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2015年2月28日土曜日

The Fictional Man -リアルとフィクションに関するちょっとシリアスな考察-

Fictional Manとは何か?それは映画、TVドラマなどの登場人物から作られたクローン人間の事です。この小説の舞台となっている世界では、人間のクローンを作ることは禁止されていますが、架空のキャラクターのクローンを作ることは様々な裁判などを経て認可されています。つまり、田村正和のクローンを作るのは違法だけど古畑任三郎のクローンは作ってもよいということ。この小説はそんな我々のものとは少し違う歴史を持つ、現代まさに2010年代の、多くのフィクショナルが存在するハリウッドを舞台とした物語です。

主人公Niles Golanはイギリス人の小説家。代表作はタフガイ・ノベルのKurt Powerシリーズ。自国で自分の小説が全く評価されないことに嫌気がさし、アメリカ、ハリウッドに移りKurt Powerシリーズの映画化を目論んでいる。アメリカに来てから結婚したが、自らの女性関係のだらしなさから今は離婚して独身。様々な自らの問題解決のために精神分析医のセラピーにかかっているが、その医者は有名な精神分析医が主人公のTVドラマから作られたフィクショナルである。

離婚後、次々と友人を失って行った現在のNilesの友人はやはりフィクショナルのBob Benton。彼は往年の人気TVドラマThe Black Terrorリバイバルのために作られたフィクショナルだったが、シリーズを重ねるうちに自分の望まない方向に変わって行く政策方針と折り合わず、現在は役を降り、アニメーションの声優などで生活している。The Black Terrorは彼に続いて作られた新たなRobert Bentonにより成功を続けている。

Nilesは新たなエージェントを得て、ハリウッドのプロデューサーとの会合を持つ。そこでプロデューサーから提案されたのは60年代のお色気スパイ・アクション映画The Delicious Mr. Dollリメイクのための脚本の仕事だった。それは同時に新たなフィクショナルMr. Dollの産みの親となることをも意味している!喜んで早速親友Bobに自分の朗報を伝えるNielsだったが、Bobの反応は冷ややかなものだった。

勇んで仕事に取り掛かったNilesだったが、60年代の映画を現代にリメイクする困難さにたちまち壁に突き当たる。調査を進めるうちにその映画が更に昔の別のTVドラマシリーズのあるエピソードを原作にしていることを知る。そこを突破口に進めるかと思ったNilesだったが、それは新たな迷宮への入り口だった。悩みながら、親友Bobにも会えずバーを訪れたNilesはそこで奇妙な女性と出会う…。


最初のフィクショナルの設定を読んでこれはフィリップ・K・ディック的な展開になるのかなと思った人もいるのではないかと思います。私もそう考えながら読み始めたのですが、この小説はちょっと違っていました。主人公が自分はひょっとしたら実はフィクショナルなのではないか、というような存在とアイデンティティの危機にさらされることもなく、リアルとフィクショナルの境界が脅かされることもありません。つまり作者Al Ewingのテーマはもっと違うところにあるからです。それはフィクションはリアルを纏うことにより成立し、また逆にリアルもフィクションを纏っているということです。

この小説のストーリーは大雑把に分けて3つの流れがあります。一つは主人公Nilesの過去現在を含めた様々な行動。二つ目はNailesがリメイクのために探索して行く映画The Delicious Mr. Dollの来歴。そして親友のフィクショナルであるBobの存在。
主人公Nilesには現在自分のいる状況を頭の中でナレーションし、物語風に記述して行くという妙な癖があることが冒頭から示されます。まあ簡単に言えば、目の前にいる映画プロデューサーを「話にならん!」と怒鳴りつけて席を立つとか、あまりの怒りに相手をボコボコ殴り倒す、とかいうシーンを妄想するけど実際には何もしない、というようなマンガやアニメではお馴染みの手法ですね。つまり常にフィクション的な自分というものを想像しながら行動している人物であるわけです。また過去の結婚の破綻の原因となる女性関係も自分を現実そこにいるよりも更に魅力的で女性に求められる人間でいたいというフィクション的欲求が原因として説明されます。時には妻への言い訳として作り上げたフィクションを自分で信じてしまうような行動をとったりもします。
映画の元をたどって行く過程はある意味主人公Nilesのストーリーよりスリリングだったりもします。プレイボーイスパイMr. Dollが女性ばかりの暗殺集団と闘うといった映画の原作として、トワイライトゾーン的なTVシリーズの一部でカルト的に評価されるエピソードがクレジットされていて、その間の意味を求めてNilesは当時の関係者の居所を突き止め会いに行きます。ところが当事者の話はNilesが
期待していたものとは異なり、しかし更にそれにオリジナルが存在することが判明し…、というようにフィクションとリアルが交互にせめぎ合っていきます。
主人公Nilesの親友Bob Bentonは造られたフィクショナルでありながら、主人公をも含めた登場人物の中で最も思いやりのある人間的な人物として描かれています。優れたフィクションを作るためよりリアルなフィクショナルとして造られたところから彼の悲劇は始まります。よりリアルなフィクショナルであるがゆえに、彼はフィクションの中から逸脱してしまうのです。
この小説にはもう一つ背景的なエピソードとして「シャーロック・ホームズ殺人事件」というものがありたまたま点いていたTVのニュース番組の中で報道されるという形で語られて行きます。新シリーズのために新たに造られたフィクショナルのシャーロック・ホームズが殺害されるが、衣装を着けていたわけでもなく彼がシャーロック・ホームズだと知る者はいない。過去に造られたシャーロック・ホームズが最近造られた推理能力の低いアクションシャーロック・ホームズをワトスン役に従え捜査に参加し、犯人はこれまでに造られたシャーロック・ホームズ・フィクショナルの誰かであると推理する、というものです。TV画面というフィクション的なものを通じたリアルとフィクションの混沌というエピソードとしてあちこちに挟まれて行きます。

