2016年8月29日月曜日

2000AD 2016年春期 [Prog 1973-1981]

ということで今回も引き続きという感じで2000AD春期です。ちょっと短めだったりするのですが、Tharg閣下に「春はここで終わりである!」と宣言されてしまったので仕方ない。それではまず今期のラインナップから。

 Judge Dredd
 Survival Geeks [Prog 1973-1981]
 Tainted : The Fall Of Deadworld [Prog 1973-1981]
 Aquila [Prog 1973-1978]

そして、今期のトップ画像は悩んだのですが、2000ADの創刊の年と同じ号数のProg 1977のカバーとしました。ZERO YEAR!!と背景にも描かれたこの号では、ゼロイヤーにちなんだストーリーも掲載されています。その内容や悩んだ理由については後ほど。

Judge Dredd
 1. The Grindstone Cowboys
   : Michael Carroll/Colin MacNeil (Part1-6)

春期開始のProg 1973から3部に分かれProg 1990まで続く結構長編のMichael Carrolによるストーリーが続きます。ということで、今回はProg 1978までの全6回と少し短いのですが、その第1部となるThe Grindstone Cowboysについて。
まずここから続くストーリーの背景として、2015年夏期のCarrolによるBlood Of Emeraldsがあります。事件の捜査のためドレッドはジャッジFintan JoyceとともにEmerald Isel(未来のアイルランド)に赴き、そしてその地のジャッジ組織の秘密を知ってしまい、ストーリーの結末では脱出の際、阻止を図る地元組織と空港で銃撃戦が繰り広げられることになります。今回のストーリーでは、その事件の結果としてドレッドとJoyceの引き渡しがBrit City(未来のイギリス)から求められていて、それについてJustice Department内で討議が行われていることが背景として語られます。これは続くストーリーの重要な鍵となってきます。
また、今回の舞台となっているCursed Earthについてですが、大規模な核戦争後の世界であるJudge DreddではMega-City Oneの外には荒廃した土地が広がり、Cityの境界には巨大な壁が設けられています。この辺の様子に関してはシルベスター・スタローン主演による1995年の映画『ジャッジ・ドレッド』に登場しています。このCursed Earthについては初期のJudge Dreddで同名のストーリーがあり、Complete Case File Vol. 2に収録されています。半年間にわたる長期のストーリーで、西海岸にあるMega-City Twoで起こった事件により空路が使えなくなり、ドレッドが部隊を率い、陸路で東海岸のMega-City Oneから未来の北アメリカ大陸のCursed Earthを横断し救援に向かうというものです。Judge Dreddの世界では東海岸と西海岸以外のアメリカはほとんど戦争で荒廃した土地となっているわけです。また、この初期のストーリーCursed Earthですが、Complete Case File Vol. 2では版権上の関係で一部のストーリーが掲載されていなかったのですが、最近きちんと許可がとれたようで、完全版である『Judge Dredd: The Cursed Earth Uncensored』今年7月に発売されています。以前からこのCursed Earthはよく登場していたのですが、説明が面倒だったのでCity外の荒廃した土地、みたいな書き方をしていました。また、このCursed Earthは、Cityに近い土地では食料供給のための農場/工場などという形でCityに関連が深い利用がされています。

Cursed EarthからCityに食料を運ぶキャラバンが相次いで襲われ、City関連の施設も襲撃に遭う。事件の背景にはCityの生命線を断とうとする組織的な動きがあると懸念し、チーフ・ジャッジHersheyは、Brit Cityへの引き渡しが討議中のドレッドと信頼のおけるジャッジRicoらをCursed Earthに調査のため派遣する。人員不足のため、候補生を含む編成の部隊となる。事件を起こしているのはCursed Earth内に多く存在する小ギャング集団たちであったが、その背後には彼らに武器を供給し、襲撃を指令する組織があることが浮かび上がってくる。事件の首謀者たちを追い詰めるべくCursed Earthを走るドレッド達であったが、待ち伏せに遭い、ドレッドは腹部を射たれ重傷を負う。何とか間に合ったCityからの救命機に搬入されたドレッド。しかし、飛び立った機は、見送るRico達の頭上で爆発する…。

折しもイギリスではJohn Wagnerが2000AD誌上で重要なキャラクターの死亡を計画している、といううわさが流れていたところで、遂にドレッドが死んでしまったのか、とかなり大きな騒ぎとなったようです。果たしてドレッドの運命は如何に?作画はこの1年ぐらいでは一番多くDreddを描いていると思われるおなじみColin MacNeilです。

Survival Geeks
 1. Geeks Fatales (Part1-5)
 2. Lord Of The Ringers (Part1-4)
  : Gordon Rennie/Emma Beeby/Neil Googe

以前にTharg's 3rillersとして掲載された後、2015年冬期に本格シリーズ化した作品の第2シーズンです。Clive、Rufus、Simonの3人のオタクと巻き込まれてしまった女子Samが住んでいた建物ごと異次元を漂流し、様々な異世界に流れ着くというスラップスティック・コメディ。前シーズンからは前の世界で会ったクトゥルフのミニモンスターHowardが仲間入りしています。

1. 人間に恨みを持ち、遂に絶滅させた進化したネズミが支配する世界に流れ着いた4人は、そこで同様に漂流している性別が逆転した別次元の自分たち(オタク女子3人と男子一人)と出会う…。
2. 別次元の自分たちと別れ、再び漂流する家に戻った4人をKevinという見たこともない少年が迎える。しかし、Howard以外の4人はKevinを当然のように仲間の一人として扱う。実はKevinは以前の世界で彼らに恨みを持つ魔王が送り込んだ刺客で、自らのマインドコントロール能力により彼らを操り友人と思い込ませ、彼らの破滅を企んでいたのだが…。

前シーズンでは、悪い作品ではないのだけど…、みたいな少々歯切れの悪い感じで書いてしまったのですが、今回は文句なく楽しめました。本国の方でも今シーズンは好評だったようですが、実は前シーズン、私が思っていた以上に評判が悪かったようで、「前はあまり好きじゃなかったけど今回のは良かった」という感じのお便りが多かったり。その辺について考えてみたのですが、このシリーズ、最初3話完結の作品として描かれた時のテーマはオタクが突然異次元に飛ばされ、自分が色々なメディアで楽しんでいたような世界に出会うというもので、シリーズ化最初の前シーズンはそれを踏襲したものだったわけです。しかし、当然キャラクターも以前のようなインパクトで新しい世界に出会うわけではなく、また、個々のキャラクターもそれぞれに行動するのですが、その世界との比重の中で今ひとつ焦点が合わせにくかったわけです。そして今回からはそのキャラクターの方に焦点を合わせるという方向に微妙にシフトしたのではないかと思うわけです。1の性別が逆転した自分たちと出会うというのは、気付いた人もいると思いますが、あのイギリスの人気TVシリーズ「宇宙船レッド・ドワーフ号」にもあったエピソードです。自分は「レッド・ドワーフ」の大ファンですが、それほどイギリスのTVやコメディなどに詳しいわけではないので、ひとつ知っているものが出てきたからと言ってこれをパクリだとか指摘しているわけではありません。ただ当然イギリスでも人気の漂流物のコメディである同シリーズは、作品の方向性のシフトを考えた作者たちのお手本の一つであったのは確かではないかなと思います。このような上手い舵取りを見せたGordon RennieとEmma Beebyのコンビ、今後のシリーズ展開にも大いに期待が持てそうです。作画のNeil GoogeはやはりあちらではMangaに属するタッチと思うけど、日本のマンガとはやはり微妙に違う気がするが。コメディタッチの動きも上手いいいアーティストです。ちなみにカバーの画はDylan Teagueというまた別の人。こっちの方が日本のマンガでありそう。

