Translate

2020年9月22日火曜日

Gideon Falls -コミック表現は進化し続ける-

小説の方でかなりの大作に取り組んでいたもので、コミックの方がずいぶんご無沙汰になってしまってすんませんでした。今回は今アメリカのコミックで最も語っておかねばならぬ、Image Comics発行の、またしても超強力コンビであるJeff Lemire / Andrea Sorrentinoによるホラー/オカルト作品『Gideon Falls』!
2019年のアイズナー賞ニュー・シリーズ部門を受賞し、現在TVシリーズ制作進行中、また昨年から今年、話題になったDCでのミニシリーズ『Joker: Killer Smile』の コンビによる作品ということで、日本で気にしてる人も結構いるのではないでしょうか。
当方現在のところTPB3巻まで既読というところですが、今回はその導入部分とネタバレしない程度の概要、そしてこの製作チームについて、まあわかる限りでのところでお伝えいたします。

【Gideon Falls】
タイトルとなっているGideon Fallsとは、この物語の舞台となっている架空の町の名前。そしてそのGideon Fallsの二人の人物から物語は始まります。

一人はNorton Sinclair。都市Gideon Fallsに住む、20代前半と思われる青年。常時、マスクを着用している。精神病歴があり、ごく最近まで施設に収容されていたが、現在は独りでアパートを借りて暮らしながら、通院している。
子供の頃、記憶を失くし彷徨っているところを発見され、孤児院に収容されそこで育つ。Norton Sinclairという名前は、そこでつけられたもので、現在に至るまで、発見される以前の記憶は戻っていない。
彼の日課は、街のゴミ捨て場に行き、そこで小さな木片や釘を拾ってくること。それらは彼の部屋でラベルを貼った瓶に保存されている。ゴミ捨て場以外でも街のあちこちでそれらを見つけてくる。
彼をそんな謎の行動に駆り立てるのは、彼の中で強迫観念となっているイメージ。”黒い納屋”。
イメージの中でどことも知れぬ地に立つその姿は、禍々しく、明らかに悪意を持つものだ。
そして、彼が集めている木片、釘は、彼によってその”黒い納屋”の一部として認識されたものなのだ。
それは彼の失われた記憶の中で見たものなのか?
Gideon Fallsの路上で、Nortonの奇妙な探索は続く…。

もう一人の人物は、Wilfred神父。最近前任者が亡くなった、農業地帯に囲まれるGideon Fallsの教会に派遣されてくる。
過去のとある事件がきっかけで、一時期アルコールの問題を抱え、以来神学校で教鞭をとっていたWilfred。 神学校司祭の指示でこの地の教会に派遣されてきたが、彼自身はなぜ自分が選ばれたのか、果たして自分にその任が務まるのかを疑問に思っている。 温かく迎えてくれる教区民にも戸惑いを覚えるばかりだ…。
赴任したその夜、眠りに就いていたWilfred神父は、彼を呼ぶ声で目を覚ます。
そこにいたのは亡くなったはずの前任者、Tom神父だった。
意味の分からぬことを言いながら、出て行くTom神父を追って、外に出るWilfred。教会の前に拡がる麦畑を横切って行く姿を追い続ける彼の前に、突如巨大な”黒い納屋”が出現する。
だが、目を疑った次の瞬間、その異様な建物も、Tom神父の姿も消えていた。幻覚だったのか?
そして、それらと入れ替わるように、近くの地面に現れた血痕を追って行くと、そこには昼間Wilfredを迎えてくれた老婦人が、胸に自らの義手を突き立てられた死体となって横たわっていた…。

[Comixology 『Gideon Falls』#1 プレビューより]

現場に居合わせたWilfred神父が容疑者として拘留されているうちに、事件は不可解で意外な結末を迎える。神父は、その事件がきっかけで知り合った町の女性保安官Claraと、その奇矯な行動から彼女とは疎遠になっている ”黒い納屋”を巡るGideon Fallsの謎を調べる彼女の父Suttonらとともに、その地に隠された理解不能な暗黒に巻き込まれて行く。

