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2019年9月8日日曜日

ゾンビ・コミック特集 番外編 第1回 DoggyBags Heartbreaker -フランス発ホラーアクション!-

全3回を持って完了しましたゾンビ・コミック特集なのですが、その関連でもうちょい語りたいことあるんだよな、というわけでゾンビ・コミックから少し拡げてホラー・コミックという枠で特集番外編という触れ込みでここからもう少し続けます。全2回の第1回はこちら。フランスAnkamaより発行のエログロ要素もありのホラーアクション・バンド・デシネ『DoggyBags Heartbreaker』!
フランスがまた一つのマンガ=コミック=バンド・デシネ大国であるなんてことは今更言うまでもありませんが、実は日本からはその実態はあんまり見えてないんじゃないか?と思う昨今か結構昔からか。というのは、まあバンド・デシネっちゅうのも日本では時々翻訳はされているが、やっぱ供給側がバンド・デシネは芸術である!というアカデミックな方々だったりするので、どうしてもそういう方向に偏りがちなんじゃないかなということ。別にそういうものが嫌いなわけじゃないんで、翻訳されるのはいいんだが、でもさあ、やっぱりマンガだろう?本質っつーかメインストリームつーかもっとそこらに出てて読まれてるのみたいなもんはもうちょっと違うんじゃないのか?みたいなことは思ってたわけである。
そこでこの電子書籍時代。近年ではComixologyにも多くのフランスのパブリッシャーが参入しており、そこではフランス語のみならず英語に翻訳された作品も数多く読むことができるようになっておる。バンド・デシネがワシのようなアカデミック要素皆無の人間にも手が届く時代が到来したのである!よっしゃ、こうなったら芸術である!基準抜きで色々なバンド・デシネを読んでやろうじゃないの!と乗り出した最初の作品がこれである。これかよ!というツッコみが日仏双方から上がってそうだが、まあ今回はホラー・コミックという流れでね。これからもっと色々なのについて書くからさ。あと今回はComixologyの英語で読めるのを中心にフランスのパブリッシャーも色々とリストアップしますんで。それではここからミーがおフランスの怖いマンガについてレクチャーしちゃうざんすよ!…えっとこのネタなんとか通じてるよね?最近のアニメとかあったし。まだ観てないんだけど…。

【DoggyBags Heartbreaker】
まずは概要について。出版はAnkama。日本でも翻訳されアニメも放送されている『ラディアン(Radiant)』の版元でもあります。『DoggyBags』がシリーズタイトルですが、連続した長編ストーリーではなく、一冊ごとにキャラクターもストーリーも独立した一巻完結もののシリーズのようです。ページ数は100ページ前後。バンド・デシネというのはまず50ページぐらいのがあって、その次がこの100ページぐらいのになるんだろうな、て思ってんだけど認識間違っていたらごめん。その100ページぐらいの中にアメリカのIssueサイズの25ページぐらいの話が3本立て、というのがシリーズのフォーマットのようです。内容としてはホラー、オカルトといったジャンルで、シリーズ全体のもう一つのテーマがパルプ。デザイン的にも内容的にも、いかにもな安っぽいパルプテイスト満載の大変魅力的な素晴らしいシリーズであります。この「Heartbreaker」はシリーズ中のVol.6なのですが、残念ながら英訳されているのはこの一冊のみ。ですが、本国フランス語では13巻プラスが出版されており、その辺の素晴らしいカバーだけでも後ほどComixologyから画像を借りてきて並べるつもりです。と、書いたところで実はAnkamaのインプリントであるLabel 619というレーベルでいくつか英語で読めるのも発見?その辺も含めてもう少し詳しいことは後ほどに。

この『Heartbreaker』では、3本立てになっている各作品のライターは共通で、Céline Tran (Katsuni)とRUNの二人による合作。Céline Tranは本業は女優・モデル・ダンサーという方面の女性で、映像方面にも手を拡げるライターRunと映画関連の仕事で出会い、タランティーノその他のジャンルへの愛好で意気投合し、それがのちにこの合作へと結実したということらしい。その辺のことはTranによる前文に書かれています。そして3作それぞれのカバーは、以下のようなこのTranさん自身による主人公をイメージしたかっけー写真で飾られております。
ストーリーは、要約すると米西海岸のポルノ産業地帯の闇の奥に潜むヴァンパイア集団と単身暗闘を繰り広げる美しきヴァンパイアハンターKitsune、というものですが、一話25ページぐらいのストーリーをくどくど書いちまっても仕方ないので、またちょっとイリーガルで申し訳ないの画像とともに簡単に紹介して行きます。

