2017年7月2日日曜日

American Monster Vol. 1 -Brian Azzarelloが描く現代アメリカの”怪物”!-

あの『100bullets』などで知られるBrian Azzarelloの、新進AfterShock Comicsからの最新作、『American Monster』です。昨年2016年1月より始まった、アメリカ中西部の田舎町を舞台とした、謎に満ちたカントリーノワールの第1巻。まずはその序盤のあらすじから。


【あらすじ】

アメリカ中西部の田舎町。夜更け。一人の男が町のガソリンスタンドに現れる。大やけどにより顔面の皮膚をすべて失ったように見える大男。眉もなく耳もほとんどが失われている。

「車の調子が悪い。見てもらえないか。」
「せ、整備工は6時に上がっちまった。朝まで戻らないんだ…。」
「近くに泊まるところはないか?」
「み、道を1マイルほど進んだところにモーテルがある。まっすぐ行けば見失わないはずだ…。」
「食事ができるところはあるか?」
「向かいにダイナーが…。」

ダイナーで食事をする男。彼を傷病兵と見た地元の男が、ビールをおごろうと声をかけるが、にべもなく断る。

「金には困ってない。」

懐から出した札束を読んでいた新聞の上に置く男。その見出しには銀行強盗の文字。

そしてその時、向かいのスタンドに置いた男の車が、突如爆発する…。

冒頭、一軒の家を数人の男たちが訪れるところから物語は始まる。
玄関を開けた妻はいきなり顔面を殴打され、家の主の頭には袋がかぶせられる。

後半、それが地元ギャングの裏切り者の制裁であったことが明かされ、夫婦は残虐に処刑される…。

夜更けの公園に集まるティーンエイジャー達。シーソーには太った中年男が腰を下ろし、男が一枚札を渡すと、シーソーの反対に持ち上げられた少女がシャツをめくりあげ、胸を晒す…。

謎の男の出現と並行し、この小さな田舎町の暗黒が描かれて行く…。

男の名はTheodre Montclare。ダイナーの客が察した通り、中東での戦争の帰還兵だった。彼がそのような姿になった経緯は、物語が進むにつれて、回想という形で少しずつ明らかになってくる。しかし、彼がなぜこの町に現れたのか、なぜ爆発物を車に積んでいたのかなどはまだ明らかにはされない。
そして、町ではまず、ギャングのボスFelix Blackの犬が射殺され、続いてその右腕Joshが殺害される…。

American Monsterとは何か。
まずこの物語の中心人物であるMontclare。そのあまりにも変容した異相の謎の巨漢は、まず誰の目にもモンスターとして映るだろう。
そしてこの地の果てのような田舎町。ギャングのボス、Felixはこのような町で必然のように発生する麻薬や武器の取引といった犯罪行為の中心に存在する人物である。暴力の介在無しでは何も動かないような地域に君臨するモンスター。
そして、Felixの娘Snowを中心とするティーンエイジャー達。将来の明るい見通しもなく、この田舎町に閉じ込められ、虚無的にその場限りの享楽に耽るモンスター。
そしてそのティーンエイジャー達に近づく不気味なシーソー男。更にその地で民兵組織を率いる”牧師”と呼ばれる男も登場してくる。
しかし、この作品のタイトルは「American Monsters」ではなく、『American Monster』だ。
このモンスターがひしめく小さな田舎町に現れたモンスターMotclare。その目的はまだ不明である。そして物語はまだ始まったばかり。
このモンスターの目的が明らかになるにつれ、この町と、そしてそこに潜むモンスターたちも動かされ、そしていずれその中にさらに大きい現代のアメリカの”怪物”『American Monster』が形を成し始めるのだろう。
しかし、物語はまだ始まったばかりである。

というわけで、今や次は何をやるのか、ぐらいのレベルで去就が注目されている作家Brian Azzarelloの最新作『American Monster』。その第5話までを収録したVol.1です。本当に物語は始まったばかりで、とりあえずその最後にMontclareと町のある人物との関係が示されたが(まだ完全に「明らかに」というレベルではない。)、その他は次から次へと色々なキャラクターの謎が提出されるばかりというところ。なんだかあらすじのところでやたらと…を連発しとりますが、とにかくそんな雰囲気で、アーティストJuan Doeの個性的かつ鮮烈なアートと相まって、独特のリズムとペースでゆっくりと物語は進んで行く感じです。まあ、とにかく今後に期待の間違いなしの作品。

