2016年6月28日火曜日

Dave Zeltserman / The Julius Katz Collection -名探偵とその助手登場!-

随分前にフリーで手に入れた短編を2本読んでみるというのをやって、そのうち読みまーすとか言っていたDave ZeltsermanのJulius Katzシリーズ第1短編集『The Julius Katz Collection』がやっとで登場です。
しかしコレ、なんで翻訳が出てないんでしょうか?読みながら何度も確認したのだけど…。それともどっかの隠し玉とやらで明日本屋に行ってみたら並んでいるのでしょうか?短編とはいえシェイマス賞を受賞しているし、掲載されているEllery Queen Mystery Magazineでも人気のシリーズだし。ちゃんと出せば年末のランキングでも20位以内は確実の代物だと思うのだが。もし本当にどこも押さえていないなら早い者勝ちで今すぐ隠し玉るべし!

それではこちらどんなシリーズかというと、名探偵Julius Katzとその助手Archieが活躍するというもの。助手のアーチーってどこかで聞いたことあるな、とそちら方面には少し弱い私がぼんやり思っていたところ、エド・ゴーマンによる序文を読んでやっとわかりました。(もうわかっている人の方が多いと思うけど…)こちらはあの有名なレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズをオマージュした作品だったのです。
名探偵Julius Katzはウルフ同様の名高い有能な名探偵で、さらに同様の美食家。仕事嫌いでその趣味的な自分の生活を維持するための銀行残高が少し苦しくなった時に嫌々依頼を受けるというところも同じ。しかし、あとはちょっと違っていて、身長6フィートで体脂肪1パーセントの鍛えた体にマーシャルアーツの黒帯。プレイボーイでギャンブル好きの弱点無しのイケメンオヤジ。
そして、この作品もネロ・ウルフシリーズ同様助手のArchieが語り手となるのですが、このArchieが驚き!2インチ平方の超ハイテクコンピューターで、常にネクタイピンとしてJuliusの胸にくっついているのです!このArchie君、Juliusによれば得意のポーカーで手に入れたということですが、出自は不明。Juliusにより探偵助手としてプログラムされ、Archieと名付けられているわけです。そしてこのArchie君、視覚聴覚の機能はもちろんのこと音声機能も備えていて、Juliusと会話する他、助手としてJuliusへの電話の受け応えなんかも行っているのです。依頼人が現れ、「あの感じの良い助手のArchieさんはいらっしゃらないの?」などと言われることも。そしていざ事件となればJuliusの前に現れた容疑者・参考人などあらゆる人物の個人データを様々にハッキングなどで完璧に揃え、Juliusの許へメールで届けるという最高に優秀な助手として活躍します。しかし、これほど有能・高性能でもどうしても名探偵Julius Katzには敵わない。いつかJuliusよりも先に事件を解決してやるぞ、と思い、仕事嫌いのJuliusに何とか依頼を引き受けさせようと考えながらJuliusの胸にネクタイピンとして留まっているのがこの作品の探偵助手Archie君なのです。
このような魅力的なキャラクターの登場するこのシリーズ、作者Dave Zeltsermanは元々はハードボイルド/ノワール系の作家なので、主人公Julius Katzはハードボイルド・タイプの探偵ということになっていますが、主な展開としては事件の関係者を集め、その中にいる犯人を卓越した推理とポーカーで鍛えた嘘を見抜く能力で見つけ出すというもの。そういうのお好きな人も多いんじゃないでしょうか。一応そういう設定なのと、これ以上余計にこの先増えるかもわからないカテゴリを増やすのも嫌なので、こちらではハードボイルドに入っております。まあ、毎度おなじみ繰り返しになるのですが、「ミステリと思ったらミステリではなく、ハードボイルドだった。」というような戯言を並べたがる狭量なミステリ分類家・認定家は私の最も軽蔑する部類の人間ですので、これを「ミステリ」などというカテゴリを作って入れたりするつもりは毛頭ありません。悪しからず。

この『The Julius Katz Collection』には7本のJulius Katz & Archieを主人公とするシリーズの短編が収録されています。それでは各話の簡単なあらすじを。

1. Julius Katz
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2009年 9/10月号 シェイマス賞短編賞、他)
今回Juliusが嫌々ながら面会した相手の依頼は家族問題。高齢の母親の介護をする姉妹が、自分たちではもう世話が難しいので施設に預けたいと考えるのだが、後見人で弁護士の男兄弟が反対しているので説得して欲しいとの事。自分向きの仕事ではないと断るJuliusだったが、相手側の強い頼みに付き合っているうちに殺人事件が起こり…。
最初の設定ではプレイボーイのJuliusなのですが、実はこの第1作で運命の恋人と出会い、あとは彼女一筋となるのでした。

2. Archie's Been Framed
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2010年 9/10月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第1位)
助手としてJuliusへの依頼電話を断っているうちに相手の女性と知り合い電話とメールで密かに交際していたArchie。だが、その女性が殺害され、第1容疑者はArchieに?
ここでArchie君は相手の女性に見せるために自分の写真をねつ造。その容姿はJuliusがプログラムのために使ったコンチネンタル・オプのイメージ。いつもJuliusのネクタイピンとしての位置からの視点で自分の身長は5フィートと考えているArchieですが、今回は相手の女性に合わせて少し足したりしています。

3. One Angry Julius And Eleven Befuddled Jurors
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2012年 1月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第9位)
陪審員として選ばれ、市民の義務として法廷に出席しているJulius。だが、裁判は延々と引き伸ばされ、以前から予約していた今晩の特別ディナーにも間に合わなくなる模様。そして、遂にJuliusが立ち上がる?

4. Archie Solves The Case
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2013年 5月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第1位)
高名なシェフからの依頼を引き受けるJulius。盗まれたレシピを取り戻してほしいという依頼だったが、捜査を始める間もなく依頼人が殺人事件の容疑者に…。
実は私それしか読んでないのだが、ネロ・ウルフ物の有名な『料理長が多すぎる』を思わせる作品です。タイトルを見ると「アーチー事件を解決する」だが、どうなるのか?

