2016年8月14日日曜日

Thuglit: LAST WRITES -さらば、Thuglit!-

作家Todd Robinson編集によるノワール・アンソロジー『Thuglit』は、本年6月25日に発行された『Thuglit : LAST WRIGHTES』を最終号とし、全23号プラス増刊1号の歴史を閉じました。さらにさかのぼると、2005年から3冊のプリント版のアンソロジーなどで5年、2年のブランクを置いて2012年から現在のe-Bookの形でということで11年もの歴史とのこと。前々回はTodd Robinson自身が作家に専念するため、という感じで少し楽観的に書いたのだけど、その後見つかったインタビューなどを読んでみると、まあ、それもあるのだけど、やはり売れ行きが落ちてきて、それならもうこんなに無理してやることもないかという感じになったということらしいです。ちょっと前に書いたようにAll Due Respectも同様の理由でアンソロジーの刊行を断念したわけだし、前々回書いたように長編のまとまった作品の供給が潤沢になってくるとこういう方向でしわ寄せが来てしまうのかなあ、と思ったり。実際自分もこういうアンソロジーには本当に期待しつつも、色々と読みたいものが多くてなかなか読めず、結局まだ第3集までという体たらくなわけですし。Toddさんが憤慨するように、みんなアンソロジーや短編が嫌いなわけじゃないんだよ、とか善意の私が思っていると、なーんかどっかのアンソロジーに付いていた「○○の名前があったので読んでみたのであるが、読むべき作品少なし。」みたいなどこぞのお客様で神様なんだかのバカ丸出しの感想を思い出してしまったり。こーゆー奴って自分がミステリ通のお利口に見えればこの先こういった本が出なくなってもどうでもいいのか、と本当に腹が立つ。アンソロジーって全然知らない作家に出会えるチャンスじゃないですか。「○○の名前があったから」なんてゆーのじゃなくて全部知らない名前ばかりのアンソロジーが出てたら絶対買うよ!文庫化もされてないけど、昔扶桑社から出た『ベルリン・ノワール』は良かったな。またああいうの出ないかな、と思うのですよ。と、いきなり話が良くない方向にそれてしまいましたが、今回は書かなければならないことが多いのだ。アホな御意見番気取りの「である系」なんぞに構っている暇はない。結局は読めなかった私だって同罪なのだし。Toddさんごめん、本当にご苦労様でした。今後は作家としていい作品をガンガン出しちゃってください。と思いつつ『Thuglit』最終号『LASTWRITES』全12作の内容紹介に進みます。

※Todd Robinsonインタビュー
主に新作『Rough Trade』についてですが、上2つは『Thuglit』休刊のいきさつについても語っています。

Interview with Todd Robinson/Entropy
An Interview with Todd Robinson, Chief Editor of Thuglit Magazine/The Thrill Begins
The Todd Robinson Interview/Crimespree Magazine

1. A Bad Day in Boat Repo/Nick Kolakowski
海外の港などで足止めを食っている船舶を回収するという仕事の男が主人公のアクション・ハードボイルド。短編ながら見せ場も展開も多く、キャラクターも含め、そのまま長編が書けそうな作品。Nick Kolakowskiはニューヨーク在住の作家で、One Eye Pressから中編の出版予定があるそうです。あちこちのアンソロジーに掲載された作品をまとめた短編集もあり。ホームページの背景が富獄三十六景。

Nick Kolakowskiホームページ

2. What's A Jim Hat?/Nick Manzolillo
仕事がなくギャングの下働きをして利用される少し知能に障害があると思われる青年が主人公の作品。主人公の一人称で描かれ、そのキャラクターゆえに視点や描写を限定しながらちょっとしたひねりやアクションも見せる佳作。作者Nick Manzolilloはニューヨーク、マンハッタン在住でまだ学生なのかな?他にもいくつかのアンソロジーに作品を発表しているようです。

3. The Missing Piece/Aaron Fox-Lerner
前科者である主人公は、弟の犯罪を隠し、家族を守るため奔走するのだが…。アメリカともちょっと違う感じで人種の入り乱れるカナダのアンダーグラウンドを描いた作品。作者Aaron Fox-LernerはL.A.生まれでカナダの大学に通い、現在は北京在住で映画関係の仕事をしている人のようです。あちこちのアンソロジーなどに作品を発表中。ホームページからのリンクもあります。