すべてのフィクションはそれが成立するために何らかのリアルを必要とします。また逆に、例えば「本当に会った話」というようなものに惹かれるような人にしても、実際に好むのはドキュメンタリーといったものよりもフィクションというフィルターを掛けた再現ドラマだったりということもあります。そして大抵のリアルに生きている人間でも、嘘というほどのものではなくても、例えば最善の理想の自分というようなフィクションを持つことで生きているのではないでしょうか。この小説に書かれているのはそんなリアルとフィクションの関係です。フィクションはその存在のためにリアルを必要とするし、リアルもまたその存在を続けるためにフィクションを必要とします。そしてこの小説には更に、リアルの側からもフィクションの側からも、その限界を超え境界を越えようとするとき、それは破滅につながる、ということも示されています。

この小説で、主人公Nilesがハリウッドの映画業界で翻弄される様は、コーエン兄弟のやはりハリウッドを舞台にした映画『バートン・フィンク』を思わせました。また、ロードムービーやニューシネマを連想させるシーンもあったけど、そちらは私の手持ちの引き出しの範囲内だけの連想かもしれません。

というAl Ewingの大変意欲的な作品ではあったのですが…えーと、実際小説を読むとなると、まあ色々と人格に問題のある小説家が悩んだりウロウロしたり延々と精神分析医と話したり別れた奥さんに電話でなじられたり過去の女性関係の失敗を回想したりという感じでストーリー的にはあまり盛り上がらない内容でした。それで会話も多く、会話シーンというのは自国語だったらむしろ読みやすいところかもしれませんが、まあ会話というのは曖昧だったりほのめかしというのも多く、苦労して英語を読んでいる身からするとうっかり行方を見失いそうになったりして結構時間がかかったりと何かと読むのに苦労させられた作品でした。意欲作で私的には読む価値のある作品でしたが、あまり積極的にはおススメはできないかと。決して難解だったり読みにくい作品ではありませんが、Al Ewingのストーリーテリングの巧妙さを期待するならやはり『I, Zombie』の方がおススメです。という感じでしょうか。それにしてもSF作品でありいくらでも未来などという形にできるのに、わざわざ違う歴史をたどった現代などという設定までして、フィクションについて書くためにリアルな小説にするなど、Alさん、アンタほんとに厄介な人だね。

最後にこんな厄介な小説を読ませてくれたAl Ewing氏に対する嫌がらせとしてちょっと別方向に深読みをしてみると、この小説が書かれた時期ってAl氏がマーベルで『Mighty Avengers』を手掛け始めたか仕事が決まった頃なのではないかなと思います。Al氏もこの小説のNilesのように「俺の『Mighty Avergers』」を書くために過去の膨大なマーベル作品を調べ、この人物関係は使えるのでは、とか思って調査したり話を聞きに行ったりとジタバタしたのではないでしょうか。もしかしたら彼のそんな経験がこの作品のどこかにも反映されているのかもしれないなと思いながら読んだりもしたのでした。
という流れでこれはいよいよなかなか手を出しそびれていたAl Ewingのマーベル作品に進むしかないな、というところです。うむむ、なんだかカバーを見てても知らない人率が高そうで不安ではありますが。まあここで読むと言ったからにはなんとかここにも書くように努力します。しかし、前回も言ったようにMarvel Nowは全く手つかずで、HickmanやらRick Remenderも読みたいのだが…。あーなんとかしてくれっ(何を?)

この作品は2000ADと同じく英Rebellion社傘下のSF専門レーベルSolaris Booksから出版されました。それまでのペーパーバック・オリジナルのAbaddon Booksから一段格が上がったというところでしょうか。しかしながら、ここしばらくは前述の通りマーベルの仕事に集中しているようでなかなか小説の次作は発表されていません。Al Ewingには小説家としても期待しているのでまた早く何か書いてくれるといいなあと思っています。それまではまだ何作かあるAbaddonの旧作を読むとしよう。しかしこの『Fictional Man』も1周年に取っておいたというよりは『ZOMBO』読むならこっちも読まなきゃみたいな感じだったりするので、次は1年と言わずもう少し早く読むように努力しよう。なんだか最近そんなのばかりですが、まあ、なんとか頑張ります。


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2015年2月20日金曜日

ZOMBO You Smell of Crime And I'm Deodorant ! -ZOMBO第2巻!-

さて、2年目突入の第1弾は初年に倣いこの『ZOMBO』TPB第2巻『ZOMBO You Smell of Crime And I'm the Deodorant !』です!前回はあまりに作家や作品の数が多すぎたので、「どうせ次やるんだからいいや」と思って省略しましたが、もちろんこのAl Ewing/Henry Frintによる『ZOMBO』は私の最大の注目作であります。

では続きを、と思ったのですが、まあ前々から薄々気付いてはいたのですが先日の『Fables』で決定的になってしまった事実として、こういう続き物のコミックなどの場合あまりに前回のストーリーを曖昧にすると次が書けないという問題が発生します。というわけで今後この手の続き物のコミックに関してはある程度ネタバレも含めてストーリーを紹介したり、今回のように後付で説明したりするということになりますのでその辺はご了承ください。『Chew』とかもまた仕切り直さなくては。

