2015年8月17日月曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回

また第1回とか言い出したか!とお思いの人もいるでしょうが、ちょっと待ってください、このアンソロジー45人もの作家が収録されているのですよ。ハードボイルド/ノワール系を中心に現在注目のイギリスの作家45人を集めたのがこのアンソロジー『True Brit Grit』なのです。以前から同様に39人の英米の作家の作品を集めた『All Due Respect』をことあるごとにひっぱり出してきていて、ちゃんとしたリストがあればな、と思っていたこともあり、まだなかなか手を付けていられないながらもかなり注目の名前の並んでいるこのアンソロジーではきちんとしたリストを作ってみることにしました。と言っても何しろ45人なので一度にやるのは大変なので、一応5回ぐらいに分けてやってみることにしました。なんとか月一ぐらいであまり引っ張らないでやるつもりではいます。
ちなみにこのアンソロジー、Children 1stと英国で3歳の少女が殺害された放火事件から設立されたFrancesca Blimpson Foundationのためのチャリティーによる出版で、値段も300円なのでここからじゃなくてもいいので興味のある人は買ってチャリティーにご協力下さい。

Children 1st

Francesca Blimpson Foundation

他にこの手のチャリティー出版ではジョージ・ペレケーノス、アンドリュー・ヴァクス、ジョー・ランズデールなども参加している『Protectors: Stories to Benefit PROTECT』というのもあります。こちらも子供のためのチャリティーです。こちらも他にも"Big Daddy Thug" Todd RobinsonやJohnny Shawなどの豪華メンバーがそろったアンソロジーで、そのうちこのブログでも書く予定です。



まずはマキシム・ジャクボヴスキーの序文もあるのですが、その辺は次回以降にまわすとして、とにかく人数が多いのでどんどんやって行こうと思います。あるものは他の作品に少しでもリンクを張って行きますがスペース的になかなか全部とはいかないのであとはAmazonの作者ページなどからも調べてみてください。

■Two Fingers Of Noir/Alan Griffiths

主人公の”俺”、私立探偵Valentineは町のギャングのボスPork Pieに借りを返すために仕事を言いつけられる。失踪した組織の資金洗浄係の男、Albie Parkinsを探せ、ということだったのだが…。
冒頭を飾るのは新人作家Alan Griffithsによるギャングの落とし前を描いたダークなノワール作品。Alan Griffithsはまだいくつかのアンソロジーに作品を発表しているというところの作家ですが、独特の言葉づかいを試したり、この作品も現代が舞台なのだけどちょっと映画『ミラーズ・クロッシング』あたりを思わせる雰囲気もあったりとなかなかに個性的でこれからを期待させる作家です。

Brit Grit -Alan Griffithsホームページ-

■Eat Shit/Tony Black

Miami Mikeは自分のバーでEddieと会う。Eddieは同じ西から出てきた幼馴染だ。Eddieは浮かない顔で言う。「パーティーで出会った女の子と上手くいってたんだ。でもそのオヤジが出てきた。弁護士でさ。俺のことを訴えるって言ってる。」Eddieは同じように西で子供時代を過ごした友人だ。あのクソのような町を脱出できた友人なのだ。「任せとけ」Miami Mikeは言う。「今度そいつから書類が届いたら、それでケツを拭いてやれ。」
Tony Blackは現在のイギリスのこのジャンルの中では最も活躍中の作家のひとりです。12冊の著作があり、最新作『The Last Tiger』はNot the Booker PrizeとCWA Daggerにもノミネートされたそうです。Gus Dury、Doug Michieなどのシリーズがあり、他にアンドリュー・ヴァクスなど犯罪小説作家へのインタビューの本も出版しています。収録作はかなりダークなバイオレンスを描いた作品です。他にどんな手を持っているのか、早くいろいろ読んでみたい作家です。

Tony Blackホームページ




■Baby Face And Irn Bru/Allan Guthrie

人口6千人の田舎町だ、ちょろいもんさ。奴はそう言って笑った。奴の名はKenny 'Irn Bru' Strachan。そして俺の名はFrank 'Baby Face' Nelson。大した意味なんてない。Nelsonなんて名前の銀行強盗には必ずこの仇名が付く。そして、今奴は笑っていない。銀行の前の歩道で血を流して横たわっている。そして俺はここからどうやって脱出すればいいのか考えあぐねている…。
失敗した銀行強盗の末路を描く、滑稽さを含んだ描写が冴える作品。Allan Guthrieも2004年から5冊の長編、3冊の中編を発表しているこのジャンルで活躍中の作家です。いずれの作品もジャンルのファンからは評価も高い注目の作家。また、このブログでは度々登場しているイギリスのe-Bookのインディー・パブリッシャーBlasted Heathの設立者の一人でもあります。




