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2015年8月29日土曜日

Valiant その4 -Shadowman-

前回あれだけ言ったにもかかわらず4月から4か月かかってやっと登場のValiant その4『Shadowman』です。現行Valiantからの遅れに少し気が遠くなりそうですが、とりあえずやりたいという意思だけはあるのでなんとか頑張って行こう。
さて、2012年5月から8月発行の前回の『Archer & Armstrong』まで4シリーズを連続で怒涛の勢いでリリースしたValiantですが、ここで一旦落着き3か月の間をおいて同年11月から新たに始まったのが、この『Shadowman』です。ちょっとこの『Shadowman』については自分的には準備不足か、と思うところもあるのですが、そんなこと言ってても進まないのでとりあえずできるところまで頑張ってみるです。


-ニューオリンズ、過去-

彼は最後の戦いに臨む。身重の妻とお腹の中のわが子を残し…。この闘いで宿敵Draqueをデスワールドへ追いやることができれば全てが救われるはず。闘いの最中、彼-Shadowmanは遂にDraqueと相対する。だが、その時夜明けの光が町に流れ込んでくる。DraqueはShadowmanの力が失われるこの時を待っていたのだ。最後の力で宿敵に一撃を突き立てるShadowman。だが、致命傷を負った彼はDraqueとともにデスワールドに引き込まれ、二度と戻ることはなかった…。

-ニューオリンズ、現在-

博物館で働く青年Jack Bonifaceは父を知らず、母とも幼い頃生き別れ、孤児として育った。成長した彼は探偵を雇い、両親の調査を依頼する。だが、その結果わかったことは父と母の犯罪記録だった。Jackは調査書類とともに、両親との唯一の繋がりだった幼い頃から常に身に付けていた御守りを海に投げ捨てる。

しかし、記録に残っているものがすべてではない。彼の父こそがかつてDraqueから世界を守り、デスワールドへと消えて行ったShadowmanだったのだ。そしてその時妻のお腹にいた子供がJackだった。そして彼が身に付けていた御守りは、今でも世界の陰で続く争いから彼を隠し、遠ざけているものだった。それを失った今、Jack Bonifaceは新たな運命に飲み込まれて行く…。

Jackが御守りを手放して間もなく、敵-Draqueの信奉者達-は彼の存在を察知し、襲い掛かってくる。超自然的な異形の前になすすべもなく絶体絶命のピンチに陥った時、謎の”影”が彼に呼びかける。そしてその声に導かれるままJackはShadowmanに変身するのだった。

そして、彼の存在を知ったのは敵だけではない。過去にShadowmanとともに戦ったDoxと、現在のグループのひとりである能力者の女性Alyssaも戦いの場に駆けつける。

彼らの助力もあり難を逃れたJackだったが、あまりの突然な展開に戸惑うばかりだった。しかし、敵はやっと見つけたShadowmanの後継者に猶予を与えるすきを与えず、ただちに次の攻撃にかかる。まだShadowmanに変身する術もわからず窮地に陥るJack達。Alyssaは一か八かの賭けに出てJackを自らとともにデスワールドへ引き込む。そしてそこでJackはかつてのShadowman=父と出会いShadowmanの力を引き継ぐのだった。


