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2020年6月21日日曜日

Jens Lapidus / Life Deluxe -ストックホルム三部作 最終作!-

やっと、ここにたどり着いたぞ…。とにかくこれだけは語っておかねばならん、イェンス・ラピドゥス ストックホルム三部作!その最終作『Life Deluxe』!
今回は、その『Life Deluxe』についてと、三部作全体のまとめ及び私の感想。そして次回は映画版についての全2回で、日本ではその第1作『イージー・マネー』のみしか翻訳されなかった21世紀ノワールの重要作、ストックホルム三部作の全貌を明らかにするものであります!

で、第3作『Life Deluxe』について語るには、まずその前に前作『Never Screw Up』の結末までを説明しなければならん。ほぼ全面的にネタバレとなっちまうので、ご注意を。


【Never Screw Up -その後】
『Never Screw Up』の主人公はアラブ系移民のMahmud、元傭兵のNiklas Brogren、パトロール警官のThomas Andrénの三人。それぞれの物語の続きから結末へと辿って行こう。

ギャングからの借金に脅かされ、ユーゴ・ギャングに彼らの金を持ち逃げした同胞を売り渡したMahmud。だが期待した他のギャングに対する庇護は得られなかっただけでなく、その後もユーゴ・ギャングの手下として利用され続けることになる。拒否すれば父や妹に類が及ぶことをほのめかされ、更に深い泥沼へと追い込まれて行く。ドラッグの売人から、パーティーなどの仕事のため人身売買や不法入国の女性を住まわせているトレーラーパークの番人まで。同胞を売ったことからかつての仲間とも疎遠になり、孤立し途方に暮れるMahmud。俺はもはやユーゴ・ギャングの犬から逃れられないのか?そこに、かつて刑務所から脱獄し、その後莫大なドラッグの取引に関わった後、海外に逃亡中と噂されていた伝説の男が、密かにコンタクトを図ってくる。ホルヘ・サリーナス・バリオ。
「大晦日にユーゴ・ギャングの息のかかった大物のパーティーがある。金持ちどもが集まり、お前が見張らされている女どもも全部駆り出されるでかいパーティーだ。そこを叩いて奴らの財布からがっぽりせしめるんだ。」
ユーゴ・ギャングへの反撃の手段を掴んだMahmudは、かつての仲間を説得し、頭を下げ襲撃メンバーを集める。だが、もうひとり…、頼りになるやつはいないか…?そこでMahmudの頭に浮かんだのは、妹を暴力的なボーイフレンドから、更に圧倒的な暴力で救ってくれた隣人、Niklasだった。

母親のアパートを出て、警備会社に職を得たNiklas。自らを鍛え、力を得ても幼少時のトラウマは常に彼を苛む。部屋から追い出され、閉じ込められた地下室。暗闇とそこに潜むネズミ…。暗闇に飲み込まれたくなければ行動を起こせ!彼はDVに苦しむ女性たちのシェルターでのボランティアを申し出るが、女性のみで運営される団体からは拒否される。女性たちのリストを盗み出したNiklasは、個人で行動を起こす。作戦行動に必要な装備を調達。様々な監視・偵察用装備。そして武器。女性への加虐者には容赦ない制裁を。そしてそれは過重暴行から遂には殺害までへと発展して行く。
狂ったヴィジランテ行為にのめり込んで行く中、Mahmudから襲撃メンバーに加わってほしいという話が来る。パーティーに引き出される虐待されている女性たちに話が及び、Niklasはメンバーに加わることを承諾する。そして、目的の屋敷へ入念な監視・偵察を行い、襲撃計画を組み立てて行く。
だが、襲撃も次第に近づくある日、偵察から住居のアパートに戻ったNiklasを待ち構えていた警察が逮捕する。逮捕理由は母親のアパートの地下室で殺害されていた男、-Claes Rantzellに対する殺人容疑。家宅捜索から、ヴィジランテ行為による殺人の証拠も発見され、襲撃までの釈放の望みは消えて行く。

警察ではパトロール警官の地位を追われ、閑職をあてがわれたThomas。だがその一方でユーゴ・ギャングからのオファーでアルバイト的に警備の仕事を得る。これも結局はMahmudと同じ「利用」ではあるのだけど、そのスキルによってリクルートされたThomasは比較的優遇されている。そして自分を陥れた者たちへの怒りと執念で個人的に事件の捜査を続行する。と言ってもThomasは元々刑事などではなくパトロール警官。捜査の技術などもなく、手掛かりになりそうな人物に遭い、殴りつけて情報を引き出し、訪ねたアパートが留守なら勝手に侵入し、時には自白剤を使って拷問するなどの手段を使い事件の真相を追って行く。
地下室で殺されていた男はClaes Rantzell。名ばかりで実体のない数々の会社の経営者など、アンダーワールドの闇取引に深く関わっていた人物であることは間違いない。ユーゴ・ギャングとの関係も浅からぬものだ。そして更に調査を進めるうち、彼が1986年に起こった、スゥエーデンのケネディ暗殺事件ともいわれる、当時の首相オロフ・パルメ暗殺事件にも関係が深い人物であることが明らかになってくる。Claes Rantzellは暗殺犯の決め手となる証言をした後、警察による証人保護プログラムで姓名を変えていた人物だった。Rantzellのアパートの地下室から彼が秘匿していた書類の山を持ち出したThomas。更なる情報が見つかるはずだが、自分にはこれを分析する能力が乏しい。そこで事件発生直後以来連絡の途絶えていた刑事Hägerströmに協力を求める。

MahmudはNiklasが逮捕拘留されていることも知らず、連絡がつかなくなっていることに困惑しながら、襲撃予定の大晦日を待つ。
Niklasは警備さえ振り切れば外界が最も近くなる裁判所からの脱出を図り、罪状認否の場から脱出に成功する。脱走のその足でMahmudと合流するが、既に襲撃の日は翌日に迫っていた。

