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2016年3月22日火曜日

Dove Season -Johnny Shaw作 Jimmy Veeder Fiascoシリーズ第1作!-

かくして遂にJohnny ShawのJimmy Veeder Fiascoシリーズ第1作『Dove Season』を読んだのである。
もー最初に言ってしまうが、大傑作!ハードボイルドの新星の登場です!普段はこんな声も届かないであろう辺境から一方的に対立しているマッチョ説教派ハードボイルドファンでも必ずや納得するであろう素晴らしい作品です。


【あらすじ】
俺は12年ぶりに故郷であるこの国境の町Imperial Valleyに帰って来た。

ハイスクールを卒業し、カレッジに進学、そして俺はそのままL.A.に住み着き、小説家を目指しながら様々な職を転々として食いつないできた。

だからと言って親父と仲違いをしたとかいうわけじゃない。時々は電話をして互いの様子を聞き、そしていつもバカ話で大笑いして電話を切った。

そして親父はずっと隠していたのだ。
自分が癌で余命僅かなことを…。

親父はこのImperial Valleyで自分の畑を耕して暮らしてきた。
俺が生まれたときに母親は亡くなり、以来男手ひとつで俺を育ててくれた。
親父と子供時代を過ごした我が家で一晩を過ごし、翌朝、病院に赴く。

ベッドに横たわった親父と、まるでこの先何も悪いことが起こらないかのように、いつも通りにバカ話を続け、大笑いする。
そして親父が言う。

「娼婦を探してきて欲しい。名前はYolandaだ。」

俺は昔ながらの悪友Bobbyに同行を頼み、国境を越え、Yolandaを見つけた。
そして、病床の親父の許に連れて行くことができた。

だが、それで終わりじゃあなかった。

そして、あの忌まわしい殺人事件が起こる…。


タイトルのDove Seasonというのは、Dove(野生の鳩)の猟が解禁になる季節のこと。その季節になると猟のための観光客も増えて、あちこちで散弾銃の音が聞こえてくるようになります。と言ってもこの物語の中では物騒な感じというよりは、地平線が見えるような砂漠の空に花火のように銃声が鳴り響くというイメージです。読みながら運動会シーズンの日曜の朝とかに花火の音が聞こえてくる感じを思い浮かべていたのだけど、今はもうそういうのはやらないのかな?

とにかく私としてはひたすら絶賛しかない作品です。笑えるところは本当に笑えるし、泣けるところは本当に泣ける。
まずは主人公と父親との関係。常にバカ話で笑い転げている親子。そして父親は言うのだ。「笑っていられる時は笑っているんだ。俺はそう教えて来ただろう。俺はもうすぐ死ぬ。死ぬのは本当に怖い。だから笑って死ねるようにお前に来てもらったんじゃないか。」
それこそがこの作品のテーマです。主人公たちは様々な苦境に直面し、ある時はやけくそのように馬鹿笑いしながら突き進んで行くのだ。こういう物語が素晴らしくないわけがない。

そして、キャラクター。一人称の語り手である主人公Jimmy Veeder Fiascoは30歳の特別な能力を持っているわけでもない普通の男。だが、この心優しき男は世の中に不正がまかり通ることを見過ごしては置けない男である。メキシコの貧しさ、苦境を目の当たりにすれば、自分がその中で被害を受けるようなことがあっても、抜きんでた腕力など持っていなくても動かずにはいられない男である。世の中そういうものだ、小僧、なんて言ってスカしてるのがハードボイルドじゃあないんだぜ。
相棒Bobbyも何ら特別な人物ではない。田舎で子供時代遊んですごした悪ガキがそのまま大きくなったような男で、酔っ払って時々問題を起こす厄介者ではあっても、誰からも悪人だとは思われていたりはしない。自分の畑を持ちこの町でそれなりに普通に暮らしているが、親友に頼まれれば何とか都合をつけて駆けつけてくれる。本当に頼りになる相棒とは、常に親身になって相手のことを心配し、そして信頼してなんだろうと命懸けで助けてくれるような人物なのだ。
他にも、遠距離恋愛でなし崩しに解消されたことにムカついてる元彼女の看護師のAngie、メキシコ人労働者相手のバーの経営者Mr.Morales、その孫で、子供時代からビジネスマンに憧れ、現在は国境をまたぐアンダーグラウンドの大物ビジネスマンとなり情報面で協力してくれるTomas(「正確」な道案内メモが笑える)、お笑いコンビのBuck BuckとSnout、Bobbyの彼女なのだけど彼があまりにも問題児なのでその関係を一切秘密にしている保安官事務所のGriseldaなど、登場する人物全てが個性的で魅力的です。

