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2024年2月1日木曜日

Joe Clifford / December Boys -ニューハンプシャーのルーザー探偵(?)Jay Porterシリーズ第2作!-

えーと、なんかあけましておめでとうございます。そんな新年の挨拶があるか…。当方の甚だしい無計画行き当たりばったりの結果、著しく間が空き、気が付けば年を越す事態となっておりました。申し訳ありません。その辺の言い訳については、最後に少々 書きますが、その他にも年の瀬になって救急車で搬送されるというような、えーかわいそーぐらいのこともあったわけですが、まあそれについても後ほどということで。
そんなわけで、今回はJoe Clifford『December Boys』。2015年に出版されたJay Porterシリーズの第2作です。

とにかくまず、第2作からになってしまって申し訳ない。これは私自身の怠慢であります。冒頭からお前謝ってばかりやんけ…。謝罪の嵐。
Jay Porterシリーズ第1作『Lamentation』(2014)については、しばらく前に読み、これはこれで大変注目すべき作品であったのだが、まあ当時個人的事情でなかなか書くことができずそのままになってしまい、しかしこれは2010年代後半のハードボイルド シーンにおける最重要ぐらいのシリーズであることは明らかであり、このまま遅れ続けるよりは早く第2作を読んで、そこから始めるべきというのが考えで、こうなってしまったという次第。
そもそもそういういい加減な扱いがよろしくないというだけでなく、実はこの第2作、第1作からの続きの部分が大変多い作品であり、さらに言えばここから第5作まで続いて行くシリーズ総てが、継続して行くストーリーになることも予想されるため、 この第2作について書く前に、第1作のストーリーを把握しておくことが必要となって来る。
実際のところは、この第2作、第1作の事件についての言及も多く、ここから読み始めることもできるとは思われるのだけど、先も考えるとここでいったん戻り、第1作について少し詳しく説明してから始めるのがベストと思う。
そんなわけで、まーた前置き部分が長くなってしまうのだけど、シリーズ第1作『Lamentation』の紹介から始めます。結局のところ、そっちの経緯、結末ぐらいまで書かないと2作目へ進めないんで、完全にネタバレと なってしまうので、ご注意を。まあご注意どころではないのだがな…。

