米Vintage Crime/Black Lizard版 |
本編に入る前に前作『イージー・マネー』(講談社文庫より上下巻で刊行)のおさらい。こんな必読本当然読んどけよだが、ちょっと前で内容忘れちゃった人もいると思うので。そういう流れなので当然結末もネタバレしちゃいますので、未読の人はご注意、つーか今すぐ先に読むべし!
移民、地元勢力がひしめき合い、せめぎ合うスウェーデン、ストックホルムのアンダーグラウンドワールド。その中で群を抜くパワーを示す勢力が、ユーゴ系ギャング。そしてそのユーゴ系ギャングをめぐる3人の人物の運命が交錯する物語がこの『イージーマネー』である。
第一の男が、ヨハン・ウェストルンド、通称JW。地方出身の苦学生だが、上流階級の子弟とつるみ、自らもそこに属しているように装う上昇志向の強い青年。アルバイトとしてやっていた白タクの元締めを通じ、ドラッグディーラーの道に踏み込み、やがてストックホルム上流階級子弟へのドラッグの供給源として頭角を現して来る。さらに国外の口座を使ったマネーロンダリングに精通し、組織の中でも重要人物へとのし上がって行く。そんな彼には、ストックホルムの地で探し求めているものがもう一つあった。彼に先立ちストックホルムに移り住み、その後行方不明となった姉の行方。ストックホルムの暗黒を泳ぎ回るうちに、彼は思いがけぬ形で姉の足跡に遭遇する。
第二の男、ムラド・スロヴォヴィッチ。ユーゴ系ギャング組織の幹部。暴力の権化のような男で、常にその腕力で周囲を威圧する。元は同格であったラドヴァンが組織を引き継ぎボスとなって以来、徐々に関係が悪化し、遂には組織を追われ、敵対者となる。
第三の男、ホルヘ・サリーナス・バリオ。ユーゴ組織下のドラッグ・ディーラーだったが、裏切りに遭い罪を一手に負わされて、逮捕、投獄される。しかし、ユーゴ系ギャングへの復讐を誓い執念の脱獄を果たす。潜伏中、ムラドに発見され、重傷を負い森で倒れているところをJWに救われ、ドラッグ取引の経験と知識を見込まれ、JWの属する組織に引き込まれる。
この三者の物語は、時にねじれ、絡み合いながら最後に合流する。そしてその結末。JW、ムラドは刑務所へ、そしてホルヘのみが逮捕を逃れ、国外へと脱出する。
そして物語は三部作、第2部の『Never Screw Up』へ!
【Never Screw Up 】
まず最初にここんところははっきりしておこう。この第2部は、第1部の三者の物語の続きではない。この第2部には、新たな3人の主人公が登場し、第1部同様に3つの物語が語られる。
第一の男、Mahmud。アラブ系移民で、しばしの刑務所暮らしから仮釈放されて娑婆に戻ったばかり。だが、外の世界も彼にとっては安泰ではない。懲役の原因となったドラッグ取引の失敗から、ギャングBorn to Be Hatedに莫大な借金を負い、追い詰められている。金か生命か?なんとしても金を作らなければならない…。
第二の男、Niklas Brogren。数年間の中東での傭兵生活から、除隊し帰国したばかり。今のところは母親のアパートに居候し、まだ先の当てはない。訓練と戦場での経験から、20代にして銃器類と格闘術のエキスパートとなっている。そして彼には、彼を戦場へと向かわせたある秘密があった…。
第三の男、Thomas Andrén。ストックホルム南署の制服警官。年齢は30代半ばか後半か?相棒Ljunggrenと共にパトロール中、無線の指示により事件発生現場へと向かう。管轄内のアパートの共同の倉庫として使用されている地下室で男性の遺体が発見される。殺人事件。陰惨に血がまき散らされるように飛び散った地下室の遺体の顔は潰され、指は切断されている。腕には明らかにドラッグ中毒者のものと思われる注射痕。そしてこの殺人事件が彼のその後の運命を大きく変えて行くことになる…。
ストックホルム三部作第2部は、このように前作の事件ともユーゴ・ギャングとも無関係な三者の物語として始まる。だが、彼らの物語が暗黒へと進むにつれ、そこには必然的にその地のアンダーワールドの中心に構える一大勢力であるユーゴ・ギャングが関係してくる。
第一の男、Mahmud。地元のアラブ系コミュニティの愚連隊的友人たちの助力も得て、強盗まがいの手段も使いながら金策に走るが、どうしても要求された額に届かない。そこにユーゴ・ギャングが仕事を持ち掛けてくる。組織の采配で実行された現金強奪事件で裏切り、金を持ち逃げした男を探し出せ。男の名はWisam Jibril。同じアラブ系コミュニティに属するかつての知り合いだ。同胞をユーゴ・ギャングに売るのは気が咎めるが、背に腹は代えられない…。だが、そのユーゴ・ギャングへの協力は彼を更に困難な立場へと追い込んで行くことになる…。
