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2016年9月27日火曜日

Adam Howe / Die Dog or Eat the Hatchet -期待の大型新人のカントリー・ノワール!-

こちら少しおなじみになってるCrimespree MagazineのWebサイトのレビューで見つけたのですが、まあ一目見て、このカバー!このタイトル!どうか私の好きなやつであってくれい、と祈りながらあんまり本の内容を見ないようにざっとレビューを読んでみたところ、まず文中にJoe Lansdaleの文字、続いてDonald Ray Pollock!それだけ聞けば十分じゃわい!とただちにアマゾンでKindle版を購入。そして結構前倒しして自分としてはかなり早く読んでみたのがこの作品Adam Howe作『Die Dog or Eat the Hatchet』です。そして、その直感に間違いなし!なんとも恐るべき新人作家の登場です。ハズレ無しの3本の中編からなるこの作品集、まずはそれぞれのあらすじから紹介。



1. Damn Dirty Apes
アメリカ南部の田舎町Bigelowの元ボクサーReggie Levine。栄光の時は過ぎ、現在はストリップバーの用心棒として暮らしている。ある晩、看板ストリッパーElizaを守るため暴走族Damn Dirty Apesと乱闘を繰り広げるが、背後からの一撃で撃沈。俺も年か…。
酒場の奥の部屋でふて寝し、ようやく目覚めた翌朝、突進してきたピックアップ・トラックが店に突っ込んでくる!車から転がり出たのはElizaとそのボーイフレンドのLester。

「スカンクエイプだ!Nedがスカンクエイプにさらわれた!」

フットボールの花形選手だったLesterと着ぐるみを着てチームのマスコットをやっていたNedはハイスクール時代からの悪友。使い古しのマスコットBoogaloo Baboonの着ぐるみをもらい下げたNedは今でもその着ぐるみで酒場でふざけまわっている。この二人、今度はElizaを加え、着ぐるみポルノを作ろうなどと思い立ち、森で撮影を始めたところ、スカンク・エイプに襲われNedが連れ去られてしまったとのこと。ビデオ(ポルノシーンを含む)を見てみると、確かに何かの巨大な影に襲われ、Nedが連れ去られているところが撮影されている。それが本当にスカンクエイプかは不明だが…。
ただちに保安官に連絡し、捜索隊も出されたが、Nedは発見されず。ちょっとしたニュースにもなり、州外にまで報道され始める。そしてあの男、伝説のスカンクエイプ・ハンターJameson T. Salisburyが町に現れる…。

スカンクエイプというのは、アメリカに実在(?)する未確認生物。UMAの中ではちょっとB級らしい。私は知らなかったのだけど、そちらの方に興味のある人には常識なのでしょうか。この作品集では一番長く、ほぼ半分の長さの作品で、残り2作がその半分ずつという構成になっています。あとがきの作品解説の中でも作者Adam Howeのランズデールへのリスペクトが語られていますが、この作品は最もランズデールの影響が感じられるユーモアとバイオレンスに満ちた傑作。また、巻末に詳しく書かれていますが、実はこの伝説のスカンクエイプ・ハンターにはモデルがいて、かなりエキセントリックな人物だったようですが、同好の士には深くリスペクトされていて、S. P. N. A. S. A.(The Society for the Preservation of the North American Skunk Ape)という組織から激しい抗議を受け、一時は出版も危ぶまれたとか。

2. Die Dog or Eat the Hatchet
女子寮で5人もの女性を無残に殺害し、逮捕後は精神医療施設に収容され4年間沈黙を守ってきた殺人鬼Terrence Hingleが脱走する。途上のダイナーで、閉店後一人片付けをしていたウェイトレスTilly Mulvehillを誘拐。Tillyをトランクに隠した彼女の車でHingleは逃走を続ける。そしてその先には彼自身も想像できない恐るべき運命が待ち受けていた…。

表題作でもあるこの作品は、3作の中でも最もハードなゴア描写の多いバイオレンス・ホラー。犬も登場。ちなみにこのタイトルは、ちょっと私は見たことがあるのか思い出せなかったのだけど、ランズデールの小説の中に登場するある種の常套句ということらしく、ランズデール本人も快諾の上、使用されたということです。

3. Gator Bait
1930年代、禁酒法時代のアメリカ。ピアノ弾きSmittyはヤバい女に手を出し、2本の指を失い街から逃げ出し、ルイジアナの沼地に流れ着く。片足の密造業者Horace Crokerが経営する、巨大なな鰐の潜む沼の上に立てられた酒場で、その腕を買われピアノを弾きとして雇われるSmitty。その酒場に囚われたように暮らす若く美しいCrokerの妻Grace。そしてCrokerはその沼に住む巨大な鰐Big Georgeとの因縁について語る…。

あらすじを見て気付かれた通り、かのジェームズ・M・ケインの古典的名作ノワール、プラスワニ!