【Lamentation】


ニューハンプシャーの田舎町Ashtonで、地元の不動産屋Tomに雇われ、身寄りもないまま亡くなった人の家の片付けを仕事としているJay Porter。元恋人Jennyとの間に息子Aidenがいるが、現在は別居中で、彼女は別の男と暮らしている。
一日の作業が終わったところで連絡が来る。兄のChrisが逮捕された。
兄弟二人の両親は、20年前に交通事故で亡くなり、以来お互いが唯一の身内。ハイスクール時代には有望なレスリング選手で、年の離れた弟Jayの憧れだったChrisだったが、その後はドラッグに溺れ、両親が亡くなる直前頃には家庭内での諍いも 絶えなかった。ブレーキの故障による両親の事故も、Chrisが仕組んだものではないかと一時は疑われたほどだった。その後もジャンキーである兄は度々問題を起こし、今日のように警察に呼ばれることもJayの人生で日常茶飯事となっていた。
警察署にやって来たJayは、そこで兄が友人と共にPC関連機器の回収処理という事業をやっていたことを、現在は保安官補となっているかつてのクラスメイトRob Turleyの口から初めて聞かされる。兄の拘留理由は、現在行方不明のそのビジネスパートナーの 失踪に関与しているのではないか、という疑いによるものだった。兄は友人の失踪直前に、激しく口論し、脅迫的言辞も発しているところが目撃されていた。
何とか兄Chrisを警察より引き取り、自身のアパートに連れ帰る。そこで兄の仕事について話しを聞くと、PC関連機器の回収業は実際にやっているが、その隠れた目的はそこに残った個人情報の引き出しという悪徳業者。そしてそこからすごい情報を 見つけた、と興奮気味に話すChrisだったが、大して聞く気も起きずに寝てしまい、翌朝にはアパートから彼の姿は消えていた。
兄の問題を抱える一方で、元恋人Jennyからは、現在交際中の男が新しい仕事が見つかり、息子Aidenと共にAshtonを出ると告げられる。親友Charlie Finnの家に行き、愚痴を垂れるJayだったが、そこで見覚えのない番号から携帯に電話が来る。 聞き覚えのない男の声は「コンピューターを間違って廃棄してしまった。取り返す必要がある。金は払う」と言って来るが、なぜ自分の携帯にかかって来たのかすら分からず、困惑するJay。通話の最中に着信があり、一旦保留にして切り替えると、 それは警察からだった。Turleyは行方不明だったChrisのパートナーPete Naginisが、死体で見つかったと告げる。
証拠はないが成り行きから、Chrisは第一容疑者と目される。近くの都市コンコードからも捜査のため刑事が来ている、とTurleyは話す。何故、ジャンキーの殺害事件に都市の刑事が?
JayはCharlieと共に、兄Chrisがパートナーとやっていた回収処理業の所在地を訪ねてみる。そこにはもちろん、Chrisの姿はなく、ジャンキーとバイカーのたまり場となっていた。
途方に暮れるJay。親友Charlieは、彼の友人で保険会社の調査員をやっているFisherを、事件調査のため呼び寄せる。Charlieに呼ばれ、行きつけのパブDublinerで三人で話した後、帰宅するとJayのアパートは何者かに徹底的に荒らされていた。 兄が何かを見つけたと話し、それの取り戻しを図っている何者かの仕業か?困惑するJayを、逃げ遅れポーチに潜んでいた犯人が襲撃し、Jayは意識を失う。
家主の通報でやって来た警察により、Jayは意識を取り戻す。兄の犯罪容疑に関わるPCからの情報抜き取りについては、Turleyに話してはいないし、関係があると思われる前の不審な電話についても伝えてはいない。部屋を荒らした襲撃犯については 心当たりもないというしかない。同行したコンコードからの刑事McGreevyについては不審な印象が感じられる。
翌日、またかかって来たTurleyからの電話で、JayはChrisがGerry Lombardiの家に押し入ったところを目撃されたことを知る。Gerryの留守中、彼の書斎に忍び込み、机を探っているところを、彼の妻が見つけ、Chrisは直ちに逃げ出し、依然行方知れず ということだ。Lombardiは地元の名家で、Gerry Lombardiは現在の家長。そして、Chrisのハイスクール時代からの続くレスリング部のコーチを勤めている。Chrisの目的は何だったのか?
Chrisの行方を捜すJayは、数年前兄のガールフレンドとして紹介された女性Kittyを思い出し、何らかの手掛かりを得られないか連絡をつける。そして彼女から、Chrisが地元のトラックステーションで、ドラッグ代や生活費を得るため、身体を売っていたことを知る。 Jayは親友Charlieの手を借り、兄を捜しトラックステーションへと向かう。
雪のトラックステーションで、JayとCharlieは二手に分かれ、Chrisの手掛かりを探す。CharlieがChrisを知っているというドラッグ中毒を見つけ、振り回されている間、Jayは隣接するモーテルで暮らす中毒者の娼婦の少女と話すが、双方ともChrisに関する 手がかりは掴めない。その一方で、Lombardi家の息子が経営する建設会社により、トラックステーションが近い将来閉鎖され、何らかの再開発が進行中であること、またその下準備のためか強面の連中がうろついているなどの噂を聞きつける。
その後の状況について聞くためTurleyに電話したJayは、話の中でコンコードから刑事が来ている理由として、州議会議員であるLombardi家の長男、Michael Lombardiの再選が近づいているため、治安の悪化が好ましくないからという理由も聞く。 あちこちから聞こえてくるLombardi家がらみの話は、偶然か?
そして翌日、Charlieを送って行ったところで、保安官であるPat Sumnerが現れ、Chrisが今度はLombardi建設の建築現場に忍び込んだところを、監視カメラに発見されたと伝えてくる。そして続けて、経営者である次男のAdam Lombardiが、Jayに 会いたがっているとも。
Patと共にその建設現場に向かうJay。Adam Lombardiが二人を迎え、監視カメラの映像を見せる。Chrisとは同級生で、同じくレスリング部に所属していたAdamは、当面告訴するつもりはないと伝える。しかし、Jayと二人きりになったところで、Chrisが 持っているものを返して欲しいと持ち掛けてくる。そこでJayは、一連の騒動の中心となっているChrisが手に入れたものが、Lombardiのハードディスクであることを知る。
無能な社員による手違いにより、Chris達のショップに流れてしまったハードディスクだが、重要なデータも多く含まれており、何とか回収したいとJayに訴えるAdam。その時通りがかったトラックから降りてきた男を、Adamはセキュリティ担当として 紹介する。Erik Bowmanと紹介された首に星形の入れ墨のある男は、Chrisのショップにいたバイカー達の中の一人だった。
その後Jayは、地元パブでCharlieとFisherと合流。Fisherの調査により、トラックステーションの再開発は、州議会議員であるLombardi家の長男Michaelの開発会社が関わり、そこからAdamの経営する建設会社へと受注されていることが判明する。 公共事業がそのような形で身内間で受注されるのは違法だ。現在は巧妙に隠されてはいるが、その事実を明確にする証拠が、Chrisが手に入れたハードディスクに隠されていたのか?そしてAdamは何のためにバイク・ギャングをセキュリティに 雇っているのか?
疑問を抱えたまま、Jayは息子Aidenの顔を見るためにJennyのアパートへ。Aidenを寝かしつけた後、Jennyと二人きりになり、衝動的に愛し合い、関係を取り戻せないかと説得しているところで、同居している男Brodyが帰宅して来る。JayとJemmyの 様子を察し、一触即発となったところでドアにノック。Jennyが玄関を開けると、そこにいたのはChrisだった。
あっけにとられる一同。Jayに「お前と話さなきゃならなかったんだが、お前のアパートは見張られてて近づけなかった。ドアの外で聞き耳を立てていたんだ」と話すChris。Jennyに向かい、こんな屑とは別れてJayと一緒になれよ、と話す。怒り掴みかかる Brody。体格的にも劣り、ドラッグでやせ細ったChrisだったが、かつてのレスリングの腕は残っており、Brodyを簡単にいなし腕を折る。
Jennyに救急車を呼ぶように告げ、Chrisをアパートから連れ出すJay。車に乗せ、安全な場所としてLamentation山中へと向かう。車を停め、これまでの経緯について問い質す。Jayは友人たちの力を借り、調べた自分の考えを話す。あのハードディスクに入って いたのはLombardi兄弟の公共事業不正受注の証拠なんだろう?
だがChrisの答えは違っていた。自身のバックパックからケースに収められたCDを出し、Jayに話す。これは例のハードディスクからコピーしたものだ。これの中にはまだ幼い少年たちがレイプされている画像が入っている。やっているのはGerry Lombardiだ。 だがこれだけではそれを証明できない。もっと確実な証拠を手に入れるためにLombardiの地所に侵入したが、見つからなかった。とにかくこれを見てくれ。
にわかには信じがたい話に戸惑いながら、兄Chrisと押し問答するJay。とにかくここから離れようと、車を動かそうとしたとき、サイレンを鳴らしながら警察車の一群が道を上って来る。
ここに警察を手引きしたのはJayだった。Jennyのアパートを出る際、Chrisに悟られないよう彼女に耳打ちしたのだ。Chrisもそれを察し、諦め顔でバックパックを残したまま、車から降り、おとなしく警察に捕縛される。そこに新たに一台の車が現れる。 降りてきたのはAdam LombardiとセキュリティのErik Bowmanだった。
AdamはChrisのことをずいぶん心配していてな、と保安官Patは警察からの連絡で彼がここに現れた理由を話す。Adamは建築現場でJayに話したのと同様の、取り繕った表向きの事情を話し、Chrisがハードディスクかコピーを所持している可能性があるとして、 保安官からChrisのバックパックを調べる許可を得る。Bowmanはバックパックを探り、CDの入ったケースを見つける。保安官の了承を得て、それはAdamによって持ち去られる。
町に戻ったJayは、パブDublinerでCharlieを見つけ、コンピュータが必要だと言い、隠しておいたCDを見せる。実は事前にすり替えておき、Adamが持って行ったものは車内にあった音楽の入ったCDだった。彼らはCharlieの自宅へ行き、Fisherの到着を待ち、 CDに入っていたファイルを開く。中に入っていたのは大量の幼い少年がレイプされているあまりにも陰惨な写真。だが、Chrisが話していたように、行為者の顔は加工され隠されており、Gerry Lombardiをよく知るJayにはそうらしいと分かるが、人物を 公に特定できる証拠とはならない…。
現在の状況を話し合う三人。とりあえずChrisは警察にいればAdam Lombardiからは安全だろう。だが、話の中でコンコードからの刑事McGreevyの名前が出た時、Fisherの顔色が変わる。「それは死んだ男だ」Fisherの勤める保険会社の顧客で、つい数週前に亡くなり、 調査の対象となっていたのが、そのMcGreevy刑事だった。死んだ刑事のバッジを持った偽物?
慌てて警察署へ電話を掛けるJay。だがその時既に、McGreevy刑事を名乗る者により、Chrisはコンコードへの搬送のため車に乗せられ出発したところだった。
電話を放り出したまま走り、自身のピックアップトラックを発車させるJay。町から出るルートを様々に思考する。その時、相手がまずChrisを誰にも見られず始末する可能性を思いつき、山へ向かうルートを選択する。
しかし、いくら走っても車の影も見当たらない。もう別のルートで手の届かないところまで行ってしまったのではないか?絶望しかけた時、曲がりくねった山道の前方にテールライト!そして後部座席で手錠に繋がれたChrsの姿を見つける。
追い越し、前方に回り込み車の停止を試みる。衝突!偽刑事の運転する車は、Chrisを乗せたまま道を外れ、道路沿いの斜面を転落して行く。
斜面を降り、慎重に事故車に近付くJay。運転席の偽刑事は首を折り既に死亡していた。後部座席のChrisからは、うめき声が聞こえる。Jayは男の死体を探り、手錠の鍵と彼が持っていた銃を取り、Chrisを救い出す。
Jayが一時的な避難先として思いついたのは、仕事として請け負っていた持ち主が死亡した家。怪我と寒冷で低体温となったChrisのため、急いでで暖炉を燃やす。
やっと落ち着いたChrisだったが、全ての試みが潰え、無気力捨て鉢になるばかり。そしてChrisがJayに向かって言う。
「あれは俺がやった」一瞬、兄が何を言っているのか分からず戸惑うJay。パートナーだったPete Naginisのことか?そんなはずは…?
「俺がブレーキに細工した。どこを通るかもわかっていたんだ」そしてJayは、兄が話しているのは両親の交通事故のことだと気付く。
「嘘だ。なんでそんなことを…?」
「お袋だってずっと知っていたんだ。俺は親父が俺にやったことをお前にやらせないために…」
「嘘だ!」Chrisに殴りかかるJay。ChrisはJayの拳から身を守ることすらしない。
「Lombardiだったんだろう?奴がやったんだろう?だからあんたは奴を嫌ってたんだ。これはみんなそのためだったんだろう?」
「親父がそんなことするはずがない!嘘だって言ってくれ!そんなことはなかったと言ってくれ!」
「俺はずいぶん沢山ホラ話を並べてきたよ」Chrisは言う。「もうどれが本当だか分からなくなっちまった」
その時、室内は窓からの強い光に照らされ、ラウドスピーカーからの声が響く。「手を頭の上に置き出てこい」
いつの間にか、家は到着した警察隊に包囲されていた。
窓から外の様子を窺うJay。そして突然の衝撃が襲い、彼は床に倒れる。
彼の横を走り抜け、ドアへと向かうChris。そして銃声が響き渡り、Jayは意識を失う。
Jayが脳震盪から目覚めたのは、全てが終わった後の病院のベッドの上だった。彼はそこで、兄Chrisが彼を殴り意識を失わせた後、拳銃を振り回しながらドアから飛び出し、取り囲んだ警官隊からの複数の銃弾により死亡したことを知る。事実上の自殺だった。
偽警官を追った一連の行動でのJayの行為は、罪に問われることはなかった。Chrisに腕を折られた後、Brodyは戻ることはなく、JayはJennyとよりを戻し、Fisherの紹介により保険会社の調査員の職を得て、息子Aidenと家族三人でAshtonの町を出ることが語られ、 物語は終わる。

