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2016年3月6日日曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第4回

なんだかんだでずいぶん間が空いてしまったのですが、イギリスの最新の犯罪小説作家45人を集めた注目のアンソロジー『True Brit Grit』、やっとのことで第4回です。あと2回、なるべく早くきっちりと終らせなければ。


■Geraldine/Andy Rivers

今日はBillyの誕生日だ。行きつけのいつものバーで祝う。俺とBillyはガキの頃からの親友だ。同じ学校に通い、いつも一緒だった。だが、奴は今はいない。酒も浴びるほど飲んで、女にもだらしなかった。いつも奴の女房にごまかして庇ってやった。だが、そんなことは大したことじゃなかった。しかし、ドラッグだけは違った。そして奴は変わり始めた…。
粗野な男の一人称で語られる、友情の悲しい末路。結末が独特の余韻を残します。Andy Riversはニューキャッスル出身の作家で、著作は前の第3回で書いたByker Booksから…と書こうと思って少し調べて彼自身のホームページを見つけて見てみたら、当のByker Booksが終わってしまうとの記事が…。イギリスの現在の犯罪小説の拠点の一つとして期待していたのですが、残念です。一応著作のリストは載せておきますが、いずれは無くなるかと思われますのでお早めに。

Andy Riversホームページ




■A Minimum Of Reason/Nick Boldock

ここも昔はいい町だった。だが時の流れとともにだんだんとさびれていった。奴らが来るようになってから事態はさらに悪くなってきた。あのモスクに出入りする奴ら…。だが今日からすべてが変わる。そうDoddsyは言った。そして彼Carlがこれからその一番重要な役を担うのだ…。
イスラム系移民への逆恨みによる犯行と、その皮肉な結末。さびれて行く町でサッカー観戦ぐらいしか楽しみが無く、不満ばかりたまって行くという感じが良く伝わる。阿部和重の『シンセミア』みたいな町を思い浮かべたり。Nick Boldockはヨークシャー出身の作家であちこちのアンソロジーやウェブジンに作品を発表しています。

Nick Boldockホームページ

■Dope On A Rope/Darren Sant

Pete Howellは橋からガソリンの浸み込んだロープで吊るされていた。なぜこんなことになったのだろう。彼は考える…。
前夜フレディー・マーキュリーをうたって浮かれていた青年が、何故町で一番凶悪なギャングの怒りに触れることになったのか?短めながらバイオレンスとユーモアのスパイスが効いた作品です。Darren Santはハル在住の作家。ハルというのはヨークシャーのハルの事でいいのかな?すみません、地理には暗いもので。イギリスに限らず…。Byker BooksのBest of British Crimeにも彼の作品があります。もう少し長いのも読んでみたい、これからが楽しみな作家です。
Bykers Books以外にも1冊イギリスのウェブジン発のパブリッシャー、Near To The Knuckleからの著作もあります。同名のアンソロジーも出しているところなのだけど、別のところのと勘違いしてて最近まで気が付かなかった。イギリス犯罪小説の拠点の一つとしてこれから注目して、もう少しよく調べます。

Darren Santホームページ

Near To The Knuckle




■A Speck Of Dust/David Barber

私は小さな部屋のテーブルの前に座って、Stilitsを待っている。奴の本名はKevin West。汚い金貸しだ。彼自身はパッとしない小男だが、いつも屈強な部下二人を従えている。だが、私にはその金が必要だ…。そして屈強な手下の手でドアが開けられ、Stilitsが部屋に入ってくる…。
意外な結末。果たして「A Speck Of Dust」だったのは誰だったのか。David Barberはマンチェスター在住の作家で、個人出版でいくつかの短篇をKindleで出しています。ホームページを見ると何も書いてないのだがやめちゃったのだろうか?とりあえずリンクだけは載せときます。

David Barberホームページ




■Hard Times - A Charlie Splinters Story/Ian Ayris

俺のオフィスはThree Rabbits。なじみの昔ながらのパブだ。今日はそこで依頼人と会う。電話の印象通り、60代と思しき男性だ。仕事の内容を言い難そうにしている彼に、ダチに協力してもらって作った俺の料金表を見せる。だが、彼の依頼はそこに載っていない仕事らしい…。
私立探偵(と思われる)Charlie Splintersを主人公とした短篇。それ程悪くは無いけど、ハードボイルドならもうひとひねり欲しいところというのは欲目か。Ian Ayrisは、ロンドン、ラムフォード在住の作家。あのCaffeine NightとNear To The Knuckleから1冊ずつ著作があります。後者はByker Books Best of British Crimeで出ていたものの再版。Charlie Splintersシリーズは見つからないのだけど、あちこちに沢山短篇も発表しているそうなので、どこかのアンソロジーに収録されているのでしょうか。

Ian Ayrisホームページ




■Never Ending/McDroll

Gemmaはドアをノックする。「警察です。開けてください。お尋ねしたい事があります。」応答なし。ここもか…。若い女性の連続失踪事件を捜査中のGemmaは成果なしのまま暑に戻る。そして、ミーティングの後、彼女にはさらにうんざりする事態が待ち構えていた…。
女性刑事Gemmaの活躍を描く、このサイズではうまくまとまった感のある作品。McDrollはスコットランド、アーガイル在住の女性作家。とても景色の良いところだそうです。『All Due Respect』にもたまたま拳銃を手に入れた落ちこぼれ2人組による騒動を描いた作品「never too old for fun」が掲載されています。どちらもユーモアのある会話などでキャラクターを身近に立体的に見せる上手さが光る作家です。短篇シリーズThe Wrong Deliveryシリーズなどを個人出版で発表しています。

McDrollホームページ




■Imagining/Ben Cheetham

私は、すべてをどう終わらせるか思い浮かべる。最初は花屋。ガソリンを撒き、火を放つ。私の結婚生活を破壊したこの場所がきちんと燃え上がるのを見届ける。そして、私はロンドンの中央に向かって歩き出す。かつての勤め先へ向かって…。
すべてを失った男の破滅的な狂気の行動が、一人称現在時制で淡々と語られ続ける。最後の段落がトンプソンの名作『内なる殺人者(おれの中の殺し屋)』の結末を思い起こさせたり。シェフィールド在住の作家Ben Cheethamは受賞歴もある作家とのこと。(何賞なのかよくわからなかった。)犯罪小説シリーズA Steel City Thrillerを4冊刊行中。なかなかの作品だけど、明らかに短篇用の特別なスタイルのようなので、長編ではどういう感じになるのか見てみたい作家です。

Ben Cheethamホームページ




■Escalator/Jim Hilton

6歳の娘Tanyaが家に帰って来るなり叫んだ。「パパ!Tommy Rawlingsがあたしのことひどく蹴ったのよ!なんにもしてないのに!」Alan Brooksは娘に駆け寄る。「Rawlingsのクソガキか!親子そろって救いようのないクズだ!」そしてAlanはクソガキへの制裁のため、家を飛び出して行く…。
子供の喧嘩に親が、というパターンがエスカレートして行き、最終的には陰惨なことになるブラック・コメディ。James Oliver Hiltonはイングランド北部在住の作家。ホラーシリーズThe Grand Grimoire3作と短篇集1冊の他、今年夏にはアクション性の強い犯罪小説らしいGunn Brothersシリーズ第1作『Search & Destory』が発売されるそうです。

James Oliver Hiltonホームページ




■Face/Frank Duffy

街で知り合った女性Kaitlinと深い関係になったJessicaは、彼女と2人で油田に働きに出ている夫Martinの殺害を謀るのだが…。
同性愛カップルによる夫殺害計画というストーリーなのですが、ノワール/サスペンスというよりはホラー傾向が強い作品。イギリス出身だけど現在はポーランド在住の作家Frank Duffyは、3作の著作がありますが、いずれもホラーのようです。

Frank Duffyホームページ




というわけで、『True Brit Grit』第4回もなんとか終了、残すところあと1回となりました。モタモタしているうちに英国期待の星Byker Books終了という残念な事態になってしまったり。とにかくは、残り1回きっちりと速やかに完成させ、早く本格的に現代英国クライム・ノベルの探索に臨まねばと思う次第であります。


●関連記事

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第2回

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回


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2016年2月28日日曜日

Crossed -ガース・エニス作、超バイオレンス・サバイバル・ホラー-

『Crossed』は、ライター:ガース・エニス、作画:Jacen Burrowsにより制作され、2008~2010年にAvatar Pressから発行された恐るべき18禁超バイオレンス・サバイバル・ホラー・コミックです。

【あらすじ】
それは、ある夜、どの町にもあるようなダイナーから始まる。
ドアが開き、一人の男が入ってくる。
薄笑いを浮かべた男の服と両腕は血まみれだ。
そして男はカウンターの上に手に持っていた何のどの部分かも判別し難い血まみれの関節から引きちぎったような骨らしきものを放り出す。
あっけにとられ、「何かのジョークのつもりか?」と問いかける店主の前で、男の顔にはグロテスクな笑みが広がり、両頬骨の上の皮膚に中央に向かって赤い爛れが拡がり始める。

そして男は、店主の鼻に噛みつき、喰いちぎる。

店主の顔面から溢れ出す血。
沸騰したコーヒーを浴びせられ倒れ込む男。
TVからは何らかのパニックを告げるニュース。
窓の外ではパトカーが向かいの建物に激突する。
炎を上げるパトカー。

車内ではグロテスクな笑みを浮かべた男が、炎から逃げようともせず警官の首を絞め続けている。
男の顔には先程の男と同様の爛れがさらに拡がり、顔面の中央を縦横十字に横切っている。

近くの建物の上階を突き崩しながら、上空を旅客機が横切る。
操縦席には顔に十字が浮かんだ機長らが狂ったように笑っている。
店から出てきた店主が近くの男の背に包丁を突き立てる。
狂った笑いを浮かべる店主の顔にも十字。

そして世界が突如真っ白な光に包まれる。

そして、街のかなたの地平線にキノコ雲が立ち昇って行く…。


以上が0号から9号まで全10話のシリーズの『Crossed』0号のあらすじです。
この顔面に十字の爛れ(右画像)が現れるという症状は、強い感染性を持ったもので、噛まれたり血液を浴びるなどで即座に感染し、同様の症状が現れ狂気の行動をとり始めます。これに感染した者は狂気の笑みを浮かべながら、殺人、レイプ、食人といったあらゆる残虐行為のみを行うようになり、完全に殺害するまでは内臓を引きずりながらでも笑いながら襲い掛かってきます。知能も低下しますが、武器を使える能力はあり、威嚇や呪いのような言葉のみをほぼ一方的に吐き続けます。基本的には感染していない者を襲いますが、残虐行為の最中に被害者が感染し、双方とも笑いながら行為が続くという恐ろしい状況になることもあります。
この感染はたちまち世界中に広がり、感染していないものの方が少数の状況になります。続く1号からはこのいきなり地獄と化した世界で少人数のグループが生き残りのために戦って行くストーリーとなって行きます。グループのリーダーは、息子Patrickを連れた元ウェイトレスのCindy。そして、語り手である主人公のStan、ホモセクシュアルの青年Thomas、核爆発で失明した女性Kellyなどのメンバー。
一見多くのゾンビ物と同じ状況に見えますが、この作品では攻撃者が残虐行為を楽しむという最悪の部分を残したいくらかでも知能の残っている人間ということで、『28日後』シリーズのようなスピードが上がったものよりも更に恐ろしいものになっています。そして、その類のゾンビ物の多くは、そのような状況下で狂気の行動に駆られた人間との闘いが物語の中心となってきますが、この『Crossed』では攻撃者がそれも兼ねているという、映画『ゾンビ』のゾンビに相当するものがそれとモールを略奪と破壊を目的に襲ってくるバイクギャングを足したものというような状況になっているわけです。

