例えば「21世紀のチャンドラー」、あるいは「第2のチャンドラー」といった呼び名はどのような作家・作品に与えられるのだろうか?チャンドラーを思わせる作風の作家?チャンドラーをコピーした作品?
レイモンド・チャンドラーとは、(それが自ら望んでその道に進んだかどうかは別にせよ)それまで大衆向け娯楽という中でも低い位置にあったような犯罪小説・私立探偵小説というようなジャンルの中で、それが持つ独自の価値を見出し、ハードボイルドを文学として語れる位置まで推し進めた作家である。「第2の~」、「21世紀の~」などという呼称は当然単純に作風が似ている程度の作家・作品に与えられるべきものではないだろう。いや、むしろそう呼ばれるに値するほどの作家が、前のものと同じ形をしていることの方がおかしいのだ。
チャンドラーから約50年を経て、前世紀末に登場した作家がケン・ブルーウンだ。その50年の間にミステリ、ハードボイルド、犯罪小説のみならず、文学そのものも大きく形を変えている。そのチャンドラー時代とは全く様変わりをした現在進行中の土台に立って、さらに自身のバックボーンであるアイルランド文化・文学をも取り込み、ハードボイルドをさらに推し進め得た作家がケン・ブルーウンであり、ゆえに彼こそが真の意味で「21世紀のレイモンド・チャンドラー」と呼ばれるにふさわしい作家なのだ。
だがな、所詮は「21世紀のレイモンド・チャンドラー」なんて本を売りたい出版社や三文以下ミステリ評論家が使いたがるような安キャッチコピー与太だ。ケン・ブルーウンは、既にケン・ブルーウンとして偉大だ。本来ならここで全てのミステリファンと言うべきところだろうが、日本じゃ到底無理だろう。だが少なくともケン・ブルーウンは全てのハードボイルドファンにとって必ず読まなければならない作家だ!君がハードボイルドファンなら何がなんでもケン・ブルーウンを読め!
近い将来、英米ではブルーウンから深く影響を受けた作家が次々と登場し、その名は伝説に高められ、30年だか50年だか70年後ぐらいには日本でももったい付けた長ったらしい解説を追加され、高価なハードカバーとして翻訳される日も来るかもしれない。だが、我々は本当にラッキーなことにこの偉大なる作家と同時代というときに生きられたのだ。同時代にこれほどの作家が存在しているのに読まないということは損失でしかないし、そう思いもしないような奴に本を読む資格などない!何が何でもこの偉大な作家の作品を読め。ケン・ブルーウンを読み続けるのだ!
前置きが結構長くなってしまったが、ここからケン・ブルーウン ジャック・テイラーシリーズ第6作『Cross』です。いや、前の続きからと思って見たところ、第5作『Priest』やったのって5年前じゃん。まあその間に、個人的にはブルーウン作品としてはトム・ブラントのWhite Trilogyを読んで、結局いまだに第1作についてしか書けていなかったりもするのだけど。
ジャック・テイラーについては何としても読んだら書かなければならんという思いもあり、なんかいろいろこじらせて自分の中で不必要なまでに重くなってしまっていたのだけど、まあ少し時間ができたことで手前に重なっていた本が比較的早めに片付き、うまく読むタイミングができて、いざ!と読んでみると…、ああなんとオレの頭は重くて硬く、それに比べて本というものは軽やかなことか。5年のブランクや色々なつまらない思い込みなど直ちに消し飛び、作品のあまりの素晴らしさ、読む楽しさにのめりこみ、ほろほろと涙を流しながら読みふけってしまったのでした。
というわけでずいぶん間が空いてしまったが、このブログ的にはここから再開されるケン・ブルーウン ジャック・テイラーシリーズ。まずは書いていなかった第5作『Priest』の結末から。
以前にも書いたことだが、この作品でも様々にちょっと粗雑な捜査をしてみるジャックさんだが、確証は得られず、手をこまねいているうちに事態は彼の手の届かないところで最悪の結末を迎える。
だが、それはそれ。事件は彼自身には深刻な被害を与えぬままに決着し、虚しい気持ちのみを残す。
だがその後、最後に唐突のようにこの作品のあまりにもショッキングな結末が描かれる。
数日後、いつものようにちょっとした散歩に出かけたジャック。今日は気分転換に海でも見に行こうか。バスが出るまであと10分か。
バス停に歩み寄るジャックに、どこかから現れたもうすっかり彼の相棒となったコーディーが合流してくる。
「やあ、ボス。」そしてコーディーは続ける「ちょっといい考えがあるんだが…。」
だがその「いい考え」が何だったのかは聞くことはできなかった。
奇妙なな破裂音。
そしてコーディーの胸から血が噴き出す。そしてもう一発。
狙撃?何処から?誰が?なんでこんなことを?
