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2018年12月20日木曜日

パスカル・ガルニエ / パンダの理論 -珠玉のフレンチ・ノワール-

今回はフランス暗黒小説、パスカル・ガルニエの『パンダの理論』。翻訳作品です。これまで翻訳物は、おまけ的にやってきたのだけど、昨今の遅れから、またそれをやってるうちに更新が遅れてしまうのも何なので、とりあえずはそっちの方も外に出して、こんな感じでやって行きます。
さてまずこの作品に私がいかにして出会ったかというと、しばらく前のことになるのだけど、かのエイドリアン・マッキンティ先輩のTwitterから。
「おめーら、パスカル・ガルニエ読めよ。モテるぞ!」
…と、正確にも不正確にもそんな内容ではなかったと思うけど、もう私の脳内ではマッキンティ先輩はそういうキャラになってしまってるので…。
「えっ、そんな人全然知らなかったっす。フランスの方っすか?先輩のおススメなら絶対読んでみるっすよ!あっしも先輩みたいにモテモテになりたいっす!」
とただちにチェック。英訳版ならなんとかなるかなあ、と調べてたところ、なんと翻訳が1冊出てるじゃないですか!というわけで読んでみたのがこの『パンダの理論』なのです。
こちらの作品、本国フランスでの出版は2008年。日本では近代文藝社から2017年の1月に翻訳出版されている。…のだが、どうも今のところはあんまり売れてなさそう…。私が前にアマゾンで見てた頃には、これを見た人は他に…、ってところには黒柳徹子さんのパンダの本や、パンダの図鑑らしきやつ、これを見た後にはこんな商品が買われてます、とか言うところではその手の心温まるパンダ本とシャープペンの芯とか…。なんか今日見に行ったらもはや何にも表示されずひたすら広い空間が広がっているのだが…。えー、オレ一冊買ったじゃん。あっ、そうか、ワシ以外の人にはワシの買ったものとかが表示されてるのかな?Kindle無料でただちに入手したえっちっぽいマンガとか…。まあもしかしたらフランス文学専門店とかどこかにあるユートピアではテラフォーマーズの最新刊もぶっちぎるぐらいの勢いで売れてるのかもしれないが、ともかく少なくともアマゾン的にはあまり売れてなさそうなのは確か。いや、それはいかんだろうということで、私がプッシュしようと立ち上がったのである!いやまあ…、近代文藝社さんから見れば、こんな奴にプッシュされても有難迷惑も甚だしいかもしれんが、一旦出版されてしまえば誰に何を言われるかわからんのは世の常。場合によっては、マーク・グリーニーに比べればとか、スケールが小さいとか、あの辺がピークだったので終わってよかったのである、などの本当に心無いことを適当に書かれることだってあるのだ。それに比べれば、少なくとも私はこの本に大変感銘を受けているので、基本的には褒めるから。まあ、通勤途上で出前の原付にぶつけられちゃったぐらいに思って、諦めてもらうしかないですな。というわけでパスカル・ガルニエ『パンダの理論』です。

■パンダの理論

男はブルゴーニュ地方の小さな駅に降り立つ。十月のある金曜日。夕方。ただ一人で。駅に人影はない。

男の名はガブリエル。何のためにこの町を訪れたのかはわからない。彼は町のホテルに投宿し、そこから少しずつその町にいる人々と交わりを持って行く。

町の小さなレストランの店主。入院中の妻の容態に心を痛め、妻の母親に預けた子供たちを心配している。店は開けているが、心労で料理を作る気力がなく、開店休業状態だ。
ホテルのフロントの若い女性。孤独な彼女は、ガブリエルとのつながりを求めてくる。
同じホテルに滞在しているカップル。この町に住む病院のベッドで死を待つ父親の許を訪れた男と、その愛人。

