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2014年10月5日日曜日

Mind Prison / Just so You Know I'm not Dead -短篇(集)2本立て-

ほぼ毎日近く米Amazon.comのハードボイルド/ノワールのランキングをチェックしている私のような変人はよく無料本も見つけては入手しているのですが、そんな中には結構気になっている作家の短篇なども見つかったりします。短篇1本とかではブログのネタにならないな、と思って後回しにしていたのですが、2本まとめれば形になるかな、と思い付き今回やってみることにしました。

Mind Prison / Dave Zeltserman 

Graham Winston博士は新しい犯罪者収容プログラム開発の責任者である。彼が開発中のプログラムとは、刑期の間囚人を冬眠状態に置きバーチャルリアリティで厚生を図るというもの。刑務所の運営費用も下がり、再犯率も下がるという一石二鳥の仕組みだ。お馴染みの人権論者が騒ぎ立てているが、この計画はもはや止められない。今日は重要なプレゼンテーションの日だ。しかし、彼にはもっと重要な約束があった。後を助手に任せ、彼は若き愛人、美しいロシア女性のSvetlanaとの約束の場に向かう。彼はSvetlanaにぞっこんだが、彼女との関係は危機に瀕している。彼が妻との離婚に踏み切れないでいるせいだ。そして、Svetlanaは彼にある計画を持ちかける…。

16ページの短篇ですが、表紙があってストーリーの前のページにエド・ゴーマンとかのレヴューの引用がいくつか載っていて、そこでしきりにP. K. ディックの名前が見えて少し話の向かう方向がネタバレしちゃうのですが、まあそれでもひとひねりあって、ラスト数行でノワールが加速する感じのなかなかよくできた短篇でした。
Dave Zeltsermanは最初の小説が2004年発行ですからまだ作家経歴としては若手に属する作家でしょう。日本未紹介ですが、Julius Katzシリーズでシェイマス賞の受賞歴もある作家で、もう10冊以上の著作もあり、ドイツ、フランスなどでも翻訳が出ているそうです。この作品の初出はCrime Factory関連のアンソロジーのようで、私が注目しているNew Pulp Pressからも短編集が出ていたりと、そちらの方とも関わり合いがあるようです。Julius Katzシリーズに関してはまだちょっとよくわからないのですが、とりあえずはその辺からなるべく早く読んでみたいと思っています。

Just So You Know I'm Not Dead / Anonymous-9

こちらは3本の短篇が収録された39ページの短編集です。

[1] Triangulation
男に騙されて金を巻き上げられてばかりいる富裕な女性の女友達が、俳優を使って詐欺を仕掛け、彼女の残りの資産をすべて奪おうと企むが…。

[2] 2,984,000 Pounds of Pressure
ガス供給会社で修理の仕事に勤める男は、ある日ガス漏れの通報を受けて訪れた家で探し求めていたものを見つけるのだが…。

[3] Dreaming Deep 
湾の浚渫作業がまた始まる。以前の作業中、監督の男が行方不明になっていた息子が海中にいると思い込み、狂気に陥り、現在は施設で治療を受けている。男は湾内の海底に怪物がいると主張するのだが…。

