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2015年6月28日日曜日

JET -蘇る美しき女戦士!アクションシリーズ第1弾!-

以前、まあ、自分の他にはこーゆーの気にしてる人いないだろうな、と思いつつ、俺んちだから好きなこと書くもんね、と書いてみたDestroyerシリーズなのですが、意外にもいくらか見てくれた人もいたようで、それならばと前から気になってチェックはしつつもなかなか手の出なかった、現代のパルプ・アクション方面にも手を広げてみることにしました。とは言っても読むのが遅い私の事なのでどこまで広がるかはわかりませんが。そんなわけでまず読んでみたのがこの作品。そちら方面では大変人気の高いRussell Blakeの『JET』です。


カリブ海に浮かぶトリニダード島。今日は祭りの夜。こんな夜に来る客もない。自身が経営するネットカフェを今日はそろそろ閉店にしようかと思うMaya。その時、背後からの突然の襲撃者のワイヤーが彼女の首にかけられる!屈強なプロの軍人。決死の戦いで襲撃者を返り討ちにしたMaya。だがなぜ?自分の所在は誰も知らないはず。そして、この自分が生きていることも…。

かつてMayaはモサドの暗殺などを行う秘密工作員だった。コードネームはJet。不幸な生い立ちながら、優れた身体能力や数々の才能を持つ彼女の行きついた先はそこだった。だが、平穏な生活を求めた時、多くの秘密を知る彼女に平和な引退は許されるはずもなかった。そして、ある破綻した作戦の最中、彼女は自らの死を偽装する。以来この遠く離れた誰にも知られるはずのない地で静かに暮らしていた。今日のこの時までは…。

もちろん襲撃者は一人ではない。チームを組んだプロの傭兵たちが次々と彼女に襲い掛かる。何故自分の生存・潜伏先が知られたのか?敵は何者なのか?追撃者を次々と返り討ちにし、彼女はトリニダード島を脱出し、ベネズエラへ。そしてさらにその先の世界に、蘇ったJetの戦いは繰り広げられて行く!


冒頭、何の説明もないままネットカフェの店番のお姉さんが襲われ、プロの軍人相手にすさまじい戦いを始めます。これが映画だったら、なんだか状況は分からんが、役の人がミッシェル・ロドリゲスだからなあ、とかぐらいで納得するぐらいの戦いっぷり。そこから時々挿入される回想などで、徐々に彼女の正体がわかって行くという展開になります。彼女の正体とかどの辺まで書いていいのかな、と思いながらAmazonの作品紹介を見てみたら1行目に元モサドの工作員とか書かれてたので、まあいいのでしょう。
序盤、次から次に現れる敵とバトルを繰り広げながら決死の脱出行に至る展開は、かなり迫力・臨場感があり読ませます。で、この手のストーリーとしては、序盤謎の襲撃から脱出、中盤は敵の正体を掴み、終盤は反撃、という展開になるわけですが、続く中盤はやはり少しペースダウン。とは言ってもまあ許容範囲のうち。そしていよいよ終盤反撃パートに入ると、まずJetがゴージャスな感じでモナコのカジノに現れ、あ、結局そういう方向に行っちゃうのかな、と個人的には少し心配させられたのですが、やがてアクションパートに戻ると、序盤に続く臨場感が戻ってきます。ここでふと、この人の書き方ってすごく迫力も臨場感もあるのだけど、ひたすらJetを追いかける感じになり、少しもっと広い状況が見えにくいかな、という思いが頭をかすめ、そこで気付きました。これはまさしくゲームのFPS(3人称だからTPSかな?)をやっている感覚!と言ってもただ撃ちまくって進んで行くというものではなく、きちんと敵を見極め戦略を立てつつ手順を正確に積み重ねて切り抜けて行く、という良質のものが再現されている感触がありました。そして激しい戦闘をくぐり抜け、怒涛の追撃!そしてついに敵のボスを追いつめると、大迫力のエンディングへとたどり着くのでありました。
この作品の作者、Russell Blakeの経歴を見ると、フリーのジャーナリスト、とかいうことで、ゲーム関係の仕事をしていた様子はありません。たぶんこういうものに触れながら育ってきた人が一番面白いと思う書き方をしたらこういう結果になったというものなのではないでしょうか。こういうものってこの人に限ったことではなく、もしかしたら現在このジャンルで多く見られる現象なのかもしれません。ちょっとこれからこのジャンルを読んで行く一つの指針になるかな、と思ったりもしました。ただし、これで洋ゲーのシューティングこそが現代のパルプだ!などという結論に飛びついてしまうのはつまらない。こういう小説にも、ゲームにもそれぞれの展開、未来があるわけですから。パルプジャンルにも『Blood & Tacos』みたいな動きもあるわけだしね。ゲームで例えるなら、それこそこれでもか!この野郎!とひたすら撃ちまくって進むぐらいの無茶苦茶なのが出てきてもいいと思うし。この手のを読むならまずこれかな、ぐらいで読んでみたのだけど、意外と面白い発見があった気分です。

