2014年10月19日日曜日

The Wheelman - ケイパー小説の傑作! -

Wheelmanとは銀行強盗の逃走車の運転手の事である。Lennonはその道のプロだ。彼が今座っている車の前の銀行では時間をかけて綿密に計画した強盗が進行中だ。

警報が鳴り響く。何かが上手くいかなかったようだ。仲間たちが出口に向かって突進して来るが、ガラスのドアに阻まれる。

Lennonは車を回す。この建物のガラスは防弾だ。銃を撃っても脱出できない。車は柱のないガラスの広い部分へ向かう。そう、このガラスは防弾だ。だが向かって来るのが車なら?

ガラスを突き破り、脱出路を作り、仲間と金を回収。大丈夫だ。問題ない。車は逃走路に向かう。だがその進路にベビーカーを押した母親が通りかかる。避けるのは不可能だ。どうする?母親か?ベビーカーか?

問題はあったが、追手を振り切り、車は計画通り駐車場に滑り込む。駐車してあった車に金を移し、三人はスーツに着替える。そして更に別の車に乗り換え空港に向かう。収穫の65万ドルは駐車場の車の中だ。三人はこのまま空港からそれぞれ別にバカンスへ。そして、ほとぼりが冷めたころ回収に来る。その時、突如横道から現れた黒いヴァンが彼らの車にクラッシュする!鋼鉄で補強されたバンパー。彼らの車は6回以上横転する。Lennonは自らの服が焼ける匂いの中、意識を失う…。


えーと、この本の翻訳は出ていませんよね。読み始めてから気になってずいぶん調べてみたのだけど。私がこの作者の名前の正しい読み方をいまだに把握していなくて探し出せないのではなく、やはりこの本が翻訳されていないとしたら、これは問題だ!そのくらいこの本はバカ面白いのだ!

このストーリーの印象を簡単に言うなら、リチャード・スターク+エルモア・レナード!おいおい、それは足せないだろう、と仰る人もいるかもしれません。その通り、通常は足せません。これは例えて言うなら戦車+戦車です。飛行機に戦車は足せる。戦艦にも戦車は足せる。ティラノサウルスにだって足せるかもしれない。だが、戦車に戦車は足せない。出来上がるのはどちらかの戦車をベースに残りの戦車の機能を加えパワーアップしただけのもので、それは直接的に戦車+戦車にはならないからです。でもこの作品はその不可能事を見事に成立させています。サイズがでかすぎるなら2で割ってもいい。だがこれは確実に戦車戦車なのだ!

Duane Swierczynskiの優れている点を挙げるなら、構成が巧みで文章の切れが良くキャラクターに魅力があるところ…って、それって小説家として優れてるってだけであまり説明になってないじゃん!というわけで、この作品でどれかを挙げるとすれば、私的にはその構成の卓越した上手さです。とにかくスピーディーにそこら中で二転三転するストーリー。こうかと思わせて実はこう、と思ったらそれをまたひっくり返し、という展開で最後まで、それこそゴッサム名物バットマン焼きのマントの先まで餡子が詰まっているぐらい。(そんなの見たことないけど)うーん、『Bloodshot』面白いわけだよねえ、と唸ってしまう。

ただし、この作品の主人公は犯罪者で悪党です。モラル的に問題がある事態に直面した時、必然的にモラル的に問題のある行動に出ます。そして、この作者は読者がキャラクターに感情移入しやすいようにそういう場面を都合よく回避するようなことをしないだけでなく、それを拒否するようにあえてそういう場面を加えたりもします。フィクション上でもそういう行動を不快に思う方にはあまりお勧めできません。また、逆にキャラクターに肩入れしすぎて、「○○が○○○してしまったのが嫌だった」などという感想を持ってしまう方にも。この作品の主人公、登場人物の多くは悪党なので、その末路にどんな運命が待っていてもそれは必然というものです。

そしてストーリーは、退職悪徳刑事、地元老舗マフィア、新興ロシアマフィアなどクセのある人物が次々と登場し、もつれ絡み合いながら突進していきます。最後に生き残るのは?そして65万ドルを手にするのは誰なのか?