Tainted : The Fall Of Deadworld
 Kek-W/Dave Kendall

2015年夏期のDark Judges/Dream Of Deadworldのコンビによる同じくDeadworldを描いた作品ですが、続編ではありません。今回の作品はDeadworldがなぜあのような恐ろしい世界になってしまったのかを描いた作品。また、前作Dream Of DeadworldがアーティストDave KendallのイメージをもとにKek-Wがストーリーを構成したものであったのに対し、今回の作品はKek-W主導の作品と思われます。

その世界は死に向かっていた。全ての物が病み、腐食し、死を迎えていた。困窮していた農場の一家を雹嵐が襲い、遂に一家が築き上げた財産を全て奪い去ってしまう。そこに都市での暴動で怪我を負い意識を失ったジャッジFarefaxを自動操縦のバイクが運んでくる。彼を介抱した一家だが、意識を取り戻したFarefaxは都市へ戻るため暴力的に威嚇し、農場の車に一家を同乗させ都市へと向かう。だが、その途上で彼らは人間までも腐食し、歪み始めた恐ろしい世界に直面する…。

ということで、前回冬期に予告したKek-W問題です。まず言っておくけど、私はKek-Wという人のイマジネーションといった部分は評価し、他の人には作れない世界の作品を作れる人だと思っています。しかし、この作品本当に読みにくく、わかりにくい。その辺の原因をKek-Wのスタイルとともに少し考えてみようと思います。
まず、この人のシナリオの作り方で、ちょっといきなりその実物を見ていないので推測になってしまうのだけど、多分この人のシナリオは、まずページをいくつかのコマに割りそれぞれのコマについて記述して行くというものだと思います。そしてそのコマ一つ一つについて映画のワンシーンのようなイメージで書いているのだと思います。これって一見うまくいきそうだけど、実はコミック/マンガの演出ってちょっと違っていて、もっとカット割りに近い考えで行かなければならないのではないかと思うのです。つまり、Kek-Wの頭に浮かんでいるのは、明確なイメージであるけどコミックのコマのフレームで切り取られたものではなく、場合によっては動画であったりもするのではないかということ。それゆえにこの作品では特に動きの多いシーンではその内容が伝わりにくくなっているところが出てきます。まず、その記述方法によりある程度同じポテンシャルを持ったコマが同じレベルで並び、コマ同士の間での強調といったことがうまく機能しなくてメリハリがつきにくくなり、場合によっては前のコマよりも次のコマの方が動きは大きいのだけど人物はロングショットで小さくしなければならなくなるということも起きてきたりするわけです。またそれを防ぐため先のコマで状況を説明できるロングショットを使おうとすると、そこはそれに至るための感情的な盛り上がりを表現しなければならないの人物が小さくなるというような不都合が出たり。また、コミック/マンガ的な演出では入るべき動きが抜けてしまったりということも見られます。ライターから送られたシナリオがそのような形でコマごとの指定という風に書かれていても、実際にコミック上の画面演出をするのはアーティストで、必ずしもそのコマ割り指定通りに描くものではないにしても、ストーリーとページの間の物量比でかなりの部分をそれに従わないと成立しないという状況もあり、その結果がこの作品のこの読みにくさになっているのだろうと思うのです。前回2016年冬期の『The Order』の時書いたように、Kek-Wという人は少しクラシックなタイプのコミック表現を好んでいるのかもしれない。しかしやっぱり彼のストーリーの語り方は現代的なスピードを持った物だし、もしそこを目指すのであれば、もっと工夫が必要なのではないかと思うのです。単純にそういうクラシックなものに色々な演出を加えたのが現代のコミックというものではなく、また別の考えが必要になるものだし、また、6~8ページぐらいで終わるワンショットと、同様のページでも続き物になるストーリーでは語られ方も違うものだし。
そして、Kek-Wの話の作り方なのですが、前にも書いた通り、この人はとにかく説明不足。例えばこの話ではまず、田舎の農場に状況からこの世界全体が死にかけているような状況を説明しようとするのだけど、やっぱりそこには少し無理がある。そして第1話の中間で、背景的にTVのニュース映像が示され都市ではこの事態に暴動が起こっていることが語られ、そのまま第2話冒頭1ページ半ぐらいでその都市の暴動からジャッジFarefaxがなぜ意識不明でその農場の玄関先に運ばれてきたのかの説明がなされるのだけど、それも無理!こうやって書いているからわかるんだって。キャラクターについても中心となっている農場一家については一生懸命読めば何とかわかるという程度。いや、いつも一生懸命読むけどさ。『The Order』も第2シーズンになるとキャラクターの背景なんてほとんどわからなかったし。そしてその一方でKek-Wのストーリーは直線的な構造で曖昧な情報を置いたままどんどん先に進んでしまうのである。やはりそれぞれに少し遡った説明的なストーリーも必要だし、囲みによる説明的な文章も多少は必要なのではないか思うのです。例えばDreddに時々出てくる「○○千万人あったシティの人口が今はどのくらいに減少し、犯罪発生率はどのくらいに…」みたいに長く入ったりするのも多少読み流しながらでもなんとなく状況の大変さが伝わったりするものですから。
と、こういう感じで色々気にながら読んでいると、どうしてもストーリーについての疑問も大きくなったりするわけで、なんかそういうことまで書くと粗探しの揚げ足取りで得意になってるこき下ろし屋みたいになるかとちょっと考えてどうしようかと思ったのだけど、ここだけはどうしても気になったので指摘しておきたい。この話って農場の雰囲気とか服装とか1930~50年代ぐらいのアメリカみたいで、話の中ごろからは町には保安官がいたりもするのだけど、そもそもジャッジっていうかなり警察国家的強引なシステムって大戦争が起こり文明がほとんど崩壊しかかっているというかなり危機的状況ゆえにできたものではなかったのかということ。そういう感じに見えないパラレルワールド的別次元のDeadworldではなぜジャッジシステムができたのかというあたりKek-Wさんちゃんと説明してください。
また長々とKek-W問題について書いてきたわけですが、実はこの作品、とにかく絶賛の嵐!Kek-W問題などと言っているのは私だけで、なんか世界的にも一人ぼっちになってしまうのか…(日本国内的には言うまでもなく…)、と思っていたところ少し後になっての2000ADお便りコーナーで「オレ、少数派になっちゃうのかもしれないけど、あえて言うけど、この話全然分からなかったよ!」というのがあって少しホッとしました(相変わらず少数派だが…。)。Tharg閣下も「汝のような者のためKendallドロイドにもう少しわかりやすく描くように言っておく」と言っていたのだが、確かにDave Kendallの画ってタッチや雰囲気を優先したもので個々のキャラクターの表情とかわかりにくい部分もあるけど、やっぱりここは「Kek-W問題」だと思うのですが…。
物語の終盤でDeadworldのこの事態を引き起こした毒Dead-FluidsがDark Judgeらによってもたらされたものが明らかにされ、次のシーズンへと続きます。果たしてDark Judge達はそもそもなぜこのような事態を引き起こしたのかが語られるのか?(語られない気がする…。)そして話はもう少し分かりやすくなるのか?乞うご期待!