ガブリエルは彼らに卓越した腕で料理をふるまい、そして彼らの「不幸」に寄り添い、人々を癒して行く。そして誰もがガブリエルに信頼を寄せ、愛情を抱いて行くが…。


この男が何者なのか、いったいなぜこの町に来たのかも一切語られないまま、物語は進み、読者はこの奇妙な男の行動を追って行くことになる。クッキング・パパ的行動で人々を優しく励まし続けるが、一定の線を越えるまで自分自身の内面に触れさせることは避け続けているように見える。静かな、という調子で語られるこの奇妙な親切な男の物語だが、時折、非常に断片的な彼の過去が物語の合間に挟まれて行く。大変暗く、不穏で、何人もの死にも立ち会っていることもうかがわれる。そしてそれらがこの優しい男の静かな物語に、暗く、不穏な影を落とし続ける。だが実はこれらの断片は最後までパズルのピースのように組み立てられることはなく、最後までガブリエルが何者だったのかをはっきりと知ることはできない。しかし、終盤になり、ある決定的な断片が姿を現し、読者はそれぞれの断片の配置もはっきりしないままにおぼろげな形の核となるものを知る。彼の失ったもの。彼の悲しみ。絶望。そしてそれらがその後の彼の行動につながって行く。彼のそれまでの行動と全く矛盾しない地続きのままに…。そして我らは、彼がそのあまりにも深い悲しみと絶望の谺の中を歩いていたことを知るのである。

タイトル『パンダの理論』のパンダは、まだ序盤のあたりでガブリエルが町のお祭りの射的でゲットする大きなパンダのぬいぐるみに由来する。そのパンダが登場するシーンがオビにも書かれているので、ここでちょいと引用させてもらいます。

アザラシの毛でも敷いたみたいに、歩道は光っていた。
夜、雨が降ろうが降るまいが、街の空は黄色だ。
ガブリエルは手にしたぬいぐるみをごみ容器の蓋の上に置いた。
誰でも拾ってくれる人に手を広げ、安心しきって、幸せそうな表情のパンダを。
(中原毅志・訳)

こんな美しい文章で語られる「パンダの理論」が物語を何処へ導くのか?そりゃあ読まなきゃいかんじゃろ。

まあここまで書いてくれば大抵の人は察しはついてるだろうけど、わかんない人のために念のために言っとくけど、この作品一応ミステリジャンルには属しているようだけど、まあかなり「文学」寄りの作品である。謎解きもトリックも一切ないし、前述の通り、主人公ガブリエルの過去の断片も並べ直し、再構成してこれがこうしてこうなったと明確に分かるものではない。と、そういうものを求める人には向いてないという注意で書いてみたが、現実に何でもかんでも前の文のような基準で判断し、前の文まんまで書いて自信満々に「批判」しているバカもホントに後を絶たないよね。「ミステリ」なんちゅうもんの読者の世界では、さる高名な評論家が明言していたように、「純文学乗り」であることが「いちゃもんをつけ」る理由になるのが当然のことのようだしね。もう「ミステリ」ファンお断りぐらいでいいか。どーせ、フランスっちゅうことで「ピエール・ルメートルに比べれば」みたいなこと言い出すのが出てくるのが関の山だしな。…と、いつの間にか結局こーなっちまってるし…。こーゆー奴は読むな、とか言ってちゃプッシュにもなんねえよな…。あ、そうだ、なんかハードボイルドが好きな人にアピールするらしいのがあるから一応やっとこうか。えーっと、パンダのぬいぐるみがホークで、レストランの親父がスーザンね。なんかハードボイルド好きな人にはこの指定が効くらしいよ。んー…、近代文藝社さん、ごめん…。せっかくいい本出したのにね。

