2015年7月6日月曜日

Manhattan Projects [前編] -Jonathan Hickmanの怪作!とりあえずSF者は必読!-

現在『Avengers』などでマーベル・コミックの中心的存在のライター、ジョナサン・ヒックマンのImage Comicsからの作品です。有名な科学者、政治家などが数多く登場する歴史改変SF、とかいうのが分かりやすいジャンルかもしれませんが、個人的ジャンルとしてはとりあえず怪作!世間的に言って「怪作」というのがどういう評価に当たるのかはそれぞれでしょうが、私のような変人にとっては最大級の賛辞です。大体怪作などというのは何かのまぐれ当たりか本物の天才にしか作れるものではない。そしてこのヒックマン氏は紛れもなく後者です。

と、また威勢よく始めてしまったのですが、その前に色々と問題のありそうな点について、先に少し整理しておこうと思います。マンハッタン計画と言えば、ご存知の通り、第2次大戦中のアメリカ・イギリス・カナダによる原子爆弾開発計画の事であり、この作品はまさにそのプロジェクトから始まる物語です。しかし、この作品の主旨はその核兵器の恐怖、そしてそれが開発・製造されたことへの批判、というものとは別のところにあり、またそれがが使用されたことの正当化などというものではありません。この作品の主旨は、そのような特殊な状況下により世界最高の頭脳が一堂に集められたということにあり、そしてそれが架空の世界でいかに発展・暴走して行ったか、というのがこの『Manhattan Projects』のストーリーなのです。
などと言っても原爆投下というのは世界の歴史上でも有数の残虐行為であり、これはフィクションで架空の話だからそれはそれとして、などという軽い言い方で許されるものでもないと思います。しかし、上記のこの物語上の主旨となる設定というのは、一つの優れたストーリーを作り上げるチャンスであり、この作者ジョナサン・ヒックマンはそれを最大限に活用し、奇想天外な無視するにはあまりにも惜しい優れたストーリーを作り上げているのです。そして少なくとも私の見るところでは、この作者の核に対する考え方もいい加減なものとは思いません。この作品では原爆投下はまだストーリーが始まって間もない第3話で行われます。ルーズベルト大統領が死去し、トルーマン大統領が変わる空隙に、マンハッタン計画の責任者であるレズリー・グローヴス准将のほぼ独断により実行されるという形になっています。この作品上では少年時代からある種宗教的な偏った正義感を信奉するグローヴスが、トルーマンの制止をも無視し、作戦の遂行を命令します。そんなものは悪いに決まっていてそのような狂った思想の持ち主でなければできないことだろう、というのが作者の考えだと思うのですが、どうでしょうか。この「マンハッタン計画」では原子爆弾開発についてはそこで終わり、科学者たちは新たな計画に向かって進み始め、そこからこの物語のストーリーは始まります。
などと長々と説明を試みてきましたが、やはり納得いけない人には納得できないものなのでしょう。そして私はそのような考えを偏狭だとは思いません。人にはそれぞれ考え方、立場があり、大切にしているものがあるのですから。とりあえずはこいつの意見も聞いてみようか、と読んでいただけただけでも感謝します。なんとかこのような自分の拙い説明でこの作品が間違った先入観を持たれないようにと祈るばかりです。この後もお付き合いいただける人にはまた、要領を得ない長い前置きになってしまいましたが、それでは『Manhattan Projects』の始まりです!


Manhattan Projects 第1話
1942年米陸軍准将レズリー・グローヴスはロバート・オッペンハイマー博士と陸軍省にて会合を持つ。進行中のマンハッタン計画へ博士を責任者として迎え入れるためである。博士の計画への参加の意志は固い。グローヴスは博士の身辺で直近に起こった気懸かりな事態について遠回しに口にする。
 「最近の弟さんの身に起こった件については大変お気の毒に思っているのだが…。」
オッペンハイマーはきっぱりと言い放つ。
 「私は弟とは違います。」

  ロバート・オッペンハイマーは1904年4月23日に生を受ける。
  そしてその6分後、双子の弟であるジョセフ・オッペンハイマーが生を受ける。


グローヴスは早速博士を陸軍省内にある秘密研究所へと案内する。そこでは原子爆弾のみならず、異次元、AIなどの研究も進められていた。研究所内の一室では一人の男が閉じこもり、何かの構造物の前で考え込んでいる。あれはアインシュタイン博士のようだが…。

その時、研究所内に警報が鳴り響く。日本帝国軍の攻撃だ!

