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2019年3月28日木曜日

21世紀ハードボイルド/ノワール ベスト22 第1回 (全4回)

昨年末ぐらいに突如やる!と宣言いたしましたアレが遂に登場です!どうかねこのキャッチーなタイトル。SEO対策も万全ぽいナリ!普段はSEOなんて考えたくもねえよ。そう簡単に検索されてたまるか!ぐらいの出鱈目ブロガースタンスの私だが、今回ばかりはそうは言っていられない。ハードボイルド/ノワールの未来への重大な危機である!というわけで、前回(パンダの理論の最後のやつ)のおさらいから。

筆者である私は、とある金曜日仕事帰りに、例によってそこしか行くところもないので近くの書店に寄る。おお、そうか、年末恒例の何かがすごいとかすごくないとかいうやつが出る頃か。んで、とりあえずパラパラと見てみると、んまー、案の定という感じに昨年やっとのことで翻訳の出たエイドリアン・マッキンティ先輩のショーン・ダフィ第1作『コールド・コールド・グラウンド』が三十何位とかいう低位。まあ「読書のプロ」とやらの中じゃとっくにハードボイルド読みなんて死に絶えてるしな。どーせ、こんなもんだろ。3作目が出たところで、密室好き連中からくそみそにけなされてそこで翻訳打ち止めって辺りだろ、ケッ。とふてくされていたのだが、そこでふてくされてばかりもいられんことに気付く。せっかく優れた作品が翻訳されても「読書のプロ」どもに常に下位に追いやられ、続きも翻訳されず、在ったことさえあまり多くの人の目に留まることもなく次々と消えて行くばかりが続くこの現状、今ハードボイルドを読んでみようなどという前向きな志を持った若人が現れても、いったい何を読めばいいのかさえ分からなくなっているのではなかろうか?おしりたんていも全部読んだし、大人向けのミステリも読んでみようかな、ハードボイルドとかいいかな、と希望を持った純真な若者が、うっかり何とか知恵袋とか福袋とか言うところに「おススメのハードボイルドを教えてください。」などと書き込んだばっかりに、待ち構えていたマッチョ説教信者に『初秋』なんぞを押し付けられ、「こんなクソつまんねーのしかないなら一生ハードボイルドなんて読まなくていーや。」となってしまう惨事が日々繰り返されているのではないか。福袋にはそんなにいいもの入ってないんだよ、という教訓などでは済まされない事態である。ここは早急に新たな世代の指針となる未来へと向かう21世紀のハードボイルド/ノワールの名作リストが必要である!だがしかし、前述のようにもはや「読書のプロ」などという澱んだ泥濘ではハードボイルド読みなど死滅しており、頼むべく者もかすかにも期待を持てる者すらも皆無である。そればかりか30年一日のように、似た形の物を見つけてホークがスーさんがハマちゃんがを始めるばかりのマッチョ説教信奉者や、映画とビンテージ物の話しかしないノワール原理主義者の横行により21世紀の新しいハードボイルド/ノワールなどは存在しないように見せかけられているのがこの国の現状である。なればここは拙僧(僧?)自らの手で成し遂げるしかない!と、うろ覚えのいにしえの『ワイルド7』TVシリーズのOPテーマなどを口ずさみながら立ち上がったという次第である!あれ?おさらいの方がオリジナルより長くなっているが、まあ気にするな。いつものことだ!

