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2015年5月31日日曜日

Bad Juju & Other Tales of Madness and Mayhem -New Pulp Press第2弾-

Jonathan Woods作『Bad Juju & Other Tales of Madness and Mayhem』です。この作品は昨年8月に書いた『Rapid Child』に続き、New Pulp Press第2弾として2010年に発行されました。ケン・ブルーウン、マイクル・コナリー、Anthony Neil Smithといった作家からも賛辞を寄せられた彼の第1作品集です。

というところなのですが、実はこの本、重大な欠点があり、まずはそれを指摘し、解決を図ることから始めたいと思います。えーこの本ですが、約230ページの中に19本の短篇が収められているのですが…目次がありません…。これだけ多数の作品が収められている作品集で目次が無い不便さは様々考えられるのですが、私に関して言えば、お昼に読み始めた作品を、帰りの電車で読み終えたころにはもータイトルを完全に忘れているというボンクラ頭ゆえに、目次に戻ってタイトルを確認するということができないまま読み進めたため、ほとんどタイトルと内容が一致していないという状態になっており、いざ紹介しようとなるとどうすればいいのかというような大変困った事態になっているわけです。そこで!今回はこの事態を解決するために目次を自作いたしました!これからこの本を読もうと思った人は以下のものをコピーし、PDFで保存した後、Kindleに送信すれば少し便利に読めるのではないかと思います。ちなみに末尾の数字はページ数ではなくて左下に出てる数字です。何のカウントかよく知りませんが。(でも調べない)

The Dilapidated Isles 22/3702
Incident in the Tropics 219/3702
Bad Juju 398/3702
Down Mexico Way 692/3702
We Don’ Need No Stinkin’ Baggezz 835/3702
Ideas of Murder in Southern Vermont 914/3702
Drive By 922/3702
Maracaibo 1141/3702
Dog Daze 1346/3702
Looking for Goa 1507/3702
Then What Happened? 1658/3702
An Orphan’s Tale 1889/3702
On the Lido 2069/3702
Shark Bite 2301/3702
Mexican Standoff 2362/3702
Samurai Avenger 2639/3702
Blue Fin 2670/3702
What the Fuck Was That? 2829/3702
No Way, José 2932/3702

というわけで、この本の最大の問題は解決いたしました!あと問題と言えば、初出一覧もない、著者紹介もない、というぐらいですが、とりあえずこれで私も心置きなく内容の説明に移れます。

しかし、まあ19本もの作品を全部解説するのも大変ですし、おそらくはウェブジンなどに発表されたと思われる短い作品も多いので、ある程度の長さのものを中心にピックアップしながら全体の概要を語るという感じで進めてみようと思います。
まず、中南米を舞台に旅行者が犯罪に巻き込まれるというタイプの短篇が2本続き、少し長めの表題作でもある「Bad Juju」。やはり舞台は中南米と思われる軍事独裁体制の国で、主人公の女性は犯罪の分け前の金を持って国外脱出しようとするが、裏切りに遭い恋人を殺され金も失う。仇を取り、分け前を取り戻そうと企むが…。という長編にしても楽しめそうなアクション・ノワール。そして、5本目の「We Don' Need No Stinkin' Baggezz」はそれほどは長くないのだけど、ある殺し屋の半生の告白という形の、ちょっとラテン・アメリカのマジック・リアリズムをも思わせる奇妙な作品。そのあとは少し「女と犯罪と」テーマの作品が続くのだけど、途中には「Maracaibo」のようなそこから訳の分からないぶっ飛んだ結末に飛んでゆくものも挟まれたりします。「An Orphan's Tale」は孤児施設から誘拐される少女の話で、救いのない話かと思っていると意外なすがすがしい結末を迎えたり。そこから少し展開が変わり、ホラーが3本。「Shark Bite」はサメの一人称によるジョーズ的な話かと思って読んでいると…クトゥルー?奇妙なギャグなのか?という作品に続き、「Blue Fin」は日本を舞台にした作品。ドラッグで稼いだ金で日本でレストランを経営する日系青年が、ジャック・ニコルソンの誕生日に用意した高級マグロをヤクザに押さえられ、奪回のために戦う、という作品。それはツッコミどころはいくらでもあるけど、カーチェイスの場面がやはりほかの国とは違い、日本の風景が浮かぶように書かれていたり、日本人でもなかなか書けないような三池崇史映画のような場面が描かれてたり、というようなところを評価したい。そしてまた奇妙なSF?作品のあと、最後はこの作品集の中でも一番長い「No Way, Jose」。どこかへ向かって移動を続ける謎の男、ヒッピー崩れのルーザーとビジネス・ウーマンの一家、退職警官とその母親を惨殺した強盗犯たち、といった10人近い登場人物のストーリーが"No Way, Jose"という呟きでつながれる、ちょっと映画『バベル』あたりを思わせるような圧巻の作品。