そしてまた、この人は見せ場を作るのが本当に上手い。地平線上に立ち昇る野焼きの煙の壁を挟んだ対決とか、悪党の避難場所と化した閉鎖された砂漠の真ん中の地熱発電所などという、燃える場面をうまく出して来る。前述した、背景となっているような砂漠の広い空に花火のように散弾銃の音が響き続けるのも本当に素晴らしい。

と、自分的にはとにかく絶賛、何ら欠点のない絶対おススメの傑作ですが、まあどうでもいいことだけど付け加えれば、殺人事件が起こりますが謎解き要素はあまりありません。ですので「謎解きクイズが入ってないやつはミステリに非ず。」というような考えで、「ミステリと思って読んだがミステリではなかった。」とか、「ミステリというよりは普通小説(ナンすか?ソレ?)として読むべきであろう。」なんてどーでもいいミソをつけて回るような方々には全然おススメしません。

作者Johnny Shawはこの主人公Jimmy Fiasco同様にInperial Valleyで生まれ育ったそうです。その後、UCLAで脚本について学び、現在はオレゴン州ポートランドに在住。古書店を経営する傍ら、あちこちの大学で脚本について教えているそうです。
この『Dove Season』(2010)は彼の最初の長編小説で、2012年に長編2作目『Big Maria』を発表し、アンソニー賞オリジナルペーパーバック部門賞を受賞。その後、以前に取り上げました異色アンソロジーシリーズ『Blood & Tacos』の編集で少しのブランクの後、2014年にJimmy Veeder Fiasco第2作『Plaster City』を発表。そして今年2月に最新作『Floodgate』が発刊されたところ。

私については、このブログを始める前に遡りますが、まず『Thuglit』issue1に収録の「Luck」を読んで一目惚れ。街でどこにも行き場もない2人のチンピラの友情を描いた本当に好きな作品。私の頭の中ではラストシーンにストップモーションがかかり、あの傷だらけの天使のテーマの最後のところが流れてしまうのです。そしてあの『Blood & Tacos』!様々な作家により「発見」された70年代メンズ・アドベンチャーの隠れた名作によるこのアンソロジー、以前より少しは状況が見えるようになってみてみれば、映画『大脱走』クラスに凄い面子のそろった快作です。とにかく4作そろえておく価値あり!そしてやっとこの『Dove Season』にたどり着いたわけなのですが、くどいようだが本当に100パーセント以上に期待に応えてくれた、このジャンルのファンならだれにでも絶対おススメの素晴らしい作品でした。

現在まだ4作ながら、いずれの作品も好評を持って迎えられ、快進撃を続けるJohnny Shawの作品、いずれの日にかは日本でも必ずや翻訳が出るものと信じております。しかし、その際、またぞろホークがスーさんがで始まり、『初秋』のような展開を期待したい、などと終るような、もういつだったのか読めなくなっているぐらいに賞味期限の切れた解説を載せたりするのだけは勘弁願いたいと思います。まー、ちょっと余計だったか。いつものことで。毎度すみません。


