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2017年12月24日日曜日

グレッグ・ルッカ / Bravo -Jad Bellシリーズ第2作!-

というわけで、グレッグ・ルッカJad Bellシリーズ第2作『Bravo』の登場です。前回も書いたのだけど、こちら結構早く読み終わってたのだけど、前のQueen & Countryの方が遅れて、結果こちらも随分間が空いてしまって申し訳ないっす。
で、まあ前の『Alpha』についてなんだけど、なんかさあすんませんでしたね。いや、私の「予想」なるものが間違ってたとかいうわけじゃないんだけど、ちょっとこれが続きだということばかり力説しちまってさ。まあ普通に読めば誰でもわかるよな、と後で反省してたり。まあ今回はなるべくもうちょっと内容のあるところを書けるように努力いたしますです。つーことで当然前の続きから、めでたく日本からもKindle版も購入できるようになったグレッグ・ルッカ Jad Bellシリーズ第2作『Bravo』であります。

で、まずは第1作『Alpha』のストーリーの続きから。ここからはネタバレです。未読の方はご注意を。でもそれ書かないと先に進めないので。
で、どこまで書いたかな、と一年前以上のを読み返してみると、…なんかお前ずいぶん丁寧に書いてるじゃん、と最近の言葉の乱れにちょっとへこんだり。もう少し気を付けますです。ハイ…。で、前の時はBellがどこからかの情報により、テロの警戒のために潜入していたテーマパークに、元妻と耳の不自由な娘が、聾学校のレジャー旅行で訪れたその日に、案の定テロが勃発するというところまででした。その前のところを詳しく知りたい方は前のを読んでちょ。あ、いや、お読みください…。
計画されたテロは、各所に設置されたセンサーがボツリヌス菌を検知したところから始まる。パーク内からの避難が始まる混乱に乗じ、武装したテログループが潜入。そして避難中の客を人質にする。その中にはBellの娘Athenaを含む聾学校の生徒たちと元妻も含まれていた。そしてパークで手話通訳として働き、生徒たちの案内係として同行していた、テロリストグループのリーダーGabrielの恋人Danaも。グループはパークの着ぐるみを身にまとい正体を隠し、Gabrielは密かにDanaの身を案じる。ボツリヌス菌はフェイクであったことが判明するが、続いてグループから、パーク内にダーティー・ボム-放射能爆弾が仕掛けられていることが宣告される。パーク内に残り、彼らと対するのは、Jad Bell、同じくデルタ・フォースのChaindragger、そして同時に潜入していたCIAの女性局員Nuriの3人のみ!
という感じに話は展開して行き、まあ途中は端折るが、パーク内のBell達とテロリストグループとの攻防、人質とされた元妻Amyと娘Athena、そしてDanaの様子、外では暗躍するUzbekとさらにその背後に控える”名前のない男”、などが交互に描かれて行く。戦闘の末、遂にAthenaを救い出すが、父の兵士としての恐るべき戦いぶりに戦慄する娘を気遣う余裕すら与えられず、逃げ去ったGabrielを追うBell。そして最後の闘いは、前の時ちょっとほのめかしたように、Bellの視点ではなく、Gabrielの視点から描かれる。
Danaにもその正体を知られ、すべてを失い、自分でもほとんど信じていない残された最後の、ここから脱出できるという望みにすがり、ジェットコースターの頂上を目指すGabriel。そこに仕掛けられたダーティーボムを起動させれば、ヘリが自分を救い出してくれるはず。そのGabrielに追いすがる、傷だらけの、手負いの野獣のようなBell。どれほど痛めつけてもあきらめず、逃れることができない。そしてすべての力が尽きる時、Gabrielの頭上にヘリの姿が映る。違う…、あれは報道のヘリだ…。Uzbekの野郎、やっぱり嘘つきだ…。そして、Gabrielは落ちて行く…。
そしてその後に描かれるのはハリウッド・アクション映画のようなハッピーエンドシーンではない。しばらく離れていた元妻と娘の無事を喜び、抱き合い、信頼を取り戻すというようなシーンもない。Bellの任務はまだ終わっていない。テロの援護をしていたパーク内の裏切り者をあぶりだし、そこから入手した情報から、このテロ事件のスポンサーであるテキサスの富豪の男の邸宅を急襲する。男は言う。この国は戦争の最中にあるのだ。大衆も大統領も、そのことが分かっていない。今一度、その事実を目の当たりにさせ、そしてこの国を立て直さなければならないのだ。自分はそのために行動した。そして志を同じくする仲間は大勢いるのだ、と。Bellは男の膝を撃ち抜き、売り手の男、Uzbekの居所の情報を引き出し、そして男を射殺する。
そしてBellとその部隊はウズベキスタン、タシュケントへ飛ぶ。

そして物語は『Bravo』へ!

【あらすじ】

Bellとその部隊は、タシュケントの敵のアジトを急襲する。目的はUzbek-Vosil Tohirの身柄の確保。1階の敵を制圧し、上階へ。一室にVosilと女を発見。ChaingraggerのカービンがVosilを無力化。居合わせた女にBellの銃が向かい、引き金に指がかかったところで女が叫ぶ。

「Biplane! Biplane!」

Biplane…。伝えられていた符牒だ…。

コードネームBlackfriars、本名Petra Nessuno。軍情報部から16か月間に渡りElisabetta Villanovaの偽名でUzbekの組織に潜入していた彼女から、前作『Alpha』のテーマパーク襲撃テロ計画の情報がもたらされたのであった。第2作『Bravo』でBellと並びもう一人の主人公ともいうべき存在になるのが、このPetra Nessuno。そんなわけでこの第2作のカバーは女性なのであります。ちなみに私の読んだ旧ペーパーバック版にはご覧のように男女2人の姿が描かれております。こっちは多分いずれなくなっちゃうのだろうと思われるので、アマゾンからのリンクではなく表示中。

そして更に、この物語では敵の奥深くに潜入したもう一人の女が登場する。

彼女のアメリカでの名前はJordan Webber-Hayden。本当の名前はZoya。”名前のない男”の命を受け、アメリカに偽名で潜入し、その美貌で男女を問わず要人を誘惑し、操り、彼の目的達成のために献身する。彼女は”名前のない男”を「愛する人」と呼び続け絶対の信頼を置いている。それは貧しい境遇から彼女を拾い上げ、教育し、現在の生活を与えてくれた恩からだけではない。
そしてそんな彼女の虜となり、操られ続ける軍情報部の高官”The Soldier”。彼女に執着し、何とか自分だけのものにしたいと渇望する彼は、情報を流し続け、彼女からの頼みを実現しようと奔走する。そして彼女を独占するための最大の障害である”名前のない男”を、そのイメージから”建築家”と名付け、憎悪し続ける。
今作ではその”建築家”が作品中の”名前のない男”の呼称となって行きます。

身柄を確保されたVosilは、ただちにアメリカへと移送、そして厳重なセキュリティーの軍施設に監禁され、尋問が始まる。困難を極め、しかし迅速な情報の引き出しが求められる状況に、既に任務の終わったNessunoも招集される。そして彼女は16か月間Elisabetta Villanovaという人格になり切り愛人として暮らした男の前に再び立つ。

そしてVosilは語りだす。俺は必ずあの男に殺される。奴の手はこの国のかなりの部分にまで入り込み、こんな施設にいても逃れることはできない。俺が求めるのは奴からの完全な保護だ。それができるなら自分の持っている情報を提供しよう。そして、既にもう一つのテロ計画は進行中で、まもなく実行に移される…。

Vosilの言葉通り、”建築家”は彼の抹殺のため動き始める。Zoyaを通じ、”The Soldier”を含む各方面にVosil処分が依頼される。そして遂にZoya自身もその任務を越えて、危険なポジションに動かざるを得なくなった時、彼女の身を案じる”建築家”も自らアメリカの地を踏むこととなる…。


ちょいとハリウッド・アクション的なテイストもあった第1作とは打って変わり、このシリーズ第2作では派手なドンパチは少々後ろに下がり、Nessuno、Zoyaの二人の女性の物語を軸にしつつ、冷酷非情ともいうべき水面下の暗闘が繰り広げられて行きます。その一方で、別れた妻と娘について、Bellの「人間的」な側面も描かれ、デルタ・フォース・チームの面々についても少し掘り下げて語られて行きます。そして今作では遂に、というか意外と早くかもしれないけど、主人公Bellと”建築家”が直接相まみえる展開に!

