2015年4月26日日曜日

The St. Paul Conspiracy -刑事McRyanシリーズ第2作-

以前時系列的には最初の作品となる中編『First Case』を読んでの感想で、ちょっと自分的にも中途半端で歯切れの悪い感じになってしまって、なるべく早く長編の方を読む、と言っていたRoger Stelljesの刑事McRyanシリーズ第1長編『The St. Paul Conspiracy』をやっと読みました。時系列的には2番目になりますが、書かれたのはこちらが先で、Roger Stelljesのデビュー作です。

では前回の繰り返しになりますが、まずはMcRyanのキャラクターから紹介しましょう。

Michael McKenzie "Mac" McRyanは、ミネソタ州セント・ポール警察の殺人課の刑事である。彼の家系は代々の警察官一家。亡くなった彼の父親も、有能な殺人課の刑事だった。彼自身は、ハイスクール時代のホッケー選手としての活躍が認められミネソタ大学に進学しさらにロースクールへ、と弁護士への道を進む。同じく弁護士を目指す大学時代の恋人とも結婚、大手弁護士事務所への就職も決まったある日、やはり警察官になっていた2人のいとこの殉職の悲報が届く。Macは自分の進むべき道に気付き、弁護士への道を捨て、故郷セント・ポールに戻り警察官への道を進み始める。

…と、前回の文章を丸々コピーですが、その後、弁護士という成功の道を捨て警察官になったことに不満を持つ妻とは離婚することになり、その経緯は『First Case』の中で描かれます。セント・ポールはミネソタ州の政治の中心地であり、今作からはそちらも大きく関わってくるようになります。


ハロウィンの夜、TVの人気女性レポーターが自宅で絞殺される。翌朝発見者のハウスキーパーの通報を受け、McRyanは現場へ急行する。折りしもセント・ポール市内では連続レイプ絞殺魔による犯行が続いており、犯人逮捕にこぎつけられない警察への行政、マスコミからの圧力は高まっていた。なんとか実績を挙げたいと願う市警察上層部は、まだ若手ながらその能力を大きく評価するMcRyanに事件を担当させることを決定する。

捜査を始めたMcRyanはすぐに殺害されたレポーターClaire Danelsが、上院議員Mason Johnsonと関係を持っていたことを知る。死亡推定時間のまさにその時、彼がClaireの住居から出てくるところも目撃されていた。政治絡みに拡大して行く事件に、地方検事局などの思惑も複雑に絡み始める。だが、すべての証拠がJonson上院議員を指す中、McRyanは微かな違和感を感じ始めていた…。

そんなMcRyanたちの捜査を影から覗ういくつかの目があった。謎の”ボス”の指示で動くコードネーム”毒蛇”ら数人のグループ。実はすべての犯行は彼らの手によるものだった。彼らの目的は何か?そして、その背後でいかなる陰謀が進行しているのか?


まず、私はこの本を楽しく読んで、キャラクターなども結構気に入っているということは最初に書いておきます。どうもちょっと否定的なことを書いたり、否定的ととられかねないような文が続いたりしますので。
まずは少し気になったことから始めると、あらすじ紹介の中でネタバレに見えるようなことを書いてしまっていると思った人もいるかもしれませんが、実はこの作品、まず冒頭で謎の”毒蛇”がClaireを殺害する犯行の様子から書かれていて読者にはあらかじめこの事件が上院議員の手によるものではないことが示されているのですよね。こういう主人公の視点と別に謎の犯人の視点が交互に出てくるという手法はよく見られるのですが、これが効果的なのは主人公、あるいはメインのストーリーがその犯人を素性・所在は分からないままでもきちんと追っている場合や、あるいは最初はまったく関係ないように見えて次第につながりが見えてきてどこでその流れが主人公のストーリーと交錯するのか、と思わせる場合などがあると思うのですが、この作品ではそれがうまく作用していないように思われます。この作品では、その後も度々”毒蛇”が暗躍するのですが、かなり後半になるまで捜査当局はそのような存在がいることに全く気付かないという状態で進み、それが逆にサスペンスを削ぐような形になってしまっています。ストーリー自体の欠陥というよりは、その手法を選択してしまったゆえの結果で、そこは少し残念に思いました。
それからこれはそれほどの欠点というほどのものではないのですが、暗躍する”毒蛇”はずっとあるものを捜索しているという状況が続くのですが、作者Roger Stelljesは多分長年のミステリー小説・ドラマなどのファンなのでしょうが、サービスとしてのルールに忠実で、その隠し場所は割と最初の方から示されていたりするのですが、あまり引っ張られるとしまいには「志村!うしろ!」みたいな気分になってきてしまいます。まあこの辺はデビュー作ゆえの愛嬌と見るべきでしょうね。

