2015年11月24日火曜日

True Brit Grit -最新英国犯罪小説アンソロジー- 第3回

イギリスの最新の犯罪小説作家45人を集めた注目のアンソロジーの紹介も今回第3回となりました。まあまだよくわからない作家が並んでいるばかりですが、いつかこれが役立つ日も来るのだよ!との信念を持って頑張って行こうと思います。

今回はまずは前回ちょっと触れたイギリスByker BooksのBest of British Crime Fiction Bookシリーズについてです。…と勇んで始めたものの、このシリーズ現在中断中でしばらく後続の新刊がリリースされておりません。線画のクールなイラストのカバーで統一され(1冊例外あり)見た目もカッコいいイギリスの若手クライム・ノヴェルの作家の中編小説のシリーズということでずいぶん期待しているのですが。とりあえず現行発売中は5冊。なるべく早い機会に読んでこのブログでも書いて行く予定です。版元のByker Booksはこれまで紹介してきたような犯罪小説などの専門のパブリッシャーではなく、もう少し色々な本を出版しているところのようです。他にもアンソロジーを出したりと犯罪小説方面にも意欲的ではあるようなので、頑張ってもらいたいものだと思います。

Byker Books


●Byker Books/Best of British Crime Fiction Book



■Hanging Stanley/Jason Michel

燃え盛る建物の前に、近所のみんなが集まっている。どの顔も笑顔だ。消防車が到着するまではまだ当分かかる。そして、横の街灯には男の死体がつるされている・・・。スタンリーがこの町に現れたのは3年前。ジャンキーのゴロツキ。そして奴がその土地を買って住み着くようになり事情は変わってきた。次々と配下が集まり近所を我が物顔で歩くようになり、やがて…。
なかなかに怖い話。さて我が物顔に近所を蹂躙するならず者たちにどんな運命が待ち受けていたのか。前回正体不明の元ポストパンクミュージシャン氏のところであまりにも何もなくて寄稿しているらしいウェブジンPulp Metal Magazineのリンクを張ったのですが、今回まず登場はその主催者であるJason Michelです。彼については世界あちこちを放浪し、現在フランス在住で、大変毛深い男というぐらいしかわかっていません。彼の作品はPulp Metal Magazineの他、インディー系e-Book Shop(という解釈で正しいのかな?)Smashwordsでも読むことができるようです。

Pulp Metal Magazine

Smashwords


■The Wrong Place to Die/Nick Triplow

Maxは夕暮れにセーフハウスに着いた。交替する筈のHarrisはもう消えている。まったくReddingの取り巻きにはろくな奴がいない。だがこれはMaxが自分の古くからの情報網から得た情報で上司Reddingに掛け合って実現した監視業務だ。今度こそコードネームAlexの尻尾を摑む。深夜、遂に見張っていた建物に動きがあった!すぐに連絡にかかる。だが、無線には誰も応答しない…?
1つの短篇としてまとまっているけど、何となく長編のプロローグのようにも見える。失敗した監視から始まるクライム・ノヴェルとかありそうですね。Nick Triplowは現在のところ犯罪小説の著作は下の1冊だけですが、結構評価の高い作品です。版元のCaffein Nightsも気になるのでそのうちよく調べてみよう。『ゲット・カーター』で知られるテッド・ルイスに関する短編映画の脚本に参加し、彼の伝記にも取り組んでいるそうです。

Nick Triplowホームページ

Caffein Nights




■Coffin Boy/Nick Mott

この家に押し入って住んでいる老いぼれの頭に銃弾を撃ち込んでくる。PeteとColeはBig Mikeからの仕事でやってきた。ちょろい仕事だ。だが肝心なところで渡された銃が動かない。おまけに老いぼれが妙なことを話し始めた…。
一つの部屋の中だけで繰り広げられるちょっと演劇的にも見える作品。まあ途中でオチは見えてきてしまうけど、この枚数で上手くまとめられていて最後まで楽しめました。作者Nick Mottは油田で働くちょっとしたインテリで、あちこちのウェブジンやアンソロジーに作品を発表しているということです。

■Meat is Murder/Colin Graham

Drotaは今日ポーランドのブラックビアウィストクからバーミンガムへやってきた。あんな田舎にはもう未練はない。Dorataは街でただ一人のパンク-バイセクシュアルだった。この町には同じ国から来た友達がいる。狭いアパートで共同生活を始める。そして仲間たちと同じ仕事を始める。食肉工場。だがそれにもすぐにうんざりし始める…。
最後にちょっとゾッとするオチが。この枚数だけに不法外国人から見たイギリス、というところまでは至ってない気はするけど、逆にこれを日本でのこととして書いても成り立つようにも思う。北欧ミステリとか読んでも合法違法を問わず外国人に対するする視点もアメリカの物とは違っているのが興味深かったり。やっぱり色々なのを読まなきゃねということですね。頑張ろう。Colin Grahamはイギリスのジャーナリスト/作家で、10年ほど東ヨーロッパのあちこちで暮らしていたということです。この人も色々なアンソロジー、ウェブジンにショートストーリーを発表中ということです。