と、実は結構わかりやすく馴染みやすい変身ヒーロー物だったりします。協力者とかいるところはなんか昭和のヒーロー物を思わせたり。で、なぜ準備不足かとか思っているかというとちょっと過去作からの経緯の方だったりするのです。
旧Valiant Comicsの『Shadowman』は、『X-O Manowar』などより少し遅れ、『Archer & Armstrong』などの始まるイベント『Unity』よりは少し前ぐらいの時期に始まっています。ストーリーは全く違っていて、主人公同名のJack Bonifaceはニューオリンズのサックス奏者。ある夜、演奏の後謎の美女に誘われ彼女のアパートを訪れるが、実はその女は猟奇的な殺人者で危うく命を落とすところだったが、自分でも理解できない謎の出来事により一命を取り留める。その夜をきっかけにJackは夜になると謎の力に導かれるように戦いを求めて街を彷徨い、道端で拾ったマスクを身に付け、夜の陰に潜む悪との闘いを始める。Jackの住居のハウスキーパーのブードゥーに信心深い老黒人女性Nettieが彼がブードゥーの戦士Shadowmanの力を受け継ぐものだと告げ、手渡した手づくりのコスチュームを着てJackはShadowmanとして戦い始めます。というのが3号までの話で、敵などもあまりはっきりしないままとりあえずはイベント『Unity』に進んで行きます。
この旧シリーズも後に出た0号があるのでそちらも読んでみました。そちらはJackが不死人であるArmstrongから先代のShadowmanについての話を聞くという設定になっているのですが、ストーリーは現行版でも宿敵となっているDraqueがいかにして現れShadowmanと関わって行くようになったかという方向で語られ、過去に遡って設定を補完するという他のシリーズとは少し様子が異なっていました。これはブードゥーの力で戦うダークヒーローとして始まった旧『Shadowman』がDraqueという敵との闘いという方向でストーリーが固まってきたある時点で、そのストーリーを補完するために描かれたものだろうと思えます。
『Shadowman』にはその後、Acclaim Comics時代にも、ガース・エニスが4号までを手掛けJamie Delanoに引き継がれたリランチ版のシリーズがあります。まだそちらの方までは手を付けられていないのですが、同時期本体であるゲーム会社のAcclaim社からゲーム版『Shadowman』が発売されました。現在はSteamでプレイできるのですが、少し前にお正月のセールかなんかの時に買って少しだけやってみました。序盤の展開はなんかあんまり感情移入できない感じの主人公(この人もJack Bonifaceなのかな?)がShadowmanの力を求めてデスワールドに入って行くというものです。いや、ホント序盤しかやってないのだけど。時間ないし、ゲーム下手だし…。まあ、つまり何が言いたいかというと、現行版では重要な要素なのだけど、旧Valiant Comics版では0号の時にも出てこなかったデスワールドがここではほぼ現行版と同じ感じで出てきているのですね。
と、このような歴史を経て現在に至り、現行版はその集大成ということになるのでしょう。まあまだ断片ばかりなのですが、それでもシリーズというものが当初の作者の手を離れた後も生き続け、自ら完成を目指すような過程を見るのは興味深いもので、私のようなものはそれをきちんと見極めたいなと思ってしまうのです。そんなわけでとりあえず現行版のストーリーは説明できるものの、少し準備不足かというところですが、いずれはその歴史も含めた『Shadowman』の全体像を明らかにしてみたいものだと思っています。まあ、調べりゃわかるか、というところではありますがそれはそれ。

現行版『Shadowman』のスタート時のライターはJustin Jordan。DCなどのいくつかのシリーズの他、代表作はImage ComicsのLuther Strodeシリーズあたりでしょうか。他にも近作で同Imageのゴアな感じのSF『Spread』とかいろいろ読んでみたいライターです。Avater Pressからも『Dark God』という作品やJonathan Hickmanが離れた後を引き継いで『God Is Dead』を書いたりしています。
序盤のアーティストはPatrick Zircher。ゲームなどのイラストレイター出身でDC、マーベルなどで多くの作品を描いている文句もつけようもない達者な絵描きです。

現行版『Shadowman』5号からの第2章では後に自身のシリーズも始まるキャラクター死者と話すことができるDoctor Mirageもゲスト出演します。旧シリーズでは男性だったようですが、ミステリアスな女性キャラクターになっていてそちらも楽しみです。また、デスワールドからの脱出のかなわなかったDraqueは幽閉されているBaron Samediとの共闘を試みる、という展開になって行きます。
というところなのですが、実はこの現行版『Shadowman』、その後16号プラス、シリーズ『End Time』3号を出した後現在は休止中です。やはりValiantもそれほど大規模なパブリッシャーではないので、現在は全てのシリーズを常に続行中というわけではなく、関連のあるいくつかのシリーズが出ていて他は交代で休みという形で出版されているようです。『Shadowman』についてもまた再開されるものと思われますが、とりあえずはまず、現行、旧シリーズを含めた『Shadowman』全体像の解明に努めたいと思っております。

