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2017年4月23日日曜日

Transmetropolitan Vol. 1: Back on the Street -Warren Ellis入門-

今回はかの有名なウォーレン・エリス/ダリック・ロバートソンによる名作『Transmetropolitan』です。以前から言ってるように、あんまり有名作をやるのは気が引けるのだけど、ウォーレン・エリスと言えばこれを避けては通れないわけで、今後ウォーレン・エリスについて語るならこれがどんな作品かわかるぐらいにはしておかなければ、ということで今回はウォーレン・エリス入門という感じでやってみようと思います。

ではまずウォーレン・エリスという人のキャリアについて。1968年イギリスのエセックス生まれ。1990年頃からコミックのライターとしてインディペンドな雑誌で活動を始めたということです。ジャッジ・ドレッドなどの仕事もあるそうなのだけど、あまり2000AD方面では目にしたことがないので、それほどは多くないのだろうと思います。アメリカでの仕事は1994年からで、まずマーベルから始まり、その後DCへ。この辺の初期のものとしては『Stormwatch』から『The Authority』というところが有名なのだが、ちょっとまだそっちの方には手を付けておりません。そのあたりを経て1997年からVertigoで始まったダリック・ロバートソンとのコンビによるオリジナル作がこの『Transmetropolitan』というわけです。

そしてこの『Transmetropolitan』、いかなる物語なのか。主人公はSpider Jerusalem。いかなる権力にも屈せず、真実と正義を貫く、エキセントリックかつちょっとダーティーな一匹狼のジャーナリスト。しかし、物語の冒頭、あまりにも各方面に敵を作りすぎた彼は、いつか殺されるというパラノイアに取りつかれ人里離れた山奥の家で隠遁生活を送っている。しかし、23世紀の未来でもそんなことでは文明から逃れられない。そして電話が鳴る。「おい、Spider、そんなところで何やってる、契約を忘れたか?本の契約だ!お前は2冊の本を書く契約をしてるだろう。お前が離れたところから政治について書けないのはわかってるだろう。今すぐオレのオフィスに来い!」とうとう山を下り、俗世間に戻る時が来たか…。Spiderは身の回りのガラクタを片っ端からオンボロ車に積み込み、山を下りる。風景は山から猥雑で混乱を極める未来都市へ。そして交通渋滞で身動きが取れなくなった車を見捨て、屋根を歩いて新聞社に到着する。向かうは編集者Mitchell Royceのデスク。よし、やってやろうじゃないか。だが今は俺は無一文だ。まずは当座の金とアパートを用意しろ。仕事?よし、やってやろうじゃないか。このSpider Jerusalem様が週一本の特上のコラムを書いてやるぜ。こうして何物をも恐れぬジャーナリスト、Spider Jerusalemは堕落した未来都市のストリートへと戻るのだった。
さしあたってはシティに新たなねぐらも得たSpider。早速行ってみると…、まあ予想通りの廃屋に近い代物。しかし備え付けのユーティリティー・コンピューターも作動する。髪も髭も伸び放題でホームレス・ライクな風貌のSpider。まずはシャワールームでとりあえずきれいにしろ、と命じると髭はおろか髪まで全部なくなりスキンヘッドに。次は服だ、と告げると一緒に出てきたのが左右形も色も違うサングラス。こうして一度見たら忘れない独特の風貌のSpider Jerusalemファッションの出来上がり。さあ準備は万端整った。いざネタを求めて23世紀の未来都市へ!

以上、この常に不敵な笑いを浮かべながら毒舌をばらまきシティを闊歩する最高にかっこいいハードボイルドなヒーロー、孤高のジャーナリストSpider Jerusalemが未来都市の真実を暴き出す、というのがこの『Transmetropolitan』のストーリーです。ではそのVol. 1: Back on the Streetに収録の第6号までのストーリーをざっと紹介しましょう。