Aaron Fox-Lernerホームページ

4. Separate Checks/Mike McCrary
彼女は俺を殺すつもりだ。今晩、俺たちのどちらかが死ぬ。そして、俺は約束のレストランに入る…。犯罪者同士の駆け引きをスタイリッシュとも言えるタッチで描いた作品。Mike McCraryは2作の長編小説の著作もある作家/脚本家。どちらも少し前のものだけど、実力は十分な作家なので今の時流そのうちどこかで活躍し始めるかも。

Mike McCraryホームページ

5. The Last Living Thing/Andrew Paul
大企業の開発の影響で地盤が沈下し、見捨てられた土地を時折訪れるジャーナリストなどを案内することを仕事にしている男が主人公。男はかつて住んでいた見捨てられた家に何者かの影を見るのだが…。カントリーノワールの秀作。Andrew Paulの作品はもうすぐ出るAkashic都市ノワールシリーズの『Mississippi Noir』にも掲載予定とのことです。

6. Flip the Record/Patrick Cooper
かつては多くの銀行強盗を犯しながら一度も捕まらず引退し、現在は老人ホームで暮らす男が、同じホームの友人から多額の特別料金が収められた所長室の金庫を狙うことを持ちかけられるが…。老人ホームが舞台という異色の犯罪小説。作者Patrick Cooperはフロリダ州オーランド在住で、アンソロジー、ウェブジンに作品を発表している他、映画のレビューなどもやっている人です。とりあえずは長編デビュー作が間もなく出版の予定とのこと。

Patrick Cooperホームページ

7. Juke/Kyle Summerall
事故で傷を負ってから家に引きこもり自分にすがる妻に後ろめたさを感じながら、男は行きつけのバーで女を求める…。ちょっと日本的な文学方向のダウナー系私小説みたいなのも感じさせる作品。作者Kyle summerallは大学を卒業したばかりということで、バックボーン的にも私小説とは思えないけど。作家活動も文学方面のようで、偉大な南部作家の系列に加わることが夢とのことです。

8. Forever Amber/Dale T. Phillips
Amberが姿を消した。やばい動きがあるようだ。組織の中で売春を取り仕切る”俺”は消えた娼婦への思いを胸に密かに動き始める…。結構複雑な設定だったりするのだが、短い中で巧みに語るうまさを感じさせるノワール作品。ニュー・イングランドの作家Dale T. PhillipsにはZack Tylorシリーズなどいくつかの著作があります。ジャンルも他にもホラー、ファンタジー、ポエムなど幅広く。

Dale T. Phillipsホームページ

9. All Things Come Around/William Soldan
子供を連れて帰宅中にハイウェイでの事故に巻き込まれ足止めを食う。自然食にこだわり心配性の妻にはなるべく早く戻ると伝える。だが、厄介な時には厄介なことが続けて起こる。そして男にはある過去があった…。ノワール的暗黒よりもどこか感情移入できる範囲で主人公の心情が描かれている。William Soldanはオハイオ州在住であちこちのアンソロジーなどに作品を発表している作家。

10. Prowl/James Queally
女をひっかけてはその住まいから金目のものを盗み出して食いつないでいた男が、とうとう追い詰められ昔のバンド仲間の脚本家に頼り、仕事を紹介されるが…。作者James QueallyはLAタイムスの犯罪リポーターだそうです。結構この手のチンケな犯罪常習者の末路みたいなのもおなじみなのかも。現実の犯罪を取材しながら、あちこちのアンソロジーなどに作品を発表しています。

11. Tulare/Blair Kroeber
怪我で保安官事務所を辞めて以来地元で半端仕事をして暮らす男が、ある依頼で干ばつに苦しむ農業地帯から大地主が地下水をくみ上げるポンプの破壊工作を行うのだが…。農業とかが中心となる犯罪小説ってあまり日本に入ってきたのを見たことないけど、自分が知らないだけ?ジョニー・ショーの『Dove Season』も農作業関係の場面が多かった。これもカントリー・ノワールの一種かも。Blair KroeberはL.A.在住の作家/脚本家だそうです。

