今回はジェイムズ・リー・バーク、デイヴ・ロビショー シリーズ第11作『Purple Cane Road』。出版は2000年。やっと2000年に届いたけど、まだ前世紀か。未訳のロビショー第9作『Cadillac Jukebox』(1996)から始まったバーク作品紹介も今回でやっと3回。前回いつかと思えば去年の4月とかかよ…。年1作出版ペースのバーク作品だが、97年にはビリー・ボブ・ホランドシリーズも始まっており、 こんなペースじゃいかん、年2作ぐらいは読んで行かねばと思っているのだがどうにも難しい。あっちもこっちも読まなきゃならんばかりだし。とにかくこんなやり方じゃ、永久に追いつかんよ。いや、オレ本気で追いつきたいと思ってるんだからね!
さて1年半前の前回では、ホランドシリーズ始まってなんか変わった感じぐらいのことを曖昧に書いてたが、今回はその辺ももう少し見えて来たかという感じもあり、また一方で、あーそんな読み方じゃダメだよ、という反省点もあり、3回ぐらいやって来ると 見えてくるバークの考えみたいなもんにも迫って行ければ、と思っています。
バーク作品であれば、必然的にあらすじ部分だけでも長くなるんだし、早く書いて早く進めて早く次のやつ読めよというところなんで、とにかく早く始めなければ。
ジェイムズ・リー・バーク『Purple Cane Road』です。
【Purple Cane Road】
何年も昔、公文書においては、Vachel Carmoucheは常に電気技師と表記されていた。死刑執行人と呼ばれることは決してなかった。過去において、電気椅子はある時はアンゴラ刑務所に置かれていた。またある時には、それは付属する発電機と共に平台のセミトラックに 乗せられ、刑務所から刑務所へと移動していた。Vachel Carmoucheは州の仕事をしていた。それに優れていた。
こんな感じで、今作はまずVachel Carmoucheという人物の紹介から始まる。独身者でバイユー・テッシュの飾り気のない家に住む彼は、ロビショーがニューオリンズ警察の警官でアル中だった頃からの知り合いだった。
Carmoucheの地所の隣には、代々Labicheという一族が暮らしていた。南北戦争以前からの黒人ながら地域でそれなりの尊敬を受けているビジネスマンだったが、戦争を境に没落し、25年前、一族の末裔である夫婦は、売春あっせん業を営み、ニューヨークの 犯罪組織の宣誓証人となっているときに謎の死を遂げる。そしてあとに5歳になる双子の娘、LettyとPassionが残される。
双子の身元引受人となったのは、モルヒネの常用癖のある呪術師とも言われている叔母だった。そして隣人のVachel Carmoucheは、しばしば双子の世話をかって出ることになる。
そして、Carmoucheが双子に対し、性的虐待をしているらしいという噂が密かに伝わって来る。
かつてロビショーもそれに対し何とかしようと試みたが、自身のアルコールの問題も抱え、何も手を打てぬまま時が流れる。
その後、Carmoucheはオーストラリアに休暇で旅行した際、地元のテレビ局から死刑執行人という仕事についてインタビューされ、不適当と思われる発言を多く述べ、それがアメリカのテレビ局まで流れてきたことから、職を失い失踪し数年間姿をくらました。
そして8年前のある春の日、Carmoucheは戻って来る。庭の草を刈り、窓を塞いでいた板を外し、前庭のバーベキューピットでポークロストを焼いた。バルコニーには12歳の黒人少女がすわり、アイスクリームメーカーのハンドルを回していた。
陽が落ちてから、Carmoucheは家に入り、夕食を食べていた。そして裏の戸にノックがあり、彼はテーブルから立ち上がりドアを開ける。そして、彼は根掘りくわを何度も打ち付けられ、身体を刻まれ、惨殺される。
Letty Labicheは自宅の裏庭で、裸で逮捕される。着ていたローブと靴をゴミ缶で焼きながら、身体と髪を覆うVachel Carmoucheの血を、ガーデンホースで洗い流しているところで。
