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2014年6月21日土曜日

Yellow Medicine -Billy Lafitteシリーズ第1作!-

2週間、同じような監房から同じような訊問室に連れ出され、同じようなお定まりの質問を繰り返し浴びせかけれ、そしてついにRome捜査官の登場だ。
「Lafitte保安官代理、そろそろ本当のことを話してもらおうじゃないか。そうすりゃ外の連中も納得し、俺たちもここを引き上げ、あんたも外に出られるんだ。」
すべて嘘だ。そして奴は俺に彼らの死を突きつける。そうだ、みんな俺のせいで死んだんだ。
そして最後に突き付けられた五千ボルトのスタンガンで床に倒れ伏した俺に奴がこう告げる。
「それじゃあ帰ろうか。裏切り者のお前を待っているYellow Medicineへ。」 

Billy Lafitteは、ミネソタ州イエローメディスン郡の保安官代理。かつてはミシシッピ州で同職に勤めていたが、ハリケーン・カタリナの災害時に人助けのために行った脱法行為が大きく報道されてしまう。もともとクリーンなわけではなかった彼だが、そのために職を失い、家庭も崩壊する。最後のチャンスとして得たのが、元妻の兄が保安官を務めるこのイエローメディスン郡の保安官代理の座だったが…。

-3週間前-

いつものようにお気に入りのサイコビリーバンド、エルビス・アンチクライストが演奏するバーにたむろするBilly。演奏が終わると、ボーカルのDrewが近寄ってきて、相談を持ちかけてくる。ろくでなしの彼氏のIanがドラッグ商売でヘマをやらかし、二人組の男に脅されているらしい。なるほど。その二人組はBillyにはおなじみの地元で商売を仕切っている連中だろう。どうやら連中商売を拡げようとしているらしい。BillyはDrewの頼みを引き受ける。だが、もちろん無料ってわけじゃない。報酬は可愛いDrewの身体。そしてもちろん奴らがでかくした商売からも儲けさせてもらう。

しかし、大学の寮の女のところに隠れていたろくでなしのIanを探し出し、問い詰めてみるとことは思ったより厄介なようだ。二人組の見たこともないマレーシア人?Ianのケツには妙なマークの焼き印が見せしめに押し付けられている。姿の見つからない地元の連中は多分もう始末されている。イスラムのテロリストがこの田舎町で資金稼ぎにドラッグ商売だと?ヤバイ連中だ。話してわかる相手じゃない。そして、輪はどんどん狭められて行き、Billyは追いつめられて行く!

Anthony Neil SmithのBilly Lafitteシリーズ第1作『Yellow Medicine』!オレはどこかにあるかもしれないこういうものを読むために大して読めるわけでもないのに英語の本をモタモタと読んでいるんだよ!という作品!…なのだけど…いざそういう作品に巡り合って書こう、と思うと…なんかやっぱりあんまり同意してもらえないだろうなあと思ってしまう。それが通用してればこの本だってとっくに翻訳されててどこの書店でも手に入って私もこんな珍妙なブログなんてやっていなくて彼女もいただろうに。いや、それはないか…。まあ、とにかく万人におススメとはいかないが、これが気に入る人もきっといるはずなので、そういう人が読んでください。合わない人もまた面白そうなのを見つけてきますので見捨てないでください。

私の見立てでは、この『Yellow Medicine』はハードボイルド風味強めのノワールというところ。ジャンルなんて本当はどうでもいいけど、やっぱり目印はあった方が分かり易いですから。この小説は全編Billy Lafitteの一人称で書かれていて、彼は常に自分のことをチンケな悪党だと言い続ける。魂?「それも(カタリナに)一緒に持って行かれたよ」なんて言ってみせる。この小説には、「男の誇り」についてのマッチョ説教も、「父と子の物語」もない。追いつめられ、叩きのめされるBillyには、本当は一つ抜け道がある。それは奴らの言いなりになること。だが、この男にはそんな選択肢はない。そもそも無いものにものについて「男の誇り」などを使って語る必要も無いのだ。話の通じない相手に暴力で脅されたら、暴力で返すしかないのか。このくらいやれば諦めるのか?でもこいつらには無駄なんじゃないか。そう思いながら暴力で押し返す。この主人公はマックイーン、イーストウッドからジェイソン・ステイサムあたりまで誰が演じてもはまりそうなタイプ。少しひねくれたタフな男。だが、その内面は軋み続ける。俺はただ、元の生活に帰りたいだけなんだ!と心の内で叫ぶ。そしてBillyはどこにたどり着くのか。

