いつまでたっても変わらぬミステリ=クイズのミステリ認識に加え、思い込み・勘違いだらけの「ハードボイルド精神」解釈と、その「ハードボイルド精神」によって書かれた「ミステリ(=クイズ)」が「ハードボイルド」などというような、完全に狂ったミステリ観の この国では、まともに評価されるまで3世紀かかると想定されるケン・ブルーウン作品。
今読んでる人が生きているうちに翻訳されたものに出会える可能性はまずないだろう(いや、待て、冷凍睡眠で24世紀に目覚めるというケースもあるかも?)素晴らしいブルーウン作品に一人でも多くの人が触れられるように、という願いを込め続けている 未訳ジャック・テイラー・シリーズも今回で5回目となります(最初の2作は早川書房より、内容を全くぐらい無視した適当な邦題で出版され、絶賛絶版中)。
いや、自身のボランティア精神礼賛調で始めたけど、私ジャックさん大好きなんでとにかく読みたいが第一なんだけどね。
前作『Cross』では、自分が住んでいるアパートが思いがけないほど高額で売れることを知り、それを売ってアメリカへ渡ることを決意したジャック。いや、そのアパート優しいミス・ベイリーが、自分の経営してたホテルが無くなり住む場所に困るでしょう、 と遺産に残してくれたものなのだが…。
『Cross』の最後では、事件も一応の決着を見て、荷物もすべて整理し、いざアメリカへ、と空港へ向かおうとしたときに電話が鳴る。電話の相手は女性警官リッジ。そして涙声で告げる。乳癌が見つかった。
作中で時々リッジがその不安を告げて診察に行くべきか話しており、ジャックも心配はしていたのだが、最後の最後になってその診断結果が知らされる。
というところで、今回の第7作『Sanctuary』へ。
【Sanctuary】
ジャックはゴールウェイのスペイン橋の上、雨に濡れながら考えている。ああ、神よ、考えるのをやめられないものか?
リッジのこと。あの時ジャックは、アメリカへ行くため荷物もまとめ空港行きのタクシーが来るのを待っていた。そのとき電話が鳴った。あの電話を取ったことを今でも後悔しているよ。
あのリッジが怖がっていた。そしてジャックはアメリカ行きを一旦諦めた…。
そしてリッジは右の乳房を切除した。それから2か月、現在彼女は自宅療養中だ。
アームチェアーに座り込み、泣き言みたいな音楽を聴き、そして彼女は飲んでいる…。
ジャックの飲酒をずっと非難し続けてきたリッジがだ。
続いて彼女は煙草に火を点ける。もう一つの長年の彼女からジャックへの非難の的…。
「コカインもやってるのか?それで俺の悪習コンプリートだ」思わず嫌味を言ってしまうジャック。
そしてリッジ。「あんたに捕まるのも時間の問題ね、ジャック。あたしが言ってるのは、あんたのせいで何人が墓場行きになったの?ってこと」
これはさすがにこたえ、顔色が変わるジャック。それを見てさすがに言い過ぎたと思ったリッジ。「ごめんなさい、考えがなさ過ぎた…。そんな意味じゃ…」
「その通りだな。そのまま続けてりゃあ、いずれお前もその仲間入りだぞ」そういい捨てて、彼女の家を出てきてしまった…。
そしてジャックは、自宅に届いた謎の手紙について考える。
一週間前に届いた、それを書いた者が殺す予定のリスト。
最初に頭に浮かんだのは、なぜこいつは俺の住んでいる場所を知っているのか?ということだ。住んでいたアパートを売ってしまったジャックは、現在一時的に借りた部屋に住んでいる。
郵便局に勤める知り合いに電話して、手紙の差し出し主はどうやって自分の住所を知ったのか相談してみる。結局のところ、ジャック・テイラーは地元じゃ誰でも知ってる有名人だからな、ということになってしまう。
その朝、ジャックは手紙の中で言及されている警官が一週間前に殺されていたのを確認する。この差し出し主は、それを使って彼を病んだ遊びに引き込もうとしているだけの可能性はある。
だが、彼の直感は、そうではないと告げていた。
翌日、ジャックは警察に通報するために、所持するただ一着のスーツを着込み、現在住んでいるアパートを出る。