その後8年、Letty Labicheは、宣告された死刑判決が実行される日を待ちながら、刑務所に収容されている。
そんなある日、ロビショーは、クリート・パーセルから彼が現在関わっている仕事の関係で行き合ったLittle Face Dautrieveという黒人の娼婦が、Letty Labicheに関する新聞記事の切り抜きを集めているという情報を聞く。
Lettyの境遇を気に掛けていたロビショーは、クリートの案内でLittle Faceを訪ね、彼女がその切り抜きをヒモであるZipper Clumのためにやっていると話される。
日曜日、妻ブーツィーと娘アラフェアと共に教会に行ったロビショーは、帰り道双子の片割れであるPassion Labicheの家を訪ね、得た情報について尋ねてみる。PassionはLittle Faceという女性は知らないが、Zipper Clumは昔の両親の知り合いだったと答える。 そして知らないと答えたLittle Faceについて、ロビショーが話さなかったにもかかわらず、黒人女性であることを知っていた。
その晩、クリートからZipper Clumが現れるとの情報を得たという電話があり、ロビショーはその現場へと向かう。
街から離れた場所にある窓に板を打ち付けられた廃屋のアパート。その前にクリートのキャディラックと、もう一台の車が駐まっていた。
屋根に足音、そして男の叫び声と木に重いものが落ちる音。
壁に張り付き、上を見上げると、屋根からクリートの頭が覗き下の何かを見下ろし、また引っ込む。
建物に入り、屋根へと上ると、クリートが黒人の男のベルトと襟を掴み、下の木へ向かって放り出したところだった。
奴らは16歳の女の子二人連れをレイプして撮影しようとしてた。Zipperと奴の仲間は映画ビジネスを始めたところだ。クリートはそう話す。
「そうだな、Zip?」片腕を避難はしごに手錠で拘束された白黒混血の男を蹴り、クリートは言う。
「ロビショーなのか?」Zipperはそう言って彼の顔を見つめてくる。
「なんでLittle Face Dautrieveは、Letty Labicheの新しい記事を集めてるんだ?」
「あいつの脳はケツにあるからだろ。なあ、あんたの仲間、歯止めが利かなくなってるんだよ。仲介してもらえねえか?」
クリートは同じ質問をZipperに投げかけ、満足の行く答えが得られず、Zipperも屋根から放り出すべく持ち上げる。
「ロビショー、あんたの母親の名前はMaeだろ…。待てよ、Guilloryと結婚してたんだっけな。彼女は…、Mae Guilloryって名前で通ってた。だが、あんたの母親だろう」Zipperは言う。
「何だと?」
「彼女はカードゲームの担当だったが、まだ少しは売春もしてた。ラフォーシェのクラブの後ろで。多分1966か67年頃のことだった」Zipperは続ける。
「連中は彼女を泥水たまりに押さえつけた。奴らは彼女を溺れさせたんだ」
「そいつらは私の…、もう一度話せ」ロビショーはZipperのシャツを掴み、顔に銃を突きつける。
「そのオマワリたちはカネを受け取ってた。Giacanosからだ。彼女は奴らが誰かを殺すのを見たんだ。奴らは彼女を泥の中で殺し、バイユーに転がしたんだ」Zipperは言う。
そこで、クリートが割って入り、ロビショーを止める。「俺を見ろ、ストリーク!そこから離れろ!」
前作『Sunset Limited』では、母がまだ幼いロビショーを残して、男と一緒にSunset Limitedに乗りハリウッドへと向かった過去の哀しい思い出が語られていた。
その後母は、ハリウッドで男に捨てられ、父の送った切符でグレイハウンドで家に戻る。
だがそれも長くは続かず、母は別の男と家を去り、二度と戻ることはなかった。
ハイスクール時代、友人達と共にバーに入り、そこで酔っ払いと踊っている母の姿を見かける。
それがロビショーが母を見た最後になった。
