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2022年7月21日木曜日

Dark Horse発Berger Books。それでもコミックは前進する!

コミックの方もずいぶん久しぶりになっちまったのだが、遥か昔に予告していた通り、今回はDark Horse Comics。2017年より開始され、結構作品も多くなってきたカレン・バーガーによるBerger Booksについて、 いくつか作品をピックアップしながら書いて行きたいと思います。

多分一昔前ぐらいだと、カレン・バーガーというのもコミックの一般常識ぐらいだったと思うのだが、昨今ともなるとその辺の情報がなさそうな人も多そうに思えるので、ここで簡単に説明しとく。 1979年にDCコミックスにアシスタント・エディターとして入社後、アラン・ムーア、ニール・ゲイマンなど英国作家の起用で頭角を現し、93年にVertigoが立ち上げられた後には、『Fables』、『 Hellblazer』、 『The Invisibles』、『100 Bullets』などなどの伝説的作品を次々と送り出し、アメリカのコミックに一つの新しい流れを築き上げた編集者である。日米ともにコミック-マンガの世界で、編集者がやたら持ち上げられたり、 出しゃばったりするとろくなことにならないというのが一般的ではあるが、そういう中で数少ない例外としてどの方面からもリスペクトされる、真のカリスマ編集者である。
その後、近年になりDCの経営方針の変化でVertigoのの編集方針も変更、縮小撤退の流れの中で、2013年にDCを退社。そして、Dark Horse Comicsからの招聘を受け、同社内にバーガー編集による新たなコミックレーベル Berger Booksを立ち上げたというわけである。
最初の出版は、2018年1月、日本での翻訳もあるVertigoからの『Get Jiro!』のAnthony Bourdain/Joel Roseによる日本の怪談百物語をベースにした『Anthony Bourdain's Hungry Ghosts』。以降数多くの作品が出版されており、 一応後ほどリストを作るつもりであるけど、一部の作品はKindleで出ているフリーのサンプラーBerger Books Sampler #1Berger Books Sampler #3から見ることもできます。何故#2が無いかは不明。今回はそれらBerger Books 作品の中から『Invisible Kingdom』、『Everything』、『The Seeds』の3作品について紹介して行きます。

■Invisible Kingdom

G. Willow Wilson / Christian Ward

我々の住むところとは別の太陽系を舞台としたSF作品。いくつかのそれぞれに異なった固有の種族人類が生存する惑星で構成され、星間宇宙航行技術が発展しており太陽系全体で一つの社会を構成しているという設定 だと思われる。
星系内には二つの大きな勢力が存在する。一つは星系内最大の企業Lux。もう一つは清貧を美徳とし、教義の到達点である”見えざる王国”への道を啓くと説く教団Renuciation。
Luxの星間貨物配送船の船長Grixは、運搬中の事故で荷物の一部がただの空箱であることを偶然知り、偽装取引が行われていることに気付く。
一方、Renuciationに入信したばかりのVessは、割り振られた仕事の中で、Luxと教団の間で不可解な金の動きがあることを知る。
船から発せられた救難通信をきっかけに二人は出会い、そして星系を揺るがす物語は始まって行くこととなる。

[Dark Horse 『Invisible Kingdom #1』 プレビューより]

