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2015年11月24日火曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回

イギリスの最新の犯罪小説作家45人を集めた注目のアンソロジーの紹介も今回第3回となりました。まあまだよくわからない作家が並んでいるばかりですが、いつかこれが役立つ日も来るのだよ!との信念を持って頑張って行こうと思います。

今回はまずは前回ちょっと触れたイギリスByker BooksのBest of British Crime Fiction Bookシリーズについてです。…と勇んで始めたものの、このシリーズ現在中断中でしばらく後続の新刊がリリースされておりません。線画のクールなイラストのカバーで統一され(1冊例外あり)見た目もカッコいいイギリスの若手クライム・ノヴェルの作家の中編小説のシリーズということでずいぶん期待しているのですが。とりあえず現行発売中は5冊。なるべく早い機会に読んでこのブログでも書いて行く予定です。版元のByker Booksはこれまで紹介してきたような犯罪小説などの専門のパブリッシャーではなく、もう少し色々な本を出版しているところのようです。他にもアンソロジーを出したりと犯罪小説方面にも意欲的ではあるようなので、頑張ってもらいたいものだと思います。

Byker Books


●Byker Books/Best of British Crime Fiction Book



■Hanging Stanley/Jason Michel

燃え盛る建物の前に、近所のみんなが集まっている。どの顔も笑顔だ。消防車が到着するまではまだ当分かかる。そして、横の街灯には男の死体がつるされている・・・。スタンリーがこの町に現れたのは3年前。ジャンキーのゴロツキ。そして奴がその土地を買って住み着くようになり事情は変わってきた。次々と配下が集まり近所を我が物顔で歩くようになり、やがて…。
なかなかに怖い話。さて我が物顔に近所を蹂躙するならず者たちにどんな運命が待ち受けていたのか。前回正体不明の元ポストパンクミュージシャン氏のところであまりにも何もなくて寄稿しているらしいウェブジンPulp Metal Magazineのリンクを張ったのですが、今回まず登場はその主催者であるJason Michelです。彼については世界あちこちを放浪し、現在フランス在住で、大変毛深い男というぐらいしかわかっていません。彼の作品はPulp Metal Magazineの他、インディー系e-Book Shop(という解釈で正しいのかな?)Smashwordsでも読むことができるようです。

Pulp Metal Magazine

Smashwords


■The Wrong Place to Die/Nick Triplow

Maxは夕暮れにセーフハウスに着いた。交替する筈のHarrisはもう消えている。まったくReddingの取り巻きにはろくな奴がいない。だがこれはMaxが自分の古くからの情報網から得た情報で上司Reddingに掛け合って実現した監視業務だ。今度こそコードネームAlexの尻尾を摑む。深夜、遂に見張っていた建物に動きがあった!すぐに連絡にかかる。だが、無線には誰も応答しない…?
1つの短篇としてまとまっているけど、何となく長編のプロローグのようにも見える。失敗した監視から始まるクライム・ノヴェルとかありそうですね。Nick Triplowは現在のところ犯罪小説の著作は下の1冊だけですが、結構評価の高い作品です。版元のCaffein Nightsも気になるのでそのうちよく調べてみよう。『ゲット・カーター』で知られるテッド・ルイスに関する短編映画の脚本に参加し、彼の伝記にも取り組んでいるそうです。

Nick Triplowホームページ

Caffein Nights




■Coffin Boy/Nick Mott

この家に押し入って住んでいる老いぼれの頭に銃弾を撃ち込んでくる。PeteとColeはBig Mikeからの仕事でやってきた。ちょろい仕事だ。だが肝心なところで渡された銃が動かない。おまけに老いぼれが妙なことを話し始めた…。
一つの部屋の中だけで繰り広げられるちょっと演劇的にも見える作品。まあ途中でオチは見えてきてしまうけど、この枚数で上手くまとめられていて最後まで楽しめました。作者Nick Mottは油田で働くちょっとしたインテリで、あちこちのウェブジンやアンソロジーに作品を発表しているということです。

■Meat is Murder/Colin Graham

Drotaは今日ポーランドのブラックビアウィストクからバーミンガムへやってきた。あんな田舎にはもう未練はない。Dorataは街でただ一人のパンク-バイセクシュアルだった。この町には同じ国から来た友達がいる。狭いアパートで共同生活を始める。そして仲間たちと同じ仕事を始める。食肉工場。だがそれにもすぐにうんざりし始める…。
最後にちょっとゾッとするオチが。この枚数だけに不法外国人から見たイギリス、というところまでは至ってない気はするけど、逆にこれを日本でのこととして書いても成り立つようにも思う。北欧ミステリとか読んでも合法違法を問わず外国人に対するする視点もアメリカの物とは違っているのが興味深かったり。やっぱり色々なのを読まなきゃねということですね。頑張ろう。Colin Grahamはイギリスのジャーナリスト/作家で、10年ほど東ヨーロッパのあちこちで暮らしていたということです。この人も色々なアンソロジー、ウェブジンにショートストーリーを発表中ということです。

■Adult Education/Graham Smith

家を出る前に姉が今夜は気を付けるように、と注意してきた。同じ大学の夕方のクラスの後帰宅途中の女性がレイプされ殺されているというのだ。でも私にそんなことが起こる確率などほとんどない。クラスのほとんどの連中は前の年から知っているもの。それに今日は授業の後大切なデートも控えているのだ。だが、授業の後、運悪く私は同行する知り合いもなく人気のない道で独りぼっちとなってしまう。そして後ろから近付いて来る足音…。あの男だ!クラスにいた始めてみる男で、しきりに私の事を気にしていた…。
それほど悪くはないとは思うけど、同一テーマで第1回に書いたSheila Quigleyのが秀作だったので少し見劣りする気も。Graham SmithはCrimesquadというレビューサイトのレビュアーとして知られる人ということ。長年のクライム・ノヴェルのファンで本業はホテルのマネージャーなどらしいです。自費出版数作の他、今年になって前述のCaffeine NightsからHarry Evansというキャラクターを中心とするらしい警察小説を2冊出しています。

Crimesquad.com




■A Public Service/Col Bury

俺たちが数マイル尾けてきたスバルインプレッサがJerome Kingstonに忍び寄り、リアウィンドウから銃が突き出された。Johnny Boyと俺には警棒、ペッパー・スプレイ、それにスタンガンの用意はあるが、リアルな飛び道具への対抗策は無い。だが、行くしかない!
現場の刑事の粗野な語り口で一つの事件の顛末が語られる。ちょっとルーズな感じがいい。Col Buryはマンチェスターを舞台としたいくつかの作品やアンソロジーなどで活躍する作家で、今は終了しているウェブジンThrillers, Killers'n' Chillersのエディターでもあります。彼の最新作もCaffein Nightsから。これは早くもう少し調べないと。彼のホームページでは色々な作家へのインタビューも読めます。

Col Buryホームページ

Thrillers, Killers'n' Chillers




■Hero/Pete Sortwell

近所の郵便局を兼ねた店。不況で爆弾を落されたみたいに半径30マイルの商業施設は撤退し、残ったのはこの一軒だけ。パブも店もやってる。さしずめ縮小高価格のスーパーマーケットってところ。俺はしがない工場労働者で、ここのところシフトも減らされ金もない。いつものようにこの店に立ち寄ると、近所のゴロツキSimonが現れ、店主に絡み始めた。もめごとは勘弁だ。俺はヒーローなんかになるつもりはなかったのだが…。
田舎の小さな店で起きた事件がユーモラスな語り口で描かれる。結構好きな感じの表現があって色々拾ってみました。Pete Sortwellはこのアンソロジーの時点ではショートストーリーを発表し始めたところだったようですが、その後精力的に活動したようで、いくつかのユーモア本らしきものの後、今年9月に犯罪小説の長編作品を出版しています。

Pete Sortwellホームページ




■Snapshots/Paul D Brazill

Nickは安ホテルのベッドで、嫌な記憶を呼び起こされる悪夢から冷たい汗まみれで目覚める。家へ帰る時間だ…。
家へ帰る。キッチンでは愛する妻が待っている。いつものように…。
Nickは永年の相棒Rileyと港で会う。近頃はどうだい…。
ある犯罪者の破滅へと至る日々が、スナップショットのような短い場面を並べることで綴られる。このアンソロジーの編者のひとりであるPaul D Brazillによる意欲作です。いくつかのアンソロジーの編者である他、作家としても活躍中で、代表作は『Guns Of Brixton』。また近年は自らパブリッシャーBlackwitch Pressを立ち上げ、第1回で紹介したチャリティー・アンソロジー『Exiles』もそちらから出版されています。他にも彼の企画で同キャラクターを複数の作家が書いている狼男探偵Roman Daltonシリーズも注目。現在はイギリスを出てポーランド在住で、ホームページではポーランドのノワールPolski Noirの企画も準備中です。現在のイギリスのこのシーンの中心人物の一人でしょう。

Blackwitch Press




■Smoked/Luca Veste

今日も朝からカミさんにガミガミと起こされる。50過ぎの失業者の私に行くところなどなく、いつものパブに言って座ると、「その1杯は俺のおごりにしてくれ」と、後ろから声が。Tommy Donnolly。アイルランド系のやくざ者だ。Tommyは私に頼みたい仕事があるというのだが…。
脱力系の初老の男の一人称で、最後まで脱力系負け犬で終わるのが面白い。こちらのLuca Vesteももう一人のこのアンソロジーの編者です。レビュアーから始まり、様々な作家へのインタビュー、そして他にもアンソロジーの編集。そしてこのアンソロジーの時点では作家として最初の長編を準備中となっていましたが、現在ではもう3冊目が出版されています。これからの活躍が更に期待される人でしょう。

Luca Vesteホームページ




ということで英国犯罪小説アンソロジー『True Brit Grit』第3回でした。全5回のうちの3回で、やっと峠を越えたというところか。あと2回、結局年を越してしまいそうですがなんとか頑張って行こうと思います。まあ、これからいろいろと英国作家を読んでいくための基礎にしようと始めたものの、やっぱりやってみるとそれなりに手間も時間もかかってしまうものですね。とりあえずのところはこういう作家もいるのか、と見てもらえれば幸いです。