数日後、ロビショーは休暇を取りクリートに会いに行く。クリートはロビショーが母親の件に深入りすることを心配する。
「お前、本当にLittle Face Dautrieveに乗っかってる風俗課のオマワリと向かい合いたいのか?」
自分は彼女がなぜLatty Labicheの件に個人的に関わってるのか知りたいだけだ、と答えるロビショー。
「俺にはお前の中でハンドルが切られてるのが聞こえるんだよ、大将。お前は思い通りに進めなければ、界隈で一番悪い奴を見つけて、そいつの目に指を突き立てるんだ」クリートは言う。
「デイヴ、この風俗課は本物のクズだ。ちなみにNOPDの多くの連中は俺のことを流せない糞だと思ってるがな」
そして二人は警察署にその風俗課警官、Don Ritterを訪ねて行くが、当人は不在だった。
クリートの話では、Little FaceにはRitterの他につながるもう一人の男がいるという。
Jim Gableというその男は、現在は政治家となっているが、ロビショーとクリートがNOPDに入る以前に制服警官だったということだ。
電話で約束を取り付け、二人はGableに会いに行く。ロビショーはまずその立派な屋敷に驚く。
「心臓病の家系のアル中の女と結婚すれば、簡単な事さ」
Gableは豪壮な邸宅で二人をにこやかに迎え、まずは聞き及んでいたロビショーのベトナムでの戦歴を褒めたたえる。
Zipper Clumというヒモが、あなたと風俗課の刑事がLittle Face Dautrieveという名の娼婦に関心を持っていると話していたのだが、とロビショーは尋ねる。
「署の人間がZipperの顔をホットプレートに押し付けたことがあったよ。15か20年前のことだ。私がそれをやった者を解雇した。Zipperはそのことを忘れているようだな」
君ははるばるニューイベリアから、ニューオリンズ警察の腐敗をチェックしに来たのかね?と問うGable。
自分はLetty Labicheの事件に役立つ情報をその娼婦が持っているのではないかと考えただけだ、と答えるロビショー。
彼女は法の人間を殺害した。致死薬物注射より電気椅子で死刑を執行すべきだというのが私の意見だ。Gableはそう語る。
それからGableの屋敷を辞す二人。だが門近くまで来てロビショーは車を停め、もう一度屋敷へと戻る。
「何か忘れ物かね?」玄関を開けて、尋ねるGable。
「私の母の名はMae Guilloryという。彼女はこの近所で殺されたと私は考えている。Zipperによれば、'66か'67年頃ということだ。Mae Guilloryという名前に聞き覚えはないかね?」ロビショーは問う。
Gableは嘘をついている人間特有の笑みを浮かべて答える。
「なぜかね?知らんな。Maeだったか?そういう名前の女性をこれまで知っていたことはないと思う。いや、確実だ」
日曜の朝、Zipper Clumは従兄弟の芝刈り機店の裏で、ミュージシャンを志していた若い頃からの好みのジャズドラマーのテープをかけながら座っていた。
店の前に停められたピックアップトラックから、一人の男が降り立つ。後に目撃者が話したところによると、ある者は彼がティーンエイジャーに見えたと言い、ある者は30代だったと言う。だが、全員が一致していたことは、男が白人で、女の子のような口をしていて、 無害に見えたということだ。
男は店の正面のドアのベルを鳴らした。Zipperは裏から、店主である従弟は不在で、そのうちに戻ると伝える。
「あんたの従兄弟は、Jimmy Figにデカい借金がある。彼はFigに利子を払わなきゃならん」男は言う。
Zipperはカウンターまでやって来て、男に言う。「Jimmy Figは金を貸さねえ。マンコを売るだけだ」
「あんたが言うんならそうなんだろ。俺は言われたところに来ただけだ」
Zipperは帰ろうとする男を呼び止め、ギャンブルを持ち掛ける。俺が指の上で20ドル金貨を落とさずに3回転がせるかで50ドルだ。