これは結構長く使っている考え方で、自分のものみたいな気がしてるけど、元ネタは分からないけど多分誰かの受け売りなんじゃないかと思うのですが、アクション小説とエスピオナージュみたいなのを区別するとき、キャラと設定を剣と鎧の蛮族に置き換えても話が成り立てばアクション小説!というのがあって、それで行くともちろんこれはアクション小説です。アクション小説となれば、アクションの迫力・臨場感・スピード感などが優れていればいいわけで、エスピオナージュと読み違えて評価を下げてしまったりするのはもっての外なのですが、このRussell Blake氏もやはり少しはそちらの方に色気を出してしまって、中盤つじつま合わせとそっちの雰囲気作りで少しCIAとか出てくるところがあるのだけど、そこはちょっと余計。Russell Blake氏には「アクション小説家」としてアクションに特化したものをガンガン書いていって欲しいものです。

Russell Blake氏
さて、この作者Russell Blake氏についてですが、やはりこのジャンルにふさわしく、一番人気の10巻以上の作品があるこのJETシリーズを始めとして、アクションシリーズAssassinシリーズ、ハードボイルド・シリーズBlackシリーズなどいくつものシリーズを抱えながら沢山の本を出版しています。そして近年ではあのクライブ・カッスラーの共作者として2冊目の作品が間もなく出るところです。日本でもカッスラーの山ほどある”せよシリーズ”の1冊として、事実上のRussell Blake作品が出版される日も近いのかもしれませんね。

というわけで、とうとう手を付けてしまったこのジャンル。こういうものはどんどん読んでいってこそ意味があるものですが、いかんせんどうにも読むのが遅いところが悩みの種です。この『JET』にしてもそれほどひねりのない読みやすい文章でちゃんと時間を当てれば早く読めるはずなのだけど。この『JET』シリーズの続きも読みたいし、色々ある面白いのかわからないものにも挑み、いずれはまず私以外に手を出してみる人がいると思えない油を塗った筋肉表紙の作品まで進み、さすがにアブラマッチョだけは控えます…というぐらいの域に達してみたいものだと、今後も無意味な努力に励んでいこうと思います。

Russell Blakeホームページ


Russell Blakeの著作(多すぎるので一部シリーズのみ)
●JETシリーズ


●Assassinシリーズ


●Blackシリーズ


●Drake Ramseyシリーズ


●クライブ・カッスラーとの共作


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2015年6月21日日曜日

2000AD 2014年秋期 [Prog1900-1911, 2015]

2000AD 2014年秋期、Prog1900から1911と、クリスマス、年末特大号Prog2015です。相変わらずの半年遅れですが、これでなんとか2014年1年分をやり遂げることができました。それでは、まず今期のラインナップから。