ThomasはHägerströmと共に書類の山を精査する。浮かび上がってきたのは一人の政財界の大物の名前。これ以上の証拠を集めるにはその人物が保管しているだろう書類に当たるしかない。折よく大晦日にその男の屋敷で催されるパーティーの警備はユーゴ・ギャングが担当している。指導なども含めてユーゴ・ギャングの警備関連の仕事に関わっているThomasなら口実を付けて潜り込むことができる。
だが、その人物、屋敷こそがMahmud、Niklas達が襲撃を謀っている場所だった。

Niklasが練った計画通りに屋敷への侵入・襲撃は成功。招待客から金品を巻き上げ、立ち去ろうとするMahmud。だがNiklasはそこから彼の本来の目的である女性への虐待者への粛清を始める。密かに用意してきた爆薬を、ダクトテープで縛り上げた屋敷の主の胸の上に固定する。
ThomasとHägerströmは、Mahmud達の侵入後に屋敷へ到着する。異変に気付き、Hägerströmを外で待たせ、慎重に屋敷内を探る。大広間へとたどり着き、そこで進行中の事態を察知する。
Niklasの予定外の行動にパニックになるMahmud達。物陰より様子をうかがっていたThomasは事態の中心であるNiklasを銃撃する。2発目の銃弾がNiklasの頭部を捕える。Mahmud達はNiklasをその場に残し、逃走する。

Niklasは事件現場で射殺され、死亡。
Thomasは罪にこそ問われなかったが、この件で正式に警察を去ることになる。
Mahmudは正体不明のまま、無事に現場から逃走。しかし彼の中にはNiklasへの複雑な思いが残る。

以上が第2作『Never Screw Up』全編のあらすじです。ちゃんと書いとかんと続きの登場人物たちの立ち位置も説明できないんで、全部書いたんだが、3者の物語が複雑に絡み合う結構な大作(翻訳版『イージーマネー』約500ページの文庫2分冊とほぼ同サイズ)なんでやっぱずいぶん長くなってしまいました。まあここは仕方ないか。最後、エピローグにClaes Rantzell殺害の真相が語られるのだが、そのくらいは秘密にしといてもいいでしょ。
さてここから続く三部作最終作はいかなる展開になるのか?というわけで、やっと『Life Deluxe』です。

【Life Deluxe】
さていよいよ『Life Deluxe』なんだが、最初に断っとくと、三部作最終作でもあり、全体のまとめのためや次回の映画版などの関連もあり、こちらもさすがに最後までは書かんがややネタバレします。どうしてもイヤンという人は登場人物3人の初期ステータスあたりでやめるのがよろしいかと。

この『Life Deluxe』も、前2作同様に3人の主人公による3つのストーリーが交互に語られるというスタイル。と、そこまでは当方の予想通りなのだが、ちょっと安直な予想を覆されるところあり。
第一の主人公は、ホルヘ・サリーナス・バリオ。第1作『イージーマネー』の主人公のひとりが再び3人のうちの一人となる。また新たな3人が登場という私の予想は外れちまいました。申し訳ない。第2作では、ちょっとした黒幕然として登場し、これは背後にムショ内のJDともつながってるな、と思われたのですが、ちょっと私の深読み過ぎだったのかも。この第3作では黒幕感も無くなり、第1作同様の切羽詰まったチンピラ犯罪者に戻っている。現在は表の顔として素性を偽りカフェを経営している。そこに集まるのは今は最も信頼できる相棒となったMahmudと、大晦日の襲撃に加わったアラブ系の仲間たち。ホルヘは現在Mahmudと共に大きな強奪計画を練っているところだ。これを成し遂げれば俺はストックホルムのアンダーグラウンドで伝説となる。
第二の主人公は、Martin Hägerström。第2作『Never Screw Up』でThomas Andrénの捜査に協力していた人物。第2作ではThomas視点のストーリーだったため、元内務調査官の殺人課刑事というぐらいの情報しかなかったが、今作ではもう少し詳しく複雑な人物像が掘り下げられる。スウェーデンの名家の出身で、基本的には警察官になどならない階級の一族の異端児。軍隊・沿岸警備隊などの経験もあるというとマッチョ系を想像するかもしれないが、基本的には頭脳派の刑事。離婚した妻との間にまだ幼い息子がいるが、実はホモセクシュアルという秘密を持つ。ハッテン場のバーで気の合った相手を見つけ、関係を持つが、特定の相手はいない。Hägerströmは、やり手だが強引な独断専行の捜査で知られるTorsfjall警部に呼び出され、彼の下でのある任務を命ぜられる。潜入捜査。捜査対象は、出所が近い現在刑務所に服役中の男。刑務所内に居ながら、多くの顧客を抱え複雑な資金洗浄ビジネスを展開している人物だけに、その内容を理解して的確な情報を引き出せる能力を持った捜査官が必要となるため、Hägerströmに白羽の矢が立った。男の名はヨハン・ウェストルンド。通称JW。
第三の主人公は、Natalie。第1作から登場しているユーゴ・ギャングのボス、ラドヴァン・クランジッチの娘。ちょっと正確な年齢を忘れちまったか、書いてなかったかで不明なのだけど、今作中で大学に進学したぐらいなので、18歳とかそのくらいだろう。半年ほどフランスにビジネス修行を兼ねた旅行に出かけていて、当地で父の友人が経営するレストランで働くうちに知り合った恋人Viktorと共に帰ってきたところから始まる。
この作品にはもう一人、一人称の謎の語り手がプロローグから登場する。彼の語りはその後もところどころの幕間に挟まれて行くことになる。プロローグの内容から、彼は国外からある人物を暗殺するためにやってきたプロフェッショナルであることがうかがわれる。そして、その標的はユーゴ・ギャングのボス、ラドヴァン・クランジッチ。

