2016年12月23日金曜日

John Rector / The Grove -Kindle実力派人気作家のデビュー作-

John Rectorという作家の名前を知っている人は、日本ではまだあまり多くないのかもしれませんが、アメリカのAmazon.comの、Kindleハードボイルド、ノワールなどのランキングでは大抵1作ぐらいは常にベスト100に入っているようなそのあたりでは結構な人気作家です。今回はその2009年に出たデビュー長編である『The Grove』についてです。

で、まずそのランキングについてですが、実はこれがちょっとややこしくて、例えばハードボイルドの1位となっているものが必ずしもコアなハードボイルド・ファンの満足するものとなっているわけではありません。まずそのジャンルというのが多分出版社であるとか本を売る側の自己申告となっているようで、とにかくハードボイルド、と言ってしまえばそのジャンルに入るわけで、しかもランキングというのは売り上げで決まるわけですから、別のジャンルで人気で売り上げが高くそれがそのジャンルで登録されているものの中で売り上げ順位が高ければ、これハードボイルドなのかな、という作品でも1位にランキングされてしまう仕組みとなっています。で、実際見てみるとアメリカで最近人気らしい"Kidnapping"とか"Women Sleuths"とかで売れてるらしいというのも多かったりするわけなのです。別にそういうジャンルのが悪いとか言っているわけじゃないのだけど、それでもやっぱり自分的な優先順位としてはあまり高くないわけで、まあそんな感じでランキングの中から本当に自分が読みたいようなものを探すのは少し難しくなっているわけです。それでもせっかくのランキングなのですから、何か自分の知らない作家でいいのがないかな、としつこく見ていてこれはどうなのかなと思っていたのがこのJohn Rector。そんなこんなしているうちに『Crime Factory』の1号を読んでいたらこの作品の割と好評のレビューが載っているのも見つけ、それなら読んでみようか、…と思ってから実は結構経っているのだけど、やっと読んでみたのがこの『The Grove』というわけなのでした。


【あらすじ】

目を覚ますと部屋にGregが入ってきた。
Gregは俺の幼馴染の親友で、今はこの町の保安官だ。

「お早う、Dex。昨夜はどうしたんだ?今朝Lizから電話があったぞ。」
「昨夜?」

まただ…。全く記憶がない…。Lizは少し前に俺に愛想を尽かして出て行った俺の妻だが、何があったのだろう?

「お前さん昨夜は荷物を取りに来たLizを銃を持って散々脅したそうじゃないか。ずいぶん飲んでたようだな。おまけにトラクターに乗ってあのざまだ。」

外を見るとトウモロコシ畑の真ん中に突っ切った道ができ、その先にトラクターが抜けだすのにかなり苦労しそうな状態ではまり込んでいる。
Gregは俺の銃から弾を抜き、しばらく預かると告げて帰って行った。トラクターを牽引してやるという彼の申し出は断る。

しかしトラクターの回収は予想どうり困難を極める。タイヤの下に入れていた梃子の板が割れて腕に傷を負う。日も暮れてきた。一旦戻って手当をしよう。
地所のはずれの雑木林を横切ると、若い女の子が持つようなポーチが落ちているのを見つけた。また近くのガキどもが入り込んだのだろう。

だが、林を抜けるとトウモロコシ畑にその持ち主らしい少女の死体があった…。


物語は主人公の農夫Dexter McCrayの一人称のみで語られます。最初は飲酒に問題があるだけのように見えるのだが、次第に実はもっと根の深い問題を抱えている人物であることが見えてくる。様々な事情から精神安定剤らしきものの服用が必要なのだが、妻が出て行ってしまってからはそれも止めてしまっている。タイトルの『The Grove』は彼の家の窓からも見える地所のはずれにある雑木林のことで、Dexterはそれを外界から隔てる防壁のようにも思っている。
死体を発見し、まずは親友でもある保安官のGregへの通報を考えるのですが、町での自分の評判を考えると自分が犯人であると疑われかねないと思い直し、とりあえずは自分で真犯人探しに動き出します。この辺の展開から、最初は記憶がないまま死体を見つけ、実は本当は自分が犯人かもしれないと自分でも疑いを拭い去り切れないままある種不条理とも感じられる状況を動くような、セバスチアン・ジャプリゾあたりのフレンチ・サスペンス風になるのかと思ったのですが、次第にDexterが自分の内面の狂気に囚われ暴走し始めるサイコ・サスペンスとなって行きます。Amazon.comではホラーのカテゴリにも入っていたり。
サイコ・サスペンスということで少し怖いところもあるけど、自分の感じではそれほど人を選ぶというほどではないかと思います。全体的にもとてもよく書かれていて力のある作家の良作だと思いました。あとこれは批判的な意味ではなくて、一人称で登場人物もさほど多くなく、なんとなく後に有名になる映画監督が初期に撮った低予算映画のように見える感じもちょっと面白かった。少し物悲しいのだけれど、穏やかな感じのラストはなんとなく作者の人柄も感じさせるものでした。
あともう一つこの作品で良かったところとしては、大変読みやすいことです。あんまり難しい単語もなく、文章も短めで複雑でないという意味。これから洋書を読んでみたいという人にはおススメの作品です。でもこれは案外英語が母国語の人にとっても同じことなのでしょう。この作品他John Rectorの作品ほとんどはAmazon傘下のThomas & Mercerからの出版で、Unlimitedにも入っていたり他にも色々とランキング的に有利なところもあるでしょうが、ある程度以上の人気を得る要因の一つにはそういうところもあるのだろうと思います。ただし!もちろん読みやすい文で書かれたものばかりが正しいわけでないのは言うまでもありません。例えばAnthony Neil SmithのBilly Lafitteシリーズなどは、まるで石切り場で気に入ったのを拾ってきたようなゴツゴツのままの単語をそのまま無造作に並べただけのような本当に素晴らしい文体で書かれているのだけど、若干読み難く、あっちの中学生レベルからの、文章が悪い作家へのお決まりの常套句をそのまま真似た「いいエディターを雇え」みたいなレビューがAmazon.comにあったりもします。
ちょっと自分の好みどストレートではないところで温度低めかもしれないけど、この作品作家については高く評価しています。もし身近な人に「英語でミステリを読んでみたいのだけど、おススメはありますか?」(イメージキャラ:広瀬すず)とかきかれたら、この作品とDani Amore(現Dan Ames)の『Dead Wood』と、あとそれほど読みやすいわけではないけど万人向けでユーモアもあるDave Zeltserman『The Julius Katz Collection』あたりを勧めると思います。うん。もちろんいないよ。

作者John Rectorはネブラスカ州オマハ在住の作家で、2009年に本作『The Grove』を自費出版でデビュー。翌2010年に第2作『The Cold Kiss』をSimon & Schuster UKから発表し、同年『The Grove』がAmazonからKindleで発売されてから人気作家となり、第3作以降はAmazon傘下のThomas & Mercerからの発売となっています。ちなみに第3作『Already Gone』は2011年にThomas & MercerがAmazon Publishingのミステリなどの部門として立ち上げられた時の最初のリリースの一作にもなっています。現在までいずれもシリーズ作品ではない長編が5作出ており、最新作『The Ridge』が来年4月に発売予定となっています。
とりあえず私の持っているKindle版ではまだ"Published by AmazonEncore"となっていたりするのだけど、Kindleでは更新があれば新しい版がダウンロードされるはずなので、今購入できるものと同じだと思うのですが、この作品本編、作者紹介が終わった後、何のタイトルも説明もなく別の話が始まり、とにかくよくわからないまま読んでみたのですが、結局これは後であらすじと照らし合わせてみたところ、第3作『Already Gone』のプレビューと分かりました。Kindleに関わらず巻末に次作のプレビューが掲載されているのはよくあることのようだけど、何の説明もないというのは初めて見て、Amazon本体からの出版なのにKindle初期は結構雑だったのだなと思ったり。それはともかくとして、その第3作も語り手である主人公が何か不条理とも思える事件に遭遇するところから始まり、同様に大変読みやすく、また前の妙な表現から続ければもう少しお金のかかった映画となるようにも見える作品なので、こちらから読んでみるのもいいかと思います。あっ、広瀬さんにもこちらを勧めればよかったかな?はっ!オレもどこかヤバくなり始めているかも…。

版元Thomas & Mercerについてですが、なんだかいまだにホームページとかもないのでなかなか全貌をつかむのが難しかったりするのですが、割と最近だと思うのだけど米Amazon.com内のAmazon Publishingのページが整備されたようで、そこからThomas & Mercer作品が見れるようになっているのですが、整理もされていないAmazonのリスト51ページとかで出てくるので面倒でちゃんと見ていません。根気のある人はこちらからどうぞ(Amazon Publishing - Amazon.com)。自分の守備範囲のところで言うと、日本でもお馴染みのところではマックス・アラン・コリンズのネイト・ヘラー物など、G・M・フォード、あとウェイワード・パインズ3部作のブレイク・クラウチなどが現在Thomas & Mercerから発売中。新しいものとしてはJohn Rectorの他には、Jay Stringer、Matthew Iden、Alan Russell、Alexandra Sokoloffといったあたりが注目かと。まだ始まってそれほど歴史もなく混沌としているところもあるかもしれないけど、とりあえず少なくともハズレ無しぐらいのクォリティーで出ているのではないかな、という感じでこれからも注目し、色々読んでいきたいと思っております。
今やっと気付いたのだけど、Unlimitedって自分はとにかくもう買っちゃった読みたい本が山積みになっているのでぐらいの理由でやってなかったのでそれほど気にしてなかったのだけど、結構それで読んでる人も多いと思うので、気軽に読んでみる機会にもなると思うのでもう少し気にしていくようにします。とりあえず今回のJohn Rector他、上にあげたThomas & Mercerの新しい作家とかはUnlimitedで読める作品も多いようですよ。さすがにUnlimitedおススメみたいなことをやるのは難しいかと思うけど、取り上げた作品の関連であるようなら今後はなるべく書いていくようにします。

John Rectorホームページ


【その他おしらせの類】
ここからちょいと荒れます…。クリス・ホルム『殺し屋を殺せ』!!まずは感想から書こう。素晴らしい!クライム・アクションの傑作である!主人公マイクル・ヘンドリクスは恋人との未来のために軍に志願し、そこで彼自身も知らなかった生まれついての殺しの才能を持つ者=キリング・カインドとしての才能を見出され、特殊部隊に配属され様々な秘密任務を執行することとなる。だがそれは彼の望んだものではなかった。陰惨な数々の殺しは彼の心を蝕み始める。そしてある作戦中に部隊が壊滅状態に陥った時、生き残った彼は部隊を離脱し、公式には死亡とされたまま密かに帰国し、新たな人生を歩み始める。だが、彼の手は汚れ、そして内に潜んでいたモンスターは引き出されてしまった。もう2度と愛するものを抱くことはできない…。しかしキリング・カインドである彼にできるのは殺しだけ。そして彼は”贖罪としての殺し”を始める。生かしておいてもそれほどの害はないと彼が判断した、殺し屋に狙われた人物からの高額の報酬と引き換えにその人物を狙う殺し屋を始末する。だがそれは本当に贖罪となるのだろうか?そして、度重なる暗殺の失敗に業を煮やした米犯罪組織の連合である<評議会>は謎の”殺し屋殺し”を始末するため最高の殺し屋を雇う。アレグザンダー・エンゲルマン。殺しを心から楽しむキリング・カインド。その生まれ持った才能と手段を選ばぬ残虐さで次第にヘンドリクスへと迫ってくる。更にもう一人、犯罪捜査の側でもFBIの女性捜査官チャーリー・トンプソンが、数少ない手掛かりの中から”殺し屋殺し”の存在を嗅ぎ付け、日々の多くの捜査に追われながらヘンドリクスを狙う。そして、そして組織の金を着服し告発に寝返った男にシンジケートの処刑宣告が下り、モラルを持たない粗暴なキリング・カインド、レオン・レオンウッドがヘンドリクスの標的となった時、カンザス・シティのカジノが血みどろの屠殺場と化す!
と、ちょっと長くなってしまったのだけど、前の『バッド・カントリー』が少し雑だったかとの反省と、『殺し屋を殺せ』というタイトル自体はそれほど嫌いじゃないけど、原題で主題でもある”キリング・カインド”という部分が少しぼやけちゃってる感じがしたので自分なりにまとめ直しました。テンポよく進むハイスピード・アクションながら、緩急、静と動の使い分けも上手く、泣けるところは本当に泣ける。レスターよ、お前こそが真の戦友だよ!周囲のキャラクターや風景、環境などが良く書き込まれているゆえに、読者が感情移入しやすい内面を持ち、欠陥の少ない主人公が少し薄く見えてしまうのがシリーズ物としての今後の課題か。しかし申し分のない素晴らしい作品です。こんな傑作が翻訳されて本当に良かったよ。絶対続きも出してね!
だがしかし!…いや、こんな傑作を杜撰に扱う奴がいたら許さん!と恐恐としていつもより多くの感想をチェックしたのだが、なんか割と多くの人が楽しく読んだようで、それならいいかー、とか思ったのだけど、だがしかし!どうしても言っておかなければならんことがある!あちこちで見つかったのが「『暗殺者グレイマン』と比べると…」というような文言。繰り返して言うが、これはクライム・アクションの傑作である!犯罪小説である!ハメット、チャンドラーらのハードボイルドから派生し、ジム・トンプソン、ライオネル・ホワイト、デビッド・グーディスといった作家を生み出し、あの悪党パーカーを経て、ジョージ・V・ヒギンズ、エルモア・レナード、ジェイムズ・エルロイにルへイン、ペレケーノス、ランズデール、そしてヴィクター・ギシュラー、ドゥエイン・スウィアジンスキーといった作家へと続く(うわー、いっぱい抜けてる気がする!)系譜へと連なる作品である!「冒険小説」に属する『暗殺者グレイマン』とそのまま比べるべきものではない!しかもそれを誘導しているのが日本版版元である早川書房であるのが大問題なのだ!田口俊樹氏のあとがきも明らかにクライム・ノベルのものでもあるのにかかわらず、グレイマン・シリーズに似たカバーに加え、「新たな暗殺者シリーズ、堂々開幕」などというへっぽこコピーを帯に付けるという大暴挙!まさか天下の早川書房がこれちゃんと読めなかったんじゃあ…、などと考えるとそっちの方が怖くなるので、ここは「これはグレイマンと絡めた方が売れるでやんすよ、ゲヘヘ。」という下衆な心でやったものとむしろ信じたい。反省したまえ!
ではなぜ常々ジャンルなんていうのは曖昧で良い、と言ってる私がこの違いにこだわるのか?それは近年この「冒険小説」読者によるクライム・ノベルへの誤読被害が大変多いからである。あ、まず言っておくけど「冒険小説」にカギ括弧がついているのは別に「冒険小説」論壇への私の反感とかを表明しているものではない。以前2000ADのことを書いてる中で言ったので見てない人もいるかもしれないけど、なんか少年少女も含む愛と勇気の冒険クラブが汗臭いマッチョのたまり場になっちゃってる感が少し嫌、という個人的感情である。まあ、実際に「冒険」で「小説」なのだし、曖昧で雑に散らばってる感のあったものにある種明確な定義を与えた部分もあるのだし、呼びたい人はそう呼べばよい。私が納豆が嫌いだからと言って、この世から納豆を殲滅すべし!などと思わないのと同じ話である。でもひじきは根本的に食用とすべき海草なのかという疑問は長年持っている。えー?だって海水浴とかでいっぱい流れてる海草は食べないでしょー。毒とかじゃないのに。なぜあんなに苦いのをそもそも食べようと思ったの?きっと元々は漁師村の誰が苦いのを一番たくさん食べられるか大会で始まって…、いや、長年の疑問故思い切り話がそれてしまったのですが…。
えーと、つまり「冒険小説」による誤読被害の話である。そもそもがクライム・アクションと「冒険小説」は形が似ているようだが重点となるところは微妙に違う。それを無理矢理「冒険小説」の枠に押し込め歪んでしまったところを引き算して語るなどというのは間違っている。例えばその『暗殺者グレイマン』だってクライム・アクションの枠に無理やり押し込めて語れば、「こんなに無駄に世界中走り回らず、もっと狭い地域で追手も片っ端から倒すんじゃなくて遺恨を増やしながら何度もぶつかる方がもっと濃密な物語となっただろう」なんて言い方もできる。そんなこと言わないけど。あれはああいう形で書かれた物語で、そういう形で優れた作品だからである。だがなぜだか知らんが「冒険小説」愛好家の中には何でもかんでも「冒険小説」と思い込み、自信たっぷりに無理やり押し込めて歪んだところを欠陥と指摘し、挙句に「スケールが小さい」との決まり文句で批判する人が多い。こーゆー人達って作家本人がその感想を見てどう思うと思ってるんだろうか?自分も舞台を国際的に広げた「スケールの大きい」ものを書かなければ、と反省するとでも?こういう作家は当然のことながら、自分の目指すジャンルに近い作家の小説は読んでいる。ル・カレからラドラム、クランシー、カッスラーに至るまで(こっちは大幅に飛ばしたけど、適当に補ってください)少なくともどういう作家か把握できるぐらいには読んでいるはず。ではなぜそれでもそういう作品ではないものを書くのか?それは上に書いたような犯罪小説の作品に感動し、そのような作家に続きたいと思い作家となったからである!
そもそもこの「スケール小さいクレーマー」たちは、もしかしてそういった「冒険小説」が国際的な舞台で、政治も深く関わり、「スケールが大きい」からミステリやエンターテインメント小説の中で最上位にあるとでも思ってるんだろうか?…と考えてみると…思ってんだろうね。そういう人達って確かに存在する。なんかこの「スケール小さいクレーマー」に関しては何を言ってもしょうがない気もする。心ある人はこんなことを言ってる感想は相手にしないで下さいと望むだけです。「スケールが小さい」などと書いてあるだけでも明らかな誤読で、他のジャンルの人が好きな小説かもしれないですよ。
と、本編より長くなってるんじゃあ、というぐらい延々と書いてしまいましたが、このクリス・ホルム作『殺し屋を殺せ』、現代クライム・アクションの素晴らしい傑作であります。ごく少数派とは思いますが、「「冒険小説」か」と思ってスルーしちゃった人は絶対に読む価値あり!それにしても今回の早川書房の暴挙は許しがたいものである!企業は利潤を追求するもの、などというお決まりの言い訳など通用しない!世の中に虚偽の説明で販売してよい商品などないのだ!もう早川の本など2度と読まん!…などということは到底不可能なので、腹いせに正しい帯を作成いたしました!心ある人はサイズを合わせてプリントしてインチキ帯の上に貼りましょう!