 Judge Dredd
 Stickleback [Prog1900-1911]
 Kingdom [Prog1900-1909]
 The Grievous Journey of Ichabod Azrael [Prog1901-1910]
 Greysuit [Prog1901-1911]

今期はかなりの力作ぞろいでトップ画像はちょっと迷っていて、直前まで『Sticklback』か、と思っていたのですが、やはり続きのあるそちらよりは今期で最終回を迎えた『Ichabod Azrael』にしました。まあ、今期もいつものように途中から初見の作品もあったりもするのですが、わからない部分を置いておいてもかなり楽しめた作品が多かったです。

今期はProg1900という節目から始まるため、特別にデジタルでフリーのProg1900Previewというのが発行されました。まあ、今期の作品の解説的なものなのだろうと思い、今期のを読み始めるまで手を付けていなかったのですが、見てみると100ページ近くとずいぶんボリュームもあり、内容は約半分がJudge Dreddで、第1話と「Day of Chaos」を含むいくつかの代表的なストーリーの序盤を紹介したもので、後半はProg1900から始まる『Stickleback』と『Kingdom』の二つの作品の最初のシーズンの序盤数話が掲載されたなかなか豪華なものでした。まだアプリストアのFree Contentで読めると思うので興味があったら見てみてください。これが昨年秋だったので、来年2016年秋には2000号が発行されることになり、もっと大きなイベントが開かれることになるのでしょうね。

Judge Dredd

 1. Block Judge : John Wagner/Carlos Ezquerra (Part1-10)
 2. Mask of Anarchy : Alec Worley/Ben Willsher
 3. End of The Road : Alec Worley/Leigh Gallagher

今期の『Judge Dredd』は、1900号という節目にふさわしく、Dreddの産みの親ともいえるJohn WagnerとCarlos Ezaquerraの2大巨匠による全10話の大作「Block Judge」が掲載されました。近年の映画(やっと観た!)でも示されていたように、巨大都市Mega-City Oneの中の高層化された巨大な建物の中で暮らす人々にとっては、もうその建物が一つの町になっていて、その一つであるGramercy Heightsでそこを管理していたいわば警察署長であるBlock Judgeが死亡し、犯罪が横行し、荒廃したそのブロックを立て直すため新たなBlock JudgeとしてDreddが赴任して来るという話。Chaos Day以降の人員不足が続く状況で、Justice DepartmentからはDreddの他わずか2名のJudgeとサポート人員しか派遣できず、Dredd以下メンバーはほぼ不眠不休で働く。Dreddは様々なギャングの幹部たちを次々と微罪で逮捕して切り離し、組織の解体を図るのだが…。
オリジナル・コンビによる原点回帰のようなストーリーですが、きちんと現時点のMega-City Oneの状況下での話になっているのは、長年継続してDreddを書きつづけてきたJohn Wagnerならではのものでしょう。そして、Carlos Ezaquerra!以前Strontium Dogについて書いたとき(2014年冬期)あまりこの人についてよく知らなかったのですが、その後その長いキャリアについて知り、過去作なども見て、なるほど元々のこの人の絵柄のこの要素が純化されて老境に入り、この画に至ったのかと知ると、より一層味わい深いものがあります。何かが突き抜けてある種のユーモアを感じさせるタッチも素晴らしいのですが、この人の特徴はその独特のカラーリングにもあります。小学生の図工の時間に配色の知識のないままやってしまって描いている絵を恐るべきホラーテイストに変えてしまったあのグリーンとオレンジの組み合わせこそがEzaquerra師匠の18番!このDreddでもStrontium Dogでも小学生の図工の悪夢そのままのインパクトで迫力ある爆発シーンなどが描かれています。…と、またあんまり褒めているように見えなくなってしまったのですが、私はこの巨匠Carlos Ezaquerraの画が本当に好きでこれからも多くの作品を描いていってもらいたいなあと切に思うものです。このコンビによるStrontium Dog最新作は今年春期に掲載されており、また読むのを楽しみにしております。
2、3はそれぞれAlec Worleyによるワンショット。まだ短いページのDreddでもいいものが書けるな、と思わせてくれる作品でした。2は、反ミュータント的作風で人気を博すコミックのライターの作品の登場人物と同じ扮装の犯罪者が現れたことで、Dreddはそのライターの講演会に向かうが…。作画のBen Willsherは『Day of Chaos』でHenry Flintとともに活躍していたシャープな絵柄のアーティスト。3は、宝石店を襲撃した強盗犯が逃走中自動運転の観光バスに乗り込むが、そのバスは実は…。作画は夏期に掲載されていたローマの狂戦士が主人公のバイオレンス・アクション『Aquila』のLeigh Gallager。