  双子のオッペンハイマー兄弟はともに天才だった。
  しかし、成長するにつれそれぞれの興味の方向は別れて行く。
  ロバートがまず興味を持ったのは鉱物学だった。
  そして彼はその知識の対象を広げつつハーバードに進み、
  やがて化学・物理学の道を歩んで行く。
  一方ジョセフの興味の対象となったのは生物学だった。
  兄と同じく飽くことのない知識への欲求に突き動かされ、
  彼は生物の構造を知るため解剖実験を重ねて行く。
  だが、その研究は陰惨な結末を迎える。
  ジョセフは15人に及ぶ殺人の罪で逮捕され、
  精神病犯罪者施設に拘禁されることとなる。
  逮捕の際、ジョセフは謎の言葉を呟く。
  「私は世界の半分の暗黒側だ。」


迎撃準備を急ぐ陸軍省の上空に日本帝国軍の日の丸砲弾が飛来する。研究所の階層を突き抜けた砲弾の着弾点に赤い鳥居が立ち上がる。
 「あれは死の僧侶の禅パワーによって操作される赤鳥居!」
鳥居の中央からは本田宗一郎の設計による戦国武者を模したカミカゼ・キリング・マシンが溢れ出して来る。たちまち陰惨な戦場と化す研究所。オッペンハイマーも機関銃を操作し、敵に撃ちこんで行く。

この攻撃を予測し、あらかじめ対策を考えていたグローヴスの勝利だった。用意していた米側の強力なテレパスがゲートの閉鎖を阻止し、こちら側から送り込んだ兵士により死の僧侶を捕獲し、赤鳥居そのものを奪取したのだった。
混沌を極めた戦場跡で、まだ動き続けるロボットを踏みにじるオッペンハイマー。
 「それはもう死んでいますよ。」
 「始めから生きていなかったものに死はない!」
そんなオッペンハイマーの様子を見てグローヴスは微笑みを浮かべる。
 「我々は今後良い関係が築けて行けそうですな。」

  研究は成功を修めロバートは新たな発見を遂げる。
  マンハッタン計画からの招聘を受け最良の日を迎えるロバート。
  だが、悲報はその直後に届く。
  施設を脱走したジョセフ。
  盗難車で逃走中、橋から転落し、その死体が見つかる見込みは薄い…。
  一転して悲嘆にくれるロバート。

  だが、ドアを開けた時そこに立っていたのはジョセフだった。
  生きていたのか…。
  そしてジョセフはロバートの胸にナイフを突き立てる。

  薄れゆく意識の中、ロバートはジョセフのささやきを聞く。
  「世界を一つにするのだ。」

  そしてジョセフは兄を完全に自らに取り込む。
  肉体を。
  そして魂を。
  彼は兄を愛している。
  それができない理由はない。

  そして、双子の光と闇との戦争が勃発する。
  その闘争の中、オッペンハイマーは無限に砕け、分裂して行く…。


「私は弟とは違います。」

  そう、彼はもはやそれ以上の者だ。
  ようこそ、ワールドブレーカー。
  ようこそ、トリックスター。
  ようこそ、虚言者。
  ようこそ、破壊者。


「ようこそ、オッペンハイマー博士。」

  ようこそ、マンハッタン計画へ!


第1話からこの展開!これがジョナサン・ヒックマンの『Manhattan Projects』です。たぶん上記の世界最高の頭脳を一堂に集めた、というところからの着想という見方は間違ってないと思うのですが、それがこの天才の頭からアウトプットされてくるとこんな形になるとは。さてこの物語、これからどんな展開になって行くのか!?