そしてAzzarelloは今作で「American Monster」を描き出すため、作品中に色々な要素を注入しているわけですが、私はここで二つの要素に注目したい。
まずは私が最初からぶち上げているカントリー・ノワール。時代は田舎である!…なんて馬鹿なことは言わん。元々田舎だったのである。アメリカに限らず日本だってホントはそーじゃないの?社会の問題なんて国中にまんべんなくあって、時にそれが曖昧なオブラートなしにもろに露出しちゃってるのが田舎だったりするわけである。そういう田舎視点からの問題というのが小説や映画の中で描かれたのがこの時代が初めてというわけではないだろう。しかし田舎というのは誰にとっても身近なのでそういうのが避けられてた時代というのもここしばらく続いていたのだろう。そしてそういう場合にはありがちな田舎=善:都市=悪という構造で語られていたのだろうが、長く続けばそれももたなくなる。だって田舎も悪だもの。うむむ…。本当は社会の様々な矛盾が飽和状態に達しその結果今本来牧歌的であった地方にも悪が浸透し始めているのでカントリー・ノワールの時代なのだ、とか言った方が何気に説得力があるのだろうが、きっとそれ嘘だよと気付いてしまったので、またしても混乱した文章になってしまっているのでありますが、まあやっぱり昔からあるけどなんとなくタブーとまでいかなくても積極的に語られなかったものが、あんまり具体的に指摘できないのだけど近年の色々なものを経るうちにこれが現代のアメリカの悪を語るのに有効な手段であると発見され、現在そういう傾向のものが増えているのではないか、というあたりの見方でそれほど間違ってないのではないかと思うのですが。例えばカントリー・ノワールというのを、田舎=大自然を舞台に、みたいにするからなんとなくわかりにくくなるので、日本で言えば『冷たい熱帯魚』みたいなのを考えると少しわかりやすくなるのではないかとも思うのです。こーゆー状況って身近にある気がするしこーゆーオヤジって知ってる、っていう感覚が単純に警察が介入すれば問題が解決するのではないというような悪の根深さを感じさせるような、そういう側面もカントリー・ノワールにはあると思う。そんな感じで自分的には近年話題になった『ブレイキング・バッド』あたりまでをカントリー・ノワール的なものと考えていたりもするのです。最近『ツインピークス』が復活したのもカントリー・ノワール・ブームの流れではないのかなと思ってたりするのだけど。んなこと言ってるの私だけ?実際にはカントリー・ノワールというのにはコアとなるような作品もあり、『ウィンターズ・ボーン』のダニエル・ウッドレルとか、昨年せっかく翻訳が出たのに「読書のプロ」どもにことごとく無視された傑作トム・ボウマンの『ドライ・ボーンズ』というあたりがそうなのですが、ジャンルの認知度が高まってくると、本当にカントリー・ノワールと言えるのはその辺の作品のみ、と言い張ってジャンルの間口を狭くするだけの迷惑な人が横行し始めるので、そういう人が得意そうに威張っているのは絶対に聞かないようにね。とかまあ色々言ってみても、やはりこちら遠く離れた日本から見ているだけなので、本国でそれらが実際にどう読まれて観られているのかはそんなによくわかっているわけでもない。とりあえず自分の見る限りでは、ウッドレルらのコアな部分が拡大したというよりは、規制の犯罪物ジャンルの方が色々模索しつつ進んで行くうちにそちらに接近したところに表現の舞台を多く見出し始めた結果、そのジャンルのものが増え始めたというところなのだと思う。そんなわけでもちろんコアな部分には大いに敬意を払いつつ、ジャンルについてはなるべく緩く幅広く周辺分野も見て行きたいというのが私のスタンスなのだけど、それにしてもこだわりのある分野だけにまたやっぱり長くなってしまったよ。とにかく早く進めなければと思ってはいるのですが…。まあつまりが現代のアメリカの一つの姿を描き出すのに有効な手段として、その傾向の作品が増えているのがこのカントリー・ノワールなのである。となんとかまとめた。

そしてもう一つ私がこの作品中で注目している要素が、この作品の登場人物の背景となっている、アメリカの中東での戦争の事。これについてはまだ何か固まった考えがあるのではないのですが、もしかするとアメリカでは、依然中東との緊張関係は続いていてもその戦争について一つの「戦後」というような状況なのではないかということ。これまで中東での戦争については色々なものが書かれ、映画も作られてはいるけど、ベトナム戦争がそうであったように「戦中」と「戦後」ではまた語られるものも変わってくるのではないかと思うわけです。この辺についてはまた一方で、昨年のアメリカのコミックの最注目であったTom Kingの、戦後状況の中東を舞台とした『Sheriff of Babylon』というのもあって、そこから気になり始めたのかもしれない。そっちについてもまだまだなのだけどなるべく早く読んで書いてみたいものと思っております。まだ本当に何かが見えているわけでもないのだけど、これはAzzarelloがこの作品に取り込んだ重要な要素であることは確かと思うので、その辺考えながら先を読んでいきたいと考えています。もしかしたら犯罪小説ジャンルでもその傾向って出てるのかもしれないけど、結局読むの遅くて去年今年といった作品が読めていないから見えてないのかなあ。うーむ…。
ということで個人的には現在のアメリカの暗黒を描き出すのに重要と考えるこの辺の要素を中心に据えた『American Monster』。果たしてAzzarelloがどんな”怪物”を描き出して行くのか今後に注目というところです。あとこの辺のカントリー・ノワールや戦争といったところの考えについては、昨年旧All Due Respectのサイトで読んだMatt Phillipsの「The Deer Hunter: American Noir in a Classic Film」というのがあって、これは映画『ディア・ハンター』はノワール的なものの土壌となっているアメリカの地方の底辺層の若者を描いたノワール作品であるという考察で、ちょっと今まで見ていたものを違う視点から教えられて大変感心したもので、結構これから影響されて考え始めた部分も多かったりするので、もし興味のある人がいればご一読を。