ずいぶん長くなってしまったが、全部書けば長くなるのは当たり前か。もっと短くまとめられたのではとも思うが、続きを書く上でこの出来事は重要、とかこの人間関係を詳しく書いておかなければ、などで長くなってしまった。でも結局は私自身のこの作品への 思い入れかなどとも思ったり。何とか少しでも短くコンパクトに、と思うばかり行間も詰めたままで、結構読みにくくなってしまったなら申し訳ない。
この作品についても言うべきことは多々あるのだが、とにかくは今回メインの第2作『December Boys』に進むです。


【December Boys】


Jayは初春の冷たい雨の中、車の中から目の前の工事が中断された建設現場を見つめていた。看板には"Lombardi Consutruction"の文字。
だが、彼は何かの目的をもってここにやって来たわけではない。現在就いている保険会社の調査の仕事で、ある家を訪問するはずが、道に迷い続けここにたどり着いてしまっただけの話だ。
最悪だった昨年の冬を思い出させるような、最も来たくない場所。

Jayは車を回し道を戻り、目的地への探索に戻る。目的のOlisky家が見つかったのは、それからさらに一時間後。
修理の途中で放り出した様子もうかがわれるあまり経済的に恵まれていなそうな家で、彼を迎えたのは一人の少年。保険契約者Donna Oliskyの16歳の息子、Brian Oliskyだ。
道に迷い時間も遅くなっているため、Jayは仕事で不在の母親に代わり、事故当時車に同乗していたBrianで確認程度の手続きを済ませようと考える。
渋っていたBrianだが、同意しJayを家に迎え入れる。
事故状況は、学校を早退し検診に向かう息子Brianを、Donnaが車で送る途中、電柱に衝突したというもの。
記入状況を確認するぐらいのやり取りの間、Brianのやたら落ち着かない様子が気になったが、Olisky家の窮乏状況も目に入り過ぎていたJayは、多少のことには目を瞑ろうと思いつつ手続きを終える。

帰ろうと立ち上がった時、マントルピースの上に飾られた写真やトロフィーが目に映る。写真のBrianと見える少年はレスリングの選手のようだ。
かつては優秀なレスリング選手だった兄、Chrisのことが頭をよぎる。
「君はレスリグをやるのかい?」
「いえ、それは兄のCraigです」
「よく似てる。双子みたいだね」
「双子でした。でした、と言うのは…」
「双子だったのかい?」JayはBrianの言いかけた意味をよく考えずに応える。
「彼は死にました」
Craigの写真を手にしたJayの手が止まる。「すまない…」

「鎮痛剤とアルコールで」感情を交えずに言うBrian。
「父はその後家を出て行った。父さんにとって息子はCraigだけだったんだ。そして僕と母さんだけが残った」
「母さんは外れくじを引かされたんだろうって時々思うよ」
「スーパースターとじゃ比べ物にならないよな」

自分と兄との関係にも重なるところもあり、声も出ないJay。その時、Brianがぽつりと言う。
「僕がやったんだ」
「何だって?」
「事故だよ。僕が運転してた。母さんは仕事だったんだ」

保険契約者は母親であり、Brianが運転して事故を起こしたのならもちろん保険金は支払われない。そしてこの件自体が不正請求に当たる。だが、彼らの生活状況から見て、保険金もなければ車の修理費すら重圧となるだろう…。
半ば思考停止のまま、帰宅するJay。
第1作の事件の後、よりを戻したJayとJennyは結婚し、勤める保険会社の支社に近いPlastervilleに家を借り、息子Aidenと三人で暮らしている。
だが、現在彼らの関係はあまりうまく行っていない。
携帯を忘れたまま出掛け、連絡が取れなかったことに文句を言うJennyに始まり、言い争いはエスカレートして行く。
Jay自身の現在の仕事への様々な不満。彼が前年冬の兄の事件にこだわり続け、Lombardi一族を憎み続けていること。その件で通い始めた精神分析医のセラピーにもっと行くべきだ。煙草をやめるべきだ、等々…。

定職に就き健康保険に加入できたため、Jayは精神分析医のセラピーを受けるようになり、パニック障害の診断を受けている。
だが、セラピーでも兄の事件の真相-兄が最後に語ったこと、Gerry Lombardiの少年への性的虐待については話してはいない。そして当のGerry LombardiもChrisの死後、心臓発作により亡くなっている。

