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2015年11月15日日曜日

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

それでは2000AD 2015年冬期(後編)と参ります。トップ画像は引き続き『Savage』。まだ何も書いていないのに引っ込めるわけにはいかない。


Orlok, Agent of East-Mega One/Eurozoned
 Arthur Wyatt/Jake Lynch

これもまた少し説明を要する厄介な奴です。Meaga-City Oneとかつて対立し、戦争の末30年前に姿を消したEast Mega OneのエージェントOrlokを主人公としたシリーズです。East Mega Oneについては、また『Day of Chaos』のところを参照してください。初登場は30年前の事件の時Mega-City Oneに潜入したときらしいのですが、主人公としたシリーズは最近のちょっとそこまでは手が回らないでいる夏と冬に出ている増刊号らしいです。本格的なシリーズとしては今回から始まった模様です。ちなみに30年前のキャラクターなので、時代設定も30年前のEast Mega Oneが消滅する以前の事となっています。
East Mega Oneの工作員Orlokはある作戦の最中、同行していた軍高官の息子を殺害し、逃亡離脱する。そして、潜伏の後、Euro-Cityに現れたOrlokは、工作員として培ったスキルを利用し、アンダーグラウンドの犯罪世界で頭角を現して行く…。
と、シリーズ開始早々から主人公が組織を離脱してしまうという展開。ライターArthur Wyattについては2000年代ぐらいに入ってからイギリスでは活躍しているライターのようだけど、私が覚えている限りではこのシリーズが初めて。これからよく見かけるようになって行くライターになるのでしょう。作画のJake Lynchは少し前『Sinister Dexter』を描いていました。モノクロの画にちょっと旧いタイプの線と人物のプロポーション、更に目の粗いトーンを使い、なんだか引っ越しの時に押入れの底から発掘された70年代の少年マガジンの知らないマンガみたいに見えてしまうのだが、個人的にはそんなもん見つけたら喜ぶタイプなのでOKです。意図的にそういうタッチを作り出している人なのか、そのくらいのベテランなのかちょっとわかりませんでした。このシリーズにはあった画だと思うのでこれからも頑張って欲しいものです。ちなみに2000ADは基本的にはオールカラーなのですが、今期前半はこのOrlok、Ulysses Sweet、そしてSavageの連載5本中3本がモノクロ作品でした。期間中少し早めに終了したこのシリーズですが、そこそこ好評だったようで続く春期にも再登場しています。今回のOrlokの離反の謎はその時に明らかに!


Savage/Grinders
 Pat Mills/Patrick Goddard

さて、やっとSavageにたどり着いたわけですが、まあ実はいつものようにまだ私もそんなには、というかほとんど何もわかっていないのですが。しかし、それでも昨年のABC Warriors(2014年冬期)と合わせて読むとかなり大きな物語の広がりを感じさせるこの巨匠Millsの未来史シリーズ。とりあえずはなんとかわかっているところまで書いてみようと思います。
時は1999年!っていきなり過去じゃん!いや、その物語が描かれたのって2000AD初期の1978年頃の事なので未来なのですよ。ヨーロッパで勢力を伸ばすVolgan帝国が遂にイギリス本土を侵略。その『Invasion』という物語の中でレジスタンスとしてVolgan帝国に立ち向かったのが本作の主人公Bill Savageなのです。そして一方でこのVolgan戦争に投入されたHammer-Stein達ロボットの物語が遥かな未来に続いて行くのがABC Warriors。というのが私にもちらっと見えてきたMillsの未来史シリーズというわけです。ではこの『Savage』がどう今のABC Warriorsと結びついて行くかはあとで述べるにして、とりあえずは今回のストーリーです。今回の話はVolganの侵略からイギリスを解放した戦後から始まります。
ロンドンは解放された。しかし喜びも束の間、治安維持の名目で勝利に貢献した米Quartz社から導入されたHammer-Stein型ロボットによる警備や、ドローンによる各地の監視などに人々の不満は次第に高まって行く。そして戦争勝利への大きな貢献者ではあるものの、レジスタンスのBill Savageの立場も戦後の政治の中では微妙なポジションとなって行く。英米の政治権力構造の中で地歩を固めつつあるQuartz社のHoward QuartzとSavageの間にも表面的には友好な協力関係を続けながらも、様々な齟齬が次第に拡大して行く。ロボット排斥運動の先頭に立ち、過激な破壊活動を続けるのはGrindersと呼ばれる過剰なサイバネティックスにより様々なマシンで身体を強化したグループだった。そしてそのリーダーは死亡したと思われていたSavageの兄Jack Savageだった。各勢力の様々な思惑が交錯する中、行われた戦勝パレードの最中、緊張は沸点に達しロンドンの路上は再び戦場と化す!