乗ってきた男が、コインに気を取られている間にカウンターの下から38口径を取り出そうとしたZipperだったが、気が付くと銃を持った手が近くの棚にあった鉈で切断されていた。
男はカウンターを回って来て、倒れ込んだZipperに自分の25口径オートマチックを突きつける。
Zipperは殺される前に、ロビショーの母親の件だな、と言った。
薬莢を拾い、血が飛び散ったシャツを脱ぎ、鉈の柄の指紋を拭きとり、トラックに戻った男は、誰かの母親というわけのわからない話を少し奇妙に感じたが、そのまま去って行く。
今作では、かつて苦境から救うことができず殺人犯となり死刑を待つLetty Labicheを何とかできないかというロビショーの動きから、思いがけず母の死の真相の手掛かりが浮かび上がり、二つの事件をそれぞれに追って行くうちに、ロビショーは ニューオリンズ警察の中で過去から現在へとつながる腐敗に対峙し、戦って行くことになる。
そしてここでルイジアナ州の司法長官である女性、Connie Deshotelという人物が登場して来る。
ロビショーは彼女のオフィスを、過去の、警察が関わった可能性がある母親の死亡事件について調査を依頼しに訪れる。
快く受諾し、その後ロビショーの妻ブーツィーと同級生であった話などもして、親密気に誠実に対応して来るDeshotelだったが、その表面の裏で不審な行動をし、その疑いは徐々に広がって行く。
彼女はその件に何らかの関わりを持っているのか?
明らかに過去に関わる何らかの秘密を持ち、その地で権力の拡大を目指す人物Jim Gable。
彼に資産と地位をもたらした妻Coraは、かつてのハリウッド女優で、夫の強権に反する意図を持ちロビショーに接触して来る。
彼女に忠実に付き従う、ある暗い過去を持ち顔の半分に修復不能なほどの傷を負った運転手Micah。
Zipperの殺害により、一旦は失った母の死の手掛かりを追い続けるロビショーの前には、偽りの証言など様々な妨害がもたらされる。
またその一方で、ロビショーとも親交のある信頼に足る人物である知事のBelmont Pughも、何か重大な証拠でも見つからない限りLatty Labicheの死刑執行には、いずれはサインせざるを得ないと言う。
そして、Zipper Clumを殺害した風変わりな若き殺し屋。その後の調べで男はケンタッキーから来たJohnny O'Roarke、別名Rametaと判明する。
その後も近隣に潜伏し、同じ依頼者からの仕事でLittle Faceを狙い家屋に侵入などを行うが、気まぐれな行動と、正体が発覚したことから逆に依頼者から抹殺されそうになる。
結果的にロビショーに命を救われたことから、一方的に彼を味方とみなし、予測不能の行動を取り始める。
といったところでキャラクターも一通り説明できたか。重要なキャラクターが多くて、結構話進んだあたりからも次々出てくるのがバーク/ロビショーシリーズの特徴ぐらいのもの。あらすじ的にはZipper Clumが殺される辺りまででいいと思うのだけど。 あー、今作でかなり悪辣にロビショーの妨害に動く、ニューオリンズ警察風紀課のDon Ritterは名前出しただけだったか。
どうしてもロビショーの母の事件寄りの説明が主となってしまい、LettyとPassion Labicheの双子に関するあたりが薄くなってしまったかも。死刑囚になっている方がLettyで、外にいるのがPassionなのだが、またしてもクリートがPassionとくっつく展開となり、 まあ結果は…というところもあるのだけど。
タイトルのPurple Cane Roadは、実在するのかちょっとわからなかったのだけど、亡くなったロビショーの母が最後近くに生活していた場所の近くの道の名前。実際にそれが出てくるのは、結構後半ぐらいなのだが、それ以前にロビショーの夢の中に 実際のものとは違う形で非常に印象的に現れる。
