでめでたく発掘された望月三起也著『夜明けのマッキー』は戦争物のナミダ物の名作だよーん。馬鹿者!望月先生の著作はすべて名作だっ!Kindle版ありますよ。

さてこちらの『Invasion!』、作画の方はと言うと、最初のJesus Blascoを始めとして大変すばらしい力強い白黒画のアーティストが続くのだが、2000AD以前から活躍のアーティストが多いのか、ちょっと現時点では当方ではわからない人ばかり。申し訳ない。もっと深くイギリスコミックについて学ばねば。中でIan Kennedyとかは私も朧気に知ってる英国コミック・レジャンドか。あとシャープで陰影のコントラストの強いCarlos Pinoとかもきっと人気あったんだろうな。デジタル時代の今ではめったに見られないガーゼ・テクニックによる迫力ある描写など、大変見どころも多い作品です。
ストーリーの方は、途中で思い出して付け加えたように、巨匠ミルズは編集長も兼ねていて多忙ゆえに原案のみで、実際のシナリオは『Rogue Trooper』のGerry Finley-Day。しかし『Rogue Trooper』の双方化学兵器やらを使いすぎて防護服なしでは人間が生存できない星での戦争なんて、安直なお題目だけの「反戦主義者」が絶対思いつかない究極の反戦SF設定だよね。Gerry Finley-Dayはその後、1979年に『Disaster 1990』という『Invasion!』以前のSavageの活躍を描いた(Volgan戦争とは関係ないらしい)シリーズを手掛けています。全20話ということなので80~100ページぐらいになるのか。今調べたところによると、一度単行本化されて、その後2013年にJudge Dredd Megazineにも再録されたらしい。その後、最近の増刊やらで見るような形でワンショット的な復活はあったのだろうが(このTPB版にも一編収録。しかしライター、作画ともUnknownって…?)本格的に巨匠ミルズがSavageを復活させるのは2004年から。こちらはまだちゃんと読めていないので、物語がどこから始まるのかもわかってないのだけど、2015年冬期のBook Ⅸでこの『Invasion!』では終わっていなかったイギリスの占領からの解放が描かれるというあたりだけは目撃しております。こちらについてはいずれちゃんと最初から読む予定ですので、今回はシリーズがそのような形で書き継がれているという情報だけ。

それから、2000ADでは過去と現在の名作を紹介するThe 2000AD ABCというのもYOUTUBEの方でやっており、今回の『Invasion!』と続く『Savage』を紹介してるのがこちら。っていうかそれをもっと先に見せるべきだったか?


もうちょっと画を見せられればなー、というときにこういうのがあるといいですね。また機会があったら使わせてもらおう。

それではこの巨匠パット・ミルズ未来史第1回、最後に未来史らしく年表を掲載いたしましょう!

巨匠パット・ミルズ未来史
1999年 Volgan共和国がイギリスを侵略。
Bill Savageレジスタンスとして立ち上がる。


こんだけ?、ってこれから増えるんだよっ!まだ第1回なんだから!というわけで、何とか始まりました巨匠パット・ミルズ未来史シリーズ!やってるのがホント当てにならないやつで大丈夫かよ、と思われる向きも多いと思いますが、何とか全力を尽くしこの英国コミックの至宝について詳しく語って行く所存であります。そして次回第2回はいよいよABC Warriorsが登場!巨匠ミルズによる未来史再構成が始まる『Volgan War』!えーと、引っ越しで色々中断して遅れてるところもあるのだけど、ここから頑張りなるべく早くの登場を目指しているところでありますので、ご期待ください。で?お前まえにご期待くださいとか言ってたアレとかアレはいつやんの?ううううるさいっ!ちゃんとみんなやるんだよっ!待っとれ!ごめん…。

今回、もうちょっとこのブログも何とかすべきだろうか、とぼんやり色々見ていたところ、なんか翻訳機能というのがあるのに気が付いたので、装備してみました。これで東北や九州出身の皆さんもお故郷の言葉でこのブログも読めるようになるでごんす。あれ?そういう機能はないの?まあ、なんぼか少なからずぐらいは海外からのアクセスもあるので、いろんな人にいくらか読みやすくなるのではないかと思います。それにしてもそもそも日本語として相当出鱈目でまともに変換されない言葉を多用する私の文章がちゃんと翻訳できるのだろうか?どうせなら全部語尾に”だっちゃ”を付けてもっと翻訳されにくくするのはどうだっちゃ?お前読んでもらいたいのかよ?もらいたくないのかよ?…外国で放送されているラムちゃんはきっとだっちゃって言ってないのだろうな、と思いながら今回は終わります。ではまた。

あと、今回につきましてはアマゾンでのプリント版で入手困難なものも多く、またKindle版でも日本ではかもしれないけど発売されていないものもあり、ちゃんとリストを作るのが困難ではあったりするのですが、どうしても画像の並んだかっこいいリストを作りたかったので、2000AD Onlineからの画像を使って無理矢理作ってみました。一応デジタル版に関しましては同Webショップまたは各機種でリリースされている2000ADアプリショップからすべて入手可能です。


●関連記事

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

2000AD 2016年秋期 [Prog 2001-2011]

●巨匠パット・ミルズ未来史関連
■Savage

Invasion!

Savage: Taking Liberties

Savage: The Guv'nor

■ABC Warriors

ABC Warriors: The Mek Files 01

ABC Warriors: The Mek Files 02

ABC Warriors: The Mek Files 03

ABC Warriors: The Mek Files 04

ABC Warriors: The Solo Missions

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 01

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 02

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 03

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 04

ABC Warriors: Return to Earth

ABC Warriors: Return to Mars

ABC Warriors: Return to Ro-Busters

■Ro-Busters

Ro-Busters Vol 1

Ro-Busters Vol 2

■Nemesis The Warlock

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 01

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 02

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 03

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2018年3月25日日曜日

2018 スプラッタパンク・アワード ノミネート作品発表!