ホルヘが強奪計画を謀っているのは、ストックホルムのCIT。CITとはCash-in-transitの略で、経済金融用語では未達現金と訳され、現金輸送なんかも含まれるのだが、ここではそういった現金が集積される施設のこと。スウェーデンでCITと言えばそれを指すのか、それともCITセンターみたいな呼称はあるのだけど犯罪者用語でそう略されているのかは不明。この大きな強奪計画のために、ホルヘは刑務所仲間のつてで名の知られた強奪計画構築のプロに計画の細かい組み立てを依頼している。だが、その当のプロはもったいぶって登場し、計画の作成のためにアレをやれコレをやれと指示してくるばかりで、次第にホルヘの不満は高まって行く。
ホルヘについて言えば、結局のところ第2作のすぐに袋小路へと追い込まれてしまうようなストリートのチンピラMahmudを一番信頼できる相棒と思うような三流の犯罪者である。CIT襲撃のための準備や偵察も、前作の訓練されたプロであるNiklasに比べればグダグダもいいところ。そして襲撃。最初からも躓きながら強引な力押しで何とかやり遂げ、メンバーも全員無事脱出。しかし、強奪金額は想定していたものよりもかなり少なかった。ホルヘとMahmudは集合場所へ戻る前に金の一部を隠す。利益全体からパーセンテージで分け前を要求されている計画構築者からごまかすためだ。そして、金を分けた襲撃メンバーは、全員そろってほとぼりが冷めるまでの国外脱出-タイへ向かって出発する。

作為的な経歴などすぐに足が付く。Hägerströmは実際に免職になった後、不祥事により警察を解雇された看守として刑務所内でJWに近付く。自ら工作した刑務所内のトラブルからJWを救い出し、様々な便宜を図ってやるなどの手段で、次第にJWの信用を得て行く。
刑務所内から資金洗浄ビジネス?と疑問の人もいるかもしれないのでちょっと説明すると、スウェーデンの刑務所では受刑者の社会復帰助成のため、監房内でPCを所持することが許可されているそうだ。もちろんネットで外部に繋ぐことまでは許されていないが、金とコネを使って密かに携帯を入手すれば、第1作でJWが作り上げたシステムを動かし、刑務所内からでも資金洗浄ビジネスを展開することが可能になるというわけ。刑務所内でのPC所持が現在も許可されているのかは不明だが(この作品は2011年発行)、弁護士でもあるイェンス・ラピドゥスなんで、いい加減なことは書いていないはず。
資金洗浄ビジネスの全貌を把握するための決定的な証拠・情報の見つからないまま、JWは出所する。そしてその後も、HägerströmはJWの運転手として潜入捜査を続ける。だが、HägerströmにとってJWは依然正体を掴み切れない人物で居続ける。

翻訳の出た第1作を読んだ人なら覚えているだろうけど、この作品の当時はかなりの格闘技ブームで、ユーゴ・ギャングたちが試合を観戦に行き日本でも知られているような名前が出てくる場面があった。ユーゴ・ギャング、ムラドがジムに行くシーンもたびたびあり、ブームとか関係なくてスウェーデンのその辺の人たちって、いつでも格闘技好きなのかもしれないけど。第2作でもMahmudがユーゴ・ギャングに呼ばれて試合場に話をしに行くという展開があり、この第3作でもボスラドヴァンが配下と共に観戦に行き、娘Natalieも同行する。そして試合後、アリーナから出てきたところを件の謎の暗殺者が襲撃する。ラドヴァンは重傷を負うが、命はとりとめ、厳重な警備に守られ自宅屋敷で静養。だが、プロの暗殺者は依頼を完遂するまで諦めない。気晴らしに友人とクラブへ遊びに行ったNatalieの迎えに部下に運転させて現れたところを、Natalieの目の前で車を爆破され、ユーゴ・ギャングのボス、ラドヴァン・クランジッチは絶命する。
おいおい、ややネタバレぐらいに書いてあったけど、いくら何でもバラしすぎじゃない?と思ってる人もいるかもしれないが、実は第3の主人公Natalieの物語はここから始まるのである!ラドヴァンの死後、圧力の緩んだ警察、国税局などが次々と家宅捜索に現れる。突如襲い掛かった嵐に翻弄されているうちに、気付くと父ラドヴァンの腹心だったStefanovicが様々な利権を持ち去り、組織を我が物とすべく動き出していた。残されたのは彼女と母の身辺を警護し続けてきた数人の幹部とその手下。だが、父の築いた帝国を継ぐのはこの私だ!NatalieはStefanovicに宣戦布告する。

ホルヘの三流犯罪者チーム現金強奪と、Natalieのギャング跡目相続抗争という、接点のない二つのストーリーを繋ぐ役割を担うのがHägerström-JWのパートになる。
タイへ逃亡したホルヘ一味だが、小遣い稼ぎのドラッグ売買が元で地元ギャングとの間の軋轢が発生し始める。また、当初からあったアラブ系グループ内のリーダー格であったBabakとホルヘの反目が表面化し、グループ内に不調和が広がって行く。
一方、ホルヘとJWの友情は依然健在で、強奪の際ペイントが付着して使えなくなっている紙幣の交換を請け負ってやり、ホルヘのタイで店を開きたいという計画を助けるため、かつてタイでの任務にも就いたことがあり当地の事情に明るいHägerströmを派遣してやったりもする。
地元ギャングとの衝突は悪化の一途をたどり、別の街への移動を図ったホルヘたちだが、その途上に襲撃に遭いMahmudは現地の病院に入院する破目になる。現地で店を開く計画も資金繰りに苦しむようになり、ホルヘは隠した金を入手するために一旦帰国する。だが、その間にグループ内の不和から別行動をとっていたメンバーが逮捕され始め、また一方では強奪金の隠匿を察知した強奪プランナー一味からの報復が迫ってくる。
その一方で、タイに渡ったHägerströmはホルヘ一味のメンバーの一人(男性)と恋仲に。そしてその関係は彼を潜入捜査官の許容範囲を超えた深みへと引きずり込んで行くことになる。