●関連記事

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第2回


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2015年11月15日日曜日

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

それでは2000AD 2015年冬期(後編)と参ります。トップ画像は引き続き『Savage』。まだ何も書いていないのに引っ込めるわけにはいかない。


Orlok, Agent of East-Mega One/Eurozoned
 Arthur Wyatt/Jake Lynch

これもまた少し説明を要する厄介な奴です。Meaga-City Oneとかつて対立し、戦争の末30年前に姿を消したEast Mega OneのエージェントOrlokを主人公としたシリーズです。East Mega Oneについては、また『Day of Chaos』のところを参照してください。初登場は30年前の事件の時Mega-City Oneに潜入したときらしいのですが、主人公としたシリーズは最近のちょっとそこまでは手が回らないでいる夏と冬に出ている増刊号らしいです。本格的なシリーズとしては今回から始まった模様です。ちなみに30年前のキャラクターなので、時代設定も30年前のEast Mega Oneが消滅する以前の事となっています。
East Mega Oneの工作員Orlokはある作戦の最中、同行していた軍高官の息子を殺害し、逃亡離脱する。そして、潜伏の後、Euro-Cityに現れたOrlokは、工作員として培ったスキルを利用し、アンダーグラウンドの犯罪世界で頭角を現して行く…。
と、シリーズ開始早々から主人公が組織を離脱してしまうという展開。ライターArthur Wyattについては2000年代ぐらいに入ってからイギリスでは活躍しているライターのようだけど、私が覚えている限りではこのシリーズが初めて。これからよく見かけるようになって行くライターになるのでしょう。作画のJake Lynchは少し前『Sinister Dexter』を描いていました。モノクロの画にちょっと旧いタイプの線と人物のプロポーション、更に目の粗いトーンを使い、なんだか引っ越しの時に押入れの底から発掘された70年代の少年マガジンの知らないマンガみたいに見えてしまうのだが、個人的にはそんなもん見つけたら喜ぶタイプなのでOKです。意図的にそういうタッチを作り出している人なのか、そのくらいのベテランなのかちょっとわかりませんでした。このシリーズにはあった画だと思うのでこれからも頑張って欲しいものです。ちなみに2000ADは基本的にはオールカラーなのですが、今期前半はこのOrlok、Ulysses Sweet、そしてSavageの連載5本中3本がモノクロ作品でした。期間中少し早めに終了したこのシリーズですが、そこそこ好評だったようで続く春期にも再登場しています。今回のOrlokの離反の謎はその時に明らかに!


Savage/Grinders
 Pat Mills/Patrick Goddard

さて、やっとSavageにたどり着いたわけですが、まあ実はいつものようにまだ私もそんなには、というかほとんど何もわかっていないのですが。しかし、それでも昨年のABC Warriors(2014年冬期)と合わせて読むとかなり大きな物語の広がりを感じさせるこの巨匠Millsの未来史シリーズ。とりあえずはなんとかわかっているところまで書いてみようと思います。
時は1999年!っていきなり過去じゃん!いや、その物語が描かれたのって2000AD初期の1978年頃の事なので未来なのですよ。ヨーロッパで勢力を伸ばすVolgan帝国が遂にイギリス本土を侵略。その『Invasion』という物語の中でレジスタンスとしてVolgan帝国に立ち向かったのが本作の主人公Bill Savageなのです。そして一方でこのVolgan戦争に投入されたHammer-Stein達ロボットの物語が遥かな未来に続いて行くのがABC Warriors。というのが私にもちらっと見えてきたMillsの未来史シリーズというわけです。ではこの『Savage』がどう今のABC Warriorsと結びついて行くかはあとで述べるにして、とりあえずは今回のストーリーです。今回の話はVolganの侵略からイギリスを解放した戦後から始まります。
ロンドンは解放された。しかし喜びも束の間、治安維持の名目で勝利に貢献した米Quartz社から導入されたHammer-Stein型ロボットによる警備や、ドローンによる各地の監視などに人々の不満は次第に高まって行く。そして戦争勝利への大きな貢献者ではあるものの、レジスタンスのBill Savageの立場も戦後の政治の中では微妙なポジションとなって行く。英米の政治権力構造の中で地歩を固めつつあるQuartz社のHoward QuartzとSavageの間にも表面的には友好な協力関係を続けながらも、様々な齟齬が次第に拡大して行く。ロボット排斥運動の先頭に立ち、過激な破壊活動を続けるのはGrindersと呼ばれる過剰なサイバネティックスにより様々なマシンで身体を強化したグループだった。そしてそのリーダーは死亡したと思われていたSavageの兄Jack Savageだった。各勢力の様々な思惑が交錯する中、行われた戦勝パレードの最中、緊張は沸点に達しロンドンの路上は再び戦場と化す!

そして最後に登場するのがコイツ!「ワーワー!サベージをぶっ殺せー!」コイツは昨年のABC Warriorsで彼らが遂にコイツを倒すべく立ち上がった最大の敵、彼らの創造主ではありませんか!コイツこそがQuartz社の創始者であり、すべてのロボットの創造主であるHoward Quartzの変わり果てた姿で、今回のストーリーはその誕生をめぐる物語でもあったのでした。こうして過去と未来が繋がり壮大なMills未来史の片鱗が見えてきた以上、私としても放っては置けません。だって未来史とか好きなんだもん。あと3部作も。今までABC読みたいけどもう2000AD枠本誌の他に過去のDreddと『Rogue Trooper』でいっぱいだしなー、と手をこまねいていた私ですが、こーなったら『ABC Warriors』、『Savage』両シリーズを包含するMills未来史に挑むしかありません。まあこれからが遠い道のりで、いつか遠い未来このブログにも力尽きて忘れ去られたころ、「フォッフォッフォッ、わしも遂にMills未来史を制覇したわい」ぐらいになるのでしょうが、とりあえずはこのブログが続いているうちは読んだのについては書きますので。
と、若干大げさ気味に書いてきましたが、さすがに巨匠Millsと言えども2000AD初期からこの未来史を構想していたというものでもなく、近年になってこれまでに書かれた作品をその構想の元に再構築しているように思われます。『Invasion』の語りなおしから始まったと思われるこのSavageは今回がBook9となっています。昨年はABCが1回で、今年はこのSavageが1回。来年はまたABCが1回かな、ぐらいのスローペースで進むこのシリーズなので、1年後にはもう少しちゃんと説明できるようには頑張りたいものだなと思っている次第です。
なんだか巨匠力に押されてうっかり作画の方を忘れそうになってしまいました。作画のPatrick Goddardについてはやっぱりまだあまりよくわかっていないのですが、1984年生まれと書いてあるのを見つけたので少なくとも2000年代に入ってから描き始めたアーティストでしょう。力強い線と正確なデッサンが印象的なアーティストです。こういうモノクロで線のみで描きこまれたいい画は日本でもあまり見れなくなったように思います。


Survival Geeks/Steampunk'd
 Gordon Rennie & Emmy Beeby/Neil Googe

以前2013年3月(Prog 1824-1826)にTharg's 3rillersで登場した作品がシリーズに昇格。Clive、Rufus、Simonの3人のオタクと巻き込まれてしまった女子Samが住んでいた建物ごと異次元を漂流し、様々な異世界に流れ着くというスラップスティック・コメディ。今回彼らがたどり着いたのはスチームパンクとクトゥルフが入り混じった奇妙な世界。そこに早速その世界の恋敵であるEvanが登場し、Samを連れ去りRufusはやきもきするのだが…。
一目見ただけで、ああ、前に読んだあれだな、と分かったぐらいなので結構印象に残る悪くない作品だったのだろうと思うのですが、個人的には今回今ひとつ乗れませんでした。好みの問題も若干あるかもしれませんが、それより見てお分かりのような今期のDredd、Savageあたりへの入れ込み様とうまく合わなかった感じが大きいように思います。それを考えるとまた改めてDan Abnettっていい作家だなと思ったり。紹介したあらすじから割とすぐに思い浮かべられる通りのストーリーで普通に楽しめる本当に悪くない作品だと思います。ガッパ型巨大ロボが登場するシーンもあったり。次回のラインナップ次第ではもう少し楽しめるのではないかと…。
ライターの一人Gordon Rennieはあの『Aquila』の人ですね。作画のNeil Googeは今風の(という区切り方も少し雑だけど…)すっきりしたきれいな線の動きのある見やすい画のアーティストです。

そしてここで注目作をもう一つ。Prog 1921-1923に掲載のTharg's 3rillers『1%』という作品で『Brass Sun』のI. N. J. Culbardが作画を担当しています。(ライターはEddie Robson)濃密な宇宙塵雲の中で身動きが取れなくなっている宇宙旅客船。だが実はそれには過去に失踪したさる大企業のトップが開発した物質が深く関わっていたのだった…。というストーリーで、何となく『スタートレック』の1エピソードになってもよさそうな感じの話です。以前にも書いたCulbardの抽象的とも思えるものをシンプルな線で記号のように明確に見せるという画風がうまくいかされたなかなかの作品でした。と思っていたら次の春期には、ストーリーもCulbardによる読み切り作品が。それについては次の2015年春期の時に詳しく書きます。それにしてもこの作品で最初にトンズラを謀り後に活躍するミニスカキャビンアテンダントが結構可愛く見えてしまった私はもはやI. N. J.の何かにやられてしまっているのでしょうか?


