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2026年8月2日日曜日

Anthony Neil Smith / Slowest Bear -Slow Bearシリーズ第3作!-

今回はAnthony Neil Smithの『Slowest Bear』。2024年に英Fahrenheit Pressのノワール部門であるFahrenheit Thirteenから出版された、片腕の元インディアン居留地の警官Micah 'Slow Bear' Crossを主人公とする Slow Bearシリーズの第3作です。

いや、Slow Bearシリーズについては早くやるつもりで始めたんだが、ここでやっと第3作か。これでも色々積み上げてる中ではかなり優先的に読んだのだけど…。
とりあえずサクサク進めなければというところで、まずは前2作のおさらいから。第2作『Slower Bear』については、前にやった時書かなかった後半ネタバレもあるのでご注意を。

Slow Bear:インディアン居留地の警官だったMicah 'Slow Bear' Crossは、職務中に片腕を失い、退職した後はカジノのバーに日がな入り浸り、厄介事を相談してくる相手の問題を解決してやることでいささかの収入を得ながら暮らしていた。
ある日どうしようもない不倫三角関係の相談を持ち込まれ、適当に追っ払ったところ殺人事件に発展し、当事者を始末することで片を付ける。だがその杜撰なやり口は従兄弟でもある警察署長Trevor Crossに直ちにばれ、それをネタに居留地の酋長 The Hatから、居留地から追放されているかつての彼の政敵で、現在は外で石油関連の利権で勢力を伸ばし再び脅威となり始めているSantanaの組織への潜入捜査を命じられる。
居留地からの追放という形を作るため、Trevorに散々殴られた後、カジノのバーのバーテンダーである馴染みのの女性Ladyに送られ、Santanaの本拠地へと向かったSlow Bear。だが最初の面会にて潜入捜査はあっけなく破綻する。
あとは野となれで、翌朝地元に戻るつもりで、駐車場に駐めた乗ってきた車で眠るSlow BearとLady。だが、深夜謎の集団の襲撃に遭い、Ladyは連れ去られる。
当地の裏社会にも広く顔が利くSantanaに助けを求め、その調査の間、Santanaの組織で働くことになるSlow Bear。しかし、その中で真の黒幕はSantanaであり、Ladyは人身売買組織により既に何処かへ連れ去られたことを知ることとなる。
命からがらSantanaの組織から逃亡したSlow Bear。だがやっと帰った自身の居留地でも、彼は指名手配犯となっていた。
警官隊の取り囲まれ、自身が暮らしたトレーラーを爆破し、死を偽装するSlow Bear。そして連れ去られたLadyを見つけ出し、奪還するため、旅立って行く。

Slower Bear:物語はネブラスカの牧草地帯で、Slow Bearが人身売買組織の一員であるGerardoという男と泥まみれ、牛糞まみれで死闘を繰り広げるとこらから始まる。
そこで第1作の物語の後、Santanaの組織を破壊し、昔の知り合いの犯罪者をバックアップの相棒として、Santanaから繋がっていた大規模な人身売買組織の追跡に取り掛かったことが、やや雑に説明される。
死闘の末、Gerardoを叩きのめし、彼から更に上に繋がる次の目標を聞き出したSlow Bear。その場から去り次へと向かうために車(元々はLadyの車だったコンパクトカー)を駐めていた場所に戻ると、おなじくその場に残されていたGerardoの キャデラックエスカレードの中に、彼が「商品」として運んでいた二人の幼い少女たちが乗せられているのを発見する。
少女たちを安全に保護する手段も思いつかず、途方にくれたSlow Bearは、前夜カジノで出会い一夜だけの関係のつもりで軒を借りた、60歳の赤毛の女性Abelineの家へと戻る。
そんな厄介事を持ち込まれたことに怒るAbelineだったが、説得する間もなくSlow Bearが乗ってきたGerardoのキャデラックをGPSで追跡した組織の者がAbelineの家を突き止めてくる。
巻き込んでしまったAbelineと、二人の少女を連れ家を離れるSlow Bear。だが、ただ逃げても何解決には向かわないと考え、Gerardoから聞き出したこの地の組織の拠点である一味の一人が経営するファーストフード店へと向かう。
そこで、世間の事情から離れていたSlow Bearは、店員が全員マスクをしていることを奇妙に思い、初めてCOVID-19の存在を知る。半ば半信半疑の状態で。
店の奥には一人の女性を含む四人の悪漢。無策でやってきたSlow Bearだが、当然簡単に情報をくれるはずもなく、かなり荒っぽい乱闘・銃撃の末、生き残った男から「商品」はソルトレイクシティを経て、カリフォルニアへ送られるとの情報を引き出す。
駆け付けた警官隊から逃れ、とりあえずはAbelineと二人の少女と共にホテルに宿をとる。
だがホテルをしらみつぶしに調べた追手は、その晩のうちに彼らに辿り着く。運よくその動きを早めに察知したSlow Bearは、敵を一人ずつ始末し、そこから逃亡。
しかし、次の目的地へ向かうこともままならぬうち、Slow BearはCOVID-19を発症する。
郊外のキャンプ場に隠れ、Abelineに看病されるSlow Bear。だがその症状は悪化の一途をたどる。そこに現れる組織の者たち。
四人は車に乗せられ、ソルトレイクシティの組織のボスであるMiles Tornの屋敷へと運ばれて行く。
もはや身動きもできないSlow Bearには厳重な見張りも付けられず、その隙を突き手近なありあわせの武器で突破口を開く。屋敷に火を放ち、その中でほとんど身動きできない身体で敵を倒して行く。
そして遂にSlow BearはAbelineと少女達を救い出すが、もはや自力では動けず、3人を逃がし炎上する屋敷の地下室に倒れる。
なんとか逃げ延び、家に戻り二人の少女と共に新たな生活を始めたAbline。
そしてある日、一枚のポストカードが届く。サンバーナーディーノの風景を映した絵葉書。裏にはAbelineの住所と、一文だけが書かれていた。
"Wish You Were Here"

第1作ではある種の定型をひっくり返し続けるように負け続け、追いつめられ続けるアンチヒーローとして登場するSlow Bear。
第2作ではそこから大ジャンプでパルプヒーローアクションのフォーマットに、その場に存在し得ないようなポンコツ主人公と60歳のヒロインという設定で飛び込み、箍の外れたようなブラックユーモアとスラップスティックすれすれをかすめる アクションが展開される。その辺の見どころも書きたかったんだがまあ無理か。実物読んでくれよ。
そしてそこから続く第3作『Slowest Bear』!やっと始まります。

Slowest Bear


Micah "Slow Bear" Crossは、疲れ果て、児童強姦者の血に塗れ、プールサイドのラウンジチェアに倒れ込み、息を整えようとしていた。肉叩きハンマーが彼の一本しかない腕から滑り落ちる。指から脳の残骸を振り落とす。
競泳用パンツの小児性愛者は顔を下に浮き、-顔がほとんど残っていない状態で言うのは妙な話だが-、プール全体にルビーレッドが花盛りとなっていた。
今は静かだ。前からそうだったわけじゃない。変態野郎はSlow Bearが咽頭を潰すまで、助けてくれと喚き続けていた。カリフォルニア、サンバーナーディーノの心地良い夕方近く。ひんやりとした空気。まだ春なのか?それとも今は夏か?秋ってこともあるか?

変態野郎の豪邸は、丘の上にあった。豪華な外観。あちらもこちらも豪華に作られた家の中。そして多すぎるほどのおもちゃ。
そして奴は今、ルビーレッドのプールに浮いている。
運良く、変態野郎は競泳用パンツ一丁で家に一人きりだった。配達を待っていたからだ。二人の少女。Slow Bearが、その運搬の途中で救い出した少女達を。

ラウンジチェアに座り込んだSlow Bearは、そのまま眠りに落ちる。
そして、夢の中で起き上がり、去って行く…、クソッ、どこへ行くっていうんだ?
居留地に彼の帰る場所はない。おそらくはもう彼が死んだと思っているはずだ。
ネブラスカ。彼はAblineの家へと戻る。彼が助けた少女たちは、そこでその歳の少女がそう在るべき姿で幸せに暮らしている。明るく笑って。
離れたところで鳴らされた車のクラクションが彼を目覚めさせる。

一瞬、自分が捕まったかと錯覚するが、そうではないと安堵する。
だが、夢はその二人の少女が運ばれてくるのを、この変態野郎が待っていたことを思い出させ、死体に向かって罵り散らしたい怒りがこみあげてくる。
この男は、映画産業で現場で必要なあらゆる機器をレンタルすることでひと財産を築いた。
現在事業の方は、彼の息子が取り仕切っている。この場の段取りといったことまで含めて。
そして、この男の娘もこれに関わっている。事が終わり、男が"完了"のメールを送ると、娘がやって来て少女達を回収する。
そして少女たちは、婉曲的に言えば「食物連鎖の下」へと送られることとなる。

Slow Bearは、"完了"のメールを送り、肉叩きハンマーを手に娘を待ち構えることを考える。
だが、あまりにも疲れすぎ、ハンマーをプールの水中に落としてしまったことを思い出す。
自分は疲れすぎている、休みが必要だ、Slow Bearは考える。
去る前に現場を片付けておくべきかと考え、結局やったのは備品倉庫から持ってきた漂白剤をありったけプールにぶち込むこと。
立ち昇る悪臭に、植え込みで嘔吐し、這いずるように家の中へと戻る。
そして一番近くにあったベッドの枕に頭を乗せると、Slow Bearはそのまま意識を失う…。

そして、ここから前作『Slower Bear』の最後からこの物語の現在に至る経緯が語られる。前作の流れで行くと、ここはまた大雑把に飛ばされるのかと思っていたら、今度はそこのところが丁寧に語られる。この辺、こっちの予想を常に引っ繰り返して 我が道を行く感じがSmith先生の魅力なわけだが、まあ、裏の裏で普通の形になってるとも言えるんだけど。
実はここからその過去の経緯と、現在の状況が交互に描かれて行くことになるのだが、ちょっとその形だとあらすじ説明が長くなりすぎそうなんで、ここではその過去の方を先にまとめます。

燃え盛る屋敷の地下室で、Covidにも苛まれSlow Bearは完全に自分は死んだと思った。だが、次に意識を取り戻したとき、彼は消防士により運び出され、外の草地に寝かされていた。
状況的に、彼は何らかの犯罪に関わっているという可能性があり、担架に手錠で繋がれ逮捕という形で救急車に乗せられる。救急車の担当は白人の若者と、もっと若い頃はレスラーだったのではないかという見かけの黒人の女性。
全身を苛む痛みと苦痛に、自分の魂が肉体を離れ、天に昇って行くことさえも望みながらSlow Bearは運ばれて行く。

意識を再び失ったSlow Bearは、病院に到着し担架が救急車から降ろされる揺れで目覚める。
言い争う声。Covidで患者が溢れる病院は受け入れを拒否し、ERの職員と救急車の女性が言い争っている。
「こいつはあの火事現場から来たんだろう?あそこは小児性愛者の巣窟だったって聞いてるぞ。こんな奴は砂漠の中にでも放り出してくりゃいいんだ」
警官までもが、こんな奴いなくなった方が面倒が減るだろ、と銃に手を伸ばす。
Slow Bearは必死に頭を持ち上げ、救急車の女性に訴える。「小児性愛者なんかじゃない。俺が奴らをみんな殺したんだ。女の子たちを救ったんだ」
警官はそれを聞き、こいつ自白したのかと色めき立つ。
「この人は変態共の仲間じゃないと言ってる。あたしたちが助けなきゃ、この人は死んで何があったのか誰にもわからなくなるんだよ」
別の病院へ向かうという話になり、運転手は病院内に場所を調べるために入って行く。 救急車の女性はSlow Bearに、嘘は言ってないだろうね、と念を押す。「インディアン、嘘つかない」
警官の助けを借り、移動の準備のためSlow Bearの担架は車内へ戻される。警官は、女性に頼まれ病院内にコーヒーを買いに行く。
後部ドアが閉められる。運転席のドアが開かれ、閉じられる。担架が固定されていない状態で、激しく揺られながら、救急車が発車する。

