2015年5月31日日曜日

Bad Juju & Other Tales of Madness and Mayhem -New Pulp Press第2弾-

Jonathan Woods作『Bad Juju & Other Tales of Madness and Mayhem』です。この作品は昨年8月に書いた『Rapid Child』に続き、New Pulp Press第2弾として2010年に発行されました。ケン・ブルーウン、マイクル・コナリー、Anthony Neil Smithといった作家からも賛辞を寄せられた彼の第1作品集です。

というところなのですが、実はこの本、重大な欠点があり、まずはそれを指摘し、解決を図ることから始めたいと思います。えーこの本ですが、約230ページの中に19本の短篇が収められているのですが…目次がありません…。これだけ多数の作品が収められている作品集で目次が無い不便さは様々考えられるのですが、私に関して言えば、お昼に読み始めた作品を、帰りの電車で読み終えたころにはもータイトルを完全に忘れているというボンクラ頭ゆえに、目次に戻ってタイトルを確認するということができないまま読み進めたため、ほとんどタイトルと内容が一致していないという状態になっており、いざ紹介しようとなるとどうすればいいのかというような大変困った事態になっているわけです。そこで!今回はこの事態を解決するために目次を自作いたしました!これからこの本を読もうと思った人は以下のものをコピーし、PDFで保存した後、Kindleに送信すれば少し便利に読めるのではないかと思います。ちなみに末尾の数字はページ数ではなくて左下に出てる数字です。何のカウントかよく知りませんが。(でも調べない)

The Dilapidated Isles 22/3702
Incident in the Tropics 219/3702
Bad Juju 398/3702
Down Mexico Way 692/3702
We Don’ Need No Stinkin’ Baggezz 835/3702
Ideas of Murder in Southern Vermont 914/3702
Drive By 922/3702
Maracaibo 1141/3702
Dog Daze 1346/3702
Looking for Goa 1507/3702
Then What Happened? 1658/3702
An Orphan’s Tale 1889/3702
On the Lido 2069/3702
Shark Bite 2301/3702
Mexican Standoff 2362/3702
Samurai Avenger 2639/3702
Blue Fin 2670/3702
What the Fuck Was That? 2829/3702
No Way, José 2932/3702

というわけで、この本の最大の問題は解決いたしました!あと問題と言えば、初出一覧もない、著者紹介もない、というぐらいですが、とりあえずこれで私も心置きなく内容の説明に移れます。

しかし、まあ19本もの作品を全部解説するのも大変ですし、おそらくはウェブジンなどに発表されたと思われる短い作品も多いので、ある程度の長さのものを中心にピックアップしながら全体の概要を語るという感じで進めてみようと思います。
まず、中南米を舞台に旅行者が犯罪に巻き込まれるというタイプの短篇が2本続き、少し長めの表題作でもある「Bad Juju」。やはり舞台は中南米と思われる軍事独裁体制の国で、主人公の女性は犯罪の分け前の金を持って国外脱出しようとするが、裏切りに遭い恋人を殺され金も失う。仇を取り、分け前を取り戻そうと企むが…。という長編にしても楽しめそうなアクション・ノワール。そして、5本目の「We Don' Need No Stinkin' Baggezz」はそれほどは長くないのだけど、ある殺し屋の半生の告白という形の、ちょっとラテン・アメリカのマジック・リアリズムをも思わせる奇妙な作品。そのあとは少し「女と犯罪と」テーマの作品が続くのだけど、途中には「Maracaibo」のようなそこから訳の分からないぶっ飛んだ結末に飛んでゆくものも挟まれたりします。「An Orphan's Tale」は孤児施設から誘拐される少女の話で、救いのない話かと思っていると意外なすがすがしい結末を迎えたり。そこから少し展開が変わり、ホラーが3本。「Shark Bite」はサメの一人称によるジョーズ的な話かと思って読んでいると…クトゥルー?奇妙なギャグなのか?という作品に続き、「Blue Fin」は日本を舞台にした作品。ドラッグで稼いだ金で日本でレストランを経営する日系青年が、ジャック・ニコルソンの誕生日に用意した高級マグロをヤクザに押さえられ、奪回のために戦う、という作品。それはツッコミどころはいくらでもあるけど、カーチェイスの場面がやはりほかの国とは違い、日本の風景が浮かぶように書かれていたり、日本人でもなかなか書けないような三池崇史映画のような場面が描かれてたり、というようなところを評価したい。そしてまた奇妙なSF?作品のあと、最後はこの作品集の中でも一番長い「No Way, Jose」。どこかへ向かって移動を続ける謎の男、ヒッピー崩れのルーザーとビジネス・ウーマンの一家、退職警官とその母親を惨殺した強盗犯たち、といった10人近い登場人物のストーリーが"No Way, Jose"という呟きでつながれる、ちょっと映画『バベル』あたりを思わせるような圧巻の作品。

とりあえず、かいつまんで説明を試みてみましたが、やはり短編19本となるとなかなかのボリュームになるものですね。最初の方は中南米が舞台の作品が続き、中頃には米国本土での作品も出てくるのですが、全体的には外国が舞台になっている作品が多い印象でした。しかし、これだけの数になりながらも同じような作品というのがほとんど無く、同一テーマとしてまとめてしまったような作品でもそれぞれに一ひねりした設定や違った落としどころがあったりと、アイデアの豊富さや作家としての実力を感じさせる作品集でありました。しかし、これは個人的な無い物ねだり的な感想になってしまいますが、このJonathan Woodsという人、「短篇小説の名手」という枠よりももっと広く実力を感じさせる作家ゆえに、長編作品ならもっと深い展開や掘り下げたテーマの作品が読めるのではないか、と逆に少し物足りなさを感じてしまう本でもありました。
Jonathan Woodsのホームページを見てみると、あの、このジャンルのウェブジンでは中心的存在であるSpinetingler Magazineのレビューからの引用で、「Jonathan Woodsは短篇犯罪小説のデヴィッド・リンチだ」という文が掲載されていました。本人もこの評価が大変気に入っているのでしょう。なるほどデヴィッド・リンチか。最初の作品「The Dilapidated Isles」は、ある島を訪れた旅行者の主人公が最後まではっきりと実態が見えないまま何らかの犯罪に巻き込まれるという作品ですが、これなんか特にリンチのノワール作品に似ているかも。他にも奇妙な、と表現したような作品はそのままリンチの奇妙な感触に当てはまるかもしれません。デヴィッド・リンチという人も何となく曖昧ながら固定的なイメージで見られがちですが、実は流動的な多面性の奥に本質が隠されているような複雑な映画作家だと思うのですが、Jonathan Woodsもその本質に近いものを持ちつつ、多面的な表現を展開して行ける可能性を持った作家なのではないでしょうか。