私は「世の中には生まれたときから悪い人はいないのですよ。おしまい。」式の幼稚な性善説に基づいて書かれた物語が嫌いです。そういったものは大抵の場合、全てが「善」を分母にして割り切れておらず、物語の隅に説明のつかないチンピラや詐欺師なんかが残っているからです。あ、それから詐欺師が暴力的犯罪者より「善良」であるかのような考えは心底気持ち悪いのでただちに捨ててください。そもそもその説って、根本的に理屈としておかしい。すべての人間が生来善なのだとしたら、いったいどこから悪が発生するのか?白をいくらかき混ぜても灰色にも黒にもならない。となると外部から持ち込むしかないのだけど、それって悪魔の仕業とか?いや、宗教の話とかしてないから。それともまだ知られていない悪の誘引物質が空気中に存在するとか?これについては同じ理屈の性悪説についても同様。まあ世の中にはこんな無理のある性善説でも否定すると、じゃあお前は(もっと無理があるように思える)性悪説を信じるのか、などと言い出す容量1ビットの2択人間が多いので一応言っときますが。

それではこの物語の感染者たちは何なのか。これを理性や社会規範が無くなった人間の本性とか思う人は本当に怖い。じゃああんたはそういうものが無くなったら本性でこういうことをするのか?これに近い事というのは例えば戦争などの場合に起こったこともあるし、起こりうることでしょう。でもそれは常に悪意によっておこされる事態ではないでしょうか。本当に人間が理性や社会規範の全てを失って動物化したとしたら、やたらに目につくものを片っ端からぶち殺し、破壊していては種の保存すらままならないわけですから、当然他の動物同様環境の中で能力に見合った方法で行儀よく生存する筈です。つまり、この感染者たちは、感染によって悪意のみで行動する悪に変わってしまったものということです。

そして、感染を免れ、生き残った者たちについてはどうなのか。ほとんどの人は平和な環境では基本的には善人として暮らしていられたが、この物語の中では生存のために度々悪の行動をとらざるを得なくなります。中にはグループの中でも温厚と思われていた人物が、過去に自分の暗い衝動に突き動かされ、周囲を取り巻く感染者たちと変わらないような残虐な所業を繰り返してきたことを、その重みに耐えきれなくなり告白するという場面もあります。そして彼らは、自分と感染者たちとどこが違うのか、と問いかけます。全てが悪に汚染された世界で、善の光のかけらも見えないまま悪を行い生き延びて行く生存者たち。彼らと感染者たちとの違いは何なのか。両者をある種のフィルターにかけ徹底的に濾過したとき、それがほんのわずかでも彼らの方にだけ残った物はきっと何か「善」に属するものであり、そしてそれゆえに彼らは感染者とは違う「人間」として存在しているのではないでしょうか。少なくとも私にはこの物語は、上記の居心地はよく聞こえるけど欠陥だらけのものよりも、はるかに説得力のある強固な「性善説」によって作られたものに思えます。

ガース・エニスというライターは、このようなモラルの徹底的ともいえる破壊を、境界線にいる危うさではなく、何かしら恐るべき剛腕のようなものでやってのけるという稀有な才能の作家だと思います。うむむ、自分の考えるガース・エニスの魅力の一つをやっと言葉にできた感じ。『The Boys』のときにも書いたように、ここから出てくる彼のユーモアのセンスというのは、また恐るべきものであり、この作品中にも見られるのですが、…いや、タイミング的にはギャグだってわかるけど、これは笑えないって。
作画のJacen Burrowsは主にAvatar Press作品で活躍しているアーティスト。全体的な動きの描写などではあと一歩かな、という弱さも感じられるのですが、その一方で、感染者たちの内側から滲み出るようなグロテスクさや、何かチキンの骨が撓ってポキンと折れるような嫌な感触の人体が破壊される感じといった方向には長けたアーティストではないかと思います。

この『Crossed』は、かなりの問題作で見るべきところも多い作品ですが、その事態の中の普通の人間を描くという方向性のため、エニス作品では特徴の一つである物語を引っ張って行くアクの強いキャラクターがいなかったり、全10話というサイズゆえか短いエピソードの連なりで、今ひとつ大きな物語を構築できていない印象があったりと、ガース・エニス作品としては少し弱めかな、というのが私の感想です。しかし、この恐ろしい世界がこれからどうなって行くのか続きを知りたい、というのは誰しもが思うところ。版元のAbatar Pressも当然そう考え、エニスに続編を依頼したそうですが、彼としてはこの設定で考えたことはすべてやりきったという考えで、この続きは他のライターに委ねられることとなります。そしてDavid Lapham、Jamie Delano、Kieron Gillenといった実力派のライター、更にはあのアラン・ムーアによるスピンオフ的作品などにより『Crossed』の物語は書き続けられて行くことになります。そちらについても相変わらずのモタモタながらも追い続けて行くつもりです。


そして、ガース・エニスと『Crossed』の関係もここで終わりではなく、時折の短い復帰の他に、もうひとつウェブ・コミックとして発表された『Crossed:Dead or Alive』という作品があります。こちらは、ガース・エニス脚本で『Crossed』映画化の企画が一旦は立ち上がったのですが、破綻し(どうも作品内容に関する意見の相違の様子)、その後ガース・エニス自身の監督による製作を目指し、キックスターター方式で資金を集めるために2014年に作られたものです。(現在は資金集めの企画は終了)こちらはComixologyでも2号分冊の形で販売中です。
内容は一つの生き残りグループの中の、表面的には周囲と同調しているが腹には非常に利己的な考えを抱えている男が主人公の話。短い話なのでテーマも明確で読みやすいかと思います。
作画はDaniel Gete。まだキャリアも短いようで詳しいことはよくわからなかったのですが、他にもAbatar Press作品をいくつか手掛けています。安定感のある線もシャープな画風で、デッサン力方面から見た画力ではBurrowsより上かと思いますが、滲み出る感じのグロテスクさでは負けるかも。

Crossed:Dead or Alive

Crossed:DOA Crowdfunding Campaign

『Crossed』にはウェブコミックとして、さらにもう一つSimon Spurrier/Javier Barrenoによる『Crossed:Wish You Were Here』という作品もあります。私は未読なのですが、もう完結していてかなりボリュームもあるようです。こちらはTPBの形でも発売中です。

Crossed:Wish You Were Here

最後にガース・エニスについての近況ですが、現在『The Boys』のDynamiteからアダルト作品『A Train Called Love』を刊行中。こちらの作品、Comixologyでは全10話中の7号まで発売されているのだが、Kindleや他のアプリ・ショップでは1,2,5号ぐらいと抜けて販売されていたりと、なかなか色々と問題のありそうな楽しみな作品です。他にもAbatar Pressから昨年末ブラック・ユーモア・ホラー『Code Pru』が開始。また、今月、来月と連続でImage Comicsから絶版中のDCでの過去作が再刊されているのだが、これは間もなくImageから新作が始まる布石では?など、今後の活躍にも期待のガース・エニスです。
また、Abatar Pressについても、2周年では書くことが多すぎて抜けてしまったけど、もちろん私の注目パブリッシャーの一つで、これからも色々な作品について語って行きたいと思います。


●関連記事

Garth Ennis
ガース・エニス『The Boys』全解説

Abatar Press
Ferals -David Laphamの超バイオレンス・ホラー・コミック!-



●Garth Ennis/Crossed


●Crossed




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2016年2月20日土曜日

Point and Shoot -ドゥエイン・スウィアジンスキーCharlie Hardieトリロジー最終作!-

※注意:これはドゥエイン・スウィアジンスキー作Charlie Hardieトリロジー最終作『Point and Shoot』についての感想です。できれば第1作『Fun and Games』、第2作『Hell and Gone』についての感想を先に読んでもらった方が良いのですが、もっと言えばこの三部作はめちゃくちゃ面白い大傑作なので、こんなもの読む前にまっすぐ実物の方をお読みください!

Fun and Games -ドゥエイン・スウィアジンスキーCharlie Hardieトリロジー開幕!-

Hell and Gone -ドゥエイン・スウィアジンスキーCharlie Hardieトリロジー第2作!-

というわけで、遂にCharlie Hardieトリロジー最終作『Point & Shoot』読み終わりました!…のですが、うーむ、本当はこんな面白い本について内容を少しでもバラすような事は書きたくないのだが、ここまでやってしまったのだし仕方ない。もう一度繰り返しますが、何にも知らないでとにかく読んだ方が絶対面白いですよ。ということで今作『Point & Shoot』のさわりだけを少し。また前作『Hell & Gone』のネタバレを含んでしまいますのでご注意ください。


地底の牢獄からの脱出を果たしたCharlie Hardieは、その足で自分をそこに送り込んだ相手への報復に向かう。だが、当の相手から聞かされたのは意外な言葉だった。

「我々のそもそもの目的は、君のその何があってもしぶとく生き残るという才能を見込んで、ある仕事を依頼することだった。話すら聞いてくれない君に対し、あのような処置をとるしかなかったのだ。ここで改めて提案する。我々の仕事を引き受けてくれれば、その後、君と君の家族の安全は保障する。」
Hardieの妻と息子はこの瞬間も常に彼らの監視下にある。Hardieは彼らの申し出を受け入れる。

そして、Hardieの乗り込んだロケットは空高く発射される…。

そして『Point and Shoot』-

「そこは危険だ!今すぐCJを連れて家を離れろ!」
受話器からHardieの元妻Kendraの耳に飛び込んできたのは、ずっと行方知らずになっていた元夫Charlieの声だった。

だが、Kendraは家を離れることはできない。
息子CJからの少し様子のおかしい電話が気になり、慌てて家に帰ったのが4時間前。だが、家にCJの姿は無く、そればかりか何者かにセキュリティシステムを乗っ取られ、見たこともない「家から出るな」という警告が表示されるとともにドアがロックされ、ただ一人自宅に閉じ込められている。
そこへ長い間行方の分からなくなっていた元夫からの電話…。

「今すぐそこから逃げるんだ!」

だが、そこへHardieには聞き覚えのある声が割り込んでくる。
「無駄だ。あんたの家族はそこで死ぬ。そしてあんたにはどうすることもできない。」

しかし、Hardieはその声に向かって言い放つ。

「いや、俺にはできる!」

その3日前-
Hardieは地球を巡る軌道上の人工衛星にいた。
彼が依頼された仕事とは、この誰の手も届かない人工衛星に隠された彼らのもっとも重要な秘密情報をここで守ることだった。その人工衛星の中でただ一人で。だが、その誰の手も届かないはずの衛星に、突如奇妙な揺れが走る…!