Stickleback/The Thru' Penny Opera

 Ian Edginton/D'Israeli
『Brass Sun』のIan Edgintonと非常に個性的な白黒のもはやアートと呼ぶしかない素晴らしい画風のD'Israeliのコンビによる架空の19世紀ロンドンを舞台とした、背中から背びれのように異様な金属の構造物が突出し爬虫類のように動く異相の暗黒街の顔役である怪人を主人公とする作品。2000ADでも結構長く続いているシリーズのようで、単行本も2冊発売中です。私はこのレポートを始める前、読み始めたばかりの2000AD2013年春期にこの作品の前シーズンを読んでいます。前シーズンは主人公の怪人Sticklrbackが死から蘇らせられ、その代償としてロンドンの地下で遺伝子操作により育成されていた恐竜の群れが施設を破壊し脱走した事件の解決を任されるというストーリーでした。その時は蘇生されたばかりで昔のコネを頼りながらほとんど孤軍奮闘のSticklebackでしたが、今シーズンでは組織も立て直され、再び暗黒街の顔役に返り咲いています。
ロンドンで起こったおぞましい儀式殺人におびえる住民からの頼みで、Sticklebackとその配下は事件の調査に乗り出す。しかし、その裏には人ならざる地獄の三姉妹の恐るべき企みが動いており、ロンドンは壊滅の危機にさらされる…。
ストーリーも画も大変素晴らしい注目のシリーズ…なのですが、これ少し難しくて読むのが大変です。あまり正確な例えではありませんが、日本語勉強中ぐらいのまだ不慣れな外国人が丸尾末広あたりを読むのを想像していただけると。まあでもそういう人と同様に、これは絶対読みたい!としがみついているのですが、やはりある程度ストーリーが軌道に乗ってくるまでは少し時間がかかって、それで多分また1週分ぐらい遅れてしまったかも。
そのように色々あってもやはり大変素晴らしいこのシリーズなのですが、そろそろ次シーズンで最終回を迎えそうな気配です。今シーズンの冒頭で、そのSticklebackの異相が実は変装であったことが示され、シーズン最後にはその意外な正体が明らかにされます。さて、この人物が壊滅に瀕したロンドンでいかなる活躍を見せるのか、次シーズンに期待です!