Jonathan Woodsは元々は法律関係の仕事をしていた人で、奥さんは画家だそうです。今の仕事等については書いてありませんが、お金と時間のある時は外国を旅して小説のアイデアを探しているということ。彼の作品はその後もNew Pulp Pressから長編『A Death in Mexiko』、短編集『Phone Call From Hell & Other Tales of the Damned』の2作が出ています。長編を読みたいなら早く読み進めないとね。そして、映画化作品が一つ。『Swingers Anonymous』は彼の同名短編小説が原作で、元は以前セールで大騒ぎしたけど例の如くまだ全然手を付けられていないAkashicの都市ノワールシリーズの一冊『Dallas Noir』に掲載された作品で、現在は最新短編集『Phone Call From Hell』にも収録されています。『Header』の時は内容がアレだけに控えましたが、今回はトレーラーを乗っけてみました。



今はまだ公開への足掛かりを求めて各地の映画祭を回っている状況のようで、なかなか日本で観るのは難しそうですが、いつか機会ができたらぜひ見てみたい作品です。

第1弾『Rapid Child』は優れた作品ではあるけどあまりに特殊で人に勧めていいものなのか、と思ってしまったNew Pulp Pressですが、今作『Bad Juju』はノワール・ジャンルのファンならだれにでもお勧めできる今後期待の実力作家の作品集でした。…というところなのですが、これだけかかってやっと2冊目とは…。トホホ。New Pulp Pressからはその後も面白そうな作品が次々とリリースされていますので、なんとかもっとどんどん読んでいけるように頑張りたいと思います。
前回『The Boys』はずいぶん時間がかかってしまい1週引っぱってしまっていたところで、先週は急用で休み、来週も週末用があって休みとなってしまうのですが、ちょっと良くないお休みスパイラルに入らないよう気を付けて、再来週からはまた毎週更新で頑張って行きたいと思いますので、またよろしく。

Southern Noir/Jonathan Woodsホームページ

New Pulp Press


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2015年5月19日火曜日

ガース・エニス『The Boys』全解説

ガース・エニス作『The Boys』であります。まあ、まだまだ到底ガース・エニス論などには叶わないのですが、とにかく私はこの作品が好きなので今回はこの作品についてとことん書きます。

今回は先に感想やら解説やら自分の思ったたわごとなどを先に書き、その後作品のあらすじという形でやってみます。
まずはガース・エニスについてですが、なんか私がわざわざ書くことかなと思うのですが、ご存じない人もいるかと思いますので、簡単に経歴を。1970年アイルランド生まれで、コミックのライターとしては1989年から後に『ヒットマン』を共作するJohn McCreaと組んでイギリスのコミック・アンソロジー誌に作品を発表した後、2000ADでしばらくはあのJohn Wagnerに代わって『Judge Dredd』のメインライターを務めました。アメリカでの活動は1991年からVertigoの『Hellblazer』から始まります。その後同Vertigoから『Preacher』、DCから日本版も2巻まで発行された『ヒットマン』といったオリジナル作を発表した後、マーベルで『Punisher』をヒットさせます。とまあこんなところでしょうか。

さて、この『The Boys』という作品ですが、2006年にDC系列のWildstormから発行されましたが、最初の6号が発行された時点で、DCからあまりにもアンチヒーロー色が強すぎるとの理由で続きの発行がキャンセルされます。その後、Dynamite Entertainmentに移り、全72号プラス6号のミニシリーズ3つで2012年に完結しています。ストーリーは、現実にスーパーヒーローが多く存在する世界で、CIAのバックグラウンドを持つBilly Butcher率いるThe Boysがその”ヒーロー”達と戦うというものです。

この作品、ガース・エニス本人が語るところによると、彼の代表作の一つである『Preacher』になぞらえ、"out-Preacher Preacher"ということなのですが、残念ながら私はまだ『Preacher』を読んでいません。どうもこの作品において顕著なバイオレンス、セクシュアルな傾向についての事のようです。いずれ『Preacher』を読んだらその辺の発言の意味もはっきりすると思うのですが、今回は保留にさせてもらいます。
というところでまずはそのアンチヒーロー色についてから書いてみようと思うのですが、これにはとても分かりやすい例の翻訳作品が出版されています。2巻までが日本版で出ている『ヒットマン』と『Punisher Kills the Marvel Universe』(『デッドプール/パニシャー・キルズ・マーベルユニバース』収録)です。ガース・エニスという人は子供の頃は戦争もののコミックばかり読んでいていわゆるヒーロー物のコミックはある程度の歳になるまで読んでいなくてあまり好きではないということです。実際、マーベル、DCを始めとする多くのパブリッシャーで活躍し、コミックのライターの中でも重鎮に近いポジションにありながら、彼はマスク・コスチュームのヒーロー物をほとんど書いていません。正義という大義の許ではなく、殺し屋というポジションでゴッサム・シティで活動する『ヒットマン』。そして、ヒーローたちの市街地での戦闘に巻き込まれ妻子を失くしたPunisherフランク・キャッスルがマーベルのヒーローたちを一人ずつ抹殺して行く『Punisher Kills the Marvel Universe』。それらの流れを汲むのがこの『The Boys』という作品です。
まあ、この『Punisher Kills…』という作品は大方「アンチヒーローのPunisherが最新武器と特殊部隊の暗殺術でヒーローたちをブチ殺したら面白いんじゃねーの」みたいな編集者との酒飲み話が当時のPunisherの人気やその時のマーベルの気運と合って実現した話なのでしょう。日本でも『両津勘吉キルズ・ジャンプオールスターズ』なんてあったら読んでみたいものだ。ただし、本当にやるからにはファンサービスのお祭り作品として出鱈目に書くのではなく、Punisherが武器や資金などの後方支援をどう受けるのかということを一応考えたり、間にDaredevilを配置したりと、それなりにきちんと作られた作品になっていると思います。この作品の発端となる「きちんと市街地での戦闘訓練も受けていない肉体を強化された人間がマスクで正体を隠したまま暴れるのは正しいのか?」という一つの考え方はそのまま『The Boys』でも現れることからも、やはりこの作品も『The Boys』の元となるアイデアの一つなのでしょう。
ただここでひとつ言っておきたいのは、このガース・エニスのアンチヒーロー的考えと、単純にその手のヒーロー物をリアリティが無いと言って揶揄嘲笑するような考え方とは区別すべきだということです。ここからはインタビューなどの記事で確認したものではないし、あくまでも私の想像になりますが、ガース・エニスのヒーロー物に対するスタンスはまずクリエイターとしてのものだと思います。つまり自分にとっては、ああいった形のキャラクターを使って自分の考えるリアリティのあるストーリーは創りえないということ。しかし、だからと言ってガース・エニスにしてもああいったヒーローよりももっとリアリティがあり、読者が感情移入しやすい普通の会社員を主人公にすべきだ、などという考えではないと思います。両者の違いと言えば、マスク・コスチュームのヒーローは現実には存在しないがネクタイ・スーツの会社員はそこら中に存在するという入口の部分だけで、中に入ればそのストーリーの出来や、もっと言えば作品内のリアリティ自体もどちらが上かはわかりません。マスクヒーローよりも私生活が謎な営業部社員なんていうのもいるわけですし。もちろん両者のどちらが優れているなどというものではなく、それはそれぞれの作品によるわけですが、結局のところ読者としてより広く様々な作品を楽しむためにはそれぞれスイッチを切り替えその作品に合った読み方をする能力ぐらいは求められるということです。また、もちろん人それぞれ好みはあって、ヒーロー物がどうしても好きになれないという人もいるわけだし、ガース・エニスもその一人なのでしょう。実際これを書いている私にしても、ミステリに関しては好みが偏り過ぎているゆえに自分に合ったものを求めて原書の中をさまよっているわけですから。ただし、ヒーロー物であったりSF作品などを映像作品などで表面をなめたぐらいで嘲笑できると思っている人間に関しては、根本的に知性の一部である想像力が未発達であるとしか言いようがありません。そして私はそういった「アンチヒーロー」的考えでこの作品を高く評価しているわけではない、ということもはっきり言っておきます。