……などと、また大騒ぎして今、作者の経歴を確認しようとして検索したら普通に読み方もわかったよ…。ドゥエイン・スゥイアジンスキーだって…。なんだろう、前ずいぶん探しても見つからなかったのに。グーグルの陰謀か?しかも翻訳が2冊も出ています。『メアリー・ケイト』と『解雇手当』。おかしいなあ、早川の新刊は常に全部チェックしているはずなのに…。ただちに注文したので届き次第読んでみますが…。うむむ、それにしても翻訳が他にあるなら読んでから別の書き方をしたのに…。俺がバカだから悪いのか…。ぐすん。
というわけで最後に思いっきりテンションが下がってしまいましたが、前2作の評価は分かりませんが、この作品は紛れもなく傑作です!別に未訳で読む人が少ないから下駄を履かせているわけではありません。こういうものをバカみたいに読んでる馬鹿者の言うことです。(ハイ、ちゃんと検索できなかった馬鹿者です。しょぼん)しかし、まだ前のは読んでないけどちょっとジェイソン・スターと同様に売る方向を間違えている気がするのだが。前の翻訳から5年経っていて、どうも紹介がストップしているようですが、この作品は紛れもなく傑作で翻訳が出ないのはもったいないですよ。ほんっとに面白いんだからねー!むー 

と、まあ相変わらず情報の詰めが甘くて済みません。しかし、自分的に見ると、むしろ若干微妙な香りのする翻訳2作に気付かず、彼の真の傑作『The Wheelman』を読めたことは結果的に良かったのかもしれません。もしこの2作が微妙だったらそこでドゥエイン・スゥイアジンスキー(翻訳あるならちゃんと日本語で書くよっ)という作家を判断していたかもしれませんから。これもきっとグーグル神のお導きなのかもしれませんね。とにかく着いたらすぐ読もうっと。
コミック方面でのドゥエイン・スゥイアジンスキーの『Bloodshot』以外の仕事としては、マーベルでは『Cable』、『Immortal Iron Fist』、『Punisher』やデッドプール関連の作品など。DCでは『Birds of Prey』。他にIDWの『Judge Dredd』、Darkhorseの『X』などがあります。他にも日本では翻訳の止まってしまっている優れた犯罪小説系の作家がコミックのライターに進出しているケースはあって、『拳銃猿』のヴィクター・ギシュラーは『デッドプール』が日本でも翻訳が出ましたね。その他に『あんな上司は死ねばいい』、『嘘つき男は地獄に堕ちろ』の書店でとても手に取る気の起きないひどい邦題でおなじみのジェイソン・スターもマーベル系MAXで『Wloverine Max』などを手掛けています。グレッグ・ルッカは小説でもコミックでも活躍中。最近はOni Press『Stumptown』などのオリジナル作がメインのようです。

なんだか妙にテンションが高かったりへこんだりでお騒がせしましたが、まあこの手の失敗にはへこたれず今後も続けて行くつもりですのでまたよろしく。オフィシャルブログの方は1年以上前に終わっているものですが過去のものでも色々と興味深いのでリンクを張っておきました。リストの方は邦訳作が原題が分かりにくいかもしれないので、一応下に記しておきます。

メアリー・ケイト 原題:The Blonde
解雇手当 原題:Severance Package


ドゥエイン・スゥイアジンスキー オフィシャルブログ      

●ドゥエイン・スゥイアジンスキーの著作



●The Charlie Hardie trilogy


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2014年10月13日月曜日

Valiant その2 -Bloodshot-

前回6月のその1に続き、Valiant その2は『Bloodshot』です。実は前回の6月から今に至るまででも大して読めてなくて、いまだになんで『and H.A.R.D. Corps』になって、今月号からまたひとりになったのかも知らないのですが、スタート時のライターDuane Swierczynskiについても書きたかったりするので、とりあえずさわりの辺りのストーリーや設定ぐらいの感じで書いてみることにしました。とは言っても、半分は少しうまく時間が作れなかったのと、もう半分はいつものもったいない病で読むのが遅れているだけで自分の熱意は変わってはいないので、なるべく熱く書いてみよう。

Rayは妻子にしばしの別れを告げて基地から任務のために飛び立つ。アフガニスタンで捕虜になっている戦友を救うためだ。この任務には彼の特殊能力が必要なのだ。妻にはこれが終わればもう基地任務から離れることはないと約束する。息子の学校行事までには戻ってやりたい…。

