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2025年6月3日火曜日

Anthony Neil Smith / Slower Bear -Slow Bearシリーズ第2作!-

今回はAnthony Neil Smithの『Slower Bear』。英国Fahrenheit 13より2022年に発行されたSlow Bearシリーズの第2作です。
第1作『Slow Bear』については、昨年10月に紹介しており、そこから優先度を上げて早く読んだつもりだったのだが、結局半年以上か…。とにかく作品紹介に注力し、なるべく多くの作品を紹介して行きたいという考えの中で、 自分にとってこだわりが強く、またオレがやんなきゃ誰がSmith先生を日本に伝えるんだいという意志の元、Anthony Neil Smith作品を数多く取り上げて行かねばという思いでまず取り掛かったSlow Bearシリーズなんだが、 やっぱオレなんてこんなものか…、とへこむばかりの日々。
まあへこんでいても何も進まん、とにかく動かなければも痛いほどわかっておる身ゆえ、ごちゃごちゃ言ってないでとにかく頑張らねば、というところの『Slower Bear』です。

さて第2作について紹介する前に、まず前回の紹介で途中で終わってる『Slow Bear』のストーリーの続きについて書かねば。
主人公Micah "Slow Bear" Crossは、居留地の警官だったがある事件で片腕を失い退職、現在はカジノのバーに入り浸り、相談事を持ち掛けてくる人たちの問題を解決してやることで、警察の障害年金の足しとして収入を得て暮らしている。
あまり乗り気ではなかった不倫関係のごたごたに助言したことで、さらに厄介な事件に巻き込まれ、当事者の一人を殺害することで事件をうまく丸め込もうと企む。
だが、それは昔馴染みの現在は署長となっている彼の従兄弟に発覚し、それをネタに現在の居留地のトップ「The Hat」から、居留地を追放されたという形で、かつての政敵であるSantanaに対するスパイとして働くことを強要される。
その形を作るため、散々に殴打された後、カジノのバーの友人である女性Ladyの運転する車で敵地へと送り込まれる。
そもそもはホテルに置いて来るまでがLadyの役割だったのだが、部屋が取れず駐車場で車の中で一泊し、そのままLadyに付き添われSantanaの本拠へと向かったSlow Bearだったが…。
というところまでが、前回紹介したあらすじ。第2作『Slower Bear』につながる続き部分をざっと紹介して行きます。

『Slow Bear』の続き

かつて居留地にいた者なら大抵は知っている警官としての経歴と、居留地を追放されたという現在の立場を持って、Santanaの下で働きたいと申し出るSlow Bear。
だがそこまで…。そもそも潜入捜査などと言うキャパも無く、使命感も持たない彼は、あっさりとSantanaに自身が送られてきた本当の理由を話し、二重スパイとして働きたいと頼み込む。
そこでSlow Bearに向かい、自身が裏で行っている様々なダーティーなビジネスを説明し始めるSantana。その話にも嫌気がさし、話をなかったことにして出て行くSlow Bear。面白がったSantanaに500ドルの手間賃を渡されて。

Ladyと共にSantanaの会社を出て、朝食を食べながら、こうなったら居留地に戻り刑務所に送られるかと考えるSlow Bear。
気晴らしに二人で昼間から賑わっている類いの酒場に行き、Santanaから渡された金で遊んでいるうちに夜になる。
今更ホテルに部屋を取る気にもなれず、もう一晩同じ駐車場で車中泊し、翌朝帰ることにする二人。
だがその車を正体不明の一団が襲う。
Ladyは車から引き摺り出され、別の車で攫われ、Slow Bearは複数の男たちにより叩きのめされる。
昼間遊んだバーで目を付けられたと考えたSlow Bearは単身そこに戻り、店にいた人間を問い詰めるが、またしても多勢に無勢で叩きだされる。

Slow Bearは夜が明けるのを待ち、再びSantanaの会社へ行き、事情を話し彼の許で働く代わりにLady捜索のために銃を貸してくれと頼み込む。
話を聞いたSantanaは、Slow Bearと腹心の用心棒と共に件のバーに赴き、店の者たちを脅しつけ、誘拐の首魁と思われる人物の行方を吐かせる。
だが、向かったその男の住所から件の人物は既に姿を消しており、手掛かりは途絶える。
Santanaは自身のルートから捜索を続けるので、しばらくは自分の仕事をして待てと、Slow Bearに告げる。

SantanaからSlow Bearに与えられた仕事は、Santanaに借りがあるがそれを返さない人物を脅しつけて、返済なり補償を迫るというもの。
言われるままにその借りの内容もわからぬまま、指示された人物を脅して回るSlow Bear。だが、その過程で彼が探している誘拐犯が実はSantanaの部下だという情報を聞きつける。
Santanaが裏の経営者であり、誘拐の首魁の男が働いているという秘密売春クラブに乗り込むSlow Bear。
だがそこにLadyの姿はなく、待ち構えていたSantanaにより嘲笑的に真実が語られる。最初に彼の会社に行った時点で、Ladyは「商品」として目を付けられており、彼が関わる人身売買組織により、今頃はアルバカーキあたりだろう。
もはや利用価値も無くなったSlow Bearはその場で始末しかけられるが、何とか生き延び脱出する。

なんとか居留地まで戻り、住んでいた丘に帰るSlow Bear。だが、彼のトレーラーは既に撤去されていた。
警察の押収車両保管場に押し入り、トレーラーを取り戻し、元の丘に置いてその上で星を眺めるSlow Bear。それまでそう暮らしてきたように。
だが、夜明けとともに丘を登って来た警官隊に直ちに取り囲まれる。
用意してあったガソリンを撒き散らし、トレーラー炎上させるSlow Bear。すべてが燃え尽きた跡からは彼の死体は見つからなかった。
警官隊が全て去った後、近くに放置してあった車の下に掘ってあった隠れ場所から姿を現すSlow Bear。
彼の失敗のため悲惨な状況に送り込んでしまったLadyを救い出すことを心に誓い、Slow Bearは出発する。


というところまでが前作『Slow Bear』のあらすじ。たいした正義漢も持たず、ぶっ壊れた世界に自分なりに行き当たりばったりのつじつまを合わせて来た元警官のルーザーSlow Bear。だが自分の失敗により友人Ladyが犯罪組織の手に落ちたことが許せず、 行方を探して奔走するが、圧倒的な力の前にボロボロに打ち砕かれ逃げ帰る。そしてここから、Lady救出のための反撃を開始するのが、続編第2作『Slower Bear』である。


Slower Bear


Micah "Slow Bear" Crossは、そのGerardoという名のクズ野郎の顎にブーツの踵をねじ込んだ。Slow Bearはネブラスカ中を一週間探し回り、この男を見つけた。奴はSlow Bearが知る限り、最も白いGerardoで、姓はProchenko。そいうことだ。 Slow Bearは、一発屋にちなんで名づけられたウクライナ人の性的人身売買業者を、牧牛地帯で一週間かけて追い続けて来たわけだ。
美しく豊かな地で。
冷たい風 -3月の平地を吹く- そしてこの牧草地の真ん中の冷たい泥、彼らの周囲の牛たちは無関心。ひどい闘いだった。双方とも泥と、お互いの血と、牛の糞にまみれて。だが今、Gerardoは強くねじ込まれ続けるブーツの踵に呻き声をあげる。 Slow Bearは一息つき、唯一の腕を曲げる。それがそんなに痛くなかったら、クソ野郎の鼻を潰してKOを決められるところだが。

奴の頭を踏み潰すか?もちろん。やらない理由があるか?
Slow Bearは踵を上げ、狙いをすまし、そして…
そのまま一分動きを止める。

Slow BearはGerardoを、痛めつけた別のクズ野郎からの情報で、小さなネブラスカの町で追って来た。今後ファックにトラブルを抱えることになるだろう別のクズ野郎からの別の情報を得た後に。
ノースダコタ、ウィリストンから始まる情報の長い連なりが、彼をこんな遠くまで連れて来た。
人身売買組織に攫われたKylieという名の友人 -彼はLadyと呼んでいた- を救うために。