Jennyとの言い争いの末、家を飛び出したJayは、現在の住所Plastervilleから西へ50マイルほどの、古巣Ashtonへ向かう。お馴染み行きつけのパブDublinerに親友Charlieを見つける。
近況やJennyとの諍いなどに愚痴を垂れ、したたかに酔い、帰路現在は保安官となったRob Turleyに車を停められたりしながら、Charlieの家へ行き、その晩は彼の家のソファで眠る。

翌朝、自宅へ戻った時、家にはJennyの姿はなかった。土曜でもあり買い物に出かけているのだろうと思い、また一方で気にかかっているBrian Oliskyの件なども週明けまでは保留としようと考える。
その時、テーブルの上にJennyからの書置きを見つける。JennyはAidenを連れ家を出て、彼女の母親の許へ行っていた。
裕福な家庭の出身であるJennyの母親は、以前からJayのことをよく思ってはおらず、結婚にも反対していた。

電話でJennyとAidenと話し、感情的にならずいくらか落ち着いて話せたことで、自分を安心させるJay。
コーヒーを手にガレージへ向かう。その片隅のキャビネットに、新聞からの切り抜きなど、兄Chrisの事件に関係する書類を集めたバインダーが収められている。
眠れぬ夜などに、ここにこもってそれらを見つめることも多い。だが、いつまでもそこから離れられないことが、自身の精神状態からも多く起因する現在のJennyとの不和などを招いているのではないか?
Jayはそれらを処分し、忘れることを考える。

月曜の朝、保険会社に出社すると、Jayは同僚からのちょっとした祝福、好意賛同を持って迎えられる。仕事で大きな成果を果たしたかのような印象。
考えられることとしては、Olisky家の不正請求の発見だが、Jayはまだその報告すらしていない…?
その後、上司Andy DeSouzaに呼ばれたJayは、金曜の午後Jayが戻らなかったことから彼自身がOlisky家に電話をし、既にJayに告白したBrianから事故の真相、その件が不正請求であることを聞いていたことを知る。
不正請求の発見は、Jayによる大きな成果であり、これはこの支社のあるPlastervilleより大都市、コンコードへの昇進転勤へとつながるとほめたたえるDeSouza。
窮乏からの出来心であり、根本的には悪い人間ではないOliskyへの罪悪感は払えないが、コンコードへの昇進は現在家を出ているjennyとの不和解消のための大きな材料となると、自分を納得させるJay。
だが、自身のデスクにJayが戻った時、彼に向けて外線からの電話がかかる。

涙声で電話をしてきたのは、Brianの母親であり、不正請求の当事者であるDonna Oliskyだった。
困惑し周囲の様子を窺いながら電話を受けるJayに、Donnaは泣きながら言う。
「今朝、私の息子が逮捕されたんです」

オフィス内で話すことを躊躇い、いったん外に出て自身の携帯から掛け直すことにするJay。何があったかわからない。ああいった不正請求ぐらいのことで、警察が直ちにティーンエイジャーの少年を逮捕するとは思えない。
だがDonnaの話では、今朝朝食中に警察がやってきて、その件でBrianを逮捕したとのこと。更にその後、警察に問い合わせたところ、午前中に裁判所で罪状認否が行われるということだ。
そんなはずはないだろう。警察の手続きがそんなの早く進むはずはない。Donnaの勘違いではないかと思い、電話を切った後、自身で警察に問い合わせてみる。だが、警察の受付の話ではそれで間違いがないようだ。裁判所にも掛けてみるが、 こちらは自動音声案内でらちが明かない。Jayは、報告書を仕上げる前に調べたいことがあるという口実で、自身で裁判所に向かう。

Jayが裁判所に到着したのはランチタイムに近い時間。Brianに関する件がどこで進行中なのか把握することもできない。
途方に暮れてあたりを見まわし、片隅の受付ブースに気付く。座っているのは鼻や口にピアスをつけた、あまり裁判所らしくない若い女性。おそらく法律学校関係のインターンだろう。
Jayは彼女にBrianの件を話し、何かわからないか尋ねる。事情を訊き、そんなに早く手続きが進むはずがないが、と言いつつ手元の資料を調べていた彼女は、そこにBrianの名前を発見する。
Jayに興味を持った様子で、勤務が終わった後で一杯おごってくれるなら少し調べてあげる、という女性。
彼女のお遊び気分に付き合うべきではないと思いつつ、電話番号を交換する。彼女の名はNicki。

これ以上裁判所をうろついていても有益な情報を得られそうにない。その一方で、ここからJennyの母親の住むコンドミニアムはそれほど遠くない。昇進、大都市への転勤の可能性はjennyとの関係改善に有効な話だ。
Jayは昼食に食べたもののせいで体調を崩したと連絡し、午後の仕事を休み、Jnnyの母親の許へ向かう。
到着するとJennyとAidenは留守で、彼女の母親が迎える。うわべだけは親しげにJayにjennyはコンドミニアムに住む自分の友人と昼食に出かけ、もうすぐ帰ってくると告げる。
少しの後、Aidenを連れて戻って来たjennyは、投資銀行に勤めるという男と一緒だった。
男の態度が気に食わず、俺の家族に近付くなと詰め寄るJay。感情的になり、しまったと思ったときは既に遅く、それによりjennyとの関係改善は遠のいてしまう。

当てもなく裁判所へ戻る道すがら、全て母親が仕組んでいたことで、Jayの最悪なタイミングでの登場にほくそ笑んでいるだろうと気付き、落ち込むJay。
携帯が鳴り、またDonnaからかと思いつつ表示を見ると、それは昼に裁判所で出会った女性Nickiからだった。Jennyとの失敗で気乗りしないまま、指定された裁判所近くのバーに向かうJay。
そこでNickiはJayに、Brian OliskyはRoberts判事により、矯正施設に送られることになったと伝える。
そんな馬鹿な話があるか?どう見たってBrianは危険な不良少年タイプじゃない。そもそもそういった施設への入所には両親の承諾が必要であり、今日のDonnaの様子ではそんなに簡単にサインするとは思えない。
そんなことが通るはずはない、何かの間違いだと一笑に付し、何事か言いたげなNickiを残しバーを出るJay。

そのまま帰路に就いたJayは、突然背後に現れたパトカーに停車を命ぜられる。
特に心当たりもなく、車検証を探すJayを、二人の制服警官は引きずり出し、いきなりの暴行を加える。そしてJayの身元を確認し、逮捕もなくそのまま立ち去る。
途中に警官の一人の口から発せられたNickiの名?彼女の交際相手からの逆恨みか?