5. Julius Katz And Tangled Webb
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2014年 3/4月号)
Juliusの恋人Lilyの父親が殺人事件の容疑者に?地元ボストンを離れ、ニューヨークでのJulius & Archieの活躍。

6. Julius Accused
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2014年 6月号)
Juliusが出席したパーティーの直後、その屋敷から名画が盗まれ、出席者の一人がマスコミを通じJuliusの関与を喧伝し、糾弾する。無視し続けるJuliusだったが、その男が殺害され、容疑はJuliusに?

7. Julius Katz And The Case Of A Sliced Ham
 (このコレクションのための書き下ろし)
開幕直前の演劇のリハーサル中に出演者の一人が殺害される。容疑者は演出者と出演者全員。プロデューサーからの依頼を一旦は断るJuliusだったが、ある事情から引き受けざるを得なくなる。嘘の達人である役者たちの中からJuliusは真犯人を見つけられるのか?


名探偵Julius Katzの鮮やかな推理も見どころなのだが、なんといってもArchie君の語りが秀逸!あらすじなんぞを書いてみたところで伝わらないのがもどかしいところなのですが…。読んでみれば誰もがArchie君のファンになることは確実!んー、まあ、世の中には「いくらなんでもこのサイズでここまでのハイテクは現代の技術では無理がありすぎる」とか言い出すフィクションと現実の区別がつかない困った人もいるけどね。

作者Dave Zeltsermanは1959年ボストン生まれで、2004年『Fast Lane』でデビュー以後、ノワール、ホラーなどを中心に多くの著作のある作家です。ホームページを見ると、映画化進行中のものもいくつかある様子。以前に読んだ短編『Mind Prison』は全く毛色の違う作品で、どちらが元のスタイルとかいうよりは色々書ける職人的な作家なのではないかと思います。
こちらのJulius Katzシリーズですが、現在他に長編『Julius Katz and Archie』が刊行されています。どちらも発行はTop Suspense Booksというところになっているのですが、検索してみてもホームページなどは見つかりませんでした。本作のペーパーバック版の版元がCreatespaceでもあることから、Zeltserman氏の個人出版ではないかと思われます。ちなみに長編『Julius Katz and Archie』はKindle版のみ発行。Julius Katzシリーズはその後もEllery Queen Mystery Magazineにて年2回ぐらいのペースで掲載されているようなので、『Collection2』がお目見えするのは2~3年後というところでしょうか。
ちなみにEllery Queen Mystery Magazineは、日本のアマゾンからKindle版を読むことはできないのだけど、アプリが出ていてそちらから読むことはできるようです。まだよく見てないのだけど、とりあえずiOSのをインストールしてみました。1冊480円で(2016年6月現在)、年間購読のオプションもあるようです。

今回は自分的には少し畑違いのものですが、まあ自分の守備範囲の流れでちょっと違っていても面白いのが見つかればまた取り上げていきたいものだと思っております。ただ何分畑違いのものなので栽培法もよくわからんので、このまま枯らせてしまう恐れもありますので、こういうのが好きな人が独自に育てて行っていただければと思います。これってもしかしたら本国より日本で人気出るタイプのかもしれないですよ。翻訳が出るならカバーはフロスト警部やアルバート・サムスンみたいな感じのイラストのが良いのではないかと思います。とか、色々言ってて明日本屋に行ったら本当に並んでたりして。明日どっかの本屋の翻訳書コーナーの前でブッ倒れてる変な奴がいたらたぶん私です。


Dave Zeltsermanホームページ

Ellery Queen Mystery Magazine


●関連記事

Mind Prison / Just so You Know I'm not Dead -短篇(集)2本立て-



【お知らせ】
ここでついさっき発見したセールのお知らせです。Down & Out Books発行のGary Phillipsの『3 The Hard Way』が7月1日まで限定で0.99ドル!Gary Phillipsはコミックのライターなどもやっているクライム・フィクションの作家のようですが、詳しいことはあまりわかりません。内容は中編クライム・フィクションの3本立てということです。版元Down & Out Booksは少し前に見たときは10冊ぐらいしかなく、そのうちにと思っていたのですが、ついさっき見たら急成長してずいぶん沢山の本が並び、あのAnthony Neil SmithのBilly Lafitte第4作やAnonymous-9姐さんの『Hard Bite』シリーズなどもラインナップに入りアメリカでは最要注目パブリッシャーとなっている模様です。その辺についても近日中にもっと調べて行くつもりですが、とりあえずはかなり信用のおけるところからの1冊ということで。期間も短いので気になった人はお早めに。

Gary Phillipsホームページ

Down & Out Books


●Dave Zeltserman

■Julius Katz


■その他のDane Zeltsermanの著作




Gary Phillips / 3 The Hard Way


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2016年6月22日水曜日

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] 後編

2000AD 2015年夏期後編です。後半の目玉はデス・ワールドでのDark Judge達の過去を描いた『Dark Judges』。というわけでトップ画像の方は、2015年冬期に掲載された『Judge Dredd』のGreg Staplesが2年かかって完成させたDark Justiceの単行本のものです。Dark Judgeについては、以前よりは少し情報も増えたので、そちらについてはのちほど。