ストーリーは女性作家G. Willow Wilson。ボストン大学を卒業後、エジプトに渡り英語教師の仕事に就く。帰国後、2007年にVertigoからグラフィックノベル『Cairo』(作画:M.K. Perker)にてコミック作家としてデビュー。 以後、同Vertigoからのオリジナルシリーズ『Air』に続き、DC『Wonder Woman』、マーベル『Ms. Marvel』なども多く手掛けている。『Ms. Marvel』は翻訳もあるはずなので詳しい経歴はそっちに載ってるんじゃないかと思う。 Vertigoからのデビューということで、カレン・バーガーとも関係の深い作家なのだろう。
こちらの作品TPB全3巻で出ており、ちょっとよくわからないのだけど、どうも最初の2巻は1話ごと全10話で出ているようだが、最後の3巻は書き下ろしグラフィックノベルとして出たらしい。女性作家の作品として、 主要キャラクターはGrix、Vessを始めとして主に女性。Grixの星間貨物船の乗組員も、Grixの小学生ぐらいの息子以外は多分女性(一人どう見てもプロレスラー体格のオッサンにしか見えないキャラがいるが、話の流れ的に 多分女性。)。宇宙の運送業者というと、英国2000ADの『Ace Trucking』などもあり、あっちのSF界隈ではポピュラーな設定なのかな、と思っていたんだが、1巻のWilsonのあとがきによると、インスパイアされた作品として 日本のアニメ『カウボーイビバップ』が挙げてあったりした。まあNetflixの「実写版」というのもあるんだから世界的にも知名度はあるんだろうけど、SFというとやっぱりあっちが本場と思ってしまうのでなかなか 興味深かったり。

途中なのだけど、ちょっと思いついたのでコミック-マンガのストーリー制作者の呼称について。日本では長い間の習慣として漫画のストーリー制作者については「原作」と呼称されており、それに従いコミックのストーリー制作者に ついても原作と表記されることが多く、自分もそう書いたこともあるんじゃないかと思う。しかし、日本では近年特にラノベからの映像化・コミカライズの増加により、その表記ではマンガなどのオリジナルストーリー を指しているのかがわかりにくくなってきているのではないかと思う。実際世代によっては「原作」と書いてあったら元になる小説の形があるものと思い込むぐらいの層もいるんじゃないかというところなんじゃない? この「原作」の特殊な使い方って基本習慣になっているマンガだけなんで、そろそろ考えるべきだし、まして海外のコミックへの考えなしの流用はやめた方がいいんじゃないかと思う。 あと海外のコミックに関してはクレジットに使われている「ライター」というのをそのまま使うことも多い様だが、なんか日本の出版業界便利屋雑文業を連想させて、クリエーターとしての品格を下げる印象もある。 まあそんなわけで、これまで「原作」、「ライター」などの表記をしてきたかもしれないんだけど、このブログでは今後は「ストーリー」という形の表記に統一することにしましたということです。

作画Christian Wardは、英国出身の現在最注目ぐらいのアーティスト。ご覧の感じのサイケデリックというようなカラーのデザイン的な画風が特徴。 ロンドン在住ということだが、コミックの仕事は主に米国。マーベルDCにもいくつかあるようだけど、カバーのみのもあるのかちょっと不明。オリジナル作品としてはImage ComicsのNick Spencerとの『The Infinite Vacation』や、 Matt Fractionとの『ODY-C』などがある。最新作『Blood-Stained Teeth』(Image Comics)は単独オリジナル作なのかと思ったら、こちらではストーリーの方に回り、作画は新進気鋭のアーティストPatric Reynoldsが担当。 かなりバイオレンステイスト強めの期待作である。現在最前線で活躍中今後の活動にも要注目の、最新アメリカン・コミック最重要作家・アーティストであることは間違いないだろう。

■Everything

Christopher Cantwell / I.N.J. Culbard

1980年代のミシガン州のの田舎町Holland。町にみんなが待っていた大型ショッピングモールEverythingがやって来た!全米で人気のモールチェーン。何でも手に入るEverything。田舎町に多くの雇用も創出する。 だが、その熱狂の陰で町には不可解な事件が起こり始める。そして、その裏では未知の異次元からの精神侵略が企まれていた…。

80年代の様々な住民が暮らす田舎町ということで、『ツインピークス』が連想されるのだが、異次元からの侵略というあたりは50~60年代頃のSF映画やTVドラマのテイストもあり。英国の鬼才I.N.J. Culbardの 作画が独特のレトロフューチャー感を強く打ち出している。

[Dark Horse 『Everything #1』 プレビューより]

