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2021年5月23日日曜日

Last of the Atlases 第1部 -バンド・デシネ歴史改変SF超大作開幕!巨大ロボット VS ?? ‼-

犬も歩けば棒にあたる。なんか行き当たりばったりで読んでるバンド・デシネも結構スゴイのにあたった感じ。今回はバンド・デシネSF大作『Last of the Atlases (原題:Le dernier Atlas)』第1部であります!
まず始めに注意しておかねばならんのは、今回この第1部ほぼ全面的にネタバレします!ということ。何故かというと今回のこれちょっと話が入り組んでいて謎やら伏線も多く、なかなか本筋が見えてこず、最初のさわりだけを書いたんじゃなかなか真の面白さが伝わらん。そして、私は今回のこれの面白さをなんとか伝えてなるべく多くの人に読んでもらいたいと願っているからである。
この作品全3部で、私が読んだその第1部のほとんどをここに書いてしまう。なので、これ以上ばらされたらヤバい、と思った人はその時点でただちにこれを読むのを止めて、本編に取り掛かるように! 以上、ご注意と警告終わり!

ではまず最初にそのちょっとややこしく見えるこの作品の出版形態から始めよう。この作品の英訳版『Last of the Atlases』は、1話が25ページのアメリカサイズで発行され、全10話で第1部を構成している。 全3部で発行される予定で、本国フランス版は第2部まで、英訳版も現在第2部までに相当すると思われる20話までが刊行されている。英訳版の形態は電子書籍のみで、アメリカではKindle版も出ているようだが、 現在のところ日本から購入できるのは、Comixologyからのみ。オリジナルのフランス語版では、これら10話が232ページの1冊の単行本に収められ、2巻までの単行本が発行されている。2019年にベルギーのDupisから発行され、同年Europe Comicsから英訳版が発行されている。
なんかもっともらしく言っとるが、実はこれまだあんまり英語での情報も少なく結構手探りでこの辺までやっとわかったかな、というところ。そもそもは、昨年のいつかにこれの第1部10話がセールで発売されていて、なんか心惹かれるものがあって購入し、読んでるうちに面白いんでもっと情報を集めようと思ったのだが、これComixologyでは英訳版しか販売されておらず、原題すらわからずあれこれ右往左往してやっと見つけたぐらい。原題がわかってそれで検索してオリジナルの版元Dupisのページやアマゾンのを見て、まとめた単行本がフランス語圏では出てて、自分が読んでるのが 全3部の第1部なのだと分かったという次第。まあバンド・デシネってそんな長い作品あんまりないから最初はその10話分で完結と思い込んでて、続きが出てるの見てあれ?って思ってたぐらいだし。
で、現行フランス語圏で出てるのはその単行本の方で、英語版はその10話分冊版だけなので、どっちも出すと価格面で齟齬が出てしまうので、Comixologyではフランス語オリジナル版が出てないのではなく、 フランス語圏のみで販売されてるのかな、と想像したりもする。そしてこの10話分冊形式も英語版のみの仕様なのかと思ったら、画像を検索していたら同様の形式のプリント版でフランス語のタイトルのやつがあったりとまだよくわからんことも多い。しかしとにかくは本国オリジナル版の刊行と同年ぐらいの時期にEurope Comicsから英訳版が出るくらいなので、フランス語圏の方でも結構な話題作であることは確かなんだろう。
ちなみに今回オリジナルフランス語版の単行本をトップ画像に使ってるのは、フランス語読めるふりして格好つけようというのではなく、英訳版分冊のカバーよりこっちの単行本の方が見栄えがするというだけの理由。あっちはあっちで悪くはないんだけど、まあ後ほど紹介するんで意味は分かってもらえると思う。ちなみにEurope Comicsはデジタル専売で、多分この単行本版が英訳で出ることはなかなかないと思うよ。

ということで、まずは作品の入手方法などに関する説明も事前に済ませましたんで、あとはいつ読むのをやめても大丈夫。ではここでいよいよこれがどういった作品であるかを説明しましょう。
アルジェリアの荒地に突如出現した使徒的なUMO!人類(のごく一部)はインドの地で突き刺さり約40年厄介物件となっていた巨大ロボットを、それと対峙させるべく修理・再起動する!というのがこの第1部の物語である!
さあ!これでもう十分だろう!このくどくどとしたネタばらしをとっとと読むのを止めて、今すぐ本編『Last of the Atlases』を読むのだ!…ってお前そんなに自分の書いたもの読ませたくないのかよ、って感じなんだが…。いやまあとにかく私としては事前注意を重ねた後、心置きなく遠慮なくこの物語について語りたいだけなのですよ。じゃあ、もう後は何の遠慮もなくバシバシネタバレしちゃうよーん。では『Last of the Atlases』!始まります!