というわけで今回を始める前に前回の話として書いておかなければいけないのは、まずはZOMBOの必殺技もしくは秘密兵器の事。これはDeath Shadowといって、手から発生する竜巻のようなもので敵を飲み込みズタズタにして骨にします。原理は不明。これはそもそもは単独の兵器でデスワールド向けに開発されたものでしたが、敵地に送り込んだ途端ゾンビだけを襲うように設計されていたプログラムを逆にされて人間だけを襲うようになっていました。ZOMBOは第1シーズンの惑星でそれと出会い自分の武器として使うようになる、ということでした。
次に第2シーズンですが、TV中継を観てデスワールドを訪れた死にたがりのグループですが、当初はデスワールドでのすさまじい死に様にデスチューブの評価も高かったものの、すぐに飽きられて下がり始め、グループは一緒に行動すれば何か起こりそうなZOMBOとともに惑星を離れ、近くの衛星エプシロン9に向かいます。そこでは辛口の評論家(モデルはいるようだが不明)が主催するパフォーマンス・コンテストが行われていて、またしてもTV中継が。その一方で彼らが乗ってきた宇宙船に積まれていたデスワールドで死亡した仲間の死体がゾンビとして蘇生し、ひそかにゾンビが増え始めて行く。遂には溢れ出してきた大量のゾンビによってエプシロン9は壊滅するのでありました。
もう一つ、第1シーズンには遭難した宇宙船の乗客のひとりであるHolisterという女性が登場します。彼女は最終的には唯一の生存者となるのですが、第1シーズンの最後では「アンタといると余計に危険の方が寄って来るから一人で脱出ルートを探す」としてZOMBOとは別れ、以降の消息は不明になります。そして、第2シーズンの最後で崩壊するエプシロン9で最後に生き残ったZOMBOの前に政府のエージェントHolisterとして再び現れZOMBOを救出します。以降HolisterはZOMBOの指揮監督者として行動を共にするようになります。
と、少しぎこちない感じですが引き継がれる情報の整理も終わったところでやっと今回の2巻に移りますが、ここまででもずいぶん無茶苦茶な話で、まあ、思い付きで並べたようなものがひたすら暴走していくようなコメディで、その流れのギャグの部分をあまり書かずあらすじのみを抽出しようとするとこうなってしまうものでしょうが、この先もかなり無茶苦茶な話になりますので覚悟してお読みください。

The Day The ZOMBO Died (2000AD Prog1740-1749)

一方、その頃地球ではやたらと周囲の人間を馘首にする大統領の命により、コントロールに不安のあるZOMBOに代わって新たな対デスワールド兵器が開発されていた。その名は「OBMOZ」! Death Shadowをベースに作られZOMBOを上回るパワーを持ち、さらに犯罪を憎む厳格な性格に設計されていて、試験段階として地球で犯罪の取り締まりにあたっていた。既に不要となってしまったZOMBOだが、度重なるTV中継での露出により知名度・人気は上がっており、それを疎ましく思った大統領により密かに地球への帰還途上での暗殺が企てられる。が、無能な暗殺者により計画は失敗に終わりZOMBOは無事に地球に帰還する。

内心の怒りを隠しながら大統領はZOMBOの帰還を歓迎し、OBMOZと対面させる。少し前から兆候は表れていたが、その場で遂にOBMOZが暴走し、周囲の人間を手当たり次第に犯罪者として殺し始める。大統領は殺害され、ZOMBOも頭部を破壊され倒れる。だがZOMBOの移送に当たっていた好戦的な将軍の宇宙船に積み込まれていた強力な兵器によりOBMOZは建物の外に撃退され、姿を消す。

死亡した大統領だが、保存されていた記憶・人格データにより即座にデジタル大統領として復活する。頭部を破壊され脳を失くし倒れたZOMBOは再生は可能だが時間はかかる。Holister達生き残ったメンバーが今後の対策を検討している中、不意に突拍子もない絶叫が響き渡る。脳を失くし行動不能なはずのZOMBOが起き上がり鏡に映った自らの姿を見て悲鳴を上げていたのだ。ZOMBOを造った女性天才=マッドサイエンティストDr. Emily ProcoptusはZOMBOの下半身にもう一つバックアップ用の脳を設置していてそれが機能し始めたのだった。その脳の元の主は男性ストリッパーEric。出張サービスと偽って研究所に連れてこられそのまま勝手に手術され、以後の記憶は全く無い。戦闘能力を失ってしまったZOMBOだが、遭難中失った片腕を精巧な義手に代える手術費のために無理やり政府のエージェントにされたHolisterは、Ericの境遇に共感を覚える。

 一方逃亡中のOBMOZはDr. Emily Procoptusの許を訪れる。大統領の方針に反感を持つProcoptusはOBMOZの更なるパワーアップに力を貸してしまう。自らに模したDeath Shadowをまとい巨大化したOBMOZが再び大統領府に襲い掛かる。最大のピンチにEric=ZOMBOは身を挺してOBMOZに立ち向かい、遂には倒すが自らの身も犠牲にしてしまう。

そしてその時、地球には新たな脅威が迫っていた。エプシロン9でゾンビたちのリーダーになったHank Epsironと配下の辛口評論家たちの操るDeath Planetが地球に向かい邁進していた! 