というわけで、ここまで!これ以上は口が裂けても言うものか!
…というところなのですが、ここからはこの3部作の構造に関する重大な秘密をバラします。くどいようですが、ここから先は未読の人は絶対読まない方がいいですよ。…って何だろう、こんなにしつこく読むなと言ってるこの珍妙なブログは…。というのも、実はこれって本当に書いてしまっていいのだろうかとちょっと思っているのですよね。もちろんストーリーの内容とかに関することではありませんが、ある意味それに等しい物なのではないかと。これは読んでいるうちに、あっ、と気付き、そうか、まんまとしてやられた、と思うべきものなのですよね。とは言っても前の『Hell & Gone』の感想の中で、これはこうなっている、というような予測を書いてしまったので、その結果を書かないわけにもいかないので。
では覚悟のほどはよろしいでしょうか。

さて、この3部作第2作目の『Hell & Gone』についての感想の中で、「この3部作はそれぞれ違ったジャンルの3作で構成されることになる」と予測を立てたわけですが、それは一応当たっていました。ただし、一部だけ…。(あ、ちなみにそのジャンルについては今回最後に発表します。ここで書くとその方向で話しているうちに内容をバラしてしまう恐れがあるので。)そしてこの3部作の本当の正体はというと、実は3本立て映画だったのです!
例えば、ここではブルース・ウィリスとしましょう。「ブルース・ウィリス主演映画特集3本立て」というのを観に行くわけです。3本ともブルース・ウィリス主演の映画ですが、それぞれ全く違うジャンル、1本目はアクション、2本目はホラーとか。主人公の名前も設定も全然違う。でも主人公は全部ブルース・ウィリス。それじゃあ全部つなげてブルース・ウィリスという人が主人公の話にしちゃえ。というわけで1本目から2本目、2本目から3本目へとつながる話を考え、前のから結構時間が経って少し老けたりハゲが進行しちゃってる、とかいうのにも色々つじつまを合わせて…。という感じでできた「オレ脳内ブルース・ウィリス物語3部作」みたいなほぼ子供の発想をまんまと小説の形でやってのけたのがこのCharlie Hardieトリロジーだったのです!
私がやっと気づいたのは、ほぼ最後に近いあたり。うわっ、そうか!まんまとやられた!このヤローって感じ。そうなると今までの奇妙な設定や違和感の理由もすべてわかってくる。思えば最初からヒントは出ていたのだ。この3部作、常に章の始めに映画のセリフからの引用があり、それが映画の中の役名ではなく役者名で書かれていたのです。
ザマーミロ。テメーは読みが甘いんだよっ。
そんな出鱈目な遊びをやりながらこの3作、それぞれ単体で読んでも読み始めたら止まらないくらいの傑作!全くとんでもない人です。前作を読んで「わかりましたよ!この3部作こうなるんでやんしょ!」と得意顔で私が言ったとしたら、「フフ~ン、なるほどね~」とか言ってあの人相の悪い面でニヤニヤほくそえんでいるスウィアジンスキー氏が見えるようです。まったくいいお客さんになってしまったのだが、それも光栄と思うべきでしょう。本当に心の底から楽しめた大傑作、絶対おススメの3部作です!え?今作あんまりHardieが活躍してないって?どこ見てるんですか。大活躍じゃないですか!

それから、前回の『Hell & Gone』についてはもう一つ。私のこの3部作への考えからの予測で一部違っているところがありました。まあそうなるよね。だって別の映画だもの。これに関しては私の負けです。すみませんでした。今作の内容にかかわるところなので詳しくは書きませんが、読んだ人ならお分かりかと。いや、読んでない人に謝るいわれなどは無い!だから読んでくださいよ。いくらでも謝るから。

しかし、まあ、この3部作本当に楽しく読んで、原書を読むようになってからはずいぶんいい本が色々読めるようになってはいるけど、こんなにわくわくして早く続きを読みたくなるような感じで楽しく読めるような本を読んだのはいつ以来だろうと考えると…あー、割と近い、『The Wheelman』じゃん!そんなわけで私的には、もう小説だろうがコミックだろうが、100パーセント確実に満足させてくれるこのスウィアジンスキー印のものは何が何でも全部読む!、いや読まずにはおくものか!、というところであります。

版元のMulholland Booksについてですが、スウィアジンスキー作品では次作『Canary』が出版され、他にも以前Queen & Countryの時に触れたグレッグ・ルッカのJad Bellシリーズや、ジョー・R・ランズデールのハップ&レナード最新作『Honky Tonk Samurai』といった作品も出版され、このジャンルでは最要注目のパブリッシャーとなってきています。まだ名前の知らないeBookオリジナルあたりの作家についても今後は調べてみようと思っています。

Malholland Books

それでは最後に今作のジャンルについて発表します。最終作である今作はバディ・ムービー!『48時間』とか『ラッシュアワー』みたいなやつ。古典的パターンのギャグとかもあって、1作目よりも更に笑えます。さて、バディ・ムービーとなると当然相棒がいるわけですが、それはなんと…?まあ、これは前2作読んでても絶対当たりませんから!


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The Wheelman - ケイパー小説の傑作! -


●Duane Swierczynski


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2016年2月14日日曜日

ドキドキブログ2周年

【お悩み】
うっかり2月14日バレンタインデーにブログを始めてしまったために、毎年一切チョコレートをもらう当てもないことを告白しなければならなくなってしまいました。関係ないクリスマスなどは知らんぷりでスルーできるのですが…。この先もブログは続けて行きたいのですが、ずっとこんなことを続けていかなければならないかと思うと憂鬱です。何か良い解決法は無いものでしょうか。

【お答え】
読んでる人はブログがいつ始まったかなど大して気にしていませんよ。節分あたりに始めたことにしてごまかしちゃえばいいのではないでしょうか。あと女子に大人気のねこあつめの事とか書いたら女性も見てくれるブログになると思いますよ。頑張ってね。(CV : ガチャピン)


というわけで開始記念の節分からは少し遅れてしまったのですが、このブログもめでたく2周年を迎えました!え?何か?今回も校長先生の話はくどくて混乱してやたら長くなると思いますので、皆さんはどうぞリラックスして気楽に読んでくださいね。あっ!そこの人!何をしても何を食べてもいいがチョコレートを食べるのだけは禁止と言っているだろう!何を考えているんだ!空気を読みたまえ、空気を!

…すみません。そろそろちゃんと始めます…。

というわけでこのブログもなんとか2周年に漕ぎ着けました。まあ、昨年の1周年では今同様の体調で、年末から1月にかけ休みが多くなり、ちゃんとこの先続けて行けるのだろうか、という状況で自分を奮い立たせるために何をやりたい何を読みたいワーギャーという感じになってしまったのですが、もう1年やってみると、まあできるときにはできるんじゃないの、ぐらいの気分にもなる余裕も出てきたので、今回はもう少し落ち着いてやっていければ良いなと思っております。
振り返って、ワシ何でこんなこと始めたんじゃろうか?、と薄れかけた記憶を掘り返してみると、せっかく面白いものを見つけたのに周りに話の通じる相手が全くいないので、それなら当てもなくブログ作って書いてやるわい!ということだったのです。しかし、常識的に考えて、こんなところでわけの分からん奴が人に読んでもらうような努力も一切しないで書いたものがそうそう人に見てもらえるものでもないのは当然のことで、まあ50個ぐらい書いたら誰か見つけてくれるかな、目指せ50個などと考えて始めてみたわけです。しかし目標以前にちらほらと読んでくれる奇特な人も現れ始め、昨年やっと達成した50個もよく気付かないうちに過ぎていたりもしたのでした。そうは言ってもいくら自分のような変人でも誰も見てくれなかったら50個も書けなかっただろうなと今になれば思います。こんなブログが続いてきたのも、時々でも見て下さる皆さんのお蔭で、本当に感謝しております。ありがとうございます。現在も、初心を忘れず、というかあまり人間的に進歩の無いまま、面白いの読んだから誰かに話したいな~、という気持ちで続けており、これからも頑張って行こうと思いますのでよろしくお願いします。
しかしながら、大抵は自分と同じものを面白がってくれる人もやっぱりいくらかはいるのだな、と喜んでいるのですが、時折読んでくれているのは実は一人だけで、『メメント』みたいに記憶がすぐなくなる人が同じところを何回も繰り返し見ているのでは?というような不安に駆られたりします。まあ、でも近所サイズで考えれば聴いてくれる人が一人いればよかったのですよね。そんな時は、その人は、外国からとかのアクセスもあるのできっと世界中を飛び回っている松嶋奈々子さんぐらい美人でバレーボール選手のようにでかい…うわっ!妄想の世界に入ってるうちに思い切り偏った趣味を暴露しとるっ!?

それでは、ここからはこの1年の反省やらと、今後の展望・希望などについて語ってみようと思います。まああまり反省が過ぎると、この先続けていく意欲が薄れるので適度に。私なんて超貧弱な英語力で読んでるのだから、きっと初歩的な誤読も多いだろうし恥ずかしいからもうブログやめちゃおうかな…いや、いかんいかん。
昨年はコミックの方からやったので、今年は小説の方から。この1年というか、特に後半はあのCharlie Hardieトリロジー(次回『Point & Shoot』登場!)にずいぶん暴れられて、まあそれはそれで良かったのですが、なんか色々読む予定が変わってしまって読めなかった本もあったり。Barney Thomsonとか一昨年年の瀬あたりに読んでて楽しかったので、去年もその辺に読もうかなと思ってたのですが。あとDestroyerもあんまり進まなかったな。去年見つけたところでは『JET』のFPS風というのが意外な発見でもっと色々拡げてみたかったりもしているのですが。あとはずっと思ってるホラーで、特に日本に入って来にくいバイオレンスやビザール方面を探って行きたいという希望もあるのですがなかなか。
相変わらず読むのが遅いのが悩みの種ですが、書く方も遅くて、やっとTom Piccirilliさんの追悼ができたもののまだ結構な重要作が2冊も残ってたり、『True Brit Grit』もなかなか終わらなかったり。まあ結局は早く読んで早く書けよっ、ということですね。頑張ろう。
昨年書いたことでは翻訳は止まっているものの活躍中のヴィクター・ギシュラーやジェイソン・スターあたりは読みたいというのがあったけど、結局届かずというところで今後はなんとか頑張って行きたい。リード・ファレル・コールマンとかも放っておいてよい作家じゃないし、他にもあれやこれや。あと1950~60年代あたりので手頃な値段で読めるのが結構あったり。とか言い出すと本当にきりがないのだけど、一方でどんどん出てくる新しい作家について語って行くのが自分の使命ではないかと思ったり。All Due Respect Books、Snub Nose、New Pulp Pressあたりはもっと追って行きたいのですが。あとはまだ全然手を付けられていないけど、もはや公認2次創作みたいなのも出てる大量発生中のリー・チャイルドのフォロワーについても探って行きたい、などなど。
それからもう一つやらねばと思っていることは、始まったばかりの頃勇んでやってみたものの、あまりに力足らずで非常に中途半端なまま終わってしまった、インディー・パブリッシャー、アンソロジーなどについての書き直しであります。まだまだ読めてないところは多いけど、もう少し状況が見えてきているのでもう少しは役に立つものが作れるのではないかと。
飢饉続きで新しいものがなかなか翻訳されないこのジャンル。放置されているうちに「ソフトボイルド」「ハートボイルド」などと称する便乗商品がはびこったり、はたまた「美しい女子大生からのストーカーから守ってほしい、との依頼を受けた俺は、犯人の若造を思う存分叩きのめした後、女子大生とあとくされの無いセックスを楽しみ、物語後半ではおじさん呼ばわりするJKに付きまとわれる。」というような、「平凡で何のとりえもない高校生の僕の周りにある日突然美少女達が集まり始めた。」みたいなのと実態は変わらない願望満載の親爺ラノベがハの字のたすきを掛けて大手を振ってまかり通ったりという惨状。たとえ見てくれているのが記憶のすぐなくなるガイ・ピアーズさんただ一人でも(「この手に書いてあるガチャピンって何だろう?」)新たなハードボイルド/ノワールの名作を1冊でも多く、全力で読んでお伝えして行かなければと強く思うものであります。