というような事情で昨年末より急いで作り上げたのがこちらなのだが、ここでうっかり騙されてこんなところに来てしまった諸君に言っておかなければいけない重要なことがある。タイトルに偽りあり!検索にかかりやすいようキャッチーなタイトルを付けてみたが、実はこれはベストというようなものではないし、お風呂場の掃除をしているらしいセクシーなお姉さんの画像とも全く関係はない!あ、いやそんなところには一切つながっていないのだけど。ベストというと何かセレクト作業が行われたように思うかもしれないが、そんなことは一切なく思いついたのを全部書いた!更にベストというところから連想される順位みたいなもんもなく、基本的には日本で出た時系列ぐらいに並べただけ!おい、そこの、ほほう、ハードボイルドベストか。どれウィンズロウやコナリーが何位になってるか見てやろうかな、みたいにふんぞり返ってる奴!そんなもんは一切入ってねえ。そんなもんはわざわざここに並べなくたって売れてるだろ。おんなじ理由でリー・チャイルドやジョー・ネスボ辺りまでは入っておらん!ここに並んでいるのは主に上記のような目そのものがウロコの連中から無視され、いつまで経っても欠点見つけて批判してりゃあ辛口ミステリ通に見えると思ってる幼稚な連中にこき下ろされ、続きも翻訳されずとうに絶版となり古書店の片隅で雌伏しているが、この絶滅が危惧される真性ハードボイルド/ノワールバカの数少ない生き残りである私が絶対の自信を持っておすすめ…、あっ、検索重要ワード!おススメ、お勧めする絶対に面白い未来へと向かう21世紀ハードボイルド/ノワールの名作である。多くが絶版であるので出版社は全然儲からない。ざまあみろ。まあロートル世代の自称ハードボイルドご意見番みたいのの中にはとかく「ハードボイルドはこれとこれを読めばよい」てなことを言って団塊スタイルで格好つけたがる輩も多いが、こちとらノワールの毒にどっぷり冒された危険狂人なので、そんなケチ臭いことは言わん!思いついたのは全部書いたので全部読みやがれですわー。ああ、心配しなくてもチャンドラーは未来永劫絶版になることはないので、こっちを読んだ後でも大丈夫。『初秋』なんざどこのブックオフでも108円とかで買えるから、いつでも読んでウンザリできる。まずは未来へ続く21世紀ハードボイルドを読むべし!さあ始まるよー。

始まるよー、と言ったところでもう一つ注意。まあいつもの感じで無計画に始めた結果、なんか全4回とかになっちまいました。こんなの最後まで読んでくれる人どのくらいいるのかわからんが、少しでも読みやすいよう4321回の順でアップしてあります。新しいのが上に来るので、これだけに関しては下へ進んで行けば続きが読めるようになっています。のはずです。大丈夫だよね?うまくいってなかったらごめん。つーわけで、今度こそホントに始まっちゃうよー。帰るんなら今のうちだよー。


■ケン・ブルーウン全作品(4作)