12. Slant Six/S. A. Cosby
「これは売り物なのかい?」俺の修理工場を訪れた客が、工場の隅でいつもはカバーをかけてあるプリムス・ダスターを指さす。いや、それは売り物じゃない。そして俺は親父と一緒にこの車を走らせたあの日のことを思い出す…。ホイールマンである父親は犯罪者なのだが、車への愛情を通じて少年の目には輝いて見えるある一日を描いた味わい深い作品。悪い人だし救いもないのだけどなんだかちょっといい話を読んだ気になる。S. A. Cosbyは南ヴァージニアの作家で、ファンタジー小説の著作が1冊あり、最初の犯罪小説ももうすぐ発表される予定だそうです。


全12作、アクション性の強いものから文学的傾向の高いものまで様々なのですが、どれもそれぞれに優れた作品でした。ほとんどの作家がアンソロジーに作品を出しているくらいでまだ無名というところなのだけど、以前に『Thuglit』に登場したことのある人も多く、ベスト版的なセレクトなのかもしれません。『Thuglit』も作家の名前も全然知らなくても読む価値のあるアンソロジーとして大変優れた一冊です。読むべき作品多し!

かくして『Thuglit』は終了したわけですが、こういった傾向の作品で、これだけの数量を出版したというのは他には類を見ないものなのではないでしょうか。後に一つの伝説として語られるようなアンソロジー、作品集というのは数ありますが、この『Thuglit』も間違いなくその一つに加えられる偉業と言えるでしょう。私としても、遅ればせながら、しかしながらこの伝説が手に届かないものになる前に、この偉業を目撃し、少しでも多くの人に知らしめるべく努力するつもりであります。というわけで、最終号の次は第4集だいっ!

さてこの偉大なBig Daddy ThugことTodd Robinsonについてですが、実は私もまだ短編を少し読んだぐらいで何か語れるほどには知らないのですが、現在までに長編は第1作『The Hard Bounce』があり、間もなくPolis Booksから待望の第2作『Rough Trade』が出版予定です。インタビューによると、この第2作は第1作と同じ主人公たちが登場するもので、同キャラクターによる第3作も執筆中とのことです。今後は本格的に作家としての活躍が期待されるTodd Robinson氏!1冊しかないのでいつものもったいない病でなかなか手を付けられなかったのだが、こちらも早く読まねば!

Thuglit


というところで、今回の『Thuglit : LAST WRITES』については終わりなのですが、ただ終わりましたというのも寂しいものなので、今回登場の作家たちも関わっているこの周辺のウェブジン、インディー・パブリッシャーなどの動きについて、自分の知っている範囲ですが少し先の展望という形で書いてみようと思います。

まず、古株としてはSpinetingler Magazine。2008年から活動を続けているウェブジンで、一時期は独自のSpinetinglar Awardも出していたのですが、ここ数年はストップしている模様。また出版部門としてSnabnose Pressを持ち、多くの新しい作家の作品を世に出したのですが、昨年後半ぐらいからは新刊の刊行も止まっているようです。しかし、ウェブジンとしての活動は今も続いており、新しい作品も掲載され続けています。またこの先新たな展開も見られるかもしれません。
そしてこちらも古株のウェブジンで、現在も続いているYellow Mama。こちらを主宰するCindy Rosmusの作品集『Hail, Tiger』がDead Guns Pressから出ています。どれも女性が主人公で、南部の田舎町であまり価値のない恋愛に執着し、時には犯罪という形で破滅して行くというのが主なテーマ。フラナリー・オコナーが今の人だったらこういうのを書くかもしれないなと思わせるものもあったり。なかなかに優れた短編集なのですが、自分の方がモタモタしていてちゃんと紹介できてなくてすみません。
そしてそのDead Guns Pressなのですが、こちらは2013年からウェブジン、アンソロジーの両方で活動中です。ちょっとここについては古いホームページをブックマークしていてもう活動を辞めてしまったのかと思っていたのですが、ついさっき新しいのに移っていたことに気付きました。ただ今年7月に出たばかりのアンソロジー『Hardboiled: Dames and Sin』にハードボイルドのアンソロジーはこれで最後、とか書いてあったり、古いアンソロジーのkindle版の販売が終わっていたりと、ちょっと不明なところがあったりという感じで、また少し調べておきます。
その他にウェブジンとして長く続いているところとしてはPlots With Gunsがあります。こちらは元々はあのAnthony Neil Smithが盟友ヴィクター・ギシュラーと始めたものですが、現在は両名とも手を引いています。さっき見てみたらまだ名誉パブリッシャーという形でSmithさんの名前は残っているようですね。
ウェブジンと出版の両方の活動をしているところとしては、まずBeat To A Pulp。2008年から続いていて、出版の方ではクライム・フィクションの他にもウェスタン、ホラー、SFなどジャンル小説を幅広く出版しています。少し前にはアンソロジーも出ていたのですが、今はストップしているようです。こちらについては以前『The Drifter Detective』について取り上げました。同シリーズや他のウェスタンのシリーズなどで複数の作家が手掛けるというスタイルがとられていたりして、その辺についてももっと読んでみたいと思っているのですが…。
同様にOut Of The Gutterもウェブジン、出版の両方を行っているところなのですが、出版の方はここのところストップしている様子。しかしウェブの方は活発で、以前に書いたようにPaul D. Brazillのイギリス犯罪小説情報なども掲載されています。こちらも2008年からの古株。
続いて2011年から活動を続けているShotgun Honey。こちらの出版部門は、以前はOne Eye Pressで、昨年末セールのお知らせなんぞをやったのですが、最近シンプルにShotgun Honeyに変更になったそうです。変更後はまだ出版はないようですが。こちらについては、ウェブジン、出版両面で活動中。前にセールで手に入れたのも早く読まねば…。