Planet ZOMBO (2000AD Prog1825-1834)

地球に危機が刻々と迫る中、研究所でZOMBOの再生が進む。以前のZOMBOは全身緑色で顔面の皮膚が無かったが、再生中のZOMBOは顔面の皮膚も再生し、肌の色は灰色に変わっている。意識も戻り始めたが以前より性格に問題がありそうだ。だが、その裏では現大統領の対抗政党の”影の大統領”の陰謀が動いていた。”影の大統領”は現政府に不満を持つDr. Emily Procoptusを抱き込み、再生中のZOMBOを遠隔操作させていたのだった。

一方、奇矯な言動が続くデジタル大統領だったが、地球を救うための対策として、メンバー間の不和による抗争から大量の犠牲者をだし収監中の4人組ロック・バンドに特赦を発令し、再結成させるという意味不明の命令を出す。

そして、研究所ではZOMBOの様子から一旦はシャットダウンすべきとの検討も始まる。だが、Procoptusに操られたZOMBOはその時すでに行動を起こし始めていた…。

というところで今回はこのくらいに。続きは本編を読まれるか、『ZOMBO』第5シーズンが2000AD本誌に掲載されたときにということで。
えー、この『ZOMBO』第2巻ですが、1周年に取っておいたというほどの事ではないのですが、とりあえずは第4シーズンを2000AD本誌で読んでいたのと、なかなか続きが掲載されないのと、やっぱりもったいないのとでなかなか手を付けられずにいたのですが、まあこの機会にと読むことにしたわけです。あああ…面白かったけど続きは当分読めないや…ぐすん。第4シーズンは読んではいましたが、前を読んでなくてわかっていなかったところも多く、とても楽しめました。思いつきで出したとしか思えないキャラを前作以上に力業で出鱈目に走らせつつも、案外落としどころを計算しているAl Ewingの手腕は冴えるばかり。Henry Flintの画は一見かなり癖がありますが、一旦ハマると抜けられなくなる。何度も書いていますが私はこのHenry Flintの重い線の大ファンです。うーん、本当に好きな作品はただもう読んでヘラヘラしてるばかりで大した感想にならないや。残虐でたちの悪いギャグが大好きという人には絶対おすすめの第2巻でした。

文中でも述べた通り、昨年中現在に至るまでまだ『ZOMBO』の新シリーズは描かれておりません。まあ2000ADでも期待は高いし、あの終わりだからいずれは描かれると思うけど、やっぱりAl Ewingがアメリカでの仕事が忙しかったりするからなのでしょうか。かくなる上はそろそろマーベル作品にも手を出そうかと思うのですが、MARVEL NOW!以降はまだ全然手を付けていなかったりするからなあ…。まあその辺の話はまた次回に。なぜかと言うとやっぱり初年に倣い次回はAl Ewingの現時点での最新小説『The Fictional Man』だったりするからなのでした。           

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ZOMBO -2000ADのSFホラーコメディコミック- 

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2015年2月14日土曜日

ブログ1周年…の言い訳など…

というわけでブログ1周年となりました。
そんなのオレにできんのかな、と思っていたけどなんとか続いてきたのも時々読んでくれていた皆さんのお陰と感謝しております。むむむ、なんかこういう挨拶的なものは本当に苦手なのですがホントに感謝しているのですよ。

とりあえずまず今回の画像についてですが、1年目ということでこの1年に観て印象に残ったDVDなど…ということかと思いきや、この1年ひたすら余暇の時間を小説、コミックの読書とブログに充てていてほとんど何も観られなくて、毎日早く観たいなあと思っているものを口惜しいので並べてみました。『アドベンチャータイム』早く観たいなあ…。

さて、振りかえってみて1年前、私がこんなことを始めてみようかと思ったきっかけはというと、ひとつはAl Ewingの小説『Tomb of the Dead : I Zombie』、そして『Thuglit』などを始めとするウェブジン、アンソロジーを中心としたインディー・バブリッシャーによる新しいハードボイルド・ノワールの動きでした。
前者については『ZOMBO』で興味を持ったAl Ewingが小説も出版していることをたまたま知り読んでみたのですが、これが期待以上に面白くて。しかし、イギリスのコミックのライターが書いたペーパーバックオリジナルの小説などが翻訳されたり紹介される機会もないだろうことが残念で、それならこんな形でも自分がやってみればもしかしたら誰か読んでくれるのではないかな、と思ったわけなのでした。実際に読んだ人がいるのかはわかりませんが、私の文章を読んでくれた人はいくらかはいるようなのでこれからでも誰か読んでくれるといいなと思います。本当に面白い本なのでもったいないです。
後者についてはこういう小説のファンとしてはかなり注目すべき動きだと思うのですが、だれも注目している気配が無いので…。それならオレがやるよっ!という気概だけは持っているのですが、まあ、まだまだという感じで今後ももっと頑張らねばと思っています。
まあなんというか元々偏った読書傾向なのが原書に手を出すようになってますます他人と共有できなくなってしまったのだけど、それでも面白いの読んだから話したいなあ、というのがそういうきっかけでこういう形になり、1年続いたなあというところなのです。