Slow Bearはその片腕にスタンガンを持って言う。
「これがどのくらい効くかもう分ってるよな。俺は次に誰に会いに行けばいいんだ?誰がお前のボスなのか言え。お前をひどく痛めつけるが、殺しはしない。それで俺は行くから」
「勘弁してくれよ」GerardoはSlow Bearの踵の下でもがきながら言う。「金が欲しいのか?女か?どんな女でも連れて来れるぞ?それとも銃か?」
「馬鹿か」Slow Bearはため息をつく。「こんな糞だらけの土地までお前を追ってきて、その目的が無料景品で大喜びするわけがあるのか?」
「俺には言えねえ…」
「いや、言うさ。結局のところお前ら全員な。お前は彼だか彼女だか誰だかに、俺が次にそっちに向かうことも言えるぞ。俺は構わん。前の二人にも何の助けにもならなかった。俺は前の奴がお前に話したのもわかってる。それでお前は町からあんなに早く 逃げ出したんだろ。それで、お前が今どうなったか見てみろよ」

Gerardoは結局白状する。
Slow Bearは彼に礼を言い、そしてGerardoの顎が砕けるほど強く踏みつける。あまりの痛みに牛たちが怯えるほどの喚き声をあげる彼をそこに残して行く。

Slow Bearは結構遠くなってしまった、車を乗り捨てた場所に歩いて戻る。
牛の糞まみれで、窓も無くなっている元はLadyのコンパクトカーに乗って戻るのは憂鬱だと思っていたところで、Gerardoの車が目に入る。
黒のキャデラックエスカレード、着色ガラス。明らかに自分の乗って来たものより乗り心地は良さそうだが、キーはGerardoが持ったままだろう。
まだ喚き声は聞こえるが、姿は見えなくなっているところまで戻る気も起らず、諦めて背を向けた時、着色ガラスで中の見えない窓が、内側から叩かれる。
なんとかドアを開けてみると、そこにいたのは二人の少女。メキシコ系らしい年長の方がやっとティーンエイジャーに届くぐらい。もう一人はネイティブアメリカンの血筋か。明らかにGerardoの人身売買の「商品」だ。
全身牛糞まみれで片腕のSlow Bearを警戒し、必死に幼い方の子を守る年長の少女。何とか安全なところまで彼と同行するように説得し、キーを手に入れるべくGerardoまでの長い道を戻り始めたSlow Bear。
10フィートも進まないところで、後ろから少女が叫ぶ。「多分私、妊娠してる」
Slow Bearは立ち止まり、目を閉じる。そして再び目を開くと進み続けた。

そこから少し時間は戻り、Slow Bearのこれまでの道のりが簡単に語られる。
自身の死を偽装した後、Slow Bearはウィリストンに住む、警官時代に逮捕したハッカーOren Hを頼って行く。少々引っ叩いた後、ともに人身売買組織を叩くことを承諾させ、それからは彼らの資金をネットワーク上で盗み、行動資金を作り、 偽の運転免許証、身分証、クレジットカードなどを手に入れる。カードについてはテキサスのステーキ屋でキャンセルされ、警察到着数分前に逃げ出す羽目になったが…。
その数週後、殺されかけたSantanaの秘密クラブにお礼参りにも行ったが、そこについては詳しくは書かれていない。とにかく去って行くSlow Bearのバックミラーに、立ち昇る黒煙が映る。

人身売買組織追跡の道で、Slow Bearはあちこちのカジノのバーで女をナンパし、一夜の宿を得て来た。
前夜、Slow Bearが出会ったのは60歳の赤毛の女性Abeline。3回結婚し、3回離婚。2年前まで一緒に暮らしていた男は、各地で閉鎖事業に携わっていると自称していたが、カナダへ旅立った後戻ってこなかった。子供もいるが現在は独立し、独り暮らし。
そしてその後、彼女との熱いラブシーンなども描かれる。

そしてそれから24時間も経たないうちに、Slow Bearは再び彼女の家のドアを叩く。全身牛の糞まみれで。二人の見たこともない子供を連れて。
あまりの事態にまずは怒り狂うAbelineだったが、とにかく子供については家に入れてくれ、そしてSlow Bearは頼み込んでシャワーを借りる。
半時間かけて牛の糞を洗い落とし、何とか人間に戻ったSlow Bearは、事の経緯を説明する。自分はすぐに去るが、何とか子供たちをしばらく預かり、まともな暮らしができるように手配してもらえないだろうか。
そんなことはできない、自分を巻き込むなと怒るAbeline。そして子供たちは、そもそもが警察、児童保護施設、里親というシステムの中から売られ、この境遇に陥ったことから、そこに戻ることを拒み、Slow Bearについて行くと主張する。

家の前庭でそういう問答を繰り返し、Slow Bearが困り果てていたところで、前の通りを一台の車が不自然にゆっくりと通りかかるのを見る。ダッジ チャージャー、ノースダコタのプレート。
助手席の白人、ヤギ髭、トラックキャップにサングラスの男が家の前のSlow BearとAbelineを眺める。
なぜだ?なぜこんなにすぐに見つかった?
そしてエスカレードを見たSlow Bearは、車にGPSが仕掛けられていた可能性に思い至る。
車はゆっくり通り過ぎ、助手席の男は顎を上げ、Slow Bearに向かって二本の指を振って去って行く。

AbelineはSlow Bearの肩を掴んで言う。「あれは誰なの?なんだったの?」
「家に入って荷物をまとめてくれ、数日分の服とか。マジな話だ。それであんたの車を使わせてもらう」
Abelineは唖然として言う。「あり得ない。こんなことが起こるなんて。こんなことになるなら…。何も考えられない」
「時間がないんだ。謝る。千回謝る。だが、畜生、行かなきゃならないんだ」

こうして、Slow Bearは二人の少女のみならず、一夜の恩のある女性Abelineをも巻き込む形で逃亡を始める。
だが、逃げるだけでは何も始まらない。Slow BearはGerardoから聞きだした次の地点へ、駐車場に彼女たちが待つ車を残し、単身乗り込んで行く。
完全無策で…。
なんだかんだで銃が連射されまくる事態となり、その場にいたほとんどの人間が死ぬ結果となり、何とか生き残ったSlow Bearは次の地点、カリフォルニアを訊きだす。あ、ここは省略しただけでちゃんと見ごたえのある、ややタガの外れたバトルシーンが 読めますので。
そして一息つくべく、ホテルに部屋を取ったSlow Bear達。だが、そこにホテルをしらみつぶしに当たり居場所を突き止めた、組織の殺し屋たちが深夜侵入して来る…。


さて、ここでこの第2作で見えて来た、このシリーズの正体らしきものについて。
Anthony Neil Smithは、このSlow Bearシリーズを、彼なりの70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物として書いたのではないか、というのが私の見るところ。
まず最初に紹介した第1作『Slow Bear』から、この第2作『Slower Bear』へというところで考えると、第1作の結末から続く第2作で、大抵の人が考え、期待するのは1作目で散々にやられたSantanaの組織への反撃、更にその土地を舞台とした彼を窮地へと追い込んだ 居留地上層部との対決といったところだろう。だがこの第2作では冒頭からまったく別の土地で人身売買組織の一員を追い詰め戦っているところから始まる。そしてその後、かなり雑な形で第1作の事件のその後の顛末が書かれる。
この奇妙とも見える展開は、その70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物というパターンに当てはめてみると、まあしっくりくるとは言い難いが、理解できる。
まず第1作で、人身売買組織に友人であるLadyを攫われたSlow Bear。そして第2作からは彼女を救い出すべく単身で人身売買組織との戦いに挑むヒーローSlow Bearのシリーズが本格的に始まって行くのだ。そして第2作では、そこから読んだ人のために、 前作の(実際にはそっちには書かれていない)結末に至るあらすじが簡単に紹介され、去って行くSlow Bearの背後に黒煙が立ち昇る。そしてシリーズ故にそれほど説明する必要もない(のが通例の)彼のバックアップについても簡単に紹介される。
更に、この手のパルプヒーロー物と言えば欠かせないのが、1作ごとに交代するヒロイン!それがこの作品の60歳のAbeline。そういう作品の通例として、もちろん濃厚なセックスシーンも描かれる。
なんかその辺の時代の作品のパターンである、エロティックなポーズで立つヒロイン(60歳)の後ろに立つ全身牛糞まみれの片腕のヒーロー、みたいなすさまじいカバー画さえ頭に浮かぶよ。
スペース的に省略してしまったが、Slow Bearが単身乗り込んだところで出てくるいかにもパルプヒーロー物的な悪役中ボスや、全くそのパターンを踏襲しないパルプヒーロー的バトルもかなり見どころあり。
そしてその後もそういったジャンルのパターン通り、次から次へと、ピンチとバトルが続いて行く。