作者Anthony Neil Smithはミシシッピ出身で、現在はSouthwest Minnesota State UniversityのEnglish Professor(英語教授?国語教授?)だそうです。ウェブジン”Plots with Guns”のパブリッシャーでもあり、以前に書いたアンソロジー/インディー・パブリッシャーあたりとも人脈や共通の読者も多く、私もその辺から知りました。Billy Lafitteシリーズは現在3作までで、最初の2作は他の出版社から出ていたようですが、一旦は個人出版になり、シリーズ3作目以降の作品はBlasted Heathから出版されています。シリーズ3作目の後、Mustafa&Ademシリーズを2作出版している他、単発作品数作、短編集などの著作があり、ほかにもあのヴィクター・ギシュラーとの共作や、少し前に書いた『The Dead Man』シリーズでも1本作品があります。この本の序文を書いている人がBilly Lafitteシリーズを3部作と書いていたのでもう終わってしまったのかな、と思っていたら、本人のホームページによると、現在4作目を執筆中で、それが最終作になるそうです。また、同ホームページによると、Smithさんこの春先に心臓発作を起こしたそうで、大丈夫かなあ。サンドウィッチマンのふたりを転送中事故で合体してこんなのが出てきました、みたいな冴えないルックスに以前から親近感を抱いていたのですが、最近明らかにあの著者写真より太ってるし!アンタの作品必ず全部読むし、今後にも大いに期待しているのでお身体は大切にね!

というわけでこの作品、私的には近年ベスト級の小説ですが、趣味は人それぞれですので敢えて強くはおススメしません。ちなみにこの本、Kindle版はたったの0.97ドル!(米国内では常時無料のようですが…)もし興味を持たれたなら、ちらっと読んでみて、そして合わないな、と思ったら100円落としたと思って忘れてください…じゃ駄目ですか?


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2014年6月14日土曜日

Valiant その1 -X-O ManowarとHarbinger-


 なんだかまあ、こんな感じでブログを始めて4か月になるのですが、コミックに関してはいまだにオレが書くことなんかなあ、と思ってしまうのです。やっぱりコミック、特にアメリカのは詳しい人がいっぱいいるわけだし。まあ、結局私なんてデジタルで手軽に読めるようになった最近になって本格的に読み始めたぐらいでまだ日も浅いわけだし。それでもやってみようかなあと思うのは、自分の経験から、なんか面白そうだなと思っても情報が全然見つからなかったり、自分が読んで面白かった物について誰か書いていてくれていたら嬉しかったりしたという事があったりというようなことで、やっぱりどんなのでも少しでも情報が沢山あった方がいいだろうなと思うからなのですよね。あと情報があるところと無いところの格差も大きいように思えて、そんなところをいくらかでも埋められたらなあなどと、微々々力ながら考えたりもするわけです。まあ結局はなんか中途半端なものを書いてる言い訳でしかないのかもしれませんが。とにかく知ったかぶりにはならないようなるべくちゃんと調べて書いていくように努めていこうと思います。
というわけで今回はヴァリアントについてです。ヴァリアントなんてオレが語るべきものなのかなあと自信がなくなってつい言い訳が長くなってしまいました。でもまあ、ヴァリアント好きだし面白いから書いてしまえ、ということでやってみます。今回はその第1回です。例によって例の如くまだあまり読んでいませんが、まあさわりの辺りを新旧作比較しながら書いてみます。