…キリング・カインドうまくいかなかったな…。未熟。つまりは本は正しい説明で正しく読まれるべし、ということです。そして以前から言っている通り、こちらは「犯罪小説」と明記してある『オーファンX 反逆の暗殺者』についても近々語る予定です。まだ読み終わってないので調べてないけど、誰も「スケールが小さい」とか書いてないよね?

ずいぶん遅れとるのですが、あとお知らせを少し。まずは遂にこの作品が発売!現在最注目の大型新人Adam Howe君の初の長編作となる『Tijuana Donkey Showdown』が12月9日の発売となりました!以前にもお知らせしたように『Die Dog or Eat the Hatchet』収録の「Damn Dirty Apes」の主人公元ボクサーの用心棒Reggie Levineが再登場となる作品です。こちらにつきましては今読んでるアレの次の次ぐらいに読む予定なのですが、凄く面白かったら前倒しして早く書くということもあるかも。
そして今年もShotgun Honeyのセールが開催中。旧One Eye Press、現在のShotgun Honeyの全作品Kindle版が0.99ドルで発売中です。一応リストは作ったけど、前のはまだOne Eye Pressからの発行になっているので、自分でアマゾンで検索するときはShotgun Honey、One Eye Pressの両方で検索してみてください。で、そのShotgun Honeyなのですが、今週電撃的にあのDown & Out傘下のレーベルとして発行されることが発表されました!…いや、世間的にはそれほどのニュースではないでしょうけど…。この結果がどうなるのかはまだわからないけど、台所も苦しくKindle版しか出せなかったりするインディー・レーベルが統合・強化され新しい作家の作品も手に入りやすくなる先駆けかもよ。この先の展開にも注目して行きたいと思います。
そしてそのDown & Outの恒例となっている半月0.99ドル作品、今回は『殺しのグレイテスト・ヒッツ』などのアンソロジーの編者として知られるロバート・J・ランディージのThe Hitman with a Soulシリーズの第1作『Upon My Soul』です。日本ではアンソロジーと収録された短編しか出てないランディージがどんな長編を書くのか興味ある人は入手すべし。
それからずっと読もうと思っててなかなかたどり着けないでいたJosh StallingsのMoses McGuireシリーズがちょっとお得な価格で販売中。今年は『Young Americans』(あれ、これももしかしたらセール中かな?)がアンソニー賞ペーパーバック部門のノミネートにもなったJosh Stallings。通常より2ドルぐらいの値引きですが、読もうと思う人は今が手に入れるチャンス。と思ってよく見たらこちらもUnlimitedになっていました。とにかく結構面白そうなのでおススメ。来年こそは読んでなんか書きます。ああ、Shotgun Honeyの方も…。

と、また結局激しく遅れてしまいましたが、12月はこんなものか…。いや、一応は頑張ったのですが…。まあ世間的にはもう年末となってしまいましたね。年内もう1本ぐらいの気持ちで頑張ってみようとは思うけど、やっぱ来年になっちゃうかな。クリスマスは一切予定はないけど、最低限大掃除はやらんとならんし。とりあえず、少し早いけどここらで良いお年を、とか言っときます。もし間に合ったらもう一度言おう。それではまた。



●John Rector
■長編


■中編



●Adam Howe / Tijuana Donkey Showdown


●Shotgun Honey/One Eye Press


●ロバート・J・ランディージ/Upon My Soul


●Josh Stallings/Moses McGuireシリーズ、他




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2016年11月30日水曜日

Happy! -重量級コンビによる異色ノワール・コミック-

あのグラント・モリソンと『Transmetropolitan』、『The Boys』などで知られる名アーティストDarick Robertsonのタッグによる2013年Image Comicsからの作品『Happy!』です。少し前の作品ではありますが、最近パイロット版の製作が発表され、再び少し注目も集まってきているところではないかな、と思われます。


【あらすじ】

クリスマスが近づく雪の夜。元刑事のNick Saxは仕事へ向かう。職を失い、堕ちるところまで堕ちた彼の現在の仕事はヒット・マンである。
今回の仕事はFratelli兄弟の暗殺。依頼の兄弟3人を殺害したところで、4人目が撃ってくる。Fratelli兄弟は3人じゃなかったのか?
兄弟最後の一人を追い詰め、銃を突きつけるNick。
「待ってくれ!助けてくれ!隠し金のパスワードを教えるよ!今じゃ兄弟最後の生き残りの俺しか知らないパスワードだ!」
そしてNickは兄弟最後の一人を射殺する。

殺害現場を後にするNick。だが、予定外の男の銃弾を受けた彼も、そのまま雪の中に倒れる…。

しかし、その男はNickが殺すべき男ではなかった。依頼者であるギャングのボスは、駆けつけた警察により逮捕され病院へと運ばれたNickへ向け、彼が兄弟最後の一人から聞き出したと思われるパスワードを聞き出すべく配下に指令を下す。

生死の境をさまよい、救急車で病院に運ばれるNickは、目の前に自分に呼びかける不細工なアニメキャラのような羽の生えた青いユニコーンの姿を見る…。
そして病院で意識を取り戻したNick。そしてそいつはまだ彼の目の前にいた。しかもそいつは彼の目にしか見えていないようだ。そいつはHappyと名乗り、自分と一緒にHaileyを助けて欲しいと言う。
しかし、その前にまずやらなければならないのは、パスワードを聞き出すためにボスが送り込んだ配下と警察を振り切り、この病院から抜け出すことだ!


そしてNickとHappyの珍道中が始まる、という展開。
まあ、まずこのあらすじを読んで誰もが思ったであろうことは、まるでディズニーのファミリー向けクリスマス・ムービーみたいじゃん、てとこでしょうがこれはちょっと違う。これはモリソンが稀代のダーティーでバイオレンスな迫力のある画を描けるアーティストDarick Robertsonと組み、その画から作り出される思い切りダークなノワール世界でそれをやったという異色作なのである。実際これはComixologyのAge Ratingでも17歳以上になっていて全く子供向けではありません。HappyというのはHaileyという女の子のイマジナリー・フレンドで、その女の子を助けて欲しいと、自分の姿が唯一見えるNickに頼むのですが、Nickの方はそんなもん知るか、俺は今自分で精いっぱいなのだ、他のやつを探せ、と手段を選ばない逃走劇を繰り広げます。Robertsonの素晴らしい画もあり、そちらの方にはかなりうるさい私でも品質保証のノワール作品です。そして最後はちょっと泣けるクリスマス・ストーリー。でも彼女にクリスマス・プレゼントで贈ったら100パーセント怒られるだろうね。
最初に書いた通り、パイロット版の製作も発表された本作ですが、ちょっと詳細についてはあまりわかりません。たぶんケーブルTVや映像配信系でのシリーズ化を目指しているのだろうけど、それでもこの血とゲロと小便の嵐のこの作品がそのまま映像化されるのは無理だろうとは思いますが、ダーティーでタフなNickのキャラクターをうまく生かしたものでめでたくシリーズ化されていつか観ることができたらいいですね。ポシャってもパイロット版だけでも観る機会があるといいなあ。

作者コンビについては、まずグラント・モリソンについては特に今更言うこともないか。と言いつつもこのブログではモリソン初登場なのですが…。ただ、ビッグネームではあってもオリジナル作品については『We3』ぐらいしか翻訳もないモリソンでありますし、何かいろいろ紹介していければなと思っております。とりあえずあの超異色問題作『The Invisibles』の研究本『Our Sentence is Up: Seeing Grant Morrison's The Invisibles』というのを割とお手頃価格でKindleで見つけたりしましたので、その辺に取り組んでみようかと。これ(現在\594)とモリソンのDC初期あたりの作品についての本『Grant Morrison: The Early Years』(現在\368)はこの手の本にしてはずいぶん安いのでセールなのかも。一応下のリストの方に入れときます。
Darick Robertsonは私の最も好きなアメリカのコミック・アーティストの一人です。『The Boys』の時に散々言ったので、もう何も思いつかん。代表作の一つであるウォーレン・エリスとの『Transmetropolitan』については超有名作なのでちょっと気が引けるのですが、日本的にはあまり資料もないようなので近日中にちょっと書いてみる予定です。最近の仕事としては、なんとValiantの遂に再開される『Harbinger Renegade』がRobertsonの画で!…いや、中断になるところまでも進んでいないのですが…。Valiantについても続きを早くやります…。なんか宿題ばっかりじゃん…。

というわけで、今回はまた少し遅れてしまったのだけど、ちょいと頑張って2本書いてみました。何とかなるべくたくさんの作品を紹介したいといつも思っていて、2本立てみたいのも考えてみたのだけど後々検索とかしにくくなるだろうなと思い、少し短めな感じで一度に2本という方向でやってみました。全く根性とかとは無縁で1つ書くとすぐ気が緩んでしまう私ゆえ、2本並行して書くという手段により何とか達成することができました。結局遅れたけど…。ここしばらくは2000ADにかかりっきりで手が回らなかったり、いつ終わるのかわかんねーほど長くなってしまったものをダラダラ書いてたり、寒くなるとすぐに体調を崩したりやる気をなくしたりする私ですが、何とか一方では数を目指し、なるべく沢山の作品について書いていきたいと思う次第です。


●関連記事

ガース・エニス『The Boys』全解説


●Happy!


●グラント・モリソン研究本



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2016年11月29日火曜日

Revival 1: You're Among Friends -Image Comics人気のホラーコミック・シリーズ-

近年のImage Comicsのヒット・シリーズ…と思っていたら第1号が出たのは2012年だったりするのですが、現在も進行中の(44号が今月発売)人気シリーズであるホラー/カントリー・ノワール作品です。少し前に書いたけど、TPB第1巻の序文ではあのJeff Lemirieが僕もこういうRural Noir書きたかったんだよなあ、と言っている作品です。


【あらすじ】

ウィスコンシン州の田舎町Wausauで、新年明けて二日目の月曜日の未明、それは始まった。

火葬中の遺体が蘇生し、炉から這い出し、葬儀を待つ少女の遺体が起き上がり家に帰りたいと告げる。病院では死亡を宣告されたばかりの老人が目覚め、警察の死体保管庫では死体袋に入れられた死体が起き上がる。

この小さな田舎町で、原因もわからないまま突如死者が蘇り始める。生き返った者たちはゾンビのようなものではなく、死亡前の記憶も持ち、それまでと何ら変わらない人間に見える。

この原因不明の事態は、さしあたっては何か感染性の病に類するものとの危険性を考えられ、町は閉鎖され、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の職員も派遣されてくる。
警察署長の娘であり、自らも警官の一人であるDana Cypressは、父からこの事態に対する渉外担当の任を与えられ、CDC職員のIbrahaim Raminとともに事態の調査にあたる。

そして、一見生前と何ら変わらないように見えた生き返った人々の中に、少しずつ小さな歪みが現れ始める…。


というところがあらすじというか大まかな設定ぐらいのところで、実はこの作品かなり登場人物も多く入り組んでいて、最初の5号分を収録したTPB1巻ではまだあまり話も進んでいない状態だったりします。例えばかなり登場人物が多いタイプのアメリカのTVシリーズとか観て、まだ第2話が終わったぐらいのところで主人公周辺以外の人物関係などもあまり把握できてないような感じ。しかし何とか新しめの現在進行中の作品をなるべく多く伝えて行きたいなという思いで、とりあえず何とか頑張ってみます。