【Last of the Atlases】

まず、大体の基本設定から始めよう。と言っても実のところは本編でもあまり説明されていないのだけど。この物語はフランスの過去の歴史の中で巨大ロボットが開発されていたという歴史改変SFである。 まあ日本的には巨大ロボットが出てくるのはもはや歴史改変感あんまりないかもしれないけど。
Atlasというのがそのロボットだが、これは英語版タイトルで複数となっているように単体のロボットの名称ではない。これはアルジェリアがフランスの 植民地だった時代に鉱物資源の掘削や建設のために開発されたロボット群の総称である。その開発は第一次大戦後に始まり、試作機から何世代化に渡る改良を経ながら開発が進められていったようである。 だがその後、1954年から62年にかけて行われたアルジェリア独立戦争の後と思われる時点にそれらはすべて廃棄され、アルジェリア戦争と同様にフランスの歴史の汚点として国内的には批判の対象となりこの物語の 2018年には忘れられた存在となっているようだ。とりあえずはこの辺のことについてはかなり推測で、戦争とも関係ない理由で廃棄されたのかもしれないのだが、とりあえずの推測される設定として書いておく。 第1部の時点ではかなり曖昧なところが多いのだが、これは物語がさらに進むにつれて明らかにされて行くところなのだろう。
「Batna Disaster」 という言葉が登場人物の会話の中で度々語られるのだが、その内容も不明でバトナ(アルジェリアの地名)災害と訳すべきか、それとも惨劇というべきものなのかも現時点ではわからない。ただ戦争、あるいは別の状況の中でAtlasが何らかの事態を起こし、それゆえに廃棄され、忘れられた存在となったのだろうということは想像できる。ちなみに、英語版では10巻の巻末にアルジェリアでのAtlasの開発史というような 文章が掲載されているのだが、それも開発が軌道に乗ったあたりまでで終わっている。多分第2部の巻末にはこの続きが掲載されているのだろう。
その他、若干わかりにくいところはまだあると思うのだが、その辺はストーリーの進行に伴い気付いたところで説明を挟んで行きます。ちなみに今回これ書くために本編読み返してたりしたところで気付いた事後修正的なの結構多いです。アルジェリア戦争あたりまで含めた歴史改変もありうるかもという感じで、ここに書いた推測される設定も全部ひっくり返る可能性もあるのですが、一応現実の歴史も参照されるべきと思い、最初に書いたのからあまり変えないでおきました。第2部以降を書くときに全面的に間違ってました、と言い出す可能性もあることを注意しておきます。なんか曖昧でごめん。

物語はアルジェリア サハラ砂漠のタッシリ・ナジェール山脈で起こった怪現象から始まる。大量の渡り鳥がこの地を訪れ、そして再び飛び立つことなくその地に留まり続け死を迎えている。 地元民の連絡を受け、視察にやってきた国立公園の職員は、その中のある地点にそびえ立つ奇岩を取り囲むように鳥たちが集結しているのを目撃する。

[Comixology 『Last of the Atlases』#1 プレビューより]

そして舞台はフランスに移り、ここで主人公の登場。Ismael Tayeb。アルジェリア移民で、地方ギャング組織の幹部である。年齢は40代ぐらいに見えるけど、もっと上かもしれない。 子分二人を引き連れ、縄張り内のカフェへのゲーム筐体の納入や、みかじめ料の取り立てに回っているところから始まる。店との折衝は子分が行い、彼は監督を兼ねて見回りに同行しているというところ。
彼らが次に向かった店は、その名もAtlas。看板にはかつてのAtlasのロゴマークまでが使われている。店は老人向けのカフェ。その名の通り過去のAtlasの写真や、巨大なレンチなどが壁に飾られている。 それらの装飾を興味深げに眺めるIsmael。
このシーンで過去にそういうロボットが存在したことと、Ismaelがそれに何らかの思い入れがあるらしきことが示される。

一通り取り立ても終わり、Ismaelが子分とレストランで一杯やって店を出たところで、彼の携帯が鳴る。組織の幹部であるMomoからだ。
「Ismael、手を貸して欲しい。どこにいる?すぐに迎えに行く。」
車で現場へ向かう道すがら、Momoは彼に事情を説明する。とんでもないやつが縄張り内のクラブオアシスに現れた。すぐにでも警察が駆けつける。一刻も早く奴をそこから引っ張り出さなければ。
本当に俺の手が必要なことなのか?一体誰が現れたっていうんだ?
Teflon Donだ。奴がフランスに戻ってきた。