何も考えられぬまま倒れたコーディーの手を握り、涙を流すジャック。握り返すコーディーの力が徐々に消えて行く。
「あなたの息子さんね。」と彼らに歩み寄り、しきりにジャックの肩をさする女性の声のみが聞こえる…。
作中で最初は不信感を抱きながらも、徐々に信頼感を寄せるようになり、やがてコーディーを息子のように思い始めるジャック。第4作『The Dramatist』の衝撃的なラストのこともあり、ジャックにそういう救いが できることが読んでる側としては逆に不安要因になってくるのだが、やはりこうなってしまったか…。
この衝撃の結末から、そんなに間を置くべきではなかったのだが、とにかく何とか読めました第6作『Cross』です。
【Cross】
昔のを見てみたら翻訳出たのの続きだったので、人名なども頑張って日本語カタカナ表記にしてあったか。基本的には発音わからないのとかあると面倒だからやらないのだけど、このシリーズに関してはできるだけ頑張ってみます。
狙撃されたコーディーは意識不明の重体で入院している。毎日コーディーの様態を見るため病院を訪れるジャック。コーディーを撃った犯人については前の事件の関係者を始めとして何人かが頭に浮かぶが、その所在を探す 気力も出せないまま。
罪悪感、虚無感に打ちひしがれながらゴールウェイの街をさまよい歩くジャックに、追い打ちをかけるように寄ってきたのは宿敵マラキ神父。苛立たせるばかりの小言や説教、最近の不平などに続き、「あの十字架事件など どう思ってるんだ」と告げる。
ゴールウェイでは若い男性の死体が十字架に打ち付けられて放置されるという陰惨な事件が話題になっていた。新聞でみたような記憶はあるが、自分が正気を保っているのに精いっぱいの状態のジャックにはさしたる関心もない。
第1作から登場しているジャックがゴールウェイを歩いていれば何処からともなくぐらいに現れるマラキ神父。相変わらずのヘビースモーカーなのだが、2007年の本作の頃にはゴールウェイでも公共の場所での 喫煙が禁止されてきている。しかし、おい、ここは禁煙だぞ!と言われようものなら、やかましい!と怒鳴り返すような、どこが神父だよぐらいの暴君である。
街を歩きながらあちこちのパブに立ち寄るジャック。酒を注文するが、その前に座り続け、手を付けずに店を出る。前作から続いている儀式のような禁酒行為。
家に帰り、ひと眠りしようかと思ったところでこちらもおなじみの女性警官リッジが訪ねてくる。翻訳のない第3作からの登場で、日本的にはおなじみでないが。
女性警官としての警察内での立場や先行きへの不満を並べるリッジ。そして彼女も例の十字架事件を持ち出す。
「あの事件を解決するぐらいの手柄があれば、先の展望も開けてくるんだ。あの犯人を見つけてよ。」
どいつもこいつも十字架事件だ…。
この作品では前半約3分の一ぐらいまでが、ジャックの一人称と交互にその十字架事件の主犯の一人称で語られる。正体不明のその犯人は少女で、自殺未遂から回復しある憎悪と使命感に駆られて犯行へと向かう。 病院のベッドで目覚めたときから、彼女の視界の隅で不意に燃え上がり、目を向ければ消える彼女のみに見える炎。その存在が彼女に行為の正当性とその達成を約束する…。
そして、またゴールウェイの街を歩き回り、パブに立ち寄ったジャックに見知らぬ男が近づいて来る。「あんたジャック・テイラーだろう?仕事を頼みたいんだが。」