Aquila : Charon's Mercy
 Gordon Rennie/Paul Davidson

2014年夏期以来久々の登場となる、スパルタカスの反乱に加わり処刑された後、超自然の力により蘇らせられ、頭上を舞う黒鳥に導かれるローマの狂戦士が主人公のシリーズです。かなり好きなシリーズで、Gordon Rennieの名前が出るたびに書いているので少しおなじみなのですが、今回から2015年秋期の『Defoe』と同じくバイオレンス画の達人Leigh Gallagerが降板し、Paul Davidsonに交代しています。

ローマの事件以来相棒になった傭兵とともにHispana Citeriorへ現れたAquila。呪われた不死からの解放の手掛かりを求めるうちに、その地に住む魔術師Tortrixが死者の魂と話せるという情報を得たためだった。その館に闘技場の死体を運ぶ運搬人に成り代わりTortrixの館に入り込んだAquila達。そこでは死体を使った世にもおぞましい研究が行われていた…。

相棒の傭兵の名前が不明…。この人あまり名前呼ばれる機会無いからなあ。どこかに出てると思うのだけど。交代したPaul Davidsonの画は、やっぱりアクション面ではGallagerに及ばないのだけど、その分怪奇グロテスク方向には強く、ストーリーも若干そちらの方にシフトしたようにも思えます。ただAquilaが時々恐ろしい笑みを浮かべたりする感じ、少しキャラが変わってしまったようにも見えるが…。まあ、作画の交代は仕方ないことなので今後は切り替えてこの方向での『Aquila』に期待しようと思います。今回全6回のストーリーはこれから彼を蘇らせたAmmit the Devourerとの対決に向かうと思われる新展開の序章になるようですが、よく考えてみたらこの『Aquila』って読んでないところ最初の少しだけですぐ読めるはずなので、次回登場までにちゃんと読んで全体をきちんと把握しておきます。ちなみに『Aquila』の最初6話ぐらいをおさめた「Aquila #1」は2000ADのAPPショップのSpecial内でフリーで読めます。

というところが今回のラインナップで、まず目玉となるべき『Tainted : The Fall Of Deadworld』が自分的に微妙。あとの2作は良かったのだけど、『Survival Geeks』はまだ単行本はなく、Progのカバー画も他の人の描いたのしかなく、『Aquila』は作画交代で新展開のところで旧Leigh Gallagerのを持ってくるのもな、ということで少し悩んだ挙句今回のトップ画像はCarlos Ezquerra師匠画によるTharg閣下がそびえ立つProg 1977ゼロイヤー記念号となったわけです。
では最後にその記念号に掲載された特別ストーリー『Tharg The Mighty : The Secret Of Prog 1977』(T. M. O./Mike Collins)について。
2000AD内では昔からある噂が都市伝説のように語り継がれていた。Thargは地球への旅の途上、"The Diss"と呼ばれる存在に脳を乗っ取られ、スリルを求めるその存在に操られ2000ADを創刊し、多くのスリルを創造し続けているというものだった。今回2体の下っ端ドロイドがその真相を確かめるべく深夜の2000AD編集部を探索する。だが、彼らが見つけたのは倉庫内に隠されていたかつてのThargのアシスタントドロイドBurtだった。目覚め、彼らを追ってくるBurt。そこにThargが現れる。"The Diss"とはThargが地球へのスリル伝道の旅の途中発見した危険な宇宙ウイルスで、それを根絶するにはそれらの好物であるスリルに溺れさせ不活発化により死を迎えさせるしかなかった。その根絶のためThargが使ったのがBurtの頭脳だったのである。再び目覚めてしまったBurt!だが、ThargはBurtが休眠中に発達したインターネットの力によりBurtを制圧するのだった。
ドロイドBurtは1987年から1994年まで2000ADの編集長を務めたRichard Burtonで、『Tharg The Mighty』にはアシスタントドロイドとしてよく出演していたそうです。長年の2000ADファンにはかなり楽しめて笑える読者サービスの一編でしょうね。

なんとか2016年春期まで終了ですが、遂に9月28日発売のProg 2000まであと1か月となりました。何とか予定の夏期前編まではできそうだが、世の中何があるかわからないし、なんか1年ぐらい前ウイルス胃腸炎とかで倒れなかったっけ?と思い出したり。あと1か月、気を緩めずに無事に栄光の2000号を迎えようと思います。


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2000AD 2014年春期 [Prog1874-1887] (前編)

2000AD 2014年春期 [Prog1874-1887] (後編)

2000AD 2014年夏期 [Prog1888-1899]

2000AD 2014年秋期 [Prog1900-1911, 2015]

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (前編)

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

2000AD 2015年春期 [Prog 1924-1936]

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] (前編)

2000AD 2015年夏期 [Prog 1934-1949] (後編)

2000AD 2015年秋期 [Prog 1950-1961]

2000AD 2016年冬期 [Prog 1961-1972]


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2016年8月18日木曜日

幻のカルト・ホラー・ムービーをノベライズ?Grind Pulp Press グラインドハウス100円デジトラッシュシリーズ!

夏休み特集!…いや、また珍妙なことを考えているわけではないのですが、実はこれ少し前からやろうと思っていたのだけど、どうもここのところ自分的にやらねば!ということが多くてなかなか間に入れられなくて。そんなわけで、まあ夏休み特集という名目で無理やり押し込んでみたのでした。ほら、お盆で少年ジャンプとかもお休みだし、今週は見たこともない少年ブラックホールってゆーのを読んでみるかな、という感じで。

というわけで、このアメリカGrind Pulp Press発行のGrindhouse 100 \en Degi-Trashシリーズです。100円デジトラッシュという名前の通り、Kindle版は日本円でも100円で売られていて、日本のみんなも読んでね!、ってことなのだろうけど(中身は英語)、生憎まだ日本のアマゾンにはレビューも無し、という状態なので、ここはひとつ私がその心意気を買って宣伝しようではないか、と立ち上がったわけです。
この100円デジトラッシュシリーズ、現在のところ『Japan Of The Dead』と『Reefer Snakes!』の2冊が刊行中。今回はその2冊と関連情報についてお伝えいたします。


■Japan Of The Dead -Mutant Blood Zone-
  /Thurman Gallows


まずはこちらの作品『Japan Of The Dead』から。こちらは日本製のホラー・ムービーだそうです。監督はリウキコウという人で、主にAVを作っていた人ということ。制作年代などについては書かれていなかったのですが、登場する女子高生がルーズソックスを着用しているので、その辺の時代かと。また、この作品ビデオでベータマックス版のみしか発売されなかったということで、かなり見ている人も少ないカルト・ムービーだそうです。現在はウクライナのMP3ディストリビューターが権利を保有しているそうで、その許可を得てノベライズされたのがこの作品ということです。

【あらすじ】
彼はあの事故で避難してきた人々とともに、高校のカフェテリアにいた。山上の原子力発電所のメルトダウン。そしてこの高校はその隔離地帯にある。彼の名は斉藤順一。斉藤は周囲の人々の目がためらいがちに自分をうかがっているのに気づいていた。そして、その理由も。彼こそがあの原子力発電所をシャットダウンできる唯一の人物だからだ。

斉藤は悩んでいた。自分がやらなければならないことはわかっている。そして、生きて帰る見込みのないことも。原子力発電所にたどり着くまでには、放射能により変化した恐るべきミュータントがあふれる地帯を通り抜けなければならない。そして、シャットダウンは一人だけではできないのだ…。

斉藤は集まった人たちにそのことを告げる。「シャットダウンにはもう一人の手が必要だ。誰か俺に同行してくれる者はいないか?」集まった人々はうつむき黙り込む。その中で一つの声が上がる。「私が行く。」声の主は背の高い高校の制服姿の少女だった…。

翌朝、避難していた人々は隔離地域の外へ向かって出発する。斉藤は何かと自分に気を遣ってくれた景子さんに別れを告げ、少女と二人、反対方向の原子力発電所を目指し、歩き始める…。

危険地帯に入る前に、彼らは武器を調達すべく刀剣店に立ち寄る。少女はためらいなく、自分の背丈ほどの長剣を手に取る。「もう少し短い方が扱いやすいだろう。」「いえ…、これよ。」その刀には一千万の値が書かれていた。「ベルト・ストラップも必要だろう。」「あなたはどうするの?」何も手に取らず店を出ようとする斉藤に少女が問う。「俺にはこれがある。」斉藤はジャケットの後ろからゴールドプレートの.357マグナムを抜き出して見せた。「斉藤さん。あなたヤクザなのね?」斉藤は自分の全身を覆う刺青を思いながら答える。「そうだ。」

そして二人は恐るべきミュータントのあふれる危険地帯へと歩き出す。山上の原子力発電所を目指し…。


作者は本の方ではThurman Galloesとなっているのですが、アマゾンの方ではこのGrind Pulp Pressの主催者と思われるAndrew Crevierの名前になっているので、多分Crevier氏のペンネームと思われます。会話のあちこちに日本語が挟まれ、挨拶の言葉をいくつか教わった来日した外タレのような感じで日本感を現しているところから、Crevierさんは日本での滞在経験があるか、日本語会話のテキストを持っているのでしょうね。
物語はこの後、ミュータントとの死闘、そしてAVっぽいセックスシーンを挟み、更なるミュータントとの死闘と続き、最後には驚愕の結末が!