Jean Legoff、通称Teflon Don。現在はアルジェリアに在住している指名手配中の大物ギャングだ。フランスに入国していることが警察に伝わればただちに逮捕に駆けつける。
縄張り内の店でそんな騒ぎを起こされてはたまらない。IsmaelとMomoが到着するとクラブの駐車場には組織のボスも駆けつけ、様子をうかがっている。何者かが既に通報したらしく、警察も到着し始めている。 一刻の猶予もない。
「俺が一人で入る。」
Ismaelはそう告げ、Momoに逃走用の車の配置を頼み、独りでクラブへ乗り込んで行く。
店内に入り、張り込みの刑事の横を抜け、バーでウォッカのボトルを買ったIsmaelは、それを携え、奥のVIP席に進んで行く。
「一杯おごらせてもらっていいでしょうか?」
「断る理由がどこにある。遠慮するな。」
ホステスを侍らせ、上機嫌のLegoffが応える。

ちなみにここまでが第1話。何が起こるのか、と楽しみな内容ではあるのだけど、ここまで書いて面白そうだろう、さあ読んでくれ、というのはちょっと難しいでしょう?では続きを進めよう。

なんとか穏便にLegoffを連れ出そうとするIsmaelだが、耳を貸す気配もない。仕方なくLegoffに耳打ちするIsmael。
ここに警官が集まり始めています。今すぐここを出ましょう。
だがそれは酔って上機嫌のLegoffのテンションに火に油を注ぐだけ。
「オマワリだと?どこだ?ハッハッハッ!俺はオマワリの間抜け面なら1マイル先からでも見分けられるぜ!」
拳銃を抜こうとするLegoff。だがIsmaelはその手を抑える。
「やめてください。」IsmaelはLegoffの腕をひねり引き金にかけた指を折る。

戦意を喪失したLegoffを裏口から連れ出し用意した車で逃亡するIsmael。追跡車の目を盗み組織の隠れ家でLegoffを下ろした後もウォッカをあおって走り続け、やがて警官隊に囲まれ止められる。
「本当に申し訳ない。ちょっとしたお遊びのつもりだったんだ。あんたたちが警察だなんて知らなかったんだ。あの男もオアシスで会ってちょいと意気投合しただけで、何者かなんて知らなかったんだ。 運転しているうちにアイツだんだん不愉快なことを言い始めたんで、腹が立って車から蹴り出した。どこだったかなんて憶えていない。」
連行された警察署でも言い逃れを続けるIsmael。その間にLegoffはアルジェリアへ戻る。軽罪で釈放されるIsmaelを、妻Elenaが迎えに来る。

Ismaelの妻Elenaは、なんか映画で見たことあるような感じの典型的なフランス美人。金髪、おしゃれボブ、フランスっぽいブランドファッション。うーむ、上手く伝えられん。ビジュアル的な キャラクター紹介は、最後にある方法でやりますんで。哀し気な表情をたたえた女性で、これ以前にも遅くなるというIsmaelの電話を受けるシーンなどがあり、実はこの直前に同組織幹部Momoと 何らかの関係があると思われる描写もあるのだが、それについては第1部では明らかにはされない。

[Comixology 『Last of the Atlases』#2 プレビューより]

ここでもう一人の主人公登場。Francoise Halfort。52歳のベテラン女性ジャーナリスト。数多くの分野でのノンフィクションの著作があり、その中にはAtlasにまつわる「Batna Disaster」を扱ったものもある。 現在は「Batna Disaster」のその後についての取材のためにアルジェリアを訪れている。
昆虫学者からこの地で発見されている昆虫の奇形化について説明されるFrancoise。まだ詳細については不明な「Batna Disaster」だが、その地域は放射能汚染区域として立ち入り禁止になっている。 そして昆虫学者は更に最近発見されたサンプルを彼女に見せる。奇妙な鳴き方をするその蝉は、羽に記号か文字のように見える模様が出来ていた。これはこの地域で見られる昆虫の奇形化とは異質なものだと いうことだ。この種類の蝉はここから1000マイル南のタッシリ・ナジェールに生息する種類のものだと昆虫学者は付け加える。そして、更に最近発見されたものとして、 全く同じ模様が羽に浮き出た蛾の標本を彼女に見せる。

Ismaelは組織のボスと共にアルジェリアへ向かう。Legoffは、彼を救う意図だったとしても、Ismaelのやった行為を許すような男ではない。
笑顔で二人を迎えるLegoff。そして、もう一度ああいったことが起きたなら、また俺の指を折るか?という問いかけに、Ismaelがそれしか方法がなければまたやります、と答えた後、 哄笑し、取り出した断ち木鋏でボスの指を切断する。
落とし前はついた。そいつに手当をして空港まで送ってやれ。そしてLegoffはIsmaelに向かって告げる。お前は残れ、話がある。