というわけでずいぶん遅れた上に1週引っぱってしまった2000AD2015年冬期もなんとか完了です。そして次の春期はまずは豪華!DreddとSlainとStrontium Dogが揃い踏み!そして意外と早く奴らが復帰!などなど。もうそろそろ読み終わるものの、またアレとアレだけはやらなければとかあるのですが、なるべく早く出せるように頑張ります。とにかく休まないこと。12月も頑張ること。




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2000AD 2014年夏期 [Prog1888-1899]

2000AD 2014年秋期 [Prog1900-1911, 2015]

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (前編)


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2015年11月8日日曜日

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (前編)

えー、まずは最近恒例の遅れてしまった言い訳コーナーです。まあ何と言いますか色々と書きたい事があって、『Hellblazer』だけは早く進めないと、とか『Southern Basterds』についてだけは書かないと、とかいうのがあって、定期的なものだからと言って順番を前倒しするとモチベーションが下がってずるずると遅れる、という思い込みの一方で体調やらなんやらでちょこまか休んでしまって、というのが重なりこの始末でした。読む方は遅れながらも週1冊ペースで進んでもうすぐ次の春期を読み終わりそうなのですが。なんとかどこかで早く取り戻せるように頑張らんとね。すみません。

というわけで2000AD 2015年冬期です。まず、今期のラインナップは以下の通り。

 Judge Dredd
 The Order [Prog 2015-1922]
 Ulysses Sweet [Prog 2015-1917]
 Orlok, Agent of East-Mega One [Prog 1912-1917]
 Savage [Prog 2015-1923]
 Survival Geeks [Prog 1918-1923]

今期のトップ画像は巨匠Pat Millsの代表作の一つ!『Savage』です。あの『ABC Warriors』にも連なるPat Mills未来史の一部を成す作品です。詳細については後ほど。


Judge Dredd
 1. Dark Justice : John Wagner/Greg Staples (Part1-11)
 2. 300 Seconds : Ian Edginton/Simon Coleby
 3. Perps, Crimes & Videotape : Alec Worley/Carl Critchlow

今期のJudge Dreddは、前期と同じ構成で全11話からなる大作『Dark Justice』と1話完結のストーリー2本となっています。
『Dark Justice』は久々に重要な敵キャラクターであるJudge Deathが登場する作品です。ちょっとどのくらい久しぶりなのかはわからないのですが、少なくとも私が2000ADを読み始めてからの約2年半は登場していません。今回はそのJudge Deathに’同僚’であるJudge Fire、Judge Fear、Judge Mortisが加わった最恐軍団とドレッド、そして映画にも登場したジャッジ・アンダーソンが対決します。あ、ちなみにちゃんと説明して無かったけど、アンダーソンは2000ADから別に出ている月刊誌『Judge Dredd Megazin』で独立したシリーズを持っています。
ここでまずこれまでの流れで私が分かっている部分だけ少し説明します。Judge Death初登場のストーリーは現在発行中の『Judge Dredd Complete Case File 03』に収録されています。Judge Deathは異次元から突然現れたジャッジで、彼の元いた世界では生命そのものが犯罪であり、そのため職務遂行のため人々を片っ端から殺し始めます。ドレッドによってなんとか倒されますが、この謎の敵について調べるために超能力ジャッジであるアンダーソンが呼ばれます。こちらもこの話で初登場。映画とは違ってアッパーな性格でヘラヘラと現れ、「ジャッジにこんな妙な奴がいたのか?」とドレッドに眉を顰められます。死体の残留思念を読み調べようとしたアンダーソンですが、肉体を離れ生き残っていたDeathの魂に身体を乗っ取られてしまいます。わずかに残った意識でドレッドに指示し、アンダーソンは自らの身体を特殊プラスチックで包むことで自分ごとDeathを封じ込めます。そして、アンダーソンはDeathを封じ込めたままプラスチックに包まれJustice Departmentの一室に保存されているという結末。自分はまだ『File 04』の途中ぐらいまでしか読んでいないので、この初登場の一話だけであとの経緯はわかりませんが、このような形でDeathとは深い因縁があり、今回アンダーソンも登場となったわけです。
また、3体の’同僚’Dark Judgeについてはその由来などは分からないのですが、この話は前に書いた『Day of Chaos』からの続きの話なので、その辺についてもう少し詳しく書いておきます。東側工作員の手により、Chaos Dayの混乱を更に拡大させるため、3体の封印されていたDark Judgeが解放されたところまでは書きました。その続き。3体が乗り移った肉体はドレッド達により倒されますが、Death同様魂が抜け出し逃亡。そしてその魂たちは、顔を変えて逃亡中の悪漢PJ Maybeと遭遇します。(PJ Maybeについても『Day of Chaos』の項を参照の事。あまり詳しくは書いてありませんが。)PJ Maybeの新しい肉体を見つけてやる、という申し出に乗ったDark Judge達ですが、まんまと騙され瓶の中に封印されてしまう。そして3体のDark JudgeはPJ Maybeにより密かに所蔵されていた、というのがこれまでの経緯です。
そして、やっと今回の『Dark Justice』のストーリーです。いずこからかまたしても出現し、他者に乗り移ったJudge Deathが、遂にPJ Maybeの隠れ家に現れ3体のDark Judgeを回収する。時を同じくし、Mega-City Oneでは他の惑星への移住を目的とした超巨大豪華宇宙船が出発の時を待っていた。Judge Deathは回収した3体のDark Judgeを携え、秘かにその宇宙船に乗り込む。一方、Justice Departmentでは以前Dark Judgeに触れたことから死に瀕していたジャッジの意識をアンダーソンが読み、そこからDark Judge達に動きがあることを察知する。手がかりをたどりPJ Maybeの隠れ家にたどり着いたドレッドとアンダーソンだったが、すでにJudge Deathも、そしてMaybeも姿を消した後だった。調査を進めるうちにDeathが乗り移った人物が宇宙船に乗り込んだことを知ったドレッド達はただちに追跡にかかる。宇宙船内ではDeathが集めた死体を使い’同僚’Dark Judge達を蘇らせる。そして、宇宙船内で殺戮が始まる。やっと宇宙船に追いついたドレッド達は通信と途中で出会った脱出艇に乗った人たちから状況を聞き、ただちに本船に向かう。だが、ドレッド達が巨大宇宙船に乗り込んだとき、脱出艇に密かに仕掛けられていた爆弾により彼らが乗ってきた宇宙船が破壊される。すべてはこの船にドレッド達をおびき出し決着をつけるため、Deathが仕組んだ罠だったのだ。宇宙空間に孤立した巨大宇宙船の中で、ドレッド、アンダーソンとDark Judgeとの闘いが始まる!
というまさに2015年初頭を飾るにふさわしい超大作です。晩秋ぐらいになって書いてて言うのもなんだが…。ライターは長年に亘るJudge Dreddの中心ライターである大御所John Wagner。作画はCGリアル系のGreg Staples。左上の画像もStaplesによるものです。Tharg閣下によるとドロイドStaplesはこの作品の完成に2年をかけたということで、まーた閣下のいつものアレだろうと思っていたら、少し後でのお便りコーナーでも同じことを言っていたので多分本当なのだろうと思います。全体的にはとても迫力のある画ですが、後半バトルシーンになると部分的にリアル系ゆえの弱さが見られるところも。でもまあ2年もかけたのだから重箱の隅をつつくようなまねは止そう。よく頑張ったですね。ただそれゆえにDark Judge、PJ Maybeの両ストーリー・ラインが長期にわたってストップしてしまったのでは?という思いも頭をかすめますが。
今作のラストではドレッドは勝利を収めますが、Dark Judge達を消滅させることはできなかったので、いずれはまた登場してくることでしょう。そして、姿を消したPJ Maybeの行方は?など、また今後の展開を楽しみに待ちたいと思います。
2はもはやMega-City Oneでは伝説と化しているジャッジ・ドレッドが、毎日Cityで最も犯罪発生率の高い交差点を見下ろす場所に300秒立つことで多くの犯罪の発生をくい止めている、という逸話がジャッジ・アカデミーの生徒に語られる話。作画は『Jaegir』のSimon Coleby。3は水族館の凶暴なサメやピラニアをテレポート装置を使い街中に突如出現させる、という騒擾犯罪の陰にフリーのヴィデオ・ジャーナリストが?という話。作画のCarl Critchlowは明るい色に日本のアニメのような境界のはっきりしたカラーリングのDreddではあまり見ないタイプの画のアーティスト。Dredd的には新しい人だと思われるけど、なかなかいい感じだったのでこれからも活躍してもらいたいものです。


The Order
 Ken-W/John Burns

今期から始まった新シリーズ、13世紀ドイツを舞台とした異色SFです。
父の消息を求める女騎士Anna Kohlは、彼が最期を迎えたとされる洞窟にたどり着く。父の遺品とともに置かれた奇妙な兜。子供の頃Annaは父がその兜をかぶった人物と出掛けて行ったのを憶えていた。だが、それは実は未知の技術によって作られたロボットの頭部で、Annaが手にすると再起動され話し始める。父は実は謎の’使命’により異次元からの侵略と戦うグループの一員だったことをAnnaは知る。そしてAnnaはかつての父の仲間たちとともに異次元からの敵との戦いに巻き込まれて行く。
まずはベテランJohn Burnsの挿絵風といった感じの素晴らしいペン画が際立つ作品です。前にもDreddなどを描いているのを見たけどこれがベストだろうと思います。かつての父の仲間はみんなもう老人で、老人と美少女が冒険するというのはなんかジブリっぽいと思ったり。彼女の父は実は普通の人間ではなかったようで、Annaもそれを受け継いでいるのですが、その辺についてはあまり明らかにされなかったりと、またいずれは続きが描かれることと思います。新たなJohn Burnsの代表作となることが期待される作品です。