Jaegir : Tartarus
 Gordon Rennie/Simon Colby

2014年春期に6回のミニシリーズとして掲載され反響を呼び、本格シリーズ化され続く夏期に6回のシリーズ、年末スペシャルにはワン・ショットも掲載された2014年最大のヒット作の第3シーズンです。ちなみに画像は、出てくるたびにケチをつけてしまうPaul Marshallなのですが、これは彼の持ち味の気持ち悪いユーモアが生かされていて結構好き。Jaegirはいないけど。
ちょっと設定が難しいシリーズなのでここでまとめておくと、このシリーズ元々は2000ADの過去の名作『Rogue Trooper』と世界観を共有するもので、NortsとSouthersの二勢力が戦争を続けている話で、Rougue TrooperがSouthers側だったのに対し、JaegirはNorts側ということになっています。主な戦場となったのはNu-Earthという惑星で双方が生物兵器・化学兵器を使いまくり惑星は汚染され、常に防護服・マスクが必要で、画像のような姿になっているわけです。主人公の女性士官Jaegirは戦争犯罪捜査チームの隊長で、有力な軍人一家の出身なのですが、母親がSouthersの人間ということで兄弟の中でも疎まれながら育ち、父親との関係も少し複雑なものであったようです。そしてその父親も戦死、兄弟のほとんども戦死しているという状況です。
Jaegirらチームは視察のためTartarus守備隊を訪れる。捕虜の扱いなどに疑問を持ちながら、Jaegirらは表向きの視察の裏で密かに内偵を進める。しかし、司令官らに発覚し、チームは捕縛。JaegirはSouthersの捕虜とともに、基地に隠されていたStorigoiの感染者の獣人たちに襲われる。
Storigoiは第1シーズンに登場したSouthersの細菌兵器で、感染した者は凶暴な獣人と化して敵味方関係なく襲い掛かります。毎回事件と並行してJaegirの回想という形で過去が少しずつ語られ、最後にこの先に続く大きな秘密が少し明かされるという展開。ミリタリー・アクションとしても迫力もあり、申し分ないのですが、背後に見える大きな物語がなかなか始まらないのが少しもどかしいところ。ライターは前編『Absalom』のGordon Rennie。作画Simon Colbyは線とベタの陰影の組み合わせが特徴の上手いアーティストなのですが、なんかいつもJaegirの体にピッタリした軍服が却って色気がないように見えてしまうのだが…。

The Ailienist : The Haunting Of Hex House
 Gordon Rennie & Emmy Beeby/Eoin Coveney

前年の冬の増刊号Winter Specialに掲載された単発の作品がシリーズ化ということらしいです。ちょっとそちらまで手が回らず未見で申し訳ないのですが。20世紀初頭のイギリスを舞台にした女性霊能者Madelynが主人公のホラー作品です。
1908年イギリス。新聞社の主催によりさまざまな呪いが伝えられる屋敷に心霊関係の権威が集められ、呪いの真相解明のための調査が行われる。降霊会が始まると出席者の一人の頭が蝋燭のように溶け始め死亡する。予想外の危険に慌て、出口に殺到する出席者たち。そのとき、Ailianistを名乗る初老の男Sebastianと謎の美女Madelynが現れ、今外に出れば全員死ぬと告げ、彼らを屋敷内に留め、調査を始める。そして、その中からは、当初の曖昧な噂を上回る恐るべき恐怖が現れ始める。
SebastianはMadelynの助手で、実は特別な能力はありません。最初は屋敷内のその道の権威を説得するためにかなりハッタリ的な言動をするので、読み始めたばかりでキャラクターもよくわからない時点では本物なのか読んでる方もよくわからなかったりするのが面白い。二人のやり取りもユーモアがありキャラもよくできている感じ。後半のホラー的な盛り上がりもよく、この先期待できるシリーズになりそうです。ここでまたしてもGordon Rennieの登場ですが、今度は共作で原案ぐらいのところなのかもしれません。Emmy Beebyは2015年冬期の『Survival Geeks』でもRennieの共作者としてクレジットされています。ちょっと他の作品についてはよくわからないのですが、Titan Comicsの『Doctor Who』なども手掛けているようです。ちなみにTitan ComicsってComixologyとかで見てもそこそこ大きめで、てっきりアメリカのパブリッシャーだと思っていたのだけど、イギリスのだったのですね。まだまだ知らないことが多いなあ。作画のEoin Coveneyはアイルランドの結構有名なイラストレーター/コミック・アーティストらしいです。この作品では白黒の迫力のある美しいペン画で、私もまだその辺手を付けたばかりでちょっと知ったかぶり程度ですが、EC、Warrenあたりを思わせる、というところなのではないかと思います。

Grey Area : Contact/First Bite/Feeding Frenzy/Deadline
 Dan Abnett/Mark Harrison

今期は全4回と短く、カバー画像もナシ。異次元の惑星に到着し、その星のGrey Areaに収容されそこにもエイリアンの脅威が迫るのだがBullet達には打つ手も無し、という感じで終わった春期に引き続きの登場です。
前回最後に、絶望した地球人クルーの一人が図った飛び降り自殺を食い止めたことによりGrey Area管理者に貸しを作ったBullet達は、上層部との会見の機会を得て、そこでGod-Starの危険性を訴えることで彼らを含む調査隊の派遣に漕ぎつける。ドローンの降下地点に向かった調査隊は敵の猛攻撃に出会い、多くのメンバーが死亡する。しかしようやくこの事態が星の存亡にもかかわる危機であることを納得させ、対策へと動き始めることが可能になる。だが、近づくGod-Starに彼らの反撃は間に合うのか?
結構おなじみになってきた私も楽しみにしている、もはや英米共に大作家であるDan Abnettによるシリーズ。果たしてBullet達はこの世界でもGod-Starを撃退し、地球に戻ることができるのか?Mark Harrisonのアートは毎回本当に素晴らしく、日本でも一人でも多くの人に見てもらいたい。とりあえずはまず画像検索を!

Dark Judges/Dream Of Deadworld
 Kek-W/Dave Kendall

2015年冬期のDreddの大作Dark Justiceに登場したドレッドの宿敵Dark Judge達の元々の世界デッドワールドでの物語。今回のシリーズはアーティストDave Kendallのイメージをもとに、『The Order』(2015年冬期)などのKek-Wがストーリーを作り上げたものということです。
さて、2015年冬期について書いた時点では、Judge Death初登場の話は読んだものの、3体の同僚Dark Judgeについては不明だったのですが、その後に進んだ『Judge Dredd Complete Case File 05』にその後の話を見つけました。初登場が1980年1月で、続くストーリーは翌81年8月に掲載されました。初登場の話の最後で、ジャッジ・アンダーソンが霊体のJudge Deathを体内に封じ込めたままプラスチックで固められ、事件は辛うじて解決したわけですが、アンダーソンはそのままシティを救った英雄として博物館に展示されています。続く話ではJudge Deathの次元デッドワールドからDeath救出のため3体のDark Judge、Fire、Fear、Mortisが現れ、テレパシー能力を持った男を脅迫し、博物館に展示中のアンダーソンのプラスチックを破り、Deathを解放させます。そして、Dark Judge達はその男の体を使いDeathを復活させ、ひとつの居住ビル(Mega-City Oneでは町ぐらいの規模)をサイコバリアで封鎖し、中の人間たちを殺し始めます。ドレッドも中に入る手段を見つけられずにいるところへ、Deathの解放とともに蘇生したアンダーソンが駆けつけ、その能力でバリアを突破しドレッドとともに中に侵入。バリアの装置を破壊され、追い詰められたDark Judge達は自らのデッドワールドに逃亡。彼らの残して言った装置を使い、ドレッド達も後を追い、アンダーソンがその世界でDark Judge達に殺された人々の怨念とチャネリングすることで4体のDark Judgeを倒します。その後Deathを除く3体のDark Judgeがクリスタルに封印されるまでの長い話がここから続いて行くわけですが、とりあえずDark Judge達の初登場の話はこんな感じで、私が読んでいるのはそこまで。とりあえずまた続きがあったら折に触れ書いて行くつもりですが、『Complete Case File』についてもそのうちにちゃんと書いていこうとは思っています。
今回登場のシリーズは、ドレッドは登場せず、全4回のそれぞれが一人のDark Judgeを主人公としたものです。