そのくだりは、19歳の時ある石油リグで働いていた時の話から始まる。1957年の夏、大規模なハリケーンが通り過ぎた後の事。ケーブル修復のため、海中で作業していたロビショーは、作業で動かされた近くの海底から、泥と共に女性の遺体が浮かび上がるのを 目撃する。そのまま流されていった遺体を他に見た者はなく、自身でもそれが現実にあった出来事なのかあやふやになって来る。そして、その幻の女性は彼の夢に繰り返し現れることとなる。
その夜、彼女はロビショーの夢に戻って来る。別の姿で。
ダンスホールから続く泥の道を、彼の母Mae Robicheaixが走っている。道の両側は紫の太いサトウキビの密生した畑で塞がれている。ビアガーデンで働いていた時のピンクの服を着て、両手を広げ口を大きく開けた母は泥の道を走り続ける。その後ろから、 二人の警官がホルスターの銃が落ちないよう手で押さえながら、走って追って来る。
ロビショーはサトウキビの壁の向こうで、急流の中身動きもできず、その光景を見つめ、壁の間から叫んでいる。
そのうち、母の足元から徐々に水位が上がり、母は流れに呑み込まれて行く…。
これはロビショーがかつて母を最後の頃に見た場所として憶えていたPurple Cane Roadという道の名前が、潜在意識の中でこういう形となって夢に現れたというところなのだろう。
かつて水流の中でその遺体を弔うこともできず消えて行った幻の女性。救うことができないままに殺人という最悪の結果に至り、今刑務所で死刑執行を待つ女性。そしてまだ自分が若い頃に行方を失い、その死さえ知らなかった母。
それら救えなかった者たちへの想いが母の姿へと重なって行くのが、この幻想のPurple Cane Roadなのだろう。
* * *
さて、書かなきゃと思うところ結構多いのだけど、どこから行くか?やはり弁護士ビリー・ボブ・ホランド・シリーズを立ち上げた後の、バークの考えといったところがうかがえるようなところか。裕福とまでは行かなくても、それなりに家系もあるホランドとの対比で、沼沢地帯の貧乏白人出身というロビショーの立ち位置を強く打ち出して行くという方向については、前作の時に書いた…、つもりだけどあんま伝わってなかったかも?
そしてそれに加えて、ロビショーという人間を更に内面から掘り下げるという方向に向かう。それが今作の母の死の真相を探るストーリーなのだろう。
今作は、そういったロビショーの過去だけではなく、現在共に暮らす人々も以前に増して事件に深く関わって行く。妻ブーツィーの過去のJim Gableとの関係。そして16歳に成長したアラフェアにある種の恋心を持って接近して来る予測不能の 行動を取り続ける若き殺し屋Johnny O'Roarke。
自身の家系をモデルとしたHolland Familyサガへと発展して行くホランド・シリーズ同様に、こちらのロビショー・シリーズも主人公の個人的関係、過去などの内面に深く関わって行く方向へと進んで行くのはまず間違いないところだろう。
かなり多くの人物が登場し、複雑な話になった前作『Sunset Limited』に比べると、今作はややシンプルに感じられた。前作にあったような複雑な人間関係の裏から伸びる枝というような部分が少なかったからだろう。ただここからこのシリーズが 以前よりシンプルな方向へ向かうかというと、それは違うのではないかと思う。前作におけるその枝的部分は、例えば中国からのブラックマネーといった現在犯罪社会状況といったものだった。南部沼沢地帯を舞台とし、過去・歴史といった方向で その地を立体的に描き出して行くバーク作品では、当然その歴史的地点である「現在」を描くことも重要である以上、こういった方向での複雑化が再び作品に現れてくるのは必然となる事だろう。
そして、キャラクターというところの話。以前『Cadillac Jukebox』のときに、その前作『Burning Angel』に登場したソニー・ボーイ・マーサラスや、『Cadillac Jukebox』のJerry Joe Plumbについてテリー・レノックス的というような 解釈をしたと思うんだが、それに前作『Sunset Limited』の兄妹と強い絆を持つ殺し屋Swade Boxleiter、そして今作の若き殺し屋Johnny O'Roarkeを並べてみると、これはノワール的なキャラクターということになるんじゃないかと思う。