そしてその後についての情報ですが、監督のリウキコウ氏については2004年に高田馬場の駅のプラットフォームから転落し、亡くなられたそうです。この作品以来の新作ホラー映画の製作の話も進んでいたさなかということで残念なことです。また、非公式の続編として『Japan Of The Dead 2』がスペインで製作され、ビデオのみでリリースされたようですが、そちらについての詳しい内容などは書かれていませんでした。

この映画、及び監督リウキコウ氏についてはもっと情報がないかと色々調べてみたのですが、やはりかなり人に知られていない作品ゆえに何の情報も得られませんでした。ただ、様々に検索してみたところ、唯一それのものと思われる画像が見つかりました。掲載されていたのは多分ロシア語と思われるサイトで、自分には内容を読むことはできませんでした。また、画像だけはダウンロードさせてもらったものの、うっかりブックマークを忘れて、以来どう探してもたどり着くことができませんでした。不手際で申し訳ありません。以下がその画像です。




日本語で書かれたタイトルと、もう一つの別名がサブタイトル的に入っていることからこの映画について描かれたものと推測されます。どのような目的で描かれ、どのように使用されたのかは全く不明です。ちなみに右のがタイトル,文字のないバージョン。さして上手い画とも思われませんが、もしかしたらGWぐらいから時間のある時にちまちまと一か月半ぐらいかかって一生懸命描いたというようなものかもしれないので、その辺は勘弁してあげてください。


■Reefer Snakes!
  /Jay Requard


続いてのグラインドハウス100円デジトラッシュシリーズ第2弾は『Reefer Snakes!』という作品。こちらはボリウッド映画の隠れたカルト・ホラー・ムービーをノベライズしたものです。監督はGungham Rehnamanという人。こちらもはっきりした制作年などは不明ですが、1980年代の作品のようです。相変わらず歴史関係に疎く、いつの時代の物語なのかよくわからんが、と思いつつ読んだのですが、Amazonの解説には「剣とサンダルのアドベンチャー」と書かれているのでインド版のそういう感じのファンタジー的なものという解釈で大丈夫ではないかと思います。

【あらすじ】
隊長の号令が鳴り響き、Jishnuは他の傭兵メンバーともどもに売春宿から飛び出す。彼らを整列させるのは部隊の副長であるJishnuの役目である。そして傭兵部隊"Grinders"は城下町の民を威圧しながら王宮へと向かう。

王宮でGrindersは王Palakaに謁見する。衰弱し、かつての統治者の面影もない王Palakaの姿にJishnuは愕然とする。そんな王に代わって執務を担当する執政Chandrapatiから傭兵部隊に指令が下される。「Charas村からの使者の告げるところでは、村が妖蛇Nagaどもの攻撃に遭っているということである。ただちに征伐に向かえ。さすれば申し分のない報酬が得られるであろう。」

そしてGrindersは王宮から与えられた馬車を駆り、Charas村へと向かう。
しかし、到着した彼らが見たものは思いもよらぬ光景だった…。


作者Jay Requardは主にファンタジー、ホラーの方面で色々なアンソロジーに作品を発表し、今年3月にManwe the Pantherというファンタジーのシリーズを始めたところらしい。と思っていたら、ここのところ私がずいぶん騒いでいるおなじみDown & Out Booksの最新(2016/8/15発売)のカントリー・ミュージックテーマのアンソロジー『Mama Tried (Crime Fiction Inspired By Outlaw Country Music Book 1)』にEric BeetnerやLes Edgertonなんかとも名前を並べて参加しています。どこにどういう作家がいるかわからないものですね。
物語はその後、思いがけぬ展開を見せ、そして最後はボリウッド・ムービーっぽい結末へ。

この作品の監督Gungham Rehnamanについてですが、デビュー作のロマンチック・コメディ『She Like It』は批評家に高く評価されたものの、その後1979年の内容は明らかにされていないセックスがらみの事件で逮捕されてから失墜が始まり、その後少年ギャングたちの争いに巻き込まれスタジオは消失、過去の作品もすべて失われ、酒とドラッグにおぼれる生活に堕ち、1980年代の半ばにはいくつかのエクスプロイテーション映画を手掛けますが、この作品を含む多くは検閲により変更されるか上映禁止となっているということです。
こちらの作品、監督についても調査は試みたのですが、残念ながらこちらについては何の成果も得られませんでした。


現在までに2作発行中のグラインドハウス100円デジトラッシュシリーズについて紹介してきたのですが、第1作『Japan Of The Dead』が2014年1月発行、第2作『Reefer Snakes!』が2015年7月発行の後、現在に至るまで何の音沙汰もありません。1~2作の間隔も随分長いので企画中とも考えられるのですが、版元Grind Pulp Pressからは他にAndrew Crevierの作品が2作出ているのですが、そのうちのメキシコのルチャリブレのマスクレスラーSanto Diabloがモンスターと闘うというシリーズらしい『Blood Omen Saga』シリーズが4部作の予定で、春先には4部揃っているのを見た気がするのだけど現在1作のみしか見つからなかったりと、ちょっと心配な感じ。なんとなくホームページも放置気味だし。しかし、そちらのメンバーによるGrind Pulp Podcastは月1回のペースで配信は続いているし、完全に放棄してしまったというものではないのでしょう。せっかく100¥en Digi-Trashと銘打たれ、日本に向けても発信されているのですから、ここはひとつみんなで100円を投資することで応援し、Crevierさんにこの大変有意義なプロジェクトを再開してもらい、誰も知らない「幻のカルト・ホラー・ムービー」を発掘してもらおうではありませんか!

Grind Pulp Press


【お知らせ】
ここで久々のThe Destroyer情報です。現在Sphere版のシリーズの一部が25~50%OFFぐらいで日本では通常400円台のが2~300円台で発売中です。The Destroyerについては、以前Gere Donovan Press版が日本から買えなくなって困っていたらSphere版が見つかりました、みたいな感じで書いたのですが(デストロイヤー再発見!)、その時はあまりわかってなくていい加減に書いてしまったのですが、ここで両者の違いを少し。
右のがGere Donovan Press版。現在はまた日本からでも買えるようになっています。両者の違いはGere Donovan Pressがアメリカのもので、Sphereがイギリスのものというだけ。特に内容には変わりはないと思います。価格はGere Donovan Press版の方が299円とかで安いです。現在Sphere版は多分もう全巻ぐらい出ているけどGere Donovan Press版は最初の十数巻と最後の151巻ぐらい。で、Gere Donovan Press版が今後続きが出るかというとちょっと難しいかもしれない。なぜかというとGere Donovan Pressはパブリッシャー全体の方針かはわからないのだけど、少なくともThe Destroyerに関してはBarnes & Nobleの電子書籍NOOKでの販売をメインにしているようだからです。きちんと確認はしていないのだけど、NOOK版ではGere Donovan PressのThe Destroyerは全巻出ているようです。このような事情なので、Gere Donovan Pressの方針が変わらない限りこれ以上のThe Destroyerが日本からでも買える形で出るのを期待するのは難しいのではと思うわけです。ならばNOOKで、と思うとNOOKのアプリは日本のショップでは出てなかったりという状態。こんなわけで、Gere Donovan Press版が復活しても日本からThe Destroyerを読むならイギリスのSphere版にした方が良いのではないかなというところです。本当は私もGere Donovan Press版のカバーの方が好きだったりもするのですが。ちなみに『The Day Remo Died (The Destroyer Book 0)』という後に書かれたThe Destroyerの前日譚となる中編はGere Donovan Press版でしか出ていないので、また何かの事情で買えなくなる前に入手しておくことをお勧めします。また、The Destroyerシリーズはシリーズ名を入れてアマゾンで検索できますが、まず米版のGere Donovan Press版が出てまたしばらく後18ページとかそのくらいでSphere版が出てくるぐらいなので、根気よく見てください。それにしても151巻ものシリーズがイギリス版でも全巻出るというのを見ると、やはり英米ではずいぶん人気があったシリーズなのだなと思います。ちなみに死刑執行人マック・ボランシリーズも2種類ぐらい見たことがあるので同様の状況かもしれません。いや、詳しく調べてそちらも読みたくなると収拾がつかなくなるのが怖いのでよく調べていないのですが。The Destroyerシリーズについては、自分の方ではやっと9巻までというところなのですが、何とか未訳のところまでたどり着いた暁には本格的にやって行く予定ですので、もうしばらくお待ちください。