●ヴァリアントの歴史

こういうことを書くのはあまり得意ではないのでかなり大雑把になりますが、とりあえずはまずヴァリアントの現在までの歴史から書いてみようと思います。ヴァリアントは、まず1989年、マーベル・コミックの元writer/editorであるJim ShooterとBob LaytonによりValiant Comicsとして設立されます。数々のシリーズタイトルを作り出した後、Valiant Comicsは、1994年ゲーム会社であるAcclaim Entertainmentに売却され、Acclaim Comicsとして再スタートします。多くのシリーズがリランチされ、ゲーム化されたタイトルもありましたが、2004年Acclaim Entertainmentはコミックの出版から撤退、翌2005年から現在の形であるValiant Entertainmentとして再々スタートしました。しばらくは旧作の出版と著作権管理として雌伏していたヴァリアントですが、2011年マーベル・コミックのCEO兼副社長のPeter Cuneoが社長として就任してから再始動が始まり、翌2012年4つのリランチタイトルをスタート。いずれも好評を持って迎えられ、現在の快進撃に至るというわけです!…という感じで大体あっていると思うのですが…。

Jim Shooterというのもいろいろある人のようだな、とか80~90年代あたりのアメコミ状況に関しては知識不足でまだ色々勉強せねば、などと思いつつとりあえず進めます。このような経緯を経て現在に至るヴァリアントで、現在出ているものは以前のリランチ作品です。しかし、リランチとは言ってもそういう形で一旦は終わってしまったもので、また新しい作品として読み始めることができるし、一方で過去のはどんなのだったのかな、と読み返して比較してみるような楽しみ方もできます。また、ヴァリアントの良いところは、2012年リランチとまだ日も浅く、まだ楽に追いつけるところ。アメコミを読み始めたものの、マーベルDCの山の大きさに途方に暮れているという人(私)も道に迷う心配なく楽しめます。(とか言いつつこちらにもかなり遅れてきている私ですが…)まあこういうのも読みながら少しずつあちらの大山を探索していくのもいいのではないでしょうか。

現在Valiant Entertainmentから発行されているのは以下の作品です。
 1. X-O Manowar
 2. Harbinger
 3. Bloodshot (Bloodshot and H.A.R.D. Corps)
 4. Archer & Armstrong
 5. Shadowman
 6. Quantum and Woody
 7. Eternal Warrior
 8. Unity
 9. Rai
 (リランチ順)
1989年の発足当初から"Valiant Universe"として、マーベルDCのようにすべての作品が共通の世界に存在しているという構想で作られていて、現在もその設定で進められています。昨年は初のコミック・イベントとして『Harbinger Wars』が発行され、今年もこれから『Armor Hunters』が始まるところ。他にも複数のシリーズのキャラクターが共闘する『Unity』も始まっています。いずれの作品も実力派のライター、アーティストを起用し読み応えのあるものになっており、最近ではanあのMatt Kindtもライターとして参入しています。
最初は全部まとめてやろうかと思っていたのですが、これまでの経験からグダグダになるのが目に見えているので少しずつやってくことにしました。というわけで今回はその第1回、X-O ManowarとHarbingerについて書いてみます。旧作はAcclaim Comics版もあるのですがそちらはまだ手を付けてないので、最初のValiant Comics版との比較になります。

●X-O Manowar

紀元402年、ローマ帝国と闘う西ゴート族の戦士Aricは、ある日野営地の近くに巨大な見たこともない物体が降りているのを目撃する。ローマ帝国の新兵器だと思い攻撃を仕掛けるAric達。だがそれは異星人Vineの宇宙船だった。勇猛に戦うもはるかに進んだ兵器の前には敵わず、Aricと仲間たちは異星人に捕獲されてしまう。見たこともない土地に降ろされたAricはただちに逃亡を謀る。宇宙船の中を逃げるうちにAricは異星人達が謎のアーマーを神聖な儀式のように崇めている光景を目撃する。逃亡はすぐに阻止され、Aric達は異星人の農場で奴隷として使役される。あきらめず逃亡を試み続けるAricだったが、遂には片腕を切断されてしまう。しかし、Aricは逃亡をあきらめない。その胸に去来するのは以前に見た光景だった。

”あのアーマーを手に入れれば奴らと戦える!”