続いてコミックについてです。相変わらず実際には日本でどのようなアメコミが読まれているかというようなことにもほとんど知識の無い私のようなもんがやることなのかなあ、と時々思いつつ続けております。まあ、あんまり知ると余計に考えて書きにくくなるかも、という気持ちもあってあまり深く調べたりしていないところもあるのですが。でもやっぱりそういったコミックに関しての情報のあまりに少ない現状では、とにかく読んだものについては書くぐらいのことをするべきなのでは、という思いがあるのですよね。しかしながら、やっぱり時々には、オレって「ナルトってゆう面白いマンガがあるんですよ」レベルの事を書いてる恥ずかしい奴なのでは、と不安に襲われたりもしつつ。
この1年の自分的な成果としては、かなりこだわりのある『The Boys』について書けたことや、『Hellbrazer』『Queen & Country』あたりに取り掛かれたことでしょうか。ただ一方で、「第○回」や「前編」みたいのが多くなり過ぎてるのはちょっと問題かな。
まだまだちょっとなのだけど、Image Comicsあたりの新作についても書けたのは自分としては良かったと思います。最新情報を追って行くという柄ではないのだけど、やっぱりこの先の展開については自分でも注目しているので、気になる話題作については早めになるべく多くとりあげて行きたいと思います。Image Comicsはそれほど長くないものも多いし、マンガ好きで海外のものも読んでみたいという人にもとっつきやすいと思うのですが。
あと、Vertigoについては色々書きたいと思いつつも、中途半端にしか読んでないものが多くて結局『Hellbrazer』しかできなかったな。『Fables』については、このくらいのもやんなきゃ、と勇んで1回やったら安心してしばらく読んでいなかったら昨年完結してしまいました。何か背後に大きな物語もあるように予想されるシリーズですし、ちゃんと追って行かなければとは思っていたのですが。今は反省して定期的に少しずつ読んでいるので遅ればせながら2回目を間もなく書けるかと思います。すみません。設立当初からの有名な編集者カレン・バーガーの2013年の退社以来出版点数も縮小傾向にあり、どうなるのかと思っていたけど、新体制も整ったようで昨年秋からは多くのシリーズも始まりこの先も楽しみなVertigoですので、過去の名作とともに新作についても追って行きたいと思います。この1年では書けなかったDark Horseやら他のパブリッシャーのものについてもがんばって行かなければ。あっ、2000AD…。いや、書くのが激しく遅れてるだけです。もしかしたら2期続けてやることになるかも…。
それから、地味ですが前から結構好きで書きたいと思ったいた『Blue』について書けたのは自分的には嬉しかったりします。あまり空気を読んだりせず書きたいものについて書こうと思ってはいるものの、やっぱりあまり人が見てくれなそうなこういう作品については後回しになったり。こういうものについても書くには、もっと書く数を増やしていかなければな、と思うばかりです。長いものを書くのはそれなりに意味があると思うけど、TPB1冊ぐらいの単位で短いものを増やして多くの作品について書いて行きたいというのがこれからの目標です。
注目中のライターについてはJeff Lemirieはなんとか『Animal Man』をぼちぼち読んでいるところ。他にBrandon Graham『Prophet』やスウィアジンスキー『X』など。後半2つについてはまた旧作の方を読んでモタモタしていたり。『Animal Man』もグラント・モリソンのを少し読んでるけど、そのくらいになってしまうとあまり広げ過ぎても収拾がつかなくなるかなとも思うところなので適度にまとめて、という感じでその辺についてはそろそろ書いて行けるものと思います。
昨年読むと言っていたAl Ewing『Mighty Avengers』については、実はまだ手を付けてません。別にAlさんを見限ってとかいうわけではないのですが、Jonathan Hickmanの『Avengers』『New Avengers』あたりを読み始めたらやっぱり例のストーリー・アークとかあるしその辺ぐらいとは横並びにしておかないと、とか思ってしまって…。そろそろなんとか届いて読み始められるかと。もうマーベルでは次の流れが始まっているというのに…。自分も読んでるものとしてはマーベル、DCあたりが一番多いはずだけど、本格的に語るのは到底無理そうですね。DCも次の流れが始まっているのに、まだDC52ほとんど読めてないし。マーク・ウェイドの昔の『Flash』読んでたりとかね。
それからDavid Lapham『Stray Bullets』とMatt Kindit『Mind MGMT』については、えーと、お馴染みの貧乏性が発動してさっぱり進んでおりません。この辺あまりにも好きで…。『Stray Bullets』は1号読んでうひゃーってなっちゃって、しばらくたってちゃんと読まなきゃと思って2号読んでまたうひゃーってなってという有様で。もはや感想ですらない…。『Mind MGMT』についてはMatt Kinditの大嘘を理屈で固めて構築するという手法(へ理屈ともいう)があまりにも自分のツボにはまっていて、なんか読み始めたら止まんなくなりそうで読み始める時を決められないような。まあ、昨年にはめでたく完結した作品でもあるし、早く読み始めて止まらなくなります。他にも注目のライターは多いのですが、とりあえず最低この辺だけは超鈍速でも追いかけて行かなければと思っています。あとウォーレン・エリスはそろそろ何か書けそう。
ライターがいて作画がいて、という構造上どうしてもライター中心に読むという形になってしまう米英のコミックなのですが、アーティストについてもなんとかしたいとはずっと思っていて、前回の『Harbinger』でたまたま思い付いたところでまだぼんやりしているのですが、例えばComixologyあたりを参照して作品リストを作るみたいな形でやってみるといいかなと考えています。というのは前回のMico Suayanだったり、Jerome Openaだったり、Travel Foremanとかというようなもはや超人的なアーティストも存在するのですが、そういう人たちは作画にかなり時間もかかるもので、なかなかひとつのシリーズをメインで担当するということにはならずうまく作品と結びつけて紹介することができなかったり、TPB単位で探すのも難しかったり、またキャリアもまだ短くてウィキペディアも作られていない人もいたりもするわけなので、色々散らばっているissue単位のリストを作ると役に立つのではないかと。まあまだぼんやりとという状態だし、手間もかかりそうだけどなんとかやってみたいものだなあと思っています。
あと、小説の方と同じようなことでちょっとやっておこうかなと思っているのが、デジタル系のコミック・ショップやアプリについてまとめてみようかということです。そちらの方ではComixologyがアメコミのみならず世界的にも現状では一強が確定のところではあるけど、前に一度だけ書いた英SEQUENTIALが結構充実してきていたり、Motion Bookで出てきてどうなるのかなと思っていたMadefireが最近になって意外に躍進を遂げていたりというようなこともあったりするので。なんか今更かもしれないけど、これから役に立つ人もいるかと思いますのでやってみる価値もあるのではと思います。

と、書いてみるとまたコミックの方が著しく長くなってしまってのですけど、これは1冊ずつ集中して読んでる小説の方とあっちこっち並行して読んでいるコミックとの違いというようなことで、両者のモチベーションは変わらず、というかやっぱり少し自信の無いコミックの方が低目かもしれないけど、今後も1:1ぐらいのペースでやって行くつもりです。しかしまた色々と思い付くだけやりたいことを並べてみたけど、やっぱり今のペースでは到底実現できないし、具体的にどうすればよいかと考えるに、うーん、なんかパワーアップする!気合とかで!…子供かっ!
とりあえずはまだまだやりたいことが沢山あるので、色々と力尽きるか、今日思いがけない素敵なハプニングが起こって人生が変わる!とかいうことが無い限り、当分はこのブログも続けて行けるものと思います。いや、何にもないよ…。今日も日曜で外出る予定も無く家でゴロゴロしとるだけだしさ…。あっ、でも窓からバレーボールが飛び込んでくるとか?

かなり異様に変形とかしてるけど、これも基本は読書ブログなわけで、そうなるとこの1年のベスト的なものを出してみるべきなのかな、と思うのですが、まだまだ小説についてはそれだけの数に達してもいないのでなかなかそこまで行けないのですが、とりあえずおススメとしては、日本で翻訳されないのに腹が立ってきて書いてるうちに無茶苦茶になっているケン・ブルーウンとか、ドゥエイン・スウィアジンスキーとか、Anthony Neil Smithとかのあたりです。コミックについても同様ですが、こっちは更に読んで無いものにベストが沢山あるようで余計選べなかったり。まあその中では期待以上の傑作でかなり胸を熱くさせてくれた『Southern Bastards』はなるべく多くの人に読んでもらいたいなあと思っています。

というわけで、なんとか無事(かな?)に2周年を迎え、今後もできるだけ頑張って行こうと思います。これもみなさんか、ガイ・ピアーズさんただ一人のお蔭と本当に感謝しております。またこれからも宜しくお願い致します。そして、皆さんが楽しみにしている春休みもだんだん近づいてまいりましたが、繁華街などに出掛ける時はくれぐれも行動には注意を払い、銃の携帯を忘れないように。以上で校長先生の話は終わりです。では、解散!


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2016年2月7日日曜日

Valiant その5 -Harbinger:Renegadesについて-

その4-Shadowman-の最後で次は『Harbinger Wars』をやります、と書いたのですが、それまでの経緯も書いていると、かなり長くてごちゃごちゃしたものになると思われるので、今回は『Harbinger』のそれまでの経緯と、主人公Peter Stancheckとその仲間によるチームRenegadesについて書いておこうと思います。もう一方の『Bloodshot』については『Harbinger Wars』に直結するストーリーなのでその時に書いた方が分かりやすいと思います。
ちなみに『Bloodshot』が来年2017年、この『Harbinger』が未定ながら映画化がアナウンスされており、それらに続いて『Harbinger Wars』の映画化も行われるであろうと予想されているので、この辺については日本語版が出版される可能性も大であるのですが、とりあえず始めたことだし、続きもやって行きたいので今のところは自分なりにやってみようかなと思っています。

今回は旧『Harbinger』の方を先に説明し、キャラクターを比較しながら進めて行くのが分かりやすいかなと思うので、そっちの方からやって行きます。
旧『Harbinger』では第1号でRenegadesが結成されます。それまでのストーリーである0号についてはその1で書いたので、その続きから。
Toyo Harada率いるHarbinger Foundationから逃亡中のPeter(画像上中央で立ち上がっている赤いシャツ) とKris(中央右車のハンドルを握っている)は追手の多勢に対し、こちらも仲間を作ることを考えます。そして目を付けたのはPeter自身もそれでHarbingerに関わることになった能力者を求める新聞広告。
郵便局からHarbinger Foundationあての郵便物を盗み出した彼らが最初に向かったのは、少し肥満体のオタク少女Faith(上右コスチュームを着て飛んでいる)の家。ヒーローに憧れる彼女の頭の中を読んだPeterは彼女には能力がないと判断し、帰ろうとするのですが、それを空を飛べるようになったFaithが追ってきます。Peterの力が作用することにより彼女の眠っていた能力が目覚めたのでした。
見た目は一番パッとしないように思えるFaithですが、単にコミック・リリーフ的な役割だけでなく、その純粋な心と正義感ゆえに『Harbinger』の中でも一番の人気キャラです。私もFaithちゃんのファン。彼女自身は自分のヒーロー名としてZephyrを名乗っているのですが、その身体が宙に浮いている様子から仲間からはZeppelinと呼ばれてしまいます。
次に仲間になるのがFlamingoことCharlene(中央左車に座っている)。彼女もHarbinger Foundationに手紙を送り、その支部に呼び出されたところで、そこを襲撃しその類の書類を盗み出しているPeterと出会い、彼らに合流します。彼女の能力は自在に炎を出し、操ること。
浮ついた態度を装う彼女ですが、実は母親との間の確執からくる孤独からのものだったり、自分の力で仲間達と戦えるのか、と悩むような一面もあります。
最後はTorqueことJohn Torkelson(左車の後ろの上半身裸)。見た目の通り怪力と強靭な肉体の持ち主。盗み出した書類から見つけた彼を、働いている車の整備工場に訪ねます。
あまりちゃんと学校にも通っていなかったなどのコンプレックスを隠すように粗野でマッチョぶったふるまいをする少年。Faith同様初対面では能力が見えず、女の子が沢山いるので勝手についてきたように見えるTorqueに、最初Peterは反発します。
以上が旧『Harbinger』のRenegadesのメンバーです。彼らのその後についての旧『Harbinger』のストーリーはいずれまたそのうちに。