■Pretty Hot T'ing/Adrian Magson

「Szulu、Raggaが会いたがってる。すぐに来るんだ。」町のギャングのボス、Ragga Pearlから呼び出しがかかった。店の資金繰りのためにRaggaから借金をした叔母さんに、あんな奴から金を借りたらろくなことにならない、と忠告したのが耳に入ったらしい。どんな小さなことでも自分への悪口は許さない男だ。どんなヤキを入れられるのか怖れながら言ってみると、意外なことに彼は僕が大学の科学の専攻でやったあることに目を付け仕事を持ちかけてきたのだが…。
出だしはノワール風なのだけど後半はサスペンス・アクション的展開になり、このアンソロジーの中では読みやすい方の作品です。作者Adrian Magsonについては少し私の読んでいるものと傾向が違っているようで今まで知らなかったのですが、ずいぶん多くの作品もある人気作家のようです。1960年代パリを舞台とした刑事物Lucas Roccoシリーズや、スパイ物Harry Tateシリーズなど4つのシリーズを持っているようです。ちょっと内容は分からないのですがそれぞれの1作目をリストに載せておきます。この作品の雰囲気からすると、様々な展開やアクション盛り沢山の楽しめる作品なのではないかと思います。

Adrian Magsonホームページ




■Black Betty/Sheila Quigley

彼女はバスの中のいつもの場所に立っている。Black Betty。彼女が常に黒い服を纏っていることからつけられた仇名。常に陰鬱に顔を顰めていることからつけられた仇名。彼女はそんな連中にもこの町にもうんざりしている。だが彼女にはこの町から脱出する計画がある。バスを降りたBettyは傍らの剥がれかけたポスターに目を留める。「連続殺人鬼が逃亡中」。家路を急ぐ彼女に妙な男が絡んでくる。この男はポスターの連続殺人鬼なのか?…
一つの緊張した流れの語りの中に急に別角度から異なる緊張が切り込んでくる巧みさを感じさせるサイコ・サスペンス。Sheila Quigleyについても私は知らなかったのですが、7冊の著作のある人気作家のようです。ホームページを見てみると舞台化作品の告知もあったり。Holy Island3部作というのがあるようなのでそちらをリストに載せておきます。

Sheila Quigleyホームページ




■Payback:With Interest/Matt Hilton

朝5時にRonnie Stoutの部屋のドアが叩かれる。やれやれ、こんな時間にやって来るのは警察の手入れに決まってる。そしてドアを開けたRonnieに銃口が突きつけられる。Ronnieの相棒Jason Corrieは必死に逃げ道を探していた。彼には自分と相棒が命を狙われる理由も相手もわかっていた。そして連中から逃れられる可能性がほとんどないことも…。
重低音の感じられるようなタフな語り口が光るノワール作品。Matt HiltonはヴィジランテJoe Hunterシリーズが人気の元警察官の作家。アメリカ風の犯罪小説指向ということからジャック・リーチャー方向のシリーズかな、と想像されますが、とにかく早く読んでみたいところです。リストは9作出ているJoe Hunterシリーズの最初の方を。

Matt Hiltonホームページ




■Looking for Jamie/Iain Rowan

HarkerはずっとJamieを探している。息子のJamieが家出してからもう3か月。妻は家で泣き続けている。今度こそ信じられる手がかりを摑んだと思う。しかしまた絶望を重ねさせるのを恐れて妻には告げず、出かける。そして彼は見知らぬ港町の暗い通りへと進んで行く…。
犯罪とはかかわりのない一市民の眼を通し、都市の暗黒部と絶望を描いたノワール作品。Iain Rowanは一作の長編小説と2冊の短編集を発表しているまだ新しい作家のようです。長編『One of Us』はUK Crime Writers' Association Debut Dagger awardにノミネートされた作品で、やはり普通の市民である女性を主人公にした作品のようです。Amazonで調べてみるともう少し作品があるようだけどホームページの方が更新されてないのかな?とりあえずそちらにも載っている3作をリストにしておきます。

Iain Rowanホームページ




■Stone In My Pockets/Nigel Bird

Leftyは軍隊にいた時のように計画を立てた。そして週末のクラブの前で暴動が始まる…。
意味もない騒動に加わり、当然のように自滅して行く青年の内面を無感動な語り口で描いたちょっと奇妙な短い作品。パンク・ロック/ニューウェイブ系の歌詞にも見えるような。スーサイドとか?Nigel Birdはアンソロジー、ウェブジンでもよく名前を見かける、あちこちで精力的に活動中の作家です。『All Due Respect』にも作品が掲載されているのだけど、そちらも田舎町で鷹匠のようなことをしている青年が主人公の異色作だったり。ちょっと正体不明なのですが、なるべく早くちゃんと読んでみようと思ってる作家のひとりです。なんかロマンチック・コメディとかいうのもあるなあ…。

Nigel Birdホームページ




ということで今回は最初から8作家。人数的には5分の1ではないけどページ数的にはほぼ4分の1ぐらいで、最初は人気のある作者が多いのかなと思います。リンクやらリストやらを挟んでいって長くなり過ぎたりしないかと思っていたけど、割といい感じにできたように思うので、『Thuglit』とかもこれからはこの方法でやってみようかと思います。何しろ45人なので自分が把握できてないだけで翻訳が出てたり雑誌やアンソロジーに載っている作家もいるのかもしれないけど、とりあえずは日本未紹介の作家が大半だと思うので、新しい作家を探している人はお楽しみに。ではまたなるべく早く第2回をお届けできるように頑張ります。


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