Ulysses Sweet/Psycho Therapist
 Guy Adams/Paul Marshall

1年前、2014年冬期にグラント・モリソンの人気キャラを復活させ、大きな期待を背負いつつもかなりの不評に終わり、もう次はないだろうと思われていた問題作がまさかの復活!さて今回は前回の失敗を挽回することができるのか?
前の仕事の成功により業界内の評判も上がり、仕事も順調に入ってくるようになったManiac for Hire, Ulysses Sweet。だが、彼は前回の仕事中に脳内に埋め込まれたサイコ・セラピスト・チップが破壊され、新たに埋め込まれたチップがどうにも気に入らない。遂には自分の頭を銃で撃ってチップを破壊し、以前のチップを探し始めるのだが…。
えー、結論を先に言ってしまうと今回も今ひとつでした。画像が無いことからもお分かりのように今回は表紙を飾ることもなく、お便りコーナーを見ても評価している人も無しという状況。ストーリーは前回のラスト、チップが壊れたようなので新しいのを見つけに行く、と言っていたのを引き継いでいるわけです。大変危険な狂人ゆえに脳内にサイコセラピスト・チップを埋め込むことを義務付けられていて、常にそれがUlyssesの行動にケチをつけてきたり会話をしたりする、という設定はGuy Adamsオリジナルの物で、私も悪くないとは思うのですが。Guy Adamsも1年前に比べてコミック・ライターとしての腕は上がったと思うのですが、結局のところ何かちまちまとした動きの小さいコメディに終わっている感じがする。 作画は2014年夏期のDreddで画について不満を書いてしまったPaul Marshall。この人だったのか…。まあDreddよりはこういうブラックなテイストのコメディの方が向いている人なのだろうと思うが。結局は動きの小さいコメディと動きの小さい画の相乗効果でまたしても今ひとつの作品になってしまったというのが私の感想です。残念。
ちなみにグラント・モリソンによるオリジナルですが、最近読むことができました。少し前に2000ADのデジタル・ショップで『The Best of Tharg's Future Shocks』というのがセールになっていて購入してみたところこの作品が収録されていました。まあ、きちんと探さずにたまたまセールになっていたので偶然見つけたという話もなんだが…。こちらの本は、John Smith、Pete Milligan、Grant Morison、Neil Gaimanの4作家の2000ADに掲載された過去の短編作品を集めた210ページほどのものです。ニール・ゲイマンの過去作など興味のある人は多いのでは?ちなみにアラン・ムーアの物は単独で編集され、『The Complete Alan Moore Future Shocks』として出版されています。
さてそのストーリーはというと、ロボットに仕事を奪われ排斥運動を行っているグループに雇われたManiac for Hire, Ulysses Sweet。まずはロボット操業による工場に核ミサイルを撃ち込んで大規模に破壊。続いてロボット達に故障を起こさせるという依頼に対し、近辺のロボット達を完全に停止させる。ここぞとばかりにロボットの不便さを訴えるグループだったが、長く仕事を離れ観念ばかりで技術を持たない彼らに、ロボットの替りに修理作業もすることはできず、逆に窮地に追い込まれる。実はこれは全てロボット側の排斥運動を潰すための計画で、Ulyssesもロボット側に雇われていたのだった。しかし、喜びに沸くロボット達の基地に核ミサイルの接近が告げられる。Ulysses Sweetが人間側からの依頼で放ったミサイルだった。大爆発の後、がれきの下からはい出したUlysses。「これが俺流の仕事完了ってことさ。」結局は誰の言うことも自分流に解釈し仕事を進め、なんでも核ミサイルを撃ち込んで解決というスケールのでかい狂人を描いた快作。今のGuy Adams版にもこのくらいのスケールの大きさが必要なのだと思うのですが。
というわけで、今期も失敗に終わってしまった感のある『Ulysses Sweet』ですが、2000ADとしてはこのキャラクターにもGuy Adamsにも期待するところは大きいだろうから、またの登場もあるのかもしれません。自分が思うには、『Ulysses Sweet』に関しては、一旦別の若手のライターにでも任せてみた方が良いのではないかと。絵の方は思い切って例えば、あのハードコア・バイオレンス・コミック『Aquila』のLeigh Gallagerぐらいの人を登用してみてもいいのではないかと思ったります。


というところでまだ半分なのですが、Dredd『Dark Justice』などがずいぶん長くなってしまってまた1週引っぱることは確実な状況となってしまったので、急遽今回の2000AD 2015年冬期は前後編に分けることにしました。とは言っても結局は1週引っぱることと同じなので、書こうと思ってるアレがまた遅れるなあ…と思いつつ、なんとか頑張って行こう!次回後編は巨匠Pat Millsの代表作の一つ『Savage』など!次週をお楽しみに!ってちゃんと次週書けよ!



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2015年11月1日日曜日

Fun and Games -ドゥエイン・スウィアジンスキーCharlie Hardieトリロジー開幕!-

遂に、というかやっと再登場のドゥエイン・スウィアジンスキーのCharlie Hardie三部作第1作の『Fun and Games』です!
近年のハードボイルド/ノワール/クライム・ノヴェルの中でも最も活きのいい、最注目で作品を追って行かなければいけない作家と思いつつ、こんなに遅れてしまったのはただ私がまだまだ洋書を読むのが遅いだけじゃなくて少し事情があります。ずっとこのブログでは小説に関してはKindleで発売されているものを扱ってきたのですが、この作品については現在日本ではKindle版が販売されておりません。確か5月ぐらいまではあったと思うのだけど、なんだか気が付いたら無くなっててそのうちまた出るだろうと思っていたのだけどずっとそのまま。どうも版権が移動したためらしくて、そのため現在はMalholland Books発行のこのCharlie Hardieトリロジーと最新作『Canarry』はアメリカ国内以外ではKindle版は販売されていないようです。どうしたものかと困りながら日々を過ごしていると、ある日天からフランス貴族階級の声が。

「Kindle版が無いならプリント版を読めばよろしいのに」(CV:ガチャピン)

そーかその手があったか!気付かないのはお前だけだっ!というわけでプリント版を注文し(意外とKndleで出てたのより安かったり)やっとのことで読み始めたのでした。やはりどこでもすぐに辞書を引けて便利なKindleなのだけど、まあそれほど辞書に頼らなくてもプリント版でも読めるようになってめでたしめでたしなのだけど、そんな事情でずいぶんと意気込みよりも遅れてやっとの登場となったわけでした。まあ、色々と外国の本を読むのは厄介ですね。というわけで『Fun and Games』です!

ではまず、この作品と続く3部作の主人公であるCharlie Hardieとは何者なのでしょうか?
少し前まではフィラデルフィアで警察に協力する仕事をしていたが、ある事件をきっかけに今はその仕事から離れている。現在の仕事はハウス・シッター。大金持ちが旅行などでしばらく自宅を空けるときその留守宅に滞在して盗難や災害から邸宅を守るという仕事。元警察関係の仕事をしていたという信用もあり、口コミで仕事が途切れることはない。いざとなれば全力で責任を果たす人物だが、以前の仕事を辞める原因となった事件のせいで無気力になり、その仕事で滞在中も一日中映画のDVDを観ながら酒を飲んで暮らしている。
そしてこのCharlie Hardieが今回はある大物の映画のサウンド・クリエイターの邸宅を守るためL.A.へ行き、そこで大変な事件に巻き込まれて行きます。以下がそのさわりのあらすじです。


彼女はデッカー・キャニオン・ロードで事故に直面していた。ウェストレイク・ヴィレッジまでの12マイル、ヘアピンカーブに次ぐカーブ。ルート23から入ったところから追い込みをかけてきたシボレー・マリブ。スピードを落とすことはできない。謎の追走車にぴったりと張り付かれたまま彼女は危険なカーブに次々と突入して行く。
彼女の名はLane Madden。女優。様々なストレスからちょっとした気晴らしに車を飛ばしていただけなのに…。

合衆国内における自動車事故の死亡者数は、年間43200人。

マルホランド・ストップの信号で彼女はなんとか難を逃れる。悪質なイタズラだったのだろう。自分を殺そうなどと企んでいたわけではないのだ…。

だが、彼女の殺害を企むチームはひそかに彼女の動向を窺っていた。あくまでも事故に見せかけて…。そして、次のシナリオが動き始め、Laneは再び危機に陥る…。

空港に到着したCharlie Hardieは早速最初の災難に見舞われる。荷物受取所で待てど暮らせど彼のスーツケースは現れない。幸い最も大切なものを入れたバッグは、いつものように肌身離さず機内に持ち込み無事だ。紛失届を出し、レンタカーを借り、とりあえずは今回の仕事先に向かう。

依頼人のサウンド・クリエイターとは先方の出発前に会い、直接鍵を渡されるはずだったのだが、急遽予定が変更になりすでに出発していて、鍵は郵便受けの中においていったとのこと。…だが、無い…?やむなくHardieは道を探し、屋根によじ登りそこから広いベランダに降り、邸内に入る。
とりあえずは点検がてら邸内を見て回るHardie。だが、そこに突然邸内に潜んでいた謎の人物がマイクスタンドを振りかざし彼に襲い掛かる!その人物こそ前夜、デッカー・キャニオン・ロードで危機に陥っていた女優、Lane Maddenだった!?


と、ちょっと書きすぎてしまったような気もしてしまうが、まだほんのさわりでこれからめまぐるしくストーリーは展開して行きます。とにかく次から次へと意表を突く展開を畳み掛けて楽しませてくれるスウィアジンスキー作品なので、本当は全然内容を知らないまま読んでもらうのが一番なのですが。ちょっとどこから話したものか迷ってしまうのだけど、とにかくこの人は上手い!派手なアクションシーンと怒涛のように疾走するストーリーに押されるように読んでしまうのだけど、実は緻密な構成で組み立てられていて本当に「読まされる」という感じ。そして彼の得意技であるユーモアは今作は特に冴えていて、これはもう「笑える」を強調してもいい作品ではないかと。

実はスウィアジンスキーの得意とする手法の一つはわりと昔からあるものだったりします。登場人物が絶体絶命のピンチに陥るが切り抜ける。登場人物が確実に死んだと思われる状況に巻き込まれるが、実は生きていた。などというもの。しかしそこにスウィアジンスキー流のアレンジがあり、登場人物が絶体絶命のピンチに陥る→死ぬくらいのダメージを受ける→が切り抜ける、とか、登場人物が確実に死んだと思われる状況に巻き込まれる→本当に死んだぐらいのダメージを受ける→が、実は生きていた、などとなるわけです。で、そうなると本当に死にそうになるような流血だったりエグイシーンが書かれるわけで、この辺の味の濃さが「暴力的すぎる」とか解釈されて日本の薄味好みの「エンターテインメントファン」に敬遠されて翻訳がストップしてるところなのでしょうか。
スウィアジンスキーのこの手法はコミックでも顕著で、お馴染みValiantの『Bloodshot』でも、この人主人公が不死身だからってホント無茶苦茶するよなあ、と思っていたらダークホースの『X』(もう少し読んだらなんか書きます)でも主人公Xがかなり死ぬくらいの目に遭ったいたりもします。もしかしたらコミックのライターをしているうちにこの手法を加速させていったのかもしれないなと思い、早く『Cable』とかにもさかのぼって読んでみないとな、と思っていたりもします。ちなみにCableというのはXメンのサイクロプスの息子で、オッサンではなく胸についている赤ちゃんが本体です。というウソを画像を見ているうちに思い付きました。いつか『Cable』の事を書くときにまた使いまわそう。本当のところを知りたい人は自分で調べてみよう。ややこしいぞ!