また一方のNortonは、唯一の信用できる相手、担当の女医Angie Xuに、彼が脅かされ、逃れられない”黒い納屋”の強迫観念について打ち明けるが、彼女からは症状の悪化と受け止められてしまう。 落胆して帰宅したNortonは、留守中に侵入した何者かに部屋を荒らされ、集めた破片を破壊されていることに気付く。彼の探索を妨害する敵がいるのか? そして、女医Angieもまた、街中に不意に出現した”黒い納屋”を目撃し、その謎に巻き込まれて行くことになる。

ここで、これはネタバレになる恐れもあるのだが書いてしまうと、実はこの二つのGideon Fallsはそれぞれ別のGideon Fallsである。ちょっと言い方が微妙になるんだが…。あえてバラしちまうのは、 これもしかしたら日本人だから少し混乱してるだけで、お国柄的な事情でアチラでは最初から自明のことかもしれんと思われるので。
一方のGideon Fallsは大きな建物の立ち並ぶ市街地で、もう一方は麦畑の拡がる農業地帯なのだが、 日本だとこれが車で2~30分隔てたぐらいで同じ市の中にあるようなところざらにあるでしょ。実際ワシの実家のある市(関東地方)だって駅前このくらいにビル建ってるけど、通ってた中学なんていまだに 周りぐるっと田んぼに囲まれてるもん。
そんな日本在住の私は、この二つ同時進行のキャラクターたちは、同じ市に住んでるのだからいつか遭遇するのかな、と思って読んでいたのだが、 本国アメリカの読者は、この二つの土地がそんな近くにあることはありえないので、最初から同じ名前の別のところだと思って読んでたのかもしれないということなのだ。
物語が進み、彼らの間のつながりらしきものも見えてくるにつれ、この二つのグループはどこで出会うのだろうか、という思いも強まる。 そして、TPB第2巻の終わりには、遂にその二つのGideon Fallsが交差し、そこで我々はこの二つが駅前と石井君の家のご近所のような関係ではなかったことを知るのである! だが、これらが別々のものであったのだ、という衝撃はあまり描かれている印象が無いんで、作者チームは当初からそのつもりで描いてて、アメリカン読者もそのつもりで読んでたんではないかな、 と想像されたりもするので、ちょっとしたご注意半分でネタばらしをしてしまいました。
そして、物語はさらに広がり、更に大枠の謎で囲われ、その陰に謎に包まれた「敵」や味方?の姿も垣間見えてくる。謎が謎を呼ぶ『Gideon Falls』!現在も進行中!

[Comixology 『Gideon Falls』#5 プレビューより]