全く理解できないまま、その夜もAshtonへ行き、Charlieと飲んで、翌朝出社する。
直ちに上司DeSouzaに呼ばれる。その口からNickiの名が出て、昨日の会合について詰問される。
彼女は、彼女には権限のない裁判所の書類を不正に閲覧したことで解雇の上追及されており、その件により警察から照会があったとのこと。
司法に関わる問題を起こしたことで、Jayは自宅待機を命じられる。

釈然としないまま帰宅したJay。玄関のブザーの音にJennyが戻ったかとドアを開けると、そこにいたのはNickiだった。
家に入ったNickiは、自分は裁判所内で起こっている不審な事態を調べているところを見つかり、解雇されたという。その事態とはBrianの件をも含むことだと。
Brian同様、微罪にも当たらない程度のティーンエイジャーが、同じRoberts判事により次々と同じ施設へと送られている。何らかの不正が行われているのは確かだ。
だけど私一人ではこれ以上どうもならない。調査に協力してほしい。あんたは善人でしょう?あたしにはわかる。
だが俺は今は自分の生活を立て直すだけで精一杯だ。協力などできない。
そうしてキッチンテーブルの前で押し問答しているところに、Jennyが帰宅し、Jayは更に厄介な立場へと追い込まれて行く…。


兄を救えなかった後悔と、自分と重なるところの多い少年を救いたいという思い、その一方でJennyとAidenとの生活を守るため職を維持する必要との間で板挟みになりながら、次第に事件に巻き込まれて行くJay。
野次馬的に調査に加わって来るCharlie、Fisherの協力をも得て、徐々に明らかになって来る青少年矯正施設をめぐる疑惑。精神的に追い詰められ、パニック障害に苛まれるJayに、脅迫的に迫る影。
そして調査を進めるJayの前に、仇敵Lombardiの名が再び浮かび上がってくる…。

第2作の序盤では、会話やら回想の形で第1作の事件への言及が多く、まあもしかしたらそちらを読んでいなくてもそれほど苦労なくストーリーに入り込めるのかもしれない、と改めて思ったりしたのだが、やっぱ第1作を読んでいる奴の言うことなので、 どうとも言えない。結局のところ、ちゃんと第1作についてやっとかなかったのが悪いというところに至ってしまうのだが…。
いずれにせよ、次作ではリセットされ新たな事件へという旧タイプのシリーズものではなく、前作のストーリーを大きく引継ぎ、続き物というような形になり、主人公=探偵が事件の当事者ぐらいの立場で深くかかわって行く現代のハードボイルド・シリーズの 傾向に属するもので、もはや「第何作が最高傑作」みたいな三流評論家知ったかぶりかっこつけは全く通用しない時代なんで。

第1作では定職のない田舎町のルーザーとして、緩い感じの仲間と事件に関わった主人公Jay Porterだったが、第2作では保険会社の調査員として、事件に巻き込まれて行くことになる。が、ルーザー、社会にあまりうまく適応できない気質はそれほど変わらず、 ちょくちょく地元Ashtonへ帰り、親友Charlieに近況の愚痴を垂れながら飲んでいるうちに、Fisherを加えた中年探偵団が動き出す展開。
ややネタバレになるが、まあこの辺まで読んで大抵の人は想像つくだろうが、保険会社の調査員という職も続かない。あ、この展開なら当然そうだろぐらいで言っちゃったが、実は立場上厳しい対応が多かったが上司は人情家で陰で主人公のため 奔走し、最後にはそれもわかってこの会社で頑張りますが、日本のサラリーマンストーリーのパターンか?

そういうわけで、第1作のラストで調査の仕事に就くというところが言及され、てっきりここから探偵Jay Porterシリーズが始まるかと思ったのだが、どうもこのシリーズそうならない様子。
第1作『Lamentation』でシリーズが開始されたのが2014年で、この時期は電子書籍の勃興期で、増大したアメリカの読者方面からの需要により、多くのシリーズ作品が出版されていた印象がある。Joe Cliffordもその流れに乗る感じでこのシリーズを始めたが、 そもそもそういう形のシリーズを書く意図はなく、ちょっと引っ掛け的にやったのか、こちらがそう思い込んだだけの話か?あるいはそういう方向を一旦は考えたが、うまく行かず路線変更したという場合もあるのかも。まあこの辺本人しかわかんないとこだろうけど。
いずれにしてもこのシリーズは、主人公Jay Porterが依頼などの形で関わる様々な事件を解決して行くという方向ではなく、パーソナルに自己を巻き込んで行く状況と闘うというものになって行くようだ。もちろんそれならその方向で、読み続けJoy Porterと いう人物を追い続けて行かなければならない大変魅力的なシリーズなのだがね。まあこの国でもちょっと前ぐらいは、例えばこの第1作『Lamentation』を読んで「公共事業をめぐる陰謀だと思って読んでいたら、個人的なトラウマというような方向にスケールダウンして がっかりした」みたいなこと言いだしかねない、スケール小さいクレーマーみたいな頭の悪いお利口が大手を振って闊歩してて、今でもそのレベル多く潜伏しとるんやろけどね。

現在はやや電子書籍の勢いも落ち着いたか、出版状況も変わりシリーズ物よりも単発物が求められている感じ。これ読者のニーズ的方向で分析的に話す奴いるけど、結局出版社側の事情でしょ。シリーズで長期的にやってくより、単発一本釣りでリスク軽減したいみたいな。そういう事情か、そっち方向で作家活動をしたいのかは不明だが、Joe CliffordはJay Porter5作の後は、単発作品が続いている。
まあ何度も言うとるが、こういう業界観測分析的なことは大嫌いな私なんで、話の流れとは言え、なんか余計なこと書いて時間使っちまったか。

兄がドラッグ中毒という設定は、Ray BanksのCal Inns四部作とも共通するものだが、近年の英米方面では割と聞く話なのではないかと思う。と言ってすぐに出てくるのは、コミックの方でなかなか書けてないんだがバイオグラフィー的作風の、アメリカの Julia Wertzの作品でも兄がドラッグ中毒で施設を出たり入ったりしているということが度々語られているとかだけど。例えば親戚や友人ぐらいまで広げれば、大抵の人が家族にドラッグの問題を抱えている人を知っているぐらいのことになってるのかもしれない。
これは欧米はドラッグの問題が深刻、みたいな言い方で他人事で片付けられるものではないのかもしれない。例えば同じぐらいの割合で、自分の知人範囲内に引きこもりであったり、あるいは鬱病の家族がいて悩んでいる家庭があるのが日本の現状なのではないか。
少年時代の性的虐待が引き金になり破滅して行くChrisは、実はこういう人達とそれほどかけ離れているものではないのではないか。
なんか社会問題について真剣に語るガラでもないとか思ってしまうのだが、「社会的弱者」という分類も雑で傲慢かと思うが、そういう人達がそういった縁にいてその向こうになだれ落ち始めているのかも。「ツレがヤク中になりまして」なんてのがベストセラーに なる日も遠くないのかもね。
ハードボイルド/クライムジャンルは、こういった様々な形で、単に「病んだアメリカ」に留まらない現代社会の歪を描き出して行く小説ジャンルである。アメリカの話で、日本は「警察呼べ」で万事解決と思ってる人にゃカンケーないかね。