1). First Blood
米西海岸ポルノ産業地帯、その一角のある建物の一室で、今日もポルノ・フィルムの撮影が始まる。クラブでナンパされ優男の口車に乗り撮影を待つ一人の女性。
だが、いざ撮影が始まったかと思うと、相手役の優男は彼女の傍を離れ、代わりに数人の全裸のスキンヘッドの男たちが現れる!
話が違うと、逃れようとするも強引にねじ伏せられる女性。顔いっぱいに残忍な笑みを拡げる男たちの口に見えるのは、牙?
その時…!
漆黒のボディースーツに身を包んだ黒髪の美女が乱入し、両手に携えたブレードで戦闘を始める!

作画はJeremie Gasparuttoという人だが、申し訳ないがキャリアなどは不明。とりあえず、Comixologyでは、これの他に『DoggyBags』シリーズのどれかぐらいしか見つからない。画の方はご覧の通り、大変流麗かつシャープな線が印象的。結構この線の感じとかフランスのコミックの伝統的な流れのような気がするけど。今メインストリームかはともかくとして。まだまだバンド・デシネ歴浅い分際で論評っぽく言うのもなんだけど、今まで見てきた感じではフランスのアーティストは線にこだわりが強い傾向があり、そこはアメリカより日本と近いところかも。まああくまでも概観であり、アメリカのコミックの線が雑だとは思わんし、いい線を描くアーティストも沢山いる。なんかそういう印象を抱く要因の一つがカラーの進化で、単純に言っても色が前に出るほど線は後ろに下がるもんだから必然的に線は太くなる傾向になるのがアメリカのコミック。つまりカラー前提の線か、線画を活かすことを考えたカラーかという違い。あんまりうまく説明できてないかなあ?あと、敢えて言っちゃえばペンシラー-インカー体制かね。最終的なインクによるラインを担当する専業の人がいれば線が進化しそうに見えるが、実際の運用ではペンシラーの下絵をいかに正確に再現するかというのがインカーの仕事になってしまっているのではないかと思う。あと、前も書いたけど、このペンシラー-インカー体制、その作業体制が長く続くうちにペンシラーがより自分の画を正確に出したいために下描き段階で画を完成させ過ぎ、時間もかかり、結果的には現在では当初の意図だった作業効率化にはあんまり役立ってないんじゃないか、と私は見ておるがね。まーアメリカでは分業体制が進んでいて、とかしたり顔で言うやつが気に入らんので、機会があるたびに指摘しとくのである。いや、なんかアメリカのコミックの方で長くなってしまって、アメリカのコミックを批判するような感じになってしまったが別にそういう意図ではないから。あと、カラーをに重点を置いたものと線のものとに優劣、どちらが正しいなどというものはなく、双方ともそれぞれの魅力、可能性に富んだスタイルであるという当然の認識を再確認したうえで、フランスの線の話を続けよう。
で、フランスと日本では線へのこだわりの強さが共通しているかも、ということなのだけど、日本について言えば基本マンガが白黒であるところからそういう発展をしてきたわけで、この傾向は初期白黒時代の英国2000ADや、アメリカでも『Creepy』『Vampirella』などのウォーレン・コミックなどにも見られるものである。うん、アメリカにもちゃんとあったね。で、日本的にはフランスのバンド・デシネは基本的にカラーというような認識があり、最近でもどっかにそう書いてあったの見かけたのだけど、実は結構白黒の文化もあったのではないかということが推測されてくるわけである。実際、後述するがフランスの過去のヒーロー物などを多く出版しているHexagon Comicsのやつとか見ると白黒多いようだしね。まあ要するにエライ人の言う定説やなんかを鵜呑みにしないで自分の目で見てみろいうことやね。せっかく読みやすくなってるのだからどしどし読むべし。あともちろんこんなマリンのものともマウンテンのものとも知れないエラくない人の言うこともコーモラントドリンクしないようにね。
…とまた延々脱線が長くなってしまったのだが、話をこの『First Blood』に戻そう。割と文字情報多目な印象があるバンド・デシネだが、この作品はその辺少な目で、ご覧のような結構サイレントに近いスタイリッシュな戦闘シーンが続いたりする。この第1作の時点では黒髪の美女の正体は不明で、スキンヘッドや撮影スタッフも人外異形のものらしいことはわかるがその正体については謎のまま終わる。

