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2014年7月21日月曜日

MIND MGMT -衝撃のエスピオナージュ・コミック-

MIND MGMTとは、Mind Managementのこと。または、その特殊技能を使い、世界史の裏側で様々な形で暗躍する謎の組織の名称。彼らの目的は何なのか?謎に包まれた組織をめぐる驚愕のエスピオナージュ・コミックです!

着陸直前の旅客機の中で、ただ一人の子供を除く乗客乗員120人全てが突如一切の記憶を失う。機は無事着陸したものの、原因は不明で彼らの記憶も戻ることはなかった。

謎の事件から2年-

かつてはベストセラーになった実話犯罪の本を出版したノンフィクション作家のMeruだったが、その後は良い題材が見つからず、筆も止まり、生活も困窮し始めている。たまたま点いていたTVから流れる2年目を報じるニュース番組を見ているうちに、Meruはその事件を取材することを思い付く。調査・取材を進めるうちに、乗客の中の一人の男が事件後姿を消していることが浮かび上がってくる。Meruの調査もその男Henry Lymeの捜索に絞られて行く。
微かな手がかりを頼りにメキシコに飛ぶMeru。だが、そんな彼女をひそかに追う二つのグループがあった。ひとつはCIAのエージェント。そしてもうひとつはMIND MGMTの鍛錬によりいかなる傷も治癒する能力を得た”不死者”と呼ばれる謎の男女。何故Meruは追われるのか?そして、Meruが追い続けていたと思っていた手がかりも、あたかも彼女個人を導くために配置されたような様相を現し始める!

いや、これは本当に面白い。評判は聞きつつも、この画でエスピオナージュでは読みにくいのではないかと一瞬でも疑った私が愚かでした。謎が謎を呼ぶ展開に、巧みでテンポの良いストーリーテリングで、読み始めたら引き込まれてしまう事必至のエンターテインメント作品です。このVol.1に収録された#1~#6で、提示された謎は概ね解き明かされます。だが、それは更なる大きなストーリーへの序章にすぎないのだ!衝撃のラストを見逃すな!

作者Matt Kindtは1973年セント・ルイス生まれ。地元のミニ・コミック・シーンで活動した後、2001年Top Shelfから『Pistolwhip』で本格デビュー。その後は『Super Spy』(Top Shelf刊)、『3 Story:The Secret History of the Giant Man』(Dark Horse刊)、『Revolver』(Vertigo刊)などのいずれもエスピオナージュ作品を発表した後、2012年からDark Horseからこの『MIND MGMT』を月刊ペースで発表しています。ライターとしては、以前に書いたValiantから『Rai』を執筆中。DC、マーベルでもいくつかの短い仕事をしているMatt Kindtですが、これがライターとしての本格参入になるようで、注目しております。
Matt Kindtの絵については、実は構図や色彩において、画を描かない人にはできないような選択がちゃんとされていて、実際の画力はわからず、ただこういう画風なのだとしか言いようのない感じです。とかく画とストーリーを別に考える人も多いですが、日本では『ナニワ金融道』の画ををもっと画力のある人が描いたらもっと面白かったのか?と言えば充分ではないかと思います。とにかくこういう話が好きな人には絶対におススメの作品です!

この『MIND MGMT』Matt Kindtにとっては初の月刊誌となるそうで、毎月買ってもらうためにそちらには単行本に収録されないおまけが付いています。まずは表・裏の表紙裏ページの上半分ずつを使ったコミック『Second Floor』。こちらはMIND MGMT組織の様々な過去の活動を描いたショートコミック。そして、お便りコーナー。第1号ではまだ出版されていないこの本をお母さんに買ってもらった、という盟友Jeff Lemirie君からのお便りが載っています。(Jeff Lemirie君については当ブログ3月のEssex Countyを参照の事)他にどこかのWebページで何か見られるようなパスワードが隠してあるとか書いてあるのですが私はそういうクイズ的なのが大の苦手なのでさっぱりわかりません。わかった方がいたらヒントを教えてください。
いずれも無くても十分本編は楽しめる物ですが、そちらも読みたいという方は、Dark HorseのWeb/アプリショップからデジタル版で読むことができます。私もそちらで読んでいます。また、どういうものなのか見てみたいという方も、同ショップ内でフリーで、MIND MGMTにまつわる3本のショートコミックが収録された『MIND MGMT #0』と、異色作家サンプラーという感じの『Dark Horse Originals 2012 Sampler』の中で『MIND MGMT』と『3 Story』の数ページのサンプルを読むことができます。