同日、その地を地震が襲う。
タッシリ・ナジェールへ向かっていたFrancoiseは、愛犬の異様な吠え方に以前の経験から異変を察知し、急いで引き返す。
夜、Legoffの屋敷。お前は予兆を信じるか?Ismael。明日俺は大きな取引のために南へ向かう。その前夜に来たのがお前だ。それはお前がこの取引を成功させるために必要な人間だという意味だ。 お前の人生を変えるチャンスをくれてやる。
その時、彼方から届いた地震の揺れが地面を鳴らす。
見たか!これが予兆だ!

翌日、Legoffと共にIsmaelは、南、マリ共和国との国境地帯へと向かう。そこでは武器、麻薬を始めとする様々な違法取引が公然と行われている。
LegoffはIsmaelを武器を積み込んだトラックの横に座る老人へと引き合わせる。
我々が欲しいのは放射性物質だ。多ければ多いほどいい。老人はIsmaelにリストを手渡す。
リストを一瞥し、Ismaelは老人に告げる。もちろん問題ない。

帰路、一行は昨夜の地震の震源地であるタッシリ・ナジェールへ立ち寄る。そこには巨大な煙の柱がそびえ立ち、周囲を無数の鳥が飛び回っている。
一夜明けた現場には、調査に赴いた地震学者らのグループと共に、Francoiseの姿もあった。やってきたLegoffら見るからに危険人物の集団に、Francoiseはジャーナリストとしての興味を惹かれ、近付いて行く。 部下が追い払おうとするが、意に介さず気さくに話し続けるFrancoise。あの鳥の群れは地震以前からここに集まっていたものだが、発生した煙の柱については地震学者も原因がわからずにいる。

Ismaelは到着後、彼らから離れ、独りで煙の柱に近付いて行く。
柱を見つめるIsmaelの目が恐怖に見開かれる。
煙の隙間から、僅かに垣間見えた内部から発光しているようにも見える謎の物体の一部。
Ismaelは意識を失い、その場に倒れ伏す。

このIsmaelがタッシリ・ナジェールで見たものに恐怖し、倒れるシーンがこの第一部前半の山場だ。彼はこの地で起きている怪現象の原因について、明らかに何か関係がある。
主人公Ismaelの過去は第一部の時点では多くの謎に包まれている。先のボスと二人でアルジェリアへと向かうシーンでは、彼はボスに対し、自分はフランス生まれでアルジェリアには来たことはない、と語る。 しかし、ここから続く次のシークエンスでは、Ismaelの少年時代の回想シーンが入り、年長の友人に誘われて深夜立ち入り禁止の工事現場に置かれたAtlasを見に行って現場作業員に見つかって殴られるという エピソードが描かれるのだが、そこはアルジェリアではないかと思われる。また、更に後、その時点より幼いIsmaelが、母と共に自宅の窓からAtlasを見ているという明らかにアルジェリアでの回想も入る。
Ismaelがボスに自分はアルジェリアには行ったことがない、と言った理由も、彼がタッシリ・ナジェールで見たものと関係があるのかもしれないということは想像されるが、それは第二部以降に明らかにされてくる謎なのだろう。
あともう一つ。この移動の際車中でLegoffが「76年のバトナ爆発のあとに荒稼ぎした。」と話す場面があるのにこれを書いている途中で気付いた。この「バトナ爆発」は他のシーンで「Batna Disaster」と呼ばれているのと 同じものだろう。何らかの事態でAtlasが爆発し、その現場が放射能汚染されたというのが推測される状況だ。しかしこれが1976年となると、現実のアルジェリア戦争終結1962年より随分先の話となる。序盤のところで 端折ってしまったのだが、Ismaelが取り立てに向かったカフェAtlasでは、店主が古いAtlas乗組員のトレーディングカードコレクションを見せるシーンがあり、そこから軍属→アルジェリア戦争という連想をしてしまった のだが、少し早合点だったか、歴史改変SFとして単にロボットがいるだけではなく、その後の歴史なども違っているのかもしれない。
もしかすると第二部以降の展開で全く見当違いのことを言ってたことになるのかもしれないんだけど、現代史の中でフランスとアルジェリアの関係として重要なポイントであるアルジェリア戦争についても外せないので、 とりあえずアルジェリア戦争後に廃棄されたと思われるという最初の推測も残しておこう 。どーせ間違っててもワシが恥かいて、またやっちまいました、ごめんなさいと謝るぐらいのもんだしな。
そしてこの区切りで、版元Dupis制作による宣伝動画を紹介しよう。Ismael編、Legoff編の2種。Ismael編では彼が煙の柱の中に見て驚愕したものも登場します。