緊急報告!2018年度スプラッタパンク・アワード、ノミネート作品の発表であります!え?何それって?いや、私もついさっき知ったんだよ!前回のハプレナ書き終わって、リスト作るためにアマゾンウロウロしてたら、先日亡くなられた大ジャック・ケッチャム先生の知らない作品がKindleで111円で売られているじゃないですか。晩年の短編なのだろうか、とチェックしに行ったところ、出てきたのが画像のアンソロジー『VS:X: US vs UK Extreme Horror』。そしてそこにでかでかと太字で2018 SPLATTERPUNK AWARD Nominee for Best Horror Anthologyと書かれていたのだよ!とりあえず何のことなのか少し調べてみると、…うむむ!これは放ってはおけん!前回のお知らせの最後にちょこっと書き足そうか、という考えも頭をかすめたが、そんなことではいかん!あまりわからないまでもできる限り、とにかく全ノミネート作品ぐらいはまず掲載しておかねば、と前回ハプレナ完了アップデート後からただちに緊急報告として書き始めているのである。

ではまず、スプラッタパンク・アワードとは何か?2017年にホラー作家Brian KeeneとWrath James Whiteによりスプラッタパンク/エクストリーム・ホラージャンルの隆盛に貢献するために設立されたアワードである。つまり2018年度の今回が第1回。2017年中に出版されたこのジャンルの作品の中から、長編小説(Novel)、中編(novella)、短編(short story)、短編集(collection)、アンソロジー(anthology)の各部門で選ばれた優秀作がノミネートされ、そしてその中から選ばれた最優秀作が本年8月24~26日にテキサス州オースティンで開催されるキラーコンで発表されるとのこと。そして今年2月、その第1回スプラッタパンク・アワードのノミネート作品が発表されたわけである。

2018 Splatterpunk Award ノミネート作品

【長編部門】

  • CONTAINMENT by Charlee Jacob (Necro Publications)
  • EXORCIST FALLS by Jonathan Janz (Sinister Grin Press)
  • THE HEMATOPHAGES by Stephen Kozeniewski (Sinister Grin Press)
  • SPERMJACKERS FROM HELL by Christine Morgan (Deadite Press)
  • WHITE TRASH GOTHIC by Edward Lee (Deadite Press)

【中編部門】

  • THE BIG BAD by K. Trap Jones (Necro Publications)
  • DAMN DIRTY APES by Adam Howe (Thunderstorm Books)
  • HEADER 3 by Edward Lee and Ryan Harding (Necro Publications)
  • KILLER CHRONICLES by Somer Canon (Thunderstorm Books)
  • THE LUCKY ONES DIED FIRST by Jack Bantry (Deadite Press)

【短編部門】

  • “Dirty Desk” by Jeffrey Thomas, from Chopping Block Party (Necro Publications)
  • “Extinction Therapy” by Bracken MacLeod, from Splatterpunk Fighting Back (Splatterpunk Zine)
  • “Melvin” by Matt Shaw, from Splatterpunk Fighting Back (Splatterpunk Zine)
  • “Molly” by Glenn Rolfe, from Splatterpunk Fighting Back (Splatterpunk Zine)
  • “The Tipping Point” by Jeff Strand, from Everything Has Teeth (Thunderstorm Books)

【短編集部門】

  • 2017: A YEAR OF HORROR AND PAIN, PART ONE by Matt Shaw (Amazon Digital Services)
  • EVERYTHING HAS TEETH by Jeff Strand (Thunderstorm Books)
  • THE GARDEN OF DELIGHT by Alessandro Manzetti (Comet Press)
  • GORILLA IN MY ROOM by Jack Ketchum (Cemetery Dance Publications)

【アンソロジー部門】

  • CHOPPING BLOCK PARTY, edited by Brendan Deneen and David G. Barnett (Necro Publications)
  • DOA III, edited by Marc Ciccarone and Andrea Dawn (Blood Bound Books)
  • SPLATTERPUNK FIGHTING BACK, edited by Jack Bantry and Kit Power (Splatterpunk Zine)
  • VS:X: U.S. VS U.K. EXTREME HORROR, edited by Dawn Cano (Shadow Work Publishing)
  • YEAR’S BEST HARDCORE HORROR VOLUME 2, edited by Randy Chandler and Cheryl Mullenax (Comet Press)