パスカル・ガルニエさんに関しては、こちらの本の解説を丸写しで。青少年向けのノベルを書く一方で、この手のノワール小説を書き続けたとのこと。2010年に亡くなっているそうで本当に残念なことです。かくして作者の死後ながらやっと日本にも紹介された素晴らしいパスカル・ガルニエ作品だが、やっぱ他の作品が続いて出るのは果てしなく難しそうか…。しかし、安心されよ、このパスカル・ガルニエ作品、英語では結構沢山翻訳されている。(全部かどうかは不明。)しかも現在はそれらの3作ぐらいずつをまとめたお得な合本が3冊も出ているのだ!さあ皆の衆、パスカル・ガルニエを読み給え。あっしもお陰でモテ度が2パーセントぐらい上がったでゲスよ。マイナス500%がマイナス498%ぐらいに!ありがとう、マッキンティ先輩!
しかしなんだよね、こんないいのを読んじゃうと、フランス本国の方にはこういうヤバいノワールが山ほどあるんじゃないかと期待してしまう。何しろジム・トンプスンを見出した国だし、オイラはボリス・ヴィアン=バーノン・サリヴァンの『墓に唾をかけろ』をオールタイムベストいくつかに入れてたりするものだしな。更に言やあまた一つのコミック大国でもあるわけで、日本じゃあフランスのコミックについて語る人は、とかく「バンド・デシネは芸術である」ばっかなんだけど、こっちは芸術じゃねーのも読みたいんだよって人なのである。うーん、超初歩の段階で錆び付いたままのフランス語を起動すべき時か?とか思うけど、英語で読めるもんも山どころか大陸ぐらいあるという始末で…。うむむ、いつの日にかはどっかの何かにたどり着くのだ、と心に抱きつつ精進を重ねるしかないのじゃ。

さて今回何度も名前が出てきてるマッキンティ先輩だが、先輩の絶対に面白いに決まってるショーン・ダフィシリーズ第2作『サイレンズ・イン。ザ・ストリート』が早川書房からとうに出版されているのは皆の衆もご存じのことであろう。だが…、まだこれが読めてないのだ、実は…。なんか色々ゴタゴタしていてなかなか手を付けられないでいるうちに、うっかり洋書の方で某大作を読み始めてしまい、しばらくは読書時間の大半をここにつぎ込まねばならない、という事態になっており、そっち読み始められるのはそれを読み終わった年明けぐらいか?ということになってしまっておる。いや、誠に申し訳ない。先輩にも合わす顔がないっすよ。だがちゃんと読んだ暁にはなるべく早い機会にそちらについてもちゃんとした感想を書く予定であります。いや、第1作の時はとにかく出たのが嬉しくて浮かれて、ちょいと粗雑な感想だったかもと反省もしているので。ああ、そっちの大作の方もなるべく早くな。ワシ、遂にアレ読んじゃったぞ!(まだ途中だけど…。)
などとモタモタしているうちにもう年末、例のなんかがすごいとかすごくないとかいうのも出る時期になってしまった。どーでもいいけど一応見とこうかな、と本屋でパラパラ見てみたところ、案の定マッキンティ先輩の超傑作が三十何位とか。まあどうせ「読書のプロ」の選んだランキングなんてこんなものだろ。あの辺じゃあハードボイルド読みなんて壊滅しとるしな。ショーン・ダフィも4作目以降は原書で読むしかねえんだろうな、ケッ。とふてくされてたが、なんかふてくされてばかりもいられないんじゃ、と思い始めたり。延々と続くこの惨状を見るにつけ、もしやこのままでは次世代のハードボイルド読みは現れないのでは、と心配になってくる。今や日本の若人が「ハードボイルドとか読んでみようかな。」とか思いついても指針となるものが全くないのではないか。うっかりヤプー知恵袋とか言うところに「おススメのハードボイルドを教えてください」とか書き込んだ罪もない若者がマッチョ説教家畜人の手により『初秋』とか押し付けられて、「こんなクソつまらねーのしかないならもう一生ハードボイルドなんて読まなくていいや。」とかいうことになる次世代ハードボイルド読みの芽を潰すばかりの惨事が日々繰り返されているのではないか。ここは日本で絶滅が危惧されている真性ハードボイルド/ノワールバカの数少ない生き残りである私の手により、21世紀ハードボイルド名作リストくらいのものを早急に作っておく必要がある!だって誰もやってくんないじゃん。オレ勝手にやっちゃうかんね。とは言ったものの、そろそろコミックのことも書かねばならず、まあボチボチという感じでしか進まなそうだが、何とか正月休みなども活用しつつ、そっちと並行しつつ、年明け早いぐらいの時期までには発表するのでお楽しみに。いや、あんたがお楽しみにしなくても勝手にやる!そんなわけでこれからちょっと忙しいので今回はこの辺で終わります。さいなら。