私は、やはりまずはこの作品のアメコミの中では特異な設定に興味を持って読み始めました。しかし読み進めるうちにそのキャラクターやストーリーのリアルで生々しい力強さに魅かれるようになってきました。妙な表現にはなるのだけど、英語で、またガース・エニスの書くセリフは少し難しくて読み始めた当初は5%ぐらいは分かっていなかったと思うのですが、そんな状態で読んでいたにもかかわらず、日本のマンガを読んでいるのと同じくらいの臨場感で読むことができたのです。ただ、まあこのガース・エニス作品があまりにも自分の好みにマッチしすぎているという自覚もありますので、そこまで大袈裟なのは一般的ではなく、※あくまで個人の感想です、というところでしょうが。しかし多くのファンを獲得し、読まれているガース・エニスの作品の特徴は、上の力強さというような表現でそれほど間違っていないのではないかなと思います。
また、ガース・エニスの作品の魅力はそのかなりタチの悪い強烈なギャグセンスにもあったりします。この作品ではそれがかなり制限なしで全開に発揮されているのではないでしょうか。ロシアのヒーローLove Sausageの名前の由来なんていうのは、まあ大体ご想像の通りですが、実際に画で見せられた時には爆笑というかほとんど脱力しました。下ネタにしてもそれをギャグに使うか!というものがあったり、アメリカではどうなのか知りませんが、日本でやったら確実に色々な方面からかなり怒られるようなものが沢山あります。

"The Boys Created By : Ennis & Robertson"とクレジットにあるようにこの作品は20年以上のキャリアを持ち、代表作にウォーレン・エリスとの『Transmetropolitan』などのある作画Darick Robertsonとの共作です。彼の描く素晴らしいキャラクターなしではこの作品は成立し得なかったでしょう。ですが、やはり多忙ゆえにRobertsonは途中で作画から降板せざるを得なくなり、後半はカバー絵のみの参加となります。その辺の経緯はストーリー解説とともに追って触れていきます。最終的にはVertigoなどで多くの作品を描いているRuss Braunが作画を担当することになります。大変優れたアーティストで人によってはRobertsonよりも彼の画の方が見やすく線も安定していると思うかもしれません。しかし、Braunが例えば線があるべきところが見えてそこにきちんと線を乗せて行ける優秀なアーティストであるのに対し、Robertsonというのはそこを更に越えてその上に自分の線を見出し自分だけの画を作って行ける天才なのだと思います。両者の差はほんのコンマ数ミリ以下のところだろうし、場合によってはRobertsonの画はそれが破綻して見えるときもあったりもするけど、なかなかあれほどの”活きた画”を描ける人はいません。もちろんBraunのような優れたアーティストを貶めるつもりは毛頭ありませんが、やはりDarick Robertsonという人はちょっと別格の天才だと思います。…うむむ、難しい…いや、Russ Braunという人も本当に褒めるところしかないぐらいのアーティストだと思っているのですが…。そして、この作品ではのちに歴戦の戦友であるJohn McCreaも参戦してくることになります。


というところでやっとこの『The Boys』のストーリーの解説に入るのですが、うーむ、どのくらい長くなるのだろうか…。もうGWも終わってしまったし…。
さて、この『The Boys』の設定ぐらいのストーリーについては上で書きましたが、実際の内容は当然それよりもかなり複雑です。この作品内の世界ではコミックの中の世界のように現実に多くのヒーローが存在し、コミックのように様々な要因でその能力を獲得し、ヒーローとなったことになっていますが、実はそれらは基本的には同じ要因、Compound Vという薬品を使用することでその力を得ていたのです。そのCompound Vは第2次大戦中ナチスからアメリカに逃れてきたVogelbaum博士によって発明され、巨大軍事・航空企業であるVought Americanによって研究開発が進められます。つまりこの作品内の全てのヒーローは一企業によって作り出されたものであり、その最終目的はその技術を兵器として軍に採用させ、利益を得ること。その陰謀とThe Boysが暗闘を繰り広げて行く、というのがこの作品の実際のストーリーです。
ストーリーの設定を大枠からいうと、開始時点では後に語られる様々な事情からThe Boysチームの作戦は閉鎖・解散状態にありますが、大統領が現行のDakota Bobになったことにより可能になったことと、主人公Billy Butcherのごり押しにより再開されます。また、Vought Americanは副大統領Vic The Veepを強固にバックアップしており、彼が大統領になればVoughtの超兵士計画も現実のものとなると予想されています。この世界のヒーローたちは、コミック・ブックの中のヒーローが現実にも存在するという状態になっていて、彼らは自分たちの登場するコミックの権利とCMなどの出演料で収益を得て生活していますが、その実情は大抵はモラルの低い傲慢な人間として描かれています。ヒーローたちのCompound Vによる成り立ちは秘密にされていますが、来るべき日のための広告塔としてVought Americanにバックアップされています。The Boysは彼らの隠された素性を暴くことでVoughtの計画進行の阻害を試みたり、またVought側から送り込まれた刺客としてのヒーローを迎え撃ったりという形で作戦を展開させて行きます。