といういずれも優れた中編3本。で、私がこの人の何をそんなに買っているかというと、この人とにかく上手い!と言うのか本当に良く考えて丁寧に書かれている。ここまではまっすぐストーリーを進めて、ここでねじって、ひっくり返して…、というのがそれぞれの作品で本当に良くできているのです。中編にしてはずいぶんあらすじを書いちゃったように見えるかもしれないけど、ここから本当に楽しめます。これは新人作家にしては、というものではなくベテラン作家だったら「さすが○○」とか言われるぐらいのもの。で、こういうのって初めてドゥエイン・スウィアジンスキーの『The Wheelman』を読んだ時にも感じたもので、私がなぜスウィアジンスキーを天才と呼ぶかというと、ちょっと「走り幅跳び」というのを例に使って説明してみようと思います。走り幅跳びというのは助走して踏み切り、そのスピードや勢いを乗せてジャンプの距離を延ばすという競技ですよね。(前提の説明で少し自信がなくなってきたり…)で、運動神経のない人はこの1)助走と2)踏み切ってジャンプをきちんと連動できなくて、助走して踏み切るところでスピードも落ちてそれを乗せられないで跳ぶ、ということになるわけです。まあ、運動神経ゼロは極端かもしれないけど、大抵の人は小説を書こうと思ったりしないから、これを普通の人とすると、運動神経のいい人というのはこの理屈をすぐに理解し、体もそういう風に動くわけで、こういう人を小説を書ける人とするわけです。そして、天才というのは見ただけで理解するし、そもそもこういう能力を生まれつき備えたような人。つまりスウィアジンスキーという人はこのように、ストーリーをうまく組み立てて語る、というような能力を生まれつき備えているような人に見えるのですよね。そしてこのAdam Howeという人も「本当に良く考えて丁寧に書かれている」というようなところをもしかすると才能として持っている人ではないかと思うわけです。ただ実際にはとても頭の良い人で、じっくり考え、推敲を重ね、という努力の結果できているものかもしれないし、その辺についてはそんなに確信をもって言えるわけではないけど。このAdam Howe氏、現在のところこの前にもう一冊中編集と、あとはあちこちのアンソロジーに短編を発表ぐらいのまだ新しい作家なので、少なくともかなり初期の作品からそれができている将来有望な才能ある作家と見て間違いはないだろうと思います。
まず構成の方が先行してしまいましたが、ご覧のようにアイデアにもとても優れ、描写もある時はユーモラスに、そしてとても恐ろしくそれぞれの場面で秀でた技量を見せてくれます。実は直感などと言っても、粗削りだが何か一点突破的な突出したものを持った作家ではないかぐらいの期待で読み始めたのですが、あまりにテクニック的にも優れた作家で驚いたというところ。その後Crimespree Magazineのレビューもよく読んでみると、何か最近のインディー系でいいのはないかと色々聞いてみたところこれを勧められた、みたいな書き出しで、注目も集まり始めているところではないかと思われます。なんだか要領を得ない例えを出したり回りくどく語ってきてしまっているのですが、とにかくこの作品集まず面白い!それを先に書けよ…。まだまだ新人でパブリッシャーも小さいが、かなり将来性の見込める作家の、絶対読んどかないと損するよっていう初期作品集です。

さてこの優れたカントリー・ノワール作品集の作者Adam Howeなのですが、実はロンドン在住のイギリス人。Garrett Addams名で「Jumper」という短編小説でスティーヴン・キングのライティング・コンテストで優勝しているそうです。それからしばらくは映画の脚本家を目指し、少しブランクのあった後小説を書き始めたということ。ちょっと詳しい年代が分からない。受賞作もアンソロジーで出ているらしいのだけど見つかりませんでした。小説再開後は、まずあちこちのアンソロジーに作品を発表。あの『Thuglit』にも19号に登場しています。そして、2015年11月発行の本作の前に、3月に同様に3本の中編から成る作品集『Black Cat Mojo』を同Comet Pressからリリースしています。現在は初の長編に取り組んでいるそうです。この作品集の3本同様『Black Cat Mojo』も動物テーマの作品集のようで、そのスタイルも気に入っているようですが、あまりそのイメージが強くなりすぎるのもということでそろそろ一旦はそのスタイルの封印を考えているらしい。
画像はComet Pressの著者ページからのもので、ちょっと恐ろし気な感じなのだが、巻末の作品解説は本当に気さくで、何の影響で思いついたなどのネタばらしも楽し気に書いてくれています。こういう自作に対する愛着というのは大変好感が持てる。これからもこんな感じで楽しく書き続けて、近いうちにすげーモンを見せてくれるに違いないと期待しております。まずは早く『Black Cat Mojo』も読んどかねば。そして初の長編にも期待!
あと、下のリストについてなのですが、中編集2冊の他にこの『Die Dog or Eat the Hatchet』に収録されている『Gator Bait』が先行して単品で出ているのですが、間違って買ってしまう人がいると悪いので省略してあります。内容は同じだと思いますのでご注意を。

版元のComet Pressについてはあまりよくわかってないのだけど、ホラー、ダーク・クライム、といったジャンルの作品を出版しているあまり大きくないパブリッシャーのようです。イギリスのパブリッシャーかと思っていたのだけど、Comet Press.usとなっていたのでアメリカなのでしょうか。.usってもっと違うの意味?ホームページを見に行くと大変楽しいエログロカバーが並んでおりますが、ちょっと作家が今のところは全然わかりません。とりあえず注目は今年5月に出たAdam Howeやジェフ・ストランドなどの作品が収録されているアンソロジー『Year’s Best Hardcore Horror Volume 1』あたりからか。なかなかホラーの方には手が回らないのだけど、できれば注目して行きたいパブリッシャーです。

この英国からも優れたカントリー・ノワールが登場という現在の状況を受け、当ブログでもカントリー・ノワールのカテゴリを作りました。なーんかまたカントリー・ノワール原理主義者とかが出てきてカントリー・ファム・ファタールについて語り始める前に、片っ端から放り込んでカオスにしちゃう所存です。
そしてこのAdam Howe君の傑作『Die Dog or Eat the Hatchet』ですが、現在のところは翻訳する必要なし!どうせまだ「スティーヴン・キングのコンテストで優勝!」ぐらいしか肩書のないところでそんな帯付けて出してみたところで、「スティーヴン・キングの名前を見て読んでみたのであるが」って新人作家の作品をおりこうポイントのボーナスステージだと思ってる「である系」どもがしゃしゃり出て重箱の隅をつつく「辛口」感想で台無しにし、この先出てくるAdam君の大傑作の翻訳を遅らせるだけの話。目利きの人は早めに押さえて、いずれ「あー、あのアダムなら中編集2冊出たあたりから目を付けてたぜ」って言ってやろうじゃないの、ってことです。

