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2017年4月23日日曜日

Transmetropolitan Vol. 1: Back on the Street -Warren Ellis入門-

今回はかの有名なウォーレン・エリス/ダリック・ロバートソンによる名作『Transmetropolitan』です。以前から言ってるように、あんまり有名作をやるのは気が引けるのだけど、ウォーレン・エリスと言えばこれを避けては通れないわけで、今後ウォーレン・エリスについて語るならこれがどんな作品かわかるぐらいにはしておかなければ、ということで今回はウォーレン・エリス入門という感じでやってみようと思います。

ではまずウォーレン・エリスという人のキャリアについて。1968年イギリスのエセックス生まれ。1990年頃からコミックのライターとしてインディペンドな雑誌で活動を始めたということです。ジャッジ・ドレッドなどの仕事もあるそうなのだけど、あまり2000AD方面では目にしたことがないので、それほどは多くないのだろうと思います。アメリカでの仕事は1994年からで、まずマーベルから始まり、その後DCへ。この辺の初期のものとしては『Stormwatch』から『The Authority』というところが有名なのだが、ちょっとまだそっちの方には手を付けておりません。そのあたりを経て1997年からVertigoで始まったダリック・ロバートソンとのコンビによるオリジナル作がこの『Transmetropolitan』というわけです。

そしてこの『Transmetropolitan』、いかなる物語なのか。主人公はSpider Jerusalem。いかなる権力にも屈せず、真実と正義を貫く、エキセントリックかつちょっとダーティーな一匹狼のジャーナリスト。しかし、物語の冒頭、あまりにも各方面に敵を作りすぎた彼は、いつか殺されるというパラノイアに取りつかれ人里離れた山奥の家で隠遁生活を送っている。しかし、23世紀の未来でもそんなことでは文明から逃れられない。そして電話が鳴る。「おい、Spider、そんなところで何やってる、契約を忘れたか?本の契約だ!お前は2冊の本を書く契約をしてるだろう。お前が離れたところから政治について書けないのはわかってるだろう。今すぐオレのオフィスに来い!」とうとう山を下り、俗世間に戻る時が来たか…。Spiderは身の回りのガラクタを片っ端からオンボロ車に積み込み、山を下りる。風景は山から猥雑で混乱を極める未来都市へ。そして交通渋滞で身動きが取れなくなった車を見捨て、屋根を歩いて新聞社に到着する。向かうは編集者Mitchell Royceのデスク。よし、やってやろうじゃないか。だが今は俺は無一文だ。まずは当座の金とアパートを用意しろ。仕事?よし、やってやろうじゃないか。このSpider Jerusalem様が週一本の特上のコラムを書いてやるぜ。こうして何物をも恐れぬジャーナリスト、Spider Jerusalemは堕落した未来都市のストリートへと戻るのだった。
さしあたってはシティに新たなねぐらも得たSpider。早速行ってみると…、まあ予想通りの廃屋に近い代物。しかし備え付けのユーティリティー・コンピューターも作動する。髪も髭も伸び放題でホームレス・ライクな風貌のSpider。まずはシャワールームでとりあえずきれいにしろ、と命じると髭はおろか髪まで全部なくなりスキンヘッドに。次は服だ、と告げると一緒に出てきたのが左右形も色も違うサングラス。こうして一度見たら忘れない独特の風貌のSpider Jerusalemファッションの出来上がり。さあ準備は万端整った。いざネタを求めて23世紀の未来都市へ!

以上、この常に不敵な笑いを浮かべながら毒舌をばらまきシティを闊歩する最高にかっこいいハードボイルドなヒーロー、孤高のジャーナリストSpider Jerusalemが未来都市の真実を暴き出す、というのがこの『Transmetropolitan』のストーリーです。ではそのVol. 1: Back on the Streetに収録の第6号までのストーリーをざっと紹介しましょう。