1. Fire
生命ある者がすべて消えた世界で一人Judge Fireは回想する。彼のもとを去り水中の城に逃げた彼女を殺した日のことを…。

2. Mortis
全ての者を殺しつくしてしまった世界。Judge Mortisは目的のない虚無的な日々を送っていた。そこに不時着した見慣れぬ宇宙船。生命に満ち溢れた星から来たという異星人の言葉に驚喜し、Mortisは自分もそこに連れて行ってくれと頼む。だが、山のように遺体を積み上げた彼の住処を見てMotisの正体に気付き恐怖する乗組員たち。彼らを全て殺害したMortisは、発せられた救難信号をたどり救助の宇宙船が来る日を待つ。その船がまた多くの生命を奪うために自分をその世界に連れて行ってくれる日を…。

3. Fear
Judge Fearは同僚とともに犯罪である生命を浄化していた日々を回想する。ある日、Fireに挑発されFearはその能力でひとつの建物の住民全てを抹殺すべく乗り込んで行く。中にいる者はFearの姿を見た途端に内なる恐怖のため次々と自滅して行く。だが、最後の部屋にいた少年は両親の復讐を叫びながら正面から彼に向かって来た。少年を窓から放り出し殺害したFear。だが、彼は今でも考える。あの少年にはなぜ自分の能力が効かなかったのか…。

4. Death
世界の罪の浄化が終わった後、Judge Deathはすべてのその世界に残ったJudgeを招集する。同僚の一人、Omenが何者かに殺害されたと告げる。しかしその予知能力で来るべき恐ろしい未来を見てしまったOmenを殺害したのはDeath自身だった。そしてその招集は、真に信用できる自分と同じ意思を持った3人のJudge以外のすべてを抹殺するための罠だった…。

ライターKek-Wはまだ2000ADでは新しい人のようですが、ちょっと調べてみたらミュージシャンでもあるナゾの人。(ホームページ KID SHIRT)ちょっと前に書いたときは名前をKen-Wと間違えていました。すみません。そのうち直します。毎回2000ADでは異例の1ページのタイトルページから始まるというように、アートメインの作品ですが、おどろおどろしいストーリーも見どころです。Dave Kendallはトレーディング・カード・ゲームなども手掛けるイギリスでは有名なイラストレーター/コミック・アーティスト。画像検索すれば素晴らしいアートが山ほど出てきます。ホームページはこちら。(Rusty Baby.com)2016年春期には同コンビによる続編も掲載されています。

前後編に渡りました2000AD2015年夏期も何とか終了です。書いてから気づいたけれどPat MillsのほかにもJohn Wagnerも夏休みと、2大巨匠不在の夏期でしたがなかなかの充実した内容でした。前編最初に書いたような事情ですので、続く秋期についてもすぐに書く予定です。2000号目指して頑張るであります!


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2000AD 2013年秋期 [Prog1850-1861,2014]

2000AD 2014年冬期 [Prog2014,1862-1873]

2000AD 2014年春期 [Prog1874-1887](前編)

2000AD 2014年春期 [Prog1874-1887](後編)

2000AD 2014年夏期 [Prog1888-1899]

2000AD 2014年秋期 [Prog1900-1911, 2015]

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (前編)

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

2000AD 2015年春期 [Prog 1924-1936]

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] 前編


'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

2016年6月15日水曜日

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] 前編

今回はやっとの2000AD 2015年夏期なのですが、ここでお知らせ!あまりにも日々ぼんやり暮らしている私ゆえ、今年の秋には2000ADも2000号だなー、などと他人事として見ていたのですが、まあさすがに読み始めた頃よりは早く読めるようになってはいるし、今から頑張れば2000号までにオレも追いつけるんじゃね?と、つい先々月辺りやっとのことで気付いたのでした。そこから少し頑張り、現在は読む方だけは秋期も過ぎ、2016年内に到達しており、このままあと3か月ちょい、9月末の2000号発売の週末には「これがProg2000だ!」というのをお届けするべく努力中であります。そうなると、その前に2016年春期まではやっとかなきゃならなくなるので(Prog2000は秋期の開始号となるはずなので)今後しばらくはコミック方面は2000AD率が高くなりますことをご了承ください。でもせっかくやってるんだからちゃんと2000号はやらないとね!

では今回の2015年夏期のラインナップから。

 Judge Dredd
 Absalom [Prog1934-1942]
 Helium [prog1934-1945]
 Outlier [Prog1935-1944]
 Jaegir [Prog1937-1944]
 The Alienist [Prog1944-1949]
 Grey Area [Prog1945-1948]
 Dark Judges [Prog1946-1949]

ということになっていて、全16号と少し長めの今期はProg1945あたりを境に前半後半に分かれる感じになっています。そんなわけで、ちょっと急いでいるところではあるのだけど、今期は前編後編という形になります。
そして今期前半のトップ画像は、結構どれもいい作品ではあったのだけど、前年より続くRob Williams/Henry FlintによるTitanサーガ最終章の掲載されたJudge Dreddとなりました!ちなみに今期は昨年同様巨匠Pat Millsは夏休み!