とりあえずその沢山いる登場人物から。まず主人公であるDana Cypressは離婚歴があると思われるシングル・マザーで、小学生ぐらいの年齢の息子と二人暮らし。シングル・マザーとなっている経緯などについてはまだ詳しくは語られていません。息子についても眼鏡をかけた母親思いの性格の良い子というぐらい。父親の警察署長は厳格な人物のようで、Danaは常にその期待に応えたいというのが少し強迫観念となっているようです。Danaにはさらに大学生の妹Marthがおり、実はこの妹第1話である事件に巻き込まれ死亡した後、蘇生しています。その後の彼女の行動がストーリーの一つの軸となって行く感じ。CDCのIbrahaim Raminについてもまだあまり詳しくは語られていませんが、基本的には知的で温厚そうな人物で、地元警察との対立はなさそうな感じ。お互いにちゃんと紹介される前にDanaとバーで出会い、行きずりの相手同士としてカーセックスまで行きかけており、ちょっと二人の関係は複雑な様子。その他にフリーランスで新聞などの記事を書いているらしいMay Taoという女性(中国系かな?)もストーリーの中では重要な役割を果たして行く様子。歪んだ思想の持ち主でイカサマ臭い悪魔払いの神父Abel。閉鎖された町の中で唯一のTVリポーターである女性Jamieなど。その他にもまだまだ増えそうな感じ。
全体の雰囲気で言えば、例えで出したようにアメリカの小さな町を舞台にして多くの登場人物が交差するTVシリーズという感じで、やっぱりホラー・サスペンスという傾向で有名なところではツイン・ピークスとかでしょうか。最近のでは未見なのだけどスティーヴン・キングのアンダー・ザ・ドームとかも近いのかも。未見のを例えに出すとまずいかな?TPB第1巻の時点では、まだ閉鎖された町から出るの出ないのという騒ぎには至っていません。少し人物関係が複雑だったりしますが、死者が限定された地域で蘇るというとても明確で興味を引く謎を中心とした物語で、ちょっと挙げたようなTVシリーズとかが好きな人にはおススメのシリーズです。

こちらのシリーズ作者はライターTim SeeleyとアーティストMike Nortonのコンビ。Tim Seeleyは2000年代に入ってから活躍中のライターで、アーティストとしてのの仕事もいくつかあるようです。マーベル、DCの仕事も多く、最近ので有名なところはDCの『Grayson』あたりか。代表作は『Hack/Slash』。こちらはそもそもはDevil's Dueというところで始まったシリーズなのですが、同社が経営難に陥り、現在はImage Comicsに移籍し続いているシリーズです。Devil's Dueの最後のころは原稿料が支払われなかったらしい。カバーなどを見るとカッコイイ色っぽいお姉さんが主人公で、ジャンルはホラー/ゴア/マチュアなどとなっており、そういう作品はぜひとも私の読みたいところなので、例によって例のごとく詳しい内容は調べておりません。初期のDevil's Due版についてはImage Comicsからプリント版でオムニバスが出ているようですが、Comixologyでは扱っていないようです。デジタル版はiVerse MediaというところのやっているComics Plusというショップで、Devil's Dueから買えるようです。Comics Plusはアプリ・ショップもあり、Comixologyに出していないような小さい怪しげなパブリッシャーも沢山あり気にはなっているのだけどなかなかそこまで手が回らないところです。とりあえず『Hack/Slash』についてはなるべく早く読んで詳しく書く予定です。
アーティストMike Nortonはキャリアが2001年のDevil's Dueのアート・ディレクターから始まっているので、Seeleyとも長い付き合いなのでしょう。その後、やはりマーベル、DCなどでも色々な仕事をして、ルッカの『Queen & Country』にも参加しています(Vol. 7: Operation: Saddlebags)。『Queen & Country』の方については次の第3回の時に詳しく。彼の作品として最も知られるのは、アイズナー、ハーベイ両賞を受賞した2011年から始まったウェブ・コミック『Battlepug』でしょう。こちらはDarkhorseから単行本も出ているようですが、ウェブの方でも読むことができます。基本的にはくっきりとした滑らかな線を主体とする日本的にも見やすいきれいな画で、作品によって多少タッチは微妙に変わるようですが、この作品に関してはあまり誇張のないリアルなタッチで描かれています。

Tim Seeleyホームページ

Mike Nortonホームページ

Battlepug

こちらのシリーズ、前述のように現在44号まで発行され、その後も継続中。TPBは7巻まで出ています。2014年にはあの『Chew』とのコラボレーション作もありました。ちょっと設定とキャラクター紹介ぐらいで終わってしまいましたが、次回登場の時にはもう少し話の方向性なども詳しくお伝えできると思います。



●Revival



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2016年11月17日木曜日

Anonymous-9 / Hard Bite -車椅子のヴィジランテ登場!相棒は猿!-

あまりにも遅ればせながら、やっとAnonymous-9作『Hard Bite』が登場です!
少し前(と思っていたらもう5か月前…)のDave Zeltserman / The Julius Katz Collectionの時にちょっと触れた、随分前にフリーで手に入れた短編を2本読んでみるというのをやった時のもう1本がこのAnonymous-9の短編3本が収録された『Just so You Know I'm not Dead』だったわけなのですが、一読しそのアノ9姐さんの筆力とでもいうものに圧倒され、何とかこれを早く読まねばと思いつつやっと今回たどり着いたのがこの『Hard Bite』であります。

ではその『Hard Bite』とはいかなる作品なのか?


男の名はDean Drayhart。轢き逃げ事件に遭い愛する妻と娘を失い、そして自らも両足、片腕、腸の一部を失い車椅子での生活を送っている。もはやそれほど長くは生きられないだろう。だが、轢き逃げ犯への怒りは消えない。全ての轢き逃げ犯への!そして彼は療養生活の陰で様々な手段を使い逃げ延びている轢き逃げ犯を割り出し、そして暗殺する。残り少ない命が燃え尽きるまで!それがこの物語の主人公である。
そんな彼を支える相棒が介護猿のSidである。介護猿の需要は多く、待っていてもなかなか手に入らないという状況で違法に入手されたこのSidは他の介護猿にはない鋭い牙が残されている。体の自由が利かない主人を様々な局面で助けつつ、ある時はその命令一下敵の首筋にその牙を突き立てる!Hard Bite!
そしてもう一人、彼が車椅子生活になってから出会った恋人である娼婦のCinda。彼女もDeanの秘密の顔を知る人物である。彼のヴィジランテ行動には直接は関わらないものの、何かとDeanを助けてくれる。

Doug Coltson刑事は積み重なる未解決殺人事件に頭を悩ませていた。そして今夜もまた事件だ。Lakewood Parkの駐車場の植え込みの中で倒れていた被害者の首には死因となった謎の傷。吸血鬼?不穏な考えがColtsonの頭をよぎる。そしてすぐ近くでは闘犬場で負け犬を屠殺する係りの男が逃げた闘犬に噛み殺される。意味もつかめないうちにまた次の事件…。しかしColtsonは優秀な鑑識課員や相棒の女刑事Leoneらの助けもあり、次第にその中につながりを見出して行く…。

そして、警察の目をもかいくぐるようにDeanに殺害された一人の男の遺体がメキシコへと運ばれる。その男は偽装された身元でアメリカで暮らしていたメキシカン・マフィアの息子だった。刑務所で夫が亡くなった後、代わってトップとして組織を動かしてきた母親Orellaは激怒する。自身の探索のためアンダーグラウンド社会とも関係を持っていたDeanは、そのつながりからマフィアに身元を特定される。そしてDeanに死の手が迫る!


物語はまず主人公Deanの一人称から始まります。このような境遇にある主人公ではあるのだけど、その語りは悲壮というよりはユーモラスな感じで、自分の今の状態を笑い飛ばす感じ。そしてその後、刑事やマフィアの視点による3人称のパートが加わり、入れ替わりながら物語は進んで行きます。
そしてこれがどのような作品かというと、何の但し書きの必要もなくあのマック・ボランにも連なる良質のヴィジランテ・アクション・ノベルというところです。冒頭から続く探り当てた轢き逃げ犯の暗殺、そして次第に迫ってくるマフィアと警察による追跡がスピーディーで迫力あるタッチで描かれる。なぜこのような設定でそんなことが可能なのか。それこそがアノ9姐さんの「筆力」というものではないかと思うのです。
基本的には自分は筆力だとか言霊だとかなーんか定義が曖昧かついかがわしいにおいのするもので作品を語るのは好きではないのですが、このアノ9姐さんには自分の能力ではそんな風にしか説明できないものがある。『Just so You Know I'm not Dead』収録の「Dreaming Deep」ではラブクラフトとは全く異なるスタイルでありながら完璧に現代にクトゥルフ世界を再現し、このような特異な設定でアクション・エンタテインメント作品を作り上げる。そこにはもはや小手先のテクニックを超えた能力があるとしか言いようがない。そんなわけでここではとりあえず仮にでもこれを姐さんの「筆力」と呼ばせてもらいます。更に今回の作品中でも警察パートだけ抜き出してもかなりよくできていて、捜査物の警察小説とか書いても凄いのができるんじゃないか、とかまだまだアノ9姐さんの実力・「筆力」は計り知れない。恐るべしアノ9姐さん!絶対に読むべし!

というもはや現在のこのシーンでは必読作家の一人であるアノ9姐さんなのですが、ちょっとここのところ活動休止状態…。前述のクトゥルフ短編を中編化したらしいUncanny Booksからの『Dreaming Deep』が昨年4月に出たのが現在のところ最新作。(Uncanny Booksでは他の作家も加えてこちらを新クトゥルフ物としてシリーズ化する意図だったようだが、その後は不明。アマゾンでUncanny Booksとか検索してみてもマーベルのUncannyナントカが山のように出てわからん!)ホームページもそこまでで、まあ作家のホームページなどは放置状態のものが多いけど、ツイッターも今年お正月ごろのが最後となっていたり。もしかしてどこか身体を悪くしてしまったのでは、と心配しております。今年になってからの活動がDown & Outへの移籍だけというところなのだが、しかしそれは今後の作家活動継続への意志と見るべきでしょう。こちら極東辺境の一介のチンピラ・ファンで御座いやすが、姐さんの一日も早いご復帰を末席で心からお待ちしておりやす!

ちょっと順番が後になってしまった感じですが、作品についてもう少し。こちらの作品どうも原型となる短編があるそうで、そちらは短編集『The 1st Short Story Collection』に収録されているそうです。色々な描写から、多分轢き逃げ被害者かどうかは別としても、作者の身近にこういう大変な境遇の人がいるのだろうと思います。主人公Dean Drayhartについては、どこかに寄りすぎることもなく読者が好感を持ち、共感するところも多いような一人の普通の人物として描かれています。そしてこの作品シリーズとして第2作『Bite Harder』が2014年に発表されています。まだそれほど多くはないが、その他の作品についても必読!あっしもなるべく早く読むでやんす!

そしてこの作品の版元についてですが、またしてもまず訂正。以前こちらのデジタル版は英版がBlasted Heathで米版がDown & Outとか書いてしまったのですが、そちらは間違いで現在はデジタル版はBlasted Heathのみの販売となっています。Down & Outの方にデジタル版の表記があったのでそちらからも出てるのだと思い込んでしまったのですが、よく見たらリンクは張ってなかったので、そちらの販売ではないがデジタル版もあるというだけの表記だったのでしょう。Blasted Heathについてはもう散々書いてきているのですが、こういう形になるのもやっぱりAllan Guthrieさんの人望の厚さなのでしょうね。Down & Out Booksについてももう結構おなじみだと思いますが、ここで一応ちゃんと書いておくと、2011年フロリダ タンパにて設立。最初はCrimespree Magazineのデジタル販売から始め、アンソロジーなどを経て最近急成長、とちょっと雑ですがこんな感じです。現在は気鋭の作家を次々と集め、注目作を出版中。日本でも文春文庫から翻訳の出たロノ・ウェイウェイオールも最近参入の一人です。とにかくこのDown & Out BooksとかPolis Booksとか280 Stepsとかについてはもう片っ端から読まねば、と思っている次第なのですが、まだほとんど手を付けられていない状態で…。何とか努力いたしますです。

Anonymous-9ホームページ

Blasted Hearh

Down & Out Books


【その他おしらせの類】
なんと早くもアンソニー賞受賞のクリス・ホルム『The Killing Kind』の翻訳が!邦題『殺し屋を殺せ』。まあ昨年9月に出てた本なので版権を取得した後ノミネートされ、賞をとるか?と期待して待っていたところなのでしょうね。よかったね早川さん。そろそろ原書を買おうかと思っていたタイミングだったので助かったっすよ。どうも雑読み雑感想で通気取りが横行しがちなこのジャンル、期待の新作家遂に上陸!を保護するためにも最優先で読んで感想を書くつもりであります。
えーと、それから以前にタイトルを上げた『ガール・セヴン』なんですが、「女子の女子のうるさい」とか書いちゃってごめんなさい。ほんとに女子の女子ので私に関係ない本でした。キャラで動く話なので、女子の他にもアニメやラノベを楽しめる人ならいけるかな、というところでしょうか。まあブリティッシュ・ノワールへの待望の気持ちもあって勢いでタイトルを載せてしまったので一応書いときました。以後責任持てるかわからない本についてはやみくもに書かないように気を付けていきます。載せられた方も妙な事かかれりゃ迷惑するだけなんだし。結局自分に合わない本を読んじゃったなどというのは自己責任の事故ですので、不必要にこき下ろすような下品なことは控えますが、ただ翻訳については、原文にあるのかも怪しい特定の人たちへの明白な差別表現とも考えられる「バーコード頭」というような言葉が無造作に使われているのを見ると、その存在ゆえに世界から負のエネルギーを被るのは女性だけではないのではないかなという印象を持ちました。べ、別に自分の頭髪に危機を感じてるから言ってるわけじゃないんだからねっ!どーせ人間見た目が70%で残りはタンパク質やミネラルなんだろっ!ちぇっ。
まあなんだかんだで『熊と踊れ』はまだ少しなんですが、途中でも明らかに傑作。こーゆーのに関しては色々権威も信用もある人たちが誉めるだろうし、空気読みの「である系」もそこに従うところでしょうから別に私がどうこういうものでもないでしょう。でもそーゆー先生がスルーしちゃって適当な悪評ばかりが横行しそうな『殺し屋を殺せ』、『オーファンX 反逆の暗殺者』といったあたりには、この一切空気もバーコードも読まない誰にでも見境なく吠える犬が熱く語って行くつもりであります。わんわん。ああ、『カルテル』読めるの来年かも…。

ドゥエイン・スウィアジンスキーKindle版が少しお得セール開催中!この間までペーパーバック定価並みの1800円ぐらいだった未訳作品『The Wheelman』、『Expiration Date』の2作を含むスウィアジンスキーKindle版が800円台ぐらいで販売中です。まあ800円台ではそれほど安くもないんだが。でももしかするとこれは現在のMinotaur Booksの版権切れ前セールという可能性もあるので、このチャンスを逃すとKindle版が手に入らなくなる恐れもあります。Mulhollandに移ったとしてもあそこは日本ではKindle売ってくれないし。そうでなくても少ししたらまた元の値段に戻るだけ。スウィアジンスキーをKindle版でとお考えの人はこの機会に買っておくべし。何百回でも言うけど『The Wheelman』はケイパー小説近年の大傑作で読まないと損するよっ!『Expiration Date』もいずれ読んで書きますが、絶対面白いのは間違いなし!