熱中症か?情けない奴じゃのう。Legoffに嘲られながら連れ帰られたIsmaelは、彼の屋敷で目を覚ます。プールサイドで朝食をとるLegoffの前に現れたIsmaelは、ある提案をする。
放射性物質の件だが、心当たりがあります。Batna Disasterのあと、Atlasがインドに運ばれた件を憶えてますか。あの中の一機-ジョルジュ・サンドが法的な問題で解体されずに、まだ残っている。 あのロボットは原子力で動いていた。そこから連中が要求する放射性物質を取り出せばいい。
だがその手の原子力電源と言やあ何トンもあるはずだ。どうやって運び出す?
空輸する。ロボット丸ごと。

ジョルジュ・サンドはインドへ空輸された際、着陸地点である港の直前でヘリウム装置の故障により墜落した。続いて空輸されたAtlasは、現地で解体されたが、その事故によりジョルジュ・サンドは バトナの呪いだと恐れられ、作業員が一切近付かず、解体が進まなかった。更にその事故の港の修理費用をどこが負担するかが問題となり、法的に動かせない状態になっている。
Atlasには移動のためにヘリウムガスを充填するバルーン的な装備が取り付けられている。つまり自力で浮かび、移動するわけだが、どうもそれを「飛行」と表現するのはしっくりこないんでとりあえず「空輸」と書いておいた。ちょっとこの表現は後ほど変わるかも…。
Ismaelはインドへ向かい、海岸のバラックの向こうに傾きながらそびえ立つ、ジョルジュ・サンドの姿を目の当たりにする。

ジョルジュ・サンドと言えばフランスの有名な女流作家。代表作と言えば…スマン生憎読む機会がなかったんでわからん…。だが、ジョルジュ・サンドと言えば誰でも名前ぐらいは聞いたことあるだろう。 ワシだってあったぞ。いや、実は英語で「George Sand」と書いてあるのをずーっとジョージ・サンドと読んでて、これ書くときになって誰やろ?もしかしてフランスの有名な軍人かな?とか思いながら 検索してみて初めて分かったのだけど…。でもなんかこういう文学者の名前をロボットに付けるとかいうの、フランスっぽいよね。

ジョルジュ・サンドを手に入れるため、Ismaelはインドの地元のギャングと話をつける。ジョルジュ・サンドを撤去すれば、その土地の再開発で大きな利権が発生する。
作業のための人員はこちらで確保できる。だがムスリムは信用できねえ。俺たちの信頼を得たかったら、ひとつ仕事をやってもらおう。お前の国での件だ。
Ismaelはインドのギャングからの請負仕事や、ジョルジュ・サンドを動かす専門的人員の確保、身の回りの整理などのために一旦フランスへと戻る。

一方、Francoiseはなんだかんだで自分が妊娠していることを知る。52歳にして!なんだかんだというのはエロいやつ。52歳にして!フランス語圏の人はたいへんえっちなので、マンガに女性が出てきたら 必ず脱ぐきまり。えー?ワシが読んだのだけ?

Ismaelはインドギャングのヤバい仕事を片付けた後、縄張り争いのごたごたで敵方のチンピラを射殺し、フランスから国外へ逃亡を余儀なくされる。そして脱出の際、かつてAtlasのエンジニアだった老人 Roland Fabreを脅し、インドへ同行させる。
Roland Fabreは少し前のシーンで街中の荒らされたAtlasの記念碑の修復を話し合っている男たちの一人として登場する。Ismaelは身分を偽り彼らに近付くが、一旦はFabreに強硬に追い払われる。 この辺の爺さんが集まっているシーンが在郷軍人みたいのを思わせ、私のAtlas軍用という印象を更に補強したりもしてるのだが、そこんところは現時点では不明。なんかこっちの思い込みでミスリードしてしまっていたらごめん。
それからフランスに戻った時の中で、奥さんと話すシーンもあるのだが、そこではIsmaelはタッシリ・ナジェールで遭遇したものについて、なんだかはわからないが俺はこいつと闘わなければならないと 思ったという風に語っている。現時点ではIsmaelもこれの正体について分かってはいないようだが、何か失われた記憶みたいな形で絶対にこいつとは関係があると思うのだが。これもミスリード?