Stefanovicに奪われた利権について調べているうちに、Natalieはそれらの企業の運用に陰で協力している人物の存在に気付く。ヨハン・ウェストルンド。通称JW。NatalieはJWとコンタクトを取り、それらの利権は自分の家族に属するものだ、と訴える。JWは言う。貴女の苦境は理解できるが、私もビジネスだ。ここストックホルムでは組織の意向に沿って動かなければ商売は成り立たない。だが、貴女の希望に沿える方法が一つある。それは貴女が組織の実権を握ることだ。
対立が決定的になったNatalieとStefanovicの抗争は、ストックホルムのアンダーグラウンドで激化して行く。そして、ラドヴァンを亡き者とした謎の暗殺者は、彼も正体を知らない依頼人から新たな仕事-暗殺を依頼される。その標的はボスの娘Natalie。

シリーズの以前の登場人物では、第2作のThomasがその後完全にユーゴ・ギャングの一員となり、Natalie側に残った側近の一人として登場。Hägerströmと再会するのは結末近くになる。
そして、おい、アイツどーしたの?と思ってる人も多いだろう。そう、ムラドだ!第1作の主人公のひとり!なのだが、実はこの最終作では刑務所内でユーゴ・ギャングの情報提供の見返りに証人保護プログラムを受けるという方向に向かっており、登場シーンはほんの序盤、Hägerströmが潜入捜査に先立ちJWの情報がないかと面会する短いくだりのみとなっている。第1作で非常に印象的なキャラクターだっただけにちょっと残念なのだが、ちょっとこれについてはもしかしたらこういうことなんじゃないか、というある考えを持っている。それについては、次回映画版についてのところで述べる予定なんで、また見てね。
ホルヘ、Natalie、それぞれの闘いはいかに決着するのか。Hägerströmの潜入捜査はいかなる決末を迎えるのか。そして、暗躍するJWの目的、真意はどこにあるのか。怒涛のストックホルム三部作はここに完結する!

【ストックホルム三部作とは何だったのか】
さて、ここでストックホルム三部作の総括に先立ち、それぞれの主人公たちを今一度振り返ってみよう。
[第一部]Easy Noney(邦訳『イージーマネー』)
・JW:地方出身の苦学生。ストックホルムの上流社会に憧れ、何とか形だけでもその一員となれるよう願う。
・ムラド:ユーゴスラビアからの移民。ストックホルムで一大勢力となっているユーゴ・ギャングの幹部。
・ホルヘ:ラテン系移民。ドラッグディーラー。トカゲの尻尾切りでユーゴ・ギャングに裏切られ投獄。その後脱獄。
[第二部]Never Screw Up
・Mahmud:アラブ系移民。懲役を終え出所したばかりのストリートのチンピラで、ギャングからの借金で追い詰められている。
・Niklas:ストックホルム市内の貧困層、母子家庭の出身。中東での傭兵活動で任期を終え帰国。幼少時の、母親の暴力的な愛人からの恐怖体験が深いトラウマとなっている。
・Thomas:パトロール警官。郊外に家を持つスウェーデンの中流層。家庭は円満だが子供に恵まれず、養子縁組を考えている。
[第三部]Life Deluxe
・Hägerström:殺人課の刑事。上流階級に属する一族の出身だが、そこに自らの居場所を見出せない。離婚した妻との間に息子がいる。ホモセクシュアル。
・Natalie:ユーゴ・ギャングのボス、ラドヴァンの娘。何不自由ない富裕な生活を送っているが、その富も地位も犯罪によって贖われたものであることを知っている。

三部作を通読してまず見えるのは、スウェーデンがある部分では前時代的であり、また同時に現代的でもある階級社会であることだ。
経済構造の変遷による貧富の差の拡大というよりは、既得権により富を独占する前時代的、貴族的な上流階級が存在し、その一方で現代的な、もはや近隣諸国からを越えた大量の移民が流入し、社会の下層を形成して行く。
第一部『イージーマネー』を読んだ人なら、ジェットセット・カールという人物を覚えているだろう。ストックホルムの夜の顔であり、上流階級のパーティーの中心人物。JWがまず近付きたいと憧れたこの人物は、第二部、第三部でも登場し続ける。数多く登場する登場人物たちが次々と倒れ、生き残りにあがく中、この人物だけはその立場を一切揺るがされることさえなく、無傷のまま残る。
そしてそんなカールのポジションに近付きたいと切に願うJW。上流社会へのドラッグ供給で足掛かりをつかみ、更にそこから得た資金で自身の財テクを振り出しに資金洗浄のシステムを創り上げる。高税率で知られるスウェーデンでは、資金洗浄の需要がアンダーグラウンドマネーに限られず、資産家や大企業も彼の顧客となってくる。第三部では、JWがHägerströmの紹介で、彼の兄が主催する上流階級の娯楽である鹿撃ちに参加させてもらうというエピソードがある。この時点ではJWの視点のストーリーではないので彼の胸の内を知ることはできないが、少なくともHägerströmの目で見る限りでは、第一部の時と同様にそういう場にいられることを心より喜んでいるJWの姿が描かれている。
ラドヴァンの娘Natalieは、カールのパーティーに出向けば、上流階級の子女と同等に遇される。しかし、その地位は犯罪によって贖われたものであること、そして移民の子である自分がその場に上るには犯罪・非合法な利益以外の手段はないことを彼女は常に意識せずにはいられない。
そして、その地位には決して届くことの叶わない移民のホルヘやMahmud。福祉国家として名高いスウェーデンでは、彼らのための教育・就業プログラムが用意されているが、それらはその当事者たちにより、常に出口のない行き止まりとして思い起こされるばかりである。そしてそこからの手っ取り早い出口として犯罪に道を求めても、そこにも当然のようにヒエラルキーが存在し、彼らは底辺に追いやられるのだ。
第二部においては、それらの間に位置するネイティブのスウェーデン人が主人公として描かれる。中流に属するThomasの生活は比較的安定しているように思われるが、ひとつのきっかけでその実際には脆かった基盤が崩れ始める様子は、日本における「普通」と同様のものなのかもしれない。第三部では端役として登場場面も少なくなるThomasの生活がどう変わったのかは作中からうかがい知ることはできないが、以前と同じものでなくなっていることは確かだろう。
そしてストックホルムの下層スウェーデン人であるNiklas。ストックホルムの住宅事情はかなり悪いようで、アパートを借りるためには物件を探す以前にその権利を得るために長い順番待ちをしなければならないということらしい。序盤、母親のアパートから出て一人暮らしを始めようとするNiklasは、それを避けるためまた貸しを商売としている人物から部屋を借り受ける。その辺については描かれていないだけかもしれないが、一応行政の保護のある移民Mahmudよりもその境遇は厳しいところもあるように思われる。