2). Drain Blood
黒髪の美女がヴァンパイアハンターKitsuneとなるまでの誕生エピソード。
交際していた男に裏切られ、男性不信になり新たな関係を築けなくなっていた彼女は、クラブで出会った男に説得され、ポルノ・フィルムの撮影現場へと足を踏み入れる。
そして、1作目同様の展開。だが、前の女性の時のような救済者は現れず、彼女は異形の男たちに嬲り者にされ鋭くとがった爪で身体を切り裂かれ血みどろになってゆく。

容赦ない蹂躙は続き、遂には彼女の下腹が爪で引き裂かれ、暴虐者の手が押し込まれる!
だが、彼女はその生命の炎が尽きるまで闘いを止めず、憎悪と怒りに燃える目を上げる。
そしてその時、男たちが動きを止める声が上層から響く。
「終わりだ!」
撮影を見物していた上級ヴァンパイアの男が、彼女の卓越した意志力、生命力に惹かれる。
そして男は、自らの血を与え、彼女を血族の一員として迎える…。
だが、堕落し弱者を貪るヴァンパイア・コミュニティの一員となることを潔しとする彼女ではなかった!
そして背徳の街の闇に潜むヴァンパイアを狩る漆黒の美女、ヴァンパイア・ハンターKitsuneが誕生する。

こちらの作画はFlorent Maudoux。この人については、ちゃんとWikiもある。…が、フランス語で読めない…。ごめん。同じく読めないけど、ホームページもあります。2011年から更新無いみたいやけど…。(Florent Maudouxホームページ)
同じくAnkamaより出版されている『FREAKS SQUEELE』シリーズが代表作のようです。こちらはストーリーもMaudouxさん自身によるオリジナル作。ちなみにこちらもLabel 619から英訳版が出ていてComixologyで読めます。前のJeremie Gasparuttoとの比較で言えば、もう少しスピード感を落とした線で、湿度の高い感じの画というところでしょうか。3者の中では一番日本のマンガに近い画風かと思うところも多いのだけど、あっ、やっぱりフランスや!と突き放されるところもあったり。こーゆー人の画をよく見ていると日仏の違い、っていうのも良く見えて来んのかも。『FREAKS SQUEELE』も要チェックナリ!あと掲載している画像なのですが、さすがに一番の見せ場とか無断であれ無かれ出しちゃうのは失礼だろ、と思いそれ以外でその人のタッチの良く見えるやつを選んでおります。これは前のJeremie Gasparutto氏のについても同様。もっとエグかったりエロかったりする素晴らしい画が沢山あるかんね。

2). Too Rich For My Blood
金と権力で女性への暴行の罪を逃れるのみならず、その大邸宅の奥で攫った女性を愉しみのために惨殺し続けるサディスティックな富豪の実業家が、次のKitsuneのターゲット。
護衛達を次々と抹殺しながら邸宅へと押し入り、富豪の処刑準備に取り掛かったKitsuneは、その奥に秘匿されたヴィンテージ物のワインのようにビンに詰められラベルを張られた偉人たちの血液を発見する…。



この作品については標的の富豪がヴァンパイアなのかちょっと不明なので、その辺曖昧に書きました。ヴィンテージ物の血液集めるとかそれっぽいのだけど、全然ヴァンパイア的な行動しないし、すげー弱いし…。
作画はGuillaume Singelin。独特のタッチやベタの使い方やカラーのセンスなんかがいい感じのグロテスク感出してて、結構お気に入りだったりしたのですが、調べてみるといつもとはちょっと違うタッチで描いた作品のような印象。このTumblrとか見るともう少し違う方向のアーティストなのかな(https://www.tumblr.com/tagged/guillaume-singelin)。
代表作は同じくAnkamaからの『The Grocery』シリーズ(作画のみ)。なんかちょっとユーモラス気な画に見えるけど、ジャンルはアクション・クライム・ゴアだったり。かなり気になる作品ですがこちら現在のところフランス語のみ。うむむ、やっぱりフランス語も必要か?