6世帯のが住む建物だが、その中で知り合いとなったのはひとりだけ、30代後半の陽気なオカマ自称Albert「またはハニーと呼んでいいのよ♡」。
なんで俺はこういうやつらを見つける、あるいは見つけられちまうのか…。まるで頭の上に「狂気を信条とするみんな、集まれ!」とネオンサインを掲げてるみたいに。ジャックはそう思う。
彼が部屋から出たちょうどその時、Albertもドアから出てくる。ふざけた挨拶の後、金曜日に、彼言うところの「ソワレ=夜会」をやるので来てね♡沢山お酒とクスリを持って、とジャックを誘う。
彼のインチキアメリカンっぽいアクセントが気になり、どこの出身だと尋ねると、コーク(アイルランドのダブリンに次ぐ大都市)と答える。アイルランドも変わったもんだ…。
ジャックは警察に行き、現在は相当険悪な仲になっているが、かつては相棒だった現在は警視になっているクランシーとの面会を求める。が、当然すぐには会ってくれず待たされる。
それを予想していたジャックは、持参した本、トーマス・マートンの『The secular journal of Thomas Merton』を読み始める。
えーと、トーマス・マートン一応調べたけどまあいいか。こーゆーところでインテリジェンス誇示ポイント発見!で承認欲求丸出しで得々と説明し始める法月みたいな俗物にはなりたくないもんね。調べりゃ簡単にわかりますから。
結構のめり込んで読んでいるうちに3時間が過ぎる。その間警察は忙しく動き、酔っ払いが引き摺られて来る途中、ジャックを発見し、「あんた知ってるぞ!あんた酔っ払いだ!」と叫んだりする。
そしてやっとのことで呼ばれて、クランシーの執務室へ。アメリカへ行くっていうんで、やっとお前を追っ払えたと思ってたのにな、ぐらいに迎えられる。
そしてジャックは手紙について説明し、現物を見せる。
だが、クランシーは一笑に付す。「これお前が自分で書いたんだろ、テイラー」
「我々は、ここで真剣な仕事に取り組んどる、こんな与太話ではなくな。助言してやるぞ、テイラー。とっととアメリカでもどこでも行っちまえ。この街にはお前のためのものなんて何もない。俺の街にはな!」
そして、評判の悪い裁判官が一人、殺される。
ジャックはゴールウェイのショッピングモールEyre Square Centreで、スチュアートと会う。
スチュアートは、未訳の第3作『The Magdalen Martyrs』でドラッグディーラーとして登場し、その後逮捕され未訳の第4作『The Dramatist』で刑務所の中からジャックに仕事を依頼して来る。そして未訳の前作第6作『Cross』で出所し、禅に目覚め 何かとジャックを助けてくれる頼もしいやつ。もう未訳ばっかりだよ…。
30代前半のスチュアートだが、刑務所での6年は彼をもう少し年上に見せる。裕福そうな身なりをしているが、現在の収入源は不明。
「ニュースがある。これがあんたに安心をもたらすのか、それともより深い絶望をもたらすのか判断が付きかね、話すと決めるまでに長く深い瞑想をした」
それは彼の元顧客の女性から聞いた話だった。リハビリセンターで彼女はある女性と同室となる。その女性は、自分は自分の子供を窓から突き落とし、その罪を他人に擦り付けた、と告白した。
トラックにはねられたぐらいの衝撃を受けながら、ジャックは問う。「キャシーなのか?」
スチュアートは頷く。
えーと、ここまでジャック・テイラーの人生を追ってきた人なら当然知っている、彼のその後の人生を変えたぐらいの衝撃的な出来事なのだが、もしかしたら日本で翻訳された後のシリーズについて知るのは初めてという人もいるかもしれないので、 ここで今一度詳しく書いておく。
第4作『The Dramatist』の最後で、事件もひと段落し、友人ジェフの店の2階で彼とキャシーとの間のダウン症の娘セリーナを見ていたジャックは、ふと目を離したすきに彼女を2階の窓から転落させ死なせてしまう。
この出来事によりジャックは心神喪失となり、しばらくは精神科病棟に収容され、続く第5作『Priest』の冒頭でやっと正気を取り戻す。