不屈の意志で再度逃亡を試み、遂にAricはそのアーマーの許にたどり着く。数々の異星人兵士達を拒み続けたアーマーだったが、まるでAricを待っていたかのように受け入れ、その身体を覆う。そして、失われた片腕までもそのアーマーの中で再生される
強力なアーマーを手に入れたものの、敵の圧倒的な数と火力の前、仲間たちは次々と倒れて行く。追い詰められ船外に脱出するAric。そこはAricが初めて目にする宇宙空間だった。宇宙艦からの更に強力な火力がAricを襲う!

”駄目だ!俺はこんなところで死ぬわけにはいかない!ローマへ行って戦うのだ!
               ローマへ!

そして、そのAricの想いに応え、彼を包んだアーマーは瞬間移動する。地球へ!ローマへ!Aricの姿はローマ、コロッセオ上空に出現する!
だが、そこはAricの生きた時代から1600年を経た現代のローマだった…。

盗まれたアーマーを取り戻すため、Vineの戦艦が地球へ向かって発進する。一方、地球での前進基地であるVineとの混血グループも、その命を受け、ニンジャアサシンNinjakを雇い、Aric討伐とアーマー奪還のために送り込む…。

[過去作との比較 ]
1992年発行のValiant Comics版では、話はまず宇宙船内で逃亡したAricがアーマーを手に入れるところから始まります。(1年半後に出た前日譚の#0もあります。)まずは南米ペルーに到着し、Vineとの闘争の後、舞台はニューヨークに移りそちらのVineの本拠を壊滅、という感じでとりあえずVineの話は2話まででひと段落します。ちなみに現行版では私の読んだ9話あたりでやっとVineへの反撃が始まったあたりです。旧版もまだ5話までですが、その後はHarbingerのToyo Haradaと会い、その次はアーマーを狙う男が現れるという展開です。旧版のAricは本当に誇り高い蛮族という感じで、全裸が普通、周りの風景が自分の時代と著しく変わっていても一切動ぜず、その一方で自分が冷凍保存され1600年過ぎているという事情はあまり理解していない様子。深夜のセントラルパークでストリートギャングの一団に襲われると、これこそが自分の望んでいた戦闘だ!と嬉々として皆殺しにするという蛮族ぶり。Vineの下で働いていたKenというゲイの青年が、のちにAricの協力者となるのですが、そのゲイ青年の見慣れないふるまいから”こいつは魔術師だ。魔術師を味方にすれば有利になる”と考え行動を共にしたりします。現行版ではその辺のAricの個性が少し薄めかなという感じです。

現行版のライターは、映画化された『サロゲート』(Top Shelf刊)のライターでもあるRobert Venditti。ヴァリアント・ユニバースの中でも中心をなすシリーズという事もあるのか、少し順当にストーリーを進めていてあまり作家の個性は発揮されていない観もありますが、まあ、問題は無いし、その辺に関しては今後に期待という感じです。作画は、Dark HorseのConanシリーズのCary Nordやイギリス出身のLee Garbettなどが交代で担当していますが、最初はペンシラーというクレジットなのですが今ではアートになっています。インカーの人省略か?ちょっと良くないなあ。いずれの人もとても迫力のある達者な絵です。
ちなみに最後の方で名前の出たNinjakですが、以前は自分のシリーズを持っていたキャラですが今のところはそちらは始まっていません。一応予定はある雰囲気ですが。この後もX-O Manowarとはなにかと深く関わっていくようです。