■パスカル・ガルニエ/パンダの理論

■パスカル・ガルニエ英訳版

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2018年12月2日日曜日

Polis Books新世代ハードボイルド探偵シリーズ特集 #2 -Dave White / The Evil That Men Do-

前回に続きましてPolis Books特集、第2回はDave WhiteのJackson Donneシリーズ第2作『The Evil That Men Do』です。前回のAlex SeguraのPete Fernandez同様、20代くらいのニュージャージーの若き私立探偵。元警官なのだが、潜入捜査中ある問題を起こし、警察署内全体を敵に回す形で辞職。この辺は前回は書いてなかったけど、このくらいまではバラしちゃってもいいか。そして私立探偵事務所を立ち上げるが、警察の方からはかなり恨まれていて、チャンスがあれば何時でも潰そうぐらいに思われている。特に元相棒Bill Martinからの怨恨は深い。なかなかうまくいかない私立探偵稼業に見限りをつけ、大学への復学を考えている。という状況から始まったのが前作、Jackson Donneシリーズ第1作『When One Man Dies』。そして、前作では年長の元俳優の友人の殺害事件を調査しているうちに、ニュージャージーに巣食う闇に巻き込まれ、その中で絶好のチャンスと待ち構えていたBill Martinに私立探偵免許も取り上げられてしまう。事件は解決し、ひとつの真相にはたどり着いたものの、あまりにも多くのものを失い、そしてまた一つ心に深い傷を負ったJackson Donne。現在は大学への復学への意欲も失い、夜警の仕事で家賃と酒代を賄っている。というところでこの第2作は始まります。

■The Evil That Men Do
無気力になり、ただその日を漫然と暮らしているだけになっているDonneのアパートを、姉Susanが訪ねてくる。遠く離れて暮らしているわけではないが、様々なわだかまりにより家族と距離を置いているDonne。姉の顔を見るのも随分と久しぶりになっている。
「母さんがもう長くはないわ…。」
かなりの歳になってからSusanとJacksonを生んだ母。高齢でアルツハイマーを発症し、入院しているということだ。
「母さんがずっと私たちが聞いたこともないことを話しているの。母さんのお父さん、私たちのお祖父さんについて…。本当なのかわからない、でもあなたなら…。あなたは探偵でしょう。」
俺はもう探偵じゃない。できることなんて無いんだ。俺は忙しいんだ、もう帰ってくれ。
「お願い、助けてよ。母さんはもうそのことしか話さない…。お祖父さんは殺されたって…。」
だがDonneの心は動かない。今更俺に何ができるっていうんだ…。

シリーズ第2作は、こうしてDonneの家族が関わる事件として始まって行く。そして、実はこの始まりの前に短いプロローグがあり、そこではSusanがDonneに調べてくれと持ち掛けた彼らの祖父、Joe Tenantを主人公とする物語が始まっている。

-1938年-
埠頭ではしけの船頭として働くJoe Tenantは、ある夜勤明けの朝、海岸でギャングと思しき男たちが一人の男を殺害する現場を目撃する。そして彼はそこからニュージャージーの政財界の陰に潜む暗黒に、愛する家族もろとも巻き込まれて行くことになる…。

今作では現代のDonneの物語の合間に、度々この1938年の祖父Joe Tenantの物語が挟まれる形で展開して行くことになる。

そして一方、現代のDonne。
Donneの倉庫での夜警の仕事の最中、Susanの夫Franklinが訪ねてくる。地元では有数の資産家の息子で、Susan、Donneとも同じ学校に通っていた幼馴染とも言うべき間柄だが、子供の頃からDonneとはそりが合わない。現在も近郊に数件のレストランを経営する事業家だ。
「姉さんを助けてやれ。」
そしてFranklinはポケットから小切手帳を取り出す。
「お前の料金は幾らだ。」