●Dark Horseについて

ダークホースに関しては、マイク・ミニョーラの『ヘルボーイ』が翻訳されていたり、また日本のマンガも多く出版されていたりという事でご存知の方も多いと思います。ここでは近年の様子について少し。
ダークホースでの一番の稼ぎ頭は『スターウォーズ』、『吸血キラー/聖少女バフィー』、『コナン』などの版権物です。ただしこれらも原作のコミカライズというよりは、様々なスピンオフだったり、すでに放映が終了した『バフィー』ではその先のシーズン8という展開のものなので、ファンの人なら結構楽しめるものではないでしょうか。マイク・ミニョーラに関しては、近年はもっぱらライターとしての活動ですが、『ヘルボーイ』のスピンオフや、ほかのオリジナルシリーズ物も気になるところ。他には個人的にはヴィクター・ギシュラーの昨年から5話のミニシリーズで出たオリジナル作品『Kiss Me, Satan』なども気になっています。
そして一番の注目は、2012年にアナウンスされ、今年2014年にいよいよ動き出した様子のダークホース・ヒーロープロジェクト『Project Black Sky』です。と言ってもまだ全然手を付けていないのであまりわかりませんが…。どうも90年代に出ていた『Dark Horse Heroes』という様々なヒーロー・キャラクターが登場するシリーズが元になっているようで、まずそちらにも登場していた『X』、『Gohst』がリバイバルされ、その後『Captain Midnight』、『Brain Boy』などのシリーズも始まり、今年になって複数のキャラクターがコラボするストーリーも出始めているという状況です。…すみません、期待しつつ、注目はしているのですが、やっぱりまだ読んでいないのでわかっていませんでした…。なんとか少しずつでも手を付けて、なるべく早く概要をお伝えできるように努めます。まあ、なんか面白そうなのが始まってるよ、という感じにご理解ください。
ダークホースはアメリカの大手コミック・パブリッシャーの中ではほとんど唯一Comixologyに参入せず(一時期は参入していたようですが)独自のデジタル・コミックショップを展開していて、アプリではiOS、ANDROIDのどちらでもコミックを購入できます。こちらではDynamite社のコミックも昨年から販売されていて、ダークホースが版権を持って過去作もアーカイブとして出されている『Creepy』、『Eerie』と、同様にDynamiteが版権を持っている『Vampirella』が一緒に販売されるようになり、こちらでかつてのWarren社のコミックが一通り読めるようになっています。


DARKHORSE.com

Dark Horse Degital

●MIND MGMT


●その他のMatt Kindtの作品


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2014年7月12日土曜日

THUGLIT Issue Two

注目のハードボイルド/ノワールアンソロジー『Thuglit』第2集を読みました。今回は短篇8本プラスTod Robinsonの『Hard Bounce』プレビューの第2回で124ページという内容になっています。

[1]Three-Large by Nik Korpon
  久しぶりに訪ねてきた息子は街のボスからの借金で追われていた。男は息子を助けるために、長年封印していた銃を取り出すが…。「父と子の物語」が皮肉な結末をむかえる。
[2]Pipe by Jen Conley
  少年はある朝、亡くした父のコートに鉄パイプと煙草を隠し、家を出る。彼をいじめの標的にする少年に報復するために…。
[3]Just Like Maria by Mike MacLean
  メキシコからの不法入国の手引きを生業とする男の許に、妙な白人が現れる。「この女が現れたら連絡して欲しい。礼はする。」だが、その女はまさにこれから彼が国境を越えさせようとしている女だった…。
[4]Monster by Marc E. Fitch
  精神科病棟に職員としてもぐりこみ、金回りのよさそうな患者を退院させ、その家に侵入し、盗み出した薬で商売をしている男。やや問題はありそうだが金になりそうな患者に目を付け、退院させ、田舎町の屋敷に忍び込むが…。
[5]Participatory Democracy by Katherine Tomlinson
  議員候補の選挙事務所で理想的な社会実現のためボランティアとして働く女性。だが、その一方で景気悪化のため失業し、離婚した彼女の生活は逼迫し、追いつめられて行く…。
[6]The Carriage Thieves by Justin Porter
  輸送馬車強盗を稼業とする二人組のアウトロー。前の仕事で余禄として手に入れた鉄を売ってみると意外な稼ぎになったことから、廃車になったバスを盗むことを思い付く。膠工場から盗み出した馬にひかせ走り始めるが本物のバスと勘違いした客が次々と乗り込んでくる…。
[7]The Name Between the Talons by Patrick J. Lambe
  彼は今、死にかけている。彼の胸からはカーキ色の制服にどんどん血が染み出している。地被いてくるサイレンの音は救いなのか、それとも…。そして彼は警官になった日から今日までの事を回想する…。悪徳警官ストーリー。
[8]Spelled With a K by Buster Willoughby
  フリーランスでローンの支払いが滞った品の回収を仕事としている男は、ある夜バーで知り合った謎の女に恋に陥る。だが、その時男はすでに街にはびこるカルト教団の罠に陥っていた…。