そして、まあフツーに予想されるように、背景説明も少しアップデートされ、拡大された第2作で見えてきた方向性として、このシリーズの中心テーマとなってくると思われるのは、「アメリカの敵はアメリカ自身ではないのか」ということでしょう。まあこの作品が仮に日本で翻訳されたとしたら、「9.11後のうんたらかんたら」とか、場合によってはさらにさかのぼり、「冷戦構造崩壊後のうんたらかんたら」で始まるようなおなじみ時事解説風の解説なんかが付けられるところなんでやんしょ。しかしね、まずそこに釘を刺しときたいのは、別にルッカはアメリカに「敵」がいなくなったから「アメリカ」を敵に持ってきたわけではない、ということである。そしてその「敵」であるアメリカというのが、何か陰謀説めいたものであったり、利益を追求する軍産複合体というものではなく、具体的であれ仮想状態であれ、「敵」である国家・地域・民族に対し、あらゆる側面で「強国」であることのみにより自国のポジションが守られるという、結果的にトランプを大統領に押し上げたアメリカ国内の空気のようなものであろう。もはや敵には「ルール」などは通用せず、場合によっては和平交渉を行える国家すら存在せず、やられる前に完全に敵を破壊しなければならないというパラノイア。それは単にアメリカだけのものでなく政権交代など以前に総理大臣の選択が一択しかないと思い込む日本でも同様のものであり、さらに多くの国でも起こっている空気なのだろう。リアルな国際情勢にコミットする『Queen & Country』の後、ルッカが次に新たなシリーズのテーマと定めたのがこの空気なのだろう。リアルな国際情勢に照らし合わせ作品を作る作家なら、例えば冷戦時対共産主義における中東政策、中南米政策とそれがもたらした結果という形でも明らかな、アメリカの国際政策の中の「敵」に対するパラノイアについて考えざるを得ないものだろう。そしてこの同じものでもありまた別の側面も持ちながら、更に各層に拡大するパラノイアはいつか国家や世界をも飲み込むものかもしれない。これはリアルな世界の動きからの「現実」にとらわれすぎることなく、更に想像力を拡げられる、ルッカのような作家だからこそ現在の世界を舞台にして描ける「スケールの大きい」物語なのだろう。
ここでくどいようだがもう一度、このシリーズの構造について言っておくのだが、まあ割と最近になって気付いたのだけど、これはコミックのライターでもあるルッカがコミックの方法論を応用したものである。つまりコミックというのは大抵の場合は1号24ページとかの分載という形を余儀なくされる物であり、またそれがたとえ4~5回分をまとめたTPBという形になったとしても、大きな物語の背景説明までするには到底足りない。ではどうするか?まず限定された部分的な情報のみで構成される、目を惹く派手なエピソードで始め、読者を引き付けつつ物語を徐々に大きくして行くのである。同様の手法が、少し前にお伝えしたようにアマゾンでのシリーズ化も進行中の『Lazarus』でも使われてるので気付いたんだけど。それがこのJad Bellシリーズ第1作『Alpha』で、続く第2作『Bravo』。つまり物語はまだまだ隠されている部分が多く、更に拡大されるということである。
そして、このシリーズではそういった大きく、ある意味では曖昧に見えるかもしれないテーマを持ってきたルッカである。現在のところはまだ限られた情報のみで、輪郭とその前を走り回るキャラクターしか見えないかもしれないが、この土台の上に物語は確実に更なる深みを持ち、構築されて行く。政府の高官や資産家たちがその「愛国心」から国内で偽のテロ攻撃を計画する、という展開を早々に「荒唐無稽」と切り捨てて見せたい気取り屋もいるだろうが、そんな輩はとっとと降りていただいて結構。物語終盤ではさらに大きく陰謀めいたこの先につながると予想される展開もほのめかされるが、今作で最も重要と思われるのは、短い直接対決シーンで”建築家”がBellにほのめかす彼自身の正体についてだろう。まだそこについては何の予想もあるわけではないのだけど、その正体が明かされた時、このJad Bellシリーズはその様相を変え、真の姿を現すのではないか、と予想するところであります。
そしてこの主人公Jad Bell。別れた妻と娘の身を案じながらも、結局大したことはできない普通の中年男の側面を持ちながら、いざとなれば冷徹な戦闘機械になり切れる男。この男についても語られていない部分はまだ多いように思える。新たに登場し、まあ予想通りに急接近したNessunoとの関係も含め今後の展開には大いに期待したいところ。またこの主人公が、ジャーナリストであったりフリーランスの外部の人間ではなく、軍の人間であり作戦行動として物語が展開することから、この「敵」を曖昧で巨大な手に負えないものとして終わらせるのではなく、「アメリカ」の手で解決する物語として描くのだというルッカの意図を表しているのではないかとも思うのですよね。
ちょいとまた先回りしすぎて慎重モードで語りすぎたかもしれないんだけど、この『Bravo』、私的にはもう文句なしに100%完全に楽しく読めた作品でした。なんか大き目で読み難いサイズのペーパーバックをしばらく持ち歩き、みたいな感じだったのだけど、なんだかそれほど長く読んでた感じもしなかった。とは言え、どうやったって連続している進行中のシリーズの中の一つの作品を、単独で評価するってのは難しいのだけどさ、一作目からもたらされた期待を裏切らず、続くシリーズへの期待を高めるシリーズ第二作であった、というぐらいのことは言っときましょうか。まあいっつも日本で翻訳なんか出したってしょうがねえ、とか悪態をついちまうのだけど、やっぱりいい本は翻訳とかもされてなるべく多くの人に読まれるべきなのでしょう。このJad Bellシリーズももしかしたらどっかがこれから翻訳しようとしているのかもしれないけど、なんかいい本を全力で勧めようという気もないなあなあ空気読みばかりの「読書のプロ」どもに雑に扱われ、すぐれた作品を見出したいなんて意思もなくてめえが通ぶって格好つけることしか考えてない劣化甚だしい「冒険小説」周辺の、時事解説風のまとめがあって初めて自分が何か読んだ気になるスケール小さいクレーマーや、毎度おなじみ○○の一つ覚え「マーク・グリーニーに比べれば」にこき下ろされて1作だけで引っ込めるようなら意味ないよ。出すんだったら最後まできちんと付き合うべし!つってももう日本にそんな出版社無いのかもね。やっぱそんなもんには期待しないで、せっかくKindle版も買えるようになり手に入りやすくなったことだし、ちょいと頑張って原書で読みましょうや。
さてそんなグレッグ・ルッカJad Bellシリーズなのだが、続く第3作についてはまだその発売時期についてもアナウンス無し…。しかし!と思っていたら先日アマゾンで「Greg Rucka Jad Bell」で検索をかけてみたら、2017年9月発売予定で第3作『Gamma』を画像なし現在品切れです状態で発見!察するところ発売予定で商品情報だけは作ったもののまだ作品も完成せず、無期限延期状態というところなのだろう。第2作以後、トランプ政権も誕生し、ツイッターを見ても常にトランプ政権には批判的なルッカだけに作品の構想も変化したのかもしれない。しかし、未定ではあるだけで、続きの書かれることははっきり決まっているのだ。何とか来年2018年には出るのではないかな?出たら今度はホントの最新刊ですぐ読むであります。必ずや!