まず最初に登場は、21世紀初頭のハードボイルド/ノワールを代表する偉大なるケン・ブルーウンです。全邦訳作と言ってもたった4作しかありません。そして、このブルーウンの翻訳紹介がわずかこれだけで終わってしまったことで、以降のハードボイルド紹介が断絶したと言っても過言でないほどの大きな穴が開き、以降もそれが広がり続けているのです。
邦訳作4作の内訳は、ジャック・テイラー・シリーズ2作と、単発作品『アメリカン・スキン』(早川書房)と『ロンドン・ブールヴァード』(新潮社/翻訳者のこだわりによりブルーエン)の2作。で、ここは私がこよなく愛するジャック・テイラーさんについて紹介いたします。
ジャック・テイラーは、アイルランド、ゴールウェイの元警官。免許や資格のある探偵ではないが、警察に行けなかったり、あんまりあてにしていないような人たちから頼まれ、探偵的な仕事をしている。第1作の時点でもう50代で、本好きのアル中オヤジとして登場してくる。このシリーズについては、ジャックさんがちゃんと捜査しないとか、事件の方が勝手に解決するなどの言われ方をされていたりもするのだが、そりゃあちょっと読みが浅い。まず言っとくのはこれはジャック・テイラーというちょいとふざけたオヤジの手記という形で書かれた小説だということ。なのであんまりうまく進まない捜査のこととかは一行ぐらいで流して、そんなことよりも町で出会った面白い酔っ払いや読んだ本の感想の方などのことの方を書いてあるということ。という言い方が気に入らんならそういうスタイル。そして事件解決について言えば、このシリーズは基本的にはジャックさんが事件を解決しない、もしくはできないという形のシリーズなのである。それはどういうことか?おおよそ何らかの犯罪が行われ、何かが隠されていたり誤魔化されていたりというのは、物事の普通のあり方を強引に捻じ曲げている状態である。そしてそれは不自然な状態ゆえいつかはその自重により崩壊または破裂に至り、多くの場合は大変悲惨な結末となって現れる。ジャック・テイラー・シリーズというのはそのような形で事件が「解決」される「ミステリ」なのである。そしてそうやって事件を請け負うことにより彼自身が触媒となり、加速される形でカタストロフィを迎え、ジャックさんも深いダメージを負う。大変愉快なジャックさんの語りにより、ちょっと軽めに見えてしまうのだが、実はめちゃめちゃヘビーなシリーズなのである。ちょっと考えてみると、こういうスタイルというのは、特にハードボイルド・ジャンルでは、昔から時折見られたものとも思える。しかし、ジャック・テイラーという限りなく事件解決能力の低い探偵(事件を二つ抱えると一個忘れるレベル)を配し、その方向をより強めたシリーズとして創り上げたのがケン・ブルーウンという偉才なのだ。
さしあたってはジャックさんのことを「アル中」と紹介したが、とりあえず自分の読んだところでは3作目までで、続く4、5作では酒を断っている。まあ意識を失って、次に気付くと精神科の施設に収容されているなどというのが度々続くのだからやむを得ないところで、またその先にはかなり深刻なことも起こっていたりもする。ちょっとここで「アル中探偵」というのについて書いておこうと思うのだが、まあ、日本で一番名前の知られているアル中探偵と言えば、ローレンス・ブロック、マット・スカダーだろう。で、このマット・スカダー、ある意味品行方正とも言える酒しか飲まないアル中。だが、このジャックテイラーさんや、クラムリーのミロなどはドラッグも平気でやる本当のルーザーのアル中。で、日本で人気のあるのはやっぱりこの品行方正の方のアル中マット・スカダーで、ヤバい方のアル中にはちょっと距離を置かれてるって感じが強い。決してドラッグなどの使用を奨励も是認するつもりも一切ないが、日本の酒に関するモラル、酒ならいくら飲んでもOK、大酒飲みは格好いい的な考えが反映されてる感じであんまり好きじゃない。そんなところと、いつまで同じこと言ってんだよ、って気分が合わさって、「マット・スカダーはアル中の方が良かった」ってのを聞くと少しイラッとするのですよね。
うーむ、まだ最初のところなのだけど、既に結構長くなっていて先が思いやられる。例によって無計画のまま、とりあえずの勢いで書いとるのだが、どこかで少し考えなければならなくなるところでしょう。まあ、そん時でいいや。日本ではたった2作で翻訳の止まってしまっているジャック・テイラー・シリーズですが、その後もシリーズは続き、昨年11月、第14作が刊行されています。当方でも何とか第5作までは読んでおり、感想は下のリンクから。あと、ブルーウンにはジャック・テイラー・シリーズより前に、第4作『Blitz』がジェイソン・ステイサム主演で映画化、日本でも公開されたにもかかわらずどこからも翻訳出版のなかったロンドンのぶっ壊れた87分署、トム・ブラント・シリーズもあり、最初にケン・ブルーウンの名を世界に知らしめたその初期3作による『White Trilogy』ぐらいは早く読まねば、と取り組んでいるのですが、まだ第1作でストップしているところ。何とか今年の早い時期に2、3作を続けて読もうと思っております。