こうしてDonneは今回の事件に関わって行くことになる。
一方、この義兄Franklinは時を同じくし、謎の人物から脅迫を受け、法外な額の金を要求されていた。やがてそれは彼のレストランの一つの爆破という現実の脅威となり、更に彼自身の身を危機にさらす事態へと発展して行く。思いがけぬ様相を呈してきた家族の事件に、Donneも巻き込まれて行くことになる。そして、その事件は病床の母がうわごとのように語る過去に祖父が巻き込まれた事件に端を発するものであることが見え始め、家族の一人であるDonneも当事者として関わらざるを得ないことになってくる…。

第1作『When One Man Dies』では、しきりに破滅型を強調していたJackson Donneなのですが、今作では事件を通じて失われかけていた家族とのつながりを取り戻す、という前向きな方向に。前作ですべてを失い、無気力になっていた今作の始まりから考えると、立ち直り、再生といった物語となって行きます。しかしながら、この先からは少しななめ読みしたぐらいのレビューからも、苦難の破滅型としての道を歩いてゆくことがうかがわれたりするのですが。少し例外的な初期方向性に迷ってたあたりの作品なのかもしれません。とか言ってると何か失敗してる作品のように聞こえてしまうかもしれないが、別にそういうことではないのだけどね。
前作について以前書いた時、自分でも珍妙なこと言ってるな、と思いながら、この作品はミステリだから、としきりに強調していたのですが、この第2作を読んでやっとわかった。要するに第1作は構成やらテンポやらがあまり上手くなかったのだ…。戻って1作目について説明すると、かなり偶然の一致としては不自然というようなことが続き、それは最後ではそれぞれに必然であったことがわかるし、そこでタイトル『When One Man Dies』の意味が響いたりもするのだけど、どうも当の主人公Donneがそれをあまり不自然に思わないまま話が進んで行く感じがあり、それが理由で途中でぶん投げられたりしないだろうか、というのが心配になりちょっと珍妙な但し書きを連発してしまったというわけなのですよ。最後まで読んでみると、結構ロス・マクドナルドかも、みたいな感じもあり、そりゃもったいないだろ、ちゃんと最後まで読んでよね、という気持ちが強く表れたというようなものなのでした。しかしまあ、この第2作を読んでみて結局そういうのって色んな所があまり上手くないところから見えるスキなのだな、と気付いたり。ホントのところ言っちゃうと、今作では過去と現在をつなげるというところがちょっと強引なところもあったりもするのだけど、読んでる間はそんな無粋なツッコミを入れる気にならないぐらいにサスペンスで引っ張って行きます。いや~Whiteさん腕上がったじゃん。何度でも繰り返して言うが、第1作はそんなちょっとした欠陥があっても読むべき価値のある作品であり、そしてこの第2作は勢いのある展開で引っ張り、見せ場のアクションシーンの舞台仕立てなんかも1作目同様に上手い。さあますます腕も上がって先も楽しみなDave White、Jackson Donneシリーズ!読まなきゃ損だよん。

Jackson Donneシリーズは現在まで5作が発表されており、最新作は昨年出版の『Blind to Sin』。今作『The Evil That Men Do』は、2008年に一旦出版された後、しばらくの雌伏期を挟み、2014年に第1作『When One Man Dies』とともにPolis Booksより再リリース。そして翌2015年からシリーズも本格再開され、以後年1作ペースで出版されてきたが、今年はお休み。しかしご心配召されるな。ご覧のようにここまでも苦節を重ねながらも続けられてきたシリーズ、多少のインターバルはあってもまたすぐに戻ってきてくれるはず。それにしても最新作『Blind to Sin』のあらすじの最初辺りをちょこっとカンニングしてみたところ、その第5作ではDonneは遂に刑務所で懲役を務めているらしい。いやはやDonneさんも今後はかなりの茨の道を進むことになるようですね。
作者Dave Whiteについては第1作の時に書いたので…、とちょっと手を抜かせてもらおう。まあ相変わらずニュージャージー在住で、Rutgersとバスケットボールをこよなく愛するナイスガイ。よくわからないのだけど、まだ学校の先生は続けてるんじゃないかと思う。
Dave Whiteのホームページ、いつの間にかリニューアルされてて、URLも変わってたので、新しいのをリンクしときます。長編のリストには、前作の時に内容不明のままちょっと書いた「幻」の第1作『Borrowed Trouble』もとりあえずそのまま載っけています。でも多分これがこのままの形で復刊することはないのではないかなと思うけど。短編の方は、前回の時以前のDave Whiteのホームページに載ってたのを写してきたやつなのだけど、一部はリンクが無くなっちゃっていました。多分これは以前のホームページにあったやつかな?あと、Jackson Donneシリーズは最近お得な1~3作合本も出ています。