Spiderがジャーナリストとして街に復帰するまでを描いた第1号「the summer of the year」のラストから始まり、第2号「down the dip」を経て第3号「up on the roof」まで続くのが最初のストーリー。シティの短期滞在の異星人たちのコミュニティで不当な扱いに対する抗議行動が起こり、緊張が高まっていた。そのリーダーはSpiderの昔馴染みの異星人との混血Fred Christ。早速取材に向かうSpiderだったが、何かその背後に不可解な動きを感じる。そうこうしているうちに抗議行動は遂に暴動に発展してしまう…。
暴動で閉鎖された地区に潜り込み、ストリップ・バーの屋根の上に陣取り、沸騰する街を見晴るかしながらこの暴動の真実を伝えるコラムをキーボードに打ち込み続けるSpider。そしてその届いてくるコラムをデスクRoyceはリアルタイムでニュース・リールに流す、というクライマックスのシーンは最高に格好いい。こうしてこの物語のヒーロー、Spider Jerusalemは我々の前に華々しいデビューを飾ったのでした。

第4号「on the stump」。Royceからアシスタントを送ったぞ、との連絡。要するにちゃんと毎週コラムを書かせるための見張り役なのだが。追い返す気満々で出迎えると、現れたのは前回のストリップ・バーにいた女の子の一人。Channon Yarrow、ストリップの方はアルバイトでジャーナリストを目指し勉強中とのこと。この後から彼女もアシスタントとしてSpiderとともに毎回登場のキャラクターとなります。役割としては破天荒で出鱈目なSpiderに対するツッコミ役。そして今回は彼女を率いてシティの庁舎へ乗り込むSpider。トイレで市長を発見し…。

第5号「What Spider Watches on TV」。TVの前に陣取り、今日は一日シティのTVについて調査するぞ、と宣言するSpider。そんなことしたら頭おかしくなるよ、とChannonにも言われるが…。未来のTVのかなり狂った放送が次々と描かれるが、当時すでに始まっていたアメリカの多チャンネルTV文化に対する風刺の部分も多いのでしょう。

第6号「God Riding Shotgun」。頭にアルミフォイルで作った輪を被り、付け髭、白装束と「神」のコスプレ姿のSpider。今日はシティの宗教について調査するぞ!彼氏との関係に悩むChannonを連れてSpiderが向かった先はカルト宗教のコンベンション会場?宗教が身も蓋もなく完全に商業化してしまった未来社会なのだが、これも現存の宗教が利益と切っても切り離せなくなってしまっている一方で、様々なものが「宗教化」して行く現代に対する風刺なのでしょう。