ストーリーChristopher Cantwellは、映画・TVの監督脚本として活躍し、近年コミックにも進出し始めた作家。この作品に先立ち同じくBerger Booksから2018年に『She Could Fly』(作画: Martin Morazzo)で コミック作家としてデビュー。その後は『アイアンマン』、『スターウォーズ』などのマーベルシリーズ作品にも進出している。オリジナル作品から始めてマーベルDCのシリーズ作品へというのも最近では 久し振りに見たかも。まあマーベルDCの新しいところあんまり熱心に見てないからというのもあるんだろうけど。そういえば英国出身の『Zombo』のAl Ewingも最近ではマーベルでそこそこぐらいの作家になってるみたいだな。

作画I.N.J. Culbardは2000ADでの作品や、ラブクラフト、シャーロック・ホームズ作品のコミカライズなどで広く知られる英国のアーティスト。このブログ的には中断したままの2000ADの方でかなり書いてきているのだが、 日本的にはほぼ無名なのかもしれない。初見の人はこの人あまり画が上手くないのでは?と思っているかもしれないし、実際私も初見の頃はそうだったのだが、少し見ているうちにその独特のいまだに上手く言語化して 説明できない魅力に魅かれ始め、現在では世界規模で見ても唯一無二ぐらいの個性と魅力を持ったコミックのトップアーティストとして深くリスペクトしている。英国2000ADでの近作『Brink』は、 マーベルのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーでも知られるDan Abnettとの共作だが、通常四半期で1シーズンのシリーズが約半年でスケジュールされる人気はCulbard作画による部分もかなり大きい。
Culbard作画の特徴は、無機質な線とキャラクターや図形記号的な意匠の多いデザインやカラーリングなど。SFやファンタジー作品などを手掛ける時には多く見られるレトロフューチャー感などもその一つだが、 どこまで行ってもその独特の魅力をうまく説明できんところがある。いや、とにかくワシはCulbardが好きなの!これだってまずCulbardじゃん!で飛びついたんだから。

■The Seeds

Ann Nocenti / David Aja

様々な技術文明が腐食するかのように衰退した近未来の世界。電気・通信などあらゆる技術文明がなくなり荒野と化した地域と、まだ文明の残る地域が厚い壁と鉄条網で仕切られ、ゲートは軍隊(?)によって守られている。 物語の主な舞台となるのはまだ文明の残る側の街。半ばスラム化した街では、次々と壁の向こう側へ行く人が増えてきている。街には有毒物質を含んだ雪が降り、住民に外出しないよう街頭スピーカーから警告が流される。
街の新聞社で記者として働くAstraは、自分を取り巻く状況を常にシニカルに横目で眺めながら、その奥で常に自分の心を惹きつけるものを探し求めている。
壁の向こうに密かに隠れ住み、任務でこの惑星の「Seeds」を集める異星人たち(グレイ型)。街には宇宙人目撃の噂も流れ始めている。だが、部隊長を含む異星人の一部は何かに蝕まれ錯乱し始めており、任務を完了して 帰還することが困難になってきている。
街で暮らす車椅子の女性Lolaは異星人のひとりと出会い恋に落ちる。体内に彼との子供を宿したことを確信した彼女は、壁を越え彼の元へと向かう。

[Dark Horse 『The Seeds #1』 プレビューより]