Spiderがジャーナリストとして街に復帰するまでを描いた第1号「the summer of the year」のラストから始まり、第2号「down the dip」を経て第3号「up on the roof」まで続くのが最初のストーリー。シティの短期滞在の異星人たちのコミュニティで不当な扱いに対する抗議行動が起こり、緊張が高まっていた。そのリーダーはSpiderの昔馴染みの異星人との混血Fred Christ。早速取材に向かうSpiderだったが、何かその背後に不可解な動きを感じる。そうこうしているうちに抗議行動は遂に暴動に発展してしまう…。
暴動で閉鎖された地区に潜り込み、ストリップ・バーの屋根の上に陣取り、沸騰する街を見晴るかしながらこの暴動の真実を伝えるコラムをキーボードに打ち込み続けるSpider。そしてその届いてくるコラムをデスクRoyceはリアルタイムでニュース・リールに流す、というクライマックスのシーンは最高に格好いい。こうしてこの物語のヒーロー、Spider Jerusalemは我々の前に華々しいデビューを飾ったのでした。

第4号「on the stump」。Royceからアシスタントを送ったぞ、との連絡。要するにちゃんと毎週コラムを書かせるための見張り役なのだが。追い返す気満々で出迎えると、現れたのは前回のストリップ・バーにいた女の子の一人。Channon Yarrow、ストリップの方はアルバイトでジャーナリストを目指し勉強中とのこと。この後から彼女もアシスタントとしてSpiderとともに毎回登場のキャラクターとなります。役割としては破天荒で出鱈目なSpiderに対するツッコミ役。そして今回は彼女を率いてシティの庁舎へ乗り込むSpider。トイレで市長を発見し…。

第5号「What Spider Watches on TV」。TVの前に陣取り、今日は一日シティのTVについて調査するぞ、と宣言するSpider。そんなことしたら頭おかしくなるよ、とChannonにも言われるが…。未来のTVのかなり狂った放送が次々と描かれるが、当時すでに始まっていたアメリカの多チャンネルTV文化に対する風刺の部分も多いのでしょう。

第6号「God Riding Shotgun」。頭にアルミフォイルで作った輪を被り、付け髭、白装束と「神」のコスプレ姿のSpider。今日はシティの宗教について調査するぞ!彼氏との関係に悩むChannonを連れてSpiderが向かった先はカルト宗教のコンベンション会場?宗教が身も蓋もなく完全に商業化してしまった未来社会なのだが、これも現存の宗教が利益と切っても切り離せなくなってしまっている一方で、様々なものが「宗教化」して行く現代に対する風刺なのでしょう。