というところがこの第2作を読んで思った感想だが、これはまだ第2作。実は作者の真意は続く第3作を読んだとき明らかになるのかもしれない、というのはかつてドゥエイン・スウィアジンスキー、Charlie Hardieトリロジーで経験しているので、 とりあえずは第2作まで読んだところで見えて来た(仮)ぐらいの考えというところで。なんかさ、そのトリロジー読んだときみたいに、思い付きで言ったこっちが馬鹿に見えるくらいに驚かしてくんないかな、と期待しております。

そして更に、この作品にはもうひとネタあり。
中盤、省略してしまったあたりから、この作品内世界にも新型コロナのパンデミックが始まる。
自分の方が大変であんまりニュースとかチェックしてなかったのだろうSlow Bearが、ある店に入って行くと従業員が全員マスクをしている。現在でも当たり前ぐらいの風景になっているが、それ以前の常識から見て事情も知らずに突然そんなことに なっていれば、かなり異常な風景。従業員側もやや曖昧な感じで、なんか大変な流行り病みたいので、上司から命令されてるとか、いかにもホントに初期あたりの風景かと思う。その他にも、あんなのテレビとかが大袈裟に言ってるだけで、 大したもんじゃない、中国の陰謀らしいぞとか、そんなものは本当はないと主張する悪役とか。
そして、それらは単に時代を表す背景にとどまらず、なんと主人公Slow Bear本人が感染し発症してしまう(ややネタバレか?)。そして死線を彷徨いながら、追ってくる悪人たちとも戦いを繰り広げるというすさまじい展開となって行く。
ノワールジャンル内では、あの戸梶圭太の傑作『コロナ日本の内戦』と並ぶ、その時代状況を鋭く描いた作品として記憶されるべきであろう。


というあたりで、ここからは作者Anthony Neil Smith先生の近況。
…なんだが、今年初めぐらいかなりワクワクさせてくれる展開があったのだが、もたもたしているうちに過去の話となってしまった…。ごめん。
近年、なんだかんだで絶版となっていた旧作の多くを自費出版で再版していたSmith先生だったが、昨年末ごろから今後の自作の発表を自費出版という方向に考え、その拠点としてSubstackを活用するという動きを起こした。
新作長編『A Bone for the Underdog』の連載、そしてなんと夏ごろからはもう続きは書かれないのではと思われていたBilly Lafitteシリーズの第5作の執筆に取り掛かる旨を発表!その他に、複数のアンソロジー誌に発表していた Mapacheシリーズの新作短編や、多くの過去の短編作品の掲載。そして仲の良い作家との対談インタビューのポッドキャスト(あのRay Banksとの対談もあった)、影響を受けた作家についてのエッセイなど、非常に精力的に多くの ポストが上げられた。
…のだが、2月末に思ったほどの成果が得られなかったということで中断され、それらすべてのコンテンツは現在は見ることができなくなっている。まあ、実際のところSmith先生、大学の仕事もあるのにこんなに頑張って大丈夫なのだろうか? と思うぐらいの感じだったのだが…。結局、自費出版で個人でやることでどこまでいけるだろうか、という実験的な試みだったということ。上記のようにかなり魅力的なコンテンツも多かったのだが、まあさすがに月5ドルであそこまで 頑張ってくださいとは言えないよなと思う。
こちらとしては、せめて一番頑張っているころにちゃんと紹介できなかったという、自身の無能っぷりを反省するばかりであるよ。
そもそもSNS嫌いのSmith先生に、また一つ追加されてしまったということになってしまったのだが、とりあえずアカウントは残っていて、時折短いコメントぐらいは見られるというのが現在の状況。一ファンとしては、何の情報も無いのは 辛いので、時々近況ぐらい書いてもらえればそれでいいっすから、というところです。

改めて、その辺からの新刊情報などについてなのだが、まず昨年12月にAlien Buddha Pressから短篇集『SKULL FULL』を出版。Alien Buddha Pressというのはちょっと説明しにくいんだが、詩というあたりも含んだ、まあ境界文学という感じのアンソロジー Alien Buddha Zinなどを出版しているところ。こちらはプリント版のみだが、アマゾンのプリント・オン・デマンドで注文から数日ぐらいで入手できます。
そして今年3月にはCowboy Jamboree Pressから、同じく短篇集『THE TICKS WILL EAT YOU WHOLE』。Cowboy Jamboreeについては時々書いているはずだが、Sheldon Lee Compton作品などを出版している現代のアウトロー文学だったり、上のAlien Buddha Pressと 同傾向の文学出版をしているところ。なんかどっちもいまいち中途半端な説明で申し訳ないんだが…。
両短篇集共にアンソロジー、ウェブジンというようなところに発表した作品が中心で、文学寄りと表現する方がわかりやすい作品中心かと思う。
あと、短篇集で思い出したんだが、結構前の話で書き忘れてたんだが、Anthony Neil SmithはLisa Unger/Steph Cha編集のアンソロジー『The Best American Mystery and Suspense 2023』にも短編作品が選ばれている。他にはWilliam BoyleやS. A. Cosbyという ような名前も並び、日本の「ミステリファン」と同レベルらしい時代遅れらしきミステリー読者からは酷評されてる感じのアンソロジーだね。
そして今年4月には長編作品『Murderapolis』がUrban Pigs Pressから。Urban Pigs Pressは、Punk Noir Pressのエディターもやっていた作家James Jenkinsらによって立ち上げられたパブリッシャー。こちらはエンタテインメント傾向の作品で、 なんかしばらく前に書いたけどあっちこっちで断られてお蔵になっていた作品らしい。
その他、Substackの方で発表されていた情報の方だが、連載されていて中断になった『A Bone for the Underdog』だが、Substackでの活動を中止するお知らせの中で、なんか完成させる気がなくなったとのコメントがあり、どうなるのか未定。 これはこれで続きが気になったたんだが…。
そしてBilly Lafitte第5作の方だが、これについては特に言及はなかったのだが、今回の関係でアマゾンKindleのSmith作品を調べていたところ、自費出版で出ていたBilly Lafitteシリーズがすべて消えている?これは何処かの出版社から 第5作が出版されるという事情からのシリーズ全作版権移動ということではないのかと思われるのだが?とにかくまた未訳おススメのBilly Lafitteのところがまたしても対象商品なしとなってしまったが、何らかの進展があった際には、 なるべく早く対処致しますので…。

というところで、現在の出版状況で苦戦を続けながら創作活動を続けるSmith先生の近況というあたりで結構長くなってしまった感じではあるが、個人的には最もぐらいにこだわりのある作家として、別に需要があろうがなかろうが知ったことか というスタンスでこれからもなるべく多くSmith作品・情報をゴリ押しして行くので。
続く第3作『Slowest Bear』もなるべく早く!Smith作品まだ山ほどあるんだからさあ。