Judge Dredd
 1. Blood Of Emeralds : Michael Carroll/Colin MacNeil (Part1-6)
 2. Enceladus - Old Life : Rob Williams/Henry Flint (Part1-8)
 3. Ghost Town : Ian Edginton/Dave Taylor (Part1-2)

1. ジャッジの一人であるFintan Joiceが自宅で襲撃される。襲撃者の目的はその時に届いた小包で、その中身はEmerald Iselのジャッジであった彼の父が銀行の貸金庫に預けていた様々な所持品だった。捜査に当たるドレッドは、JoyceとともにEmerald Iselへ向かい、そこでJoyceの父について調べるうちに、Emerald Iselに隠された秘密を暴き出す。
読み始めた時にはわからなかったのだけど、のちにお便りコーナーの読者からの指摘でEmerald IselがJudge Dreddの中でのアイルランドであることを知りました。言われてみれば、コミックなどでもよく見るアイルランドの感じなのだけど。こういうのが出てくるのもイギリスのコミックならではですね。Fintan Joyceについてのエピソードも、過去の2000ADかMEGAZINEにあったと書いてあったのですが、どちらだったか忘れてしまった…。作画は、主にJohn Wagnerとのコンビで最近のDreddをよく描いているColin MacNeil。
2. こちらは春期のEnceladus - New Lifeに続くTitanサーガの最終章。無人と思われていたEnceladusからの宇宙艇からEnceladus同様の極低温、吹雪が広がり始め、Mega-City oneへと襲い掛かる。その中にいたのは彼らがEnceladusで遭遇した異様な生命体へと姿を変えたTitanからの逃亡者達だった。氷でできた彼らの体に対抗できる武器も見つからず、Cityは危機に見舞われる。チーフ・ジャッジHersheyは重傷を負い、ドレッドも投下したナパームに背中を焼かれながら、最後の戦いに挑む。
最近のJudge Dreddの中でもHenry Flintの素晴らしい作画も併せてベストのシリーズではあるのだけど、最後はもうひとひねり欲しかったところ。まあ、1号あたりの掲載が5~7ページぐらいなので、2000ADの作品では最後の盛り上がりに欠ける印象がしばしばあるのですが。
逃亡者たちのリーダーである元女性ジャッジNixonと関係が深い『Low Life』(2014年末特大号Prog2015にワンショットが掲載。)の主人公Dirty Frankにドレッドは協力を求めます。そちらのシリーズは同じRob Williamsの作品で、Nixonはそちらに登場したキャラなのかもしれません。どちらにしてもTianに収容されたのがChaos Day以前になるので結構前のエピソードになると思います。終盤ドレッドがバイクも失い、万策尽きたところで馬が現れ、ドレッドの足となるのですが、またしてもお便りコーナーの読者の指摘によると、この馬はJudge Dredd MEGAZINEに掲載された話に登場した馬だそうです。こうやって説明不足のところを読者が補完してくれたりするので2000ADは隅々まで読まなければならんのです。
3. Chaos Day以後の立て直し途上でさらに大災害に見舞われ、人員不足を補うため退職、引退したジャッジや自警組織などの人員を補佐として登用するThe Ranger ProgrammeがJustice Departmentにより計画され、基本的には計画には反対の考えのドレッドが試験段階のチームの監督役を務めることとなる。予備訓練を終え、現場に出たチームはたちまち大きな危機に遭遇する。
2話構成ですが、それぞれ長めの12ページで、3話ぐらいの長さになるストーリー。ライターは『Brass Sun』などのIan Edgintonですが、この世界のジャッジの在り方を問うJohn Wagnerに迫る重さを感じさせる作品です。個性的なオリジナル作だけでなく、これからの2000AD、イギリスのコミックを背負って立つ作家の一人と言えるでしょう。作画のDave Taylorは1990年マーベルUKで描き始めたということなので結構なベテランで、バットマンなども含む多くの作品を手掛けているアーティスト。メビウスなどにも影響を受けたということで、、その辺を感じさせる線とカラーリングで、独特の世界を見せてくれます。

Absalom : Under A False Flag
 Gordon Rennie/Tiernen Trevallion

2013年末特大号にこの先の展開を思わせるワンショットが掲載され、すぐに始まるのかと思っていたら、結構経ってやっと再開された作品。以前よりは様子もわかってきたのでもう少しまともな解説ができます。なんだかそもそもが他のシリーズからのスピンオフということらしいのですが、2011~12年に掲載された後、しばらくの中断があっての再開となります。(単行本1冊あり)これは、主人公Harry Absalom警部補をリーダーとするロンドン警察悪魔課の暗黒の力との戦いを描いたシリーズ。悪魔課はわかりやすそうなので勝手につけた名称。そしてこのAbsalom、悪魔により愛する孫を地獄にさらわれ自らの体も致命的な癌に冒されるという目に遭いながらも、悪魔との戦いに一歩も退かず、常に不敵な笑みを浮かべながらところ構わず悪口雑言のワイズクラックをぶちまけ続けるという最高に格好いいジジイなのです。
今回のストーリーは、ロンドンの路上で起きた刺殺事件に端を発する。その被害者は服を残し体は炭化し、現場に儀式的な短剣が残されていた。殺害されたのは悪魔に取りつかれた人間とみて、Absalom以下悪魔課の出動となり捜査が始まる。遺留品の短剣から、この事件には教会が関わっていると睨むAbsalom。そしてその背景には教会により運営されていた孤児院での隠された過去の秘密があった。
以前のワンショットで登場した元同僚も出所、チームに加わり、新メンバーも加入で、今期は新たな展開に向けての序章という感じでした。ライターGordon Rennieは、あのローマの狂戦士『Aquila』など多くの作品を持つ、2000ADの中心ライターの一人です。今期は前半ではこれと『Jaegir』、後半には新シリーズと、大活躍。作画Tierren Trevallionはシンプルで割と均質な線に陰影で強弱を付け、ベタのグレイトーンとグラデーションで仕上げる素晴らしい独特のタッチ。この手法は日本の漫画家にも参考になる人は多いのではないかと思います。