それ以前からしばらくの期間ライトに酒を断っていたジャックだったが、その後はパブに行き酒を一杯注文するが、一切手を付けないままその前に座り続けるということを、儀式のように繰り返すようになる。
『Priest』では、コーディーという青年がジャックの押しかけ助手として付きまとい、そのうちにジャックも彼を息子のように思い始めるのだが、物語の最後に不意に謎の銃弾に襲われ亡くなる。
未解決のこの事件に関しても、それ以前の言動から、ジャックはキャシーが犯人なのではないかと疑っている。
と、そのくらいのことだったわけだが、実はジャックはその時数分うたた寝をしており、その隙を見計らって実際に手を下したのは、母親であるキャシーだったという事実がここでジャックに告げられる。
あまりにショックを受けたジャックの様子に、スチュアートはジャケットから小さな封筒を取り出して渡す。中には黒い錠剤。
「1錠服み給え。2日以上空ければ害はない」
そして、探偵の仕事に戻ったんだろう?何かあれば助けてやれるぞ、と言って来る。
ジャックは手紙をスチュアートに見せてみる。早速、昨日裁判官が殺されたな、と察して来る。
何かわかるか調べてみる、と言うスチュアートに、料金は欲しいかと聞くジャック。もちろん、と答えるスチュアート。
だがジャックが交渉を始めるより早く、スチュアートは言う。「あんたには私と一緒に禅を学んでもらう」
現在の自宅に帰ったジャック。その時BMWが映画かパルプ小説の様にブレーキ音を鳴らしながら滑り込んでくる。
中から現れたのは、ミッキー・スピレインがブルーザー(Bruiser=乱暴者)と表現するような大男。明らかにボクサー崩れだ。
そしてジャックの前に来て言う。「テイラー、お前に会いたがってる人がいる」
「誰がだ?」
「悪いことは言わん、車に乗れ」と大男。
ジャックは男の股間を蹴り上げ、崩れ折れた男の襟首をつかみ面をはたいて言う。
「お前のボスにアポイントメントを取って礼儀正しい奴を寄こせ、と言っとけ」
自室に入ろうとすると、そこに隣人のゲイAlbertが待っていた。何やら脅えた落ち着かない様子。
どうした?と訊くジャックに、これ見たことある?と一枚のリーフレットを差し出す。そこにはこう書かれていた。
末尾にはO.F.R.Lの文字。Organization For Right Living、「正しい生き方のための団体」の略だとAlbertは言う。
連中はクラブの外で待ち構えていて、彼らを殴り、持っている焼き鏝でこの文字の焼き印を押しているのだ、と訴えるAlbert。
家に籠るか、警察に相談しろ、と突き放すジャック。
「警察なんて、このカソリックのアイルランドじゃ団体の一部よ」と吐き捨てるAlbert。
じゃあ奴らが来たら、俺を大声で呼べ、と言い捨てて部屋に入るジャック。あんたどっちの味方なのよ、と叫ぶAlbertの声をラジオのボリュームを上げて締め出す。
そして、考え事をしているうちにアームチェアーで眠ってしまっていたらしい。ジャックは電話の音で目覚める。
電話を取るジャック。「ミスター・テイラー?」
聞こえてきたのは、いわゆる「ウェスト・ブリット」(イギリス好きなアイルランド人を指す蔑称)という感じの声。
話の内容からすると、先ほど送り込んできたボクサー崩れのボスらしい。半ば面白がるような、うわべだけは丁寧な口調で、先刻の非礼を詫びてくる。
ジャックはまず、どうやって自分の住所と電話番号を知ったかを問い詰める。相手の答えは、住所に関しては「あなたはこの街で見つけるのがそれほど難しい相手ではない」で、電話に関しては「あなたの友人に20ユーロ払った」だった…。
そして彼は言う「自己紹介させていただこう」(ジャックはのちにこの「Allow me to introduce myself.」がストーンズのシンパシー・フォー・ザ・デビルのオープニングラインにそっくりだったことに気付く。例の「悪魔を憐れむ歌」というデタラメ誤訳邦題が もう日本では独り歩きしてるぐらいの曲)。
「私はアンソニー・ブラドフォード-ヘンプル。あなたもこの名前に聞き覚えがあると思うが?」
悔しいがジャックでもその名前は知っていた。アングロ-アイリッシュ(アイルランド生まれのイギリス人)の大地主。