さてこの作品の主人公Charlie Hardieですが、上のキャラクターについての文章を読むと暗くて沈鬱な感じなのかな、と思うと意外にすっとぼけた感じの人だったりします。というよりすっとぼけた感じに描かれているというのが正しいかな。色々と過去に抱えているため、自殺願望というほどではないけど、どこか最後の最後では少し生命への執着が薄いところもあり、何度も死にそうになり、ああ、今度こそ死んだな、と諦めかかるのですが、まだ生きていて、そっか、生きてんなら仕方ないからまだ頑張んないとな、みたいに立ち上がる人です。前述のスウィアジンスキーの手法が一層加速された本作では、主人公Charlieは何度も瀕死の目に遭いその度に立ち上がって行くのですが、その様子はもはや不屈の男、というよりは不死身ギャグといったものになって行きます。

そしてスウィアジンスキーの文体には、第三者の語り手がいて物語を語っているような独特の「スウィアジンスキーノリ」みたいなのがあってそれがテンポよく読ませてくれたり笑わせてくれたりとても楽しく読ませてくれます。『The Wheelman』でも今作でもその文体だったので翻訳された2作もそうだったのだろうと思うのですが、その辺はあまり活かされていないように思いました。まあ難しいんだろうけど。自分もその2作は原文を読んでいないのではっきりしたことも言えないけど。
ついでに前に中途半端なまま放っといたその邦訳2作について少し書いておきます。まあこの天才の作品なので薄味に慣れ過ぎちゃった偏食の「ミステリファン」以外の人なら2作とも楽しめることと思います。
ただ『メアリー・ケイト』については『The Wheelman』のかなり重大なネタバレがされているので、できればそっちを先に読んだ方が良いと思います。自分的には『The Wheelman』はもう十数年に一冊ぐらいのケイパー小説の大傑作だと思っているので、悪党パーカーとか好きな人は絶対に読まないと損ですよ。
『解雇手当』については、前2作に比べて少しキャラクターに焦点を合わせにくいかな、と読んだときは思ったのだけど、今回『Fun and Games』を読んだ後では、ずっと言ってる→本当に死にそうなヒドイ目に遭う手法を先鋭化させて行く過程のちょっと重要作ではないかな、と思っています。

と、また無駄なウソやら含めて長々と書いてきたのですが、毎度のことながら本当に好きな作品になると言いたいことが多すぎて無茶苦茶になって今ひとつちゃんと伝わりにくいものになってしまったのではないかと心配しております。うーん、まだ言いたい事があるような…。ただとにかくこの作品ドゥエイン・スウィアジンスキー作『Fun and Games』は私がとても楽しく読んだ絶対おススメの一冊です!そこだけは伝わりました、かな?

さて、今作『Fun and Games』で散々な目に遭ったCharlie Hardieですが、最後の最後にまた大変なことになります。この続きは次作『Hell and Gone』で明らかに!と言ってもとにかく3部作!まーた1年後なんてことにはならずすぐに読む予定です!とにかく年内には。
しかし3部作。なーんか気になる3部作があちこちにあってあっちもこっちも早く読みたいなあと思うばかり。まずはもちろんケン・ブルーウン先生のホワイト・トリロジー。そしてイェンス・ラピドゥスのアムステルダム3部作はやっぱりもう英訳版を読むしかないのかなあ。どう見たってあそこから面白くなるのに。気にしてるの私だけなんでしょうか?そして近年再評価機運が高まっている様子のテッド・ルイスのジャック・カーター・トリロジー。故人なのををすっかり忘れていて、最近よく見かけるので新作出たんかと思っちゃいました。まあこれは作者が亡くなって3作しか書かれなかったからトリロジーになっているわけだけど、ジャック・カーター氏のその後は知りたいよねえ。他にもまだ全く正体不明のMalcom Mackayのグラスゴー・トリロジーとか読まねばならない3部作は山積みなのです。とにかく3部作はなるべく間を空けずに3作読むこと。まずはこのCharlie Hardie3部作!『Hell and Gone』、『Point and Shoot』へと進むのだっ!


ああ、やっぱり重要なことを忘れてた。実はこのCharlie Hardieシリーズにはオリジナルのコミック版があります。と言ってもおそらく小説の刊行に先駆けて宣伝用に作られたと思われる8ページほどの短いものですが。タイトルは『Hardie vs The Fire』。内容は『Fun and Games』の最初の方で少し語られる以前ハウス・シッターの仕事で山火事から依頼人の貴重品を救った時の事。Charlie Hardieという人物について少しわかる感じのものです。こちらはComixologyでフリーで読むことができます。(多分アカウントだけは必要)Home→Browse内Publisher→Creator Ownedで進むのが一番見つけやすいと思います。元々は出版社を通じて創られたものかもしれないけどComixologyとは取引のないところなのでスウィアジンスキーの自費出版という形で出ているのではないかと思われます。現在Comixologyでは自費出版的なものはSubmitの方になりますが、これが出されたのはそれができる以前なのでCreator Ownedのところにあります。

●Duane Swierczynski


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2015年10月18日日曜日

Southern Bastards 1 :Here Was a Man

とにかくこれについてだけは書かなければならんのだ!『Southern Bastards』(Image Comics)!あまりにも熱い、魂を震わせるドラマであります!


南部の田舎町Crow Countyに一人の老人が帰って来た。彼の名はEarl Tubb。父の死後40年、彼はこの地に足を踏み入れることはなかった。かつて彼が暮らした家に住んでいた叔父が亡くなり、その家を処分するために彼はここを訪れた。そして、この地との関係を永遠に断つために。

かつて暮らした家をEarlは訪れる。亡くなった彼の父はその家の庭に眠っていた。そしてその墓の後ろには巨木が聳え立っていた。
Earlは保安官であった彼の父の事を回想する。あの夜、家を襲った大勢のならず者を前に一歩も引かずバット一本で闘った父の姿を。
だが、彼はそんな父に複雑な思いを抱いていた。そしてそれがこれまでEarlをこの地から遠ざけていた理由でもあった…。

町の食堂に立ち寄ったEarlは、同年輩のいかにも負け犬といった風情の男Dustyと出会う。しきりに"Coach Boss"なる人物への取り次ぎを求めるDusty。やがてDustyはEarlに気付く。彼はEarlがかつて地元のフットボールチームの花形選手だったことを憶えていた。「あんたに会えたのは嬉しいよ。だが、なるべく早くこの町から出て行け!」そうDustyは言い放つ。

DustyはCoach Bossの仕事でヘマをやらかし、その釈明をしようとしているらしい。Coach Bossからだと言われてDustyが入って行った調理場から悲鳴が聞こえてくる。Dustyはcoach Bossの配下のゴロツキに銃を突きつけられ痛めつけられていた。Earlは手近にあった調理器具でゴロツキをぶちのめし、Dustyを助け出す。だがDustyは、「余計なことはするな!きちんとCoach Bossに話せば済むことだ!」と言い捨て、立ち去る。

その夜、Earlは父への想いと自分とこの地との繋がりを断ち切るように、父の墓に聳え立つ巨木に斧をふるう。
そして同じ頃、DustyはCoach Bossの配下に追いつめられリンチに遭っていた…。

翌日、Earlは久しぶりに町のフットボール場を訪れる。そこでは他の町のチームとの試合が行われていた。
その試合中のグラウンドによろめきながら入ってくる一人の男。それは前夜、リンチでボロボロになったDustyだった。そしてDustyが向かう先に立っていたのは、この町のフットボールチームのコーチであり、この町を陰で支配する男、Coach Bossだった。
Dustyは息も絶え絶えにCoach Bossに釈明を試みる。助けにグラウンドに降りるEarl。だが、Coach Bossは「早くこいつらを俺のフィールドから追い出して、試合を再開させろ」と、冷たく言い放つ。

そしてDustyは息を引き取る。
保安官にこれがCoach Boss一派の仕業であることを訴えるEarl。だが取り合う気配もない。保安官自身もかつてはCoach Bossの元、地元フットボールチームでプレイした選手だったのだ。

町を立ち去る準備を進めるEarl。だが、やりきれない気持ち、抑えきれない怒り、それらを父の墓に向かってぶつける。

「俺にはこんな町は故郷でも何でもないんだ!ここで何が起ころうと俺には関係ないんだ!俺はあんたとは違う!とっととここから出ていくだけだ!」

そして、その時、奇跡が起こる!


少し端折りながらも勢いで2号ぐらいまでのあらすじを書いてしまったのですが。
Jason Aaronによる力強いストーリーに、Jason Latourによる素晴らしいアート!省略し、選択された線を強調、というのはデフォルメの基本だけど、優れた絵描きというのはそれを根本から自分のものとして再構築できるのだと再確認させられてしまう。そして陽にさらされて褪色したようなカラーリングに、金釘で書いた様な文字でダーティーな言葉が飛び交う。私的にはもう完璧なコミックであります!

1号のラスト、父の墓に聳え立つ大木に斧をふるうEarl。それにリンチを受けるDusty、バット1本で闘う彼の父の回想がカットバックで挿入され、それらがEarlの巨木に打ち込む一打に集約されるシーンには感嘆しました。しかし!2号のラストには思わず「おおっ!」と声を上げてしまったよ。そして、Earl Tubbの闘いは始まる。Here was a Man!

この物語はCrow Countyの入り口の路上で糞を垂れる野良犬から始まります。そしてその野良犬はあちこちに登場しては吠える。そしてラスト、この犬が、この犬だけが!本当に泣かせてくれるのだ。私はこんな犬でいたいといつも願うのです。

ライターJason Aaronは2001年マーベルのタレントサーチコンテストで優勝し、この世界に入り、その後は多くのマーベル作品を手掛けている人です。そして代表作と言えばVertigoからの『Scalped』。どんな作品かは調べればすぐわかるのですが、例によって例の如く読むのをすごく楽しみにしてるので一切調べておりません。どんな作品かは全く分からないけどどー見たって絶対面白そうなのだもの。いずれは読んでここで騒ぐと思いますが、気になる人はすみませんが自分で調べてみてください。
作画のJason Latourは2005年頃からImage Comicsの新人の登竜門のアンソロジーとかから出てきた人で、その後はマーベル、ダークホースなどで多く仕事をしているようです。いくつかはライターとしての仕事もあります。この作品ではカラーリングまでの全てのアートが彼のものとしてクレジットされています。

このTPB1巻ではまだ語られませんが、保安官であったEarlの父とこのCrow Countyは何か深い遺恨があるようで、そのことでDustyはEarlに「早くこの町から出て行け!」と言います。その辺の過去のことについてはこれから語られて行くことになるのでしょう。
そして、最後にエピローグ。ずっと引っかかっていた一つの謎が明らかにされて、そうだったのか、と少し安心させてくれます。しかし、それは更なる闘いの始まりを告げるものでもあるのだ!私はもちろんもう発売中の2巻をただちに注文した!届いた!またなるべく早く読んでここで騒ぐ予定です。あと『Scalped』についてもなるべく早く!