以上3作に加え、合間にCéline Tranのエッセイらしきものや嘘っぽい広告などを挟んだ、なんともいかがわしく素晴らしい1冊でありました。こちらの英訳版、プリント版・Kindle版などはないようですが、Comixologyから入手できます。


さてこの『DoggyBags』シリーズ、最初に書いたように一巻完結がコンセプトのようで、この『Heartbreaker』もこの一冊にて完結するストーリー。なのですが、せっかく創った魅力的なキャラクター、これだけで終わるのちょっともったいないよね、と思っていたら続編が出ていました!タイトルは『Heartbreaker』って同じじゃん!というところなのですが、こちらはその前に『DoggyBags présente : 』というのがついています。ちょっとわかりにくいんで日本だと、あー間違えた間違えて買った!と大騒ぎしてクレーム付ける人が出そうだけど、フランスはよく見ないで買うお前が不注意なんだよバーカ知るかっ!っていうお国柄なのかもしれませんね。おフランス怖いざんす…。で、その続編なのですが、こちらComixologyでは英訳版はおろかフランス語版も未発売…。実は今回無許可の画像を用意する前に、なんか使える画像ねえかな、と探してたところ、あれ?こんなページ見たことないけど?みたいなのが出てきて、そこから手繰っていくうちにLabel 619の方のホームページでこの続編を発見したという次第。というわけで内容も不明でとにかくあるよ!というだけなのですが、こっちも英訳版とか出て読めるようになるといいねえ。

ではここで最初の方で書いた通り、『DoggyBags』シリーズ全13巻のカバーを並べてお見せします。画像はComixologyから。


どうだい、壮観だろう。なんかワシ結局こーゆーことが楽しくてこれ続けてんじゃないの?とか思ってしまうよ。ずらっと並べているうちに気付いたのが、Vol.12の「身の毛もよだつ恐怖とサスペンス!」!…ちょっと小さくて見えにくいんだけど、できたらComixologyの方ででも確認してください。3本立ての一本を担当しているのがAtsushi Kanekoってこれあのカネコアツシやろ?いや日本のマンガ家の活躍も知らぬうちに拡がっているのですね。Comixologyのプレビューではカネコさんのは見れないけど、なんか日本の中学校が舞台になってるらしい最初の話を数ページ見られますよ。
既刊13巻なのだが、多分これ全13巻というコンセプトで出しててこれで全部なのだと思う。英国にもノワール小説のレーベルなんだけど同じことをやってたNumber Thirteen Pressというのがありましたね。その後に出た上の『Heartbreaker』の続編とか他にいくつか出てる同系列が通番ではなく『DoggyBags présente : 』になってるのはそういう事情かと。
で、最初ちょっと曖昧いい加減に書いていたシリーズの出版についてもう少しちゃんと。まずこのシリーズの版元がAnkamaであるのは間違いないのだけど、実際に出版しているのはインプリントであるLabel 619というレーベル。Comixologyの方で見てるとよくわからなかったのだけど、ホームページの方を見て、フランス語読めないなりに何とか把握出来ました。Label 619というのはAnkama内にホラーとかアレなやつ専門のレーベルとして立ち上げられたインプリントのようです。Comixologyで見ると、この『DoggyBags』シリーズも含めほとんどの作品がAnkamaで発売されていて、Label 619の方には少ししかないのですが、実際にはこの手のやつはLabel 619レーベルとして出版されているようです。アメリカのパブリッシャーでオールエイジものをメインで売っていくようになってアレなやつを別レーベルに分けたのを見たことありますが、これがそういう事情なのかは分かりません。