それでは次にキャラクターについて。まずは上の画像を…と思ったら遥か彼方に行ってしまったのでここで同じカバー画の画像をもう一度。
まずはThe Boysのメンバーから。左下が主人公のBilly Butcher。アイルランド出身。とにかく口の悪い男で、Fワードを連発しているようなメンバーからもなんであいつはあそこまで口が悪いんだと言われます。常に不敵な笑みを浮かべながら、いざとなればいかなる暴力をふるうことも躊躇しない人物です。The Boysのリーダーであり、基本的には仲間想いですが、本当の腹の底は誰にも見せないところもあります。
右下が、この物語のもう一人の主人公Wee Hughie。スコットランド出身。心優しき男で、恋人がヒーローの戦いに巻き込まれ死んだことからThe Boysに加わりますが、一切の暴力を自発的に振るうことはできません。モデルは英国俳優で『ショーン・オブ・ザ・デッド』『宇宙人ポール』などのサイモン・ペグで、彼は『The Boys』TPB第1巻で序文を書いています。
右上がMother's Milk。この作品の舞台はアメリカですが、メンバーの中では唯一自国民のアフリカ系アメリカ人。The Boysのサブ・リーダーですが、時には腹の読めないButcherよりも信頼できる男。また、メンバーの中では唯一家族持ち。巨漢の見かけに反し異常な潔癖症で動物が大の苦手という一面もあります。
左上がFrenchie。フランス人。本名もありますが、メンバー間では常にFrenchieと呼ばれます。フランス語交じりで話す伊達男で、不幸な生い立ちを持つメンバー唯一の女性Femaleに常に思いやりと気遣いを持って接します。
右中がFemaleですが、これはメンバー表記上の呼称であり、作品内ではSheなどの呼ばれ方をします。日本人少女で、彼女は名前を隠しているのではなく、のちに語られる不幸な生い立ちゆえに名前がありません。心を閉ざし、一言もしゃべることはなく、触れた人間を瞬殺します。一瞬で相手の顔の皮を引っぺがし引き裂くThe Boysの中でも強力な戦力です。The Boysの仕事の他にギャングの殺し屋の仕事も請け負っていたりもします。動物好きで、不在の際預かったWee Hughieのハムスターに餌をやり過ぎボールのように太らせる、という一面もあります。
そして画面上にはいませんが、もう一人というか一匹の重要なメンバーとしてButcherの愛犬Terrorがいます。たいへん不細工でぐうたらに見えるブルドッグですが、いざとなると頼りになる重要なThe Boysの一員です。ガース・エニスはかなりの犬好きのようですね。
彼らはすべて、The Boysとして戦うためにそれを注射したり、あるいは事故で汚染されたり、という形でCompound Vを摂取しており、ヒーローたちと同等の力を持っています。

えー、ここでただでさえ長くなっているところで更に脱線のようになってしまいますが、先日書店で右の本を見て、この『The Boys』のキャラクター構成があの三原順の『はみだしっ子』シリーズのそれとあまりにも相似していることに気付いてしまい、現時点では共感してもらえる人は皆無と思われますが、キャラクター理解にはもしかしたら役立つのではと思い、ここに記すことにしました。
まず、Wee Hughieはマックス。Femaleはサーニン。そしてFrenchieはFemale=サーニンへの立場からアンジー。またMother's Milkはグループ内のポジションからこれもアンジー。アンジーはとても器用な奴だから一人二役でもOKでしょう。以上は上のキャラクター説明から納得してもらえると思うのですが、最後に残ったButcher=グレアムは無理やり合わせるために私があてはめたと思う人も多いでしょう。しかしButcherは実にグレアムで、それはこの物語を最後まで読んでもらえれば多くの人に納得してもらえるところと思うのですが。実際このButcher=グレアムという認識がこのただでさえ長くなっているところにこのくだりをねじ込ませた所以だったりもするのです。もちろんこれは何かのパクリ的なことを指摘するつもりで書いたのではないし、ガース・エニスはおそらくこの作品の存在すら知らないでしょう。現時点ではこの両者を共に読んでいる人はほとんどいないとは思いますが、いつかはこれが役に立って、この二つの異色作が同じキャラクター構成を持っていることについてもっと頭いい人が考察してくれるといいなと思います。

続いて、敵キャラクターですが、まず直接の最大の敵として立ちはだかっているのがVought Americanが創りだした最強のヒーローHomelander。これのモデルはもちろんスーパーマンです。彼とButcherの間には深い因縁があり、まず当面最大の目的はこのHomelanderを倒すこととなっています。その強大な力ゆえにVought Americanの配下であることにも不満を持ち、次第に反逆の方向に動き始めます。
Homelanderを中心とする最強のヒーローチームがThe Sevenで高空を移動するヘッドクォーターを持ちます。所属メンバーには、まずは最強の女性ヒーローでファンの憧れの的ではありますが、実情は常に不機嫌な顔で酒を飲み続け、寝室にはセックス用の男を用意させているQueen Maeve。彼女については複雑な秘密が後に明らかになってきます。Wee Hughieの恋人の仇であるA-Train。目鼻も含め全身黒タイツで覆われ、一言も口をきくことのない謎の男Black Noir。そして、互いに相手の本当の素性を知らぬままWee Hughieと恋に落ち、ストーリーのもう一つの軸となって行くStarlight/Annie Januaryなどがいます。
そして、Vought Americanのヒーロー部門の責任者であり、Homelander、The Boysともに最も密接に関わってくる人物がJames Stillwellです。常に陰鬱な無表情で、たとえ死の危険にさらされても一切の感情を表に表わすことのない男。Vought Americanの利益を最優先に考え、冷静に計算しながらいかなる決断もためらわない恐ろしい人物です。後半には上昇志向の強い女性アシスタントJessica Bradleyが加わり、一瞬人間らしさが垣間見えるかと思いきや…。

その他にThe Boysの協力者として、かつては多くのヒーローたちのコミックを産み出し、現在は恐るべき凶暴な双子が店番を務めるアンダーグラウンド・コミックショップの地下で、ヒーローたちのポルノ・コミックを作り続ける老人Legend。独自のルートからの情報でThe Boysを助けます。
そして、ヒーローの中では唯一のThe Boysの協力者であるロシアの巨漢Love Sausage(コイツ!画像検索してみよう)ことVas Vorishikin。
CIAの方では、女性長官のSusan Rayner。The Boysは一応CIAの傘下で動いてはいますが、政治的な動向などで必ずしもその関係は盤石とは言えず、またRaynerは基本的にはButcherを危険人物と考えています。またその一方でButcherに犯されるように情交することで興奮するちょっと異常な性癖の持ち主。彼女の部下で主に直接の連絡に当たる男、通称"Monkey"は車いすの女性にのみ欲情する本物の異常者です。
そしてThe Boysの創設者であるMallory。彼がかつてはリーダーであり現在は去っていることは前半から語られますが、実際に登場し、その経緯が語られるのは後半になってからです。


続いてTPB、各章毎のストーリー紹介です。

The Name of the Game
"The Name of the Game" (#1–2) 作画 : Darick Robertson
遊園地での優しい彼女とのデート。幸福の絶頂にあったWee Hughie。その時、2人の間に巨大な物体が飛んでくる。ヒーローA-Trainによって吹き飛ばされた悪漢の巨体だった。そして、Hughieの手には握りしめた彼女のちぎられた両腕だけが残されていた…。
Billy ButcherはCIA長官Raynerに掛け合い、閉鎖されていたThe Boysの再開を承認させる。かつての仲間を呼び集めつつ新メンバーを探すButcherは、ヒーローの巻き添え被害に遭いながら賠償金を受け取っていないHughieに目を付ける。