Slow Bearを救った女性の名はToni。彼を救った理由については"Jesus thing"とシンプルに告げる。
軍隊を除隊後、アーティストである女性と同性結婚した後、彼女の死に直面するといった重い人生を経て来た女性。
Slow Bearは、まず彼女の母親の家に連れて行かれた後、彼女の妻が遺したコンドミニアムに匿われる。
だが、やがてそこにも警察による追及が迫り、なんとか建物から抜け出したSlow Bearは、彼女にこれ以上の迷惑はかけられないと別れを告げ、ひとりバスに乗りカリフォルニアへと向かう。

そして、彼が殺した男の屋敷の中のベッドで意識を失ったSlow Bearのその後、続きから。
Slow Bearは男の携帯が鳴る音で目を覚ます。
画面表示を見ると、"Lulu Doll"、男の娘の名があった。電話は放置し、そのままヴォイスメールに行かせる。
部屋はずいぶん暗くなっており、携帯の画面を見ると時刻はPM:8:21。変態野郎を殺したのが何時だったかも思い出せないが。
やっとで起き上がり、灯りを点けてキッチンに向かう。
彼の命綱であるオレンジジュースは見つからなかったが、冷蔵庫にあったエッグロールをレンジに放り込み、手近にあったシリアルを手づかみで食いながら、ヴォイスメールをチェックする。
「父さん?これを聞いたらすぐにあたしに電話して。いずれにしてもそっちに向かってるけど。どうも良くない話を聞いたの。ユタから。そちらについたら話すから。10分ほどで着くからね」
Slow Bearは、携帯の履歴をチェックする。彼女は何度も掛けてきており、最後のそのヴォイスメールは11分前。
11分前。10分ほどで着く…。
その時、玄関で鍵を回す音が聞こえてくる。

電話に出ない父親に対して文句を言いながら家に入って来るLulu Doll。
Slow Bearはキッチンでとにかく武器になりそうなものを探す。が、見つかったのは金属製のひしゃくのみ。
角を回って現れたLuluにひしゃくを投げつける。口に命中。折れた歯が飛ぶ。
一旦は倒れたが、口の血をぬぐいSlow Bearを罵りながら立ち上がる。LuluはまだSlow Bearのことを、父の同好のいかれた客の一人だと思っている。
そして父を呼びながら家の中を探し始める。その後を給仕用の大型フォークを手に歩くSlow Bear。
「もっと慎重になってよ、父さん。あたしもDarwinもいつも言ってるでしょう。お金じゃ解決できないこともあるのよ。あたしがユタから聞いた話、信じられないと思うわ。ヤバい話。あたしたちは急いで備えないと…」
そこで後ろにいる男に気付く。腕を数える。一本だけ…。
「あんた…、あんた父を見なかった?」
Slow Bearはフォークを裏庭の方向に振る。「プールを探してみな」

Lulu Dollは、プールに浮かぶ父の死体を呆然と見下ろす。
「あんたが…、ユタから来た片腕のインディアンなのね?」
「元はノースダコタだけどな」
「あんたが…、あんたがみんな殺した…」
「それほどのもんじゃない。多分みんなの半分ぐらいだな」
「あんた、あたしも殺すのね」
「ムム…ウム」

「あたしが、父さんの最初の犠牲者だった」そこでLuluは自分と父親、家族の関係を話し始める。
彼女は14歳の時、父親にレイプされる。誰にも言うことが出来なかった彼女にとって、唯一の救いが年上の義兄Darwinだった。
やがて彼女はDarwinと関係を持つようになる。だがその一方で、Darwinは父親の性癖を利用し始める。
父親に幼い少女達を供給し始め、密かにその様子を隠し撮りする。そしてそれを使い、父親から全てのビジネスの実権を奪い取る。
父親はもはや常に酔っ払い、息子が供給する悪徳に耽るだけの飾りとなっていた。

Darwinが全ての人身売買ビジネスを取り仕切っているのか?と問うSlow Bear。
その中の一人だ、とLuluは言う。かなり大手の。彼は自身のワイン醸造所を通して資金洗浄を行っている。ワインは彼が最も熱意を傾けているものだ。
尚も自分の家族の醜聞について語り続けるLuluだったが、もはやSlow Bearは嫌悪で聞く気も起きない。
Luluは、今起こっていることは彼女たちの家族にとっても頭痛の種となっていた父親を殺しただけなのだから、Darwinと交渉は可能だと説得しようとする。
「俺はあんたの兄貴と話さなきゃならん」Slow Bearは言う。
そしてすぐに電話をかけようと言うLuluに、直接会うということだと告げる。
「そいつは俺が奪われた友達を見つけるのを助けてくれるかもしれん」

Slow Bearは、Luluを屋敷の中を引き摺って行き、見つけたゲームルームにあっった接続コードで縛り上げ、自分はシャワーを浴びる。
ここに来るまでの道のりを思い出しながら、シャワーを浴びるSlow Bear。
だが、呼びかけに応えないLuluを不審に思い、シャワーから外を覗くと、彼女は既に拘束を解き逃げ出していた。
慌てて裸のままシャワーから飛び出しLuluを探すSlow Bear。玄関のドアは既に開いていた。外から聞こえる声?
「お願いよ、話を聞いてよ!あいつは危険なのよ、あたしをレイプしようとしたのよ!あいつはあたしの父さんを殺した!あたしの歯を折ったのよ!なんで聞いてくれないのよ?放してよ!」
そこでLuluを押さえ込んでいたのは、Slow Bearを救った救急車の看護師Toniだった。

匿われていたコンドミニアムに警察の手が及び、何とか逃げ出しひとり次の目的地へ向かったSlow Bearだったが、彼を心配するToniはバス停で待ち伏せ、彼がバスに乗った後追跡し、ここに辿り着いたのだという。
Toniのお陰でLuluを見張る必要から解放され、病み上がりの身体で人を殴り殺し疲弊しきっていたSlow Bearはしばしの休息を取れる。
この屋敷には、様々な悪事の証拠も揃っているのだから、匿名で警察に通報して全てを片付ければいいのではないかと言うToni。
だが、Darwinが探し続けていた友人を見つけ出す手掛かりとなると確信するSlow Bearは、その提案を拒む。
彼女をこれ以上巻き込みたくないと思うSlow Bearだったが、Toniも同行を主張し、彼らはLulu Dollの運転でDarwinのワイン醸造所へと向かう…。

*  *  *

うむむ…、またあらすじ説明がえらく長くなってしまったのだが…。
ここのところを短くすれば、もっと多くの記事が書けるはずだと常々思うんだが、やはり翻訳されて日本語ですぐ読めるというわけではない作品を説明するためには、自分でこのくらいまで書けば続きを読もうと思う人もいると納得できるまでやるしかない。
まあ今回は特に、Smith先生の話が好きだからという部分も多いんだが。それにしても、標的を殴り殺したはいいが疲れて眠ってしまい、やっと起きたら娘がすぐそこまで来ていて、とにかく手近にあった金属製のひしゃくを投げつけて…、なんて展開を どう短く説明すればいいのか?

「ソルトレイクシティでの死闘の後、燃え盛る屋敷から救出されたSlow Bearは、彼の闘いに共感する救急車の看護師Toniに命を救われる。救い出した少女たちの最終的な目的地であったカリフォルニアの富豪の屋敷に向かい、主を撲殺したSlow Bear。 しかし病み上がりで疲弊しきった彼は、その屋敷内で眠りに落ちてしまう。携帯の呼び出し音でやっと目覚めるSlow Bear。だがそれは屋敷の主の娘がそこへと向かっているというメッセージだった。慌てて臨戦態勢を取ろうとするSlow Bear。 その時、正面ドアの鍵を回す音が聞こえてくる…。」
みたいなあらすじではどうにもならんと思うんだが…。

Anthony Neil Smithという作家の特徴の一つとして、クライム・ノワールというところを中心としたフィクションのパターンというものを、幅広く熟知しているというところがあると思う。
その多くのパターンの上に、短編作品などに多く見られる文学といった部分の境界線に位置する資質も加味されて作り出された、独自のヒーローたり得ないヒーロー/主人公たり得ない主人公といったキャラクターを乗せ、その方法論が陥りがちな パロディであるとか、批評的な方向とは全く違う方向で、その知識から引き出された様々なフォーマットを可塑的に自在に変化させながらオリジナルの物語として編み上げて行くところが、Anthony Neil Smithという作家の凄さだと考える。
例えば、今回紹介した『Slowest Bear』の序盤部分だが、ゆるヒーローSlow Bearのドタバタ展開なんだが、最終的には敵方の美女を裏切りの危険性を秘めながら味方に懐柔するというパルプクライム作品の一つのパターンへと着地しているわけだ。
第1作『Slow Bear』では、居留地のはみ出し者である主人公が望まぬ政争の道具として巻き込まれて行くという一つのフォーマットに、全くフィットしないダウナーな主人公Slow Bearが、ことごとく本来あるべきストーリーを裏切る行動を 取り続け、迷走を続けた挙句に、最終的にはエンディングの見せ場というような花火を上げて終わる。
第2作『Slower Bear』では第1作のパターンではあっただろう書かれなかった結末を追加した上で、例えば初期マック・ボランでもあったような、ある目的を持った主人公がある街に現れ激しい闘いの末、その街の組織を壊滅させるというパターンを、 まったくそこにフィットせず、泥と牛糞まみれでダーティーな闘いをするヒーローをぶち込み、最終的には新型コロナによりほとんど身動きもできないという状態にまでなりながらなぞって行く。
そしてこの第3作。前作からの続きという少しイレギュラーな形を取りながら、新キャラクターを加え、ここから悪の本拠地へと乗り込んで行くという定型パターンへと進むのだが。

Anthony Neil Smithの、代表作であるBilly Lafitteシリーズでは、田舎町の小悪党であった主人公Billy Lafitteが、物語が続いて行きそこで生き延びて行くために凶悪な暴力装置へと変貌して行く。その特徴としては主人公Billy Lafitteが その変貌すらも含めて常にその状況に対する犠牲者であることだった。ちょっとまだ第3作までしか読んでない自分の考えではあるんだが。
このSlow Bearシリーズは、Anthony Neil Smith作品の中では、ある意味Billy Lafitteの対極にあるとも言えるだろう。主人公は全く強くなることもなく、戦略的になる事さえせずに自身の目的のため全く無計画に能動的に動き、最終的には生き延びることで 物語を続けて行く。
Billy Lafitteシリーズが、その独自のキャラクターにより独自のストーリーへと沈下して行った(何か少し変な表現のようだが、自分的にはこの言い方がフィットするように思う)のに対し、このSlow Bearシリーズはその定型を崩しながらも、 よりパルプフィクションのパターンに沿った形で書かれていると思う。
だが、この『Slowest Bear』後半では、その定型から外れるようにSlow Bear独自のストーリーへと展開し、結末へと向かう。
ロマンチックで悲劇的な終盤の展開は、そのメロディを背負ったまま凄絶な戦いへと至り、そして緞帳を叩き落とすように幕を閉じる。なんか時間経ってあらすじとか曖昧になって来ても、このエンディングは生涯忘れんだろうなあ。