●Harbinger

雑踏の中を歩く少年。彼の頭の中に周囲の通行人の考えていることが飛び込んでくる。テレパシー能力。その強力な能力により、周囲の人間の思考は勝手にどんどん彼の頭の中に侵入してくる。彼はそれを遮るようにジャケットのフードを深くかぶる。少年は薬局に入る。彼の目が怪しく光ると店主は処方箋なしでは販売できない強力な向精神薬を代金もとらずに手渡す。だが、彼にはそれが必要なのだ。絶えず頭の中に侵入してくる声を締め出すために…。

彼の名はPeter Stanchek。相棒の統合失調症の少年Joeと、収容されていた施設を脱走して空き家に寝泊まりしている。Joeは彼の能力が一切通じない世界で唯一の友達なのだ。

その能力ゆえに施設に収容されていた少年Peterの数少ない外界の思い出と言えば、幼少時近所で仲良く遊んだ少女Krisの事。彼は彼女に会うためにこの町へ戻ってきたのだ。だが再会した成長したKrisは迷惑そうに彼を突っぱねる。追いつめられた孤独感からPeterは自分の能力を彼女に使ってしまう。

”俺と恋に落ちるんだ、Kris。”

夜、空き家の中でKrisと抱き合って眠るPeterは自分を呼ぶ声に気付く。外に出てみると、そこにいたのは一匹の犬。多くの犬に襲われるという幻覚を見た瞬間、Peterは庭園の中で見知らぬ男と向き合っていた。男の名はToyo Harada。彼はPeterにその能力を生かすため、自分のHarbinger Foundationに加わるよう促す。

現実に戻ったPeterは、Joeが犬と話している自分を呆れて見ているのに気付く。Joeは彼がKrisと会っている間に警察に保護されていたのだった。釈放され戻ったJoeは当然尾行されていて、Peterを収容していた施設の組織の追手が、まさにその頭上、ヘリコプターの一団として現れる

ヘリコプターからは重武装の兵士達が降り立ち、電磁波とストロボを組み合わせた装置でPeterの能力を抑え込み、制圧を図る。”お前自身の力を使い脱出するのだ!”犬を通じて呼びかけるHarada。だが、自らの能力を怖れるPeterはそれを使うことができない。しかし、Krisに危機が及ぶのを見た瞬間、Peterの本当の力が爆発する!

周囲を取り囲む兵士たちが念動力で一気に弾き飛ばされる。危険を感じた兵士たちは発砲を始めるが、弾丸はすべてPeterの身体を逸れて行く。強力なテレパシー能力で兵士全員を戦闘不能にするPeter。隠されていた指揮車が引き寄せられ破壊される。指揮者と向かい合うPeter。

「俺を殺す気か?Peter!」
「いや、あんたを痛めつけるにはもっといい方法がある」

”忘れるんだ。あんたが今までに知った全ての事を。あんたが愛したすべてのものを。あんたを作り上げてきた全てを!”

破壊の跡、Haradaからの迎えのHarbingerの車が到着する。だが、KrisとJoeは連れては行けない。別れの時。能力から解放されたKrisは、殺してやる!とPeterを罵る。またすぐに会えるから、と手差し伸べるPeterに向かってJoeは「お前みたいに恐ろしい奴は初めて見たよ」と、つぶやく…。