Ankamaはそもそもがゲームがメインの会社のようで、コミック作品の方でも『Radiant』の他にも『DOFUS』シリーズ、『WAKUF』シリーズといったゲーム・アニメ・マンガ傾向のオールエイジ向け作品が人気のようです。AnkamaはComixologyではメインAnkamaの他にAnkama in EnglishとLabel 619の二つのレーベルを展開しており、今回の『DoggyBags Heartbreaker』英訳版はAnkama in Englishの方で販売されています。しかし、残念ながらAnkama in Englishで読める英訳作品はまだ希少。日本から以外だともっとあるのかもしれないけど、とりあえずこっちから見られるのは『DoggyBags Heartbreaker』と『WAKFU Manga』の2作だけ…。ところが!実はもう一つのLabel 619の方で英語で読める作品が意外と多くあるのに気づきました。と言ってもまだLabel 619、10作品ぐらいしかないのだけどね。
今回これのためにその辺をちょこまか見ているうちに、『DoggyBags』シリーズの同じ作品が本体AnkamaとLabel 619の両方で販売されているのを見つけ、これどこか違うのかな?と個別商品ページを開いてみたところ、Label 619の方がフランス語作品のマーク[FR]がついているにもかかわらず何故か説明文は英語?プレビューを見てみると、作品の方も文章は英訳されている?つまり、なにか登録の過程で間違ってフランス語のマークがついてしまってそのままになってるとかいう事情と思われる。いや、よくあるよね。頭から全部記入すんのめんどくさいから他ののフォームコピペで使って、消さなきゃなんない項目そのままで出しちゃうとか。多分そんなとこだろう。あっ、私も前のスプラッタパンク・アワードのところでほぼそっくりの失敗してたっす…。
で、Label 619で現在販売中の作品のうち『DoggyBags』シリーズのフランス語マークが付いてる奴は、実は英語で読めます。その他前述の『FREAKS SQUEELE』シリーズや、SF作品『SHANGRI-LA』など、気になる作品も英訳で販売中。Ankama in EnglishとLabel 619の様子から察するに、国外英語圏への進出をねらうAnkamaながら、なかなか戦略の見極めがつかないところで、世界中に散らばるワシのような珍しいもの怖いものに目がないうつけ者群に目を付け、まずはそっちジャンルのLabel 619レーベルによる展開を図ってきたのであろう。当面スローペースながら、今後もまだ見ぬバンド・デシネを我らの手の届く形で提供してくれることが大いに期待できるAnkama、Label 619に注目していこうではないですかい。

Ankama
Label 619


まあ毎度のことながらなーんか想定より長くなってるのだが、ここからは頭のところで書いたようにComixologyで英語で読めるのを中心に、バンド・デシネのパブリッシャーについて探って行こうと思います。
で、どっから始めるのがいいかと思ったけど、とりあえず英訳でってところでEurope Comicsあたりから。Europe Comicsというのはフランス、ベルギー、イタリア、スペインなどのヨーロッパ諸国の13社のコミックのパブリッシャーが参加している、英語への翻訳、デジタル化などによるヨーロッパのコミックの振興のために設立された共同プロジェクトってことらしい。設立は2015年ということだけど、かなり精力的に活動しているようでComixologyでもずいぶん沢山の作品が販売されている。ホントそっちの方全然知識がなくて、まだ作家も作品もわからないのだが、日本でも翻訳の出ているスペインのファン・ディアス・カナレス、フアンホ・ガルニドによる『ブラックサッド』シリーズなんかも以前はDarkHorseから出てたけど、現在はこちらEurope Comicsから出ている。あと、同じくスペインのGabriel Hernandez Waltaの作品も、以前IDWで出てたのが、こちらへ移籍。結構短期間に多くの作品が出てきたのには、他にもこんな感じの英訳済み作品が多くあったみたいな事情かもしれませんね。おそらくは読むべき作品も多いと思われるのだが、とりあえずは手掛かりなしでどれを読んだら?というところなのだが、有難いことにこのEurope Comics、かなり頻繁にセールをやってくれる。そういうのはお得に本が手に入るというだけでなく、よく見てればどの辺が人気だったり推し作品なのかというところがなんとなく見えてくるところなのだよね。まずはほぼジャケ買いで手あたり次第に読んでけばそのうち形も見えてくるのではないかな、と思っているところです。

続いてCinebook。イギリスに基盤を置く、フランス、ベルギー、イタリアなどのヨーロッパのコミックを英訳で出版すべく2005年に設立されたパブリッシャー。「第9芸術出版社」を標榜する。Europe Comicsの方にも参加しているが、Comixologyでは単独で英訳作品も販売している。現在までに55作品が出版されていて、こちらもまだどれがどれやら、というところなのだけど、こちらは少し前に映画化されて、日本でも少しだけ翻訳されたあの『ヴァレリアン』が全巻英語で読めるぞ!もちろん私もまあスローペースだけど全巻読破すべく頑張っているよん。バンド・デシネに詳しい人なら、アレが読める!ぐらいの作品もあるのではないかな。CinebookもEurope Comics同様、頻繁にセールをやってくれるので、広くフランスをはじめとするヨーロッパのコミックを読みたいと思う人は、とにかく毎回要チェックである。