えーと、まず率直に言っちゃうと、私はこの手のやつあんまり得意じゃない。ゆえに何か批判的に見えるところがあってもある程度割り引いて読んで欲しい。
自分の思うところ、この作品はアートシアター的、演劇的というような意味での限定的な箱庭的世界観の物語だと思う。例えば壁に仕切られた地域、内側外側がどのくらいの広さなのか、またはそこに壁が作られている 理由などが一切不明であることなど。背景に説明されないなんらかの戦後というような状況があるのかもしれないが、技術文明が衰退して行っている理由や規模などもいまいちよくわからない。結局そういった 疑問やツッコミを入れていると破綻してしまう「こういう設定の世界」という箱庭の中の物語と考えるしかないのだろう。決して欠点をあげつらって批判しているわけではなく、やはりそれらが物語が発生する場所だと 思うので、そういった形での物語性を期待して読むべき作品ではないと言わざるを得ないのではないかと思う。
その中にそれぞれのキャラクターを中心とした断片的なエピソードが、静的でやや曖昧なトーンで語られて行く。六角形のモチーフと共に繰り返されるミツバチの描写などに、作者Ann Nocentiのジャーナリストなどとしての 活動に関わる環境的なメッセージも示されているようだ。
個人の好き嫌いを作品評価の基準にするというのは私の嫌うところなのだが、特にこの作品の作画David Ajaはマーベルでの活動でおそらくは今回の中で一番日本でも知られているアーティストと思われるところもあり、 「期待していたものと違った」というような安直な感想が出ないようなるべく正確に伝えようと思ったのだが、やっぱり若干批判的な傾向になってしまったか。しかし、少なくとも自分的には、最初に書いた アートシアター的というたとえから言えば、これを劇場で観て決してチケット代を損したなどとは思わないぐらいにはクオリティの高い優れた作品と言えるものであるからね。

ストーリーAnn Nocentiは、1980年代にマーベルでコミックのストーリー制作者としてキャリアを始め、その後90年代になりジャーナリスト、映画監督などに拡げて行ったちょっと変わった経歴の人。 割と逆のパターンはよくいるので、肩書だけを見たときにはそのパターンかと思った。マーベルでは多くの作品でシリーズ・エディターとしても活動していた。80年代後半から90年代にかけての『Daredevil』での 女性の社会・政治的権利を強く打ち出したストーリーなどが高く評価されているということ。

David Ajaは1977年生まれのスペインのアーティスト。マーベル『The Immortal Iron Fist』や2010年代前半マット・フラクションとの『Hawkeye』などで知られる。この人については日本でも翻訳が出てるようなので 知ってる人も多いだろう。まあスタイリッシュというのか、独特のタッチでカッコいい画が描ける人。Ann Nocentiとは2009年あたりの『Daredevil』で出会い、その頃から二人で温めていた構想が Berger Booksにより実現されたということらしい。ちなみにAjaにとってはこの作品が初のシリーズキャラクター以外の作品となる。
現代のアメコミの基準で行くと比較的小さなコマ割りと、静的な構図を連続させるなどのスタイルを持つAjaだが、この作品ではその傾向が一層強化されている印象があり、シンプルにページを9分割した中で動きを 極力抑えたような表現で物語が語られて行く。ただ、前述の『The Immortal Iron Fist』と時系列的に後になる『Hawkeye』を見比べてみると、後者の方がより人物が小さく真正面水平のカメラ位置による構図などの 傾向は強まっている印象もあり、Aja自身の画風の変遷という部分も多くあるのかもしれない。

■Berger Booksについて

以下が現在までに発行されているBerger Booksの一覧です。

1 Anthony Bourdain's Hungry Ghosts Anthony Bourdain, Joel Rose
/Alberto Ponticelli, Vanesa Del Rey
2018年1月
2 Incognegro: A Graphic Mystery (New Edition) Mat Johnson/Warren Pleece 2018年2月
3 Incognegro: Renaissance Mat Johnson/Warren Pleece 2018年2月
4 Mata Hari Emma Beeby/Ariela Kristantina 2018年2月
5 The Originals: The Essential Edition Dave Gibbons 2018年5月
6 She Could Fly Christopher Cantwell/Martín Morazzo 2018年6月
7 The Seeds Ann Nocenti/David Aja 2018年8月
8 Olivia Twist Adam Dalva, Darin Strauss/Emma Vieceli 2018年9月
9 The Alcoholic Tenth Anniversary Expanded Edition Jonathan Ames/Dean Haspiel 2018年9月
10 LaGuardia Nnedi Okorafor/Tana Ford 2018年12月
11 Invisible Kingdom G. Willow Wilson/Christian Ward 2019年3月
12 Ruby Falls Ann Nocenti/Flavia Biondi 2019年10月
13 Tomorrow Peter Milligan/Jesús Hervas 2020年2月
14 Post York James Romberger 2021年3月
15 Enigma: The Definitive Edition Peter Milligan/Duncan Fegredo 2021年11月