Kingdom/Aux Drift

 Dan Abnett/Richard Elson
「これはGene The Hackmanがいかにして王国を見つけたか、についての物語である。」
遥かな未来、巨大な昆虫たちが徘徊する危険地帯に変わってしまった世界が舞台の物語。主人公は犬から遺伝子操作で単なる二足歩行というよりはほぼ人間に近い姿にまで改造された戦士Gene The Hackman。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の原作者としてもクレジットされているDan Abnettによる2006年から続くシリーズで、これが第5シーズンになるようです。主人公Gene The Hackmanは、シリーズ開始当初は、「主人」が眠っているとされる地を守っていましたが、現在は新たな主人を求めて仲間の舞台とともに旅を続けています。
巨大な昆虫の群れと闘いながら荒野を移動し続けるGeneたちは、複葉機を操縦する犬人間と人間の女性に出会う。”王国”から来たという二人の目的地は、その近くにある採掘地Aux Driftだった。二人とともにAux Driftに向かったGeneたちはその地も昆虫たちに襲われ危機に瀕しているところに出会う。採掘地の守護隊に合流し、Aux Driftを守り戦うGeneたちだったが、そこにさらなる脅威が襲い掛かる…。
2014年1年間ぐらいのスパンで考えて、他にも『Sinister,Dexter』、『Grey Area』といった彼の作品を2000AD誌上で読んできて気付かされたのは、Dan Abnettという人は本当に優れたある種職人的なエンターテインメントの作家なのだな、ということです。時々は少し難解だったり、設定が分かりにくかったりもする2000ADの作品群の中で、彼の作品は常にとても分かりやすく楽しめるものでした。この『Kingdom』にしても、あらすじを説明しようと思ったら実はよくわかってなかったことも多かったりと気付いたりしたのだけど、読んでるときはあまりそこに引っかからず今シーズンのストーリーの流れだけで楽しく読むことができました。普通に読んでしまうけど、そこにはそう読ませるだけのなかなかのテクニックもあったりするものです。確実に面白いものが書けるなんて本当は一番難しい事ですよね。Pat MillsやJohn Wagnerといった作家性の強い人と並ぶと少し後ろに見えてしまったりするけど、そういうことも考えて、今後はアメリカでの作品も含めてDan Abnettにはもっと注目していきたいものだと思います。この作品に関しては、あまりキャラクター同士の確執というものも無く、とにかく出会って共闘し、ある者は倒れながら強大な敵に向かってゆくという燃えるストーリー。また次のシーズンが楽しみです。

The Grievous Journey of Ichabod Azrael/One Last Bullet

 Rob Williams/Michael Dowling
冷酷非情なガンマンIchabod Azraelが暗殺される。だがそれは終わりではない。新たな始まりだった。こうしてIchabod Azraelの新たな死後の世界の旅が始まる。異色の、というか他にはこんなジャンルないだろうと思われる死後の世界ウエスタンです。たぶんこれが第3シーズンで、最終回となります。これが読むのは初めてとなりますが、第1回は2000ADアプリショップのフリーで読めるBumper Sampler Issueに入っていました。今回最終シーズンは、色々あった後、Ichabod Azraelが神を殺すために旅立つところから始まります。
彼を欺き、惑わせる者たちを倒し、河を渡ったIchabodがたどり着いたのは荒野の中の小さな町だった。その町で暮らしていたのは全て生前彼が冷酷に殺害した者だった。彼らはIchabodを捕縛し、絞首台にかける。だがその時、Ichabdを追跡していた異形のモンスターHunterが町を襲い、住民を殺戮し始める。Ichabodは町を守るため銃をとるのだった。そして一方、そんなIchabodを遠くから見守る謎の女性の正体は?
死後の世界ストーリーではありますが、ウエスタンなところがポイント。超常的ウエスタンという感じの話でした。かなりダークな話だろうと思って読み始めたのですが、結構ユーモアもあったり、かなりのスペクタクルシーンもあって最後はハッピーエンド。終わってみると、ジョニー・デップ主演でジェリー・ブラッカイマーがハリウッドで映画化できるぐらいの感じのエンタテインメント作品という感想でした。
Rob Williamsは2000ADでも色々な作品を書いているライターだけど、本格的な作品を読むのはこれが初めてだと思います。Michael Dowlingもちょっと見た覚えがないのだけど、現世のシーンは上の画像のような結構繊細なカラーで、あの世のシーンは少しラフな線のモノクロと描き分けていてどちらもそれぞれの方向で優れている実力のあるアーティストです。この作品も『Brass Sun』、『Aquila』と同様に、現在2000ADからIsuueの形で分冊でまとめられていて、多分年内中ぐらいに単行本にまとめられることになるのだろうと思われます。