Helium : Helium
 Ian Edgington/D'Israeli

あの『Stickleback』のコンビによる新シリーズ!だが、今期はカバー画像なし…。実は私も一番の注目で、2000ADでもかなり力を入れ、初回は増ページだったりもするのですが、色々なスケジュールなどの関係でそこまで手が回らなかったというところなのでしょう。絵の方を見たい人はHelium D'Israeliで検索してみるとよいかと。
今後もかなり期待されるシリーズでもあるので、設定も含め少し詳しく解説します。大規模な戦争の後の世界。地表の大気は毒に冒され、人々はそのガス帯の雲の上の高地で、少し文明の後退した生活を営んでいる。移動手段は複葉機、プロペラ船など。主人公はこの山上の町の女性巡査Hodge。亡くなった父の跡を継いでこの仕事に就いているが、実の子ではなく、赤ん坊の時近くの地で放置されているのを発見され、育てられた。色が白く、この土地とは別の出身と思われている。相棒も出自不明の機械仕掛けの体の大男。顔は人間に見えるのだけど普通の肌ではないらしい。プロペラ船が雲の下から攻撃され、難破するという事件が相次ぎ、不穏な事態が懸念されているある日、雲の下から見たこともないタンクに乗り、一人の男が山を登って現れる。男の話により、Hodgeはガス帯の下でも人々は生き残っていて都市が存在することを知る。そして両者の間の毒ガス帯は危険なミュータント達の世界となっていることも。その男は地表の都市の科学者で、毒ガスを除去する研究をしていたが、その過程で多くのミュータントを死なせてしまい、彼らに追われ逃げるうちにこの町にたどり着いたと語る。そして、男を追ったミュータント達が町に現れ、Hodgeは相棒、科学者とともにプロペラ機で脱出する。一旦は難を逃れたものの、次は地表の都市の軍の巨大プロペラ船に遭遇、捕獲される。そこでHodgeが、地表の政治的理由で暗殺された一族の生き残りであることが発覚し、彼女の抹殺命令が下される。かつての一族の味方であった将校の手助けにより、脱出したHodgeだったが、撃墜され、彼女と仲間の乗った機体はガス帯に消えてゆく。
結構長くなってしまったのだけど、他にも色々なキャラクターや、空中戦などの見せ場もあります。またしても2000ADの人気シリーズの一つとなって行くのが確実な新作!キャラクターにしても世界観にしても、本当にEdingtonは凄いなと思います。Vertigo『Hinterkind』なども早く読まねばと思っているのだが。『Stickleback』ではモノクロの版画のようなタッチを使っていたD'Israeliですが、今作ではシンプルな線にカラー。『Brass Sun』I. N. J. Cullbardを思わせるところもあるのだけど、D'Israeliならではの部分もあり、今後どうなって行くのかとても楽しみな作品です。

Outlier : Dark Symmetries
 T. C. Eglington/Karl Richardson

2014年春期に掲載されたシリーズの第2シーズン。設定なども良かったのだけど、タイトルになっている宇宙船Outlierの事件が終わってしまったので、単発のシリーズかと思っていたのですが、続きが始まり本格的にシリーズ化となりました。前回の際、省いてしまったのだけど、主人公のCarcerは過去に異星人Hurdeに捕えられ逃亡することができた数少ない人間の一人です。今回はそんなCarcerの過去が深く関わってきます。
Outlier事件の後、Carcerは精神を破綻し、施設に収容されていた。そんなCarcerの許を訪れたLuthra大佐は、自らの任務のため彼を連れ出す。そこは一切公表されないまま軍が密かに捕獲した事故で見捨てられたHurdeの宇宙船だった。だが、船に入るとCarcerの体はHurdeのシステムにリンクされ、宇宙船を回収するために動かし始める。そこにOutlier事件の復讐者Caulが肉体を再生され、サポートのために現れる。しかし、Caulの真の目的は別のところにあった。この船を使い、Outlier事件で共に捕獲された恋人を救うの計画に協力するようCarcerに求める。そしてその見返りとして、捕獲されているCarcerの両親も脱出させることを提案する。
SF作品が多い2000ADの中でも結構ハードSF寄りで、アレステア・レナルズとかコミックにしたらこんな感じではないかと思ったりします。T. C. EglingtonはDreddなどでいくらか名前を見ていたけど、今のところはこの『Outlier』が代表作になるようです。Karl Richardsonはちょっと劇画調といった雰囲気の画で、ドロドロした人間関係を描くのに合っている感じ。本格シリーズ化したこの第2シーズンでは、次シーズンへの続きを残す感じで終わっています。

というところで前編は終了、残り4作は次回後編で。どうも遅れが取り戻せず、週末で終わらず翌週平日まで引っ張ってしまっているところなのですが、先を考えるとあまり短く書けそうなのを挟んで調整するわけにもいかず、また予定しているのも長そうなのばかりで少しきついところなのですが、とりあえずは2000ADの遅れを取り戻すためにも週一を維持して行かなければ。前回おまけとかやんなきゃよかったかな~。何とか頑張ろう。ではまた来週に。


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2016年6月7日火曜日

Mike Monson / Tussinland -All Due Respect Books第3弾!-

自分としてはかなり注目し、ホームページもよくチェックしているAll Due Respect Books(以下ADRB)なのですが、読む方はなかなか進まずやっとで3冊目。今回はADRBの共同設立者でもあるMike Mansonの長編デビュー作『Tussinland』です。


【あらすじ】

主人公Paul Dunnは、元教師の四十代ダメ男。妻はドラッグ・ディーラーに取られ、現在は母親の家に居候中。ソファで好きなテレビ番組を観ること、そして咳止め薬Robitussinでトリップすることが数少ない楽しみ。今夜もRobitussinを手に入れ部屋にこもるが、あいにくのバッド・トリップ。そして、悪夢から目覚めると警察が訪れ、彼の妻と愛人が殺されたと告げる。
突然の悲報にうろたえるPaul。だが、警察は彼を最も可能性のある容疑者として連行する。

そして、このModestoに暮らす、彼の一族たちもさまざまに動き始める…。
六十代になっても色気の衰えぬ、警官好きの母親Mavisは、早速刑事Faganに誘いをかけ始める。
Paulの姉Bethanyは夫Peteとともに町で不動産会社を経営するが、内情は火の車。夫Peteは最近商店街に教会を建て、そこで神父を名乗っている。彼の教会にはキリスト教原理主義に基づいた過激な思想の怪しげな男たちが出入りしている。
BethanyとPeteの娘Mirandaはセルビア孤児の不良少年Loganと同棲中。そして、この二人こそがPaulの妻Tinaと愛人のドラッグディーラーMikeをショットガンで殺害し、大量のヘロインを持ち去った犯人だった。