犬を盗まれた。犬好き仲間の話では、どうもあちこちで犬を盗んで回っている奴がいるらしい。犯人を見つけ出してくれないか。
「なんで俺みたいな奴にそんな仕事を頼むんだよ?」「あんたはいいやつだって聞いてる。」
他人からの頼みごとばかりが重なって行くが、当の本人ジャックはコーディーを撃った犯人を探す気力も出ない。そんなジャックに、またも見知らぬ男が近づいて来る。「あんたジャック・テイラーだろう?」
今度は若い男。明らかに酔っている。男の名はヒートン。最近警察を解雇され、同様に警察から追い出され私立探偵的な仕事をしているジャックの生き方に憧憬を抱いている。
あんたのことを尊敬している。あんたみたいになりたいんだ。俺に何かやらせてくれ。
ジャックの頭をコーディーのことがかすめる。そして酒で破滅に向かっている男への憐れみと関わりたくないという気持ち。酒に溺れてそこを逃げ場としていたかつての自分のような。
深い考えもなく、半ば厄介払いのような気分で、ジャックは彼にやる気もなかった犬泥棒犯の捜索を任せる。
そんな中、ジャックはかつて住んでいたホテルの優しいオーナーミス・ベイリーの遺産として譲り受けた自分の住んでいるアパートに、高額での売却の申し出を受ける。ゴールウェイを深く愛しながらも、自分を取り巻く 様々な問題にうんざりしていたジャックは、アパートを売ってアメリカへ行くことに希望を見出し始める。
おい、ミス・ベイリーからの遺産をそんなに適当に売っちゃっていいのかい?という突込みが出るところだが、ここまでジャックさんと付き合ってくれば、まあこの人そういう人だからなあ、ぐらいはわかるもんでしょう。
ゴールウェイを去る前に、もう唯一ぐらいになってしまった友人であるリッジの頼みぐらいは何とかしてやらなければ、と思いジャックは十字架事件の捜査に乗り出し、被害者の家族に会いに行く。しかし、まあこういう正攻法の 捜査をジャックさんがやれば、という通例通りぐらいにグダグダになり、被害者の妹に非難されるだけで何の収穫もなく帰ることになる。
そしてコーディーの入院する病院から緊急の連絡。急いで駆けつけると、そこにいたのはコーディーの両親だった。父親はジャックを激しく非難し、ジャックはコーディーの病室に入ることもできなくなる。
さらに深く落ち込み、再び酒に手を出す寸前まで追いつめられるジャック。
一方で、元警官ヒートンは、ジャックに手がかりを見つけたと告げたのち、体に犬を縛り付けた溺死体となり川で発見される。
そして、ジャックも会った十字架事件の被害者の妹は、犯人の手により彼女自身の車の中で焼死させられる…。
今回に至るまでの過程で、友人関係をすっかり失い、残るのは女性警官リッジぐらいになってしまっていたジャックさんだが、今作では後半から、第4作『The Dramatist』で刑務所から依頼してきた元ドラッグ・ディーラーのスチュアートが出所してくる。刑務所での経験から禅思想に目覚めた彼は、精神的な面も含めジャックさんの支えとなってくれる。
また、今作ではコーディーが入院している病院で出会ったセラピストの女性ジルが登場し、相談がてらデート的な食事に行ったりもするのだが、今後関係が発展する可能性もあるのかもしれない。
一方で、ますますぶっ壊れ具合の高まるジャックさんは、長年ハーリングやら警官やらの経験で頭を殴られすぎたせいで、片耳が不自由になり補聴器が必要となってきたりもする。
遂にノワールが「本格ミステリ」の馬鹿げた謎解き崇拝をとことんコケにした!