そんなわけで序盤辺りは少し乗りにくい感じはあるのですが、中盤もう一つの事件連続レイプ絞殺魔をMcRyanを中心とする刑事たちが追いつめてゆく辺りはかなり読みごたえがありました。また、終盤の映画やTVドラマを思わせるような追撃シーンはスピード感もあり迫力満点でした。全体的にはとても楽しく読めた小説でした。

このシリーズ、感想の中でもちょっとその方向で書いていたように、ハードボイルドといっても「チャンドラーの衣鉢を継ぐ」などというよりは、TVとかで見た刑事探偵ものみたいなのを書きたいなあという方向の作品だと思います。でも私はそういうのが悪いとは全然思わなくて、そういう観念的なことは団塊世代の気難しがり屋先生あたりがどっかで勝手に踏ん張っていればいいので、こっちとしてはむしろコジャックやジム・ロックフォードやナッシュ・ブリッジスや工藤俊作の衣鉢を継ぐシリーズがどんどん出てきて楽しませてくれるといいなと思うのですよね。この小説はTVドラマのように、悪い奴らがすべて綺麗に一掃されて終わります。最後にかっこいいMcRyanのテーマみたいなのが流れるのを思い浮かべながら読み終わるのがいいですね。

この作品は米Amazonのkindle Storeでハードボイルド・ジャンルでも販売されていたので私はハードボイルドとして書きましたが、まあ日本では今はそちらの方が受けが良くてジョー・ネスボのハリー・ホーレあたりでもそのレッテルで出ているわけだし警察小説ということになるでしょう。このMcRyanはボッシュや鮫島のように警察内に敵だらけということはなく、上層部から現場の刑事までみな一丸となって捜査に挑み、今後もパートナーの老Dick Lichを始めとする同僚刑事の面々との楽しいやり取りが続いていくことでしょう。また、この作品から登場する女性検事補Sallyとの恋の行方も楽しみ。と、お約束で書きましたが、まあそういうことに縁のない私ですので本音を言えばそんな場面まで辞書を引きながら読むのはかったるいのでどうでもいいです。この作品中でも少しほのめかされていたようですが、名刑事であったMcRyanの父の死の真相についてもこれから書かれてくると予想されます。あと、弁護士である別れた元奥さんも今後敵として再登場するのではないでしょうか。などと今後の展開もいろいろと楽しみなシリーズです。

ミネソタ州在住の作者Roger Stelljesは、その後も本業の弁護士を続けながら昨年7月にはシリーズ第5作『Fatally Bound』をきちんと発表しました。えらいなあ。現在は引き続き次作を執筆中とのことです。前にも書いたけどこのシリーズを読み始めようと思うなら、中編『First Case』とこの『The St. Paul Conspiracy』、次の『Deadly Stillwater』がセットになった『First Deadly Conspiracy Box Set』がお得ですよ。

Roger Stelljes公式ホームページ


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First Case -警察ハードボイルドMcRyanシリーズ-

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2015年4月19日日曜日

Valiant その3 -Archer & Armstrong-

その2をやったのがいつだろうと見てみたら去年の10月…。なんとか続けようという意思だけはあるので気長に見守ってやってください。しかしなんとかもう少し頑張らなければ…。

というわけでValiantその3はこちら『Archer & Armstrong』となります。新生Valiantから2012年5月にまず『X-O Manowar』がリリースされ、6月に『Harbinger』、7月に『Bloodshot』、そして続いて8月に4番目の作品として出たのがこの『Archer & Armstrong』です。


少年は今日、生まれ育ち、自分を鍛えてくれた施設から旅立つ。父、母、そして兄弟たちに祝福されて。少年の名はArcher。彼は、産まれてから今日まで信じてきた教義のために、そして自分を育ててくれた教団のために、ある栄光ある任務を果たすために旅立つのだ。その任務とはある男の暗殺…。