【その他おしらせの類】
あのドゥエイン・スウィアジンスキーが映画『ワイルドスピード』シリーズの脚本家クリス・モーガンと共同脚本でダン・シモンズの『ダーウィンの剃刀』をTVシリーズ化進行中。これはどうもスウィアジンスキーが共同脚本として呼ばれたというものでなく、むしろ業界に強いクリス・モーガンの力を借りてプロットを売り込んだというスウィアジンスキー主導のものらしい。放送は大手ネットワークNBCということで日本にも入ってきやすそうで期待も高まるところ。『ダーウィンの剃刀』については未読なのでなるべく早いうちに読んどかねば。なんか日本ではダン・シモンズは『エンディミオン』とかみたいなSFだけ書いてればよいとする偏狭な輩の感想が見つかりそうで、評判については一切知らんけど、スウィアジンスキーがやりたいって言ってんだからきっと面白いんだろ。

そしてもう一つもスウィアジンスキーなのだけど、かのジェイムズ・パタースンのBookShotsから新たに新刊『Stingrays』を発売、って6月、半年前の話じゃん…。パタやんのBookShotsには新たにPolis BooksからAsh McKennaシリーズを出しているRob Hartも参戦し『Scott Free』が発売中。で、なんでこのBookShotsにそんなにこだわっているかというと、これらの作品カバーにはWithという形で作家名は記載されているが、版権はすべてパタースンのみのもの。世間的には不死身のベストセラー・サイボーグと信じられているパタースンだが、ここだけの話だが実は生身の人間で、いつかはその命が尽きる可能性もある。そうなった場合これらの明らかにパタやん本人の手によるものでない作品はことによるとパタ作品リストからも、また版権を所持していない作家の作品リストからも外され、せっかくのすぐれた作家の作品が永久に失われるということもあるかもしれない、という気の長い危惧をしていたりもするのである。まあそんな心配は置いといても、せっかくいい作家の作品が割とお手軽に手に入るのだから放っておく手はないっしょ。まあ自分の方でお知らせするのは自分の興味のある作家だけなので、もっと広く読みたい方は自分で色々と探してみてください。もう結構大量に出ているBookShots作品を調べるには、各種出ているBookShotsアプリがおススメ。ちゃんとアカウントを作っておけば、定期的にパタやんからの新刊お知らせメールも届くぞ。もちろん毎回ジェイムズ・パタースンからであると明記されて送られてくるこれらのメールがパタやん本人からのものであることは疑ったこともない。ハハハ何を言ってるんだね。世界中にお知らせメールを送るなど造作もないこと。何しろ相手はあの無敵の不死身ベストセラー・サイボーグ、ジェイムズ・パタースンなのだぞ。あっ、実はスウィアジンスキーのBookShots一冊読み終わってるのだけど、色々遅れててなかなか書けないので、しょうがないのでそのうちまとめてやりますです。

というわけで、どうかね、本人も含む大方の予想を裏切り年内に間に合ったぞ!しかもクリスマス・イヴ当日に。だって何の予定もないんだもん…。まあ結局3週かかっていて威張るほどの要素は全くないのですがね…。ちょっと他にやりたいことも思いついていたりもするので、もっと気合を入れなければと思っているところであります。まあ年末正月も、寒いのでなるべく外に出ない、ぐらいの予定しかないのでここからまた頑張る予定ですが、さすがに年内最後になるかと思いますのでちょいとまとめ的なことも。年末ということであちこちで今年のベスト的なものもやってるところですが、先日ドン・ウィンズロウが僕の本選んでくれてありがとう、って言ってたのが、割と一般的というか来年とかもう少し先に翻訳出るかもよ、っていうのが並んでた感じだったりするのでちょっと紹介しときます。[Literary Hub:The Best Reviewed Books of 2017:Mystery & Crime] Literary Hubってところも初めて知ったのですが、面白そうなところなのでこれからはチェックせねば。ちょっとまだよくわからないのだけど、こちらLiterary Hub内のBook Markってところにあって、他に本体のLiterary Hubの方にもThe Best Crime Books of 2017というのがあって、そちらではもっと数も多くて日本の横山秀夫、湊かなえの本なども選ばれています。しかし今年はウィンズロウの『The Force』やハミルトンのニック・メイソンの続きぐらいは翻訳出るのかと思ったけど全然出なかったね。ウィンズロウは来年『ザ・カルテル』の続き出ちゃうんだけどどうなるのかなあ。あとウィンズロウが昨年発売前からかなり入れ込んで推してたメグ・ガーディナーの『UNSUB』絶対翻訳出るだろうと思ってたのだけど来年なのでしょうか?なんかTVシリーズか映画かどっちかになる予定とかも聞いたのでそれ待ちなのでしょうか。何しろウィンズロウがこれ読まないやつはバカだぐらいの勢いで推してるので、翻訳出たなら必ず読もうと思ってるのですが。あとJoe Ideの『IQ』シリーズとか日本で出したら売れそうなんじゃないの、と思うのだけど。あんまり自分的には優先度高くないかと思ってたら、「bridges the gap between Sherlock Holmes and Elmore Leonard」なんてレビューもあるのでもう少し気にしてみようか。この辺ってもしかしたら年末恒例のアレの隠し玉ってとこに載ってるのかもしれないけど、金曜の帰りそろそろ買おうかなと思って本屋に寄ったらすごい列出来てて面倒だったのでやめちゃったのでわかりません。どうせ読んでも文句しか出てこないだろうし、立ち読みでその辺だけ見ればいいかな。個人的には今年のベストでおススメは、お馴染み英国犯罪小説界のドンPaul D. Brazill大将のFIVE CRIME FICTION FAVOURITES FROM 2017.です。うわー、早く読みてえ。しかし映画とか全然チェックする余裕なかった間に『ドッグ・イート・ドッグ』の映画とか出てたんだ…。ハプレナも早く観たいし…。わーもーブログやめるー、ぶー。いやまあ…また頑張るです…。では楽しいクリスマスと良いお年をね。オレに言われたってありがたくもなんともねーだろーけどさっ。何の予定もないからって最後にすねるなよ…。ではまたね。

【追記】
本日(12/28)本日仕事納め(大掃除の役には立たんので半日!)で帰りに年末のアレを買った(ちゃんと買ったよ!)ので追加報告を。えーと、どこにも『UNSUB』が無いのだけど…ホントに出ないの?当方、そっちまでは今んところ手が回んないのだけど…。何しろ昨年せっかく出たのに続きをぶん投げられたクリス・ホルム、C・B・マッケンジー、トム・ボウマン、あとオーファンXの続きとか来年こそは読まねばと思っているのだし。頼むよ…。それからウィンズロウ『The Force』はハーパーから?と思ったら、本国の方でHarperCollinsに移籍したようですね。Vintage/Black Lizardもかなりジリ貧っぽいしなあ…。多分『ザ・カルテル』の続きも再来年ぐらいにハーパーからになるのかな?で、本国HarperCollinsってどんなの出してんのかな?とざっと見てみたところ、なんかJason Millerって人の「Slim in Little Egypt」シリーズっていうのが面白そう。もっとよく調べてみたらKindleでプロモーション用の短編『The Hunger Angels: A Slim in Little Egypt Short Story (Slim in Little Egypt Mystery)』っていうのが無料で出ていました。気になるのですぐに読むつもりなので、もしすげー面白かったら次々回ぐらいからハーパーは何であれを出さないんだよ、って苦情を言い始めるかもしれません。それからジョー・イデの『IQ』は早川から出るそうで良かったですね。自分的にすぐに読めるかはわかんないけど、好きな人も多いと思うので盛り上げてください。今年は2作目も出てるしね。…と思っていたら、その早川があのエイドリアン・マッキンティを最悪の売り方で出そうとしていることが判明…。もうよっぽどのバカしかいないのか、一作だけ話題性で売るだけ売れば続きはぶん投げても構わないと思ってるのか…。ここに出てるんだから来年早々には出てくるのだろうし、それまでには少しでも空気を悪くしておかねば、とはせ参じたわけです。はっきり言っとくがなあ!せっかく優れていると思った本を褒めたのに、それが仇になり、そのジャンルの作品でないことを理由に優れた作品を不当に低く評価するような国の人間にミステリなんて読む資格はねえんだよっ!まあこちらとしては購入時に帯を破り捨て、場合によっては解説も無視して、優れているに決まってる本編だけを楽しく読むだけです。マッキンティの作品ですから優れているにきまってますから。それがたとえ「本格密室ミステリ」だったとしてもね。早川は順次刊行と言ってるのだから、それがどんなに「ミステリ通」どもにこき下ろされても責任持って出し続けるように!順次刊行というのは一作目の後しばらくして二作目だけ出して終わりというのではないからね!Sean Duffyはもう6冊出てるのだからね!以上追記でしたー。