Comet Press


【その他おしらせの類】
またしても…。『ニック・メイスン』ではなく『ニック・メイソン』でしたね…。気付いていない間違いが一体いくつあるやら…。解説にもあったように、過去・現在の時間、シカゴという街、そして主人公ニックの契約の謎の3軸による立体パズルを見事に組み立てて行くところはさすがスティーヴ・ハミルトンという感じ。結構広い層にも読まれそうなハードボイルドが出てよかったすね。
で、本題の予告していた『バッド・カントリー』ですが、まあのっけから低音でつぶやき続けるような素晴らしい文章で始まり、しまったやっぱり原文で読むべきだったか、と、せめてもと思いKindle版のサンプルをダウンロードしてみたり。別に訳が悪いとかいうわけじゃないけど、こうやってリズムも含め書いてるような文章のその部分はどうやっても再現難しいわけだし。自分のように日々読みたい本が増えるような馬鹿者は、どうしたって一生かかっても読みたい本は全部は読めないだろうなと思うので、基本的にはそっちの方が早く読める翻訳が出てくれるのは助かるのですけど。しかしコーマック・マッカーシーが好きだからってここまで恥ずかしげもなくスタイルを真似しちゃうっていうのもなんだけど、それでもやっぱり自分なりの語りも出てくるわけですね。人間なんてみんな基本ロクデナシで善とか悪とかその時のロクデナシの度合いという感じ。唯一難を付けると、連続殺人の推理を話すところがあまりにベタな「ミステリ」臭かったのでもう一工夫欲しかったかというぐらいです。キャラ読みさんたちがどうせ犬のことばっか書くだろうから、あえてそっちには言及無し。大変すばらしいハードボイルド/カントリー・ノワールの翻訳が出てよかったです。次作の『Burn What Will Burn』は原文で読もうと思うけど、翻訳も出たら絶対買うので早川さんはまた出してね!
しかし『ドライ・ボーンズ』に続きこんないいのが出たらもう私の読みたいのなんか早くても来年の春ぐらいまで出ないだろうと思ってたら、北欧物『熊と踊れ』とか、タイトルに『虐殺』とかつけて大丈夫?とかすぐに出てたり。文春からはせっかく久しぶりに出たブリティッシュ・ノワールらしいのに女子の女子のうるさい『ガール・セヴン』とか。角川からもCrimespree MagazineのWebサイトの広告でよく見ててちょっと気になっていた『オーファンX』が出たりとか。もしかしたら日本でもこっちに風が吹いてるのかも、と思ったりするけど、だからと言ってまた「ホークがスーさんが」とか「スカダーはアル中の方が良かった」とかまるでブルーウンもスキップして2~30年ハードボイルドが冬眠保存されてたかのような言説が大仰に「時代」などを語るのだけは勘弁願いたい。んー、まずは早く『熊』が読みたいかな。あっ、いつまでももったいないとか言ってないで早く『カルテル』読まんと第3部が出てしまう!
あと、少し前にAnthony Neil Smithさん関係で書いたOolipoについての情報です。ドイツ発の新しい本のアプリで、Smithさんらのそれに向けた新作も書かれるということで期待していたのですが、どうやら9月初めごろからまだテスト段階(という言い方でいいのかな?プレリリースとか?)ながら始まっていた様子です。今月10日頃だったか、そーいやOolipoってどうなったんだ?とホームページの方を見に行ったらなんかもう始まってるみたいで、ならばとアプリをインストールしてみたというわけです。なんだよー、ちゃんと登録したんだから報せてくれよー。で、テスト段階のものですが、現在のところはまだiOSのみの様子です。現在のところ、7本のシリーズが出されていて、いずれも無料で読めますが、まだできてないところもあるようです。まあとりあえずは『Taste of Love』とか書いてあるのは放っといて『Apocalypsis』というのが読めるようだったので少し読んでみました。まず、ひとつのシリーズの中にSeasonsという項目があり、その中がさらにいくつかのEpisodesに分かれています。このシーズンがTVのシーズンに見立てたもので、本で言えば1巻2巻というのにあたり、エピソードは1話2話=1章2章ということなのでしょう。販売の方が始まれば、多分エピソードが順に一話ずつ販売され、シーズンが完結したらシーズン全体で売られるという形になるのだろうと予想されます。まずシーズンを買ってエピソードが順に配信されるのを待ちながら読むというのもあるかな。内容は基本的にはストーリーにそった画像の上に文字が表示されるという形。1ページは必ずしも一画面には収まらず、いくらかは下にスクロールし、ページが終わったらスライドして次のページ、と進んでいくようになっています。最初はよくわからず、まず表紙的な動画が出て、いつ始まるのかなと4~5周ぼんやり見ていて、思いついてスライドしてみたら始まりました。とりあえず音とかはないようです。まあ大体予想の範囲とも言えますが、いろいろ工夫次第では面白いこともできそうだし、とりあえずは新しい物で全面的に期待モードで迎えましょう。なんか本はダウンロードされてるようだけどまだ消去するところが見当たらなかったり、アカウント作成確認のメールが返信できなかったり(Click hereがクリックできん!)とかまだ問題は多いけど、いずれ改善されるものでしょう。iOSをお使いの人は早速インストール!「この緑に白い輪っかの乗ってるの何?」と一緒に怪しまれましょう。ちなみにSmithさんの『Castle Danger』は2017年ぐらいになりそうとのことです。気長に待とう。
今回のセールのお知らせは、Down & Out BooksのRob Brunet『Stinking Rich』が9月30日まで0.99ドル。Down & Outでは結構初期にリリースされたやつ。Down & Outはこの手のピックアップ作品半月ぐらいセールをよくやっているので、時々チェックしてみてはいかがでしょうか。ちなみにDown & OutではJ. L. AbramoのJake Diamondシリーズ第4作『Circling the Runway』が本年度のシェイマス賞ベストペーパーバックオリジナル部門を受賞。あとアンソニー賞ベストノベルはMulhollandのChris Holm『The Killing Kind』。あっ、同賞ベストペーパーバックオリジナル部門をエドガー賞に続き受賞したLou Berney『The Long and Faraway Gone』がまたしても1.93ドルでセール中!前逃した人は今度こそ。でもこのくらいになると翻訳出るかもね。この辺についても早く読みたいなあと思いつつ日々過ごしておりますです。

Oolipo

●Adam Howe



●現在セール中



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2016年9月18日日曜日

2000AD 2016年夏期 [Prog 1978-1992] 前編

なんとかたどり着きました、Prog 2000直前!今回も結構書くこと多そうだが、何とか頑張って行こう。それではまず、2016年夏期のラインナップです。

 Judge Dredd [Prog 1978-1990]
 Brink [Prog 1978-1992]
 Slaine [Prog 1979-1988]
 Grey Area [Prog 1982-1987]
 Black Shuck [Prog 1983-1992]

という感じで、前の春期の『Aquila』と少し読み切り作品などが続いてたのが終わったところから2本始まり、また春期の2本が終わったところから2本始まり、『Grey Area』と『Slaine』が終わったところからは次のが始まっていたりと今年はそもそも春期と夏期が上手く分けられない感じなのですが、やっぱりこの方が分かりやすいだろうということでこの形にしました。ちなみに常に掲載されているので今までは省略していたDreddですが、今回は期間中と上手く一致していなくてわかりにくいかと思い、今回解説する分のProg番号を入れておきました。
そして、今回のトップ画像は文句なしにDan Abnett/I. N. J. CulbardのコンビによるSF新シリーズ『Brink』であります!