第2作である今作『December Boys』は、書いたとこまでだとややネタバレかもしれないが、過剰に少年犯罪に脅える社会状況に付けこみ、そこから利権を得ようと企む動きにJayが巻き込まれて行く。だが、実際にそこで追い込まれて行くのは微罪で社会に害を 及ぼすとも思えないBrianのような少年少女達。
一方で理想的で美化された子供論に基づき安直に表現を弾圧し、その一方で過剰に若者世代の行動に怯えるこの国でもありえない事態ではないのかもしれない。あー念のため言っとくと、日本以外のハードボイルドには「若造いびり」なんて悪習ないからね。
そして主人公Jay Porterはそもそもそれに対する社会的義憤といったものに立ち上がるような力も余裕もないまま、よりパーソナルな形で巻き込まれて行く。
ハードボイルドの歴史すらきちんと整理すらされていない状況で、ハメット、チャンドラーと強引に比較するような論評には全く意味がない。日本国内的思い込みイメージの「ハードボイルド」からのアンチぐらいの出鱈目な解釈が横行している、1970年代ネオハードボイルドなんて ものと安直に結びつけることも害悪でしかない。
本当に数少なく翻訳されているジャンルの良作、S・A・コスビー作品やジョーダン・ハーパー、ジョニー・ショーの『負け犬たち』、ビル・ビバリーの『東の果て、夜へ』といったところを読めば、Joe Clifford/Jay Porterがどんなアメリカに向かい合っているかが 見えて来るだろう。
Joe Clifford/Jay Porterシリーズはそれらの作品と同様に、すでに一世紀近くに及び培われてきたスタイル・視点を継承しつつ、現代アメリカをそこで暮らす者として描いた、現代ハードボイルドの最も注目すべき作品なのだよ。

作者Joe Cliffordは、生年などについては不明なのだが、1970年代半ばぐらいの生まれと思われる。コネチカット州出身。1992年に大学を辞め、音楽で身を立てるためサンフランシスコへ行くが、そこでの生活でヘロイン中毒となり、荒んだ生活を送ることとなる。 そこから約10年を経て立ち直り、フロリダ国際大学で創作を学び、作家の道を志す。ウェブジンの編集者などという形でも、現在のこのジャンルに長く関わって来た人でもある。
デビュー作は2013年の『Junkie Love』。自身のドラッグ中毒とそこからの復帰の経験に基づいた作品ということ。このJay Porterシリーズも、その経験と深くかかわるシリーズである。
何度も書いてるが、かつてウェブジン「Out Of Gutter」の編集に携わっていたころには、自身の紹介に「オレもずいぶん捕まったりしたが、ムショまでは行ってないよ」と書かれていた、いかにもな全身の入れ墨パーセンテージの高いオッサンだが、 どこか優し気な容貌などは、Jay Porterってこんな感じのやつなんだろうな、といつも思わせる。
以前初期の作品『Wake the Undertaker』について書いた時、作者の経歴などからもっと文学方向の重いものをイメージしていたら、意外とハメット『ガラスの鍵』的な設定を現代でやったようなエンタテインメント性も高い作品だったりもしたのだが、 このシリーズでもテーマの重さにもかかわらず、主人公Jay Porterの一人称語りには親友Charlieとのやり取りも含め、ユーモアも多く、またJennyとの関係では、それこそスラップスティック的なぐらいにまずい状況を作れるような、多彩なテクニックも 持ち合わせた実力派の作家である。

第2作のタイトル『December Boys』は、Two Cow Garageのアルバム『Sweet Saint Me』に収録されている「Jackson, Don't You Worry」という曲の歌詞から。曲の最初の部分である「Decenber Boys」を含む数行が、作品の冒頭に引用されている。
自身を取り巻く世界が崩壊し、絶望しかけている青年、あるいは少年に、大丈夫だ、立ち直れ、君は勇敢な祖先たちの末裔だろう、と歌いかける。日本でお馴染み応援ソングみたいな感じではなく、アルバム内でもこの曲だけ違う感じの、切々とした 曲調で歌われ心にしみる感じの楽曲。
Two Cow Garageはアメリカのオルタナティブカントリー・ジャンルに属するバンドで、2001年頃より活動を始め、『Sweet Saint Me』は2010年にリリースされた5枚目のアルバム。メンバーの脱退などで2017年頃以降は活動を停止している模様。
オルタナティブカントリーというのは、1990年代ごろから始まった音楽ジャンルで、大雑把に言うとカントリーミュージックとパンクロックの融合というような方向で始まったもの。ウィスキータウン、ルシンダ・ウィリアムズ、スティーブ・アール、 Uncle Tupeloといったところがジャンルを代表するところ。
以前から書いているように、現在のアメリカのハードボイルド/クライムジャンルは、カントリーノワールに顕著なように、地方、田舎方向への動きが活発。このニューハンプシャー近くの山間の田舎町Ashtonを主な舞台とする、Jay Porterシリーズも その流れに属するものなんだが、その辺の作品では作中でもカントリーミュージックへの言及も多い。前回のトム・ボウマン/ヘンリー・ファレルなんて親友とバンド組んでたぐらいだし、Anthony Neil Smith先生も、好きな音楽として以前色々挙げてたのは こっち方面。
実はあんまりきっかけがないぐらいの理由で、オルタナティブ以前にカントリーミュージックに馴染みがなかった当方なのだが、やっぱこの辺の作家たちのルーツに当たる部分なのかな、と思い始めこの作品を機にApple Musicを使って色々と聞き始めている。 他の音楽配信サービスとかには不案内なんだけど、多分プレイリストみたいなの何処でもあるんでしょ?そのへんのからオルタナティブカントリーとかアウトローカントリーみたいなのを流しとくぐらいの感じで聞き始めるのがいいかと。なんだかんだ言っても 例えばアメリカの映画のエンディングとかに流れて、いい曲だなと思ってもそのまま深く掘り下げず忘れちゃってるようなのにカントリーが多いわけで、聞き始めると割とすぐに馴染めるようになっている感じ。
別にこういうものが必須とか言うつもりは毛頭ないけど、アメリカのこの辺の作品を読む上で理解に役立つもんじゃないかと思います。