最後にまた読書系アプリの紹介です。まずはMystery Weekly Magazine。実はこれアマゾンのKindleのおススメで来て、どういうところなのだろうと調べてみたらアプリもあるということなのでインストールしてみました。まだ創刊されて1年と少しというところのようです。Weeklyとはいうものの現在のところは月刊で発行中です。Weeklyは目標なのか?こちら前に書いたEllery Queen Mystery Magazineと形が同じじゃん、と思ったら、どちらも単体のアプリは出ているけど大手BookstandのMAGZTER傘下で販売されているということでした。Ellery Queen Mystery Magazineと違ってこちらは日本でもKindle版が買えるので、辞書も使えるしそっちで読めばいいかと思うけど、とりあえずあるとなんかうれしいのでインストールしてみてはいかがでしょうか。
続いてJonesin’- Daily short fiction。というのがアプリの名前だと思うのだけど、Great Jones Streetというところがやっています。Spotifyで音楽を聴いたり、Netflixを観たりというように手軽に新しい優れた短編を見つける、というのがコンセプトだそうです。まだ始まったばかりで現在出ているのはまだベータ版で、ただ作品が並んでいるだけで特別な機能などは何もありませんが、作品にはそれぞれカバーがつけられて、結構たくさんあって日々追加されている様子です。とりあえずは現在のところはとてもシンプルで、カバーをタッチすると特にダウンロードなどもなく作品のページに移動し、下にスクロールしながら読むというものです。ジャンルは幅広く何でもあるようですが、現段階では整理されておらず、カバーで推測するしかないようです。今後どういう形で有料化されていくのかも不明ですが、ベータ版の現在のところは全部の作品が無料で読めます。まだまだ分からないことばかりで、自分の興味ある作家を見つけるのも難しいかという状況ですが、とりあえずは期待して行きたいところですので、なるべくは目を離さず何か続報がありましたらお伝えいたします。
あとOolipoの方については相変わらずなかなか読めるものが増えてきません。頑張れ!

Mystery Weekly Magazine

Great Jones Street


またしても少々遅れてしまいましたが、とりあえずは何とか頑張って続いております。11月も半ば過ぎでそろそろ年間ランキングとかも決まってきたのだろうな、と思ったりしますが、今年出たジョニー・ショーの『負け犬たち』はどうなったのでしょうか。私も原書Kindle版をせっかく持っているのでまずそちらを読みたいという事情で未読ですが、ジョニー・ショーの作品が面白くないなどということは100パーセントありえないので、ランキングに影も形もなくても絶対読んでねっ!では世界から被る負のエネルギーにも負けず、また頑張りますです。


●関連記事

Mind Prison / Just so You Know I'm not Dead -短篇(集)2本立て-


●Anonymous-9
■Hard Biteシリーズ


■中編


■短編集



●ドゥエイン・スウィアジンスキー未訳



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2016年11月7日月曜日

2000AD 2016年夏期 [Prog 1988-1999] 後編

とりあえずやり始めたことはきちんと決着を付けねば、ということで少し戻って2000号直前の2000AD 2016年 夏期後編です。ではまず今回のラインナップからです。

 Judge Dredd [Prog 1991-1999]
 Scarlet Traces [Prog 1988-1999]
 Outlier [Prog 1990-1999]
 Anderson Psi Division [Prog 1993-1999]
 Jaegir [Prog 1996-1999]

そして今回のトップ画像はIan Edginton/D'IsraeliのコンビによるScarlet Tracesです!こちら実は新シリーズではなく、色々な経緯を経て遂に本誌2000ADに登場ということらしいのですが、詳しいことは後ほど。

Judge Dredd
 1. Ladykiller : John Wagner/Carlos Ezquerra (Part1-8)
 2. Well Gel : T. C. Eglington/Paul Marshall

1. 巨匠コンビによる今回のシリーズは2015年秋期から続くMega-City Oneの天才的犯罪者P J Maybeが登場するストーリーです。
P J Maybeを追い続けるドレッドは、メディアを使いMaybeが潜伏中に装っていた名前や顔写真などを公開し、市民に情報を呼びかける。それに応えたのはMaybeが気まぐれで付き合っていた入院中の男性だった。彼は自分の痕跡を常に消そうと企むMaybeにより毒を盛られ瀕死の状態で生き延びていた。面会したドレッド達は断片的な手掛かりを得たが、のちにナースに女装して現れたMaybeによりその男は殺害されてしまう。わずかな手掛かりをもとにドレッドは遂にMaybeの現在の潜伏先を突き止め包囲するが、またしてもその網を潜り抜けMaybeは逃亡する。追われ続けることに業を煮やしたMaybeは、これ以上自分を追い続けるならドレッド自身に重大なダメージを与える殺人を実行する、と宣告する。そして、ドレッドに縁の深いMrs. Gudersonに魔の手が迫る…。
シリーズタイトルのLadykillerは女性を狙う犯罪者の意ではなく、Maybeが女装のまま逃げ続け、犯行を重ねるところから。2014年秋期以来久々にMrs. Guderson(この人については依然不明。すみません)とともにあのロボットWalterが登場するのですが、ここで大変尊敬するEzquerra師匠ではありますが、今回はちょっと苦言。せっかく久々の登場となるWalterなのに、コマの端っこで半分切れてるとかゆー画が多いじゃないですか!ちゃんと真ん中に描いてあげてくださいよー。あと師匠の描くWalterあんまり可愛くないです…。そして、実はこのMrs. Guderson襲撃はMaybeの陽動作戦であり、ドレッド達がそちらに動いた隙を突き本当の狙いであるドレッドの唯一の血縁である姪のViennaを襲う。しかし、ドレッドもMaybeの意図は最初から読んでいた!そして遂に追い詰めたMaybeを射殺!こうして長年にわたる因縁に決着がつけられるのでした。
画像はその最終話が掲載されたProg 1998のカバーです。春先ぐらいにJohn Wagnerが発言した「重要なキャラクターが死ぬ」というのは実はこのことだったのですね。まああれは明らかにタイミング的に春期の「The Grindstone Cowboys」の最後で本当にドレッドが死んだのか?という疑いを持たせるためのミスリードだったのですけど。こうして遂に退場となったP J Maybeなのですが、私的には近年の「Day of Chaos」辺り以降しか知らないわけなので、過去の作品で改めて再会できるのを楽しみにしています。
ここでドレッドの唯一の血縁である姪Viennaについてですが、なぜクローンであるドレッドに血縁があるかというと、この人実はスタローン主演の映画『ジャッジ・ドレッド』にも登場したドレッドのクローンの双子であるリコの娘なのです。「Day of Chaos」にも登場していたように、ドレッドはこの人だけは何が何でも助けます。映画の元になっているリコが登場するストーリーはかなり初期のもので、Complete Case File Vol. 1に掲載されています。

2. 筋肉の代用として動かせるプラスティックを開発した技術者。実験の最終段階に恐竜の骨格にそれをかぶせ、動かして見せる。だが実験開発に熱中するあまり、父親に無視されていると感じていたその息子が、友人の少年とともに深夜その恐竜を動かし、Cityを暴走させてしまう。
今期最終シーズンであるSF作『Outlier』のT. C. Eglingtonによるワンショット。作画は最近の合間に入るワンショットではおなじみのPaul Marshall。一時期この人の画についてずいぶん文句を言ったけど、ちゃんと自分の画の欠点をわかっていて努力している人なので、今は好感を持っています。カラーも今回は合っている感じ。

Scarlet Traces : Cold War
 Ian Edginton/D'Israeli

このシリーズ、そもそもは2002年にCool Beans Worldというところでウェブコミックとして始まったもの。Cool Beans Worldというのはかなり意欲的なところだったようで、2001年にPat Mills、Simon Bisleyなどの英国コミックの有名なクリエイターの他に、クライブ・バーカーらの協力も得て立ち上げられたウェブサイトで、アニメーションや一部アニメーションのコミックを配信していたそうです。この『Scarlet Traces』も一部アニメーションだったらしい。しかし、Cool Beans Worldは短命で2002年に終了し、『Scarlet Traces』も最初の5ページで中断してしまったということ。それを「Judge Dredd Megazine」が引き継ぎ、普通のコミックの形で描かれたものが2002年に掲載され、2003年には米Darkhorseからハードカバー版が出版。その後はDarkhorseの方で続編『The Great Game』が4号のミニシリーズとして発行され、2006年に単行本としてまとめられ、同年に『H. G. Wells The War of the Worlds』もDarkuhorseから出版。これらはすべてIan Edginton/D'Israeliコンビによって描かれていますが、Darkhorse版については現在絶版であまり詳しいことが分かりませんでした。そして10年のブランクの後、今期再開されたのが第4シリーズにあたる『Cold War』となります。
さすがにそれだけのブランクもあり、現在は前シリーズも入手困難ということもあり、連載開始のProg 1988では冒頭の目次ページであるTharg's Nerve Centreにこれまでのあらすじが掲載されています。そもそものこのシリーズは、あの有名なH・G・ウェルズの『宇宙戦争』に続く話として作られたものです。火星人による地球侵略戦争が失敗に終わった後、イギリス政府は密かにその残された技術を接収し強力な軍隊を作り上げていた。そしてその軍隊をもって逆に火星への侵略を謀る。長期化した火星への侵略戦争が悪化する中、一人のジャーナリストが数多くの火星に派遣されたまま帰還しない兵士の取材を始めたところ、それらが地球に潜入していた火星人によって作られた人造人間だったことを知る。そして、敵がそもそも火星人ではなく、自分たちの星を失い火星に侵略してきた異星人であることも明らかになる。そして敵異星人により月に設置された超火力砲が地球に向け発射準備に入る。その試みは阻止されたものの、イギリスはイングランド南部殲滅という被害を被るのだった。
というのがこれまでのあらすじ。そして、新たな設定として、その異星人たちは火星のみならず金星をも侵略しており、その手を逃れ地球に脱出した金星人難民が地球には存在し、差別を受けながら金星人街で暮らしているというものがあります。ストーリーの中で説明されているのだけどややこしくなりそうなので先に書いておきます。

金星より地球に向け謎の飛行物体が飛来しているのを月面基地が発見。ただちに緊急警報が発令され、軍により撃墜されるが、発射された脱出カプセルは地球に着陸する。中から現れたのは異星人により作られた人造人間の男Iykarusだった。彼の告げるところによると、彼は反逆者として異星人の元を逃れてきたということ。そして異星人たちはもはや侵略を放棄し、この太陽系全体を破壊するという計画に入ったという。半信半疑ながらも政府は彼のその異星人による目論見を阻止するための彼の計画の実行を許可する。金星人難民の息子として育ちながら、地球人との融和を目指し軍隊で整備工として働くAhronがIykarusにより指名され計画に参加することとなる。そして、Iykarus、Ahronを乗せた宇宙船が金星を目指し旅立つ…。

あの『Stickleback』に続き、昨年夏期には新シリーズ『Helium』を立ち上げたばかりの人気コンビによる過去のシリーズの復活なのですが、まあこれももう新シリーズという感じで今後の人気シリーズになって行くのは間違いないでしょう。時代的には違う歴史をたどったまだ20世紀で、何かをひねくったりこじつけたりすることなく普通にレトロな味わいのSFなのもいい。後半次に続く感じで物語も大きく展開するのですが、それについては次シーズン登場の時に。できれば現物を読んでもらうのが一番だけど。しかしこのコンビ、多分次シーズン最終回と思われる『Stickleback』も気になるし、『Helium』の続きも早く読みたいのだが今後のスケジュールはどうなるのだろうか?Edgintonの方はもう一人の相棒I. N. J. Cullbardとの人気作『Brass Sun』が次はいつ登場なのかとか、Cullbardの方もDan Abnettとの新シリーズ『Brink』の続きが一刻も早く読みたいとか、今後の展開がかなり気になるこの辺の人脈なのです。

Outlier : Survivor Guilt
 T. C. Eglington/Karl Richardson

2015年夏期に続く、SFアクション作の第3シーズンにして最終回。今回はカバー画像はナシ。ちょっとアレステア・レナルズ風だったりもして結構気に入ってたのだけどあまり人気なかったのかな…。前シーズンでは後半、Hurdeの基地に真意を隠し収容されたCaulとCarcerは、計画通り恋人JessとCarcerの両親の救出には成功したものの、CarcerはHurdeの元に取り残されてしまうという結末を迎え、この第3シーズンに続きます。
Caulの行動をHurdeは敵対的な攻撃とみなし、その名目の元地球への攻撃を開始する。その先頭に立ち、攻撃を宣告してきたのは完全にHurdeの支配下となったCarcerだった。密かに接収したHurdeの技術を応用した兵器を使いSornel将軍はその攻撃を迎え撃つ。一方、救出されたJessの証言によると、Hurdeの中にも分裂があり、Caulの行動はその過激派による地球攻撃のための口実として仕組まれたものらしいことが明らかとなる。勝利と栄光のためにはいかなる兵士たちの犠牲をもいとわないSornel将軍に反感を持つ女性大佐Luthraは、僅かな対話の可能性に賭け、Jess、Caulを同行しHurdeの許へ向かうのだが…。
もしかしたらもう少し構想あったのかもな、とも思わせる最終シーズンでした。もちろん言うまでもなく上のEdgintonらを中心とする方向のSFも大好きな私ですが、こういうハードSF寄りミリタリー方向というのにも頑張ってもらいたいと思うところです。イギリスあたりの最近のSF傾向もレナルズ辺りとは違うのかな、と思ったりして同じRebellion社のSolaris Booksあたりを読んでみると見えてくるかな、と思ったりもするのだがなかなかそこまでの余裕はナシ。T. C. Eglingtonさん期待しているのでまたこんなの書いてくださいね。

Anderson Psi Division : The Candidate
 Emma Beeny/Nick Dyer/Ben Willsher

近年の映画にも登場しおなじみの、普段は『Judge Dredd Megazine』の方に掲載されているジャッジ・アンダーソンのシリーズが2000号を前に2000ADにも登場です。
市長選挙が近づく中、アンダーソンは新人PsiジャッジFlowersとともに、過激派組織Citizens' Armyに脅迫されている女性候補Smartの護衛に就く。演説会の最中、Smartへの襲撃が起こるが、ごく短時間ではあるが未来を予知できるFlowersの能力により、候補の身は守られる。襲撃者を逮捕したアンダーソンは、その男が正体不明の能力者に心理操作されていたことに気付く。調査を進めるうち、アンダーソンは孤児として育ったSmart候補とその兄の過去に隠された秘密があることに行き当たる。一方、Smart候補は市民の立場に立つというスタンスから攻撃者を擁護し、Citizens' Armyすらも自らの側に取り込み、やがて攻撃の矛先をジャッジ・システムに向け始める…。
Survival Geeks』『The Ailienist』などでGordon Rennieとの共作で最近の2000ADに登場していたEmmma Beeny単独によるストーリー。いえ、話は面白かったです。なぜ2000号の時ちょっと口ごもった感じになったかというと…、うむむ、夏期前編DreddのP. J. Holdenによる女装した武井壮風チーフ・ジャッジHersheyに続き、今回Nick Dyerによるアンダーソンがガイル少佐の母親か姉にしか見えないのだが…。(カバー画は別の人、Christian Wardによるもの)いや、Nick Dyer自体は陰影の強いクールな感じと暑苦しさを同居させた感じのいいアーティストではあるのだけど、どうも女性が…。イギリス人にはこれがガイル少佐の親族に見えないのだろうか、と思っていたら、なぜか最終回のみ作画がDreddなどでよく見るBen Willsherに交代し、美しいアンダーソンが描かれていました…。