■Grindhouse 100¥EN Digi-Trashシリーズ


■その他のGrind Pulp Press作品


■Jay Requard


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2016年8月14日日曜日

Thuglit: LAST WRITES -さらば、Thuglit!-

作家Todd Robinson編集によるノワール・アンソロジー『Thuglit』は、本年6月25日に発行された『Thuglit : LAST WRIGHTES』を最終号とし、全23号プラス増刊1号の歴史を閉じました。さらにさかのぼると、2005年から3冊のプリント版のアンソロジーなどで5年、2年のブランクを置いて2012年から現在のe-Bookの形でということで11年もの歴史とのこと。前々回はTodd Robinson自身が作家に専念するため、という感じで少し楽観的に書いたのだけど、その後見つかったインタビューなどを読んでみると、まあ、それもあるのだけど、やはり売れ行きが落ちてきて、それならもうこんなに無理してやることもないかという感じになったということらしいです。ちょっと前に書いたようにAll Due Respectも同様の理由でアンソロジーの刊行を断念したわけだし、前々回書いたように長編のまとまった作品の供給が潤沢になってくるとこういう方向でしわ寄せが来てしまうのかなあ、と思ったり。実際自分もこういうアンソロジーには本当に期待しつつも、色々と読みたいものが多くてなかなか読めず、結局まだ第3集までという体たらくなわけですし。Toddさんが憤慨するように、みんなアンソロジーや短編が嫌いなわけじゃないんだよ、とか善意の私が思っていると、なーんかどっかのアンソロジーに付いていた「○○の名前があったので読んでみたのであるが、読むべき作品少なし。」みたいなどこぞのお客様で神様なんだかのバカ丸出しの感想を思い出してしまったり。こーゆー奴って自分がミステリ通のお利口に見えればこの先こういった本が出なくなってもどうでもいいのか、と本当に腹が立つ。アンソロジーって全然知らない作家に出会えるチャンスじゃないですか。「○○の名前があったから」なんてゆーのじゃなくて全部知らない名前ばかりのアンソロジーが出てたら絶対買うよ!文庫化もされてないけど、昔扶桑社から出た『ベルリン・ノワール』は良かったな。またああいうの出ないかな、と思うのですよ。と、いきなり話が良くない方向にそれてしまいましたが、今回は書かなければならないことが多いのだ。アホな御意見番気取りの「である系」なんぞに構っている暇はない。結局は読めなかった私だって同罪なのだし。Toddさんごめん、本当にご苦労様でした。今後は作家としていい作品をガンガン出しちゃってください。と思いつつ『Thuglit』最終号『LASTWRITES』全12作の内容紹介に進みます。

※Todd Robinsonインタビュー
主に新作『Rough Trade』についてですが、上2つは『Thuglit』休刊のいきさつについても語っています。

Interview with Todd Robinson/Entropy
An Interview with Todd Robinson, Chief Editor of Thuglit Magazine/The Thrill Begins
The Todd Robinson Interview/Crimespree Magazine

1. A Bad Day in Boat Repo/Nick Kolakowski
海外の港などで足止めを食っている船舶を回収するという仕事の男が主人公のアクション・ハードボイルド。短編ながら見せ場も展開も多く、キャラクターも含め、そのまま長編が書けそうな作品。Nick Kolakowskiはニューヨーク在住の作家で、One Eye Pressから中編の出版予定があるそうです。あちこちのアンソロジーに掲載された作品をまとめた短編集もあり。ホームページの背景が富獄三十六景。

Nick Kolakowskiホームページ

2. What's A Jim Hat?/Nick Manzolillo
仕事がなくギャングの下働きをして利用される少し知能に障害があると思われる青年が主人公の作品。主人公の一人称で描かれ、そのキャラクターゆえに視点や描写を限定しながらちょっとしたひねりやアクションも見せる佳作。作者Nick Manzolilloはニューヨーク、マンハッタン在住でまだ学生なのかな?他にもいくつかのアンソロジーに作品を発表しているようです。

3. The Missing Piece/Aaron Fox-Lerner
前科者である主人公は、弟の犯罪を隠し、家族を守るため奔走するのだが…。アメリカともちょっと違う感じで人種の入り乱れるカナダのアンダーグラウンドを描いた作品。作者Aaron Fox-LernerはL.A.生まれでカナダの大学に通い、現在は北京在住で映画関係の仕事をしている人のようです。あちこちのアンソロジーなどに作品を発表中。ホームページからのリンクもあります。

Aaron Fox-Lernerホームページ

4. Separate Checks/Mike McCrary
彼女は俺を殺すつもりだ。今晩、俺たちのどちらかが死ぬ。そして、俺は約束のレストランに入る…。犯罪者同士の駆け引きをスタイリッシュとも言えるタッチで描いた作品。Mike McCraryは2作の長編小説の著作もある作家/脚本家。どちらも少し前のものだけど、実力は十分な作家なので今の時流そのうちどこかで活躍し始めるかも。

Mike McCraryホームページ

5. The Last Living Thing/Andrew Paul
大企業の開発の影響で地盤が沈下し、見捨てられた土地を時折訪れるジャーナリストなどを案内することを仕事にしている男が主人公。男はかつて住んでいた見捨てられた家に何者かの影を見るのだが…。カントリーノワールの秀作。Andrew Paulの作品はもうすぐ出るAkashic都市ノワールシリーズの『Mississippi Noir』にも掲載予定とのことです。

6. Flip the Record/Patrick Cooper
かつては多くの銀行強盗を犯しながら一度も捕まらず引退し、現在は老人ホームで暮らす男が、同じホームの友人から多額の特別料金が収められた所長室の金庫を狙うことを持ちかけられるが…。老人ホームが舞台という異色の犯罪小説。作者Patrick Cooperはフロリダ州オーランド在住で、アンソロジー、ウェブジンに作品を発表している他、映画のレビューなどもやっている人です。とりあえずは長編デビュー作が間もなく出版の予定とのこと。

Patrick Cooperホームページ

7. Juke/Kyle Summerall
事故で傷を負ってから家に引きこもり自分にすがる妻に後ろめたさを感じながら、男は行きつけのバーで女を求める…。ちょっと日本的な文学方向のダウナー系私小説みたいなのも感じさせる作品。作者Kyle summerallは大学を卒業したばかりということで、バックボーン的にも私小説とは思えないけど。作家活動も文学方面のようで、偉大な南部作家の系列に加わることが夢とのことです。