さてこの『Southern Bastards』ですが、現在映画『ノー・カントリー』などのプロデューサー、スコット・ルーディンによりフォックス・ネットワークでのテレビシリーズ化が進行中とのことです。まだ3か月ほど前にアナウンスされたばかりなのでまだしばらく先のことになりそうですが、無事に実現されればどんな風に映像化されるのかとても楽しみです。上手くいけば『ウォーキング・デッド』のように日本でも翻訳が出るかもしれませんね。しかし、思い入れのある作品がTVドラマ化、と聞いて嫌な気持にしかならないようなTV局ばかりの国に暮らしているというのもつくづく不幸なことですね。


Southern Bastards 公式ホームページ


●Southern Bastards


●Scalped


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2015年10月10日土曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第2回

イギリスの現在最新の犯罪小説作家45人を集めた注目のアンソロジーの第2回です。

今回は、前回少し長くなりそうだったので端折ってしまったマキシム・ジャクボヴスキーの序文についてまず少し。
マキシム・ジャクボヴスキーは、出版社でミステリ関係の編集者として働いたのち、ロンドンでミステリ専門書店Murder Oneを経営する傍ら自らも作家として多くの作品を著し、アンソロジーの編集も多く務めてきた人で、日本でも扶桑社ミステリーからノワール作品『キスしたいのはおまえだけ』とアンソロジー『ロンドン・ノワール』の翻訳があります。現在は20年続けた書店経営からは引退し、著作・編集・翻訳などに専念しているとのことです。
序文はまずイギリスミステリ界のクリスティやコージー・ミステリなどへの批判から始まり、イギリスのミステリってまだそういう状況なのかな、ニコラス・ブリンコウとかいい作家いたみたいだけど…とか思ってしばらく読んでいると、80年代ぐらいになるとそういう作家も出てきてオレもいいアンソロジーを出したんだぜ、という話になり、ああやっぱりそういうことかと思ったりしました。まあ結局はちょっとそういう余計なことも言わないといられない性格の人のようですね。あまり人の事は言えないけど…。で、そうやってブリンコウなどで確立されてきたイギリスのハードボイルド/ノワールの流れを汲んでまた新しい流れとしてデジタルで出てきた作家達を集めたのがこのアンソロジーだ、頑張れ、みたいなことが書かれている序文からこの本は始まります。。

MAXIM JAKUBOWSKIホームページ

■the Catch and the Fall/Luke Block

Billie Tateの溺死体を発見したのは釣り人達だった。俺は対岸から警察が奴の死体を引き上げる様子を窺っていた。俺にはあの死体に用がある。橋を渡って現場に近付く。警官たちの目を盗んで死体に歩み寄り、そして奴のポケットから携帯を抜き出す。俺がBillieに渡した物。そして駐車してあった車に乗り込み現場から走り去る。俺には行かなければいけない場所、そして会わなければならない人物があるのだ…。
結構いい感じのノワール短編なのだけど、ちょっと結末がイマイチ。文章や雰囲気などがとてもいいので余計に少し残念な気がしました。あまりこのくらいの長さの小説を書きなれていないのかも、という印象を受けました。実力はありそうなので機会があったら長編を読んでみたいところです。作者Luke BlockについてはDetective Sergeant Sarah Kleinというキャラクターのシリーズがあるそうなのですが、ちょっと見つかりませんでした。

■A Long Time Coming/Paul Grzegorzek

俺は雨の中標的が屋敷に戻ってくるのを見ていた。奴はコカインの総元締めでギャングのボス。俺はここ5年、こんな社会のクズを狩り出す仕事をしてきた。相手がどんな奴だと関係ない。だが、今回は違う。ちょっとばかり個人的な事情もあるのだ…。
潜入し、見張り、子分を順に片付けボスへ、というアクション小説の一つの見せ場を抜き出したサンプルのような作品。作者Paul Grzegorzekは兵士、警官、セキュリティなどの様々な職歴を持ち、その経験から他の作家のアドバイス役を務めた後、自分も作品を書き始めたということです。現在のところ特定のキャラクターのシリーズは無いようですが、この作品に見られるようなアクションシーンに優れた作品が期待できそうな作家です。

Paul Grzegorzekホームページ




■Loose Ends/Gary Dobbs

土曜の午後。俺はパブからパブへとハシゴし、一軒の店に腰を落ち着かせた。店の隅で仕事のことなど考えながら何杯かあける。そこに二人の男が現れた。バーに座っていた男に呼びかけ、二人同時に銃をぶっ放す!だが俺には関係のないことだ。俺は俺自身の厄介ごとを充分に抱えているのだ。しかし、立ち去り際男の一人が振り向き、俺に気付く…。そして家に帰ると二人が俺を待っていた。一人は旧友のKeri Smithだ。Smithyは言う。「俺はお前は信用できる奴だって言ったんだ。だが相棒がな、Loose Endsは放っておけねえって言うんでな。」
このくらいの長さのノワールショートの見本のような作品。シンプルなのだけどそれなりに展開もあって上手さが感じられます。Gary DobbsはJack Martin名義でウェスタン小説も書いていて、どちらかと言えばそちらの方が有名なようです。この作品もウェスタンでも通用するかも。イギリスではWikiもあって結構有名な作家のようですが、Kindleで出ているのが少なかったり絶版が多かったりで少し探すのに苦労しました。リストの最初のはWikiのと少しタイトルが違うのだけどこの人の作品で間違いないと思います。あとはJack Martin名義のウェスタンです。




■Graduation Day/Malcolm Holt

15歳の少年Micheal Spencerはニューキャッスルの地元ではアンダーワールドで名を馳せるSpencer一家の末弟である。父の死後は兄Ronnieが地元で最も恐れられる男となっていて、Michealは常にその兄の陰で暮らしている。だが、Michealは常に密かに思っている。いつかはそこいらのゴロツキに自分自身が何者か知らしめてやるのだと…。
作者Malcom Holtが書き続けているニューキャッスルのSlingerとSpencer一家の犯罪小説シリーズに属する一篇。ごく普通の少年を主人公とした青春小説がラストで一変します。シリーズの他の作品も読んでみたくなる。Malcom Holtは早期退職後、98年に最初の犯罪小説を出版するもあまり売れず、その後サッカー関係の書籍で成功を修めたという人です。近年の流れに乗りアンソロジーなどで再び犯罪小説を書き始めたというところのようです。リストの最初のがSlinger-Spencer一家シリーズの短篇集。次がKindleで再版された最初の作品。あとはノン・シリーズの中編犯罪小説です。




■Cry Baby/Victoria Watson

今日は仕事を早く上がり3時から家で飲み続けている。私は妻の財布からくすねた金で酒と煙草を買う。妻からは離婚を言い渡されている。だが私には別れる意思はない。なぜこうなってしまったのだろう…。6時過ぎ、妻が帰宅したようだ…。
アル中の男の一人称で語られる妻への愛憎。そして悲惨な結末が待っている。作者Victoria Watsonはあちこちでレビューなどでも活躍している人です。彼女のウェブサイトからも様々な活動がうかがわれます。作品はいずれも短篇集か短篇。この作品からも短篇小説の名手という印象を受けました。

Victoria Watsonホームページ




■The Savage World of Men/Richard Godwin

雨の中に立つ二人の男。彼らのジャケットは雨ではなく血に濡れているようにも見える。やがて二人は車に乗り込み郊外の住宅地に向かう。そして、適当に選んだ大きな家に押し入り夫を殺し、妻をレイプし殺し、暴虐の限りを尽くして金品を奪い去る。だが、陰に隠れ怯えながらその様子を見ている二つの小さな目があった。そして無慈悲な犯行を続けながら旅を続ける二人の男にもやがて報いを受ける日が訪れる…。
Richard Godwinは多くの著作があり、あちこちのアンソロジーやウェブジンにも多くの作品を発表している作家です。『All Due Respect』にも「Donald Duck and the Avian Snitch」という作品が収録されていて、そちらも二人の犯罪者の話。彼の小説に登場する男はリー・マービンやジーン。ハックマンあたりのイメージがあるように思います。リストには新しめの長編作品から4冊。

Richard Godwinホームページ




■Hard Boiled Poem(a mystery)/A. J. Savage

えーと…これはちょっと解説不能です。1ページのポエムで、ミステリーと言っているように最初に事件があって最後に解決があるのだけど…。A. J. Savageというのはイギリスの元ポストパンクミュージシャンの別人格ということなのですが正体不明。検索すると戦闘機ばかり出てくるし。Amazonで検索したらゲイのロマンス小説が出てきたけど…。ウェブジンPulp Metal Magazineにも寄稿しているとのことで見てみたのだけどよくわかりませんでした。とりあえず、せっかくなのでPulp Metal Magazineのリンクを載せときます。うーん、曲でもつければ何とかなるのかな?