現在このSlow Bearシリーズはここまでの3作をまとめた合本版『Ghost Dance: The Complete Slow Bear Collection』としてもFahrenheit Pressから出版されている。
だが、Anthony Neil Smithのやや緩めの追っかけぐらいである私の知る限り、彼がこれが三部作であると発言しているのを見た覚えはない。そして、近年ぐらいには、来年ぐらいには第4作書くかもよー、ぐらいのことを度々言っている。 そしてそれはついに決定事項となったようで、つい最近のSabstackで『No Bear』(多分仮題)として、現在執筆中のBilly Lafitte第5作の脱稿後、2027年より取り掛かることが言及された。あ、なんか発表というよりはいつもの調子で、 これからの予定ぐらいでついでっぽく言われただけだけど。今作の衝撃の結末の後、いかにしてSlow Bearが生還するのか?今度こそ出版されたらすぐぐらいに読むからね!
あ、ちょっと書き方が悪かったかと思うんで補足しておくと、これはFahrenheit Pressが勝手に既刊3冊を合本にしちゃったとかいうものではないので。多分はAnthony Neil Smithが第4作の執筆の意図を固めたがゆえに、ここまでのところを合本でまとめておこう ということになったのだろうという方が正しいのだろう。そこから考えると、『No Bear』は単独の続編ではなく、ここから新たな三部作ぐらいに拡がる構想になっているということもあり得るのかもしれない。あと、Smith先生はこれまでこれが 三部作だとは発言してないと先に書いたが、この合本版出てからは三部作と言ってるんだけどね。
実際のところ、この3作については三部作という形にまとまっているので、そのつもりで読む分には全く問題はない。作者Anthony Neil Smithの考えとしては当初から、これは三部作という形でまとめるが、そこでSlow Bearの物語は終わるわけではない、 というものだったのだろうと思う。

*  *  *

さてここで作者Anthony Neil Smithの近況について。
引き続き大学で教鞭をとる傍ら、精力的に執筆をつづけ、大学のお休みシーズンには奥さんと楽しく旅行に行くといった日々を過ごしておられる。
直近では、近くで開催されたState Fair Book Fairに、初めて出店というような形でテーブルを出して参加し、自作を自ら販売して読者と交流し、充実した体験をされたとのこと。
その際には、来たるBilly Lafitte第5作出版に備え、過去作で素晴らしいカバーを描いて来たアーティストSteven Fainとコラボレーションして、「Guilty Crime Story Magazine: Issue 002」に掲載された現在のところ唯一のBilly Lafitte短編作を掲載した 小冊子やしおりを作成し、配布したということ。行きたかったなあ…。
今後の既に決定している出版予定としては、以前別の出版社からの出版が一旦アナウンスされたが、理由不明のまま立ち消えとなってしまっていた『Trooper Down!』が、10月にShotgun Honey Pressから。そして昨年 Uncharted Magazineで開催されたNovel Excerpt Contest(未出版の作品のあらすじコンテスト、というようなものだと思うんだが)で優勝し、執筆に臨んだ『The Prison Nurse』が来年2027年春に Cowboy Jamboree Pressからというところが現時点では発表されている。
また、Billy Lafitteシリーズは、昨年より文庫化という感じで、現在は既刊4作全てがFahrenheit Pocket Noirより出版されているが、第5作についてはどこから出版されるかは未定。自費出版という形になるかもという話もしていた。これについては Steven Fainのカバーによる自身の望む形で出版したいというところなんだと思う。

さてやっとでSlow Bearシリーズ初期三部作(というところになるのかな?)の紹介が終わったわけだが、当方としては次はいよいよBilly Lafitte第4作『Holy Death』!…いや、こんなに遅くなった理由としては、ハードボイルド作品の出版がきわめて 乏しい日本でハードボイルドファンを続けていた長年の間にしみついてしまった貧乏性故なんだが…。もうこれ読んじゃったら、続きいつ読めるか…、みたいなのの積み重ねの中で…。心から愛するBilly Lafitteの第4作『Holy Death』出版後、 次はもうでないかも、という状況が続き、手を出せない状態が続いていたわけで。だが、近年になり、遂にその貧乏性も克服!いやまあ、こんなに今すぐ読まなきゃならない今すぐ読める本が山積みになってりゃ、そうなるって。ここからは なるべく早い機会にまず『Holy Death』を読み、第5作出版の際にはまたなるべく早いうちに読み、Slow Bearシリーズ第4作も出たらすぐ読むものである!今度こそは!
いやまあ、それはそれとしても、結局のところ私、Anthony Neil Smithファンを自称するにはとても足りないほどしかSmith先生作品読めてないんだよな…。Lafitte3作に、単発作品『The Butcher's Prayer』、それでやっとSlow Bearシリーズ初期三部作かよ…。 ともかく『Holy Death』読破後、次が出て来る間にまず読めればと思うのは2015年の『Worm』。最近Smith先生の言及により知ったんだが、実はこの作品でSlow Bearは初登場してるらしい。その後、当初はドイツの出版社から出た2018年の『The Cyclist』。 そして昨年出版の『Murderapolis』。なんとか初期作を置いといても近くのからと思ってるうちに『Trooper Down!』、『The Prison Nurse』も出てきちゃうんだよな。えーい、全部必ず読むぞ!ワシはAnthony Neil Smithの素晴らしい作品を日本に紹介するために これをやってると言ってもそれほど過言じゃないんだからな。Anthony Neil Smith先生、まだまだ続きます!


■Anthony Neil Smith著作リスト

〇Billy Lafitteシリーズ

  1. Yellow Medicine (2008)
  2. Hogdoggin' (2009)
  3. The Baddest Ass (2013)
  4. Holy Death (2016)

〇Mustafa & Ademシリーズ

  1. All The Young Warriors (2011)
  2. Once A Warrior (2014)

〇Castle Danger (The Duluth Files)シリーズ

  1. Castle Danger - Woman on Ice (2017)
  2. Castle Danger - The Mental States (2017)

〇Slow Bearシリーズ

  1. Slow Bear (2020)
  2. Slower Bear (2022)
  3. Slowest Bear (2024)

〇長編・中編

  • Psychosomatic (2005)
  • The Drummer (2006)
  • Choke on Your Lies (2011)
  • Sin-Crazed Psycho Killer! Dive, Dive, Dive! (2013)
  • Worm (2015)
  • The Cyclist (2018)
  • The Butcher's Prayer (2021)
  • Murderapolis (2025)

〇短篇集

  • Skull Full (2024)
  • The Ticks Will Eat You Whole (2006)

・Red Hammond名義

  • XXX Shamus (2017)

・Victor Gischlerと共作

  • To the Devil, My Regards (2011)

・Dead Manシリーズ (with Lee Goldberg and William Rabkin)

  • 16. Colder than Hell (2013)


えーと、ここ数年ぐらいのスパンで私が読んで大きく衝撃を受けたぐらいのところの一冊であるGabino Iglesiasの『The Devil Takes You Home』が、なんか翻訳されてたみたいです。Gabinoそろそろ新刊出ねえのかな、と思ってアマゾンの Gabinoの著者ページに行ってみてたまたま見つけました。今のこの業界の底辺までの劣化・退化具合から、またぞろクソ「日本の見方」で作品方向を勝手に歪めたコピーが付けられたり、巻末の広告ページより役に立たない自称ミステリ評論家による 「本を読んで資料を見て感想を書くだけの簡単なお仕事です」なやっつけ感想文解説が載せられてる可能性が高く、それ見てブチ切れて時間を無駄にしたくないため、アマゾンの商品ページも見てないし、わざわざ本屋まで行って現物を確認する気もなく、 邦題も把握しとらんし、リンクをつける気もないけどね。Gabino Iglesiasで検索すれば見つかるんじゃない?もうこんなところから出て来るものについて宣伝的なことをするのも心底嫌だけど、これほどのものが出たならやっぱり言っとかなきゃならんだろ。 これを読んで理解する努力もしない程度の奴は、「ジム・トンプスンを一位にしたのはマズかったネ」モードでジェフリー・ディーバーぐらいの温いとこ浸かって、一生ミステリ超後進国民として暮らせばいいんじゃないの?オレは買わないけど、 必読だよ、バカヤロー!