Jaegir : Warchild
 Gordon Rennie/Simon Coleby

前回登場が2015年夏期で1年ぶりになる人気シリーズの最新シーズンですが、今回は4話と少し短め。えーっと、まずJaegirの父親のことなのですが、前回戦死した、と書いてしまったのですが、実は生きていました。実は前シーズンの最後に登場しています。何らかの事情により軍隊を追放になり、現在は引退の身であることが今回の冒頭に明かされます。実は前回の最後に登場したのを見たとき、これは死んだと思われていたのが実は生きていたのだ、と思い込んだ私の早とちりによってそんな書き方になってしまいました。で、今回になる次の時には「戦死したと思われていたJaegirの父親は実は生きていた!」みたいに書こうと思ってたわけ。でもこれは単純な早とちりというよりは、作者の意図的なミスリードにまんまと私が引っかかっちゃったという不始末です。結果的にちょっと混乱するような書き方になってしまってすみませんでした。
引退中の父から連絡せよ、という伝言が伝えられるが、Jaegirにはなかなか父親と話す決心がつかない。そんな中、Jaegirは昔からの知り合いで、大勢の戦災孤児を養っている女性の退役軍人Markhaを訪ねる。かつての父親の部下でもあったMarkhaから父親の話を聞くことで何らかの決心を付けようという考えもあったJaegir。だが再び食料を持ってMarkhaの許を訪れたとき、MarkhaはStorigoiが発症した子供の手により殺害されていた。そして獣人化した子供はJaegirにも襲い掛かる!一方、引退の身である彼女の父にも、その命を狙う刺客が迫る…。
今回も面白かったけど、またしても大きな秘密の一部がちょっとだけ明かされたけどなかなか本編にたどり着かないような感じがもどかしいところ。次はまた来年かー。さて2000号では『Rogue Trooper』を手掛け、現在のNu-Earthサーガを任された感じのGordon Rennieなのですが、2000号の時はこの『Jaegir』が『Rogue Trooper』の話につながると思ったのは私の早とちり(またかいっ!)でしたー、と書きましたが、その後もしかしたら?という展開が!そちらについては次の2000AD 2016年秋期に!いや、でもまた早とちりかも…。

2000AD Summer Special 2016

前回予告しました通り、やっと追いついたことで手も届くようになった7月発売の増刊「Summer Special」についてもその内容をざっとお伝えします。

Judge Dedd : Night Zoom
 John Wagner/Brendan McCarthy
Cityを走る列車内で悪妻からの通話に怒りを募らせる男が、奇妙な人物から交換殺人を持ち掛けられるのだが…。ドレッドも少ししか登場しない、Cityの設定を使ったSFサスペンスという感じの作品。イギリスの有名なアーティストBrendan McCarthyのコミック作品は初見だけど、やっぱスゴイという感想です。
Ace Trucking Co : The Banned Brand Stand
 Eddie Robinson/Nigel Dobbyn
1980年代前半頃、John Wagner、Alan Grantらによって作られた宇宙の運搬人を主人公とするコメディ・シリーズのワンショット。積み荷を運搬中の彼らが通過しようとした星系では宇宙オリンピックが開催中で、スポンサー・ブランド以外の商品の持ち込みが禁止されており通過だけが目的の彼らも立ち入りを禁止されてしまうのだが…。ちょうどオリンピック開催時に発売された号で、何を皮肉っているかは説明するまでもないでしょう。
Sinister Dexter : Shady As Funt
 Dan Abnett/Tom Foster
猛暑の中、何度やってもすぐにまた故障するエアコン修理業者に業を煮やしたギャングのボスの依頼で、二人はその業者の許を訪れるのだが…。まあとにかくまず新鋭Tom Fosterの画が素晴らしいワンショット。
Robo-Hunter : Droid Dilemma
 Alec Worley/Mark simmons
こちらもJohn Wagnerにより、1978~85年のあたりで2000ADに連載され、その後も時々リバイバルされている人気シリーズのワンショット。ロボット専門の賞金稼ぎSam Sladeを主人公とする、やはりコメディ・テイストも強いシリーズらしい。大企業Nebulous Industriesの依頼でお尋ね者のドロイドを回収してきたものの、ドロイドが持ち去ったデータが無いということで賞金の支払いを拒否されてしまうSladeだったが…。助手らしきドロイドのキャラクターも面白く、もっと読んでみたいシリーズです。ところでSam Sladeってもしかしてあのサム・スペードから?
Rogue trooper : Shore Leave
 Guy Adams/Jimmy Broxton
汚染された海岸のNortの基地にある情報を求め潜入するRogue Trooper。ちょっとあまり情報がないのですが多分まだこちらも新鋭というところらしいアーティストJimmy Broxtonのダークに描かれたNu-Earthが素晴らしい。結構地道にコミック方面でも頑張ってる感じのGuy Adamsのシナリオも良し。

時々は新シリーズが開始されることもあるらしい増刊ですが、今回はご覧のように人気作『Sinister Dexter』の他は過去作のリバイバル・ワンショットというところでした。好評のものは本格的にリバイバルシリーズが再開ということもあるのでしょうが、とりあえず過去のやつの単行本とかも読んでね、という宣伝目的もあるのでしょうね。『Rogue Trooper』は本当に好きで過去のを読んでいるのだが、読んでいる「Tales of Nu-Earth 01」が1話5ページぐらいで400ページというようなものなのでなかなか終わらず、まだここに書くまでに至っていないというところです。なるべく急ぐであります。どういうものかさえ把握できれば、全体的にとても楽しく読めた1冊でした。とりあえず出る時には年2回夏冬あたりに出る増刊ですので、また出るようでしたらその時にはお伝えします。


というわけで、2000AD 2016年夏期後編でした。続く2001号より現在進行中の秋期は、ミリガン新シリーズに加え、なんと巨匠Millsの代表作2本立てとGordon Rennieによるアレ!という恐るべき内容です。とりあえずは秋期終了後の年明けぐらいにこちらには登場の予定であります。
まあ結局立て続けに2000ADばかりで他のコミックのことが全然書けなくなってしまっていたのですが、何とかここで落ち着きましたので、またなるべくいろいろなものについて書いていくようにしたいと思っております。なんか腰痛でオレレゴみたいに下半身のパーツ取れちゃうんじゃないかみたいになってしばらく寝てたり急用が入ったりで今回はずいぶん遅れてしまいましたが、また何とか頑張って行くつもりではありますのでよろしくね「:-)ー<。


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2000AD 2014年冬期 [Prog 2014,1862-1873]

2000AD 2014年春期 [Prog1874-1887] (前編)

2000AD 2014年春期 [Prog 1874-1887] (後編)

2000AD 2014年夏期 [Prog 1888-1899]

2000AD 2014年秋期 [Prog 1900-1911, 2015]

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (前編)

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

2000AD 2015年春期 [Prog 1924-1936]

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] (前編)

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] (後編)

2000AD 2015年秋期 [Prog 1950-1961]

2000AD 2016年冬期 [Prog 1961-1972]

2000AD 2016年春期 [Prog 1973-1981]

2000AD 2016年夏期 [Prog 1978-1992] (前編)

2000AD 2000号達成!



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2016年10月23日日曜日

グレッグ・ルッカ / Alpha -Jad Bellシリーズ第1作!-

前回予告しました通り、今回はグレッグ・ルッカの小説最新シリーズ、Jad Bellシリーズの第1作『Alpha』についてです。2012年に今作、そして2015年に第2作『Bravo』の2作が現在発行されています。
まず最初に私の感想を言うと、今度はルッカ、結構スケールのでかい長編となるようなシリーズを仕掛けてきたんじゃないの、というところです。なぜ最初に感想を書いたかというと、実はこの作品多くの謎が書かれていない形で隠されており、それを指摘することによりその辺が見えてくるのですが、どうもそれをやってると若干ネタバレの危険性があるからです。ちょっとまた翻訳の出てないものでそれを言うのは何だとも思いますが、できれば本編の方を読んでからこちらを読んでもらえればと思います。とりあえずストーリーについては極力ネタバレのないように努めます。


そんなわけで今回は書き方の方もいつもとちょっと違う感じで進めていきます。まず、主人公Jonathan "Jad" Bellについて。アメリカ陸軍のデルタフォースの曹長。年齢は40代ぐらいで、半年前に離婚した奥さんとの間にはティーンエイジャーで耳の不自由な娘がいる。物語の冒頭ではアメリカの巨大テーマパークWilsonvilleの保安主任の職に就いている。まず最初はパークのカフェに勤める女子とベッドインする場面の合間に、過去の中東と思われる地域での作戦行動の回想が入り、この主人公は元々軍隊にいた人なのだな、と推測できるのだが、翌朝出勤してきたところで私服でも場違いな上官の大佐がパークに現れ、その会話でBellが現在も軍属で偽装して任務にあたっていることがわかるのである。
続いて少し時間を遡り、Bellがパークの保安主任に就職する経緯、続いてキャラクターおもちゃから始まり映画・TV産業を通じ拡大を続け現在に至るWilsonvilleの歴史、Bellがまずパーク内を案内される様子などが続く。この辺読んでるときはずいぶん説明が長いな、と思ったけど後に説明を入れられないスピーディーに展開して行くあたりで混乱がなかったので、自分的にはありだと思うけど、その辺は人それぞれかと。
そしてどうやらこのテーマパークでテロが計画されている可能性があり、Bellはそのためにここに潜入しているらしいということが見えてきます。しかし実際にこのパークでそれが起こるのか、というまでの確証はない模様。しかし、この作品の冒頭でこのパーク内で起きたある殺人事件が描かれており、その事件が何らかの関係にありこのパークでそれが起こる可能性も高いと推測されています。
そこでBellの耳の不自由な娘が、通っている聾学校のレジャー旅行で母親ともどもパークを、その近くでは最も事件が起こる危険性が高いと目される独立記念日の週の休日に訪れることとなる。んー、これって…。家族がテロなりの事件に巻き込まれ主人公である父親が奮走するって、ハリウッド・アクション映画のすげーベタなパターンですよね。しかも家族助かるって決まってる。なんか私とか映画でこのパターン出てくるとかなり続きを観るモチベーション下がるのだが…。まあ助かるのわかってるから安心してハラハラできるって層もいるのでしょうが。本当にルッカがそんなベタなのをやる気なの?しかしルッカという作家がその裏をやるとは思えないし。スウィアジンスキーだとコイツもしかしたら殺すかも、って若干の緊迫感はあるのだけど。などと疑問を抱えながら読んでいるうちに次々とその方向へのフラグが立って行くのです。

この作品は3人称で書かれ、主人公Jad Bellの他にも様々な人物の視点からシーンを切り替え書かれるというスタイルをとっています。その中でもBellに次いで重要なのがテロリスト部隊のリーダーとなる青年。この現在はGabriel Fullerと名乗る青年は、元々はロシアの少年ギャングのリーダーだったのですが、彼のいた世界では恐れられる謎の人物Uzbekにより強制的にスカウトされ、謎の仕事のためにアメリカに送り込まれます。そして彼はUzbekに命ぜられるまま、まずはアメリカに溶け込み、やがて年齢に達すると軍隊に入隊し軍人としてのスキルを身に着け、除隊後はUCLAへ通う学生として暮らし、とスリーパーとして長い年月を過ごした後、ある日Uzbekから任務を告げられWilsonvilleへと送り込まれます。しかし、その一方でGabrielはアメリカで普通の大学生として暮らし続けるうちにDanaという恋人もでき、その平穏で幸福な生活を守りたいと思い始めてしまう。そして休みはWilsonvilleで働くと言うGabrielに対し、それならばとDanaもWilsonvilleへ申し込み、二人は近くに借りたアパートで共に暮らしながらパークで働くことになる。そしてGabrielはこの任務さえやり遂げればDanaとの幸福な生活に戻れるのだ、という望みにすがりながらパークでのテロに向かって進んで行くことになります。
このように敵側に物語の最後に主人公により倒されるのを読者が望みながら読むような冷酷な悪役ではなく、どこか主人公同様に感情移入できてしまう人物を配置するというのは、Queen & Countryシリーズ第1作『A Gentleman's Game(『天使は容赦なく殺す』)』でのアラブのテロリスト青年でも見られたことです。これってもしかしたら現在のルッカの考えやスタイルなのかも、と思ったりするのですが、今のところは材料がこの二つと少なすぎるので保留。現時点で出ているこれの続編とQueen & Country2作の未訳の残り3作読めば少し見えてくるかも。

そしてこれらの登場人物も揃ったところでパークにテロが勃発!そして案の定元妻と娘も巻き込まれて行くという展開になって行くのです。

そしてここからがこの作品『Alpha』の謎。
まずこの作品ではデルタフォースの隊員である主人公Jad Bellが経営陣にすら極秘のまま、国内で潜入作戦行動にあたっている。そして後にはパーク内にはCIAのエージェントも潜入しており、協力して行動するようになる。軍とCIAが国内で?この疑問はある登場人物の頭に浮かんだりもするのだが、明確な答えは得られない。そもそもどのようにしてこの情報を得て、それがそれほどの重要事項とみなされ、このような作戦行動がとられたかについての説明は一切ない。
そしてもう一方の敵側。Gabrielに指示を出すUzbekの背後にはさらにすべてを取り仕切るボス、”名前のない男”と称する謎の人物がいる。いかにも悪役然として描かれる彼らの正体は不明だが、Gabrielの出発点などから見てもロシア、旧東側と目される地域に彼らの拠点があるのは確かと思われる。そして彼らは思想・政治的な動機で動いているのではなく、何らかのクライアントを得て、その手段などを提供し、テロを実行しているのだということも次第に見えてくる。そして彼らは最終的にはそのクライアントを裏切り、テロをそのクライアントも考えていないさらに大きな破壊的結末へ導こうとするのである。これはまるでいかにも悪役然として描かれた謎の人物らの悪意による行動のように読ませるのだが、その規模やそれに至るための手段などを考えると明らかにもっと大きな目的があるとしか考えられない。これに至る手段・手順も最低限しか描かれず、そしてこの人物・組織についての情報をどのような形でアメリカ側が入手し、それがなぜどれほどの重大事とみなされ、NSAとCIAが共同して動くほどの事態になったかの説明は一切なされていない。つまりこの作品、実は背景となる部分の説明がほとんどないのである。