第2話ではドイツの科学者で、のちにアメリカの宇宙開発に深く関わってくるヴェルナー・フォン・ブラウンが恐るべきロボット義手を装着した姿で、同僚ドイツ人科学者をすべて毒殺し、ナチスの科学成果を独り占めにした形で連合軍に投降し、マンハッタン計画に参加してきます。
そして第3話で原爆投下。ちょっとくどいようですが付け加えると、この『Manhattan Projects』はこの後から始めてもよかったわけなのですよね。やはりアメリカにおいてもいくらか物議を醸す可能性もあるだろうこの事を曖昧に避けたりせず、きちんと書いてから始めたところに作者の誠実さが見られると思うのですが。そのあまりのぶっ飛んだ発想などから見えにくかったりもするのですが、このジョナサン・ヒックマンという人物、知性も常識もある、誠実な作家だと私は思います。

そして、その先に続く話。アインシュタインが研究所内で取り組んでいた装置は空間のみならず、別次元への移動をも可能にする扉だった。夢でそれを見た天才アインシュタインは、その装置を組み上げ作動させることに成功する。しかし、このアインシュタイン博士も我々の知っているその人ではありません。
地球人類はすでに異星人との遭遇を果たしていた。オッペンハイマーはニューメキシコ州ロズウェルで行われる毎年の異星人との会合にグローヴスとともに向かう。だがそこに現れたのはグレイではなく彼らを征服した敵意を持った異星人だった。返り討ちにした異星人の死体を摂取して得たオッペンハイマーの情報を基に、マンハッタン計画メンバーはアインシュタインの異次元ゲートを使った秘密作戦を考案する。

登場する他のキャラクターとしては、死の直前すべての記憶をダウンロードし、AIとして蘇るルーズベルト。後に量子電磁力学の発展に貢献する若き日のリチャード・ファインマンは異次元ゲート以降アインシュタインとともに研究を続けます。マンハッタン計画中の事故で大量の放射能にさらされ、放射能人間となったハリー・ダフリアンと、その親友でノーベル賞受賞者で巨大なモンスターに変身できるエンリコ・フェルミなど。

そして続く2巻では宇宙からの脅威を知った科学者たちによるソ連の科学者たちと秘密裏に手を結ぼうという動きに、それを許さないトルーマンら旧支配勢力が襲い掛かります。

この作品のテーマはそのバックカバーに常に明確に大きい文字で記されています。

 SCIENCE.
 BAD.

BAD SCIENCEでも、ましてやSCIENS is BADなどというものでもありません。科学。そして、悪。この作品に登場する科学者は基本、すべて悪人です。その目的がいかに崇高なものに見えても、彼らに善の心はありません。しかし彼らがいかに悪人でもその目標とする到達点は崇高なものでもあるわけなのですよね。さて、この正真正銘の奇想による怪作『Manhattan Projects』、今後いかなる驚愕の展開を見せてくれるのでしょうか。

…というところで[前編]が終わってしまうのですが、次回[後編]ではなくまたしばらく先の話しとなってしまいます。すみません。実はこの『Manhattan Projects』、TPB2巻が出たころに読み始めていたのですが、まず1巻を読んでこれはスゴイ!コレ絶対読まなきゃ!とただちに2巻も購入したものの、そこで自分内備え付けのお馴染み貧乏性動力によるサーモスタットが稼働してしまい、3巻が出るまでしばらくかかるからすぐに続きが読めない…と一時的に冷却されストックされているうちにまたいろいろと目移りしてしまい…という事態になっていたのでした。現在アメリカン・コミックの中心にいて次々と話題作を発表しているヒックマンですから、常に目には入っていたものの一旦ストップするとなかなか再スタートができなくなっていたのですが、最近この『Manhattan Projects』が完結し、新章スタートのニュースを聞き、これはいかん、と2巻を遅ればせながら手に取った次第。まあ、当然ながら読んでみればこれはスゴイ!コレ絶対書かなきゃ!と、とりあえずの[前編]となったわけなのでした。
前述の通り、この『Manhattan Projects』は昨年11月に全25号TPB5巻で完結し、本年3月より『The Manhattan Projects : The Sun Beyoud the Stars』が開始されております。現在は私も全5巻まできちんと入手し、モタモタと続きを読んではうひゃーとひっくり返っているところですが、今度は中断などなく、なるべく早い機会に[後編]を掲載できるように頑張ります。

さて今回はタイトルにも謳った通りSF者必読の作品です。これを読んで絶対に読まなきゃ!と思わなかったらSF者じゃない!…というか私の力不足ですね、すみません。アメコミファンならいざ知らず、日本にも多く存在するSF者の皆さんにはこの作品の存在すら広まっていないのではないかと思い今回は強調してみました。しかしSF者なんてここに来たことある人いるのだろうか?何かの誘引物質を察知・追跡し、ここにたどり着いてくれるSF者が一人でも多く存在することを期待します。あっ、せっかく来たならSFで、このブログを始めたころに書いたAl Ewingの『Tomes of the Dead : I, Zombie』というのが個人的に激しくおススメですので、ついでにちょっとのぞいてみてってくださいね。