そして、ここからは現行『Harbinger』について。まずは彼らの姿から。



右側を向いているのがRenegadesの面々。まず一番左、手前がKris、その奥がPeter、更に奥がFaith。そして次の画像がFlamingo。その次がTorqueとなります。ついでに一番右のスーツがToyo Harada。Renegades結成が描かれる『Harbinger』7~10号のカバーです。

ストーリーは、こちらもその1の続きから。
Harbinger Foundationに入ったPeterだったが、Haradaを崇拝し、またその一方でエリート意識の高い他のメンバーとはそりが合わず、孤立して行く。そんなある日、PeterはHaradaからHarbigerの候補者達からそのまだ表に現れていない能力を引き出すために力を使うように要請される。そこにいたのは自分の人生を変えたいと願う少女Faithだった。その能力を使いFaithの脳に働きかけるPeter。だがその結果、Faithは死亡してしまう。
更に絶望の底に落ち込むPeter。そして唯一の友人であるJoeに会いたいと望み施設を抜け出す。だが、ジャンキーのたまり場の中でPeterが見たものはすでに息絶えたJoeの姿だった。しかし、周囲のジャンキーたちの記憶がすべて消されていることから、PeterはJoeの死が過剰摂取によるものではなくHarbingerの手が下されたことを悟る。
怒りに燃えHarbinger Foundationを強襲するPeter。だが単独での無謀な攻撃はHarada以下Harbingerたちに阻止され、すべての力も気力も尽き果てたPeterは、絶望の中ビルの高層階から墜落して行く。その時、蘇生し飛行能力を得たFaithがPeterの身体を抱きとめる。

現行版で最初に仲間になるのはFaith。Peter強襲の混乱の中蘇生し、自分に能力が現れたことを知ったFaithは、その時まさに自分の恩人であるPeterが危機にあるのを知り、Harbingerを敵に回しても彼を救う選択をするのでした。旧版より当社比1.5倍増量してしまったFaithちゃんですが旧版同様の活躍をしてくれます。そして次はKris。

Krisは、あの事件以来常にHarbinger、Project Rising Spirit双方からの監視の目を感じていた。また一方では、彼女の父が失業し、健康保険が切れたところで心臓発作を起こし、莫大な医療費の請求に圧迫され、家庭は常に重く沈んでいる。自分ではどうすることもできない力に圧迫され身動きもとれず、クールな外見の下で怒りの炎を燃やし続けるKris。
そんなKrisの前にFaithが現れ、彼女をPeterの許へ連れて行く。立ち上がる力さえなくし、廃墟に隠れ横たわったPeter。俺にはもう生きて行く力も望みも無い。だが、君には本当にすまないと思っている。それが君の望みなら君の手で俺を殺してくれ。
しばらくの後、KrisはPeterに告げる。私のために銀行を襲え。Peterの能力で銀行強盗は衝突を起こすことすらなく成功し、大金を手に入れる。Krisは両親にその金を渡して逃がした後、Peterが自分の家に現れるとの情報でHarbinger Foundation、Project Rising Spirit双方を誘い出し、衝突させる。
そして再びPeterの前に現れた彼女は、立ち上がりJoeのために戦え、と告げる。

旧版とは見た目もキャラクターも大きく変わるKris。能力は無い彼女ですが、Renegadesの頭脳としてのポジションを担って行きます。そして次はFlamingo/Charlene。

家出し、故郷の小さな町を飛び出した少女Charlene。しかし、現在も暴力的な恋人に稼いだ金を搾り取られながらストリップ・バーで働いている。自分は本当の自由など得られない人間なのだろうか。
ある日、場違いな3人の少年少女が店に現れる。Peterはその能力によって潜在能力を持っているCharleneを見つけたのだった。人生を変える、との言葉に魅かれ、Peterの能力に身を委ねるCharlene。能力が覚醒した彼女の全身から炎が噴き出す。そしてCharleneは彼女を縛り支配してきた男の許へ向かう。空から消えたCharleneを探していたFaithが見つけたのは、その男ごと燃える車の傍らに立つ彼女の姿だった。この車はどうしたのかと尋ねるFaiyhにCharleneは答える。これは自由の炎よ。

この中では一番旧版と見た目もキャラクターもあまり変わらないFlamingo。結構ヤバそうな性格に見えるけど、旧版でも現行版でもチームからはみ出すことの少ないキャラだったりもします。最後はTorque。

田舎の車の修理工場に現れたPeter達。だが、彼らの目的は店から現れたいかつい男ではなく、その弟のJohnだった。
John Torkelsonは病弱でベッドから起き上がることができず、常にファンタジー世界でマッチョなヒーローになって活躍する自分を夢想している少年。最初はPeterを拒むJohnだったが、人生を変える、との言葉に動かされPeterの力を受け入れる。
だが、その時Peter達の居所を摑んだProject Rising Spiritのヘリが急襲する。Peterが応戦に走り去った後、Johnの能力は覚醒する。夢の世界の自分と一体化したJohnはドアを突き破って飛び出し、ヘリに飛びかかって行く。

Torqueについては旧版からの驚きの設定変更。夢の世界でヒーローのJohnが現実世界の自分を着ぐるみのように中に包み立ち上がるシーンは感動的。現行版でも見当違いのマッチョぶりを発揮する彼ですが、とりあえず序盤ではメンバーとの衝突はあまりありません。

そして、Project Raising Spirtからの攻撃で早くも最大のピンチを迎えるRenegades。攻撃開始直後、吹き飛ばされ難を逃れていたFaithの活躍もあり、彼らはR.P.S.の捕獲部隊を撃破する。
だが、最初から自分の闘いに巻き込んでしまった仲間たちを大きな危険にさらしてしまったことに苦悩するPeter。そんな彼に仲間たちは盗み出したHarbingerの揃いのユニフォームを着用することで共に戦う意思を示す。
かくしてRenegadesが結成。そしてHarbinger Warへと続きます。

このRenegadesの時期に、もう1冊『Harbinger』0号が発行され、そこではToyo Haradaの過去が語られています。
裕福な家庭に産まれ子供時代を過ごしたHaradaですが、広島に落とされた原爆によりすべてを失い、代わりに強力な能力を得ます。子供の見ながら近隣の指導者的立場になったHaradaは、そこで人間の欲や心の醜さを目の当たりにし、理想の社会を築き上げることを決意します。
また、『Harbinger』という物語は若き日のHaradaがチベットの僧院の中で血を流しながら生き続ける僧侶に会いに行く、という謎のシーンから始まっています。このBleeding Monkはその後随所に登場してくることになり、Haradaの計画はBleeding Monkの予言的なビジョンと深く関わっているようですが、その内容は現時点では明らかになっておらず、今後語られて行くことになります。また、第2次大戦前生まれだとすると、Haradaの年齢と現在の見かけが合わないことに気付いた人もいると思いますが、その秘密は『Harbinger War』の中で明らかにされます。

このあたりでは作画が毎回交替していたりして、ちょっとまとめにくいのですが、特筆すべきは0号のHaradaの過去パートを手掛けているフィリピンのアーティストMico Suayanでしょう。線がとかデッサン力がとかタッチがとかいうよりもはや世界の切り取り方がすごいというレベル。やっぱりすごいアーティストってまだまだ知らないところに沢山いるなあと感心しました。

ということでやってみたら案外長くなって、やっぱり先にやっておいてよかったなという感じです。次回その6こそは『Harbinger War』。なるべく早く書けるように頑張ります。


●関連記事

Valiant その1 -X-O ManowarとHarbinger-

Valiant その2 -Bloodshot-

Valiant その3 -Archer & Armstrong-

Valiant その4 -Shadowman-


●Harbinger


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2016年2月1日月曜日

追悼:Tom Piccirilli

アメリカのホラー/クライムフィクション作家Tom Piccirilliが亡くなったのは昨年7月11日でした。享年50歳。画像の作品がずっと気になっていて、そのうち読もうと思いつつ先延ばしにしていた矢先の事で、生前のうちに読むことができなかったのが申し訳なく、なんとか早く読んで追悼という形でも書いてみようと思っていたものの、相変わらずの遅読・遅筆ゆえに半年以上も経ってしまったのですが、なんとか読み終えた2冊の作品について、今回はTom Piccirilli追悼特集として書いてみようと思います。

Tom Piccirilliは1965年生まれで、1990年頃から20冊以上の著作がある作家です。短篇小説は150作以上。国際スリラー作家協会賞ペーパーバック・オリジナル賞を2回受賞し、ブラム・ストーカー賞を4回受賞しています。コミック関係ではヘルボーイの小説などがあります。
ちょっと名前の読み方が難しくて検索できなかっただけかもしれないけど、とりあえず日本ではまとまった本の形では紹介されていないようです。アンソロジーや雑誌についてはちょっとわかりません。どこかに死亡記事ぐらいは載ったのでしょうか。このジャンルの翻訳状況が特に厳しいとはいえ、これほどのキャリアがある作家がおそらくはほぼ未紹介と思われる状態のまま亡くなるというのは大変惜しい事だと思います。そもそもがホラーよりはノワール系ファンで門外漢かもしれない私ゆえ、勘違いや至らぬところはあると思いますが、これがこの優れた作家を一人でも多くの人に知ってもらう一助になればと思います。
私がTom Piccirilliの訃報を知ったのは、Crimespree Magazineのウェブサイトの記事でした。ドゥエイン・スウィアジンスキーやテリル・ランクフォードなど生前親交のあった多くの作家が追悼文を寄せています。

Crimespree Magazine/Tom Piccirilli 1965 to 2015

【Fuckin' Lie Down Already】
Clayはニューヨーク郊外で警官に車を止められた。信号を見落とした。もう2日もずっと走っている。無理もない。だがこんなところで停まっているわけにはいかない。彼に残された時間は少ないのだ。そして彼には成し遂げなければならない仕事が残っている…。
サイドシートには妻、そしてバックシートには一人息子。彼自身も刑事だが、ここでバッジを見せるわけにはいかない。
「ここはいいところだな。」話しかけ、妻の腕に手を置く。あわてたように車内の蠅が暴れ出す。妻と息子の死体に集まってきた蠅。そして彼の腹の腸がはみ出している傷口も腐り始め悪臭を放っている。だが、まだ仕事をやり遂げるだけの時間は残っているだろう。彼には成し遂げなければならない仕事があるのだ…。
そして、Clayはジャケットで腹の傷を隠し、車から降りる…。

主人公Clayは復讐のためにひたすら走り続ける。とっくに死んでいるような重症なのだが、なぜ生きているのかには合理的な説明はない。そんな物は要らないのだ。彼は復讐を果たすまでは死なない。それが理由。そして更に路上で見つけた動物の死体を、まるでそれが自分が生き続けるための儀式であるかのように車に積み込む。凄絶な復讐劇を描いたノワール中編の傑作です。素晴らしい。
総ページ数は73ページとなっていますが、巻末に他の作品のプレビューが入り、実質的には50ページぐらいで中編としても短めで、シンプルなストーリーながら胸を打つ素晴らしい作品です。作品の長さなど関係なくこれを読めば彼が大変優れた作家であることは明白なのですが、さすがにこれだけで追悼などと言ってみせるのもPiccirilliさんに申し訳ないと思い、もう1冊読んでみたのが次の作品です。

【Nightjack】
自分は本当に治ったのか?
Paceは自問する。Paceは今日施設から退院する。そしてアパートで一人で生活し、魚の缶詰工場で働くことになっている。

だが、自分は本当に治ったのか?
彼には曖昧な記憶しかない。炎。愛する妻。そして、自分は何らかの事件を起こし、この施設に収容された。危険な患者としてしばらくは拘束もされていたはずだ。

自分は本当に治ったのだろうか?