Judge Dredd
 1. The Lion's Den : Michael Carroll/P. J. Holden (Part1-8)
 2. Reclamation : Michael Carroll/Colin MacNeil (Part1-5)

Prog 1986のカバーでポスターとしても販売されているこちらの画像は2013年のコンテストの優勝者であるTom Fosterという人によるものです。まだ作品はあまり出ていないのだけど、この実力を見れば今後かなり活躍の期待されるアーティストであることは確実。ちゃんと名前を憶えておかなければ。
そして、今回は春期から続くMicheal Carrollによる大作3部作が完結いたします。…のですが、実はこの作品一部が『Judge Dredd Megazine』に続くという形になっていて、そちらの方は読んでいません。この際そちらも読もうかとちょっと考えたのだけど、何とかやっと2000号前に追いついたところだし…、というところでそちらの方についてはすみません。ちなみに前回春期のThe Grindstone Cowboysの続きがMeg 371からDust To DustというシリーズでMeg 373まで続き、Meg 374のFrom The Ashesが全体の後日譚となっているようです。Dust To Dustは前回のThe Grindstone Cowboysの襲撃事件の真相などが書かれているようですが、一応2000ADの方のストーリーでもそちらについては説明されていますので。『Judge Dredd Megazine』についてはあまり説明してなかったのだけど、月刊誌で確か60ページぐらいで(ちょっと正確なところが分からないのですが)、内容は半分がDreddを含む新作で、残りが過去作品の再掲載となっています。過去のものと言ってもそれほど多くが単行本化されていない2000ADでは結構貴重なものだったりするので、何とか早く読めるようにしたいと思うのですが。あー、今月とか過去の『Sinister Dexter』とか載ってるし。あっ、Megazineはおなじみの私のスペル間違いじゃないっすよ!
それでは前回の続きなのですが、その前にまたしても間違いがありましたので訂正を。前回Cursed Earthへの調査にJoyceが同行したと書いてしまったのですが、実は同行したのはこちらもよく登場し、ドレッドの信頼も高いRicoでした。こちらについてはなるべく早く訂正いたします。間違い続きですみません。(9月18日、訂正しました。)
あと、今回の話についてはやっぱり全部書かないと後々わからないことも出てくると思いますので、結末まで書いてしまいますのでご注意を。

1. ドレッドの死亡が伝えられ、窮状に打つ手を亡くしたチーフ・ジャッジHersheyは、Brit-Cityとの関係悪化を防ぐためJoyceの引き渡しを了承する。裁判出廷の後は罪には問われないであろうとの見込みでBrit-Cityに送られたJoyceだったが、到着後、移送中の護送車が襲撃され、Brit-Cityからの独立を求めるEmerald Iselのシンパを名乗る集団に連れ去られる。しかし、ただちに彼らのアジトから脱出したJoyceはBrit-Cityのジャッジの捜索を逃れながら逃亡する。
一方Mega-City Oneではその窮状に援助を申し入れてきたTexas Cityのチーフ・ジャッジOswinがJustice Departmentを訪れていた。同じく女性であるOswinの友好的な申し入れに感謝し援助を受けいるれHershey。Oswinが同行した多数のTexas Cityのジャッジは、Mega-City Oneのジャッジの補助としてCityに展開し始めるが、次第にCityのジャッジを上回る市民への強硬な行動が懸念されるようになる。
そしてまた一方のBrit City。ドレッドは生きていた。Cursed Earthでの爆発の直前、かつてSov Unionが開発したテレポート装置により密かに運び出され、Brit-Cityの施設に重傷のまま監禁されていた。ドレッドを誘拐したのは、実はEmerald Iselのシンパを名乗りJoyceの誘拐を謀ったのと同じ、Brit-Cityのジャッジ内の一部勢力で、Emerald Isel制圧のためドレッドを利用しようとしていた。彼らの計画は、Emerald Iselシンパのアジトでドレッドの死体を発見させ、彼らによりMega-City Oneのジャッジであるドレッドが殺害されたと見せかけ国際問題に拡大しEmerald Isel制圧への動きを容易にするというもの。そのために一旦はドレッドの傷を治療させながら監禁を続けていたのであった。Joyce逃走のため事態が混沌とし、誘拐犯たちは計画を早めまだ昏睡状態にあるドレッドの殺害を図るが、その時すでに回復し様子をうかがっていたドレッドが行動に出る。
一方、逃走中のJoyceはかつての知り合いである刑事Armitageの許を訪れ救援を頼む。Brit-Cityのジャッジ内に不穏な動きがあることに気付いていたArmitageは同地のジャッジに変装したJoyceとともに目星をつけていた施設へと向かう。その施設こそがドレッドが囚われていたところで、Joyceはドレッドを救い出し、Armitageが用意したシャトルで密かにMega-City Oneへと飛ぶ。

2. Mega-City Oneへと帰還したドレッドとJoyceだったが、Cityの状況から一旦は姿を隠し、信頼できるRicoの許に潜伏する。その後のCursed EarthでのRicoの捜査で、襲撃犯の背後にはTexas CityのJustice Departmentが関与していたことが発覚していた。これらの事件はTexas CityとBrit-Cityの一部が結託した大掛かりな陰謀だったのである。そして遂にJustice DepartmentでTexasが本性を現し動き出す。チーフ・ジャッジHersheyをはじめとする幹部はTexas Cityのジャッジに拘束され、OswinはMega-City oneに向けてミサイルが発射準備にあり、自分の生命にもしものことがあれば直ちに発射されることを告げる。この緊急事態を知り、ドレッドは信頼できるメンバーを集め、Justice Departmentに乗り込む。守るTexasのジャッジ達を突破し、Oswinと捕えられたHersheyへとたどり着くドレッド。そしてOswinの企みを既に知っていたドレッドには策を用意していた。Oswinにターゲットを合わせ、Brit-CityでArmitageが確保したSov Union製のテレポート装置を作動させ、爆弾とともにOswinを、密かに派遣されたJoyceが発見、特定したミサイルのサイロに向けて送り込み両者を同時に破壊したのである。こうしてTexas CityとBrit-Cityの一部勢力による陰謀は退けられたが、Mega-City Oneの苦境は続く…。