【J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD】

  • David J. Schow
以上2018 スプラッタパンク・アワード全ノミネート作品でした。うむむ…、毎度言ってるけどホントこの辺読みたいのだけど、手が回らなくてほとんどわからない感じで申し訳ないのだが…。わかってるところで言うと、まず前に『Header』を小説と映画で紹介したエドワード・リーが長編、中編でノミネート。中編は『Header 3』かよ。早く続き読まなくちゃ。そして、もうしつこいくらい言ってる私の最近のイチオシ、Adam Howe君のあの大傑作『Damn Dirty Apes』(『Die Dog or Eat the Hatchet』収録)が中編部門でノミネート!あとはJeff StrandとかMatt Shaw辺りは割とよく見る名前か。うーん、何とか長編、中編あたりの作家は大体わかるようになりたいのだけど。J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARDに日本でも翻訳のあるデイヴィッド・J・スカウ。『狂嵐の銃弾』は持ってるけどまあ読んでないや…。編集のアンソロジー『シルヴァー・スクリーム』についてはまだ持ってないや。ごめん。こんなのばっかで…。いや、『シルヴァー・スクリーム』はずっと買おうと思ってたのだけど、え?創元社のホームページ見たらもう絶版なの?今度なるべく早く買うよ…。えーっと、それで問題のJ. F. Gonzalezという人なのだけど、日本では多分未紹介なのでしょう。2014年に亡くなったホラー作家でClickersシリーズなどが代表作。この賞を設立した二人とは親交が深かったようで、どちらとも共作が2作ずつあります。
アンソロジーについてだけ、いくらかわかるところもあるので書いときます。いや、とにかくこっちのジャンルも読めないか、といつも思ってるので、割と値段安目のホラー系のアンソロジーを見つけると、とりあえずなるべく手に入れとくようにしてたりもするので。結局全然読めてないのだけど…。まず、タイトル画像にも使った『VS:X: U.S. VS U.K. EXTREME HORROR』なのだけど、タイトル通りアメリカとイギリスの作家が多分同一テーマとかで競作するという趣向のものらしい。紹介文の中でも○○VS○○みたいに収録作家が並んでいるので。こちら昨年12月に発売されたばかりで、動物保護のチャリティー出版で、価格も日本では111円とお得。版元Shadow Work Publishingはさっき初めてホームページに行ってみましたが、結構沢山本も出してるところのようです。まあこれから色々調べて行ってみます。そしてこれも今回初めて知った『SPLATTERPUNK FIGHTING BACK』。こちらは昨年11月に発行。短編部門ノミネート作品もこちらから3作選ばれていたりもするので、要注目。こちらは癌の基金へのチャリティー出版ということで、こちらも今112円とお得。この値段なのだからこの2冊はとにかく買っとくべし!版元Splatterpunk Zineというのは基本的にはプリント版で同名のアンソロジーなどを出しているところのようです。アマゾンで検索してみたところ、Kindle版ではこれの他に2016年9月に出た『Splatterpunk's Not Dead』というアンソロジーがあるくらいです。『CHOPPING BLOCK PARTY』は発行が昨年9月か。こちら私の好きなAdam Howe君が参加してるので前から目を付けていたのだけど、前に騒いでいた『Wrestle Maniacs』があったので後回しにしていたら700円近くだったのが300円台まで下がっていました。多分今がお買い得だよ。Necro Publicationsについては、こちらもまだ知って日が浅いのでよくはわからないのだけど、結構精力的に本を出している感じのところでもっと色々見て行かなければと思ってるところです。『YEAR’S BEST HARDCORE HORROR VOLUME 2』は前にも読みたいんだけどなあ…と書いてたおなじみのComet Pressの看板アンソロジーです。Comet Pressも時々見に行くのだけど、どうも出版ペース落ちてきてるみたいでちょい心配してるのだが。VOLUME 3ももうすぐ出るよ、ってことなので頑張ってほしいですね。『DOA III』はアンソロジーDOAシリーズ第3弾。名前だけは結構前から見ていて気にしていたシリーズなのだけど、結局いまだに手付けられずというところで…。恐ろし気なカバーも好きなのだけど、割とこのシリーズの方向のやつが個人的には好みだったり。(下のリストで見てちょ。)
と、現段階で私にわかってるのはこの程度でしょうか。うーん、アンソロジーのところだけ少し書けたのだけど、なんだか本当にこのあたりだけは気にしていてとにかくどれもすぐに読んでみたいというところなのだけどね。アンソロジーで少しずつ作家の名前とか知って色々横のつながりが見えてきたりどの辺が中心か見えてきたり、って感じでだんだん中に入って行けるはずなのだがね。結局ノワール系だってその方法で概観掴んでったわけだしね。

と、先にモタモタと説明をして話が前後してしまったわけだけど、そもそもなんで私がこんな力んでいるのかだ!まず、なぜスプラッタパンク・アワードなのか、からである。なぜ今スプラッタパンク・アワードなのか?スプラッタパンクは今盛り上がっているのか?はっきり言って、私がそれほどこのシーンをちゃんと追えていないことは先ほどから何度も言っているのだが、それでもなるべくは気にしているところから言わせてもらえば、残念ながらおそらくはNOである。実際のところスプラッタパンクという呼び名すらも昨今のこのシーンでもそれほど見かけることはなく、この手のジャンルについてはエクストリーム・ホラー、という呼称の方が多く見られるのだが、それをエクストリーム・ホラーと呼び変えても、残念ながらNO、というところなのではないか。このタイプだったりビザール系だったりのホラー系インディペンド・パブリッシャーが勃興しては短命に消えて行ってしまう状況についてはしばらく前に書いたのだけど(去年のどっか)、その辺の状況がそれほど変わったという気配もない。このジャンルで、NYのメジャー・パブリッシャーから本を出している作家がどのくらいいるのか、と言うより今現在存在しているのかもよくわからない。だがしかし、このジャンルに新たに参入する作家は常に存在し、たとえ短命で消えても新たなパブリッシャーは現れ続ける。そしてこのジャンルの読者も潜在的ではあるかもしれないが、ある程度の数は存在しているはずである。書き手、読み手も双方充分に存在し、ではシーンをもっと盛り上げるために何が不足しているのか?そこでこの二人は考えたのではないか。このシーンに必要なのは中心なのではないか、そしてこのジャンル独自のアワードを設立することでその中心を作ることができるのではないかと。私はそういうことなのではないかと見る。そしてスプラッタパンク・アワード。いや、スプラッタパンクというのはいい言葉だよね。前述のようにスプラッタパンクという呼称は近年はあまり使われなくなってきている。だがスプラッタパンクだ。スプラッタでパンクなのだよ。なんとわくわくする組み合わせだろう!俺たちが書いているのはスプラッタパンクだ!そしてスプラッタパンクの旗のもとに今一度このシーンを盛り上げるのだ。それこそがスプラッタパンク・アワード!そう私は見たのである!そして更にそこには道半ばで倒れた彼らの戦友J.F. GONZALEZの名を冠した賞まで用意されているのだ!なんとも美しいアワードじゃないか!ほぼお前の推測じゃん…。だが、問題あるか?これがシーンが色々盛り上がっててお金を引っ張ってこれるところがあって、じゃあそんなの作ってみよーか、的なものではなく、作品も作家もコアなファンも熱量は高いがなかなか盛り上がって行かないシーンを活性化させるため、という私の見方は多分間違っていないと思う。だから私も強引に緊急報告でお伝えするのである。スプラッタパンク・アワードやってまっせ!