初めて見る大都会に戸惑いながら探索を始めるArcher。出立前に手渡された”聖なる遺物”が指示された地区に入るにつれ輝きを増し、ある酒場へと彼を導く。混雑した店内に入ると、遺物はさらに輝きを増し、ある方向に向かって光を伸ばす。その先にいる人物を標的と見做し、襲い掛かるArcher。店内はたちまち混乱に。優れた身体能力で戦うArcherだったが多勢に無勢。その時、店内にいた巨漢が加勢に入る。騒ぎが収まり再びArcherが遺物を出してみると、実は光が指していたのはその巨漢。彼こそが標的の男、Armstrongだったのだ。

今こそ聖なる任務を果たすとき、と勇んで戦いに臨むArcher。だが、その時店内にガスが放り込まれ、2人はともに意識を失いマスクをかぶった謎の集団に連れ去られる…。

Archerが目を覚ますと、そこは謎の建物の中の一室、壁に鎖で縛られたArmstrongとともに監禁されていた。室外に脱出したArcherが見たものは異様な獣の仮面をかぶった者たちによるセレモニー。そして、彼らとTV画面を通じて話す両親の姿だった…。

Armstrongは、遥かな太古、強大な力を得られるが世界のバランスを崩す危険な装置Boonの発動を阻止しようとして、それに巻き込まれ、不死人となった男だった。以来彼は、その力を得ようとする様々なものの手からBoonを守りながら、1万年以上の時を生きてきている。そして、今また、Archerを育てた危険なカルト教団がその力に手を伸ばしてきている…。

自分を育ててきた教団の真実を知り、絶望するArcher。ただ生贄にされる時を待つばかりとなっていたその時、まばゆく光る天使が現れ、彼に告げる。「Armstrongを助けるのだ!」再び力を取り戻すArcher。そこに自力で脱出したArmstrongも現れる…。

こうしてこの奇妙な二人組の冒険が始まる!


1万年以上を生きる不死者ではあるのだけど、見た目も中身もいい加減な太鼓腹の酔っ払い親爺であるArmstrongとひたすら生真面目な少年Archerという非常にわかりやすくボケとツッコミを配した形のコメディタッチのストーリー。ライターを務めるのはFred Van Lente。2005年にRyan DunlaveyとともにEvil Twin Comicsを立ち上げ、代表作でもあるノンフィクションコミックAction Philosopherを発表するとともに、同年頃からマーベルでライターとして仕事を始め、数多くの作品を手掛けています。映画化された『Cowboys & Aliens』の作者でもあります。要注目ライターのひとりであり、できれば少し他の作品も読んでから望みたかったところもあるのですが、ちょっとそこまでの余力がありませんでした。それ程片手間では済まなくてある程度腰を据えて読まねばぐらいのライターでもあるわけで。いずれまた他の作品について書くときも遠からず来ると思いますので。しかし後でも出てくるのだけど今回は色々足りないところも多かったりするのですが、とにかくあとから補完するつもりででもやらないとさっぱり前に進まないものなので。とりあえず、この作品に関しては、コメディタッチを基調としながらも時には少し複雑だったりもするストーリーを非常にテンポよく読ませる並々ならぬ実力を感じさせるライターです。最近の仕事はValiantとDark Horseが中心のようで、David LaphamとかスゥイアジンスキーとかもあるしDark Horseももっと頑張って読まなければ。
立ち上げ時の作画はClayton Henry。ジャマイカ生まれのアメリカ育ちで2000年頃から主にマーベルで活躍してきたアーティストのようです。正確なデッサンときれいなラインで迫力のある動きを描きつつ、細かい動作や表情なども丁寧に描く実力のあるアーティストです。ちょっと下世話な話になってしまうけど、こうやって新生立ち上げ時からValiantが実力のあるライター、アーティストをガンガン起用して来るのを見ていると、やっぱり今のアメコミって映画やらデジタルやらで結構バブルなのかな、と改めて実感したり。それでこういうのも必然的にいずれは収束するのかなあ、なんて思ってしまったりもするけど、まあとりあえずは今そういう時に色々なものを読めることを幸いと思っていればいいかな。それまで生きてるかもわかんないですしね。