以上2つが英語圏へのヨーロッパのコミックの翻訳振興のために立ち上げられたところだが、ここからはフランスで、自社の作品を英訳出版しているパブリッシャー。まずはメビウス『The Incal』などで日本でもある程度おなじみのHumanoidsでしょう。日本で翻訳出版されているバンド・デシネについてそれほど詳しくチェックしてるわけでもないんでいまいち不明だが、Humanoidsからのメビウス作品はあらかた翻訳されてるのではないかな?ホドロフスキー原作物はまだ未訳もあるのかも。70年代にフランスで設立され、1998年には北米L.A.にもオフィスを構えたHumanoidsは、もはや上の2つよりも英語圏に地歩を築いたパブリッシャーなのかもしれない。Comixology Humanoidsでは136ものタイトルが販売されているのだが、フランス国内向けのLes Humanoïdes Associésではその数が258!やっぱ深く探ろうとすればフランス語必要かも。
あとついでにメビウス英訳作品についてですが、こちらHumanoidsの他にも米Dark HorseからもMoebius Libraryとして出版されているものがあります。うち『The World of Edena』の方は翻訳見たことあるけど、『Inside Moebius』の方は未訳なんじゃないのかな。Dark Horseものならプリント版も手に入りやすいかもね。

続いてDelcourt。こちらもフランスでは結構大手なんだろうな、というぐらいの認識なのだが。ComixologyではDelcourtとSoleilが一つのグループとしてショップが出ていて、なんとなくDelcourtの方が看板で出てるように思っていて、Soleilがインプリントなのかな、と思っていたのだけど、今ちょっと調べてみたらもう少し対等な形での業務提携らしい。ジョイント・ベンチャーとか書いてあったよ。少し前はショップの方もDelcourt看板でごちゃごちゃしてたように思うのだけど、現在はDelcourtとSoleilにきちんと分かれていて、英訳作品もそれぞれの「in English」のショップで販売されています。画像の『Alice Matheson』もDelcourtだと思っていたのだけど、Soleil作品。ご覧のようなゾンビ物で、ゾンビ特集として始めたので、実はこっちも頭にあったのだけど、間に合いませんでした…。いつか読むぞ、必ずや!Delcourtのフランス本国向けでは作品は600点以上で、うちin Englishで英訳されているのは18作。ただ600点以上と言ってもアメリカのコミックを翻訳したものも多いのでオリジナルは実質400~500の間ぐらいなのかも。それでもかなり多いけどね。Soleilは250ぐらいのうち40点なので、こちらの方が多いのですが、割とSF、ファンタジー、ホラーなどエンターテインメント方向で出しやすい作品が多いのかもしれません。フランス本国向けの方と見比べると、どんな感じがおもにアメリカに売りやすいと考えているのかなんとなくわかる感じで面白い。自分的にはむしろ出てないやつの方が面白そうだったりもするが。

Glénatも250作品以上を販売しているのでそこそこ大きなパブリッシャーなのでしょう。こちらも自社で、「in English」のショップも作り、数は4点とまだ少ないですが、英訳作品も出版中。今後に期待というところでしょう。やっぱりよくわかんないので、結構自分の好きな感じのこの作品を選びました。なんか第1次大戦中のバディものらしい。いずれは読んでみたいやつですね。
Dargaud、Dupuisといったところも多分そこそこ大きいところなのだろうけど、自社では英訳作品を販売していません。ただ、このあたりもEurope Comics、Cinebookで英訳が見つかるのもあるようです。