主治医である美しい女性Maureen Branditに付き添われ、Paceは駅に向かう。そこから新しい生活に旅立つのだ。

駅に着くと、3人の男女がこちらに向かって歩いてくる。彼らには顔が無い。Paceには彼らの顔を見ることができないのだ。だがPaceは彼らが誰だか知っている。そして彼らが自分を迎えに来たことも…。

そしてPaceは施設から続いていた薬漬けから解放され、様々な彼を知る人物と出会うことで、自らの過去、記憶を少しずつ取り戻して行きます。しかし、新たな記憶は前の物を裏返すように続き、Paceはまるでフランツ・カフカの小説のようにあての無い様な迷宮を彷徨ってゆくことになります。

というストーリーなのですが、ここで一つ注意。この小説、カバーを見るとバイオレンスでダークなサイコホラーなものに見え、私もそう思って読み始めたのですが、実はちょっと違います。序盤、Paceの記憶が戻り始めたころはその感じなのですが、話が進み記憶が更に戻って行くにつれストーリーはむしろそれとは逆のベクトルで動いて行きます。少し前に書いたスウィアジンスキーの『Hell & Gone』でしつこく書いたように、思い込みによる期待からその本を読み違え否定的に読んでしまうのは不幸なことで、この本に関してはかなりその危険性が高いのでそこについては注意しておきたい。このカバー、画としては本当に良いのですけどね。

これは例えばジグゾーパズルのような小説かもしれません。最初、バラバラの塊では恐ろしいグロテスクな絵に見えていたものが、様々なつながりが提示され、思っていたものと形が変わって行き、最後のピースがはまって完成すると全く違った絵になっているような。とは言ってもある種のミステリーのように読者が推理してパズルを組み立てて行くのは不可能なような。やっぱり私はこのジャンルにそれほど明るくないので、これがホラーなのか、それとももう少し違うジャンルというべきなのか上手く判断はできませんが、少なくとも私の感想としてはちょっと変わった面白いものが読めたなと思っています。

先の『Fuckin' Lie Down Already』を読んでから、もう1冊できたら初期のホラー物を読もうと思い、値段の安さからてっきり昔の作品だろうと思い込んでこれを選んで読んだのですが、あとで調べてみたら『Fuckin'~』が2003年発行の作品であるのに対し、こちらは2010年発行とそれより後の作品でした。『Fuckin'~』がとても優れた作品で、これならどの作品を読んでも大丈夫だと思い、その判断に誤りはなくこの作品も読むに値する優れた作品でしたが、今にして思うとずいぶん雑な選び方をしてしまったと反省しています。追悼を標榜するのならきちんと調べて受賞作など代表作を選ぶべきだったのでしょう。日本でも前から熱心にPiccirilli作品を読んでいる人が見たら、腹は立たないまでもずいぶんもどかしい思いをされたことでしょう。ただ、自分の読書ペースではいつになるかわからないけど、それらの代表作も必ず読むつもりですので、今回はあまり言及されないかもしれない作品に少し光が当てられたな、ということでお許しください。そして、繰り返して言いますが、この作品も読むに値する優れた作品です。

これで初めてTom Piccirilliの作品を読んだ私のようなものが半年も遅れてこんなことをやる資格があるのかなとは思いつつ、それでもその作品が読まれることが作者にとっては一番の事なのだと信じ、それを読むことで追悼とさせていただきました。享年50歳。まだまだ良い作品が沢山書けただろうに本当に残念なことです。Tom Piccirilliさんの冥福を心からお祈りいたします。そしてこれからもPiccirilliさんの作品が沢山読まれますように。


■Tom Piccirilliの著作

シリーズ作品

Felicity Groveシリーズ
 1. The Dead Past (1997)
 2. Sorrow's Crown (1998)

Priest & Lamarrシリーズ
 1. Grave Men (2002)
 2. Coffin Blues (2004)

Coldシリーズ
 1. The Cold Spot (2008)
 2. The Coldest Mile (2009)国際スリラー作家協会賞 ペーパーバック・オリジナル賞

Last Kind Wordsシリーズ
 1. The Last Kind Words (2012)
 2. The Last Whisper in the Dark (2013)

長編

 Dark Father (1990)
 Shards (1996)
 Hexes (1999)
 The Deceased (2000)
 The Night Class (2000)ブラム・ストーカー賞 "Best Novel"
 A Lower Deep (2001)
 A Choir of Ill Children (2003)
 November Mourns (2005)
 Headstone City (2006)
 The Dead Letters (2006)
 The Midnight Road (2007)国際スリラー作家協会賞 ペーパーバック・オリジナル賞
 The Fever Kill (2008)
 Hellboy: Emerald Hell(2008)
 Shadow Season (2009)
 Nightjack (2010)
 What Makes You Die (2013)

中編

 Fuckin' Lie Down Already (2003)
 Thrust (2005)
 All You Despise (2008)
 Frayed (2009)
 The Nobody (2009)
 Short Ride to Nowhere (2010)
 Cold Comforts (2010)
 Loss (2010)
 You'd Better Watch Out (2011)
 Every Shallow Cut (2011)
 Clown in the Moonlight (2012)
 The Walls of the Castle (2013)
 Vespers (2014)
 Pale Preachers (2014)

短篇集/詩集

 Pentacle (1995)
 The Hanging Man and Other Strange Suspensions (1996)
 The Dog Syndrome and Other Sick Puppies (1997)
 Inside the Works (1997)
   (with Gerard Daniel Houarner and Edward Lee)
 Deep into that Darkness Peering (1999)
 A Student of Hell (詩集) (2000)ブラム・ストーカー賞 "Best Poetry Collection"
 Four Dark Nights (2002)
   (with Douglas Clegg, Christopher Golden and Bentley Little)
 This Cape Is Red Because I've Been Bleeding (詩集) (2002)
 Mean Sheep (2003)
 Waiting for My Turn to Go Under the Knife (poems) (2004)
 Bare Bone Vol 10 (2007)
   (with Cody Goodfellow)
 A Little Black Book of Noir Stoires (2007)
 Futile Efforts (2010)
 Tales From the Crossroad : Volume 1 (2011)
   (with David Dodd, Gerard Daniel Houarner, Al Sarrantonio,
   Steve Rasnic Tem and Chet Williamson)
 Forgiving Judas (詩集) (2014)
 A Haunting of Horrors (2014)
   (with Hugh B Cave, John Farris, Ronald Kelly, Elizabeth Massie,
    David J Schow, John M Skipp, Craig Spector, Chet Williamson
    and David Niall Wilson)

グラフィック・ノベル

 Bullet Ballerina (2015)
  (Illustrated by Greg Chapman)



●シリーズ作品

Felicity Groveシリーズ

Priest & Lamarrシリーズ

Coldシリーズ

Last Kind Wordsシリーズ

●長編


●中編


●短篇集/詩集


●グラフィック・ノベル

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2016年1月23日土曜日

Hellblazer -Jamie Delano編 第3回-

明けましておめでとうございます。…にはちと遅いのですが、相変わらずの寒さに弱い体質ゆえ年末年始と体調を崩し、やっと復帰してきたところでの新年1回目はHellblazer Jamie Delano編の第3回です。
前回、各号ごとのあらすじを書いてみて、そこまでやることもないかなとも思ったのですが、やはりどうもそういう形でないとJamie Delanoのストーリーの進め方をうまく説明できないように思えてしまうので、とりあえずJamie Delano編に関しては残りもその形でやって行こうと思います。今回もネタバレということになりますのでご注意を。


【Fear Machine】

一連の事件の後、宿無しその日暮らしのコンスタンティン。ある朝、前夜知り合った女性の部屋から早々に立ち去った彼は、店先の新聞でこれまでの成り行きから自分が指名手配されていることを知る。人目を避けた土地を目指し移動するコンスタンティンは、パトカーから逃げた森の中で不思議な雰囲気の少女Mercuryと出会い、彼女の母親Marjらとともにヒッピーのコミューンに向かう。(14号)
ヒッピーのコミューンに落ち着いたコンスタンティンは、ある日Mercuryに連れられ、古代に作られた石柱群により構成される超自然的なエネルギーのネットワークであるLey Lineを訪れる。Ley Lineを辿るうちにその一部がGeotronikという謎の組織によって封鎖されているのを目撃する。Mercuryはその奇妙な能力により不穏なものを感じ、封鎖地域に入り込む。軍服姿の警備する男に捕まった彼女をコンスタンティンは救い出す。その後、コミューン内でもめた女性にマジックマッシュルームを盛られたコンスタンティンは、トリップ状態でさまよううちにLey Lineで幻覚とも現実とも判別のつかないまま石柱に狂ったように頭を打ち付ける男を見る。(15号)
ヒッピーのコミューンが警官隊により強襲される。殴打されコンスタンティンが意識を失っている間に、Marj、Mercury親子は逮捕され、連行される。意識を取り戻したコンスタンティンが警察署に向かうと、そこにいたのはMarjだけでMercuryの姿は無かった。Marjが薬を射たれ意識が混濁している間にGeotronikの施設にいた男に連れ去られていた。コンスタンティンはMarjにMercuryを捜し出すことを約束し、コミューンから旅立つ。(16号)

以上が最初3号のあらすじなのですが、まあ普通はこの3号のストーリーは1号でまとめられます。ヒッピーのコミューンにいるところから始まり、ナレーションでこれまでのいきさつを説明し、MercuryとLey Lineに行き、その夜夢で幻覚の情景を見て、目を覚ますと警官隊に襲われる、と例えばこういう感じ。第1回で延々と書いていた、ストーリーの進行による必要性ではなく、主人公が普通に動くのを追っていくようなDelanoのスタイルが見られるところです。こんな変なのはそうそう見られない。でも例のようなまとめ方をするとやはりこのDelanoによるジョン・コンスタンティンというキャラクターから抜け落ちて行ってしまうものもあり、その辺がゲストライターの物と比較するとわかりやすいのですが、なんとか今回は頑張ってそこまで行こう。
ここまでの作画は以前の号から引き続きのRichard Piers Rayner。デッサン力は確かなのですが、相変わらず時々現れる変な顔が少し気になる…。