続いてこちらは先日届いたばかりなのですが、遂に出たぞ!『宇宙船レッド・ドワーフ号』の続きの日本版!『レッド・ドワーフ』大好きなんですよね。

さて、もう一方で何となく迷走しながらやってる感じのコミックの事ですが、こちらに関してはホントの初心者で自分がやって大丈夫かと思いつつ、それでもこういうところを作るのならせっかくだから絵も描きたいなと思い、その言い訳という言い訳を自分に言い聞かせて始めたわけですが、そもそもなんでコミックの事を書きたいなと思ったかと考えると、まあそこにはアメリカなどのコミックはもっと読まれるべきではないかという思いがあったのですよね。日本で海外のコミックがあまり翻訳出版されない理由なんてわざわざここで考えることでもないですが、単純に作品ということで言えば、例えば私のような翻訳小説をよく読む人間から見ると、このクラスの小説が翻訳されてこのクォリティのコミックがほとんど日本で読まれていないのはおかしいぐらいに考えるのです。日本には自国のマンガがいくらでもあるのだからもういらないという人もいるだろうけど、いい作品ならどこのでも読みたいという人だってたくさんいるわけだし、そのためには情報はどんなのでも少しでもたくさんあるべきだろうから、その一助となれば、みたいなことを柄にもなく考えるわけで、1年目に近付きそんな初心を思い出して『Fables』とかをやってみたわけなのですよね。まあ今後はそんな方針で頑張って行ければなあと思っています。ヨタヨタとやってきたこの1年の中ではジャッジ・ドレッドの近年最大の大作『Day of Chaos』について書けたのは自分では頑張ったのではないかなあと思っています。

少し、個人的なことを書くと、なんだかガタガタのこの1年だったりもしました。前年から続く腰痛で春先から整骨院通いになってしまい、6月にガクッと体調を崩し、そろそろさすがにごまかしきれなくなり歯医者通いも加わり、なんとか夏を乗り切りやっと歯医者も終わったかと思ったら、11月にまた体調を崩し、ヨレヨレで年末を迎えるという始末。とにかく週末はなるべく寝て休んでおかんと月曜から仕事に行くのは無理だとかなってなかなかパソコンまでたどり着けなかったり。そんなわけで結局その後は絵を描くまでの余力が出なかったのですが、まあそんな誰も期待して無い物より少しでも読んでくれる人がいる方を頑張ろうと思うことでなんとか1年続きました。肉体的にも精神的にも極端に寒さに弱い体質なのでまだフラフラしてますが、春になればもう少しシャンとして来るかと。もう少し力が出たらだれが止めてもまた絵を描いて出しちゃいますからね!

続いては何でこれのDVDがちゃんと出ないんだようと思っていたらBDがやっと出てくれた名作中の名作『殺しの分け前/ポイント・ブランク』です!本当なら年に3回ぐらいは観ないといけないのだが…。

さて昨年の反省やら言い訳が終わったところで今後の展望を少し述べてみようと思います。まずはコミックの方から。昨年一度は書こうと試みたものの挫折したのですが、やっと全巻読み終われそうなので今度こそはと思っている、実は近年のコミックの中では一番思い入れのあるガース・エニスの『The Boys』!まあ色々と考えすぎてしまっていた時期なので今度はもう少し力を抜いてできるのではないかと。あとはDavid Lapham第1弾としてAvatar発行の『Ferals』!そして少し前にちらっと言ったジョン・コンスタンティン『Hellblazer』のJamie Delanoパートあたりがそろそろ読み終われるので何か書けるのではないかと。そしてまだ取り掛かったばかりだけど、グレッグ・ルッカがコミックと小説(1作翻訳あり)の両方で展開した『Queen & Country』シリーズについても私なりの視点で全貌を明らかにしてみたい。犯罪小説系で言うと、下手すると日本じゃ一発屋の類いと思われていかねないヴィクター・ギシュラーや書店で手に取る気の起こらないひどい邦題でおなじみのジェイソン・スターなどについてもコミック、小説の両面で攻めていきたいと思います。という話になると当然出てくるのがドゥイン・スゥアジンスキー!(名前の読み方についてはまだ各方面で色々ある模様)あとで見つけた翻訳2冊についてもきちんと落とし前をつけるつもりでいるのですが何度も書いているように色々と休んで遅れてしまっているもので…。なるべく早い機会に片を付けて次に進むつもりでおりますです。スゥイアジンスキー最新情報しては間もなく新作小説『Canary』が発行されて、もう一方でこれから始まるArchieの昔のRed Circle ComicsのリバイバルDark Circle Comicsでライターを担当する『Black Hood』をそっちの小説の方とつなげたいみたいな構想もあるようですね。そっち方面では大変評価の高いDarwyn Cookeの『悪党パーカー』シリーズ・コミカライズも早く読まなければと思っているのですが…。その他注目の作家としてはMatt Kindit、Jeff Lemirie『アニマルマン』ぐらい早く読め!などですが、まあまだまだ日々”注目の作家”が増えて行くばかりです。あっBrandon Grahamもっ。昨年始めてみまして3回を数えた2000AD間レポートも今後も続けて行きます。まあ、読んでるんだから書く。その他モタモタと読んでる『Judge Dredd The Complete Case File』についても。できれば他の2000AD作品にも手を拡げたいなあとも思っています。あとValiantついてですが、ざっと色々なシリーズを紹介してあとはその後こうなりました、みたいにやってみたいなと思って始めたのですが、やはり意余って力足りずでさっぱり進んでいないのですがなんとか頑張りたいなあ。Valiantといえば今月クァンタム&ウッディ』の翻訳版が出ますね!こっちではまだまだ届かないけど解説する手間が省けていいかな。でも『クァンタム&ウッディ』に関しては旧作もかなり好きだったりするからなあ。これを最初に他のValiant作品も日本版が出るといいなと思いつつ自分でも頑張ってみます。と並べてみると結局はやっぱり結構偏りがある感じですが、Vertigo、Image Comicsなどの有名作とかもなるべくとりあげて行きたいです。Jonathan Hickmanの怪作『The Manhattan Projects』とかロバート・カークマンの『Invincible』についても書いてみようかなと思っているのですが。そういえば遂に『サーガ(仮)』(だってアマゾンにそう書いてあるんだもの)が日本版が出ますね!他にもImage Comicsのエド・ブルベイカー作品や『デッドリー・クラス』を出す出版社もあるようだしこの流れがもっと進んでいくといいなと思います。『Chewとかも出ないかな。肝心なところが抜けていて、もしかしたら勘違いされているのではと前から怖れていたのでこの際はっきりしておきますが、私は別にマーベルやDCのアンチとかではありません。あの辺はとにかく事件やら人物関係が複雑で初心者には敷居が高すぎるのでちょっとまだ語る段階に達していないだけです。いろいろ解説をしている人もいるのだからわからないときはそれを読めば、という人もいるかもしれませんが私は「ワーッワーッそれはいうなよう!じぶんでみつけてよむんだからっ」という子供なので。まあMAXとかはフライングでちょっと語ってしまうかも。その他、FantagraphicsやTop Shelfとかの方面も忘れずに。あと余力があったら私以外には誰も敢えて語らないだろうZenescopeの『本当よりもっと怖くてエロいグリム童話』ワールドとかも。えっ、上で立派そうなこと言ってたけど結局それなの?