ずいぶん長くなってしまったのですが、ちゃんとわかるように書けたのだろうか…。1. The Lion's Denは特に話も複雑だったりするもので。また間違いがないといいのだけど…。今回登場したTexas Cityは前回に書いたJudge Dredd初期の「Cursed Earth」のときは田舎だったのですが、その後色々あって発展したようです。かつてSov Unionと関係があったことが少し語られるのですが、ちょっとまだそこまで過去のJudge Dreddを読めていないので、今のところは不明です。
作画については、1のP. J. Holdenは2000ADでは2001年頃から活躍していて、結構中堅ベテランぐらいのポジションなのかな。アメリカではガース・エニスの『Battlefields』とかも描いています。アクの強い濃い感じのいい絵なのですが、どうも男性に特化しているようで、チーフ・ジャッジHersheyが女装した武井壮みたいに…。時々じゃなくて常時…。
2では第1部のColin MacNeilが再び担当。本来個性的な絵なのだけど、Dreddをよく描いているので、今ではこの絵に安定感を感じたりもする。この後の夏期後半でもTharg's 3rillersを描いていて、結構仕事の早い人なのかとも思われます。

Brink
 Dan Abnett/I. N. J. Culbard

さて、今回私の一押しの『Brink』の登場です。いやもちろん私だけではなく2000AD誌上でも当然の人気。新シリーズ第1シーズンが2000ADでは異例の長さの全15回で登場となっています。ちょっと前に異色コンビとか書いたのだけど、この二人2000ADでは初の顔合わせとなりますが、アメリカではVertigo『The New Deadwardians』(2012)、Darkhorse『Dark Ages』(2014)、Boom Studios『Wild's End』シリーズ(2014~)と近年結構多くの作品があります。そして、満を持しての2000ADでの初の共作はなんと本格SF刑事アクション!まず、設定等を先に説明すると、21世紀後半、まだ説明はされていないのだが何らかの事態により地球は生存不可能な環境となり、人類は軌道上に都市規模の巨大宇宙ステーションを多数構築し、そこに生存している。物語はそこからさらに時代を経たところで、その都市での生活は定着しているものの、先の見通しの暗さから多くの新興宗教セクトが乱立。そのような動きが暴動などにつながらないよう捜査していくのも警察の重要な任務となっており、この物語の主人公達もそういった動きを追ううちに重大な事件に巻き込まれて行くことになります。

都市衛星Odetteの刑事BrinkmannとBridgetは、麻薬捜査の過程で正体不明の巨大なセクトの存在と思われる断片的な情報をつかみ、調査のため別の都市衛星Ludmillaへ向かう。到着後、捜査を始めた2人は、途上の船内で出会った自然食を勧める女性がさほど脅威のないセクトに属していることを発見する。Bridgetは女性の勧める自然食を試し始める。一方、Brinkmannは地元警察に紹介された潜入捜査官と出会い、その情報から2人は都市の空気清浄作業施設へと向かうのだが…。

と、かなり中途半端なところなのですが、今回はここまで。かなり良くできたスリリングなSF刑事ストーリーだったりするのであまりネタばらしも良くないかと。次回登場の際は、かなり長くなるけど今回のストーリーはちゃんと書きますので。このかなり奇抜な設定を使った優れたSF作品であることは保証いたします。いやこれは先が楽しみ。アメリカでも活躍中ながら、2000ADでも『Kingdom』、『Sinister Dexter』、『Grey Area』と多くの人気シリーズを持つDan Abnettですが、この作品もその一つに加わることは間違いなし。なんだかネタばらしを避けて曖昧なまま絶賛しているのも何なのだが、これ本当に面白いです。ちなみにタイトルのBrinkは、この都市衛星での人類の生存について作品内で言われている状況で(瀬戸際)、登場する刑事Brinkmannも通称Brinkと呼ばれています。
Dan Abnettが大変優れたライターであることは散々書いてきたわけですが、この作品の大きな魅力の一つはやっぱりI. N. J. Culbardの作画でしょう。実はこの人についても散々書いているけど、本当のところは私にもこの画の良さをうまく説明できていない。パッと見るとそれほど上手い画に見えないのだけど、作品として読んでいるうちにその世界に引き込まれて行く。構図だカラーリングだと部分的な分析とかを越えたものがあり、とにかく優れた画だとしか言いようがないのです。珍妙な髪形で眉毛がつながって口がひん曲がったかっこいいヒロインなんてこの人しか描けないよ。

Slaine : The Brutania Chronicle : Book THree Psychopomp
 Pat Mills/Simon Davis

2015年春期に掲載された「Book Two Primordial」に続くThe Brutania Chronicleの第3章です。前回の時に、『Slaine』についても1から読み始めると書いたのですが、今のところはまだあまり進んでいないのだけど、前回登場したSlaineの”歪み”能力についてはそもそも開始当初からの設定であったことが分かりました。この”歪み”能力については第3話で特別な戦士だけが使える大地の神の力を使った能力として語られます。Simon Davisによる”歪み”はちょっとジョルジョ・デ・キリコの画のような感じでシュールで恐ろしい。前回「Book Two Primordial」の最後ではLord Wierdの配下であったかつての親友Gortiが”歪み”能力を得てSlaineの前に立ちふさがるというところでした。今回はその続きです。

”歪み”能力を得て襲い掛かるGortiにSlaineも”歪み”を発動し、両者の死闘が繰り広げられる。しかし、その戦いの中でGortiはSlaineとの友情を選び、Lord Wierdに叛旗を翻す。だが、「神」の一人であるLord Wierdは大地の神の力を遮断し、彼らの”歪み”を使用不能にし、Slaine、Gortiは危機に陥る。だが、Lord Wierdの増大しすぎた力は、更にその上位者である「執行者」Archonの怒りを買い、Lord Wierdに降りかかる。その気に乗じ、脱出するSlaineとGorti。だがSlaineには一旦は助け出したが再び別れ別れになったSineadを救い出さなければならないという目的があり、そのためにはLord Wierdが呼び出した異形の軍団に囲まれた塔に戻らなければならない。多数との戦いの前にSlaineが手にしたのは弓だった。実は彼は弓の達人であった母から鍛えられた腕前を持っていたのだが、今は亡き母の思い出を封印するためこれまで弓を使うことはなかったのだった。Gortiとの友情を取り戻し、彼を兄弟と呼ぶSlaineだったが、やはりその宗教とは戦えないとし、SlaineはGortiとそこで別れ、弓を手にひとり戦いに臨む。一方、塔のSineadはその地下に閉じ込められていたすべての人類の母である猿人Zanaの解放を図る。Sinead、Zanaを逃がすため次々と異形の軍団を打ち倒すSlaine。しかし、その母の思い出を突いたLord Wierdの精神攻撃にSlaineは力尽きる。だが、その時、SineadのZanaが逃げ切ったという叫びにSlaineは再び立ち上がる。そして、遂にArchonの山が開き、石の軍団が動き始める!