というわけでかの有名な『Transmetropolitan』、そのTPB第1巻Back on the Streetについて、ざっとですが解説を試みてみました。なんとなく雰囲気ぐらいは伝わりましたでしょうか。
ここで一旦共作者であるダリック・ロバートソンの方について。なんだかウィキペディアにも本人のホームページにもちゃんとした年とか書いて無くてはっきりしないのだが、コミックの仕事を始めたのはまだ学校に通いながらの17からという早熟。21歳からマーベル、DCなどで仕事をはじめ、数年後MalibuやAcclaimといったところの仕事でエリスと出会ったらしい。そこで俺の狂ったイメージを描けるのはコイツしかいない、とエリスに認められ、当時DC傘下のSFコミック部門として立ち上げられたHelixから出版されたこの『Transmetropolitan』のアーティストとして起用されたということです。(現在はVertigoから発行。)この作品はロバートソンにとっても出世作というところでしょう。初期という時期に当たるだろう当時からダークで狂ったユーモアのにじみ出る画風で描かれたイカレた未来世界と個性的なキャラクターは本当に素晴らしく、『Transmetropolitan』の成功もロバートソンの作画あってのものとも言えるところでしょう。
そしてウォーレン・エリスなのですが、なーんだかとてもタイミングよく先週の初め頃The Gurdianにインタビューを含むエリスの記事が掲載されておりました。内容としてはトランプ時代に見る『Transmetropolitan』みたいなところもあったりで、できればそちらも読んで私の拙い解説を自分で補完していただければと思います。(The Gurdian : Warren Ellis: 'Now everything is insane and I’m loving it')
とちょいと他人様任せで荷を軽くしたところで、その後の経歴を簡単に書くと、この『Transmetropolitan』は1997年から2002年まで続き、それからはまたヒーロー系の仕事で多く活躍。DCでは有名な『Planetary』があったりVertigoでも色々出しているけど、マーベルの方が仕事が多そう。Xメンとかアイアンマンの映画の『3』の原案のやつとか。まあそっちの方は詳しい人もいるでしょうからそっちで聞いてください。またその一方で映画化された『Red』をはじめとするオリジナル作も、Vertigo、Image、Avatarなどからも多数出ていて、割とTPB一冊ぐらいの読みやすいのも多いんで、自分としてはそっちの方を色々と読んで書いて行ければと思っています。それから小説の方では2007年に『Crooked Little Vein』、2013年に『Gun Machine』とこちらの好物の犯罪物を書いているので、そちらについては一刻も早く読まねばと思っているところ。小説最新作は去年の秋に出た『Normal』でいいのかな?こちらはテクノスリラーということらしい。基本的には気取ったお利口ぶりの読むジャンルであんまり近寄らないけどエリスのならいずれ読まねば。あと、前述のThe Gurdianの記事でも少し触れていてくれて嬉しかったのだけど、以前に書いた『Dead Pig Collector』は本当に素晴らしい傑作ノワール短編なのでみんな読んでねっ。そして最近のものとして注目はImage Comicsの『Injection』、『Trees』というところか。『Trees』の方はTVシリーズ化も進行中ということらしいです。TVと言えばNetflixで日本でも注目している人も多いだろうあの『キャッスルヴァニア』の脚本を担当。あともうエリス担当のは終わっちゃったみたいだけどDynamiteの『James Bond』も早く読みたいなあ、などなど各方面で活躍中の大作家ウォーレン・エリスなのですが、まずこれぐらいの代表作である『Transmetropolitan』が翻訳はおろか、なんか手ごろな情報もあまりないというのは大変困った事態なのではないでしょうか。実際私も読むまでどういうもんだか全然わかんなかったし。そんなわけであんまり手ごろではないでしょうが、少しでも情報が増えればと今回私なんぞがやってみたわけでした。んー、やっぱり『ナルト』ってゆー面白いマンガがあるんですよ、って言ってるような気分なのだが…。まあ日本でも最寄りのバス停まで歩いて2時間ぐらいの辺境に住んでいてネットだけが頼りという人もいるだろうからそんな人のお役にでも立てればいいか…。

とりあえずこんな感じで始まった『Transmetropolitan』、最初は少し長めのストーリーとなっていますが、その後は一話完結でシティの様々な側面を風刺的に描くという展開になっています。しかし話も進めばまた少し大きな物語も描かれるようになってくるのではないかな、と予想されるところ。とりあえずのところは当方としては他に書かねばならんことも多いので、このシリーズに関してはこんな感じのですよー、という紹介ぐらいで終わるつもりですが、いずれ読み進めるうちにこれについては書かなければ、と思った時にはまた登場ということもあるかもしれません。こういうのってちゃんとしておかないと後々うまくいかなくなったりするもので、例えば『Chew』なんかは本当はもっと何度も書いてこれはすげー面白いんだぞってしつこく訴えたいところもあるのですが、最初大雑把にやりすぎて書くんだったらまた最初っからやらなきゃなあみたいになってそのままになっていたりするのですよね。このチャンスについでに言っときますが、『Chew』(Image Comics)って日本のマンガとして出てたら年間ベストワンに選ばない奴はバカぐらいにめちゃめちゃ面白いコミックで読まないと損するよん。少し話はそれたがウォーレン・エリスさんの方なのだが、実はAvatarの『Black Summer』というのを読んでてそれについて書こうと思ってるうちにちょっとこっちやっとかないとうまく話し進められんかなと考えて今回のをやったという事情もありまして、次回はその『Black Summer』!…のつもりだったのだけどなかなか書く方もはかどらない昨今の私的事情ゆえ、小説の方のことも書かねばならんので、そちらについては次々回ということにさせていただきます。やっぱねえ人生先何があるかわからんもんで。歯医者とか。ということで少し先のウォーレン・エリスをお楽しみに。あっ、そういえば『銀魂』ってマンガがあるんだけど知ってる?



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