■Adult Education/Graham Smith

家を出る前に姉が今夜は気を付けるように、と注意してきた。同じ大学の夕方のクラスの後帰宅途中の女性がレイプされ殺されているというのだ。でも私にそんなことが起こる確率などほとんどない。クラスのほとんどの連中は前の年から知っているもの。それに今日は授業の後大切なデートも控えているのだ。だが、授業の後、運悪く私は同行する知り合いもなく人気のない道で独りぼっちとなってしまう。そして後ろから近付いて来る足音…。あの男だ!クラスにいた始めてみる男で、しきりに私の事を気にしていた…。
それほど悪くはないとは思うけど、同一テーマで第1回に書いたSheila Quigleyのが秀作だったので少し見劣りする気も。Graham SmithはCrimesquadというレビューサイトのレビュアーとして知られる人ということ。長年のクライム・ノヴェルのファンで本業はホテルのマネージャーなどらしいです。自費出版数作の他、今年になって前述のCaffeine NightsからHarry Evansというキャラクターを中心とするらしい警察小説を2冊出しています。

Crimesquad.com




■A Public Service/Col Bury

俺たちが数マイル尾けてきたスバルインプレッサがJerome Kingstonに忍び寄り、リアウィンドウから銃が突き出された。Johnny Boyと俺には警棒、ペッパー・スプレイ、それにスタンガンの用意はあるが、リアルな飛び道具への対抗策は無い。だが、行くしかない!
現場の刑事の粗野な語り口で一つの事件の顛末が語られる。ちょっとルーズな感じがいい。Col Buryはマンチェスターを舞台としたいくつかの作品やアンソロジーなどで活躍する作家で、今は終了しているウェブジンThrillers, Killers'n' Chillersのエディターでもあります。彼の最新作もCaffein Nightsから。これは早くもう少し調べないと。彼のホームページでは色々な作家へのインタビューも読めます。

Col Buryホームページ

Thrillers, Killers'n' Chillers




■Hero/Pete Sortwell

近所の郵便局を兼ねた店。不況で爆弾を落されたみたいに半径30マイルの商業施設は撤退し、残ったのはこの一軒だけ。パブも店もやってる。さしずめ縮小高価格のスーパーマーケットってところ。俺はしがない工場労働者で、ここのところシフトも減らされ金もない。いつものようにこの店に立ち寄ると、近所のゴロツキSimonが現れ、店主に絡み始めた。もめごとは勘弁だ。俺はヒーローなんかになるつもりはなかったのだが…。
田舎の小さな店で起きた事件がユーモラスな語り口で描かれる。結構好きな感じの表現があって色々拾ってみました。Pete Sortwellはこのアンソロジーの時点ではショートストーリーを発表し始めたところだったようですが、その後精力的に活動したようで、いくつかのユーモア本らしきものの後、今年9月に犯罪小説の長編作品を出版しています。

Pete Sortwellホームページ




■Snapshots/Paul D Brazill

Nickは安ホテルのベッドで、嫌な記憶を呼び起こされる悪夢から冷たい汗まみれで目覚める。家へ帰る時間だ…。
家へ帰る。キッチンでは愛する妻が待っている。いつものように…。
Nickは永年の相棒Rileyと港で会う。近頃はどうだい…。
ある犯罪者の破滅へと至る日々が、スナップショットのような短い場面を並べることで綴られる。このアンソロジーの編者のひとりであるPaul D Brazillによる意欲作です。いくつかのアンソロジーの編者である他、作家としても活躍中で、代表作は『Guns Of Brixton』。また近年は自らパブリッシャーBlackwitch Pressを立ち上げ、第1回で紹介したチャリティー・アンソロジー『Exiles』もそちらから出版されています。他にも彼の企画で同キャラクターを複数の作家が書いている狼男探偵Roman Daltonシリーズも注目。現在はイギリスを出てポーランド在住で、ホームページではポーランドのノワールPolski Noirの企画も準備中です。現在のイギリスのこのシーンの中心人物の一人でしょう。

Blackwitch Press




■Smoked/Luca Veste

今日も朝からカミさんにガミガミと起こされる。50過ぎの失業者の私に行くところなどなく、いつものパブに言って座ると、「その1杯は俺のおごりにしてくれ」と、後ろから声が。Tommy Donnolly。アイルランド系のやくざ者だ。Tommyは私に頼みたい仕事があるというのだが…。
脱力系の初老の男の一人称で、最後まで脱力系負け犬で終わるのが面白い。こちらのLuca Vesteももう一人のこのアンソロジーの編者です。レビュアーから始まり、様々な作家へのインタビュー、そして他にもアンソロジーの編集。そしてこのアンソロジーの時点では作家として最初の長編を準備中となっていましたが、現在ではもう3冊目が出版されています。これからの活躍が更に期待される人でしょう。

Luca Vesteホームページ




ということで英国犯罪小説アンソロジー『True Brit Grit』第3回でした。全5回のうちの3回で、やっと峠を越えたというところか。あと2回、結局年を越してしまいそうですがなんとか頑張って行こうと思います。まあ、これからいろいろと英国作家を読んでいくための基礎にしようと始めたものの、やっぱりやってみるとそれなりに手間も時間もかかってしまうものですね。とりあえずのところはこういう作家もいるのか、と見てもらえれば幸いです。


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