そして、物語は来年掲載予定のThe Brutania Chronicle最終章へ続く!まあ、相変わらず少し難しい話の上、私の『Slaine』知識がまだまだなのできちんとわかるように説明できたか不安なのですが…。ちなみにサブタイトルの「Psychopomp」はLord Wierdの本名らしい。ちょっと今期はご覧のようにやたらと「しかし」と「だが」でつながる感じのシーソーゲームの繰り返しで次の展開につながる地固めの感じもあったのですが、次回最終章の盛り上がりに期待したいというところです。今回もSimon Davisのアートにはただひたすらうっとり。画像の美女がSlaineのお母さんです。

Grey Area :
    End Game//Big Day//Until Death
    //Last Call//Congruence
    //A Long Way From Home

 Dan Abnett/Mark Harrison

2015年春期夏期と続いていた異次元の惑星に漂流したBulliet達のストーリーが最終章。

遂にGod-Starからの本格的な攻撃が始まる。必死の攻防により第1波は退けられたが、次の大攻勢は持ちこたえられそうにない。そのわずかな時間を使い、BullietとBirdyの結婚式が行われる。その間、Kymnはあるアイデアを思いつき、星の上層部代表に面会する。God-Starはテレパシー的能力により神の概念で攻撃してくる、ならばこの星の種族の強力なテレパシーを集中させることで敵を退けることもできるのではないか?作戦が開始され、Kymnの目論見は当たりGod-Starは後退して行く。だが、それも一時的なもので再び接近するGod-Star。その時、飛来した謎の宇宙船団がGod-Starに襲い掛かり破壊する。宇宙船から降りてきた様々な宇宙種族により構成された集団は、自らを「調和」と名乗る。進歩した宇宙種族によりこの宇宙の安定した発展のため、進化途上の種族をこのような破滅から守るのを任務として結成されたという。そして、この星の守護に貢献したBulliet達も母星へと帰る手助けを受けられることとなる。そして、この星の使節として任命されたGrey Areaの管理者Resting Bitch Faceらとともに宇宙船に乗り込み、Bulliet達は地球への帰還の旅に就く。

かくしてBulliet達の冒険もひとまず決着。ちょっとご都合主義的?まあ、楽しく読めたからいいんじゃないでしょうか。Grey Areaはこのコンビによりまだまだ続く予定とのことです。

Black Shuck : Sin Of The Father
 Leah Moore/John Reppion/Steve Yeowell

2014年夏期に掲載された作品の続編が2年ぶりに登場。…なのですが、またしても間違いが…。前回は設定などが全然わからなくて、バイキングっぽい兜とかかぶってたり北がどうこうという話があったりで、北欧の話と思い込んでいたのですが、これはイギリスの有名な伝承に基く話でした。Black Shuckとは黒犬獣とか黒妖犬などと呼ばれるさまざまな伝承のある不吉な犬の妖精ということらしいです。イギリス人ならBlack Shuckと言えばすぐわかるぐらいのもののようです。今回は結構詳しい説明とかもあったのでなんとなくぐらいだけどやっとわかりました。例えば卑弥呼って出てくれば日本人ならみんなわかるけど、外国人が見たら大陸の方の話と思うかも、みたいな言い訳じゃダメか…。ちょっとあまりにでたらめすぎて修正のしようもないのでそのままにしておきます。私自身の恥ということで、すみません。
一応、前回書いたストーリー自体は間違いはないのですが、時代は紀元1世紀ごろのことです。前回書かなかったBlack Shuckの秘密とはIvarの領土に流れ着く以前に、ある地での妖獣との戦いの中で絶命のピンチに陥った彼は相手の血を飲むことで力を得て生き延びたが、自らも月夜に黒犬獣の姿に変身してしまうようになってしまったというもの。その力によりBlack Shuckはその地の呪いに討ち勝つ。そしてその妻が王Ivarを密かに毒殺し、Black Shuckは彼女を娶りその地の王となるという結末。根本的にBlack Shuckに関する知識がなく、物語の視点からしても謎の男過ぎて主人公と見るべきなのかよくわからないまま読んでいて、今ひとつ乗れなかった印象があります。まあ自分の方の問題なのだけど。そして今回の続編はその後の話。

王となったBlack Shuck。そしてその子を宿した妻の出産が近づいてくる。自らの黒犬獣の呪いが我が子にも受け継がれることを懸念し、Black Shuckは助けを求め妻とともに軍団を率い、海を渡り故郷Dunwichに帰還する。その地の教会に助けを求める一方、MerciaのCoenwulf王の支配下のあるDunwichを再び取り戻せるよう助力することを王Eadwaldに申し出る。時を同じくし、Dunwich周辺で獣人の仕業と見られる住民の死体が発見される。それは黒犬獣と化し理性を失ったBlack Shuckの仕業なのか?

今回も話はきちんと完結しているけど、Black Shuckの黒犬獣の呪いは解けていないので、またの登場もあるかもしれません。ライターのLeah Mooreって調べてみたらあのアラン・ムーアの娘だそうです。John Reppionはダンナ。ガース・エニス『The Boys』が出版中止となったかつてのDC傘下のWildstormからアラン・ムーア原案の『Albion』(2006)をこの夫妻で書いています。現在は絶版中のようですが。Steve Yeowellはグラント・モリソンの『Zenith』を描いた人。この人のせいじゃないのだけど、長髪髭面率が高く読んでいて時々キャラクターが混乱してしまう…。


ということで、何とか9月28日発売のProg 2000までに予定の地点までたどり着くことができました。結構余裕あると思って始めたのに、結局ギリギリじゃん!トホホ…。やたらと間違いばかりで申し訳ないのですが、少し縁遠い英国2000ADの理解にいささかでも役立って、この記念すべき到達点をともに祝ってくれる人が日本でも一人でも増えれば幸いです。とか言うほどのものじゃないか…。さてそのProg 2000ですが、現在のところ、巨匠Pat Millsの代表作の一つ『Nemesis The Warlock』が復活!Gordon Rennieによる『Rogue Trooper』!『Judge Anderson』!Dan Abnett『Sinister Dexter』!そしてピーター・ミリガンの新作!さらには英国コミック・レジェンドのBrian Bolland、Mick McMahonなどの登場も告知されております。2000号については詳しくは再来週発売直後ぐらいの週末ぐらいに!ぐらいぐらいって…ちゃんとやるからっ!
あと、ここから2000号までの2016年夏期後編については、Ian Edginton/D'Israeliによる『Scarlet Traces』、『Outlier』最終章、『Judge Anderson』が6回のミニシリーズ、そして『Jaegir』が2000号からの『Rogue Trooper』にもつながると目される全4回シリーズで、更には『Dredd』にも重大な動きあり!という内容!あと7月に発売された増刊『2000AD Summer Special 2016』の方もやっと読むことができたので、そちらについても。とりあえず2000号終わったらボチボチと…いや、すぐにやるですっ!