Dave Whiteホームページ

■Dave White / Jackson Donneシリーズ
●長編

  1. Borrowed Trouble (2001; Rutgers; 絶版)
  2. When One Man Dies (2007)
  3. The Evil That Men Do (2008)
  4. Not Even Past (2015)
  5. An Empty Hell (2016)
  6. Blind to Sin (2017)
●短編
  • God Bless the Child (March 2000, The Thrilling Detective Website)
  • More Sinned Against(March 2002, HandHeldCrime.com--UPDATED, Reprinted at David White's Official Website, May 2005)
  • Closure (Autumn/Winter 2002, The Thrilling Detective Website./Winner of the Derringer Award for Best Short Story of 2002.)
  • Get Miles Away (Summer 2003 The Thrilling Detective Website.)
  • God's Dice (Spring 2004 The Thrilling Detective Website.)
  • Darkness on the Edge of Town (Summer 2004 The Thrilling Detective Website.)
  • Reptile Smile (February 2005 Shred of Evidence.)
  • My Father's Gun (2006, Damn Near Dead: An Anthology of Geezer Noir)
●その他
  • Shallow Grave: A Pete Fernandez/Jackson Donne Joint (2017) Alex Seguraとの共作


さて、2回に分けてモタモタとやってきたPolis Books新世代ハードボイルド探偵シリーズ特集もようやっと一区切りなのですが、まあ何とかやっとそのうちの2人目を読めたというところ。時々名前を挙げている仲良しグループ第3の男Rob Hartについても一日も早く読まねばと思うばかりです。ホント読みたい本は尽きず、結局数パーセント読めたぐらいのところでワシも寿命が尽きるのじゃろうな。トホホ。
ところでここでまた持ち出してきた新世代ハードボイルドについては、またちょっと書いておこう。なんか活きのいい若手の探偵ぞろぞろ出てきたじゃん、と嬉しくなってぶち上げてみたのだが、なんかさあ、結局これって日本のみの感覚なのだよね、と気付いた。なんかよう、若手とか言ってみたけど、まあこん位の歳のハードボイルド私立探偵なんてアメリカのハードボイルド・リーグじゃ普通だろ。ところが日本じゃ中年以上の探偵ばかりが人気なのか、もうそう決めつけて「ハードボイルド探偵と言えば中年の独身男と相場が決まってる。」ぐらいのこと断言する奴そこら中にいるし、かつてはハードボイルドは40過ぎじゃないと書けないぐらいのこと言ってた先生もいたわけだしね。実際には日本だって若手の探偵だって紹介されてきたが、ほとんどがそういう連中に無視されてきただけ。ホントにトラヴィス・マッギーなんてやっと半分ぐらいが翻訳されてて、それもかなり昔にほぼ絶版でしょう。図書館とかでやっと見つけたのを読んでたけど、順番出鱈目になってる上にもうどれ読んでてどれ読んでないのかわからない始末。アメリカンから見たら私なんぞ、お前トラヴィス・マッギーもちゃんと読んでなくてハの字語ってんのかい?って笑い物もいいとこかもしんない。ロバート・クレイスだってあれほどアメリカで大人気のハードボイルドっすよ!って言って何度出しても無視されるしね。なんと悲惨な国だ。そんな狭量な認識で「ハードボイルドとは何ぞや」とか別に一切結論が出る見込みもないいらんことを考えた挙句にこじらせて、「現代に於いてはハードボイルド探偵などというものはパロディとしてしか存在し得ない。」みたいなたわごとにたどり着いたりな。そんな救いもない国でいつの間にか歪んだ思想を刷り込まれていた私をも含めたかわいそうな人々以外には、このくらいの歳の探偵は普通なのだろう。実際20代30代ぐらいの方が当たり前に体も動くのだしね。最近でホントに若い探偵として書かれたのは、Ray Banks先生のマンチェスターのアニキ、Cal Innesぐらいのところかもしれない。じゃあどうなの?そっちがフツーなら「新世代」とかいうほどのことじゃ無いんじゃないの?と言われれば、ん~まあそうっすね、というところなのだけど。でもさあ、このPolis Booksの仲良しグループ見てるとさあ、こっからオレたちの新しいハードボイルド打ち出してくんだぜ、って感じの気概が伝わってきてさあ、新世代ぐらいに言って応援してやりたくなるじゃないの。我々みたいにか細くしか入ってこないものを思い込みで捻じ曲げて伝えられるんじゃなく、奴らは好きなものを読んで育ち、そして今はまっすぐにオレのハードボイルドを清々しく書いとるんだよ。よーし、お前らは新世代ハードボイルドだぜ。誰が何と言おうとワシはこいつらを応援すっからね!