そして、Peterを乗せた車はHarbinger Foundationへと向かう。

[過去作との比較]
同じく1992年発行の第1話は、Harbingerと決別したPeterがKrisとともに逃亡しながら、Renegadesとなる3人の仲間と出会っていくところから始まります。あらすじもそこまで書こうかと思ったのですが、あとのいきさつはできれば読んでいただきたいなと。旧版ではこちらも後から#0が発行され、それまでの話が語られます。そちらではPeterは、普通のハイスクールの生徒。まずはアメリカの映画やTVドラマでよく見る感じのハイスクールのヒエラルキーみたいなところから始まり、その中ではパッとしないPeterなのですが、自分に特殊な能力があることには気づいていて、雑誌の広告で見たHarbinger Foundationに手紙を送り迎え入れられるという展開。Peterは学校に通いながらHarbingerでも訓練を受け、力を増して行き、その能力でずっと高嶺の花だったKrisもモノにします。そんなPeterの様子を心配する、同級生で親友のJoe。一旦は有頂天になっていたPeterも悩みはじめ、遂にはKrisへの能力を解き、真実を告白してフラれてしまう。苦悩を深め、能力の伸びが滞るPeterの様子を見て、Harbingerは障害になっていると思われるJoeを殺害する。ショックを受け、無能に陥るPeterを見て、Harbingerは彼の処分をも謀るが、遂にPeterの怒りが爆発する。そして、自分の本当の気持ちがPeterに向かっていることに気付いたKrisも、Peterの許へ向かう…。 
という感じで、こちらの『Harbinger』は、基本的なキャラクター名、配置以外はかなり大きく変わっています。いかにもアメリカのティーンエイジドラマの典型のノリと雰囲気の旧作に対し、現行作は結構日本のマンガ読者にも馴染みやすいものではないでしょうか。日本のマンガが海外に出てからもうかなり長く、今更その影響をあげつらうのも野暮だとは思いますが。
キャラクターの見た目の変更も大きく、ロングの赤毛をなびかせていたKrisは、現行作ではショートの黒髪に赤いふちの眼鏡、唇にピアスとかなり個性的でクールな感じ。旧作ではもみあげを工夫したニッポンのシャチョー的だったToyo Haradaも、現行作ではトニー・スターク風の髭を生やして謎の大富豪感を強めています。

現行版のライターは、アイズナー賞にもノミネートされたVertigoの『Unknown Soldier』などの著作のあるJoshua Dysart。はみ出し者対エリートという構図の強調された、ナイーブでときにバイオレンスなストーリー展開は今後も期待できそうです。作画は、こちらも数人が交代でということになっていますが、中でも注目は序盤5話を主に担当した『Carbon Grey』(Image Comics刊)などのKhari Evans。特に女性のキャラクターが美しくその辺でも日本のマンガ読者に受ける要素は多いのではないかと。詳しい経歴などはあまりわからなかったのですが要注目のアーティストです。ちなみに旧版の1話のペンシラーは現代アメコミ重要作家のひとりであるDavid Laphamだったりします。

というわけで、Variant その1、『X-O Manowar』と『Harbinger』について書いてみました。またずいぶん長くなってしまった割にはいまいち中途半端な感じも…。まあ、なんとか回を重ねながら別の作品を紹介しつつ、前の物の情報も充実していければいいかなと思っています。ヴァリアント・ユニバースについては、とりあえずは今回の2作と、あと『Bloodshot』を読んでいれば当分は大丈夫だと思います。それなら『Bloodshot』までやれよ、という話ですが…。
 次回、いつになるかは不明ですが、その2は、そんなわけでヴァリアントの中でも私が一番好きな『Bloodshot』の登場です。なんとかその辺までにライターで犯罪小説作家でもあるDuane Swierczynskiの小説も1冊ぐらい読んでおきたいなと思っています。


言い訳も含めて、今回はずいぶん長くなってしまったのですが、私がコミックについて書いていきたいなという考えは上で述べた通りです。私の場合一方でかなり重度のハードボイルドバカだったりもするので、コミックとの知識の格差でためらってしまう部分もあるのですが、まあ恥をかくつもりで、もしかしたら誰かの役に立つといいなと思いながら好きなことを書いていこうと思います。今回文中にちらっと登場したMatt Kindtについては近日中に、David Laphamについても近いうちに書く予定ですので(もし、楽しみにしてくれる方がいるなら)お楽しみに。

 ヴァリアントの出版物に関しては、過去作は少し手に入りにくくなっているようですが、デジタル版ではComixologyにかなりそろっていて、現在も追加されているようなので、そちらに興味のある方はComixologyで探してみてください。

Valiant Entertainment 


●X-O Manowar


●Harbinger


●その他のValiant作品


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