ところでハードボイルドと音楽ということでは近年で腹立ちが収まらんのが、ショーン・ダフィ『ポリス・アット・ザ・ステーション』のケツに擦り付けられた最低の汚物こと、法月綸太郎こじつけ「解説」…。あまりにひどすぎ読者の誤読をも誘発しかねないと いうところから、今一度厳しく糾弾しておくものであります。
まずは法月がこういうのでインテリジェンスを示せる~、と目をつけたアルヴォ・ペルト。そっち方向の承認欲求丸出しで得々と解説してみせ、「効果的に使われている」とかぬかす。
これについて言えば、参考のため来てもらったブルガリアの領事が帰れなくなって困っていたので、ダフィが奥さん実家に帰ってるし泊めてやるよ、と自宅に連れてきてペルトのレコードかけてあんたホモなのか、といわれるところ。まあ今日会ったばかりの 男が泊めてやると言って家に連れてきて、こんなのかけたらホモで誘ってると思われるよなあ、というかっこ悪いシーン。もしかしたらその前車のラジオで聞くところから仕込んでいたのかも。
続いてローソンの音楽の好みがガキっぽいとかぬかしてるところなんだが、これはローソンがヘッドフォンをしてるのを見て、ダフィが「何聴いてんだ?レッド・ツェッペリンか」ぐらいの感じで話すところ。
これは今時の日本でいえば、中年に差し掛かってるぐらいの先輩社員が若手後輩がヘッドフォンしてるのを見て、「何聴いてんだ?B'Zか?」とか言って苦笑される感じ。ダフィがオッサンぶりを晒すかっこ悪いシーン。まあローソンよりやや年下の マッキンティは70年代ロックを聴いて来た世代にこんな感じで話されること多かったんやろね、と思う。
つまり全編にわたりぐらい随所で音楽的こだわりをまき散らすダフィなんだが、その思い込みがスカるユーモラスなシーンというわけ。法月がそのへんちゃんと読めてないのは明らかだろう。どーせダフィとローソンの会話の内容なんて一方的にガキっぽいとか 言ってる時点でろくに理解できてないだろうしな。
まあこんな誤読をする法月の音楽観がどんなものか、誰でもわかるよなあ。要するに大学生かその少し上ぐらいで、ポピュラー・ミュージック全般ぐらいをガキ向けとして、周囲を見下しているうちにそのまま音楽的感性のほとんどを死滅させちまった インテリ気どりポンコツボーイの成れの果て。ガキ向けの音楽は「卒業」して、大人向けのものを聞いているボク大人。そもそもその発想がガキっぽいの極みなんだよ。 ちょっと前よくいた「自分が松田聖子を評価するのは歌が上手いからだ」とか言って音楽分かってる顔してたジジイ連中と大して変わんないよ。世の中で 言われてる「大人向け」の99%が、自分は安定成熟した完成品で、新しいものを受け入れたり成長する必要なんてないと思ってる俗物・愚物向けの「高級品」だろ。全く思いつかないが、まだ見ぬ1%のまともなものがあるかもと思ってるオレって謙虚だよなあ。 現代音楽最前線が使い捨てダンスミュージックぐらいに思われてるテクノから派生したエレクトロニカ、IDMみたいな部分と限りなく接近してる時代に、音楽に上下高級低俗大人向けガキ向けなんてものがあると本気で思ってんの? 伝統とか、歴史とか言ってみても、結局突き詰めていけば、財力の差みたいなことにしかならんだろ。まあ自分をインテリエリート上級層だと思ってる法月みたいなやつの価値観なんてそんなもんなんだろうな。
ついでに言っとくと、杉江松恋の噴飯物の「筆が走りすぎ」につじつまを合わせてこじつけたテレビドラマへの言及なんかにしても、本当に話にならん。単に自分によくわからなかったり「インテリエリート上級層」の観点から自分が気に入らない 俗っぽ過ぎると思うものを叩いてみてるだけ。
ハードボイルドジャンルは、常にその時代をリアルに描くために、その時代の風景・カルチャーを描くことをスタイルとしてきたわけで、結構アメリカからのものがかっこいいと思ってきた世代のダフィが『マイアミ・バイス』について話したところで、 若い世代のローソンが自国産の『宇宙船レッド・ドワーフ号』に夢中になってたなんてのはいかにもその時代の英国を描いた気の利いた描写だろ。
結局さあ、法月がダフィ一人称で書かれてる、ぺルトの件やローソンの話を表面そのままに誤読したなんてのは、日本の国産ハードボイルドに見られる一人称=私小説=主人公俺的な考えに基づく、自己陶酔型俺のこだわり全面的正義ゴリ押しみたいなもんしか 読んでこなかくてハードボイルドがそういうものと思い込んでたってのも原因の一つなんだろな。ホントそーゆーのも日本のハードボイルド思い込み誤解の一例なんだけどさ。
こんな「インテリエリート上級層」老人会でしか通用しないような狭量な法月のカルチャー観からの誤読を「解説」などという形で読者に押し付けるのは暴挙としか言いようがない。その他完全に終わった古臭いミステリー的思考の型に無理やり押し込んだ 形での分析や、バカバカしいにもほどがある「迷宮と鏡」こじつけなど、法月綸太郎などというものが現代最新最前線のハードボイルドを語るには全く不適格な人物であることは明白だろう。そもそもがさ、他人の本に属する「解説」なんてところで、 小娘、ガキっぽい、承認欲求など、読者を不快にさせる可能性もある言葉を平気で並べ立てるなんて、私が引っ越す前に近所に住んでた誰彼構わず乳揉んでくるボケジジイと変わんねえんじゃないの。もう外に出さない方がいいんじゃない?
『ポリス・アット・ザ・ステーション』の法月解説というのは、読書のプロ暗黒時代に甘やかされ続けてきたミステリ評論家層がいかに劣化したかを表す見本といえるだろう。翻訳書における「解説」というのは、そもそも日本人にはなじみが薄い 海外の作家や作品について詳しく説明しておくためのものだったのだろうが、長い年月と読書のプロ暗黒時代を経て、どうせ本人読まないんだろうから何書いても許されるミステリ評論家のためのフリースペースへと劣化した。本来の目的に戻り 精々4ページぐらいでまとめろよか、廃止されるのが望ましいというのが私の意見である。
なーんかね、法月についてはしつこいと思ってる人もいるんだろうが、これは近年最大とも言えるミステリ災害なのだ。しかもこの災害、一過性のものではなく、今も作品の後にコバンザメの様に張り付き、あたかもこの作品に対する出版社の正統な評価・評論 のような面をして新たな読者に向け、新たな災害を起こし続けているのだ。この時代の重要作として残り続けるこの作品に、長き未来に亘ってこの汚物は張り付き続けるのだ!ホントふざけんなよ!これがこの法月被害の実態なのだ! 災害は忘れた頃にやって来る。悲惨な法月「解説」のような災害をミステリで二度と起こさないためにも、訴え続け、語り継がれて行かねばならない。法月災害を忘れるな。