と少し以前からのものは一部出版活動などについては縮小傾向にあるところも見られるのですが、それは中心だった作家やスタッフなどが前々回書いたような形でもう少し大きな流れの方向にステップアップして行っていたりというような事情ではないかと思われ、世代交代的なひとつの時代の流れではないかと思います。
そして次の世代としてここでおなじみAll Due Respectが登場。同様に2010年からウェブジンとして活動しているのですが、2013年にその中のすぐれた作品を中心にアンソロジー『All Due Respect』をKindleで出版し、ここが転機となります。39名もの活躍中の作家の作品を掲載したこのアンソロジーは、シーン全体を俯瞰できるガイドとしてもファンに注目され、All Due Respectを信頼できるブランドとして位置づけたものと思います。そして彼らは本格的に出版に乗り出し、まずアンソロジー『All Due Respect』を立ち上げ、続いてAll Due Respect Booksの刊行へと進むわけです。以前に書いたようにアンソロジーの方は休刊となってしまいましたが、Booksの方では次々と新しい作家の作品を出版し、現在の次の世代の最前線と言えるパブリッシャーとなっています。えーっと、ちょっと「世代」みたいな書き方をすると誤解があるかもしれないけど、これは年代とかいう意味じゃなくて、あくまでも前の波に乗った奴と次の波に乗ってる奴ぐらいの区分けですので。中には前の時あまり前に出られなかったけど、ここに来て実力を発揮してきたという人もいるので。まあ、自分の表現にいまいち自信が持てないので蛇足までに。最初の『All Due Respect』が出た2013年ごろは最もアンソロジーに注目が集まっていたころで、うまくその機運に乗り、まあ世間的な成功というのとは程遠くても、ジャンル内のそれほどは多くないファンの間ではポジションをつかみ、そのレベルの成功をおさめたのがこのAll Due Respectということかもしれない。でも、最初のAll Due Respect Booksを読んだ時にも書いたのですが、その頃は出るのもまだまだ先になるような本を「俺たちはこれもこれも出すんだぞ!」とホームページで書きたてるChris Rhatigan、Mike Monson両氏には本当にジャンルに対する愛や、新しい作家を世に出したいという熱意が感じられ、こいつらは本当に信用できる奴らだと思わせてくれたのですよね。やっぱりそれが私がこのAll Due Respectを信頼し、注目し続ける理由なのです。