[1]は語りの入れ替わる一人称で、最後には奇妙な愛憎が浮かび上がってくる作品。[2]は男性の一人称なのですが、とても女性作家の手によるとは思えない作品。[3]はラブクラフトオマージュのホラー作品。この人のスタイルとして、短い段落ごとに少し広いスペースを開ける、というのがあって、それが映画などで短いカットをつなげてフラッシュさせる手法に近いようなスピード感を出していて、[1]では特にそれが効果的です。[3]は一読して結構シンプルなホラーだな、と思ったのですが、よく考えると他の作品よりは一つの段落は長めにとりつつも上記のスタイルを維持しつつ、かなりラブクラフトのお手本に忠実なストーリーと語り口になっていることに気付きました。まあ本当にラブクラフト先生に作品を送ったら原型をとどめないくらいに添削されちゃうんでしょうけど。[1]を読んでなかなかいい作家を見つけたぞ、と喜んでいたら、[2][3]で更に色々な引き出しを見せてもらったという、短いながらかなり手ごたえのある短編集でした。
Anonymous-9は英Blasted Hearthから本が出ていたりするのでてっきりイギリスの作家だと思っていたのですが、実はL.A.在住の女性作家でした。2009年にSpintingler Mag.のアワードを受賞し、現在注目度上昇中の新進気鋭の作家です。まだ作品数は少ないのですが、いずれの本も大きな切り貼り文字を使ったソリッドでクールなカバーがトレードマーク。長編では車椅子のマークが銃をぶっ放しているというやたらかっこいいカバーの、事故で下半身麻痺になってしまった男が相棒の猿とヴィジランテとして戦うという『Hard Bite』があり、続編の『Bite Harder』が先月発行されたばかりです。ちなみに女性作家でAnonymous(匿名)などというペンネームなので、容姿経歴一切が秘密なのだろうと思っていたら、巻末に本名とともに「今日こそはツケをいくらかでも清算してくれなきゃ一滴も飲まさないからね!」というアグレッシブな感じのおば…女性の写真が掲載されていました。ホームページの方でもまずご本人の写真が登場します。そちらでは最新中編小説がもうすぐ出版されることもアナウンスされています。これからの活動がかなり期待される作家です。


というわけで今回は2本立てでやってみました。2つ並べると必然的に優劣をつけなければならなくなって来るわけで、そうなるとご察しの通り私的には明らかに温度差の違うAnonymous-9ということになってしまうのですが、基本的には両方それぞれ優れた優劣のつけがたい作品でした。Anonymous-9については、個人的にはこのブログで今まで書いた作家ではJonny ShawやAnthony Neil Smithクラスのお気に入りを見つけてしまったというところなので、その辺の温度差の違いはご勘弁ください。実際のところは大抵の人は、どちらかというと読みやすくまとまっているDave Zeltsermanの方に軍配を上げるのではないかなと思います。しかし、今後のことを考えると、私のようなわからないものの方が気になる変人としては、もう120%面白いに決まっているAnonymous-9の『Hard Bite』より先に正体不明のZeltsermanのJulius Katzシリーズを読むことは確定なので、結果的にはZeltsermanの勝ちになるのかも。ちなみにJulius Katzシリーズに関しては「よくわからない」と書きましたが、実際にはいつもの読むのを楽しみにしているので「調べていない」というのが正確なところです。いずれ、なるべく早い段階でこのブログにて正体を解明することになると思いますのでお楽しみに。

ちなみに冒頭で両作とも無料本で入手した、と書きましたが期間限定のもので、現在はどちらも約1ドルぐらいで販売されています。このような本は作者もサンプル的な位置付けで考えていたりするので、また無料になるときもあると思われますが、それがいつごろになるかはわかりません。私がいろいろ見ているところでは数か月おきに週末2~3日という形が多いようですが、はっきりしたところは分かりません。自分のブログのペースではそういう形のものをいち早くお伝えするのも難しかったりするので、そういうものを見つけたい方は自分で頑張ってみてください。ちなみに本日(2014年10月4日)はロジャー・スミスの未訳作が無料本で出ていました。明日の午後ぐらいまでは手に入ると思います。他に今回のAnonymous-9の『Hard Bite』がおそらくは新作キャンペーン中で0.99ドル、以前に書いたRoger Stelljesの『First Deadly Conspiracy』ボックスセットが0.99ドルで販売されています。期間限定と思われますので終わってしまっていたらごめんなさい。 


Dave Zeltserman オフィシャルサイト

Anonymous-9 オフィシャルサイト

●Dave Zeltserman / Julius Katsシリーズ


●Dave Zeltsermanの著作


●Anonymous-9の著作


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