ミステリについての理解において、シンプルなトリックや謎解きで作られたクラシック作品に、ミステリの本質や、ミステリ法則のようなものがあると思い込むことは、最も安直で幼稚な方法である。
ミステリはその歴史の中で、様々な試行錯誤の末、その話の作り方自体が大きく変化してきた。クラシックなミステリがいかなるトリックにより謎が作られ、いかにしてその謎が解かれるかという形で、パズルやクイズと同様の方向で考えられ作られているのに対し、 現代のミステリ作品では、最終的に犯罪の真相が明らかとなった時にそこに現れる悲劇であったりというような、よりリアリティのあるドラマ性に重点を置いて話が作られ、場合によってはそのリアリティを損なうようなトリックといったものは軽視、というよりは もはや使われない方向に動いて来ているなどというのは基本中の基本だろう。
クラシックなミステリと、現代のミステリでは、プロットという形で単純化してみれば似たような構造であったとしても、物語の重点となるものが全く違っており、クラシックを基本とするような形で解釈できるものではないのは当たり前のことだ。
「本格ミステリ」というクラシックタイプのミステリを指すミステリ用語が日本で産まれたのは、この国の特殊な事情によるある種の誤解に近いものだ。第二次大戦終戦後、かなり遅れた形で、日本には海外のミステリが、前世紀のクラシックと、その当時の現代である マイク・ハマータイプのハードボイルドミステリなどが同時に流入し、紹介され普及し始めた。その時点でそういったクラシックタイプの謎解きを中心としたミステリを日本で作りたいと考えた層が、そういったクラシック作品を「本格ミステリ」と呼称し始めた というような事情なんだと思う。
日本にはかつて江戸川乱歩を始めとするような、日本という土壌の上に独自の世界観を持って、日本オリジナルのミステリを創り上げた作家たちがいた。次の世代がこれらを継承発展しようと考えるのは至極当然のことだろう。
こういった作品が作られていくことに全く問題はない。だが、ここで起こった一番の問題は、その次の世代がその「本格ミステリ」という呼称もそのまま継承したことだ。もうその時代には世界のミステリ状況ももっと見えてきて、これを「本格ミステリ」 と呼称し続けることにより、もはやそんな作品が作られていない海外のミステリについての理解の間に齟齬が生じるかもしれないぐらいのことを考えるべきだった時代に、それを変えることを考えるどころか、それがミステリの正統で、真髄であるかのような 理屈を振り回し始めたわけだ。
それは今から見た過去の話であり、その時点では誰もそんなことは思いつかなかったというかもしれない。私だって当事者みたいなもんではなかった視点で言ってるわけだしね。だがそこから時間が経ち、その違いはどんどん大きくなってきて、 ミステリに関わる人間ならその齟齬は確実に見えていただろうにもかかわらず、そこを何とかしようと思うものが誰もいなかっただけではなく、実際に起こったのはその逆のことだった。
次世代の「本格ミステリ」作家が台頭し始めた前世紀末頃は、そこから優れた作家も現れジャンルとしても人気を博して行った。それらの作品に感銘を受け「本格ミステリ」の深く傾倒する若い世代もやがては出版社に入社するなどして、業界に入って来る。 最初に言ったクラシック作品を基準にミステリを理解するというような、「本格ミステリ」から提唱されたような稚拙な方法は、ミステリの歴史の中の多くのミステリ作品を読んでその変遷を考える必要もなく、クラシック作品と「本格ミステリ」を読むだけで ミステリについてわかった気になれるまだ若くて読書経験も狭い若い世代が容易に飛びつきそこに陥りやすい理屈だってことも言っとくべきだろう。 そして、それらが日本と海外のミステリの間で以前よりさらに広がった齟齬、解離を見た時そいつらがやったのは、日本を正とし、入ってくる海外作品の方をその基準に合わせるということだったわけだ。それがクソ馬鹿々々しい「日本の見方」ってわけ。
こうして日本の翻訳ミステリというところは、海外のミステリ作品の動向などは全くわからないレベルの惨状に陥ったわけだが、ほら、本来ならその状況を何とかしなきゃならないと考えるべき人間たちが、その業界にはいるだろう?ミステリ評論家ってやつさ。
どんな業界だろうと、海外作品に関わる様なところで、「評論家」を自称している人間なら、自力で独自に海外作品の動向を誰よりも先んじて見て情報を得ようとするもんじゃないの?だが、日本の「ミステリ評論家」様はそんな努力を一切せず、 そんなものは出版社任せで、渡された作品に感想文を付けるだけ、ミステリ専門家の人気者としてイベントに呼ばれてヘラヘラするだけ、「解説」を集めて中途半端な評論集っぽい本を出して小銭を稼ぐだけ、過去の評価の決まった人気作を並べて 馬鹿々々しいブックガイドを作って小銭を稼ぐだけだったわけだ。
こうしてこんな状態の出版社が選んで出版した作品を、こんな評論家が評価する、馬鹿々々しいランキングが業界を動かし、もうどうしようもない現在の状況に至ったというわけだ。翻訳ミステリの売り上げの右肩下がりが止まんないのは、他に様々な 娯楽が増え、読書をする人間が減ったせいでお前らには全く責任がないとか、もっと言えば自分たちは時代の犠牲者だなんて本気で思ってる?そんな奴らはとっとと右肩下がりの坂を転げ落ちて、海中か地中にでも沈没しちまえよ。
このランキングが出来た以前と、現在の状況を比べれば、日本でミステリの専門家面した奴らなんて、結局は一番簡単なクラシック型に当てはめる評価法に戻ってしまうなんてことはもはや自明だろ。こんなもんいくらリブートしてみたって同じ。 もしかして過去にトレヴェニアンの『シブミ』や船戸与一作品が選ばれたのをまだ憶えてて、そんな時代がまた来るかもと思ってこれに執着してる人とかいるの?もう諦めろって。
日本のミステリってものについて、同じジャンル小説であるSFとの比較を時々考える。SFというのは過去にグレッグ・イーガンであるとかコニー・ウィリスであるような先進的で優れた作家が紹介されてきて、それを読んだ意欲的な作品を書く 新しい作家が日本でも多く登場している。例えば、日本SFの黎明期の小松左京や光瀬龍というのがそれぞれに優れた作家であっても、これだけ読んでいたのではこんな新しい作品群は産み出されなかっただろう。日本のミステリってのはそれと真逆で、 まともな海外作品の紹介が止まってしまったために、SFで言えば小松左京らの再生産しかできていないというのが現状なんじゃないのかね。あのさ、SFってものについて勘違いしてるかもしれないけど、英米みたいなところを上っ面だけ見れば、スターウォーズや スタートレックぐらいのもんなんだよ。そこからもっと探って優れた作品を持ってこれる人たちがいたから現在の状況があるわけだ。日本の翻訳ミステリなんてところは、そういったスターウォーズぐらいの上っ面しか出てないベストセラーリストだけ見て これ日本には売れないってことにして来ただけなんだろ。まあそうやって新しいものが供給されて来なかった日本のミステリなんてところは、どんどん魅力がなくなってもうすぐ終わるんだろうけどね。
ここまでひどいことになった日本の翻訳ミステリに望むことは、もうこれ以上被害を広げないうちに消滅してくれの一択ですよ。これが完全になくなった後どうなるか?まあよっぽど大きな書店に行かなきゃ手に入らない程度の規模でも、日本に本当の 現在の世界のミステリを伝えなくてはならないという意志を持った出版社が、地味に少部数のハードカバー本とか出すとか?それさえもなくなるとか?
たださあ、現在のAIの発達みたいなもんで、英語作品ぐらいは即時翻訳されて、日本語として読めるようなもんが出て来るだろうと思うよ。つーかそのくらいもうできるんだろうがそんなもん大して需要もなく儲けにもならんので出てないだけだろ。まあいずれはそういうものも、これで少々小銭拾えるかもな感覚で搭載されてくるんじゃないのかな。
せっかくそうなったとしても、馬鹿な「日本の見方」で海外作品の動向を無視してきた日本じゃ、何読んでいいかわからない。ベストセラーリストなんて見てみても本当に読みたいもんなんて見つからない。まあ日本のベストセラーリストで満足できる程度の人なら それでええんやろけど。そういう時代のために偏った一部の人のためでも、現在のハードボイルドの動きってものを示していると確信する作品を、一つでも多くせっせと紹介して行くものでありますよ、ってこと。

結局のところ、せっかくGabino Iglesiasの『The Devil Takes You Home』のような重要作が翻訳されたとしても、この救いようもない状況の翻訳ミステリなんてところじゃ、杜撰に扱われるだけなんだろみたいな気分やら怒りやらフラストレーションが、この猛暑でよれよれになってる一日潰して、思いっきり不満を並べ立ててやろうということになったんだろう。
この作品をちゃんと扱えということは、別に馬鹿ランキングの上位に持って来いなどという話ではもちろんない。この作品が現代のミステリってところで一つ重要な位置にある作品だぐらいのことは最低限認識しろよ、ってとこだろう。
『The Devil Takes You Home』という作品はノワールというジャンルに於いても、少し異色の作品だ。だが、現在のノワールというジャンルで中心となっているようなテーマの上に、作者自身の視点による社会の歪み、更にその上にラテンアメリカ文学のマジックリアリズムの手法も含んだホラーをミックスし、見たこともない世界にまで昇華させた現代の、そして未来へと繋がりるノワールジャンルの必読作品である。まあ言った傍からこんな国じゃ誰も読まなくってもいいや、ぐらいの気分になってしまうのだが…。
まあこれに加えて、次の次ぐらいに予定しているマッキンティ/ダフィ第8作について、また日本でこのシリーズがなんであんな悲惨な状態で出たのかについて、やっぱ言及しなきゃならんけど、前作みたいになるのは嫌だなあ、みたいな憂鬱も乗っかっているのだろうけど。
結果的にはAnthony Neil Smith先生作品についての末尾のところを汚すようなことになってしまい申し訳なく思ってる。ただまあ、なんかの偶然でSmith先生がこのページを見ることが万が一あったとしても、Smith先生なら俺も時々この手の暴発するよな、と苦笑い混じりで許していただけるんじゃないかと思うんですけど。…いや、変な言い訳かまして申し訳ありませんでした…。
まあ前回最後に予告した通り、今回も最後には次のSmith先生作品を一刻も早く読まなければ!になりました。次回登場作品も、まあ必ずそうなります。
なんかもうここで熱中症とかなったら後がないんじゃないか、ぐらいの危機感で気を付けていて、ややペースダウンな感じなんだが、どなたもこの夏は気を付けてくださいね。あー、翻訳ミステリ関係者はどうでもいいや。


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●Billy Lafitteシリーズ

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●Slow Bearシリーズ

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2025年6月3日火曜日

Anthony Neil Smith / Slower Bear -Slow Bearシリーズ第2作!-

今回はAnthony Neil Smithの『Slower Bear』。英国Fahrenheit 13より2022年に発行されたSlow Bearシリーズの第2作です。
第1作『Slow Bear』については、昨年10月に紹介しており、そこから優先度を上げて早く読んだつもりだったのだが、結局半年以上か…。とにかく作品紹介に注力し、なるべく多くの作品を紹介して行きたいという考えの中で、 自分にとってこだわりが強く、またオレがやんなきゃ誰がSmith先生を日本に伝えるんだいという意志の元、Anthony Neil Smith作品を数多く取り上げて行かねばという思いでまず取り掛かったSlow Bearシリーズなんだが、 やっぱオレなんてこんなものか…、とへこむばかりの日々。
まあへこんでいても何も進まん、とにかく動かなければも痛いほどわかっておる身ゆえ、ごちゃごちゃ言ってないでとにかく頑張らねば、というところの『Slower Bear』です。

さて第2作について紹介する前に、まず前回の紹介で途中で終わってる『Slow Bear』のストーリーの続きについて書かねば。
主人公Micah "Slow Bear" Crossは、居留地の警官だったがある事件で片腕を失い退職、現在はカジノのバーに入り浸り、相談事を持ち掛けてくる人たちの問題を解決してやることで、警察の障害年金の足しとして収入を得て暮らしている。
あまり乗り気ではなかった不倫関係のごたごたに助言したことで、さらに厄介な事件に巻き込まれ、当事者の一人を殺害することで事件をうまく丸め込もうと企む。
だが、それは昔馴染みの現在は署長となっている彼の従兄弟に発覚し、それをネタに現在の居留地のトップ「The Hat」から、居留地を追放されたという形で、かつての政敵であるSantanaに対するスパイとして働くことを強要される。
その形を作るため、散々に殴打された後、カジノのバーの友人である女性Ladyの運転する車で敵地へと送り込まれる。
そもそもはホテルに置いて来るまでがLadyの役割だったのだが、部屋が取れず駐車場で車の中で一泊し、そのままLadyに付き添われSantanaの本拠へと向かったSlow Bearだったが…。
というところまでが、前回紹介したあらすじ。第2作『Slower Bear』につながる続き部分をざっと紹介して行きます。

『Slow Bear』の続き

かつて居留地にいた者なら大抵は知っている警官としての経歴と、居留地を追放されたという現在の立場を持って、Santanaの下で働きたいと申し出るSlow Bear。
だがそこまで…。そもそも潜入捜査などと言うキャパも無く、使命感も持たない彼は、あっさりとSantanaに自身が送られてきた本当の理由を話し、二重スパイとして働きたいと頼み込む。
そこでSlow Bearに向かい、自身が裏で行っている様々なダーティーなビジネスを説明し始めるSantana。その話にも嫌気がさし、話をなかったことにして出て行くSlow Bear。面白がったSantanaに500ドルの手間賃を渡されて。

Ladyと共にSantanaの会社を出て、朝食を食べながら、こうなったら居留地に戻り刑務所に送られるかと考えるSlow Bear。
気晴らしに二人で昼間から賑わっている類いの酒場に行き、Santanaから渡された金で遊んでいるうちに夜になる。
今更ホテルに部屋を取る気にもなれず、もう一晩同じ駐車場で車中泊し、翌朝帰ることにする二人。
だがその車を正体不明の一団が襲う。
Ladyは車から引き摺り出され、別の車で攫われ、Slow Bearは複数の男たちにより叩きのめされる。
昼間遊んだバーで目を付けられたと考えたSlow Bearは単身そこに戻り、店にいた人間を問い詰めるが、またしても多勢に無勢で叩きだされる。

Slow Bearは夜が明けるのを待ち、再びSantanaの会社へ行き、事情を話し彼の許で働く代わりにLady捜索のために銃を貸してくれと頼み込む。
話を聞いたSantanaは、Slow Bearと腹心の用心棒と共に件のバーに赴き、店の者たちを脅しつけ、誘拐の首魁と思われる人物の行方を吐かせる。
だが、向かったその男の住所から件の人物は既に姿を消しており、手掛かりは途絶える。
Santanaは自身のルートから捜索を続けるので、しばらくは自分の仕事をして待てと、Slow Bearに告げる。