そして次の世代に続くアンソロジーなのですが、ちょっと戻ってしまうのだがAll Due Respect-Chris Rhatiganの盟友Alec CizakによるPulp Modern。こちらは2011年から始まり年2回刊行で現在10集まで出ています。最初はプリント版のみ発行され、現在は6集以降がKindle版で読むことができます。All Due Respectの流れでこっちに書いたのだけど、やはりとりあえずは現在新しい作家を発掘し続けているところであるのは間違いない。
そして2014年からのDark Corners。McNeely夫妻とSteve Gallagherという人の編集なのだけど、ちょっとどういう人なのかまだ分かりません。Vol.1が昨年7月までに第4集まで出てストップしているところなのだけど、現在どういう状態なのかは不明。しかしながら、こちらは2015年から同年に立ち上げられたインディー・パブリッシャーDouble Life Pressというところの発行になっていて、そこからはAll Due Respect Books第1弾『you don't exist』のPablo D’Stairの本も出ていて、今後要注目のところ。こちらがDark Cornersの編集メンバーによるパブリッシャーなのかもちょっとまだわからないのですが、もしかしたらAll Due Respect同様アンソロジーから単行本の出版へと移行しているところなのかもしれません。こちらについてはまたよく調べておきます。
そして現在あちこちで活躍中の作家Ryan Saylesらによって2012年に立ち上げられたパブリッシャーZelmer PressからMaybe I Should Just Shoot You In The Faceというアンソロジーが2014年に出ていて、また第2弾と続けて行く予定ではあったようですが、現在のところ中断状態です。1ドルぐらいの安価ということもあって結構人気はあったようなのですが。ウェスタン、SF、ホラーと色々なジャンルで展開していく予定ではあったようです。
そして現在のところ最新のものが、All Due Respectからの著作もあるMichael PoolらによるCrime Syndicate Magazine。こちらは昨年末から始まり、第2集が今年5月に出たところ。こちらには今回の『Thuglit : LAST WRITES』に登場した名前も見られ、このあたりがまた次の動きの中心となって行くのかとも思われます。今後に大いに期待したい。
そして、出版の方ですが、まずは古株の方に入れてしまったけど、今後は新しい作家の作品の出版にも意欲的に見えるShotgun HoneyにはAll Due Respectと並んで注目して行きたいところ。更にまだ調査不足で申し訳ないのですが、Double Life Pressもかなり気になる。
そしてちょっとパブリッシャーとしての規模などはよくわからなくて、もしかしたら前々回の方に入れた方がいいのかもしれないのだけど、新しい作家の作品を多く出しているところとして280 Stepにも注目しています。元々は新しいものと並行して過去のものの復刻などにも努めていたところで、フィルム・ノワールの傑作スピレイン原作の『キッスで殺せ』の脚本を担当したA. I. ベゼリデスの作品や、『L. A.でバッド・ラック』が翻訳されたマリ・シンクレアのシリーズ全3作なども出ています。新しいところではあちこちで活躍中のEric Beetnerの他にEryk Pruitt、Andrew Netteといった躍進中の作家の名前も見られます。…というところなのですが、どうもこのパブリッシャー販売方針のようなものが最近変わってしまったようで、Kindle版の発売がアメリカ国内だけのオプションになっていっているようで日本から買えるものが減っていっています。新刊はなく、たぶん期限が切れたものも米国内のみのオプションに変わっていっているものと思われます。ただし、すべての作品ではないのですが、Kobo版が出ているのでそちらなら日本からも購入できます。最近一部で好評のRusty Barnesの『Ridgerunner』にKobo版があり、そちらは無事に日本の楽天Koboショップからも購入できました。ただ日本の楽天Koboショップって今ひとつ洋書の電子書籍を買うようにできてないので、本を探すのだったら外国のパブリッシャーのホームページなどからリンクしている海外向けのKobo Shopの方が便利なようです。作者名、作品名ぐらいまで入れて検索すれば日本のショップでも見つかるようですが。それから前述のマリ・シンクレアの本ですが、なぜか280 Stepのホームページのリストからは無くなっていて、まだAmazonでは販売されているのですが、上記のような事情でもあるので期限のようなものが過ぎたら完全になくなる可能性もありますので気になる人はお早めに。日本のアマゾンからもKindleストア-280 stepの検索で見つかります。