タイトルに○○Editionと入っているのは、過去にVertigoから発行され、現在は絶版となっている作品の新編集版など。Mat Johnson/Warren Pleeceの『Incognegro: Renaissance』は以前にVertigoから出た『Incognegro』の続編。
発行年月に関しては、とりあえず第1話が出たときなのだが、ここで書きながら調べてわかって来たぐらいなのだけど、このBerger Books実はアメリカのコミックの基本形式である約25ページとかのIssue形式ですべて出ているものは ほとんどない。今回のものでも前述の通り『Invisible Kingdom』が第3巻が単話のものがなくTPBのみ。『Everything』は第2巻が同様。『The Seeds』は全4話のうち単話で販売されたのは前半2話のみで、3話の発行予定がないことが ちょっとしたニュースになっていたり。その他にもこういった形の物が多く、近作のJames Romberger『Post York』は単話での販売はなくTPBオリジナルとして出ている。まあこちらとしてはデジタル販売での状況しか わからないのでプリント版についてどうなっているのかは不明だが、印刷や販売経路などでよりコストがかかるそちらだけ出ているというケースもなさそうだが。
理由については不明だが、まあ普通に考えればあんまり売れ行きが良くなく、またターゲットとなる読者層が主に単話ではなくまとまったものを購入し読むといった傾向があるというところだろう。

そういったところから見ても大成功しているとは言い難そうなBerger Booksについては、色々な意見評価もありそうだが、特に調べてないし知らん。しかしまず思うのは、かつてのVertigoの最盛期に比べれば、などという意見は まったく意味がないということだ。例えばVertigo立ち上げ時期のブリティッシュインベイションと呼ばれる時期は、米国未紹介の英国の優れた作家が数多く存在していたというように、良質な作家が集まりやすい時期も 難しい時期もあるものだ。Vertigoの歴史をざっと見れば、優れた作家作品が並ぶのがまず目に入るが、その陰で多くの意欲的な作品がその歴史に名を残さないまま消えて行ってしまってもいるのだろう。Berger Booksにより 復刊されたこういうものもあったのかと思わせる作品などその好例だろう。いつの時代でも優れた作品、新しい意欲的な作品が世に認められ評価されるとは限らない。出版された時期・タイミングまでも含む多くの要因の 組み合わせによりもしかすると奇跡的ぐらいの確率で産み出されるものなのかもしれない。そしてその確率を少しでも上げることができるのがカレン・バーガーのような人物なのだよ。そこの安直にBerger Booksを 批判しているアンタ、見たことも聞いたこともない作家が個人出版で出した作品だったとしても自分なら本当に優れたものなら見分けられるなどと絶対の自信をもって言えるのかい?
カレン・バーガーの姿勢は、既存のものに縛られない質の高い読み物としてのコミックを世に出すという方向に常に一貫している。ならばバーガーを信じて彼女が次に何を出して来るか、常に肯定的な期待をもって 待ち続けるのがコミック=マンガ読みの正しい姿勢であろう。先の表を見てもわかるように、継続中のものがあったり、また単行本書き下ろし形式になると時間がかかるなどの要因を考えても、やはりBerger Booksの 出版状況は少し厳しい様だ。だが続いて行けばいつの日かは必ず新しい才能を産み出せるレーベルであることは間違いない。ワシはいつだってそういうものを応援するぞ!バーガーさん頑張ってくださいね。

