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2014年9月27日土曜日

Header : Unrated Version - 『Header』映画版 -

※今回は前月(2014年8月)に感想を書いた小説『Header』の映画版『Header : Unrated Version』についての感想です。詳しいストーリーなどについてはそちらを読んでください。

夏のホラー特集 その1 Header -Hump! エドワード・リーの残虐バイオレンスホラー-

というわけで『Header』映画版です。実際には8月中には届いていたのですが、なんだかんだで少し間があいてしまいました。すみません。

まず、私の個人的な感想で言うと、この映画、超低予算ではありますが、それなりにはよくできていたと思います。登場人物同士が会話するシーンが割と平板で画的にも同じようなバストアップであまり工夫が無かったりしますが、その辺りは超低予算ゆえということで仕方ないかなと思います。それから、後半にTravisが父母の死の真相を祖父から聞かされて…、という展開があるのですが、その一連のくだりが少し急ぎ過ぎている感じだったり、もう一方のCummings捜査官の話との時系列が曖昧になったりというあたりは少し気になりました。しかし、全体的には私が読んだエドワード・リーの『Header』という小説をかなり忠実に映像化した、なかなかの作品という印象でした。

と、いうところなのですが、しかしこれはあくまでも原作の小説を読んだ上での私の感想なのですよね。映画というものは大抵は原作と関係なく、まずそれ単体で観られるものです。そこから考えると、例えば前に私が書いたぐらいの紹介文を読んでこの映画を観たホラー映画ファンの人がいたら「期待したほどのエグイ描写は無かった」と思うかもしれません。まあ、この辺は人それぞれ温度差があって、『ホステル』、『マーターズ』あたりぐらいは観た、という私の考えですが。前述のあまりうまくできていない部分は、もっと混乱するだろうし、他にもそもそもがレッドネック同士の諍いに端を発する話なのですが、Travisが一方的に暴れるばかりで相手からの報復といった展開が無いのを欠陥として指摘する人もいるかもしれません。

というわけであくまでも原作小説を読んだ上での私の感想ということになりますが、上に書いたホラー映画として弱い部分の一部は、小説の感想の時少し触れた、この小説がノワールでもあることと、エドワード・リーという作家が結末から逆算してストーリーを組み立てる傾向があることに原因があるのではないかなと思います。ノワールとか言い出すと結局自分の好きなジャンルに引き寄せているだけでは、と思われそうですが、そういうわけではありません。この『Header』という小説が、ノワール原理主義的な人が唱える「強迫観念にとらわれた登場人物が、その行動によって追いつめられて行き、自滅して行く」というような形に当てはまるからです。そしてその結末に向かって組み立てられたストーリーの中で、流れにうまく当てはまらない部分はカットされたり、そもそも目を向けられなかったということではないかな、というのが私の推測です。原作小説は終盤、その暴走する登場人物にとことん感情移入させるように進み、最後に読者を突き放すように終わります。この映画もそのように撮られていて、ラストシーンは私が思い描いていたのとほぼ一致するような画で終わりました。そういうわけで、この映画は私と同じようにこの原作小説を読んだスタッフによって作られた、個人的にはなかなかの良作と言える作品でした。

そして、問題のエドワード・リーとジャック・ケッチャムの出演シーンですが、Travisによって遺棄された遺体の発見現場を確保する2人の制服警官というもの。怪しい山羊髭面のリーと人相の悪いケッチャムは単体では到底警官には見えなそうですが、2人並べて制服を着せてパトカーの横に立たせれば何となく納得してしまうものですね。演技に関しては、日本人以外のは上手い下手は判別しにくいものですが、多分上手くは無いでしょうね。でもファンサービスとしてはとても楽しいものでした。しかしケッチャムは本当に人相が悪くて、いくら警官の制服を着ていてもコイツが一人で死体のそばに立っていたら、コイツの仕業にしか見えないよ。 