第二の男、Niklas。母子家庭で育った彼は、少年時代を暴力的な母親の恋人に怯えて暮らし、そのトラウマが彼の人格に深刻な影響を与えている。その無力感から逃れるため、傭兵部隊に入隊し、自らを兵士として鍛え上げる。二度と奴に屈服しないために。そのトラウマは、彼の中に女性に暴力をふるう者への異常ともいえるほどの憎悪を醸成し、やがてそれは彼を女性に対する加虐者へのヴィジランテ行為へと駆り立てて行くこととなる。だが強迫観念によりもたらされたその行動は容易に一線を越え、彼をさらに深い狂気へと追い込んで行く…。
第三の男、Thomas。事件の後、事後確認のために元内務監察官の刑事Hägerströmに呼び出され、確認作業を行っているうちに奇妙なことに気付く。彼が報告書に書いたはずの事項が改竄されている?被害者の腕の注射痕。遺体検案報告書にも記述はなく、確認のためにHägerströmと死体安置所に向かうと、突然現れた上司に強硬に阻止される。警察上層部をも含むある力により被害者の身元が隠されている?決して清廉な警官でもない彼だったが、納得のいかぬものを感じ個人的に調査を進めているうち、罠にかかりパトロール警官の地位も失い閑職に追いやられる。だがその仕打ちは更に彼の妄執を燃やし、謎の死体の身元調査へとのめり込ませて行く。そんな時、彼の苦境に付け込んだユーゴ・ギャングから警備の仕事のオファーが舞い込んでくる…。
Niklasの引っ越し先のアパートの隣人がMahmudの妹。恋人に暴力を振るわれているところを助けたことがきっかけで、Mahmudと知り合うことになる。また、友人と入ったパブでNiklasは射撃練習場からの帰りのThomasと相棒に出会い、その場限りではあるが意気投合する。実はThomasの関わる殺人事件の起こった建物は、Niklasの母親が住むアパートなのだが、事件を通じての二人の接触はない。このように、時折の接触はあるが、三者の物語はほとんど交差しないままにそれぞれ進んで行く。
しかし、そんな中である一人の人物が三者の物語を本人たちの気付かない裏で結び付けて行く。
その男の名は、Claes Rantzell。
その名前はWisamを探すMahmudと事件を追うThomasの前に実体のないような会社の共同経営者として現れる。この人物は何か重大な手掛かりを持っているのではないか?だが、その住居を訪ねて行っても永らく留守にしている形跡が見られるだけ。 Claes Rantzell。
その名前だけが物語の背後を幽霊のように漂う。
そしてNiklas。彼の心を蝕む母親のかつての暴力的な恋人。その男こそがClaes Rantzellだった。
事件を追い、Claesを探すThomasは、やがてかつてスウェーデンを揺るがせたある事件へとたどり着く…。
Never Screw Up!このまま潰されてたまるか!奴らのいいようにされてたまるか!
ある者は状況に追いつめられ、またある者は自らの狂気に焼かれながら、ストックホルムの暗黒をあがき、這いまわる三者の物語は、前作同様最後に向かい縒り合され、凄惨な結末をむかえる。
衝撃のストックホルム・トリロジー第2部『Never Screw Up』!これ翻訳しなきゃダメだろう。アホか!
おわび。Mahmudだけフルネームが分からなくなってそのままでごめん。なんの他意もありません。大変分厚い本の中で見失った不始末です…。
ペーパーバックで約560ページ。前作が翻訳で500ページぐらいの文庫2分冊だったが、同じくらいで結構な大作。まあとにかく色々読みたいもん多すぎるんで、ちょいとロングスパンで構えて折り返し地点で一旦中断して別の本読んだりしようかぐらいの惰弱なことを考えとったが、読み始めたらもう止まらん。第1部の続きがどうだとかもう関係なく、こいつらの物語を行く末を見届けねば、の思いで読み続けた。それでもそれなりに時間はかかったが、結構かさばるやつあっちこっちに持ち歩いてひたすら読んでたよ。何度でも言うが、この三部作は未来へ続くノワール史の中でまた一つのマイルストーンとなる重要作である。今からでも遅くない!心を入れ替えただちに続く三部作すべてを翻訳刊行すべし!…つってもなあ…、コーダンシャって絶対に心を入れ替えたりしないと思わない?まー、諦めて何とか比較的敷居の低い英訳版を頑張って読むしかないっすよ。そしてこれはそれだけの価値のある作品である!必読!ただちに読むべし!