"Cherry" (#3–6) 作画 : Darick Robertson
ニューヨークのさびれたビルの一室にヘッドクォーターを構えたThe Boys。再開後最初の標的は若きヒーロー・チームTeenage Kixに定め、監視・情報収集を開始する。
The Sevenの新メンバーとして認められ、夢を抱いて高空のヘッドクォーターを訪れたStarlight。だがまず彼女を迎えたのはHomelanderらメンバーによるセクハラだった。
一方The Boysの一員として活動し始めたHughieは、事後承諾の形でButcherに自分の体質そのものが変わってしまうCompound Vを注射され、今後の行く末に疑問を持ち始める。
苦悩するHughieとStarlightは、セントラル・パークで出会い、言葉を交わすうちに互いの本当の素性を知らないまま、次第に魅かれあってゆく。
様々な探索から掴んだネタをTeenage Kixに突き付け、メンバーの一人にホモセクシュアルであることを公表させ、チームから脱退させることに成功したThe Boys。しかしただちに彼らの居所を掴んだTeenage Kixが報復に現れる。全く戦闘の意志がなく逃げるHughieだったが、防御のために思わず突き出した拳がヒーローのひとり、The Blarney Cockの腹を突き抜け、殺害してしまう…。

ここまでがWildstormから発行された6話です。ちなみにその後Hughieが飼うことになるハムスターは元々は彼が殺してしまったThe Blarney Cockのペットでした。

Get Some
"Get Some" (#7–10) 作画 : Darick Robertson
ButcherとHughieはLegendからの情報により、あるホモセクシュアルの少年の死に関係があると思われるヒーローSwingwingについて調査を始める。SwingwingはかつてのTek Knightのサイドキックだった少年Laddioが成長し独り立ちしたヒーローだった。ButcherとHughieは調査のためTek Knightの屋敷を訪れる。一方Tek KnightはSwingwingへのホモセクシュアル的強迫観念に日夜脅かされていた。

この章でLegendが初登場。Tek Knightは大富豪で、自らの財力により作った装備でヒーローをやっている男で、少年のサイドキックを連れている、と言えば元ネタはもうお分かりでしょう。

"Glorious Five Year Plan" (#11–14) 作画 : Darick Robertson & Peter Snejbjerg
ロシアでの不穏な動きの情報を得て、The Boysはモスクワに赴き、当地の元ヒーローLove Sausage/Vasの協力を得て調査に当たる。2人のヒーローが相次いで同様に頭部が爆発して死ぬという事件が起こっていた。その原因はロシアのヒーローたちが使っていた実験段階の不安定なCompound Vにあるらしい。また一方で東欧の犯罪組織の女ボスNina Namenkoがロシアのヒーローを秘密裏に集めるという動きも起こっていた。そしてそのNinaがVought AmericanのJames Stillwellとも密談を進めていた。

この章でHughie視点からは初めてヒーローとVoght Americanの裏のつながりが見え始めてきます。James Stillwell初登場。タイトルはスターリンによるソ連の国家社会主義計画である、5か年計画からとったLove Sausageがかつて所属したヒーローチームの名前。
またこの章の後半2話はRobertsonとともにPeter Snejbjergという人の名前がクレジットされていて、実際にはほとんどその人が描いています。絵自体は下手ではないのだけどちょっと目の書き方が変。Robertsonがある程度下書きしたか、もしくは絵コンテぐらいの段階で渡したかと推測されるのだけど、詳しい事情は分かりません。

Good for the Soul
"Good For The Soul" (#15–18) 作画 : Darick Robertson
「もうすぐお前が殺したBlarney Cockは生き返ってくる。奴をもう一度完全に殺せ。そうしたらお前の知りたかったことを何でも教えてやる。」そうLegendに告げられるHughie。一方The Sevenの堕落した現実を前に絶望するStarlightとHughieの関係は急速に深まって行く。やがて、Legendの予告通りHughieの前に再びBlarney Cockが現れる。だが、それは知性も記憶も失ったただのゾンビだった。

アメコミの世界でよくある、ヒーローが死ぬけど生き返ってくる、というものをネタにした話。Compound Vには一旦死んだ者が蘇生するという効果が研究段階で付加されましたが、ただのゾンビにしかならず、その効果に関してはVought Americanも実際にはこの時点ですでにあきらめています。

"I Tell You No Lie G.I." (#19–22) 作画 : Darick Robertson
約束を果たしたHughieにLegendの口からこれまでのヒーロー達の隠された秘密が語られる。第2次大戦末期、ベトナム戦争と続き出来の悪い武器で兵士たちを犠牲にし続けたVought Americanの実態。そして話は現代の9・11にまで及ぶ。9・11の惨事は実はThe Sevenの強引な投入とその出鱈目な作戦行動の結果だった。一方その間、Butcherら残りのメンバーは、再開したThe Boysの動向を探るThe Sevenとの会合に向かう。A-Trainと留守番に残され掃除を命じられたStarlightは、ヘッドクォーターの奥に死んだはずの元メンバーのヒーローLamp Lighterが、もはや自分が誰かもわからない状態で糞尿にまみれ監禁されているのを目撃する。

旅客機が墜落するのが橋に変えられていますが、まさか9・11まで話に取り込むとは。このあたりからストーリーはヒーロー狩りというものよりは暗闘という方向に複雑化して行きます。

We Gotta Go Now
"We Gotta Go Now" (#23–30) 作画 : Darick Robertson & John Higgins
CIAのRaynerからの要請で、The Boysはメンバーの一人が謎の自殺を遂げたヒーローグループG-Menの調査に当たる。多くのヒーローを擁するG-Menに、Vought側にもまだあまり顔の知られていないHughieがヒーローの紛争をして潜入するという作戦が採られる。John Godolkinの許、生まれながらの能力者が育成されているというふれこみのG-Menだったが、その実態は誘拐してきた子供にCompound Vを投与するというものだった。G-Menへの調査の裏で、ButcherはRaynerの要請の真意を探り始める。そのうちにHughieの正体がついに発覚し…。

まあG-Menの元ネタが何かは説明するまでもないか。
作画は26,28話をJohn Higginsが担当。DCで多くの仕事をしている人のようですが、Darick Robertsonの代役となると若干線も細く動きも硬く迫力不足の印象。どうも名前に見覚えがある気がしていたら、今読んでる2000ADで描いていました。イギリス出身のアーティストのようですね。この人については2000ADの次の秋期の時にもう少し詳しく書けるかと思います。