Pulp Metal Magazine


■A Dirty Job/Sue Harding

Strachanは持ち帰りのラテで暖を取りながら外の寒い冬の景色を眺める。いつもと変わらない一日。だが、明日の今頃には全てが変わっているだろう。Strachanはライフルのスコープから通りを眺める。そしてそのスコープの中に標的が現れる…。
あるスナイパーの狙撃に至るまでの短い瞬間を切り取った一篇。2ページほどの短い作品ながら様々な要素を巧みに盛り込んでまとめた佳作。Sue Hardingは永年務めた図書館を退職した女性ということで、コージー・ミステリとか書きそうな雰囲気だけど、こんな作品が出てくるのはグレアム・グリーンやジョン・ル・カレの国だからかなあと思ったり。まだ著作はないようですが、彼女の作品はホームページの方で読めます。

Sue Hardingホームページ


■Stay Free/Nick Quantrill

俺は刑務所の門をくぐり明るい陽の下に出る。もうここには二度と戻らない。ダチのBozが迎えに来てくれた。俺はまだ15歳の妹に手を出した奴を痛めつけてここに入れられた。やらなきゃならないことだった。そのことに後悔はない…。
Nick QuantrillはHull在住の犯罪小説家。Hullってどこだろうと思って調べてみたら西ヨークシャー地方にある都市らしいですね。すみません、地理には暗くて…。そのHullを舞台にした私立探偵Joe Geraghtyのシリーズが現在3作まで出ています。早く読んでみたいもの。この作品に関しては犯罪小説というよりは少し青春小説の趣もあります。リストの最後のは私も注目しているByker BooksのBest of British Crime Fiction Bookの一冊なのですが、それについてはまた次回にでも少し詳しく。

Nick Quantrillホームページ




■The Best Days of My Life/Steven Porter

大晦日の夜、年明け前に外に出て手すりにもたれて煙草に火をつけた。そして12フィート下に落下。それが90年代で憶えていることの全てだ。そして僕の頭からはそれまでの20年間の記憶が失われた。だが、その時代のヒット曲を聴くとどこかに残っている記憶が呼びさまされ、完全にその時の戻り、ところ構わず奇矯な行動に出てしまうのだ…。
風大左エ門症(古すぎてわからないか?)とでも言うべき状態になってしまった男の悲哀を描くユーモラスな作品です。犯罪小説ではないけど結構好き。Steven Porterは小説、詩、旅行記、スポーツライターなど様々なジャンルで手広く活動しているひとだそうです。まだ作品はそれほどないけどもっと色々読んでみたい作家です。最初のが短篇集で、次が旅行記、最後がサッカー関係の本らしい。とりあえずあるのを全部載せてみました。

Steven Porterホームページ




というわけで英国犯罪小説アンソロジー『True Brit Grit』の第2回でした。今回10人で、これで3分の2というところです。前回は結構有名作家も多かったのですが、今回は私も知らない作家が多かったりしたのですが、自分的には色々なものが読めて楽しかったです。個人的にはアンソロジーなんていうのは名前だけ知ってる作家が数人いてあとは知らない作家ぐらいの方が好きだったりします。
流行り物には全く縁の薄い私ですが、それでも病気というのは放っておいてくれないものでウイルス性胃腸炎に罹ってしまい1週間以上動けず今回は大幅に遅れてしまいました。これも何かの天罰でしょうか。みんなも流行り病と天罰には気を付けてね。
そんな事情で今回ずいぶん遅れているうちに、もしかしたら期間限定で元に戻ってしまうのではと思って最後になってしまったのですが、現在この『True Brit Grit』、価格が下がり120円で販売中です!期間限定かもしれないので読んでみようと思った人はお早めに。
とりあえずはまた仕事にも出られるくらいには回復しましたので、また毎週更新を目指し、第3回もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。ではまた。


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True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第1回


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2015年9月23日水曜日

Hellblazer -Jamie Delano編 第2回-

長らくお待たせしたのか、このブログとしては早い方なのかというところですが、『Hellblazer』 -Jamie Delano編-の第2回であります。まあ、1回でやるつもりだったのを引っ張っているのだから遅いのか…。前回はJamie Delanoのこの作品における作風についての考察だけで終わってしまいましたが、今回はちゃんと内容の方に触れつつ、オカルト探偵ジョン・コンスタンティンを主人公としたこの物語がハードボイルドなのか、というあたりも少し考えてみようと思います。

【Original Sins】

では、まずはハードボイルドの方から始めてみます。別にそれほどこだわっているのではないのだけど、例えばこの主人公はオカルト探偵ということですが、探偵というのもいろいろあって大抵の人はまず探偵と聞いたときもう少し別の種類のを思い浮かべたりするのではないでしょうか。そういう色々ある探偵の中で考えると、このジョン・コンスタンティンという人の出で立ちは明らかにハードボイルド派の物なのですよね。まあ、そんなわけでこのハードボイルドバカがちょっと考察してみるのもいいかな、と思ったわけです。
ハードボイルドについては前回の大混乱の中でも色々うじゃうじゃと述べたわけですが(あっ無理に読まなくてもいいです)一つ重要になっているのがモラルという要素です。善悪が曖昧な世界で主人公の探偵がそのモラルの軸となるというのがハードボイルドの一つの側面ですが、この物語のように神や悪魔というものが現れ人間のモラルが通用しなくなるような世界にはそんな探偵像がふさわしいのかもしれません。
ではジョン・コンスタンティンとはどんな探偵なのでしょうか。まず探偵という形から思い浮かべられる依頼を受けるための事務所といったものはなく、秘書や助手というものもいません。そして、『Hellblazer』の舞台はアメリカではなくイギリスではありますが、私立探偵免許というようなものももちろん持っていません。仕事というものも友人の友人の友人とかが何か妙なことに巻き込まれ、それなら魔法とかカルトに詳しい奴がいるよ、と紹介されたり、友人から妙なことが起こっているのを聞きつけ、儲けになりそうだと出向いて行って顔を突っ込むというようなことになるのでしょう。(なぜ推測的なのかはあとで述べます。)探偵と言えば探偵なのだけど、案外魔法ゴロとかいう方がしっくりくるかも。このようなルーズな感じの探偵像というのは、ハードボイルド方面だと70年代のネオ・ハードボイルドというあたりがあるのですが、それよりもっとポピュラーなのはロバート・アルトマン/エリオット・グールドの映画『ロング・グッドバイ』でしょう。発表当時は原作とあまりにも違うヒッピー探偵のフィリップ・マーロウが物議を醸したりもしたようですが、その後の主に映像方面でハードボイルドに限らず、探偵・刑事などのキャラクターに多くの影響を与えた作品です。ジョン・コンスタンティンの見た目のモデルはスティングということでエリオット・グールドとは全然違いますが、やはりキャラクターとしては『ロング・グッドバイ』以降のハードボイルド派の探偵像に属するのではないかな、と思います。以上、わりと消去法的な考え方をしてみても、とりあえずジョン・コンスタンティンは『Hellblazer』が始まった時点においてハードボイルド派のキャラクターとして想定されていたのだろうと考えて良いのではないかと思います。

では、実際の作品の内容の方を見てみましょう。と、やっと内容の方にたどり着きました。
『Hellblazer』最初の話は通常の倍の42ページの第1号と次の第2号に渡るストーリーです。友人のGary Lesterが儲けになると思ってアフリカから持ち込んだ悪魔がイギリスで暴れ出し、人々を猛烈な飢餓で暴れさせた後に餓死させるという事件が起こり、コンスタンティンはアンダーグラウンドの顔役でもあるアフリカ系の呪術師Papa Midniteの力を借り、自分の能力を越えた事態に怯えるばかりのGaryに悪魔祓いをかけるという話。冒頭、コンスタンティンのアパートのバスルームで大量の虫にたかられるGaryのJohn Ridgwayによる画はかなりのインパクト。Garyはもう完全に魔法ゴロという感じのルーザーですが、実は後に述べるニューキャッスル事件の生き残りでもあります。またこの時点では語られませんが、同事件の犠牲者を含むコンスタンティンの過去に関わる死者たちの幽霊が現れコンスタンテインを悩ませるという場面もあります。コンスタンテインは友人に対し非情な決断を迫られます。
続く3号では財テク悪魔が人間に化けたり操ったりで地上での資産運用を図るが、悲惨な死を遂げた失敗した者の調査にコンスタンティンが関わってくるという話。コンスタンテインは彼らの元締めの悪魔と口八丁で渡り合います。
という感じで出だしのストーリーはオカルト系ハードボイルドと言ってもよい雰囲気のものです。しかし、この後4号からこの"Originai Sins"のパートのメインのストーリーであるDamnation ArmyとResurrection Crusadersとの抗争に進んで行くにつれ、コンスタンティン自身が事件の当事者的立場になり、ハードボイルド的な様相は薄れて行きます。ハードボイルドに於いて必ずしも主人公が事件の傍観者的立場でいる必要はないのですが、この物語の中では主人公コンスタンティンは事件の展開に押され、翻弄されるばかりでなかなか軸となって行動するということができません。そしてそのようなコンスタンティンの立場はこの"Original Sins"だけではなく以降のパートでも同様のものとなってきます。そこで上に書いたコンスタンティンの仕事の推測に戻るのですが、これ以降のJamie Delanoによる『Hellblazer』の中では探偵ジョン・コンスタンティンが依頼により事件を捜査するという状況がほとんど(全然かも)出てこなくなるのです。そんなわけでこれ以降のJamie Delanoによる『Hellblazer』は、形式的にも内容としても少なくとも私の感想としてはハードボイルドとは違ったものではないかな、と思います。やはり前回述べたようなJamie Delanoのこの『Hellblazer』における作風は少しハードボイルド的なものとは異なっており、それゆえにDelanoがコンスタンティンというキャラクターを掘り下げストーリーを進めて行くうえでハードボイルド的なものとは違った作品になって行ったのだろうな、というのが私の結論です。ただし、私といえどもいくらそのジャンルが好きでもハードボイルドこそが最高の作品形態ですべての作品がそうあるべきなどとは思っていませんし、このJamie Delanoの方法論によって作られたコンスタンティンというキャラクターはとても好きですし、ストーリーも高く評価していることは言っておきます。そして上で述べた通り、シリーズ開始当初の設定としてハードボイルド的オプションもあったと思われるので、この先別のライターによりハードボイルド的な作品が書かれる可能性もあるのではないかなと思います。