さて、この第2部第1部の三者の物語ではないと書いたが、実はその関連が無くなってしまったわけではない。刑務所内のムラドの様子はわずかだが伝聞として数回伝えられる。そしてワンシーンのみだが、逮捕を免れたホルヘが登場し、刑務所内のJWと手を組んだユーゴ・ギャングへの復讐が進行中であることをうかがわせる。続く最終作第3部では懲役中の連中も出所、または脱獄でもして表舞台に復帰し、ユーゴ・ギャングへ向けて動き始めることが予想される。だが、あくまで予想で浅知恵のそーゆーのって大抵は裏切られるがね。この第2部だっていつものように一切情報なしで読み始めて、プリズンものになるとか予想してたんだからね。さあとにかく第3部『Life Deluxe』だ!やっと読めるぞ!まー性懲りもなく予想しちゃうんだが、これまでの経緯から考え、第3部ではまた新たな三人の主人公によって物語が進められることになるんだろう。ううっそれすらも裏切られるかも?さて、衝撃のストックホルム三部作その最終作はどうなるのか?前作、前々作の登場人物たちはどのように動くのか?またしばらく先にはなると思いますが、このブログにて必ずやお伝えすることを約束しましょう。どうしても日本語で読みたい!という人は、どーせコーダンシャに言っても聞く耳持たんだろうから、他の出版社に嘆願してみよう!東京創元社よ、今こそこの続き残り2作とデストロイヤー・シリーズ完全版全150巻以上の出版に乗り出す時だ!
ここでストックホルムでひとネタ。個人的にストックホルムと聞くとなんかいまだにまず頭に浮かぶのがこれだったり。『The 2nd Orbit Stockholm - Log Island』。1996年にスウェーデンPlanet Rhythm Recordsよりリリースされたコンピレーション・アルバム。前年の『The Orbit』に続く第2作のコンピレーションで、アダム・ベイヤー、カリ・レケブッシュらが「俺たちゃスウェーデンのならず者だぜ」と名乗りを上げた初期のころの名盤である。『イージー・マネー』の時も、おー、ストックホルムと言えば、で引っ張り出してきて聴いてたが、今度もこれやらその他スウェーデンもの、ベイヤーの犬のやつとかよく聴いてたわけで、まあ個人的には冷酷非情なストーリーにバキバキのハード・ミニマルはかなりマッチするのだけど、所詮は聞く人を選ぶもんなのでおススメBGMとかまで言うつもりもない。で、なんでこれを出してきたかというと、このジャケットのストックホルムの地下鉄路線図。自分がストックホルムと言えば…、でこれが浮かんじゃうのもこのジャケットの「俺たちゃストックホルムだぜ」というメッセージに地下鉄路線図を使用するというデザインの秀逸さゆえである。ストックホルムで画像検索すれば観光写真が山ほど出てくるけど、個人的にかもしれないけど、この地下鉄路線図っていう方がはるかに奴らの街の存在を一発で伝えてくれた気がする。と、絶賛したデザインだが、これアナログ盤で、後に出たのだと思うCDでは同じ地下鉄路線図なのだけど濃紺一色になってていまいちパッとしない。察するところこの辺の連中がよくやらかしてた使っちゃいけない画像を勝手に使って怒られた変更ではないのかな、というオチもあったりするのですがね。ストックホルムというのは調べてみたところ東京の10分の1ぐらいのようで、この路線図ぐらいで山手線内側ぐらいなのかな、と思ったりするけど、救いようのないくらい地理に弱い奴の言うことなのであんまりあてにしないように。雰囲気っぽい目安ぐらいにね。『イージー・マネー』ではあまり登場しなかった地下鉄だが、この第2部『Never Screw Up』では登場人物たちが移動に使うシーンも結構ある。と言っても前半だけで後半になると移動は車が主になって登場してこなくなるのだけどね。
まあ、このジャケットを見せたくてちょっとやってみたけど、結局あれだな、ひと昔かふた昔前の翻訳ミステリの解説で「ぼくのストックホルム滞在記」誰だお前?で肝心の作品の内容にはほとんど触れてないがっかり解説みたいのが時々があったが、んまーそのくらいレベルかもね。実際ストックホルムなんて行ったことねーし。まあこのパートは飛ばしちゃってもいいっすよ。