70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物とか言ってみたけど、実はもう今時そんなこと言っても誰もわからないんじゃないかと思うんで、最後に少し簡単に解説しておきます。なんかさあ、よく考えてみると、日本でオレ以外にそんな話してる奴、 ざっと考えられるぐらいの範囲で過去に遡っても見たこともないんだよな。
実際のところ、正式な呼ばれ方なども曖昧で、70~80年代のメンズ・アクション・アドベンチャーみたいな言われ方が割と一般的なのかと思うが、とにかくどういうものかは明確に分かっている。
これは1969年から開始されたドン・ペンドルトンによるマック・ボランを主人公としたThe Executioner(死刑執行人)シリーズが人気を博したことから始まる、成人男性向けの単独主人公によるペーパーバックオリジナルによるアクション、バイオレンスを主軸とした シリーズ作品のブームにより出版された数多くの作品を指すもの。
それ以前の1950~60年代はペーパーバックの黄金時代と呼ばれ、クライム、アクションアドベンチャー、SF、ホラーなどエンターテインメントの多くのジャンルで多数のペーパーバックオリジナル作品が出版されていた。マック・ボランが登場する70年代初頭 辺りはその辺にも陰りが出てた頃なんじゃないかと思う。ちょっとこの辺良く調べてなくてごめん。
そちらの黄金時代にも、キルマスター/ニック・カーターに代表されるようなシリーズ物も多く在り、実際にはこの辺がパルプ・ヒーローと呼ばれ、70~80年代のものはメンズ・アクション・アドベンチャーと言われることが多いんだが、なんかその辺について かなり雑な情報しかない日本的には、例えばマーク・グリーニー/グレイマンに代表されるような現代のメンズ・アクション・アドベンチャーと混乱されるケースが多そうなので、とにかくここでは70~80年代のパルプ・アクション・ヒーロー物的な 言い方をしてみてる。実際にはそれが現代のものの母体というものであるのだけどね。
60年代あたりだと単独作家による、リチャード・スターク/パーカーシリーズや、ドナルド・ハミルトン/マット・ヘルム 部隊シリーズみたいなのもあるのだけど、70年代からのマック・ボランはそれともちょっと違うもの。

The Executionerシリーズは、主人公マック・ボランが家族全員が死亡したとの知らせを受け、ベトナムから一時帰還し、その犯人がマフィアであることを知り、軍には戻らず復讐のため全米のマフィアを殲滅するための戦いに乗り出すという形で始まる。
版元ピナクル社は、このシリーズの人気を受け、同種のシリーズ物を大量に出版し、こうしてこのブームが拡大して行く。その中でボランに次ぐぐらいに有名なのが、リチャード・サピア&ウォーレン・マーフィー/レモ・ウィリアムズ The Destroyerシリーズ。 私が大変こだわっていて、延々中断中のやつ…。
この辺のシリーズの大きな特徴は、過激なバイオレンスと、お約束的な濃厚なセックス描写。やっぱりこの辺が黄金時代のシリーズ物と明確に区別されるところだろう。そして100巻以上に及ぶシリーズの多くは、ゴーストライターの手によって書かれる。 まあ、この辺の事情を見れば、結局粗悪な作品が大量に出回るような結果も誰にでもわかるだろうが、そういうわけでそういうブームがあったという事実は誰でも知ってるぐらいのところでも、現在はその詳しい実態、全体像などは ほとんどわからないぐらいの状態だろう。
この中で書かれたもので、ハードボイルド方面で知られているところと言えば、まず50年代からのエド・ヌーンシリーズで知られるマイクル・アヴァロンがスチュアート・ジェイスン名義で書いた(最近まで知らなかった…)The Butcherシリーズ。なんか 調べたら35巻も出てた。
現在はお馴染みBrush Booksから復刻されているラルフ・デニス/ジム・ハードマンシリーズや、Jack Lynch/Peter Braggシリーズ。この辺については、こういうブームがあった出版状況だったせいでこういう形で出たということで、上記のような 偏った特徴があるものではなく、もっと普通にハードボイルド作品として読まれるべき、多くのゴミの中に隠れた宝的なものなのだけど。こういう話を聞くから、日本のゲス本ジャンルの中にも隠れた宝があるのでは、と思い込み散々ひどいものを 読まされるような経験をするのだが…。
Brash Booksからは他にも、先日Paperback Warrior師匠のところで知ったのだけど、Jon MessmannによるThe Revengerシリーズ全6巻も復刻されてた。やっぱこういうのよく知ってる専門家が発掘してくれるの待つしかないね…。

あと、ついでにぐらいにはなるのだけど、この関連で繰り返し特筆しておきたいのが、かのジョニー・ショーが2010年代前半に編集したアンソロジーシリーズ『Blood & Tacos』!この時期山のように出版され、今となってはほとんどが正体不明ぐらいの感じになって、 納屋やガレージの隅に放り出されているこれらのペーパーバックの山。その中から自分だけが知っている名作を「発見」しようというショーの呼びかけにより、インディー・クライムのオールスター級の面々が集まり、自分が「発見」した 「知られざる名作」を持ち寄った伝説級のアンソロジー。まだ持ってない人がいるなら必ず入手しとくべし!

この辺のジャンルに関しては、ハードボイルドというところから派生したものではあるけど、なんだか2020年まで500巻近くまで続いたらしいマック・ボランが、途中からテロとの戦いにシフトしたりというような方向で、ハードボイルドからは 離れて、アクション・アドベンチャーという方向が中心になって行ったのだろうと思う。そして途中、トム・クランシーとかを経て、ミリタリー方向が強いものとなり、そして出てきたのがマーク・グリーニー/グレイマンというところなのだろう。
グレイマンに至る道やら、その後ぐらいについてはできればもっと調べてみたいとは常々思ってはいるのだけど。まあ、その前にデストロイヤー何とかしろよだが…。
なんか雑な説明ではあるけど、いくらかわかったかニャ?詳しくはもっとちゃんと説明してくれる専門家に聞こう、とか言ってみても日本にもうそんなやついねえよだよなあ…。


中編ぐらいの作品なので、前作のあらすじあっても割と短く書けるんじゃないかと思ってたんだが、思いのほか長くなってしまった。Anthony Neil Smithでは仕方ないか。
Substackと言えば、ぐらいで書こうと思ってたけど、なんか流れに入れられなくて最後になってしまったけど、つい先日、エイドリアン・マッキンティのSubstackにて、ダフィシリーズの新作短編が発表されました。「Jayne's Blue Wish」というタイトルで こちらもトム・ウェイツの曲から。内容的には現時点の最新作『Hang on St. Christopher』と同じ時点ではないかと思われる。多分現在オーディオ版のみの中編『God’s Away on Business: Sean Duffy: Year 1』のプリント版が出るとき、 収録されるとかじゃないのかな?えーと、『Hang on St. Christopher』についてついさっき見たところ、ペーパーバック版のページができていて、やったと思ったのですが、発売予定は来年の3月3日ひな祭り…。まだ予約受付てねーし。 いい加減にしろよ、Blackstone、とひとしきりむかつく羽目になってしまいました。
とりあえず、マッキンティ『The Island』については、近日書く予定です。ちゃんと近日になるように頑張らねば。頑張ることに意味があんのかなあという気持ちばかりが持ち上がる日々だけど、何もやんなきゃただのゼロだし、まあそれよりましか、ぐらいのやや斜め前方下方向ぐらいの見ようによっては前向き的なモチベーションで、何とか頑張っている感じで行こうかと。


■Anthony Neil Smith著作リスト

〇Billy Lafitteシリーズ

  1. Yellow Medicine (2008)
  2. Hogdoggin' (2009)
  3. The Baddest Ass (2013)
  4. Holy Death (2016)

〇Mustafa & Ademシリーズ

  1. All The Young Warriors (2011)
  2. Once A Warrior (2014)

〇Castle Danger (The Duluth Files)シリーズ

  1. Castle Danger - Woman on Ice (2017)
  2. Castle Danger - The Mental States (2017)

〇Slow Bearシリーズ

  1. Slow Bear (2020)
  2. Slower Bear (2022)
  3. Slowest Bear (2024)

〇長編・中編

  • Psychosomatic (2005)
  • The Drummer (2006)
  • Choke on Your Lies (2011)
  • Sin-Crazed Psycho Killer! Dive, Dive, Dive! (2013)
  • Worm (2015)
  • The Cyclist (2018)
  • The Butcher's Prayer (2021)
  • Murderapolis (2025)

〇短篇集

  • Skull Full (2024)
  • The Ticks Will Eat You Whole (2025)

・Red Hammond名義

  • XXX Shamus (2017)

・Victor Gischlerと共作

  • To the Devil, My Regards (2011)

・Dead Manシリーズ (with Lee Goldberg and William Rabkin)

  • 16. Colder than Hell (2013)


●関連記事

Yellow Medicine -Billy Lafitteシリーズ第1作!-

Hogdoggin' -Billy Lafitteシリーズ第2作!!!-

The Baddest Ass -Billy Lafitteシリーズ第3作!!!-

Anthony Neil Smith / Slow Bear -Slow Bearシリーズ第1作!-


■Anthony Neil Smith
●Mustafa & Ademシリーズ

●Slow Bearシリーズ

'君のせいで猫も失くした'はamazon.co.jpを宣伝しリンクすることによって サイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイト宣伝プログラムである、 Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。

2025年5月19日月曜日

2025 スプラッタパンク・アワード ノミネート作品発表!