Herogasm
ミニシリーズ"Herogasm" (#1–6) 作画 : John McCrea
全ヒーローが集合し、最も強大な敵との戦いに向かうことを宣言し、飛び立つ。だが、彼らが本当に向かったのは太平洋の中の孤島にあるヒーロー専用の秘密リゾートHerogasmだった。そこでドラッグ、乱交にふける堕落したヒーロー達。やがてVought AmericanのJames Stillwellも現れ、副大統領Vic The Veepも到着する。だが、The Boysもすでに彼らに先んじて島に潜入し、調査を始めていた。

これはミニシリーズとして番外編的な扱いになっていますが、どうもヒーローたちの乱交シーンなどが過激すぎるなどの理由でシリーズ内でこれだけが18歳以上のレーティング指定をされていて、そのための出版上の都合ではないかと思われます。Hughieが謎のヒーローBlack Noirと遭遇しシリーズ終盤の重要な伏線となる事実を知ったり、Vic The Veepが実はゴリラレベルの知性しかない人物であることが暴露されたり、またHomelanderのVought Americanへの不満が描かれるなど、のちに繋がる重要な展開もあったりもします。
この作品の作画で、『ヒットマン』のJohn McCreaが登場。やはりRobertsonのThe Boysとはかなり印象が変わってしまうのですが、個人的には彼のユーモアのある絵柄は結構好きです。

The Self-Preservation Society
"The Self-Preservation Society" (#31–34) 作画 : Carlos Ezaquerra & John McCrea
刺客として送り込んだヒーローチームを難なく撃退し、再起不能に追い込んでしまうTh Boysに対し、Vought Americanは遂にThe Sevenに次ぐ最強のヒーローチームであり、ドイツ生まれの最強ヒーローStormfrontを擁するPaybackを差し向ける。まず、単独でギャングからの仕事に出向いていたFemaleがStormfrobtに襲われ重傷を負わされる。そして、チーム全体がThe Boysに襲い掛かってくる。
一方、StarlightはThe Sevenメンバーからの嫌がらせで露出度の高すぎるコスチュームを強要されるが、そこで助けに入ったのはMaeveだった。

女性ヒーローNO.1であるQueen Maeveにも色々と複雑な背景があり、後半に向け少しずつ明らかになって行きます。最後にはLove Sausageも駆けつけ、ひとりを4人がかりで袋叩きにして踏み殺す、という大変陰惨なシーンが描かれます。強大な敵を前にヒーローが結集して戦うというお約束への皮肉ですが、正義、悪と言っても結局は暴力だろう、というガース・エニスのスタンスはシリーズの随所に見られ、The Boysの戦いは常にダーティに描かれます。
作画は33話がJohn McCreaで、あとは英コミック界の巨匠『Strontium Dog』(2000AD 2014年冬期の項参照のこと)などのCarlos Ezaquerraが担当しています。『ヒットマン』でも一部作画を担当していましたが、それよりも近作になるこの作品では巨匠の老境に入って出てきた奇妙なテイストが楽しめます。とは言ってもやっぱりRobertsonのThe Boysとはちょっと違うのですが…。巨匠についても、また次の2000ADでもう少し詳しく。

"Nothing Like It in the World" (#35–36) 作画 : Darick Robertson
Mother's Milkにより本人の過去について語られる。ニューヨークのスラムに住む彼の家族は製造過程のCompound Vの流出にさらされる。幸せに生きようと望んだ家族に数々の悲劇が襲い掛かる。また、9・11の当日彼がまさに旅客機の墜落した橋の上にいたことも語られる。

"La Plume De Ma Tante Est Sur La Table" (#37) 作画 : Darick Robertson
Frenchieによって語られる、彼の過去。外人部隊の契約期間を終え除隊し、故郷に帰ったFrenchie。暴力に嫌気がさしていた彼に、また無意味な暴力がまとわりついてくる。

"The Female of the Species is More Deadly Than the Male" (#38) 作画 : Darick Robertson
Femaleによって語られる彼女の過去(文章の形で)。育児に無関心な母親に放置して育てられた彼女は、赤ん坊の時研究施設で大量のCompound Vを誤って摂取してしまい、以来実験動物として檻の中で育てられていた。

メンバーそれぞれによって語られるThe Boysに入るまでの経緯。このうちFrenchieだけは過去全くVought Americanと関わり合いが無かったことが明らかにされます。また、Frenchie編の最後で、語り終わったFrenchieが窓から飛び出し歩き去り、その背中にHughieが「こんなおかしな話は聞いたことが無いよ」とつぶやくシーンがあり、何かの名場面をなぞったものらしいのですが、私にはわかりませんでした…。
作画は全編Robertsonによるもの。これは俺が描く、というキャラクターへの愛着が感じられます

The Innocents
"What I Know" (#39) 作画 : John McCrea
ButcherはHughieが交際している女性が、The SevenのひとりStarlightであることを知ってしまう。一方、Vought AmericanではJames Stillwellの補佐としてJessica Bradleyが就任してくる。

"The Innocents" (#40–43) 作画 : Darick Robertson
Hughieの行動に不信を持ったButcherは彼を単独の任務にあて、陰から監視し始める。Hughieが監視にあたることになったヒーローチームSuper Duperは発達障害の能力者を集めたチームだった。Mother's MilkはそんなButcherの行動に疑問を抱き独自に調査を始める。

"Believe" (#44–47) 作画 : Russ Braun
HughieはAnnie/Starlightにかつて自分の恋人がヒーローによって死に至ったことを話すが、彼女に自分もヒーローのひとりであることを告白されショックを受ける。更にButcherに隠しカメラに依った撮影された、彼女がThe Seven入団の際受けたセクハラに従う映像を見せられ、AnnieからもThe Boysからも逃げるように故郷スコットランドに帰って行く。
一方、ヒーローたちの現れるイベントを監視していたFrenchieとFemaleは、Homelanderを中心としたヒーローたちにVought Americanとは別の企みが進行中であることを察知する。

様々な真実が発覚し、HughieとAnnieの甘い関係が破局に至ります。また、HomelanderのVought Americanに対する反逆もここから表面化し始めます。
"Believe"からは作画にRuss Braunが登場。繰り返して言いますがBraunは非常に安定した画力を持つ優れたアーティストであり、彼の参加により『The Boys』は無事に完結を迎えられたと言っても過言ではありません。The BoysのキャラクターはやはりDarick Robertsonのものですが、私見ではありますが、後半登場頻度の増えてくるJames Stillwellだけは、Braunの方に軍配が上がるのではないかと思っています。

Highland Laddie
ミニシリーズ"Highland Laddie" (#1–6) 作画 : John McCrea
スコットランドの故郷の町に帰ったHughieは、両親にやさしく迎えられ、幼馴染の親友、女装趣味のマッチョBobyと自分の口臭が強すぎて常にガスマスクをかぶっているDetと再会する。近くの海岸で画を描いている温厚な老紳士と知り合いになったHughieは、彼に自分の抱える悩みを打ち明け始める。やがて、Annieも彼を追って現れる。彼女の口から語られる彼女の過去。生まれながらにCompound Vの影響下で能力者だった彼女は、様々な醜い現実に直面しながらも人々を助けるヒーローの道を夢見ていた。