SantanaからSlow Bearに与えられた仕事は、Santanaに借りがあるがそれを返さない人物を脅しつけて、返済なり補償を迫るというもの。
言われるままにその借りの内容もわからぬまま、指示された人物を脅して回るSlow Bear。だが、その過程で彼が探している誘拐犯が実はSantanaの部下だという情報を聞きつける。
Santanaが裏の経営者であり、誘拐の首魁の男が働いているという秘密売春クラブに乗り込むSlow Bear。
だがそこにLadyの姿はなく、待ち構えていたSantanaにより嘲笑的に真実が語られる。最初に彼の会社に行った時点で、Ladyは「商品」として目を付けられており、彼が関わる人身売買組織により、今頃はアルバカーキあたりだろう。
もはや利用価値も無くなったSlow Bearはその場で始末しかけられるが、何とか生き延び脱出する。

なんとか居留地まで戻り、住んでいた丘に帰るSlow Bear。だが、彼のトレーラーは既に撤去されていた。
警察の押収車両保管場に押し入り、トレーラーを取り戻し、元の丘に置いてその上で星を眺めるSlow Bear。それまでそう暮らしてきたように。
だが、夜明けとともに丘を登って来た警官隊に直ちに取り囲まれる。
用意してあったガソリンを撒き散らし、トレーラー炎上させるSlow Bear。すべてが燃え尽きた跡からは彼の死体は見つからなかった。
警官隊が全て去った後、近くに放置してあった車の下に掘ってあった隠れ場所から姿を現すSlow Bear。
彼の失敗のため悲惨な状況に送り込んでしまったLadyを救い出すことを心に誓い、Slow Bearは出発する。


というところまでが前作『Slow Bear』のあらすじ。たいした正義漢も持たず、ぶっ壊れた世界に自分なりに行き当たりばったりのつじつまを合わせて来た元警官のルーザーSlow Bear。だが自分の失敗により友人Ladyが犯罪組織の手に落ちたことが許せず、 行方を探して奔走するが、圧倒的な力の前にボロボロに打ち砕かれ逃げ帰る。そしてここから、Lady救出のための反撃を開始するのが、続編第2作『Slower Bear』である。


Slower Bear


Micah "Slow Bear" Crossは、そのGerardoという名のクズ野郎の顎にブーツの踵をねじ込んだ。Slow Bearはネブラスカ中を一週間探し回り、この男を見つけた。奴はSlow Bearが知る限り、最も白いGerardoで、姓はProchenko。そいうことだ。 Slow Bearは、一発屋にちなんで名づけられたウクライナ人の性的人身売買業者を、牧牛地帯で一週間かけて追い続けて来たわけだ。
美しく豊かな地で。
冷たい風 -3月の平地を吹く- そしてこの牧草地の真ん中の冷たい泥、彼らの周囲の牛たちは無関心。ひどい闘いだった。双方とも泥と、お互いの血と、牛の糞にまみれて。だが今、Gerardoは強くねじ込まれ続けるブーツの踵に呻き声をあげる。 Slow Bearは一息つき、唯一の腕を曲げる。それがそんなに痛くなかったら、クソ野郎の鼻を潰してKOを決められるところだが。

奴の頭を踏み潰すか?もちろん。やらない理由があるか?
Slow Bearは踵を上げ、狙いをすまし、そして…
そのまま一分動きを止める。

Slow BearはGerardoを、痛めつけた別のクズ野郎からの情報で、小さなネブラスカの町で追って来た。今後ファックにトラブルを抱えることになるだろう別のクズ野郎からの別の情報を得た後に。
ノースダコタ、ウィリストンから始まる情報の長い連なりが、彼をこんな遠くまで連れて来た。
人身売買組織に攫われたKylieという名の友人 -彼はLadyと呼んでいた- を救うために。

Slow Bearはその片腕にスタンガンを持って言う。
「これがどのくらい効くかもう分ってるよな。俺は次に誰に会いに行けばいいんだ?誰がお前のボスなのか言え。お前をひどく痛めつけるが、殺しはしない。それで俺は行くから」
「勘弁してくれよ」GerardoはSlow Bearの踵の下でもがきながら言う。「金が欲しいのか?女か?どんな女でも連れて来れるぞ?それとも銃か?」
「馬鹿か」Slow Bearはため息をつく。「こんな糞だらけの土地までお前を追ってきて、その目的が無料景品で大喜びするわけがあるのか?」
「俺には言えねえ…」
「いや、言うさ。結局のところお前ら全員な。お前は彼だか彼女だか誰だかに、俺が次にそっちに向かうことも言えるぞ。俺は構わん。前の二人にも何の助けにもならなかった。俺は前の奴がお前に話したのもわかってる。それでお前は町からあんなに早く 逃げ出したんだろ。それで、お前が今どうなったか見てみろよ」

Gerardoは結局白状する。
Slow Bearは彼に礼を言い、そしてGerardoの顎が砕けるほど強く踏みつける。あまりの痛みに牛たちが怯えるほどの喚き声をあげる彼をそこに残して行く。

Slow Bearは結構遠くなってしまった、車を乗り捨てた場所に歩いて戻る。
牛の糞まみれで、窓も無くなっている元はLadyのコンパクトカーに乗って戻るのは憂鬱だと思っていたところで、Gerardoの車が目に入る。
黒のキャデラックエスカレード、着色ガラス。明らかに自分の乗って来たものより乗り心地は良さそうだが、キーはGerardoが持ったままだろう。
まだ喚き声は聞こえるが、姿は見えなくなっているところまで戻る気も起らず、諦めて背を向けた時、着色ガラスで中の見えない窓が、内側から叩かれる。
なんとかドアを開けてみると、そこにいたのは二人の少女。メキシコ系らしい年長の方がやっとティーンエイジャーに届くぐらい。もう一人はネイティブアメリカンの血筋か。明らかにGerardoの人身売買の「商品」だ。
全身牛糞まみれで片腕のSlow Bearを警戒し、必死に幼い方の子を守る年長の少女。何とか安全なところまで彼と同行するように説得し、キーを手に入れるべくGerardoまでの長い道を戻り始めたSlow Bear。
10フィートも進まないところで、後ろから少女が叫ぶ。「多分私、妊娠してる」
Slow Bearは立ち止まり、目を閉じる。そして再び目を開くと進み続けた。

そこから少し時間は戻り、Slow Bearのこれまでの道のりが簡単に語られる。
自身の死を偽装した後、Slow Bearはウィリストンに住む、警官時代に逮捕したハッカーOren Hを頼って行く。少々引っ叩いた後、ともに人身売買組織を叩くことを承諾させ、それからは彼らの資金をネットワーク上で盗み、行動資金を作り、 偽の運転免許証、身分証、クレジットカードなどを手に入れる。カードについてはテキサスのステーキ屋でキャンセルされ、警察到着数分前に逃げ出す羽目になったが…。
その数週後、殺されかけたSantanaの秘密クラブにお礼参りにも行ったが、そこについては詳しくは書かれていない。とにかく去って行くSlow Bearのバックミラーに、立ち昇る黒煙が映る。

人身売買組織追跡の道で、Slow Bearはあちこちのカジノのバーで女をナンパし、一夜の宿を得て来た。
前夜、Slow Bearが出会ったのは60歳の赤毛の女性Abeline。3回結婚し、3回離婚。2年前まで一緒に暮らしていた男は、各地で閉鎖事業に携わっていると自称していたが、カナダへ旅立った後戻ってこなかった。子供もいるが現在は独立し、独り暮らし。
そしてその後、彼女との熱いラブシーンなども描かれる。

そしてそれから24時間も経たないうちに、Slow Bearは再び彼女の家のドアを叩く。全身牛の糞まみれで。二人の見たこともない子供を連れて。
あまりの事態にまずは怒り狂うAbelineだったが、とにかく子供については家に入れてくれ、そしてSlow Bearは頼み込んでシャワーを借りる。
半時間かけて牛の糞を洗い落とし、何とか人間に戻ったSlow Bearは、事の経緯を説明する。自分はすぐに去るが、何とか子供たちをしばらく預かり、まともな暮らしができるように手配してもらえないだろうか。
そんなことはできない、自分を巻き込むなと怒るAbeline。そして子供たちは、そもそもが警察、児童保護施設、里親というシステムの中から売られ、この境遇に陥ったことから、そこに戻ることを拒み、Slow Bearについて行くと主張する。

家の前庭でそういう問答を繰り返し、Slow Bearが困り果てていたところで、前の通りを一台の車が不自然にゆっくりと通りかかるのを見る。ダッジ チャージャー、ノースダコタのプレート。
助手席の白人、ヤギ髭、トラックキャップにサングラスの男が家の前のSlow BearとAbelineを眺める。
なぜだ?なぜこんなにすぐに見つかった?
そしてエスカレードを見たSlow Bearは、車にGPSが仕掛けられていた可能性に思い至る。
車はゆっくり通り過ぎ、助手席の男は顎を上げ、Slow Bearに向かって二本の指を振って去って行く。

AbelineはSlow Bearの肩を掴んで言う。「あれは誰なの?なんだったの?」
「家に入って荷物をまとめてくれ、数日分の服とか。マジな話だ。それであんたの車を使わせてもらう」
Abelineは唖然として言う。「あり得ない。こんなことが起こるなんて。こんなことになるなら…。何も考えられない」
「時間がないんだ。謝る。千回謝る。だが、畜生、行かなきゃならないんだ」

こうして、Slow Bearは二人の少女のみならず、一夜の恩のある女性Abelineをも巻き込む形で逃亡を始める。
だが、逃げるだけでは何も始まらない。Slow BearはGerardoから聞きだした次の地点へ、駐車場に彼女たちが待つ車を残し、単身乗り込んで行く。
完全無策で…。
なんだかんだで銃が連射されまくる事態となり、その場にいたほとんどの人間が死ぬ結果となり、何とか生き残ったSlow Bearは次の地点、カリフォルニアを訊きだす。あ、ここは省略しただけでちゃんと見ごたえのある、ややタガの外れたバトルシーンが 読めますので。
そして一息つくべく、ホテルに部屋を取ったSlow Bear達。だが、そこにホテルをしらみつぶしに当たり居場所を突き止めた、組織の殺し屋たちが深夜侵入して来る…。


さて、ここでこの第2作で見えて来た、このシリーズの正体らしきものについて。
Anthony Neil Smithは、このSlow Bearシリーズを、彼なりの70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物として書いたのではないか、というのが私の見るところ。
まず最初に紹介した第1作『Slow Bear』から、この第2作『Slower Bear』へというところで考えると、第1作の結末から続く第2作で、大抵の人が考え、期待するのは1作目で散々にやられたSantanaの組織への反撃、更にその土地を舞台とした彼を窮地へと追い込んだ 居留地上層部との対決といったところだろう。だがこの第2作では冒頭からまったく別の土地で人身売買組織の一員を追い詰め戦っているところから始まる。そしてその後、かなり雑な形で第1作の事件のその後の顛末が書かれる。
この奇妙とも見える展開は、その70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物というパターンに当てはめてみると、まあしっくりくるとは言い難いが、理解できる。
まず第1作で、人身売買組織に友人であるLadyを攫われたSlow Bear。そして第2作からは彼女を救い出すべく単身で人身売買組織との戦いに挑むヒーローSlow Bearのシリーズが本格的に始まって行くのだ。そして第2作では、そこから読んだ人のために、 前作の(実際にはそっちには書かれていない)結末に至るあらすじが簡単に紹介され、去って行くSlow Bearの背後に黒煙が立ち昇る。そしてシリーズ故にそれほど説明する必要もない(のが通例の)彼のバックアップについても簡単に紹介される。
更に、この手のパルプヒーロー物と言えば欠かせないのが、1作ごとに交代するヒロイン!それがこの作品の60歳のAbeline。そういう作品の通例として、もちろん濃厚なセックスシーンも描かれる。
なんかその辺の時代の作品のパターンである、エロティックなポーズで立つヒロイン(60歳)の後ろに立つ全身牛糞まみれの片腕のヒーロー、みたいなすさまじいカバー画さえ頭に浮かぶよ。
スペース的に省略してしまったが、Slow Bearが単身乗り込んだところで出てくるいかにもパルプヒーロー物的な悪役中ボスや、全くそのパターンを踏襲しないパルプヒーロー的バトルもかなり見どころあり。
そしてその後もそういったジャンルのパターン通り、次から次へと、ピンチとバトルが続いて行く。

