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2015年2月8日日曜日

デストロイヤー再発見!

私の他に数人いるのかもわからない皆さんに朗報です!昨年の春からKindleではアメリカ国内のみの販売となっていたあのデストロイヤー・シリーズが別の出版社から販売されていました!

えーと、最初から話しますと、そもそも私が最初にKindleで購入した本がこのデストロイヤー・シリーズ第1巻『Created The Destroyer』だったことは以前『Blood & Tacos』のところで書いた通りです。かなり昔に絶版とはいえ一応翻訳のある作品なので、未訳の12巻まで読んだら書こうかなとか考えつつちまちま読んでいて、昨年5月ごろ4巻を読み終え、少し読むスピードも上がってきたことだしもっと読むペースを上げようかな、などと思いつつ5巻を探しに行くと…無い…。どうやら版元のGere Donovan Pressの販売オプションか何かが切り替わったらしく、ランキングのフリー部門などで販売が続いているらしいことは確認できるのですが、アメリカ国内以外からの購入は不可能になってしまっていたのです。全150巻近くあるデストロイヤーシリーズ全巻読破を無駄にライフワークに掲げている私としては落胆この上なく、なんとかまた日本からも買えるようにならんものかと時々チェックしていたのです。ごく最近もまた調べてみて、やっぱり駄目か…とページを閉じようとしたところ、Kindleの別バージョンが販売されていることに気付き、このSphere版が8月から販売されていることを知ったのでした!…というか最近検索機能が向上したように思う日本のAmazon. co. jpからでもKindleショップ→Destroyerで普通に販売中の全巻が見つかりました…。しかし、このSphere版、ジャンルがThrillerなどしか入っておらず、私同様Hardboildジャンルで見つけて読み始めたものの買えなくなっちゃったよう、とがっかりしている人がいたら本当に朗報ですよね。

…とまたマニアックなところで大騒ぎを始めてしまったのですが、何分古いシリーズですし、デストロイヤーって何?という人もいるだろうと思われるのでこの機会に少々解説を。

1970年代、未曽有の犯罪増加に苦しむ合衆国内に極秘裏にある機関が設立される。その名はCURE。その目的はアメリカ国内の犯罪の撲滅。様々な情報を超法規的に入手・操作するその機関の活動は憲法違反であり、その存在は大統領以外には2人の男、元CIA局員のハロルド・スミスとマクレアリーしか知らない。彼らの元で働く者たちはいずれも何かしら別の政府機関で働いていると思わされており、それらの手により一見意味の分からない情報などをしかるべきところに伝え、それの連鎖により犯罪の芽をつぶしていく、というようなピタゴラ・スイッチ的手段でひそかに活動を続けていたCUREであったが、やはりその方法には限界がある。もうひとり、実行者が必要だ。大統領の答えは、その人物は「存在しない人間」でなければならない。そしてその時、マクレアリーの頭に浮かんだのは、ベトナム戦争で出会った一人の青年だった。
男の名はレモ・ウィリアムズ。孤児である彼はベトナム戦争から帰還後はニュージャージーで警官として働いていた。身に覚えのない麻薬密売人殺害の罪で逮捕された彼は、今なすすべもなく死刑執行の時を待っている。最後に訪れた奇妙な神父に密かに渡されたカプセルを口に含み、電気椅子に座る。奥歯でカプセルを噛み潰すと執行を待たずに意識を失い、彼が次に目覚めたのはCUREの秘密施設だった。そこでレモは、朝鮮半島に古来から存在した暗殺者の村、シナンジュの長チウンから暗殺術を指南され、デストロイヤーとして生まれ変わる。

という話です。前述の通りこの作品は翻訳があり、1970年代後半から80年代にかけて最初の11巻が翻訳され、その後、1985年に映画化され(『レモ 第一の挑戦』主演:フレッド・ウォード)それを受けてその後のシリーズからピックアップされた4作、計15巻が東京創元社から刊行され、他にウォーレン・マーフィー自身による映画のノベライゼーションがサンケイ文庫 海外ノベル・シリーズから刊行されています。いずれもかなり昔に絶版となり、現在は入手困難です。

この作品は以前『Blood & Tacos』のところで書いた1970年代のマック・ボラン・シリーズ(『マフィアへの挑戦』東京創元社他翻訳あり)のヒットを受け、大量に出版されたペーパーバックのメンズ・アドベンチャーの中の一つとして登場しました。元軍人や犯罪者といったようなキャラクターたちの中で、カラテの達人の秘密工作員というのも想像できるオプションの一つだったりもします。そんな中で何がこのシリーズを特化させているかというと、少し荒唐無稽だったりもするストーリーと独特のユーモアなのです。素手の暗殺術の使い手が主人公と聞いて、怪力や格闘技の達人の敵が登場してバトルを繰り広げるといったストーリーを想像する人もいるかもしれませんが、このシリーズはちょっと違います。このシリーズのパターンとしては、まずレモが素性を偽って情報収集のために潜入し、そこら中で冗談を飛ばしながらヘラヘラとふるまい、情報を集めたところで圧倒的な暗殺術シナンジュにより敵を瞬殺するという展開です。銃を向けて引き金を引いた、と思ったらすでに手首から先が無かったとか、こいつはヤバイと気付いた次の瞬間には片手で首をへし折られて絶命といった感じ。
そしてレモを凌ぐほどの人気キャラクターがチウン師匠です。見た目は今にも死にそうな吹けば飛びそうな老人ですが、実はエレベーターに先回りしてビルの壁を駆け上れるような超人です。常にその見かけの方を利用して、荷物を親切な人に運んでもらったり、無害な老人としてご近所の老婦人と仲良くなり、「厄介な息子」についての愚痴を並べたてたりという行動をとってレモを悩ませます。時に応じて哲学的ともいえる訓戒を垂れる師匠ですが、実はTVのソープオペラの無類のファンで、TVの前に座れば文字通りテコでも動きません。レモの留守中に訪れた凶悪なマフィアの殺し屋を、TVの鑑賞を妨害されたという理由で瞬殺したりします。1巻ではシナンジュの指南役としてのみ登場しますが、3巻からはレモの訓練を続けるために常に彼と行動を共にするようになります。実はチウンには隠されたもう一つの任務があり、もし憲法違反であるCUREの存在が明るみに出る危機に陥り急速に組織の存在を抹消する必要が生じた場合、長官スミスを除くCUREの存在を知る唯一の人物であるレモを(チウンはプロの暗殺者としての契約で働いているだけで組織についての知識はありません)抹殺できる唯一の存在として、彼の傍にいるのです。
そして長官のハロルド・スミスですが、1巻で共に機関を立ち上げたマクレアリーが非業の死を遂げた後はレモとともに機関の存在を知る唯一の人間として、組織の急速な抹消または任務の完全な終了後はその秘密とともにこの世を去る覚悟を常に持っている人物です。元CIAの凄腕エージェントでもあるのですが、見た目のみならず中身も非常に小役人的な部分を持つキャラクターで、それをしばしばレモにからかわれて笑いを提供してくれます。合衆国の運命を握る秘密機関の長、という立場ではありますが、何分その存在を知るのが大統領以外はレモとただ二人ということもあり、任務の度に彼をその秘密司令部に呼びつけるというような目立つことはできないので、大抵は自ら足を運んでレモに任務の説明に赴いたりします。