敵の基地上空。Rayは単独でパラシュートで降下する。だが、狙いすましたかの様に撃ち込まれたミサイルにより空中で彼は撃墜される。

敵の基地に黒焦げの死体となって運び込まれるRay。放置されたその遺体の中に埋め込まれた通信機が呼びかける。「目を覚ませ、任務はこれからだ。」すると、胸の赤い円を中心に彼の身体はみるみる再生し始める。

体内のナノマシンの働きにより、完全に肉体を破壊された死からも再生し、蘇生する。それが彼の特殊能力だった。

通信機の指示に従い彼は基地の中を進み、次々と敵を殲滅して行く。そして、目的の扉を開けた時、彼の目の前に現れたのは息子のJohnだった。その姿に気を取られているうちに彼は頭部を撃ち抜かれ、再び絶命する…。

再び蘇生し目覚めると、彼は椅子に拘束され頭部、首筋に何本ものケーブルを接続されていた。「ダウンロード85%進行中。」そして、目の前に白衣の老人が立ち、彼にBloodshotと話しかける。

その男、Kuretichについての記憶はない。彼が話すプロジェクト・ライジング・スピリットの事も。そして、その男は彼を通じて、それまで彼に指示を送っていた男にも話しかけ始める。「ダウンロード完了。」 その声とともにKuretichがスイッチを入れると、彼の頭の中にいくつもの映像が浮かび上がる。妻と子供。そしてまた別の。いくつもの彼が現実だと思っていた彼の愛する家族、そして戦友…。

「それらの妻たち、子供たちはすべてプロジェクト・ライジング・スピリットが作り上げた偽りのものだ。君が愛するものを守るため任務に赴き、人を殺すためのモチベーションを維持するために。私は知っているよ。半分は私自身が作ったものだからな。」

「嘘だ!」

彼は拘束、ケーブルを引きちぎり、椅子から逃れる。「行かせろ!ここでの目的は済んだ!」Kuretichがゲリラたちを制止する。

基地の外に逃れると、再び通信が回復する。「心配するな。位置は分かっている。ただちに回収チームを送った。」彼の前にヘリが降下し、数名の銃を構えた兵士が降り立つ。「ターゲット確認!」

ターゲット…?

銃が一斉に火を噴き、彼の身体はズタズタに引き裂かれる…。


極端なほどソリッドで無駄を削ぎ落とした展開ながら十二分にキャラクターに感情移入させるストーリーに、もちろんそれを表現する力量のある画。この第1話で私はこの作品に完全に心を奪われてしまったのでした。それにしても第1話で主人公が本当に無残な感じに3回も殺されるとは。
そして、物語は自分が何者か知ってしまったBloodshotが、彼を取り戻し再び人間兵器として使用しようと謀るプロジェクト・ライジング・スピリットの追手と闘い、逆襲し、自らの正体を求めて敵の本拠に乗り込む、という展開になって行きます。明らかに普通の人間とは違う灰色の肌に赤く光る双眼、どんな破壊からも再生する不死身の肉体を持ち、そして偽りの記憶しか持たない男、Bloodshotの戦いが始まる!

第1話にとどまらず、その後のストーリーも早いスピードとテンポで次から次へと展開して行きます。少し疑問のあるようなキャラクターの行動も勢いに押し流されてしまう感じ。また、その1で登場した『Harbinger』の主人公Pete Stancheckが逃亡してきた施設も実はプロジェクト・ライジング・スピリットのものであり、その辺のつながりから新生Valiant最初のイベントコミック『Harbinger Wars』へつながっていくものと思われます。