【追記(2016年3月28日)】
本日、いつものようにあてどなく書店内を彷徨っていたところ、なんと、ジョニー・ショー長編第2作『Big Maria』の翻訳が出ているのを発見しました!マグノリア・ブックス『負け犬たち』(野村恵美子・訳)。3月25日発売ということで何ともタイミングが良かったのだけど、こちらの方では何の意図も関係もありません。私としましては未読でも、ジョニー・ショー氏には絶対の信頼を持っているので100パーセントのおススメです。自分的にはKindle版も持っていることだし、彼の文章もかなり好きだったりもするので、そのうち原文で読んでから答え合わせ的に読んでみようかと。
主にロマンス・ミステリー系だが最近は自分的にも少し気になるのもちらほら見えるマグノリア・ブックスからの快挙!今後にもますますの期待を持って注目したいところ。この勢いでAnthony Neil Smithとかも出してくれよー。賞とかとってないとだめなの?
とにかく遂に翻訳作品も出たところで、この作品がまたぞろミステリ分類家による「ミステリではない」指定や、ケチを付けりゃあ頭が良く見えると思い込んでるような輩の「辛口」評に阻害されることなく、きちんと楽しむべき人に読まれて評価され、今後もこの優れた作家の日本への紹介が進むことを願うばかりです。


Johnny Shawオフィシャルウェブサイト

●関連記事

Blood & Tacos -70年代Men's Adventureリスペクトアンソロジー-

●Jimmy Veeder Fiasco


●長編


●Blood & Tacos


●Luck


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2016年3月13日日曜日

Bitch Planet 1: Extraordinary Machine -SF残虐女囚惑星!(仮)-

Bitch Planetは、ライター:Kelly Sue Deconnick、作画:Valentine De Landroにより、2014年12月からImage Comicsより現在刊行中の、SF女囚アクションコミックです。


【あらすじ】
地球からはるか遠くに設置された女性犯罪者専用矯正施設。

通称Bitch Planet。

そこには今日も様々な事情で法を犯し、懲役を言い渡された者たちが送られてくる。
宇宙船の中ではチューブに繋がれ眠らされたまま移送され、到着と同時に家畜のように裸のまま送り込まれる受刑者たち。そして各々に手渡された囚人服を身に付ける間もなく暴動が巻き起こる。

そこがBitch Planet。

その頃、地球ではひとりの男が役所を訪れ、担当官に嘆願していた。
「私の妻MarianはBitch Planetに送られてしまった。妻をあんなとんでもないところに置いておくわけにはいかない。早く手続きを進めてくれ!」
高額の賄賂を手渡された担当官は、男に嘆願が受理されたことを告げる。

騒動の収まったBitch Planetでは一人の受刑者が呼び出され、看守に連行されて行く。
その様子に不穏なものを感じたひとりのアフリカ系の精悍な女が後を跡ける。

彼女の名はKamau kogo。

彼女の動きを察した他の受刑者たちが看守の気をそらしている間に、Kamaruはその女Marianを物陰に引き込む。
「なんかヤバいことになりそうだ。あたしの後ろに隠れてな。」
すぐに看守たちに囲まれる2人。だが、Kamaruは鮮やかな体術で複数の相手をさばいて行く。
しかし、Kamaruが前方の敵にひきつけられている隙に、忍び寄った何者かによりMarianは喉を切り裂かれ、絶命する。

そして、地球では妻への「手続き」が完了したことを知り安心した男が、新たな愛人とともに帰って行く。

Marian殺害の罪をきせられるKamaru。
そして彼女に一つの提案がもたらされる。

「囚人でMegatonのチームを作って欲しい。そしてそのチームで試合を行うのだ。
提案が受け入れられれば、お前のこの罪については考慮しよう。」

ただちに提案を突っぱねるKamaru。
だが、他の受刑者からのある情報が彼女を動かし、女囚チームの結成が決定される。

そして、Bitch Planetは新たな方向に向かって動き始める…。


SF女囚アクション!女囚と言えば、この主人公Kamaruのモデルは明らかに、あのパム・グリアであります。そしてストーリーは、ご覧の通り、あの『ロンゲスト・ヤード』方向に向かって進行中というわけです。