だがジャックはあえて言う。「自分にゃあんまりピンとくる名前じゃないねえ」
侮辱を呑み込む呼吸音に続いてヘンプルは言う。「ミスター・テイラー、あなたが辛口だというのは聞いていたが、まあそれはどうでもいい。私はあなたに仕事を依頼したいと思っている」
その内容は以下のようなものだった。ヘンプルは唯一の娘であるジェニファーの16歳の誕生日にポニーを贈った。だがその馬は何者かに盗まれ、続いて手紙が来る。そこには5万ドル払わなければ、次はジェニファーだ、と書かれていた。
「警察は動いているが、何の成果も出せていない。あなたは公式ルートが失敗するときに結果を出せる人物だと聞いている。助けてくれないか、ミスター・テイラー。報酬は弾む。数年前妻を亡くして以来、ジェニファーが私のすべてなのだ」
そこでジャックは、この事件をリッジの復帰に役立てられないかと思いつく。何より彼女は馬が好きだ。
「住所を教えてくれ。同僚がそちらへ向かう。彼女から詳細を聞いた後、俺が捜査に当たる」
そしてジャックはまずリッジに会いに出かけるのだが、その途上やな感じの酔っ払いに出会ったり、宿敵マラキ神父にであったりする。ケツを蹴り飛ばしたくなる怒りに襲われるが、そこで最近スチュアートから受けた禅指導的なものを 思い出したりする。
そこでスチュアートがジャックに見せる、七本のKabuki Knivesは、結構物語の流れに関わってきたりもする。七本のナイフはそれぞれ人間の七つの罪を示しているというような説明がされる。調べてみたところ「歌舞伎ナイフ」という包丁メーカーが実際に 千葉県松戸市にあるのだが、とくに宗教に関係のあるものではなく、ここで出てくる「Kabuki Knives」はブルーウンの創作したフィクションと思われる。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
その他にスチュアートが禅を学ぶ中で会得した、東洋風体術のそれなりの腕前であることも描かれる。
リッジの家に着いてみると、彼女は荒れた生活から立ち直り、読書をしていた。
彼女の様子を見て喜んだジャックだったが、どうやって立ち直ったかと尋ね、あんたという見本があったからだ、あんたのようにはなりたくなかった、という答えにややムカッとする。
怒りを抑えて、リッジに依頼の件を話すと、彼女は興味を持ち今日にも相手に会いに行くと話す。
こんなにうまく行くと思っていなかったジャックは、俺のために働くのが嫌じゃないのか?と尋ねる。
リッジからの答えは、あんたのために働くんじゃない、あんたを助けてやるだけだ。
こいつは金持ちだから報酬も高いと思う、と言うジャック。
「あたしはカネのためにやるんじゃない。そしてあんたのためにやるんじゃないことも確かだ」
こうして、このシリーズではお馴染みの他人任せ捜査態勢に入るジャック。
リストの予告通り、三人目として修道女が殺され、クランシーに電話するジャックだったが、全く取り合う様子もない。
そして外に出ると、Albertが大けがをして帰って来る。例の団体のリンチに遭ったのだ。後悔し、謝罪するジャックだったが、もはや届くものではない。
一方で数年来のセリーナの死に対する罪悪感から解放され、もう一方では現在の自身を取り巻く様々なプレッシャーに圧迫され、ジャックは再び酒に手を伸ばすようになる。
そしてその結果、ジャックは約2週間記憶が飛ぶこととなる…。
その間も事件は動き、リッジはジャックが押し付けた事件に関わることで、その人生に一つの転機を迎える方向に動く。
スチュアートは、犯人の正体を突き止めるが、思わぬ返り討ちに会い怪我を負う。
そしてそれを追って行くうちに、犯人はジャックの過去に関係のある人物であったことも見えてくる。
犯人の最終目的はジャック・テイラー。そして新たな犠牲者と、ジャック本人に犯人の手は迫って来る…。
ジャック・テイラー第7作『Sanctuary』。第6作『Cross』やったのが比較的最近なので比べてみると、自分コミックの紹介をやってるせいで結構あらすじ紹介文章長くなってると思う。その分面白いとことか雰囲気伝えられるようになってるのかも とも思うが、やっぱりジャックの、というかブルーウンの随所に出てくるアイルランド、ゴールウェイに対する思いというのは省略されちゃうなと思う。