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2016年9月4日日曜日

Ray Banks / Saturday's Child -マンチェスターのチンピラ探偵Cal Innesシリーズ第1作!-

英国ハードボイルドの雄、Ray Banksのマンチェスターの私立探偵Cal Innesシリーズ第1作『Saturday's Child』が遂に登場です!うわー、これずっと読みたかったんだようっ!

ではまず、主人公Cal Innesについて紹介。イギリス、マンチェスターの私立探偵で、年齢はずいぶん若く、20代前半から半ばというところ。ある事件(第1作の時点ではまだあまり詳しく語られてはいない)によりしばらく刑務所に服役。元ボクサーでそういった若者を集めボクシング・クラブを営んでいるPauloが身元引受人となり、仮出所。パブで知り合った友人の抱える問題などを解決してやったり、というようなことをしているうちに私立探偵を仕事とするようになる。事務所はPauloのボクシング・クラブの一画。イギリスの私立探偵に免許が必要なのかは不明だが、探偵免許などは無し。世の中あんまり警察には行きたくないけど悩みを抱えている人はいっぱいいて、そういう人たちには口コミというのが一番強く、ちゃんと依頼も来るのである。こんな奴になぜ仕事を頼むのかわからない、などというボンクラな世間知らずなことをいうのは止めよう。というわけで私立探偵Cal Innesシリーズ第1作『Saturday's Child』のあらすじです。


【あらすじ】
依頼の電話を受けて指定のパブに行ったCal。ところが待ち合わせのトイレに行ってみると、依頼の相手はCalがドラッグを都合してくれると思い込んでいてひと悶着。パブに戻れば近寄ってきた女が亭主を殺してくれ、と言い出す始末。
そんな翌朝、クラブに顔を出すと、事務所で待っていたのは昔馴染みのMoだ。いやな予感を感じながら話を聞いてみると、案の定、彼の父親のMorrisに会いに来いとの話。

Morris Tiernan。この街のボスだ。様々な噂があり、消えた人間も多いが、一度たりとも捕まったことはない。

そしてCalはMorrisに会いに行く。Morrisの話は、私立探偵を始めたっていうお前に仕事を頼みたい、ということ。彼の出資する地下カジノのディーラーの一人が大金を持って姿を消した。奴の居所を突き止めろ。あとはMoが始末をつける。

正直に言えば、ギャングの仕事など引き受けたくない。Pauloにばれればただでは済まないだろう。だが、Morrisはこの街のボスだ…。

やむなく仕事を引き受け、捜査を始めたCalだったが、当のカジノの従業員たちは非協力的で誰も口を開かない。おまけにパブで話を持ち掛けてきた女の亭主が本当に意識不明の重傷を負い、以前から前科者のCalに目を付けてきた刑事Donkyも絡んでくる。果たしてCalは消えたディーラーを見つけられるのか?

一方、Morrisの息子Moは当初から父親が身内の問題にCalを使うのが気に入らない。あのチンピラが私立探偵だと?Moは配下を引き連れ、Calの動きを挫こうと画策し始める…。


タイトルの『Saturday's Child』は冒頭に"Saturday's child works hard for a living."という引用がトラディショナル・ポエムって書かれているのですが、調べてみたら日本的には「マザー・グース」の一つとして紹介されているようです。「月曜日の子供は~」という感じで始まり火水木金と続いて「土曜日の子供は働き者」ときて最後は日曜日。生きるため一生懸命働く「土曜日の子供」がCal Innes君というわけです。
基本的にはCalの一人称で語られていますが、最近の流行りのパターンでこの作品も間にMoの一人称のパートが時折挟まれます。3対1ぐらいで結構多い。特にMoのパートは方言やらスラング満載で最初は解読に少してこずりますが、あんま頭の良くない人なので語彙も限られているのでそのうち慣れます、みたいな。
20代前半ぐらいと、随分若い探偵というと、ドン・ウィンズロウのニール・ケアリーや、大沢在昌初期の佐久間公あたりが思い浮かぶわけですが、この主人公Cal Innesに一番近いのは、あの「傷だらけの天使」の木暮修!結構純情で、ケンカも大して強くなく、チンピラ同然の自称私立探偵が徒手空拳で走り回る!後半の展開なんてまさにあのアニキで、最後には修vs辰巳五郎って感じのシーンもあり!こんな素晴らしい作品に出会えて、ただ感動です。Ray Banksさんありがとう!というような感想しかないよ、ホントに。ケチ付ける奴は「である。」とか言い終わらないうちにクリケットのバットでぶん殴るぞっ!

さてこの素晴らしいCal Innesシリーズですが、2006年から2009年の間に長編4作が発表され、そこで完結しています。その他に短編が『Dirty Work: The Collected Cal Innes Stories』として2012年にまとめられていて、長編4作とそれを含む『The Cal Innes Omnibus』が断然お得。短命なシリーズだが、前の例えに戻るならドン・ウィンズロウのニール・ケアリーシリーズと同様、これから大作家へと進むRay Banksの初期を代表するシリーズというところでしょう。ジョージ・P・ペレケーノスなんかも最近のちょっと説教臭が強くなったデレク・ストレンジより初期のニック・ステファノスの方が好きだったな、と思い出したり。必読シリーズです!