続いて登場はこちら『ありふれた事件』。昔VHSレンタルで見たのだけどDVDがずっと出てなくて、英語字幕版を買おうかとも思っていたのですが、やっと発売されました。まあ別に誰にもあえて勧めないけど。

小説については、もう多すぎてそんなに詰めたら中に何が入ってるかわかんないし取り出せないじゃんというなにか、ぐらいになってしまっているのですが、とりあえずはケン・ブルーウンとデストロイヤー。一体いつになったらJohnny Shawを読むんだよ?とか、Anthony Neil SmithのBilly Lafitteの続きは?とか、アレは?アレは?とか自問自答し始めるときりがないのですが、とりあえず一刻も早く読もうと思ってる作家の名前を並べてみると、Frank Bill、Todd Robinson、Josh Stallings、Ray Banks、Dave Zeltsman、Anonymous-9、Eric Beetner、Richard Godwin、Patti Abbott、Nigel Bird、Les Edgerton…と、ほらもうわけわかんなくなってきたし。コミックのところで書いた作家の小説は当然読むし、その他にも米Amazon.comのハードボイルドやノワールのランキングに入っていて面白いのかなー?と思っている作家もいろいろ読んでみたいし。あと先日やっと1作読んだAll Due Respect Booksはあれからまた2冊も出して勢いが止まらない感じで、これは「スィーツは別腹ロジック」に基づいて構築された仮想「特別枠」を設けて少しでも追いかけようか、などと思っている毎日です。アンソロジーも新参のも含めていろいろ読みたいし…。他ジャンルでは第1集のみ書いたっきりの『The Dead Man』も実はかなり期待しているのですがなかなか進んでおりません。結局ホラーも全然読めなかったな。面白そうなの沢山あるのだけど…。ゆるく言えばSFファン、ホラーファンでもある私なのですがその上に巨大なハードボイルドバカが乗っているのでなかなか他に広げることができません。実はひそかに日本で3巻までしか出なかったG・R・R・マーティン編の『ワイルドカード』も半年100ページぐらいの超スローペースで読んでたりもするのですが。その後結構沢山出てますよ。とにかく面白いのを沢山読みたいんだよー、チクショー!…チクショー終わりの展望って…。

最後に登場はなんとコレです!なんとコレをまだ見ておりません!トホホ…。これについてはなるべく早く観て2000ADの方で出ているコミック版の前日譚、後日譚などについても書いてみようと思っています。

ということでブログ1周年の言い訳などでした。またやたら長くなってしまった。よく考えれば最初の5行で事足りていたのでは…。世の中には1行ごとに改行しているポエムみたいな潔いブログも多いというのに。ここまでお付き合いいただけた人がいたならありがとうございました。今回はずいぶん多くの作家名が登場したわけですが、ハイ!自分でもよくわかっておりますとも。こんなに沢山読めるわけねーだろっ!でもまあ希望だけでも持つのは良い事ではないですか。人類はそうすることでここまで進歩してきたのですからね。というわけでまたこれから1年頑張って来年には結局全然読めなかったよトホホ…と言いつつもあれとこれは読めて良かったなと思えるようになりたいものです。あと、まあ人口比から考えても当然のことですが、やっぱり読みに来てくれる人はコミックが好きな人が多いということは自分でも承知しているのですが、重ねて言うように大変重篤なハードボイルドバカなので、今後もコミック:小説1対1の比率で続けて行くことになりますので、時々でものぞきに来てください。そんな感じでまた頑張ります。ありがとうございました。


…ということでもう忘れてることないよね?え?バレンタインデー?…ハハハそんなことどうでもいいじゃないですか。つまりお正月に今年はブログをやるぞ!と決めて始めた日を忘れないようにと考えて手近な適当な日がそれだったくらいのもので…えー…まあ…「私とブログとどっちが大事なの?」と彼女に言われちゃったのでやめます…とかいうことになる危険性は当分ないのでよかったなあということで、めでたしめでたし!       

●今回登場の色々


●日本語版出て良かったですね


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2015年2月8日日曜日

デストロイヤー再発見!

私の他に数人いるのかもわからない皆さんに朗報です!昨年の春からKindleではアメリカ国内のみの販売となっていたあのデストロイヤー・シリーズが別の出版社から販売されていました!