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2017年12月17日日曜日

2000AD関連書籍Kindle版クリスマスセール情報

小説版の『Judge Dredd: Year One Omnibus』などがセールになっているのは気付いてたのですが、早く次やんなきゃなんないし期間とかもよくわからないし、で放置していたのだけど、ちょっと色々と散らばっていてわかりにくいところで結構いいのもあったりするので、一応まとめとくことにしました。一部2000ADのアプリショップでも連動してセールになっているので、そちらの期間来週中ごろあたりだったかまでは続いてるのではないかと思います。ちょっと遅くなり、期間も短いのですが気付いてなかった2000ADファンの人にいくらかお役に立てばと。
まずドレッド関連では『Judge Dredd: Year One Omnibus』、『Judge Dredd: Year Two Omnibus』、そしてジャッジ・アンダーソンの『Judge Anderson: Year One』。あと、ドレッドのかなり初期に登場し、スタローンの方の映画版の敵役だったドレッドのクローンの兄弟リコ・ドレッドの小説『The Third Law (Rico Dredd: The Titan Years Book 1) 』。こちらは現在のドレッドのメインライターのひとりMichael Carrollによるもの。前述の3冊にもその手の人が多く登場しています。そして昨年2000号記念の時期に出た2000ADの初期から80年代まで頃の編集者Steve MacManusによる『The Mighty One: Life Inside the Nerve Centre』。初期の2000ADなどについて色々書かれた本です。あと、『ZOMBO』のライターで現在は主にマーベルで活躍中の、Al Ewingの『The El Sombra Trilogy (Pax Britannia)』。こちらはコミックとは関連はなくオリジナルの小説で同じくREBELLION傘下のAbaddon Booksから昔に出た3部作を1冊にまとめたオムニバス。2000ADファンはまだ初心者でもこの機会にぜひ手に入れておくべし。あと、コミックの方でもウエブやアプリのショップで色々といいのがセールになっているのでお見逃しなく。もう少し早くやればよかったよ…。ごめん。

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2017年12月3日日曜日

グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第3回

またしてもずいぶん遅れてしまいましたが、グレッグ・ルッカ Queen & Countryの第3回です。なんだよ前回やってから1年過ぎてるじゃん。トホホ…。ここのところ度重なる遅れで月一ペースに落ちてしまっているのですが、今回こんなに遅れたのは他にも少し言い訳があります。って、前の見たらそっちもこんな感じで言い訳してるじゃん!しょーがねえなあ…。まあそんなこんなの言い訳は後ほどということにして、とにかくまずは進めるであります。Queen & Countryの第3回です。

今回はThe Definitive Edition Vol.3に収録の作品。間に翻訳のある小説版『A Gentleman's Game』(邦題『天使は容赦なく殺す』)を挟み、コミック版Queen & Countryのタラ・チェイスのストーリーはこれで終わりとなります。

●Operation: Saddlebags 作画:Steve Rolston/Mike Norton

ここで"Operation"に属さないSteve Rolston画によるストーリーが1号挟まれ、その後Mike Norton画による「Operation: Saddlebags」が始まります。単行本ではこの「Operation: Saddlebags」に収録され、「Prologue」とタイトルが付けられています。
これまでのストーリーでは、マインダー3キタリングの死亡後、候補生も最初の作戦で死亡し、SIS特務課はしばらくトム・ウォレス、チェイスの2人体制でしたが、SASの元軍人ニック・プールがマインダー3として加わり、やっと本来の3人体制に戻ります。しかし、ウォレスは特務課を引退し、指導官の職に就くつもりであることを表明している、というところから話は続きます。

[Prologue]:帰宅後、届いていた郵便を見たチェイスは、特務課に休暇届を出し、バイクで母親の住むスイスへと向かう。母親の住む大邸宅では放蕩な若い男女がたむろし、乱痴気騒ぎを繰り広げていた。そんな中、母親と会ったチェイスは、彼女がスイスで出会った若い男性と結婚するつもりであることを告げられる。
チェイスがイギリス富裕層の出身であることは、第2回のThe Definitive Edition Vol.2収録のOperation Blackwallで学生時代の友人Rachelとのエピソードで少し語られています。両親は離婚しており、まだ登場していない父親は実業家らしい。常に会話の中からの断片的な情報なので、もしかして読み間違えや見落としがあったらごめん。少し自信が無くなってきたり…。母親との確執は解消はされないものの、お互いへの愛情から曖昧な和解をみてチェイスはロンドンへ戻る。SIS本部へ出勤したチェイスを待っていたのは、マインダー1への昇進だった。別れを告げることもなく特務課を去ったウォレスに、チェイスは涙する。

家族との関係という形で、チェイスの一面が描かれるワンショット。作画Steve RolstonはQueen & Country最初のストーリー「Operation : Broken Ground」を描いた人。この人についてはちょっと後ほど。

[Operation: Saddlebags]:チェイスがマインダー1となった特務課に新たにクリス・ランクフォードがマインダー3として配属される。そんな中、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクに政府の高官McMillanが極秘裏に滞在していることが現地の駐在員から報告される。国益に反する何らかの不正取引が進行していると察せられるが、C:フランシス・バークリーからは慎重に動くよう指示が下る。相手の政治的立場から、確実な証拠を掴まない限り糾弾は不可能だ。しかし、現地駐在員の監視が察知され、身動きが取れなくなり、特務課からマインダーの派遣が決定される。本部長ポール・クロッカーは、不穏なイラク情勢を鑑み、プールを本部に待機させ、チェイスを新人ランクフォードとともにサンクトペテルブルクへ向かわせる。現地に着いた2人はMcMillanの滞在するホテルへ向かい、彼が外出した隙を窺いチェイスが部屋に侵入し、捜索を始める。ところが、McMillanは客を迎えに出ただけですぐにエレベーターに乗り、部屋に戻ってしまう。外で見張っていたランクフォードはチェイスに連絡を試みるが、応答はなく、捜索中のチェイスは彼らと鉢合わせしてしまうことになる…。
チェイスはMcMillanのラップトップを奪い辛くも脱出するが、決定的な証拠はつかめず、取引自体は破綻させたがMcMillanを糾弾することはできず、作戦は失敗に終わる。だが、クロッカーはランクフォードをそのままマインダー3として遺留、そしてチェイスに今回の失敗はお前の責任だと告げ、語った言葉はチェイスを打ちのめす。普通の人である私とかが普通に読むと、不慣れなランクフォードによる失敗として読んでしまうのだけど、クロッカーがチェイスにあの時お前はこうするべきだったと語る言葉は、プロフェッショナルの厳しさ、非情さを改めて突き付ける。さすがルッカ先生!