というようなところがその辺の流れの今自分のわかっているところですが、ちょっとそれとも違う流れと思われるところもあります。
New Pulp Pressは結構前から注目していて、2冊ほど読んでこのブログにも書いたわけですが、一時期はこの流れに近い作家の名前もよく見られたのですが、最近のものはちょっと名前の知らない作家がほとんどで、基本的にはジャンルは変わらないのだけどどうも独自の路線を進んでいるようにも見えるのです。とにかくやみくもに全部読みたいと突進し、発行順に一から読んでいたわけですが、こうなってくると新しいものから読んでみた方がよさそうです。また、新しい作家や別の流れが見えてくるのではないかと期待して、何とかペースを上げて読みたいところです。フロリダ州キーウェストに基盤を置き、7年にわたり活動を続けるパブリッシャーということですが、ホームページの感じを見てあまり大きくないところだと思い込んでいるけど、実際のところは不明。最近は新たな姉妹パブリッシャーも立ち上げたそうです。なんかコージー・ミステリらしきものもあるようです。
そしてオーストラリア発のCrime Factory。評論やレビューも載ったアンソロジーCrime Factryは最新18号が今年3月に出たのだが、前のから1年経っていて年刊状態のようです。しかし、昨年は単行本も3冊発行され、まだまだ健在と思われる。こちらも最近の活動については不明なので、とにかく早めに最新号を読むようにしようと思います。オーストラリアといえば『清掃魔』などのポール・クリーヴもいるし、新しいオーストラリアの作家も見つかるのかも。Matthew Stokoeとなるとちょっと異端のようだが。
そして更にCrime Wave Press。こちらはなんと香港に基盤を置くパブリッシャーとのこと。と言ってもカンフー物や香港ノワール物を出しているわけではなく、アジア方面のものを豊富にグローバルな作品を出版しているところのようです。『The Cambodian Book of the Dead』というのがあると思えば、最新作はアメリカの囚人作家Roy Harperのものだったりという感じ。ジャンルも幅広く、知っている作家もなくちょっと今のところ手掛かりが見つからないのだけど、何とか色々調べながら探っていきたい。日本に長く住んでいたこともあるらしいEzra Kyrill Erkerという人の書いた日本が舞台の『Salaryman Unbound』というのもかなり気になるのだけど、どうしても日本から読むとキワモノになってしまう恐れがあるので、まずはパブリッシャー探索を念頭に別なのを1冊読んでみようと思います。しかしカンフー物や香港ノワール物が沢山出ているところがあったらそれはそれで読んでみたいのだが。今度探してみます。
イギリス物に関してはこの間まで『True Brit Grit』を延々とやったので、ウェブジンPulp Metal Magazine、出版も手掛けるNear To The Knuckle、出版の方では英国最注目のCaffeine Nights Publishingあたり名前だけ挙げておけばいいか、と思っていたらつい数日前にNumber Thirteen Pressなる恐るべきパブリッシャーを発見!というかここの本随分前から目には入っていたのだけど、なぜかパブリッシャーについてまで調べるのを忘れていたようです。こちらは2014年11月から毎月13日に13人それぞれ別の犯罪小説作家の本を13冊出して行くというプロジェクト。えー、そんな面白そうなことやってたんすか?今からでも読むっす!1から…。2016年3月のRichard Godwinの作品によって全13作の刊行は終わっているのだが、カタログ番号が13A-1~13となっていることから第2期の可能性もあるとうかがわれる。Byker Books Best of British Crime亡き後、新たな英国犯罪小説の新しい作家のショーケースとして期待されるところです。また詳しくはなるべく早く読んで報告いたしますです。1から…。