8. Forever Amber/Dale T. Phillips
Amberが姿を消した。やばい動きがあるようだ。組織の中で売春を取り仕切る”俺”は消えた娼婦への思いを胸に密かに動き始める…。結構複雑な設定だったりするのだが、短い中で巧みに語るうまさを感じさせるノワール作品。ニュー・イングランドの作家Dale T. PhillipsにはZack Tylorシリーズなどいくつかの著作があります。ジャンルも他にもホラー、ファンタジー、ポエムなど幅広く。

Dale T. Phillipsホームページ

9. All Things Come Around/William Soldan
子供を連れて帰宅中にハイウェイでの事故に巻き込まれ足止めを食う。自然食にこだわり心配性の妻にはなるべく早く戻ると伝える。だが、厄介な時には厄介なことが続けて起こる。そして男にはある過去があった…。ノワール的暗黒よりもどこか感情移入できる範囲で主人公の心情が描かれている。William Soldanはオハイオ州在住であちこちのアンソロジーなどに作品を発表している作家。

10. Prowl/James Queally
女をひっかけてはその住まいから金目のものを盗み出して食いつないでいた男が、とうとう追い詰められ昔のバンド仲間の脚本家に頼り、仕事を紹介されるが…。作者James QueallyはLAタイムスの犯罪リポーターだそうです。結構この手のチンケな犯罪常習者の末路みたいなのもおなじみなのかも。現実の犯罪を取材しながら、あちこちのアンソロジーなどに作品を発表しています。

11. Tulare/Blair Kroeber
怪我で保安官事務所を辞めて以来地元で半端仕事をして暮らす男が、ある依頼で干ばつに苦しむ農業地帯から大地主が地下水をくみ上げるポンプの破壊工作を行うのだが…。農業とかが中心となる犯罪小説ってあまり日本に入ってきたのを見たことないけど、自分が知らないだけ?ジョニー・ショーの『Dove Season』も農作業関係の場面が多かった。これもカントリー・ノワールの一種かも。Blair KroeberはL.A.在住の作家/脚本家だそうです。

12. Slant Six/S. A. Cosby
「これは売り物なのかい?」俺の修理工場を訪れた客が、工場の隅でいつもはカバーをかけてあるプリムス・ダスターを指さす。いや、それは売り物じゃない。そして俺は親父と一緒にこの車を走らせたあの日のことを思い出す…。ホイールマンである父親は犯罪者なのだが、車への愛情を通じて少年の目には輝いて見えるある一日を描いた味わい深い作品。悪い人だし救いもないのだけどなんだかちょっといい話を読んだ気になる。S. A. Cosbyは南ヴァージニアの作家で、ファンタジー小説の著作が1冊あり、最初の犯罪小説ももうすぐ発表される予定だそうです。


全12作、アクション性の強いものから文学的傾向の高いものまで様々なのですが、どれもそれぞれに優れた作品でした。ほとんどの作家がアンソロジーに作品を出しているくらいでまだ無名というところなのだけど、以前に『Thuglit』に登場したことのある人も多く、ベスト版的なセレクトなのかもしれません。『Thuglit』も作家の名前も全然知らなくても読む価値のあるアンソロジーとして大変優れた一冊です。読むべき作品多し!

かくして『Thuglit』は終了したわけですが、こういった傾向の作品で、これだけの数量を出版したというのは他には類を見ないものなのではないでしょうか。後に一つの伝説として語られるようなアンソロジー、作品集というのは数ありますが、この『Thuglit』も間違いなくその一つに加えられる偉業と言えるでしょう。私としても、遅ればせながら、しかしながらこの伝説が手に届かないものになる前に、この偉業を目撃し、少しでも多くの人に知らしめるべく努力するつもりであります。というわけで、最終号の次は第4集だいっ!

さてこの偉大なBig Daddy ThugことTodd Robinsonについてですが、実は私もまだ短編を少し読んだぐらいで何か語れるほどには知らないのですが、現在までに長編は第1作『The Hard Bounce』があり、間もなくPolis Booksから待望の第2作『Rough Trade』が出版予定です。インタビューによると、この第2作は第1作と同じ主人公たちが登場するもので、同キャラクターによる第3作も執筆中とのことです。今後は本格的に作家としての活躍が期待されるTodd Robinson氏!1冊しかないのでいつものもったいない病でなかなか手を付けられなかったのだが、こちらも早く読まねば!

Thuglit


というところで、今回の『Thuglit : LAST WRITES』については終わりなのですが、ただ終わりましたというのも寂しいものなので、今回登場の作家たちも関わっているこの周辺のウェブジン、インディー・パブリッシャーなどの動きについて、自分の知っている範囲ですが少し先の展望という形で書いてみようと思います。

まず、古株としてはSpinetingler Magazine。2008年から活動を続けているウェブジンで、一時期は独自のSpinetinglar Awardも出していたのですが、ここ数年はストップしている模様。また出版部門としてSnabnose Pressを持ち、多くの新しい作家の作品を世に出したのですが、昨年後半ぐらいからは新刊の刊行も止まっているようです。しかし、ウェブジンとしての活動は今も続いており、新しい作品も掲載され続けています。またこの先新たな展開も見られるかもしれません。
そしてこちらも古株のウェブジンで、現在も続いているYellow Mama。こちらを主宰するCindy Rosmusの作品集『Hail, Tiger』がDead Guns Pressから出ています。どれも女性が主人公で、南部の田舎町であまり価値のない恋愛に執着し、時には犯罪という形で破滅して行くというのが主なテーマ。フラナリー・オコナーが今の人だったらこういうのを書くかもしれないなと思わせるものもあったり。なかなかに優れた短編集なのですが、自分の方がモタモタしていてちゃんと紹介できてなくてすみません。
そしてそのDead Guns Pressなのですが、こちらは2013年からウェブジン、アンソロジーの両方で活動中です。ちょっとここについては古いホームページをブックマークしていてもう活動を辞めてしまったのかと思っていたのですが、ついさっき新しいのに移っていたことに気付きました。ただ今年7月に出たばかりのアンソロジー『Hardboiled: Dames and Sin』にハードボイルドのアンソロジーはこれで最後、とか書いてあったり、古いアンソロジーのkindle版の販売が終わっていたりと、ちょっと不明なところがあったりという感じで、また少し調べておきます。
その他にウェブジンとして長く続いているところとしてはPlots With Gunsがあります。こちらは元々はあのAnthony Neil Smithが盟友ヴィクター・ギシュラーと始めたものですが、現在は両名とも手を引いています。さっき見てみたらまだ名誉パブリッシャーという形でSmithさんの名前は残っているようですね。
ウェブジンと出版の両方の活動をしているところとしては、まずBeat To A Pulp。2008年から続いていて、出版の方ではクライム・フィクションの他にもウェスタン、ホラー、SFなどジャンル小説を幅広く出版しています。少し前にはアンソロジーも出ていたのですが、今はストップしているようです。こちらについては以前『The Drifter Detective』について取り上げました。同シリーズや他のウェスタンのシリーズなどで複数の作家が手掛けるというスタイルがとられていたりして、その辺についてももっと読んでみたいと思っているのですが…。
同様にOut Of The Gutterもウェブジン、出版の両方を行っているところなのですが、出版の方はここのところストップしている様子。しかしウェブの方は活発で、以前に書いたようにPaul D. Brazillのイギリス犯罪小説情報なども掲載されています。こちらも2008年からの古株。
続いて2011年から活動を続けているShotgun Honey。こちらの出版部門は、以前はOne Eye Pressで、昨年末セールのお知らせなんぞをやったのですが、最近シンプルにShotgun Honeyに変更になったそうです。変更後はまだ出版はないようですが。こちらについては、ウェブジン、出版両面で活動中。前にセールで手に入れたのも早く読まねば…。

