2015年7月28日火曜日

The Dramatist -ジャック・テイラー第4作!-

ケン・ブルーウン作、ジャック・テイラーシリーズ第4作、『The Dramatist』です。もー誰も読まなくたっていいよ!翻訳だって出ないでもいいよっ!俺がケン・ブルーウンを、ジャック・テイラーを読めればいいんだいっ!…と、今回も暴れそうな予感ですが、なるべく温厚に進めるように努めます。


最近の俺の主食は咳止めシロップとヨーグルトでさあ、とダラダラと始まるこのオッサンの出鱈目な語り口を読んでいるうちにこっちも力が抜けて幸せな気分になってくるのですよ。そんで、俺はもう6か月素面だ。酒もドラッグもやってない。酒をやめた理由については特に語られない。というか何度も死にかけて病院で目覚めるみたいなの繰り返してるわけだから。で、ドラッグを止めてるのは馴染のディーラー、スチュアートが逮捕されてしまったから。スチュアートは前作『Magdalen Martyrs』でキャシーに紹介されたディーラーで、見かけは銀行員、扱っているドラッグの効能と副作用をきちんと説明するという変わったドラッグ・ディーラー。で、命を縮める3つの悪習慣のうち、酒とドラッグはやめてるんだけど煙草だけは吸ってる。でもさあシルクカットが健康への影響が少ないみたいな言い方って煙草会社の詐欺だよなあ。なんて話があっちこっちにフラフラと飛んでいるうちに、いつの間にかいつものジェフの店でコーヒーを飲みながら話している。一人になってしまったけど用心棒もお馴染みの定位置に。そして、店を出て、酔っ払いや昔の知り合いと話したりしながらねぐらのベイリーズ・ホテルに帰ってくると、電話がかかってくる。キャシー。

 「スチュアートがあんたに来てほしいと言ってる。」
 「誰だって?」
 「あんたのドラッグ・ディーラーだよ。」

こうして話は始まる。

キャシーには借りも多い。渋々スチュアートの収監されている刑務所のあるダブリンへ向かうジャック。ちょっとした列車旅行。面会所であったスチュアートはジャックに語る。

「逮捕される2週間前に俺の妹が死んだ。友達二人と一緒に借りていたニューキャッスル・パーク近くの家の階段から落ちて首を折った。美術系の学校に通う真面な子だったんだ。警察の捜査では事故で片付けられた。だが、それは違う。倒れていた彼女の身体の下にジョン・ミリントン・シングの本があった。だが彼女はそんな勉強はしていない。そんな本を持っている理由が無い。彼女を殺した奴を見つけてくれ、ジャック。」

ジョン・ミリントン・シングはアイルランドの劇作家・詩人・小説家・フォークロリストということ。この人に関する知識は全くありませんでした。「アイルランドを理想化する傾向が盛んであった文学運動のなかで、強い風刺の精神を貫き、通俗性と芸術性を兼ね備えた独自の文体で、典型的なアングロ・アイリッシュ文学を生み出した功績は大きい。」(ウィキペディアより引用)とのことです。作中、ジャックもシングについてはよく知らないということで、評伝を読んでみたりもします。このシリーズの通例として章の間に様々な作品からの引用があり、今回はその中にシングの『アラン島』からのものもありました。断片から感じられた印象は、何か決定された死や終末に向かう荒涼とした感じ。ブルーウンが作品に象徴・反映させたかった部分なのだろうけどそこがうまくつかめたかは今一つ自信が無かったり。あくまでも短い引用からの印象なのでそれが作風なのかはわからないし、ざっと調べてもちょっと違う気もするが…。本来ならそのくらい翻訳もあるのだから読んでから書くべきなのだろうと思うけど、それができてないのは手抜きと言われても仕方ないです。すみません。まあいついかなる時でも「時間が無い」とかいうのは言い訳にしかならないのだけど、やっぱり自分にとっては切実なのでそう言い訳してしまいます。