原作小説は1995年、この映画は2006年製作です。監督はArchibald Flancranstin。出演は、TravisにElliot V. Kotek、Cummings捜査官にJake Suiffian。この辺はあまりにも専門外なので、このくらいのデータで。
この映画は私はDVDで観たのですが、アメリカのAmazon.comにはあるのですが、日本のアマゾンからは購入することができませんでした。まあよく考えてみたらアメリカにあるものが何でも買えたら日本国内的にはまずいポルノなどでも買えてしまうわけなので、『無審査版』などというホラー映画は買えないようになっているのでしょうね。今回こちらは洋画ファンの人ならご存知であろうDVD Fantasiumから購入しました。日本にもファンの多いホラー映画の一つとして、リストに載せてくれていたのでしょう。映画版ホームページのリンクもあってとても助かりました。
ただこの映画『無審査版』とは言っても日本国内で観てはまずいほどのものではありませんでした。『イースタン・プロミス』で多くの人が目撃してしまったブラブラしたやつも映ってはいませんので、興味を持たれた人は安心してご覧ください。こちらのDVDはオールリージョンだったので、特別なプレイヤーが無くても大丈夫です。

というわけで、小説、映画を合わせて『Header』について、やっと完成しました。しかし、翻訳のない小説と日本公開されていない映画という組み合わせだったので、もう少しストーリーについても詳しく書いた方が良かったのかなと思ったりもします。またこういう機会があったらその時はもう少し考えてみようと思います。ホラー小説に関しては、エドワード・リーの他の作品も含め、未訳の面白そうなのが山ほどあるので、なんとか少しずつでも読んで書いていきたいなあと思います。ハードボイルド/ノワール小説とコミックだけでもアップアップ状態の私ですが、なんとか頑張ろう。


映画『Header』ホームページ

DVD Fantasium  

    

2014年9月14日日曜日

Multiple Warheads - Brandon Grahamの奇妙な世界-

今回はBrandon Graham作、2013年Image Comics発行の『Multiple Warhead Alphabet to Infinity』についてです。このカバー画を見て、なんか面白そうだな、と思った人はそのまますぐにこの本を入手して読んでOKです。中身もこのカバー画通りPOPで愉快で派手なアクションも盛り沢山な、少し不思議な世界のアドベンチャー・コミックです。

それまで暮らしていたDead Cityに宇宙船が墜落してから、元器官密輸人のSexicaとボーイフレンドのエンジニアで狼男のNikoliは、愛車レーニンで旅を続けている。旅の目的地はImpossible City…。

器官ハンターのNuraは、首を切られた後再び頭部が再生した男の身体の入手を依頼され、残された生首を手掛かりに愛車のバイクに匂いをたどらせ探索の旅に出掛ける…。

この2つのストーリーが交互に展開して行きます。カバー画の2人がSexicaとNikoliです。こちらのパートはSexicaちゃんが歌をうたうタバコを吸いながら、狼の夢を見ながらうたた寝するNikoli君を隣に奇妙な風景の中、車を走らせ、イチャイチャしたり、奇妙なものを食べたり、奇妙なものにであったりという話。もう一方のパートは、青い髪で長身でかっこいいNura姐さんが、奇妙な土地をバイクで走り、奇妙な奴と戦ったり、奇妙なものを食べたりという話。他の登場人物も、妙なかぶりものをしていたり、明らかに人間じゃなかったり、宇宙人だったり。とても不思議な世界で、その成り立ちについてはあまり説明もないのですが、考えてみれば、『ドラゴンボール』や『ワンピース』といった日本のマンガもそんな感じだったりするので、日本の読者はすんなり入って楽しめるのではないでしょうか。私はそうでした。

このコミックには変わったものを食べたりするシーンが沢山登場し、それぞれに面白い説明が書きこんであるのも面白かったです。1ページ全部レストランのメニューというのもありました。ちなみに文中で出てくる”器官”なのですが、原文ではorganで、人間などの特殊能力を持った部位を集め、それを商売にしている組織があり、SexicaやNuraはそこと取引をする密売人、ハンターです。臓器よりも器官のほうが適当かなと思いそう表記しました。また、風変わりな習慣や宗教などもあったりするのですが、なにか「異世界を構築する」というよりも、作者が自分の考えた面白い世界に面白いものを置いてみる、という感じでとても楽しいコミックでした。