というところで、これでやっとValiant復活後の初期キャラクターについては一通り終わったので、次回からはやっと複数のシリーズに渡るValiantワールドのストーリーの進行という形で話を進めて行けるようになりました。次回その5は『Harbinger』と『Bloodshot』のぶつかる『Harbinger Wars』となります。そもそもが遅れている上に、今回は3分の2ほど書いたところで夏風邪で倒れたりという始末で、なかなか思うようにいきませんがなんとか頑張って行きますので、またよろしく。
あと、誰もが言いたかったであろうShadowmanの胸を飾る大変わかりやすい直接的なシンボルマーク!なんか『ラッキーマン』とかに出てくるヒーローみたいだけど…、ということも敢えて一回だけ言っておこう。


●関連記事

Valiant その1 -X-O ManowarとHarbinger-

Valiant その2 -Bloodshot-

Valiant その3 -Archer & Armstrong-


●Shadowman


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2015年8月17日月曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回

また第1回とか言い出したか!とお思いの人もいるでしょうが、ちょっと待ってください、このアンソロジー45人もの作家が収録されているのですよ。ハードボイルド/ノワール系を中心に現在注目のイギリスの作家45人を集めたのがこのアンソロジー『True Brit Grit』なのです。以前から同様に39人の英米の作家の作品を集めた『All Due Respect』をことあるごとにひっぱり出してきていて、ちゃんとしたリストがあればな、と思っていたこともあり、まだなかなか手を付けていられないながらもかなり注目の名前の並んでいるこのアンソロジーではきちんとしたリストを作ってみることにしました。と言っても何しろ45人なので一度にやるのは大変なので、一応5回ぐらいに分けてやってみることにしました。なんとか月一ぐらいであまり引っ張らないでやるつもりではいます。
ちなみにこのアンソロジー、Children 1stと英国で3歳の少女が殺害された放火事件から設立されたFrancesca Blimpson Foundationのためのチャリティーによる出版で、値段も300円なのでここからじゃなくてもいいので興味のある人は買ってチャリティーにご協力下さい。

Children 1st

Francesca Blimpson Foundation

他にこの手のチャリティー出版ではジョージ・ペレケーノス、アンドリュー・ヴァクス、ジョー・ランズデールなども参加している『Protectors: Stories to Benefit PROTECT』というのもあります。こちらも子供のためのチャリティーです。こちらも他にも"Big Daddy Thug" Todd RobinsonやJohnny Shawなどの豪華メンバーがそろったアンソロジーで、そのうちこのブログでも書く予定です。



まずはマキシム・ジャクボヴスキーの序文もあるのですが、その辺は次回以降にまわすとして、とにかく人数が多いのでどんどんやって行こうと思います。あるものは他の作品に少しでもリンクを張って行きますがスペース的になかなか全部とはいかないのであとはAmazonの作者ページなどからも調べてみてください。

■Two Fingers Of Noir/Alan Griffiths

主人公の”俺”、私立探偵Valentineは町のギャングのボスPork Pieに借りを返すために仕事を言いつけられる。失踪した組織の資金洗浄係の男、Albie Parkinsを探せ、ということだったのだが…。
冒頭を飾るのは新人作家Alan Griffithsによるギャングの落とし前を描いたダークなノワール作品。Alan Griffithsはまだいくつかのアンソロジーに作品を発表しているというところの作家ですが、独特の言葉づかいを試したり、この作品も現代が舞台なのだけどちょっと映画『ミラーズ・クロッシング』あたりを思わせる雰囲気もあったりとなかなかに個性的でこれからを期待させる作家です。