バークの作品、ロビショー・シリーズにしても、ホランド・シリーズにしても、基本的には主人公がその土地で財力・権力を背景に不正を働く者と闘う、という形の言ってみればシンプルなものだ。そこにこういったノワール的キャラクターを 投入することで、物語を様々な方向に膨らまして行くというのが、ロビショー・シリーズにおけるバークのスタイルなのかと思う。ホランド・シリーズについては少し違うのかもという気もしてるので、そっちについては保留。
これがどの辺からなのか、もしかしたら第1作からなのかというところがよくわからないのは、自分が以前の翻訳されたところから結構時間が空いてしまってはっきりしないというところが申し訳ないんだが、とりあえず今後は、いかなる形で こういったノワール的キャラクターが登場するのかというところも注目点になるのだろう。いや、過去作もなるべく早く読み返して全体を俯瞰できるようにすることも必要なんだが。うーん、とりあえずなるべく早く…。
そんで、最初に書いた前回の反省点というところなんだが、ロビショー自身が登場しないシーンが増えたのではないか、なぜそうなったんか?という点についてのところ。
なんかさあ、話が複雑になってロビショーがいない場所で起こることが多くなった結果じゃないかみたいに書いたんだが、そんなわけねえだろ。
小説にしろ、あらゆる創作物なんてもんはそんな風にできてない。作家が頭で考えた「お話」を言葉にして書いて行ったらこうなりました、みたいなもんじゃないだろ。
作家は膨大な時間をかけて、熟考して作品を創り上げる。たまたまそうなりましたなんてことは起きない。何か違和感があったら、それは意図的なものだと考えるべきだ。
では、このロビショーが登場しないシーン、作品の中の三人称的シーンの増加は何を意味するのか?
なんというか、そもそも前作でそれが自分的に気になったのは、さらに遡るその前作『Cadillac Jukebox』に発端があったのだろうと今更ながら考える。
なんかてっきり書いたと思い込んでいたんだが、ごめん、読み返してみたら書いてなかったようなのだが、この作品では先に名前を出したこの作品のノワール的キャラクターであるJerry Joe Plumbが自身の過去について語る、Plumbの一人称による そこそこの長さがある独立した一章が、かなり印象強い形で作中に挟まれている。
そして続く『Sunset Limited』のロビショー不在の三人称場面の増加傾向。
なんかぼんやりしたボンクラ頭の片隅で、バークは何かやろうとしてるんじゃないかみたいなところを薄く考えての、前作のなんか引っかかった的な言い方に繋がったのかもと今になって考える。
ここに来てそこそこ断言的に言えるのは、この時期バークはかなり真剣に一人称記述である自作にいかにして三人称描写を取り込むかを考えていたのではないかということ。
まあ本人に聞いたわけじゃないんで、どう考えたみたいな部分は想像でしかないんだけどね。ロビショー・シリーズ、ホランド・シリーズともに一人称記述で書かれ、そのスタイルにこだわりがあると思われるバークだが、それまでの作品の中でも 度々主人公不在の現場で起こった事態の伝聞による三人称描写を挟むという手法を使ってきた。ともすれば一本道になりかねない一人称記述の作品に奥行立体感を作る有効な手法であり、これを自作の中で色々な形で応用して行こうとバークは 考えたのかもしれない。
そこでバークは三人称記述というものについて根本的に考え直したのではないか?一人称作品には主人公という語り手がいる。では三人称作品には語り手はいないのか?実は三人称作品の語り手というのは「私」という形で前に出てこない作者ではないのか? 一人称作品の中の三人称描写は、語り手主人公を作者という立場で考えて書けばいいのではないか?