『Hard Bounce』プレビューは長編を一気に読むのを楽しみにしているのでスキップ。以上が『Thuglit』第2集の8篇のあらすじです。個人的に気に入っているのは、シンプルだけど語り口などが上手い[1]、少し静かで抒情的だったりもする[2]、『シスターズ・ブラザース』みたいな感じからコメディに崩れる[6]あたりです。[6]に関しては少し状況が分からなくて、調べてみて初めて昔ニューヨークとかで馬が引くバスがあったのを知りました。最後にもう一ネタあればウエストレイクか、というところ。[3]、[5]、[7]あたりはこの長さだと逆にもうひとひねり欲しいという感じかな。

『ナントカ講義』みたいなのに別に批判的なわけではないのだけど、な~んか昨今の国内のこのジャンルの状況を見ると、翻訳点数が減っているだけでなく、ビンテージものを鑑賞する感じだったり、「ミステリとして評価できる」形の良いものばかりが好まれたりみたいな、つまらない感じだなあと私のようなひねくれものは思ってしまうのですよね。やはり今本当に読まれるべきは、先月書いたAnthony Neil Smithだったり、この『Thuglit』なのではないかと強く思うのです。はっきり言って荒削りだったり中途半端だったり、すべてが良作というわけではありません。それでも今の時代に今の目線で書かれたこれらの作品こそが、本当に今読むべきハードボイルド/ノワールなのではないかと。というわけで今後もこの辺りの動きにはもっとも注意を払いつつ、世界のすみっこぐらしで小さな声で愛を叫んで行こうと思うのでした。

さて、この『Thuglit』ですが、3月に「ハードボイルド/ノワール系アンソロジーとインディー・パブリッシャー 」の項で書いた時点では10集だったのですが、その後”ビッグダディTHUG”ことTod Robinsonがまた張り切り、現在12集までが発行されています。価格はすべてほぼ1ドル!この荒野の1ドルアンソロジーに追いつこうというのは高望みにしても、なんとか書かれ、発行されるスピードにシンクロできるぐらいに読めるようになりたいなと努力を続ける毎日です。


●関連記事 

ハードボイルド/ノワール系アンソロジーとインディー・パブリッシャー

●Thuglit


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2014年7月1日火曜日

Brass Sun Issue One -英SF-クロックパンク・コミック-

先日、2000AD 2013秋期で少し書いた『Brass Sun』が、デジタル版で発売されました。今回はIssue Oneとして第1シーズン前半30ページが2000AD Online ShopとiOS App Shop、そしてKindle版で発売中です。Issue Twoも6月25日に2000ADでは発売されており、そのうちKindle版も発売されると思います。

-あらすじ-
たくさんの惑星が集められ、パイプでつながれ機械的に太陽の周りを回っている不思議な世界。だが、それが作られたのは遥かに昔で、何者がどういう目的でそれを創ったのかは忘れ去られている。

だが、その太陽は今衰え始めている。冬が長くなり、作物の収穫は減少し、人々の不安から様々な宗教カルトが勃興している。しかし、権力の中枢にいる宗教的指導者たちはその状況に何ら対策を講じようとしない。この世界では、その成り立ちについて研究することすらタブーとされていて、外の世界を見るための望遠鏡もすべて破壊されている。

かつては次期司教と目されていた老人Cadwalladerは、その禁じられた研究のため地位を追われ逃亡し、現在は深い森の中に孫娘Wrenとともに隠れ暮らしている。しかし、その逃亡生活も終わりをむかえる。追手の襲来を察知した老Cadwalladerは、Wrenにすべてを託し旅立たせる。そして、少女Wrenのこの世界を救うための冒険が始まる!