とりあえず緊急報告ですぐ終わるつもりだったのだが、思いのほか長くなってたり。やっぱ語るべきことは多いのだね。なかなかそっちに動けないんだけど、次これに関してやるまでにはもう少しネタも増やしとくつもりです。そもそもBrian Keeneとか自体がずっと読みたいけどなかなか読めなかったりぐらいなのですよね。しかし今回これを見つけて、どっか日本語で紹介してるとこないか、ってまず探してみたのだけどまた見つからず、というわけで自分でやるしかないか、とまた頑張ってみました。なんかさあ、Tillie Waldenからスプラッタパンク・アワードまで、ってもうちょっとおかしいことになってるんだけど。まあいいか。ホラー小説のファンでたまたまここを見つけた人がいたら、なんでコイツ全然読めてないのに騒いでんだろうと思ってるかもしれませんが、ほら、例えばさ、オッパイとお尻とどっちが好き?と聞かれると私はもうエクストリームにオッパイが好きだから、多少食い気味にオッパイ!と即答するわけだが、はっきり言って数秒考えてう~んお尻かな?などと答える者よりもはるかにお尻も好きだという自信がある!だが、あまりに異常にオッパイが好きすぎて、常に気にしてはいてもなかなかお尻に手が回らずという次第…、あっ、今気付いたけどこれ犬と猫ぐらいの例えでやっとけばよかったんじゃ…。Tillie Waldenさんごめん…。とにかくわかったろう!情報不足だったり読めてないものばかりだって、誰もやってくんないならやるぐらいの愛情はあるのだ!日本のエクストリームなお尻…じゃなくてホラーのファン諸君!ホラー小説への愛情があるなら、このスプラッタパンク・アワードを応援するのだ!最後にホラー小説や映画とか好きなのってどうなん?というような中学生向けの低レベルの愚問にも親切に答えてやろうじゃないか。いつの時代だってモラルに2択しかないと信じる単細胞のお前らこそが自分の正義のみを振りかざして戦争その他の災厄をもたらしてきたんだろうが!俺たちはバカじゃないから創造力のある人間が人を心底怖がらせようと全力を振り絞って作り上げた美しく身の毛もよだつ恐ろしい残酷な作品楽しめるのだよ!これ以上やってるとまた無差別罵倒に発展するのでここで終わり!心ある人はこのスプラッタパンク・アワードを応援してくれよ~。

※下のリストについて:中編部門『KILLER CHRONICLES』(Somer Canon)と短編集部門『GORILLA IN MY ROOM』(Jack Ketchum)に関しましては、限定版出版のようでアマゾンには見つかりませんでした。以下が版元のページへのリンクです。
KILLER CHRONICLES by Somer Canon
GORILLA IN MY ROOM by Jack Ketchum

Brian Keeneホームページ/2018 SPLATTERPUNK AWARD NOMINEES


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■2018 スプラッタパンク・アワード ノミネート作品
●長編部門



●中編部門



●短編集部門



●アンソロジー部門



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2018年3月21日水曜日

ジョー・R・ランズデール / Hap and Leonard -ハップ&レナード短編集!-

遂に私のブログにもハプレナ・シリーズが本格的に登場!つってもまだ本編ではないのだが。以前にこれは本編シリーズと版元も別だし、出しやすいからきっとどこかが出すよね!…と言ってたのだが一向にどこからも翻訳の出る気配のない、Tachyon Publicationsより2016年に発行されたジョー・R・ランズデールのハプレナ初の短編集『Hap and Leonard』であります!今回は、この作品集の感想を、ということなのだが、あらかじめ言っとくと、感想もくそもないよ!ランズデールでハプレナで面白くないわけがないじゃん!なんか小難しぶって重箱の隅を突いてケチをつけてミステリ通を気取ろうなんてのは阿呆のすること!つーわけで今回は絶品料理を食べに来たグルメレポーターよろしく、絶対に面白いに決まってるハプレナ短編集がいかに面白いかを語るのみであります。ハハハ、ご心配召されるな。我輩はメシを食う時間より作る方に時間がかかるのは不合理ではないかと屁理屈をこねるほどの理論派グルメなるぞ!泥船タイタニックに乗ったつもりで任せたまえ!

ではまずはこの短編集に収録の作品一覧から。

  • Hyenas
  • Veil's Visit (with Andrew Vachss)
  • Death By Chili
  • Dead Aim
  • The Boy Who Become Invisible
  • Not Our Kind
  • Bent Twig
  • Joe R. Lansdale Interviews Hap Collins And Leonard Pine
  • The Care And Feeding And Rising Up Of Hap And Leonard
以上のうち、「Veil's Visit (with Andrew Vachss)」「Death By Chili」の2作は早川書房の日本オリジナル短編集『現代短篇の名手たち 4 ババ・ホ・テップ / ジョー・R・ランズデール』に翻訳収録されております。「Hyenas」「Dead Aim」と「Veil's Visit」の3作は限定版として出版された中編で、この短編集が出るまでは結構レアな作品だったらしい。では収録順に作品の方を紹介していりましょう。

Hyenas : 2011年
酒場で数人の男と乱闘となったレナード。が、ほぼ一方的にレナードが相手の男たちをぶちのめして終わるのだが、その後その中の一人の男がレナードを訪ねてくる。あんたの腕を見込んで仕事を頼みたい。その男、Kelly Smithが言うところによると、自分の唯一の肉親である弟がよからぬ連中と付き合っている。どうもその連中はただのならず者ではなく、最近近くの銀行を襲った一味らしい。また新たな犯行を計画していて、今度は弟を運転手として使うつもりのようだということ。そもそもはレナードが酒場でぶちのめした男たちにこの仕事を頼むつもりだったのが、こんなことになってしまった。連中よりはるかに腕も立つし、信用できそうなあんたに弟を救い出してもらえないだろうか。そんな話を聞いては放ってはおけないハップとレナードはKellyに力を貸すことになるのだが…。