そこで作者のRay Banksについてです。『True Brit Grit』の時に軽く紹介は書きましたが、もう少し詳しく書くと、Cal Innesシリーズの前にアメリカのPoint Blank Pressから『The Big Blind』という作品でデビューしているのだけど、現在絶版中。Point Blank Pressは現在は活動休止のようだが、Anthony Neil SmithやAllan Guthrieの作品も出していたところ。その後の作品はAllan Guthrieのデジタル専門パブリッシャー英Blasted Hearhから出版されていて、途中1作AmazonのThomas & Mercerからもあり。プリント版に関しては、あちこちから出ていて絶版状態だったり、最新作のペーパーバック版は自費出版になっていて、このジャンルでは相当評価も高いはずなのだけど、そっちの方の出版運が悪いのか、独自路線を進んでいるのかは不明。唯一の発信元は自身のホームページで、更新も多いのだけど、主に映画関係の画像に一言添えたようなものばかりという感じで、ちょいと変人感も漂う人物。
日本国内ではまだ紹介はないと思うのだけど、日本のSF小説などを多く翻訳出版しているアメリカのHaikasoruの平山夢明、篠田節子、桜坂洋らの作品も掲載されているアンソロジー『Hanzai Japan: Fantastical, Futuristic Stories of Crime From and About Japan』に作品を出しています。日本版はまだない模様。
なんだかんだでずいぶん遅れてやっと1冊読んだRay Banksなのですが、このジャンルではドゥエイン・スウィアジンスキーと並ぶくらいの最重要作家のひとりと考えていますので、今後はピッチを上げ、なるべく早く追いついてリアルタイムで作品を読めるよう頑張っていきたいと思うところです。

版元Blasted Hearhについてなのですが、前々回沢山のパブリッシャーについて書いて、何とかやり遂げたぞ、とか思っていたらこれが抜けてたよ、トホホ…。何らの意図もなくただのど忘れです。すみません。少し前に米Down & Outへの作家の移動について書いたのですが、以前からこのBlasted Hearhで作品を出していたAnonymous-9は英国でのデジタルの販売はこちらで続け、Anthony Neil Smithについてはプリント版の販売がDown & Outでデジタルはこちらの独占という形になっており、Blasted Hearh/Allan Guthrieの人望の厚さも感じられます。最近はそれほど新しい作家は見られなかったり、出版ペースもゆっくりだが、今後も頑張っていってほしいところです。早くGuthrieさんの作品も読まねば。

Ray Banksホームページ THE SATURDAY BOY

Blasted Hearh


【その他おしらせの類】
今週は本屋に立ち寄ってみてビックリっす。なんとC・B・マッケンジーの『バッド・カントリー』の翻訳が出てるじゃないですか。もう少し読んで本が減ったら買っても良し、と決めて(読み終わっただけで現実には減っていないのだが)ここ2か月ぐらいちょくちょくペーパーバック版の値段をチェックしてたやつが!まさかこれが出るとは!早川からは春先に『ドライ・ボーンズ』みたいないいのが出たんでもう来年までハの字は出ないじゃろうと高をくくっていたのだが。
ちなみにこちらがそのペーパーバック版。と大騒ぎしているのだが、実は私この本の内容、なんかネイティブ・アメリカンがらみのカントリー・ノワールらしいぐらいしか知らない。もちろん読むのを楽しみにしているので、詳しい説明は原書の時点からちらっとしか読んでない。で、なんでそんなに肩入れするかというと、ズバリ直感であります!えー、この人そんないい加減な基準で読む本選んでたのー?そうですっ!だが直感だけでは信用もないので、次々回までには読んでまたこの下の辺にちゃんと感想を書くであります。ちょっとここのところ洋書で読みたいのが多くて『ニック・メイスンの第二の人生』を20ページぐらい読んで放置してあったのでそれ読んでから。なんかオビには「スティーブン・キング絶賛」とか余計なことが書いてあって余計な奴を呼び寄せそうでもあるので、ここはひとつきっちりと言っておかねば、ということです。お楽しみになのかな?
そしてあのドナルド・ウェストレイクの幻の007ストーリーが出版!というニュース。1990年代半ばウェストレイクが007映画のシナリオに参加していたがそのシナリオは直接は採用されていないというのは有名な話のようですが、実はそのお蔵になったアイデアでウェストレイクが1998年ごろ小説を書いていて、それがこのたびHard Case Crimeから出版されることになったということです。もちろん主人公はジェームズ・ボンドではないし、ストーリーも原形のままではないらしいのですが、その辺の経緯について書かれた当時のプロデューサーによるあとがきも加えられるそうです。エドガー賞も受賞しているHard Case Crimeについては知っている人も多いことと思います。ペーパーバック黄金期風のカバーは一度は見たことがあるでしょう。最近TVシリーズも始まり話題のマックス・アラン・コリンズのQuarryシリーズや、ケン・ブルーウン+ジェイソン・スターのシリーズや、エド・マクベイン、ローレンス・ブロック、スティーブン・キングなど書いていたらきりがないのだが。Quarryシリーズについては昔から読みたかったやつなので、そのうち読んだらHard Case Crimeについても一応詳しく書くつもりです。こちらの作品発売は来年の6月ということでまだ少し先。このくらい翻訳出るかも、と思うけどこれはペーパーバック版が欲しいよねえ。よし、それまでになるべくたくさん読んで本を減らしておかなければ(読み終わった本が増えるだけで現実には減らない…)。詳しい情報元と、Hard Case Crimeについては以下のリンクに。

Exclusive: First Look At FOREVER AND A DEATH, Donald Westlake’s Lost James Bond Story/Birth. Movies. Death.

Hard Case Crime

最後に何とか間に合ったようなのでもうひとネタ。現在Holt Paperbacks; 40th Anniversary版の『The Friends of Eddie Coyle(邦訳タイトル:エディ・コイルの友人たち)』Kindle版が多分セールで329円。よく見る奴なのだけどもう少し高かったと思う。個人的にはオールタイムベスト級の好きな作品で原文を読んでみたかったのでこの機会に買いました。読みたいのだけど絶版で困ってる人はこの際こちらを入手してみればいかがかと。あと、これはセールなのか不明なのだけど、それを買ったら下のおススメに来たのが『Marvel Comics: The Untold Story』というやつ。マーベル・コミックスの歴史について書かれた本のようで2012年発行。マーベル関係なので日本語の情報とかあるかと思ったのだけどちょっと見つかりませんでした。一応米AmazonやGoodreadsでは評価も良いようです。作者はSean Howeという人で500ページぐらいのもので219円なので多分期間限定のセールなのだと思います。もしかしたらその筋では有名なのかもしれないけど情報不足ですみません。とりあえずコミック・ファンで持ってない人にはおススメかと。今回はそんなところで。



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■Ray Banks
●Cal Innes四部作

●Farrell & Cobbシリーズ

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