と少し以前からのものは一部出版活動などについては縮小傾向にあるところも見られるのですが、それは中心だった作家やスタッフなどが前々回書いたような形でもう少し大きな流れの方向にステップアップして行っていたりというような事情ではないかと思われ、世代交代的なひとつの時代の流れではないかと思います。
そして次の世代としてここでおなじみAll Due Respectが登場。同様に2010年からウェブジンとして活動しているのですが、2013年にその中のすぐれた作品を中心にアンソロジー『All Due Respect』をKindleで出版し、ここが転機となります。39名もの活躍中の作家の作品を掲載したこのアンソロジーは、シーン全体を俯瞰できるガイドとしてもファンに注目され、All Due Respectを信頼できるブランドとして位置づけたものと思います。そして彼らは本格的に出版に乗り出し、まずアンソロジー『All Due Respect』を立ち上げ、続いてAll Due Respect Booksの刊行へと進むわけです。以前に書いたようにアンソロジーの方は休刊となってしまいましたが、Booksの方では次々と新しい作家の作品を出版し、現在の次の世代の最前線と言えるパブリッシャーとなっています。えーっと、ちょっと「世代」みたいな書き方をすると誤解があるかもしれないけど、これは年代とかいう意味じゃなくて、あくまでも前の波に乗った奴と次の波に乗ってる奴ぐらいの区分けですので。中には前の時あまり前に出られなかったけど、ここに来て実力を発揮してきたという人もいるので。まあ、自分の表現にいまいち自信が持てないので蛇足までに。最初の『All Due Respect』が出た2013年ごろは最もアンソロジーに注目が集まっていたころで、うまくその機運に乗り、まあ世間的な成功というのとは程遠くても、ジャンル内のそれほどは多くないファンの間ではポジションをつかみ、そのレベルの成功をおさめたのがこのAll Due Respectということかもしれない。でも、最初のAll Due Respect Booksを読んだ時にも書いたのですが、その頃は出るのもまだまだ先になるような本を「俺たちはこれもこれも出すんだぞ!」とホームページで書きたてるChris Rhatigan、Mike Monson両氏には本当にジャンルに対する愛や、新しい作家を世に出したいという熱意が感じられ、こいつらは本当に信用できる奴らだと思わせてくれたのですよね。やっぱりそれが私がこのAll Due Respectを信頼し、注目し続ける理由なのです。

そして次の世代に続くアンソロジーなのですが、ちょっと戻ってしまうのだがAll Due Respect-Chris Rhatiganの盟友Alec CizakによるPulp Modern。こちらは2011年から始まり年2回刊行で現在10集まで出ています。最初はプリント版のみ発行され、現在は6集以降がKindle版で読むことができます。All Due Respectの流れでこっちに書いたのだけど、やはりとりあえずは現在新しい作家を発掘し続けているところであるのは間違いない。
そして2014年からのDark Corners。McNeely夫妻とSteve Gallagherという人の編集なのだけど、ちょっとどういう人なのかまだ分かりません。Vol.1が昨年7月までに第4集まで出てストップしているところなのだけど、現在どういう状態なのかは不明。しかしながら、こちらは2015年から同年に立ち上げられたインディー・パブリッシャーDouble Life Pressというところの発行になっていて、そこからはAll Due Respect Books第1弾『you don't exist』のPablo D’Stairの本も出ていて、今後要注目のところ。こちらがDark Cornersの編集メンバーによるパブリッシャーなのかもちょっとまだわからないのですが、もしかしたらAll Due Respect同様アンソロジーから単行本の出版へと移行しているところなのかもしれません。こちらについてはまたよく調べておきます。
そして現在あちこちで活躍中の作家Ryan Saylesらによって2012年に立ち上げられたパブリッシャーZelmer PressからMaybe I Should Just Shoot You In The Faceというアンソロジーが2014年に出ていて、また第2弾と続けて行く予定ではあったようですが、現在のところ中断状態です。1ドルぐらいの安価ということもあって結構人気はあったようなのですが。ウェスタン、SF、ホラーと色々なジャンルで展開していく予定ではあったようです。
そして現在のところ最新のものが、All Due Respectからの著作もあるMichael PoolらによるCrime Syndicate Magazine。こちらは昨年末から始まり、第2集が今年5月に出たところ。こちらには今回の『Thuglit : LAST WRITES』に登場した名前も見られ、このあたりがまた次の動きの中心となって行くのかとも思われます。今後に大いに期待したい。
そして、出版の方ですが、まずは古株の方に入れてしまったけど、今後は新しい作家の作品の出版にも意欲的に見えるShotgun HoneyにはAll Due Respectと並んで注目して行きたいところ。更にまだ調査不足で申し訳ないのですが、Double Life Pressもかなり気になる。
そしてちょっとパブリッシャーとしての規模などはよくわからなくて、もしかしたら前々回の方に入れた方がいいのかもしれないのだけど、新しい作家の作品を多く出しているところとして280 Stepにも注目しています。元々は新しいものと並行して過去のものの復刻などにも努めていたところで、フィルム・ノワールの傑作スピレイン原作の『キッスで殺せ』の脚本を担当したA. I. ベゼリデスの作品や、『L. A.でバッド・ラック』が翻訳されたマリ・シンクレアのシリーズ全3作なども出ています。新しいところではあちこちで活躍中のEric Beetnerの他にEryk Pruitt、Andrew Netteといった躍進中の作家の名前も見られます。…というところなのですが、どうもこのパブリッシャー販売方針のようなものが最近変わってしまったようで、Kindle版の発売がアメリカ国内だけのオプションになっていっているようで日本から買えるものが減っていっています。新刊はなく、たぶん期限が切れたものも米国内のみのオプションに変わっていっているものと思われます。ただし、すべての作品ではないのですが、Kobo版が出ているのでそちらなら日本からも購入できます。最近一部で好評のRusty Barnesの『Ridgerunner』にKobo版があり、そちらは無事に日本の楽天Koboショップからも購入できました。ただ日本の楽天Koboショップって今ひとつ洋書の電子書籍を買うようにできてないので、本を探すのだったら外国のパブリッシャーのホームページなどからリンクしている海外向けのKobo Shopの方が便利なようです。作者名、作品名ぐらいまで入れて検索すれば日本のショップでも見つかるようですが。それから前述のマリ・シンクレアの本ですが、なぜか280 Stepのホームページのリストからは無くなっていて、まだAmazonでは販売されているのですが、上記のような事情でもあるので期限のようなものが過ぎたら完全になくなる可能性もありますので気になる人はお早めに。日本のアマゾンからもKindleストア-280 stepの検索で見つかります。