今年2025年、第8回のスプラッタパンクアワード、ノミネート作品が遂に発表されました!例年2月には発表になるものが、今年はなぜこのような時期になったのかは、色々邪推はできる気もするけど、とにかく説明はなく、4月の29日に Brian Keeneのホームページにて発表となっていました。
いや、4月29日かよ…。前回最後に少し書いたように、何やら当方今年に入ってからの不調の連続の集大成のように、4月末に虫垂炎を発症しGW10連入院を経て何とか娑婆に復帰したという次第。4月29日といえば、病院のベッドで点滴に繋がれ 既に数日の絶食状態で、身動きできんなら最近シーズン5出たけどシーズン2で止まってた『プリズン・ブレイク』最初から全部観ようかな、と思ってたりしたころ。
とにかくスプラッタパンクアワードについては、今年も2月の11周年を書いた直後からほぼ毎日、「Nikke最強キャラ」と同じくらいの頻度で検索してきたのだが、そこで途切れ、やっと娑婆に戻って自身のサイトこの本店とコミック支店双方の 立て直しにまあ少ない体力でやや頑張っている間にすっかり忘れてしまい、つい先日やっと「Nikke最強キャラ」検索の際に、そうだこれも見とかなきゃと思い出し、2月から延々と続いてた2025年スプラッタパンクアワードノミネートの 受付締め切りは2024年大晦日だよん、という記事がまた並ぶんだろなぐらいの気分で見てみたら、今度はちゃんと発表になってたという次第です…。
そんなわけで、例年2月の発表が4月末まで遅れた事情については不明だが、そっから20日ぐらい遅れたのは当方の事情で申し訳ないというところで、本年のスプラッタパンクアワード、ノミネート作品やっとの発表です。

2025 Splatterpunk Award ノミネート作品


【長編部門】

  • Benjamin by Aron Beauregard and Shane McKenzie (Bad Dream Books)
  • This Wretched Valley by Jenny Kiefer (Quirk Books)
  • American Rapture by C. J. Leede (Tor Nightfire)
  • The Home by Judith Sonnet (Madness Heart Press)※
  • The Old Lady by Kristopher Triana (Bad Dream Books)

【中編部門】

  • A Life of Crime by Aron Beauregard (Bad Dream Books)
  • Master of Bodies by Robert Essig (Infected Voices Publishing)
  • Living Death Race: Beauty & the Brains by John Everson (The Evil Cookie Publishing)
  • Nipping Them In the Bud by Edward Lee (Deadite Press)
  • For The Better by Daniel J. Volpe (Bad Dream Books)

【短編部門】

  • “The Old College” by Aron Beauregard (from Fear of Clowns) (Kangas Kahn Publishing)
  • “Genital Grinder 2.5” by Ryan Harding (from Y’all Ain’t Right) (The Evil Cookie Publishing)
  • “Together Forever” by C.V. Hunt (from The Obituaries #6: Red Romance) (Bad Dream Books)
  • “Fulfillment” by Sidney Shiv (from Where Devils Dance) (Independently Published)
  • “Baby, I’d Die 4 U” by Kristopher Triana (from The Obituaries #6: Red Romance) (Bad Dream Books)

【短編集部門】

  • This Skin Was Once Mine and Other Disturbances by Eric LaRocca (Titan Books)
  • Gold and Gore by Candace Nola (Uncomfortably Dark)
  • Every Night In The Bone Orchard by Judith Sonnet (Independently Published)
  • Sucking Chest Wound and Other Horrors by Daniel J. Volpe (Bad Dream Books)
  • Wrecks & Violets by Mehitobel Wilson (Cimarron Street Books)

【アンソロジー部門】

  • Dethfest Confessions: The Devil’s Playlist edited by Mark Tullius and Lyndsey Smith (Vincere Press)
  • The Obituaries #6: Red Romance (Bad Dream Books)
  • Shocking Sojourns edited by Sidney Shiv (Independently published)
  • Splatology 2.0 edited by Sidney Shiv and Chisto Healy (Unveiling Nightmares)
  • Y’all Ain’t Right edited by K Trap Jones (The Evil Cookie Publishing)

【J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD】

  • Joe R. Lansdale
  • Lucy Taylor


※長編部門のJudith Sonnetの『The Home』については、実は2024年中の出版ではなく、2025年1月出版の作品だったのだが、選考過程で気付かずノミネートとなってしまった作品で、今年については無効となり来年改めてということ。 この失敗についてはBrian Keeneが全責任を負うと明言しているので、まあ仕方ないなと勘弁するなり、絶対許せん!と糾弾するなりしてあげてください。

さて今年の最大の注目は、新登場で各部門に多くの作品がノミネートされてきたBad Dream Books
これは近年スプラッタパンクアワードでも常連、シーンで活躍するAron Beauregard、Kristopher Triana、Daniel J. Volpeの三人によって立ち上げられたパブリッシャーということらしい。
そもそもはこの三人により出版されていた『The Obituaries』というアンソロジーが母体となっていて、これは現在第7集まで出版されている。これはその号ごとにテーマを決めて作られたアンソロジーということで、三人の他に一人ゲスト作家が 参加してという形になっているらしい。これが昨年パブリッシャーという形に発展し、三人それぞれの作品が出版され、各部門でノミネートされている。
Bad Dream Booksのホームページでは、『The Obituaries』にゲストとして参加した作家、C.V. Hunt、Edward Lee、Bryan Smith、Wrath James White、Shane McKenzie、Ryan Hardingといったおなじみの名前もこのパブリッシャーの 作家として紹介されており、これがどう発展して行くのかも期待されるところだ。
昨年あたり、このアワードもある程度商業的といった考えを持った出版社中心のものになって行くのかな、という感想をやや曖昧ながら持ったが、この動きはこのシーンが本来持っていた作家と読者、ファンの距離が近いという関係に 回帰するものなのかも、とも思ったりする。この多数のノミネートはそういったファンの熱量であり、やはり潜在的にはそういう形でシーンを応援している多くのファンが、この作家中心という動きを歓迎しているということなのかと思う。
というところなんだが、実はこのムーヴメントの骨子ともいうべきアンソロジー『The Obituaries』、ホームページからの直販のみで、電子書籍もプリント版もアマゾン経由などでは入手不可という状況…。そしてサイトとかを見てもこの動きの中で 特に中心のようにも見えるAron Beauregardという人、なんかあちこちのコンベンションに参加したり、オリジナルグッズを多く販売したりという感じで、日本的に言えば同人作家気質みたいなもんが強い人のようで、この状況が変わるのか ちょっと微妙なところかも。とりあえずはそっちは現物なしで横目で見ながら、Bad Dream Booksの今後の展開に注目して行きたいというところなのかな。

その他新しいところで注目は、フライングノミネートとなってしまった長編部門『The Home』の他に、短篇集部門でも『Every Night In The Bone Orchard』がノミネートされているJudith Sonnetか。長編も今年のうちにいいのが出せれば、 そっちが来年のノミネートということになるのかも。
他に短編部門と、編集したアンソロジーが2作ノミネートされているSidney Shivも、シーンでの今後の活躍が注目されるというところなのかと思う。