■リード・ファレル・コールマン/完全なる四角

ニューヨーク、ブルックリンの探偵モー・プレガー・シリーズ第1作。えーと、これなんだけど、かなり印象を受けた作品だったのは漠然と憶えてるのだけど、何分読んだのがかなり前で内容をイマイチ思い出せん…。すまん。これに関しては2~3年前から読み返そうと思って常に手近なところに置いてあるのだが、いまだに果たせず。なんか始まって早々にこれで、先が思いやられるなあ…。しかし、こんなボンクラな私だが、随分と長い間アレの続き出ないのかなあ、と思いリード・ファレル・コールマンの名前を覚え続けていたことからも、たとえ内容は覚えていなくてもこれが21世紀ハードボイルド/ノワールの重要作品であることには絶対の確信がある!で、そのコールマンだが、その後も高く評価される作品を発表し続け、様々な賞の受賞歴もノミネートも数知れず、現代アメリカハードボイルドを代表する作家の一人となっている。モー・プレガー・シリーズは2014年までに9作発表されており、なんか結構色々なシリーズを書いている人なのだけど、最近の注目は2015年に始まり各賞受賞・ノミネートなど評価も高いGus Murphyシリーズ。とりあえずこれをと思ってるのだけど、色々読みたいの多すぎてなかなかたどり着けず…。まあ、それもあってプレガー後回しでいいかと思っちゃってるところもあんのだけど。あとほら、この人あれも書いてるよ、パーカーのジェッシー・ストーン、もう5冊も。パーカーのではスペンサーをエース・アトキンスとかどっちもいい作家が書いてるんだから翻訳してやればいいのにね。なんか出す前から「本家パーカーに比べれば」前提で待ち構えてるの多そうだから出しにくいのかね。まあどうでもいいけど。

ここでまた一つご注意。先に書くはずだったけど、いい加減前置き長くなりすぎたのでちょっと後回しにしててここでいまさら言うのですが、まあこういうのをやろうと思いつきあれとこれをとか頭の中で並べ始めた時点で気付いたのですが、今のコールマンほどに完全に忘れちゃってるのはこれくらいですが、結構曖昧になっちゃってるのは多いし、何よりそういやあれ結局まだ読んでないや、みたいなのもぞろぞろ出てくるわけ。うーむ、やっぱりその目的に対して不完全なものになっちまうか、と考えてしまったりもしたのだが、でもなあ、それを言ってたらいつまでたっても始めらんないでしょう。でもオイラはハードボイルド/ノワールってジャンルに対して今こういうものが必要だと思うし、それをやってくれそうな人も見当たらんのだよ。とにかくやらねばならんで作ったもので、その辺の不備については申し訳ないとしか言いようがないです。自分が絶対に推すこれが入っとらんのが気に食わんという人は、その方向で自分でベストを作ってみてください。沢山ありゃあその方がいいのだからね。
あとまあ、自分のこういう文章が気に食わんという人もいると思うけど、これが自分のキャラクターなんで。私はこれをなんかの営業活動でやってるわけでもないし、カリスマブロガーへの道目指せ月間5万PVとかいうわけでもないんで、なんか営業口調みたいなんで書くつもりもありません。別に気に入らなきゃ見なきゃいいんじゃないの、ってだけです。私もそうしとるしね。なんで無意味に尊大なアンタにへりくだらなきゃなんないんだい?
他にも、なぜ『初秋』とかを貶める必要がある!とか怒ってる人いるんじゃない?もちろん大アリだよ!日本のハードボイルドが一体何十年あそこで止まってると思ってんだい?このまま放っときゃ22世紀までホークがスーさんがをやってるぜ、奴ら!もーあんなもん徹底的にぶっ潰さなきゃ前に進まんぜ、てのが私の意見っすから。過去の作品に敬意を払え?なんかさあ、評論家やら「読書のプロ」やらのお話にうんうんと異もとなえず聞いてるうちに、すっかりオトモダチ気分、自分もそっち側に行ったつもりになって、新しい作家と見りゃあどこぞの遥かな高みからか尊大に欠点見つけて攻撃したり言いがかり付けたりの評論家気取りばっかじゃねえの。かと思えば、リー・チャイルドとかいう「新人」が出てきてパーカーからも影響受けたとか言ってるから、ハイ、じゃあパーカーの弟子ってとこから始めましょうか、とかさあ。新しい作品に敬意を払えん連中にそんなこと言われても全く聞く耳持たんわ。そんなわけでこんな奴の話は聞いとれん!と思う人はこの辺でさよならでいいんじゃないでしょうか?とっととお帰りやがれですわー。