さてこれをどう見るか?ただの雑な欠落?あの常に複雑な事態に追い込まれギリギリの活路を見出してきたアティカス・コディアックシリーズを書いたルッカが?あの国内外の様々な利害関係の軋轢の末、やっと行動に至る英国情報部マインダータラ・チェイスの苦痛に満ちた戦いを描いたルッカが?我々はグレッグ・ルッカという作家を知っているのだ。これはルッカが考えてなかったり、サボったり、雑に省略したものではない。明らかに意図的に書かなかったものである。そして前回Queen & Countryシリーズ第2回でも書いたように、彼はシリーズ内の連続性にこだわる作家であり、そしてこれはJad Bellシリーズと宣言され始まったシリーズなのだ。となればこれは今回は明かされない情報であり、そこから考えてシリーズが進むにつれ少しずつ謎は明かされ、更に話は拡大し、結構スケールの大きいものになるのではないか、と想像するのが妥当なところではないでしょうか!
そしてここで少し前の疑問に戻るのです。なぜルッカはこんなベタなハリウッド・アクションを書いたのか?これはつかみ、この作品全体が007映画で言えば冒頭の部分にあたるのではないか、というのが私の推測です。やっぱりルッカは描写も上手く、それぞれ別のキャラクター視点によるシーンの切り替えも巧みで、そういう物語をたいへんテンポよく読ませてくれるます。そして最後の最後、ある地点で主人公Jad Bellは恐るべき非情ともいえる戦士の顔を露にします。これが私の願望などによる強引な深読みの類ではないことは、クライマックスともいえるシーンが誰の視点で描かれているかを見れば明らか。そしてそのまま畳みかけるようにして結末へと向かい、いかにも「To Be Continue!」の文字が突き出されるようなエンディングを迎える。そしてここで!バーン!と!007のあの銃口の中からのオープニングが今入ったところなんじゃないの!というのが私の読みであります。

誰がコアラじゃ!コラアッ!
となれば早く次の『Bravo』を読まねば!…というところなのですが、このシリーズ今作が2012年で、次の『Bravo』が出たのが3年後の2015年、で第3作は当然『Charlie』となるはずだがこれについてはまだMulholland Booksの2017年冬の発売リストにも載っていないのであります。コミックの方でも忙しいルッカゆえ小説の出版はどうしてもスローペースに。まあ今のところ小説家グレッグ・ルッカに関しては、「いつ動くのかしら?」と動物園のコアラちゃんを見るような気長な気持ちで見つめて行くしかないところでしょう。
まあとは言ってもQueen & Countryシリーズコミック版を読み終えれば私としても早くそちらの続きも読みたいということになり、両シリーズをごちゃまぜに読むわけにもいかんので、Queen & Countryシリーズ小説版の続きに取り掛かる前に『Bravo』も読み終えるつもりです。そんなわけで今度Queen & Countryシリーズ第3回が登場する際には、続いてJad Bellシリーズ第2作『Bravo』という感じでまたしてもルッカ特集!という感じになると思います。まあ私の説がちょいと強引じゃないの?とあまり信じてない人もいるでしょうが、その時にはちゃんと証明してやろうじゃないの!んー、でも間違ってたらその時には素直に謝りますです。ごめん。

ここで日本でのルッカ観について一言。なんだかこの世のすべての事象はスポーツ選手のモデルケースで説明がつく!とでもお考えの先生が、アティカスシリーズはピークを過ぎて下降に向かっていたのでここで終わってよかったのである、と仰っておるのだがみんなそれ信じてるの?先生はシリーズの話の方向が変わったあたりがお気に召さないようでそこのあたりを「下降」とみなしているようだけど私は全然そうは思わなかったけど?前にも書いたけど、アティカスっていうのは明らかにルッカ自身の分身。で自分の分身ゆえにあまりにも色々なものを取り除くこともせずに乗せすぎちゃったためもはや現時点では身動きも取れなくなってしまい、まあ当分は無期限休止ってことで俺の分身よ異国の地でしばらくは静かに幸せに暮らしてくれや、っていうのがルッカの考えだろうというのが私の感想ですが。と言っても所詮はこっちも感想であっちも感想。反論で討論を望む!なんてつもりはまるでないのだが、但し!もしかしてその先生の御説が拡大解釈されて、「ルッカはピークを過ぎて下降に向かっている作家である」なんて考えが広がっているのでは?というところが私の危惧するところなのです。ルッカは前述の通り小説の出版ペースは遅いもののコミックとの両面で今も乗りに乗っている作家であるなんてことはもはや説明するのもめんどくさい。ただでさえ翻訳というハードルがある海外の作家の作品が、先生が得々と披露された御説による風評被害により作家自体の評価が根拠なしに下がり、出版が控えられるなんて事態になるのは迷惑千万としか言いようがないのですよ。もー先生お得意のその御説は、今後はピークを過ぎちゃっても出てれば誰でも手に入る日本の作家限定で使用願えないかというのが私の提言であります。

前から書いているようにアメリカでは小説とコミックの両面で活躍している作家が多数います。しかしその中でもルッカは少し特殊なように思えます。例えば小説家として人気が出た後コミックを手掛けるようになったスウィアジンスキーやヴィクター・ギシュラーといった作家はあくまでも小説の方をメインに置いてコミックの仕事もしています。またコミックのライターとしての才能をさらに広げた形で小説も書いているウォーレン・エリスという人もいます。それに対しそのキャリアの初期から小説とコミックのライター両面で活躍してきたルッカは、今でもその両者に同じウェイトを置いて活動を続けている作家なのだと思います。そんなわけで小説の出版ペースはどうしても遅くなるのだが、一方でルッカの作家活動は絶え間なく続いているわけです。となるとグレッグ・ルッカという作家をちゃんと追って行くためには小説・コミック両面で追っていかなければということになるでしょう。とりあえずはQueen & Countryを早く読み終わり次はImage Comicsで進行中の『Lazarus』か。少し遅れてしまいましたが今後はルッカ率が高くなるよう努力して行くつもりというところの2回にわたってのルッカ特集でありました。
以前も書いた通りMulholland Booksからのこの作品、日本からはKindle版は購入できないのですが、少し前に280 Stepsなどを調べているときに見てみたらKobo版は発売されているようです。辞書も使いやすいeBook版をという人はそちらを見てみるとよいかと。色々見てみると中堅以上ぐらいのパブリッシャーでは割とマルチで色々なeBook版を発売しているところが多いので、読みたい作家の本がAmazonのオプションで日本の発売がないというときはKoboを見てみると見つかるかもしれませんよ。ただ、MulhollandとかになるとあんまりeBook値引きがなかったりするので、日本と違って定価縛りのないプリント版ペーパーバックなどを探した方がお得なのが見つかるのだけど。あとルッカさんのホームページ、「ここ古くなったからそろそろ新しくする」って5月から言ってるのだけどいつ変わんの?

Greg Ruckaホームページ


【その他おしらせの類】
なんか前回色々きつくて余力がなく今回はいいやとか思っていたらお知らせが溜まってしまった。今回まずはあのHard Case Crimeがコミックに進出というニュース。過去の名作の発掘のみならず、最近はTVシリーズも始まり話題の『Quarry』シリーズ最新作も発行など、今や目が離せないHard Case CrimeがTitan Comicsと組みHard Case Crime Comicsシリーズの刊行を開始しました。なぜHard Case Crimeが英Titan Comicsからかというと、現在Hard Case CrimeはTitan Comicsと同じく英BBC系列のTitan Books傘下にあるからなのです。そしてその第1弾『Peepland』Issue1が10月12日発売されました。ライターはあの少し前にDown & Out『3 the Hard Way』のセールをお知らせしたGary Phillips。この人も小説・コミック両輪で頑張っていてルッカの後を追う人かも。今後はマクベイン、スピレインらの過去の名作も刊行予定ということで私的にはかなり期待が高まっております。Hard Case Crime印のコミック欲しい!

the Gurdian / Trigger warning: the return of sleazy crime comics

そして、先月書いたばかりの現在最も注目のAdam Howe君の長編第1作が発売決定!前作までと同じComet Pressから12月9日発売予定となっております。この作品では前に紹介した中編集『Die Dog or Eat the Hatchet』収録の傑作「Damn Dirty Apes」の主人公元ボクサーの用心棒Reggie Levineが再登場とのことで、かなり期待も高まるところ。発売されたらまた色々前倒しして早く読もうっと。Reggieシリーズの予定もあるのかな?やはりこのAdam君注目度も上昇中のようで、前に通りすがりぐらいの感じでちらっと書いた新進ミステリ作家によるグループのサイトDo Some Damageに作家Scott Adlerberg氏によるAdam君への新作発行に関するインタビューも掲載されています。実はこのAdlerberg氏、私同様『Die Dog or Eat the Hatchet』に感動し5月にもインタビューを同サイトで行っており、そちらはページ内にリンクがあります。とにかく何を置いてもこの最新作は読むべし!

Do Some Damage / Tijuana Donkey Boy: An Interview with Adam Howe

あとこれはセールとかなのかよくわからないのだけど、同Comet PressのホラーアンソロジーThingsシリーズ3作をまとめたボックスセット『Stiff, Sick and Vile Things Box Set - Three Complete Comet Press Anthologies in the THINGS Series』が現在404円で販売中。最新作『Stiff Things』に1ドル乗せたぐらいの価格なのでかなりお得かと。なかなかホラーまで手が回らず読めるんかなあ、とは思いつつもかなり期待していてもっと深く知りたいComet Pressゆえとりあえず買っときました。何とか少しずつでも読むよう努力したい。

そして最後に日本で私以外に関心持っている人いるのかも不明なドイツの新読書アプリOolipoの最新情報です!先週半ばごろ遂に最初のアップデート!色々変わったり、作品が増えたり減ったりしました。前回の報告で私がスルーした『Taste of Love』がなぜか消えてるのだけど、もしかしたらものすごくエロ過ぎてアップルから削除指令が下ったとか?なら読んどきゃ良かったよ。そして今回のアップデートで音が入りました!前回ちょっと読んだ『Apocalypsis』をもう一度見てみたところビュービューってな感じの吹雪の音がバックに流れるようになっていました。たぶんそれぞれの作品に合わせた効果音的なものが流れるようになるのでしょう。まだ読めない作品も多いようですが、今度はリリース日時なども書かれているので、今後は色々なのが読めるようになってくるのだろうと期待します。あと今回からこれまでいい加減になっていたアカウントをちゃんとしなきゃならなくなったのだけど、それが少しややこしくて、もしかすると私同様に少し困った人も地球上に一人ぐらいいるかもしれないので書いておきます。まず前のメールでちゃんと認証していなかったので、アプリ内の色々なところに出てきたアカウント関係の警告の下の方にある[RESEND](だったと思う)をタッチでもう一度認証用のメールを送ってもらいます。今度のやつはちゃんとリンクがつながっているのだが、ここで問題。私のようにPCではPC用のメールを使い、スマホでは携帯からのメールを使い続けているという状態で、習慣からアカウントを作る場合はPCのメールアドレスを使っているという場合、PCの方でメールを開き認証しようとしたりしますよね。この場合それだとダメでスマホの方でメールを開き認証しなければいけない。うーん、こういう説明になるとどうもうまくないのですが、とにかく[RESEND]で認証用のメールを送ってもらったら、同じスマホ上でメールを開き認証を送ること。これでちゃんとアカウントが使えるようになり色々読めるようになります。一人ぐらい困ってた人いるよね?えー?私だけ?

Oolipo

10月も後半になり、とうとう気温も下がって参りましたが色々と体調にはお気を付けくださいませ。まずオレ。寒さが極端に苦手で毎年ながらこれから年末に向かいペースダウンの恐れがありますが、書かねばならんことは沢山ありますので何とか頑張って行くつもりであります。ではまた。



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グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第1回

グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第2回


●Jad Bellシリーズ



●Lazarus



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2016年10月15日土曜日

グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第2回

ずいぶん間が空いてしまったのですが、グレッグ・ルッカ Queen & Countryの第2回です。前いつだったっけ?と見てみたら去年の12月…。まあ、私のブログなんてこんなんばっかりですが…ああ、あれもこれも早くやらなきゃ…。
しかし、このQueen & Countryに関してはちょっとだけ説得力のある言い訳があります。詳しくは後ほど書きますが、今回の『The Definitive Edition Vol.2』収録の作品を読んでいる途中で、ウィキペディアに書いてあった注意書きに従い、時系列的に前の『The Definitive Edition Vol.4』に収録のDeclassified Vol.1を読んだのです。で、やっぱり時系列的に前の話が収録されているこっちを先に読んどいたほうがいいだろうと考え、結局『Vol.4』の方を全部読んでから『Vol.2』を読み終わったというわけです。それなら『Vol.4』の方を先に書けばいいかな、とも考えたのだけど、そちらはタラ・チェイスの出てこない話ばかりなので、やっぱりそちらはとりあえず言及ぐらいに留め、主人公タラ・チェイスのストーリーを追っていった方がいいだろう、ということでこうなってしまいました。うむ!少なくとも自分は説得できた…。まあ、そんなわけですので、この先はもう少し早く進むと思うのでご期待ください。

それでは、第1回のThe Definitive Edition Vol.1に続き、今回はVol.2に収録の作品についてです。

●Operation Blackwall 作画 : Jason Shawn Alexander

本部長ポール・クロッカーが情報局合同会議のためアメリカ、ワシントンに出張中、SIS長官である"C"ことSir Willson Stanton DaviesからSIS特務課にミッションが依頼される。フランスでメディア関係のプロジェクトを進行中のイギリスの実業家Colin Beckが、娘Rachelのベッドシーンを盗撮したビデオにより、フランス側に有利になるよう事業を進めるよう脅迫されているということである。脅迫にはフランス情報部も関わっているらしい。そして、彼の娘Rachelはタラ・チェイスの学生時代からの親友でもある。政治の関わる行動を嫌うクロッカー不在ゆえ、代行であるマインダー1トム・ウォレスはミッションを受け、チェイスをフランスに派遣する。チェイスは脅迫のため雇われ、逃亡を準備していたRachelの恋人Andreを見つけるが…。

前回のOperation Crystal Ballの最後、ミッションを成功させ無事に帰還したマインダー3キタリングと微妙な関係にあったチェイスは、遂に一線を超えるのですが、やはりこの関係は仕事に支障をきたすと考えるチェイスは今回のストーリーの中でその関係を解消します。チェイスとキタリング、RachelとAndreの恋愛関係が交錯する一編です。
Jason Shawn Alexanderの作画はイラスト的といった感じの素晴らしいペン画です。作品の方はペンによる白黒ですが、ペイントによるカバーも素晴らしい。画家、イラストレーターという方が主な肩書のようですが、コミックも多く手掛けていて、Darkhorse、DCなどの他、最近のものではImage Comicsでストーリーも手掛けた『Empty Zone』があり、こちらは早く読んでみたいところです。

●Operation Storm Front 作画 : Carla Speed McNeil

ここでThe Definitive Edition Vol.4収録のDeclassified Vol.1の物語がストーリーに関わってきます。Declassified Vol.1は本部長ポール・クロッカーのマインダー時代の話で、時代は東西冷戦下、クロッカーはプラハである人物を西側に亡命させるというミッションに当たるのですが、任務は失敗に終わりその人物も殺害されます。このOperation Storm Frontでは、その人物の息子である実業家が誘拐され、その実業家とは面識すらないクロッカーですが、過去の苦い思いからなんとか彼を救いたいと考えることが話の一つの軸となって行きます。またDeclassified Vol.1では現在のクロッカーの上司であるSIS副長官ドナルド・ウェルドンもプラハの駐在員として登場します。現在はクロッカーと衝突の多いウェルドンですが、この時には上司の命令を無視し危機にあるクロッカーを助け、ただの官僚的というだけではないそれなりに気骨のある人物であることが示されます。