Hughie単独のサイドストーリーで、ファンからの評判もあまり良くなかったりもしますが、John McCreaの『The Boys』の中では彼の画風が最も活かされていて、私は彼の作品として結構好きです。Hughieが会った老紳士は実はMalloryで、次の展開に繋がって行きます。

The Big Ride
"Proper Preparation and Planning" (#48–51) 作画 : Russ Braun
Hughie不在のThe Boys、The Seven、Vought Americanの動き。Butcherの回想で、MalloryがThe Boysを去った経緯が語られる。Butcherのゴリ押しによるThe Sevenへの急接近の結果、The SevenのLamp Lighterの単独暴走により、Malloryの2人の姪が惨殺される。

MalloryがThe Boysを去った理由などは、それまでにも会話の中などで語られていたのですが、ここでその詳細な経緯が明らかになります。

"Barbary Coast" (#52–55) 作画 : John McCrea
アメリカに戻ったHughieは残された伝言から、まずMalloryの許を訪れる。Malloryによって語られるVought Americanの過去とThe Boys誕生のいきさつ。第2次大戦末期バルジ戦線にいたMalloryは、議員とVoughtによって連れてこられたヒーローの出鱈目な行動により、ドイツ軍の大攻勢に遭い全滅した部隊の中で唯一人生き残る。戦後のヒーローとVought Americanの動きを見て、それに歯止めをかけるべく動き始める。また、公式には死んだとされていたVogelbaum博士が実は生きていてMalloryの許で隠されて研究を続けていたこと、Malloryの眼から見たBilly Butcherという人物の隠された危険性への危惧なども語られる。

実はMallory自身もCompound Vを投与されていたのですが、効果には個人差があり、彼の場合は特別な力は得られなかったということです。「Highland Laddie」の続きという流れで作画はJohn McCreaが担当。

"The Big Ride" (#56–59) 作画 : Russ Braun
多くの悩みや疑問を抱えながらも、HughieはThe Boysに復帰する。何者かによりThe Sevenのひとり、Jack from Jupiterのスキャンダラスな映像がネット上に流出し、The boysの仕業と疑うThe Sevenとの間に再び緊張が高まる。

このTPBあたりになってくると、それぞれの陣営のラストに向けた色々な動きが複雑になって少しあらすじとして書くのが難しくなってきます。
カバーはあまりにも有名な『Batman : The Dark Knight Returns』1号のカバー画のパロディ。実はこれはそれより前に旧Variantの『Harbinger』でも使われたネタで、その辺についてもいずれ書いていくつもりです。あまりにも有名な画なので他にもあるのかもしれないけど、今のところ私の知っている範囲ではそれだけです。

Butcher, Baker, Candlestickmaker
ミニシリーズ"Butcher, Baker, Candlestick Maker" (#1–6) 作画 : Darick Robertson
故郷に帰ったButcherは、深夜葬儀場でひとり、棺に納められた父の遺体と対面する。そして、これまでの彼の人生が語られ始める。フォークランド戦争への従軍。母に暴力をふるう父との対立。暴力嫌いの弟。そして、内面の怒りから暴力衝動を抑えられなかった彼を救った彼の妻Becky…。

The Boysのメンバーへという形ではありませんが、遂に隠されていたBilly Butcherの過去が明らかになります。シリーズ初期に、Hughieに戦う理由を聞かれ、彼も答えているのですが、顔色も変えずに言ったその内容が本当なのだろうか、と思っていましたが、それが真実だったことが描かれます。
作画は、これだけは俺に描かせろ!とRobertsonが復帰。

Over the Hill with the Sword of a Thousand Men
"Over the Hill with the Swords of a Thousand Men" (#60–65) 作画 : Russ Braun & John McCrea
大統領Dakota Bobがホワイトハウス内で事故で急死する。Vic The Veepが大統領に就任するが、事態の急変に危惧を覚え、Stillwellはすべてのヒーロー計画を一時凍結するよう指示を出す。しかし、その機にHomelanderはかねてからのクーデター計画を実行に移し、ヒーローたちがホワイトハウスを取り囲む。その事態にStillwellはThe Boysに協力を申し出る。The Boysがこれまでに集めたヒーローたちの秘密が一斉にネットを通じて流され、世論は混乱する。並行し、The Boysはある人物の恐るべき秘密を発見する。ヒーローと軍隊が対峙する中、ButcherはHomelanderが待つホワイトハウスへ一人乗り込んで行く…。

いよいよクライマックス!唯一人ホワイトハウスに乗り込むButcherが肩に担ぐ武器はバール!暴力なのだ。
作画のJohn McCreaはエピソード1話を担当するのではなく、ヒーローと戦闘機のバトルなどのミリタリーパートを数ページ描いています。Braunほどの画力を持ったアーテイストがそういうシーンを描けないとは思えないのだけど、時間の制約からくる分業なのでしょうか。

The Bloody Doors Off
"The Bloody Doors Off" (#66–71) 作画 : Russ Braun
ヒーローたちは倒れ、責任を追及されるVought AmericanのStillwellはJessica Bradleyとともに議会に召喚される。すべてのThe Boysの任務は終了したかに見えたが、Butcherはひとり、残ったヒーローとすべてのCompound Vの影響下にある者を地上から抹消する計画を動かし始める。立ちふさがる者は全て抹殺し、遂にその手は仲間にまで及び始める…。

"You Found Me" (#72) 作画 : Darick Robertson
最終回。最後はRobertsonが〆ます。


ということで、ガース・エニス『The Boys』全解説でした。なんだか無茶苦茶長くなってしまったが、全部読んでくれた人はいるのでしょうか。読んでくれた人がいたなら感謝します。せっかく書いたのだからね。私はとにかくこの作品が好きなので、書くとなったらとことんやるしかなく、こんなことになってしまいました。GWに頑張ろう!と思って書き始めたのですが結局終わらず遥かにぶっちぎってやっと完成に至りました。とりあえずはやるだけやった!と今は思ってるけど、またすぐにあれを書いてなかったなあとか思うのでしょうね。まあ、ガース・エニスに関しては今後も度々登場してくることになりますので、その時にでも。Dynamite Entertainment作品についてはこれが初めてですが、今回はずいぶん長くなってしまったので、また次の作品の時に書きます。まあ、とにかく自分的には頑張った!『The Boys』万歳!ではまた。


●The Boys




●三原順/はみだしっ子


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2015年5月3日日曜日

Nailbiter -ハイスピード・サイコ・サスペンス・コミック!-

Image Comicsも現在はずいぶん勢いがあるようで、多くのシリーズが進行中で毎週沢山のタイトルが発売されているわけですが、私のように読むのが遅い者は気になるものがあってもアレとアレを読んだら読んでみようかななどと思っているうちにすぐにちょっと旧作となってしまったりするわけです。最新情報をお伝えするなどという柄ではないけど、どうせ読んでブログに書くなら早い方がいいよな、と思って少し順番を入れ替えてみたりしたのが今回の『Nailbiter』です。とは言っても気付かないうちにもう単行本2巻が出てたりしたのですが。

あの『American Vampire』やDC52の『Batman』のライターであるScott Snyderに「途中で死ぬようなことがあったら続きは俺に書かせろ!」と言わしめたこのシリーズ、まず私の心を鷲掴みにしたのは第1号のカバー絵でした。それがこちら!