All Due Respect : The Deer Hunter: American Noir in a Classic Film by Matt Phillips

とまたしてもグダグダと長くなってしまっていて遅ればせながら、アーティストJuan Doeについて。今回画像の方はAfterShockのプレビューからお借りしてきました。


やっぱり志賀勝に似てるんだろうか…
このように少しイラスト的というようなタッチで、巧みな構図にコマ=パネルの構成にもこだわり、カラーリングの上手さも光る素晴らしい画風です。こういう重心が低めの人物ってなかなか描けないんですよね。イラスト的なタッチゆえの人間ギリギリのようなMontclareの造形は秀逸。これまでは主にカバーの仕事でコミック業界では10年以上の経験もあるということ。これ以前には『ファンタスティック・フォー』のミニシリーズを手掛けたこともあり、そちらはご本人のホームページでいくつか見ることができます。なんだか志賀勝チックな自画像が出されていて、ホームページの本人紹介の方を見るとマスクなのか白塗りなのかの怪しげな写真に怪しげな紹介文の掲載されているちょっと謎の人です。

Juan Doeホームページ

最後にAfterShock Comicsについて少し。マーベル・DCのビッグ2で長い経験を持つMike Martsをチーフ・エディターに2015年4月に発足した新しいパブリッシャーです。その他の注目作としては、躍進中の女性ライターMarguerite Bennettの『Animosity』、AfterShockのCEOでもあるアイズナー賞受賞ライターJoe Pruettの『Black Eyed Kids』など。Joe Pruettについてはあまりよく知らなくてここ書くためにちょっと検索してみたら、結構重要人物のようでもっとよく調べる必要あり。なるべく早く『Black Eyed Kids』も読んでその時に。そんなことばかり言って放置が多いのだけど、みんなやる気だけはあるんだよ…。他にもBennettの『Insexts』、Amanda Connerの『SuperZero』、映像方面から進出してきた注目のライターAdam Glassの『Rough Riders』、更にはガース・エニスの得意の戦争物『Dreaming Eagles』に最新作エニス版ジェームズ・ボンド(らしい)『Jimmy's Bastards』、『Chew』のJohn Laymanの『Eleanor & The Egret』、そしてウォーレン・エリスの『Shipwreck』といった作品もあり!それぞれの作品について詳しく知りたい人はAfterShock ComicsのウェブサイトやComixologyで調べてね。という感じで発足間もないところでも片っ端から読まねばという注目のAfterShock Comicsなのです。
ところで、こんなのわざわざ書くことでもないかと思うのだけど、ちょっと日本からだと見えにくいかと思うので、多少不正確なまま蛇足を承知で書いときますが、AfterShock Comicsはインディペンドのパブリッシャーなわけですが、これを日本で一般的に流通しているインディー、インディーズというように解釈してしまうのはちょっと違うのだろうと思う。確かに独立系ではあるのだろうけど、明らかにもう少し大きい資本が背景にあって、まあ社長の経歴などから見て多分映像系なのだろうね。もっと本国近くで見てればもう少しはっきりわかるのだろうけど。やっぱり色々なネット配信系も含めてその辺の業界の勢いも競争も激しいアメリカなので、早く有望なコンテンツを確実に確保したいとの思惑からこのような動きも出てきているのではないかなと想像されるわけです。そっちについては全然わからないのだけど多分Valiantとかも同じような事情なのでしょうね。まあこうやってみると少し新しくて小さいインディー、みたいな見方も変わるかと思ってあんまりきちんと把握できてないままに書いてみたわけですが、一方でこういうのってある種のブームが過ぎた途端に金が退かれて一気に無くなるという危険性も高かったりもするわけですが。とりあえずはそんなことにならないようAfterShock Comicsがアメリカのコミック業界の中で早く確固としたポジションをとれるようになることを期待しながら見守りたいというところです。この辺の作品がいつかTVシリーズ化されるかも、みたいな期待を持ってみるのもいいかも。

AfterShock Comics

まあとにかくなるべく沢山の作品について書きたいと思いつつやっとまた一つクリア、その間にさらに多くのが溜まって行く…という始末なのですが…。今回もう少し早く書けるつもりでいたのだけど、ちょっとカントリー・ノワールあたりでつまずいたか。まだカントリー・ノワールについては全然書き足らないので、またそのうち小説の方で延々と書くことになると思います。やめろと言っても書きます。とにかく色々書かなくっちゃな、と思う一方で早く2000ADの続き書かなきゃ!Valiant書かなきゃ!Hellbrazer書かなきゃ!と時々思い出してパニックになりつつ、若干暑さに早くも負けながら頑張って参ります。ではまた。


●American Monster


●AfterShock Comics



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