これまでの色々な事件にかかわった結果の悲惨さから気乗りしないジャックだったが、渋々引き受け捜査を始める。前作から登場のブレンダンの姪である警官のリッジに頼み手に入れてもらったシングの本には太く大きな文字で「The Dramatist」と記されていた。

そして、第2の事件が起こる。

次の事件はジャックのすぐ近所で、暴行未遂に遭った少女が階段から転落死する。同じ階段からの転落死という状況に引っかかり調べてみると、まさしく死亡した少女の身体の下にはシングの本があった。再びリッジから本を入手し、開いてみるとそこには「The Dramatist」の文字が…。

今回は「ちゃんとしたミステリっぽい話」なんじゃないの、と思った人もいるのでは?まあ、今回のタイトルにもなっているものではありますが、これのミステリ部分は大して重要ではありません。推理による犯人の絞り込みなんて言うのもほとんどありませんし。ただ現実はこんなものなのではないでしょうか。二つの事件の共通点であるシングの本を連続殺人の証拠とみるのは、それを根拠にスチュアートから依頼されたジャックだけ。現場の状況から事故と暴行未遂による過失致死と断定され、おそらくは別の所轄の別の部署の担当の事件がそれによって組み合わされ再捜査されるなんてことは現実の世界ではほとんどありえないでしょう。ジャックがリッジに言ってみてもそんなのは低確率のたまたまの偶然だと言い返されるだけ。だから証拠物件である本も簡単にジャックの手に入るわけです。これはアイルランドの警察が駄目とかいうことではなくて、日本だってフィクション以外ではそんなものなのではないのでしょうか。まあ個人的にはトリック何点プロット何点の「ミステリファン」への悪意と解釈して楽しませてもらいました。ブルーウン本人がそこまで性格悪いとは思わないけど。通ぶって辛口感想を並べてみるけど結局は空気を読むのに敏感で大勢に準ずるを由とする「ミステリファン」の皆さんはどうぞとっとと★1でもつけちゃってくださいというところです。

私なりに読んだ今作のテーマは、いわゆるヴィジランテ行為であったり、そういう形で様々な人間が自らの手を積極的にある種のルールの外に出さざるを得なくなる世界ということではないかと思います。
第2の事件の後、ジャックはジェフから相談を持ちかけられる。ジェフの友人が事件の容疑者と目され拘留されていること。そして、更にジェフが心配するのは18世紀の反逆者による秘密結社パイクメンを名乗る街の自警集団がその友人を狙っているらしいこと。自分自身の情報から他に犯人のいることを確信するジャックが状況を甘く見ているうちに惨事は起こる。そしてパイクメンはジャックにも接近してくる…。

邦訳2作だけでも読んだ人はご存知でしょうが、ジャック・テイラーは法によって裁きを受けさせることができない状況で自らの手や、時には人に依頼して決着をつける人物です。同様の決着のつけ方をとるキャラクターといえばマット・スカダーを誰もが挙げるでしょう。しかし、スカダーとジャック・テイラーのスタンスはちょっと違うように思います。マット・スカダーは事件の最終決着を見てその手段を決意し、ある一線を越えて実行します。一方ジャック・テイラーは自分の責任によりその事態になってしまったことを後悔しますが、その行為自体にはあまりためらいもなく、そのことが深く心にのしかかることもあまりありません。また、場合によっては個人的報復という理由で暴力行為に及ぶときもあります。今作中でのある人物の死について周囲は彼の仕業であると見做しますが、警察に逮捕される、という場合を除いてはあえて自分の無実を証明しようとも動きません。つまりジャックはスカダーの越える線の向こう側に属する人間なのです。ただし、それは別にどちらが優れているとか正しいとかいう意味ではありません。スカダー作品は線のこちら側にいるからこそ描ける優れた作品であり、ジャック・テイラー・シリーズはそのような主人公だからこその魅力を持った作品なのです。また時代はそちらに動いているのだ、などと大仰な「俺ハードボイルド理論」を打ち立てるつもりも毛頭ありません。今はこういう時代なのでこういう探偵像が必要とされるのであるとかゆーのホントにうざいわ。
ジャック・テイラーは自らの手が汚れていることを知り、それを受け入れている人物です。そして、自分のような人間が手を汚さなければならないと思う彼は、今作中そうすべきでない人間が自ら行動してしまうのを見て、深く心を痛めるのです。そして彼はまた、安直な断定による自警団の行為と自分の行為にそれほど正当な線引きもできないことも知っています。