ここで作者チームの経歴について。
ライターJeff Lemireについては、まだまだ到底足りないぐらいなんだけどこのブログで少しは取り上げて来てるんだが、ここで改めて。
1976年カナダのオンタリオ州エセックス郡に生まれ、同地で育つ。映画学校に通っていたが、自身の資質はそちら向きだと考え転身してコミックの世界を目指す。
2005年に自費出版で『Lost Dogs』を出版し、個人出版のコミックに贈られるXeric Awardを受賞。それがきっかけで、現在はIDW傘下にあるTop Shelf Productionsに自作の発表の場を得る。 2008年から2009年にかけて、自身の生まれ故郷を舞台としたかの名作『Essex County』を出版し、広く注目を浴びることになる。
そして2009年より、Vertigoからこちらも自身によるストーリー/作画の『Sweet Tooth』を開始。もちろんそれも高く評価されていて、現在Netflixでシリーズ作成進行中というところなのだが、 彼の評価をより広いところで決定的にしたのは、2011年からDCコミックスでTravel Foremanとのチームで開始された『Animal Man』だろう。
かのグラント・モリソンの有名なやつからしばらく続いた後、、お蔵に入ってたのをThe New 52で引っ張り出し、またしても新設定を加えて作られた作品。 Lemireの作品に共通する家族や「帰属」というテーマを持っている、DCのヒーロー物であっても彼の作品リスト中においても重要作品である。
Travel Foremanについては、序盤の数話のみであとはカバーとかぐらいの参加になるのだが、それだけでもシリーズ全体を通したアート・コンセプトというべきポジションにある。いや、Travel Foremanつーのももっとちゃんと語らねばならないすさまじいぐらいのアーティストなんだが。
そしてLemireは、その後はDC・マーベルに於いて多数の作品を手掛けて行くことになる。とりあえず今回はそちらは省略。
オリジナル作品としては、Top Shelf『The Underwater Welder』(2012)、Vertigo『Trillium』(2013-2014)と続き、その後、2015年頃からは主にライターのみの担当で、注目作を次々と繰り出して来る。
その一つがImage Comicsの『Descender』シリーズで、こちらは2018年に完結した後、続編『Ascender』が開始されている。
もう一つがDark Horse Comicsからの『Black Hammer』シリーズで、こちらは続編やらスピンオフやらで壮大な「The World of Black Hammer」を構成しているらしい。
この二つも到底放っておいてよい作品ではないのだが、なかなかに追いつけず内容不明のままで申し訳ない。 だがまあ、私のこのブログで内容不明とか言ってるのは、いつか必ず読むのを楽しみにしててそれまでは一切あらすじすらも見ないようにしてるものなので、いつの日かは書けるときも来るかもしれません。
現在まで続くそれらと並行し、ミニシリーズ『Plutona』(2015-2016)や、『American Vampire』などで知られるScott Snyderとのタッグで、作画の方を担当した『A.D. After Death』(2016-2017)などの 話題作を次々と発表。そして久々に作画も担当した『Royal City』(2017-2018)に続き、2018年より開始されたのがこの『Gideon Falls』というわけである。
Jeff Lemireの重要作がかなり未読のままこういうのを言うのもちょっと強引かもしれないのだけど、彼の作品のテーマや鍵となるのは、前述の「帰属」というものなのだろうと思う。 初期『Essex County』の家族・土地、そして『Animal Man』の「赤の生存領域(血肉・生命を司り、腐食・死の「黒」と対立する)」のように、個がその帰属に組み込まれる、認識することで、 個の物語が拡大されさらに大きな物語が語られて行く。 この『Gideon Falls』でもそれは同様で、Norton、Wilfred神父らもまた、その帰属が明らかになるにつれ、さらに大きな物語へとつながって行くことになる。
ここでこれまでJeff Lemireについて書いてきたとき必ずぐらい言ってたことを注意のために今一度繰り返しておくのだが、Lemireのオリジナル作品の、あまりにも素晴らしい作画を、 「いわゆるヘタウマ」みたいな雑で適当な分類をするのは絶対禁止だからね!大体そもそもが「ヘタウマ」なんていうのが80年代ごろのガロとかを中心としたアート戦略みたいなもんの呼称で、 何らかの作画スタイルを指す言葉じゃねーんだよ。もしそんなん見つけたら比較的行儀良くやってるコミックの方でもブチ切れて暴れるかんね!

[Comixology 『Gideon Falls』#4 プレビューより]