J.F. GONZALEZ LIFETIME ACHIEVEMENT AWARDについては、ジョー・R・ランズデールについては今更説明するまでもないが、もう一人Lucy Taylorについては日本でほぼ知られていないぐらいの作家のようなので、ちょっと簡単に説明。
1951年生まれで、現在73歳。それまでは旅行関連のノンフィクションを書いていたようだが、1990年代からホラー作品を多く発表。数々のホラー関連の受賞歴もあり、ちょっと資料により分類がまちまちなのだが、アマゾンの作家紹介によれば、 長編小説を7作出版。多くの短編小説を執筆し、短篇集も多い。作風としては超自然的なものよりサイコスリラーといった傾向のもので、「エロティック・ホラーの女王」とも呼ばれているそう。とりあえず現在Kindle版で手に入るものだけでも、 下に並べときました。やっぱこのジャンル、日本でほぼ知られていないシーンを代表するような作家、まだまだいるようだね。と言ってみたが、現在活躍中のお馴染みの名前としてAron Beauregard、Kristopher Triana、Daniel J. Volpe、その他 並べて来たけど、ここ以外じゃ日本じゃほぼ名前見るとこもないんじゃないかと気付いたり。

なんかさ、そもそも前回のCraig Johnson / Walt Longmireも取り扱いジャンルを拡げてもっと書いて行くぞ、という前提のものだったのだけど、現在のこの始末…。とにかく気になる作家作品も多いこのスプラッタパンク/エクストリームホラー ジャンル、なんとか一つでも多く読んで短くてもなんか書いて紹介して行かねば、という考えは現状強く持っているので、なんか優しい人だけでもちょっと期待してみてください。いや、何とか頑張るんで…。
スプラッタパンクアワード受賞作は例年通り、テキサス州オースチンで8月1日-3日に開催されるキラーコンにて発表。またその辺バタバタしそうだが、そっちの方では現地からの情報で、SFファンジン老舗のFile 770やLocus Onlineがなんとかしてくれると 思うので、発表1週間ぐらいのところではお伝えできると思います。まあこのポンコツ本体がちゃんと動いていれば…。


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2025年5月10日土曜日

Craig Johnson / The Cold Dish -Walt Longmireシリーズ第1作!-

今回はCraig Johnsonの『The Cold Dish』。2004年から始まっている、ワイオミング州の架空の郡Absarokaの保安官Walt Longmireシリーズの第1作です。このシリーズはTVシリーズにもなり、 アメリカのケーブルテレビA&Eで3シーズンの後、Netflixに移り第6シーズンまで放送されたとのこと。日本じゃ観れないようだけど。

おっさんの皆さんに朗報です!令和の世、読書難民に成り果て、俺たちが心から楽しめるような本なんてもう地球上に存在しないんだろうと諦めていたおっさん諸君!ここにあったぞ! このWalt Longmireシリーズこそがそれだ。なんと現在までに長編20作が出版され、今年5月には21作が出版予定。その他中編や短篇集など。もう当分読むものには困らないねえ。やったぞ!
まあこのLongmireシリーズ、アマゾンで見るといくらか日本でも読まれている様子もあるんだが(日本在住の英語圏の人たちかもしれんけど)、ここでこちらの方でもプッシュしとくぞ。
それではWalt Longmireシリーズ第1作『The Cold Dish』です。

■The Cold Dish


Walt Longmireはワイオミング州Absarokaの保安官。年齢は50代。結婚はしていたが、近年奥さんには癌で先立たれ、現在は独り暮らし。この作品には登場しないが、娘がいて今は大都市で弁護士をしている。
この作品は全編、主人公Walt Longmireの一人称で語られる。

「Bob Barnesが国有地の近くで死体を見つけたって言ってるわよ。外線1番」
窓から山に囲まれた風景の中を飛ぶ鵞鳥を眺めていたLongmireは、彼女が入って来たのに気付かず、署の受付兼通信係のRubyを見返す。
「Bob Barnes、死体、外線1番」Rubyは繰り返す。
「あいつ酔ってるようだったか?」Longmireは電話の赤ランプを見ながら言う。これから逃げる方法がないかとぼんやり考えながら。
「彼が素面だったのを聞いたことが無いから、分からないわ」Rubyは言う。

Longmireは外線1番と、スピーカーフォンのボタンを押す。「おい、Bob、どうした?」
「やあ、Walt。あんた信じないだろうがな…」
Bobの声は特別酔っているようには聞こえない、だが彼はプロの酔っ払いだ、簡単には断定できない。
「なあ、冗談抜きで。俺達ここで冷たくなってるの一つ見つけたんだよ」
「一つだけかな、フフン?」
「なあ、ウソじゃねえって。BillyがTom Chathmanとこの羊を国有地から冬の牧草地に連れてこようとしたら、チビ助共がなんかの周りに集まってて…。冷たくなってんのを見つけたんだよ」
「お前見たんじゃないのか?」
「いや、Billyが見たんだ」
「Billyとかわれ」

「やあ、保安官」Bobのヤングバージョンが応える。
「Billy、お前死体を見たんだって?」
「ああ、俺見たよ」
「どんな風に見えた?」
少々の沈黙。「死体らしく見えたけど」
「知ってる誰かだったか?」
「そこまで近くで見てないんだけど」
「死んだ雌羊でも子羊でもないんだな?」Longmireは念を押し、場所を訊き、30分かそこらで誰かを行かせると話す。
「分かった…、あ、保安官?親父がビール持って来てくれって、もうなくなりそうなんだ」
「ああ、任せろ」Longmireは電話を切る。

まあこの辺までのやり取りで、既にこの作品が好きになって来るんだが。
Longmire保安官は、途中でちゃんとビールのシックスパックを買って向かうが、途中で保安官補のVic -Victoria Morettiのパトロール現場に寄る。うち1本のビールを開けて飲みながら。
Vicは、フィラデルフィアの警官一家の出身で、アカデミーを優秀な成績で卒業し、大都市の警察勤務もある女性。結婚した夫の転勤に伴いこの田舎にやって来て、家でぼんやりしてるのもなんだぐらいの感じで求職に訪れ、採用される。 Longmireが最も頼りにしている保安官補で、出来れば自分の仕事を継いでくれないかと思っている。
Vicの今日の担当は、町の大通りのクリスマス装飾に伴う交通監督。
立ち寄ったLongmireはBob親子が死体を見つけたと通報してきた、と話す。
「あの親子が死体を見たって言うんなら、私は中国の戦闘機パイロットってとこね」
「うむ、深刻な殺羊事件が我々を待っているようだな」
なんだかんだで、VicはBob親子の通報への対応を引き受けてくれ、Longmireは残りのビールと共に、家へ帰る。

かつては町中に住んでいたLongmireだったが、妻の希望で離れた眺めのいい土地を買いそこに移っていた。丸太のキットを買い、自身で少しずつ組み立ててログハウスを作った。だが妻Marthaは、その完成を待つこともできず癌で亡くなる。 以来四年、Longmireは内装も未完成なまま、その家で一人で暮らしている。
今日は一人娘Cadyから電話があるはずだ。Longmireは電話を待ちながら、ビールを開け届いていた通販カタログを眺める。
だが、思いはどうしても心残りな三年前の事件へと移って行く。

近くのネイティブアメリカン居留地に住む胎児性アルコール症候群の少女Melissaが、四人の少年にレイプされるという痛ましい事件。
犯人の少年たちは逮捕起訴されたが、執行猶予となりこの地で自由に暮らしている。
この地を守る保安官として、Melissaのためにもっと何かしてやれなかったのかという思いが、彼の胸に悔恨として強く残り続けている。

ビールが無くなり、Cadyからの電話はなく、通販カタログにも飽きた。Longmireは、親友であるネイティブ・アメリカンのHenry Standing Bearの経営するバーレストランRed Ponyへと向かう。
LongmireとHenryは、小学生時代からの知り合いでハイスクール卒業までは敵同士のように争ってきたが、その後それぞれのベトナム従軍経験などを経て、現在は最も気を許せる親友となっている。
到着してみると、店の灯りが半分消えている。中を見ると営業中のようだが…?