捜査-犯人特定、約1ページ!いつだって本当に重要なのは犯人がだれかなんてクイズじゃなく、事件・犯人にどう決着をつけさせるかだ。
変わりゆくゴールウェイへの思いなども多く書かれた、ジャックさんの彷徨というようなペースで進む作品で、あらすじ的な形を作るのに作品の半分ぐらいを書いてしまった感じだが、まあいいか。それがケン・ブルーウン/ジャック・テイラーシリーズなのだよ。「ミステリ」というジャンルに属するもので、それに沿ったあらすじの書き方をすればこういう形になってしまう。だがもちろん、この後の展開は、犯人見つければププッとかいけつな、お気楽犯人当てクイズ小説のようにはいかない。
「あんたはいい奴だって聞いてる。」
そこらをうろついているジャックを見つけて仕事を頼んでくる相手に、なんで俺なんかにそんな仕事を頼むんだ?と問いかけたときに返ってくる答えだ。これまでの作品でもたびたび繰り返されてきたやり取りである。
確か野良レビューだったし何度も引っ張り出すのも少し気の毒かとも思うが、以前に第1作だったかを読んだ感想でなんでこんなやつに仕事を頼むんだ、とか言ってるやつがいて非常に憤慨したのを思い出す。まあ「読書のプロ」 全盛期で上から目線で半笑いでツッコミ入れるのがカッコイイと思ってた時代のもんやろけど。
ではここで逆に信頼できる、安心して頼めるというようなものがどんなものなのかリアルに考えてみようではないか。まず実績からの評判、多くの依頼を解決しているというようなところから個人経営の私立探偵ではなく、大手で あっちこっちに支社とかもあるぐらいが望ましい。警察OBなんかも多くいるところ。そしてそうやって信用を売っているところは、単に料金が高いのみでなく、こちらにも信用を要求してくるかもしれない。役所仕事的なこちらの身元 確認はもちろんのこと、料金を取りはぐれないように収入やら資産などについても聞いて来るかも。つまり信用を売り物にするとは、そういうことだろう。
例えば警察に行かない、ということは単純に依頼内容が違法だからということではないだろう。事件としてそれほど真剣に取り組んでくれるとは期待できない問題、あまりにも曖昧で警察に事件として取り合ってもらえるか 疑問な問題、家族の問題などそれほどの大事にしたくない問題、などなど。上のような「信用・安心」に行く人もいるかもしれないが、多くの人にとってはそれも警察同様に敷居の高いものかもしれない。そしてそんな自分の 問題を半ば愚痴として話していると、相手がそういうことをやってくれる奴を知ってるよ、と言う。そしてその相手はそいつの人となりを説明した後に、最後にこう付け加えるのだ。あいつはいい奴だよ、と。
我々を取り巻く世界はどんな幻想でごまかそうと、そういった様々な意味での高価な「信用・安心」が必要とされる世界だ。そしてそんな世界であてもなく困っている者が頼ってくるのが、どうこじつけても善人とさえ言い難く、 全く誉めるところも見つからない「いい奴」、ジャック・テイラーなのだ。
なんかすっかり忘れていたけど、これ書いてて思い出したな。名作『モブサイコ100』の9巻で、イカサマがばれて追いつめられた霊幻新隆にモブが最後に言うセリフ。「僕の師匠の正体は『いいやつ』だ」あれも読んで 泣いた名場面。今の世界が求めるのは卑しい街を行く、卑しく汚れた「いいやつ」なのかもしれない。
ケン・ブルーウン/ジャック・テイラーシリーズは、安手のランキングに並ぶような「ミステリ」に慣らされたような考えで読める作品ではない。主人公/探偵は、いかなる安定した立場や高見にもおらず、怒りと暴力の 暴風雨の中で犯人、被害者と同じように翻弄され、そして悲劇的で陰惨な結末の一部となる。だが、これこそがミステリ-犯罪小説-ハードボイルドの正統的な進化の、最も先鋭な姿の一つであることはゆるぎない事実である。 ケン・ブルーウン/ジャック・テイラーを読め!