■ロジャー・スミス全作品(2作)

南アフリカの作家ロジャー・スミスの恐るべきノワールの極北、いや極南か?という作品に衝撃を受けた人も少なくないだろう。主人公たちは絶望の暗黒の中、出口があることさえ諦め、唯一の手段「暴力」のみを頼りに這いまわる。奴を殺さなければ、明日俺は息をしていることもできない。怒りと狂気、妄執の物語の果てに、最後に差すかすかな光の中で生き残り立つ者、斃れる者の姿は常にその呼吸困難になるほどの濃密な旅を見つめ続けてきた者-読者の胸を激しく打つのである。
21世紀ハードボイルド/ノワールファン必携の名作2作『血のケープタウン』、『はいつくばって慈悲を乞え』はともにハヤカワ・ミステリ文庫より。で、その後のロジャー・スミスさんなのだが、実はこの2作で大手のパブリッシャーMacmillanとの契約が切れたようで、少し苦戦を強いられながらも作品を発表し続ける。ちょっとよくわからないのだけど、その後の7作のパブリッシャーTin Townというのはスミスさん自身の個人出版社かもしれない。しかしながらドイツ、フランスなどでの評価・人気は高く、翻訳作品も多い。そして最新作James Rayburn名義での『The Truth Itself』は出版月日を見るとフランスで先行出版されたものかもしれない。そんでいまさらながらで大変申し訳ないのだが、実は私このロジャー・スミスさんの第3作『Dust Devils』をやっと昨年になって読んでいる。内容に関しては全2作と同様の本当に素晴らしい作品なのだが、ただひたすら昨今の遅れによりいまだに書けていないだけ。いやホントロジャー・スミスさんにもスミスさんの作品に感動した皆さんにも本当に申し訳ない。絶望と暴力の荒れ狂う地での凄絶な復讐劇『Dust Devils』については近日中に必ず!色々よくわからず、かもしれないばっかになってたところもきちんと調べておくっす。あー、あと南アフリカっちゅうとデオン・マイヤー(メイヤー)な。いや、実はこれが読めてないのだわ、ずっと読もうと思ってるのだけど…。えー読めてないんで評価も未知ですが、とりあえず名前だけ挙げときます。面白そうです。すんません。


■ポール・クリーヴ全作品(2作)