店に入るとHenryが、「ビールか?」と訊いて一本手渡してくる。そしてそのまま歩き去って行く。手にタイヤレバーを持って。
プールルームの向こうのバーを見ると、8人の客が座っている。普通に営業中なのは確かだが?
ビールを片手にHenryの向かった先に付いて行く。暗くなっているその先では、壁の装飾の板が数枚剥がされて、地の壁が露わになっていた。
Henryはその壁板の一枚にタイヤレバーを差し込み剥がす。壁が現れる。「畜生」さらにもう一枚。また壁。「畜生」
「改装中なのか?それとも何か探してるのか?」
Henryは懇願と脅迫を同時にやっているような動作で壁を示し言う。「ヒューズボックスだ」
「お前それを板で覆っちまったのか?」

ここでヒューズボックスをめぐる面白もあるんだが、とりあえず省略。
Henryと共に一旦バーに戻ると、そこにVonnie Hayesがいるのに気付く。
Vonnieは、同じくLomgmireが子供のころから知っている同年代の女性。美人。裕福な家の出で、父親が亡くなった後町を出て、アート系の大学に通い彫刻家になり、結婚もしていたが今は離婚し独り身。高齢となった母親の世話のため町に戻り、 ここで暮らしている。Longmireの亡き妻Marthaとも図書館の仕事を通じて仲が良く、彼女をよく知る娘Cadyは、父と彼女を結び付けようと何かと画策して来る。
Longmireもその気がないわけではなく、偶然出会えたVonnieとバーで会話を楽しむ。そこで店の電話が鳴る。
電話を取ったHenryは、「ああ、奴ならここにいる」と告げLongmireに受話器を手渡す。
てっきり娘Cadyからだと思って受けたLongmireの耳に、Vicの声が飛び込んでくる。
「死んだ羊じゃないわよ」

ここまで28ページ!殺人事件など起こらない田舎の警察という感じで大変のんびり進んで行く。
電話の終わりにはまた「BobとBillyをおとなしくさせとくためにビールを持って来てね」
そして最後に「死体はCody Pritchardよ」と告げられる。

Cody Pritchard。Melissaをレイプした四人のうちの一人だ。
これは意図的な殺人なのか?それとも狩猟関連の事故なのか?
死体は背中から撃たれ、かなりの大穴が空いていた。古いショットガンかと予想されるが、銃はなかなか特定できない。
そしてLongmireは、Omar Rhoadesを訪ねる。

Omarはこの地に住む大金持ち。広大な土地を所有し、そこに各地から客を招き、自らも一緒に狩猟を楽しむ。
銃に関しても大変なコレクションを持ち、地方の警察の鑑識ではすぐに突き止められないような種類の銃についても広い知識がある。
何番目だかの妻との夫婦げんかの仲裁に入って以来、Longmireとは親しい間柄だ。
ファッショナブルな着こなしで、言葉少なにクールに語る、やや変人だが、常にLongmireには協力的。
そしてOmarはここで使われた銃をシャープス・ライフルと断定する。

シャープス・ライフルは西部開拓時代の有名なライフル。1874年に600ヤードの距離から馬を殺せるとして、軍に制式銃として採用される。南北戦争後、各地で白人との闘いにインディアンにより使われ、シャープシューターの名を広める。
故ジェイムズ・カルロス・ブレイクもこの銃がお気に入りで、登場人物がシャープスで遠距離射撃を決めるシーンがいくつかある。
.50口径のライフルを500ヤード以上の距離から撃てる者は?Omarはこの郡のなかで1ダース以内に絞れると言う。
「俺、お前、Roger Russell、Mike Rubin、Carroll Cooper、DurantのDwight Johnston、Phil La Vante、Stanley Fogel、居留地のArtie Small Song、お前の親友Henry Standing Bear」
「あるいは、スリーパー。この銃に精通しているが、そのことを誰も知らない誰かだ」

「ウェスタン・ミステリー」とのコピーもあるこの作品では、この開拓時代に遡るライフルにまつわる謎が物語のあちこちで顔をのぞかせてくる。
シャイアン族がジョージ・アームストロング・カスターに降伏するとき、手渡されず隠されてきた「死のライフル」と呼ばれたシャープスの一丁だとか、いかにもおっさん心をワクワクさせるのとか。

まずそんな方向のところから紹介してきたが、実際のところは田舎のちょっとのんきな保安官的展開がメインという感じか。
先の選挙を見越して、田舎の教会の恒例行事パンケーキ・デーに参加したり、昔ながらの地元民とのやりとりも多く描かれる。
親友Henryが、少しは健康に気を使えと、朝のジョギングに引っ張り出しに来たり、作りかけで放り出してあるLongmireの家を見かねて、居留地の若者を雇い立派なポーチを作らせたり。
とにかくLongmireを何かと面倒見てくれるHenryにより、なかなか距離が縮まらないVonnieとの橋渡しをされ、ロマンス展開も盛り込まれてくる。
かなりヤバい人物ながら、頼りにはなる片足の前保安官Lucian Connally。保安官事務所近くのBusy Bee Cafeの、誰よりも近隣の事情通の女主人Dorothy Caldwellなど、魅力的なキャラクターも話の展開と共にゆっくり紹介されて行く。

とりあえずハードボイルドジャンルではないが、どういう作品か読んでおきたいぐらいの感じで読み始め、こちらで書くかどうかも未定だったのだが、主人公Walt Longmireとその仲間たちについてはかなり好きになっていて、ちょっと楽しい田舎の 保安官ミステリーみたいな方向で書いてみようかと思いながら読み進め、約半分200ページを過ぎたあたりで、そこまでの印象を変えるぐらいに物語は大きく展開し始める。
まず第2の事件の発生。これにより、狩猟関連の事故の可能性も考えられていた事件の方向が、一点に絞られて行く。
そこから続く、町に迫る猛吹雪へと向かって行く捜索活動。更にその中での決死の救出劇。生死の境を彷徨いながら、幻想的とも言えるモノローグへと至るこのシーンは作品の大きな見せ場となって行く。
いやいや、ただの面白田舎保安官じゃないぜ。このおっさんやる時はやる!

大抵のアクションメイン作品だと、ここからエンディングへとなだれ込んで行くところだが、この作品はそこからまた、一旦面白田舎保安官モードへと戻る。
耳と手に凍傷を負い、病院へと搬送されたLongmireだが、いや、寝てるわけにはいかんよとのそのそと勝手に病院を抜け出し、あちこち歩きまわっては行く先々で、おねえさん、おばさん、おばあちゃんたちに「耳を触るんじゃないの!」と叱られ、 お前の耳が落ちる方に10ドルだ、とからかわれる。
だが、そうこうしているうちに事件は動き、エンディングへ向かって再び大きく加速して行く。
でこぼこの農道、荒れ地を渡るカーチェイスの後、やっぱり来たか!の様々に前振りされていたアレ!
この長距離に対応できる武器は、車に積まれたままになっていたシャープス、死のライフルのみ!託された銃弾!これをやれるのはお前だけだ。

そこから唯一人で進んで行くLongmire。悲しい真相に向かって。
そしてエピローグの深い余韻。
ラストシーンにはほろりとさせられ、そしてこのWalt Longmireと愉快な仲間たちに必ずまた会いに来るぞ、と誰もが思うことだろう。


なんか昨今そこら中で撒き散らされているような、なんか人を見返してすっきりした~い、別に自分に特別ななんかあるわけじゃないけどお、みたいな貧しい願望にお応えする、とぼけた周り中からなめられてる奴が実は無自覚で最強でしたなんていうややこしくてわざとらしいものじゃない。
人情派で心優しく、事件通報者からビール持って来てくれようとか言われちゃう田舎保安官で、あいつまたジョギングに誘いに来るからその前に早朝出勤しちゃおうみたいなヘタレだが、やる時は当然のようにやる当たり前に格好いいおっさん。本当はそんなやつそこら中にいるんじゃない?
明らかに「ガキ」と言ってる文脈で「少年」と気を使って直されるような中でさえ、当たり前の日常語のように「バーコード頭」と嘲られ、こんな奴らが好むのはスポーツ新聞とエロ雑誌のみと決めつけられて読むものさえ奪われ読書難民化が進むばかりの 我等おっさんが、弱い者いじめでしかない若造いびりや、サービスのつもりの下品なSMまがいのエロ描写にうんざりさせられることも無く、心の底から楽しめる素晴らしいWalt Longmireシリーズ。
本当はこんな作品が定期的に継続して出版され、金曜の帰りに書店によって、おっLongmireの新刊出てるじゃん!とニコニコして帰るみたいな暮らしがしたかったよねえ。
でも今からでも遅くはないぞ。この人気シリーズ、ホントにいっぱい出てるから。もう当分、下手すりゃ残りの人生ぐらい読むものには困らないぞ。よかったねえ。
いやいや、悪いことは言わんからとにかく読めって。こんなんゴチャゴチャ言う以前の鉄板おススメ作品だぞ!