この主人公のひとりArmstrongには弟がいます。というか実は3兄弟です。第1号の冒頭、Armstrongが不死でなかった太古の昔、死んでしまった末弟のGiladを生き返らせるために長兄のIvarがBoonを起動させ…というところからこの物語は始まります。そしてこの弟Giladもまた生き返って不死者となっており、それが『Eternai Warrior』の主人公なのです。そんなわけでその2で次はArcher & ArmstrongとEternal Warriorでやりま~す、などとうっかり書いてしまったのですが、実はまだその本編の方を読んでいません。というのは私がこのValiantの色々なシリーズを横並びにモタモタ読んでいてまだ『Eternal Warrior』が発行される時点まで辿り着いていないからなのです。だってそれぞれのつながりとか結構あるからちゃんと横並びに読まないとねえ。もっと早く読めよ、という話ですが…。
さて、そのEternal Warrior/Giladですが、この『Archer & Armstrong』5号からの第2シリーズで自身のシリーズより一足先に登場します。兄Armstrongとは正反対の生真面目、剛直、一本気な性格で、会った途端見つけたぞこの野郎!と兄弟喧嘩になります。不死者同士の兄弟喧嘩なのでほぼ普通の殺し合いレベルになってしまうのですが。その後は彼らのまた一つの目的であるGeomancerを守りながらカルト教団Nullとの対決に共闘するという展開になります。先の横並び問題で、この『Archer & Armstrong』は今のところ他の作品のラインからは少し離れているようなのですが、この展開の中でArcherが『Bloodshot』『Harbinger』と因縁の深いプロジェクト・ライジング・スピリットとも関係があるらしいことがちらっとほのめかされたりもします。

ここで旧『Archer & Armstrong』の話となるのですが、実はまだそちらも読んでいません…。というのは、実はこちらでも同じく横並び問題が発生してしまいまして…。旧『Archer & Armstrong』と『Eternal Warrior』は同時に始まっているのですが、それがUnityというイベントの中で、先行する『X-O Manowar』『Harbinger』『Shadowman』あたりと繋がっているという事情なのです。まあ、Unity自体はComixologyでも出ていないのもあるので現時点ではちゃんと読むのは困難なのですが、どうせ繋がるならここで横並びにしておこうかと。そんなわけで先行作品を読むのが遅れているのでちょっとまだ手を付けられないということになっております。申し訳ない。
ただ、後から出た前日譚0号はあまり関係ないのでそれだけは読んでみたのですが、それによると、Archerは牧師夫妻の息子として生まれた信心深い生真面目な少年だったのですが、ある日両親の堕落した悪魔的な秘密を知ってしまい、そのことにより両親の手を逃れ、海を渡ってチベットで修業を積み優れた戦闘能力を身に付け帰ってくるのですが、両親はすでに投獄されており目的を失って街をさまよっているときArmstrongとカルト教団の戦いに巻き込まれる、という形で二人が出会うという設定になっています。少し見た限りでは、旧Armstrongは現在のものより少し毒がある感じのキャラクターに見えます。

というわけで今回は何かと欠落の多いことになってしまったのですが、それよりもまずの反省点はこれほど間が空いてしまったことで、とにかく何よりどんどん先へ進めて行くことを考えるべきだと思っております。しかし、その他にも少しまとめて整理してみると自分で見落としていたことも多くて、3兄弟で下の2人が不死者になったのなら長兄Ivarはどうなったの?と今更気付いたり。あっ、最近始まった『Ivar, Timewalker』っていうのがそれなのかな?その1で少し解説してからずいぶん時間が経ち、現行Valiantもずいぶん様変わりしているようなのですが、今の時点では私もよくわかっていなくて、なんとか追っかけながら説明していければいいな、と思っています。今月からはJeff Lemireによる『Bloodshot : Reborn』も始まっていて、しかしJeff Lemireと言えばマーベルのHawkeyeも始まったようだしどこまで大物になるのだろう、早くきちんと追っかけなければ、などと今回は宿題ばかりがたまって行く感じになってしまいました。なんにしても次はなるべく間を空けず早くやって行くつもりです。次回その4は『Shadowman』!いろいろ頑張って行こうという気持ちを込めて、今回はこの言葉で締めようと思います。

つづく!