というわけでかの有名な『Transmetropolitan』、そのTPB第1巻Back on the Streetについて、ざっとですが解説を試みてみました。なんとなく雰囲気ぐらいは伝わりましたでしょうか。
ここで一旦共作者であるダリック・ロバートソンの方について。なんだかウィキペディアにも本人のホームページにもちゃんとした年とか書いて無くてはっきりしないのだが、コミックの仕事を始めたのはまだ学校に通いながらの17からという早熟。21歳からマーベル、DCなどで仕事をはじめ、数年後MalibuやAcclaimといったところの仕事でエリスと出会ったらしい。そこで俺の狂ったイメージを描けるのはコイツしかいない、とエリスに認められ、当時DC傘下のSFコミック部門として立ち上げられたHelixから出版されたこの『Transmetropolitan』のアーティストとして起用されたということです。(現在はVertigoから発行。)この作品はロバートソンにとっても出世作というところでしょう。初期という時期に当たるだろう当時からダークで狂ったユーモアのにじみ出る画風で描かれたイカレた未来世界と個性的なキャラクターは本当に素晴らしく、『Transmetropolitan』の成功もロバートソンの作画あってのものとも言えるところでしょう。
そしてウォーレン・エリスなのですが、なーんだかとてもタイミングよく先週の初め頃The Gurdianにインタビューを含むエリスの記事が掲載されておりました。内容としてはトランプ時代に見る『Transmetropolitan』みたいなところもあったりで、できればそちらも読んで私の拙い解説を自分で補完していただければと思います。(The Gurdian : Warren Ellis: 'Now everything is insane and I’m loving it')
とちょいと他人様任せで荷を軽くしたところで、その後の経歴を簡単に書くと、この『Transmetropolitan』は1997年から2002年まで続き、それからはまたヒーロー系の仕事で多く活躍。DCでは有名な『Planetary』があったりVertigoでも色々出しているけど、マーベルの方が仕事が多そう。Xメンとかアイアンマンの映画の『3』の原案のやつとか。まあそっちの方は詳しい人もいるでしょうからそっちで聞いてください。またその一方で映画化された『Red』をはじめとするオリジナル作も、Vertigo、Image、Avatarなどからも多数出ていて、割とTPB一冊ぐらいの読みやすいのも多いんで、自分としてはそっちの方を色々と読んで書いて行ければと思っています。それから小説の方では2007年に『Crooked Little Vein』、2013年に『Gun Machine』とこちらの好物の犯罪物を書いているので、そちらについては一刻も早く読まねばと思っているところ。小説最新作は去年の秋に出た『Normal』でいいのかな?こちらはテクノスリラーということらしい。基本的には気取ったお利口ぶりの読むジャンルであんまり近寄らないけどエリスのならいずれ読まねば。あと、前述のThe Gurdianの記事でも少し触れていてくれて嬉しかったのだけど、以前に書いた『Dead Pig Collector』は本当に素晴らしい傑作ノワール短編なのでみんな読んでねっ。そして最近のものとして注目はImage Comicsの『Injection』、『Trees』というところか。『Trees』の方はTVシリーズ化も進行中ということらしいです。TVと言えばNetflixで日本でも注目している人も多いだろうあの『キャッスルヴァニア』の脚本を担当。あともうエリス担当のは終わっちゃったみたいだけどDynamiteの『James Bond』も早く読みたいなあ、などなど各方面で活躍中の大作家ウォーレン・エリスなのですが、まずこれぐらいの代表作である『Transmetropolitan』が翻訳はおろか、なんか手ごろな情報もあまりないというのは大変困った事態なのではないでしょうか。実際私も読むまでどういうもんだか全然わかんなかったし。そんなわけであんまり手ごろではないでしょうが、少しでも情報が増えればと今回私なんぞがやってみたわけでした。んー、やっぱり『ナルト』ってゆー面白いマンガがあるんですよ、って言ってるような気分なのだが…。まあ日本でも最寄りのバス停まで歩いて2時間ぐらいの辺境に住んでいてネットだけが頼りという人もいるだろうからそんな人のお役にでも立てればいいか…。

とりあえずこんな感じで始まった『Transmetropolitan』、最初は少し長めのストーリーとなっていますが、その後は一話完結でシティの様々な側面を風刺的に描くという展開になっています。しかし話も進めばまた少し大きな物語も描かれるようになってくるのではないかな、と予想されるところ。とりあえずのところは当方としては他に書かねばならんことも多いので、このシリーズに関してはこんな感じのですよー、という紹介ぐらいで終わるつもりですが、いずれ読み進めるうちにこれについては書かなければ、と思った時にはまた登場ということもあるかもしれません。こういうのってちゃんとしておかないと後々うまくいかなくなったりするもので、例えば『Chew』なんかは本当はもっと何度も書いてこれはすげー面白いんだぞってしつこく訴えたいところもあるのですが、最初大雑把にやりすぎて書くんだったらまた最初っからやらなきゃなあみたいになってそのままになっていたりするのですよね。このチャンスについでに言っときますが、『Chew』(Image Comics)って日本のマンガとして出てたら年間ベストワンに選ばない奴はバカぐらいにめちゃめちゃ面白いコミックで読まないと損するよん。少し話はそれたがウォーレン・エリスさんの方なのだが、実はAvatarの『Black Summer』というのを読んでてそれについて書こうと思ってるうちにちょっとこっちやっとかないとうまく話し進められんかなと考えて今回のをやったという事情もありまして、次回はその『Black Summer』!…のつもりだったのだけどなかなか書く方もはかどらない昨今の私的事情ゆえ、小説の方のことも書かねばならんので、そちらについては次々回ということにさせていただきます。やっぱねえ人生先何があるかわからんもんで。歯医者とか。ということで少し先のウォーレン・エリスをお楽しみに。あっ、そういえば『銀魂』ってマンガがあるんだけど知ってる?