現在のところブルーウン最新作は、昨年出た非シリーズ物の『Callous』。ジャック・テイラーシリーズは、その前年2020年に第15作『A Galway Epiphany』が出ています。
ケン・ブルーウンに関しては、とにかくジャック・テイラー、トム・ブラントの2シリーズを読まなければというのが強くて、あまりほかに目が届いていなかったのですが、最近、2006年に出た初期の中編5冊と短編集1冊をまとめた 『A Fifth of Bruen: Early Fiction of Ken Bruen』というのがかなりお得価格でKindleで出ていたのを見つけて慌てて買いました。おススメです。しかしブルーウンはよく見ると、非シリーズ作品も結構コンスタントに 多数出しているので、そっちの方ももっと気にしていかんとと思っています。その他、『Priest』の時に書いたアイルランド製作のジャック・テイラーTVシリーズについては、以前の第9作以降は現在までのところ 作られてはいないようです。
■ケン・ブルーウンが選ぶノワールベスト10
ブルーウン関連では、前から書かなければと思って放置していたのが、2015年Publishers Weekelyに掲載されたブルーウンによる 『10 Best Noir Novels』という記事。タイトルでわかるようにブルーウンセレクトによるノワール作品10選です。個人的な好みによる、と断っているように、一般的なおなじみのものとはかなり異なっており、そういうものから想定されるクラシック作品は比較的少なく、現代のこれからという作品を多く選んでいるところがブルーウンらしく、信用できるなあという感じ。ただ英国クラシック方面の、James R. Langhamの作品や、Derek Raymondの初期作品などは現在入手困難な状態のようで、やっぱ英国との距離を感じてしまうところもあったり。
日本に翻訳されたものとしては、ジェイソン・スターの『Cold Caller』。これ邦題がひどすぎて書く気になれないのでわからない人は自分で調べてください。5位のウィルフォードは『危険なやつら』という邦題で翻訳あり。クレイグ・ライスのは邦題『幸運な死体』というところ。
3位には当方でも亡くなった時に追悼記事っぽいのを書いたけど例によってその後は放置状態のTom Piccirilli作品があり、今見て改めてちょっとへこんだり。反省してます。2位のDonato Carrisi『The Whisperer』はどこかでかのPaul D. Brazillも薦めてたやつでチェックしといたんだけど結局いまだに手つかずだったり。まあそんな中で1位のRob Leininger『Killing Suki Flood』(1991年)だけはなんとか一昨年ぐらいに読んだのでした。
主人公Frank Limosinは50代ぐらいだったかの結構な歳の男。とある事情である山を目指しキャンピングカーを走らせていると、荒野の真ん中でグラビアから出てきたみたいな18歳のギャルがパンクで立ち往生しているのに出くわす。 どこから見てもゴージャスという感じの女だが、Frankは関わり合いになりたくなかった。なぜなら彼の運転するキャンピングカーには訳ありの現金が隠されていたのだ。
その女の子の名前がタイトルにも入っているSuki Flood。見捨てるわけにもいかず、やむなく助けているうちに、FrankはSukiがある凶悪なギャングから逃げていることを知る。巻き込まれることに腹を立てていたFrankだったが、 遂にギャングが彼らに追いつきSukiが連れ去られたとき、彼はそのどこからも助けられるあてもない彼女を、自らの力で命がけで救い出す決意をする。
全編ギャング VS Suki&Frankというシンプルな構図の中で、話が二転三転し、印象深いシーンも多い大変楽しめる作品。
作者Rob Leiningerについては、まだよく調べてないんだが、デビューはこの作品のひとつ前で同年の1991年。現在は未訳おススメのところだったかで名前だけ出したOceanview PublishingからのMortimer Angelシリーズが7作まで 刊行中。この辺も現在進行形作品として、早くちゃんと読まねばというところです。