Hexagon Comicsというのは、えーときちんと説明しようと思うとかなり長くなりそうなのだが、1950年から出版社やらの変遷を経ながら連綿と続いてきたレーベルが、2000年代になり遂に出版の継続を断念した後、キャラクター、版権の保護のために作家を中心に2004年に結成された組織ということらしい。いつか機会があったらもうちょっとちゃんと説明するよう。内容的には、ターザン物っぽい奴から、SFヒーロー、スパイアクションなど、パルプ・ジャンル全般という感じでしょうか。1950年代からのものなので、まあ特に日本ではお馴染みじゃない部分のバンド・デシネの歴史みたいなもんも見えるのかも。要注目ですな。2004年に設立され、電子書籍が始まる少し前から、プリント版で英訳出版も行われていたようである。Comixologyでは英訳はそれほどは多くないかな、という感じだけど、なに、そこから大元フランス語版のアーカイブへの足掛かりにすればよいのさ。画像の『Strangers』は、割と近年のヒット・シリーズで、アベンジャーズやジャスティス・リーグ的なものらしい。なぜ3巻を選んだかというと、もちろんエロマッチョのお姉さんがでっかくフィーチャーされているからっす。

とまあこんなところがComixologyで英語で読めるバンド・デシネというところかと。いや、見逃してたところあったらごめん。あと、途中でちょっと触れたように、現在は自社で英訳版は出していないが、Europe Comicsとかに参加しているというのもあったりするので、もっと深くはこれからということで、今回はこの辺で勘弁してください。

フランスの出版社についてはここまでなのだが、あとついでに米Fantagraphicsから英訳出版されているヨーロッパ方面の作品についてちょっと触れておこう。まず近年かのイタリアの巨匠グイド・クレパックスの結構豪華な感じのコレクションが連続して発行されたのは知ってる人もいると思う。全部刊行されたのかな?いや、まあ実は私最近までこの人フランスの人だと思ってたんだけど。
で、画像のやつがノルウェーの作家Jasonによる作品。なんかこれ日本でも受けそうだからどっかのおしゃれサブカル系とかが翻訳するんじゃないかと思ってたんだけど、どこからも出ないね。「モンテペリエの狼男」ってタイトルで、狼男になっちゃった男の表紙なのだけど、この人元々は犬。二足歩行で服を着てる犬とか動物のキャラクターたちによるユーモアとペーソスって感じの話。まだこれしか読んでないのだけど、Fantagraphicsからは結構沢山出ています。大変好き!なんかこっちがもう少し余力出てきて、その頃になっても日本でどこからも出てこなかったらいずれはなんか書くよ。ちなみにこの人も作品の舞台がフランスだったりしたもので、フランスの人だと思い込んでました。現在はフランス、モンテペリエに在住とのこと。多分名前で検索してもなかなか見つからなそうなのでJasonさんのブログのリンクも載せとくです(cats without dogs)。
そしてこちらが『Spanish Fever』。2016年に発行された30人以上のスペインの作家が登場する大変素晴らしいスペイン・コミックのアンソロジーである。スペインには大変多くの日本のマンガも翻訳されており、コミックが広く楽しまれる、本来ならまたもう一つのコミック大国とも言えるべきところだが、社会情勢、経済情勢などにより自国のコミック出版の成長が度々阻まれ、大変多くの優れた作家・アーティストが国外に流出してきた歴史がある。前述の『ブラックサッド』のファン・ディアス・カナレス、フアンホ・ガルニドや、Gabriel Hernandez Walta、昨年亡くなった英2000ADの巨匠Carlos Ezquerraなどもその一人である。だが、前世紀末から今世紀初頭にかけ、事態は好転し始める。コミックではなく、一般の文芸書などのような形式で出版され書店で販売された大人向けのシリアスなコミックが、高く評価され始め、売り上げも伸ばしてきたということ。そんな新たなスペイン・コミックの興隆に台頭してきた30人以上のスペイン・コミックの作家を結集したアンソロジーが、この『Spanish Fever』なのである。日本でも『皺』、『家』の2作が翻訳出版され、好評を博したパコ・ロカもスペイン・コミックを牽引する作家の一人としてこのアンソロジーに参加している。『家』の方は未読でわからないんだが、まあ『皺』の方とはうって変わった様々な表現を使ったグローバル経済の歪みへの批判というような作品。他にもちょっと前衛的だったり、なにかシリーズ物を成すSFの一部らしきものだったりと大変バラエティに富んだ素晴らしいアンソロジーである。ともすればカオスにも見えかねないこの多彩さこそがスペイン・コミックへの未来に向かう原動力なのだ。ホント感動する。いいもの見せてもらったよ!いや、ホントはこれについてはこんなついでではなくもっとちゃんと書かなければ、とずっと思っているのだが、いやはやいつもながら力不足で申し訳ないっす。とりあえずもっとこの『Spanish Fever』についてよく知りたいという人は、こちらのThe Comics Journalの記事なども読んでみてください(The Comics Journal:Reviews Spanish Fever)。
Fantagraphicsからのヨーロッパ作品は多分よく調べればもっとあるんだろうけど、自分が読んだり知ってたりするのはこのぐらいで。Fantagraphicsについては本当は書かなきゃならないもんが山ほどあるのだよな。もっと頑張らねば…。