相変わらずのちょっと過剰ぐらいのユーモアとバイオレンスに満ちた中に常に変わらぬ一本筋の通った真実の正義の光る、いかにもハップ&レナードって感じの快作であります。いやー、またあんたらに会えて良かったよ。
えーっとここで遅ればせながら告白しちゃうのだが、私の以前の住まいで多数の書籍が神隠しにあっていたことは前回書きましたが、実はこのハプレナ・シリーズ翻訳版角川文庫全5冊もその中の一つで、引っ越しの際にやっと救出されたものだったり…。このハプレナ・シリーズに関しては本当に思い入れがあり、度々言ってる貧乏性で好きな本はなかなか読まなかったりする私が、比較的に出て早くに読んでいたシリーズなのだが、あんまり好きなのが仇になり、読み終わって本棚の中の特等席に置いたつもりが、その後の度重なる地殻変動で本その他が積み重なり本棚のその部分も埋没し、かれこれ10年近く行方不明となっていたというわけなのでした。まあそんなわけでハプレナ以外のキャラクターについてはかなり朧気になってしまっていて、ハップの彼女のブレットさんぐらいになっても、いたようないなかったような…ぐらいの状態になってしまっていたりする。本当はこんなに色々遅れなければ去年のうちぐらいに書く予定だったのだが、そのままやってたらかなり頓珍漢な感じになってしまっていたところだったよ…。
そんなよくわからなくなってしまっていたキャラの一人が私立探偵マーヴィン・ハンソンさん。この短編集でもかなり頻繁に登場するのだが、やっと発掘されたのをパラパラめくってみるとかなり初期から登場していたり。こんなのも思い出せないようではもう一度シリーズ通してちゃんと読み返さなければ。もちろん読み返す価値はあるどころか、繰り返し読まねばならん作品だろう、が、どうにも時間が…うむむ…。 で、そのマーヴィンさんなのだけど、この人実はランズデールの長編デビュー作である『Act of Love』の主人公だそうであります。そこまでに至る出版の経緯はよく知らんのだけど、とにかく2014年8月にGere Donovan PressからKindle版が発売されていて、その時にそれに合わせて出版されたのがこちら。
『A Bone Dead Sadness』という55ページの中編なのだけど、こちらマーヴィンが主人公で、その『Act of Love』の後日譚ということらしい。ハップ&レナードも登場とのことです。かれこれ2年以上ぐらいずっと読もうと思ってるのだけど、今に至るも届かず…。一体どんだけ読もうと思ってる本を積み上げてんだよ…。ハプレナコンプリートを目指す人はこちらも要チェックですぞ。
あと、ついでに告白しとくと、実は前述の『ババ・ホ・テップ』についてもここ3年ぐらい神隠しにあっていたり…。しかもそっちは貧乏性発動で未読だったり…。そんな状態でホントに時間があったとしても昨年末ぐらいにこれ書けたのかよ、と思ってしまうよ…。

Veil's Visit : 1999年
ドラッグ製造所と化した隣家に火を付けたかどで逮捕されたレナードのために、ハップはヒッピー時代に出会ったVeilという弁護士を連れてくるのだが…。

Death By Chili
ハップとレナードの友人の警官が悩む、殺害されたコックと消えた最高のチリのレシピの謎にレナードが挑む!

こちらは翻訳も出てる作品なので、2作まとめて軽く。
「Veil's Visit」については、こちらの本では「兄弟分のアンドリュー・ヴァクスとの合作じゃけんのう」ぐらいのことしか書かれていなかったが、この度発掘された『ババ・ホ・テップ』の解説を読み、ヴァクスが「ウチもランちゃんのハプレナが書きたいっちゃ~!」と電撃を送り続けて実現した合作であることを初めて知りました。後半法廷シーンが章を短く分けるヴァクスのスタイルで書かれていて、前半後半をそれぞれに書いたのをつなげたのがまるわかりだったりするところに二人のおおらかさが現れた楽しい合作ですね。あと、アンドリュー・ヴァクスについても語らねばならんところはあるのでいつか必ずやります。ところでランちゃんってどういうキャラだったかどうも思い出せない。ヴァクスの虎ビキニも日本版吹替平野文さんの口調も思い浮かぶのだけど…。
「Death By Chili」は密室トリック。かのエイドリアン・マッキンティが英ガーディアン紙に発表した密室トリックベスト10にも選ばれた…、とか無駄に他のジャンルのファンの人を刺激するデマは止めろって。『ババ・ホ・テップ』の解説に初出というのが書いてあったのだけど、ご本人によると、そもそもは『バッド・チリ』のプロモーションの限定版オマケだったそうです。

Dead Aim : 2013年
マーヴィン経由で、別れた夫からのストーキングに悩む女性のボディーガードを請け負ったハップとレナード。下調べの後問題ないと判断し、仕事に取り掛かるが、案の定思いがけぬ展開に…。

事件とその背景が二転三転、本当に悪いやつは誰なのか?最後にはハプレナにふさわしい敵が登場しますぞ。
ハップが訓練とかではなく、先天的な才能で銃の扱いが上手いという設定は、この短編集でもたびたび登場して、確か割と読んだのが最近の第1作『Savage Season』にも出てきたように思うのだけど、レナードってこんなにクッキー・モンスターぐらいにバニラクッキーが好きだったかな?と、うーん、やっぱり読み返さないとね。
ちなみにここまでの中編3作はVeil's Visit(邦訳題「ヴェイルの訪問」)がCaptains Outrageous(邦訳題『テキサスの懲りない面々』)の前で、後の2作はVintageからの未訳の2長編の後に出版されています。

The Boy Who Become Invisible
ハップの子供時代の話。仲の良かった友人のJesseだったが、家が貧しく、ある時を境にクラスの中でいじめの標的となり、ハップも彼とは距離を置き始める。やがてJesseはクラス中から無視され、存在しない人間として扱われ始め、そしてある日、悲しい結末が…。