ちょっと先回りしすぎた余計な心配かもしれませんが、この作品がなるべく多くの人に読まれる事を望むばかりの私ですが、読む人が増えると一方で近年特によく見かける気がする安直な「笑った」感想が乱発されるのではないかと少し気懸かりです。この作品には確かに「笑える」ところがたくさんあります。ランニング姿で身体に弾帯を巻き付け腰だめでマシンガンを撃つアインシュタインなんて明らかに「笑わせて」いるものもあります。ただ「笑った」部分をピックアップしているのではなく、そういう書き方をすることによって作品をもう一層高いところから俯瞰しているように考える人もいるでしょう。人にはそれぞれ意見や考え方はあるでしょうが、この作品のように少し微妙な問題も含んでいる作品になると、ただ「○○に笑った」などという形で投げ出された感想が余計な誤解のもととなり作品の価値を偏向させることにもなりかねないと思います。読んでとにかく何か言いたいのだけど適当な語句が浮かばない、というケースもあるでしょう。でもくれぐれも安直な「笑った」感想を投げるのだけはやめてもらいたいと願います。

最後に、とりあえず[後編]の予定もありますので作者については少しだけ。ジョナサン・ヒックマンは2007年に作画も自ら担当した『The Nightly News』でImage Comicsからデビュー。タイポグラフィーなども駆使した作品で、色々書きたいところもあるのですが、今回は余力が無いので[後編]か、また別の機会に。この作品の中でも多用されているサークルとラインの組み合わせを中心としたデザインはその後のImage Comicsからのブックデザインなどでも一貫して使われていて、他の作家のコミックのカバーをデザインしたということもウィキペディアにも書かれていたのでデザイナー出身なのだろうかと思ったのですが、その辺についての資料はまだ見つけられませんでした。[後編]までにもう少し調べてみます。『Avengers』における同心円状の編成図も直接本人の手によるものではなくても明らかにコンセプトはこの人のものです。その後はライターとしてImage Comicsでミニシリーズ規模のSF作品などを継続的に刊行しつつ、マーベルでもライターとしての仕事が始まります。2009年からの『Fantastic Four』と2011年からのそれと表裏の関係で対をなす(という解釈でいいのかな?)『FF』が代表的なところでしょう。2012年からはこの『Manhattan Projects』が開始。同2012年からの『Avengers』、2013年からの『New Avengers』の両作品は次のリランチに向けて今年4月に終了し、次の動向が注目されるところ。またそれらの作品と並行し、Image Comicsでは2013年から異色ウェスタン『East of West』が進行中。例によって必ず読むと決めてる作品なので内容については一切調べていないのですが、彼の作品ゆえ「異色」であることは間違いないと思います。また今年になってからは同Imageから『The Dying and the Dead』という新シリーズも始まり、また個人的に注目度大のAvatar Pressからの『God is Dead』(最初の6号のみ)という作品もありと、とても目が離せない、というかこんなに目を離していて大変申し訳なかったとしか言いようのない、現在要注目度最大級のライターです。
作画のNick Pitarraはヒックマンとは以前『Red Wing』(Image)という作品を共作していて、ユーモアとグロテスクのボーダーラインを巧みに操る魅力的なアーティストです。まさしくこの奇想を表現するのに最適の画です。
カラーリストはCris Peterで、もちろん作業はこの人なのでしょうが、この作品の独特のコンセプチュアルなカラーリングがこの人個人のセンスなのか、Pitarraによるものなのか、更には前述の通りデザイナーとしての能力も高いヒックマンの考えによるものなのかについてはちょっとまだわかりません。[後編]までにはその辺りももう少し調査してみるつもりです。


そして最後にもうひとネタ。『Manhattan Projects』のTPBには最後に本人による自己紹介が掲載されていて、その中にこんな一文が。

彼の双子の兄弟、マークは2012年のオリンピックでフェンシングで金メダルを受賞した。

果たしてこのヒックマンとは何者なのか?まあ一筋縄ではいかない人物であるのは確かですね。


Jonathan Hickman
■Image Comics
●Manhattan Projects


●East of West


●Image Comicsその他


■Marvel
●Fantastic Four


●FF


●Avengers


●New Avengers


■Avatar Press


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