とりあえず、かいつまんで説明を試みてみましたが、やはり短編19本となるとなかなかのボリュームになるものですね。最初の方は中南米が舞台の作品が続き、中頃には米国本土での作品も出てくるのですが、全体的には外国が舞台になっている作品が多い印象でした。しかし、これだけの数になりながらも同じような作品というのがほとんど無く、同一テーマとしてまとめてしまったような作品でもそれぞれに一ひねりした設定や違った落としどころがあったりと、アイデアの豊富さや作家としての実力を感じさせる作品集でありました。しかし、これは個人的な無い物ねだり的な感想になってしまいますが、このJonathan Woodsという人、「短篇小説の名手」という枠よりももっと広く実力を感じさせる作家ゆえに、長編作品ならもっと深い展開や掘り下げたテーマの作品が読めるのではないか、と逆に少し物足りなさを感じてしまう本でもありました。
Jonathan Woodsのホームページを見てみると、あの、このジャンルのウェブジンでは中心的存在であるSpinetingler Magazineのレビューからの引用で、「Jonathan Woodsは短篇犯罪小説のデヴィッド・リンチだ」という文が掲載されていました。本人もこの評価が大変気に入っているのでしょう。なるほどデヴィッド・リンチか。最初の作品「The Dilapidated Isles」は、ある島を訪れた旅行者の主人公が最後まではっきりと実態が見えないまま何らかの犯罪に巻き込まれるという作品ですが、これなんか特にリンチのノワール作品に似ているかも。他にも奇妙な、と表現したような作品はそのままリンチの奇妙な感触に当てはまるかもしれません。デヴィッド・リンチという人も何となく曖昧ながら固定的なイメージで見られがちですが、実は流動的な多面性の奥に本質が隠されているような複雑な映画作家だと思うのですが、Jonathan Woodsもその本質に近いものを持ちつつ、多面的な表現を展開して行ける可能性を持った作家なのではないでしょうか。

Jonathan Woodsは元々は法律関係の仕事をしていた人で、奥さんは画家だそうです。今の仕事等については書いてありませんが、お金と時間のある時は外国を旅して小説のアイデアを探しているということ。彼の作品はその後もNew Pulp Pressから長編『A Death in Mexiko』、短編集『Phone Call From Hell & Other Tales of the Damned』の2作が出ています。長編を読みたいなら早く読み進めないとね。そして、映画化作品が一つ。『Swingers Anonymous』は彼の同名短編小説が原作で、元は以前セールで大騒ぎしたけど例の如くまだ全然手を付けられていないAkashicの都市ノワールシリーズの一冊『Dallas Noir』に掲載された作品で、現在は最新短編集『Phone Call From Hell』にも収録されています。『Header』の時は内容がアレだけに控えましたが、今回はトレーラーを乗っけてみました。



今はまだ公開への足掛かりを求めて各地の映画祭を回っている状況のようで、なかなか日本で観るのは難しそうですが、いつか機会ができたらぜひ見てみたい作品です。

第1弾『Rapid Child』は優れた作品ではあるけどあまりに特殊で人に勧めていいものなのか、と思ってしまったNew Pulp Pressですが、今作『Bad Juju』はノワール・ジャンルのファンならだれにでもお勧めできる今後期待の実力作家の作品集でした。…というところなのですが、これだけかかってやっと2冊目とは…。トホホ。New Pulp Pressからはその後も面白そうな作品が次々とリリースされていますので、なんとかもっとどんどん読んでいけるように頑張りたいと思います。
前回『The Boys』はずいぶん時間がかかってしまい1週引っぱってしまっていたところで、先週は急用で休み、来週も週末用があって休みとなってしまうのですが、ちょっと良くないお休みスパイラルに入らないよう気を付けて、再来週からはまた毎週更新で頑張って行きたいと思いますので、またよろしく。

Southern Noir/Jonathan Woodsホームページ

New Pulp Press


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