子供時代の残酷で悲しい話。子供の頃の親しい友人を救えなかった後悔のにじむ、沈鬱な回想なのだが、実はこの話主人公がハップである必要はなく、ハップであることをはっきり示すのも一か所だけ。それが実に効果的で巧みな仕掛けなのだけど。多分ランズデール自身の体験も部分的に入っているのだろうし、ほとんどランズデール自身の回想のように読んでしまって、ハップって実は思ったよりランズデール本人を投影しているのかな、と思ったりしたのだが、そのことについてはまた後で。この作品については発表日時については明記されていないのだが、「Hyenas」「Dead Aim」と同時期辺りとのことです。

Not Our Kind
ハイスクール時代、ハップがレナードと知り合ってっもないころの話。レナードとちょくちょくつるむようになったハップだったが、校内の人種的偏見の強いグループに見とがめられ、彼らとの関係が次第に険悪になってくる。そして、遂にある日、彼らとの衝突を避けられなくなったハップだったが…。

前の作品は子供時代の悲しい回想だったが、そこから少し成長した時代のこの作品は、60年代ぐらい、まだ根強く残る人種偏見を蹴飛ばす清々しい快作。この作品に登場するレナードの叔父さんは、そういう人がいたのは割と読んだのが最近の『Savage Season』でも確か語られてたので覚えてるのだけど、その後本編に登場したっけ?…いや、ちゃんと読み直すよ…。こちらの作品は、Tachyon Pressのページを見るとoriginal storyと書いてあるので多分書き下ろしなのか未発表作なのでしょう。

Bent Twig
ハップが夜警のアルバイトから深夜2時に帰宅すると、ブレットがまだ起きていてキッチンに座っている。問題児の娘、ティリーがまた姿を消したというのだ。ハップは調査にかかるが、思ったよりも厄介なことになっているらしい。頼みのレナードはマーヴィンからの出張仕事で不在で、ハップは単独で問題解決に乗り出すのだが…。

ブレットの娘ティリーに関しては、この短編集の他の作品でも言及があったので、どういう人かはわかってたけど、やっと発掘された手元のシリーズの登場人物紹介を見ていたら第5作Rumble Tumble(邦訳題『人にはススメられない仕事』)に登場していました。もっと前から登場はあったのかな?あと、今色々パラパラ見てたら、第2作Mucho Mojo(邦訳題『ムーチョ・モージョ』)の冒頭でチェスター叔父さんが亡くなった、って話してたよ…。ごめん。こちらそこそこの長さの中編なのだけど、発表時期などについての記述もなく不明。

Joe R. Lansdale Interviews Hap Collins And Leonard Pine
タイトル通り、ランズデールがハップとレナードにインタビューする、というちょっと気の利いた笑えるキャラクター紹介ですな。どんなインタビューか知りたい人は自分で読むべし。もしくはどっか翻訳出せよー。マジで。

The Care And Feeding And Rising Up Of Hap And Leonard
こちらはあとがきなのだが、内容的にもボリュームとしてもエッセイ「ワシとハプレナ」ぐらいの代物です。で、「The Boy Who~」でハップというのはかなりランズデール本人を自己投影したものではないか、と思ってるところで読んでみると、案の定、第1作『Savage Season』はほとんど私小説みたいなもんじゃからのう、ということ。そしてそこにレナードが現れる。ワシはこのキャラクターをどう創造したか、なんてことは書かれていない。奴は現れたのだよ。他にもハプレナ・シリーズの歴史なども書かれた大変に楽しいお話です。ハプレナ・ファンのあなたならニコニコして読むことでしょう。私もそうでした。収録作品についてのところどころで書いた言及はここからのものです。あと、ハプレナ・シリーズの出版史については、最後に作品リストなんかも書くので、そこんところで。

というわけで以上が大変すばらしい感動のハップ&レナード短編集『Hap and Leonard』でした。繰り返して言うが、ランズデールでハプレナだったら、もう長いも短いもカンケーなく傑作に決まってんだよ。ハプレナ読んで「であるが」とか言い出すミステリ通気取りがバカ!とにかくどっかの出版社が正気に戻ってこんな素晴らしいシリーズがあるのをちゃんと思い出して、この短編集や本編の続きを一日も早く翻訳出版してくれることを願うばかりですよ。
あと以前にこちらの短編集には日本のアマゾンからは購入できないKIndle版でちょっと内容の違う『Hap and Leonard Ride Again』というのがあって、そちらはTachyonのホームページから直では買えるというようなことを書いたのですが、今回見に行ってみたら購入できなくなっていました。地域の問題なのか販売終了なのかは不明です。

そして今回は更にオマケ。短編集を読んだ勢いで、ついでにこちらのe-Bookのみで発売中の中編も読みました。うっかり放置しとくとまたいつになるかわからんからね、というわけで。

Briar Patch Boogie : 2016年
バカンスに釣りを楽しみながらキャンプ、のはずだったがオンボロボートは初日に沈没、あばら家のバンガローで管を巻くしかなくなったハップとレナード。雨の中もう少しまともな釣り場を求めて出かけた2人は、またしても厄介な事件に巻き込まれて行く…。

序盤、結構長くダラダラとバンガローでのバカ話が続き、今回は「ハップとレナードのズッコケキャンプ騒動」とかになるんじゃないかと思い始めたあたりで、一転して陰惨な展開へ。そしてハップとレナードは最も危険なゲームへと向かって行くのであった。
こちらの作品は、前述の『Act of Love』Kindle版なども出しているGere Donovan Pressから、2016年、TVシリーズやMulholland Booksからのシリーズ再開の少し前、ハプレナ復活前夜あたりに出た作品です。えーと、いや作品自体は問題なくいつも通りの傑作なのだが、今回の短編集収録作品との間にも特に長編も出てない時期なので、読んでも何か重要な情報をネタバレ的に知らされちゃうこともないだろう、と思って気楽に読んだのだけど、うがっ!結構重要な展開をさらりと書かれちまったよ!えー?いつそうなったの?全く油断もすきもありゃあしない。同様に短編集など未収録の中編で手に入りやすいところで『Cold Cotton』ってのが2017年にも出てて、そっちも読んじゃおうっと、というつもりだったのだが、シリーズ本編を読み進めないうちにこれ以上うっかり重要情報を知らされると困るので、今回はここまでとしました。