とりあえず本丸であるフランス語がまだだし、新たなバンド・デシネの入り口になる英訳版のまとめのフリぐらいにしかなんないかな、と思いながら書き始めた『DoggyBags Heartbreaker』なのだけど、わかる範囲で調べてみても結構色々見つかったりで思いのほか長くなってしまったよ。うーむ、フランス語で読めるようにならなければという思いが強くなるばかり。とりあえずのところは色々と読み始めている英語で読める日本未訳のバンド・デシネについてはまた続けて書いて行きたいと思っております。で、今回初バンド・デシネであるし、そっちの知識もいまいち不足してるので、あんまり見当違いの事書かないようにと、少し国内方面で書かれていることを調べてみたりもしたのだけど、んー、まあ、いつも通りに見当違いでいいかなと…。なんか面倒くさくなっちゃってさ…。いや、基本的に善良でバンド・デシネを広めたいと願う人達が真面目に書いているので、こいつが誰にでも吠える狂犬だからと言ってそんな人たちにまで噛みつくものではないよ。まあバンド・デシネについてよくわかることも多いと思うので、もっとよく知りたいと思う人は調べてそっちの方を見て下さい。というか大抵の人はここに来る前にそっち読んでるからこっちは適当でいいよな。ああ、そうだ日本のバンド・デシネ観にもっと必要なのはこの出鱈目感なのだろうと、自己正当化してみよう。
ただ日本でバンド・デシネを語る人たちに一つだけ言いたいことあり。あっちこっち見てると共通して最初に目に入ってくるのが、「バンド・デシネは日本のマンガと違います。」とか「バンド・デシネと日本のマンガの違い」などの文言。それってそんなに重要?大して変わんないよ、日本のもフランスのもアメリカのもイギリスのも。どれもマンガナリ!つーかさ、常々主張しているのだが、すべてはマンガ!そこから始めなければならない!そうでなくては優れた数多の海外のマンガが本当に日本に浸透することはありえないのである!とにかくまずマンガとして読め!細かい違いなんてその後じゃ!バンド・デシネをおしゃれやインテリジェンスから、マンガなら何でも読むマンガ・ジャンキーの手に奪取するのが我輩の目的である。喰らえ!マンガ酔拳!バンド・デシネを漫画ゴラクレベルまで引きずり下ろし、お前を蝋人形にしてやるぞ!はははははははははははははは(コレ変換しようとすると必ず一文字ずつ別の字が出てきて面倒なので全部平仮名!)


なんかまあ主に夏バテでまたしてもかなり長期に亘り沈黙の難破艦してしまいました。申し訳ない。何しろ体力が虫並みなので。ああ虫と言えば、夏となると必ず思うのがあのセミという奴について。我々は夏になると出てきて樹にとまってやかましく鳴くあいつをセミだと思っているが、セミ本人、いや本虫からしてみると、何しろ何年も地中で暮らし、最後ちょっとだけ地上に姿を現すのだから、オレは地中に住んでる奴、セミというのは土の中で暮らす生き物、と思っているのではないか、というのが私の見解なのだが、いかがだろうかファーブル博士。まあそれはさておき、なかなか書けないのをこじらせちょいと考えすぎ、なんか色々特集的なことを続けてきたが、なんか先まだまだ長いからな、今日は休んじゃえ、が積み重なり更なる遅延につながっていることに最近やっと気付いた。やっと…。とにかく早くこの辺のやたら長くなるやつを片付けて、もう少し短く書ける作品ひとつずつについて書くやつをどんどん出して行かねばと、切に思っている次第です。というわけで、次回ゾンビ・コミック特集ホントの最終回、番外編第2回。それ終わったら通常操業に戻るでやんす。今晩からつぎにすぐかかるでよー。じゃあまたねー。


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