「法月災害を忘れるな」をミニ番組か長めのCMぐらいで挟むつもりが思ったより長くなった。早口で読んでね。『てーきゅう』みたいに。こうやってアニメとかサブカルみたいなもんに楽屋落ちで言及すんのが、承認欲求で「筆が走りすぎ」なんだってさ。笑うわww
途中で書いてた、現在シリーズ物が出にくくなっている状況についてなのだが、まあ業界観測駄話は置いといても、少しシリーズ物が見つけにくくなっている状況はある。ただ、作家自体にはそういうものを書きたいという欲求はあり、現在は自費出版でも 電子書籍で簡単に手に入る時代でもあり、そういった方向にも広げて新しい動きも探して行かなければな、とも考えている。その他、最近Down & Out傘下を離れたShotgun Honeyからも、Nick Kolakowskiらのシリーズ物がいくつか出てたりとか、そういった インディーであったりという方向にも多く目を向けて行くべきかとも考える。Eric Beetnerが移籍したRough Edges Pressとかもまだよく見てないしな。
一方で、ミステリ=謎解きという時代遅れの考えが、探偵など主人公のいるシリーズものばかり重視し犯罪小説を軽視するという形でジャンルの全体像を歪めてきたという結果を現在まで引き摺っていると言う考えから、その辺を区別せず等しく読むべきだ とも考えるのだが、やはりシリーズキャラクター物がその時代を強く描き出すという考えもあり、そこのところはできるだけこだわって行きたいとも思うのである。あー、とにかく力の限り読め。布団でゴロゴロして読んでるとよく寝ちゃうけど。

最後に最近の翻訳注目作を二つ。ハヤカワポケミス12月刊行のイーライ・クレイナー『傷を抱えて闇を走れ』。しばらく前一部で注目されてた作品で、一昨年ぐらいかにセールになってるの見かけて買っといたやつが、思いがけなく翻訳出た。持ってるので 多分買わないと思うけど、なんか読むもの捜してる人いたら一応おススメ。そんな悪くないと思うよ。多分だけど。

意外にもこんなのが出た。ホレス・マッコイ『屍衣にポケットはない』。マッコイが日本で出ることなど二度とないと思っていたので、ちょっと嬉しい。まーなんか新潮文庫ノワール原理主義路線みたいな匂いもするけど。昨日本屋行って見つけたばかり。 喜んで買ってから一応解説確認したら杉江…。わざわざ先に読む気もせんけど、災害になってないといいけどねえ。あんたの感想とか、お馴染み○○を連想させるとか果てしなくいらんから。必要な情報だけまとめて真面目にやってくれよなと思うばかり。


最後の最後に言い訳コーナーです。なんだかんだで、えー?3か月も空いちまったよ…。まあ、順を追って言い訳すると、まず最初は自分のしょーもない無計画性ですな。コミックの方で、かなり入れ込んでてこれ絶対にやらねばならんと思っていた グラント・モリソン『The Invisibles』に遂に、ぐらいに取り掛かったのだが、まあ時間かかるなと思ってたけどホント途方もなく終わんなくてという感じで、一か月それにかかり切りになってしまったこと。
時間がかかり過ぎるなんていうのはやらない理由にならんし、『The Invisibles』は取り掛かったばかりなんだからこれからも続けて行くもんだが、時間がかかるんならもうちょっと計画的に進めて行かなければいかん。まあそれをどうやって行くかは コミックの方の話なんで、そっちのサイトで考えを書くつもりだが。問題はこっちの本店。新たにコミックのサイトを始めた時、あまりにも雑でどんぶり勘定だった。当面これまで仕事して来た時間をそっちにつぎ込むわけだから、こっちもまあそれなりに やれるだろう、ぐらいで行き当たりばったりが過ぎた…。これからはきちんと一日の時間割考えて、バランス的にはコミックサイト寄りになるだろうけど、毎日こっちも必ず書いて進めて行くことにしよう。
と思ったのがそっちが終わった12月の半ば頃か。まあもう年末時期ともなると、自宅警備員でも何かと用事があったり。そういう方針で始めたものの、ちょこまかと外出しなければならなかったりでなかなか集中できん。もう年末近くになり、やあやっとこれで 後は集中できるぞ、と思って帰宅し、ちょっと疲れたんで少し休んでから頑張ろう、とか思ったら、ウィルス性胃腸炎を発症…。前にも罹ったことあったけど、なんだか今回いきなり激症化し、救急車で搬送される事態に…。
そんなわけで年末~正月ぐらいは起き上がれんぐらいで、年越しそばも雑煮おせちも食えんかった。まあイベント要素もグルメ要素も限りなく低い奴なんでそれはいいんですが。今年の正月なんてそれどころじゃない人いっぱいいたんだから、激お腹壊した ぐらいで不幸面してる場合じゃなかったしな。そこからなんとかお粥ぐらい食べられるぐらいまで回復し、少しずつ起きれる時間にはこっちもやり始め、よし、今日からは本格的に頑張るぞい、と思いPCを立ち上げ、サイトを開いた1月5日の朝。アマゾンへの 画像とリンクが全部消えてた…。
まあ、アマゾンアフィリエイトの仕様変更で、画像リンク、画像+リンクの作成フォームなくなります、っていうのは昨秋ぐらいからわかってたし、なくなったらこんな感じにすりゃいいかぐらいは考えてたんだけど、その辺までの主に自分の不手際による 遅延から立て直しに必死になっていたところで、今まで作ったのもなくなるのかな?なくならないといいんだけどな、ぐらいの願望思考停止で考えないようにしてたんだけど、やっぱなくなりましたな…。
さすがにそのまま知らんぷりはできない状態なんで、そこからはサイトの修正。二つもやってる馬鹿なんで、今日は本店、明日はコミックサイトみたいに一日おきに進め、コミックの方は昨年始めたばかりなんでとりあえず全部できたけど、こっち本店の方は まだかなり残ってるが…、なんだけど新しい記事も書かねばならんからでやっと再開したのが23日とかだったか。そこからヘロヘロと頑張り、やっとここまでたどり着いたという次第です。
こちら本店の修正については、次回10周年となるんでそこで詳しく書きますが、とりあえず少しずつでも全部やってくつもりです。進行状況としては、とりあえず遡って3年分ぐらい進め、そこからはコミック関連は後回しとして、小説関連の記事から 進めているというところ。なんかもうこれいいかという感じで捨てちゃったものもありますが、重要と思うものについては販売が終了してしまっていても、リンクなし見つけてきた画像のみで直して行っているところです。詳細については次回ということに なりますが、やってて一つ嬉しい発見として、結構期待してたんだけど終わってしまったと思っていたスプラッタウェスタンが、既刊全作復活し昨年より新作も刊行されていたこと。詳しくはWile E. Young / The Magpie Coffinの記事にというところだけど、 次回10周年、その次今年のスプラッタパンクアワードノミネートというスケジュールになるんで、当分騒いでいるかも。
そんなこんなのドタバタ連鎖で長期にわたり中断となってしまいましたが、ここからは以前書いてたような新しい作品やらジャンルの動きを中心という方向で、ぼちぼち頑張ってゆく所存です。いや、ぼちぼちじゃなくそこそこ気合い入れて。 まー3か月も中断すると書かなきゃなんないもんもそこそこ溜まって来るし、過去に中断したあれやこれも再開しなければ、というのもあったりで、ここから本気とかで頑張らねばと思っております。病み上がりかけ状態からそこそこ必死でろくに 休みもなくやってきて、さすがに少々疲れも出てきた感じなんでこの辺で終わります。シレンは力尽きた。


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■Joe Clifford
●Jay Porterシリーズ

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