マインダー3キタリングが派遣中のベネズエラ、カラカスのホテルのベッドで死亡しているのが発見される。死因はくも膜下出血で、現地警察からも事件性はないとの報告が届く。
グルジアでロシアの実業家が誘拐される。当地で相次いでいる身代金目的の誘拐事件である。しかし、それがかつてプラハで自分が助けられなかった人物の息子であることに気付いたクロッカーは彼を救出すべく動こうとするが、副長官ウェルドンにSISの任務ではないと却下される。
一方、マインダー1ウォレスは、キタリングの抜けた穴を埋めるべくマインダー3候補を求め訓練所に赴き、Brian Buttlerを推薦される。マインダー3候補として任に就くButtler。一度はクロッカーの要請を却下したウェルドンだったが、上司"C"とも掛け合い誘拐事件の相次ぐ現地の治安調査の名目でグルジアへのマインダー派遣を認可する。そしてマインダー2チェイスと新人Buttlerがグルジアへと向かう。
現地警察へ赴き、あまり協力的ではない担当官と面談。そしてその夜、現地の駐在員との接触のためホテルを出た2人の乗る車が襲撃され、マインダー3候補Butllerは死亡、チェイスは一人現地に残される…。

関係解消後、ぎこちない間柄のままのキタリングの突然の死去は、チェイスの心に影を落とします。キタリングの死には不審なものが感じられるのですが、現在のところそれはそのままに置かれます。過去のクロッカーのミッションについては、会話の中で少し言及されるぐらいなので、やっぱりDeclassified Vol.1を読んでいないと分かりにくいかと思います。ウェルドンがなぜ今回に限ってクロッカーのために動いたのかも、過去の経緯を知らないと分かりにくいかも。
作画のCarla Speed McNeilは有名なWebコミック『Finder』の作者(現在はDarkhorseから発売中)。最近ではImage ComicsでAlex de Campiとの『No Mercy』でも作画を担当中。両作とも自分のいずれ読もうと思っているコミックリストに入ってるのではあるけど、ちょっとこの作品では気になる所が多かったり。ちょっと人物が寸詰まり気味なのと明るい表情のパターンが少なめな所でしょうか。主人公タラ・チェイスはあまり自分の心情を語る人ではないのでかなり表情などが重要だったりもするので。よく調べてみるとなかなか考えた人選ではあるのだけど、ちょっと今回はうまくいかなかったように思えます。

●Operation Dandelion 作画 : Mike Hawthorne

ここでまたDeclassified Vol.1の物語が関わってきます。ここまではSIS長官の"C"は前述のSir Willson Stanton Daviesという人だったのですが、ここで病気のため引退し、翻訳の出た小説版第1作にも登場するサー・フランシス・バークリーが代わってその任に就きます。実はこの人はDeclassified Vol.1ではプラハの現地駐在員の代表で、クロッカーのミッションが窮地に陥った時早々と本国に作戦失敗を連絡し、クロッカーを見捨てようとした人。その後KGBに暴力的に脅されたりして、クロッカーには若干の恨みも持っている人物です。

新人Buttlerがまだマインダー3候補の段階で死亡してしまったことにより、訓練所でも次の候補を見つけられず、SIS特務課はウォレス、チェイス2人の状態が続く。そんな中ウォレスは、そろそろ自分はマインダーを引退し、訓練所の教官となるつもりであることをチェイスに告げる。
SIS長官Sir Willson Stanton Daviesが病気により倒れ、次の長官はサー・フランシス・バークリーになるらしいとの噂が流れる。また、海外駐在員への予算も削られ、特務課の今後に暗雲が立ち込める。そんな中、キャリア官僚で各部門に発言力を持つWalter Secombeからクロッカーに会談の要請が来る。Secombeはクロッカーに自分の依頼を受けてくれたら予算面などで優遇を図ろうと申し出る。Secombeの依頼は、現在イギリスに滞在中の、ジンバブエの次期リーダーと目されるDaniel Mwamaについての調査だった。
ミッションを開始し、Mwamaに接近したチェイスとウォレスは、既に別部門の国内情報機関が動いていることに気付く。
そしてまた一方で、優秀な軍人ながらホモセクシュアルゆえに周囲との衝突が絶えず、SASを辞めることを決意したニック・プールが、上官の推薦によりマインダー3候補として就任してくる。

これまでのQueen & Countryシリーズの中でもひときわ人物の会話が中心となる少し難しかったりもする一編。ちなみにルッカは基本カコミによる解説・モノローグは使わず、情報は会話の中のものが主となるスタイルです。やっぱりこの作品もDeclassified Vol.1を読んでいないとクロッカーとフランシス・バークリーの関係とかよくわからないかも。
そのDeclassifiedの方ですが、とりあえずここまでの話ではVol.1だけ読んでおけば大丈夫です。Vol.2はトム・ウォレスの過去のミッション。Vol.3は今回から登場のニック・プールのSAS時代の話で、とりあえずのところメインのストーリーとは今のところ関係していません。前回まだあまりよくわかっていなくて「Declassified Vol.1~3は作戦行動のその後などを別のキャラクターが語るスピンオフらしい」などと書いてしまったのですが、以上のようにタラ・チェイス以外のキャラクターの過去の話というのが正しいところでした。すみません。ちなみにDeclassifiedについてはなぜかComixologyでもKindleでもデジタル版は未発売なのですが、MadefireというコミックのアプリショップではOni Press→Queen & Country内で全3作発売されています。…と思ったらこっちではあとのVol.7、Vol.8が未発売だったり。MadefireについてはiOS、Androidにはアプリがあります。本当はMadefireについてももっと詳しく書かなければと思っているのだが。なかなか至らなくてすみません。
作画Mike Hawthorneも自費出版によるコミック『Hysteria』で知られる人で、現在はマーベルのデッドプール物などを手掛けている人です。日本で出たのにもあるのかな。ちょっとカバーにはイマイチ感がありますが、個性的なシャープな線のそれほど悪くないアーティストです。この人については動きのある画が得意なようなのですが、前のCarla Speed McNeil同様作品内容的にちょっと本来の実力をうまく発揮できていない印象があり残念。


以上、『Queen & Country The Definitive Edition Vol.2』収録作品の内容でした。前回にも書いたのだけど、このQueen & Countryシリーズは連続したシリーズで、小説版も「キャラクターや設定をもとにして書かれた」というようなものではありません。作者グレッグ・ルッカの元々の意図もコミックから小説につながる作品を作るということだったのだろうと思います。グレッグ・ルッカは、アティカス・コディアック・シリーズを見てもわかるように、シリーズのエピソードごとにリセットされるタイプではなく、連続性にこだわりそれぞれの過去が主人公の上に積み重なって行くタイプの作品を作る作家です。タラ・チェイスはあまり自分の心情などを語るタイプのキャラクターではないと書きましたが、マインダー・チームへの信頼は篤く、メンバー間ではそれなりに率直な自分の考えを語る場面も見られるところも多くありました。そして、今回マインダー3キタリングを失い、マインダー1ウォレスも特務課を去ることになり、という様々な経緯を経た後、タラ・チェイスがマインダー1となっている小説版『A Gentleman's Game(『天使は容赦なく殺す』)』があるわけで、コミック版を呼んだ後にそちらを読むと少し違った印象のものになるのではないかと思います。自分もそちらを先に読んでしまったので、今回ストーリーの流れに合わせもう一度読んでみようと思っています。第3回『The Definitive Edition Vol.3』は『A Gentleman's Game』を間に挟む2つのエピソードが収録されていて、コミック版最終作Operation Red Pandaは『A Gentleman's Game』の直後から始まり、そのラストから小説版第2作『Private Wars』に続くということらしいです。次こそはあまり遅れないように頑張る所存であります。あ、あと第1回のOperation Morningstarの画像が変わってしまっていたのですぐに直しときます。たぶん後でアマゾンのリンクが変わってしまったのだと思うけど…。

ちょいと2000AD2000号に至るあたりで、自分的には結構頑張ってしまったもので少し気が抜けたというところで急に気温も下がり、少し体調を崩し気味で今回は遅れてしまいました。1週でできるぐらいの分量だったのだが。またここから気合を入れ直し頑張るものでありますです。次回はグレッグ・ルッカ特集!という感じで、引き続きルッカの、なんだかどこも出す気配がないのでJad Bellシリーズ第1作『Alpha』について書く予定でーす。ではまた。



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グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第1回

●Queen & Countryシリーズ
○コミック版

■The Definitive Edition(TPB)


■Kindle版



○小説版




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2016年10月2日日曜日

2000AD 2000号達成!

今週水曜日(2016年9月28日)、イギリスの週刊コミック誌2000ADのProg 2000が発行!1977年の創刊から通巻2000号が遂に達成されました!英国コミックの偉大なるランドマークがここに刻まれたわけです!(主に受け売り)その40年に達せんとする歴史に対して、わずか3年ぐらいの読者歴の私でありますが、その偉大なる2000号についてできる限りの解説を試みようと思っております。
とりあえず2000号ということで、今回初めて見てくれる人もいるかと思いますので、前から見てくれてる人にはもう聞いた話になるとは思いますが、若干の解説を加えながら進めて行こうと思います。また、もう少しよく知りたいという人は、一応2013年秋からの3年分ほどの記事がありますので、リンクをたどってそちらをご覧ください。作品名についたリンクは一番最近の掲載のものになっています。

まず2000ADについてですが、通例1年を大体四半期に分け、常に掲載されているJudge Dreddを除き、4本の連載シリーズが入れ替わる形となっています。そして通常32ページがデジタル版では複数のカバーも含む大増56ページの今回の2000号はその秋期の最初の号となっているのですが、掲載作6本のうちJudge Dreddを含む5本は特別ストーリーのワンショットで、最後の『Conterfeit Girl』のみがこれから年末まで続くシリーズの第1回となっています。

Judge Dredd : By Private Contract
 John Wagner/Carlos Ezquerra
2000号記念号ももちろん巻頭はJudge Dreddから始まりますが、今号は特別の趣向で各作品の前に2000ADのコミック・レジェンドたちの手による1ページが挿入されています。その内容は、2000ADのドロイドたちによって作り出された作品はそれぞれに個別の宇宙を作り現実に存在している、と語る宇宙人編集長Tharg閣下がそれぞれの作品宇宙をめぐるというもの。そしてその最初はその正確なデッサン力とシャープで美しい描線で初期のDreddなどを描いた英国コミック・レジェンドのBrian Bolland。アラン・ムーアとの共作によるDC『バットマン:キリング・ジョーク』は日本版も出ているので、その素晴らしい画を見た人も多いと思います。
そして、本編の方は現在も2000ADで活躍中のコミック・レジェンドであり、Dreddの生みの親とも言えるJohn WagnerとCarlos Ezquerraのコンビ。日本ではクローネンバーグ監督による映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の原作コミックのライターあたりが一番有名なWagnerは連載開始当初から現在まで続く最も重要なライター。EzquerraはそもそものDreddのキャラクター・デザインをした人。
今回は特別ストーリーで、同コンビによる人気シリーズ『Strontium Dog』のキャラクターが登場しています。『Strontium Dog』はDreddよりさらに未来の世界で大戦争により産み出されたミュータントでその道を選ぶしかなかった宇宙の賞金稼ぎJohnny Alphaの活躍を描く宇宙冒険活劇コミック。1978年に短命に終わった2000ADの姉妹誌「Starlord」で始まり、その後2000ADに移り、他の作家の手にもより1990年まで続き一旦は終了していましたが、2000年から同コンビによるリバイバルが開始され、以来年1期ペースで現在も続いているシリーズです。DreddとStrontium Dogの共演は以前にもあったようで、二人は面識があるのですが、その辺についてはちょっとまだわかりません。
自分を探している人物がいるとのバーテン・ドロイドからの通報を受け、ある酒場に向かったDreddを待っていたのはJonny Alphaとミュータントの賞金稼ぎ仲間達だった。Alphaの言うところによるとDreddに時間を超えた賞金が懸けられてあらゆる時間帯に掲示されているということ。このままではタイム・ベルトを装着し時間をさかのぼり現れたAlpha達のように、あらゆる時間からそれぞれの手段で賞金稼ぎがDreddに襲い掛かる恐れがある。少なくともお前は信用できる、ということでDreddはAlpha達と同行することに同意する。未来へと渡り、捕獲されたように見せかけ相手が何者か探るという作戦だったが、作戦に参加し未来で待ち受けていたStixs族の二人が裏切り、Alpha達を気絶させDreddを連れ去る。そしてDreddを待ち受けていたのは、かつてMega-City Oneを恐怖に陥れたJudge Calのクローン達による私設法廷だった…。
Judge Calはかなり初期のJudge Dreddで半年にわたって掲載された「The Day the Law Died」というストーリーでJustice Departmentを乗っ取りMega-City Oneに恐怖政治を敷いた人物です(Complete Case File Vol. 2に収録)。ちなみにそのストーリーはスタローン主演の方の映画『ジャッジ・ドレッド』のベースにもなっています。最後にはDreddに倒されたJudge Calだったが密かにクローンが作られていてそれらが100年後ぐらいの世界でDreddに復讐を謀ったという話。また、登場するStixsは『Strontium Dog』でAlphaが遭遇した宇宙の辺境の全員同じ顔の無法者種族で、一番最近のシリーズでもAlpha達の作戦に参加しています。

Nemesis The Warlock : Tubular Hells
 Pat mills/Kevin O'neill
こちらのイントロページは、やはり英国コミック・レジェンドの一人Mick McMahonで、Pat Millsの代表作の一つ『Slaine』の世界が描かれています。Mick McMahonは美しいシャープな描線が特徴のBollandとは対照的な荒いが力強い線でまるで岩塊のような人物を描き初期からの2000ADで活躍したアーティストです。初期のDreddなどを見るとアーティストがBolland派とMcMahon派に分けられるようにも見える。現在はずいぶん絵柄が変わり、少しユーモアやシュールを含んだフォークロア的な画風になっているようです。McMahonによって描かれた初期の『Slaine』はMcMahobの代表作でもあり、2013年の『Slaine』30周年にも登場し、特別ストーリー1話を手掛けています。
『Slaine』の方をもう少し説明すると、先史時代の神と人間、剣と魔法とモンスターが入り乱れる世界を舞台に、戦士Slaineの闘いと遍歴を描いた、2000ADではJudge Dreddを例外として、最も長期にわたって続いている作品です。現在も年1期のペースで掲載が続いており、2014年からのSimon Davisによる素晴らしいアートのThe Brutania Chronicleが来年完結の予定です。巨匠Pat Millsについては作品の翻訳も含め、日本ではあまりにも知名度が低いようですが、2000Adの初代編集長でもあり、まさしく英国コミック界を代表する巨匠。代表作は今回登場の『Nemesis The Warlock』や『Slaine』の他、『ABC Warriors』、『Savage』など多数。このうち『ABC Warriors』と『Savage』についてはここ数年毎年1~3月期に交互に掲載され、1999年のVolgan戦争に始まるMills未来史の再構成を図っている模様。
『Nemesis The Warlock』についてはMillsの代表作の一つであることは知っているぐらいで私もこれが初見であまり説明できないのですが、1980年代に基本的には同コンビによって描かれた作品で、フリーダム・ファイターNemesisと宇宙の歪んだ宗教的支配者Torquemadaとの戦いが中心となるストーリーのようです。作画のKevin O'neillも2000AD初期からのコミック・レジェンドの一人で、アメリカDCなどの活躍も多く、アラン・ムーアとの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』が翻訳があるので、日本的にはMillsよりもおなじみの人が多いかも。
今回のストーリーは、シリーズの最後にともに死亡したNemesisとTorquemadaが融合したまま宇宙の異空間を永遠に流されているというところから始まり、一時解放されたと思ったTorquemadaが過去の自分の肉体に戻ると、Nemesisが現れ再び永遠の流れに叩き込まれて行くというもののようです。キャラクターも特殊でいきなり見せられると何が何だかさっぱりわからなく見えるのですが、あとから出てくる襲撃者の方が主人公のNemesisです。名高い代表作が遂に復活かと思われましたが、今回は新しい展開というものではないワンショットということでした。しかし、前述のMills未来史においてABC Warriorsとも関係のあるNemesis The Warlockですので、そちらの流れでの復活は今後あるのかもしれません。