ライターは犯罪小説家でもあるDuane Swierczynski。このような作者のオリジナルでない作品ではどのくらいまでがライターの力に依るものか見極めにくかったりもするのですが、この『Bloodshot』ではその力強い物語の多くがSwierczynskiの力量に依るものでものであることは明らかです。ちょっと難しいキャラクターであるBloodshotについても実に魅力的に書かれているなあ、と感心します。Duane Swierczynskiについては、次回に彼の小説である傑作『Wheelman』の感想とともにかなり熱苦しく語るつもりですのでご期待ください。
序盤のペンシラーはManuel Garcia。マーベルなどで活躍するアーティストです。正確で迫力のあるアクションシーンに優れた描き手です。一方で普通の会話シーンなどではやはり正確で綺麗に描かれた画ながら、若干キャラクターの動きが重めな印象を受けますが、これはアクションシーンとのメリハリを付けるための陰影の差に加えて、インカーStefano Gaudianoのさじ加減によるところも大きいのかな、と思ったりもします。また、余談にはなりますが、最近少しカラーリストという仕事を軽く見過ぎていたかな、と思い始めています。少し前までは、作品が作られる際、ペンシラーを中心としたチームの中で、指示された色を組み合わせを調整しながら乗せて行くというものだったろうと思うのですが、近年のアメコミでは更に複雑な個人的な技能プラスセンスが必要になり、作品の中でも果たす役割が大きくなっているのではないかなと思い始めています。思い始めたばかりなのでまだ全然わかりませんが、気にしていれば少し形が見えてくるかなと思い、この作品のカラーリスト、Ian Hanninの名前も一応記しておきます。

旧版(1993-1996)では、正体不明の少年によってプロジェクト・ライジング・スピリットの研究所から解放された以前の記憶のないBloodshotが、自らの正体を探索しているところから始まります。ニュージャージーのギャング組織に手がかりがあるとの情報を得て、同地に向かい、プロジェクト・ライジング・スピリットの追手とも闘い、という現行新生Valiant版とは全く違う展開になっています。こちらはこちらで読んでもう少し詳しい形で書くこともあるかもしれません。旧版も出版当時人気で色々な国で翻訳が出たということで、もしやと思い調べてみたのですが、日本版は出ていないようです。他にもAcclaim Comics版(1997-1998)もあったりするので、早く読んでいきたいなあと思っています。


というわけでValiant その2 Bloodshotでした。少し間が空いてしまったなと思うのですが、その間にもあんまりコミックの事は書けていないし、一方では小説の方も読み終わった長編が3冊も待機中だったり、なんとかもっと努力せねばと思うばかりです。コミックに関しては、あっちが気になって読んでいるとこっちが止まっていたり、疲れたしあんまり時間もないからそんなに思い入れも無くてブログに書くかどうかわからないマイケル・ターナーの『Witchblade』でも読んどこう、などという日々でモタモタしているのですが、Valiant物と2000ADぐらいはもう少しきっちり読んでいこうと思います。 
 Valiant その3は順番から行くと『Archer & Armstrong』と『Eternal Warrior』ということになるのですが、この流れで『Harbinger Wars』の方が先になるかもしれません。いずれにしてもなるべく近日中に。そして次回は文中にも書いた通り、この作品のライターDuane Swierczynskiによる犯罪小説『Wheelman』についてです!次回に書くからと思って今回はSwierczynskiの凄さが控えめになりすぎたのではないかと思います。ご期待ください。


リストの旧版については、最近再版か新編集されたVol.1のみを記載しました。後は絶版状態で入手困難のようですが、続いてそのうちに再版されてくるものと思います     


●関連記事 

Valiant その1 -X-O ManowarとHarbinger-

●Bloodshot(2012-)



●Bloodshot(1993-1996)


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2014年10月10日金曜日

Akashic NoirシリーズSale!!

緊急特報!あのAkasic都市ノワールシリーズが現在セール中です!その地元の有名作家が責任編集を務め、その都市の名前を冠したこのオリジナルアンソロジー・シリーズ、通常11ドルぐらいでちと高いがそのうち読んでみようとチェックしていたのですが、何か版元の5周年か何かで現在2.99ドルのセール中です!(よく分からないけど日本からだと2.73ドルで300円)いきなり言われてもよくわからないかもしれないけど、とにかく左のシリーズベスト選集『USA Noir』だけでも買っておくのだ!注目は、ローレンス・ブロックの『マンハッタン・ノワール』、ケン・ブルーウ(エ?)ンの『ダブリン・ノワール』、デニス・ル(レ?)へインの『ボストン・ノワール』、ジョージ・ペレケーノスの『DCノワール』などなど。あっ、パコ・イグナシオ・タイボの『メキシコシティ・ノワール』も!『ムンバイ・ノワール』ってどんなのだろう?10月31日(2014年)までだそうです。お早目に。ワー!ギャー!

