Translate

2016年6月28日火曜日

Dave Zeltserman / The Julius Katz Collection -名探偵とその助手登場!-

随分前にフリーで手に入れた短編を2本読んでみるというのをやって、そのうち読みまーすとか言っていたDave ZeltsermanのJulius Katzシリーズ第1短編集『The Julius Katz Collection』がやっとで登場です。
しかしコレ、なんで翻訳が出てないんでしょうか?読みながら何度も確認したのだけど…。それともどっかの隠し玉とやらで明日本屋に行ってみたら並んでいるのでしょうか?短編とはいえシェイマス賞を受賞しているし、掲載されているEllery Queen Mystery Magazineでも人気のシリーズだし。ちゃんと出せば年末のランキングでも20位以内は確実の代物だと思うのだが。もし本当にどこも押さえていないなら早い者勝ちで今すぐ隠し玉るべし!

それではこちらどんなシリーズかというと、名探偵Julius Katzとその助手Archieが活躍するというもの。助手のアーチーってどこかで聞いたことあるな、とそちら方面には少し弱い私がぼんやり思っていたところ、エド・ゴーマンによる序文を読んでやっとわかりました。(もうわかっている人の方が多いと思うけど…)こちらはあの有名なレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズをオマージュした作品だったのです。
名探偵Julius Katzはウルフ同様の名高い有能な名探偵で、さらに同様の美食家。仕事嫌いでその趣味的な自分の生活を維持するための銀行残高が少し苦しくなった時に嫌々依頼を受けるというところも同じ。しかし、あとはちょっと違っていて、身長6フィートで体脂肪1パーセントの鍛えた体にマーシャルアーツの黒帯。プレイボーイでギャンブル好きの弱点無しのイケメンオヤジ。
そして、この作品もネロ・ウルフシリーズ同様助手のArchieが語り手となるのですが、このArchieが驚き!2インチ平方の超ハイテクコンピューターで、常にネクタイピンとしてJuliusの胸にくっついているのです!このArchie君、Juliusによれば得意のポーカーで手に入れたということですが、出自は不明。Juliusにより探偵助手としてプログラムされ、Archieと名付けられているわけです。そしてこのArchie君、視覚聴覚の機能はもちろんのこと音声機能も備えていて、Juliusと会話する他、助手としてJuliusへの電話の受け応えなんかも行っているのです。依頼人が現れ、「あの感じの良い助手のArchieさんはいらっしゃらないの?」などと言われることも。そしていざ事件となればJuliusの前に現れた容疑者・参考人などあらゆる人物の個人データを様々にハッキングなどで完璧に揃え、Juliusの許へメールで届けるという最高に優秀な助手として活躍します。しかし、これほど有能・高性能でもどうしても名探偵Julius Katzには敵わない。いつかJuliusよりも先に事件を解決してやるぞ、と思い、仕事嫌いのJuliusに何とか依頼を引き受けさせようと考えながらJuliusの胸にネクタイピンとして留まっているのがこの作品の探偵助手Archie君なのです。
このような魅力的なキャラクターの登場するこのシリーズ、作者Dave Zeltsermanは元々はハードボイルド/ノワール系の作家なので、主人公Julius Katzはハードボイルド・タイプの探偵ということになっていますが、主な展開としては事件の関係者を集め、その中にいる犯人を卓越した推理とポーカーで鍛えた嘘を見抜く能力で見つけ出すというもの。そういうのお好きな人も多いんじゃないでしょうか。一応そういう設定なのと、これ以上余計にこの先増えるかもわからないカテゴリを増やすのも嫌なので、こちらではハードボイルドに入っております。まあ、毎度おなじみ繰り返しになるのですが、「ミステリと思ったらミステリではなく、ハードボイルドだった。」というような戯言を並べたがる狭量なミステリ分類家・認定家は私の最も軽蔑する部類の人間ですので、これを「ミステリ」などというカテゴリを作って入れたりするつもりは毛頭ありません。悪しからず。

この『The Julius Katz Collection』には7本のJulius Katz & Archieを主人公とするシリーズの短編が収録されています。それでは各話の簡単なあらすじを。

1. Julius Katz
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2009年 9/10月号 シェイマス賞短編賞、他)
今回Juliusが嫌々ながら面会した相手の依頼は家族問題。高齢の母親の介護をする姉妹が、自分たちではもう世話が難しいので施設に預けたいと考えるのだが、後見人で弁護士の男兄弟が反対しているので説得して欲しいとの事。自分向きの仕事ではないと断るJuliusだったが、相手側の強い頼みに付き合っているうちに殺人事件が起こり…。
最初の設定ではプレイボーイのJuliusなのですが、実はこの第1作で運命の恋人と出会い、あとは彼女一筋となるのでした。

2. Archie's Been Framed
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2010年 9/10月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第1位)
助手としてJuliusへの依頼電話を断っているうちに相手の女性と知り合い電話とメールで密かに交際していたArchie。だが、その女性が殺害され、第1容疑者はArchieに?
ここでArchie君は相手の女性に見せるために自分の写真をねつ造。その容姿はJuliusがプログラムのために使ったコンチネンタル・オプのイメージ。いつもJuliusのネクタイピンとしての位置からの視点で自分の身長は5フィートと考えているArchieですが、今回は相手の女性に合わせて少し足したりしています。

3. One Angry Julius And Eleven Befuddled Jurors
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2012年 1月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第9位)
陪審員として選ばれ、市民の義務として法廷に出席しているJulius。だが、裁判は延々と引き伸ばされ、以前から予約していた今晩の特別ディナーにも間に合わなくなる模様。そして、遂にJuliusが立ち上がる?