作画担当のAndrea Sorrentinoは、1982年生まれのイタリア出身のアーティスト。2010年、DC傘下で出版社としては終了する最後の年にWildStormから同名ゲームのコミカライズ『God of War』でアメリカデビュー。 翌2011年のDC The New 52の『I,Vampire』(ストーリー:Joshua Hale Fialkov 2011-2012)が出世作となる。同じThe New 52出身でLemireとは同級生感あるのかも。
『I,Vampire』というのは、DCの『House of Mystery』で1981年に登場し、1983年まで続いたシリーズの主人公Andrew Bennettがリバイバルされたものということらしい。 The New 52ではジョン・コンスタンティンがリーダーの『Justice League Dark』の一員として登場しており、こちらはそのグループではない個人のストーリーとなるシリーズ。 ほら、ややこしい。だからDCマーベルあたりのシリーズ作について書くの面倒なんだよ。あっ、でも今よく見たら『Justice League Dark』、ライターピーター・ミリガンやん!あー、これも読まなきゃなあ…。
最初にイタリア出身と書いたのだが、ちょっと今のところイタリアでのキャリアについては情報なし。『I,Vampire』を見ると、おなじみのペンシラー-インカーみたいなシステムに組み込まれずに、 カラーまで含めた全面的なアートを担当しているので、それなりのイタリアでの実績を持った上でのアメリカ上陸だろうということは想像できるのだが。
そして『I,Vampire』終了の2012年からは『Green Arrow』の作画を担当し、ここで初のJeff Lemireとのチームの作品となる。 2015年からはマーベルと専属契約を結び、そこからしばらくは『All New Xmen』などでブライアン・マイケル・ベンディスとチームを組む。 全5回の限定シリーズでのベンディスとの『Old Man Logan』の後、本格シリーズ化された同作品で、再びLemireとのタッグとなる。 で、この『Old Man Logan』なのだが申し訳ないが内容不明…。とりあえず『I,Vampire』の方は2話ぐらい読んでみたのだが、こっちはLemireとの作品でもあるし、 なんか急いで読むのもったいなくてパラパラッと画を見ただけなんす。まあ、この『Gideon Falls』に先立つLemire-Sorrentino作品ということで、 重要作なのは間違いないですな。24号までをLemireが手掛けた『Old Man Logan』だが、Sorrentinoは一足早く13号で離れ、2017年はマーベルのコミックイベントである『Secret Empire』の作画を手掛ける。 こっちについてもまだそこまで届いていなくて内容不明なんだが、Sorrentinoの作画はメインストーリーの半分ぐらい。そして次に続く作品がこの『Gideon Falls』となる。
Andrea Sorrentinoの作画についてどう説明しようかと考えながらウィキペディアを見てたら、彼の特徴をヘビィ・インクとクリエイティブなレイアウトと説明していた。なるほどヘビィ・インクというのか。 このヘビィ・インクというのは、なんかもう度々言ってるけど、近年のアメリカのコミックのアートで一つのトレンドとなっているスタイル。 光と影の大きいコントラストや、強弱の激しい線などが特徴。少し前にやった『Starve』のDanijel Zezeljもこれに属するし、『Scalped』のR. M. Gueraやらルッカの『Lazarus』のMichael Larkやら 書いてたらきりないくらい。
Sorrentinoの特徴としては、画像を見ると分かると思うが、ベタ部分が線を重ねたタッチになっているが、これは『I,Vampire』や『Old Man Logan』の序盤を少し見たあたりでは やってなかったので、この『Gideon Falls』からか、少なくともその少し前からかに始めたスタイルらしい。見るからに手間暇かけた手描きのタッチに見えるけど、今どきはもう見ただけでは 紙にインクで描かれたものなのかデジタルなのか、かなり判別付きにくくなってるからなあ。もう上手い奴ほどそうやからねえ。
とにかく個性的で優れた画力のAndrea Sorrentinoなのだが、彼について更に特筆すべきは、後半のクリエイティブなレイアウトというやつ。 ここで言うレイアウトとは、ページの中のコマ割りを含めた全体的な画面構成である。 まあ大抵は1話の中でもストーリーが盛り上がってくる後半にかけてすごくなるのだが、こういうプレビューというのは最初の数ページだったりするので、 なかなかホントにスゴイところが紹介できなくてもどかしい。このくらいの画像でもその片鱗ぐらいは垣間見えると思うのだが。 円などの変形コマは当たり前ぐらいで、紹介できた画像にあるようなページを等分のコマに割り、複数に渡る画や断片的に見える画などを組み合わせたカットバックに近いような効果の表現を見せたり、 右が天、左が地になる横向きの画像を縦に並べ、描かれた人物が下に落ちて行くようなイメージのページ構成をやったり、 そこまでに描かれた数々のシーンの断片を無数に背景に配置し記憶があふれ出る様を表現したり、と独創的なレイアウトを見せてくれる。 ホントはもっとすごいのがあるんだが、そこまで書いちゃうとちょっとネタバレかも。このくらいになってくると画でもネタバレ注意っすよ。 まあ特にTPB2巻最後の、二つのGideon Fallsが文字通り交差するシーンは本当にエキサイティングである。必見ナリ!