今作では、セリーナの死の真相や、ネタバレになるので書けない件など、少しジャックの重荷を軽くし、ひと段落付けたような印象。
で、ややばらしちゃうと、今作の最後でジャックは前作から引き延ばしになっていたアメリカに、遂に旅立つこととなる。次作はアメリカ編となるのか?それとも第2作みたいに帰ってきたところから始まるのか(邦題『酔いどれふたたび故郷に帰る』とかな)? その辺は読んでのお楽しみで。まあまた来年ぐらいまでにはどっかでニコニコ読むですよ。
なーんかもう少し感想を、とかちょっと考えたんだけど、色々考えるとどうしてもまた日本のダメダメなミステリ=クイズ状況への罵倒に流れちまうんで、この辺で早めに終わります。感想ってことで言えば、ジャック・テイラー・シリーズは いつも傑作で、当然この作品についても傑作ですってとこ。
当方やっと第7作まで到達したジャック・テイラー・シリーズなのですが、本国ではちょうど4年ぶりの新作、第17作『Galway Confidential』が出版されたところ。なかなか追いつけないものだが、最低は年一冊は読もうという感じでモタモタ追って行こう。 根気よく待てば多分こっちでもまた登場するシリーズの今後の展開にご期待ください。
●ケン・ブルーウン著作リスト
Jack Taylorシリーズ
- The Guards (2001) 『酔いどれに悪人なし』
- The Killing of the Tinkers (2002) 『酔いどれ故郷にかえる』
- The Magdalen Martyrs (2003)
- The Dramatist (2004)
- Priest (2006)
- Cross (2007)
- Sanctuary (2008)
- The Devil (2010)
- Headstone (2011)
- Purgatory (2013)
- Green Hell (2015)
- The Emerald Lie (2016)
- The Ghosts of Galway (2017)
- In the Galway Silence (2018)
- Galway Girl (2019)
- A Galway Epiphany (2020)
- Galway Confidential (2024)
- A White Arrest (1998)
- Taming the Alien (1999)
- The McDead (2000)
- Blitz (2002) ※映画化『ブリッツ』(2011)
- Vixen (2003)
- Calibre (2006)
- Ammunition (2007)
- Bust (2006)
- Slide (2007)
- The Max (2008)
- Pimp (2016)
- Funeral: Tales of Irish Morbidities (1991)
- Shades of Grace (1993)
- Martyrs (1994)
- Sherry and Other Stories (1994)
- All the Old Songs and Nothing to Love (1994)
- The Time of Serena-May & Upon the Third Cross (1994)
- Rilke on Black (1996)
- The Hackman Blues (1997)
- Her Last Call to Louis MacNeice (1998)
- London Boulevard (2001) 『ロンドン・ブルーヴァード』※同名で映画化(2010)
- Dispatching Baudelaire (2004)
- American Skin (2006) 『アメリカン・スキン』
- Once Were Cops (2008)