と、楽しくおススメしたところで、ちょっと面倒なことも書いとこう。
なんかさ、Longmireシリーズが多くの人に読まれるといいなあと思うと、そこから「これこそが私の考えるハードボイルドだ」とか言い出す阿呆が現れかねんとも思われるので。
このLongmireシリーズが、なぜハードボイルドではないかと言えば、まずもう単純にハードボイルドジャンルというところから出て来た作品ではないということ。
そして、これが日本限定でハードボイルドだと勘違いされかねない状況について説明する。

例えば「ハードボイルドなやつ」というような形容詞的な使用法がまずある。この「ハードボイルド」の語源は、そもそもが軍隊内のやや悪口ぐらいのところの、煮ても焼いても食えない奴というというものらしい。
そこから考えられるハードボイルド小説ジャンルの中のキャラクターで、最も「ハードボイルドなやつ」と言えば、マイク・ハマーだろう。
だが、日本におけるハードボイルドは、以前書いたように、かの馬鹿げた本格通俗という形で、マイク・ハマーを排除するというところから始まっている。そしてハメット-チャンドラー-マクドナルドとはいうものの、実際にはチャンドラーのみを ハードボイルド精神という形で解釈しようとしてきたのが、日本のハードボイルドに対する考え方だ。で、まあその解釈というのが大雑把に言えば、日本古来の男らしさ、男の中の男的なところに通ずるもの。
この勘違い「ハードボイルド」を上記のような形容詞として使おうとして、更にハメットだー、チャンドラーだーを加えて辻褄を合わせようとしてきたのが、今も流通し続ける日本の出鱈目ハードボイルド解釈というわけ。
だが、以前から何度も言っているように、実際のハードボイルドジャンルの作品は、その時代によって変化するリアルな犯罪を通じて社会を描くという方向で発展してきたもので、フィリップ・マーロウのようなキャラクターを作ろうとか、男の生き様を 描こうなどという形をたどって来たものではない。
こうして、実際にはハメット、チャンドラーから形を変えつつ連綿と続くハードボイルドジャンル作品群が、その出鱈目ハードボイルド解釈に阻害され理解さえされなくなってきているのが日本の現状。
更には、日本のミステリ業界にはびこる「本格ミステリ」なる思想。海外では単なるクラシックで現在ではほぼ書かれていないものだが、日本国内のみでそれをミステリの最上位とする考えから、ないなら国内で指定すれば海外作品も「本格ミステリ」とすることができる という形で解釈によるジャンル的なものが作られ続けている。
この考えに基づき、実際にはハードボイルドジャンル作品は書かれ続けているのに、ここまで書いて来た日本が考えるような「ハードボイルド」に一致するものがない、ゆえにもはやハードボイルドは存在せず、「本格ミステリ」同様にこちらで指定すれば 新たなハードボイルドを作り出せるというような出鱈目さえ起り始めているわけだよ。まったく。

さて、ここでLongmireシリーズへと戻るのだが、前述のようにこれはハードボイルドジャンルの作品ではなく、本来の意味での形容詞としてのハードボイルドにも全く合致しない。唯一近く見えて誤解される危険性があるのが、日本的な思い込みによって 捻じ曲げられてきた男らしカッコイイぐらいの意味の「日本が考えるハードボイルド」というわけ。
もうこれさあ、和風ハードボイルドみたいな言い方で区別すべきじゃない?そんでハメット、チャンドラーなんてこじつけもやめて、和風ハードボイルドのストレートな体現者であるセニョール・ピンクを引き合いに出すべきだろ。
「これこそが私の考える和風ハードボイルドであり、セニョール・ピンクだ!」
オレが大好きなLongmireにそんなひどいこと言うの何処のどいつだよ!

なんかさ、和風ハードボイルドみたいな言い方で日本の「ミステリ評論」って部分のクソっぷりを批判していると、まあクソも多いが優れた作品だって多い国産ハードボイルドってところまでごっちゃにして、というかそこについて批判しているようにさえ 見えるんだろうな。本心では不本意なところではあるんだが、それも仕方ないんだろ。もう全部ひっくるめてまとめて流しちまえ。ドバゴジャーーーーー!!!!
もう日本の翻訳ミステリなんてものについて考えるだけでも絶望感しかなく、深く考えすぎるとこれを続ける気さえなくなってくる。なんかこのまま数年だか目を背け続けて、何やってんだかさえわからなくなってくるぐらいになれば、 その辺でいくらか建設的みたいな目を向けられるようになるか、あるいはそのものが完全消滅みたいなことになるんだろうな、とか時々いくらか前向きに考えるような日もある今日この頃っす。


なんかさ、もう日本の翻訳ミステリみたいなところから、アクションみたいな方向に広げたあたりまでのところで面白いものが出てくることは期待できない、うっかりこれ面白いんかな、ぐらいに手を出したら、ゴミ仕様によりただハズレを読んじまったなあ、 ぐらいじゃすまないぐらいやな気分になるっつーのもよくわかったんで、もうそっちの方も原書で探していいのがあったら紹介して行こうみたいなのが、現在の考え。前々回に書いたホラーなんかも含めてもっと手広く多くの本を紹介して行きたい、 そのためにはもっと沢山書かなければ、頑張るぞ、というところだったんだが…。
どうも今年に入ってから体調がすぐれず、なんか3月4月ぐらいには、午前中コミックの方をやって午後本店こちらの方をやるというスケジュールもあまり維持できず、半分以上は午前中で力尽きちゃうような状態が続いていたんだが、4月末になりとどめのように、 虫垂炎を発症、GW期間中10連入院という事態になってしまったですよ、トホホ…。
なんか自分的にはここしばらくの不調の累積の結果のようになってしまったが、虫垂炎って何が原因だったんだろうと調べてみたところ、あんまりよくわからん…。結局ストレスみたいなもんなんだろうか、と考えると、ここしばらくの最大のストレス といえば、なーんかこっちの方が全く思い通りに進まんというあたりだったり。そんなわけでやっと娑婆に戻されてからは、まだ近所のコンビニまで行く体力も覚束ないまま、少し書いては寝て休みを繰り返し、何とかこれを仕上げたという次第。 いくらかストレス改善に役立ったんやろか?
まだわからんというところだが、何とかこれが底であることを望み、ここから上向きベクトルで進んで行ければと思うんだが。書かなきゃならん作品も溜まって来てるしな。なんとか早く通常運転ぐらいに戻し、そこから量を増やして行けるように、 ここからまた頑張れればと思うものですよ。


■Craig Johnson著作リスト

〇Walt Longmireシリーズ

  1. The Cold Dish (2004)
  2. Death Without Company (2006)
  3. Kindness Goes Unpunished (2007)
  4. Another Man's Moccasins (2008)
  5. The Dark Horse (2009)
  6. Junkyard Dogs (2010)
  7. Hell Is Empty (2011)
  8. As the Crow Flies (2012)
  9. Christmas in Absaroka County (2012) 短篇集
  10. A Serpent's Tooth (2013)
  11. Spirit of Steamboat (2013) 中編
  12. Any Other Name (2014)
  13. Wait for Signs (2014) 短篇集
  14. Dry Bones (2015)
  15. The Highwayman (2016) 中編
  16. An Obvious Fact (2016)
  17. The Western Star (2017)
  18. Depth of Winter (2018)
  19. Land of Wolves (2019)
  20. Next to Last Stand (2020)
  21. Daughter of the Morning Star (2021)
  22. Hell and Back (2022)
  23. The Longmire Defense (2023)
  24. First Frost (2024)
  25. Tooth and Claw (2024) 中編
  26. Return to Sender (2025)
※シリーズ内時系列みたいなものもあるかと思い、中編、短篇集も一緒に並べたが、短篇集とか収録作ダブっていたらごめん。


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