このように社会の断層図からそこに現れた様々な階層の人物を主人公、登場人物として引き出し、それらの間に複雑な相関図を描くことによりスウェーデン社会の地下の実相を立体的・重層的なパノラマとして描き出して見せたのがこのストックホルム三部作である。
現在はキャッシュレス化が進んでいるというスウェーデンだが、2008~2011年に出版されたこの作品の時点では、第三部のCTI襲撃以前にも、第一部にも登場し、第二部ではそれの強奪後に持ち逃げした犯人をMahmudが捜していた航空貨物による現金輸送など、やや現金の流通が過剰に見える国内事情には税金逃れの目的もあったのではないかと推測される。また、三部作の後半ではJWが資金洗浄に使っていた国外の銀行が国の間での協定により次々と使えなくなって行く状況も描かれている。だが、いかに経済システムをその防止に対応させても、高額税率からの脱税や、闇資金による資金洗浄の需要は止まず、様々に手段を変えながら、スウェーデン社会の上層とJWのような人物を結び付けて行くのだろう。
第二部では、スウェーデン現代史の中でも最重要に属するのであろうオロフ・パルメ暗殺事件が登場する。まあとかく日本じゃこういうところばかりを重視する層が存在するんで念のため言っとくが、これはオロフ・パルメ暗殺事件の真相を暴く!とかいう類いのものではない。スウェーデンの書店事情は知らないんだが、仮に日本と同じような本屋があったらコーナーができるぐらい出版されているであろう「真相本」の列に、この独自のテーマを打ち立てている作品が並ぶ必要などそもそもないだろう。ラピドゥスはこのスウェーデン人なら誰でも知っている重要事件を、スウェーデン社会の深部にTVのCMで見たことがあるカビのアレのように広がる悪の根を垣間見させるために持ってきたのだ。ストックホルムの老朽アパートの共同地下室で発見された明らかに麻薬中毒の痕跡もある身元不明の男の殺人事件の捜査が、警察上層部からの介入により報告書が書き換えられ、現場に最初に到着し報告書を書いたパトロール警官Thomasはまず単純にどこかの部署での取り違えかと考え調査を始めるが、その入り口時点で明白な上司からの妨害に遭遇し、反発を覚えているぐらいのところで罠にかけられ、左遷され排除されることとなる。清廉潔白とは言い難いレベルの警官であるThomasが、義憤というよりは個人的な怨恨で調査を進めて行くうちに、その身元不明の被害者が様々な闇商売とつながっていることが見えてきて、そしてかの重要事件との関係が明らかになってくる。だがここでは物語をうまく纏めて単純な読者に単純な満足感を与えるような敵も「巨悪」も登場しない。結局はこれにゃいろんな人が関係しとるんだし世の中複雑なんやしもう済んだことなんだから今更騒いで面倒起こさんでもいいだろが、中にはその後ずいぶん国民の助けになるようなことをした人も居るのにそういう人に今更不名誉与えて国政がむちゃくちゃになったりするの責任とれるん?後はもう放っといてやるからお前ひとり泣いてくれや、というそこら中で見られるアレコレと同じような形で曖昧に雲散霧消されて行くだけだ。そしてそれもこのストックホルム暗黒世界のパノラマの一部として組み込まれて行く。なーんかこれ日本に翻訳されてたら「肝心のオロフ・パルメ暗殺事件の真相が書かれていない」ぐらいのこと言ってふんぞり返るアホがそこら中で発生してそうだな。かつてどこぞのクソ座談会でパコ・イグナシオ・タイボⅡの名作『三つの迷宮』に満場一致で擦り付けられてたクソ評あたりを見れば、読書のプロなんてのもそんなもんじゃないの?あ~こんな素晴らしい作品こんな国に翻訳されなくてよかったですわ~。
そしてそのオロフ・パルメ暗殺事件の背景に見えるのはロシアの影。第三部のユーゴ・ギャングの跡目抗争にはロシアの利権も絡み、終盤に行われるNatalie-Stefanovic両派の話し合いの席にはロシアン・マフィアも立ち会うこととなる。そのように社会の様々な部分で、最終的にはロシアの影響・圧力という壁にぶつかるのがスウェーデンという国の姿なのだろう。

数多くのキャラクターを配し、それぞれの視点を通じ多角的・重層的にその地下構造から現代のストックホルム-スウェーデンを描いたストックホルム三部作。これは確実に、エルロイのLA、ペレケーノスのワシントンDC、ピースのヨークシャーといった過去の名作群と肩を並べる、現代ノワール必読作品である!