うわっ、これはヤバイ!痛いっ!たいへんわかりやすく怖い!こんなのを見せられてはもう読むしかないでしょう。さて、ではNailbiterとはどんな話なのか?


連続殺人鬼"Nailbiter" Edward Charles Warrenが逮捕される…。

彼の犯行の手口は、男女を問わず爪を噛む癖のある者を誘拐監禁し、その爪が十分に伸びたところで骨に達するまでそれを噛み、そして殺害するという異常かつ残忍極まるものである。カリフォルニアだけで少なくとも46人がWarrenの手にかかっている。

そのNailbiterがついに逮捕される…。
SWATとともに突入したCarroll捜査官が見たものは薄ら笑いを浮かべながら被害者の爪を噛み続けるWarrenの姿だった。

そして3年後…。

軍情報部の捜査官Nicholas Finchの許にCarrollから電話がかかってくる。「遂にBukaroo連続殺人鬼達の秘密を掴んだ。お前の助けが要る、すぐに来てくれ。信用できるのはお前だけだ。」友人からのたっての頼みに不承不承腰を上げるFinch。

-オレゴン州Bukaroo-

雨の降りしきる中、FinchはBukarooに到着する。そこで彼がまず目にしたのは"The Murder Store"という連続殺人鬼の記念品を売る不気味な店だった。

Bukarooは”連続殺人鬼の町”。この町から16人もの陰惨な連続殺人鬼が産まれている。そして"Nailbiter" Edward Charles Warrenは、その最新のひとり。
店主Raleigh Woodsは不気味な笑みを浮かべながら語る。「こうなったらその悪名に払い戻しをしてもらうのさ。手始めはホラー・コンベンションの誘致だ。」その彼の祖父もこの町の連続殺人鬼にして最初のひとりBook Burnerだった。

Finchは店の前で少年2人に絡まれていた風変わりな少女Aliceを助け、町の女性保安官Craneと出会う。彼女も、この町に現れてから毎日のように顔を合わせていたCarrollの行方が今は分からないと告げる。Carrollの宿泊しているホテルの部屋を訪ねると何者かに荒らされたらしい形跡があった。

Carrollはどこに消えたのか?本格的に捜索を始めた彼らがまず訪れたのは、陪審員により無罪評決が出され、この町に戻って暮らしている"Nailbiter" Edward Charles Warrenの許だった…。


うむむ…。なかなかあらすじを書くのも難しい。結構ハイテンポで進む物語なのですがちょこまか行間を空ける書き方で逆の印象を与えたなら申し訳ない。実際にはストーリーの進行とともにキャラクターや状況の説明を織り交ぜて行くとても巧みな語り口なのですが。
まずこのたいへんインパクトのある事件・キャラクターですが、これってさらにリアルになる映画や、逆に映像の無い小説だと過度にグロテスクになり過ぎ、コミックならではのバランスでバランスで成立している、コミックゆえに作りえたストーリーだと思います。
物語はオレゴンの田舎町で色々といわくありげな住人が登場しながら、次々と異常な事件が起こってくるというちょっとツインピークスをも思わせる展開。しかしこの前の『Ferals』の時も「ツインピークスみたいな田舎町」とか書いてしまって少しこちらの引き出しが無さ過ぎか。すみません。一体なぜこの小さな町で連続殺人鬼が16人も現れたのか?という秘密が"Nailbiter"の謎とともに徐々に解き明かされて行くという展開になって行くようです。謎が謎を呼びながらハイテンポで進んで行くストーリーで、ミステリ小説のファンの人にも絶対おすすめですよ。

ライターのJoshua Williamsonは2007年デビューでまだライターとしても若手の方でしょう。Image Comicsから出てオリジナル作品を書きながらDC、マーベルにも順調にキャリアを進めているところなのかな。代表作としては、この『Nailbiter』の他に同Image Comicsの『Ghosted』など。Dark Horseの『Capten Midnight』、MonkeyBrain Comicsの『Mask and Mobsters』といった作品もあります。この作品に関しては、とにかくテンポよくストーリーを進めながら、折りたたまれたものを徐々に開いていくように少しずついろいろ見せてくる巧みな展開が冴えています。この人も注目していきたいライターですね。
作画のMike Hendersonはあの(というほどはよく知らないけど…)Joe Kubert School of Artの出身とか。Joshua Williamsonとは『Mask and Mobsters』に続いてのコンビとなります。彼もまだ若手でそれほど多くの作品はないようですが、ザクッとしたスピード感のある線を基調にしながら、見せ場では上の絵のようにそれまでの流れと見るものの視点をもを一気に凍らせる画を描けるいいアーティストです。

この作品は始まってちょうど1年で、現在までに11号、TPBは2巻まで発売されており、私はまだ1巻分5号までしか読んでいません。あの人にはいったい何があったの?とか、最後に出てきたあの人のあの話ってどういうことなの?などとかなり気になるのですが、とりあえずは続きは完結を待って読みたいなあ、と思っております。たぶん1年後ぐらいではないかと。それ以降も長く続くシリーズになりそうならその辺で一旦区切りまで読もうかなあなどという予定です。この先どう言った展開になって行くのか本当に楽しみにしているので、先を読んだ人がいても絶対に私には話さないでくださいね!

というところで話はまた最初に戻るのだけど、ここのところのImage Comicsもずいぶん勢いがあるようで、どんどん出てくる気になるシリーズは早く読んでさわりの部分だけでも書いていきたいなあと思っております。とりあえずの私の注目作は、タイトルからして心惹かれる『Southern Bastards』や気鋭の女流作家の最新作『Bitch Planet』といったあたりで、この辺についてはなるべく早く読んでこのブログにも登場してくる予定です。とか言っている一方で、グラント・モリソン+Darick Robertsonなどという組み合わせでもったいなくてなかなか手を付けられないでいるうちに、もうちょっと旧作になってしまった『Happy!』なんかも早く何とかしたいな、と色々悩ましいところですがなんとか頑張りますのでまたよろしく。

Joshua Williamsonホームページ


●Nailbiter



●Ghosted


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