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2017年4月8日土曜日

Adam Howe / Tijuana Donkey Showdown -われらがポンコツヒーロー再登場!!-

遂に出た!イギリス期待の星の最新作にして第1長編作『Tijuana Donkey Showdon』!…なのですが、まあ前回書いたような諸般の個人的事情により、昨年12月に発売され割とすぐに読んだにもかかわらず、書くのがずいぶん遅れてしまいました…。ごめん。
さて、この作品ですが、昨年9月にスゴイ才能を見つけちゃったぞ!、と大騒ぎいたしましたAdam君の第2中編集『Die Dog or Eat the Hatchet』に収録の「Damn Dirty Apes」の主人公である元ボクサーで現在ストリップ・バーの用心棒Reggie Levineが再登場で、Reggie Levineシリーズ第2作となる長編作であります。作品中で説明もあるし、前作を読んでいなくても楽しめる作品ではありますが、結構ネタバレしちゃうし読まないのはあまりにももったいない傑作なので、未読の人はぜひそちらを先に読むべし!

さて、今作でありますが、まずは相変わらず気さくなAdam君の前書きから始まります。なんでもこの作品を書いている途中にお子さんが誕生とのこと。で、子供が成長すればいずれは自分の書いたものを読むかもしれん、これはいかん!と思ったAdam君。とにかく今まで書いたものは版権が切れ次第ただちに絶版にして、今後は行儀のよい小説だけを書くぞ!などと言い出しますが…、HAHAHA、ジョーダンだよ、これからも自分の好きな下品な奴を書くぞ!みんなが応援してくれればまたReggieも登場するからね!でも、まあ、奴は3作ぐらいが限界だろうけどね、とのことです。
続いて友人のホラー作家James Newman氏による序文。この野郎いつかぶん殴ってやらんと気が済まん!イギリス人のくせにまるでそこ出身のように南部が舞台の小説を書きやがるし、ホラー映画にはむかつくぐらい詳しいし、何より許せんのはあのスティーヴン・キングのコンテストで優勝し、キングと食事をしてオレの大好きなホラー映画の話までしやがったんだぞ!と罵倒の嵐。何より『666 Hair-Raising Horror Movie Trivia Questions』なる本を出してるぐらいのホラー映画マニアのNewman氏なのでとにかくそっち方面での対抗意識は強い様子。しかし今は誰かさんとのコラボの予定もあるので、それまではぶん殴るのは勘弁してやるとのことです。そっちも楽しみに待とう。というところで本編『Tijunana Donkey Showdown』の始まりです!

【あらすじ】

俺が最初にHarry Muffetと出会ったのはThe Henhouseの男便所だった…。
Reggieが勤め先であるストリップ・バーの男性用便所に入ると、まるでロード・オブ・ザ・リングのオークのような大男がHarryの頭を便器に押し込んでいた。あんまり関わり合いになりたくはなかったが、トイレも使いたかったので一応声をかけるReggie。話を聞くと、大男の妹が悪徳中古車業者Harryに欠陥車をつかまされ返済を求めているとのこと。よく見ればそのHarry、地元ローカルTVで一日中流れてるCMで見た顔だ。「ああ、あんた知ってるよ。」などとうっかり言ったが運の尽き、すっかりHarryの親友にされてしまうReggie。そして腕に自慢の大男も、相手をスカンクエイプ事件で名を挙げたReggieと認め、勝負を挑んでくる。こうして、今回のReggieの災難は始まる。

なんとか大男は制したものの、いつの間にかHarryは遁走。かなり悲惨な姿で帰宅すると、折り悪く今回のマドンナである女性獣医のShelbyと出くわす始末。全くツイてないReggieである。

前回のスカンクエイプ事件はちょっとしたニュースになり、ニコラス・ケイジ主演で映画化もされ、Reggieにもちょっとした金が転がり込んできた。のだが、うっかりバーの主Waltの投資話に乗ったばかりに、すべてを失い元の用心棒稼業のReggieであった。