そして、このストックホルム三部作にはもう一つシリーズを通じて描かれるテーマが存在する。それは、時に先進的・福祉的国家の見本とされるようなスウェーデンという国において、実はそれが下層に行くほど女性の権利が軽視、あるいは無視されているという事実だ。三部作最初の『イージーマネー』は、まずユーゴ・ギャングの売春組織に関わったJWの姉カミーラの殺害に至るプロローグより始まる。それらの女性は売春の他にも上流階級のパーティーのコンパニオンとして供されており、中には人身売買のような形で外国より連れてこられた者もいる。第二部ではMahmudがそんな女性たちが半ば監禁状態で住まわせられているトレーラーパークの番人をユーゴ・ギャングから強要される。第三部にもNatalieが情報収集のために接触したそれらの組織に属する女性が、口封じのために惨殺されるというエピソードもある。第二部の何の救いももたらせられないまま愛人の暴力・虐待に耐えて暮らすNiklasの母もそういった社会風潮の中の犠牲者のひとりなのだろう。
これらは単に物語を構成されるフィクションの一部としてのエピソードに留まらない、弁護士である作者ラピドゥスの視点であり、問題意識なのではないのだろうか。
そしてその視点から注目すべきキャラクターが、第二部の狂気のヴィジランテNiklasだ。母子家庭で育った彼は、そこに侵入してきた母親の愛人の虐待・暴力から深いトラウマを受け、それに打ち勝つため傭兵として中東で闘い、任期を終えて帰国する。目的もなく故郷に帰り、日々を送りながらもそのトラウマから逃れられないNiklasは、次第に女性虐待者への狂ったヴィジランテ行為へと駆り立てられて行く。前述の人物相関図ではほとんど他とつながることのないイレギュラー的キャラクター。超個人的な感想として、コイツはストックホルム三部作の山中正治という思い入れを持っておる。作中、Niklasは映画『タクシー・ドライバー』を自室で繰り返し観る。狂気のヴィジランテの先駆者へのNiklas自身の憧憬を越えて、作者ラピドゥスがそこへの到達を目指している印象も与えられる場面だ。
全ての作品において、日本の安直な私小説至上主義を無視しても、作中の登場人物・主人公は何らかの形で作者の分身である。このストックホルム三部作に於いて、そういう意味でも最も重要な人物はシリーズ全体の主人公ともいえるJWである。だがこのNiklasも、そのJWと双璧をなす、あるいはポジとネガのような関係のキャラクターとして、ここで取り上げられた女性虐待テーマと共に、今後のイェンス・ラピドゥス作品を見る重要な鍵であることは間違いないだろう。あー、またしても念のために言っとくが、かのアンドリュー・バクスの作品が初期から比べてボルテージが若干下がって行ったからと言って、彼の人生を賭けた児童虐待への闘いまで揶揄するような下衆でチープなミステリ評論を真に受けてるような人いないよねえ。アンドリュー・バクスというのは正義の男だ!そしてハードボイルドは正義の男を絶対に否定しない!そして、このイェンス・ラピドゥスが正義の男ならば、ハードボイルドは彼を絶対に支持するのだ!

ストックホルム三部作以後のイェンス・ラピドゥスについては、第二部について書いた時とさほど変わっていないのですが、その後の著作としては、まず三部作第二部と三部の間に原作者としてグラフィックノベルを1作。こちらも結構気になるのですが、現在は絶版で入手困難の模様。そして前回に書いたように犯罪小説が3作。で、これが英語のウィキペディアでは新シリーズと書かれているのだけど、米Vintage Crime/Black Lizardでは1作抜けて2、3作が英訳されているという状態で正体不明だったのですが、その後に見つけた北欧作家の出版エージェント業務を行っているSalomonsson Agencyのラピドゥスのページを見ると、この3作はそれぞれ単独作品ということらしい。多分これが一番本人に近い信用できるところなのだろうと思うのだけど。それにしてもここに掲載されているカバーを見ても共通したデザイン・コンセプトでいかにもシリーズっぽいのだけどね。そしてその後に出ているのはThe Dillsta Gangシリーズという子供向けミステリーらしい。現在まで2作発行されていて、カバーもいかにも子供向け。これらが英語圏とかに翻訳される予定があるのかは不明。
まあそもそもがダイレクトでは読めないスウェーデン作品で、英語圏を経由した情報でいまいち曖昧だったり、また今後の作品も英訳されるのかは不明だったりというイェンス・ラピドゥスなのだが、少なくとも自分に読める状態になっている作品があれば必ず読んでおきたい作家であることははっきりしておる。とりあえずはなるべく早い機会に英訳されているその後の作品に取り組み、曖昧になってるところもいくらかでも補完できるとよいな、と思っております。

■イェンス・ラピドゥス著作リスト

●長編
○ストックホルム三部作

  • Snabba cash (2006) 英題:"Easy Money" 『イージーマネー』
  • Aldrig fucka upp (2008) 英題:"Never Fuck Up"/ "Never Screw Up"
  • Livet deluxe (2011) 英題:"Life Deluxe"

  • VIP-rummet (2014)
  • STHLM Delete (2015) 英題:"Stockholm delete"
  • Topp dogg (2017) 英題:"Top dog"
●短編集
  • Mamma försökte (2012)
●グラフィック・ノベル
  • Gängkrig 145 (2009)
●児童書
○The Dillsta Gangシリーズ

  • Dillstaligan: Konstkuppen (2020)
  • Dillstaligan: Juvelkuppen (2020)