Rogue Trooper : Ghost of Nu Earth
 Gordon Rennie/Richard Elson
こちらのイントロページも2000AD初期から活躍を続けるDave Gibbons。90年代からは活躍の舞台をアメリカに移し、2000ADには久々の登場となります。こちらもアラン・ムーアとの『ウォッチメン』でその精密な画を見たことのある人も多いはず。2000ADでは通常一話5~6ページ程度という制約でどうしてもコマが小さくなりますが、彼の描く初期の『Rogue Trooper』でもその小さいコマの中でも迫力のある画を見られます。このページではTharg閣下が「いつまでたっても戦争を止めない地球人類に、その未来の姿を見せよう。」と語り、『Rogue Trooper』、『Bad Company』などの戦争コミックの様々な場面が描かれます。
『Rogue Trooper』は1981年から、2000AD初期から80年代まで活躍したライターGerry Finley-DayとDave Gibbonsにより始められたSF戦争コミックシリーズです。遠い未来の世界でSoutherとNortの二つの勢力の間でいつ終わるとも知れない戦争が続いており、その最大の戦場となった惑星Nu Earthは、双方により使われ続けた生物・化学兵器により防護服なしでは生存できない環境になっている。SoutherによりそんなNu Earthの環境でも防護服なしで行動できるよう遺伝子改造で作られたのがG.I.(Genetic Infantrymen)部隊。しかし、自国内の裏切り者によりNu Earthへ投入される降下地点をNortに襲撃され、部隊は全滅し、その中でただ一人生き残った男がRogue Trooperである。軍ではその人的資源を無駄にしないため、それぞれの兵士にはあらかじめその記憶を保存するチップがつけられており、亡くなった3人の戦友のチップをそれぞれヘルメット、背嚢、ライフルに備え付けられたソケットに装着し、彼らと会話しながらただ一人、軍のネットからも離脱し単独で裏切り者を追い続ける男Rogue Trooper。物語は80年代末に一旦は終結し、Rogue Trooperの死も描かれましたが、その後も時間をさかのぼる形で様々な作家の手により描かれ、2000年代前半には今回のGordon Rennieによるシリーズもあります。しかし、近年の最も大きな動きと言えば、そのGordon Rennieによるスピンオフ的作品『Jaegir』が2014年から開始されたことです。Nortの戦争犯罪捜査官である女性大佐Jaegirを主人公としたシリーズは、登場と同時に大変好評を博し、2000ADでも近年最大級のヒットとなっています。その状況で今回の2000号にRennieによるRogue Trooperの登場となったわけです。
Gordon Rennieは90年代から2000ADで活躍中のライターで、多くのDreddを手掛けている他、近年の代表作には『Absalom』、『Aquila』といった作品のある現在の2000ADの中心ライターのひとりです。作画のRichard Elsonはこの後登場のDan Abnettの2000ADでの代表作でもある『Kingdom』を現在描いているアーティストで、特に絵柄としては日本のマンガの影響を受けたタイプには見えないのだけど、技法や構図などに日本のものと共通点も多く、日本の読者にはこの号の中でも一番見やすい画ではないかと思います。
激しいNortからの攻撃にさらされながら拠点にこもり、増援を待つSoutherの兵士達。彼らの会話は兵士たちの間に伝わる様々なNu Earthのゴーストの話になってくる。そしてそれがすでに伝説となっているRogue Trooperの話になったとき、外で不審者として捕らえられ電子ゲートにより監禁されている謎の男が話に加わってくる。「俺はもっと恐ろしいNu Earthのゴーストを知ってるぜ。」一人の兵士が近寄ると、男は閉鎖されているはずの監房から手を伸ばし、兵士の銃を奪い取る。絶え間ない攻撃によるジェネレーターへのダメージによりゲートの出力も弱まっていたのだ。数時間後、Rogue Trooperがその拠点に現れると、兵士たちは全員殺害され、男の姿は無かった。その男こそが彼の追う裏切り者だったのだ。Rogue Trooperの追跡行は続く…。
これに先立つProg 1996~1999に全4回で『Jaegir』のミニシリーズが掲載され、前述のように秋期の始まりの号でもある今号に『Rogue Trooper』が掲載されるというのを聞き、またどこかで目にした噂を思い込みで勘違いもしたのか、この号から『Jaegir』のストーリーにつながる『Rogue Trooper』が始まるようなことを書いてしまったのですが、私の早とちりでした。とりあえずはこのようなワンショット。しかし、『Jaegir』にRogue Trooperが登場する日もそう遠くないものと思います。

Anderson, Psi-Division : A Dream of Death
 Alan Grant/David Roach
こちらのイントロページを描くのはRobin Smith。80年代に活躍したアーティストらしいのですが、ちょっとこの人についてはあまりよくわかりませんでした。こちらはJudge Dreddから広がった世界で、Dark JudgeやRobo-Hunter、Wakter、Andersonなどが描かれています。
Mega-City Oneの女性サイキック・ジャッジAndersonは、近年の映画『ジャッジ・ドレッド』にも登場していたので、知っている人も多いでしょう。初登場は1980年のJudge Dreddで、その後Dreddの宿敵となる、異次元の生が犯罪である世界でその世界の者を全て殺し尽したDeath Judgeが現れたときDreddの捜査に協力します。AndersonとJudge Deathとの因縁は深いのですが、少し長くなりすぎるので興味のある人は、2015年冬期のJudge Dredd/Dark Justice2015年夏期のDark Judges/Dream Of Deadworldについての解説の中で、私が読んだ範囲の初期エピソードについて書いてありますのでそちらを読んでみてください。現在は主に姉妹誌「Judge Dedd Megazine」に掲載されている単独シリーズを持っているAndersonですが、前述のJudge Dredd/Dark JusticeではDreddとともにDark Judge達と戦っています。また、この号に先立ち2000ADでも全7回のAndersonのシリーズが掲載されたのですが…、そちらについてはこれから書く2000AD 2016年夏期後編の方で。今月中には何とかします。
Alan Grantも2000AD初期から活躍するライターで、アメリカDCなどでの活躍も多く、そちらで名前を知っている人も多いかもしれません。初期Dreddの重要なエピソードも多く手掛け、Anderson, Psi-Divisionも多く書いているライターです。2000ADには少し久々の登場のようです。ちなみにAndersonは前述の初登場のエピソードがJohn Wagner/Brian Bollandによるものだったので、目次のクレジットはこの二人のものになっています。作画のDavid Roachは2000ADでは主に80年代に活躍したアーティストで、その後はイラストレーターや映画のストーリーボード・アーティストなどにも活躍の場を広げたようですが、この人についてもあまりよくわかりませんでした。この辺のあたりの人たちについての資料が今少し集めにくいところなのかも。白黒のイラスト的な作画は大変美しい。
任務から戻り、スリーピング・マシンで仮眠をとったAndersonをJudge Deathの悪夢が襲う。しかし夢であることが分かっていれば自らの夢をコントロールできるAndersonは、夢の中のJudge Deathをコテンパンに叩きのめし、数分後さわやかな気分で目覚めるのだった。
前述のようにAndersonと因縁の深いJudge Deathが登場するワン・ショット。スリーピング・マシンは忙しいジャッジが数分で充分な休息がとれるという装置で、初期のDreddから登場しています。

Sinister Dexter : Replica
 Dan Abnett/Mark Sexton
こちらのイントロページは主に90年代から2000ADで活躍中のアーティストColin McNeil。ここ1~2年では最も多くDreddを描いています。太く丸い線に影を効果的に使うアーティストで、今回は白黒ですが、雰囲気のあるカラーも上手い人。こちらは主に80~90年代の作品のキャラが登場しているようですが、まだその辺は手を付けられていないところで私にはほとんどわかりませんでした。早く制覇を目指したいところ。
Sinister Dexter』は1995年から続くDan Abnettの人気シリーズです。二人組のガン・シャークFinnigan SinisterとRamone Dexterが主人公のアクション・シリーズ。ほとんど現代のように見えますが、未来の人類が移住した他の惑星が舞台となるSFです。元々のキャラクターは映画『パルプ・フィクション』のジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンがモデルになっているそうですが長期にわたる間にずいぶん変わっている感じ。ここ3年ほどは、自分たちが暗殺したはずだったが異次元並行世界の同一人物に入れ替わってしまい、放置しておくと世界のバランスが崩れる危険性のあるギャングのボスTanenbaumを追うストーリーが続いていましたが、昨年末に終了。Tanenbaumは倒したが、その時の爆発に巻き込まれ、今度は自分たちが並行世界に飛ばされてしまったという結末。元いた都市と全く同じだけど、誰も自分たちのことを知らない世界で再びガン・シャーク稼業を始めたというのが現在の状況です。
アメリカ、マーベルなどでの活躍も多く、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の原作者としてもクレジットされているDan Abnettですが、2000ADでもこの『Sinister Dexter』の他にも『Kingdom』、『Grey Area』などの現在進行中の人気シリーズを抱え、つい先ごろの夏期にも個性派アーティストI. N. J. Culbardとのコンビで地球上に居住不可能となった人類が軌道上に立ち上げた巨大人工衛星都市群が舞台の『Brink』を立ち上げ、それも確実に人気シリーズに加わって行くものと思われます。この『Sinister Dexter』の作画は常に交替し別のアーティストによって描かれるという形式をとっており、今回は日本でも翻訳が出たVertigoの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でライター/アーティストとして作品の一つを手掛けていたMark Sextonを起用。今年冬期にJudge Dreddの全6回のエピソード『Ghosts』で2000ADには初登場しており、ストーリーボード・アーティストでもある画力を活かしたスピード感のある構図と素晴らしいペンのタッチを見せてくれました。2000ADでの今後の活躍も期待されるMark Sexton。そして7月に発売された増刊『2000AD Summer Special 2016』にも『Sinister Dexter』のワンショットが掲載されており、そちらでは2013年のコンテストの優勝者であり、最近手掛けた2000ADのDreddを描いたカバーがポスターにもなっている新進気鋭のアーティストTom Fosterが起用されています。
こちらの世界でも彼らの相棒となるのは愛車1958年型フォード・エドセルのレプリカ。その車に乗り、二人が今日訪れたのは墓地。かつて関わりのあったある女性の命日の墓参である。だがその墓の前には先客がいた。彼女の妹である。だが、この世界の彼女は2人のことを知るはずもない。昔のビジネス・パートナーと名乗り墓に花を手向けた後、彼らが乗り込む車を見たとき、彼女の頭にあるはずのない記憶がフラッシュバックする?
今回のこの作品もワン・ショットですが、近く再開されるであろうシリーズでその続きも描かれることでしょう。「かつて関わりのあったある女性」とか書きましたが、実は私もその辺の事情については今のところ全く分かっていません。好きな作品なのだけど、どうも過去のものがきちんとまとめられていない『Sinister Dexter』で、最近の「Judge Dredd Megazine」にも過去作がまとめて再録されていたりもしたようなのですが、いずれ完全版が刊行されるのを期待しています。今回ラストのフラッシュバックのコマが特別ゲストSimon Davis画伯によって描かれています。ちなみにSimon Davisによる『Sinister Dexter』ワンショットも2015年クリスマス特大号Prog 1961に掲載されています。

Conterfeit Girl
 Peter Milligan/Rufus Dayglo
こちらのパートは2000年代から活躍中のBoo Cook。シャープな線に独特のブラック・ユーモアテイストを含む画風のアーティストです。アメリカではImage comics『Elephantmen』のカバーなどでおなじみ。そちらで忙しいのか最近の2000ADではワンショット的なものしか見られないのですが、1999号のカバーはこの人によるものです。こちらは2000年代以降現代の2000ADの世界が描かれ、私の知っているキャラも多いです。後ろの方に書かれてる戦車人間は、自分がこれを始める前の2013年夏期Prog 1830-1832に掲載されたTharg's 3rillersの『Gunheadz』という作品のキャラだと思うのだけど、あれもCookさんの描いたやつだったのかな?かなり好きな作品なのでまた続きが描かれるとうれしいです。
いわゆるブリティッシュ・インベージョンの一人としてグラント・モリソン、ニール・ゲイマンなどと並び名高いPeter Milliganですが、昨年秋期、80年代の代表作『Bad Company』を復活させて久々に英2000ADに復帰。その際、亡くなったBrett Ewinsに代わってペンシラーを務めたRufus Daygloと、再び組んで始まったのがこの『Conterfeit Girl』です。ダークなサイバー・シティを舞台に、人々の身元を書き換えるのを商売とする女性が主人公のシリーズ。こちらはその第1回で、第1シーズンとなるのかが今年いっぱい続くことになると思われます。とても楽しみなこの新シリーズについては、2016年秋期の時にまた詳しく。


以上がイギリスが誇る週刊コミック誌2000ADの記念すべき2000号の内容でした。たぶん誇っていると思います…。1号だけなのですぐに書けると思っていたのだけど、思った以上に濃い内容であり、また2000号ということで初めて見た人もいるかもしれないし、そういう人にもわかるものを、などとも考えていたら結構大変な作業になってしまった。コミック関係はなるべく画像を入れるようにしようと思っているのですが、探す余裕がなくひたすら文字ばかりになってしまい少し読みにくかったらすみません。自分の感想としては、自分程度の読者歴で最近の作品から興味をもって少し過去のものを見たぐらいでもこのぐらいには何とか語れるように、現在の地点から過去40年の歴史を網羅した素晴らしい記念号だったと思います。もっと文字だけのページとか多くあるのかと思っていたのだけど、ひたすらすべてコミックで攻めたのも素晴らしい。2000ADはその歴史からも奥が深く、読めば読むほど面白くなってくるので、日本からでもデジタルで最新号が簡単に手に入るこの時代、もっと2000ADのファンが増えるといいなあと思います。ということで何とかやり遂げたよ。ご苦労さんオレ。


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