作画Mike Nortonは、以前に書いたImage Comicsの『Revival』のアーティストで、Webコミック『Battlepug』でも有名な人。画力についても何の問題もないのだけど、ちょっと引っかかるところがあり、この間2000ADの『Kingdom』Richard Elsonのことを書いた後に改めて見てやっと気付いた。この人もElson同様線を前に出してカラーを使うタイプの画で、Queen & Country通例の白黒画では少し線が強すぎるのだ。この人も日本のマンガと共通するタイプのタッチで、と言ってもその説明も少し雑かと気付いたのでもう少し詳しく言うと、海外から見た日本のマンガと言ってイメージされる日本のアニメーション的な画ではなく、人物のプロポーションなどはリアルなのだけど写実的というよりはもっと線が整理された感じで、例えば北条司あたりをイメージしてもらうとよいかと。で、その画でカラー前提の強すぎる線を使ってしまっているので、全体的に色がなく白いという印象が強くなってしまうのである。実際に画は大変上手い人なので、ちょっとその辺が残念だったかも。まあこのくらいの腕の人なら印刷されてきたのを見て自分でも気づいて次に白黒でやる時は何か考えてくるところなのだろうけどね。以前から言ってるように、結局は物事を自分の考えに都合のいいような型にはめ込むような動き方をしてしまいがちな「論」みたいなものを形作ることは私の嫌うところなのだけど、それでもやっぱり一つの傾向みたいなものを考え方の基準にすることが役に立つときもあるわけですね。まあそれが絶対的なものではないと常に自分に戒めなければならんのだけど。ちょっとNorton氏の画の話からは外れてしまうのだけど、最近アメリカのコミックで基本的にはかなりの画力のリアルな画を白黒2階調のコントラストを強めにしたタッチで仕上げカラーを乗せるというタイプの画をよく見かけるようになっていて、例えばこのルッカの『Lazarus』を描いているMichael Larkとかもそうなのだけど、とかくまあまずいい画だよね、と見とれてしまうのだけど、この辺も一つの傾向的な見方で考えるともう少し流れみたいなものが見えてくるのかもしれないな、というようなことも考えているのですよね。まあその辺についてはいずれもう少し例を並べられるようになってから考えるです。で、もう最後に近くなったところで初めて知ったのだけど、このQueen & Countryはアーティストを公募のような形で集めたそうで、実はNortonはそれに一番乗りで手を挙げたらしいのですが、スケジュールの都合で実際に作品を手掛けるのはこの最後に近いところになってしまったそうです。このThe Definitive Edition Vol.3には巻末にその時のNortonのスケッチが掲載されていて、そこにはこの回にはもう出てこないキタリングの画なんかもあります。

●A Gentleman's Game(邦題『天使は容赦なく殺す』)

そしてここで唯一翻訳のある小説版第1作『A Gentleman's Game』の登場となります。あっ、今更で悪いんですがこの作品に関しては完全にネタバレしちまいます。そうでないと話がつながらないもので。未読の方はご注意を。
ロンドンでイスラム系組織によるテロ事件が勃発する。その応酬にチェイスはイエメンに派遣され、潜伏していたテログループの要人をモスクで暗殺する。しかし、その場に居合わせたテロ組織を支援するサウジアラビア王族の人物をも殺害せざるを得なくなる。結果、作戦そのものは成功するも、チェイスは政治的に危険な立場に追い込まれる。サウジ国内のテロリストキャンプの対策を交渉中のアメリカ。王族殺害の犯人を求めるサウジ。そして政治的にチェイスのサウジへの引き渡しが決定される。立場上決定には従わざるを得ないクロッカーは、極秘裏にマインダー2,3に援護させ、チェイスを逃亡させる。お前が生き残る手段は、渦中のテロリストキャンプそのものを消滅させる以外にない。孤立無援となったチェイスは、教官となっていたウォレスに救援を求め、2人はイギリスを脱出する。エジプトに到着した彼らはモサドの接触を受ける。利害の一致するモサドから非公式の援助を受け、チェイスとウォレスはサウジに潜入、テロリストキャンプを襲撃する。襲撃は成功しキャンプは殲滅される。しかし、その時帰還したグループのメンバーの銃弾を受け、ウォレスは斃れる…。

日本では「キャラクターや設定を使った」ぐらいの雑な紹介のされ方で翻訳された本作ですが、繰り返し言うようにこれは完全にコミック版に連続して書かれた作品で、ここまでに主人公タラ・チェイスがどのくらいのものを背負い、そして失っていったか少しでも伝われば幸いです。しかしケレン味とか書いてあるけどいまいちピンとこないけどねえ。前回に書いたように、この時点でこの作品をもう一度読み返してみました。とりあえず確認のためにざっと読むぐらいのつもりだったけど、かなりがっつり読んでしまった、というか読まされたよ。話を忘れるほど前に読んでから時間がたっていたわけではないけど、それでもキャラクターなど色々なことがその前からの流れでわかっていると、ちょっと違う没入感で再読出来ました。やっぱりこの作品、単体で読むにはキャラクター、設定などの物量が少し多すぎたのだと思う。プールやランクフォードなんてあのくらいの登場では人となりを把握するのはかなり困難だしね。実際のところ、本国アメリカでもどのくらいの人がコミック版から繋いでこの作品を読んだのかはわからない。まあアメリカではコミックなんて読むのは子供だけなのでほとんどの人は読んでないってことにしたい人は勝手にそう言ってれば。少なくとも私はこれをルッカの意図した形できちんとつなげて読めて本当に良かったし、そうする価値のあったシリーズ・作品だと思っています。
21世紀のジェームズ・ボンドは…などというカビの生えた講釈をしてくれなくても、我々はその後のル・カレを始めとするすぐれた作品を数多く読んできているし、現実の世界の動きも見ているのだ。国際政治の裏側で動くのが正義や悪などという単純な概念ではないばかりか、敵味方という区別すら曖昧なものであることぐらいわかっている。あっ、念のために言っておくが私はイアン・フレミングにカビが生えてるなどという意見は一切持っていない。21世紀の偏屈者は決まり文句で話をまとめようとするやつがなんか嫌いなのだ。そしてその自国をも含む各国の「国益」の軋轢の中、チェイスは犠牲として差し出されることになる。この『A Gentleman's Game』のストーリーはコミック版Queen & Countryの最初のストーリー「Operation : Broken Ground」に呼応している。そちらでは同様にチェイスが作戦行動により実行した暗殺の結果、彼女個人が報復の対象となり、イギリス国内において各省庁の権限争いの末、チェイスは武器を持つことも禁じられたまま、囮として使われることとなる。そして今回は同じ形で、更に大きな力同士の中の軋轢にさらされるのである。そこから抜け出すためにチェイスの行った行為は、やはり一つの虐殺としか言いようのない行動であり、その結果としてシリーズの中でも最大の犠牲が支払われることとなる。ルッカは主人公に単純な「正義」の立場を与えないばかりでなく、敵をも同様の単純な「悪」として読ませることを許さない。トム・ウォレスに死をもたらす銃弾は、物語の序盤から用意されており、そして遂にその銃弾が放たれた時、その敵は既に物語を通じて見知ったその痛みをも理解できる人物となっていて、決して物語の最後に報復を受けることを読者の誰もが待ち望む凶悪な悪意でも、顔の見えない抽象的な敵意ですらもないのだ。一見、大きな国同士の意志に翻弄される無力な個人の悲劇という定型の物語に見えるが、ルッカの描こうとするところはそこではない。この世界の憎悪/怒り/矛盾を何か運動エネルギーや運命のように曖昧化することなく、具体的で手を触れ感じられるような人間の痛みとして集約させることである。ま、国際謀略小説を読んで遥かな高みから国際間の動きを見下ろしエグゼクティブ気分にでもなってるスケール小さいクレーマーみたいな連中にはルッカは向いてないんじゃねーの?はあ?いろんな国が出てきて楽しかったすか?そりゃよかったねえ。そして、主人公チェイスは、とにかく目下の問題は解決したことに胸をなでおろすこともできず、また虐殺の惨状を見下ろし自分をここに追い込んだ世界の矛盾に怒りを燃やすエクスキューズも与えられず、はたまたそこで自分の人生を悲劇の一部として終わらすことすら許されず、ただあまりにも深い傷と重荷を負わされたまま生き続けなければならない。この世界がそうであると同じように。
まだ物語の途上であるし、この時点でそういうことを言うとどっかのピーク先生みたいに自説を組み立てるためにシリーズを形にはめる方向になってしまいそうな気もするのだけど、あくまでこの時点の私の感想の一部として言わせてもらえば、このトム・ウォレスの死によって終わる『A Gentleman's Game』はコミック版から続いたQueen & Countryの一つの区切りであり、第1部終了というところではないかと思う。そして同時に、前述のようにこのストーリーがコミック版の最初にストーリーとシンクロしていることからも明らかなように、新たなQueen & Countryの始まりの物語でもあるのだ。とかちょいと言ってみたものの、そこは私なんぞのはるかに上をいくルッカ先生である。チンケな「自説」なんぞ木っ端微塵に打ち砕かれ、前回はすみませんでした…ってことになるのでは、という予感もある。まあそうなればそうなったときのことで、恥をかく「覚悟」なんてマイナス思考のものではなく、前向きな「期待」をもってこの先も進んで行きたい。このタラ・チェイスの傷だらけの闘い、見届けずにはおれるものか!あっ、まだ続きあるのになんかまとめちまったよ。まあ、現時点での私の「第1部終了説」の一部ってことで。