ニュージーランド発ノワール。ニュージーランドに住んでいるのが赤ちゃんばかりではないと、我々に知らしめた…、いや、このネタは前にも言ったか。だが私のなぞなぞマスターの魂(ソウル)がニュージーランドという国に対して自動的に反応してしまうのだ!フフフおしりたんていくん、このなぞなぞが解けるかね?『清掃魔』は、ニュージーランド、クライストチャーチで知的障碍者を装いながら警察署の清掃員として働きつつ、その裏で夜な夜な凶行を重ねる連続快楽殺人鬼の一人称で語られる作品。そこに主人公の表の顔である「のろまのジョー」に親しみを抱く警察署営繕部で働く女性の同じく一人称が挟まれるという形。そしてこの作品、この一人称というやつが曲者。主人公ジョーは自身のことを知的障碍者を装った天才と語るが、果たしてそれは本当だろうか?唯一の肉親である母親とのやり取りに度々現れる小児的とも思える苛立ちや所々に現れるある種の思い込み、そして女性からの視点での描写に見える微妙な違和感などを見ていくと、この人物が本人が語っているほどの冷酷な計算に基づいて犯行を重ねる知能犯なのだろうか、という疑問が徐々に沸き起こってくる。それはこの男が語っていることはどこまでが事実なのだろうかという疑いにまで膨らんで行くが、我々はこの「信頼できない語り手」である狂人の目を通してのみでしか彼の物語を見ることができないのだ。と、ここまで言えば熱心なノワール・ファンならお分かりであろう。これこそがかの伝説のノワール神ジム・トンプスンの神作群に連なる21世紀ハードボイルド/ノワールである。そしてこの作品には更に、主人公ジョーのその後を描いた続編『殺人鬼ジョー』がある!…のだが、実はこれまだ読んでまへん…。またしても…。なんかせっかくいいの出ても読めないタイミングとかあるよね。時々思い出して、わー、これ読まなきゃダメじゃん!と気付いてもその時色々と早急に読むべきものが山積みだったり。で、今も、わー、これ読まなきゃダメじゃん!気分なのだが、またしても色々と山積みに…。だが今年こそはなんとしても読むぞ!絶対ナリ!
『清掃魔』は2008年に柏書房から、そして続編『殺人鬼ジョー』は2015年にハヤカワ・ミステリ文庫より翻訳出版されています。『清掃魔』はポール・クリーヴのデビュー作なのだけど、実は続編『殺人鬼ジョー』は日本での出版とちょうど同じく7年の間をあけて出版されています。クリーヴの方は別にその間断筆していたわけではなく、ほぼ年1作ペースで作品を発表し続けており、『殺人鬼ジョー』の後も含め、現在10作品が出版されています。クリーヴ作品は地元ニュージーランドの他にもアメリカからも出版されており、Kindle版では同じ作品でも価格がずいぶん違ったりするので、原書で読もうという人は注意。初期作品ではランズデール、ハップ&レナードの新作を刊行しているMulholland Books版がお手頃でおススメ。なんか見てみるとこの人も結構ドイツ語版出てるよな。うむむ、ドイツ侮り難し。


■ドゥエイン・スウィアジンスキー全作品(3作)