ということで今回はこれまで、というところですが最後に文中でもぼやいていた、トラヴィス・マッギーも与えられなかった我が同輩の皆様に、ちょっとお手頃なのを紹介しときます。英国からの1~3巻、4~6巻の合本2冊。こちらの第2集の第4作辺りからは早くも未訳なのではなかったかな?私も前からマッギーぐらいはちゃんと読んどかなければと、モタモタとやっと1作目『The Deep Blue Goodbye』(邦訳題:濃紺のさよなら ハヤカワ・ポケミスより)を読んだぐらいなのですが、前述の通り結構前にかなり雑な感じでしか読めなかったので、読んだやつも含めて一から順に読んで行くつもりです。しかしながら、残念なことにこのお手頃価格の合本シリーズかなり前から続きの出る気配はなく第2集で打ち止めのようで、その先はいつまでたってもちょっとお高い米Random House版で読んでくしかなさそうですね。しかしこれずっとBlack Lizardから出てたと思ってたのだけど…、と調べてみたらBlack LizardがKnopf傘下でさらにその上がPenguin Random Houseなのか。で、いまは親のそのまた親のところから出てるわけね。え~い、ややこしい!もうどうでもいいわっ!昔は合本以外のシリーズももう少しお手頃価格で英国版が出てたのだけど、今は日本からは買えないようです。しかしまあ、そこまでたどり着くのもまだ先か。その時に考えて、その時になんかなと思いつつ高いの買えばいいか…。古くは、本格・通俗って何?え?ハメット-チャンドラー-ロスマク以外全部通俗なの?みたいな雑な分類に始まり、マッギーも含む多くの作品を粗雑に扱っているうちに、「ハードボイルドとはマッチョ説教と認めたり」な勢力が横行の挙句、ハードボイルドについて語る奴なんていなくなった留守宅で、未来にも新しい作品にも全く展望のないノワール原理主義者が我が物顔をしてしまうような救いのない日本のハードボイルド言説の歴史と現状。もう日本のハードボイルド言説に夜明けなんて来ないんでしょうかねえ、天国の小鷹信光大先生。内藤陳大師匠。我らはそんな一切合切をとっととトイレに流し、蓋をして、一旦はトラヴィス・マッギーまでさかのぼりつつ、「新世代」とかも読んで、正しい新たなハードボイルドの道を見つめるのだ!


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■Dave White / Jackson Donneシリーズ
●長編

■その他のDave Whiteの著作

■トラヴィス・マッギー

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