●Operation Red Panda 作画:Chris Samnee

というわけで、ここでコミック版Queen & Country最終章にして、第2部序章でもある(と現時点では考える)「Operation Red Panda」です。こちらは全編Chris Samneeによる作画になるのですが、「Operation: Saddlebags」同様に最初の1号が[Prologue]と題され、その後[Operation Red Panda]全3話が続きます。

[Prologue]:チェイはイギリスへと帰国する。季節外れのTシャツ姿で荷物も持たず空港に現れた彼女をクロッカーが迎える。チェイスは情報部の施設へと連行され、尋問、医師の診断を受けた後、監視状態でそこに留め置かれる。ウォレスの死の記憶に苛まれながら酒浸りになるチェイス。だが、クロッカーは彼女がその任務を果たせなかった場合は、上層部の望む人物をマインダー1の地位に差し替えることを条件に強引にチェイスを特務課に復帰させる…。

[Operation Red Panda]:戦後イラクの新政権の要人の一人がイランに機密情報を流しているらしいと掴んだCIAだったが、その人物には以前からDIAの息がかかっており、CIAが動くことはできない。そしてアンジェラ・チェンからクロッカーに依頼が来る。その人物の暗殺と確実な証拠の確保。クロッカーは、復帰したばかりのマインダー1チェイスとマインダー2プールを上層部には別件を装いイラクに派遣する。記者を装ったチェイスが要人の邸宅に入り込み証拠を探索し、その間にプールが路上に仕掛けた爆弾で要人を暗殺。作戦は無事に成功を収める。しかし、帰国直前に彼女らの正体も知らない犯罪組織に捕まり、身代金目当ての人質とされてしまう。虚脱したように黙り込むチェイスを前に、プールは脱出計画を練ることもできない。現地にランクフォードが送られ、捜索を試みるが、二人の居所は掴めない。しかし、もはや最期と思われた時、チェイスが目の前の男の腰の山刀を奪い取り、狂気のように敵に襲い掛かり、命乞いをする男をも射殺する…。

イギリスに戻ったチェイスは髪を切っているのだけど、『A Gentleman's Game』にその記述はなかったと思うので、サウジでの作戦後、帰国する前のことか。この最終話では、チェイスが悪夢に襲われるような回想という形でウォレスの死の場面が繰り返し描かれるのだけど、その一方でチェイスの内面は少し人格が変わってしまったようにうかがい知ることができない。最終的な反撃もすきを窺っていたのか、衝動的な行動なのかも定かではない。作画のChris Samneeはかなり画も上手い人なので、おそらくはルッカの細かい指示に忠実にその意図通り描かれたれたものなのだろう。CIAが動けずクロッカーに非公式に頼んでくるというのは、やはり第2部開始に際し、最初の「Operation : Broken Ground」のチェイスの暗殺作戦の背景とシンクロしている、とこじつけておこう。チェイス復帰の条件の上層部の希望するマインダー1候補はおそらく次に続く伏線かと。最後にチェイスに関するある重要な情報が明らかにされるけど、それは多分今後の展開の核となって行くところと思うので、小説版第2作の時までとっときます。
作画Chris Samneeは現在はマーベルDCで活躍し、あちこちで受賞歴やノミネート歴もある人だけど、これを描いた時点では出世作となる、『冷血』直前のトルーマン・カポーティを描いた『Capote In Kansas』(ライター:Ande Parks)をOni Pressから出したところで、それ以前は色々な職を転々として結構苦労してコミックへの道に進んだ人らしい。『Capote In Kansas』も白黒の作品で、白と線・ベタの黒のコントラストを強調した画風。単に影だけの表現を越えたベタの使い方が本当に素晴らしい。[Prologue]冒頭、明るい空港から外に踏み出すと冷たく暗い雨の降りしきる夜のロンドンの路上、と一切のセリフ文字情報なしで平和ともいえる日常風景と彼らのいる世界とを対比して見せる流れは見事。異物感はあってもなんとなくその中で守られてる雰囲気から一気に切り離される感じ。実写でも相当腕が良くないとこれ出来ないよ。あえて内面を見せないチェイスの「感情」も巧みに描き出しています。

というわけで、コミック版最終話「Operation Red Panda」は、『A Gentleman's Game』後のチェイスのSIS特務課復帰を描くストーリーだったわけですが、ここでご覧の通り、この『Queen & Country』コミック版単体ではきちんとした完結は描かれず、明らかに小説版第2作『Private Wars』に続く、という形で終わっています。続きは小説を読んでね!ってとこなのだが、実はグレッグ・ルッカがコミック版から小説版へと続くシリーズを作ったのは日本のメディアミックス亡者が考えるような理由だけではない!それについては続く最後のパートで考察して参ろうではないか!