[Comixology 『Last of the Atlases』#7 プレビューより]

インドではジョルジュ・サンド再起動のための作業が始まっている。インドのギャングに紹介された業者は、なんかインドの色々な映像とかで見た覚えのあるような巨大な仏像とか宗教的な感じの装飾とかの製造・修復を行っているらしい会社。恰幅の良い押しの強そうな女社長が取り仕切っている。
こんな環境では作業できん!FabreはIsmaelに叫ぶ。
あの女社長、ワシの渡した設計仕様図をロクに見もせんで、踊りで作業を指示しとるんだぞ!

一方、Ismaelはフランスにいる自分の舎弟に、ジョルジュ・サンドの乗組員の生き残りを探し出させる。舎弟はAtlasについてのノンフィクションの著作があり、ジョルジュ・サンドの乗組員へのインタビューも 行ったFrancoiseから情報を得ようとするが、もちろんその位のチンピラではあのしたたかなオバハンに敵うわけがない。だが、舎弟はちょいと頭を使い、出版社へ行ってFrancoiseの使いだと偽り、 受け取った郵便物の中からFrancoiseに連絡を取ろうとしていた元乗組員の一人の所在を掴む。
Andre Blochというその老人は、Francoiseがその本を出版した時には連絡がとれず、自分も話したいことがあるから、とその後連絡を付けようとしていた人物。ちょっと粉飾した舎弟の話に乗せられ、 インドへと向かう。
以前のIsmaelがFabreのリクルートを試みているところでは、Fabreがジョルジュ・サンドの乗組員を「裏切り者」と呼んでいるシーンがある。その意味も第一部ではまだ明らかにされていない事項のひとつなのだが、 そのためにかつての乗組員はなるべく公の席に出ないよう隠れて暮らしているようだ。その中でAndre Blochはちょっとお調子者のところもあるのかもしれない。かつての仲間にも電話で「ジョルジュ・サンドが 復活するぞ!一緒にインドへ行こう!」と誘いをかけるのだが、何言ってんだこのバカ!そんな口車に乗るな!と断られる。まあそれでもBlochだけは来るのだが。

上記のような事情で顔を合わせてから仲が険悪なFabreとBloch。そしてジョルジュ・サンドの作業現場には、インドのギャングも乗り込んでくる。
こっちの土地買収にはまだ時間がかかるんだ!こいつが撤去されると広まったら台無しだ!あんまり目立つことをするんじゃねえ!

一方、タッシリ・ナジェールでは煙の柱の中から遂に謎のUMOが姿を現す!付近の住民は大挙して避難に走り、その異容は全世界に報道し始められる!

遂に第9話にしてそのUMOが登場する!私はこれを一目見て「わー、コレ完全に使徒やんけ!」と思ったんだが、日本の多くの人が同様ではないかと思う。で、それを是非見せたいと思ったんだが、どうもプレビューとかでは 見つかんないし、と思っていたところ、ありました!以下はフランスの公共放送France 24にてアップロードされたインタビュー映像。後半の方にその姿が登場いたします!



世界を騒がすUMOのニュースはインドへも届く。滞在しているホテルの自室でスクリーンを凝視し、慄くIsmael。
「それがあんたがAtlasを探しに来た理由だったんだね。」
驚き、振り返ったIsmaelの背後に立っていたのは、踊る女社長Seghal。
あんたは最初から何かを隠していると思っていた。心配しなくてもギャング共に言うつもりはないよ。だが、あんたの計画に巻き込まれている人間には本当のことを話すべき時なんじゃないのかい?

その夜、踊る女社長Seghalの自宅で主要メンバーによる会合が開かれる。Ismael、FabreとBloch、Seghalと有能っぽいクールな美人秘書。
Ismaelは全員に自分の真意を説明する。
このプロジェクトに残るか、去るかは今決めろ。ジョルジュ・サンドは2日後の新月の夜に出発する!

そして迎えた出発の夜。インドのギャングはそれを察知し、とどめるべく強硬手段で迫ってくる。発進に向けた作業が続く中、一人外に残り応戦するIsmael。
銃弾が飛び交い、呼ばれた祈祷師が祝福の祈祷を詠唱する中、遂にジョルジュ・サンドは息を吹き返し、沈んでいた地面から浮上する!

その頃、フランスではFrancoiseが出産。生まれた子供の額には、かつてFrancoiseが見た昆虫の羽の物と同じ模様が刻まれていた!