そして最後に登場するのがコイツ!「ワーワー!サベージをぶっ殺せー!」コイツは昨年のABC Warriorsで彼らが遂にコイツを倒すべく立ち上がった最大の敵、彼らの創造主ではありませんか!コイツこそがQuartz社の創始者であり、すべてのロボットの創造主であるHoward Quartzの変わり果てた姿で、今回のストーリーはその誕生をめぐる物語でもあったのでした。こうして過去と未来が繋がり壮大なMills未来史の片鱗が見えてきた以上、私としても放っては置けません。だって未来史とか好きなんだもん。あと3部作も。今までABC読みたいけどもう2000AD枠本誌の他に過去のDreddと『Rogue Trooper』でいっぱいだしなー、と手をこまねいていた私ですが、こーなったら『ABC Warriors』、『Savage』両シリーズを包含するMills未来史に挑むしかありません。まあこれからが遠い道のりで、いつか遠い未来このブログにも力尽きて忘れ去られたころ、「フォッフォッフォッ、わしも遂にMills未来史を制覇したわい」ぐらいになるのでしょうが、とりあえずはこのブログが続いているうちは読んだのについては書きますので。
と、若干大げさ気味に書いてきましたが、さすがに巨匠Millsと言えども2000AD初期からこの未来史を構想していたというものでもなく、近年になってこれまでに書かれた作品をその構想の元に再構築しているように思われます。『Invasion』の語りなおしから始まったと思われるこのSavageは今回がBook9となっています。昨年はABCが1回で、今年はこのSavageが1回。来年はまたABCが1回かな、ぐらいのスローペースで進むこのシリーズなので、1年後にはもう少しちゃんと説明できるようには頑張りたいものだなと思っている次第です。
なんだか巨匠力に押されてうっかり作画の方を忘れそうになってしまいました。作画のPatrick Goddardについてはやっぱりまだあまりよくわかっていないのですが、1984年生まれと書いてあるのを見つけたので少なくとも2000年代に入ってから描き始めたアーティストでしょう。力強い線と正確なデッサンが印象的なアーティストです。こういうモノクロで線のみで描きこまれたいい画は日本でもあまり見れなくなったように思います。


Survival Geeks/Steampunk'd
 Gordon Rennie & Emmy Beeby/Neil Googe

以前2013年3月(Prog 1824-1826)にTharg's 3rillersで登場した作品がシリーズに昇格。Clive、Rufus、Simonの3人のオタクと巻き込まれてしまった女子Samが住んでいた建物ごと異次元を漂流し、様々な異世界に流れ着くというスラップスティック・コメディ。今回彼らがたどり着いたのはスチームパンクとクトゥルフが入り混じった奇妙な世界。そこに早速その世界の恋敵であるEvanが登場し、Samを連れ去りRufusはやきもきするのだが…。
一目見ただけで、ああ、前に読んだあれだな、と分かったぐらいなので結構印象に残る悪くない作品だったのだろうと思うのですが、個人的には今回今ひとつ乗れませんでした。好みの問題も若干あるかもしれませんが、それより見てお分かりのような今期のDredd、Savageあたりへの入れ込み様とうまく合わなかった感じが大きいように思います。それを考えるとまた改めてDan Abnettっていい作家だなと思ったり。紹介したあらすじから割とすぐに思い浮かべられる通りのストーリーで普通に楽しめる本当に悪くない作品だと思います。ガッパ型巨大ロボが登場するシーンもあったり。次回のラインナップ次第ではもう少し楽しめるのではないかと…。
ライターの一人Gordon Rennieはあの『Aquila』の人ですね。作画のNeil Googeは今風の(という区切り方も少し雑だけど…)すっきりしたきれいな線の動きのある見やすい画のアーティストです。

そしてここで注目作をもう一つ。Prog 1921-1923に掲載のTharg's 3rillers『1%』という作品で『Brass Sun』のI. N. J. Culbardが作画を担当しています。(ライターはEddie Robson)濃密な宇宙塵雲の中で身動きが取れなくなっている宇宙旅客船。だが実はそれには過去に失踪したさる大企業のトップが開発した物質が深く関わっていたのだった…。というストーリーで、何となく『スタートレック』の1エピソードになってもよさそうな感じの話です。以前にも書いたCulbardの抽象的とも思えるものをシンプルな線で記号のように明確に見せるという画風がうまくいかされたなかなかの作品でした。と思っていたら次の春期には、ストーリーもCulbardによる読み切り作品が。それについては次の2015年春期の時に詳しく書きます。それにしてもこの作品で最初にトンズラを謀り後に活躍するミニスカキャビンアテンダントが結構可愛く見えてしまった私はもはやI. N. J.の何かにやられてしまっているのでしょうか?


というわけでずいぶん遅れた上に1週引っぱってしまった2000AD2015年冬期もなんとか完了です。そして次の春期はまずは豪華!DreddとSlainとStrontium Dogが揃い踏み!そして意外と早く奴らが復帰!などなど。もうそろそろ読み終わるものの、またアレとアレだけはやらなければとかあるのですが、なるべく早く出せるように頑張ります。とにかく休まないこと。12月も頑張ること。




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