Fred Van Lente >>writer at large

●関連記事

Valiant その1 -X-O ManowarとHarbinger-

Valiant その2 -Bloodshot-


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2015年4月12日日曜日

The Drifter Detective -流れ者探偵登場!-

Beat To a Pulpから何か読もうと思って、同名のアンソロジーにしようかとも思ったのですが、あまり定期的に出ているようではないので、いくつか出ているこちらのシリーズにしました。Garnett Elliott作The Drifter Detectiveシリーズです。短篇のシリーズなので、第1作『The Drifter Detective』と第2作『Hell Up in Houston』を続けて読んでみました。合わせて100ページぐらいになります。

ではそのThe Drifter Detective 流れ者探偵とは何者なのか?

第2次大戦から帰還したJack Laramieは、私立探偵免許を取ったものの大きい街ではすでにでかい探偵社が仕切っていて商売の余地が無い。そこでポンコツのデソトで時には寝床ともなる空の厩車を引き、あちこちで仕事を見つけながら自分に合った街を探して渡り歩いている。

という男。さて、言われてみればありそうで無かったこの流れ者探偵、どんな活躍を見せてくれるのか?

The Drifter Detective : 2013年
田舎の農場主の問題を解決し、いくらかの報酬を得て、さて、もっと割のいい仕事はないものかと次の町へ向かうJack。だがいくらも進まないうちにポンコツのデソトが音を上げる。今度のはちょっと深刻でしばらくはこの人口3ケタの小さな町で足止めを食いそうだ。よそ者を胡散臭い目で見る連中を気にしながら町の酒場に座っていると、何やら一癖ありそうな保安官が現れる。Jackが探偵だと聞いて仕事の話を持ちかけてくる。石油を掘り当てて富豪となった大農場主が先住民相手の酒の密売にも手を拡げているらしいので調べてほしいとの話だ。早速張り込みを始めたJackだったが、よくよく話を聞くと近くに居留地も無くどうにも怪しい話に見えてくる。そのうち、農場主の身持ちの悪い若い女房も町に現れて…。

Hell Up In Houston : 2013年
依頼された家出娘を見つけてみると、どうも話が違う。金を突っ返してやろうかと依頼主の許へ戻る道すがら、またしてもデソトがいうことを聞かなくなる。今度は場所が悪い。ヒューストンだ。この街を仕切るLameauxからは今度ここで商売をしてるのを見つけたら命はないと言い渡されている。しかし、頼みのデソトが動けるようになるまではここに足止めだ。ホテルに部屋を取り眠っていると部屋に入り込んだ妙な男に起こされた。Frank Grogan、このホテルの探偵。Jackが探偵だと聞きつけ、休みを取りたいので1週間代わりにこのホテルの探偵を務めてくれないか、と持ちかけてくる。ホテルの探偵なんて世界一のんきで簡単な仕事だ、などと調子のいいことを並べる男。車の修理代も困っていたところ。引き受けたJackだったが、たちまちあちこちから厄介な問題が起こり始める…。


時代は第2次大戦後、朝鮮戦争の前のようなので1940年代後半と思われます。舞台は南部。レビューでジム・トンプスンを思わせる、というのもあるのですが、まさにそんな感じで、『ポップ1280』とかの狂気の方向よりも、『ゲッタウェイ』や『グリフターズ』や短篇あたりの腹の読めないしたたかな悪党が渡り合うような感じのノワール色の強いハードボイルド。ちょっと1人称っぽいノリであらすじを書いてしまいましたが、実際には3人称なのですが、常に主人公Jack Laramieの視点に沿って書かれている形です。現在第5作まで出ていて、最初に短篇のシリーズと書きましたが、この先は100~120ページぐらいに増えていき、中編のシリーズと言った方が妥当なのかもしれません。いずれはもう少しボリュームのある長編も書かれることもあるのかも。主人公Jack Laramieが愛車(?)デソトで引いている厩車は時々そこで寝る以外使い道は無いように見えるのですが、今後その由来なども明らかになって行くのでしょうか。なんにしても今後も楽しみに注目していきたいシリーズです。


作者Garnett Elliottはアリゾナ在住で、Beat To a Pulpからこのシリーズの他にSF作品も出版しているほか、『Thuglit』『Blood & Tacos』などのアンソロジーやウェブジンなどに多数の作品を発表している作家です。作家以外には退役軍人のPTSDセラピストという顔もあるそうです。見た目もなかなかタフな感じ。
毎度おなじみ『All Due Respect』にも「disability, inc.」という作品が掲載されています。悪徳精神科医のおかげで懲役を免れている犯罪者たちが、その医者からある仕事を頼まれるが…。The Drifter Detectiveシリーズとも共通する、ユーモアを含みながらかなりダークな感じの語り口のノワールです。