しかし助けてやったにもかかわらず礼も言わず逃げ去ったHarryは腹に据えかねる、とHarryの中古車販売場へ乗り込んでいったReggie。だがHarryの口車に乗せられ、支払いの遅れている車の回収を手伝うことになるのだが、そこでもとんでもない事件に巻き込まれ、病院送りに…。

やっと用心棒稼業に復帰し、もう奴と関わりあうのはこりごりだとぼやいていると、電話。えっ?ニコラス・ケイジから俺に?と出てみると

「Reggie、俺だよ、Harryだよ、頼む、助けてくれ!」

…………。

なんでも町のはずれの怪しげな私設動物園経営者にHarryの妻の愛犬が盗まれ、チュパカブラを捕まえた!と宣伝されているそうな…。
しかし、事態は思いもかけぬ展開を現し、Reggieはさらに厄介な災難に巻き込まれて行くのだった…。


まあまずはとにかく笑った。特に中盤、”It was not his leg.”のところでは大爆笑した。読めばわかるっス。やっぱりこいつは本物で、本当に上手い。今回に関しては色々仕掛けて、それをタイミングよく使ううまさを随所で見せてくれます。それにしても最後に使う武器がアレとは…。
とにかく自分としては文句のつけようもない大傑作で、やったぜAdam君というところなのだけど、かなりお下品かつエクストリームなギャグの連発なので、もしかしたら例えば『Jackass』とか観ても全然笑えないとかいう人にはあまりお勧めできないのかも。少なくともDonkey大疾走の場面では私の頭の中ではあのMinutemenのCoronaが高らかに鳴り響いたのでありました。とにかく私のように辛いときは『Jackass』観て元気出そう、で何とかここまで生き延びてきたような人たちには、この作品を読まないということは大変な損失としか思えません。絶対に読むべし!
しかしながら、100%楽しく読み終わった後に一抹の不安が。いや、ちょっとギャグに走りすぎではなんてことは全く心配していない。今回はギャグで行くぜ、ってことで徹底的に笑わせてくれたわけで、まだまだいくつもの技を隠し持っているAdam君なので。で、何がかというと、例えば小説とか読んで、これが映像化されれば、みたいな話をする人もいるでしょう。それでいうならこの作品ってもはや現実の映像なしの段階でも映画として完成されているような作品なのであります。前の時に書いたけど、本格的に小説を書き始める前にはしばらくインディー映画で脚本を書いていたAdam君で、これほどの才能が有ればいずれはまた映画に関わる機会もでき、そうしたら今度はもう小説に戻ってこないのではないか、というのが今の私の少し早すぎるかもしれない心配なのであります。まあ映画だって好きだしそちらだって日々新しい才能が求められているだろうけど、こんなに楽しい作品を作ってくれるAdam君にはなるべく沢山の面白い小説を書いてもらいたいなあ、というのが私の願いです。とりあえずは、この彼女にはいずれフラれるのかもしれないな、という種類の不安を抱きながらも、この新たな才能Adam Howe君には今後も精一杯の愛を注いで応援して行くつもりであります。次も出たらすぐ読むからねっ!サンキュー!

前書きもあったけど、今回も少し長めのあとがき兼作品解説ありのサービスっぷり。そしておまけに以前『Thuglit』に掲載された短編「Clean-Up on Aisle3」を収録。金に困った男が簡単にできると思ったコンビニ強盗が思いもかけぬ展開に、というこちらはちょっと怖い話。相変わらずアイデアと構成の巧みさが冴える秀作です。私としては、何が何でもおススメの一冊でした。