あー、クソ腹が立つ。書かなきゃならんこと、読まねばならん本も山ほどあるのに、こんなもんに時間使ったってドブに捨てるだけなのはわかっとるが、やるっつっちまったし、誰もやんなきゃこんなクソがまかり通るばかりだからだ。もちろんマッキンティ先輩作の本体ではなく、下巻巻末に擦り付けられた読書のプロ、杉江松恋のハナクソについてだ!もー何だか内容に腹が立つのとまたぞろ時間をドブに捨てさせられることへの腹立ちが入り混じってぐぎゃーごぎゅぶぴーとか意味不明の奇声を上げてぶん投げたい気分だが、ここは少し落ち着いてご立腹ポイントを整理しながらとっとととことん罵ろう。
まず、マッキンティが書きすぎ、筆が走りすぎというのは何なのかね。こんな書き方じゃあサッパリわからんよ。どこを読んでそう思ったのか具体的に書くこと。例えばさ、キミが中高生だったりして、宿題の読書感想文に「この作家は書きすぎ、筆が走りすぎだと思った。」とか書いたら、まあきちんと生徒を指導する気のある先生だったら赤線引っ張ってどこを読んでそう思ったのか具体的に書くこと、とか言うよね。そういうこと。あーん?なんかおなじみの下卑たなあなあ半笑いで、これとそういうのは違うよ、とか言ってる?そう、そこがポイントだ。これはお前らみたいなクソ評論家先生のみが使用する極めて曖昧ながらなんとなくもっともらしくエラソーに聞こえる尊大なクソ評論用語っていうことだ。だが、こんな曖昧な言い草は何を言ってるんだかさっぱり伝わらない。これが昔から使われているもんだろうが、アンタの仲間内じゃあいつも使ってなあなあヘラヘラしてようが、アンタらの御託を有難くうかがうヌケ作どもが分かったような顔して感心してようが全く何のことを言ってるのかわからない。いつもながら傲慢な品評ばかりで本の売れ行きを下げるばかりなのに尊大さが鼻につく読書のプロ先生だが、さすがにその欠点反省したか、最初は神妙に自分の好みだが、などと書いているが、その舌の根も乾かんうちに欠点呼ばわりだ。何?世界各国に作品が翻訳されてる大作家が、日本の出版業界寄生虫先生のお好みに合わなかったと反省しとるというのかい?まあ少し話を通じやすくするために、こんなクソ評論用語も一瞬だけわかってやったことにして言えば、書きすぎ、筆が走りすぎなんて感想は常に100%人それぞれ個人の好みだ。例えばさ、アンタが食品会社の営業職だったとして、いっつも商品を納入しているお店のカリスマ店長が、アンタの会社のイチオシ新製品に「私の好みとしては甘すぎる。」とかいうポップ貼り付けたらどうする?しかもその店長お宅の会社のそのブランドの欠点とまで言い出したぜ?当然抗議して引っ込めてもらうわな。だがこの本はそんな迷惑ポップを、再版されれば永久についてくるような商品の一部として販売しとるわけだ。早川書房さん、この本売る気あんの?前の人間読書災害肉体LOVE♡北上次郎のケースといいさ。こんなのどうでもいいんで先生のお好きなように書いちゃってください、とか言ってんじゃねーだろうなあ?
そして駄文のスペースを埋めるのはおなじみの読書知識をひけらかす過去の作品との参照比較だ。こういうのが劣化野良レビューの温床で、その成れの果てが毎度おなじみ○○の一つ覚え「マーク・グリーニーと比べれば」みたいのなんだよ、ってことも腹立たしいんだが、それより問題なのは、こいつらがこの論法でやってるのは、結局のところどんな作品でも自分の論じやすい同じようなミステリの型に当てはめてるってところだ。新しい製品を売り出すための定法はそれがいかに新しいか、今までのものと違うかを宣伝し、訴えることだ。だが、こいつらのやってることときたら共通部分のある過去の作品を並べ立て、新しい作品を見たことあるようなミステリの型にはめ込み、同じような品評を繰り返すばかり。結果、市場にはさして目新しいものはなく同じようなものばかりが出ている印象が広がる。そんな市場が右肩下がりになり続けるのは当然だわな。こんな本の売れ行きを落とすばかりの「ミステリエッセイ」や「冒険小説放談」はハードボイルド/ノワールにゃ一切不要だ。なんか「ミステリファン」がこういう簡単に真似できる野良レビューや属してるミステリサークルででかい面をするための見本がぜひ必要だ!というんならそっちで勝手にやってジャンルを食いつぶしてくれや。だが、こんな害虫がまたノコノコ現れて貴重な作品の売り下げに貢献し始めるようなら、重箱の隅突っついて片っ端から揚げ足取って徹底的にこき下ろしてやるかんなっ!こんなんでもどっかで同業から「松恋の解説が面白かった!!!」みたいな身内ホメが上がってんじゃねーの?かのトム・ボウマン『ドライボーンズ』でもあとでそんなの見っけて脱力したわ。出版業界寄生虫同士の互助精神にゃあホントにうんざりさせられるねえ。
そんで最悪なのが最後のいいネタ見っけた感満載で書いてるアレ。マッキンティ先輩が労働の対価に合わん!としばらく作家を廃業しとった話な。テメどんだけ古い話得意げに語ってんだよ。大方ウィキペディアででも見つけてきたってとこか?こういう話を聞いたら、本の解説なんぞに書く前に今どうなってんのかきちんと確かめんのが道理じゃねーのか?どんだけいい加減な仕事してんだ?今どきの作家なんてのは大抵SNSで自分の情報を発信してるから、そういうので出版社とか通さなくても本当の近況なんてのはちゃんと調べられんだよ。先輩の場合はツィッター。ワシみたいに先輩のツイートをほぼ毎日チェックしとるストーカーじゃなくても、これがどこかの運転手さんの情報か、作家の情報かなんてすぐにわかるわ。先輩が「ここだけの話だけど実はダフィの新作もう書いてんだよね。」と教えてくれて世界中のファンが狂喜したなんてのはこの本が日本で出るよりはるか前。最近の情報ではそのダフィの新作がホントは年内に出るはずだったんだが、コロナの影響で来年に延びちゃったなあ、ってとこだ。本が出版されてしばらく時間も過ぎれば、まあそんな時期も実際にあったんだからってことでその辺も誤差ってことで曖昧にされちまうだろうから、今のうちにはっきりさせて糾弾しとく。コイツはこの本が日本で出版された時点ではとっくに過去の話になっている、場合によっては作者の不利益(※例:この作家はもう作品を発表する意思がないから翻訳もされる必要がない)になりかねない情報を、きちんと確認もせず当の作家の作品の解説のような重要なところに書いておる!こんなことは絶対に許されるべきではない!激しく抗議するぞ!しかし、このネットが普及した現在だから、怪しげなデタラメ情報も個人で正しく確認できるが、それ以前ではこんな連中からこんな得意顔で話にもならんデタラメ情報がずいぶん垂れ流されていたんじゃねーの?と気付くとほんと恐ろしくなるわ。
ぐぎゃーごぎゅぶぴー!あーもう限界じゃ。こんな不毛な行為に限りある時間を浪費してしまった。書いてりゃいくらでも腹の立つことは出てくるが、これ以上はやっとれん!誰か代わりに「このミステリ評論家がクソい!」とかやってくれよ。ワシが言いたいポイントはただ一つじゃ。これ以上美しい本にわざわざハナクソを付けて出版するのは止めてくれ!頼む!
なあ、いいだろう?
この締め、カッコいいの?