というところがこの第2作を読んで思った感想だが、これはまだ第2作。実は作者の真意は続く第3作を読んだとき明らかになるのかもしれない、というのはかつてドゥエイン・スウィアジンスキー、Charlie Hardieトリロジーで経験しているので、 とりあえずは第2作まで読んだところで見えて来た(仮)ぐらいの考えというところで。なんかさ、そのトリロジー読んだときみたいに、思い付きで言ったこっちが馬鹿に見えるくらいに驚かしてくんないかな、と期待しております。

そして更に、この作品にはもうひとネタあり。
中盤、省略してしまったあたりから、この作品内世界にも新型コロナのパンデミックが始まる。
自分の方が大変であんまりニュースとかチェックしてなかったのだろうSlow Bearが、ある店に入って行くと従業員が全員マスクをしている。現在でも当たり前ぐらいの風景になっているが、それ以前の常識から見て事情も知らずに突然そんなことに なっていれば、かなり異常な風景。従業員側もやや曖昧な感じで、なんか大変な流行り病みたいので、上司から命令されてるとか、いかにもホントに初期あたりの風景かと思う。その他にも、あんなのテレビとかが大袈裟に言ってるだけで、 大したもんじゃない、中国の陰謀らしいぞとか、そんなものは本当はないと主張する悪役とか。
そして、それらは単に時代を表す背景にとどまらず、なんと主人公Slow Bear本人が感染し発症してしまう(ややネタバレか?)。そして死線を彷徨いながら、追ってくる悪人たちとも戦いを繰り広げるというすさまじい展開となって行く。
ノワールジャンル内では、あの戸梶圭太の傑作『コロナ日本の内戦』と並ぶ、その時代状況を鋭く描いた作品として記憶されるべきであろう。


というあたりで、ここからは作者Anthony Neil Smith先生の近況。
…なんだが、今年初めぐらいかなりワクワクさせてくれる展開があったのだが、もたもたしているうちに過去の話となってしまった…。ごめん。
近年、なんだかんだで絶版となっていた旧作の多くを自費出版で再版していたSmith先生だったが、昨年末ごろから今後の自作の発表を自費出版という方向に考え、その拠点としてSubstackを活用するという動きを起こした。
新作長編『A Bone for the Underdog』の連載、そしてなんと夏ごろからはもう続きは書かれないのではと思われていたBilly Lafitteシリーズの第5作の執筆に取り掛かる旨を発表!その他に、複数のアンソロジー誌に発表していた Mapacheシリーズの新作短編や、多くの過去の短編作品の掲載。そして仲の良い作家との対談インタビューのポッドキャスト(あのRay Banksとの対談もあった)、影響を受けた作家についてのエッセイなど、非常に精力的に多くの ポストが上げられた。
…のだが、2月末に思ったほどの成果が得られなかったということで中断され、それらすべてのコンテンツは現在は見ることができなくなっている。まあ、実際のところSmith先生、大学の仕事もあるのにこんなに頑張って大丈夫なのだろうか? と思うぐらいの感じだったのだが…。結局、自費出版で個人でやることでどこまでいけるだろうか、という実験的な試みだったということ。上記のようにかなり魅力的なコンテンツも多かったのだが、まあさすがに月5ドルであそこまで 頑張ってくださいとは言えないよなと思う。
こちらとしては、せめて一番頑張っているころにちゃんと紹介できなかったという、自身の無能っぷりを反省するばかりであるよ。
そもそもSNS嫌いのSmith先生に、また一つ追加されてしまったということになってしまったのだが、とりあえずアカウントは残っていて、時折短いコメントぐらいは見られるというのが現在の状況。一ファンとしては、何の情報も無いのは 辛いので、時々近況ぐらい書いてもらえればそれでいいっすから、というところです。

改めて、その辺からの新刊情報などについてなのだが、まず昨年12月にAlien Buddha Pressから短篇集『SKULL FULL』を出版。Alien Buddha Pressというのはちょっと説明しにくいんだが、詩というあたりも含んだ、まあ境界文学という感じのアンソロジー Alien Buddha Zinなどを出版しているところ。こちらはプリント版のみだが、アマゾンのプリント・オン・デマンドで注文から数日ぐらいで入手できます。
そして今年3月にはCowboy Jamboree Pressから、同じく短篇集『THE TICKS WILL EAT YOU WHOLE』。Cowboy Jamboreeについては時々書いているはずだが、Sheldon Lee Compton作品などを出版している現代のアウトロー文学だったり、上のAlien Buddha Pressと 同傾向の文学出版をしているところ。なんかどっちもいまいち中途半端な説明で申し訳ないんだが…。
両短篇集共にアンソロジー、ウェブジンというようなところに発表した作品が中心で、文学寄りと表現する方がわかりやすい作品中心かと思う。
あと、短篇集で思い出したんだが、結構前の話で書き忘れてたんだが、Anthony Neil SmithはLisa Unger/Steph Cha編集のアンソロジー『The Best American Mystery and Suspense 2023』にも短編作品が選ばれている。他にはWilliam BoyleやS. A. Cosbyという ような名前も並び、日本の「ミステリファン」と同レベルらしい時代遅れらしきミステリー読者からは酷評されてる感じのアンソロジーだね。
そして今年4月には長編作品『Murderapolis』がUrban Pigs Pressから。Urban Pigs Pressは、Punk Noir Pressのエディターもやっていた作家James Jenkinsらによって立ち上げられたパブリッシャー。こちらはエンタテインメント傾向の作品で、 なんかしばらく前に書いたけどあっちこっちで断られてお蔵になっていた作品らしい。
その他、Substackの方で発表されていた情報の方だが、連載されていて中断になった『A Bone for the Underdog』だが、Substackでの活動を中止するお知らせの中で、なんか完成させる気がなくなったとのコメントがあり、どうなるのか未定。 これはこれで続きが気になったたんだが…。
そしてBilly Lafitte第5作の方だが、これについては特に言及はなかったのだが、今回の関係でアマゾンKindleのSmith作品を調べていたところ、自費出版で出ていたBilly Lafitteシリーズがすべて消えている?これは何処かの出版社から 第5作が出版されるという事情からのシリーズ全作版権移動ということではないのかと思われるのだが?とにかくまた未訳おススメのBilly Lafitteのところがまたしても対象商品なしとなってしまったが、何らかの進展があった際には、 なるべく早く対処致しますので…。

というところで、現在の出版状況で苦戦を続けながら創作活動を続けるSmith先生の近況というあたりで結構長くなってしまった感じではあるが、個人的には最もぐらいにこだわりのある作家として、別に需要があろうがなかろうが知ったことか というスタンスでこれからもなるべく多くSmith作品・情報をゴリ押しして行くので。
続く第3作『Slowest Bear』もなるべく早く!Smith作品まだ山ほどあるんだからさあ。


70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物とか言ってみたけど、実はもう今時そんなこと言っても誰もわからないんじゃないかと思うんで、最後に少し簡単に解説しておきます。なんかさあ、よく考えてみると、日本でオレ以外にそんな話してる奴、 ざっと考えられるぐらいの範囲で過去に遡っても見たこともないんだよな。
実際のところ、正式な呼ばれ方なども曖昧で、70~80年代のメンズ・アクション・アドベンチャーみたいな言われ方が割と一般的なのかと思うが、とにかくどういうものかは明確に分かっている。
これは1969年から開始されたドン・ペンドルトンによるマック・ボランを主人公としたThe Executioner(死刑執行人)シリーズが人気を博したことから始まる、成人男性向けの単独主人公によるペーパーバックオリジナルによるアクション、バイオレンスを主軸とした シリーズ作品のブームにより出版された数多くの作品を指すもの。
それ以前の1950~60年代はペーパーバックの黄金時代と呼ばれ、クライム、アクションアドベンチャー、SF、ホラーなどエンターテインメントの多くのジャンルで多数のペーパーバックオリジナル作品が出版されていた。マック・ボランが登場する70年代初頭 辺りはその辺にも陰りが出てた頃なんじゃないかと思う。ちょっとこの辺良く調べてなくてごめん。
そちらの黄金時代にも、キルマスター/ニック・カーターに代表されるようなシリーズ物も多く在り、実際にはこの辺がパルプ・ヒーローと呼ばれ、70~80年代のものはメンズ・アクション・アドベンチャーと言われることが多いんだが、なんかその辺について かなり雑な情報しかない日本的には、例えばマーク・グリーニー/グレイマンに代表されるような現代のメンズ・アクション・アドベンチャーと混乱されるケースが多そうなので、とにかくここでは70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物的な 言い方をしてみてる。実際にはそれが現代のものの母体というものであるのだけどね。
60年代あたりだと単独作家による、リチャード・スターク/パーカーシリーズや、ドナルド・ハミルトン/マット・ヘルム 部隊シリーズみたいなのもあるのだけど、70年代からのマック・ボランはそれともちょっと違うもの。

The Executionerシリーズは、主人公マック・ボランが家族全員が死亡したとの知らせを受け、ベトナムから一時帰還し、その犯人がマフィアであることを知り、軍には戻らず復讐のため全米のマフィアを殲滅するための戦いに乗り出すという形で始まる。
版元ピナクル社は、このシリーズの人気を受け、同種のシリーズ物を大量に出版し、こうしてこのブームが拡大して行く。その中でボランに次ぐぐらいに有名なのが、リチャード・サピア&ウォーレン・マーフィー/レモ・ウィリアムズ The Destroyerシリーズ。 私が大変こだわっていて、延々中断中のやつ…。
この辺のシリーズの大きな特徴は、過激なバイオレンスと、お約束的な濃厚なセックス描写。やっぱりこの辺が黄金時代のシリーズ物と明確に区別されるところだろう。そして100巻以上に及ぶシリーズの多くは、ゴーストライターの手によって書かれる。 まあ、この辺の事情を見れば、結局粗悪な作品が大量に出回るような結果も誰にでもわかるだろうが、そういうわけでそういうブームがあったという事実は誰でも知ってるぐらいのところでも、現在はその詳しい実態、全体像などは ほとんどわからないぐらいの状態だろう。
この中で書かれたもので、ハードボイルド方面で知られているところと言えば、まず50年代からのエド・ヌーンシリーズで知られるマイクル・アヴァロンがスチュアート・ジェイスン名義で書いた(最近まで知らなかった…)The Butcherシリーズ。なんか 調べたら35巻も出てた。
現在はお馴染みBrush Booksから復刻されているラルフ・デニス/ジム・ハードマンシリーズや、Jack Lynch/Peter Braggシリーズ。この辺については、こういうブームがあった出版状況だったせいでこういう形で出たということで、上記のような 偏った特徴があるものではなく、もっと普通にハードボイルド作品として読まれるべき、多くのゴミの中に隠れた宝的なものなのだけど。こういう話を聞くから、日本のゲス本ジャンルの中にも隠れた宝があるのでは、と思い込み散々ひどいものを 読まされるような経験をするのだが…。
Brash Booksからは他にも、先日Paperback Warrior師匠のところで知ったのだけど、Jon MessmannによるThe Revengerシリーズ全6巻も復刻されてた。やっぱこういうのよく知ってる専門家が発掘してくれるの待つしかないね…。

あと、ついでにぐらいにはなるのだけど、この関連で繰り返し特筆しておきたいのが、かのジョニー・ショーが2010年代前半に編集したアンソロジーシリーズ『Blood & Tacos』!この時期山のように出版され、今となってはほとんどが正体不明ぐらいの感じになって、 納屋やガレージの隅に放り出されているこれらのペーパーバックの山。その中から自分だけが知っている名作を「発見」しようというショーの呼びかけにより、インディー・クライムのオールスター級の面々が集まり、自分が「発見」した 「知られざる名作」を持ち寄った伝説級のアンソロジー。まだ持ってない人がいるなら必ず入手しとくべし!