Berger Booksのもう一つ顕著な特徴としては、女性作家による作品が多いということ。もちろん女性であるカレン・バーガーゆえ、なるべく多くの女性作家の活躍の場を作りたいと思うとか、女性作家の知り合いが 多いという個人的な事情もあるだろう。だが、実際のところアメリカのコミック界で女性作家の割合が非常に低いというのは事実であり、そこから考えてみても女性の中にこそまだ見ぬ新しい才能が隠れているのではないか というのも当然浮かぶ考えだろう。そして、そんな隠れた才能を見つけ出すのに最も適した人物はカレン・バーガーのような人だろう。Berger Booksに女性作家の登用が多いのは全く理にかなっているし、これからも その方針で進むべきだろう。
だがここで、ひとつ日本のマンガという視点から意見を言わせてもらいたい。日本におけるマンガ=コミック界での女性の活躍は、世界的に見ても突出しているなどという表現にとどまらない、 もはや比較にならないほど大規模なものだ。まあはっきり言ってしまって私もそれほど熱心なその方面の読者ではないし、ここで自分の知ってる範囲の名作などを並べてみるのにも大した意味もないと思う。 そして、今回も見たようなアメリカの女性作家による作品群、それぞれがそれなりに評価すべきところも多い優れたものではあっても、日本の女性作家による物と並べてみるとそこにはまだ大きな差があるのではないだろうか。 どこか「女性」に肩ひじ張ったところがどうしても見えてくる作品の先に、例えば緑川ゆき『夏目友人帳』や、末次由紀『ちはやふる』のような、女性ならではという柔らかさの上に深いストーリー性を持った 作品が生まれてくるところがまだ思い浮かばないという段階ではないだろうか。反論があるかもしれないのでこちらの主張として言っとくが、これは国民性の違いなどというものでは絶対にない。むしろそんな エクスキューズで納得してしまうことこそが思考停止で退歩である。
日本の女性向け・少女向けマンガには長い歴史があり、上記のような優れた作品は常にその上に成り立っている。まあそこで私みたいなもんはいつもながらにパルプ思想を引っ張り出して来るのだが。 そしてパルプ=「量」というものは、常に倫理道徳的・教育的、はたまた芸術的に評価できるものばかりで成り立っているわけではない。常に多くの読者の欲望に対応した、例えば男性・少年向けに喧嘩上等男の生き様 エクスプロイテーションや、勝ち組お金儲け立身出世エクスプロイテーション、可愛い女の子にひたすらモテてエッチな事をしたいジャンルがあるように、女性・少女向けにも見た目財産地位ひたすら都合のいい 恋愛エクスプロイテーションや女の生き様エクスプロイテーション、欲望全開BL・TLジャンルのようなものが多く広がっている。そして異端にして世界最強の日本漫画は、常にそれらの上に創られているのである!
とは言え今更アメリカのコミックに女性向けにそんなものを作れというのは無理な話だろう。カレン・バーガーもやはり少女マンガというような基盤の必要性を感じかつてDC内にそういった方向のMinxを立ち上げたが、 短命に終わっている。しかし一方で、最近完全にAmazonに取り込まれちゃってもう駄目か状態のComixologyなのだが、完全にアメリカ向けのみゆえに今まで表示されなかった講談社のセールなんかも見れるようになると、 例えばろびこ『となりの怪物くん』みたいなのもあったり。コーダンシャが売りたいというだけじゃなく、それなりに需要もあるのだろう。こういう良質な少女マンガが読まれていれば、従来のアメリカのコミックとは 全く違うものを目指す女性作家も増えてくるのかもしれない。例えばTillie Waldenが日本の高野文子などにも影響を受けているように。ああTillie Waldenもっと読まなくちゃ。書いて思い出すバカ。
日本では更に、荒川弘(『鋼の錬金術師』)、田辺イエロウ(『結界師』)、あと公式には性別不明だが吾峠呼世晴(『鬼滅の刃』)などの、女性作家による少年・青年向けジャンルでの活躍が拡がっている。 女性ならではということを感じさせるストーリーや作画は、日本のマンガの枠を多く拡げ続けている。アメリカでも女性作家の進出が進めば、マーベルDCのメインジャンルでも、単に女性キャラに留まらない 新たな基軸・展開が見られることになるのかもしれない。カレン・バーガーにはさらに幅広く女性作家の才能を発掘し、アメリカ、そして世界のコミックを次の段階へと進めてもらいたいものであるよなあ。