以前、面白いのだけど設定等がよくわからない…という感じで雑に紹介してしまったのですが、思いのほか早く修正できました。これが正しいあらすじです。この作品2000ADでもかなりの人気のようで、今年12月にはハードカバー版の発売も告知されているのですが、それに先立ちこのような分冊形式での発売も始まりました。1シーズンを2回に分け、全6回で毎月発行という事になっているようで、今夏期に掲載されると思われる第3シーズンもその中に含まれると思われます。全ストーリーがそこで終了するのかはまだ不明です。
タイトルに使ったSF-クロックパンクというのは、2000AD Online Shopでの作品紹介に使われていたものです。私はそういうジャンルがあるのかは知らないのですが、時計仕掛けの様に惑星系が動いているイメージにはピッタリだと思います。しかし誰だよっWrenちゃんが可愛くないとか書いた奴はっ!…でもなんというかこのあらすじだけを読まれた人は大抵は『ラピュタ』みたいなのをイメージされると思うのですが、キャラクター造形に関しては少し違っていたりします。でもWrenちゃんはとても魅力的な女の子で、私は大好きです!Wrenちゃんが泣いてしまうところでは私も涙してしまいました。

作者コンビのIan EdingtonとI.N.J.Culbardに関してもかなり雑に書いてしまっていたので、ここでもう少し詳しく訂正しておきます。
Ian Edingtonは1990年頃に2000ADでライターとしてデビューし、90年代半ば以降は活動の場をアメリカに移し、マーベル、DC、ダークホースなどで様々なシリーズ物を手がけた後、2000年代からはまたイギリスに戻り、2000ADなどでオリジナル作品を中心に活動している作家のようです。作風はスチームパンク、歴史改変物で代表作に『Scarlet Traces』(Rebellion/Darkhorse刊、現在入手困難の模様)。近作ではBrass Sunの他に、2000AD 2013年春期に掲載されていた『Stickleback』があり、こちらは2008~9年に掲載され一旦は終了していたものが再開されたようです(冒頭で主人公が生き返る)。架空の過去のロンドンを舞台に怪人が活躍するピカレスクロマンという感じで、面白かったです。他にもアメリカでもVertigoで、『Hintrkind』というアポカリプティックファンタジーが現在進行中で、そちらも早く読んでみたいなと思っています。
I.N.J.CulbardはイギリスSelfMadeHero社から『シャーロック・ホームズ』シリーズなどの著作が多くあるアーティストで、アメリカではVertigoから、同じくイギリス出身のライターDan Abnettとの共作で『The New Deadwardians』があります。フランスで評価の高いアーティストのようで、検索してみたらフランス語のWikipediaが出てきました。シンプルな線なのですが、ある種シュールで抽象的と思われるイメージをひとつの断定的な、ある意味記号に近いような明確な形で、その線で描いて見せてくれる優れたアーティストです。近作ではラブクラフトの『At The Mountain of Madness(狂気の山)』(SelfMadeHero刊)があり、あの小説がどんな風に表現されているのかとても興味があります。SelfMadeHeroのコミックは、以前 "Comics Unmasked -英コミックカタログ-" の項で書いたSEQUENTIALからデジタル版を読むこともできます。

2000ADのコミックは、連載1回あたりのページ数が少ないためか、アメリカのコミックなどと比べて文字が小さくなる傾向があります。私はKindle版を購入して読んでみたのですが、Kindleのコミックリーダーはコマや区画などで少し拡大されて読む機能はあるのですが、それをさらに拡大して読む機能は無いので、私の使用しているiPad miniでも少し読みにくかったところがありました。購入される際は、ご注意ください。ちなみに2000ADのリーダーには特別な機能はありませんが、拡大は自由にできます。

この作品は、日本でも読んでみれば気に入る人がずいぶんいるのではないかなと思います。特に『Saga』の評判を聞いて海外のコミックに興味を持った、というようなSFファンの人がいるようならおススメです。私もとても気に入っている作品なので、このブログで今後も推して行き、何か新しい情報があったらなるべく早くお伝えしていくつもりです。



●関連記事 

2000AD 2013年秋期 [Prog1850-1861,2014]

●Brass Sun


●Ian Edington、I.N.J.Culbardの近作


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