エクスプロイテーション・ムービー的なアプローチも濃厚で、とにかくおススメ、と言いたいところなのですが、このTPB1巻はまだやっと話が動き出したところ。まあこのTPB1巻では1~5号の5話収録で、うち1話がチームメンバー一人の過去についての話で、あと4話で、入所、提案、チーム結成、看守チームとの練習試合、という展開で、まだこれからという少し物足りない印象でも仕方ないところでしょう。
私がこの作品に注目したのは昨年初め頃のことで、それからTPBの発売を待ちかねていたところ、やっと出たのが秋頃の事。その後も最近やっと7号が出たところという、若干スローペースな刊行状況です。画の方に時間がかかっているのだろうかと推測されるところですが、どんどん話を進めて行く勢いが欲しい作品でもあるので、なんとか頑張って欲しいものです。
その他に本作で少し気になるところというと、メディア王的な大物実業家Fatherという男が、イベントからの利益を目論み様々に画策している場面が毎号登場するのですが、まあ、そういうシーンは勿体付けた言い回しの会話が続いたりと若干かったるく、少しストーリーの勢いを妨げるもの。まずは話の勢いを重視すべきではないかな、という印象です。あとはPlanetというわりにはあまりその辺の大きさが感じられなくて、フツーの刑務所ぐらいにしか見えない、とかあるけど、その辺のところは低予算映画的ということでいちいちツッコミを入れることはないかな。
ということで、まずはこのTPB1巻がもしかしたら今ひとつに見えてしまうかもしれない点から指摘させてもらいました。しかし!これはまだまだ始まったばかりなのだ!やっとストーリーを軌道に乗せたところで、まだそれぞれのキャラクターについてはほとんど掘り下げられていない。主人公Kamaruにもいろいろ秘密がありそうだし、刑務所ものなら当然のポイントとして脱獄についても微かにほのめかされていたり、また囚人内に必ずいると思われる裏切り者は誰なのかとか、これから話を盛り上げて行くであろう要素は山盛りです!メディア王のくだりも話が進むにつれてもっと盛り上がるものになってくるはず!とにかく大いに期待の持てる題材なのですから、長い目を持ってこの先も大いなる期待を持ちながら見守って行きたいというのが私の感想です。

ライターKelly Sue Deconnickといえば、あの現代アメコミを代表するライターのひとりであるマット・フラクションの奥さんです。代表作は、マーベル近年の『Captain Marvel』や、2014年アイズナー賞ベスト・ライターを受賞したImageb Comicsの『Pretty Deadly』など。各地の米空軍基地で育つというジャック・リーチャーのような生い立ちを持つ彼女は、コミックの仕事としてはまずはマンガ・アダプテーションから入ったそうです。マンガ・アダプテーションって何だろうと思っていたら、何ともタイミング良く、前回紹介したマンガ翻訳者Zack DavissonさんがThe Comics Journalの記事の中で説明してくれていました。一旦翻訳されたマンガのセリフを、もっとアメリカの読者に合ったものにして行くという仕事のようですね。Gail Simone、G. Willow Wilsonなど女性作家の活躍が目覚ましい最近のアメコミ界の中でも、最も注目されるライターです。
作画Valentine De Landroはカナダ出身のアーティストで、代表作はマーベル『X Factor』など。この作品では共作者としてクレジットされていて、カラーまでの全工程を手掛けているようです。毎号の独特のカラーリングに扇情的なコピーが踊るエクスプロイテーション・ムービー風味たっぷりのカバーはかなり格好良く、巻末には女性向けの昔風の安っぽいニセ通販広告(顔をカバーするマスクとか、男の服が透けて見えるメガネとか)も載っていて、デザイン・コンセプトとしては、タフでラフな感じの女性向けのチープなコミック誌というところでしょうか。実際にそんな購買層がいるのかわからんが…。画風としては、中間的な線を極力廃した線と陰で構成されるデザイン的もので、女囚ならもっと生々しいのを、という人には少し物足りないかもしれないけど。