私が初めて天才ドゥエイン・スウィアジンスキーの作品に出会ったのは、実は彼がライターとして参加していたコミック作品だったりする。ちょっと複雑な設定のシリーズの第1回を、ともすれば文字だらけになるような説明をそれこそ骨ぐらいまでシェイプアップし、的確に配置することで見せ場に特化し、主人公である不死身の男Bloodshotを25ページで3回も惨殺した恐るべき手腕に驚愕。こいつはいったい何者なのだと調べてみたところ、なんとメインワークはクライム・ノヴェルの作家!それなら読むしかないだろうと手に取ったのがケイパー小説の大傑作『The Wheelman』だったわけである。で、読み始めるとすぐに一つの疑問が。いや、これ面白すぎる!いくら何でもこんなすごい作家がこの日本でも全くノーマークということはないだろう。と思って何度も検索してみるが全く見つからず。釈然としないまま、とにかくこのブログにドゥエイン・スウィアジンスキーという人の『The Wheelman』メチャメチャ面白いです、と書いて最後にアマゾンへのリンクを張ろうと思って検索したら、あっさりと翻訳作品が2作もあることが分かった…。いやまあそこまで書いてしまったからもう変えるのもややこしく、すんません、今見つかりました…と書いてアップした次第。その辺のことについては今もそのままなので、下の『The Wheelman』のリンクから見て笑ってやってくれればいいが、なんなのこれ?前述の通り他に行くところもなく、週に2回は本屋に寄り、ほんの3日前に見たばかりでも一応翻訳書と文庫のコーナーを見てくるぐらいのバカが、なぜこの2冊に手を触れた記憶もなかったか自体が謎である。しかし!実はこの『The Wheelman』という作品には次の作品『メアリー・ケイト』で主人公になる人物がカメオ出演しており、その関係で邦訳初作品となるそちらでは解説などでも盛大に『The Wheelman』のネタバレが書かれていたのである。つまり私はもしかするとかなりの確率を潜り抜け、奇跡的に大傑作『The Wheelman』を100%楽しめたのではないだろうか?うーん、私はこれはなにかハードボイルド神的なもののご加護ではないかと思っているのだよ。え?この長いのなんだって?いや、ちょっとした自慢。しかし、前作に次の作品の主人公がカメオ出演ってなんだよ?とお思いの方も多いと思うが、そんな遊びを平気でやってのけるのがこのドゥエイン・スウィアジンスキーという男なのだ。
スウィアジンスキーの作風と言えば、テンポが良くスピード感のある展開にユーモアをまぶし、その陰に巧みに隠されたどんでん返しを熟練のマジシャンさながらの手腕で自在に取り出して来るという、まあとにかくホントに上手いんだよ、この人。まあ現行作家では21世紀ハードボイルド/ノワールを牽引する私の最も信頼する作家がこの天才ドゥエイン・スウィアジンスキーである。しかし、日本での翻訳作品について言えば、未訳『The Wheelman』が大傑作であるのに対し、『メアリー・ケイト』は中傑作、『解雇手当』は小傑作というところか…と思っていたらなんとホントにタイムリーに『Canary』の翻訳出たじゃん!(邦題『カナリアはさえずる』扶桑社より!)遂にスウィアジンスキーの真の実力が日本に上陸!んーと、私はスウィアジンスキーがあまりに好きなので、まず原書の方を読もうと思っているので、まだこれを読むのはしばらく先になってしまうのだが、こいつは間違いなしの大傑作である。いや、ずっと早く読もうと思ってたのだよう。とにかくこれはまず読むべし!
そして更にスウィアジンスキー未訳作品には、前代未聞!こんな三部作ありか?のCharlie Hardieトリロジーもある!こいつもいつの日にか翻訳が?と期待してしまうのだが、ちょいと日本には難易度高すぎか?こいつは3作揃って始めてその真相が分かる三部作なので、きちんと全作刊行しなければ意味がない。生半可に手を出して1~2作で放り出したりしたら、後一生その出版社の頭には「バカ」をつけて呼ぶからな!とか言ってみてもどーせ日本にこれを出せるところがあるとは全く期待していないよーだ。まあこれの話をするときには毎回言ってるのだけど、成り行きとはいえちょっと最後にネタばらしをしすぎたと反省しているので、第3作については本編を読むまで絶対に読まないように!だから下のリンクも第3作のは無し。ホントに親切で言ってるんだよー。
あとアレだ。新刊の解説だけちょっと見たのだけど、Level 26については言及だけあったけど、やっぱ私が新しいの出るたんびに騒いでる世界のパタやんのBookshotについては触れられてないね。やっぱこーなるだろ。だからあんだけしつこく騒いでたのだよ。まああれは薄い本なので2冊ぐらいまとめて、そのうちやるので熱狂的なスウィアジンスキーファンの皆さんは乞うご期待。え?もしかして日本でワシだけ…じゃないよねっ!
もはや向かうところ敵なしかと思われたスウィアジンスキーだったのだが、昨年秋、なんとも痛ましい悲報が…。昨年11月、スウィアジンスキー氏の最愛のお嬢さんが闘病の末ガンで亡くなられたそうである。心痛いかばかりか。心よりお悔やみ申し上げます。当分は新作どころではないでしょう。可能ならばしばしは小説のことなど忘れてご養生ください。またいつの日にか、気持ちが落ち着かれたら素晴らしい作品をご執筆ください。私なぞはもう何年でもお待ちしておりますので。
今回は数も多いし、アマゾンへのリストは省略でいいかというところだったのだが、何しろスウィアジンスキーは綴りも長く面倒なうえ、検索するとまず大量のコミックがあふれ、なかなかたどり着くのも困難かと思われるので、私が絶賛しとる『The Wheelman』とCharlie Hardieトリロジーだけは載っけときます。いや英語でも大丈夫。Kindleなら単語にタッチすれば即座に辞書が引けるし、全部の単語引いてでも読むぐらいの意気込みと根気があって、全部日本語の文章に翻訳しようなどと無理なこと考えなければちゃんと読めるから。おいちゃんもまだ読んでないおしりたんていを全部読んだキミなら絶対に読めるでござるよ。では拙者は急ぎ続きを書かねばならぬ身ゆえ、これにて御免!





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