…と、ずいぶん興奮してしまいましたが、結局こんなので騒いでいるのって私ひとりなのでしょうね…。ちぇっ、いいよ。しばらく先になるだろうけどそのうち読んで「とても面白くて得したぞなもし」って書くからね。でも本当に、これからでもこういう洋書ミステリとかをKindleで読んでみようかな、と思ってる人がいたら、この『USA Noir』は絶対に買っておいて損のない本ですよ。とりあえず私的に気になるのをいくつかリストにしておきましたが、他にもリンクを張っておいたので興味があるのを探してみてください。


Akashic Books : Noir シリーズ

Noir Series e-books Only $2.99 Each!  

Akashic Noir : Amazon Kindle (USA) 

●Akashic Noir


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2014年10月5日日曜日

Mind Prison / Just so You Know I'm not Dead -短篇(集)2本立て-

ほぼ毎日近く米Amazon.comのハードボイルド/ノワールのランキングをチェックしている私のような変人はよく無料本も見つけては入手しているのですが、そんな中には結構気になっている作家の短篇なども見つかったりします。短篇1本とかではブログのネタにならないな、と思って後回しにしていたのですが、2本まとめれば形になるかな、と思い付き今回やってみることにしました。

Mind Prison / Dave Zeltserman 

Graham Winston博士は新しい犯罪者収容プログラム開発の責任者である。彼が開発中のプログラムとは、刑期の間囚人を冬眠状態に置きバーチャルリアリティで厚生を図るというもの。刑務所の運営費用も下がり、再犯率も下がるという一石二鳥の仕組みだ。お馴染みの人権論者が騒ぎ立てているが、この計画はもはや止められない。今日は重要なプレゼンテーションの日だ。しかし、彼にはもっと重要な約束があった。後を助手に任せ、彼は若き愛人、美しいロシア女性のSvetlanaとの約束の場に向かう。彼はSvetlanaにぞっこんだが、彼女との関係は危機に瀕している。彼が妻との離婚に踏み切れないでいるせいだ。そして、Svetlanaは彼にある計画を持ちかける…。

16ページの短篇ですが、表紙があってストーリーの前のページにエド・ゴーマンとかのレヴューの引用がいくつか載っていて、そこでしきりにP. K. ディックの名前が見えて少し話の向かう方向がネタバレしちゃうのですが、まあそれでもひとひねりあって、ラスト数行でノワールが加速する感じのなかなかよくできた短篇でした。
Dave Zeltsermanは最初の小説が2004年発行ですからまだ作家経歴としては若手に属する作家でしょう。日本未紹介ですが、Julius Katzシリーズでシェイマス賞の受賞歴もある作家で、もう10冊以上の著作もあり、ドイツ、フランスなどでも翻訳が出ているそうです。この作品の初出はCrime Factory関連のアンソロジーのようで、私が注目しているNew Pulp Pressからも短編集が出ていたりと、そちらの方とも関わり合いがあるようです。Julius Katzシリーズに関してはまだちょっとよくわからないのですが、とりあえずはその辺からなるべく早く読んでみたいと思っています。

Just So You Know I'm Not Dead / Anonymous-9

こちらは3本の短篇が収録された39ページの短編集です。

[1] Triangulation
男に騙されて金を巻き上げられてばかりいる富裕な女性の女友達が、俳優を使って詐欺を仕掛け、彼女の残りの資産をすべて奪おうと企むが…。

[2] 2,984,000 Pounds of Pressure
ガス供給会社で修理の仕事に勤める男は、ある日ガス漏れの通報を受けて訪れた家で探し求めていたものを見つけるのだが…。

[3] Dreaming Deep 
湾の浚渫作業がまた始まる。以前の作業中、監督の男が行方不明になっていた息子が海中にいると思い込み、狂気に陥り、現在は施設で治療を受けている。男は湾内の海底に怪物がいると主張するのだが…。

