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2015年4月26日日曜日

The St. Paul Conspiracy -刑事McRyanシリーズ第2作-

以前時系列的には最初の作品となる中編『First Case』を読んでの感想で、ちょっと自分的にも中途半端で歯切れの悪い感じになってしまって、なるべく早く長編の方を読む、と言っていたRoger Stelljesの刑事McRyanシリーズ第1長編『The St. Paul Conspiracy』をやっと読みました。時系列的には2番目になりますが、書かれたのはこちらが先で、Roger Stelljesのデビュー作です。

では前回の繰り返しになりますが、まずはMcRyanのキャラクターから紹介しましょう。

Michael McKenzie "Mac" McRyanは、ミネソタ州セント・ポール警察の殺人課の刑事である。彼の家系は代々の警察官一家。亡くなった彼の父親も、有能な殺人課の刑事だった。彼自身は、ハイスクール時代のホッケー選手としての活躍が認められミネソタ大学に進学しさらにロースクールへ、と弁護士への道を進む。同じく弁護士を目指す大学時代の恋人とも結婚、大手弁護士事務所への就職も決まったある日、やはり警察官になっていた2人のいとこの殉職の悲報が届く。Macは自分の進むべき道に気付き、弁護士への道を捨て、故郷セント・ポールに戻り警察官への道を進み始める。

…と、前回の文章を丸々コピーですが、その後、弁護士という成功の道を捨て警察官になったことに不満を持つ妻とは離婚することになり、その経緯は『First Case』の中で描かれます。セント・ポールはミネソタ州の政治の中心地であり、今作からはそちらも大きく関わってくるようになります。


ハロウィンの夜、TVの人気女性レポーターが自宅で絞殺される。翌朝発見者のハウスキーパーの通報を受け、McRyanは現場へ急行する。折りしもセント・ポール市内では連続レイプ絞殺魔による犯行が続いており、犯人逮捕にこぎつけられない警察への行政、マスコミからの圧力は高まっていた。なんとか実績を挙げたいと願う市警察上層部は、まだ若手ながらその能力を大きく評価するMcRyanに事件を担当させることを決定する。

捜査を始めたMcRyanはすぐに殺害されたレポーターClaire Danelsが、上院議員Mason Johnsonと関係を持っていたことを知る。死亡推定時間のまさにその時、彼がClaireの住居から出てくるところも目撃されていた。政治絡みに拡大して行く事件に、地方検事局などの思惑も複雑に絡み始める。だが、すべての証拠がJonson上院議員を指す中、McRyanは微かな違和感を感じ始めていた…。

そんなMcRyanたちの捜査を影から覗ういくつかの目があった。謎の”ボス”の指示で動くコードネーム”毒蛇”ら数人のグループ。実はすべての犯行は彼らの手によるものだった。彼らの目的は何か?そして、その背後でいかなる陰謀が進行しているのか?


まず、私はこの本を楽しく読んで、キャラクターなども結構気に入っているということは最初に書いておきます。どうもちょっと否定的なことを書いたり、否定的ととられかねないような文が続いたりしますので。
まずは少し気になったことから始めると、あらすじ紹介の中でネタバレに見えるようなことを書いてしまっていると思った人もいるかもしれませんが、実はこの作品、まず冒頭で謎の”毒蛇”がClaireを殺害する犯行の様子から書かれていて読者にはあらかじめこの事件が上院議員の手によるものではないことが示されているのですよね。こういう主人公の視点と別に謎の犯人の視点が交互に出てくるという手法はよく見られるのですが、これが効果的なのは主人公、あるいはメインのストーリーがその犯人を素性・所在は分からないままでもきちんと追っている場合や、あるいは最初はまったく関係ないように見えて次第につながりが見えてきてどこでその流れが主人公のストーリーと交錯するのか、と思わせる場合などがあると思うのですが、この作品ではそれがうまく作用していないように思われます。この作品では、その後も度々”毒蛇”が暗躍するのですが、かなり後半になるまで捜査当局はそのような存在がいることに全く気付かないという状態で進み、それが逆にサスペンスを削ぐような形になってしまっています。ストーリー自体の欠陥というよりは、その手法を選択してしまったゆえの結果で、そこは少し残念に思いました。
それからこれはそれほどの欠点というほどのものではないのですが、暗躍する”毒蛇”はずっとあるものを捜索しているという状況が続くのですが、作者Roger Stelljesは多分長年のミステリー小説・ドラマなどのファンなのでしょうが、サービスとしてのルールに忠実で、その隠し場所は割と最初の方から示されていたりするのですが、あまり引っ張られるとしまいには「志村!うしろ!」みたいな気分になってきてしまいます。まあこの辺はデビュー作ゆえの愛嬌と見るべきでしょうね。

そんなわけで序盤辺りは少し乗りにくい感じはあるのですが、中盤もう一つの事件連続レイプ絞殺魔をMcRyanを中心とする刑事たちが追いつめてゆく辺りはかなり読みごたえがありました。また、終盤の映画やTVドラマを思わせるような追撃シーンはスピード感もあり迫力満点でした。全体的にはとても楽しく読めた小説でした。

このシリーズ、感想の中でもちょっとその方向で書いていたように、ハードボイルドといっても「チャンドラーの衣鉢を継ぐ」などというよりは、TVとかで見た刑事探偵ものみたいなのを書きたいなあという方向の作品だと思います。でも私はそういうのが悪いとは全然思わなくて、そういう観念的なことは団塊世代の気難しがり屋先生あたりがどっかで勝手に踏ん張っていればいいので、こっちとしてはむしろコジャックやジム・ロックフォードやナッシュ・ブリッジスや工藤俊作の衣鉢を継ぐシリーズがどんどん出てきて楽しませてくれるといいなと思うのですよね。この小説はTVドラマのように、悪い奴らがすべて綺麗に一掃されて終わります。最後にかっこいいMcRyanのテーマみたいなのが流れるのを思い浮かべながら読み終わるのがいいですね。

この作品は米Amazonのkindle Storeでハードボイルド・ジャンルでも販売されていたので私はハードボイルドとして書きましたが、まあ日本では今はそちらの方が受けが良くてジョー・ネスボのハリー・ホーレあたりでもそのレッテルで出ているわけだし警察小説ということになるでしょう。このMcRyanはボッシュや鮫島のように警察内に敵だらけということはなく、上層部から現場の刑事までみな一丸となって捜査に挑み、今後もパートナーの老Dick Lichを始めとする同僚刑事の面々との楽しいやり取りが続いていくことでしょう。また、この作品から登場する女性検事補Sallyとの恋の行方も楽しみ。と、お約束で書きましたが、まあそういうことに縁のない私ですので本音を言えばそんな場面まで辞書を引きながら読むのはかったるいのでどうでもいいです。この作品中でも少しほのめかされていたようですが、名刑事であったMcRyanの父の死の真相についてもこれから書かれてくると予想されます。あと、弁護士である別れた元奥さんも今後敵として再登場するのではないでしょうか。などと今後の展開もいろいろと楽しみなシリーズです。

ミネソタ州在住の作者Roger Stelljesは、その後も本業の弁護士を続けながら昨年7月にはシリーズ第5作『Fatally Bound』をきちんと発表しました。えらいなあ。現在は引き続き次作を執筆中とのことです。前にも書いたけどこのシリーズを読み始めようと思うなら、中編『First Case』とこの『The St. Paul Conspiracy』、次の『Deadly Stillwater』がセットになった『First Deadly Conspiracy Box Set』がお得ですよ。

Roger Stelljes公式ホームページ


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