さて、このThe Drifter Detectiveシリーズ現在のところ5作出ているのですが

 1. The Drifter Detective : 2013
 2. Hell Up in Houston : 2013
 3. The Girls of Bunker Pines : 2014
 4. Wide Spot in the Road : 2014
 5. Dinero Del Mar : 2014

このうち第4作Wide Spot in the Roadを1990年に文春文庫からジョー・ハニバルシリーズ『燃える季節』の翻訳があるウェイン・D・ダンディーが手掛けています。ウェイン・D・ダンディーもBeat To a Pulpから作品を発表していて、現在は主にウェスタンを書いているようです。こちらの方もいずれは読んでみたいと思っています。ジョー・ハニバル物も続きが読みたいのだけど、こちらは現在Kindle版はアメリカ国内のみの販売となっています。なんとかならないかなあ。

Beat To a Pulpは現在も続くウェブジン発のパブリッシャーです。同名アンソロジーの他に主にハードボイルド/ノワールとウェスタンを出していますが、それ以外にもSF、ホラーなどもっと広くPulpというジャンルでの出版活動を考えているパブリッシャーです。まだそれほど出版点数は多くありませんが、最近でもAll Due RespectのChiris Rhatiganの作品や、Eric Beetnerのタイトル通り7分冊で発表された後1冊にまとめられた『The Year I Died Seven Times』など、気を引かれる作品の並ぶ今後の活躍が期待される要注目のパブリッシャーの一つです。

Beat To a Pulp



●The Drifter Detectiveシリーズ


●Garnett Elliottの著作


●Beat To a Pulp




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2015年4月5日日曜日

Ferals -David Laphamの超バイオレンス・ホラー・コミック!-

なんか結構前から予告だけしていたDavid Lapham、やっとの登場となりました。Avatar Pressからの18禁指定ハードバイオレンス・ウェアウルフ・ホラー『Ferals』です。
全18話からなるこの作品、6話ずつの3部構成になっており、まずはそれに沿って順にあらすじを紹介して行きます。

【第1部】
 ミネソタ州レイクカウンティの人口482人の小さな町サイプレスで陰惨な殺人事件が起こる。保安官補Dale Chesnuttの友人Markのトレーラーハウスが現場で、血だらけの室内には彼のものと思われる片腕だけが残されていた。後にMarkは近くの山上で身体をズタズタに引き裂かれ腸を引きずり出されたうえ、性器を口に押し込まれるという凄惨な姿で発見される。
陰惨かつ不可解な事件に苛立つChesnuttは、その夜町のバーで奇妙な北欧系の美女に出会う。女の名はGerda。急速に彼女に魅かれて行くChesnuttはバーのトイレで彼女に求められるまま暴力的に交わる。

その夜、Chesnuttは、更にMarkの別れた妻Jackieの許で一夜を過ごす。翌朝、外からの物音に庭に出たJackieに巨大な獣人が襲い掛かる。遅れてChesnuttが駆け付けた時にはすでにJackieはMark同様四肢を引きちぎられてこと切れていた。続いてChesnuttに襲い掛かる獣人。Chesnuttは一撃のもとに打ちのめされる。しかし、騒ぎを聞きつけ銃を手に駆けつけた隣人により獣人は追い払われChesnuttは一命を取り留める。

重傷を負いヘリで移送された先の病院で目覚めたChesnuttは、謎の美女Gerdaも同様の手口で殺害されていたことを知る。そしてその容疑が自分に向けられていることも。自分で事件を解決し、復讐を果たすためChesnuttは病院を抜け出す。
町に戻り、自力で捜査を始めたChesnuttだったが、やがて逮捕され町の留置場に拘留される。そこに再び獣人が現れ、保安官事務所に襲い掛かる。混乱の中、獣人をやり過ごし逃亡するChesnutt。山中を逃げながら、彼は自分の身体が変化していることに気付く。あれほどの重症が早くも治癒し始め、手の爪が堅く鋭く伸び始めている。まるで凶器のように。自分に何が起こったのか?
執拗に追撃する獣人を遂にChesnuttは返り討ちにする。そして、一連の事件の手掛かりと、更なる復讐を求め、彼はGerdaが口にした町、Bergenに向かう…。