Greysuit/Prince of Darkness

 Pat Mills/John Higgins
巨匠Pat Millsの代表作のひとつ…というほどではないだろうけど、近年力を入れているシリーズの第3シーズン。Greysuitとは洗脳などの手段により身体能力を飛躍的に強化されたエージェントを使い、”国益”に反する者を暗殺する政府の秘密組織。あくまでも国益なので、道義的に正しくない場合もあるわけだが、このGreysuitは特に道義的に正しくないことを正しくない手段でやる組織のようです。これも初見なのでこれまでの経緯はやはりよくわからないのですが、主人公のGreysuitのエージェントであるJohn Blakeが洗脳が解け、組織の行動に疑問を持ち敵対行動に出たところを捕獲されたという流れのようで、John Blakeが組織の施設で再洗脳され、有能なGreysuitのエージェントとして復帰するところから始まります。
若き大富豪通称Princeは経営する警備会社で雇った傭兵を各地の紛争地域に派遣し、国益に資するところの多い人物である。だがその一方で人格的には最低の人物で、数多くの犯罪行為を犯し、それを財力と政府との強い繋がりにより訴追を免れている男でもある。実はBlakeと彼はかつての同窓生で、少年時代からも衝突が絶えなかったのだが、現在は洗脳によりそれらの記憶はBlakeにとって無意味なものになっている。元警官のMarsdonもそんなPrinceの正体を知り、憎む人物である。彼の行動が邪魔になり、暗殺が決定されGreysuitからBlakeがそのテストも兼ね、派遣されてくる。だが、Marsdonの発した一言が引き金になり少年時代の記憶がよみがえり、Blakeの洗脳が解ける。そして、BlakeのGreysuit、Princeへの報復が開始される!
Pat Millsの作品のあらすじを書こうとすると、少し長くなり、書きすぎたかな、と思う時があるのだけど、それは2000ADで長く書きつづけている彼が、短いページの組み合わせでストーリーを進める上でかなり多くの屈折点を配置できるテクニックゆえの事かなと思います。全体を俯瞰するとそれほど複雑なストーリーではないのだけど、それぞれのポイントを押さえないと全体が見えないという感じ。まあ結局はPat Millsって上手いんだよねということです。作画John Higginsは『The Boys』でも少し描いていてその時少し触れた人ですが、イギリス2000ADでは結構キャリアもある人のようですね。『The Boys』の時は線の細さが気になったのだけど、この作品では影とのコンビネーションも悪くないいい線が使えているように見えました。『The Boys』でも特にインカーのクレジットも無かったのでどちらも本人によるものだと思うのだけど、線の好みが変わったのでしょうか。絵は上手いのだけど、やはり若干動きが硬いように見えるのだけど、まあこの作品にはあっているのかな。

というわけで、Prog 1900-1911はここで終了。続いてクリスマス・年末特大号のProg 2015についてです。

Prog 2015

毎年年末12月の前半に発売され続く2週は休みになる100ページの特大号です。次シーズンの第1回と読み切り作品という構成で、今回はその読み切り作品の方について少し解説します。

The Visible Man/The Screams in the Wall
 Pat Mills/David Hitchcock
元はPat Millsによって78年頃に少しだけ書かれた作品の続きのようです。復活の予定があるのでしょうか。Visible Manというのは何かの実験で皮膚が透明になり骨格や内臓が透けて見えている二人の少年と少女ですが、どういう能力があるのかはよくわかりませんでした。逃亡中の2人がダンウイッチの崖っぷちにある廃屋に逃げ込むが…という話。ダンウイッチとか、2人が異星人スターマンに指示され動いているようだとか、明らかにクトゥルー物のようです。なかなかいい感じの不気味なホラーで続きが書かれるようなら読んでみたい作品です。

