2015年7月12日日曜日

A Man Alone -ADR Books第2弾!-

特別枠!…を空けるのに一体何か月かかっているのか…。昨年末なんとか追っかけて行きたいとか言ってたAll Due Respect Booksの第2弾がやっと登場です!イギリスの新鋭作家David Siddallによる男の孤独な闘いを描く、約100ページの中編ノワール作品、『A Man Alone』です。


John Doyleは深夜、誰かの微かに聞こえる泣き声で目覚める。ウォッカで酔いつぶれていた妻は朝まで目覚めることはないだろう。では彼女の連れ子のティーエージャーのAprilか?

娘の部屋に様子を見に訪れた彼は、彼女の顔に殴られた痣を見つける。Burnsie。Aprilの付き合っているチンピラの仕業か…。

翌朝、Doyleは角の店に新聞を買いに出る。いつものようにチンピラがたむろしている。Burnsie。
「Aprilに手を出すな。」
首根っこを掴まれてもヘラヘラと笑いを浮かべるチンピラの顔面に一発叩き込む。

家に戻ると黒いSUVから一人の男が現れる。ガタイのいい暴力慣れした男。Barry Wood。町の顔役。

だが、こういう男の扱い方は分かっている。

Doyleはかつて戦場と化したアイルランドで、人には語れない任務についていた。そしてその仕事が終わったとき、彼は誰も自分を知らない地に去った。そしてこの地で一人の女性と恋に落ち、結婚。そして平和に暮らしてきた。…今日までは。

だがBarry Woodは街の顔役だ。今までその力による恐怖でその地位を築いてきた。一歩も退くことはできない。そして、この町は彼の町だ。町で会う人間は誰もがDoyleから顔をそむける。そして地元で暮らしてきた妻も、娘も、あたかも彼が原因で引き起こされた争いであるかのようにDoyleを責める。

これは何のための戦いなのか?誰を守るための戦いなのか?

お前はよそ者だ。この町では誰も味方のいない、たった一人ぼっちの男なんだよ。


「男の孤独な闘い」とか言ってみたけれど、何となくノスタルジックに浮かぶような美しさは微塵もありません。暴力による解決は暴力の連鎖を呼び、あらかじめ見えている陰惨な落としどころを回避する事は敵わない。暴力によって何も解決しないのは自明の事。しかし、暴力以外の解決策は見いだせない。暴力によって暴力の説得を試み、暴力によって暴力の制圧を図り、最終的には暴力による暴力の破壊以外の道を見いだせなくなる。このテーマの作品としては、私が近年読んだ中では常に瀬戸際で軋むように吐き捨てられる主人公の内面の叫びが一人称で疾走する傑作、Anthony Neil Smithの『Yellow Medicine』が秀逸でした。この作品も中編ながらその過程がきちんと書き込まれたなかなかに読ませる力作でした。
イギリスの作家ということでもちろん舞台はイギリス、リバプールの近郊のようですが、最初作者の情報なしで読み始めたのでしばらくは気付かず、アメリカの田舎町か郊外の話かと思って読んでいました。もしかしたら辞書で引いても出ないことも多い地名を読み飛ばしていたかも。もっとイギリスに詳しい人が読んだらどこが舞台であるとかはっきり分かるのかもしれませんね。
まあ言ってしまえば『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(John Wagner原作!)系の作品ですが、そうやってあらかじめ分類してしまうと何となくそこに当てはめたりすることで停まってしまいがちになるもの。自分としてはもう少し色々な局面も読めるようにしたいなといつも思うのです。とか考えていたのによく見たらこの本カバーにHistory of Violenceとか書いてあるじゃん!

というわけで、All Due respect Books第2弾『A Man Alone』でしたが、えー、この作品確かにADR Books第2弾であることは間違いないのですが、本年1月より開設したAll Due Respectの新サイトではこの作品はカタログ上に記載されていません。旧サイト(昔のウェブジン時代の作品も読めます)にはかろうじてカタログには載っているのですが、特に他の記事などもありません。以前からAll Due Respectの動向については比較的頻繁にチェックしていた私も、昨年末第1弾『you don't exist』について書いたときにやっとこの作品の存在に気付いたという感じでした。まあ推測されるのは出版後まもなくに何かもめて関係が悪化したというところでしょうが。私は内幕的なもめごとには果てしなく興味が無いので特にそれ以上の詮索をするつもりもありません。しかしそういう状況故現時点ではまだ販売中ですが、何かのタイミングで中止・カタログからの完全抹消という事態も考えられますので、気になった人はお早めに。まあ$0.99ですから。

作者David Siddallについては特に本人のサイトなども見つからず、あまり情報が無いのですが、ホラー、ファンタジー系のアンソロジーにいくつかの作品を発表し始めているイギリスの新進作家のようです。とりあえずまとまった1冊の本となるのはこれが最初となるようです。ADRとの間の事情は分かりませんが、その後少しこのジャンルへの進出が止まっている感じなのは気懸かりなところ。この作品もなかなかに完成度も高い力作ですし、あのケン・ブルーウンのレビューももらっているのだから、ぜひともこのジャンルでも頑張ってもらいたいものだと思います。

All Due Respectについては、本体アンソロジー『All Due Respect』もIssue 6まで発行され、ADR Booksの方も少し勢いが止まったかと思いきや、この4月、5月、6月は連続のリリースを果たしております。このジャンルのパブリッシャーとしては後発ですが、それほど数としては多くはないにしても英米では固定したファンを獲得し、定着しつつあるインディペンデント系e-Bookノワールのジャンルで、今最も勢いがあり、また新たな方向を模索しつつあるAll Due Respect。なかなか早くたくさんの本を読めないのは悩みの種ですが、なんとか常に特別枠を設けているつもりで、追いつくのは無理としても一つでも多く読んで追って行きたいものだと思っています。


All Due Respect

All Due Respect(旧)


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