【第2部へ続く】

タッシリ・ナジェールに現れた使徒(?)は何者なのか?その目的は?そしてIsmaelとの関係は?Batna Disasterとは何だったのか?Francoiseの子供はこの物語でいかなる役割を果たして行くのか? 謎が謎を呼ぶ!
人類の危機に立ち上がったのはアルジェリア系フランスやくざ!40年間インドの地で厄介物件となっていたロボットを修理再起動して謎の使徒(?)へ立ち向かう!乗組員は脅して連れてきた ジジイ!騙して連れてきたジジイ!踊る女社長とその従業員!美少女美少年皆無のロボットアクション!ラブコメ要素の代わりにやくざ抗争要素満載!驚天動地!前代未聞の バンド・デシネ歴史改変SF大作ここに開幕!
なんだまだ読んでたんか?早く本編を読め!もうこの続きの第2部も出とるぞ!急げ!

そしてこちらがDupis制作による第2部のトレーラー。大丈夫、それほどネタばれないから。



製作チームについてなのだが、生憎あんまり資料がなく、ほとんどEurope Comicsの紹介ページ頼みになってしまうのだが、まずこの作品、シナリオ2人、作画2人の計4人のチームにより製作されている。 まずシナリオがFabien VehlmannとGwen de Bonneval。作画がHervé TanquerelleとFrédéric Blanchard。この4人でどういう態勢で製作を進めているのかは不明。ちなみにFrance 24のインタビューに 登場していたのはVehlmannとTanquerelle。
Fabien Vehlmannは1972年フランス生まれ。なんかラジオとか映像関係の仕事をした後、Dupuisから発行されている雑誌Spirouのシナリオコンテストを通じ、バンド・デシネ作家としてデビューする。 デビュー作はGreen Manor(2001)。代表作は映画化もされたSeuls(日本公開タイトル『アローン』)なのかな。あれこれ調べてたらこの人は英語のウィキも見つかった。
Gwen de Bonnevalは1973年、フランス ナント生まれ。報道や児童向け出版の現場で働いた後に、Atelier des Vosgesに参加とあるが、これ多分バンド・デシネのスタジオなんだろうな。 色々作品名など書いてあるが、イマイチ把握できん。Fabien Vehlmannとはこの作品の前にも共作があり、その『Les Derniers jours d'un immortel』(2010年)ではなんか賞も受賞しているようだ。 年も近いし仲いいのかもね。
続いて作画チーム。Hervé Tanquerelleは1972年、Bonnevalと同じフランス ナント生まれ。1998年に『La Ballade du Petit Pendu』でデビュー。以来様々なジャンルでオリジナル、原作付きの 両面で多数の著作がある。一時期はコミック誌「Professeur Cyclope」の編集長を務めたそうだが、実はこれここまでに出てきた3人と、もう一人Cyril Pedrosaの4人で2013年に設立した雑誌らしい。 なんかちゃんと調べると色々関係性見えてくるね。結構以前からの仲間が結集して作った作品ということなんやね。ほぼ同い年だし。
Frédéric Blanchardは1966年生まれと、チームの中ではちょっと年上。イラストレーターや出版関係のデザイナー、アニメーション関連など幅広いフィールドでのキャリアもあるらしい。 ちょっとComixologyで調べていたら、これより前なんじゃないかなと思われる『The Lions of Leningrad』という作品の2巻でこの4人が共作しているのを見つけた。Europe Comicsから英語版が 出てるんだが、ちょっと原題不明でオリジナルの出版年とかもわからんのだけど。内容は第二次大戦中から戦後のレニングラードを舞台とした歴史ドラマってとこらしい。全2巻で1巻の方は 別のチームが担当している。プレビューを見てみると今回の『Atlases』と全然違うので、こっちはBlanchardがメインで描いてるのかな、みたいな想像もできるけど、そもそもどういった 態勢で製作されているのかもよくわからんしね。
なんとなく想像するのは、「Professeur Cyclope」一派みたいなのがあってそこにFrédéric Blanchardが近年参加してきてこの『Last of the Atlases』製作チームが出来上がったのかなというとこかな?
しかし、最初は自分でわかる資料もあんまりなくて、Europe Comicsに出てる経歴並べて、こん位しかわかりませーん、ってなるかなと思ってたけど、少し頑張ってみたら結構面白いのが見えてきたんじゃない? 「Professeur Cyclope」一派とかいうべきもんなのかもよくわからんけど、右も左もわからんバンド・デシネで、ちょっとした足掛かりになるものも見つけたかも、と思ったりします。