さて日本では長らく翻訳のストップしてしまっているハプレナ・シリーズですが、ここでランズデール本人による話とともにその後の経緯を少しまとめておきましょう。まず日本での現在のところ最後の翻訳である第6作『Captains Outrageous』の後からですが、そこでランズデールがKnopfに移籍になったところ、Knopfではハプレナ出版に興味を示さず、その後8年、Knopf傘下であるVintage Crimeが乗り出すまでシリーズはストップしてしまいました。そしてVintageからは2009年、2011年に2冊の長編が出版されるのですが、その後またストップ。なぜ2冊で終わったかの理由などについては語られていません。そして5年後の2016年、TVシリーズ開始の盛り上がりとともにMulhollandから長編シリーズの出版が再開されるのですが、実はその間に現在のところ幻となっている長編が1作あります。『Blue to the Bone』というタイトルで発行時期未定のまま出版予定としてリストに載っていたもので、さっき見たら日本のウィキペディアにはまだ残っていました。現在はリストそのものが変わってしまっているのですが、しばらく前まではランズデールのホームページの著作リストにも載っていて、Mulhollandからの再開第1作『Honky Tonk Samurai』が出た直後ぐらいに、そのリストのところだったか他のページか忘れてしまいましたが、数年ぐらいたったら出るんじゃないかな、みたいなコメントが付けられていたのを目撃しております。そこから察するに、作品自体は完成しているが何らかの事情で出版されず、また版権上の問題でそれが失効するまでは他の出版社から出すこともできず、みたいな状況が続いているのではないかと推測されるのです。しかし、まあその作品の情報自体がうっかり残ってる日本のウィキみたいなところ以外からは消えているので、もしかすると『Honky Tonk Samurai』以後の最新作を含む2作のどちらかがタイトルを変えたそれ、という可能性もあるのですけどね。ちなみに今回オマケの『Briar Patch Boogie』の巻末のリストにも『Blue to the Bone』が発行時期未定で載っていて、うっかり読んじゃった新展開というのがその『Blue to the Bone』の中でのことなのではないか、という推測もされたりもするのですが。そのへんについてはとにかくシリーズを読んでけばどっかで見えるかも、というところなので、まあとにかくはまずきちんと追っかけて行こうと思っております。
その他のハプレナ情報としては、好評のTVシリーズが現在第3作『The Two-Bear Mambo』が製作中、いやもう始まってんのかな?トレーラー載っけようと思ったらそれも版権で日本からは観られないのね…。しかしかなり遅ればせながらハプレナTVシリーズが日本ではアマゾンプライムで観られる、ということを昨年末ぐらいに知って、一日も早く観なければと思ってるのだけど、結局それも引っ越しのバタバタでなかなか手を付けられないところ…。うむむ…。まあ次の当ブログハプレナ登場までには何とかするですよ。アマゾンプライムでは現在もうシーズン2『ムーチョ・モージョ』も観れるですよ!
そしてもう一つ、TVシリーズに合わせて第1作『Savage Season』のコミック版が、えーと日本じゃ『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』でおなじみぐらいなのかな?ああ、あと『30デイズ・ナイト』とかジョー・ヒルの『ロック&キー』(日本版続き出ねえの?)とかのIDWから出てるのですが、今なんかキャンペーン中かなんかでKindle版が400円台と大変お得価格で販売中。ComiXologyより安いじゃん。Kindleで買って結局ComiXologyのアプリで読んでるのだけど。こちらについては読み始めたばかりで、まだどうなんかな、というぐらいなのだけど、とりあえず書いとかんと間違って買うおっちょこちょいがいるから。しかも中にはてめえの不注意で間違えたのに、「小説だと思って買ったらコミックでがっかりした。★1」とか言い出す頭のおかしいレベルの迷惑クレーマーみたいなのもいるんで。そーゆーのに限って「コミックやマンガには関心がない。」みたいなことを言うのがインテリジェンスの表明だと勘違いしてるけど、結局アンタママに字ばっかりで画の入ってない本読めてえらいね、って褒めてもらってからたいして成長してないんだよ。前から思ってたことでこの際だから言っとくが、まず例えば小説が好きな人だと、映画の原作だっていうことで読むけど結局あらすじレベルでしか本を読めない人っていうのをあんまり良く思ってないでしょう。マンガ・コミックについても同じこと。簡単に早く読めてもそれが本当に「読めた」ってことになるのかどうかは上の映画原作の例と照らし合わせるぐらいの頭があれば当然わかるでしょうが。たとえ著名な書評家だろうが、それが小説作品をコミカライズしたものだったとしても的確に評価できるとは限らない。それでもコミックとして読んだうえでの感想で★1を付けるってえ自信があるならどうぞやってみなさいよってところですね。マンガだから★1を付けると褒めてくれるママがいるならアンタの家の中だけでやってくれ。とは言っても先に書いたように私もこの作品については読み始めたばかりで評価は未定。ちょっと出だし見た感じでは、TVシリーズ版も観たうえでトータルで考えるのがよさそうな直感はありますが、しばらく先で、次のハプレナ登場の時にって感じになると思います。そんなところなので強くお勧めはしないが、ハプレナ・シリーズの世界を拡げたいって考える方ならキャンペーン価格中に買っとくのもアリではないかと思います。とかダラダラ言ってるうちにキャンペーン終わっちゃったらごめん。