ちょっといきなりネタバレをしてしまったように見えるのだけど、実はこの作品、この二人による犯行シーンから始まり、あらかじめ犯人が分かっているという状態で進んで行きます。主人公であるダメ男Paulを中心に、さまざまなキャラクターの行動が入れ替わりで描かれるというタイプのストーリーで、そのまま上から書くと分かりにくくなりそうだったので若干整理しました。物語は犯行を押し付けられ殺人犯にされそうになる哀れなPaulの災難を軸に、次第にそれぞれのキャラクターの正体、思惑が明らかになって行くという展開になって行きます。

舞台となっているModestoはカリフォルニア州に属しているとは思えない田舎、という風に書かれているのだけど、調べてみたら人口は20万以上だったり。日本とは人口密度なども違うのだろうけど。作者Mike MonsonはこのModesto在住だそうで、アンソロジー『All Due Respect』収録の作品「Criminal Love」でもModestoが舞台となっています。
救いようのないダメ男のPaulとそのかなりイカれた血縁たち、さらに危ないキャラクター達も絡まり、スラップスティック的ともいえるストーリー。日本で言えば戸梶圭太あたりに近い感じかも。どこに向かって行くのかわからないストーリーが、最後には初期ガイ・リッチー風にすとんと収まり、終わってみると少しいい話に見えてきたりもしました。前後して語られるさまざまなエピソードが、少しバランスが悪かったり全体のリズムが不安定なところもあるのだけど、その辺はこの先書き慣れるにつれ上達して行ける部分でしょう。
なーんかこの手のチープな犯罪を描いたものを見ると「よくある話」みたいなレッテルを張る利口ぶった輩をよく見かけるけど、大掛かりな国際的陰謀とかいう話でも結局巨悪の動機とか意図なんてわかりやすい紋切り型のまたこの手のねって退屈なやつも多いじゃないですか。私はこんな考えも展望も浅いけど個性的なチープな悪党や馬鹿者が、取り繕い走り回る「よくある話」が大好きです。

Mike Monsonは前述のとおりカリフォルニア州モデスト在住で、弁護士事務所で働いていて、現在58歳だそうです。ADRBの共同設立者であるChris Rhatiganが見た感じ若いので同年齢ぐらいかと思っていた。作家として活動を始めたのは割と最近のようで、現在のところ他に中編数本と作品集を出しています。その辺の苦労について書かれた「My indecent proposal to writers: never quit your day job」という記事が最近のブログに掲載されていて、ちょっと長いのでまだざっとしか読んでいないのだけど、なかなか興味深いものもあります。この作品はわりとユーモアを多く含んだものですが、他のものはもう少しダークなもののようです。現在、このシーンのインディー・パブリッシャーとしては最も勢いのあるADRBとともに、これからも色々な作品を書いてくれることを期待しています。

さてそのAll Due Respectなのですが、こちらがもたもたしているうちにも次々と新作を出版し、もう20作以上に達しています。ただその一方で、最初に始まった同名のアンソロジーは昨年8月の第7集で終了しています。編集に手間がかかる割には売れ行きが今一つということで、断念し、今後はBooksのほうの出版に専念する旨が同9月ホームページ上でRhatigan氏によって告げられました。新しい作家を見つける場として注目しつつも、実際にはなかなか読めていない現状で、自分としても耳が痛いところ。気になるアンソロジーも随分あるし、とにかくこれはと思っている『Thuglit』にしてもさっぱり進んでいないし。まあそちらの方は自分が努力するにして、All Due Respectは実際その空いた力を注入し、怒涛の勢いでBooksに絞り出版を続けています。別にここから未来のアメリカを代表する作家が出るとかどうとか関係ない。ADRB及びRhatigan&Monson氏は確実に信頼できる私の読みたい本を出してくれるのだ!こーなったら次からは2冊ずつ行くぞ、などとひそかに思いつつ、今後もADRBには最注目し、応援して行くつもりであります。