もういい加減長くなりすぎてるし、次も早くやんなきゃなんないし、余力もないんだが、最後にお口直しに楽しいお話を少々。こちら前にちょと書いたPaperback Warriorさんのサイトからの大変ありがたい情報。こちらの作者ジミー・サングスターって憶えてる人いるかな?80年代だったかその辺に、私立探偵ジェームズ・リード・シリーズの2作目、『脅迫』が角川文庫で翻訳されとる。なんか角川の海外文庫の背表紙が、担当者がその日の朝のTVで見た占いの今日のラッキーカラーとかで適当に決めちゃいましたーみたいな統一感のないパステルカラーのだった時期のやつ。創元文庫みたいな分類マークとかも付いてて、角川書店が我々も東京創元社のような出版社になりたい!と切望していた時期であることがうかがわれるね。なんか古本屋の棚の隅で、えー?これホントに角川文庫の仲間なの?ホントなんだよ信じてくれよ~、みたいな微妙な存在感を放つやつら。えーい、お前時間なかったんじゃないのかよ?早く話を進めろよ!読んだのずいぶん前で内容はほぼ憶えとらんけど、なかなか良作でこのシリーズもっと出してくれればいいのになあ、と思ってた記憶はある。つってもワシも最初はほぼ忘れてて、なんかこの名前見たことある気がするけど…、ぐらいで検索してみたら同名の映画の脚本家の人が出てきて、えー?この人やったかなあ?と一致するまでしばしかかった体たらくなのだけどね。日本で出たのがその一冊だけなので、80年代ぐらいの作家なのかと思っていたんだが、今回Paperback Warriorさんで教えてもらって結構60年代ぐらいから活動している作家だと初めて知った。で、これが1971年の作品。こいつを復刻してくれたのは、かのゴールドコンビによるBrash Books!昨年のラルフ・デニスと言い、ほんとエエ仕事してくれるよなあ。あ、ちなみにサングスターのジェームズ・リードもBrashより復刻されております。ああ、読むもんは尽きんよねえ。Brash Booksのことを知らなかった人はただちにホームページへ行って、出版リストを見てホクホクしよう。で、内容の方なんだが、Paperback Warriorさんとこの記事をちらっと見て、ぬおっ!これは絶対に読む!と思ったので全く調べておりません。アマゾンの商品ページに行くと『博士の異常な愛情』とか『M*A*S*H』とか『キャッチ22』とかがコピーで引き合いに出されてるよ。もうワシ的には決まり。Paperback Warriorさんの評価も「an absolute must read」だ。こりゃもう必読やろ!あ~Paperback Warriorさん方面でももっと語りたいこともあったんだけど、余力なし…。くだらねえ読書のプロなんぞの話よりよっぽどこっちに時間使うべきだと常々思う。ごめんなあ。

さ、最後の力を振り絞ってこれだけは伝えねばならん!戸梶圭太、遂に復活!!!いや、ワシちょっと情報ちゃんとチェックしてなかったんで今更かもしれんけど、戸梶圭太の新作が遂に登場!出版社を通さずダイレクトでKindleに降臨じゃ!いやホントみんなもうそんなの知ってるよ、と言うならごめん。なんか物によっては別のところで無料で読める時期もあったらしいし…。だが、戸梶氏の新作がダイレクトで出版され、出版社のバックもなけりゃ広告できるところも限られているだろうという状況ならば、余計なお世話だろうが遅ればせだろうが、微力ながら当ブログでも全面的にプッシュし、バックアップする!今回より下のアマゾンのリストには「戸梶圭太最新作!KIndleにて絶賛発売中!」がもれなく追加される!うわー、勝手に広告バナー作ってあっちこっちに張り付けてやろうかしらん。なんかいい宣伝コピーとかないかな?あっ「この本が売れなかったらブログやめます!」とか斬新じゃない?もちろん何冊売れなかったらとか書くつもりもないし、やめる気さらさらねーけどな!現在のところは、大問題作であることが察せられる『コロナ日本の内戦』やあいつは戦争帰りシリーズ第3弾『空からの死、地からの命 あいつは戦争がえり3』など6冊!戸梶氏のパワーなら更なる新刊もすぐに登場するであろう。全作戸梶画伯の挿絵入り!皆の衆、一人10冊買え!あ、電子書籍では無理か…。とにかく誰が何と言おうと私はこのブログで全面的に戸梶作品をプッシュする。誰が何と言おうとだ!あ、でも当の戸梶先生にウザいからやめろ!と言われたら…、えー、そんなきついこと言わなくてもいいじゃん。ファンなんだよう。
なんかさあ、今思いついたんでついでに書くけど、もう時代は電子書籍なんやし、あんな「解説」とかゲームのダウンロードコンテンツみたいに別売りにすればいいじゃん。やっぱ紙の本が主体というんだったら巻末にQRコード付けるとかさあ。別にこっちは人の悪口とか罵倒が目的でやってるんじゃないのに、こんなの抱き合わせで売るから読んじゃって腹立って余計な時間使っちゃうんじゃん。そういう仕様だったら絶対買わないからワシ世界に平和が保たれるよ。アマゾンにそれ単体のページができれば、肉体LOVE♡北上とかにも作品と切り離してダイレクトで文句言いたい放題になる公開の場もできるじゃん。いいことずくめだよ。各出版社の皆さんは真剣にご検討を。もうやってるとこもあんのかな?

いやはや大変でございました。やっぱ日本で翻訳出てない作品を、あらすじの解説をした上でまとめ的な感想も書くなんていうのは、かなり大層な作業になっちまいます。この長さだよ。今回は、そりゃあ時間が取れなかったり疲れて書けなかったりした日もあったが、基本的にはどっかでへこたれることもなくかなり必死に頑張ってこのくらい掛かっちまいました。やっぱ先にコミックの方やっといてよかったな。かくして現代ノワールの最重要作の一つである、ストックホルム三部作についてはお伝えできたんですが、実は、この作品はその映画版についても語ってこそ完全版となるのだ。というわけで、次回ストックホルム三部作映画版についてにご期待を。あ~、時間の無駄なんでなるべくホントにうんざりする映画言いたがりへの罵倒は控えるようにしようっと。


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