この作品も、前作『Die Dog or Eat the Hatchet』に続き、版元はComet Press。とは言ったものの相変わらずなかなかホラー方面には手が回らず。ちょっとどの辺の作家がおススメなのかも判別できずという段階ですみません。好評だったらしい『Year's Best Hardcore Horror』は今年もVol.2が出るそうです。なんかこの方向のホラー映画とかってファンも多そうなのだけど、あまり女性読者が寄り付かないタイプのホラー小説はどうも苦戦しているようで、以前から気になってブックマークつけてたような、例えば少し前に書いた『Japan Of The Dead』のGrind Oulp Pressみたいな小さいところまで含めた色々なホラー系パブリッシャーが気が付いたら終わってたみたいなのもしばしばという状況で、このComet Pressにも何とか頑張ってほしいと思いもっと応援して行かなければと考えている次第です。とりあえずはやっぱりアンソロジー系をなるべく早く読んでみよう。
そんな状況ですが、結局なかなか手が付けられないホラー系。手遅れにならないうちに今回は気になっているところを名前だけでも並べておきます。まあホラーと言ってもビザール系が多いのだが、とりあえず長く続いているのもその傾向のが多いのかも。まずは以前にも書いたEraserhead Press。日本にはなかなか届かないエドワード・リーらの90年代辺りのゴアなホラーを復刻しているDeadite Pressなどを傘下に持つが基本的にはインディペンドのパブリッシャーです。そして結構前から気にしてるのだけど、なかなかきちんと調べていないのでいまいち説明できないのだが同様にビザール系ホラーと思われるイカすカバーが並ぶBizzarro Pulp Press。ビザールって言ってるか…。そしてAndersen PruntyやC.V. Huntらホラー系異色作家を抱えるGrindhouse Press。この辺の作家については早く読もうとずっと思っているのだが…。なんか結構前からしばらく動きがなく危ないのかな、と思うと思い出したように活動を再開する謎のパブリッシャー。そして最後にRooster Republic Press (Bizzaro Press)。ここも前から気になってるのだけど、そろそろやばい感じだったり…。並べてみるとやっぱり生き残っていたのはビザール系ばかりか。ちょっと日本にはなかなか入ってこない感じの変わったものが読みたい人にはおススメなのですが、ちょっと危なげでいつ無くなるかわからなかったりもするので、気になる人はお早めに。あと、リンクを開くといきなりすごい怖い画があったりするので心の準備をお忘れなく。