今回は少し論旨の分かりにくいものになってしまったのかもしれないけど、要するに私の言いたかったことは、もしかするとこの『Bitch Planet』TPB1巻は少しイマイチ感を持つ人もいるかもしれないけど、色々な意味で大いに期待できる作品なので、ここで見捨てるのはあまりにももったいない、長い目でこの先に期待して欲しい、ということです。ちょっと発刊ペースが遅いのはネックだが、その間は『Pretty Deadly』『Captain Marvel』などのKellyさんの他の作品を読みつつ、あーもっと言えばあまりにもどれをとってもハズレなしに見える問題作を次々発表するので逆に迷って手を出しそびれている旦那マット・フラクションの作品もそろそろ何か読みつつ、うまくいけば夏ぐらいに出るかもぐらいのTPB2巻を最大限の期待を持って待ちたいと思います。


Kelly Sue Deconnickオフィシャルウェブサイト

■Kelly Sue Deconnick
●Image Comics


●Captain Marvel




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2016年3月8日火曜日

マンガ翻訳者の告白 -The Comics Journalの記事より-

ちょっと面白い記事を見つけたので紹介します。The Comics Journalというサイトの"Confessions of a Manga Translator"というもの。水木しげるや松本零士、今敏などの作品を翻訳したZack Davissionが書いています。

Confessions of a Manga Translator

日本語を英語に翻訳する中でも、特にマンガのセリフについての難しさを色々な例も挙げて説明してくれています。結局、意味をちゃんと伝えようとすると、かなりの部分を新たに作り直さなければならないということ。
画像はZackさんが比較のためにあげていたのをそのまま使わせてもらいましたが、大変わかりやすい例ですね。日本人から見ればセリフの裏の意味はすぐ分かりますが、英語ではこういう形にしないときちんと伝わらないのでしょうね。
ただ縦のものを横にするだけではなく、言葉の性質や伝える側のメンタリティも考え、意味が正確に伝わるようにするという作業は本当に大変なものだろうと思います。
Zackさんによれば、一旦読んだものを更に頭の中でそれぞれのキャラクター達が話した声として聞き直すということ。松本零士の『クィーン・エメラルダス』をワグナーを聴きながら翻訳したというのもなかなかのもの。擬音の性質やフキダシのスペースの違いによる苦労なども書かれていました。
そして、文中に現れている彼の日本のマンガへの愛情と、それを紹介したいという熱意には感動させられます。Zackさんの望むさがみゆきや諸星大二郎の翻訳も実現するといいですね。…しかし、さがみゆきってあのホラー漫画の人でいいのかな?日本の漫画ファンでも知らない人多いのでは…。

なかなか読めない貴重な記事だと思い、少し急いで紹介させてもらいました。ぜひ実物の方をお読みください。The Comics Journalはちょっと他とは違ったコミックの情報やレビューが読めるサイトで、日本のマンガについても一味違ったものが紹介されていたりもするので(Zackさんによるものかな?)知らなかった人はチェックしてみてはいかがでしょうか。

Confessions of a Manga Translator

The Comics Journal

2016年3月6日日曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第4回

なんだかんだでずいぶん間が空いてしまったのですが、イギリスの最新の犯罪小説作家45人を集めた注目のアンソロジー『True Brit Grit』、やっとのことで第4回です。あと2回、なるべく早くきっちりと終らせなければ。