だがこれがブルーウンが選んだ1位?なんて考えはそもそもが大して意味がない。こういう「ベスト10」みたいなのを凡庸な評論家風情に振れば、な~んかおなじみの「定番名作」みたいなのをちょっと順番変えて並べなおした だけみたいなどこ向けだかわからない見識とやらを示したつもりの退屈なものが出てくるのがオチだが、こいつはちょっと本棚の手が届く範囲から思い付きのお気に入り10冊を持ってきて並べたみたいな、いかにもブルーウンらしい 肩の力の抜けた感じの「ベスト10」なのだ。何よりも気軽に手に取れ、ジャンルの先の展望も考えられるような新しい作品が多いところも嬉しい。2015年ということでちょっと古くはなってしまったが、これから読んで行く本を 見つけられる実のあるベスト10です。
●ケン・ブルーウン著作リスト
Jack Taylorシリーズ
- The Guards (2001) 『酔いどれに悪人なし』
- The Killing of the Tinkers (2002) 『酔いどれ故郷にかえる』
- The Magdalen Martyrs (2003)
- The Dramatist (2004)
- Priest (2006)
- Cross (2007)
- Sanctuary (2008)
- The Devil (2010)
- Headstone (2011)
- Purgatory (2013)
- Green Hell (2015)
- The Emerald Lie (2016)
- The Ghosts of Galway (2017)
- In the Galway Silence (2018)
- Galway Girl (2019)
- A Galway Epiphany (2020)
- A White Arrest (1998)
- Taming the Alien (1999)
- The McDead (2000)
- Blitz (2002) ※映画化『ブリッツ』(2011)
- Vixen (2003)
- Calibre (2006)
- Ammunition (2007)
- Bust (2006)
- Slide (2007)
- The Max (2008)
- Pimp (2016)
- Funeral: Tales of Irish Morbidities (1991)
- Shades of Grace (1993)
- Martyrs (1994)
- Sherry and Other Stories (1994)
- All the Old Songs and Nothing to Love (1994)
- The Time of Serena-May & Upon the Third Cross (1994)
- Rilke on Black (1996)
- The Hackman Blues (1997)
- Her Last Call to Louis MacNeice (1998)
- London Boulevard (2001) 『ロンドン・ブルーヴァード』※同名で映画化(2010)
- Dispatching Baudelaire (2004)
- American Skin (2006) 『アメリカン・スキン』
- Once Were Cops (2008)
- Killer Year (2008)
- Merrick (2014)
- Callous (2021)
- A Fifth of Bruen: Early Fiction of Ken Bruen (2006) 初期作品Funeral: Tales of Irish Morbidities (1991), Shades of Grace (1993), Martyrs (1994), Sherry and Other Stories (1994), All the Old Songs and Nothing to Love (1994), The Time of Serena-May & Upon the Third Cross (1994)の合本
■その他おまけ的なやつ
以前に書いたものの絶版になってしまっていた作品が復刊されたのを最近見つけたので、ここで紹介しておきます。まずは2015年とかに書いた『The Drifter Detective』。第二次大戦直後ぐらいの時代が舞台で、厩車を車で引いて その中で寝泊まりしながら街を渡り歩くという変わり種の私立探偵Jack Laramieが主人公の中編シリーズ。作品ごとに作者が交代するという形で全9作出版されたシリーズが、この度2分冊に納められ再刊されました。 元はBeat To a Pulpから出版されていたが、今回はUncle B. Publicationsというところから、Uncle B. Publications, LLC Bookというアンソロジーシリーズの中からで、そっちのアンソロジーシリーズも何気に気になるので、 もう少し見て何か書くこともあるかも。