[画像はすべてComixology より]

上は『Gideon Falls』1~3号のカバー。それぞれが、具体的には作中の登場人物なのだが、人物の顔が航空写真的な地形の上に浮かび上がるデザインとなっている。 このようにあちこちに独創的でコンセプチュアルという感じのアート的な試みが見られる本作なのだが、これらを全て作画Andrea Sorrentino個人の仕事と見るべきだろうか?
以前にも書いたのだが、私はこの『Gideon Falls』の第1号はJeff Lemireがテキストのみのシナリオだけではなく、コマ割りもされた絵コンテであるネーム原作ぐらいまでのものを創り上げたうえで 描かれた作品だと思っている。まあ実際にそういう過程を経て作られたとどこかに発表されているわけでもなく、単にこれまでいくらかLemireオリジナル作品を見てきたうえでの、独特の 間やコマ運びのクセみたいなのが見えるというようなほぼ直感ぐらいのレベルで言ってることなのだけどね。
で、何故にそれにこだわっているかというと、おそらくこのコンビは、この作品を開始するにあたりまずお互いのイメージをより一致させるためにこれをやったのではないか、と思っているからなのである。
この作品は単純にこちらにライターの考えたストーリー=シナリオがあり、アーティストがそれを読んでそこからビジュアル的なイメージを創り上げた、という作品ではない。 これは明らかに、ストーリーを組み立てる時点でLemireの頭にはイメージがあり、それを合わせて伝えられたSorrentinoが具体的なイメージとして作画し、完成させたものである。 だが私はSorrentinoの独創的なレイアウトがすべてLemireのアイデアだ、というようなことを言っているわけではない。 Lemireからのイメージはおそらくは曖昧だったり、流動的だったり、ある時は画的な形を持っていないものだったりもするのではないかと思う。 それを具体的で整合性のあるビジュアルイメージとしてアウトプットできるのが、このAndrea Sorrentinoというアーティストの能力・手腕なのである。 そして、そのようなビジュアル的なイメージを伴ったストーリー作りができるのがこの作画も自らが手掛ける作品を創れるJeff Lemireという作家だ。 そんな二人のイメージをより一致させるためのワンステップとして、Lemireがテキストのみのシナリオではなく、簡単なラフの形であれコミックの形で描いたネーム原作を、Sorrentinoが自分の画でなぞるという手法で、この第1号は作られたのではないのか、というのが私の考えである。