Brit Grit -Alan Griffithsホームページ-

■Eat Shit/Tony Black

Miami Mikeは自分のバーでEddieと会う。Eddieは同じ西から出てきた幼馴染だ。Eddieは浮かない顔で言う。「パーティーで出会った女の子と上手くいってたんだ。でもそのオヤジが出てきた。弁護士でさ。俺のことを訴えるって言ってる。」Eddieは同じように西で子供時代を過ごした友人だ。あのクソのような町を脱出できた友人なのだ。「任せとけ」Miami Mikeは言う。「今度そいつから書類が届いたら、それでケツを拭いてやれ。」
Tony Blackは現在のイギリスのこのジャンルの中では最も活躍中の作家のひとりです。12冊の著作があり、最新作『The Last Tiger』はNot the Booker PrizeとCWA Daggerにもノミネートされたそうです。Gus Dury、Doug Michieなどのシリーズがあり、他にアンドリュー・ヴァクスなど犯罪小説作家へのインタビューの本も出版しています。収録作はかなりダークなバイオレンスを描いた作品です。他にどんな手を持っているのか、早くいろいろ読んでみたい作家です。

Tony Blackホームページ




■Baby Face And Irn Bru/Allan Guthrie

人口6千人の田舎町だ、ちょろいもんさ。奴はそう言って笑った。奴の名はKenny 'Irn Bru' Strachan。そして俺の名はFrank 'Baby Face' Nelson。大した意味なんてない。Nelsonなんて名前の銀行強盗には必ずこの仇名が付く。そして、今奴は笑っていない。銀行の前の歩道で血を流して横たわっている。そして俺はここからどうやって脱出すればいいのか考えあぐねている…。
失敗した銀行強盗の末路を描く、滑稽さを含んだ描写が冴える作品。Allan Guthrieも2004年から5冊の長編、3冊の中編を発表しているこのジャンルで活躍中の作家です。いずれの作品もジャンルのファンからは評価も高い注目の作家。また、このブログでは度々登場しているイギリスのe-Bookのインディー・パブリッシャーBlasted Heathの設立者の一人でもあります。




■Pretty Hot T'ing/Adrian Magson

「Szulu、Raggaが会いたがってる。すぐに来るんだ。」町のギャングのボス、Ragga Pearlから呼び出しがかかった。店の資金繰りのためにRaggaから借金をした叔母さんに、あんな奴から金を借りたらろくなことにならない、と忠告したのが耳に入ったらしい。どんな小さなことでも自分への悪口は許さない男だ。どんなヤキを入れられるのか怖れながら言ってみると、意外なことに彼は僕が大学の科学の専攻でやったあることに目を付け仕事を持ちかけてきたのだが…。
出だしはノワール風なのだけど後半はサスペンス・アクション的展開になり、このアンソロジーの中では読みやすい方の作品です。作者Adrian Magsonについては少し私の読んでいるものと傾向が違っているようで今まで知らなかったのですが、ずいぶん多くの作品もある人気作家のようです。1960年代パリを舞台とした刑事物Lucas Roccoシリーズや、スパイ物Harry Tateシリーズなど4つのシリーズを持っているようです。ちょっと内容は分からないのですがそれぞれの1作目をリストに載せておきます。この作品の雰囲気からすると、様々な展開やアクション盛り沢山の楽しめる作品なのではないかと思います。

Adrian Magsonホームページ




■Black Betty/Sheila Quigley

彼女はバスの中のいつもの場所に立っている。Black Betty。彼女が常に黒い服を纏っていることからつけられた仇名。常に陰鬱に顔を顰めていることからつけられた仇名。彼女はそんな連中にもこの町にもうんざりしている。だが彼女にはこの町から脱出する計画がある。バスを降りたBettyは傍らの剥がれかけたポスターに目を留める。「連続殺人鬼が逃亡中」。家路を急ぐ彼女に妙な男が絡んでくる。この男はポスターの連続殺人鬼なのか?…
一つの緊張した流れの語りの中に急に別角度から異なる緊張が切り込んでくる巧みさを感じさせるサイコ・サスペンス。Sheila Quigleyについても私は知らなかったのですが、7冊の著作のある人気作家のようです。ホームページを見てみると舞台化作品の告知もあったり。Holy Island3部作というのがあるようなのでそちらをリストに載せておきます。