そして戸梶圭太先生の方は、多元宇宙りんご町シリーズの新作が発売。『多元宇宙りんご町5 りんご町ラップバトル』。結構読まなければというものが多く、またストップしてしまっているのだが、りんご町シリーズかなり好きなので、ちゃんと追いついて行かなければ。今回結構大作で、一つ区切りなのかもしれんが、りんご町シリーズまだまだ続くようです。「読めば読むほど友達が増えていく」シリーズ!いや、作品内での話だろうけど。
更に!この度、ほんの数日前ですが、戸梶先生の徳間書店より刊行されていた作品がまとめて電子書籍として復刻!中でも『ザ・ビーチキーパー』は、既になくなってしまっているプラットフォームより電子書籍版のみで刊行されていた作品ということで、知らなかっった人も多いやつじゃないかと思います。自分も知らんかった。下のリストに並べておくので詳細はそちらから。
なんかかなりごたごたになって面倒になったりしましたが、とりあえずはまだ続いて行きます。なんかいろいろごめんなさい。
以前書いてた80年代以降のハードボイルド史的なものは、とりあえずは進行中です。多数の再読含め、あれとかこれも読んどかなきゃで、結構時間かかると思いますが、ここからいい加減にされたことが今現在も尾を引いてる という思いは強いので、何とかまとめなければと思っています。
結局のところ、戦後ぐらいの時代の文化状況でミステリが文学に対抗するために打ち立てた理論武装みたいなもんが、その後クイズオタクどもに教典として祭り上げられ維持され続け、更に時代が進めばただただ出版社と本屋の 売上戦略にべったりな能無し寄生虫どものその場しのぎのブーム繰り返しで道筋も曖昧になり、結局はほかに当てもなくなり声がでかいクイズオタクの言いなりに従っているうちに見捨てられ右肩下がり続けて終わって行く 日本の翻訳ミステリ状況。原書がお手軽に手に入る時代故、そんなもん勝手に沈没しろってとこですが、それなりに良い作品読んで育ったもんとしてはせめて一矢ぐらいは報いたいもんですよ。
80年代以降の整理の一方で、やっぱりハマーと同時代の「通俗」に関しても思うところ多く、ぼちぼちとその辺のものも読んでみると一作ごとに発見も多かったり。そしてまた現在進行中最前線のものについても、 いかなる作品であるのか今現在ジャンルがどのような方向に向かっているのかを見て行かなければというところ。そういうところで最近読んだものとして、80年代名前だけは伝わりながら未訳のままのマックス・アラン・コリンズ 『Quarry』シリーズと、現在進行中のMatt CoyleのRick Cahillシリーズについては、何とか未訳おススメの方にアップしました。「通俗」に関しては、ハマーのところでも今一つ書ききれなかったのでいくつかまとめて やりながら方針を考えられればと。
今後の予定としては、当面最優先のものはジェイムズ・カルロス・ブレイクWolfeファミリーシリーズと、続いてジェイムズ・リー・バーク、ロビショーの翻訳終了後作品か。コミックの方も やめるつもりはないんだが、その辺考えると次は年越してからになりそうだけど。
その他の近況としては、遂にPCを買い換えました。うわーなんでも当たり前ぐらいに普通に動くー。また少しは画描いて遊ぼうっと。それからさすがに何とか仕事も見つけました。しかしやっぱ何かとめんどくさいんであまり個人的な ことは書かない方がいいかな。今後は。あと数日前に以前まだ翻訳出てない頃英語のKindle本多く買ってるつながりかでしつこくアマゾンのおススメに来て心底うざかったMWなんちゃらの本が、新作出たんか知らんけど またおススメに来たんで全力で表示履歴を削除して自分のアマゾンから抹消しました。なんか本屋で見てる感じだとこの辺が談合と空気読みの年末クイズ本ランキングで上位に押し上げられるんやろね。まあ知ったことか。 と、結局また悪態で終わるのでした。懲りない面々。
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