なんかこんな考えによる三人称記述のストーリー内への多くの挿入が、本編の章の導入と同じ情景描写からのという形になったのではないか。まあその辺については前回ちょっと面白で揶揄しちゃって悪かったよ。バークさんごめん。
そしてこの伝聞シーン、三人称描写は今作で更に進化する。
ちょっと長くなっちゃうんでそこのところは端折るしかなかったんだが、Zipper Clumが殺害されるシーン。ここは実はZipperというのがどういった人物であったのかを子供時代に遡って語るというところから始まる。Zipperはどんな風に育ち、 そして一旦はミュージシャンを目指したが挫折し、という話が続いた後で、従兄弟の店の裏で好きなジャズドラマーのテープをかけて座っているというところへと繋がるわけだ。
この作品ではこのような手法が度々使われる。例えば冒頭部分も、まずVachel Carmoucheという人物の説明から入り、隣のLabiche一族の話になり、そこから幼い双子への性的虐待の疑惑、そしてCarmoucheの殺害へと至る。その他にも既に登場している人物が 改めてその出自などから語られた後に、ロビショー不在でその人物に関して起こった事件の伝聞による三人称描写へと繋がって行くという形のものが複数現れる。
なんかうまく説明できてるかやや不安だが、これがバークがそれを熟考した上での、前作からさらに進めた一人称作品の中への三人称描写を取り込む手法なのだろう。
そして、おそらくこれはここで完成形ではなく、続く作品では更なる試行錯誤が続けられて行く事になるものと思われる。
世の中にはあんまり考えないで書いて結局こうなっちゃった、みたいな作家もいるんだろう。だがジェイムズ・リー・バークは、決してそんな作家ではない。こういう作家の作品の中で違和感を感じたとしたら、それは必ずその作家が何かを意図していると いうことだ。
ロビショー・シリーズも既に11作。だが作者ジェイムズ・リー・バークはそこで停滞することも、安定することもなく、考え続け更なる高みを目指す、本当にすごい作家だ。こういう作家の作品を読まずに何を読むというんだね。 この現代まで続行中のハードボイルドの巨匠、ジェイムズ・リー・バークの作品をなにがなんでも全作制覇を目指して読み続けるものでありますよ。
さて次、という話だが出版順で行けば次はビリー・ボブ・ホランド・シリーズ第3作『Bitterroot』ってことになる。だがこんなバーク作品年1作目指す…、みたいなペースで読んで行けばせっかく色々見えて来たロビショー・シリーズを次に読むのは 2年後とかいう話になりかねん。そんなわけで、ここでホランド・シリーズはロビショーとは別枠!という考えでバーク作品年2冊を目指そうというのが今の考え。…いやまあ、考えれば時間が増えるってもんでもないんだけどさ…。なんか自分を 騙すぐらいの考えででもなんとかかなり大きいバーク作品未読の山を崩して行けんかというのが、現在の希望です。あーでも今年年内にエルロイの次のやつまで届かなそうだしな…。あれもこれも…。いや、いかんいかん!ちゃんと早く読むからね! では『Bitterroot』は半年後以内に!