Sheila Quigleyホームページ




■Payback:With Interest/Matt Hilton

朝5時にRonnie Stoutの部屋のドアが叩かれる。やれやれ、こんな時間にやって来るのは警察の手入れに決まってる。そしてドアを開けたRonnieに銃口が突きつけられる。Ronnieの相棒Jason Corrieは必死に逃げ道を探していた。彼には自分と相棒が命を狙われる理由も相手もわかっていた。そして連中から逃れられる可能性がほとんどないことも…。
重低音の感じられるようなタフな語り口が光るノワール作品。Matt HiltonはヴィジランテJoe Hunterシリーズが人気の元警察官の作家。アメリカ風の犯罪小説指向ということからジャック・リーチャー方向のシリーズかな、と想像されますが、とにかく早く読んでみたいところです。リストは9作出ているJoe Hunterシリーズの最初の方を。

Matt Hiltonホームページ




■Looking for Jamie/Iain Rowan

HarkerはずっとJamieを探している。息子のJamieが家出してからもう3か月。妻は家で泣き続けている。今度こそ信じられる手がかりを摑んだと思う。しかしまた絶望を重ねさせるのを恐れて妻には告げず、出かける。そして彼は見知らぬ港町の暗い通りへと進んで行く…。
犯罪とはかかわりのない一市民の眼を通し、都市の暗黒部と絶望を描いたノワール作品。Iain Rowanは一作の長編小説と2冊の短編集を発表しているまだ新しい作家のようです。長編『One of Us』はUK Crime Writers' Association Debut Dagger awardにノミネートされた作品で、やはり普通の市民である女性を主人公にした作品のようです。Amazonで調べてみるともう少し作品があるようだけどホームページの方が更新されてないのかな?とりあえずそちらにも載っている3作をリストにしておきます。

Iain Rowanホームページ




■Stone In My Pockets/Nigel Bird

Leftyは軍隊にいた時のように計画を立てた。そして週末のクラブの前で暴動が始まる…。
意味もない騒動に加わり、当然のように自滅して行く青年の内面を無感動な語り口で描いたちょっと奇妙な短い作品。パンク・ロック/ニューウェイブ系の歌詞にも見えるような。スーサイドとか?Nigel Birdはアンソロジー、ウェブジンでもよく名前を見かける、あちこちで精力的に活動中の作家です。『All Due Respect』にも作品が掲載されているのだけど、そちらも田舎町で鷹匠のようなことをしている青年が主人公の異色作だったり。ちょっと正体不明なのですが、なるべく早くちゃんと読んでみようと思ってる作家のひとりです。なんかロマンチック・コメディとかいうのもあるなあ…。

Nigel Birdホームページ




ということで今回は最初から8作家。人数的には5分の1ではないけどページ数的にはほぼ4分の1ぐらいで、最初は人気のある作者が多いのかなと思います。リンクやらリストやらを挟んでいって長くなり過ぎたりしないかと思っていたけど、割といい感じにできたように思うので、『Thuglit』とかもこれからはこの方法でやってみようかと思います。何しろ45人なので自分が把握できてないだけで翻訳が出てたり雑誌やアンソロジーに載っている作家もいるのかもしれないけど、とりあえずは日本未紹介の作家が大半だと思うので、新しい作家を探している人はお楽しみに。ではまたなるべく早く第2回をお届けできるように頑張ります。


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2015年8月9日日曜日

BLUE -オーストラリアのクソガキ『スタンド・バイ・ミー』-

なんだか色々と個人的なこだわりで力が入り過ぎて少し時間的にもきつかったりというのが続いて、ちょっと短く書けるのをと思い何となく書く機会が無かったこの作品をやってみることにしたのですが、夏バテでダウン。今週もやっとでなんとか力を出してという感じですがなんとか頑張ろう。Top Shelfから発行されているオーストラリアの漫画家Pat Grantの『Blue』です。

オーストラリアの田舎町Boltonに住む悪ガキChristianは、仲間のMuck、Verne(女子)とともに学校をさぼってサーフィンに出掛ける。ところが海は大荒れ。やることの無くなった彼らは、途中で出会ったクラスメートから聞いた事故の現場を見に行くことにする。町を通っている鉄道の線路の先で人が轢かれたというのだ。線路を歩いて事故現場へ向かう3人はあちこちで明らかに人間と違う異様な風体の者たちを見かけ始める…。