Comet Press

【その他おしらせの類】
ここで大変残念なお知らせです。私が以前から注目しひいきにしていた2つのパブリッシャー、Blasted Heathと280 Stepsが先月、2017年3月いっぱいをもって終了いたしました。
まずBlasted Heathについてはまあしばらく新刊もなく危ないのかなあ、とは思っていたのだけど。しかし結構前からその方向に動いてたようで、Anonymous-9やAnthony Neil SmithらのDown & Out移籍についてはすでにお伝えしたようにある程度作家の移行も事前に進められていたようです。Ray Banksについても昨年11月TSB Booksというところに移籍しており、Cal Innesシリーズ他Blasted Heathで出ていた作品はすべてそちらで読むことができるようです。先月には同社から待望の新作Farrell & Cobbシリーズ第2作『Trouble's Braids』も発売されています。前のリンク全部パアになっちゃったけど、次の読んだときにちゃんとしますので。とりあえずRay Banksアマゾン検索ですぐに見つかりますので。Anthony Neil Smithさんについては少し先になるけどDown & Outから絶版になっちゃってるのも含めて旧作が全部出る予定とのことです。The PointシリーズのGerard Brennan辺りはまだ新しいところが見つかっていないのかな。しかしBlasted HeathといえばのBarney ThomsonのDouglas Lindsayについてはちょっと今のところ不明。たぶんBarney Thomson第1作のプリント版を出していて、昨年『Song of the Dead』を出版しているFreight Booksに引き継がれるのではないかと思われるけど、現在のところアナウンスは無し。なかなか次が読めないままこんなことになっちゃったのだけど、好きなシリーズでもあるのでその後の情報があればなるべく早くお伝えします。まさかBarney Thomsonがこのまま絶版なんてことはないだろう。映画も観たので早く次を読んでその時書こうと思ってたのだけど…。なんかここ数日Barney Thomsonのを見てくれてる人がいくらかいるようなのだけど、みんな心配してるのでしょうか。そして最後にAllan Guthrieさんなのですが、いよいよBlasted Heathが終わるという3月の末頃は、アメリカのドゥエイン・スウィアジンスキーのところに来ていて、スウィアジンスキー行きつけの映画館に一緒に映画を観に行ったりW・R・バーネットのお墓参りに行ったりという写真がスウィアジンスキーのツイッターにも上がっていて、お元気そうで少し安心させてくれました。しかしその心中はいかばかりか…。本当に残念だし、自分も結局Blasted Heathについてほとんど伝えられなかったのは情けないのですが、それまであまり日も当たらず出版社も上手く見つからないでいた上記のような今後のシーンをになって行く作家のすぐれた作品を世に出した功績には計り知れないほどのものがあるのです。ありがとう、Blasted Heath!
そしてもう一方の280 Stepsについてですが、少し前までは結構先のリリースまで告知があったのだけどちょっと止まっているようだけど…、などと思っていたらちょっとあっという間に…、という感じ。正式発表されたのも3月25日を過ぎたぐらいじゃなかったかと思う。予約中だったEric Beetner氏の『The Devil At Your Door』も出版されないことになり本人も予約した人にちゃんと返金されるのだろうか、と心配している様子。まあ突然と言ってもある程度作家には話してもいたようで、一部の作品、Todd Morrの『If You're Not One Percent』とかはおそらくはそのまま自費出版という形で引き継がれたようで、まだKoboでは販売されている。そもそも日本のアマゾンからはKindle版で購入できるものが少なかったりする280 Stepsだったのでいまいち正確なところは把握できないのだけど。あと最後の方に出たCourt Haslettの『Tenderloin』はそもそも自費出版で出たようで現在もそのままKindleで販売は続いています。なぜ販売がAmazon Services International, Inc.になっているのだろうかと疑問に思っていたのだけど、そういうことだったようです。しかし、オーストラリアの鬼才Andrew Netteの作品などはそのまま販売中止となっている。2つの魅力的なシリーズを展開していた前述のEric Beetnerも今のところは当てがなく、いつか自費出版でも続きを出すとは言っている。多作で顔も広いBeetnerさんなのでそのうち何とかなるのではと思うが…。私も実は280 StepsのRusty Barnes作『Ridgerunnner』をやっと読んだところで、次はこれについて書こうと思っていたところなのだが…。ちょっと入手困難状態で描くのもなんなので、とりあえずは保留にしますが、やっぱり語る価値のある作家、作品ではありますのでいずれ再販の朗報をもってかけることを期待したい。と、まあ一方のBlasted Heathとくらべるとあまりきれいに終われなかった感のある280 Stepsなのですが、それでも私はあんまりこいつらのことを悪く言いたくはないのですよね。やっぱりここの人たちには本当にジャンルに対する愛が感じられたし、新しい作家を世に出したいという意気込みも高かったわけで、だからこそなかなか読めないながらも名前だけは上げて推してきたのですから。Rusty Barnesをはじめとする全く知らなかった優れた作家を教えてくれた280 Stepsなのである。なんにしても私はありがとうと言いたいよ。
そんな事情でちょっと危機感もあり、いつか読もうと思って今まで書かなかったホラー系のパブリッシャーの名前なども並べてみたわけです。彼らがなぜここで力尽きたのか、なんて分析はどうでもいいや。結局そういうのって、どうしたら売れる本が出せるかみたいなつまらない話にしかならないし。最大公約数や多数決で決まった「売れるもの」に同調できるなら最初からこんなことやってねーよっ。結局私だってほとんど読めなかったわけだけど、それでもここしばらくはみんな北欧の方向いちゃって鼻の頭が冷たくなっちゃってる人たちが(いや私も北欧物好きだけどさ)見向きもしないままスルーして知られないままに終わったかもしれない、俺が読みたいもんを俺が出すんだぜ、ていうやつらの熱い闘いをいくばくかの人にでもお伝えできたのなら自分みたいなもんもいた意味があるというものです。そしてそんな奴はまたいくらでも出てくるのだ。きちんと目を見張って次のチャレンジャーを見逃さないように頑張るのであります。