さて作者ジェイムズ・リー・バークの近況だが、2022年の『Every Cloak Rolled in Blood』で作者自身に深く関わるところまできてここで終わりなんかな、と思ってたHolland Family Sagaの新作が今年2025年6月に出版。これはまた時間を遡る 過去の出来事についての話らしく、Holland Family Sagaはまだ今後も続行される模様。さらには来年2026年2月にはロビショー・シリーズの新作第25作となる『The Hadacol Boogie』の出版もアナウンスされている。ジェイムズ・リー・バークは まだまだ続く。もたもたしてる場合じゃねーよな。
せっかく頑張ろうと思ってたのに…
ここで残念なお知らせです。前回何とか立て直ったみたいだからこれからいろいろ紹介するよー、といってた矢先にDown Out Booksが10月14日をもって終了しました…。いや、ホントにこれ大丈夫なんだろうな、と思ってたところだったんだよ。 一時期はインディークライム出版の一つの大きな拠点であったわけだし、かなり多くの出版物を残してという感じで本当に残念です。前回のPablo D'Stairの『this letter to Norman Court』も画像もろともなくなってしまったわけで、早く とりあえずの修正ぐらいはせねばというところだったり。色々と消えてしまった多くの作品については、再版などあればなるべく伝えて行くつもりです。ただ、ほとんど紹介できてなかったんだよな…。残念。なんかね、一方でバークの山ほどの未読がありなんとかしなくちゃ時間がない、と言いつつ、また一方ではなかなか読む時間が作れず手が回らなかったパブリッシャーの終了を惜しむ。客観的に見ればアホみたいなんだが、本読みってそういうもんだろ。 ホントにジェイムズ・リー・バークは絶対に読まなければならない素晴らしい作家で、これから毎日バークの著作だけを読むべきだぐらいに思う一方で、Down & Outの名前しか知らなかった作家の作品はどんなものだったのか、多くの作品を読んで行くことで なんか自分にまだ見えてなかった現代クライム作品の一つの傾向が見えたのかもしれないと思う。そしてまたその一方で、これはどんなものなのだろうか、何とか読んでみたいと思う作家、作品が常に現れ続ける。あー、ここんとこPaperback Warrior 師匠が推してて何度か取り上げてるDavid Agranoffってどんな作家なの?あーくそどっかねじ込んで読めないかなあとかさ。そんなこと繰り返してるうちに、山ほどの未読を残して死ぬんだろうね。まあそれも一つの本読みの人生ってやつなんじゃないんかな。
■James Lee Burke著作リスト
〇Dave Robicheauxシリーズ
- The Neon Rain (1987)
- Heaven's Prisoners (1988)
- Black Cherry Blues (1989)
- A Morning for Flamingos (1990)
- A Stained White Radiance (1992)
- In the Electric Mist with Confederate Dead (1993)
- Dixie City Jam (1994)
- Burning Angel (1995)
- Cadillac Jukebox (1996)
- Sunset Limited (1998)
- Purple Cane Road (2000)
- Jolie Blon's Bounce (2002)
- Last Car to Elysian Fields (2003)
- Crusader's Cross (2005)
- Pegasus Descending (2006)
- The Tin Roof Blowdown (2007)
- Swan Peak (2008)
- The Glass Rainbow (2010)
- Creole Belle (2012)
- Light of the World (2013)
- Robicheaux (2018)
- The New Iberia Blues (2019)
- A Private Cathedral (2020)
- Clete (2024)
- The Hadacol Boogie (2026)
〇Billy Bob Hollandシリーズ
- Cimarron Rose (1997)
- Heartwood (1999)
- Bitterroot (2001)
- In the Moon of Red Ponies (2004)
〇Hackberry Hollandシリーズ
- Lay Down My Sword and Shield (1971)
- Rain Gods (2009)
- Feast Day of Fools (2011)
〇Holland Family Saga
- Wayfaring Stranger (2014)
- House of the Rising Sun (2015)
- The Jealous Kind (2016)
- Another Kind of Eden (2021)
- Every Cloak Rolled in Blood (2022)
- Don't Forget Me, Little Bessie (2025)
〇その他
- Half of Paradise (1965)
- To The Bright and Shining Sun (1970)
- Two for Texas (1982)
- The Lost Get-Back Boogie (1986)
- White Doves at Morning (2002)
- Flags on the Bayou (2023)
〇短篇集
- The Convict (1985)
- Jesus Out to Sea (2007)
●関連記事
James Lee Burke / Cadillac Jukebox -デイヴ・ロビショー第9作!-James Lee Burke / Sunset Limited -デイヴ・ロビショー第10作!-














































0 件のコメント:
コメントを投稿