- Killer Year (2008)
- Merrick (2014)
- Callous (2021)
- A Fifth of Bruen: Early Fiction of Ken Bruen (2006) 初期作品Funeral: Tales of Irish Morbidities (1991), Shades of Grace (1993), Martyrs (1994), Sherry and Other Stories (1994), All the Old Songs and Nothing to Love (1994), The Time of Serena-May & Upon the Third Cross (1994)の合本
The Far Empty / J. Todd Scott
これについては以前からちょくちょく名前だけは出していて、やっと読んだのだけど、まあこんな感じでおまけ的に書くというのは、あんまりよくなかったという事情…。結構期待してたんだが、残念。
何回も言ってたという責任もあるので一応書いとかなきゃというところなのだが、あんまりよくなかったんで批判的にとなると、とかく個人的な好き嫌いというのが混同されがち。常々そういうことはよろしくないと思っているので、ここは極力客観的に見た 事実というところで書いて行かなければと思っている。
物語の舞台となっているのはテキサス、メキシコ故国境沿いの小さな町Murfee。主人公Chris Cherryは、優秀なフットボール選手として大学に進むが、怪我により選手生命を絶たれ、故郷へ戻り保安官事務所で職を得た新米の保安官補。だがその町は、 表面上は誰からも信頼されながら、裏では多くの犯罪行為に手を染める保安官Standford Rossによって支配されていた。その事実には全く気付かないまま、保安官補として働いていたChrisだったが、荒野で一体の白骨死体を発見したことがきっかけで、 闇の動きに巻き込まれて行く…。
で、この作品のどう見てもこれはまずいと思う点。それはこの作品の構成というか、根本的な部分での書かれ方にある。
この作品、全4部に分かれており、それぞれその中が多くの章に分かれている構成で、それぞれの章の最初に人物名が記され、その人物の視点で書かれたものになっている。
別に特に珍しい方法ではなく、こういう場合普通はある事件なり出来事なりを、リレー方式というような形で、視点を変えて描写して行くというものになる。
だが、この作品ではそのリレーができていない。それぞれのキャラクターが現在の自分の状況や、過去の体験などを思考するというような形で、実際にはそれぞれがある地点に留まり全く動いていないというパターンも多い。特に序盤から中盤辺りまでは、 そういうつながりの薄い章が積み重ねられて行くばかりで、肝心のメインとなるストーリーが全く進まないような印象がある。
更に話が動き、ある程度リレーが繋がる後半あたりになっても、序盤から続いているその記述方式の縛りにより、キャラクター個人の視点で描かれるため、その人物が見えている範囲に限られ、話の流れ的にはもっと詳しく書かれるべきところが端折られたり 情報が曖昧になり、ストーリーのテンポやスピードを崩してしまったり、というようなことも起こる。
例えば、こういった章ごとにキャラクター・視点が変わるというようなスタイルで、それぞれが別々の情報なりを持っていて、読者がそれらを俯瞰的に見ることで隠されていた全体像が見えるというような書かれ方をした作品もあるだろう。だがこの作品について言えば、 明らかに先のリレー方式になるべきものが、個々の章が言ってみれば後者に向いたようなような形で書かれたというようなものかもしれない。
やっぱり手法だけで具体的なこの部分が、というような書き方をしないと少し分かりにくいかとは思ってしまうのだが、それやると無駄に長くなったり、結局自分の好き嫌い的な部分に入って行ったりというようなことになりそうなんで、とりあえずこんな感じで。 まあ読めば何を言ってるかわかるとは思うんだが、とりあえず自分からはあまりお勧めできません、ということで。