この辺のジャンルに関しては、ハードボイルドというところから派生したものではあるけど、なんだか2020年まで500巻近くまで続いたらしいマック・ボランが、途中からテロとの戦いにシフトしたりというような方向で、ハードボイルドからは 離れて、アクション・アドベンチャーという方向が中心になって行ったのだろうと思う。そして途中、トム・クランシーとかを経て、ミリタリー方向が強いものとなり、そして出てきたのがマーク・グリーニー/グレイマンというところなのだろう。
グレイマンに至る道やら、その後ぐらいについてはできればもっと調べてみたいとは常々思ってはいるのだけど。まあ、その前にデストロイヤー何とかしろよだが…。
なんか雑な説明ではあるけど、いくらかわかったかニャ?詳しくはもっとちゃんと説明してくれる専門家に聞こう、とか言ってみても日本にもうそんなやついねえよだよなあ…。


中編ぐらいの作品なので、前作のあらすじあっても割と短く書けるんじゃないかと思ってたんだが、思いのほか長くなってしまった。Anthony Neil Smithでは仕方ないか。
Substackと言えば、ぐらいで書こうと思ってたけど、なんか流れに入れられなくて最後になってしまったけど、つい先日、エイドリアン・マッキンティのSubstackにて、ダフィシリーズの新作短編が発表されました。「Jayne's Blue Wish」というタイトルで こちらもトム・ウェイツの曲から。内容的には現時点の最新作『Hang on St. Christopher』と同じ時点ではないかと思われる。多分現在オーディオ版のみの中編『God’s Away on Business: Sean Duffy: Year 1』のプリント版が出るとき、 収録されるとかじゃないのかな?えーと、『Hang on St. Christopher』についてついさっき見たところ、ペーパーバック版のページができていて、やったと思ったのですが、発売予定は来年の3月3日ひな祭り…。まだ予約受付てねーし。 いい加減にしろよ、Blackstone、とひとしきりむかつく羽目になってしまいました。
とりあえず、マッキンティ『The Island』については、近日書く予定です。ちゃんと近日になるように頑張らねば。頑張ることに意味があんのかなあという気持ちばかりが持ち上がる日々だけど、何もやんなきゃただのゼロだし、まあそれよりましか、ぐらいのやや斜め前方下方向ぐらいの見ようによっては前向き的なモチベーションで、何とか頑張っている感じで行こうかと。


■Anthony Neil Smith著作リスト

〇Billy Lafitteシリーズ

  1. Yellow Medicine (2008)
  2. Hogdoggin' (2009)
  3. The Baddest Ass (2013)
  4. Holy Death (2016)

〇Mustafa & Ademシリーズ

  1. All The Young Warriors (2011)
  2. Once A Warrior (2014)

〇Castle Danger (The Duluth Files)シリーズ

  1. Castle Danger - Woman on Ice (2017)
  2. Castle Danger - The Mental States (2017)

〇Slow Bearシリーズ

  1. Slow Bear (2020)
  2. Slower Bear (2022)
  3. Slowest Bear (2024)

〇長編・中編

  • Psychosomatic (2005)
  • The Drummer (2006)
  • Choke on Your Lies (2011)
  • Sin-Crazed Psycho Killer! Dive, Dive, Dive! (2013)
  • Worm (2015)
  • The Cyclist (2018)
  • The Butcher's Prayer (2021)
  • Murderapolis (2025)

〇短篇集

  • Skull Full (2024)
  • The Ticks Will Eat You Whole (2025)

・Red Hammond名義

  • XXX Shamus (2017)

・Victor Gischlerと共作

  • To the Devil, My Regards (2011)

・Dead Manシリーズ (with Lee Goldberg and William Rabkin)

  • 16. Colder than Hell (2013)


●関連記事

Yellow Medicine -Billy Lafitteシリーズ第1作!-

Hogdoggin' -Billy Lafitteシリーズ第2作!!!-

The Baddest Ass -Billy Lafitteシリーズ第3作!!!-

Anthony Neil Smith / Slow Bear -Slow Bearシリーズ第1作!-


■Anthony Neil Smith
●Mustafa & Ademシリーズ

●Slow Bearシリーズ

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2024年10月16日水曜日

Anthony Neil Smith / Slow Bear -Slow Bearシリーズ第1作!-

今回はAnthony Neil Smithの『Slow Bear』。英国Fahrenheit 13より2020年に発行された作品です。

Anthony Neil Smithについては、これを始めた初期ぐらいからの私のイチ押し作家であり、これまでも度々というか、しつこいぐらいに事ある度に名前を出してきたのだが、実際に記事に書いたのは、代表作であるBilly Lafitteシリーズの中の3作までのみ。
実はもう少しぐらいは読んでいるのだけど、なにかあまり書けないようなタイミングだったりして、そのままになっていたり。この『Slow Bear』についても、割と出てすぐぐらいに読んだはずなのだけど、まあそういうタイミングだったり、明らかに 続編がある形で終わっていて、続きが出てからでいいかと後回しにしていたりという感じで、そのままになっていた。
だが、そうこうしているうちに、2022年には第2作『Slower Bear』が出て、ついに今年8月には第3作『Slowest Bear』まで出てしまった。
とりあえず、まだ未読だった『Slower Bear』をそろそろ読んで、そこから始めようかと、一旦は思ったのだけど、それでは同様に考えていて、結局第1作のストーリーを延々と書くことになってしまったJoe Clifford、Jay Porterシリーズの二の舞に なってしまうと気付き、ここで一旦ちゃんとやっておこうということとなった次第。
とにかくまずこれやって、早く先に進むぞ、という感じで『Slow Bear』、始まります。


【Slow Bear】


Micah "Slow Bear" Crossがいつものように半分残ったビールを前にカジノのバーにもたれかかっていると、隣のスツールにJimという男が座る。
JimはSlow Bearの方に40ドル以上になる2枚のチップを滑らせ、言う。「女房が浮気してるらしい。あんた見つけられるか?」
Slow Bearは右手で、何にしろ彼にとっては唯一の手なのだが、チップを押し戻して言う。
「なあ、Jim。俺はあんたの女房が浮気してるのは知ってる。みんなそれは知ってるんだよ」そして続けて言う。
「相手は肌色の薄いピットマネージャーだ。Valdって名前だったと思う」
「あの尻軽女。あの売女め」バーに俯きながら言うJim。
「さらに言えばだな。あんたは既にそれを知ってる。あんたはそれを誰かにはっきりさせてもらいたかっただけなんだろ。その新しい銃、Paulから買ったのか?言っとくがな、そいつを殺しても何にもならんぞ。お前は刑務所に行って、女房は別の男と やるだけだ」
Slow Bearはチップを一枚だけ引き寄せて言う。この一枚だけもらっとくよ。

Jimは残ったチップを取り、サンキューともファックユーとも言わずに立ち去る。これがSlow Bearに対するここらの人間の扱い方だ。 サンキューも、ファックユーも決してない。
いくらかのチップを渡して、問題を解決してもらうだけだ。
Slow Bearは、Jimから受け取ったチップをカジノで使い果たし、Valdに何が起きてるか話し、注意するように声を掛けて、カジノを去る。

Slow Bearは、居留地の警官だった。実際のところ優れた警官じゃなかった。むしろ悪い警官であることに長けてたというぐらいのものだ。
だが、一度だけ彼は優れた警官になろうとした。その結果、戦争でSlow Bearがよく知らない何かがあったらしい元軍人に撃たれて、左腕を失った。一年ほど前のことだ。
その後彼は、様々な手当てを支給され、一日中カジノをうろついて暮らせるようになっている。時には人々の問題を「解決」してやりながら。
夜になれば、周りにあまり人が暮らしていない辺鄙な場所にある自宅のトレーラーハウスに帰り、外に座って星を眺めるか、家の中でテレビで野球かシネマックスのソフトポルノを観て過ごしていた。

その夜、Slow Bearが家の外で星を眺めていると、彼の家へ向かって来る車があった。乗っていたのは昼間注意するように話しておいたValdだった。
大変なことになった、助けてくれ、と言うValdだったが、ほとんど錯乱状態で全く要領を得ない。
恐らくは襲ってきたJimを殺してしまったというところだろうと思いながら、Valdに運転させて現場へと向かう。
だが現場についてみると、事態はそれよりもはるかに厄介になっていた。

それはJimの家。居間のリクライニングチェアにズボンとパンツを降ろし座っていたJimは、椅子の後ろから頭を撃ち抜かれ死亡している。
その前でしゃがみ込んでいた妻も、数発の銃弾を撃ち込まれ死亡している。
詳しい状況は分からないが、要するにJimにその妻がフェラチオしているのを見た、愛人であるValdが嫉妬のあまり錯乱し、二人を射殺してしまったというところだろう。
これじゃあ正当防衛を偽装することもできない。

Valdを居間に残し、家探しをしたSlow Bearは、寝室のマットレスの下にJimの拳銃を見つける。
居間に戻ると、Valdに彼自身の拳銃を持たせ、死んだJimの正面に立つように指示する。
そして隠し持ってきたJimの銃を素早く抜き、Valdの肩を撃つ。
混乱しながら撃ち返してきたValdの弾は見当違いの方向へと飛んで行く。
不自然にならないよう次の一発は外し、それからValdの胸へ銃弾を撃ち込む。
そして銃の指紋を拭き、Jimの死体に持たせる。
これで三角関係のもつれにより殺し合った現場の完成だ。

銃声は近所にも聞こえただろうが、この辺じゃあそんなの日常茶飯事だ。通報があるとしても朝になってからだろう。とは言ってもすぐにこの家を出て誰かに見られるのはまずい。
Slow Bearは寝室で見つけた『コール・オブ・デューティー』をしばらくやって過ごし、深夜を待って裏口から出る。
行きはValdの車で来たが、帰りは徒歩。かなりの距離はあるが、後に起こり得る問題を避けるため、ヒッチハイクも自転車をパクることもできず、家に帰りついたのは朝の7時過ぎとなる。

帰りついてそのまますぐに眠りにつき、起きていつものようにカジノのバーに行くのは午後になる。
スツールに座ると馴染みの女性バーテンダーLadyが、彼に言う。「Trevorが探してたわよ」
「何だって?」「2回来た」

Trevor Crossはこの居留地の警察署長だ。かつてはSlow Bearと一緒に働いていて、やがて上司となり、署長となり、昔のボスになった。遠縁の従兄弟として今でも繋がりがある。
Trevorはおそらくは既に事件に彼が関係したことを知ったのだろう。Slow Bearは彼のしたことをTrevorがよくとってくれないかと思う。犯人を留置場に入れとくのを節約できたじゃないか。みんな得したはずだ。

ここでSlow Bearが自分のやった結果を「Three disbursements back into the pot.」、(えーと三つの支払金が壺に戻った、ぐらいの意味か?)と考えているのだが、これ三方一両損とこじつけられないか少し考えて、やっぱ違うよな、と諦めた。 三方一両損って一度は使ってみたいよね。
あと、気になってる人がいるかもしれないけど、『コール・オブ・デューティー』をどのプラットフォームでやったのかの記述は無し。コンソールに入れた、ぐらいのところ。