4. Archie Solves The Case
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2013年 5月号
     Ellery Queen's Readers Choice Awards第1位)
高名なシェフからの依頼を引き受けるJulius。盗まれたレシピを取り戻してほしいという依頼だったが、捜査を始める間もなく依頼人が殺人事件の容疑者に…。
実は私それしか読んでないのだが、ネロ・ウルフ物の有名な『料理長が多すぎる』を思わせる作品です。タイトルを見ると「アーチー事件を解決する」だが、どうなるのか?

5. Julius Katz And Tangled Webb
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2014年 3/4月号)
Juliusの恋人Lilyの父親が殺人事件の容疑者に?地元ボストンを離れ、ニューヨークでのJulius & Archieの活躍。

6. Julius Accused
 (初出Ellery Queen Mystery Magazine 2014年 6月号)
Juliusが出席したパーティーの直後、その屋敷から名画が盗まれ、出席者の一人がマスコミを通じJuliusの関与を喧伝し、糾弾する。無視し続けるJuliusだったが、その男が殺害され、容疑はJuliusに?

7. Julius Katz And The Case Of A Sliced Ham
 (このコレクションのための書き下ろし)
開幕直前の演劇のリハーサル中に出演者の一人が殺害される。容疑者は演出者と出演者全員。プロデューサーからの依頼を一旦は断るJuliusだったが、ある事情から引き受けざるを得なくなる。嘘の達人である役者たちの中からJuliusは真犯人を見つけられるのか?


名探偵Julius Katzの鮮やかな推理も見どころなのだが、なんといってもArchie君の語りが秀逸!あらすじなんぞを書いてみたところで伝わらないのがもどかしいところなのですが…。読んでみれば誰もがArchie君のファンになることは確実!んー、まあ、世の中には「いくらなんでもこのサイズでここまでのハイテクは現代の技術では無理がありすぎる」とか言い出すフィクションと現実の区別がつかない困った人もいるけどね。

作者Dave Zeltsermanは1959年ボストン生まれで、2004年『Fast Lane』でデビュー以後、ノワール、ホラーなどを中心に多くの著作のある作家です。ホームページを見ると、映画化進行中のものもいくつかある様子。以前に読んだ短編『Mind Prison』は全く毛色の違う作品で、どちらが元のスタイルとかいうよりは色々書ける職人的な作家なのではないかと思います。
こちらのJulius Katzシリーズですが、現在他に長編『Julius Katz and Archie』が刊行されています。どちらも発行はTop Suspense Booksというところになっているのですが、検索してみてもホームページなどは見つかりませんでした。本作のペーパーバック版の版元がCreatespaceでもあることから、Zeltserman氏の個人出版ではないかと思われます。ちなみに長編『Julius Katz and Archie』はKindle版のみ発行。Julius Katzシリーズはその後もEllery Queen Mystery Magazineにて年2回ぐらいのペースで掲載されているようなので、『Collection2』がお目見えするのは2~3年後というところでしょうか。
ちなみにEllery Queen Mystery Magazineは、日本のアマゾンからKindle版を読むことはできないのだけど、アプリが出ていてそちらから読むことはできるようです。まだよく見てないのだけど、とりあえずiOSのをインストールしてみました。1冊480円で(2016年6月現在)、年間購読のオプションもあるようです。

今回は自分的には少し畑違いのものですが、まあ自分の守備範囲の流れでちょっと違っていても面白いのが見つかればまた取り上げていきたいものだと思っております。ただ何分畑違いのものなので栽培法もよくわからんので、このまま枯らせてしまう恐れもありますので、こういうのが好きな人が独自に育てて行っていただければと思います。これってもしかしたら本国より日本で人気出るタイプのかもしれないですよ。翻訳が出るならカバーはフロスト警部やアルバート・サムスンみたいな感じのイラストのが良いのではないかと思います。とか、色々言ってて明日本屋に行ったら本当に並んでたりして。明日どっかの本屋の翻訳書コーナーの前でブッ倒れてる変な奴がいたらたぶん私です。


Dave Zeltsermanホームページ

Ellery Queen Mystery Magazine


●関連記事

Mind Prison / Just so You Know I'm not Dead -短篇(集)2本立て-



【お知らせ】
ここでついさっき発見したセールのお知らせです。Down & Out Books発行のGary Phillipsの『3 The Hard Way』が7月1日まで限定で0.99ドル!Gary Phillipsはコミックのライターなどもやっているクライム・フィクションの作家のようですが、詳しいことはあまりわかりません。内容は中編クライム・フィクションの3本立てということです。版元Down & Out Booksは少し前に見たときは10冊ぐらいしかなく、そのうちにと思っていたのですが、ついさっき見たら急成長してずいぶん沢山の本が並び、あのAnthony Neil SmithのBilly Lafitte第4作やAnonymous-9姐さんの『Hard Bite』シリーズなどもラインナップに入りアメリカでは最要注目パブリッシャーとなっている模様です。その辺についても近日中にもっと調べて行くつもりですが、とりあえずはかなり信用のおけるところからの1冊ということで。期間も短いので気になった人はお早めに。

Gary Phillipsホームページ

Down & Out Books


●Dave Zeltserman

■Julius Katz


■その他のDane Zeltsermanの著作




Gary Phillips / 3 The Hard Way


'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

0 件のコメント:

コメントを投稿