まあそれの基となっているのは学校教育内の美術の授業における単純化なのだろうけど、アートの一般的な評価基準として、「この画はこれこれこういうことを表現している」という馬鹿気たものがある。 この方法は、作品がより抽象的になるにつれ困難になり、それほど単純に短い文章で表現できないものになる。そして頭の悪すぎる連中の間では、そのような単純な解釈ができないものを、 わけがわからない自己満足的な作品として嘲笑するような傾向が高まっている。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
人間の感覚・知覚認識において、目からのビジュアルイメージが言語によるコミュニケーションより遥かに上位にあるのは自明のことである。 より複雑な認識、イメージの拡張など常に高みを目指して進化して行くアートが、四則演算レベルまで単純化した形で言語表現できなくなるなどというのは当然のことだ。 そもそもが、単純な言語で表現できるものを越えたイメージを目指して創り上げたものが、なぜその低次元の方法で解釈できないと言って嘲笑されねばならんのか? そういうレベルの俗物にわかりやすい例えで言うなら、「とにかく時間が分かればいいんだし、そもそもスマホに時間が表示されるんだから高い腕時計なんて買う意味がない」というぐらいのレベルの談義でアートを嘲笑しているわけだよ。どうだい?お利口でカッコいいかい? 岡本太郎が児戯に等しい?じゃあせいぜい床の間の富士山の油絵でも愛でて暮らせや。
そしてこの作者チームは、コミック表現において画がストーリーをわかりやすく表現するだけではなく、そのようなビジュアルイメージの進化洗練こそが、より高次の物語を語れると知る者たちである。
あらゆる表現はそれぞれにそれ自体の限界を持っている。コミック=マンガは常に一枚の決まった大きさの中に静止画で描かれなくてはならない。 そして物語を語るためには、ただ一つの大きな画だけではなく、その一枚の中にいくつものシーンを描き構成しなければならない。ページを切り替えなければならない。 最大横並びの2枚が一度に見せられる限界であり、そこからはそれまでのイメージをワイプする形で、次の横並びの2枚へと進ませなければならない。
それらの制約の中で試行錯誤を繰り返し、ある時はその制約を逆手に取り演出手段に変換するなどの形で、コミック=マンガは進化を続けてきたのだ。 そして、現在その最前線でコミック=マンガ表現の限界に挑んでいるのが、この作者チームJeff Lemire-Andrea Sorrentinoの二人であり、この作品『Gideon Falls』なのだ。 これがいかに重要な作品であるか、お分かりいただけただろうか?わかんなかったらひとえに私個人の言語表現力の至らなさと、限界である。 作品は常にこんな言い草を越えて行くのだ。もはやこの力不足からは繰り返しこう言うしかできない。この作品は必読である!

現在TPB4巻まで発行中の『Gideon Falls』は、本年10月発行の26号までを収めた5巻の後、12月に発行される80ページの27号を持って完結の予定とのこと。何度でも繰り返す! 必読作品である!日本で翻訳されるかもー、なんて半端な期待を持たず、必ず読むべし!


うーまた遅れた…。なんかこの時期は仕方ないのか?お盆明けぐらいから疲れたまってきて、去年は坐骨神経痛で倒れた時期やし、とにかく慎重になるべく休まなければ、でなかなか進まなかった感じ。 なんかSorrentinoの経歴辺りから延々牛歩ペースになっちまって、一日二行ぐらい書けたり書けなかったりが続いてしまった。とにかく前年の坐骨神経痛は完全に疲労のみが原因なので、慎重にならざるを得んのだけど。 まあこれを休んでいるからってその時間オールスリーピングぐーぐーなわけではなくて、ひたすら読書に充ててるんで、書かねばならんことは増えるばかりなのでけど。 ただそういう生活を続けていると、それが生活パターンになってしまい、体力的に戻っても書く時間を作るのが難しくなってしまうという、あんまり物考えずに反射と習慣反復で生きてる人間にありがちな 弊害が発生しがちなので、その辺はしっかり自戒していかなければと思うところであります。
とにかくコミックについても、書かなければと思うことは山ほどあり、今回の『Gideon Falls』なんていうのは、その中でも最低限このくらいは書いとかなきゃいかんだろ、ぐらいのものであり、 ホントなら間にもう一つぐらいマイナーなのやヘンなのを挟みたかったところなのですが、どうにも力不足でなかなか思うように拡がらんのがもどかしい。自分も画は好きで、コミックを語る上では常に 画とストーリーを別々のものとしてではなく同じ比重で語って行かねばならんとは思っているのだけど、日本の海外のコミックの読まれ方としては言葉の問題もあるのだろうけど、どうしても画の比重が 高くて、それがなかなか海外のコミックが定着しない原因の一つなのではないかな、と思っているのです。結局そういう読まれ方というのは常に点にしかならず、それを横なり縦なりにつなげて拡げて行くには もっと系統的でそれがどこに位置するのかという視点も必要であり、そのためには作家と読み物としてのコミックの紹介というような方法がもっと必要なのだろうと思うわけです。 ただまあ、そういうことを考えてみると、今回のストーリーの紹介の仕方とかこれでわかったんかな?ちょっとネタバレにこだわりすぎてて、ホントはTPB1巻分ぐらい書いちゃった方が作品の方向性を 掴みやすかったんじゃないのかな?なども色々と考えたりもします。まあ色々と悩みつつ、それでも何とか微力ながらも日本の海外のコミックの読者層の拡大へといささかなりとも寄与して行ければと。 しかし微力にもほどがあるな…。なんだかんだ言ってもそろそろ時期的にも体力的に落ち着いてくるところでしょうから、ここからまた何とか少しでも頑張って行ければと。
最後に今月の悪態。最近というか前からだけど、マンガアプリとかのコメント欄見てて、とにかく一番イラつくコメント。実写化希望。今の世の中で最も迷惑千万な希望ナリ! なんだよ悪態終わりって…。ではまたね。