あと、どこかで明確な説明をするのでなく少し抽象的だったりもする描写の積み重ねで説明して行くのがDelanoのスタイルで、あらすじだけを書いて行くとわかりにくくなりそうなのでここで一旦まとめて説明すると、Geotoronikという組織は一応民間の研究所ではあるけど、フリーメイソンを背景に持ち、警察も深く関わっており、彼らの目的は、超自然的なエネルギーのネットワークLey Lineのシステムを応用し、人間の深層心理に潜む恐怖を拡大増幅して伝達させるFear Machineという兵器を完成させることです。そして少女Mercuryの能力とは基本的にはテレパシー的なもので、更に人間の深層心理にあるものを引き出すこともできるものであり、それがGeotoronikによって研究のために利用されようとしているということです。

コンスタンティンがロンドンに戻るために乗った列車が、Fear Machineの攻撃に遭う。恐ろしい幻覚に襲われパニックを起こした乗客たちが互いに殺し合い、あるものは自殺を図り、車内は地獄と化す。それ以前から不審な行動が気になっていたロシア人らしき男に関わりがあると感じたコンスタンティンは男を追うが、遂に列車が脱線する。気絶した男を担ぎ、なんとか無事に列車から脱出したコンスタンティンは、事故後救助を装い現れた一団の中にコミューンを襲撃した男たちを目撃し、そしてその攻撃の標的がそのロシア人らしき男であることを知る。コンスタンティンはその男を近くの茂みの中に隠し、その場を立ち去る。(17号)
この号の作画はMike Hoffmanがゲストアーティストとしてクレジットされています。1980年代から主にホラー系のコミックを手掛けてきたアーティストで、少し線が硬く平板に見えるのが気になるけど、ダークで雰囲気のある画の描けるアーティストです。

Marjはその後、大きなヒッピーのコミューンに移動し、そこである種教祖的な立場になっているZedと出会う。Geotronikの施設に捕われたMercuryは、実験の過程で恐怖に捕われ破滅しかかっている被験者を自分の能力で救おうと試みる。一方、ロンドンに到着したコンスタンティンは調査を始めるが、遅々として進まない。昔馴染みのTalbot警視と出会い、警察内で悪徳警官を狙いリクルートする組織があることを訊き出す。また、その背景にフリーメイソンが関わっているらしいことも知る。そしてコンスタンティンはLey Lineに奇妙な動きがあることを書かれた記事を見つけ、それを書いたジャーナリストに接触を試みる。(18号)
この号は主にコンスタンティン、Marj相互の手紙、Mercuryの手記で構成されていて、ただでさえ多いナレーションが更に増えている上に筆記体で書かれ、読みにくさ倍増。Original Sinsの後、消息不明だったZedが再登場。今後また重要な役割を担って行きます。新聞に顔写真まで載せられ指名手配されていたコンスタンティンですが、Talbot警視と会ってみると、ありゃあ大したことじゃない、みたいに言われて警察も結構いい加減だったり。
この号からそれまでインカーにまわっていたMark Backinghamがペンシラーを担当。正確な画力で、綿密に書き込まれた背景に人物を配置し、ホラー的な雰囲気も上手く、文句なしの画。少なくともコミックのアーティストとしての腕は明らかにRaynerより上だと思うのだが…。いろいろ事情もあるのでしょうね。

コンスタンティンがジャーナリストSimonが泊まっているホテルの部屋を訪ねると、彼は異様な姿で縛られてクローゼットの中に押し込められていた。窒息寸前のSimonを救い出すコンスタンティン。Simonから話を聞くと、彼がGeotronikに不審を抱き調査したきっかけはそこで相次いだ科学者たちの理由不明の自殺からだということだった。コミューンのMarjとZadはMercury救出のための儀式を行い、その能力によりメッセージを受け取ったMercuryは脱出のための画策を始める。TalbotとSimonからの話から組織の輪郭を掴み始めたコンスタンティンは、更に話を突き合わせるため二人を会わせる。3人が向かった地下鉄のホームで、それまで何かとコンスタンティンに付きまとっていたホームレスの男が、彼につかみかかり口に丸めた紙を押し込むと、JALLAKUNTILLIOKANという謎の言葉を叫びながら、地下鉄に飛び込み死亡する。コンスタンティンの口に入れられた紙にはTremble The G.O.A.G. is Comingと綴られたうえに奇妙なマークが描かれていて、それが彼を殺そうとした男の指輪に刻まれたデザインであることに気付いたSimonは戦慄する。(19号)
Fear Machineの研究で神経をすり減らした科学者のひとりを利用し、Mercuryは独力で施設を脱出する。コンスタンティンたちは、Talbotに接触してきたというロシア人科学者に会いに行くが、案の定それはコンスタンティンが攻撃された列車で出会った男だった。Talbot、Simonにそのロシア人科学者Serjを加え、Geotronikの陰謀への調査も進むかと思われた矢先、コンスタンティンの留守中にGeotronik配下の警官に襲われ、3人は施設に拉致される。Geotronikでは弱腰で失態の続く科学者たちに業を煮やし、Simonの殺害を図った指輪の男、Websterが指揮を執り始める。宗教的な聖地であるかのようにFear Machineを崇めながら近づいた彼は、その中にその最大の恐怖を注入するように、装置の中央で被験者たちを残忍に処刑し始める。その時、コンスタンティン、Mercury、Zedらの頭の中に再び謎の言葉JALLAKUNTILLIOKANが響き渡る(20号)
コンスタンティンはフリーメイソンに属するかつての知り合いの男を脅迫し、情報を引き出し、「The G.O.A.G.」がThe God Of All Godsの意でありJALLAKUNTILLIOKANがその名であることを知る。もはや自分の力ではなすすべも無い事を悟ったコンスタンティンは、親友Chasの助けでスコットランドのZedたちのコミューンへ向かう。その途上、脱出し北を目指して独り進んでいたMercuryと出会い、無事に彼女をコミューンで待つMarjの元へと届ける。一方Geotronikの施設では、監禁されたTalbotたちの眼前で、Websterによる陰惨な儀式的処刑が続き、Fear Machineの力を増大させて行く。(21号)
Websterの処刑は遂に監禁された3人にも及び、ひとりずつFear Machineの生贄となって行く。Zedは闘いのためコミューンを解散し、その地にはZed、Marj、Mercury、そしてコンスタンティンだけが残る。Mercuryが意識をFear Machineに送り込む一方、儀式で3人は絡み合い、産み出された卵から双子のドラゴンが空へと昇って行く。巻き起こされた嵐で海に投げ出されたコンスタンティン。沖合で船に救助されたコンスタンティンは全てが終わり彼女たちがFear Machineをくい止めたことを知る。(22号)

最後22号はかなり神秘的・幻想的になりちょっとわかりにくいと思いますが、こんな感じです。以上がFear Machineのあらすじです。Jamie Delanoによる『Hellblazer』の中でも代表的なストーリーという評価のようです。第1回の概要で書いたように簡単に説明できるものなのだけど、少し詳しく重要と思われるところを書いてみたら、結果的にずいぶん複雑で長くなってしまいました。これもストーリーがまっすぐに進まないDelanoの作風ゆえの事と思います。全体を通してみてみると、実は主人公ジョン・コンスタンティンは最後まで事件の周辺をウロウロするだけで全く活躍していません。Mercuryも自力で脱出したし。しかし、全く無力でただ常に傍観者でいることしかできないキャラクター、と言ってしまうのもやはり違うと思う。何とも独特で奇妙な魅力を持ったJamie Delanoによる『Hellblazer』の特徴が良く現れたストーリーだと思います。
後半のMark BackinghamによるFear Machineから発せられる恐怖のイメージはかなりグロテスクで迫力があります。うっかり小さい子に見せたらトラウマになりそう。


【ゲストライターによる作品】

続く23号からは次のThe Family Manへと向かって行くのですが、間にいくつかゲストライターによる作品が入って行くので、そちらについて先に説明します。

まず、25・26号はグラント・モリソンによる作品。友人の女性記者に誘われ、彼女の取材につきあい北の町Thursdykeを訪れたコンスタンティン。近くにミサイル基地を擁するその町では、町の住人達によるユーモラスなかぶりもののカーニバルの開始を待っていた。だがその時、ミサイル基地の奥深くで、一人の狂気の科学者による実験が開始される。町に向かって発せられたマイクロウェーブにより住人たちの潜在意識に隠された欲望と恐怖が解放されるのだ。「眠れる巨人を目覚めさせるのだ」科学者は語る。そして、北の町Thursdykeで狂気と暴力のカーニバルが始まる…。
かなり読みにくいDelano作品からの流れで来ると、Hellblazerでもこんなに読みやすくできるんだと思ってしまう。コンスタンティンのキャラクターも違和感なく踏襲されたさすがの良作という感じです。この話の舞台の町は架空のものと思われますが、ミサイル基地の近くという設定はモリソンさんの家の近所のようですね。
作画はイギリス出身で『V for Vendetta』を描いたDavid Lloyd。言っちゃあなんだけどスペシャルだけにいつもより格段に上手い人が出て来たな、という感じ。

27号はニール・ゲイマンによる作品『Hold Me』。友人のパーティーで紹介された女性のアパートへ行ったコンスタンティンは、彼女と喧嘩別れした後に部屋の外で、母親が壁から出てきた男に抱きしめられ、冷たく動かなくなってしまったと話す少女と出会う。そしてコンスタンティンは、その取り壊しの決まった建物の空き部屋に入り込み、抱き合って暖を取る相手さえいないまま孤独にこの世を去った幽霊と遭遇する…。
シンプルだけど非常に完成度の高い素晴らしい作品。なんだかDelanoメインのところであまり褒めるのもなんだが、やっぱりさすがとしか言いようのない名作。まだやっと全体の6分の1ぐらいしか読んでない私ですが、それでも『Hellblazer』ベスト版みたいのを作るとしたらまず筆頭に選ばれるだろうなと思える作品。必読!
作画は『Hellblazer』のカバー画を多く手掛けているDave McKean。イギリス出身の、コミックのアーティストというよりもっと広くイラストレーター、画家というくらいのアーティストですが、ペン画も素晴らしいとしか言いようがない。

それから少し飛んで、32号がDick Foremanによる作品『New Tricks』。ある町で連続する不審な失踪事件を調べるコンスタンティンは、ジャンクヤードに潜み、野犬の王として君臨する残虐な人食い犬にたどり着く。それはある悪魔教に傾倒した男の変わり果てた姿だった。
前の2人は結構上手すぎたりもするので、この作品あたりがDelano作品との比較としてわかりやすいのではないかと思います。と言ってもこの話の出来が悪いとかいうことではありません。序盤、少しフキダシがごちゃごちゃしすぎているきらいはあるものの、様々なセリフのやり取りで説明し、あまり無駄なく本筋に移り、グロテスクな見せ場やアクションに充分ページを使って表現するという普通によくできた作品です。野犬の群れに囲まれ、残虐な人食い犬を前に平然と渡り合うタフなジョン・コンスタンティンは、Delanoの結局全く活躍しない主人公よりもイメージしやすいと思います。オカルト探偵ジョン・コンスタンティンというストーリーを普通に作ればこういう感じになるのではないでしょうか。まあそれゆえに私などはこのJamie Delanoによる『Hellblazer』が独特の魅力を持った特殊な作品だと思うのですが。ただ、この作品連続した流れで読むと、Family Manのストーリーでコンスタンティンが様々にかなり精神的に疲弊した状態にあるところに来るのでかなり違和感があったりもするのですが。
作者Dick ForemanはVertigoで他に『Black Orchid』などの作品のあるライターですが、ちょっと調べてもあまりよくわかりませんでした。イギリス出身で、多分そちらの方に色々作品もあると思われるのですが。
作画のSteve Pughもイギリス出身で、現在もアメリカ、イギリス両面で活躍するアーティストです。この辺りはまだデビュー間もないころの作品だと思います。独特のダークでバイオレンスな風味の画風は結構好き。