というようなところがその辺の流れの今自分のわかっているところですが、ちょっとそれとも違う流れと思われるところもあります。
New Pulp Pressは結構前から注目していて、2冊ほど読んでこのブログにも書いたわけですが、一時期はこの流れに近い作家の名前もよく見られたのですが、最近のものはちょっと名前の知らない作家がほとんどで、基本的にはジャンルは変わらないのだけどどうも独自の路線を進んでいるようにも見えるのです。とにかくやみくもに全部読みたいと突進し、発行順に一から読んでいたわけですが、こうなってくると新しいものから読んでみた方がよさそうです。また、新しい作家や別の流れが見えてくるのではないかと期待して、何とかペースを上げて読みたいところです。フロリダ州キーウェストに基盤を置き、7年にわたり活動を続けるパブリッシャーということですが、ホームページの感じを見てあまり大きくないところだと思い込んでいるけど、実際のところは不明。最近は新たな姉妹パブリッシャーも立ち上げたそうです。なんかコージー・ミステリらしきものもあるようです。
そしてオーストラリア発のCrime Factory。評論やレビューも載ったアンソロジーCrime Factryは最新18号が今年3月に出たのだが、前のから1年経っていて年刊状態のようです。しかし、昨年は単行本も3冊発行され、まだまだ健在と思われる。こちらも最近の活動については不明なので、とにかく早めに最新号を読むようにしようと思います。オーストラリアといえば『清掃魔』などのポール・クリーヴもいるし、新しいオーストラリアの作家も見つかるのかも。Matthew Stokoeとなるとちょっと異端のようだが。
そして更にCrime Wave Press。こちらはなんと香港に基盤を置くパブリッシャーとのこと。と言ってもカンフー物や香港ノワール物を出しているわけではなく、アジア方面のものを豊富にグローバルな作品を出版しているところのようです。『The Cambodian Book of the Dead』というのがあると思えば、最新作はアメリカの囚人作家Roy Harperのものだったりという感じ。ジャンルも幅広く、知っている作家もなくちょっと今のところ手掛かりが見つからないのだけど、何とか色々調べながら探っていきたい。日本に長く住んでいたこともあるらしいEzra Kyrill Erkerという人の書いた日本が舞台の『Salaryman Unbound』というのもかなり気になるのだけど、どうしても日本から読むとキワモノになってしまう恐れがあるので、まずはパブリッシャー探索を念頭に別なのを1冊読んでみようと思います。しかしカンフー物や香港ノワール物が沢山出ているところがあったらそれはそれで読んでみたいのだが。今度探してみます。
イギリス物に関してはこの間まで『True Brit Grit』を延々とやったので、ウェブジンPulp Metal Magazine、出版も手掛けるNear To The Knuckle、出版の方では英国最注目のCaffeine Nights Publishingあたり名前だけ挙げておけばいいか、と思っていたらつい数日前にNumber Thirteen Pressなる恐るべきパブリッシャーを発見!というかここの本随分前から目には入っていたのだけど、なぜかパブリッシャーについてまで調べるのを忘れていたようです。こちらは2014年11月から毎月13日に13人それぞれ別の犯罪小説作家の本を13冊出して行くというプロジェクト。えー、そんな面白そうなことやってたんすか?今からでも読むっす!1から…。2016年3月のRichard Godwinの作品によって全13作の刊行は終わっているのだが、カタログ番号が13A-1~13となっていることから第2期の可能性もあるとうかがわれる。Byker Books Best of British Crime亡き後、新たな英国犯罪小説の新しい作家のショーケースとして期待されるところです。また詳しくはなるべく早く読んで報告いたしますです。1から…。


ということでずいぶん長くなってしまったのだけど、とりあえずは簡単にではありますが自分の知っているところをできる限り解説してみました。自分の思い入れもあるのだろうけど、All Due Respect以前以後みたいな感じでまとめてみました。音楽などでもそれまでのシーンを俯瞰するようなコンピレーションが出たあたりが転換点だったりするじゃないですか。それが出たあたりが近年のアンソロジー人気の全盛期で、ジョニー・ショーのBlood & Tacosみたいな異色アンソロジーが出る余地もあったのだろうなと思う。そしてこの2016年のThuglit休刊というのもきっとまた一つの転換点になるのでしょうね。
こうやって長々と書いてきたけど、自分は評論みたいなものを試みたわけでも、またそういうものを目指しているわけでもありません。と言ってもどっかのスチャラカサブカル野郎みたいに「ヒョーロンとか固っ苦しいしそんな責任持つのもやなんでライターの雑文ってことで」みたいなスタンスで言っているわけではありません。結局こうやって一つの時代やら作品傾向を色々なものをまとめて評論する人って、自分の考えにあったものだけ並べて形を作って見せるだけじゃない。例えば今回書いたのだって「ウェブジンからアンソロジーに舞台を移した作家たちの活動だったが、今そのアンソロジーも衰退し、その象徴でもあったThuglitが終焉を迎えた。」みたいな書き方をしちゃうわけですよ。冗談じゃない!たとえスタッフが抜けたりして出版の方は後退という状態であっても、多くはまだウェブジンの活動をちゃんと続行しているのだ。新しい作家を世に出したいという目的でこんな金にもならないことを頑張って続けている人たちって心からの尊敬に値するのだ。そして大して売れなくったって自分たちの思う形のものを作り、自分や仲間の作品を世に出したいとアンソロジーに挑み続ける奴等には全力の応援を贈りたい。だからこういうものを切り捨て自分の語りやすい形にまとめた「評論」なんてものは願い下げなのだ。とは言ってみたものの、自分の書いたものだって何とかわかりやすくまとめるためにそういう形というものを作ってしまっているのでしょう。結局は未熟ゆえに。だからここではっきりと言っておくのである。結論:ウェブジン、アンソロジーともに今でも健在で、たとえ儲からなくてもそういう形で新しい作家を世に出したいという気概を持った人は大勢いるのだ。微力以前になかなか読めなかったりもしている私ですが、そういう人たちには尊敬を持って、できる限り応援して行くものであります。
ついでに言っちゃうけど、「ハードボイルド冬の時代と言われて久しいのであるが…」みたいな常套句で始まるようなもんを時々目にするけど、前々回のDave Whiteなんて、明らかに優れた作家であり、評価も高いのに何年もシリーズの中断を余儀なくされていたわけで、そういう言い方もどんなものかなと思ったりもする。結局のところ売り手側の出版社が読者を見つけられず「売れない」と決めつけたってことじゃない。いつの時代だって先人の名作を読んでこういうのを書きたいと志す作家は、マーケティング的に今これ売れるんでこれ書くっすなんてボーン・トゥ・ビー二束三文より沢山いるはずでしょう。いつの時代のどのジャンルだっていい作家は準備万端なのだ。「時代」や「流行」なんてクソくらいやがれだっ!本について語るべき人が「評論」の都合でそんな「売れない」「時代」みたいなもんに潜在的にしろ加担するなんてのはウンザリなんですよ。こちとらどんな厳寒だろうと一つでもいいのを見つけたら手あたり次第かき集めて海パン一丁で「ワーイ!夏だぜっ!」ってぶん回してやるからねっ。いや、リアル本体は虚弱なんでそんなことしたらデスセンテンスかもしんないけど…。
そして最後に、今回のを書くために改めてずいぶんあっちこっち見て回ったのですが、その印象として今回の『Thuglit : LAST WRITES』のトップバッターNick Kolakowskiはかなり発言、活動も多く、次に頭一つ抜けるのはコイツと見た!新しい作家を求める人は彼の最初の短編集『Somebody's Trying to Kill Me: 17 Noir Tales』をまずおさえるべし。こうやって新しい作家は次々に頭角を現して行くのですよ。どうだいっ!


【お知らせ】
今回はまたずいぶんと長くなってしまっているのだが、あと少しお知らせを。
少し前に第4作発売キャンペーンで第3作が1.99ドルになっていたのを伝えそこなってしまった第1作『スーツケースの中の少年』の翻訳のあるレナ・コバブール/アニタ・フリースのニーナ・ボーグシリーズなのですが、現在未訳の第2,3作の米Soho Crimeの英訳Kindle版が30%オフぐらいの552円で販売中です。主人公のニーナ・ボーグって行動が人助け的な正しいベクトルで動いているのだけど、実はエルロイの刑事ロイド・ホプキンスと同じくらい狂ってる人としてその後が結構気になっているのですよね。果たしてニーナは更生に向かうのか?それとも更なる狂気へと向かうのか?
それからTodd Robinsonの新作『Rough Trade』なのですが、まもなく発売とか書いたけどモタモタしているうちに出てしまいました。Toddさん重ね重ね申し訳ない。あと新刊としてはあのドゥエイン・スウィアジンスキー様の日本以外の世界待望の最新作『Revolver』も遂に発売!そして英国犯犯罪小説のドンPaul. D Brazillの新作『Cold London Blues』もいつの間にか出てたよ!ブリティッシュ・ノワールの傑作『Guns Of Brixton』のイカレた奴らが再登場!


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THUGLIT Issue Three



■"Big Daddy Thug" Todd Robinson!!


■Thuglit


■ニーナ・ボーグシリーズ



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