●Queen & Country Scriptbook

で、この「Queen & Country Scriptbook」となるのだが、こちら一応単体プリント版で出版されたようだけど、Comixologyなど電子書籍版は出ていないようです。こちらはコミック版の第1シリーズ「Operation : Broken Ground」全4号のルッカのシナリオを全て収録したもの。で、ここからが言い訳になるのだけど、実は今回のコミック版本編と、一緒にやろうと思ってた次回のアレは確か5月ぐらいに読み終わっていたのだけど、まあこちらをコミック版と照らし合わせながら読むというのに途方もなく時間がかかってしまったわけなのでした…。最初は無計画に、帰宅後のコミックを読む時間の枠の中で1ページ分読んだり読まなかったり、みたいな感じだったのだけど、あんまり埒が明かないので毎日2~3ページずつノルマにして、最終的には結構集中して8月ぐらいにやっと読み終わったのだけど、そこから2000ADやらまたしても無計画の結果やらでここまで遅れてしまったという次第です。申し訳ない…。あんまり時間がかかるので、とりあえず第1号の分を読んだあたりでルッカのコミックのシナリオの作り方は見えてきた感じだしあとはいいか、と一旦は思ったりもしたのだけど、後に書かれたキャプションに作品作りのあれこれや、キャラクターについての考えなど色々と興味深いことも書かれていたので、やっぱり頑張って全部読んでみたわけなのでした。
ではまずはそのキャプションからキャラクターがらみのネタをいくつか拾っていってみましょう。まず序盤のチェイスが狙撃のために廃墟のビルに待機しているときのモノローグ。「前にこんな寒い思いをしたのは南極点に派遣された時だった…。」というのがあって、実はルッカは当初はこのQueen & Countryを映画化もされた『Whiteout』の主人公リリー・シャープでやるつもりだったそうで、これはそのつもりで書いてたシナリオから残ってしまったものだそうです。実は私、この映画もコミック版を読んでからと思ってまだ観てないのだけど…、あっちもこっちもなかなか進まんなあ…。そして、そこから新たに作られたタラ・チェイスなのですが、実はこの名前はルッカのハイスクール時代のガールフレンド(恋人関係というところまではいかなかったらしい)で、一緒にこのシリーズをインスパイアされたというイギリスのTVシリーズ『The Sandbaggers』とかを観てた人からいただいたものだそうです。現実のタラ・チェイスさんは現在はシアトル在住で通訳として活躍されている才女ということです。そして、第2号の結構後半あたりでクロッカーが秘書のケイトに「アメリカ大使館に電話して、フランクに昼は空いているか聞いてくれ。」というようなことを頼む場面があるのですが、実はこの時点ではCIAのロンドン支局長をそういう名前の男性にすることを漠然と考えていたのだけど、後におなじみになる中国系アメリカ女性アンジェラ・チェンに変えたということ。ちなみにアンジェラ・チェンというのはルッカの作品の映像方面を担当するエージェントの名前らしい。とりあえずキャラクター方面のわかりやすいところではそんなところか。あとは戦闘、アクション方面をサポートしてくれる人から教わった色々な考えとか、色々と面白いことが結構沢山書き込まれています。

そしてルッカのコミックのシナリオのスタイルなのですが、まず大雑把に言うと、コマ/パネルそれぞれに情景とセリフ、モノローグなどを記述して行くもの。ちょっとこれがコミックの一般的なシナリオのスタイルなのか不明なのですが、こういうコマごとの指定が続くという形は、例えば今読んでるこっちは既にコミックの形を見ているからすぐにわかるけど、全くイメージなしで渡されたアーティストの立場だと全体が掴みにくいのではないかとも思ったりするけど。口頭や短い文章とかの形で大まかなあらすじとか事前に説明するのかな?そしてルッカのそのコマごとの記述はかなり綿密で、ボンド映画のアレみたいな具体的な例を示した説明もあったり、カメラアングルも細かく指摘してあったりします。そういう時ルッカの頭の中にあったのは映画のワンカットのような映像なのでしょうか。これを読んでみて、グレッグ・ルッカというのはかなり画的なことも考えて話を作れる、コミックのライターとしても優れた作家なのだな、と確認できたのでした。ただし、このくらい細かく説明されしまうと、もしかするとあまりシナリオのある作品の経験がないアーティストだと、それを再現することに集中してしまい、全体的に見ると少し説明的で勢いの弱い画を作ってしまうことになるのかもしれないな、と中のいくつかの作品を思い出しながら思ったりもしました。ある程度慣れたアーティストならそこのところは考えながら描けるのだろうけど。そして前述のキャプションの中にもルッカのコミックを作る上での考えも書かれていて、コミックというのは絵で表現されているものなのだからあまり文字表現の方に頼るべきではないとし、序盤モノローグを使いすぎたのではないか、と反省したりしています。