■Geraldine/Andy Rivers

今日はBillyの誕生日だ。行きつけのいつものバーで祝う。俺とBillyはガキの頃からの親友だ。同じ学校に通い、いつも一緒だった。だが、奴は今はいない。酒も浴びるほど飲んで、女にもだらしなかった。いつも奴の女房にごまかして庇ってやった。だが、そんなことは大したことじゃなかった。しかし、ドラッグだけは違った。そして奴は変わり始めた…。
粗野な男の一人称で語られる、友情の悲しい末路。結末が独特の余韻を残します。Andy Riversはニューキャッスル出身の作家で、著作は前の第3回で書いたByker Booksから…と書こうと思って少し調べて彼自身のホームページを見つけて見てみたら、当のByker Booksが終わってしまうとの記事が…。イギリスの現在の犯罪小説の拠点の一つとして期待していたのですが、残念です。一応著作のリストは載せておきますが、いずれは無くなるかと思われますのでお早めに。

Andy Riversホームページ




■A Minimum Of Reason/Nick Boldock

ここも昔はいい町だった。だが時の流れとともにだんだんとさびれていった。奴らが来るようになってから事態はさらに悪くなってきた。あのモスクに出入りする奴ら…。だが今日からすべてが変わる。そうDoddsyは言った。そして彼Carlがこれからその一番重要な役を担うのだ…。
イスラム系移民への逆恨みによる犯行と、その皮肉な結末。さびれて行く町でサッカー観戦ぐらいしか楽しみが無く、不満ばかりたまって行くという感じが良く伝わる。阿部和重の『シンセミア』みたいな町を思い浮かべたり。Nick Boldockはヨークシャー出身の作家であちこちのアンソロジーやウェブジンに作品を発表しています。

Nick Boldockホームページ

■Dope On A Rope/Darren Sant

Pete Howellは橋からガソリンの浸み込んだロープで吊るされていた。なぜこんなことになったのだろう。彼は考える…。
前夜フレディー・マーキュリーをうたって浮かれていた青年が、何故町で一番凶悪なギャングの怒りに触れることになったのか?短めながらバイオレンスとユーモアのスパイスが効いた作品です。Darren Santはハル在住の作家。ハルというのはヨークシャーのハルの事でいいのかな?すみません、地理には暗いもので。イギリスに限らず…。Byker BooksのBest of British Crimeにも彼の作品があります。もう少し長いのも読んでみたい、これからが楽しみな作家です。
Bykers Books以外にも1冊イギリスのウェブジン発のパブリッシャー、Near To The Knuckleからの著作もあります。同名のアンソロジーも出しているところなのだけど、別のところのと勘違いしてて最近まで気が付かなかった。イギリス犯罪小説の拠点の一つとしてこれから注目して、もう少しよく調べます。

Darren Santホームページ

Near To The Knuckle




■A Speck Of Dust/David Barber

私は小さな部屋のテーブルの前に座って、Stilitsを待っている。奴の本名はKevin West。汚い金貸しだ。彼自身はパッとしない小男だが、いつも屈強な部下二人を従えている。だが、私にはその金が必要だ…。そして屈強な手下の手でドアが開けられ、Stilitsが部屋に入ってくる…。
意外な結末。果たして「A Speck Of Dust」だったのは誰だったのか。David Barberはマンチェスター在住の作家で、個人出版でいくつかの短篇をKindleで出しています。ホームページを見ると何も書いてないのだがやめちゃったのだろうか?とりあえずリンクだけは載せときます。

David Barberホームページ




■Hard Times - A Charlie Splinters Story/Ian Ayris

俺のオフィスはThree Rabbits。なじみの昔ながらのパブだ。今日はそこで依頼人と会う。電話の印象通り、60代と思しき男性だ。仕事の内容を言い難そうにしている彼に、ダチに協力してもらって作った俺の料金表を見せる。だが、彼の依頼はそこに載っていない仕事らしい…。
私立探偵(と思われる)Charlie Splintersを主人公とした短篇。それ程悪くは無いけど、ハードボイルドならもうひとひねり欲しいところというのは欲目か。Ian Ayrisは、ロンドン、ラムフォード在住の作家。あのCaffeine NightとNear To The Knuckleから1冊ずつ著作があります。後者はByker Books Best of British Crimeで出ていたものの再版。Charlie Splintersシリーズは見つからないのだけど、あちこちに沢山短篇も発表しているそうなので、どこかのアンソロジーに収録されているのでしょうか。