と、少しやるつもりがまたずいぶん長くなってしまったのですが、ここからはちゃんと内容の解説に移ります。また最後までは行けなそうだけどなるべく頑張ろう。
4号からのストーリーは、まずコンスタンティンがエキセントリックな女性Zedと出会い恋に落ちるところから始まります。しかし、実はこのZedはカルト教団Resurrection Crusadersの巫女というようなものになることが決定されている女性で、そのことによりコンスタンティンはその教団に深く関わって行くことになります。そして4号のメインのストーリーはコンスタンティンの姪のGemmaがもうひとつのカルト組織Damntion Armyにさらわれ生贄にされるという話。Gemmaの両親であるコンスタンティンの姉夫婦はResurrection Crusadersの信者となっていて、そのことで彼女は家に居場所を求められず孤独を感じているところをDamnation Armyに付け込まれます。最終的にはZedの協力も得てコンスタンティンはGemmaを救い出すのですが、両カルトともに不穏なものを感じます。コンスタンティンの家族関係についてはJamie Delanoによるパートの後半でより深く語られて行くようになります。
ここで登場した二つの対立するカルトは観念的な宗教集団ではなく、一方のREsurrection Crusadersは科学・医学といったものを絡めたオカルト的な方法で神・天使との繋がりを模索しており、そしてDamnation Armyは現実の悪魔Nergalによって率いられています。続くストーリーではまずResurrection CrusadersがZedの説得に現れ、続いてDamnation Armyも配下の人間を奇怪な異形に作り替え彼女を襲わせます。Zedの身に迫る危険を心配するコンスタンティンは、友人であるホモセクシュアルのRay(3号に登場)に彼女を匿ってもらい自分はこの教団の調査に出掛けます。(6号)
コンスタンティンの友人としてはここで1号にも登場しているChasも登場します。武骨な感じの侠気のあるタクシー運転手で、一応コンスタンティンには借りがあるようですが、その後も度々登場して一方的に助けてくれます。コンスタンティンの友人としてはその後も唯一生き残って登場してくるキャラクターになります。
そしてコンスタンティンは友人でニューキャッスル事件の生き残りの一人でもあるRitchieに会い、電脳空間でのResurrection Crusadersの調査を頼みます。コンピューターからの電極を頭に取り付け電脳空間に入るという描写は今見ると多少陳腐に見えますが、何しろ25年前の作品ですからそんなところにこだわっていても素直に作品を楽しめなくなるだけですので深く突っ込むのはやめましょう。電脳空間に入り調査を始めたRitchieは予想外の反撃に遭い、全身黒焦げになって死亡します。こうしてまた一人、ニューキャッスルの生き残りは失われて行きます。一方、Resurrection CrusadersはZadの居所を突き止め、強引に彼女を連れ去ります。止めに入ったRayは殴打され死亡。そのことはまだ知らないまま失意のうちの帰途についたコンスタンテインは帰りの列車内で再び彼の過去にまつわる死者たちに苛まれ、遂には走行中の列車から飛び降りてしまいます。(7号)
コンスタンティンが目を覚ますとそこは病室で、彼は全身骨折で一歩も動けない重傷で寝かされていました。そこに悪魔Nergalが現れます。まったく動くことができず、また一方で死亡したRayやRitchieの件でも嫌疑をかけられているコンスタンティンに、Nergalは甘言と脅迫で取引を持ちかけます。追いつめられやむなく承諾したコンスタンティンに、Nergalは自らの血液を注入。すると大怪我はたちまち癒えてコンスタンティンは病院から逃亡します。(8号)
苦悩の末、悪魔Nergalとの取引を実行するため、コンスタンティンはResurrection Crusadersの施設に侵入し、儀式を待つZadに会いに行きます。そして自らの身体に悪魔の血が流れていることを隠したままZadと交わります。巫女である彼女を悪魔の血で汚すことにより予定されていた教団の儀式を破壊することがNergalの目的だったのです。(9号)
以上が"Original Sins"のストーリーです。抜けている5号はスワンプ・シングに会った後立ち寄ったアメリカの田舎町で、コンスタンティンがその町に住むベトナム戦争帰還兵の男が呼び寄せてしまった亡霊部隊の出現に出くわすという話。Resurrection Crusadersへの言及も少しありますが別の独立したエピソードです。
"Original Sins"全体を通じて作画を担当するのはイギリス出身のアーティストJohn Ridgway。『SWamp Thing』、『The Sandman』やグラント・モリソンの『The Invisibles』など、イギリス出身の作家の有名作にも多く参加しています。それは今見ると古い画に見えてしまうけど、カラーリングの手法や考え方も違っていた時代で、独特のペンによるタッチで初期『Hellblazer』の世界を作り上げた優れたアーティストだと思います。

【The Devil You Know】

冒頭からコンスタンテインが幽体離脱状態でうろつき始めるというわけのわからない展開で進み、最初はかなり戸惑います。少し進むうちにコンスタンティン自身の記憶が戻ってきてスワンプ・シングの大地に種を植え付けるという計画に協力してこの状態になっていることが説明されるのですが、実際にコンスタンティンがどうなっているのかは画的には説明されないまま幽体離脱状態のコンスタンティンを追って行く形で話は進みます。
実は前の9号のラストでアパートに帰り着いたコンスタンティンの前にスワンプ・シングが現れる場面があり、これはそれから続く展開だったのです。植物の精霊であるスワンプ・シングは部屋にあった植物性のものであるタバコの葉で身体を作り上げて現れ、コンスタンティンは「おいおい、これから俺が一服付けるやつがなくなっちまったじゃねえか」と机から煙草の巻紙を見つけ出しスワンプ・シングの身体からつまみ出した葉でタバコを作るという、それまでの重い展開から一転したユーモラスなシーンが描かれます。「貴様は全ての生物が危機に瀕しているときにもそういうジョークをかますんか!」とスワンプ・シングに胸倉摑まれたり。ただその辺の「種を植え付ける」という話は私自身がまだ『Swamp Thing』をあまり読んでいないので今ひとつよくわかりませんでした。何か勘違いがあったらすみません。
幽体離脱中のコンスタンティンはResurrection Crusadersに向かい、そこで自分の行為がZadに予想以上の深刻な結果を与えたのを目の当たりにしてショックを受けます。そしてそこに潜んでいたDamnation Armyのスパイが引き戻されて行くのを追跡し、Nergalの許へたどり着きます。しかしNergalも隠れて様子を窺うコンスタンティンをすぐに察知し、すぐに逃げ出した彼を追撃します。なんとか自分の身体に逃げ戻ったコンスタンティン。一方スワンプ・シングの方は、コンスタンティンの身体を使い人間の恋人と交わる過程で大地に種子を植えるという計画だったようですが、行為が達成される前にコンスタンティンが自分の肉体に戻ってしまったのでそちらもご破算になってしまいます。Nergalとの戦いに手を貸してくれと頼むコンスタンティンを、スワンプ・シングは奴は自分と戦うつもりが無いとして突っぱねます。そして立ち去るコンスタンティンに向かい自分にも聞こえたNergalの言葉を告げます。「ニューキャッスルを忘れるな。」自宅に戻ったコンスタンティンを迎えたのはDamnation Armyによって惨殺されたアパートの大家と住人の死体でした。そして、彼はもはやNergalとの対決が避けられないものであることを知ります。(10号)
コンスタンティンはニューキャッスルを訪れ、過去の陰惨な結果に終わった自らの失敗を回想します。若き日のコンスタンティン。そして同様にオカルトと音楽にのめり込んだ怖いもの知らずの友人たち。彼らはかつては有名なミュージシャンを多く輩出したが今は閉鎖されているクラブを訪れます。勝手にドアを蹴破って中に入った彼らが見たものは異常に引き裂かれた多くの死体と踊り続ける少女の姿でした。少女の父親たちが夜毎に行っていた退廃した儀式が悪魔を呼び寄せ、彼ら全員を虐殺し少女をこの場に捕えていたのでした。コンスタンティンは仲間とともに悪魔祓いを試みるのですが、生半可な知識ゆえの未熟さで悪魔を抑え込むことができず、少女を救うことにも失敗し、多くの友人を喪います。そして、その悪魔が最後に告げた自らの名前がNergalだったのです。(11号)
Nergalと戦う方法を模索するもなかなか解決策が見つからず苦悩するコンスタンティンの元に、ガス会社からの請求書という形で死んだと思われていたが実は電脳世界で意識が生存していたRitchieから連絡が届きます。Ritchieの協力を得たコンスタンティンはNergalを電脳空間を通じて天使の領域に追い込み、天使たちの手で遂にNergalを破滅させます。(12号)
というところで悪魔Nergalとの闘いは決着するのですが、この後にもう1号"The Devil You Know"の終章となる13号があります。それが良い意味でも悪い意味でもこれがJamie Delanoというようなすさまじい異色作なのです。
Nergalとの戦いを終え一応は心に平安を取り戻したコンスタンティンは家族連れやカップルでにぎわう海岸を訪れる。少し子供の頃の思い出を回想したりもしながら。すると突如対岸の原子力発電所が爆発!海岸は放射能に汚染された地獄絵図に変わる。そしてコンスタンティンは出会った一人の女とその海岸で暮らし始める。奇形化した生物を食料に捕獲し、身体は放射能で日々爛れて行く。やがてその女性は妊娠し、頭が二つあるアザラシの子供を出産する。生まれてすぐにコンスタンティンの手を逃れ海に向かうその子供は、空から飛来した骸骨鳥の群れにたちまち啄まれ始める。あとを追うコンスタンティも歩くうちに白骨化し、海へと進んで行く…。最終ページ、目を覚ましたコンスタンティンはそこが元の平和な海岸ですべてが白昼夢であったことを知る。
環境論者でもあるDelanoが大きなストーリーラインの合間に当たる1号を使い通常のストーリーとは別に放射能の恐怖を訴えた作品、というのがもっともな単純な解釈ですが、何かそこにとどまらないこの作家の根幹を成すかもしれない幻想や暗黒が垣間見える一篇です。
このパートの作画はペンシラーとしてRichard Piers Rayner。やはりイギリス出身で、のちに映画化もされた『ロード・トゥ・パーディション』の作画を手掛けます。幽体離脱シーンなどの少しシュールな表現にも優れたアーティストです。この人のもう一つの特徴としては人間の表情を通り一遍のパターン的なものからさらに広げてもっと中間的だったりもするものを表現しようと試みること。えー…意欲としてはとても尊敬するのですが、結果的にはちょっと変な顔がよく見られてしまうのが残念なところです。そして後に『Fables』などでもペンシラーとして活躍するMark Buckinghamがインカーを担当しています。


ということでHellblazer Jamie Delano編 第2回でした。また少し遅れてしまったが…。とりあえずは続きになっている最初の2パート、"Original Sins"と"The Devil You Know"について少し詳しくストーリーを解説してみました。また少し長くなってしまったハードボイルドうんたらもとりあえずはジョン・コンスタンティンのキャラクター考察の一つぐらいにはなったのではないかと。続く3パートはあと1回でできるかな。間にグラント・モリソンやニール・ゲイマンのも入るからやっぱりあと2回になるかな。とりあえずなるべく早く進めるよう努力しますのでまたよろしく。


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