Mike Mansonホームページ

All Due Respect


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【おまけ】

たまには少し翻訳された本についても書いてみようかと。今年4月末にハヤカワ・ミステリ文庫から発行されたトム・ボウマン作『ドライ・ボーンズ』、2014年MWA賞最優秀新人賞を受賞した作品です。あらすじについては面倒なのでアマゾンとかを見てください。「厳しい自然に囲まれた…」とか書いてあって、C・J・ボックス風のやつかなと思って読み始めたのですが、ちょっと違いました。で、どういう作品かというと、アパッチ野球軍みたいな山奥のど田舎で人情派の駐在さんが歩き回って事件を解決するというような話。まあ、日本では人情派みたいなのは人気に見えるけど、この国のテレビ屋などのモラルがオレオレ詐欺レベルで「もういい人でいるのはおやめなさい」が信条のせいか、とかく人情家や正直者は少し頭が弱いように描かれがちですが、実際には他者への思いやりっていうのは人間の知性の大変重要な部分なのは言うまでもありません。そしてこの作品の舞台ワイルド・タイムは、田舎といってもほのぼのとした人情あふれるところではなく、貧富の差やらさまざまな長年の因縁やらで結構ギスギスしたところでもあります。そんな町で、この主人公ヘンリー・ファレルは、悲しい過去を持ちながらも、こんなところじゃ俺ぐらいでも人情で考えないと悪くなるばかりだろう、というのを男の生きざまとして声高に標榜することも、百数十ページごとに「あなたは立派な人だ」と確認してもらうこともなく、当たり前の信条として持ち続ける素晴らしいハードボイルドな人物なのです。
そしてそのファレルさんが、「あのジジイも相当の変人の上随分呆けちまってるけど、まさか人殺しはせんだろ」とか、「あいつらも仲は悪かったけど、だからって殺したりはせんだろ」というような具体的な根拠には欠ける人情のみに基く思いを抱きながら、事件現場の山を巡回し途中で昼寝したり、しょっちゅう滑ったりぬかるみにはまったりして機会があれば靴を脱いで臭そうな足を拡げ、関係ありそうな人に話を聞きに行き、関係はないけど悪い人を捕まえたりと、なんか樹でも揺すって手掛かりが落ちてこないかというような大雑把な捜査を繰り広げて行くわけです。雄大で美しい自然というものも描かれますが、その一方で不法投棄物や倒壊寸前のあばら家などもある意味同じ目線で描かれ、そしてそこに住む人々とともにワイルド・タイムという田舎町を形作って行きます。そして事件は解決しても曖昧な謎も残り、それが過去数多くの様々な傷を負ってきたこの土地の新たな傷となって行くことが示されながら物語は終わって行きます。
カントリー・ノワール/ハードボイルドの秀作!昨今の出版事情から鑑み、賞の肩書付きの人気ジャンルの安パイ狙いかニャなどと疑ってすみませんでした。印象深いシーンも多いのだけど(おお「スティル・ハンター」!)、少し全体的に平板に感じられるところもあり、まあ、そこはデビュー作ゆえに話を進めるのを急ぎすぎちゃったのかなと思ったり。この先作品を重ねていくうちにさらに優れたものを生み出し、トム・ボウマン風とか表現されるぐらいの大作家になる可能性を垣間見せてくれる作品です。いわゆる「ミステリー」の本道みたいなところからは少し外れている作品だけど、ちゃんとそういうものを見出し選定するのはさすが。そうでなくてはミステリに未来なんて大してないよ。こういう作品の翻訳が出たのは大変喜ばしいことですが、まあ予想されるC・J・ボックスみたいなのだと思い込んだまま読んだ人や、偏狭なミステリ分類家、認定家による風評被害がなるべく広がらないことをとりあえずは願うばかりです。
…とはいったものの、やっぱりあんまり売れないかな?可能性は低そうだけど続きも翻訳が出るのを願うばかりですが、まあ出るにしろ出ないにしろ、2作目が出版されればなるべく早い機会に読むつもりです。今のところ2作目については予定もアナウンスされていないのだが、遅筆なのか?それともパブリッシャーとの新しい契約に時間がかかっているのか?いずれにしても今後もトム・ボウマン氏については目を離さずに行きたいと思っています。

Tom Boumanホームページ

ここでもう少し、カントリー・ノワールについて。ちょっと最近気になっているそれについて書く振りのつもりが案外長くなってしまったのだけど。解説で霜月 蒼氏も書いている通り、この『ドライ・ボーンズ』は『ウィンターズ・ボーン』のダニエル・ウッドレルなどに代表されるカントリー・ノワールに属する作品です。で、それが気になりだしたきっかけというのは、少し前から読み始めているImage Comicsの近年のヒット作『Revival』の冒頭の紹介文でJeff Lemirieがこの作品をそのジャンルだと指摘し、僕もこういうのが書きたかったんだよなあとか書いているのを見たことなのです。ちなみにここでLemirieが使っていたのはRural Noirという言葉で、実はボウマンもそっちを使っていて最近はその言い方の方が主流になりつつあるのかもしれないのだけど、カントリーの方もそれほど定着してるとも思えず、混乱を招くばかりなので、当面はカントリー・ノワールでよいのではないかと。で、その『Revival』というのは田舎町を舞台とした超常ホラーというような話なのですが、それを読んでこういうのもそのジャンルに入るのかと認識を新たにしたようなところがありました。そこから広げて考えると、同Imageの『Nailbiter』とかVertigoの『Coffin Hill』(未紹介のものについてはいずれちゃんと書きますので…)や、個人的にも結構推してる『Southern Bastards』もTPB2巻辺りからその傾向出てきたかな、みたいなことにも思い至ったりもしたわけです。この中で『Southern~』以外は基本的に地元警察などの捜査というのが話の軸となっていて、そういう基本パターンみたいなのを持った上でのカントリー・ノワールというのが、小説以外のところでも人目を惹くジャンルとして広がっているのかもしれないなと思っています。
ホラーが出たので小説の方でまた考えてみると、以前に書いたエドワード・リーの『Header』とかも、ホラーとしての評価はよくわからないのだけど、カントリー・ノワールとしてはかなり評価できる作品なのではないかと思います。そこからさらに広げると『テキサス・チェーンソー』みたいなのも入るのではないかと考えてみたりもしたのですが、本のデータでよくわからないことがあると時々見に行くアメリカの読書サイトGoodreadsの読者投票によるカントリー・ノワール・リスト(Goodreads/Listopia:Country Noir)を見てみると、『Header』までは入っていないようでした。さすがに「田舎者は怖い」ジャンルまで入れるのは強引なのかな。
ちなみに1位はDonald Ray Pollockの『The Devil All The Time』なのですが、この辺いつか新潮か白水社辺りの文学シリーズとかで翻訳出るんじゃないかと待ってるのですが、やっぱり原書で読むしかないのかな。他には当然のダニエル・ウッドレルやこの『ドライ・ボーンズ』、随分前から1日も早く読もうと狙っているFrank Bill作品などが上位に並んでいます。ウッドレルといえば、翻訳の出たデビュー作『白昼の抗争』が続く2作と3部作になっていたのを最近知り、読んでみたいのだけど、うーんもう3部作枠はあれやこれで随分先まで埋まってるしなあ、みたいな状態だったり。その他にもトム・ボウマン氏が以前Modern Farmerという農業系のサイトらしきところに寄せたRural Noirに関する一文もあり(Modern Farmer:Bloody, and Bucolic 本人のホームページNEWS内からもリンクあり)、内容についてはちょっとまだ読んでいないのですが(今回後回し多し、反省。)、お薦めのRural Noirリストもあり、この辺を手掛かりに、コミックなども含め、さらに深くカントリー・ノワールについては探って行きたいと思います。

と、今回も本編、おまけを含めまーた色々読みたいなあと、本を積み上げるお話になってしまいました。お山の天辺に寝そべり、うめーもんを腹がはちきれるぐらい食いてーなあ、あの雲おにぎりみたいだべー、という感じで今回は終わりにします。ではまた。



●Mike Monson


●All Due Respect



●トム・ボウマン/ドライ・ボーンズ



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