Ian Ayrisホームページ




■Never Ending/McDroll

Gemmaはドアをノックする。「警察です。開けてください。お尋ねしたい事があります。」応答なし。ここもか…。若い女性の連続失踪事件を捜査中のGemmaは成果なしのまま暑に戻る。そして、ミーティングの後、彼女にはさらにうんざりする事態が待ち構えていた…。
女性刑事Gemmaの活躍を描く、このサイズではうまくまとまった感のある作品。McDrollはスコットランド、アーガイル在住の女性作家。とても景色の良いところだそうです。『All Due Respect』にもたまたま拳銃を手に入れた落ちこぼれ2人組による騒動を描いた作品「never too old for fun」が掲載されています。どちらもユーモアのある会話などでキャラクターを身近に立体的に見せる上手さが光る作家です。短篇シリーズThe Wrong Deliveryシリーズなどを個人出版で発表しています。

McDrollホームページ




■Imagining/Ben Cheetham

私は、すべてをどう終わらせるか思い浮かべる。最初は花屋。ガソリンを撒き、火を放つ。私の結婚生活を破壊したこの場所がきちんと燃え上がるのを見届ける。そして、私はロンドンの中央に向かって歩き出す。かつての勤め先へ向かって…。
すべてを失った男の破滅的な狂気の行動が、一人称現在時制で淡々と語られ続ける。最後の段落がトンプソンの名作『内なる殺人者(おれの中の殺し屋)』の結末を思い起こさせたり。シェフィールド在住の作家Ben Cheethamは受賞歴もある作家とのこと。(何賞なのかよくわからなかった。)犯罪小説シリーズA Steel City Thrillerを4冊刊行中。なかなかの作品だけど、明らかに短篇用の特別なスタイルのようなので、長編ではどういう感じになるのか見てみたい作家です。

Ben Cheethamホームページ




■Escalator/Jim Hilton

6歳の娘Tanyaが家に帰って来るなり叫んだ。「パパ!Tommy Rawlingsがあたしのことひどく蹴ったのよ!なんにもしてないのに!」Alan Brooksは娘に駆け寄る。「Rawlingsのクソガキか!親子そろって救いようのないクズだ!」そしてAlanはクソガキへの制裁のため、家を飛び出して行く…。
子供の喧嘩に親が、というパターンがエスカレートして行き、最終的には陰惨なことになるブラック・コメディ。James Oliver Hiltonはイングランド北部在住の作家。ホラーシリーズThe Grand Grimoire3作と短篇集1冊の他、今年夏にはアクション性の強い犯罪小説らしいGunn Brothersシリーズ第1作『Search & Destory』が発売されるそうです。

James Oliver Hiltonホームページ




■Face/Frank Duffy

街で知り合った女性Kaitlinと深い関係になったJessicaは、彼女と2人で油田に働きに出ている夫Martinの殺害を謀るのだが…。
同性愛カップルによる夫殺害計画というストーリーなのですが、ノワール/サスペンスというよりはホラー傾向が強い作品。イギリス出身だけど現在はポーランド在住の作家Frank Duffyは、3作の著作がありますが、いずれもホラーのようです。

Frank Duffyホームページ




というわけで、『True Brit Grit』第4回もなんとか終了、残すところあと1回となりました。モタモタしているうちに英国期待の星Byker Books終了という残念な事態になってしまったり。とにかくは、残り1回きっちりと速やかに完成させ、早く本格的に現代英国クライム・ノベルの探索に臨まねばと思う次第であります。


●関連記事

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第2回

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回


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