えーと、最初から話しますと、そもそも私が最初にKindleで購入した本がこのデストロイヤー・シリーズ第1巻『Created The Destroyer』だったことは以前『Blood & Tacos』のところで書いた通りです。かなり昔に絶版とはいえ一応翻訳のある作品なので、未訳の12巻まで読んだら書こうかなとか考えつつちまちま読んでいて、昨年5月ごろ4巻を読み終え、少し読むスピードも上がってきたことだしもっと読むペースを上げようかな、などと思いつつ5巻を探しに行くと…無い…。どうやら版元のGere Donovan Pressの販売オプションか何かが切り替わったらしく、ランキングのフリー部門などで販売が続いているらしいことは確認できるのですが、アメリカ国内以外からの購入は不可能になってしまっていたのです。全150巻近くあるデストロイヤーシリーズ全巻読破を無駄にライフワークに掲げている私としては落胆この上なく、なんとかまた日本からも買えるようにならんものかと時々チェックしていたのです。ごく最近もまた調べてみて、やっぱり駄目か…とページを閉じようとしたところ、Kindleの別バージョンが販売されていることに気付き、このSphere版が8月から販売されていることを知ったのでした!…というか最近検索機能が向上したように思う日本のAmazon. co. jpからでもKindleショップ→Destroyerで普通に販売中の全巻が見つかりました…。しかし、このSphere版、ジャンルがThrillerなどしか入っておらず、私同様Hardboildジャンルで見つけて読み始めたものの買えなくなっちゃったよう、とがっかりしている人がいたら本当に朗報ですよね。

…とまたマニアックなところで大騒ぎを始めてしまったのですが、何分古いシリーズですし、デストロイヤーって何?という人もいるだろうと思われるのでこの機会に少々解説を。

1970年代、未曽有の犯罪増加に苦しむ合衆国内に極秘裏にある機関が設立される。その名はCURE。その目的はアメリカ国内の犯罪の撲滅。様々な情報を超法規的に入手・操作するその機関の活動は憲法違反であり、その存在は大統領以外には2人の男、元CIA局員のハロルド・スミスとマクレアリーしか知らない。彼らの元で働く者たちはいずれも何かしら別の政府機関で働いていると思わされており、それらの手により一見意味の分からない情報などをしかるべきところに伝え、それの連鎖により犯罪の芽をつぶしていく、というようなピタゴラ・スイッチ的手段でひそかに活動を続けていたCUREであったが、やはりその方法には限界がある。もうひとり、実行者が必要だ。大統領の答えは、その人物は「存在しない人間」でなければならない。そしてその時、マクレアリーの頭に浮かんだのは、ベトナム戦争で出会った一人の青年だった。
男の名はレモ・ウィリアムズ。孤児である彼はベトナム戦争から帰還後はニュージャージーで警官として働いていた。身に覚えのない麻薬密売人殺害の罪で逮捕された彼は、今なすすべもなく死刑執行の時を待っている。最後に訪れた奇妙な神父に密かに渡されたカプセルを口に含み、電気椅子に座る。奥歯でカプセルを噛み潰すと執行を待たずに意識を失い、彼が次に目覚めたのはCUREの秘密施設だった。そこでレモは、朝鮮半島に古来から存在した暗殺者の村、シナンジュの長チウンから暗殺術を指南され、デストロイヤーとして生まれ変わる。

という話です。前述の通りこの作品は翻訳があり、1970年代後半から80年代にかけて最初の11巻が翻訳され、その後、1985年に映画化され(『レモ 第一の挑戦』主演:フレッド・ウォード)それを受けてその後のシリーズからピックアップされた4作、計15巻が東京創元社から刊行され、他にウォーレン・マーフィー自身による映画のノベライゼーションがサンケイ文庫 海外ノベル・シリーズから刊行されています。いずれもかなり昔に絶版となり、現在は入手困難です。

この作品は以前『Blood & Tacos』のところで書いた1970年代のマック・ボラン・シリーズ(『マフィアへの挑戦』東京創元社他翻訳あり)のヒットを受け、大量に出版されたペーパーバックのメンズ・アドベンチャーの中の一つとして登場しました。元軍人や犯罪者といったようなキャラクターたちの中で、カラテの達人の秘密工作員というのも想像できるオプションの一つだったりもします。そんな中で何がこのシリーズを特化させているかというと、少し荒唐無稽だったりもするストーリーと独特のユーモアなのです。素手の暗殺術の使い手が主人公と聞いて、怪力や格闘技の達人の敵が登場してバトルを繰り広げるといったストーリーを想像する人もいるかもしれませんが、このシリーズはちょっと違います。このシリーズのパターンとしては、まずレモが素性を偽って情報収集のために潜入し、そこら中で冗談を飛ばしながらヘラヘラとふるまい、情報を集めたところで圧倒的な暗殺術シナンジュにより敵を瞬殺するという展開です。銃を向けて引き金を引いた、と思ったらすでに手首から先が無かったとか、こいつはヤバイと気付いた次の瞬間には片手で首をへし折られて絶命といった感じ。
そしてレモを凌ぐほどの人気キャラクターがチウン師匠です。見た目は今にも死にそうな吹けば飛びそうな老人ですが、実はエレベーターに先回りしてビルの壁を駆け上れるような超人です。常にその見かけの方を利用して、荷物を親切な人に運んでもらったり、無害な老人としてご近所の老婦人と仲良くなり、「厄介な息子」についての愚痴を並べたてたりという行動をとってレモを悩ませます。時に応じて哲学的ともいえる訓戒を垂れる師匠ですが、実はTVのソープオペラの無類のファンで、TVの前に座れば文字通りテコでも動きません。レモの留守中に訪れた凶悪なマフィアの殺し屋を、TVの鑑賞を妨害されたという理由で瞬殺したりします。1巻ではシナンジュの指南役としてのみ登場しますが、3巻からはレモの訓練を続けるために常に彼と行動を共にするようになります。実はチウンには隠されたもう一つの任務があり、もし憲法違反であるCUREの存在が明るみに出る危機に陥り急速に組織の存在を抹消する必要が生じた場合、長官スミスを除くCUREの存在を知る唯一の人物であるレモを(チウンはプロの暗殺者としての契約で働いているだけで組織についての知識はありません)抹殺できる唯一の存在として、彼の傍にいるのです。
そして長官のハロルド・スミスですが、1巻で共に機関を立ち上げたマクレアリーが非業の死を遂げた後はレモとともに機関の存在を知る唯一の人間として、組織の急速な抹消または任務の完全な終了後はその秘密とともにこの世を去る覚悟を常に持っている人物です。元CIAの凄腕エージェントでもあるのですが、見た目のみならず中身も非常に小役人的な部分を持つキャラクターで、それをしばしばレモにからかわれて笑いを提供してくれます。合衆国の運命を握る秘密機関の長、という立場ではありますが、何分その存在を知るのが大統領以外はレモとただ二人ということもあり、任務の度に彼をその秘密司令部に呼びつけるというような目立つことはできないので、大抵は自ら足を運んでレモに任務の説明に赴いたりします。