【The Family Man】

The Family Manは実際にはそのタイトルのついているのは、24号、28~30号の4話からなる作品ですが、関連する前後の作品を含め、33号までのストーリーをここで説明します。

コンスタンティンは昔からの友人であらゆるものを取引するディーラーJerry O'Flynnの屋敷を訪れる。自分の身体に流れる悪魔の血を売る魂胆だったコンスタンティンだったが、O'Flynnが厄介なトラブルの渦中にあることを知る。様々なフィクションの中のキャラクターのモデルになり、多くの物語に登場する彼は、そのことによりフィクションの世界から糾弾・訴追されているというのだ。(23号)
ちょっと説明しにくいややこしい話なのですが、最終的にO'Flynnは捕まって幽閉され、留守宅に居座ったコンスタンティンはそこでFamily Manと出会うことになります。
作画はここからRon Tinerに交替。イギリス出身のアーティストで2000ADあたりでは多くの仕事があるようなのですが、あまりよくわかりませんでした。Comixology関連のショップではどこも一部Rob Tinerって間違って表記されてるし。コマの中のキャラクターの大きさなどから見て少し古い世代に属するアーティストと思われるけど、ホラー的な雰囲気は悪くないです。イギリスではかなり大物のアーテイストのようで、キャラクターの描き方の本も出しています。

留守中のO'Flynnの邸宅を漁り、金庫の中に大金を見つけ大喜びするコンスタンティン。その時、屋敷を一人の老紳士が訪れる。O'Flynnから受け取ることになっていたという封筒はすぐに見つかり、それを持ってその男は帰って行く。手渡す前に何気なく封筒を覗き、中にある家族に関する写真や情報などが入っているのをコンスタンティンは見ていた。男が帰った後、金庫にあったO'Flynnの日記などを見ているうちに彼は今の男がFamily Manと呼ばれる連続殺人鬼であることに気付く。そして、O'Flynnがその男に犠牲者となる家族の情報を売っていたことも。コンスタンティンは金庫の中の大金もろともに屋敷に火を放ち、O'Flynnの邸宅を後にする。(24号)
全4話から成るThe Family Manの第1話です。Family Manは一見身なりも良い老紳士ですが、幸せな家庭の家族全員を冷酷に惨殺する怪物的な人物です。彼がそのような犯行に及ぶ理由などは、少年時代の親子関係にあることが断片的に彼の回想などで示されますが、あまりはっきりとはわかりません。彼は結構な老人だし、その間に少なくとも50年以上の欠落があるわけですし。コンスタンティンは彼と出会ったとき名前を尋ねられ、うっかり話してしまったことから自分の素性を知られ、Family Manとの対決を余儀なくされます。

コンスタンティンは親友Chasがタクシーを売り払い始めた賭け屋の二階に居候を始め、そこを拠点に調査を始める。O'Flynnの屋敷にいたときたまたまかかってきた電話を手掛かりに、ホラーマニア向けのいかがわしいショップにいってみると、そこの奥の部屋ではFamily Manの物を含む様々な殺人事件の記念品が売られていた。コンスタンティンはそこを警察に通報し、現場にFamily Manをおびき寄せようと企む。だが、彼が帰宅してTVを見ると、新たなFamily Manの犯行が報道されていた。そして、Family Manも既にコンスタンティンへの攻撃を始めていた。コンスタンティンの父の住居を突き止め、コンスタンティンの友人のふりをして訪れ彼の情報を聞き出した後、父親を殺害する。(28号)
Family Manの影に怯えるコンスタンティンは、深夜忘れ物を取りに戻ったChasに間違って襲いかかるなどの行動に出てしまう。Chasの紹介で拳銃を手に入れるコンスタンティン。だが、その取引に出ている間にFamily Manは彼の居所を突き止め、店にいたChasに暴行を加え、メッセージを残して行く。それを見たコンスタンティンは、その時自分の父親がFamily Manによって殺害されたことを知る。そして、コンスタンティンはFamily Manとの対決を決意する。もうお前のような厄介者にはうんざりだ、とコンスタンティンを追いだすChas。コンスタンティンが向かった先はChasのいとこで娼婦のNormaの住まいだった。彼を尾行し、落ち着き先を確かめたFamily Manは自分の泊まっているホテルへと引き上げ、フロントに朝5時に起こしてくれ、と告げる。だが、すべては逆にFamily Manの動きを探るための罠だった。そしてコンスタンティンの元へ、Family Manをひそかに尾行していたChasからの電話がかかってくる。(29号)
早朝、Normaの住居を後にするコンスタンティン。その後を尾けるFamily Man。コンスタンティンは人気のない工事現場に入り込み、待ち伏せを図る。だが、Family Manはその意図を見抜き、姿を消す。再びFamily Manを見失ったコンスタンティン。なるべく人の多いところを選び、街をうろつく。地下鉄に乗り、意気投合したサッカーファンとバスに乗り込む。そして、バスがパンクし、タイヤ交換に停車し、コンスタンティンが降りて一人になった瞬間、変装し、尾行していたFamily Manがナイフを手に襲い掛かる。道路を離れ逃げるコンスタンティン。追いつめられたコンスタンティンはFamily Manに銃を突きつける。最初の弾はFamily Manの頭をかすめる。もみ合ううちに発射された2発目はFamily Manの足に当たる。「なぜお前は家族全員を殺したんだ?なぜ?俺は知らなきゃならないんだ!」コンスタンティンはFamily Manを問い詰める。だが、意味不明の答えしか得られないまま、コンスタンティンは彼を射殺する。(30号)

以上がThe Family Man全4話のストーリーです。オカルト探偵ジョン・コンスタンティンが、超自然的であったり心霊的であったりという背景の全くない人間の殺人鬼との対決を余儀なくされるというストーリー。しかし、その相手は超自然的なものより更にコンスタンティンにとっては不可解なもののまま話は終わります。
お馴染み親友のChasがここでは賭け屋に転職していますが、そもそもがコンスタンティンの勧めというか口車に乗せられてということのようです。タクシー運転手に復帰するのはガース・エニスが交替してライターになってからになります。
作画は引き続きRon Tinerですが、28号からの3号はインカーが加わります。最初の2話はKevin Walkerという人でRon Tiner自身のものとあまり変わりませんが、最終話は今回はまたしても登場のMark Buckinghamで線がかなりクリアで力強くなります。やっぱりこの辺の上手さがインカーとしての需要になるのでしょうね。

コンスタンテインの姪Gemmaは葬儀の前夜から何かを訴えるような祖父の姿を見始める。祖父の姿は彼女以外には見えていない。葬儀の間も、そして火葬されてからも祖父の姿は去ろうとはしない。翌朝、葬儀に遅れて到着した叔父ジョンに相談する。その理由を考えながら墓地を歩くコンスタンティンは、すっかり忘れていた過去の出来事を思い出す。ティーンエージャーの頃、ハイスクールからも追い出され父親との関係も険悪になっていたコンスタンティン。ある日、父親が自分の魔法やオカルトについての蔵書を焼き捨ててしまったことに腹を立て、父を呪いをかけようと企む。猫の死体を使った呪いは効果を発し、父の身体は弱り始める。だが、現実に死に向かってゆく父の姿を目にし、コンスタンティンは後悔し、なんとか呪いを解除しようと考える。彼に思い付いたのは呪いに使われた猫の死体の腐敗を止めることだった。コンスタンティンは学校から盗み出したホルムアルデヒドに猫の死体を浸ける。そして、呪いは止まり、父親の体調の悪化も停止した。そしてその猫の死体を保存した瓶を隠したのは母親の墓石の下だったのだ。コンスタンティンは掘り出したそれを焼却し、そして父の魂を解放する。(31号)
Family Manに殺害された父親のその後の話。4号に登場した姪のGemmaが再登場。ここで、コンスタンティンと父親との確執が描かれます。この号はThe Family Manの後日談であると同時に、コンスタンティンの内面や過去を掘り下げて行く次のThe Golden Boyにも続いて行く話となります。
作画は、近年はエド・ブルベイカーとのコンビで『Criminal』などの傑作を産み出し、最近では『Fatale』の日本版も発売されたショーン・フィリップス。彼もイギリス出身で、Pat Mills作品などを手がけた後、アメリカでの最初の仕事がこの『Hellblazer』のようです。当時から優れた画力の持ち主ですが、線の好みは現在と少し違い、ラフな線の効果が気に入っていたようです。

続く33号は第2回の最後に書いたあの13号と双璧を成すDelanoによる怪作です。
ある晴れた日曜日、コンスタンティンは気持ちよく散歩に出かける。昔のヒッピー仲間と出会う。彼はコンピューター業界で成功を修めている。自分の成功に少しためらいながら未来を語る友人の話をコンスタンティンは楽しく聞く。「モノリスを脱構築するのだ。」彼は語る。道端の公衆便所に立ち寄るコンスタンティン。だが、そこから外に出ると何かが変わっていた。友人の姿は無く、空はどんよりと暗く曇っている。道をゆく人々の言葉は理解できないものになり、看板や標識も読むことのできない文字の羅列となっている。電気製品を持ち路地裏に集まる人々。積み重ねられた山には火が放たれる。「彼らはモノリスを脱構築しているのだ。」傍らに立っていたインドの行者のような男が彼にも理解できる言葉で語る。ここはどこなのだ?、というコンスタンティンの問いに、時間の乱気流の中ではそれは意味のないことだとの応え。魔術師であるお前なら正しい道を見つけられる、と指し示された入り口をコンスタンティンはくぐる。そこはどこにでもあるにぎやかなパブ。バーテンに酒を頼もうと試みるうち、コンスタンティンはその世界に同調し、人々の言葉も理解できるようになる。そしてコンスタンティンはパブの一角に落ち着く。日曜日の街はいつもとちょっと違うものさ。(33号)
なんとか書いてみたものの、ちゃんと書けたか今一つ自信がありません。よくわからないものはそれなりにそのままで楽しむ私ですが、もっと頭のいい人ならきちんとこの作品が何を言わんとしてるか理解できるのでしょうか。
作画はDean Motterでちょっと今ひとつかなと思ったのですが、少し調べてみると、カナダのアーティストでライターも兼ねていろいろ興味深い仕事もあるようです。近作としてはDark Horseからの『Mister X』シリーズがあり、読んでみたかった作品でもありますので、いつかその時に仕切り直しということで。


というところで、今回はここまでです。冒頭、挨拶で書いたように書き始めた時点でもうあんまり明けましておめでとうなんて言ってる人があまりいない頃になってしまったのですが、このHellblazer Jamie Delano編、先の長いHellblazerでもありますし、いつまでも引っ張っていられないのでなんとかここまでと思って頑張っているうちに、ご覧の通りずいぶん長くなって、ずいぶん時間もかかってしまい、今頃明けましておめでとうなんて言ってる人類お前だけだよ、ということになってしまった次第です。まあ、とにかくこれでDelano編もあと最後のThe Golden Boy 7話を残すのみとなりました。なるべく早く第4回を終わらせ、次のGarth Ennis編へ向かうつもりです。
なんにしてもとりあえずは新年第1回ですので、今年も頑張る所存であります、とか書いて終わりにしよう。ではまた。


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