一方、獣人の出現で混乱の最中にある町に、2人のFBI捜査官が現れる。まっすぐ遺体安置所へ向かった彼らはGerdaの遺体から子宮を摘出し、いずこかへ向けて送り出す…。


最初の舞台となるChesnuttが保安官補を務める町は、ツイン・ピークスみたいな田舎町です。ちょっと第1部に関してはほとんどネタバレになってしまうのですが、先に進めるためにストーリーの展開とともに明らかになる色々な設定をここで解説してしまいます。
GerdaがやってきたBergenという町は北欧からの血統の子孫である狼人間の一族が隠れ住む町でした。Gerdaはその中で問題を起こし、逃亡してChesnuttの住む町に現れたのでした。彼ら狼人間たちは基本的には遺伝で受け継がれて行きますが、希少な種族のためもう一つ血族を増やす方法を持っています。それは一族の女性と性交すると感染という形で相手を狼人間に変える能力です。Gerdaは一族からの追手がかかることを予期していたので自分を守るための人間を求めていて、最初に選んだのがその結果獣人に惨殺されたMarkだったのです。そしてGerdaが次に選んだのがChesnuttで、こうして彼は狼人間に変化しながら事態に巻き込まれて行くことになります。
追手の獣人ですが、これは一族の人間がその獣人の血を飲むことで変身した姿なのですが、この変身は不可逆で、一旦獣人に変わったら元の姿に戻ることはできず、強力な力は得られますが人間性を失ったモンスターと化します。
狼人間に変化した者は常人に比べ力も強くなり凶暴性が増すのですが、この主人公Dale Chesnuttは元々ちょっとヤバイ性格の人で、それが更に凶暴化しBergenに乗り込んでいって町の一族と対決します。結果またしても危機に陥るのですが、秘かに捜査を進めていた2人のFBIが現れ、救出されます。

【第2部】
 FBIに救出されたChesnuttだったが、その結果半ば強制的に、米国内に他にも多く存在する狼人間たちの秘密捜査に協力させられることになる。そして彼は女性捜査官Piaと夫婦を装いワシントン州Green Georgeという狼人間の街へ送り込まれる。山中で彼は獣人軍団を従え、町の住民からも怖れられるある種カリスマ性を持つ人物Rikkardと出会う。Rikkardの暴走が、隠れ住むことで存続してきた一族の存亡にかかわると危惧する町の住民たち。しかし、事態は軍隊を伴った政府の介入へと発展する…。


【第3部】
 軍隊によって封鎖されたGreen George。連れ出された狼人間による恐ろしい人体実験が始まる。事態の拡大に政府はGreen Georgeの住民をカルト・テロリストとして始末しようと動き始める。一方で一族の存亡のため、狼人間の長であるViggoが暗躍し始める。そして、近隣の町に獣人の大軍団が襲い掛かる…。



版元のAvatar Pressは、そもそもはいわゆるバッド・ガール物のコミックを多く出版していたところですが、近年一切の編集サイドの規制を行わないという方針で実力派のライター、アラン・ムーア、ウォーレン・エリス、ガース・エニスなどを呼び寄せ、その作品で頭角を現してきたパブリッシャーです。そしてその中の一人がこのDavid Laphamです。

David Laphamは1990年代初頭から旧Valiant Comicsでペンシラーとしてキャリアを始めます。その後もJim ShooterのDefiant Comicsで仕事をつづけた後、自らのパブリッシャーEl Capitan Comicsを立ち上げ、代表作でありアイズナー賞も受賞した『Stray Bullets』などの自作を自費出版し始めます。しかし、『Stray Bullets』は2005年にIssue 40を持って一旦中断。そして同年頃からマーベル、DCなどでライターとして活躍し始めます。…まあ誰もが考える理由としては、金が無くなったというところでしょうが…。そして、2011年から2013年にかけてAvatar Pressから出版されたのが、この『Ferals』です。