というわけでハップ&レナード・シリーズ初の短編集『Hap and Leonard』及びオマケ『Briar Patch Boogie』、その他ハプレナ情報や罵倒少々と盛りだくさんでお届けいたしました。本を売る方法といやあメディアミックスしか思いつかんくせにハプレナ・ブームに便乗しないバカばかりの出版社群に無視され続けている、日本にもたくさん存在しているハプレナを愛する皆さんにはちょっと喜んでもらえたのではないでしょうか。しかし今回これを書くまでは、やっと発掘された翻訳版ハプレナ・シリーズを見て、いつか再読できればいいなあ、とか思ってたけど、もう完全に早く読み返さなければだめじゃんという感じになって参りました。そんなわけで今後は旧作と未訳作を並行して読んでいくつもりで、いつまでたっても出版社群が正気に戻らずハプレナ・シリーズの翻訳が再開されない場合は、またそのうち長編第7作『Vanilla Ride』も登場となると思います。あと、文中で何度も『Savage Season』のことを書いてるのだけど、それについては別の本について書いた時についでに下の方に書いただけだったので、特に右にもリンクとかなかったのですが、どこだったかさっき探してみたらMatthew Stokoeの『High Life』の下でした。ハプレナ・シリーズだから当然面白いぐらいしか書いてないのだけど。そういやMatthew Stokoeも早く次読まなきゃ…。

■ハップ&レナード・シリーズ
【長編】

  1. Savage Season (1990)
  2. Mucho Mojo (1994) ムーチョ・モージョ
  3. The Two-Bear Mambo (1995) 罪深き誘惑のマンボ
  4. Bad Chili (1997) バッド・チリ
  5. Rumble Tumble (1998) 人にはススメられない仕事
  6. Captains Outrageous (2001) テキサスの懲りない面々
  7. Vanilla Ride (2009)
  8. Devil Red (2011)
  9. Honky Tonk Samurai (2016)
  10. Rusty Puppy (2017)
  11. Jackrabbit Smile (2018)
【中編】
  1. Veil's Visit (1999) ヴェイルの訪問
  2. Hyenas (2011)
  3. Dead Aim (2013)
  4. Briar Patch Boogie (2015)
  5. Bent Twig (?)
  6. Hoodoo Harry (2016)
  7. Coco Butternut (2017)
  8. Cold Cotton (2017)
【短編集】
  1. Hap and Leonard (2016)
  2. Hap and Leonard Ride Again (2016)
【モザイク・ノベル】
  1. Hap and Leonard: Blood and Lemonade (2017)


【その他おしらせの類】
さて、まずは現代最強のノワール作家にして無冠の帝王Anthony Neil Smith先生の新刊のお知らせです。以前にも言ったように私はSmith先生の素晴らしい作品を世に知らしめるためにブログをやっているので、新刊発売告知がある場合は必ず宣伝するのだよ!新刊『The Cyclist』が、『Castle Danger』シリーズと同じBastei Entertainmentより5月8日発売予定!今回の作品はシリーズ物でない単独作品とのことです。楽しみですね!…いや、しかしとにかく何とか早く『Castle Danger』ぐらいは読まんと…。なんだかホントにあっちもこっちも読まなきゃならんもんばっかりな一方で、さっぱり進まずで。ブルーウンのトム・ブラントやマッキンティDead三部作の次ぐらいは当然もう読んでなきゃならないはずなのに…。マッキンティはSean Duffyの翻訳出たらネタバレされるかもしれないしね。しかしもう3月なのにマッキンティも『IQ』も出ないけどどうなってんのかね。空気読みのプロ先生どもが新しい売れるシリーズが欲しいという本屋や出版社の要望に応えて、『IQ』と多分どっかが必ず出して来るメグ・ガーディナー『UNSUB』あたりをランキング上位に押し上げてくるってのが2018年の私の予想なんだがね。いや、どっちも悪い本じゃないんだから余計な悪態のネタにするなよ…。とにかく『UNSUB』早くどっか出してよね。
で、その『UNSUB』をメチャ推ししてるドン・ウィンズロウなのだがもうすぐハーパーから翻訳出るらしい『The Force』は映画化進行中らしいです。詳しくは本が出た時オビに載るだろ。ちなみに『ザ・カルテル』の続きは来年になるそうです。ということは日本で出るのハーパーなら早くて2020年か。え?オリンピックの年なの?どこで?えー?日本で?
で、そのハーパーなんですが、昨年本国のHarperCollinsで見つけたJason Millerの『The Hunger Angels: A Slim in Little Egypt Short Story (Slim in Little Egypt Mystery)』が面白そうなんで読んでみると言ってたのですが、期待通り!元炭鉱夫の私立探偵Slimの活躍するSlim in Little Egyptシリーズ。ユーモア&バイオレンスのカントリー・ノワール、っていうよりもう田舎ノワールって呼び名の方がいい気もする。もっと読みたいんで翻訳出してよ!つってもどーせ無理だろーな。そのうち原書で読むよ…。あとハーパーと言えば前書いた時見落としてたんだけど一昨年の各賞ペーパーバック部門総ナメのLou Berneyの『The Long and Faraway Gone』があるじゃん!何であれ出さないんだよ!いや、私もずっと読もうと思ってKindleで延々待機中なのだけどさ…。
なんだかどこをたたいても結局個人的なぼやきに突き当たる情けない状況ですが、何とか頑張って早く面白い本をたくさん読み、早くお伝えして行きたいと思うのですよ。ホントに。その後の引っ越し情報につきましては、相変わらず段ボールが天井まで積み重なり、相変わらず自室のドアすら閉められません。でも今回最近にしちゃ割と早かったっしょ。また次も頑張りますんでよろしくね。

あと、リストを作ってて気付いたのだけど、現在のところ何故か『Captains Outrageous』だけはMulhollandに版権ないみたいですね。それから中編『Hoodoo Harry』については、限定版で見たこともない本なので、全然触れなかったけど、9月にKindle版が発売されるようです。良かったね。TVシリーズのお陰でMulhollandのKindle版かなりお得価格なので、欲しい人は今のうちに買っといたほうがいいよー。


●ハップ&レナード・シリーズ






●コミック版



●マーヴィン・ハンソン登場!



●Anthony Neil Smith新刊!



●ハーパーはこれを翻訳せよ!




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