オリジナルの版元Dupuisは、前の『Black Op』のときにシナリオ担当のStephen Desbergが子供の頃から読んでたというところで出てきたSpirouという薄い本を戦前くらいから出しているベルギーの 出版社。おい、薄い本とか思わせぶりに言ってなんかネタにならんかとか考えてんじゃねーよ。もう新聞みたいなのって知ってるだろ。まあその後バンド・デシネの勉強もいくらか進んで、 このDupuisと前のフランスのDargaud、そしてあのTintinを出してたベルギーのLe Lombardが、第2次大戦前後ぐらいからあるバンド・デシネ老舗3大パブリッシャーだというあたりまでは把握した。 そして1960~70年代にかけて大変革ぐらいのがあり、現在のバンド・デシネの形になり、その後、この辺いまいち曖昧でよくわからんのだが、90年代ぐらいにバンド・デシネ再興みたいな動きがあって 現在に至るというのがかなり大まかな流れのようだ。ところで、今回の『Last of the Atlases』他、多くのバンド・デシネ作品を英訳しているEurope Comicsに参加しているのは、実は前述の 老補3大パブリッシャーで、その他60年代以降の新勢力は基本的には英訳版なども自社制作販売という方向でやっている。同じくバンド・デシネ作品を多く英訳している英Cinebookについては まだあまり調べていないのだけど、やはりEuropeと同じく老補3大の作品が主という感じのようだ。(ちなみにCinebookもEurope Comics参加パブリッシャーの一つ。)60年代以降ではメビウス-ホドロフスキーの アンカルやMétal hurlantなどで知られるLes Humanoïdesが早くから米進出を進めてるだけあって英訳作品も多く、あと80年代からのDelcourtも結構あるのだが、その他、Glénat、Ankamaあたりは、 いまいち英語圏への進出が伸び悩んでいるのか、ちょっと英訳の方は止まってしまっている様子。なんか少し色々見えてくるとやっぱり全体に拡げるためにはフランス語必須だなあと改めて思ったりも しているところ。あの、ところで私、国内事情の方はホントに疎くてLes Humanoïdesが日本でユマノイドとして出版してるのもよく知らなかったのだけど、あれ今活動停止中なのかな?さっき ホームページ見に行ったら2017年から更新止まってるみたいやし。とりあえずは一時的なもんでまた再開されるといいけどねえ。あ、日本でやってるなら少し触れとかないと、と思ったら なんか景気悪い方に行っちゃった…。ごめん。
なんかさあ、バンド・デシネって敷居高気な感じするけど、まあ今回の『Last of the Atlases』は結構大作だけど、基本的には50ページの2~3冊ぐらいの短め、お手頃なのが多くて、結構読みやすいところもあったりするのですよね。英訳されてるのでもまだまだいいの見つかりそう。これオレが見つけたんやど、と大威張りするチャンスもあるかもよ。 みんなももっとテキトーにバンド・デシネを読むべし。 とにかくこの熱い物語の行く末はなんとしても見届けなければならんし、またこれ面白いかなあ、と適当に引っつかんでお気楽に色々BDも読んでなるべく書いて行くつもりでやんす。

では最後にシリーズ一覧なのですが、ここで見てもらえばわかるようにこの英訳版シリーズ、一話ごとにキャラクター一人を描いたシンプルなカバー。まあこれが最初に言ってたトップ画像に こっちを使わなかった理由なのだけど。ただそういう体裁ならば、とここで第1部の分でキャラクター紹介を兼ねてみました。その他、そこそこ出番はあるのだけどあらすじでは省略しちゃった 警察関係者もいるのだけど、カバーの方でもスルーされてるんでまあいいかな。 アマゾンへの本国オリジナル版のリンクも載せといたので、フランス語ペラペラぞなもしという強者さんはそちらを見てみればよろしいかと。


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●Last of the Atlases (英語版)
■第1部 (兼 キャラクター紹介)

Ismael Tayeb。なんかと闘わなければならないと思い立ったアルジェリア系フランスやくざ。 Jean Legoff。フランスに帰れば即逮捕の最狂ギャング。Atlas引き揚げの出資者だが真相は知らない。 Francoise Halfort。豪腕女性ジャーナリスト。52歳で妊娠??サービスシーンあり(需要??) Legoffの右腕。たまたまミリタリーだが通常は白スーツで常にさわやか度0%の笑顔の怖い人。
少年時代のIsmael。夜中に工事現場にAtlasを見に来てぶん殴られる。 Elena Tayeb。Ismaelの妻。フランス美人。いわくありげ。第1部では脱がない。 Roland Fabre。脅されて連れてこられたジジイ。なんだかんだ言っても頑張る。 Mohamed。Ismaelの舎弟その1。Atlas乗組員の生き残りを見つける。
Andre Bloch。騙されて連れてこられたジジイ。着いた途端にインドのやくざにボコられる。 Seghal。踊るインドの女社長。怪しげなものを造ってるように見えるがインドでは怪しくないのかも。


■第2部



●Le dernier Atlas (フランス語版)




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