Jaegir/Brothers in Arms
 Gordon Rennie/Simon Colby
2014年の新シリーズでの一番のヒット作が登場。Jaegirの子供時代から成長期に至る、ともに軍人の道を進んだ兄弟たちとの追憶が語られます。ここで、Jaegirの母親が敵Southerであることが明らかにされます。その出自ゆえ兄弟の中でも疎まれ続けながら成長したJaegir。そして、やがてその兄弟たちも戦火の中で倒れて行く…。2015年にはストーリーも本格的に進むと思われる期待のシリーズです。

Low Life/The Really Big Christmas Sleep
 Rob Williams/D'Israeli
ここで今期の注目作の2人による異色シリーズのワンショットが登場です。私はまだこれが初見ですが、しばらく続いている作品の様子。かなりの異色作ですが、一応Judge Dreddのスピンオフ作品です。Mega-City Oneで潜入捜査に当たるJudge、Dirty Frankが主人公ですが、長期に亘る過酷な状況での潜入捜査のため、少し精神的にもヤバくなっている人です。不眠に悩むDirty Frankの同僚の潜入Judge、Nicky Nakoは大変頼りになる男ですが、彼も逆のどこでも突然に眠ってしまうという睡眠障害を抱えた人物。クリスマスの夜、そんなFrankが懸念する調査をNickyが代わり、ゆっくり眠れよ、と言い残して去るのだが…。D'Israeliの画はやはりモノクロで個性的ですが、『Stickleback』よりは見やすい普通の画で描かれています。こちらも再登場が待たれるシリーズです。

Max Normal/No Comics for Old Man
 Guy Adams/Ben Willsher
今回の中で唯一シリーズ物の単発ではない作品。だと思います。Max Normalは『Judge Dredd』の中で時々登場するDreddの情報屋です。クリスマス、Maxは街で物乞いをしている昔なじみの猿ミュータントを見かけ、酒をおごってやる。かつてはコミックの出版を手掛けていた猿ミュータントだが、その後町のギャングにコミックを奪われ、その後ギャングが逮捕されたときにそのコミックも押収されたままになっているということ。Chaos Day以後見捨てられたままになっている証拠保管庫にコミックを取り戻しに行くのに手を貸してほしい、とMaxに頼むのだが…。Guy Adamsのストーリーも悪くないけど、なかなかの作品になっているのはやはり今期の『Judge Dredd』でも触れたBen Willsherの卓越した画による功績が大きいでしょう。

Judge Dredd/The Ghost of Christmas Presents
 Michael Caroll/Karl Richardson
この号では『Judge Dredd』はまず巻頭に次シーズンの第1話が掲載され、巻末にこの読み切り作品が掲載されている2本立てになっています。クリスマス、犯罪組織のベテラン幹部Titus Axleは、抗争中に受けた頭部の傷が原因で急に良心にさいなまれるようになり、組織を抜け、今までの悪事をすべて告白することを決意するのだが…。ライターMichael Carollによる、春期の「Traumatown」の事件の影響であったことが最後に語られます。こうやってライターが自身の作品同士でつながりを付けて自己主張するのも、多くのライターが手掛ける『Dredd』のような作品ならではの事ですね。

その他、2000ADクイズという企画もありましたが、まだまだ初心者の私には少し難易度が高すぎました。Judge Dredd2本立てに、Jaeir、その他にも興味深いシリーズのワンショットが色々と掲載され、なかなかに充実した特大号でした。
次期は、Judge Dreddに遂にあのJudge Deathが再臨!巨匠Pat Millsの今度は代表作の一つ、Savageが登場。そして、2014年冬期の問題作、Guy AdamsによるUlysses Sweetが復活。などの楽しみな内容となっております。

えー、というわけで頑張るぞ、といった矢先に色々書きたいことが多かったり、巨匠Ezaquerra師匠の話が長くなったりで結局また1週引っぱることとなってしまいました。今週からこそはまた毎週更新を目指し頑張りますので、またよろしく。



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