また、途中でも書いたけど今回調べてみて少し見えてきたのが、やはりこのBerger Books、Vertigoからの継続という部分も多いのかも、ということ。Vertigoに関してはとにかくレジェンド作品がやたら多く、 そっちだけでもまだまだ手付けられないものも多いんだが、なんとか結果的に末期ということになったJeff Lemire以後あたりのももっと読んでいかんとな、と思う。また、Vertigoも当然カレン・バーガーのみで やっていたわけではなく当然他にもスタッフはおり、その中でもバーガーと同時期同じような事情でVertigo/DCを去ったShelly Bondはその後インディペンドでBlack Crownを立ち上げDavid Laphamの『Lodger』やGilbert Hernandez作品などを 出版している。パンクを旗印に掲げたBlack Crownだったが残念ながら短命に終わってしまったが、現在それらの作品はIDWから出版されており、そちらで読む事ができる。今更のように思い出すんだけど、アメリカのコミックって エディターもクレジットされてたりするので、その辺で関係を考えたりでVertigo末期あたりもまだまだ見るべきところ多いな。

先にも書いた通り、まああんまり調子は良くなさそうなBerger Booksではあるが何とか頑張って続いて行って欲しいものである。なんか結局いつもモタモタしていて一番勢いのある時期に書けなかったワシも悪いんだけど…。 何事においてもそれを前に進めるためには常に新たなものが生み出されねばならず、そしてその未来を見たいと望むならそれが現れると期待できるところには常に注目し期待して行かなければならない。 私はまだこれからもBerger Booksには期待するぞ。なんとか続けて行っておくれよね。バーガーさん。

Berger Booksのみならず新しい試みも多く、Dark Horse Comicsにはもっと注目して行かねばと常々思っているのだが、しかしJeff LemireやMatt Kindtぐらいはと思っていたあたりもまだベテランまでは行かなくても それなりのポジションで、新しい流れとしてはもっと先まで見てかなければならんのだよなと思う。で、おもにDark Horse、Imageあたりを中心に見てると、ここ版権ものが主体だからと気を緩めていたところから 思いがけないもん出てたりするのだよな。まあ今後も新旧含めて幅広くコミック全般なるべく多くのものを読んでいかんとね、といういつも通りの結論に落ち着いちゃうのだけどね。