さて、そのストーリーですが、現在私の読んでいる5巻までを軽く紹介してみます。
1. Created, The Destroyer (1971) 『デストロイヤーの誕生』
CUREの暗殺者として再生したレモであったが、その訓練終了を待たずに任務に駆り出される。調査に向かった人間を次々と跡形もなく消し去るニューヨークマフィアの謎の存在”マクスウェル”。マクレアリーまでもその手にかかり倒れてしまう…。
2. Death Check (1972) 『死のチェックメイト』
合衆国を転覆させる可能性を持つ研究がひそかに行われていると目される謎のシンクタンクに、その秘密を探るべくレモが単独で潜入する…。
3. Chinese Puzzle (1972) 『劉将軍は消えた』
米中友好促進のための大統領訪中を前に、その手続きを進める任を持ち合衆国を訪れた劉将軍が襲撃され失踪する。大統領の強い要請によりCUREの存在が明るみに出る危険を恐れながら、スミスはレモに続いて訪米した夫人の護衛という立場で将軍の捜索に当たる任務をレモに命じる…。
4. Mafia Fix (1972) 『国際麻薬組織』
様々な麻薬密売ギャングによりストリートでの勢力を奪われている全米の老舗マフィアが巻き返しを図るため結託し、コンテナ満載のヘロインを密輸する。上陸時点で情報を掴んでいた各機関の阻止線をかいくぐり、いずこかに消えた大量の麻薬の行方を探るため、レモはかつて警官として勤務していたニュージャージーに現れる…。
5. Dr. Quake (1972) 『直下型大地震』
カリフォルニアの小さな町の有力者たちが、謎の人物から脅迫を受ける。犯人は地震を操作する手段を保有していると告げ、それを実際に証明してみせる。その情報を聞きつけたスミスは、いずれはそれが政府への脅迫に発展することになるのを見越し、レモを町に潜入させる…。

作者はリチャード・サピアとウォーレン・マーフィーのコンビ。この作品が売れるまではともにジャーナリストだったそうです。サピアはその後歴史小説のジャンルで活動を続け、現在は亡くなっています。マーフィーはその後は多くのミステリ作品を発表し、米ミステリ界の重鎮となっていることはご存知の人も多いと思います。ユーモラスな探偵トレースのシリーズは全7作が早川書房から翻訳され、好きな人も多いと思います。
というところなのですが、勢いで書いていて今少し調べてみたらやはり150巻近くある長いシリーズで結構ゴーストライターの手によるものも多いようですね。映画のノベライゼーションも日本でのクレジットはマーフィーだったけど別の名前が載ってたり。誰が書こうが好きなシリーズなのですべて読むという意思に変わりはありませんが、その辺のことももう少しきっちり調べてまた書くときもあるかと思います。

翻訳もある作品でもあり、軽く書くつもりが思いのほか長くなってしまいました。特別に思い入れのある作品というのはそんなものですね。これで初めて知って読んでみようと思った人がいたなら幸いです。翻訳版は入手困難と書きましたが、この手の創元推理文庫は案外近所の図書館にそろっていることも多いので、そちらも探してみてはいかがでしょうか。
ちなみに私は翻訳されたものも全巻読んでいるのですが、何分ライフワークですので読んだものも原書ですべて読むつもりなので、まだ未訳作品の本格始動まではしばらくかかると思いますが、また途中経過を書くこともあるかと思います。早期の本格始動を目指し、これからはこのシリーズをガンガン読んで…って、アレ?お前ケン・ブルーウンの時もそんなこと言ってなかったっけ?いや、だからあっちもこっちもあれもこれも全部読むんだいっ!ぜったいぜんぶよむんだもんね!むー。


…というところなのですが、実は今回のは昨年11月ごろに書き始めたものでした…。その後年末にかけては色々と休みが多くなってしまい、自分の中の優先度から延々と後回しにしてしまい、今回やっと完成に至ったというところです。もし、本当に私同様にデストロイヤーを見失ってガッカリしていた人がいたなら情報が遅れてすみませんでした。今後はもっと頑張ります。             

●デストロイヤー・シリーズ(とりあえず15巻まで)


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