で、なんでこういうことになってしまったのかと考えると、多分これアメリカのTVシリーズ的なものの悪影響なんじゃないのかな、と思ったり。よくあるじゃん、一話の中で別のところに居るそれぞれ別のキャラクターのエピソードに切り替わり ながら話が続いて行くパターン。うまく行くときもあるけど、場合によっては撮影の都合とか、もしかするとこの役者がトータル何分出てなきゃならないみたいなのが契約に入ってんのかも、みたいな裏の都合が透けて見えたりもする時もあるやつ。
うまく行ってるときのものだけを挙げて、これがアメリカのエンタテインメントのストーリー組み立てのサクセスパターン、ぐらいに言ってる奴もいそうだし。
これがデビュー作となるJ. Todd Scottが、こういう助言を聞いたのか、自分で思いついたのかはわからんが、そこからこれがうまく行くと思い込んで失敗した可能性はかなり高いんじゃないかと思う。
ちなみに作者J. Todd Scotはアメリカの麻薬捜査局に25年間勤めていたという経歴の持ち主。この経歴で期待しちゃうよね。なんか出版社もそれに釣られ、ちょっと甘い詰めで出しちゃったのかもと思ったり。
という感じで自分としてはこれが自分の好き嫌いに基づいたものではなく、客観的な意味で失敗していると断言できる(まあ、あんまりな言い方ではあるけど…)作品なのだが、本国のAmazon.comでの評価は割と高めだったりする。アメリカのTVシリーズ的な スタイルになじみが多く好きな人が多いのか、それともいくらかサスペンスが盛り上がる後半~終盤とか、それこそラストシーンの印象からの、私が「『ショーシャンクの空に』感動の名作」効果(あの明らかに原作にない台無しレベルのラストシーン本当に嫌い)と呼んでいるやつだったりするのかもしれないが はっきりとはわからん。
そこでもう一つ考えられるのは、2作目以降がよかったので遡っての評価という可能性。自分もこれ初めて知った時点ですでに2作目出ていたシリーズだったし。
そこで巻末に載ってた2作目のプレビューを少し読んでみると、少なくとも1作目の失敗要素であるキャラクターごとの章分けというスタイルはやっていない様子。そんなわけで、もしかすると2作目以降は面白いのかも、という可能性はまだ残っているのかも?
とりあえずは1作目については残念だったが、これに懲りず2作目以降に少しだけ期待してみたいというのが今の自分の考えです。ホント期待してたから3作目まで買っちゃったしな。セールの時にだけど。まあ読まなければならんもの山積みで当分先にはなるだろけど…。
ただどこまで行っても私個人の感想ですので、日本の読者でもアメリカで高評価付けてる人たちと同じように読める人ももしかしたら多いのかも、とは言っときます。念のため。
7月のダークライド / ルー・バーニー
ルー・バーニーの新刊無事に出たですな。よかったな。まだ読んでないけど、お知らせしときます。日本でも割と評価良かった前作に微妙に合わせた感じで原題にない「7月の」とか入れてるとこなんかなあ、とちょっと思うけど。
いまいちだった上の『The Far Empty』書きながら、バーニーのもうひとつ前の作品『The Long and Faraway Gone』で、二人の主人公による話が並行して書かれ、それがどこで交差するのかなあという感じで読んで面白かったのを思い出したりした。 ハーパーもちょっと戻ってこっちも出してくれよ。あれハーパー系で版権あるんでしょ?また「○月の」入れてもツッコミ入れないからさあ。
今回は割と毎日コツコツ書いて、それなりにぐらいの間隔で出せたと思います。このペースでできればまたデストロイヤーやるのも夢ではないな。お前夢物語書いたんか?とはいえ昨年末から年始にかけての中断で書かねばならない作品も やや溜まっておりますので、できればこれ以上ぐらいのペースを目指して頑張って行きたいと思います。んな感じで。ではまた。あ、修正あんまり進んでない…。そっちもやらなくては…。
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