さて大幅変更から5か月たったComixologyなのだが、その後も変化はなく使い物にならないままである。アメリカのみと言っても、そちらでも結局は表の店構えのみで中身はAmazonなのだから、以前の状態を 知っていれば使い勝手はもはや比べ物にならないほどに低下しているとしか言いようがないだろう。いやAmazonのショップとしての使い勝手を批判とか言うことじゃなくてさ。とにかくComixologyというのは アメリカで出版されているコミックに合わせた形態で設計されていて、重要な検索項目であるパブリッシャー、シリーズ、クリエイターなどで探しやすく本当に優秀だったからねえ。なんだかんだいってみても 結局Amazon傘下に入らないとやっていけなかったのだろうし、そうなった時点で完全にAmazonのショップの中に入ることも決定事項だったのだろうし。もうちょっとどうにかならんかとも思ってしまうが、 Amazonのショップの形の中でやってくとなるとそれほど例外的な変更もできないだろうし、もうあんまり大きな期待はできないのだろう。とりあえず今はセールと新刊の確認ぐらいに使って、実際に買うのは 日本のアマゾンという方法でやっているが、まあ今後もそんな感じになるのかな。結局のところ日本のアマゾンのKindleカテゴリの中にマンガがあるのと同じ状態なのかもしれない。うーん、それ考えると 既にそれがある日本のアマゾン内にComixologyショップができるとかますますありえない感じに思えるな。
そしてリーディング用のアプリの方なのだが、うーん、これもう少し何とかなんないのかね。現在旧来のComixologyアプリの形が残っているのはマーベルのもののみとなっているのだが、それと比べてみると、 というか比べる以前に本当に使い勝手が悪い。現在の状態、と言っても特に変わった様子もないのだが、Kindleアプリから色々な機能を削ったもので、検索に関してはタイトルのみで、クリエイター・パブリッシャーなどでは 不可の上に持ってる本が多いからということらしいが検索ボックスに3文字以上入れると落ちる。ただ、まあ可能性の話だが、Kindleの機能を削ったものというのがミソで、ここでAmazonのショップ内ではできない これまでのデータベースとつなぐなどを行い、直接買い物はできなくとも色々調べたりなどに便利に使える物へと進化させようという意図はあるのではないかと期待してるのだけどね。いや、頼むよ。何とかそんな感じに 頑張って。
そしてこちら的には一番困っているのが昨年ぐらいから取り組んでいるバンドデシネ方面。こればっかりはパブリッシャーの方で日本で売ってくれないとどうしようもないというところなのだが。例えば最近読んだもので Europe ComicsからのJoaquim Diaz『Harden』なんてのは日本のレジェンド作品(だと思うんだがデジタル版未発行のようだしちょっと忘れられかけてるのかな?)林信康の『毒狼』(原作:猿渡哲也)を連想させる ハードアクション作品で大いに語りたいのだが、日本のアマゾンで買えないしなあ、となっちゃう…。ちなみに画像は米Amazonよりお借りしました。 以前も書いたけど英訳バンドデシネで日本から電子で簡単に変えるのは現在のところ『Incal』などのHumanoids作品だけなのだが、Europe ComicsやCinebookあたりも日本で売ってくれないかなあと切に思うものです。 自分でもちょっと様子見のところなのだけど、どうしても駄目そうならそのうち日本のアマゾンからでは買えないけど、ってところで強引に書くかもしれません。バンドデシネまだまだ語るべきこと多いよ。
というわけで、現在のところもしかしたらアプリの方にいくらか期待持てるかも、ぐらいになっているComixologyですが、何らかの進展やら後退などありましたらなるべくお伝えできるよう努めるつもりでおります。 この更新ペースで…?


なんか結構終盤まで来てあと少しかな、今週末ぐらいにはと思ってたところで、早川書房によるハードボイルドへの悪質極まりないいやがらせ「こじつけ法月ショック」事件が勃発し(前回追記参照)、あまりに腹が立って しばらくこちらまでストップしてしまいました。本当に価値もないことで時間を無駄にしたと反省しております。今後はこういったものを気にするのは一切やめて完全スルーして行こうと思います。 ナゾトキ痴呆だらけの日本ミステリなんて勝手に沈没してくださいってとこです。こんなもんに惑わされて間違った評価、方向に進むぐらいの国なんでしょ。勝手にしろや。日本のミステリ終わらせるには向かい合う「ミステリ評論家」2匹あれば事足りるってとこか。
で、相変わらずボンクラ失業者生活を送っている昨今なのだが、うーん、時間があるんだからもっとブログの方も書けると思っていたのだが、やっぱワシ根本的にバカなのだな。いや、なんかさあ、時間があれば そんだけアレも読みたいコレも読みたいで詰め込んじゃって、結局きゃー今日も時間ありませーんということになってたり。とにかくああいった不毛で無意味なことについて考えるのはやめて、シャミ子ちゃんの専用ぶきや とっておきを育てるという有意義なことに時間を使いつつ、ぼちぼちブログの方も頑張って行きたいと思います。



■Berger Books



■Black Crown




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