まともな読解力を持った人なら大抵はこのジャック・テイラー・シリーズをちょっとふざけたルーザーのアル中探偵の話として読み終えた後、何かしらの違和感が残ったものと思います。それは多分上に書いたような背景を持つジャック・テイラーという人が本当は私たちと異質な倫理観をどこかに持っているからではないかと思います。それは善だとか悪だとかともまた別のもののように思います。その辺が前作の感想の時にしつこく言ってた、これはジャック・テイラーという人が書いた手記だから、ということなのですが前回も今回も上手く説明できてたか自信はありません。まあ、次のでまた頑張ろう。ジャック・テイラーの自虐的でもあるユーモアを含んだポンコツオヤジの語りは、現代の汚れた街をゆく汚れた騎士なりの矜恃なのかもしれません。

そして、今作では最後、唐突にあまりにも衝撃的なことが起こります。なんだか翻訳家の人が時々やるのの真似みたいになってしまうのだけど、その章の最後のあまりにも美しく見える一文に何かの救いや逃げ道がないのかとしばらく見つめてしまうほどでした。
自らが罪を持った人間であることを受け入れて生きるジャックにもそれは支えきれず、最後には再びアル中に戻ることが暗示されて終わります。
今作では全編を通して素面だったジャック・テイラーは次作ではまたアル中に戻って登場するのでしょう。でも、「やっぱりジャック・テイラーはアル中なのがいいネ」とか軽く言うやつがいたら誰だろうと俺が手近にある一番硬くて重い物でゼッタイぶん殴るからなっ!

前作でも今作でも実は少しというか大きくキャラクターの移り変わりがあるのですが、それを書いてしまうとかなりある種のネタバレ的になってしまう気がして避けています。でも次辺りでは書かなきゃならないことも出てきてしまうかも。
あと、このシリーズに関しては翻訳の人などが文法を無視した特異な文体とか書いてて難しいのではと思っている人もいるのではないかと思いますが、それはちゃんと訳すとかいうと難しいのかもしれないけど、私レベルの文法なんてよく知らんし拾った単語つなげれば意味わかるじゃん、ぐらいでもちゃんと読めます。むしろその方がいいのかも。アイルランド語とかも出てくるけど必要なのは説明してあるし、それ以外はこいつアイルランド語で話しとるという擬音ぐらいに見て問題はありません。最初に誰も読まんでいいとか書いちゃったけど、やっぱり心あるハードボイルドファンの人には一人でも多く読んでもらいたい素晴らしい作品です。

というわけで、ケン・ブルーウン作、ジャック・テイラー・シリーズ第4作『The Dramatist』でした。多少は暴言も滲み出たけど、今回は割とお行儀よく書けた…のでは…ないか…えーと、まあ色々すみません…。私はあまりにも深くこのシリーズを、作者を愛しているのです。あれとかこれとか読まなきゃとか読みたいとかあるけど次もなるべく早く読もうっと。
最後に今作の架空邦題ですが、『酔いどれ、酒を断つ』は断固却下!『劇作家』は誰かの何か作品みたいなので(具体的には別に何も浮かんでないのだけど)、『ドラマチスト』でどうかと。『ティ』じゃなくて『チ』。


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