さて、そのストーリーですが、現在私の読んでいる5巻までを軽く紹介してみます。
1. Created, The Destroyer (1971) 『デストロイヤーの誕生』
CUREの暗殺者として再生したレモであったが、その訓練終了を待たずに任務に駆り出される。調査に向かった人間を次々と跡形もなく消し去るニューヨークマフィアの謎の存在”マクスウェル”。マクレアリーまでもその手にかかり倒れてしまう…。
2. Death Check (1972) 『死のチェックメイト』
合衆国を転覆させる可能性を持つ研究がひそかに行われていると目される謎のシンクタンクに、その秘密を探るべくレモが単独で潜入する…。
3. Chinese Puzzle (1972) 『劉将軍は消えた』
米中友好促進のための大統領訪中を前に、その手続きを進める任を持ち合衆国を訪れた劉将軍が襲撃され失踪する。大統領の強い要請によりCUREの存在が明るみに出る危険を恐れながら、スミスはレモに続いて訪米した夫人の護衛という立場で将軍の捜索に当たる任務をレモに命じる…。
4. Mafia Fix (1972) 『国際麻薬組織』
様々な麻薬密売ギャングによりストリートでの勢力を奪われている全米の老舗マフィアが巻き返しを図るため結託し、コンテナ満載のヘロインを密輸する。上陸時点で情報を掴んでいた各機関の阻止線をかいくぐり、いずこかに消えた大量の麻薬の行方を探るため、レモはかつて警官として勤務していたニュージャージーに現れる…。
5. Dr. Quake (1972) 『直下型大地震』
カリフォルニアの小さな町の有力者たちが、謎の人物から脅迫を受ける。犯人は地震を操作する手段を保有していると告げ、それを実際に証明してみせる。その情報を聞きつけたスミスは、いずれはそれが政府への脅迫に発展することになるのを見越し、レモを町に潜入させる…。

作者はリチャード・サピアとウォーレン・マーフィーのコンビ。この作品が売れるまではともにジャーナリストだったそうです。サピアはその後歴史小説のジャンルで活動を続け、現在は亡くなっています。マーフィーはその後は多くのミステリ作品を発表し、米ミステリ界の重鎮となっていることはご存知の人も多いと思います。ユーモラスな探偵トレースのシリーズは全7作が早川書房から翻訳され、好きな人も多いと思います。
というところなのですが、勢いで書いていて今少し調べてみたらやはり150巻近くある長いシリーズで結構ゴーストライターの手によるものも多いようですね。映画のノベライゼーションも日本でのクレジットはマーフィーだったけど別の名前が載ってたり。誰が書こうが好きなシリーズなのですべて読むという意思に変わりはありませんが、その辺のことももう少しきっちり調べてまた書くときもあるかと思います。

翻訳もある作品でもあり、軽く書くつもりが思いのほか長くなってしまいました。特別に思い入れのある作品というのはそんなものですね。これで初めて知って読んでみようと思った人がいたなら幸いです。翻訳版は入手困難と書きましたが、この手の創元推理文庫は案外近所の図書館にそろっていることも多いので、そちらも探してみてはいかがでしょうか。
ちなみに私は翻訳されたものも全巻読んでいるのですが、何分ライフワークですので読んだものも原書ですべて読むつもりなので、まだ未訳作品の本格始動まではしばらくかかると思いますが、また途中経過を書くこともあるかと思います。早期の本格始動を目指し、これからはこのシリーズをガンガン読んで…って、アレ?お前ケン・ブルーウンの時もそんなこと言ってなかったっけ?いや、だからあっちもこっちもあれもこれも全部読むんだいっ!ぜったいぜんぶよむんだもんね!むー。


…というところなのですが、実は今回のは昨年11月ごろに書き始めたものでした…。その後年末にかけては色々と休みが多くなってしまい、自分の中の優先度から延々と後回しにしてしまい、今回やっと完成に至ったというところです。もし、本当に私同様にデストロイヤーを見失ってガッカリしていた人がいたなら情報が遅れてすみませんでした。今後はもっと頑張ります。             

●デストロイヤー・シリーズ(とりあえず15巻まで)


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