この『Multiple Warhead Alphabet to Infinity』はImage Comicsから2012年秋から2013年にかけて全4話で発行されたものですが、実はそれ以前からも他社で数作、同キャラクター、同設定で描かれていて、このTPB版にはそれらの作品も収録されています。順番は逆になってしまったのですが、巻頭には2007年にOni Pressから出た、それ以前の2人がDead Cityを出るまでのいきさつが描かれたワンショット、『Multiple Warheads Fall』(モノクロ作品)が収録され、巻末には2001年にポルノ・コミックとして描かれた、SexicaがNikoli誕生日プレゼントに入手した狼男の×××を移植したら狼男になってしまったという、最初の作品『Multiple Warheadsなどが収録されています。作者Brandon Grahamが長年温めていた世界を遂に自分の望む形で書けるようになったというところではないかな、と思います。

さて、この『Multiple Warhed Alphabet to Infinity』ですが全4話のはずですが、最後まで読むと…終わっていません!この続きの『Multipe Warhead Gohst Town(仮題?)』は一年後ぐらいに3~4話ぐらいで出るよ、ということ。これで全部だと思って読んでたらつづくかよ!というよりはまだこの続きが読めるのは嬉しいな、と思いました。たぶん、読んだ人はみな同じ感想なのではないでしょうか?

作者Brandon Grahamは1979年オレゴン生まれ。前述のように小さいパブリッシャーのポルノ・コミックのようなものから描き始め、徐々に注目を集め、2009年にTokyopop発行の『King City』がアイズナー賞にノミネート。代表作は『Multiple Warhead』、『King City』の他に、1990年のロブ・ライフェルド(!)作『Profet』 の近年のリバイバル作で、ライター(一部作画も)を務めています。(Image Comics刊)とにかく話も面白く、画も素晴らしいのですが、特に画は話が分からなくても見ているだけで楽しいので、Brandon Graham Multiple Warheadsで画像検索してみてください。彼の作品にはやはり日本のマンガの影響も多くみられるのですが、ことさら日本のマンガのようなものを描きたい、というよりはそういうマンガやアニメをアメコミと同様に見て育ち、身に付けた世代の作家なのではないかなと思います。今後の活躍が期待される、注目の作家です。


Brandon Graham オフィシャルサイト 

Image Comics

Oni Press

Tokyopop 

●Brandon Grahamの著作



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2014年9月6日土曜日

Piggyback -Snubnose Press発!パルプ・フィクション!-

ドラッグ・ディーラー、運び屋、卸売業者、なんと呼ぼうと構わない。それがJimmyの仕事だ。腕っぷしには自信があり、それで一目置かれている。だが、この仕事もずいぶん長い。少々歳を取りすぎたか?…。

その日、早朝からのノックにドアを開けると、そこにいたのは同業のPaulだった。
「助けてくれ、Jimmy!Joseの荷をやられちまった。5キロのコカインだ…!」

Paulの話では荷を運ばせたのは2人の女子高生(「前にも使ったことのある信用できる娘たちなんだよ…。」)、だが、荷を受け取るはずだったまぬけのKevinとの待ち合わせ場所には一向に現れない…。

「なんだってそんなガキ共にそんなブツを任せたんだ?」
「いや、あいつらには知らせてないんだ。ただのいつもの大麻だと思ってる。コカインはPiggyback(相乗り)なんだ…。」

Jimmyは長年使っているポンコツのトヨタ・カムリにPaulを乗せて出発する。ああ、もちろん無料ってわけじゃない。報酬は回収したコカインの中からいただく。足りない分はお前が何とかしろよ。ゼロよりはましだろう。まずは、まぬけのKevinから聞き出した彼女たちのボーフレンド連中からだ。