冒頭その時点からずいぶんと年月が過ぎ、中年となったCristianが登場します。町にはその異様な姿の宇宙人なのか、船で現れたようなので海から来たものなのか、人間のような顔をしているけどひょうたん型の身体からタコのような柔らかくて本数の多い手足の生えた生き物があふれすっかり占領されています。どうやったのか彼らはその町の地所を買占めのさばり、麺類を食べてはそこらじゅうにごみを散らかし、壁を青い落書きで埋めていきます。Christianの仕事はそんな町を掃除する事。彼らの落書きで埋められた町の壁を白いペンキで塗り直して行きます。仕事とは言っても、同僚もいないし、どこかに雇われているという様子も描かれていないのでもしかしたら自発的なボランティアでやっているのかもしれません。謎の生物”Blue”達はそんなChristianに一切構うことはありませんが、ペンキを塗られた壁にはすぐに新たな落書きを始めます。

Christianの回想として語られるこの物語は、誰でも知っているスティーブン・キング原作の『スタンド・バイ・ミー』ととてもよく似ているものですね。作者Pat Grantはその原作小説が書かれた1982年生まれで、この作品の舞台となっているようなオーストラリアの田舎町で生まれ育ち、子供時代に同じような事件があり映画のように友達と線路を歩いてその事故現場を見に行ったという経験があるそうです。『スタンド・バイ・ミー』の方は線路を歩いて行くだけで鉄道事故ではなかったと思うけどその辺の細かいところはまあいいか。原作小説もずいぶん昔だけど読んでいるはずだけど、映画もここしばらくは観ていなかったりであまり詳しい比較とかできないのだけど、それもそれほど重要でもないかなと思います。単行本のあとがきにも成長してからこの話を知って、自分も同じような経験があり、それは子供時代の重要な想い出の一つで作品にしてみたいと思ったというようなことが書かれています。

Boltonというのは架空の町だそうだけど、作者が生まれ育ったのも同じような田舎町で、子供時代は毎日サーフィンをしたり、鉄道の線路の周りが遊び場だったということです。この作品の主人公たちは、アボリジニの絶対言ってはいけないような蔑称を大声で言ってケタケタ笑うようなクソガキで、オヤジは飲んだくれて昼間から寝てるし、途中で会うやつらもろくな奴じゃないし、ホントにいいところの何もないような町です。でもだからと言ってわけのわかんない奴らに好き勝手に変えられちゃったり無くなったりしていいもんじゃないんだよ、これは俺たちの町なんだから悪口を言ってけなす権利だって俺たち以外にはないんだよ!というようなのが作者の想いではないでしょうか。謎の生物”Blue”に象徴されるのは具体的な外からの人間とかよりもっと希薄な空気とか時間とか、それでいて抗うこともできずこちらを全く無視して変化を進めて行ってしまうものではないかなと思います。
Christianはなんとか町を元に戻そうと白いペンキを塗り続けていきます。でも元々が白ではなかったものにいくら白いペンキを塗っても元には戻らないのですよね。

この約100ページの作品は、プリント版の他にComixologyから3ドルほどで読むこともできるのですが、Webコミックとしても公開されていて無料で読むことができます。プリント/デジタル版単行本には他に作者によるあとがきとオーストラリアのコミックについての紹介などが載っています。作者Pat Grantに関しては、現在自身のホームページが壊れてしまって閉鎖中でもあり、詳しい情報は分からないのですが、今のところ出版されている作品はこの『Blue』だけのようです。閉鎖中のホームページに掲載されているイラストが女性の画だったのでもしかしたら女の人だったのかな、と思ったのですが、画像検索をしてみたら男性の写真が出てきました。ヒゲがあるので男性で間違いないと思います。独特の雰囲気とリズムで心に残る作風で、また作品が発表されたら読んでみたいアーティストです。頑張ってほしいものだ。

というわけであまりに虚弱でなんとかかんとかという感じですが、もうすぐ夏休みだしなんとかまた頑張りますのでよろしくです。


Blue by Pat Grant

Pat Grantホームページ(閉鎖中)


●BLUE


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