そしてTrevorはバーにやって来て、Slow Bearの隣に座る。
なんとかごまかそうとするが、Trevorは既に知っていた。
俺は裁判を節約してやったんだぞ、留置場にあのクズを入れるのも。正義は成されたんだ、いいだろうが。開き直るSlow Bear。
Trevorは一旦バーから離れ、しばらくして戻って来て言う。
「The Hatからお前に挨拶しておけとのことだ。彼はお前のことを大変気にしている」

The Hatはこの居留地の酋長の通称だ。公の場に出るときには、常に大きな特注のビーバーの毛皮製のカウボーイハットを被っていることからそう呼ばれている。
実際にSlow Bearが会ったことは数える程度しかない。
「今朝、彼と話した。Jimの事件捜査の合間にな、分かるな。そしてお前の名前が出てきたというわけだ」

「ところで、お前追放者のことは知ってるな。Santanaだ」と、Trevorは話の方向を変える。
もちろんSlow Bearは知っていた。Santana Hunts Along。かつてThe Hatと、この居留地のリーダーの座を争っていた男だ。
争点はこの居留地に発見された油田からの利益の分配手段だった。その過程で、Santanaがその利益の一部を着服していたことが発覚した。
その結果、酋長の座にはThe Hatが就き、Santanaは居留地から追放となった。
だが、Willistonへ腰を落ち着けたSantanaは、別の石油会社に雇われ、以前と同様の勢力を保っているようだ。
「The Hatは、Santanaが今でもこの地と繋がりを持っていると考えている。それは隠されているだけだ。奴はここの石油会社と繋がりがあり、我々の取り分となるべき中から報酬を受け取っているらしい」

その話が俺にどう関係するのかわからん、とSlow Bear。「俺も追放するって、警告かい?」
冗談のつもりで言ったSlow Bearだったが、Trevorは何かを口ごもる。
「何だって?」
「俺の考えじゃない。俺はお前なんぞ刑務所に放り込んで、恨みのある囚人どもに痛めつけられりゃいいと思ってた」

座れ、というTrevorに、Slow Bearは上げかけていた腰を戻す。
「The Hatは、お前をSantanaのところに潜り込ませ、何らかの証拠を見つけさせるつもりだ。そしてこれは重要なところだが、もし何もなかったとしても、あることを突き止めろ」
「お前、俺に何をやらせるつもりだ?」
「もし簡単にいかなければ知らせろ。こっちで本当に見えるとっておきのやつを用意してやる」

俺に潜入捜査なんてできるわけないだろう、どうするんだよ?手品か?Slow Bearは抗議する。
「Santanaが知るべきことはだ、お前が彼同様に居留地を追放になったということだ」Trevorは言う。
「なんで奴がそれを信じるんだよ?」
「なぜなら、それは本当の事だからだ」そう言うなり、Trevorはカウンターの上のビール瓶を掴み、それが割れるまでSlow Bearの額に叩きつける。
そして倒れたSlow Bearの腹を蹴りつけてから、かがんで顔を近づけて言う。「すまないな、Micah。本当らしく見せなきゃならん。これからお前をカジノ中で蹴飛ばした後、手錠をかけ、トラックに引き摺ってく」
そして襟首を掴み引き上げ、顎を掴んで続ける。「そして、お前のクソトレーラーを押収する。お前のトラックも。銀行口座もクレジットカードも凍結される。そもそもお前カード持ってるのか?」
そしてTrevorは徹底的にSlow Bearを、気絶するまで痛めつけ、片手に手錠をかける。そしてもう一方にもかけようとしたとき、それがなかったことに気付く。
「そうだったな、クソッ」

その後、病院に連れて行かれ、治療を受け、これがうまく行けばちゃんと報酬も出る、とささやかれた気もするが、Slow Bearはそのまま再び意識を失う。
次に目が覚めた時、Slow Bearは、走行中のそれほど大きくない車の助手席にいた。
横で運転しているのは、馴染みのカジノの女性バーテンダーLady。いくらかは事情を知っているLadyが、Slow Bearを「追放」する役目を任されたということらしい。
WilliatonまでSlow Bearを連れて行き、ホテルに置いて来るまでが役目だったのだが、ホテルはどこも満室。
仕方なくショッピングモールの駐車場で、車の中で一晩眠り、そして翌朝、帰り損ねたLadyと共に、Santanaの会社へと向かうことになるが…。


とりあえず、最初はこの辺までで。一応断っておくと、『Slow Bear』シリーズは、とりあえずこの最初だけかもしれんが、次に続くという形で終わるので、続く第2作『Slower Bear』について書く時にはこの続き結末まで 書いてから始まるという形になる。それ考えるとかなり積み残し多い気もするが、とりあえずこういう経緯で潜入捜査へ向かいました、ぐらいまでが適当かと。

Anthony Neil Smith作品ではある意味お馴染みの…、つってもほとんど伝わってないだろうが、強い正義漢も持たず、どちらかと言えば悪党に片足突っ込んでるぐらいで、地元近隣社会でそれなりに居所見つけて、特に高望みもなく 日々暮らしているろくでなしアンチヒーローが、ちょっとしたきっかけでのっぴきならない状況に追い込まれて行くという展開。
そしてやはりSmith作品の常のように、ここまで紹介したところでも現れているように、定石の展開がことごとく外されて行く。
主人公Slow Bearは、片腕のネイティブアメリカンの元警官だが、ハンデがあってもなんかの達人というような都合のいいことはなく、少々の機転を使っての不意打ち以外では大抵負けるぐらいの男。片腕になった経緯は序盤では 曖昧に書かれているが、後々あまり褒められたものでもなく、悪徳警官としての悪事が本格的に発覚するギリギリのところで起こった事件だったりすることも語られて行く。
一人称小説ではないのだが、ちょっと自嘲的という感じのややブラックなユーモアも多く、ギザギザで硬質というような文体で書かれた代表作Billy Lafitteシリーズよりはかなり読みやすい作品。

2020年に『Slow Bear』が発表され、これは続きものだなとすぐにわかり、2022年に続編『Slower Bear』が出て、その時点で次に『Slowest Bear』が出て三部作となるのだろうと、予想されたのだが、2024年8月に『Slowest Bear』が出てみると、 これで完結とは一切書かれていなかったり?これはまだ次があるのか?では『Slowest』の次は?と色々な部分で先が気になるシリーズだが、何とか第1作を紹介できたので、ここから順次続けて行きます。えーと、あれとあれとあれは早く読まなきゃならんと いう予定になってるので、その次となると…、まあ来年になりそうだけど、なるべく早く続けて行く予定です。

Anthony Neil Smith先生の近況、というか以前どこまで書いたのかよくわからなくなってるぐらいなのだが…。とりあえず2020年出版のこの作品の翌年、2021年10月には単独作品『The Butcher's Prayer』が同じくFahrenheit 13より出版されている。
『The Butcher's Prayer』も読んだのに書けないままになっている作品の一つなのだが、ある田舎町で起こった殺人事件に関係することとなってしまったその町の教会の家族それぞれの姿を通して、現代、既に教会が地域の中心でなくなってしまった アメリカの田舎町を描いたノワールの秀作。
教会の三人兄妹の末娘と結婚した肉屋に勤めるダメ男が、悪い友人の付き合いでドラッグの取引現場に居合わせるが、その友人が相手を殺してしまい、死体の始末に困り肉屋の知識を使ってそれを解体する。が、中途半端なまま放置してその場を離れる 羽目になり、陰惨な凶悪事件の犯人として逃走を余儀なくされる。
彼を追うのは、教会一家の次男で神学校へ進んだが司祭への道を外れ、地元の町で警察に入った刑事。信仰に執着心はないが、家族からも期待された道を踏み外したことに対し、常に複雑な感情を持っている。
そして犯人の妻になってしまった彼の妹は、ひたすら信仰に縋りつくことで解決の道が訪れると信じる。
その一方で、ほとんど教会に行ったこともない警官たちは、教会に対しても型通りの敬意以上は示さず、犯人の片割れである友人の家族などは、教会に全く縁のないトレーラーハウス暮らしの底辺ローライフであったり。
昔ながらの見かけを保ってはいるが、既に様変わりしてしまった田舎町の姿が、ある時は皮肉・ユーモラスに、ある時は非情・残酷に描き出されて行く。

その後は、一旦新たなパブリッシャーからの新作がアナウンスされ、プレビューも公開されたが、何らかの事情で立ち消えとなってしまったりと、相変わらずと言っては失礼だが不遇が続く…。
ツィッター(現X)のアカウントも戻ったりなくなったり、新たなホームページができるも、割とすぐ閉鎖されたりというような状況が続いたり。
というところではあったが昨年2023年11月からは、作家Sheldon Lee Comptonの主催するウェブジンREVOLUTION JOHN.のエディターに就任し、以来Xのアカウントも保たれているよう。 あ、最後に付け加えるように書くのもなんだが、本業というところの大学の先生は別に問題なく続いているから。

多くのところで絶版となってしまっているSmith先生の著作だが、現在はBilly Lafitteシリーズを始め、かなりの部分は自費出版により復刊されている。最近、ドイツの出版社(名前忘れた…)からしばらく前に出版された『The Cyclist』も新たに加わった。 『Castle Danger』シリーズはちゃんと完結までいけなかったようだから難しいのかな?以下著作リストを参照のこと。

インディークライム、周辺文学方面では"ノワール教授"の愛称で親しまれる現代のノワールレジェンド、無冠の帝王Anthony Neil Smith先生については、しばらく中断になってしまっていたがここから新たにぐらいの気分で今後推して行きたい、 行かなければと思っております。

なんとか先に続く書き損なってたやつをやらなくては、と思ってた中からやっと一つ『Slow Bear』。一歩前進かと思うが、一方で書く予定の方は渋滞し始めたり。ルッカQueen & Countryを再開できるのはいつになるか…。コミックの方も やらなければばかリなのだが、何とかこっちの方ももっとペースを上げて行かねばと思う最近です。あー、デストロイヤーも余裕出来たらどっか押し込もうと思ってるのだけど…。


■Anthony Neil Smith著作リスト

〇Billy Lafitteシリーズ

  1. Yellow Medicine (2008)
  2. Hogdoggin' (2009)
  3. The Baddest Ass (2013)
  4. Holy Death (2016)

〇Mustafa & Ademシリーズ

  1. All The Young Warriors (2011)
  2. Once A Warrior (2014)

〇Castle Danger (The Duluth Files)シリーズ

  1. Castle Danger - Woman on Ice (2017)
  2. Castle Danger - The Mental States (2017)

〇Slow Bearシリーズ

  1. Slow Bear (2020)
  2. Slower Bear (2022)
  3. Slowest Bear (2024)

〇その他

  • Psychosomatic (2005)
  • The Drummer (2006)
  • Choke on Your Lies (2011)
  • Sin-Crazed Psycho Killer! Dive, Dive, Dive! (2013)
  • Worm (2015)
  • The Cyclist (2018)
  • The Butcher's Prayer (2021)

・Red Hammond名義

  • XXX Shamus (2017)

・Victor Gischlerと共作

  • To the Devil, My Regards (2011)

・Dead Manシリーズ (with Lee Goldberg and William Rabkin)

  • 16. Colder than Hell (2013)


●関連記事

Yellow Medicine -Billy Lafitteシリーズ第1作!-

Hogdoggin' -Billy Lafitteシリーズ第2作!!!-

The Baddest Ass -Billy Lafitteシリーズ第3作!!!-


●Mustafa & Ademシリーズ

●Slow Bearシリーズ

'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。