下のリストについて:一応通例通り基本的にはオリジナル作品に絞って載せていますが、Lemire『Animal Man』は、それに準ずるぐらいのもんかと思うので入れときました。あと、『Gideon Falls』直前の Lemire-Sorrentino作品である『Old Man Logan』もおそらくは重要作かと。ただ、Lemireに関しては近作でリスト作ってて初めてこんなんあるんだと知ったのもあり、きちんと説明できてないまま入ってるのもあって、 そこんところはすみません。つーか、Image最新作の『Family Tree』も全然内容把握しとらんし…。Lemire作品はマーベルDCも含めていつか読むから、と若干いい加減にしとったが、この量見るとそんな 悠長なこと言ってられんな。『Black Hammer』とか今日から読み始めんといかんと思ってるし。なんかLemireに関しては、いつも中途半端にしか書けていない気がしてて、今回こそはきっちり書こうと 思ってたけど、また少し中途半端に終わってしまった感じ。次こそは頑張る。Lemireについてはまだまだ書かなきゃならんこと多いからな。
言及出来てないところで唯一少しわかるのは、『Secret Path』という作品。カナダでは国民的バンドと言われたザ・トラジカリー・ヒップのフロントマンのゴード・ダウニーが亡くなる前年の2016年に Lemireとのコラボレーションで出したソロ・アルバム。アナログLP盤とサイズを合わせたLemireのグラフィックノベルとのセットという形で販売され、ちょっと欲しいなと思った。 現在ではグラフィックノベル単体やKindle版でも購入できます。ザ・トラジカリー・ヒップやゴード・ダウニーについてはよく知らなかったのだけど、よく知りたい人は検索すればすぐに日本語の情報がみつかりますので。 このコラボレーションについては日本語の情報はちょっと見つからなかったのだけど、Secret Pathというのは寄宿学校から脱走して餓死した先住民の少年チェイニー・ウェンジャックを歌った曲ということで、 その物語がLemireによって描かれているのでしょう。カナダ史の暗部に光を当てた曲で2017年のジュノー賞でも高く評価されたそうです。やっぱ読むなら音源の方も手に入れんとね。なんか注釈ぐらいのところが 思いのほか長くなってしまったな。今度こそホントに終わりです。ではまた。

Jeff Lemireホームページ


●関連記事

Essex County -Jeff Lemireの感動作-

Image Comics 最近の注目作



■Jeff Lemire / Andrea Sorrentino
●Gideon Falls



●Wolverine: Old Man Logan



●Joker: Killer Smile



■Jeff Lemire



●Sweet Tooth



●Animal Man



●Descender




●Black Hammer



●Plutona



●A.D. After Death(Scott Snyder原作)



●Royal City



●Family Tree



■Andrea Sorrentino
●I, Vampire



'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。