[1]は語りの入れ替わる一人称で、最後には奇妙な愛憎が浮かび上がってくる作品。[2]は男性の一人称なのですが、とても女性作家の手によるとは思えない作品。[3]はラブクラフトオマージュのホラー作品。この人のスタイルとして、短い段落ごとに少し広いスペースを開ける、というのがあって、それが映画などで短いカットをつなげてフラッシュさせる手法に近いようなスピード感を出していて、[1]では特にそれが効果的です。[3]は一読して結構シンプルなホラーだな、と思ったのですが、よく考えると他の作品よりは一つの段落は長めにとりつつも上記のスタイルを維持しつつ、かなりラブクラフトのお手本に忠実なストーリーと語り口になっていることに気付きました。まあ本当にラブクラフト先生に作品を送ったら原型をとどめないくらいに添削されちゃうんでしょうけど。[1]を読んでなかなかいい作家を見つけたぞ、と喜んでいたら、[2][3]で更に色々な引き出しを見せてもらったという、短いながらかなり手ごたえのある短編集でした。
Anonymous-9は英Blasted Hearthから本が出ていたりするのでてっきりイギリスの作家だと思っていたのですが、実はL.A.在住の女性作家でした。2009年にSpintingler Mag.のアワードを受賞し、現在注目度上昇中の新進気鋭の作家です。まだ作品数は少ないのですが、いずれの本も大きな切り貼り文字を使ったソリッドでクールなカバーがトレードマーク。長編では車椅子のマークが銃をぶっ放しているというやたらかっこいいカバーの、事故で下半身麻痺になってしまった男が相棒の猿とヴィジランテとして戦うという『Hard Bite』があり、続編の『Bite Harder』が先月発行されたばかりです。ちなみに女性作家でAnonymous(匿名)などというペンネームなので、容姿経歴一切が秘密なのだろうと思っていたら、巻末に本名とともに「今日こそはツケをいくらかでも清算してくれなきゃ一滴も飲まさないからね!」というアグレッシブな感じのおば…女性の写真が掲載されていました。ホームページの方でもまずご本人の写真が登場します。そちらでは最新中編小説がもうすぐ出版されることもアナウンスされています。これからの活動がかなり期待される作家です。


というわけで今回は2本立てでやってみました。2つ並べると必然的に優劣をつけなければならなくなって来るわけで、そうなるとご察しの通り私的には明らかに温度差の違うAnonymous-9ということになってしまうのですが、基本的には両方それぞれ優れた優劣のつけがたい作品でした。Anonymous-9については、個人的にはこのブログで今まで書いた作家ではJonny ShawやAnthony Neil Smithクラスのお気に入りを見つけてしまったというところなので、その辺の温度差の違いはご勘弁ください。実際のところは大抵の人は、どちらかというと読みやすくまとまっているDave Zeltsermanの方に軍配を上げるのではないかなと思います。しかし、今後のことを考えると、私のようなわからないものの方が気になる変人としては、もう120%面白いに決まっているAnonymous-9の『Hard Bite』より先に正体不明のZeltsermanのJulius Katzシリーズを読むことは確定なので、結果的にはZeltsermanの勝ちになるのかも。ちなみにJulius Katzシリーズに関しては「よくわからない」と書きましたが、実際にはいつもの読むのを楽しみにしているので「調べていない」というのが正確なところです。いずれ、なるべく早い段階でこのブログにて正体を解明することになると思いますのでお楽しみに。

ちなみに冒頭で両作とも無料本で入手した、と書きましたが期間限定のもので、現在はどちらも約1ドルぐらいで販売されています。このような本は作者もサンプル的な位置付けで考えていたりするので、また無料になるときもあると思われますが、それがいつごろになるかはわかりません。私がいろいろ見ているところでは数か月おきに週末2~3日という形が多いようですが、はっきりしたところは分かりません。自分のブログのペースではそういう形のものをいち早くお伝えするのも難しかったりするので、そういうものを見つけたい方は自分で頑張ってみてください。ちなみに本日(2014年10月4日)はロジャー・スミスの未訳作が無料本で出ていました。明日の午後ぐらいまでは手に入ると思います。他に今回のAnonymous-9の『Hard Bite』がおそらくは新作キャンペーン中で0.99ドル、以前に書いたRoger Stelljesの『First Deadly Conspiracy』ボックスセットが0.99ドルで販売されています。期間限定と思われますので終わってしまっていたらごめんなさい。 


Dave Zeltserman オフィシャルサイト

Anonymous-9 オフィシャルサイト

●Dave Zeltserman / Julius Katsシリーズ


●Dave Zeltsermanの著作


●Anonymous-9の著作


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