あと映画の話。第1部『イージー・マネー』は、アメリカで映画がリメイクされるっていう触れ込みで翻訳が出たわけだが、そっちの方はまだのようで、進行状態も不明。だがこの三部作本国スウェーデンではすでに同じく三部作で映画化されています。そのうち『イージー・マネー』は日本でも字幕の入ったのがDVDで観ることができます。かなりストーリーは省略されてる感じだけど、なかなかにスピード感緊張感あふれるいい出来でした。で、この第2部『Never Screw Up』なんだが、米発売(公開?)版ではまずタイトルが変わっとる。『Easy Money II: Hard to Kill』。まあ『Never Fuck Up』がアメリカでの原作タイトルで、それじゃまずいんんで変更されたんだろうなというところなのだろうけど、なにか微妙にジャケットに登場してるシーンに違和感があり、少し調べてみたところ、内容もこの原作第2部とかなり違っている様子。と言ってもストーリーはまだあんまり知りたくないのでキャストからの推測なのだが、まずこの第2部には登場しない第1部のJW、ムラド、ホルヘの名前があり、その一方で第2部の方はMahmudの名前しか見当たらないというところ。そして第3部は原作と同じ『Life Deluxe』で、物語が同じ結末へと向かうとすると、場合によると三者が再登場すると思われる原作第3部のストーリーが部分的に映画版第2部に使われている可能性も考えられるので、これについては第3部を読了してから英語字幕版2部3部を続けて観て内容の違いを検証してみるみるつもりでいます。その辺の変更点などについても、第3部『Life Deluxe』の時に報告する予定であります。
最後に作者イェンス・ラピドゥスのストックホルム三部作以降の活動について少し。続いてまたスウェーデンを舞台にした犯罪小説のシリーズを現在までに4作発表。うち2作がVintage Crime/Black Lizardから英訳版刊行中。なのだが、シリーズらしいこの作品の第1作となる『VIP-rummet』が未訳。英訳タイトル『VIP-room』っていうのがついててWikiにも載ってるんだが現物は見つからない…。察するところ、Vintage Crime/Black Lizard少し前にもうダメなんじゃないかぐらいの苦境にあったようで、その第1作本国で発行の折、翻訳の意志はあったものの出版にこぎつけるまでの余力がなかったのではないか。遅れてでも出してくれるといいのだけど。シリーズだからねえ。続く第2作『Stockholm Delete』、第3作『Top Dog』はBlack Lizardから英訳版が出版され、この3作はシリーズ作品らしい。その次に2018年に『Advokaten』という作品が発表されているのだけど、こちらがシリーズの続きなのかは不明。実はまだ本国スウェーデンのWikiにしか書いてなくて、そっちでは作品をシリーズ分類とかしてないので。もちろんスウェーデン語とか読めないし。まあそっちのシリーズについてはこの三部作をコンプリート(映画版も含む!)してからなので、ここではとりあえずあるよー、ということだけお伝えしときます。ちなみにこの英訳版2冊もお手頃価格の英版があるのだけど、ここは苦境に負けず何とか刊行したBlack Lizardに敬意を払い画像はBlack Lizard版を使いました。発行は2017年とかになってるのだけど、最近まで見たことなかったので、ごく最近になってイギリス国外にも解禁になったのかもね。ラピドゥスには原作を手掛けたノワール・コミック『Gängkrig 145(英題"Gang War 145")』(2009)というのもあってかなり気になるのだけど、現在は入手困難の様子。何とかならんかね。
とまあこんなところで今回は終わりです。第3部『Life Deluxe』に続くというところで、今回書いてる途中で気付いて中途半端だった映画のことなどもそこで完結いたしますです。1冊だけだしすぐに書けるかと思ってたけど、意外と長くなってしまったな。まあ考えてみれば、3人のストーリーで考えようによっては小説3冊分だからな。その他またちょっとした用事で少し書けなくなったりと、なかなかうまくはいかんのですが、一方でその間も読んだ本はたまるばかり。アレやアレについても早く書かねばと思うばかりです。とりあえずこれとおんなじ理由で続きが読めなくなってるルッカQueen & Countryについては早く何とかしなければな。あとブルーウンWhite Trilogy残り2作についてはその辺のルールを破って続けてどっちも読んじゃいました。だってそろそろ大好きなジャック・テイラーさんにまた会いたいのだもの。すげー面白かったその2作についてはそのうち続けてやります。いやーやっぱりブルーウン最高っすよ。あと、まあ少し前にこれでもか、とやり切ったつもりの「21世紀ハードボイルド/ノワールベスト」ですが、終わってみるとあー、アレを忘れてたな、とかアレが出てたの気付かなかった!みたいなのまで出てきて、んまーいずれその辺まとめて追補でもやるかな、というところです。なんかすんません。とりあえず創元社さん『シスターズ・ブラザーズ』を忘れててごめんよ…。映画っつーことでやっと思い出したわ。色々とやらねばならんことは山積みですが、早く進める方策も思いつかず、とにかく頑張ろうと思考停止するばかりですが、とにかく頑張って続けて行きますので、またよろしくね。次からはまた怖いマンガ。こっちも早く片付けんとなあ。
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