そのような経緯でAvatar Pressから18禁として出版されたということで、内容的にはバイオレンスとセックスの嵐ではありますが、そこはポルノというわけではないので、エロ描写的には日本の大人向け劇画誌ぐらいのものです。作画のGabriel Andradeの画がちょっと劇画調にも見えることもあり、日本のバイオレンス・コミックの金字塔、梶原一騎原作による『カラテ地獄変』あたりをイメージしてもらうのが分かりやすいかと…え、旧くてイメージできない?ゴア描写に関してはかなり過激で、人体を骨ごと引き裂き、内臓を引きずり出すという凄まじい描写が繰り返されます。今どきの日本のマンガ誌ではまず無理な表現です。しかし、見どころはそちらばかりではなく、物語の展開・拡大につれ登場してくる様々な人物の思惑・憎悪が交錯して行くストーリーは、大人向けコミックとして読み応えのある作品に仕上がっています。

まだほかの作品を読んでいないので、とりあえずはこの作品に限っての話になりますが、David Laphamの特徴的な手法として、文字情報に極力ナレーションなどの使用を避け、セリフによって進めて行くというものがあり、これによりこの作品はかなりリーダビリティの高いものになっています。まだほんの冒頭ぐらいしか読んでいないのですが、代表作『Stray Bullets』でも同様の手法が使われているようです。また『Hell Boy』のマイク・ミニョーラのライターとしての近作、『Baltimore』を読んでいて、例えば場面転換の風景のみのコマでライターならばナレーションを入れた方が流れが良くなると考えるようなところを画のみで進めるといったような同様の手法を感じました。やはり両者に共通するペンシラー、アーティスト出身ならではの考え方ではないかなと思います。ただ、一方でそういう経験のないロバート・カークマンも『Walking Dead』で同様の手法を使っているので、もしかするとアメリカのコミックの中でもう少し広がっている考え方なのかもしれません。翻訳のある『Walking Dead』はそのまま日本のマンガと比較すると文字情報が多く感じられますが、英語で読むと他のコミックに比べてかなり早く読めます。しかし実際にはカークマンのコミックは『Invincible』も含めてずいぶんセリフが多くて長いのですが。これが近年の傾向なのかはわかりませんが、私の注目するライターには作画も手掛けた作品から入ってきた人が多いようなので、今後はこの辺にも注意しながら読んでいこうと思っています。

さて、その後最近のDavid Laphamについてですが、2014年に『Stray Bullets』がImage Comicsから発売されることとなり、残りのIssue 41を完成させシリーズを完結させた後、続いて『Stray Bullets:Killers』を全10話、更に今年からは『Stray Bullets:Sunshine & Roses』を開始と、現在はこの作品に注力している様子です。私もやはりDavid Laphamはこれを読まなければ始まらないと思い、やっとで読み始めたところですが、トランクに死体を積んだギャングの車が深夜の路上でパンクするという冒頭からかなり期待できる作品に間違いありません。David laphamの作画に関しても、人物の姿勢や構図からもキャラクターを表現するというような、画の方でもただならぬ実力を感じさせるものです。私的にはすでに例の「もったいないのでおろそかには読めない作品」に指定されてしまったので時間はかかると思われますが、なるべく早く中間報告でもお届けするつもりです。
その他の最近の注目作としては、Dark Horseから昨年『Juice Squeezers』という作画も担当した4話+1のミニシリーズが出ています。ホラー系なのかなと思っていたら最近のDark Horseのデジタル・ショップであったキッズ・コミック・セールに入っていたりもしました。Dark Horseからは他にもギレルモ・デル・トロ/チャック・ホーガンの『Strain』のコミカラゼーションの脚色も手掛けていて、これなんかは原作と読み比べてみると面白いかなと思っていたりもします。

ところでこの『Ferals』なのですが、じつはまだ完結していません。第3部終盤になり話は拡大し盛り上がって行くのですが、Rikardoは姿を消したままだし、Viggoは陰で動くばかりであまり出てこないし、これで終わるのだろうかと思っていると案の定、最後に”To Be Continued in 2014 in Ferals : Unleashed #1”の文字が現れました。2014年とありますが、しかし現在に至るまでまだ続編は描かれていません。David Laphamの方では2014年から『Stray Bullets』が動き始めてしまったので、今はこちらの方に割く余裕が無いのでしょう。しかしここまで持ってきた話なので、いずれまた必ず続きが描かれるだろうと期待しております。それともまたLapham氏がお金に困るのを期待した方がいいのかな?


David Laphamオフィシャルサイト

Avatar Press


●Ferals



●その他のDavid Laphamの作品




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