ということでずいぶん長くなってしまったのだけど、とりあえずは簡単にではありますが自分の知っているところをできる限り解説してみました。自分の思い入れもあるのだろうけど、All Due Respect以前以後みたいな感じでまとめてみました。音楽などでもそれまでのシーンを俯瞰するようなコンピレーションが出たあたりが転換点だったりするじゃないですか。それが出たあたりが近年のアンソロジー人気の全盛期で、ジョニー・ショーのBlood & Tacosみたいな異色アンソロジーが出る余地もあったのだろうなと思う。そしてこの2016年のThuglit休刊というのもきっとまた一つの転換点になるのでしょうね。
こうやって長々と書いてきたけど、自分は評論みたいなものを試みたわけでも、またそういうものを目指しているわけでもありません。と言ってもどっかのスチャラカサブカル野郎みたいに「ヒョーロンとか固っ苦しいしそんな責任持つのもやなんでライターの雑文ってことで」みたいなスタンスで言っているわけではありません。結局こうやって一つの時代やら作品傾向を色々なものをまとめて評論する人って、自分の考えにあったものだけ並べて形を作って見せるだけじゃない。例えば今回書いたのだって「ウェブジンからアンソロジーに舞台を移した作家たちの活動だったが、今そのアンソロジーも衰退し、その象徴でもあったThuglitが終焉を迎えた。」みたいな書き方をしちゃうわけですよ。冗談じゃない!たとえスタッフが抜けたりして出版の方は後退という状態であっても、多くはまだウェブジンの活動をちゃんと続行しているのだ。新しい作家を世に出したいという目的でこんな金にもならないことを頑張って続けている人たちって心からの尊敬に値するのだ。そして大して売れなくったって自分たちの思う形のものを作り、自分や仲間の作品を世に出したいとアンソロジーに挑み続ける奴等には全力の応援を贈りたい。だからこういうものを切り捨て自分の語りやすい形にまとめた「評論」なんてものは願い下げなのだ。とは言ってみたものの、自分の書いたものだって何とかわかりやすくまとめるためにそういう形というものを作ってしまっているのでしょう。結局は未熟ゆえに。だからここではっきりと言っておくのである。結論:ウェブジン、アンソロジーともに今でも健在で、たとえ儲からなくてもそういう形で新しい作家を世に出したいという気概を持った人は大勢いるのだ。微力以前になかなか読めなかったりもしている私ですが、そういう人たちには尊敬を持って、できる限り応援して行くものであります。
ついでに言っちゃうけど、「ハードボイルド冬の時代と言われて久しいのであるが…」みたいな常套句で始まるようなもんを時々目にするけど、前々回のDave Whiteなんて、明らかに優れた作家であり、評価も高いのに何年もシリーズの中断を余儀なくされていたわけで、そういう言い方もどんなものかなと思ったりもする。結局のところ売り手側の出版社が読者を見つけられず「売れない」と決めつけたってことじゃない。いつの時代だって先人の名作を読んでこういうのを書きたいと志す作家は、マーケティング的に今これ売れるんでこれ書くっすなんてボーン・トゥ・ビー二束三文より沢山いるはずでしょう。いつの時代のどのジャンルだっていい作家は準備万端なのだ。「時代」や「流行」なんてクソくらいやがれだっ!本について語るべき人が「評論」の都合でそんな「売れない」「時代」みたいなもんに潜在的にしろ加担するなんてのはウンザリなんですよ。こちとらどんな厳寒だろうと一つでもいいのを見つけたら手あたり次第かき集めて海パン一丁で「ワーイ!夏だぜっ!」ってぶん回してやるからねっ。いや、リアル本体は虚弱なんでそんなことしたらデスセンテンスかもしんないけど…。
そして最後に、今回のを書くために改めてずいぶんあっちこっち見て回ったのですが、その印象として今回の『Thuglit : LAST WRITES』のトップバッターNick Kolakowskiはかなり発言、活動も多く、次に頭一つ抜けるのはコイツと見た!新しい作家を求める人は彼の最初の短編集『Somebody's Trying to Kill Me: 17 Noir Tales』をまずおさえるべし。こうやって新しい作家は次々に頭角を現して行くのですよ。どうだいっ!


【お知らせ】
今回はまたずいぶんと長くなってしまっているのだが、あと少しお知らせを。
少し前に第4作発売キャンペーンで第3作が1.99ドルになっていたのを伝えそこなってしまった第1作『スーツケースの中の少年』の翻訳のあるレナ・コバブール/アニタ・フリースのニーナ・ボーグシリーズなのですが、現在未訳の第2,3作の米Soho Crimeの英訳Kindle版が30%オフぐらいの552円で販売中です。主人公のニーナ・ボーグって行動が人助け的な正しいベクトルで動いているのだけど、実はエルロイの刑事ロイド・ホプキンスと同じくらい狂ってる人としてその後が結構気になっているのですよね。果たしてニーナは更生に向かうのか?それとも更なる狂気へと向かうのか?
それからTodd Robinsonの新作『Rough Trade』なのですが、まもなく発売とか書いたけどモタモタしているうちに出てしまいました。Toddさん重ね重ね申し訳ない。あと新刊としてはあのドゥエイン・スウィアジンスキー様の日本以外の世界待望の最新作『Revolver』も遂に発売!そして英国犯犯罪小説のドンPaul. D Brazillの新作『Cold London Blues』もいつの間にか出てたよ!ブリティッシュ・ノワールの傑作『Guns Of Brixton』のイカレた奴らが再登場!


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THUGLIT Issue Two

THUGLIT Issue Three



■"Big Daddy Thug" Todd Robinson!!


■Thuglit


■ニーナ・ボーグシリーズ



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