それでは続いてその辺からのし上がってきた期待の作家たちの作品を次々とリリース中の注目のDown & Outの情報を少し。かのShotgun HoneyがDown & Out傘下に入ったことは以前お伝えしましたが、昨年秋にもう一つDown & Out傘下に発足し活動中のパブリッシャーがABC Group Documentation。ジャンルに関わらない周辺的な作家のすぐれた作品を出版して行くというのが設立の意図。そしてその第1弾として昨年秋に出たのが、日本でも新潮文庫から2冊の翻訳のあるグラント・ジャーキンスの『Abnormal Man』であります。現在Kindle版はキャンペーン中で300円台とお安めになっているので、気になる人はお早めに。そして第2弾としてAll Due Respectからも作品の出ているPulp ModernのAlec Cizakの『Down On The Street』がまもなく発売されるとのこと。まだホームページすらないABC Group Documentationなのですが、今後の活躍に期待したい。
そしてもう一つ。現在6月の創刊に向けて、「Down & Out Magazine」の制作が着々と進行中。だと思う。Down & OutからはCrimespree Magazineが出てるじゃん、とお気付きの人もいるだろうが、あちらはデジタル版の発行だけで、編集も別で傘下の会社とかいう関係ではありません。そしてここでDown & Outも自らのメディアを作り、独自の新しい作家・作品を発信して行こうということなのである。目玉としては毎号有名なキャラクターの新作が登場の予定ということ。第1号にはあのリード・ファレル・コールマンのモー・プレガーが登場ということです。とりあえずはこの動きにも期待して注目。デジタル版も発行されるとのことなので、第1号発売の暁には入手し、何らかの形でお伝えしたいものだと、思うだけは思っておりますです。そうだ、やっとDown & Out Magazineのホームページも見つかったよう。まだほとんど何も書いてないけど…。

Down & Out Magazine

あと最後に少しOolipoなどの情報を。私以外に日本で注目している人がいるのかもわからないここでだけすっかりおなじみ(のはず)のOolipoですが、遂に本格運用で販売が始まりました!と言っても現在のところはずっとエピソード1がフリーで読めるようになっていたいくつかの作品の続きが販売され始めたぐらいのところなのだが。あといくつかあったドイツ語のやつが無くなって英語のだけになっているのだけど、そっちは本国のみでの発売なのかな?いや、どうせあってもドイツ語読めないのだけど…。販売方法は予想通りで、各エピソード単体とシーズン全体の形で販売され、シーズンで買うと少しお得というところ。○○Creditsという単位で販売されていて、100Credits = 1ドル(現在iOSでは120円)で購入しショップ内で使うという形になっています。価格の方はとりあえず今のところは400~900円ぐらいのe-Bookとあまり変わらないところになっています。現在もエピソード1はフリーで読めるのでいくつか読んでOolipo特集でプッシュしたいとも思うのだが、今はちょっと余裕が…。しかし需要があろうがなかろうが知ったことかという人であることは今まで述べてきた通りなので、やりたかったら勝手かつ強引にやるものです。
あと前に書いたジェームズ・パタースンのBookshotなのですが、こちらもアプリが出ており日本でも使うことができるのに少し遅れて気付きました。こちらでは発売中の全作がこちらで購入でき、プレビューを無料で読むことができるそうです。まだ読んでないのだけど。ただこちらは肝心のwithの作家名が見られないのが難点か。いや、パタースンさんの作品が読みたくないとか言ってるわけじゃないけど。インストールし、アカウントをちゃんと作ると世界のパタやんからメッセージのメールが届くよ!あとGreat Jones Streetもほぼ毎日作品が増えて頑張ってるよ。Anthony Neil SmithやRob Hartの短編も無料で読めるんだぜっ!などなどでした。


うーん、これで2週間のスパンか。まだまだですがいくらかは復帰してきましたのでまた頑張る所存です。なんかAdam Howeについてはまだ誉め足りん気もする。みんな読んでね!テレビ東京のお昼の海外ドラマの後のジャパネットのお姉さんが割と好みな気がしていたが、録画したのを早回しでパタパタ動いてるのがかわいく見えていたのだと気付いたりする日々を送っております。ではまた。



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