というわけで、注目のインディー・パブリッシャーSnubnose Pressから、私がまず読んだのはTom Pittsの『Piggyback』です。一方の雄New Pulp Pressの一冊目『Rabid Child』はちょっと難しいことになってしまいましたが、こちらはこの手の話が好きな人には100%おススメできる作品です!
とにかく出てくる奴らはチープな人間ばかり。本当は一番困っているはずのPaulなのですが、頼りになるJimmy任せで、おまけに一文無しで道中ことあるごとに酒と煙草を情けなくJimmyにねだるばかり。一方Jimmyはといえば、ストイックでバイオレンスなタフガイを気取っていますが、結局はトニー・モンタナ基準で言えばその部下の部下ぐらいが使っているドラッグ・ディーラーの遣いっ走りの下請けぐらいのものですから。同様に他の登場人物も底の浅いチープな奴等ばかり。
但し、この作品はコメディではありません。そこで、タイトルにも使ったタランティーノの名作『パルプ・フィクション』が出てくるわけです。この映画の中のあるシーンについて怒る人がいると聞きます。それ程殺される意味のない人物が銃の暴発で車中で死に、それがその人物の死よりも車の汚れの方が重大事の様に扱われるというシーンですね。そういう人の中には、この映画の登場人物の行動や言動からこの映画を「コメディ」だと解釈し、「ブラック・コメディにしてもひどすぎる」と思った人もいるのではないでしょうか。私の個人的な解釈では、この映画は「犯罪映画」で出てくる人物は悪党、犯罪者なのだからどんなひどいことも起こりうること、そして人間の行動には大抵は笑える側面があるということです。かなり単純化した意見なので異論も多いかとは思いますが、私がここで言いたいのはこの小説もそんな作品であるということ。チープな人間同士が浅墓な行動を繰り広げるが、「コメディ」ではないということです。
この小説には(実際には110ページぐらいの作品なので、中編に近いかな)かなり笑えるところもありますが、残酷なところもあるし別に死ななくてもいい人間があっさり殺されたりもします。だから『パルプ・フィクション』を少し不快に思う人にはあまり向いてないかもしれません。あとたぶん、「女子高生に運び屋やらせるなんてありえねーw」とか言いたくなる人にも。でもこんな誰も来ない辺境の地にこんな文章を読みに来てくださる人なら絶対楽しめる100%おススメの作品です。

ちょっと映画を引き合いに出したので、ついでのどーでもいい感想なのですが、実はこの作品すごく低予算で映画にできます。お前がJimmyでさ、俺が監督兼でPaulだろ、この女の子たちは○○ちゃんたちに声かけてさ、ほら、このボスとかは電話とあと最後ぐらいしか出番ないからプロの悪役の人さ、3日ぐらいブッキングできるだろ、なっ、みんなで半年ぐらいバイト頑張ればこれ映画にできるって!みたいな感じ。そんな映画があったら観てみたいです。案外作者周辺で考えてたりしてね。

作者Tom Pittsはサン・フランシスコ出身在住。いや、俺が言ってるのはフリスコのことさ。ウェブジンOut of the Gutter : The Flash Fiction Offensiveのエディターを務める傍ら、あちこちに数多くのショートストーリーを発表しているようです。結構この辺のムーブメントの中では目立つ存在という印象です。この『Piggyback』は彼の最初の本になっている作品で、2作目長編『Hustle』が今年3月同じSnubnose Pressから発売されました。これからの活躍がとても楽しみな作家です。私が他に読んだのは、アンソロジー『All Due Respect』収録の「The Biggest Myth」という短篇です。かなりおっかないギャングのボスが出資したドラッグ商売に失敗した男の許を訪れ、「マネー・ビジネスについての最大の神話は、金を払わないやつは痛めつけられる、ってことなんだがな…。」と始める。果たしてこのボスはこの男をどうするのか?という今回の『Piggyback』にも通ずるドライなユーモアを含んだクライム・ストーリー。あっ、これも超低予算で短篇映画作れる!

Snubnose PressはSpintingler Magazineという独自の賞も出している有名なウェブジンの出版部門というところのようです。以前ここは大丈夫なのか?などと書いてしまったのですが、前述のTom Pittsの『Hustle』も新しく出ているように、まずまず健在のようです。なぜそんな心配をしてしまったかというと、こちらのホームページ、私の知る限りでもかれこれ1年以上更新されていないのです。今回の『Piggyback』も、Snubnose Pressの最初の出版物というわけではなく、ただそんなサイトなのでこのカタログの順番信用していいのかなあ、と思いとりあえずカバー画とかの気に入ったのから読むことにしよう、と選んだものだったりします。とりあえずSnubnose Pressの出版物についてちゃんと把握するには米Amazon、Kindle BooksでSnubnose Pressで検索してみる方が良いかと。まあ、そんなSnubnose Pressですが、本の方は信用できる感じでかなり気になる作家の本が色々と出版されています。全部読むので、ホームページの方はともかく本だけは頑張って出してよね。


Tom Pitts ホームページ

Snbnose Press

Spintingler Magazine

Out of the Gutter : The Flash Fiction Offensive

●関連記事 

ハードボイルド/ノワール系アンソロジーとインディー・パブリッシャー

●Tom Pittsの著作


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