そしてこの「Operation : Broken Ground」を描いたのが今回の「Operation: Saddlebags」のプロローグも手掛けたSteve Rolston。以前雑にやっちゃったので少し経歴など足すと、カナダのアーティストで、アニメーションのストーリーボードの仕事から転身し、コミックのアーティストになった人だそうです。で、やっぱり個人的にはこの人の画あんまり好きになれなくて、それはチェイスがあんまり美人に見えないとか、服を着てるときの方がオッパイが垂れて見えるとかいう些末なことではなく、どうもこの人ページ全体を考えたメリハリのある画面作りとかができなくて、曖昧なミドルショットの人物が並ぶようなコマをダラダラっと続けちゃうようなところなのですが。今回また改めて照らし合わせていた時も、特に中間の会話シーンが続くあたりではうーんと思うところも多かったり。ただね、主人公のタラ・チェイスというキャラクターに絞って考えるとそこはちょっと事情が違うような気がする。今回の画のない小説版『A Gentleman's Game』を読み返していた時のことなのだけど、それは私に限ったことかもしれないが、例えばこのRolston画によるちょっとむくんだような顔でうつむき加減で憂鬱に何か考え込むようなチェイスが頭に浮かんだようなシーンがいくつもあったりする。何かはうまくは言えないのだけど、この人だけが描けた一般的な評価では他のもっと絵が達者なアーティストが描きえなかったチェイスの内面というようなものがあるように思える。それは前述のキャプションの内容にもあるように、最初はかなりあいまいだったチェイスのキャラクターをルッカがこの人の画とともに作り上げたからかもしれない。でもそれがあることは確実で、それゆえにルッカは家族というプライベートな形でチェイスの内面が描かれる「Operation: Saddlebags」のプロローグにもう一度この人を起用したのではないか。
そこでちょっと改めてこれまでのシリーズ作品をタラ・チェイスというキャラクターだけに絞ってどう描かれていたか考えてみる。すると、個人的には一番印象に残っているのは『The Definitive Edition Vol.2』収録の全体的にはちょっと実力をうまく出し切れていないのではないかと感想を書いたCarla Speed McNeil描く「Operation Storm Front」の終盤、新人マインダー3候補を失い公式の応援もなく敵意の潜む地にただ一人残され、女性ならではの凶暴さをむき出しにして戦い続けるチェイスだったりする。そしてそこで気付くのである。奴の狙いはこれか!自分にはコミックのライターなどというような経験はないが、それでもシナリオがアーティストの手を経てコミックとして完成された時、そのシナリオを書いたライターは多少なりとも自分の意図したものとの違和感を感じるのだろうということは想像できる。人によってはそれを自分の考えたものがうまく表現されていないと考えるのだろうが、ルッカはそこを肯定的に考えるのだ。これはアーティストの手を通じてキャラクターに自分の意図しなかった要素が追加されたものだ、と。そして彼がこのコミック版『Queen & Country』で狙ったのは、そのアーティストからのフィードバックだったのだ。一人の人間が考えるキャラクターにはどうしても限界がある。しかし、このフィードバックを加えれば、自分が考えた以上の豊かなキャラクターを作り上げることができるはずだ。そしてルッカはより多くのフィードバックを得られるように、シリーズごとに交代するという形でより多くのアーティストを集める。出来上がった作品は単純に見ればずいぶんと画にばらつきがあるように見えるが、アーティストの背景をよく調べると、ウェブコミックを自作して出てきたなど、個性的なアーティストが多い。つまりルッカのアーティストを選んだ基準はデッサン力などの一般的なものではなく、自らも作家であるような強い個性を持ったアーティストで、そしてそこからより強いフィードバックを引き出すことだったのだ。そしてそのすべてのフィードバックを手に入れた後、単独作品である小説版を書く。これこそがコミック版から小説版へと連動する形でこの『Queen & Country』シリーズが作られた真相だったのである!…と大仰に語ってはみたものの、このくらいのことどっかでルッカ自身がインタビューとかで話してるのかもね。割と出たばかりの作品だったりするとウロウロしてるうちにそんなものも引っかかってくるものだけど、これ結構前の作品だし、自分もそこまでいろいろと探索していなかったりするのですよ。もしかするとウィキペディアとかにも書かれてたのかもしれないけど、ネタバレ怖くてあんまりじっくりと読んでないしね。まあそんなレベルなんで、これを自分の大発見のように威張るつもりは毛頭ないのだけど、とりあえず自分にはこれが真相であるとの絶対の確信があるし、自力でたどり着いたぐらいのことは誇ってもいいんじゃないですかねえ。どうっすか、ルッカ先生。
例えばこれが日本の作家が思いついたことだったとしたら、まずやってみるのはキャラクターだけ作ってあとは何人かの漫画家に全面的に任せて、その後に自分もそのキャラクターを主人公にした小説を書くということだろう。「日本の」と言ったのは別になんかの揶揄や悪意ではない(日頃の行儀が悪いのでそう思われがちだろうが…。)。これは実はアメリカのコミックでは日常的にやられていることだからである。つまりマーベルやDCなんかがそれ。そちらでの経験も多いルッカには、その方法では同じキャラクターを自分なりに解釈しただけの、また別の作品ができてしまうだけだということに気付いていたのだろう。だからこそルッカは、アメリカのオリジナルのシリーズとしてはそこそこロングランになる全32号に亘る『Queen & Country』のストーリーを全て自分で書き、自分自身でもキャラクターを育てながらそこからさらに拡げられるチェイスを始めとするキャラクターの可能性を探っていったのである。ルッカがそのキャリアのかなり初期から小説家とコミックのライターの2足の草鞋を履き続けてきた特殊な作家であることはこれの第1回で書いたと思う。これはそんな小説もコミックも深く理解したルッカだからこそ実行できたアイデアで、作品なのである。
しかし、こういう書き方をすると、まるでコミック版『Queen & Country』が小説としての完成品を作るための実験の場であったように聞こえてしまうかもしれないが、もちろんそんなことはない!まずそのストーリーにしても、このコミック版をそこまでの28号を呼んだ後改めて唯一の翻訳作品である『A Gentleman's Game』を読み返してみると、その結末の重さは全く違って見える。小説版第1作のみを読んだ時点では、これがシリーズとして続くのであれば主人公のタラ・チェイスはどういう形にせよ、元のSAS特務課という職に戻って行くのだろうと思えるのだが、コミック版の続きとして読んでみると、もはや帰る場所を完全に失ってしまったように見える。ここから話を進めるならば、これまでとは全く違った新しい話が語られなければならない。そんな印象が私にここまでが『Queen & Country』シリーズ第1部である、という現時点の意見を言わしめたのだ。つまりそれだけの重みのある、決して「キャラクターや設定を使った」だけの作品ではない、ということである。ここまでのストーリーがあってこその結末であり、そしてここから続けられるストーリーなのだ。そして、ライターのそのような意図によって(その内容自体は少なくとも事前には伝えられていないだろうが)集められた、その後の活躍も多い異色作家による競作というようなコミックにも意味がないわけがない。もう少し早くわかっていたならそのような読み方もできたのだが…。本当はちょっとその考えで読み返してみたいところなのだけど、あまりにも遅れてきた者ゆえに膨大な未読のルッカ作品が聳えていて、今のところは前に進むしかないのだが。どこかの時点でいつか再読して、うむむそうだったか、と一人納得してみたいもんすね。そして更に!今回の『A Gentleman's Game』は、発行時期とルッカの執筆ペースを考えると、おそらくはそれほどのフィードバックを取得し消化はし切れておらず、本格的にその成果が発揮されるのは次の作品からになると考える。そんなわけで、続く『Queen & Country』小説版第2作『Private Wars』に、期待は大いに高まるのでした。いやもう今読んでんの読み終わったらすぐに読むですよ!

そして続くグレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第4回はDeclassifiedシリーズ3作を収録した『The Definitive Edition Vol.4』となります。実はこちらのコレクション、巻末にグレッグ・ルッカと数人のアーティストとの対談インタビューが掲載されていて、もしかしたら今回私が言っていたようなことか、もしくは私の考えが完全に勘違いであるかわかるようなことが書いてあるのかもしれないと思ったのだけど、なんかカンニングになりそうな気がして今んところは未読。次回にはその内容もご紹介します。そしてそのまま第5回『Private Wars』へと続く予定です。とりあえず次は、んまあ私自身が書くのが色々と甚だしく遅れてる以外には、あまり遅れる要素も見当たらないので、今度こそはなるべく早く登場の予定です。そして次回は、以前予告しました通り(えっと、確か予告したよね…)グレッグ・ルッカ小説作品現時点での最新作Jad Bellシリーズ第2作『Bravo』の登場となります!

えーっと、なんで今回こんな長くなっちまったんだろう…。喉元まで出かかっていた色んな方面への罵倒も長くなりすぎる要素としてずいぶん飲み込んだのですが。これでも。今回と次のJad Bellで2週ずつで行けると思ってたんだけど…。もう12月じゃん。にゃんかもう話がやたら長くなるのはとどめようがないようなんですが、何とか少しでも多くの作品を紹介できるようにちょっと考慮中です。とりあえず考えてみてはいます…。また12月ともなりますと法事なんかもあったりするのですが、次回Jad Bellなるべく早くまあクリスマス前を目標に頑張るであります。ホッホッホッ、暴力読書サンタからのクリスマスプレゼントじゃよ。そんなのいらねえよ…。


【その他おしらせの類】
いつもはコミックの方ではやらないのだけど、今回は小説の方しか読まない人も読んでくれてると思うし、早く伝えなければと思うので一つだけ。
おい!マルホの本のKindle版日本からも買えるようになってるじゃん!いつからだよ?つーわけでなんだかぼんやりして気付かないでいるうちに、ことあるごとに日本からKindle版が買えねえ、と苦情を言ってなんかもうそれが当たり前みたいな気分になっていたMulholland BooksのKindle版が日本からも買えるようになっていました!これは一大事だよ!まず次回予定のルッカのJad Bellシリーズ2作も日本からも簡単に購入可能!そしてあの一昨年私が時々持ち出して来る読書スケジュールなるものを粉微塵に砕き、私としてはかなりの短期間に全作をひたすら読み続けさせた驚異の大傑作ドゥエイン・スウィアジンスキーのCharlie Hardie三部作がなんと600円台で今すぐ読み始められるのですよ!あっ、この三部作に関しては成り行き上かなり重要な秘密をばらしているので(ストーリー上のネタバレではない)そっちの私のブログの方も未読の人は絶対に読まないようにね。スウィアジンスキーのその後の作品『Canary』『Revolver』も買えます。その他にもダニエル・ウッドレルの『The Bayou Trilogy』や、大御所ランズデールのハプレナシリーズ、Malcolm Mackayのグラスゴー三部作(ああ、早く読まねば…)など、ほら、みんな読みたかったやつだろう!オレもだよ!ああ、Charlie Hardie三部作Kindle版も買っちゃおうかな。あっ、忘れてた!昨年翻訳された犯罪小説の大傑作クリス・ホルム『殺し屋を殺せ』のマイクル・ヘンドリクス第2作『RED RIGHT HAND』も!どーせ翻訳出す気ないんだろうし早く続き読みたいのでそろそろこれ買おうと思って気付いたのだった。来年には必ず読んで書くよー!以上です。



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●Queen & Countryシリーズ
○コミック版

■The Definitive Edition(TPB)


■Kindle版



○小説版




●日本からも買えるぞ!Mulholland Books Kindle版!







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